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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023111389
(43)【公開日】2023-08-10
(54)【発明の名称】溶接システム
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/12 20060101AFI20230803BHJP
   B23K 9/095 20060101ALI20230803BHJP
   B23K 9/09 20060101ALI20230803BHJP
【FI】
B23K9/12 301M
B23K9/095 505B
B23K9/09
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022013225
(22)【出願日】2022-01-31
(71)【出願人】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(74)【代理人】
【識別番号】100135389
【弁理士】
【氏名又は名称】臼井 尚
(74)【代理人】
【識別番号】100168044
【弁理士】
【氏名又は名称】小淵 景太
(72)【発明者】
【氏名】宮部 浩一
【テーマコード(参考)】
4E082
【Fターム(参考)】
4E082AA01
4E082AA11
4E082BA04
4E082CA01
4E082DA01
4E082EE03
4E082EE07
4E082EF16
4E082FA04
(57)【要約】
【課題】フィラーワイヤがアークに接触したことを検出できる溶接システムを提供する。
【解決手段】溶接システムA1は、溶接ワイヤ1と溶接対象物2との間にアーク3を発生させて溶融池21を形成し、溶融池21にフィラーワイヤ6を挿入しながら溶接する。溶接システムA1は、溶接ワイヤ1と、フィラーワイヤ6と、溶接ワイヤ1に溶接用電力を供給する電源回路PMと、フィラーワイヤ6と溶接対象物2との間の電圧であるフィラー電圧を検出するフィラー電圧検出回路VFDと、フィラーワイヤ6がアーク3に接触するアーク接触の有無を判定する接触判定回路SDとを備える。電源回路PMは、溶接ワイヤ1にピーク電流を出力するピーク期間とベース電流を出力するベース期間とを切り替える。接触判定回路SDは、ピーク期間におけるフィラー電圧が閾値以上である場合に、アーク接触が発生したと判定する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接電極と溶接対象物との間にアークを発生させて溶融池を形成し、当該溶融池にフィラーワイヤを挿入しながら溶接する溶接システムであって、
前記溶接電極と、
前記フィラーワイヤと、
前記溶接電極に溶接用電力を供給する溶接電源と、
前記フィラーワイヤと前記溶接対象物との間の電圧であるフィラー電圧を検出する電圧検出部と、
前記フィラーワイヤが前記アークに接触するアーク接触の有無を判定する接触判定部と、
を備え、
前記溶接電源は、前記溶接電極に第1出力を行う第1期間と前記溶接電極に前記第1出力よりも小さい第2出力を行う第2期間とを切り替えており、
前記接触判定部は、前記第1期間におけるフィラー電圧が閾値以上である場合に、前記アーク接触が発生したと判定する、溶接システム。
【請求項2】
前記接触判定部は、前記第1期間におけるフィラー電圧の大きさに応じて、前記アーク接触の有無および前記アーク接触の度合いに応じた接触レベルを判定する、請求項1に記載の溶接システム。
【請求項3】
前記接触判定部は、前記接触レベルの判定において、前記第2期間におけるフィラー電圧の大きさに応じて、前記接触レベルを細分化する、請求項2に記載の溶接システム。
