(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023111388
(43)【公開日】2023-08-10
(54)【発明の名称】車両制御装置および車両制御プログラム
(51)【国際特許分類】
B60W 30/02 20120101AFI20230803BHJP
B60W 60/00 20200101ALI20230803BHJP
【FI】
B60W30/02
B60W60/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022013224
(22)【出願日】2022-01-31
(71)【出願人】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(71)【出願人】
【識別番号】519373914
【氏名又は名称】株式会社J-QuAD DYNAMICS
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(71)【出願人】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(71)【出願人】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】大森 陽介
【テーマコード(参考)】
3D241
【Fターム(参考)】
3D241BA18
3D241BC01
3D241BC02
3D241CC01
3D241CC08
3D241CC17
3D241CE04
3D241CE05
3D241DB01Z
3D241DB02Z
3D241DB05Z
3D241DB09Z
3D241DB12Z
3D241DB20Z
3D241DB24Z
3D241DB32Z
3D241DC25Z
3D241DC33Z
3D241DC35Z
3D241DC42Z
(57)【要約】
【課題】車両制御装置に関して、自動走行中の車両の挙動が不安定になることを抑制する。
【解決手段】制御装置10が適用される車両90は、各車輪に作用させる前後力を各別に調整することで横滑りを抑制する横滑り抑制機能を備えている。制御装置10は、運転支援装置20から入力される要求に基づいて車両90を制御することで車両90を自動的に走行させることができる。制御装置10は、車輪における横力の要求値として各輪横力要求値を、運転支援装置20から入力される要求に基づいて算出する車輪要求生成部13を備えている。車輪要求生成部13は、横滑り抑制機能が失陥している場合に車両90の挙動がオーバーステア状態であるとき、後輪に作用し得る横力の限界値を第1横力制限値として、前輪について、当該前輪における各輪横力要求値である前輪横力要求値を第1横力制限値以下の大きさに制限する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の走行を支援する運転支援装置と、前記車両の前後方向に作用させる力を示す前後力を発生させる駆動アクチュエータおよび制動アクチュエータと、前記車両における車輪の舵角であるタイヤ角を調整する転舵アクチュエータと、を有している車両に適用され、前記運転支援装置から入力される要求に基づいて前記車両を制御することで前記車両を自動的に走行させる車両制御装置であって、
前記車両のヨーレートを含む状態量を算出する状態量算出部と、
前記車輪における横力の要求値として各輪横力要求値を前記要求に基づいて算出する車輪要求生成部と、
前記転舵アクチュエータを制御する指示値を前記各輪横力要求値に基づいて出力する指示値生成部と、を備え、
前記車両は、各車輪に作用させる前後力を各別に調整することで前記車両の横滑りを抑制する横滑り抑制機能を備えるものであり、
前記車輪要求生成部は、
前記横滑り抑制機能が失陥している場合に前記車両の挙動がオーバーステア状態であることを前記状態量が示しているとき、
前記車輪のうち後輪に作用し得る横力の限界値として前記車両の走行中に算出する値を第1横力制限値として、前記車輪のうち前輪について、当該前輪における前記各輪横力要求値である前輪横力要求値を前記第1横力制限値以下の大きさに制限する
車両制御装置。
【請求項2】
前記要求に基づいて、前記車両における前後力の要求値として車両前後力要求値を算出する制御要求生成部を備え、
前記車輪要求生成部は、前記車両前後力要求値に基づいて各車輪に作用させる前後力の要求値を各輪前後力要求値としてそれぞれ算出するものであり、
前記指示値生成部は、前記駆動アクチュエータを制御する指示値、および、前記制動アクチュエータを制御する指示値を前記各輪前後力要求値に基づいて出力するものであり、
前記車輪要求生成部は、
前記横滑り抑制機能が失陥している場合に前記車両の挙動がオーバーステア状態であることを前記状態量が示しているとき、
前記車輪のうち前記後輪に作用し得る前後力の限界値として前記車両の走行中に算出する値を第1前後力制限値として、前記車輪のうち前記車両の旋回中心からみて外側に位置する後輪を旋回外後輪として、
前記旋回外後輪に作用させる前後力が前記第1前後力制限値以下の大きさになるように前記車両前後力要求値の大きさを減少させる
請求項1に記載の車両制御装置。
【請求項3】
前記車輪要求生成部は、
前記横滑り抑制機能が失陥している場合に前記車両の挙動がアンダーステア状態であることを前記状態量が示しているとき、
前記車輪のうち前記前輪に作用し得る前後力の限界値として前記車両の走行中に算出する値を第2前後力制限値として、前記車輪のうち前記車両の旋回中心からみて外側に位置する前輪を旋回外前輪として、
前記旋回外前輪に作用させる前後力が前記第2前後力制限値以下の大きさになるように前記車両前後力要求値の大きさを減少させる
請求項2に記載の車両制御装置。
【請求項4】
前記車輪要求生成部は、
前記横滑り抑制機能が失陥している場合に前記車両の挙動がアンダーステア状態であることを前記状態量が示しているとき、
前記車輪のうち前記前輪に作用し得る横力の限界値として前記車両の走行中に算出する値を第2横力制限値として、前記車輪のうち前記前輪について、当該前輪における前記各輪横力要求値である前輪横力要求値を前記第2横力制限値以下の大きさに制限する
請求項1~3のいずれか一項に記載の車両制御装置。
【請求項5】
前記車輪要求生成部は、
前記車両の挙動がオーバーステア状態またはアンダーステア状態であることを前記状態量が示している継続時間が規定の指定時間よりも長い場合には、前記継続時間が前記指定時間以下である場合よりも前記車両前後力要求値の大きさを減少させ、
前記運転支援装置からの前記要求が前記車両の制動および前記車両の旋回のいずれを優先とするものであるかに基づいて、前記制動が優先される場合には前記旋回が優先される場合よりも前記指定時間を長くする
請求項2または3に記載の車両制御装置。
【請求項6】
車両の走行を支援する運転支援装置と、前記車両の前後方向に作用させる力を示す前後力を発生させる駆動アクチュエータおよび制動アクチュエータと、前記車両における車輪の舵角であるタイヤ角を調整する転舵アクチュエータと、を有している車両であり、各車輪に作用させる前後力を各別に調整することで前記車両の横滑りを抑制する横滑り抑制機能を備える前記車両を制御対象として、前記運転支援装置が出力する要求に基づいて前記車両を制御する支援制御を前記車両の制御装置に実行させることで前記車両を自動的に走行させる車両制御プログラムであって、
前記車両のヨーレートを含む状態量を算出する状態量算出処理と、
前記車輪における横力の要求値として各輪横力要求値を前記要求に基づいて算出する車輪要求生成処理と、
前記転舵アクチュエータを制御する指示値を前記各輪横力要求値に基づいて出力する指示値生成処理と、を前記制御装置に実行させるように構成され、
前記車輪要求生成処理では、
前記横滑り抑制機能が失陥している場合に前記車両の挙動がオーバーステア状態であることを前記状態量が示しているとき、
