(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023111334
(43)【公開日】2023-08-10
(54)【発明の名称】レールふく進量の測定方法
(51)【国際特許分類】
B61K 9/08 20060101AFI20230803BHJP
G01B 11/00 20060101ALI20230803BHJP
【FI】
B61K9/08
G01B11/00 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022013142
(22)【出願日】2022-01-31
(71)【出願人】
【識別番号】000173784
【氏名又は名称】公益財団法人鉄道総合技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001184
【氏名又は名称】弁理士法人むつきパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】前田 梨帆
(72)【発明者】
【氏名】糸井 謙介
(72)【発明者】
【氏名】長峯 望
(72)【発明者】
【氏名】合田 航
(72)【発明者】
【氏名】坪川 洋友
【テーマコード(参考)】
2F065
【Fターム(参考)】
2F065AA01
2F065BB27
2F065DD06
2F065FF04
2F065FF61
2F065JJ19
2F065JJ25
2F065JJ26
2F065MM24
2F065QQ24
2F065QQ31
2F065RR06
(57)【要約】
【課題】 周辺環境などに影響されず安定して簡易にレールふく進量を測定できるレールふく進量の測定方法の提供。
【解決手段】 車両の前面に取り付けられた撮像手段により撮像される走行画像からレールふく進量を測定するレールふく進量の測定方法である。進行方向前方又は後方を所定間隔で撮像した画像を射影変換した疑似床下画像から、線路を挟んだ左右に設けられた一対のふく進杭及び対応してレールに設けられたマークを抽出し、ふく進杭を所定高さの水平線で結んだ基準線とマークからふく進量を測定することを特徴とする。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の前面に取り付けられた撮像手段により撮像される走行画像からレールふく進量を測定するレールふく進量の測定方法であって、
進行方向前方又は後方を所定間隔で撮像した画像を射影変換した疑似床下画像から、線路を挟んだ左右に設けられた一対のふく進杭及び対応してレールに設けられたマークを抽出し、前記ふく進杭を所定高さの水平線で結んだ基準線と前記マークからふく進量を測定することを特徴とするレールふく進量の測定方法。
【請求項2】
前記ふく進杭には、前記所定高さを示す水平マークをあらかじめ与えられ、前記水平マークに基づいて前記基準線を抽出することを特徴とする請求項1記載のレールふく進量の測定方法。
【請求項3】
前記水平マークは前記ふく進杭の線路の延びる方向と垂直な面に設けられることを特徴とする請求項2記載のレールふく進量の測定方法。
【請求項4】
前記疑似床下画像は一対のレールを平行となるように画像処理して得られることを特徴とする請求項1乃至3のうちの1つに記載のレールふく進量の測定方法。
【請求項5】
既知であるまくらぎの縦横比となるように更に補正処理することを特徴とする請求項4記載のレールふく進量の測定方法。
【請求項6】
前記まくらぎの寸法から前記ふく進量を算出することを特徴とする請求項5記載のレールふく進量の測定方法。
【請求項7】
前記マークは前記レールの内側の底部頂面に設けられることを特徴とする請求項1乃至6のうちの1つに記載のレールふく進量の測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、線路の安全評価におけるレールふく進量の測定方法に関し、特に、車両の前面に取り付けられた撮像手段により撮像される走行画像からレールふく進量を測定するレールふく進量の測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
レールが列車の通過や気温の変化などでその長手方向に偏って移動する「ふく進」と称されるレールの伸縮現象が知られている。例えば、レールが高温では膨張し、逆に、低温では収縮し、いずれの場合もふく進の進行を起因とするレール内部の軸力の偏りを生じさせ、レールを座屈または折損させる原因となり得る。そこで、線路の安全評価としてのレールふく進量の測定が実施される。特に、継目構造を有さないロングレール区間では、レールの伸縮を継目によって緩和できないため、レール内部の軸力管理がより重要となる。
【0003】
