(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023111324
(43)【公開日】2023-08-10
(54)【発明の名称】地絡検出装置、地絡監視装置および地絡監視システム
(51)【国際特許分類】
G01R 31/08 20200101AFI20230803BHJP
【FI】
G01R31/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022013126
(22)【出願日】2022-01-31
(71)【出願人】
【識別番号】000144991
【氏名又は名称】株式会社四国総合研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000221546
【氏名又は名称】東電設計株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123984
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 晃伸
(74)【代理人】
【識別番号】100102314
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 阿佐子
(74)【代理人】
【識別番号】100159178
【弁理士】
【氏名又は名称】榛葉 貴宏
(72)【発明者】
【氏名】中西 美一
(72)【発明者】
【氏名】二村 喜博
【テーマコード(参考)】
2G033
【Fターム(参考)】
2G033AA01
2G033AB01
2G033AC02
2G033AD18
2G033AD21
2G033AE01
2G033AF02
(57)【要約】
【課題】落雷による地絡と、鳥獣などの飛来物の接触による地絡の両方を安定して検出することができる地絡検出装置、地絡監視装置、および地絡監視システムを提供する。
【解決手段】送電鉄塔2の鉄塔脚に設置され、地絡を検出する地絡検出装置であって、鉄塔脚に流れた電流をトリガーとして、起動信号を出力する地絡電流検出部12,14と、地絡電流による磁束密度を計測する磁気センサー16,17と、地絡電流検出部12,14から起動信号を受信した場合に、磁気センサー16,17に地絡電流による磁束密度を計測させる制御部15とを有する、地絡検出装置。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
送電鉄塔の鉄塔脚に設置され、地絡を検出する地絡検出装置であって、
前記鉄塔脚に流れた電流をトリガーとして、起動信号を出力する地絡電流検出部と、
地絡電流による磁束密度を計測する磁気センサーと、
前記地絡電流検出部から前記起動信号を受信した場合に、前記磁気センサーに前記地絡電流による磁束密度を計測させる制御部と、を有する地絡検出装置。
【請求項2】
遠隔地にデータを送信可能な通信部をさらに有し、
前記制御部は、前記磁束密度の計測データに基づく、地絡電流の大きさを加味した地絡監視データを、前記通信部に送信させる、請求項1に記載の地絡検出装置。
【請求項3】
前記地絡電流検出部は電流トランスを有する、請求項1または2に記載の地絡検出装置。
【請求項4】
前記磁気センサーは複数の計測軸を有しており、
前記制御部は、前記磁気センサーから取得した前記複数の計測軸における磁束密度の計測データを合成することで地絡監視データを生成する、請求項1ないし3のいずれかに記載の地絡検出装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記磁気センサーの計測データに基づく時系列データに基づいて、地絡電流の波形を加味した地絡監視データを生成する、請求項1ないし4のいずれかに記載の地絡検出装置。
【請求項6】
前記制御部は、消費電力を抑制する待機モードと、前記地絡電流検出部から出力された前記起動信号により起動し、地絡電流を計測する計測モードと、を有し、
前記制御部は、前記磁気センサーの計測データに基づいて地絡監視データを生成し、
前記地絡監視データは、磁束密度の計測データに基づくデータを第1の時間間隔ごとに積算して得られた第1の地絡監視データと、前記第1の時間間隔よりも間隔の狭い第2の時間間隔ごとに積算して得られた第2の地絡監視データとから構成される、請求項1ないし5のいずれかに記載の地絡検出装置。
【請求項7】
前記第1の地絡監視データは、前記起動信号による起動から第1時間が経過するまでの間に得られた時系列データであり、
前記第2の地絡監視データは、前記起動信号による起動から前記第1時間よりも短い第2時間が経過するまでの間に得られた時系列データである、請求項6に記載の地絡検出装置。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれかに記載の複数の地絡検出装置と通信可能に構成された地絡監視装置であって、
前記複数の地絡検出装置から受信した地絡監視データに基づいて、地絡電流が発生した送電鉄塔を特定し、発生した地絡電流に関する情報を出力する、地絡監視装置。
【請求項9】
請求項1ないし7のいずれかに記載の複数の地絡検出装置と、
前記複数の地絡検出装置と通信可能に構成された地絡監視装置と、を備え、
前記地絡監視装置は、前記複数の地絡検出装置から受信した地絡監視データに基づいて、地絡電流が発生した送電鉄塔を特定し、発生した地絡電流に関する情報を出力する、地絡監視システム。
【請求項10】
前記複数の地絡検出装置は、送電鉄塔の碍子よりも上部に取り付けられており、
前記地絡監視装置は、前記複数の地絡検出装置のうち、上方向の地絡電流が検出された地絡検出装置が取り付けられた送電鉄塔を地絡の発生地点として検出する、請求項9に記載の地絡監視システム。
【請求項11】
前記複数の地絡検出装置は、前記地絡監視データを送信する際の送信遅延時間の情報を予め記憶しており、前記送信遅延時間が経過した後に、前記地絡監視データを送信する、請求項9または10に記載の地絡監視システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、送電鉄塔における落雷や鳥獣などに起因する地絡を検出する地絡検出装置、地絡監視装置、および地絡監視システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、送電鉄塔に流れる地絡電流や、当該地絡電流により生じた電界や磁界を検出することで、地絡の発生を検出する技術が知られている(たとえば、特許文献1~3)。
ここで、地絡電流は、送電鉄塔の碍子の絶縁が破壊され、送電線から電流が鉄塔脚および架空地線を通って地面へ流れる現象であり、碍子の絶縁が破壊される要因としては、送電鉄塔への落雷や、鳥獣などの飛来物の碍子への衝突などが挙げられる。送電鉄塔への雷撃電流は、数千~数万Aと大きいため、簡易なサーチコイルを用いた検知装置が既に製品化されているが、鳥獣などの飛来物による碍子接触を起因とする微小地絡では鉄塔脚に流れる電流が数十Aと小さく、また、その継続時間が数サイクル以下と短いため、有効な検知・計測手段は実用化されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8-136605号公報