前記車輪のうち後輪に作用し得る横力の限界値として前記車両の走行中に算出する値を第1横力制限値として、前記車輪のうち前輪について、当該前輪における前記各輪横力要求値である前輪横力要求値を前記第1横力制限値以下の大きさに制限する
車両制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動で走行される車両の車両制御装置および車両制御プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
車両を自動で走行させる運転支援装置が知られている。特許文献1には、自動走行されている車両の挙動が不安定な状態が継続することを抑制する制御装置が開示されている。特許文献1に開示されている制御装置は、不安定な状態の解消を図る挙動安定化制御を行うように構成されている。挙動安定化制御は、具体的には、車両の挙動がオーバーステア状態またはアンダーステア状態である場合に、旋回内外輪の間に制動力差を生じさせることによって車両にヨーモーメントを発生させる。さらに、上記の挙動安定化制御を行っても車両の挙動が不安定な場合には、車速を減少させる構成が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車速を減少させるために、車速を減少させる方向の力を車輪に作用させる際には、摩擦円の理論から次のことがいえる。車速を減少させる方向の力を大きくすることは、車輪をスリップさせることなく車輪に作用させることのできる横力が小さくなることを伴う。このため、車両の旋回中に車速を減少させる方向の力が大きくされている間は、車両を安定させるだけの横力を発生させることができないことがある。言い換えれば、車速を減少させる方向の力が大きくされている間は、車両の挙動が不安定な状態が解消されにくいという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するための車両制御装置は、車両の走行を支援する運転支援装置と、前記車両の前後方向に作用させる力を示す前後力を発生させる駆動アクチュエータおよび制動アクチュエータと、前記車両における車輪の舵角であるタイヤ角を調整する転舵アクチュエータと、を有している車両に適用され、前記運転支援装置から入力される要求に基づいて前記車両を制御することで前記車両を自動的に走行させる車両制御装置であって、前記車両のヨーレートを含む状態量を算出する状態量算出部と、前記車輪における横力の要求値として各輪横力要求値を前記要求に基づいて算出する車輪要求生成部と、前記転舵アクチュエータを制御する指示値を前記各輪横力要求値に基づいて出力する指示値生成部と、を備え、前記車両は、各車輪に作用させる前後力を各別に調整することで前記車両の横滑りを抑制する横滑り抑制機能を備えるものであり、前記車輪要求生成部は、前記横滑り抑制機能が失陥している場合に前記車両の挙動がオーバーステア状態であることを前記状態量が示しているとき、前記車輪のうち後輪に作用し得る横力の限界値として前記車両の走行中に算出する値を第1横力制限値として、前記車輪のうち前輪について、当該前輪における前記各輪横力要求値である前輪横力要求値を前記第1横力制限値以下の大きさに制限することをその要旨とする。
【0006】
上記構成によれば、横滑り抑制機能が失陥している場合に車両の挙動がオーバーステア状態であると、前輪横力要求値の大きさが制限される。この前輪横力要求値に基づいて前輪のタイヤ角が制御される。前輪横力要求値の大きさを制限する第1横力制限値は、走行中に後輪に作用し得る横力の限界値とされている。このため、オーバーステア状態である車両の前輪に作用する横力を、オーバーステア状態である車両の後輪を基準として制限することができる。このように制限された前輪横力要求値に従って前輪のタイヤ角が調整されることで、旋回中の車両における前輪の横力と後輪の横力との差を小さくすることができる。これによって、オーバーステア状態を抑制して、車両の挙動を安定させることができる。
【0007】
ところで、横滑り抑制機能によれば、オーバーステア状態を解消する方向のヨーモーメントを発生させることができる。上記構成では、こうした、オーバーステア状態を解消する方向のヨーモーメントを車両に作用させることを期待できない場合でも、オーバーステア状態を抑制して、車両の挙動を安定させることができる。
【0008】
上記課題を解決するための車両制御プログラムは、車両の走行を支援する運転支援装置と、前記車両の前後方向に作用させる力を示す前後力を発生させる駆動アクチュエータおよび制動アクチュエータと、前記車両における車輪の舵角であるタイヤ角を調整する転舵アクチュエータと、を有している車両であり、各車輪に作用させる前後力を各別に調整することで前記車両の横滑りを抑制する横滑り抑制機能を備える前記車両を制御対象として、前記運転支援装置が出力する要求に基づいて前記車両を制御する支援制御を前記車両の制御装置に実行させることで前記車両を自動的に走行させる車両制御プログラムであって、前記車両のヨーレートを含む状態量を算出する状態量算出処理と、前記車輪における横力の要求値として各輪横力要求値を前記要求に基づいて算出する車輪要求生成処理と、前記転舵アクチュエータを制御する指示値を前記各輪横力要求値に基づいて出力する指示値生成処理と、を前記制御装置に実行させるように構成され、前記車輪要求生成処理では、前記横滑り抑制機能が失陥している場合に前記車両の挙動がオーバーステア状態であることを前記状態量が示しているとき、前記車輪のうち後輪に作用し得る横力の限界値として前記車両の走行中に算出する値を第1横力制限値として、前記車輪のうち前輪について、当該前輪における前記各輪横力要求値である前輪横力要求値を前記第1横力制限値以下の大きさに制限することをその要旨とする。
【0009】
上記車両制御プログラムを制御装置に実行させることによって、上記車両制御装置と同様に、オーバーステア状態を抑制して、車両の挙動を安定させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、車両制御装置の一実施形態と、同車両制御装置の制御対象である車両と、を示すブロック図である。
【
図2】
図2は、同車両制御装置が車両を自動走行させる支援制御を行う際に実行する処理の流れを示すフローチャートである。
【
図3】
図3は、同車両制御装置が車輪要求を生成する際に実行する処理の流れを示すフローチャートである。
【
図4】
図4は、同車両制御装置が車両の挙動を判定するために用いる、前輪タイヤ角とヨーレートとの関係を示す図である。
【
図5】
図5は、同車両制御装置が車両の挙動を判定するために用いる、車両前後力のしきい値を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、車両制御装置の一実施形態である制御装置10について、
図1~
図5を参照して説明する。
図1は、制御装置10と、制御装置10が適用される車両90と、を示す。車両90は、車両90の走行を支援する運転支援装置20を備えている。制御装置10は、運転支援装置20から入力される要求に基づいて車両90を制御することで、車両90を自動的に走行させる支援制御を行うことができる。本実施形態では、支援制御は、車両90を前進させる制御として説明する。
【0012】
〈車両〉
車両90は、たとえば、車輪として二つの前輪と二つの後輪とを備えている四輪の車両である。
【0013】
図1に示すように、車両90は、車輪に駆動力を伝達する駆動システム30を備えている。駆動システム30は、駆動力を発生させる駆動アクチュエータを備えている。たとえば車両90は、駆動アクチュエータの一例として、モータジェネレータを備えている。モータジェネレータを電動機として機能させることによって、駆動力を発生させることができる。駆動アクチュエータは、内燃機関でもよい。駆動アクチュエータとしてモータジェネレータおよび内燃機関を採用してもよい。駆動アクチュエータの他の例としては、インホイールモータがある。