【請求項4】
前記接触判定部は、前記溶接電極と前記溶接対象物との短絡が発生した場合、当該短絡からの前記アークの復帰を検出してから一定期間、あるいは、アーク切れが発生した場合、当該アーク切れからの前記アークの復帰を検出してから一定期間は、前記接触レベルの判定を行わない、請求項2または請求項3のいずれかに記載の溶接システム。
【請求項5】
前記フィラーワイヤの位置を調整する調整部をさらに備え、
前記調整部は、前記接触レベルに応じて、前記フィラーワイヤの位置を調整する、請求項2ないし請求項4のいずれかに記載の溶接システム。
【請求項6】
前記溶接電源は、ピーク電流とベース電流とを交互に繰り返すパルス波の溶接電流を前記溶接電極に出力し、
前記ピーク電流は、前記ベース電流よりも大きい電流であり、
前記第1期間は、前記ピーク電流を出力する期間であり、
前記第2期間は、前記ベース電流を出力する期間である、請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の溶接システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、溶接システムに関する。
【背景技術】
【0002】
溶接電極と溶接対象物との間にアークを発生させて溶融池を形成し、その溶融池にフィラーワイヤを送給して溶接する溶接システムが知られている。例えば、特許文献1には、溶接ワイヤとフィラーワイヤとの2本のワイヤを用いる溶接システムの一例が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002-28784号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
2本のワイヤを用いる溶接において、フィラーワイヤがアークに接触することがある。このようにフィラーワイヤがアークに接触すると、アーク熱によってフィラーワイヤが溶融する。その結果、フィラーワイヤの先端に粒径の大きい溶滴が形成される。この溶滴は、大粒のスパッタの原因となり、溶接対象物に付着し外観を悪化させる他、溶接トーチのシールドガスノズル及び給電用チップなどに付着するため、清掃作業の頻度が増え生産性の低下をもたらす。また、フィラーワイヤがアークに接触し溶融すると、フィラーワイヤが溶融池に接触しなくなる。コールドタンデム溶接の場合、フィラーワイヤが溶融池に接触しなくなると、フィラーワイヤによる溶融金属の冷却を促進する効果及び溶融金属の流れを安定化させハンピングを抑制する効果も失われる。そのため、フィラーワイヤを用いる溶接を行う際、フィラーワイヤがアークに接触することを抑制する必要がある。
【0005】
本開示は、上記事情に鑑みて考え出されたものであり、その目的は、フィラーワイヤがアークに接触したことを検出できる溶接システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の溶接システムは、溶接電極と溶接対象物との間にアークを発生させて溶融池を形成し、当該溶融池にフィラーワイヤを挿入しながら溶接する溶接システムであって、前記溶接電極と、前記フィラーワイヤと、前記溶接電極に溶接用電力を供給する溶接電源と、前記フィラーワイヤと前記溶接対象物との間の電圧であるフィラー電圧を検出する電圧検出部と、前記フィラーワイヤが前記アークに接触するアーク接触の有無を判定する接触判定部と、を備え、前記溶接電源は、前記溶接電極に第1出力を行う第1期間と前記溶接電極に前記第1出力よりも小さい第2出力を行う第2期間とを切り替えており、前記接触判定部は、前記第1期間におけるフィラー電圧が閾値以上である場合に、前記アーク接触が発生したと判定する。
【0007】