【特許文献2】特開2013-19753号公報
【特許文献3】特開2007-163381号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、落雷による地絡と、鳥獣などの飛来物による接触による地絡の両方を適切に検出することができる地絡検出装置が希求されているが、鳥獣などの飛来物の接触により生じる微小な地絡電流を計測するためには、高感度の電流トランス(CT)を使用する必要がある。しかしながら、鳥獣などの飛来物の接触により生じる地絡電流を検出するために高感度の電流トランスを鉄塔脚に取り付けた場合、落雷時には、巨大なdi/dt(電流変化率)により電流トランスのコイルで巨大なインパルス電圧が誘起され計測回路を破壊してしまうおそれがあり、落雷による地絡と、鳥獣などの飛来物による接触による地絡の両方を検出することは困難であった。また、雷撃電流に続いて地絡電流が発生する場合には、電流トランスのコアが雷撃電流により発生する磁界の影響で飽和してしまい、一時的に電流トランスが動作不良となるため、地絡電流を計測できないという問題もあった。
【0005】
さらに、従来は、地絡電流の発生の有無を検出することはできるが、微小地絡の発生原因や、碍子などへの被害度合いの推定のためには、地絡電流の発生の有無を検知するだけでは十分ではなく、地絡電流の大きさや地絡電流の波形(地絡電流の大きさの時間変化)を示す地絡監視データを出力できることが望ましい。加えて、メンテナンスの面から、当該地絡監視データを遠隔地まで送信できることが好ましい。
【0006】
本発明は、落雷による地絡と、鳥獣などの飛来物の接触による地絡の両方を安定して検出することができ、検出した地絡電流の大きさを加味した地絡監視データを遠隔に送信することができる地絡検出装置、地絡監視装置および地絡監視システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る地絡検出装置は、送電鉄塔の鉄塔脚に設置され、地絡を検出する地絡検出装置であって、前記鉄塔脚に流れた電流をトリガーとして、起動信号を出力する地絡電流検出部と、地絡電流による磁束密度を計測する磁気センサーと、前記地絡電流検出部から前記起動信号を受信した場合に、前記磁気センサーに前記地絡電流による磁束密度を計測させる制御部と、を有する。
上記地絡検出装置において、遠隔地にデータを送信可能な通信部をさらに有し、前記制御部は、前記磁束密度の計測データに基づく、地絡電流の大きさを加味した地絡監視データを、前記通信部に送信させる構成とすることができる。
上記地絡検出装置において、前記地絡電流検出部は電流トランスを有する構成とすることができる。
上記地絡検出装置において、前記磁気センサーは複数の計測軸を有しており、前記制御部は、前記磁気センサーから取得した前記複数の計測軸における磁束密度の計測データを合成することで、地絡監視データを生成する構成とすることができる。
上記地絡検出装置において、前記磁気センサーの計測データに基づく時系列データに基づいて、地絡電流の波形を加味した地絡監視データを生成する構成とすることができる。
上記地絡検出装置において、前記制御部は、消費電力を抑制する待機モードと、前記地絡電流検出部から出力された前記起動信号により起動し、地絡電流を計測する計測モードと、を有し、前記制御部は、前記磁気センサーの計測データに基づいて地絡監視データを生成し、前記地絡監視データは、磁束密度の計測データに基づくデータを第1の時間間隔ごとに積算して得られた第1の地絡監視データと、前記第1の時間間隔よりも間隔の狭い第2の時間間隔ごとに積算して得られた第2の地絡監視データとから構成される構成とすることができる。
上記地絡検出装置において、前記第1の地絡監視データは、前記起動信号による起動から第1時間が経過するまでの間に得られた時系列データであり、前記第2地絡監視データは、前記起動信号による起動から前記第1時間よりも短い第2時間が経過するまでの間に得られた時系列データである構成とすることができる。
本発明に係る地絡監視装置は、上記複数の地絡検出装置と通信可能に構成された地絡監視装置であって、前記複数の地絡検出装置から受信した地絡監視データに基づいて、地絡電流が発生した送電鉄塔を特定し、発生した地絡電流に関する情報を出力する。
本発明に係る地絡監視システムは、上記複数の地絡検出装置と、前記複数の地絡検出装置と通信可能に構成された地絡監視装置と、を備え、前記地絡監視装置は、前記複数の地絡検出装置から受信した地絡監視データに基づいて、地絡電流が発生した送電鉄塔を特定し、発生した地絡電流に関する情報を出力する。
上記地絡監視システムにおいて、前記複数の地絡検出装置は、送電鉄塔の碍子よりも上部に取り付けられており、前記地絡監視装置は、前記複数の地絡検出装置のうち、上方向の地絡電流が検出された地絡検出装置が取り付けられた送電鉄塔を地絡の発生地点として検出する構成とすることができる。
上記地絡監視システムにおいて、前記複数の地絡検出装置は、前記地絡監視データを送信する際の送信遅延時間の情報を予め記憶しており、前記送信遅延時間が経過した後に、前記地絡監視データを送信する構成とすることができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、電流トランスで検出した地絡電流をトリガーとして磁気センサーに地絡電流の磁束密度を計測させることができるため、低感度の電流トランスを用いても、飛来物の衝突などによる微小な地絡電流も検出することができ、落雷による地絡と飛来物の接触による地絡の両方を安定して検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本実施形態に係る地絡監視システムの構成図である。
【
図2】本実施形態に係る地絡検出装置の取り付け状態を説明するための図である。
【
図3】本実施形態に係る地絡検出装置の取り付け方法を説明するための図である。
【
図4】本実施形態に係る地絡検出装置の構成図である。
【
図5】本実施形態に係る地絡電流検出回路の電気回路を示す図である。
【
図6】本実施形態に係る地絡検出装置における、地絡電流の発生から制御回路の起動までにかかる時間を説明するためのグラフである。
【
図7】地絡監視データの作成方法を説明するためのグラフである。
【
図8】本実施形態に係る地絡監視処理を示すフローチャートである。
【
図9】実施例において計測した磁束密度の計測結果の一例を示すグラフである。
【
図10】実施例において計測した磁束密度の計測時間と地絡観測データとの関係を示すグラフである。
【
図12】地絡の発生地点の検出方法を説明するための図である。
【
図13】地絡監視データの送信遅延時間を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、図に基づいて、本実施形態に係る地絡監視システム1について説明する。