【0014】
たとえば駆動システム30は、全ての車輪に駆動力を伝達することができるように構成されている。駆動システム30は、車輪のうち前輪に駆動力を伝達することができるように構成されていてもよいし、車輪のうち後輪に駆動力を伝達することができるように構成されていてもよい。
【0015】
車両90は、車輪に制動力を付与する制動システム40を備えている。制動システム40は、制動力を発生させる制動アクチュエータを備えている。制動アクチュエータは、たとえば、摩擦制動装置および回生制動装置によって構成されている。
【0016】
摩擦制動装置としては、液圧制動装置がある。摩擦制動装置は、各車輪に対応した制動機構を備えている。制動機構は、車輪と一体回転する回転体と、回転体に対して押し付けることができる摩擦材と、液圧に応じて摩擦材を回転体に押し付けるホイールシリンダと、によって構成されている。制動機構の一例は、ディスクブレーキである。制動機構は、ドラムブレーキであってもよい。摩擦制動装置の他の例は、電動モータの駆動力を機械的に伝達して回転体に摩擦材を押し付ける電動制動装置である。
【0017】
回生制動装置の一例は、上記のモータジェネレータである。モータジェネレータを発電機として機能させることによって、車輪に回生制動力を作用させることができる。回生制動装置の他の例は、インホイールモータである。
【0018】
制動システム40が実施することのできる制御として、回生協調制御がある。回生協調制御は、回生制動装置による回生制動力と摩擦制動装置による摩擦制動力との協調によって、所望の制動力を車両90に作用させる制御である。
【0019】
なお、制動システム40が備える制動アクチュエータは、摩擦制動装置および回生制動装置によって構成されていることに限らない。摩擦制動装置のみによって制動アクチュエータが構成されていてもよいし、回生制動装置のみによって制動アクチュエータが構成されていてもよい。
【0020】
車両90は、車輪の舵角であるタイヤ角を調整することができる操舵システム50を備えている。操舵システム50は、車輪を転舵させる転舵アクチュエータを備えている。たとえば車両90は、転舵アクチュエータとして前輪転舵装置を備えている。前輪転舵装置は、車輪のうち前輪のタイヤ角を変更することのできる転舵装置である。
【0021】
車両90は、転舵アクチュエータとして、車輪のうち後輪のタイヤ角を変更することのできる後輪転舵装置を備えていてもよい。操舵システム50が前輪転舵装置および後輪転舵装置によって構成されている場合の車両90では、前輪のタイヤ角と後輪のタイヤ角とを各別に変更することができる。
【0022】
駆動システム30は、駆動システム30を統括する処理回路によって構成される駆動制御装置を備えていてもよい。制動システム40は、制動システム40を統括する処理回路によって構成される制動制御装置を備えていてもよい。操舵システム50は、操舵システム50を統括する処理回路によって構成される操舵制御装置を備えていてもよい。駆動制御装置、制動制御装置および操舵制御装置は、後述する指示値生成部14が生成した指示値を受信することができる。
【0023】
〈前後力〉
前後力について説明する。前後力は、車両90の前後方向に作用する力を示す。前後力は、値が正である場合には、車両90を加速させる方向の力を示す。一方で、前後力は、値が負である場合には、車両90を減速させる方向の力を示す。前後力は、値が「0」から離れているほど車両90に作用させる力が大きいことを示す。すなわち、前後力の大きさが大きいほど、車両90に作用させる力が大きいことを示す。駆動アクチュエータおよび制動アクチュエータは、前後力を発生させるアクチュエータである。駆動力と制動力との和が前後力に相当する。駆動アクチュエータと制動アクチュエータとを併せて前後力アクチュエータという。
【0024】
〈横力〉
横力について説明する。横力は、車両90の横方向に作用する力を示す。横力は、旋回中の車両90のタイヤ角に応じて各車輪に発生する。転舵アクチュエータは、横力を発生させるアクチュエータである。横力は、値が正である場合には、左方向の力を示す。一方で、横力は、値が負である場合には、右方向の力を示す。横力は、値が「0」から離れているほど車輪に作用させる力が大きいことを示す。すなわち、横力の大きさが大きいほど、車輪に作用させる力が大きいことを示す。
【0025】
〈車両挙動制御〉
車両90は、車両90の挙動を制御する機能を備えていてもよい。当該機能は、たとえば、駆動システム30、制動システム40および操舵システム50のうち少なくとも一つのシステムによって実施することができる。当該機能は、たとえば処理回路のメモリに記憶されているプログラムがCPUによって実行されることで実施される。当該機能の一例は、横滑り抑制機能である。その他、当該機能としては、アンチロックブレーキ制御、トラクション制御、電動パワーステアリング制御、後輪操舵制御およびダイレクトヨーモーメント制御等がある。
【0026】
横滑り抑制機能は、車両90を旋回させる際に車輪のスリップ量を低下させることによって、車両90の横滑りを抑制する機能である。具体的には、横滑り抑制機能では、駆動力および制動力の少なくとも一方の調整によって車輪に作用させる前後力を調整することを、各車輪について各別に実施する。たとえば、横滑り抑制機能では、前後力アクチュエータによって発生させる前後力を各車輪について各別に調整可能な機構が用いられる。こうした機構に異常が生じると、横滑り抑制機能が失陥することがある。
【0027】
アンチロックブレーキ制御は、車両90を制動する際に制動力の調整を介して車輪のスリップ量を低下させることによって、車輪のロックを抑制する制御である。トラクション制御は、車輪のうち駆動輪の加速スリップを抑制することによって、駆動輪の空転を抑制する制御である。
【0028】
電動パワーステアリング制御は、車両90の運転者による操舵操作部材の操作を補助するものである。後輪操舵制御は、後輪転舵装置を作動させることによって後輪のタイヤ角を調整するものである。ダイレクトヨーモーメント制御は、制動力および駆動力のうち少なくとも一方の制御によって左右の車輪で前後力に差を生じさせることで、車両90のヨーモーメントを制御するものである。
【0029】
〈情報取得装置〉
車両90は、情報取得装置80を備えていてもよい。
情報取得装置80は、車両90の周囲の情報を取得するための装置である。情報取得装置80は、車両90の周囲に位置する他の車両および障害物等に対する車両90との相対距離を取得することができる。情報取得装置80は、車両90が走行する道路の形状を取得したり、車線を認識したりすることもできる。情報取得装置80の一例は、カメラである。情報取得装置80の一例は、LiDAR及びミリ波レーダ等の検出装置である。
【0030】
情報取得装置80の他の例としては、測位衛星からの信号を受信するGNSS受信機がある。GNSS受信機が受信した信号に基づいて、車両90の現在位置を特定することができる。
【0031】
情報取得装置80は、上記装置のうち一つの装置によって構成されていてもよいし、二つ以上の装置を組み合わせて構成されていてもよい。情報取得装置80は、取得した情報を処理する処理回路を備えていてもよい。
【0032】
情報取得装置80は、取得した情報を制御装置10に出力することができる。情報取得装置80は、取得した情報を運転支援装置20に出力することもできる。
情報取得装置80は、必ずしも車両90に搭載されていなくてもよい。車両90の外部に設けられている情報取得装置80から信号を受信する装置を車両90が備えていれば、制御装置10および運転支援装置20は、車両90の周囲の情報を用いることができる。
【0033】
〈運転支援装置〉
運転支援装置20は、車両90を自動で運転させるための走行経路を設定することができる処理回路によって構成される。運転支援装置20は、たとえば、情報取得装置80によって得られる情報に基づいて走行経路を設定する。運転支援装置20は、走行経路に従って車両90を運転させるための要求を走行要求として出力することができる。