前記溶接システムの好ましい実施の形態において、前記接触判定部は、前記第1期間におけるフィラー電圧の大きさに応じて、前記アーク接触の有無および前記アーク接触の度合いに応じた接触レベルを判定する。
【0008】
前記溶接システムの好ましい実施の形態において、前記接触判定部は、前記接触レベルの判定において、前記第2期間におけるフィラー電圧の大きさに応じて、前記接触レベルを細分化する。
【0009】
前記溶接システムの好ましい実施の形態において、前記接触判定部は、前記溶接電極と前記溶接対象物との短絡が発生した場合、当該短絡からの前記アークの復帰を検出してから一定期間、あるいは、アーク切れが発生した場合、当該アーク切れからの前記アークの復帰を検出してから一定期間は、前記接触レベルの判定を行わない。
【0010】
前記溶接システムの好ましい実施の形態において、前記フィラーワイヤの位置を調整する調整部をさらに備え、前記調整部は、前記接触レベルに応じて、前記フィラーワイヤの位置を調整する。
【0011】
前記溶接システムの好ましい実施の形態において、前記溶接電源は、ピーク電流とベース電流とを交互に繰り返すパルス波の溶接電流を前記溶接電極に出力し、前記ピーク電流は、前記ベース電流よりも大きい電流であり、前記第1期間は、前記ピーク電流を出力する期間であり、前記第2期間は、前記ベース電流を出力する期間である。
【発明の効果】
【0012】
本開示の溶接システムによれば、フィラーワイヤがアークに接触するアーク接触の有無を判定することができる。これにより、フィラーワイヤがアークに接触したことを報知することができるので、溶接作業者は、フィラーワイヤの位置等を調整するといった対策を実施できる。従って、アーク接触を抑制できるので、良好な溶接品質を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】第1実施形態に係る溶接システムの全体構成例を示すブロック図である。
図2】第1実施形態に係る溶接システムのピーク期間とベース期間とにおけるアークの大きさの変化を示す模式図である。
図3】第1実施形態に係る溶接システムの接触レベルとワイヤ間距離との関係を示す模式図である。
図4】第1実施形態に係る溶接システムの接触レベルと給電チップ距離との関係を示す模式図である。
図5】第2実施形態に係る溶接システムの要部構成例を示すブロック図である。
図6】第2実施形態に係る溶接システムのアーク接触判定処理を示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本開示の溶接システムの好ましい実施の形態について、図面を参照して、以下に説明する。以下では、同一あるいは類似の構成要素に、同じ符号を付して、重複する説明を省略する。
【0015】
<第1実施形態>
図1は、第1実施形態に係る溶接システムA1の全体構成例を示す。溶接システムA1は、溶接電極(本実施形態では、後述の溶接ワイヤ1)と溶接対象物2との間にアーク3を発生させて溶融池21を形成し、当該溶融池21にフィラーワイヤ6を挿入しながら溶接を行う。溶接システムA1は、例えばパルスアーク溶接を行う。以下、図1を参照して、溶接システムA1の各機能ブロックについて説明する。なお、以下で説明する各機能ブロックは適宜、アナログ回路で構成してもよいしデジタル回路で構成してもよい。
【0016】
電源回路PMは、3相200V等の商用電源(図示略)を入力として、アーク3を発生させるための溶接用電力(溶接電圧Vw及び溶接電流Iw)を出力する。電源回路PMは、後述の駆動信号Dvに従うインバータ制御によって出力制御を行う。電源回路PMの構成は、特に限定されないが、例えば、商用電源からの出力を整流する1次整流回路、整流された直流を平滑するコンデンサ、平滑された直流を上記の駆動信号Dvに従って高周波交流に変換するインバータ回路、高周波交流をアーク3を発生させるために適正な電圧値に降圧する高周波トランス、降圧された高周波交流を整流する2次整流回路、整流された直流を平滑するリアクトルを備えている。