図1は、本実施形態に係る地絡監視システム1の構成図である。
図1に示すように、本実施形態に係る地絡監視システム1は、地絡検出装置10,10a、広域通信網中継装置20、および地絡監視装置30から構成される。なお、
図1に示す地絡検出装置10,10aは、無線中継機能を有していないものを符号10で、無線中継機能を有しているものを符号10aで示している。また、広域通信網中継装置20は、4G、5G、光ファイバなどの通信が可能な通信装置である。
【0011】
本実施形態では、
図1に示すように、地絡検出装置10,10aおよび広域通信網中継装置20は、送電鉄塔2に取り付けられており、無線通信により互いに情報の授受が可能となっている。また、広域通信網中継装置20は、遠隔地に設置された地絡監視装置30と、4G、5Gなどの無線通信または光ファイバなど有線通信により情報の授受が可能となっている。本実施形態では、数個から数十個の地絡検出装置10に対して、1台の無線中継機能付きの地絡検出装置10aが設置されている。地絡検出装置10と無線中継機能付きの地絡検出装置10aとは5km以内に設置され、また、無線中継機能付きの地絡検出装置10a同士は50km以内に設置されることが好ましい。また、無線通信で接続された無線中継機能付きの地絡検出装置10aの1つには広域通信網中継装置20が無線または有線にて接続されている。なお、
図1に示す例では、広域通信網中継装置20が、送電鉄塔2に取り付けられている構成を例示しているが、送電鉄塔2から離れた地点に設置する構成とすることもできる。以下においては、まず、本実施形態に係る地絡検出装置10,10aについて説明する。
【0012】
図2は、本実施形態に係る地絡検出装置10,10aの送電鉄塔2への取り付け状態を示す図である。本実施形態に係る地絡検出装置10,10aは、
図2に示すように、付属の取付アーム21,22により、送電鉄塔2に固設される。また、地絡検出装置10,10aは、
図2に示すように、主に、装置本体11と、電流トランス12とから構成され、装置本体11と電流トランス12との間に配線ケーブル13が介装されている。
【0013】
図3に、本実施形態に係る地絡検出装置10,10aの取り付け方法について説明する。
図3(A)は、本実施形態に係る地絡検出装置10,10aを送電鉄塔2に取り付けた状態を上から見た図であり、
図3(B)は、本実施形態に係る地絡検出装置10,10aを送電鉄塔2に取り付けた状態を横から見た図である。
図3(A),(B)に示すように、取付アーム21,22は、長手部211,221と、端部が略直角に2つに分岐した取付部212,222とを有している。取付部212,222は、
図3(B)に示すように、長手部211,221の幅H1よりも広い幅H2を有しており、取付部212,222を送電鉄塔2に押し当てた状態でステンレスベルト23を巻いて固定することで、取付アーム21,22を送電鉄塔2に簡単に取り付け可能となっている。なお、取付アーム21,22は、非磁性体の素材であれば特に限定されず、たとえば、アルミニウムやアルミニウム合金などの金具で形成することができる。
【0014】
電流トランス12は、送電鉄塔2の鉄塔脚に取り付けられ、電流トランス12のコアの内側に、送電鉄塔2の鉄塔脚が挿通されるように設置される。送電鉄塔2の鉄塔脚に、地絡電流が流れると、地絡電流が発生した瞬間のdi/dt(電流変化率)により、電流トランス12のコイルに誘起電圧が生じ、二次電流が配線ケーブル13を介して、装置本体11へと出力される。なお、地絡電流は碍子の絶縁破壊により発生し、鳥獣などの飛来物の接触による微小地絡である場合でも、地絡電流の発生時のdi/dt(電流変化率)は大きくなる。そのため、鳥獣などの飛来物の接触により地絡電流が生じた場合でも、装置本体11へと二次電流を出力することができる。
【0015】
本実施形態に係る電流トランス12は、地絡電流の有無を検出することができるものであれば十分であり、たとえば、電磁鋼板などをコアとした低感度の電流トランスを用いている。ここで、電流トランスで地絡電流そのものを計測しようとすると、コアを貫通する電線に流れる電流から発生する磁界でコアが飽和しないように、計測しようとする電流の大きさに比例してコアの断面積を大きくする必要があり、発生する磁界が大きい雷撃電流を検出する場合には、電流トランスは、非常に重く、高価なものを使用する必要があった。しかしながら、本実施形態において、電流トランス12は、雷撃電流および地絡電流の立ち上がり(または雷撃電流および地絡電流の有無)を検知するだけの構成であるため、従来の電流トランスに比べてコアの断面積を小さくすることができ、また、コアの材料もフェライトのような高価な材料ではなく、安価な電磁鋼板を利用することができる。なお、電磁鋼板は、非透磁率は非常に高いが、磁気飽和を起こした瞬間に非透磁率が1となる性質を有するため、地絡電流の立ち上がり検知時(比較的低い磁界に曝される場合)には高い透磁率で地絡電流を検出することができ、また、雷撃電流のような強い磁界に曝された場合は、非透磁率が1となり余分なエネルギーがコイルに伝わることを防ぐことができる。さらに、電流トランスのコイルに誘起される電圧はコアを貫通する電流の電流変化率(di/dt)に比例して発生するため、本実施形態において低感度の電流トランス12を用いた場合でも、地絡電流または雷撃電流の開始時の大きなdi/dtによって、装置本体11の起動に必要十分な電圧を得ることができる。加えて、本実施形態に係る電流トランス12では、コアの断面積が小さいことで、ある程度以上の電流が流れるとその磁界でコアが飽和し、その瞬間にコアの比透磁率が1になるため、必要以上に大きなエネルギーがコイルへと伝わることが防止され、コイルへの誘起電圧を抑制することが可能となる。
【0016】
図4は、本実施形態に係る地絡検出装置10,10aの構成図である。地絡検出装置10,10aの装置本体11は、
図4に示すように、地絡電流検出回路14と、制御回路15と、磁気センサー16,17と、通信部18と、記憶部19と、乾電池110とを内蔵する。なお、本実施形態においては、電流トランス12および地絡電流検出回路14を併せて地絡電流検出部とも称す。
【0017】
図5は、地絡電流検出回路14の回路構成図である。地絡電流検出回路14は、地絡電流により生じた電流トランス12の誘起電圧を検出する回路であるとともに、過電圧保護回路としても機能する回路である。地絡電流検出回路14は、
図5に示すように、電圧抑制バリスタ141と、電圧抑制ツェナーダイオード142と、光絶縁143とを有する。電圧抑制バリスタ141および電圧抑制ツェナーダイオード142は、地絡電流により電流トランス12に生じた誘起電圧を抑制し、制御回路15の起動に必要な起動信号を出力するための電圧を得る機能を有する。また、光絶縁143は、たとえばフォトカプラやデジタルアイソレータを用いて構成することができ、回路を物理的に絶縁するとともに、地絡電流による電流トランス12の誘起電圧に基づいて、乾電池144の電圧による電気信号を、制御回路15の起動信号として、制御回路15側へと出力する。このように、本実施形態では、地絡電流検出回路14を、バリスタ、ダイオード、抵抗、トランジスタ、フォトカプラなどで構成することができ、雷撃によるインパルス電圧から装置を保護することが可能となっている。