【0034】
走行要求は、たとえば、ヨーレートの目標値、前後加速度の目標値を含んでいる。走行要求は、車両90の目標位置、車速の目標値等を含んでいてもよい。走行要求は、車両90の制動および車両90の旋回のいずれを優先とするものであるかを示す優先度合を含んでいてもよい。たとえば、制動優先度50%であり、旋回優先度50%である場合には、制動および旋回のどちらを優先するものでもない。たとえば、制動優先度60%であり、旋回優先度40%である場合には、制動を優先としている。たとえば、制動優先度70%であり、旋回優先度30%である場合には、制動優先度60%の例と比較して制動をより優先している。
【0035】
〈各種センサ〉
車両90は、各種センサを備えている。
図1には、各種センサの一例として、ヨーレートセンサSE1、加速度センサSE2および車輪速センサSE3を示している。各種センサからの検出信号は、制御装置10に入力される。
【0036】
ヨーレートセンサSE1は、車両90のヨーレートを検出するセンサである。
加速度センサSE2は、車両90の前後方向における加速度を検出する前後加速度センサと、車両90の横方向における加速度を検出する横加速度センサと、によって構成されている。
【0037】
車輪速センサSE3は、車輪速度を検出するセンサである。車輪速センサSE3は、各車輪のそれぞれに設けられている。
〈制御装置〉
制御装置10は、駆動システム30、制動システム40および操舵システム50を制御対象とする処理回路によって構成される。制御装置10は、CPUとROMとを備えている。制御装置10のROMには、CPUが各種の制御を実行するための各種のプログラムが記憶されている。
【0038】
制御装置10は、駆動制御装置、制動制御装置および操舵制御装置と接続されている。制御装置10と駆動制御装置と制動制御装置と操舵制御装置との間では、情報を送受信することができる。
【0039】
制御装置10は、各種の制御を実行する複数の機能部によって構成されている。
図1には、機能部の一例として、状態量算出部11、制御要求生成部12、車輪要求生成部13および指示値生成部14を示している。制御装置10が備える各機能部は、互いに情報の送受信が可能である。
【0040】
〈状態量算出部〉
状態量算出部11は、車両状態量を算出する。
以下において、各種記号等の末尾に付された添字は、各種記号等が車両90の車輪のうちでいずれのものに対応するかを示す。具体的には、添字「fl」、「fr」、「rl」、「rr」は、順に左前輪、右前輪、左後輪、右後輪に対応している。また、添字「**」は、全ての車輪に対応するものの総称であることを示す。添字「f*」は、前輪に対応するものの総称である。添字「r*」は、後輪に対応するものの総称である。
【0041】
状態量算出部11が算出する車両状態量について例示する。
状態量算出部11は、ヨーレートセンサSE1からの検出信号に基づいてヨーレートγを算出することができる。
【0042】
状態量算出部11は、加速度センサSE2からの検出信号に基づいて前後加速度Gxおよび横加速度Gyを算出することができる。
状態量算出部11は、車輪速センサSE3からの検出信号に基づいて、各車輪の車輪速度Vw**を算出することができる。状態量算出部11は、各車輪速度Vw**に基づいて車体速度Vxを算出することができる。車体速度Vxは、車両90の走行速度を示す。
【0043】
状態量算出部11は、各車輪に作用する前後力および横力をそれぞれ算出することもできる。横力は、たとえば、車両90の重量m、車両90の重心高さ、横加速度Gy等に基づいて、全ての車輪に作用する横力の合計を算出できる。状態量算出部11は、各車輪に対する配分比率を考慮して、横力の合計値から各車輪に作用する横力を算出できる。
【0044】
状態量算出部11は、各車輪の路面摩擦係数μ**を算出することができる。路面摩擦係数μ**は、たとえば、横加速度Gyに基づいて算出することができる。
状態量算出部11は、各車輪の接地荷重w**を算出することができる。接地荷重w**は、たとえば、車両90の重量m、前後加速度Gx、横加速度Gy等に基づいて算出することができる。
【0045】
〈要求生成部〉
制御要求生成部12は、運転支援装置20から入力される要求に基づいて、車両90に対する車両要求を生成する。制御要求生成部12は、たとえば、車両90における前後力の要求値として車両前後力要求値Fxを算出する。制御要求生成部12は、たとえば、車両90に対するモーメントの要求値として要求モーメントMzを算出する。要求モーメントMzは、ヨー慣性モーメントと、ヨーレートの時間微分値と、の積によって表すことができる。制御要求生成部12は、車両90における横力の要求値として車両横力要求値Fyを算出することもできる。
【0046】
車輪要求生成部13は、車輪要求生成処理を実行する。車輪要求生成処理では、車両要求に基づいて、各車輪に対する車輪要求が生成される。たとえば、車輪要求生成部13は、車両前後力要求値Fxを各車輪に配分することによって、各車輪に作用させる前後力の要求値を各輪前後力要求値Fx**としてそれぞれ算出する。車輪要求生成部13は、要求モーメントMzを各車輪に配分することによって、各車輪に作用させる横力の要求値を各輪横力要求値Fy**としてそれぞれ算出する。各輪横力要求値Fy**は、車両横力要求値Fyに基づいて算出することもできる。また、詳細は後述するが、車輪要求生成部13は、車輪要求を生成する際に車両要求に対して補正を行うこともできる。
【0047】
〈指示値生成部〉
指示値生成部14は、アクチュエータを作動させるための指示値を、車輪要求に基づいて生成する。具体的には、指示値生成部14は、各輪前後力要求値Fx**に基づいて、駆動アクチュエータを制御する指示値、および、制動アクチュエータを制御する指示値を算出する。指示値生成部14は、各輪横力要求値Fy**に基づいて、転舵アクチュエータを制御する指示値を算出する。
【0048】
指示値生成部14は、算出した各指示値を出力することができる。各指示値は、駆動システム30、制動システム40および操舵システム50のうち対応するシステムに入力される。駆動システム30、制動システム40および操舵システム50は、各指示値に基づいて、それぞれのアクチュエータを作動させる。たとえば、指示値を受信した制動システム40では、指示値に従って制動制御装置が制動アクチュエータを作動させる。
【0049】
〈指示値生成処理〉
制御装置10は、車両90の支援制御を行うための指示値生成処理を実行する。以下、
図2および
図3を用いてこの処理について説明する。制御装置10が備えるROMには、
図2および
図3に示す処理を実行するためのプログラムである車両制御プログラムが記憶されている。
図2および
図3に示す処理は、ROMに記憶された車両制御プログラムをCPUが実行することによって実現される。
【0050】
図2は、制御装置10が実行する処理の流れを示す。本処理ルーチンは、支援制御の実行中に所定の周期毎に繰り返し実行される。
本処理ルーチンが開始されると、まずステップS101では、制御装置10は、運転支援装置20が出力する走行要求を取得する。たとえば、制御装置10は、ヨーレートの目標値、前後加速度の目標値および優先度合を取得する。その後、制御装置10は、処理をステップS102に移行する。
【0051】
ステップS102では、制御装置10は、状態量算出部11に車両状態量を算出させる。その後、制御装置10は、処理をステップS103に移行する。
ステップS103では、制御装置10は、制御要求生成部12に車両要求を生成させる。たとえば、制御要求生成部12は、車両前後力要求値Fxおよび要求モーメントMzを算出する。その後、制御装置10は、処理をステップS104に移行する。
【0052】