【0017】
溶接ワイヤ1は、溶接ワイヤ送給モータWMに結合された溶接ワイヤ送給ロール5の回転によって溶接トーチ4内を送給される。溶接ワイヤ1は、電源回路PMから溶接トーチ4に設けられた給電チップ(図示略)を介して給電される。溶接ワイヤ1と溶接対象物2との間には、アーク3が発生する。溶接対象物2は、例えば溶接母材と溶着金属とを含む。フィラーワイヤ6は、フィラーワイヤ送給モータFMに結合されたフィラーワイヤ送給ロール8の回転によってフィラーワイヤガイド7内を送給される。フィラーワイヤ6は、通常アーク3によって形成された溶融池21に挿入され、当該溶融池21と短絡した状態で溶融される。
【0018】
溶接トーチ4とフィラーワイヤガイド7とは、駆動機構9に取り付けられている。駆動機構9は、フィラーワイヤ6を溶接方向の前後方向に移動させるためのモータを含む機構である。この機構としては、例えば、モータの回転運動を滑子クランク機構により直線運動に変換する機構、モータの回転運動をクランクと揺動梃により揺動運動に変換する機構等が用いられている。駆動機構9は、後述するワイヤ間距離設定信号Lwrを入力として、ワイヤ間距離Lwを調整する。ワイヤ間距離Lwは、図1に示すように、溶接ワイヤ1の先端とフィラーワイヤ6の先端との、上記溶接方向の前後方向に沿う距離である。
【0019】
溶接トーチ移動機構10は、溶接トーチ4を溶接ワイヤ1の送給方向(上下方向)に移動させる機構である。この機構には、溶接用ロボット等が相当する。溶接トーチ移動機構10は、駆動機構9を介して、溶接トーチ4とフィラーワイヤガイド7とを同時に、移動させる。この構成とは異なり、溶接トーチ移動機構10は、溶接トーチ4とフィラーワイヤガイド7とを個別に移動させてもよい。溶接トーチ移動機構10は、後述する給電チップ先端位置設定信号Hrを入力として、給電チップ距離Ltを調整する。給電チップ距離Ltは、図1に示すように、溶接トーチ4の給電チップの先端と溶接対象物2との、上記送給方向に沿う距離である。
【0020】
溶接ワイヤ送給速度設定回路WRは、予め設定された(または溶接作業者によって設定された)送給速度の設定値を溶接ワイヤ送給速度設定信号Wrとして出力する。溶接ワイヤ送給制御回路WCは、溶接ワイヤ送給速度設定信号Wrを入力として、溶接ワイヤ送給制御信号Wcを溶接ワイヤ送給モータWMに出力する。溶接ワイヤ送給モータWMは、溶接ワイヤ送給制御信号Wcに従って、溶接ワイヤ1を送給する。これにより、溶接ワイヤ1は、溶接ワイヤ送給速度設定回路WRに設定された送給速度で送給される。
【0021】
フィラーワイヤ送給速度設定回路FRは、予め設定された(または溶接作業者によって設定された)送給速度の設定値をフィラーワイヤ送給速度設定信号Frとして出力する。フィラーワイヤ送給制御回路FCTは、フィラーワイヤ送給速度設定信号Frを入力として、フィラーワイヤ送給制御信号Fctをフィラーワイヤ送給モータFMに出力する。フィラーワイヤ送給モータFMは、フィラーワイヤ送給制御信号Fctに従って、フィラーワイヤ6を送給する。これにより、フィラーワイヤ6は、フィラーワイヤ送給速度設定回路FRに設定された送給速度で送給される。
【0022】
溶接電圧設定回路VRは、予め設定された(または溶接作業者によって設定された)溶接電圧Vwの設定値を溶接電圧設定信号Vrとして出力する。溶接電圧検出回路VDは、溶接電圧Vwを検出して、溶接電圧Vwの検出値を溶接電圧検出信号Vdとして出力する。平均溶接電圧算出回路VAVは、この溶接電圧検出信号Vdを入力として、平均化(例えばカットオフ周波数1~10Hz程度のローパスフィルタを通す)して、平均溶接電圧信号Vavを出力する。電圧誤差増幅回路EVは、溶接電圧設定信号Vrと平均溶接電圧信号Vavとの誤差を増幅して、電圧誤差増幅信号Evを出力する。