【0018】
制御回路15は、地絡電流が発生した場合に、磁気センサー16,17から磁束密度の計測データを取得し、当該計測データに基づく地絡監視データを、通信部18を介して、広域通信網中継装置20へと送信する機能を有する。また、本実施形態において、制御回路15は、乾電池110と接続しており、通常時(地絡電流が発生していない場合)は、最低限の消費電力で待機状態となっている。そして、地絡電流検出回路14から起動信号が送信されると、制御回路15は動作状態へと移行し、磁気センサー16,17を動作させ、磁束密度の計測を開始させる。また、制御回路15は、磁気センサー16,17による磁束密度の計測データを受信すると、計測データを記憶部19(たとえば、microSD(登録商標)などの外付けの記憶デバイス)に記憶するとともに、計測データに基づく地絡監視データを生成する。なお、地絡監視データの生成方法の詳細については後述する。さらに、制御回路15は、磁気センサー16,17による磁束密度の計測が開始されてから一定期間が経過すると、磁気センサー16,17の動作を終了させ、再び待機状態へと移行する。なお、制御回路15は、通常時は、20μA程度の極低消費電力で待機状態とすることができる。この場合、単三型リチウム乾電池4本で10年以上の動作が可能である。
【0019】
ここで、本実施形態に係る磁気センサー16,17について説明する。磁気センサー16,17は、送電鉄塔2の鉄塔脚における磁束密度を計測するセンサーである。本実施形態において、磁気センサー16,17は、3軸方向(本実施形態では、X軸方向(送電線の延伸方向)、Y軸方向(鉄塔脚の延伸方向)、およびZ軸方向(送電線の延伸方向と略水平面上で交差する方向))の磁束密度を計測可能なセンサーである。この場合、送電線電流により生じる磁束密度は、X軸方向およびY軸方向で計測することができ、地絡による磁束密度は、Z軸方向で計測することができる。そのため、磁気センサー16,17または制御回路15は、Z軸方向の磁束密度を、地絡による磁束密度として、送電線電流による磁束密度とは分けて、計測することができる。ただし、本実施形態では、地絡検出装置10,10a(より正確には磁気センサー16,17)の傾きの誤差を考慮して、3軸の磁束密度を計測するが、磁気センサー16,17としては、3軸方向の磁束密度を計測する磁気センサーに限定されず、Z軸方向のみを計測する1軸方向の磁束を計測する磁気センサーを用いることもできる(詳細は後述する。)。
【0020】
磁気センサー16,17は、一定の時間間隔(たとえば2ミリ秒間隔)で、磁束密度を計測することができ、計測した磁束密度を順次制御回路15へと出力する。磁気センサー16,17の種類は、特に限定されず、たとえば、AMR磁気センサー、GMR磁気センサー、TMR磁気センサーなどを用いることができるが、本実施形態では、高感度のTMR磁気センサーを用いることとする。なお、本実施形態では、2つの磁気センサー16,17を有する構成を例示したが、この構成に限定されず、1つまたは3つ以上の磁気センサーを有する構成とすることができる。
【0021】
また、鉄塔脚から磁気センサー16,17までの距離は、特に限定されないが、50~150mmとすることが好ましい。本実施形態では、鉄塔脚から磁気センサー16,17までの距離がそれぞれ異なるように、磁気センサー16,17が配置される。磁気センサー16,17を鉄塔脚から異なる距離に複数個配置することで、磁気センサー16,17による磁束密度の計測範囲を任意に拡大可能とすることができる。すなわち、鉄塔脚から磁気センサー16,17までの距離が遠いほど、地絡電流による磁束密度は減衰し、たとえば、鉄塔脚から磁気センサー16,17までの距離が遠いほど、電流値の高い地絡電流を計測することができる。このような性質を利用して、磁気センサー16,17を鉄塔脚から異なる距離に複数個配置することで、電流値の異なる地絡電流を(たとえば鉄塔脚からの距離を50mmとすることで0.2~300Aの地絡電流を、距離を100mmとすることで0.5~600Aの地絡電流を)、磁気センサー16,17で計測することが可能となる。
【0022】
ここで、
図6は、本実施形態に係る地絡検出装置10,10aにおける、地絡電流の発生から制御回路15の起動までにかかる時間を説明するためのグラフである。また、
図6(A)は、絶縁破壊が交流ゼロクロス点から離れて発生した場合の、地絡電流、電流トランス12の誘起電圧および起動信号の出力の一例を示し、
図6(B)は、絶縁破壊が交流ゼロクロス点で発生した場合の、地絡電流、電流トランス12の誘起電圧(CT電圧)および起動信号(起動トリガー)の出力の一例を示す。
【0023】
図6(A)に示すように、絶縁破壊が交流ゼロクロス点から離れて発生した場合には、地絡電流はステップ状に立ち上がるため、地絡電流が極大となる前に、電流トランス12にスパイク上の誘起電圧が発生し、地絡電流検出回路14から起動信号が出力される。この場合、
図6(A)に示すように、地絡電流の発生から約10マイクロ秒程度で磁気センサー16,17により磁束密度の計測が開始される。一般に、地絡電流による磁束密度は、地絡電流の発生から約1秒程度は観測することができるため、本実施形態に係る構成では、地絡電流による磁束密度を十分に検出できることがわかる。また、稀ではあるが、
図6(B)に示すように、絶縁破壊が交流ゼロクロス点で発生した場合でも、地絡電流が一定以上となるタイミングで、地絡電流検出回路14から起動信号が制御回路15へと出力され、磁気センサー16,17による計測が開始される。この場合、地絡電流の電流値の大きさによっても変わるが、たとえば、地絡電流が10Aとなった場合に起動信号が出力される設定では、
図6(B)に示すように、地絡電流が発生してから約5ミリ秒程度で磁気センサー16,17による磁束密度の計測を開始することができ、また、地絡電流が20Aとなった場合に起動信号が出力される設定では、地絡電流が発生してから約3ミリ秒程度で磁気センサー16,17による磁束密度の計測を開始することができる。
【0024】
次に、制御回路15による地絡監視データの作成方法について説明する。ここで、
図7は、地絡監視データの作成方法を説明するためのグラフであり、
図7(A)は磁気センサー16,17から出力された磁束密度の計測データ(1軸での磁束密度)を示し、
図7(B)は、磁気センサー16,17による磁束密度の計測開始から2秒経過まで、0.1秒間隔で取得した磁束密度の計測データに基づく地絡監視データを示し、
図7(C)は、磁気センサー16,17による計測開始から0.2秒経過まで、0.01秒間隔で取得した磁束密度の計測データに基づく地絡監視データを示す。
【0025】
本実施形態において、制御回路15は、まず、