一般的なレールふく進量の測定においては、線路左右に基準となる一対のふく進杭(不動点)をあらかじめ設置しておき、作業員がこれらふく進杭の間に糸を張ってレールに設置されたマーカとの離隔量を定期又は不定期に目視測定している。一方、作業員による測定値のばらつきや、長距離を徒歩で移動し測定を行わなければならない煩雑さ、作業中の安全性確保のための列車監視の手間などの問題からこの測定を車上から行おうとする提案がなされている。
【0004】
例えば、特許文献1では、レールと一体的に設けられたレールマーカと、レールから側方に離れた位置で地面と一体的に設けられた基準マーカと、を単一又はそれぞれ別の撮像手段で撮影し画像処理して各マーカの位置を算出することでふく進量を算出する方法を開示している。撮影画像がレール長手方向に沿うような向き、つまり、ラインカメラのような撮像手段をその光軸を軌道面に仕向けるようにして車両底部に取り付け、レールに沿って連続した撮像を行う。撮影画像中の横方向及び縦方向をx方向及びy方向として画像座標系を設定し、レール長手方向と直交する直線であるキャリブレーション線からのy方向変位を求めてレールのふく進量を算出するとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記したように、走行する車上から撮像手段を用いて撮像した画像によりレールふく進量を測定できれば、効率的にふく進量の測定ができる。ここで、撮像手段を車両底部に取り付けてふく進量を測定するには、撮像手段を特別に備えた車両が必要となる。そのため、気温上昇時又は低下時などの気象条件に合わせて且つ選択した区間を測定しようとしても、車両の用意の都合などで機動性に欠ける。そこで、車両の前面に簡易に取り付けられた撮像手段により撮像される画像から簡易にレールふく進量を測定する方法が求められるが、走行する車両から撮像した画像は走行条件や周辺環境の変化などでも異なってしまう。例えば、同一箇所での画像を単純に比較してもふく進量を測定できず、周辺環境などに影響されず安定した測定をできることも求められる。
【0007】
本発明は、以上のような状況に鑑みてなされたものであって、その目的は、周辺環境などに影響されず安定して簡易にレールふく進量を測定できるレールふく進量の測定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明による測定方法は、車両の前面に取り付けられた撮像手段により撮像される走行画像からレールふく進量を測定するレールふく進量の測定方法であって、進行方向前方又は後方を所定間隔で撮像した画像を射影変換した疑似床下画像から、線路を挟んだ左右に設けられた一対のふく進杭及び対応してレールに設けられたマークを抽出し、前記ふく進杭を所定高さの水平線で結んだ基準線と前記マークからふく進量を測定することを特徴とする。
【0009】
かかる特徴によれば、車両の前面に取り付けられた撮像手段により撮像される画像から周辺環境の影響を排除した単純な画像解析でふく進量を測定できて、周辺環境などに影響されず安定して簡易に測定をできるのである。
【0010】
上記した発明において、前記ふく進杭には、前記所定高さを示す水平マークをあらかじめ与えられ、前記水平マークに基づいて前記基準線を抽出することを特徴としてもよい。また、前記水平マークは前記ふく進杭の線路の延びる方向と垂直な面に設けられてもよい。かかる特徴によれば、水平線を周辺環境の影響を排除した単純な画像解析にて得ることができ、周辺環境などに影響されず安定して簡易に測定をできるのである。
【0011】
上記した発明において、前記疑似床下画像は一対のレールを平行となるように画像処理して得られることを特徴としてもよい。また、既知であるまくらぎの縦横比となるように更に補正処理することを特徴としてもよい。更に、前記まくらぎの寸法から前記ふく進量を算出することを特徴としてもよい。かかる特徴によれば、簡便な画像解析でより精確な疑似床下画像を得ることができて、周辺環境などに影響されず安定して簡易に測定をできるのである。
【0012】
上記した発明において、前記マークは前記レールの内側の底部頂面に設けられることを特徴としてもよい。かかる特徴によれば、周辺環境の影響を排除して精確にマークを抽出できて、周辺環境などに影響されず安定して簡易に測定をできるのである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】レールふく進量を測定するためのふく進杭を含む線路の斜視図である。
【
図2】撮像手段の設置状況を示す(a)側面図、(b)写真である。
【
図5】(a)マーク及び(b)水平マークの正面図である。
【
図6】各マークの基準位置を定める方法を示す図である。
【
図7】擬似床下画像上でレールふく進量を測定した例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明によるレールふく進量の測定方法の実施例について、
図1乃至
図7を用いて説明する。