【0023】
電圧/周波数変換回路V/Fは、電圧誤差増幅信号Evの値に比例した周波数の信号に変換して、この周波数(パルス周期)ごとに短時間Highレベルになるパルス周期信号Tfを出力する。溶接システムA1は、電圧/周波数変換回路V/Fによって周波数変調制御を行っている。
【0024】
ピーク期間設定回路TPRは、予め定めたピーク期間設定信号Tprを出力する。ピーク期間タイマ回路TPは、パルス周期信号Tf及びピーク期間設定信号Tprを入力として、パルス周期信号TfがHighレベルに変化した時点からピーク期間設定信号Tprによって定まる期間だけHighレベルになるピーク期間信号Tpを出力する。このピーク期間信号Tpは、その周期がパルス周期となり、ピーク期間の間はHighレベルになり、ベース期間の間はLowレベルになる信号である。
【0025】
溶接電流検出回路IDは、溶接電流Iwを検出して、溶接電流Iwの検出値を溶接電流検出信号Idとして出力する。ピーク電流設定回路IPRは、予め定めたピーク電流Ipの値を示すピーク電流設定信号Iprを出力する。ベース電流設定回路IBRは、予め定めたベース電流Ibの値を示すベース電流設定信号Ibrを出力する。溶接電流設定回路IRは、ピーク期間信号Tp、ピーク電流設定信号Ipr及びベース電流設定信号Ibrを入力として、ピーク期間信号TpがHighレベル(ピーク期間)のときはピーク電流設定信号Iprを溶接電流設定信号Irとして出力し、ピーク期間信号TpがLowレベル(ベース期間)のときはベース電流設定信号Ibrを溶接電流設定信号Irとして出力する。電流誤差増幅回路EIは、溶接電流設定信号Irと溶接電流検出信号Idとの誤差を増幅して、電流誤差増幅信号Eiを出力する。駆動回路DVは、電流誤差増幅信号Eiを入力として、この信号に基づいてPWM変調制御を行う。駆動回路DVは、上記の電源回路PM内のインバータ回路を駆動するための駆動信号Dvを出力する。
【0026】
溶接システムA1では、アーク3に入力される電流(溶接電流Iw)の大きさにより、アーク3の大きさ(幅)が変化する。図2は、(a)ピーク期間信号Tp、(b)溶接電流Iw、及び(c)アーク3の大きさ(幅W)の各変化を模式的に表している。図2(a),(b)に示すように、溶接電流Iwは、ピーク期間においてピーク電流Ipとなり、ベース期間において、ベース電流Ibとなるパルス波である。また、図2(c)に示すように、ピーク電流Ipの出力期間(ピーク期間)においては、相対的に幅Wが広いアーク3となり、ベース電流Ibの出力期間(ベース期間)においては、相対的に幅Wが狭いアーク3となる。
【0027】
フィラー電圧検出回路VFDは、フィラーワイヤ6と溶接対象物2との間の電圧であるフィラー電圧Vfを検出し、フィラー電圧Vfの検出値をフィラー電圧検出信号Vfdとして出力する。検出切替回路SWは、フィラー電圧検出信号Vfd及びピーク期間信号Tpを入力として、フィラー電圧Vfをピーク期間フィラー電圧Vfpとベース期間フィラー電圧Vfbとに分けて、それぞれ検出する。ピーク期間フィラー電圧Vfpは、例えばピーク期間におけるフィラー電圧の平均値であり、ベース期間フィラー電圧Vfbは、例えばベース期間におけるフィラー電圧の平均値である。検出切替回路SWは、ピーク期間フィラー電圧Vfpの検出値をピーク期間フィラー電圧検出信号Vfpdとして出力し、ベース期間フィラー電圧Vfbの検出値をベース期間フィラー電圧検出信号Vfbdとして出力する。
【0028】