図7(A)に示すように、磁気センサー16,17から出力された3軸方向の磁束密度の計測結果を取得し、3軸方向の磁束密度の計測結果を、記録開始日時をファイル名として、制御回路15に備える記憶部19に記憶する。なお、制御回路15が記憶する磁束密度の計測データのデータ量は、たとえば、2バイト×3軸×500Hz×2秒=6000バイトとすることができる。また、磁束密度の計測データのゼロ点は環境磁場、センサドリフトの影響で変動するため、制御回路15は、計測軸(X軸、Y軸、Z軸)ごとに、2秒間の全データの平均値をゼロ点とすることができる。
【0026】
さらに、制御回路15は、3軸での磁束密度の計測データを合成することで、地絡監視データを生成する。具体的には、制御回路15は、所定時間ごとに、3軸の磁束密度瞬時値を取得し、取得した3軸の磁束密度瞬時値のベクトル長を合計した数値(Σ√(X2+Y2+Z2))を、地絡監視データとして算出する。このように、3軸の磁束密度瞬時値のベクトル長の合計を、地絡監視データとして算出することで、磁気センサー16,17の電流重心軸に対する取り付け角度の影響を低減することができる。
【0027】
また、制御回路15は、
図7(B)に示すように、磁気センサー16,17による磁束密度の計測開始から2秒経過するまでは、3軸の磁束密度の瞬時値を合成した合成値を0.1秒間隔で積算し、積算した積算値の時系列データを、地絡監視データ(第1の地絡監視データ)として出力する。具体的には、制御回路15は、磁気センサー16,17による磁束密度の計測開始から2秒経過するまでは、0.002秒(500Hz)間隔で得られた3軸の磁束密度の瞬時値を合成して合成値を得るとともに、0.002秒間隔で得られた合成値を0.1秒間隔で積算する。そして、制御回路15は、算出した積算値の時系列データを、第1の地絡監視データとして出力する。さらに、制御回路15は、これと並行して、
図7(C)に示すように、磁気センサー16,17による磁束密度の計測開始から0.2秒経過までにおいては、3軸の磁束密度の瞬時値(計測データ)を合成した合成値を、0.01秒間隔で積算し、積算した積算値の時系列データを、地絡監視データ(第2の地絡監視データ)として出力する。具体的には、制御回路15は、磁気センサー16,17による磁束密度の計測開始から0.2秒経過するまでは、0.002秒(500Hz)間隔で得られた3軸の磁束密度の瞬時値を合成し合成値を得るとともに、0.002秒間隔で得られた合成値を0.01秒間隔で積算する。そして制御回路15は、算出した積算値の時系列データを、第2の地絡監視データとして出力する。そして、制御回路15は、通信部18を介して、地絡監視データ(第1の地絡監視データおよび第2の地絡監視データ)を、広域通信網中継装置20を介して地絡監視装置30へと送信する。
【0028】
なお、本実施形態において、制御回路15は、計測開始から開始後2秒まで0.1秒間隔で3軸の磁束密度瞬時値(計測データ)を取得し、地絡監視データを生成するため、これに対する地絡監視データの数は20となる。また、並行して、制御回路15は、計測開始から最初の0.2秒間について、0.01秒間隔でも3軸の磁束密度瞬時値(計測データ)を取得し、地絡監視データを生成するため、これに対する、地絡監視データの数も20となる。すなわち、本実施形態において、制御回路15は、磁気センサー16,17による磁束密度の計測開始から2秒経過まで、40回分の地絡監視データを生成する。さらに、本実施形態では、1回分の地絡監視データは2バイトで表現されるため、磁気センサー16,17による磁束密度の計測開始から2秒経過までの地絡監視データのデータ量は2×40=80バイトとなる。上述したように、本実施形態では、磁気センサー16,17による磁束密度の計測開始から2秒経過までの磁束密度の計測データは6000バイトであるため、磁束密度の計測データに基づいて地絡監視データを生成することで、データ量を大幅に低減されることとなる。
【0029】
通信部18は、制御回路15から出力された地絡監視データを、他の地絡検出装置10,10aまたは広域通信網中継装置20を介して、地絡監視装置30へと送信する。また、本実施形態において、通信部18は、LoRa通信規格などのLPWA無線通信を行うことが可能となっており、地絡監視データを、たとえば2パケットで送信することができる。本実施形態では、3軸での磁束密度の計測データ(たとえば6000バイトのデータ量)を合成して地絡監視データ(たとえば80バイトのデータ量)を生成するため、通信部18が送信する地絡監視データのデータ量を低減することが可能となっており、その結果、比較的低速なLPWA無線通信が使用可能となっている。なお、通信部18による無線通信の通信距離は、機種などにより適宜異なるが、最大で5km、好ましくは50kmまで無線通信することが可能な機種が好ましい。たとえば、
図1に示す例においては、5km以下の通信に好ましい、比較的安価な通信部18を備える地絡検出装置を地絡検出装置10とし、50km以下の通信に好ましい、比較的高価な通信部18を有する無線中継機能付きの地絡検出装置を地絡検出装置10aとして図示している。この場合、5km以下の通信に好ましい地絡検出装置10の通信装置18は、たとえば電波出力を20mWとすることができ、50km以下の通信に好ましい無線中継機能付きの地絡検出装置10aの通信装置18は、たとえば電波出力を250mWとすることができる。また、5km以下の通信に好ましい地絡検出装置10の通信装置18は、消費電力が少ないため乾電池110で動作させることができるが、必要に応じて、電波出力を20mWから250mWに変更して地絡監視データを送信する構成とすることができ、この場合も、乾電池110で動作させることが可能となっている。一方、無線中継機能付きの地絡検出装置10aは地絡検出装置10からの無線通信を中継するために通信装置18を常に動作状態としておく必要があり消費電力が大きくなるため、乾電池110に代えて、たとえば太陽電池と蓄電池の組み合わせからなる電源を備える構成とすることが望ましい。
【0030】
広域通信網中継装置20は、地絡検出装置10,10aから受信した地絡監視データを、有線通信または無線通信により、遠隔地にある地絡監視装置30に送信する。広域通信網中継装置20は、たとえばLTE/WiFiルーターを有しており、50kmを超えて、地絡監視データを地絡監視装置30まで送信可能となっている。
【0031】
地絡監視装置30は、遠隔地に設置されたパソコンなどの情報端末であり、広域通信網中継装置20から各地絡検出装置10,10aで生成された地絡監視データを受信する。地絡監視装置30は、処理装置と、送電鉄塔2の位置情報および各地絡検出装置10,10aの位置情報が付された送電鉄塔マップデータを記憶した記憶装置とを備えている。そして、地絡監視装置30は、受信した地絡監視データに基づく監視情報を、
図1に示すような送電鉄塔マップデータと共にディスプレイ等の表示装置に表示することで、地絡監視システム1の監視者に、地絡の発生や発生地点を把握させることができる。また、地絡監視装置30は、ユーザーが地絡の発生した送電鉄塔2を指定すると、地絡電流の詳細を示す情報(たとえば、地絡電流の瞬時値、継続時間、あるいは地絡電流の波形情報)をディスプレイに表示させる地絡電流表示機能を備えている。