ステップS104では、制御装置10は、車輪要求生成部13に車輪要求生成処理を実行させることで車輪要求を生成させる。車輪要求生成部13は、各輪前後力要求値Fx**および各輪横力要求値Fy**を算出する。車輪要求生成処理の詳細は後述する。その後、制御装置10は、処理をステップS105に移行する。
【0053】
ステップS105では、制御装置10は、指示値生成部14に指示値を生成させる。指示値を生成すると、指示値生成部14は、各システムの処理回路に指示値を出力する。この結果として、各システムでは、指示値に従ってアクチュエータが作動される。こうして、走行要求に従って車両90が走行される。指示値生成部14に指示値を生成させると、制御装置10は、本処理ルーチンを終了する。
【0054】
〈車輪要求生成処理〉
図3は、車輪要求生成部13が実行する処理の流れを示す。本処理ルーチンは、
図2に示すステップS104の処理によって実行される。
【0055】
本処理ルーチンが開始されると、まずステップS201では、車輪要求生成部13は、各輪横力要求値Fy**を算出する。たとえば、車輪要求生成部13は、要求モーメントMzを各車輪に配分することによって、各輪横力要求値Fy**を算出する。配分比率の一例は、規定の値である。配分比率は、電動パワーステアリング制御、後輪操舵制御およびダイレクトヨーモーメント制御等の各車輪の横力に関する制御の実行状態によって変更してもよい。車輪要求生成部13は、各輪横力要求値Fy**を算出すると、処理をステップS202に移行する。
【0056】
ステップS202では、車輪要求生成部13は、各輪前後力要求値Fx**を算出する。たとえば、車輪要求生成部13は、車両前後力要求値Fxを各車輪に配分することによって、各輪前後力要求値Fx**を算出する。配分比率の一例は、規定の値である。配分比率は、横滑り抑制機能等の各車輪の前後力に関する制御の実行状態によって変更してもよい。ここで、たとえば横滑り抑制機能が失陥している場合には、上記配分比率は、規定の値になる。車輪要求生成部13は、各輪前後力要求値Fx**を算出すると、処理をステップS203に移行する。
【0057】
ステップS203、およびステップS203に続くステップS204では、車輪要求生成部13は、車両90の挙動に関する情報を取得する。
ステップS203では、たとえば、車輪要求生成部13は、車両90の挙動がオーバーステア状態であるか否か、および、アンダーステア状態であるか否か、を車両90の状態量に基づいて判定する。以下では、オーバーステア状態のことをOS状態ということもある。アンダーステア状態のことをUS状態ということもある。
【0058】
図4を用いて、OS状態にあるか否かおよびUS状態にあるか否かを判定する方法の一例を説明する。
図4に示す実線は、車両90の挙動が安定している場合の前輪タイヤ角δfとヨーレートγとの関係を示している。
図4に示す一点鎖線は、OSしきい値OSthを示している。OSしきい値OSthは、
図4に示す実線をオフセットしたものである。OSしきい値OSthは、実線で示す関係に比して前輪タイヤ角δfに対応するヨーレートγの値が大きくなるようにされている。
図4に示す二点鎖線は、USしきい値USthを示している。USしきい値USthは、
図4に示す実線をオフセットしたものである。USしきい値USthは、実線で示す関係に比して前輪タイヤ角δfに対応するヨーレートγの値が小さくなるようにされている。実線、一点鎖線および二点鎖線で示す各関係は、予め実験等によって定められている。実線の例に対する一点鎖線で示すOSしきい値OSthの関係は、走行中の車両90の状態に応じて変更してもよい。たとえば、走行要求に含まれる優先度合に応じて変更することが考えられる。同様に、実線の例に対する二点鎖線で示すUSしきい値USthの関係について変更してもよい。
【0059】
図4に例示するような関係を示す演算マップが、たとえば制御装置10に記憶されている。車輪要求生成部13は、当該演算マップに基づいて、算出された前輪タイヤ角δfに対してヨーレートγがOSしきい値OSthよりも大きい場合には、OS状態にあると判定する。換言すれば、前輪タイヤ角δfに対してヨーレートγがOSしきい値OSthよりも大きい場合には、車両90の挙動がOS状態であることを車両状態量が示している。車輪要求生成部13は、当該演算マップに基づいて、算出された前輪タイヤ角δfに対してヨーレートγがUSしきい値USthよりも小さい場合には、US状態にあると判定する。換言すれば、前輪タイヤ角δfに対してヨーレートγがUSしきい値USthよりも小さい場合には、車両90の挙動がUS状態であることを車両状態量が示している。
【0060】
なお、仮に横滑り抑制機能が作動していると、OS状態またはUS状態のような挙動が抑制される方向に車両90が制御される。このため、前輪タイヤ角δfに対するヨーレートγが上記OSしきい値OSthまたはUSしきい値USthを超えるような場合には、横滑り抑制機能が失陥していることがある。
図4に例示するような関係を示す演算マップによれば、横滑り抑制機能が失陥しているか否かを判定することができる。
【0061】
図3に戻り、車輪要求生成部13は、ステップS203の処理を実行すると、処理をステップS204に移行する。ステップS204では、車輪要求生成部13は、車輪のスリップ状態を取得する。たとえば、車輪要求生成部13は、車輪が大スリップ状態であるか否かを判定する。大スリップ状態とは、車輪のスリップ量が過大な状態である。
【0062】
図5を用いて、大スリップ状態であるか否かを判定する方法の一例を説明する。
図5に示す実線は、車両前後力要求値Fxの時間推移を示す一例である。
図5に示す一点鎖線は、大スリップしきい値SLthを示す。大スリップしきい値SLthは、実線を時間が経過する方向にオフセットしたものである。当該オフセット量は、予め実験等によって算出するとよい。当該オフセット量は、走行中の車両90の状態に応じて変更してもよい。たとえば、走行要求に含まれる優先度合に応じて変更することが考えられる。
図5に示す破線は、車両90の実際の前後加速度Gxから推定した車両前後力を例示したものである。
図5に示す例では、破線は、時間の経過に伴って、実線で示す車両前後力要求値Fxに対して車両前後力が小さくなる方向に乖離が進んでいる。車輪要求生成部13は、破線で示すような推定した車両前後力が大スリップしきい値SLthよりも小さくなると、大スリップ状態にあると判定することができる。言い換えれば、車輪要求生成部13は、実際の前後加速度Gxから推定した車両前後力が車両前後力要求値Fxから大きく乖離すると、大スリップ状態にあると判定することができる。
【0063】
図3に戻り、ステップS203およびステップS204において、車両90の挙動に関する情報を取得すると、車輪要求生成部13は、処理をステップS205に移行する。
ステップS205では、車輪要求生成部13は、車両90の挙動がOS状態である場合には(S205:YES)、処理をステップS206に移行する。
【0064】
ステップS206では、車輪要求生成部13は、後輪横力限界値に基づいて、前輪横力要求値Fyf*を制限する。一例として、車輪要求生成部13は、前輪横力要求値Fyf*を第1横力制限値Ly1以下の大きさに制限する。第1横力制限値Ly1は、たとえば以下のように算出することができる。
【0065】
まず、後輪横力限界値について説明する。後輪横力限界値は、後輪に作用し得る横力の限界値である。各車輪に関して、前後力の限界値および横力の限界値は、摩擦円の方程式に基づいて算出することができる。摩擦円の大きさは、路面摩擦係数μ**と接地荷重w**との積によって定まる。各輪前後力限界値は、前後力と横力との合力が摩擦円を超えない範囲における前後力の大きさの最大値に相当する。各輪横力限界値は、前後力と横力との合力が摩擦円を超えない範囲における横力の大きさの最大値に相当する。各輪前後力限界値は、下記の関係式(式1)として表すことができる。各輪横力限界値は、下記の関係式(式2)として表すことができる。