【0015】
図1に示すように、一対のレール1により形成される線路を挟んだ左右に一対のふく進杭3が設けられる。レール1の両者には、ふく進杭3に対応するマーク2がそれぞれ設けられ、ふく進杭3同士を結ぶ所定高さの水平線を基準線Lとして、基準線Lに対するマーク2の位置によってレールふく進量が求められる。ふく進杭3は、所定間隔で複数の対が設けられているが、他のふく進杭3についても同様であるので、ここでは一対のふく進杭3とこれに対応して設けられたマーク2について説明する。
【0016】
レール1に付与したマーク2は、レール1のふく進に伴って移動する。そのため、レールふく進量は、マーク2を付与した位置から測定時の位置までの距離である。ここで、例えば、マーク2を鉛直上方から見て基準線Lに重なるように付与しておくと、基準線Lによって付与時のマーク2の位置を特定できるから、測定時のマーク2までの距離を測定して、これをレールふく進量とすることができる。
【0017】
本実施例においては、レール1の延びる方向に対して基準線Lを直交させるようにふく進杭3を設置しておき、基準線Lと鉛直方向に重なる位置にマーク2を付与している。つまり、鉛直上方から見て、基準線Lと測定時のマーク2との距離Dがレールふく進量となる。
【0018】
また、本実施例では、後述するように、走行中の車両から斜め下向きに設置した撮像手段から得る走行画像を元にレールふく進量を測定する。そのため、基準線Lをマーク2の高さと同じ高さとなるようにすることが好ましく、基準線Lを所定高さとするための水平マーク4をマーク2の高さと揃えるように配置している。これにより、鉛直方向のずれを排除して測定時のマーク2と基準線Lとの距離Dをレールふく進量とし得て、より精確なレールふく進量の測定を可能とする。なお、マーク2は、走行する車両の前面から撮像しやすいように、レールの内側の底部頂面に設けられることが好ましい。また、水平マーク4は、撮像しやすいようにふく進杭3の線路の延びる方向と垂直な面に設けられることが好ましい。
【0019】
図2(a)に示すように、レール1により形成される線路を走行する車両10は、その前面に斜め下方の線路を撮像できる撮像手段としてカメラ12を備える。なお、車両10の進行方向はどちらでもよく、ふく進杭3の水平マーク4の設けられた面に正対する側の前面にカメラ12が設けられる。換言すれば、カメラ12の設けられた車両を先頭車両とする編成で走行する場合に進行方向の前方を撮像し、逆方向に走行する場合には進行方向の後方を撮像することになる。
【0020】
図2(b)に示すように、本実施例では、カメラ12は、吸盤式カメラマウント13を用いて車両10の前面の運転台窓11に簡易に取り付けられた。カメラ12としては、市販品の4K解像度のビデオカメラを用いることとした。
【0021】
図3に示すように、カメラ12によって所定間隔(所定のフレームレート)で撮像された線路の連続画像から、マーク2及び水平マーク4を比較的近くで大きく撮影できている画像を走行画像20として選択する。そして、走行画像20を射影変換して擬似床下画像30(
図5参照)を得る。擬似床下画像30は、車両の床下から線路を真下に見た画像を模擬した画像である。
【0022】
例えば直線路の場合は、選択した走行画像20の上で一対のレール1の画像を元に台形abdcを作図する。台形abdcは、一対のレール1から得られる走行画像20上の消失点を通るようにその脚(斜辺ac及びbd)を定める。また、上底及び下底は、簡易的に長方形の画像の上下端と平行に定めてもよいが、ふく進杭3の同一高さを結ぶ直線と平行になるように定めることが好ましい。例えば、左右一対の水平マーク4を通る直線を抽出してこれを基準線とし、かかる基準線と平行になるようにする。また、台形abdcは、レール1の両者に付されたマーク2とふく進杭3の水平マーク4(又は基準線)をその内側に含むように定められる。
【0023】
次いで、
図4に示すように、走行画像20の台形abdcを長方形にする画像処理による射影変換を行って擬似床下画像30を得る。ここでは、台形abdcの左右の脚を平行にして長方形にする射影変換を行う。つまり、一対のレール1を互いに平行となるように画像処理するのである。そして、擬似床下画像30を用いて、マーク2と水平マーク4との位置を抽出し、水平マーク4から基準線を得る。左右のレールそれぞれについて基準線とマーク2との距離Dを求め、これをレールふく進量とする。
【0024】
このように、一対のレール1を互いに平行になるように画像処理したことで、同一の基準線からの距離で左右のレール1それぞれについてまとめてレールふく進量を測定できる。例えば、カメラ12の配置や走行する車両の揺れなどにより左右どちらか一方に偏った視点から走行画像20を得た場合であってもよい。
【0025】