接触判定回路SDは、ピーク期間フィラー電圧検出信号Vfpd及びベース期間フィラー電圧検出信号Vfbdを入力として、フィラーワイヤ6がアーク3に接触するアーク接触の有無を判定する。本実施形態では、接触判定回路SDは、アーク接触の有無及びアーク接触の度合いに応じた接触レベルを判定する。接触レベルは、第1ないし第4レベルを含む。接触判定回路SDは、判定した接触レベルに応じて、例えば第1ないし第4レベルの4段階に切り替わる接触判定信号Sd1を出力する。
【0029】
図3は、第1ないし第4レベルの各接触レベルにおけるフィラーワイヤ6とアーク3との位置関係を表した模式図である。図3(a)~(d)では、ピーク期間におけるアーク3の状態を示しており、理解の便宜上、ベース期間におけるアーク3の状態をハッチングにより示している。
【0030】
第1レベルは、図3(a)に示すように、アーク接触が発生せず、フィラーワイヤ6が溶融池21に挿入されている状態である。つまり、第1レベルでは、フィラーワイヤ6とアーク3との位置関係(距離)が適正である。なお、フィラーワイヤ6が溶融池21に挿入されている状態では、フィラーワイヤ6は、溶融池21を介して溶接対象物2に短絡しているため、フィラー電圧Vfは0Vである。接触判定回路SDは、ピーク期間フィラー電圧Vfpがピーク期間第1閾値Vfp1未満であり(Vfp<Vfp1)、且つ、ベース期間フィラー電圧Vfbがベース期間第1閾値Vfb1未満であるとき(Vfb<Vfb1)、接触レベルが第1レベルであると判定する。ピーク期間第1閾値Vfp1は、ピーク期間において、フィラーワイヤ6が溶融池21に挿入されているか否かを(つまり、フィラーワイヤ6が溶融池21を介して溶接対象物2に短絡しているか否かを)判別するための閾値であり、ベース期間第1閾値Vfb1は、ベース期間において、フィラーワイヤ6が溶融池21に挿入されているか否かを(つまり、フィラーワイヤ6が溶融池21を介して溶接対象物2に短絡しているか否かを)判別するための閾値である。
【0031】
第2レベルは、図3(b)に示すように、アーク接触が発生した状態であって、フィラーワイヤ6が微かに溶融池21から離れている。第2レベルにおけるアーク接触では、フィラーワイヤ6は、ピーク期間中、アーク3のアーク柱の先端部分(溶接ワイヤ1の送給方向前方側)に接触するが、ベース期間中は、フィラーワイヤ6は、アーク3に接触しない。接触判定回路SDは、ピーク期間フィラー電圧Vfpがピーク期間第1閾値Vfp1以上ピーク期間第2閾値Vfp2未満であり(Vfp1≦Vfp<Vfp2)、且つ、ベース期間フィラー電圧Vfbがベース期間第1閾値Vfb1未満であるとき(Vfb<Vfb1)、接触レベルが第2レベルであると判定する。
【0032】
第3レベルは、図3(c)に示すように、アーク接触が発生した状態であって、フィラーワイヤ6が溶融池21から離れている。第3レベルにおけるアーク接触では、フィラーワイヤ6は、ピーク期間中、アーク3のアーク柱の中間部分(溶接ワイヤ1の送給方向中間部分)に接触し、ベース期間中も、アーク3に接触する。接触判定回路SDは、ピーク期間フィラー電圧Vfpがピーク期間第1閾値Vfp1以上ピーク期間第2閾値Vfp2未満であり(Vfp1≦Vfp<Vfp2)、且つ、ベース期間フィラー電圧Vfbがベース期間第1閾値Vfb1以上ベース期間第2閾値Vfb2未満であるとき(Vfb1≦Vfb<Vfb2)、接触レベルが第3レベルであると判定する。
【0033】
第4レベルは、図3(d)に示すように、アーク接触が発生した状態であって、フィラーワイヤ6が溶融池21から大きく離れている。第4レベルにおけるアーク接触では、フィラーワイヤ6は、ピーク期間中及びベース期間中の両方において、アーク3のアーク柱の基端部分(溶接ワイヤ1の送給方向後方側)に接触する。なお、第4レベルは、フィラーワイヤ6が溶接ワイヤ1に接触している状態も含む。接触判定回路SDは、ピーク期間フィラー電圧Vfpがピーク期間第2閾値Vfp2以上であり(Vfp2≦Vfp)、且つ、ベース期間フィラー電圧Vfbがベース期間第2閾値Vfb2以上であるとき(Vfb2≦Vfb)、接触レベルが第4レベルであると判定する。