【0066】
【0067】
たとえば、左前輪前後力限界値|Fxfllim|は、上記の関係式(式1)に基づいて、路面摩擦係数μflと、接地荷重wflと、左前輪横力要求値Fyflとを用いて算出することができる。
【0068】
車輪要求生成部13は、下記の関係式(式3)から後輪横力限界値|Fyr*lim|に基づいて第1横力制限値Ly1を算出することができる。
【0069】
【0070】
上記の関係式(式3)における後輪横力限界値|Fyr*lim|は、上記の関係式(式2)に基づいて算出することができる。上記の関係式(式3)において、「lf」は、前軸ホイールベースを示す。前軸ホイールベースは、車両90の前後方向における車両重心と前輪が取り付けられている車軸との間の水平距離である。「lr」は、後軸ホイールベースを示す。後軸ホイールベースは、車両90の前後方向における車両重心と後輪が取り付けられている車軸との間の水平距離である。前軸ホイールベースと後軸ホイールベースとの和は、車両90のホイールベースに相当する。
【0071】
すなわち、ステップS206では、車輪要求生成部13は、後輪横力限界値|Fyr*lim|を算出して、後輪横力限界値|Fyr*lim|に基づいて第1横力制限値Ly1を算出する。そして、車輪要求生成部13は、ステップS201において算出した前輪横力要求値Fyf*の大きさが第1横力制限値Ly1よりも大きい場合には、前輪横力要求値Fyf*を補正する。すなわち、この場合に車輪要求生成部13は、前輪横力要求値Fyf*の大きさが第1横力制限値Ly1以下になるように前輪横力要求値Fyf*を補正する。補正後の前輪横力要求値Fyf*の一例は、第1横力制限値Ly1と等しい値である。この結果として、前輪横力要求値Fyf*から算出される指示値に従って前輪のタイヤ角が調整される。車輪要求生成部13は、前輪横力要求値Fyf*を制限すると、処理をステップS207に移行する。
【0072】
ステップS207では、車輪要求生成部13は、旋回外後輪の前後力を制限するように車両前後力要求値Fxを制限する。ここで、旋回外後輪とは、旋回している車両90の旋回中心からみて外側に位置する後輪に対応する。たとえば、前進している車両90が時計回りに旋回している場合には、左後輪が旋回外後輪である。
【0073】
一例として、車輪要求生成部13は、旋回外後輪に作用させる前後力が第1前後力制限値Lx1以下の大きさになるように車両前後力要求値Fxの大きさを減少させる。車輪要求生成部13は、下記の関係式(式5)として表すように、後輪前後力限界値|Fxr*lim|を第1前後力制限値Lx1として設定する。
【0074】
【0075】
すなわち、ステップS207では、車輪要求生成部13は、後輪前後力限界値|Fxr*lim|を算出して、後輪前後力限界値|Fxr*lim|を第1前後力制限値Lx1に設定する。そして、車輪要求生成部13は、ステップS202の処理で説明した各車輪に対しての配分比率を考慮して、旋回外後輪前後力要求値が第1前後力制限値Lx1以下の値として算出されるように、車両前後力要求値Fxの大きさを減少させる。たとえば、旋回外後輪前後力要求値の大きさが第1前後力制限値Lx1よりも大きくなる場合には、当該旋回外後輪前後力要求値の大きさが第1前後力制限値Lx1以下になるように車両前後力要求値Fxの大きさを減少させる。たとえば、旋回外後輪前後力要求値の大きさが第1前後力制限値Lx1と等しくなるように車両前後力要求値Fxの大きさを減少させる。なお、ここで車輪要求生成部13は、車両前後力要求値Fxの正負を維持して大きさを減少させる。
【0076】
ステップS207において車両前後力要求値Fxを制限すると、車輪要求生成部13は、処理をステップS213に移行する。
一方、ステップS205の処理において車両90の挙動がOS状態ではない場合には(S205:NO)、車輪要求生成部13は、処理をステップS208に移行する。車輪要求生成部13は、車両90の挙動がUS状態である場合には(S208:YES)、処理をステップS209に移行する。
【0077】
ステップS209では、車輪要求生成部13は、前輪横力限界値|Fyf*lim|に基づいて、前輪横力要求値Fyf*を制限する。一例として、車輪要求生成部13は、前輪横力要求値Fyf*を第2横力制限値Ly2以下の大きさに制限する。前輪横力限界値|Fyf*lim|は、上記の関係式(式2)として表すことができる。車輪要求生成部13は、上記の関係式(式4)として表すように、前輪横力限界値|Fyf*lim|を第2横力制限値Ly2として設定する。
【0078】
すなわち、ステップS209では、車輪要求生成部13は、前輪横力限界値|Fyf*lim|を算出して、前輪横力限界値|Fyf*lim|を第2横力制限値Ly2に設定する。そして、車輪要求生成部13は、ステップS201において算出した前輪横力要求値Fyf*の大きさが第2横力制限値Ly2よりも大きい場合には、前輪横力要求値Fyf*を補正する。すなわち、この場合に車輪要求生成部13は、前輪横力要求値Fyf*の大きさが第2横力制限値Ly2以下になるように前輪横力要求値Fyf*を補正する。補正後の前輪横力要求値Fyf*の一例は、第2横力制限値Ly2と等しい値である。この結果として、前輪横力要求値Fyf*から算出される指示値に従って前輪のタイヤ角が調整される。車輪要求生成部13は、前輪横力要求値Fyf*を制限すると、処理をステップS210に移行する。
【0079】
ステップS210では、車輪要求生成部13は、旋回外前輪の前後力を制限するように車両前後力要求値Fxを制限する。ここで、旋回外前輪とは、旋回している車両90の旋回中心からみて外側に位置する前輪に対応する。たとえば、前進している車両90が時計回りに旋回している場合には、左前輪が旋回外前輪である。
【0080】
一例として、車輪要求生成部13は、旋回外前輪に作用させる前後力が第2前後力制限値Lx2以下の大きさになるように車両前後力要求値Fxの大きさを減少させる。車輪要求生成部13は、上記の関係式(式6)として表すように、前輪前後力限界値|Fxf*lim|を第2前後力制限値Lx2として設定する。
【0081】
すなわち、ステップS210では、車輪要求生成部13は、前輪前後力限界値|Fxf*lim|を算出して、前輪前後力限界値|Fxf*lim|を第2前後力制限値Lx2に設定する。そして、車輪要求生成部13は、ステップS202の処理で説明した各車輪に対しての配分比率を考慮して、旋回外前輪前後力要求値が第2前後力制限値Lx2以下の値として算出されるように、車両前後力要求値Fxの大きさを減少させる。たとえば、旋回外前輪前後力要求値の大きさが第2前後力制限値Lx2よりも大きくなる場合には、当該旋回外前輪前後力要求値の大きさが第2前後力制限値Lx2以下になるように車両前後力要求値Fxの大きさを減少させる。たとえば、旋回外前輪前後力要求値の大きさが第2前後力制限値Lx2と等しくなるように車両前後力要求値Fxの大きさを減少させる。なお、ここで車輪要求生成部13は、車両前後力要求値Fxの正負を維持して大きさを減少させる。
【0082】
ステップS210において車両前後力要求値Fxを制限すると、車輪要求生成部13は、処理をステップS213に移行する。
一方、ステップS208の処理において車両90の挙動がUS状態ではない場合には(S208:NO)、車輪要求生成部13は、処理をステップS211に移行する。車輪要求生成部13は、車両90の挙動が大スリップ状態ではない場合には(S211:NO)、本処理ルーチンを終了する。車輪要求生成部13は、車両90の挙動が大スリップ状態である場合には(S211:YES)、処理をステップS212に移行する。
【0083】
ステップS212では、車輪要求生成部13は、各輪前後力制限値に基づいて車両前後力要求値Fxを制限する。一例として、車輪要求生成部13は、各輪前後力要求値Fx**が第3前後力制限値Lx3以下の大きさになるように車両前後力要求値Fxを制限する。車輪要求生成部13は、上記の関係式(式7)として表すように、第3前後力制限値Lx3を設定する。関係式(式7)における「min」は、引数のうち、いずれか小さい値を戻り値とする関数である。すなわち、各輪前後力限界値|Fx**lim|のうち最小の値が第3前後力制限値Lx3である。