ただし、走行画像20は線路の斜め上方からの画像であるため、例えば、高さの違いは擬似床下画像30の上下方向及び/又は左右方向にずれて現れる。つまり、線路を真上から撮影した床下画像とは異なる。そのため、かかる高さの違いによるずれを補正し、又は、高さの違いを問題としないように処理することが好ましい。ここでは、ふく進杭3に付した水平マーク4をマーク2と同じ高さとしているため、基準線とマーク2には高さの違いが生じず、擬似床下画像30でのずれの補正を不要とする。
【0026】
また、擬似床下画像30は、走行画像20を得るカメラ12の取り付け角度や走行画像20上での上記した台形の位置により、上下方向の寸法が不定となる。そこで、例えば、画像上のまくらぎの縦横比を既知である実際のまくらぎの縦横比となるように擬似床下画像30を補正処理してもよい。この場合、擬似床下画像30をより精確に得ることができる。また、線路の幅やまくらぎの寸法などの既知の寸法を元にすることで、精確なレールふく進量を算出し得る。特に、まくらぎは一定間隔で常にふく進杭3の近くに存在し、走行画像20に写り込むようにしやすいため、その寸法をレールふく進量の算出に用いることが好適である。
【0027】
以上のように、本実施例による測定方法によれば、車両の前面に簡易に取り付けた撮像手段を用いて得られた走行画像20を用いて、レールふく進量を測定できる。走行画像20は走行条件や周辺環境の変化などによって異なるものとなるが、ふく進杭3とマーク2をあらかじめ設けておくことで、走行画像20を射影変換して擬似床下画像30を得るだけの簡易な方法でレールふく進量を測定できる。また、画像処理によって一義的にレールふく進量を求めることができるので、計測者によるばらつきを低減し得る。
【0028】
なお、
図5(a)及び(b)に示すように、マーク2及び水平マーク4は、比較的コントラストの大きい複数の色で塗分けられた三角形の頂点でそれぞれの基準位置を定めるようにされることが好ましい。走行画像20や擬似床下画像30においてマーク2の位置及び水平マーク4の位置(基準線Lの位置)をそれぞれ定めるにあたり、このような三角形の頂点を用いることで、測定精度を高くし得る。本実施例では、マーク2は正方形の2本の対角線で4分割される直角二等辺三角形のそれぞれを白黒で色分けして、正方形の中心に基準位置を設けてある。また、水平マーク4は、一辺を水平にされた正方形の左右どちらか一辺を底辺とし、対辺の中心に頂点を有する二等辺三角形を黒、残りの部分を白く色分けし、二等辺三角形の頂点に基準位置を設けた。
【0029】
このようなマーク2や水平マーク4を用いた場合、例えば、以下のような方法を用いることで上記したように測定精度を高くし得る。
【0030】
図6を参照すると、まず、走行画像20上や擬似床下画像30上においてマーク2や水平マーク4の周囲の画像を抽出する(同図(a)及び(b)参照)。抽出した画像のそれぞれのピクセルの輝度を求めた上で、任意の方向(x方向)の輝度の変化をグラフ化する(同図(c))。このとき、各ピクセルの輝度は、各ピクセルの中心におけるものとする。そして、その輝度とx方向の位置との関係をプロットして、その近似曲線を得る。
【0031】
そして、その近似曲線について2回微分を行って二次微分を得る。1回微分を行って得た一次微分は輝度の変化割合であり、二次微分が「0」となる点は輝度の変化割合の極大点又は極小点である。そして、この極大点又は極小点は、輝度の変化によって生じた「エッジ」であり、上記した塗分けの境目の位置、つまり三角形の辺の位置と推定される。このような点を複数抽出して結んだ直線は上記した三角形の辺となり、これらの直線の交点が三角形の頂点となるはずであるから、かかる交点を各マークの基準位置とし得る。上記した極大点又は極小点は、各ピクセル間を補完する近似曲線から得られるのでサブピクセルの精度を有する。つまり、各マークの基準位置もサブピクセル精度で位置を推定できる。よって、各マークの基準位置から定まる基準線Lや、これによって測定されるレールふく進量もサブピクセル精度で推定できる。つまり、レールふく進量を精度良く得ることができる。
【0032】
図7に示すように、実際にこのような方法でレールふく進量を求めたところ、23.8mm(同図(b))、8.5mm(同図(c))となった。このように、0.1mm単位の高い精度でレールふく進量を求めることも可能である。なお、この数値は、現地にて旧来の方法で測定した数値と概ね一致することも確認できた。
【0033】
以上、本発明の代表的な実施例及びこれに伴う変形例について述べたが、本発明は必ずしもこれに限定されるものではなく、適宜、当業者によって変更され得る。すなわち、当業者であれば、添付した特許請求の範囲を逸脱することなく、種々の代替実施例及び改変例を見出すことができるであろう。
【符号の説明】
【0034】
1 レール
2 マーク
3 ふく進杭
4 水平マーク
10 車両
12 カメラ
20 走行画像
30 擬似床下画像
L 基準線