【0034】
例えば、溶接電流Iwのピーク電流Ipが500Aであり、溶接電圧Vwのピーク電圧Vpが50Vである例において、ピーク期間第1閾値Vfp1は2Vであり、ベース期間第1閾値Vfb1は5Vであり、ピーク期間第2閾値Vfp2及びベース期間第2閾値Vfb2はそれぞれ20Vである。なお、ピーク期間第1閾値Vfp1、ピーク期間第2閾値Vfp2、ベース期間第1閾値Vfb1及びベース期間第2閾値Vfb2の値は、上記数値例に限定されない。これらの各閾値は、アーク長(溶接対象物2と溶接ワイヤ1先端との距離)とアーク電圧との関係、溶接電流Iw及び溶接電圧Vwなどに基づいて適宜変更されうる。
【0035】
接触判定回路SDは、以上のように、アーク接触の有無及びアーク接触の度合いに応じた接触レベルを判定する。このとき、接触判定回路SDは、接触レベルが第1レベルである場合に、アーク接触が発生していないと判定し、第2ないし第4レベルである場合に、アーク接触が発生していると判定する。よって、接触判定回路SDは、ピーク期間フィラー電圧Vfpがピーク期間第1閾値Vfp1以上となったとき(Vfp1≦Vfp)、アーク接触が発生していると判定していると言える。
【0036】
警告回路ARは、接触判定信号Sd1を入力として、接触レベルが第2レベルないし第4レベルの場合(つまりアーク接触が発生している場合)に、異常灯の点燈(または点滅)及びアラーム音を鳴らす等の警報を発する。このとき、接触レベルが第2レベルと第3レベルと第4レベルとで、異常灯の点燈色を変えたり、異常灯の点滅速度を変えたり、アラーム音を変えたり、アラーム音の音量を変えたりしてもよい。
【0037】
ワイヤ間距離設定回路LWRは、接触判定信号Sd1を入力として、ワイヤ間距離設定信号Lwrを出力する。ワイヤ間距離設定信号Lwrは、例えばワイヤ間距離Lwの調整量を示す信号であって、接触レベルが第1レベルから第4レベルになるほど、予め設定された初期値から所定値だけ大きくなる。例えば、図3を参照して、第1レベル時のワイヤ間距離LwをLw1、第2レベル時のワイヤ間距離LwをLw2(<Lw1)、第3レベル時のワイヤ間距離LwをLw3(<Lw2)、第4レベル時のワイヤ間距離LwをLw4(<Lw3)とした場合において、ワイヤ間距離設定信号Lwrは、次のような出力信号となる。ワイヤ間距離設定回路LWRは、接触レベルが第1レベルであると、現在のワイヤ間距離Lw1を維持するために、予め設定された初期値となるワイヤ間距離設定信号Lwr(例えばゼロ)を出力する。接触レベルが第2レベルであると、現在のワイヤ間距離Lw2をLw1にするために、予め設定された初期値から1段階大きくしたワイヤ間距離設定信号Lwr(例えばLw1-Lw2)を出力する。接触レベルが第3レベルであると、現在のワイヤ間距離Lw3をLw1にするために、予め設定された初期値から2段階大きくしたワイヤ間距離設定信号Lwr(例えばLw1-Lw3)を出力する。接触レベルが第4レベルであると、現在のワイヤ間距離Lw4をLw1にするために、予め設定された初期値から3段階大きくしたワイヤ間距離設定信号Lwr(例えばLw1-Lw4)を出力する。これにより、接触判定回路SDによって接触レベル2~4と判定された場合、駆動機構9によって、ワイヤ間距離Lwが調整され、フィラーワイヤ6が図3(b)~(d)の二点鎖線で示す位置(図3(a)と同じ接触レベル1と判定される位置)となる。なお、ワイヤ間距離設定信号Lwrは、ワイヤ間距離Lwの調整量を示す信号ではなく、ワイヤ間距離Lwの絶対値(溶接ワイヤ1の先端に対するフィラーワイヤの先端の相対値)を示す信号であってもよい。
【0038】