【0084】
すなわち、ステップS212では、車輪要求生成部13は、各輪前後力限界値|Fx**lim|を算出して、各輪前後力限界値|Fx**lim|のうち最小の値を第3前後力制限値Lx3に設定する。そして、車輪要求生成部13は、各輪前後力要求値Fx**の全てが第3前後力制限値Lx3以下になるように車両前後力要求値Fxの大きさを減少させる。たとえば、各輪前後力要求値Fx**のうち最大の要求値の大きさが第3前後力制限値Lx3と等しくなるように車両前後力要求値Fxの大きさを減少させる。なお、ここで車輪要求生成部13は、車両前後力要求値Fxの正負を維持して大きさを減少させる。
【0085】
ステップS212において車両前後力要求値Fxを制限すると、車輪要求生成部13は、処理をステップS213に移行する。
ステップS213では、車輪要求生成部13は、継続時間Tのカウントを進める。たとえば、ステップS207から処理が移行された場合には、車輪要求生成部13は、OS状態が継続している時間として継続時間Tをカウントする。OS状態が解消されると、車輪要求生成部13は、継続時間Tを初期化して「0」にする。たとえば、ステップS210から処理が移行された場合には、車輪要求生成部13は、US状態が継続している時間として継続時間Tをカウントする。US状態が解消されると、車輪要求生成部13は、継続時間Tを初期化して「0」にする。たとえば、ステップS212から処理が移行された場合には、車輪要求生成部13は、大スリップ状態が継続している時間として継続時間Tをカウントする。大スリップ状態が解消されると、車輪要求生成部13は、継続時間Tを初期化して「0」にする。車輪要求生成部13は、継続時間Tのカウントを進めると、処理をステップS214に移行する。
【0086】
ステップS214では、車輪要求生成部13は、継続時間Tが指定時間Tthよりも長いか否かを判定する。継続時間Tが指定時間Tth以下である場合には(S214:NO)、車輪要求生成部13は、本処理ルーチンを終了する。一方、継続時間Tが指定時間Tthよりも長い場合には(S214:YES)、車輪要求生成部13は、処理をステップS215に移行する。
【0087】
指定時間Tthについて説明する。指定時間Tthは、OS状態、US状態または大スリップ状態が解消されることなく継続している時間が長いか否かを判定するためのしきい値である。たとえば、指定時間Tthは、予め実験等によって算出されている値が初期値として設定されている。車輪要求生成部13は、指定時間Tthを増減させることができる。たとえば、車輪要求生成部13は、運転支援装置20から入力される走行要求に含まれる優先度合が車両90の制動および車両90の旋回のいずれを優先とするものであるかに基づいて、指定時間Tthを増減させることができる。一例として、車輪要求生成部13は、制動が優先される場合には旋回が優先される場合よりも指定時間Tthを長くする。指定時間Tthを長くする場合に加算する量は、制動優先度の高さに応じて変更してもよい。たとえば、制動優先度70%の場合には、制動優先度60%の場合と比較して指定時間Tthをより長くしてもよい。
【0088】
ステップS215では、車輪要求生成部13は、車両前後力要求値Fxの大きさをさらに減少させる。すなわち、車輪要求生成部13は、継続時間Tが指定時間Tthよりも長い場合には、継続時間Tが指定時間Tth以下である場合よりも車両前後力要求値Fxの大きさを減少させる。その後、車輪要求生成部13は、本処理ルーチンを終了する。
【0089】
本実施形態では、制御装置10は、上記ステップS207、S210、S211およびS215において大きさが減少される車両前後力要求値Fxを前後力に反映する処理について、次のように実施する。ここでは、制動アクチュエータが発生させる制動力を減少させることによって、車両前後力要求値Fxの大きさの減少による前後力の調整を実現する。なお、車両要求である車両前後力要求値Fxの大きさを減少させるものであるため、各車輪に付与する制動力の合計を減少させることになる。このように制動力を減少させる方法としては、車輪の全てを対象として制動力を減少させることが挙げられる。具体的には、回生協調制御を実施することによって、車両90に付与される制動力を減少させることが挙げられる。
【0090】
〈作用および効果〉
本実施形態の作用および効果について説明する。
制御装置10によれば、横滑り抑制機能が失陥している場合に車両90の挙動がOS状態であることを車両状態量が示しているときには(S205:YES)、前輪横力要求値Fyf*の大きさが制限される(S206)。この前輪横力要求値Fyf*に基づいて前輪のタイヤ角が制御される。前輪横力要求値Fyf*の大きさを制限する第1横力制限値Ly1は、走行中に後輪に作用し得る横力の限界値とされている。このため、OS状態である車両90の前輪に作用する横力を、OS状態である車両90の後輪を基準として制限することができる。このように制限された前輪横力要求値Fyf*に従って前輪のタイヤ角が調整されることで、旋回中の車両90における前輪の横力と後輪の横力との差を小さくすることができる。これによって、OS状態を抑制して、車両90の挙動を安定させることができる。
【0091】
制御装置10によれば、横滑り抑制機能が失陥している場合に車両90の挙動がOS状態であることを車両状態量が示しているときには(S205:YES)、車両前後力要求値Fxの大きさが制限される(S207)。具体的には、旋回外後輪に作用させる前後力が第1前後力制限値Lx1以下、すなわち後輪に作用し得る前後力の限界値以下に制限される。この結果として、OS状態である車両90について、摩擦円を超えない範囲で旋回外後輪に前後力を作用させることによって旋回外後輪のグリップ力を確保することができる。これによって、OS状態を抑制して車両90の挙動を安定させることができる。
【0092】
制御装置10によれば、横滑り抑制機能が失陥している場合に車両90の挙動がUS状態であることを車両状態量が示しているときには(S208:YES)、車両前後力要求値Fxの大きさが制限される(S210)。具体的には、旋回外前輪に作用させる前後力が第2前後力制限値Lx2以下、すなわち前輪に作用し得る前後力の限界値以下に制限される。この結果として、US状態である車両90について、摩擦円を超えない範囲で旋回外前輪に前後力を作用させることによって旋回外前輪のグリップ力を確保することができる。これによって、US状態を抑制して車両90の挙動を安定させることができる。
【0093】
制御装置10によれば、横滑り抑制機能が失陥している場合に車両90の挙動がUS状態であることを車両状態量が示しているときには(S208:YES)、前輪横力要求値Fyf*の大きさが制限される(S209)。この前輪横力要求値Fyf*に基づいて前輪のタイヤ角が制御される。前輪横力要求値Fyf*の大きさを制限する第2横力制限値Ly2は、走行中に前輪に作用し得る横力の限界値とされている。この結果として、摩擦円を超えない範囲で大きな横力を前輪に作用させることによって、前輪のグリップ力を確保することができる。これによって、US状態を抑制して車両90の挙動を安定させることができる。
【0094】
制御装置10によれば、走行要求に含まれる優先度合に基づいて、制動が優先される場合には旋回が優先される場合よりも指定時間Tthが長くされる。この結果として、継続時間Tがより長くならない限りは、ステップS215の処理が実行されない。すなわち、継続時間Tがより長くならない限りは、車両前後力要求値Fxの大きさが減少されない。換言すれば、制動が優先される場合には旋回が優先される場合に比して、車両前後力要求値Fxの大きさが減少されにくい。これによって、制動が優先される場合には、より大きな制動力が付与されている期間を長くすることができる。