なお、地絡監視装置30は、監視者が携帯するスマートフォンやタブレットとすることもでき、地絡監視データに基づくアラートデータを、メールで受信する構成とすることもできる。
【0032】
次に、本実施形態に係る地絡監視システム1の地絡電流監視処理について説明する。
図8は、本実施形態に係る地絡監視処理を示すフローチャートである。なお、以下に示すフローチャートは、送電鉄塔2に落雷または鳥獣などの衝突により地絡電流が発生することで開始される。なお、本実施形態において、ステップS101~S107は、地絡検出装置10,10aにより実行され、ステップS108およびステップS109は、地絡監視装置30により実行される。
【0033】
ステップS101では、地絡電流が発生したことで、地絡検出装置10,10aの電流トランス12のコイルに誘起電圧が生じ、誘起電圧に応じた二次電流が配線ケーブル13を介して、装置本体11の地絡電流検出回路14へと出力される。ステップS102では、地絡電流検出回路14により、二次電流に基づいて、起動信号を制御回路15へと出力する処理が行われる。そして、ステップS103では、制御回路15により、起動信号が受信され、制御回路15が待機状態から動作状態へと変更される。
【0034】
ステップS104では、制御回路15により、磁気センサー16,17の動作が開始され、地絡電流に応じた磁束密度の計測が開始される。なお、磁気センサー16,17は、磁束密度を繰り返し計測し、随時、磁束密度の計測データを制御回路15へと出力する。また、本実施形態では、磁気センサー16,17は、3軸の磁束密度を計測しており、3軸の磁束密度の計測データを制御回路15へと出力する。
【0035】
ステップS105では、制御回路15により、ステップS104で取得された3軸の磁気密度の計測データに基づいて、地絡監視データの生成が行われる。具体的には、本実施形態では、磁気センサー16,17は0.002秒間隔で3軸の磁束密度を計測しており、制御回路15は、3軸の磁束密度を合成した合成値を0.1秒間隔で積算し、算出した積算値の時系列データを第1の地絡監視データとして生成する。また、制御回路15は、3軸の磁束密度を合成した合成値を0.01秒間隔で積算した積算値の時系列データを第2の地絡監視データとして生成する。そして、制御回路15は、生成した地絡監視データ(第1の地絡監視データおよび第2の地絡監視データ)を、通信装置18や広域通信網中継装置20を介して、地絡監視装置30に送信する。なお、本実施形態では、制御回路15は、起動信号による起動から2秒が経過するまで、0.1秒ごとに第1の地絡監視データを生成し、起動信号による起動から0.1秒が経過するまで、0.01秒ごとに第2の地絡監視データを生成する。
【0036】
ステップS106では、制御回路15により、起動信号による起動から2秒が経過したか否かの判断が行われる。2秒が経過していない場合は、ステップS105に戻り、第1の地絡監視データおよび/または第2の地絡監視データを生成する。そして、起動信号による起動から2秒が経過した場合には、ステップS107に進み、制御回路15が動作状態から待機状態へと変更される。
【0037】
ステップS108では、地絡監視装置30により、各地絡検出装置10,10aから受信した地絡監視データの取得が行われる。なお、
図8に示すフローチャートでは、説明の便宜のため、ステップS108において地絡監視データを受信する工程を例示しているが、実際には、ステップS105で地絡監視データが送信され次第、適宜、地絡監視装置30により地絡監視データの受信が行われる。そして、ステップS109では、受信した地絡監視データを、地絡監視装置30が有するモニタなどに表示することで、監視者に、地絡監視データに基づく地絡監視情報を把握させることができる。
【実施例0038】
次に、本実施形態に係る地絡検出装置10,10aの実施例について説明する。本実施例では、地絡検出装置10,10aの試作品を製作し、鉄塔脚試験材に電流トランス12を取り付け、鉄塔脚試験材に模擬地絡電流を通電させた。
図9は、模擬地絡電流を発生させた際の本実施例において計測した3軸(X軸、Y軸、Z軸)の磁束密度瞬時値を示すグラフである。なお、
図9に示すように、本実施例では、本実施形態に係る地絡検出装置10,10aと同様に、磁気センサー16,17が起動してから2秒後が経過するまで磁束密度を計測した。また、本実施例でも、Z軸方向を、送電線の延伸方向と略水平面上で交差する方向とし、Z軸方向において、地絡電流の磁束密度が計測できるように、地絡検出装置10,10aを配置したため、Z軸方向の磁束密度が大きく計測されている。
【0039】
また、
図10は、模擬地絡電流を発生させた際に、本実施例において計測した磁束密度の計測時間と磁束密度の計測データとの関係を示すグラフである。具体的には、
図10(A)では、磁束密度の計測開始から2秒経過するまでにおいて、0.1秒間隔で積算した磁束密度の計測データ(3軸の磁束密度瞬時値)に基づく地絡監視データを示し、
図10(B)では、計測開始から0.2秒経過までにおいて、0.01秒間隔で積算した3軸の磁束密度瞬時値に基づく地絡監視データを示す。
図9および
図10に示すように、本実施形態に係る地絡検出装置10,10aでは、地絡電流が発生した場合に、制御回路15が起動し、磁気センサー16,17により地絡電流に応じた磁束密度が計測されるとともに、地絡電流に応じた地絡監視データを生成することができることがわかった。
【0040】
また、上記試作品を用いて、本実施形態に係る地絡検出装置10,10aの耐雷撃試験も行った。具体的には、まず、鉄塔脚試験材に、試作品を取り付け、200V/10Aの模擬地絡電流を流し、試験材表面から200mmの位置で磁束密度を計測した。計測結果を
図11(A)に示す。
図11(A)に示すように、模擬地絡電流に対して、磁束密度を計測することができた。次に、この試作品に対して、3.873kAの模擬雷撃電流を流した。
図11(B)に計測結果を示す。模擬雷撃電流は、通常の雷撃電流と同様に、100マイクロ秒以内に0となるように設定されたところ、
図11(B)には、模擬雷撃電流による磁束密度が計測された。このことから、本実施形態に係る地絡検出装置10,10aでは、雷撃から100マイクロ秒以内に磁束密度の計測を開始することができ、雷撃の有無を検出することが可能であることがわかった。また、本実施形態に係る地絡検出装置10,10aおよび試作品の磁気センサー16,17は、2ミリ秒間隔で磁束密度を計測しているが、
図11(B)に示すように、2回目の磁束密度の計測(磁気センサー16,17の計測開始から2ミリ秒経過後の磁束密度の計測)では、磁束密度の計測値はほぼ0となった。このことから、雷撃電流による強い磁場が磁気センサー16,17に与える影響は2ミリ秒以上は継続せず、雷撃電流に続く地絡電流も適切に計測できると考えられる。なお、
図11(B)において、
図11(A)に示す磁束密度に対して、計測値は非常に低くなっているが、これは、