【0095】
制御装置10によれば、横滑り抑制機能が失陥している場合に車両90の挙動が大スリップ状態であることを車両状態量が示しているときには(S211:YES)、車両前後力要求値Fxの大きさが制限される(S212)。具体的には、各車輪に作用させる前後力が第3前後力制限値Lx3以下、すなわち各輪前後力限界値|Fx**lim|のうち最小の値以下に制限される。この結果として、大スリップ状態である車両90について、摩擦円を超えない範囲で各車輪に前後力を作用させることができる。これによって、大スリップ状態を抑制して車両90の挙動を安定させることができる。
【0096】
ところで、横滑り抑制機能によれば、OS状態、US状態および大スリップ状態等の車両90の挙動が不安定である状態を解消する方向のヨーモーメントを発生させることができる。制御装置10によれば、こうした、車両90の挙動が不安定である状態を解消する方向のヨーモーメントを車両90に作用させることを期待できない場合でも、不安定な挙動を抑制して、車両90の挙動を安定させることができる。
【0097】
(変更例)
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態および以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0098】
・上記実施形態では、車両前後力要求値Fxの大きさを減少させた場合に、車両前後力要求値Fxを前後力に反映する処理として、制動アクチュエータが発生させる制動力の減少を実施した。これに限らず、前後力アクチュエータを制御して前後力の大きさを減少させることができればよい。たとえば、前後力が「0」に近づくように駆動アクチュエータが発生させる駆動力を大きくしてもよい。
【0099】
・上記実施形態における
図3に例示したステップS213~S215の処理は、省略してもよい。
・上記実施形態における
図3に例示したステップS211およびS212の処理は、省略してもよい。この場合には、ステップS208の処理において否定判定がなされた場合に処理ルーチンを終了するとよい。
【0100】
・上記実施形態では、OS状態である場合には、ステップS206およびS207の処理を実行するように構成した。OS状態である場合には、後輪横力限界値に基づいて前輪横力要求値Fyf*を制限する処理を少なくとも実行すればよい。すなわち、ステップS207の処理は、省略することもできる。こうした場合でも、OS状態を抑制して車両90の挙動を安定させることができる。
【0101】
・上記実施形態では、US状態である場合には、ステップS209およびS210の処理を実行するように構成した。US状態である場合には、たとえば、旋回外前輪の前後力を制限するように車両前後力要求値Fxを制限する処理を少なくとも実行すれば、車両90の挙動を安定させることができる。すなわち、ステップS209の処理は、省略することもできる。またたとえば、前輪横力限界値に基づいて前輪横力要求値Fyf*を制限する処理を少なくとも実行すれば、車両90の挙動を安定させることができる。すなわち、ステップS210の処理を、省略することもできる。
【0102】
・上記実施形態では、車両90を前進させる場合について説明した。すなわち上記実施形態において、「前輪」は、車両90の進行方向に対して前側に位置する車輪である。このように進行方向に対して前側に位置する車輪を「第1車輪」とする。また、上記実施形態において、「後輪」は、車両90の進行方向に対して後側に位置する車輪である。このように進行方向に対して後側に位置する車輪を「第2車輪」とする。上記実施形態における「前輪」を対象とする制御は、「第1車輪」を対象とする制御と言い換えることができる。上記実施形態における「後輪」を対象とする制御は、「第2車輪」を対象とする制御と言い換えることができる。
【0103】
ここで、車両90を後進させる場合について考える。この場合には、車両90の進行方向に対して前側に位置する車輪は、車両90の後方に取り付けられている車輪、すなわち「後輪」である。すなわち、「後輪」が「第1車輪」に対応する。また同様に、車両90の進行方向に対して後側に位置する車輪は、車両90の前方に取り付けられている車輪、すなわち「前輪」である。すなわち、「前輪」が「第2車輪」に対応する。
【0104】
すなわち、車両90を後進させる場合に上記実施形態における支援制御を適用する際であっても、「第1車輪」を対象とする制御と「第2車輪」を対象とする制御とを行うことによって、車両90を前進させる場合と同様の効果を奏することができる。
【0105】
・処理回路である制御装置10、駆動制御装置、制動制御装置、操舵制御装置および運転支援装置20は、以下[a]~[c]のいずれかの構成であればよい。[a]コンピュータプログラムに従って各種処理を実行する一つ以上のプロセッサを備える回路。プロセッサは、処理装置を備える。処理装置の例は、CPU、DSPおよびGPU等である。プロセッサは、メモリを備える。メモリの例は、RAM、ROMおよびフラッシュメモリ等である。メモリは、処理を処理装置に実行させるように構成されたプログラムコードまたは指令を格納している。メモリすなわちコンピュータ可読媒体は、汎用または専用のコンピュータでアクセスできるあらゆる利用可能な媒体を含む。[b]各種処理を実行する一つ以上のハードウェア回路を備える回路。ハードウェア回路の例は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、CPLD(Complex Programmable Logic Device)およびFPGA(Field Programmable Gate Array)等である。[c]各種処理の一部をコンピュータプログラムに従って実行するプロセッサと、各種処理のうち残りの処理を実行するハードウェア回路と、を備える回路。
【0106】
・駆動制御装置、制動制御装置、操舵制御装置および運転支援装置20における処理回路が実現する機能の一部または全部は、制御装置10によって実現されてもよい。
・制御装置10が実現する機能の一部は、制御装置10と接続されている他の処理回路によって実現されてもよい。
【0107】
(技術的思想)
上記実施形態および変更例から把握できる技術的思想について記載する。
[A]車両の走行を支援する運転支援装置と、前記車両の前後方向に作用させる力を示す前後力を発生させる駆動アクチュエータおよび制動アクチュエータと、前記車両における車輪の舵角であるタイヤ角を調整する転舵アクチュエータと、を有している車両であり、各車輪に作用させる前後力を各別に調整することで前記車両の横滑りを抑制する横滑り抑制機能を備える前記車両を制御対象として、前記運転支援装置が出力する要求に基づいて前記車両を制御することで前記車両を自動的に走行させる車両制御方法であって、
前記車両のヨーレートを含む状態量を算出する状態量算出処理と、
前記車輪における横力の要求値として各輪横力要求値を前記要求に基づいて算出する車輪要求生成処理と、
前記転舵アクチュエータを制御する指示値を前記各輪横力要求値に基づいて出力する指示値生成処理と、を含むものであり、
前記車輪要求生成処理では、
前記横滑り抑制機能が失陥している場合に前記車両の挙動がオーバーステア状態であることを前記状態量が示しているとき、
前記車輪のうち後輪に作用し得る横力の限界値として前記車両の走行中に算出する値を第1横力制限値として、前記車輪のうち前輪について、当該前輪における前記各輪横力要求値である前輪横力要求値を前記第1横力制限値以下の大きさに制限する車両制御方法。
【符号の説明】
【0108】
10…制御装置
11…状態量算出部
12…制御要求生成部
13…車輪要求生成部
14…指示値生成部
20…運転支援装置
30…駆動システム
40…制動システム
50…操舵システム
80…情報取得装置
90…車両