図11(B)では、磁束密度変化が100マイクロ秒しか継続しないため、磁気センサーの応答が追従していないことが原因であると考えられる。
【0041】
図11(C)は、10kA程度の模擬雷撃電流を複数回印加した後に、模擬地絡電流を流し、磁束密度を計測した結果を示すグラフである。
図11(C)に示すように、10kA程度の模擬雷撃電流を複数回印加した後も、磁束密度の検知は、模擬雷撃電流を流す前の
図11(A)に示す計測値と大きな差異もなく、模擬雷撃電流による電流トランス12のコアの特性変化、電流トランス12のコイル、地絡電流検出回路14、磁気センサー16,17などへのダメージは見られず、雷撃電流に続いて発生する地絡電流に対しても、実用可能であることがわかった。
【0042】
次に、
図12を参照して、本実施形態における地絡監視システム1における地絡の発生地点の検出方法について説明する。地絡が発生した場合、地絡が発生した送電鉄塔2から当該送電鉄塔2に隣接する送電鉄塔に、架空地線を経由して地絡電流が伝わり、隣接する送電鉄塔2に順次地絡電流が流れることとなる。たとえば、
図12に示す例では、中央の送電鉄塔2に地絡が発生すると、左右に隣接する送電鉄塔2にも地絡電流が架空地線を経由して伝わることとなる。この場合、
図12に示すように、地絡電流の電流値は、地絡が発生した碍子から上下方向に分かれるため、地絡が発生した碍子の上下方向で分流し、さらに、地絡が発生した送電鉄塔2から隣接する送電鉄塔2へはそれぞれ左右に分流する。このように、地絡が発生した送電鉄塔2から離れた送電鉄塔2ほど地絡電流は減衰するため、地絡監視装置30は、各送電鉄塔2の地絡電流の電流値を比較することで、地絡が発生した送電鉄塔2を特定する構成とすることができる。
【0043】
また、
図12に示すように、地絡が発生した送電鉄塔2では、地絡が発生した碍子よりも上部の位置においては、上方向に地絡電流が流れ、上方向の地絡電流に応じた位相の磁束密度が計測されることとなる(
図12の下部参照)。これに対して、地絡が発生していない送電鉄塔2では、碍子よりも上部に地絡検出装置10,10aを設置している場合でも、下方向に地絡電流が流れるため、下方向の地絡電流に応じた位相の磁束密度が計測されることとなる(
図12の下部参照)。そのため、本実施形態では、各地絡検出装置10,10aを碍子よりも上部に配置し、地絡監視装置30において、上方向の地絡電流に応じた磁束密度が計測された地絡検出装置10,10aを検出することで、地絡が発生した送電鉄塔2に取り付けられた地絡検出装置10,10aを特定する構成とすることもできる。また、地絡監視装置30は、各送電鉄塔2の地絡検出装置10,10aで検出した地絡電流の電流値を比較すること、および、上方向の地絡電流に応じた磁束密度が計測された地絡検出装置10,10aを検出することを組み合わせることで、地絡が発生した送電鉄塔2をより高い精度で特定する構成とすることもできる。
【0044】
また、上述したように、地絡電流が発生した場合、架空地線を介して、隣接する送電鉄塔2に順次地絡電流が流れるため、各送電鉄塔2で一斉に地絡監視データの送信が行われ、地絡監視データの衝突が生じてしまうおそれがある。そこで、本実施形態では、地絡検出装置10,10aごとに、地絡監視データの送信タイミングを変更する制御が行われる。具体的には、地絡検出装置10,10aは、それぞれ異なる、地絡監視データの送信遅延時間の情報を予め記憶しており、決められた送信遅延時間が経過してから地絡監視データを送信する構成となっている。
【0045】
たとえば、
図13に示すように、各送電鉄塔2に取り付けられた各地絡検出装置10,10aは、地絡監視データの送信遅延時間の情報として、特定の遅延番号を予め記憶している。そして、各地絡検出装置10,10aは、地絡電流の検出があった場合には、地絡監視データを、予め記憶された遅延番号×20秒後に送信する構成とすることができる。たとえば、
図13に示す例では、遅延番号として「3番」が付与された地絡検出装置10,10a(地絡が発生した送電鉄塔2に取り付けられた地絡検出装置10,10a)では、3×20=60秒が経過した後に、地絡監視データを送信する構成とすることができ、また、遅延番号として「4番」が付与された地絡検出装置10,10aでは、4×20=80秒が経過した後に、地絡監視データを送信する構成とすることができるため、地絡監視データの送信データの衝突を回避することができる。なお、遅延番号は、
図13に示すように、たとえば7つ隣となる地絡検出装置10,10aまでで、0~6の数字となるように設定することができる。この場合、7つ離れた送電鉄塔2に取り付けられた各地絡検出装置10,10aまでで送信が完了するのは140秒となる。なお、地絡電流が発生した送電鉄塔2から7つ離れた送電鉄塔2では、仮に各鉄塔での地絡電流の分流比を1/2とすると、地絡が発生した送電鉄塔2の地絡電流の1/256の値となるため、地絡はほぼ検出されないと想定されるため、8つ以上離れた送電鉄塔2に8以上の遅延番号を用いる必要性は低いと考えられる。
【0046】
以上のように、本実施形態に係る地絡検出装置10,10aは、地絡電流を検出する電流トランス12と、電流トランス12と電気的に接続し、地絡電流をトリガーとして起動信号を出力する地絡電流検出回路14と、地絡電流による磁束密度を計測する磁気センサー16,17と、起動信号を受信した場合に、磁気センサー16,17に地絡電流による磁束密度を計測させる制御回路15とを有する。これにより、本実施形態に係る地絡検出装置10,10aでは、電流トランス12は、地絡電流の電流値まで計測する必要がなく、地絡電流の有無のみを検出することができればよいため、大型で高価な高感度の電流トランスは不要となり、雷撃による地絡電流も、鳥獣などの飛来物の衝突による地絡も検出することができる。また、本実施形態において、電流トランス12は、地絡電流の有無のみを検出することができればよいため、コアの磁気飽和や整流回路の特性を考慮する必要もなく、簡易な構成とすることができるとともに、雷撃時には、電流トランス12のコアが飽和することで、コイルの誘起電圧が抑制され、過電圧からの装置保護も可能となっている。さらに、本実施形態では、電流トランス12が、50/60Hzの電流変化を計測する必要もないため、電流トランス12のコアの断面積を小さくすることができ、またコイルの巻き数も少なくすることができ、その結果、地絡検出装置10,10aを安価に製造することが可能となる。このように、本実施形態に係る地絡検出装置10,10aでは、比較的簡易な装置構成でも、落雷による地絡に対しても、鳥獣などの飛来物の接触による地絡に対しても、安定した検出を実現することができる。
【0047】
また、微小地絡の発生原因や、碍子などへの被害度合いを推定するためには、地絡電流の発生を検知するだけでは十分ではなく、地絡電流の大きさや波形(地絡電流の大きさの時系列データ)を計測する必要がある。本実施形態では、磁気センサー16,17により地絡電流の磁束密度を計測し、地絡電流の大きさや波形に基づく監視データを生成することができ、地絡電流の有無のみならず、地絡電流の特徴を監視者に把握させることができる。また、通常、地絡電流の波形を検出するためには、センサー系を常時動作させる必要があり、このような構成を採用する場合、電力消費が増大するため、たとえば太陽電池と蓄電池とを組み合わせた電源装置が必須となるが、このような電源装置を用いる構成では、送電鉄塔への設置やメンテナンスが困難となってしまうという問題があった。これに対して、本実施形態に係る地絡検出装置10,10aでは、制御回路15が、地絡電流をトリガーとして地絡電流検出回路14から出力された起動信号を受信した場合に起動し、磁気センサー16,17に、地絡電流の磁束密度の計測を開始させるため、本実施形態での電力消費量は相対的に低くなり、乾電池110を内蔵する構成であっても長期間(たとえば10年以上)乾電池110を交換することなく、地絡電流の検出が可能となる。その結果、太陽電池と蓄電池との組み合わせによる電源装置は不要となり、装置の小型化が可能となるため、地絡検出装置10,10aの設置容易性やメンテナンス性を高めることもできる。
【0048】
さらに、本実施形態に係る地絡検出装置10,10aでは、地絡電流が発生してから5ミリ秒程度という短時間で、地絡電流の磁束密度の計測を開始することができるため、雷撃電流に続く地絡電流を計測することが可能となっている。なお、本実施形態に係る地絡検出装置10,10aにおいては、継続時間が0.1ミリ秒以下である雷撃電流に応じた波形までは計測することはできないが、
図11(B)に示すように、雷撃自体の検出と記録は可能であるため、たとえば、別途、サーチコイルとコンデンサを組み合わせた雷電流センサーを併用することで、雷電流のおおよその大きさも計測することは可能となる。また、近年は、落雷や飛来物による地絡から電力系統を保護するために、碍子に、雷害防止ホーン付きのアークホーンが設置される場合もあり、このような雷害防止ホーンを取り付けた送電鉄塔では、落雷や飛来物による地絡が発生しても、送電線電圧の低下がほとんど生じず(半サイクル以内にアークが消弧してしまい)、地絡の発生を検出できない場合があった。しかしながら、本実施形態に係る地絡検出装置10,10aでは、地絡電流が発生してから10マイクロ秒程度で、地絡を検出することができるため、このような雷害防止ホーン付きのアークホーンが設置された送電鉄塔においても地絡を適切に検出することできる。
【0049】
加えて、本実施形態に係る地絡検出装置10,10aでは、磁気センサー16,17の3軸方向(X軸、Y軸、Z軸)の磁束密度瞬時値のベクトル長の合計値(Σ√(X2+Y2+Z2))とすることで、磁気センサー16,17の傾きや、鉄塔脚の形状の影響を排除して、地絡電流による磁束密度を評価することができる。また、本実施形態では、磁気センサー16,17の計測軸が送電線電流による磁界のベクトルと直交するように、磁気センサー16,17を配置することで、送電線電流による磁界の影響が大きい場合でも、地絡電流を送電線電流と分離して計測することが可能となっている。
【0050】
また、本実施形態に係る地絡検出装置10,10aでは、3軸の磁束密度の計測結果を合成して、データ量の小さい地絡監視データを作成するため、低電力消費のLPWA通信で送信することができ、電池交換によるメンテナンスの回数を低減することができる。また、遠隔地の地絡監視装置30へと無線通信により地絡監視データを送信する構成のため、作業者が送電鉄塔2まで赴かなくても、遠隔地で地絡に関する情報を監視することができ、メンテナンスなどの作業性を高めることができる。
【0051】
以上、本発明の好ましい実施形態例について説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態の記載に限定されるものではない。上記実施形態例には様々な変更・改良を加えることが可能であり、そのような変更または改良を加えた形態のものも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0052】
たとえば、上述した実施形態では、3軸の磁束密度瞬時値のベクトル長の合計値(Σ√(X2+Y2+Z2))を、地絡監視データとして算出する構成を例示したが、この構成に限定されず、たとえば、取付アーム21,22により地絡検出装置10,10aの傾きを固定し、地絡電流による磁束密度を、送電線電流による磁束密度と分離して、1軸(たとえばZ軸方向)だけで検出できるようにした場合には、地絡電流による磁束密度の絶対値(たとえばΣ|Z|)を、地絡監視データとして算出する構成とすることもできる。
【0053】
また、上述した実施形態では、磁気センサー16,17を起動してから2秒間、磁気センサー16,17により磁束密度を計測する構成を例示したが、送電線からの交流磁界の影響が大きい場合には、地絡電流が終了した後にさらに1秒間程度(たとえば、磁気センサー16,17を起動してから3秒間程度まで)、磁気センサー16,17による磁束密度の計測を継続し、地絡電流が終了した後の1秒間で計測した計測値をバックグランド(ノイズ成分)として、磁気センサー16,17を起動してから2秒間までの送電線電流によるノイズを除去する構成とすることもできる。
【0054】
さらに、上述した実施形態では、制御回路15は、地絡電流検出回路14から起動信号を受信することで起動する構成を例示したが、この構成に加えて、制御回路15が、校正や診断のために、所定の時間間隔ごとに、自動で起動する構成としてもよい。たとえば、制御回路15は、1日1回などの所定の頻度で定期起動し、内部時計を親局と同期させる処理や、図示しない加速度センサーから磁気センサー16,17の姿勢を検出する処理や、ハードウェアの自己診断を行う構成とすることができる。また、制御回路15は、磁気センサー16,17の姿勢や、ハードウェアの自己診断の結果を、通信部18を介して、地絡監視装置30へと送信する構成とすることもできる。なお、定期起動した際の処理は数秒間程度で完了することができ、定期起動後には待機状態へと戻ることができる。また、定期起動中に地絡が発生する可能性もあるため、制御回路15は、定期起動した後は直ぐに、地絡電流の有無にかかわらず、磁気センサー16,17に500kHzで地絡電流の計測を開始させ、地絡が発生した場合には、地絡監視データを生成し、地絡監視装置30へと送信する構成とすることができる。また、この場合、地絡が発生しない場合には、磁気センサー16,17による計測結果は破棄する構成とすることができる。なお、定期起動処理と地絡電流の磁束密度の計測処理とは並列処理することができるため、地絡電流を計測できない時間帯は発生しないこととなる。
【0055】
加えて、上述した実施形態では、地絡電流検出部の一部として低感度の電流トランスを用いる構成を例示したが、この構成に限定されず、たとえば、電流トランスに代えて、サーチコイルやロゴスキーコイルを用いる構成とすることもできる。しかしながら、電流トランスに比べて、サーチコイルやロゴスキーコイルは、飛来物による微小な地絡電流を検出するには感度が低すぎてしまうため、別途、消費電力の大きく高価で脆弱な増幅アンプが必要になる場合があるため、電流トランスを用いる構成の方が好ましい。