給電チップ先端位置設定回路HRは、接触判定信号Sd1を入力として、給電チップ先端位置設定信号Hrを出力する。給電チップ先端位置設定信号Hrは、例えば給電チップ距離Ltの調整量を示す信号であって、接触レベルが第1レベルから第4レベルになるほど、予め設定された初期値から所定値だけ大きくなる。例えば、図4を参照して、第1レベル時の給電チップ距離LtをLt1、第2レベル時の給電チップ距離LtをLt2(>Lt1)、第3レベル時の給電チップ距離LtをLt3(>Lt2)、第4レベル時の給電チップ距離LtをLt4(<Lt3)とした場合において、給電チップ先端位置設定信号Hrは、次のような出力信号となる。それは、給電チップ先端位置設定回路HRは、接触レベルが第1レベルであると、現在の給電チップ距離Lt1を維持するために、予め設定された初期値となる給電チップ先端位置設定信号Hr(例えばゼロ)を出力する。接触レベルが第2レベルであると、現在の給電チップ距離Lt2をLt1にするために、予め設定された初期値から1段階大きくした給電チップ先端位置設定信号Hr(例えばLt2-Lt1)を出力する。接触レベルが第3レベルであると、現在の給電チップ距離Lt3をLt1にするために、予め設定された初期値から2段階大きくした給電チップ先端位置設定信号Hr(例えばLt3-Lt1)を出力する。接触レベルが第4レベルであると、現在の給電チップ距離Lt4をLt1にするために、予め設定された初期値から3段階大きくした給電チップ先端位置設定信号Hr(例えばLt4-Lt1)を出力する。これにより、接触判定回路SDによって接触レベル2~4と判定された場合、溶接トーチ移動機構10によって、給電チップ距離Lt4が調整され、溶接トーチ4(及びフィラーワイヤガイド7)が図4(a)と同じ接触レベル1と判定される位置となる。なお、給電チップ先端位置設定信号Hrは、給電チップ距離Ltの調整量を示す信号ではなく、給電チップ距離Ltの絶対値(溶接対象物2に対する溶接トーチ4の給電チップの先端の相対値)を示す信号であってもよい。
【0039】
溶接システムA1においては、接触判定信号Sd1によって、ワイヤ間距離設定信号Lwr及び給電チップ先端位置設定信号Hrが共に変化してもよいし、どちらか一方だけ変化してもよい。なお、図3は、接触判定信号Sd1によって、ワイヤ間距離設定信号Lwrのみを変化させた例を示し、図4は、接触判定信号Sd1によって、給電チップ先端位置設定信号Hrのみを変化させた例を示している。
【0040】
溶接システムA1の作用及び効果は、次の通りである。
【0041】
溶接システムA1では、接触判定回路SDは、アーク接触の有無及びアーク接触の度合いに応じた接触レベルを判定しており、接触レベルが第2ないし第4レベルであれば、アーク接触が発生していると判定する。つまり、接触判定回路SDは、ピーク期間におけるフィラー電圧(ピーク期間フィラー電圧Vfp)がピーク期間第1閾値Vfp1以上である場合に、アーク接触が発生していると判定する。この構成によると、溶接システムA1は、アーク接触が発生した場合に、その旨を警告することができる。従って、溶接作業者は、この警告によって溶接不良が生じた虞があることを認識することができるので、ワイヤ間距離Lw及び給電チップ距離Ltを調整する等のアーク接触を解消する対策を実施することが可能となる。つまり、フィラーワイヤ6がアーク3に接触することが抑制されるので、良好な溶接品質を得ることが可能となる。
【0042】
溶接システムA1では、接触判定回路SDは、アーク接触の有無及びアーク接触の度合いに応じて、第1ないし第4レベルの接触レベルを判定する。この構成によれば、アーク接触の度合いに応じて、警報を変化させることができる。これにより、溶接作業者は、警報の違いによってアーク接触の度合いを知ることができるので、フィラーワイヤ6の位置補正を迅速に行うことができる。
【0043】
溶接システムA1では、接触レベルに応じて、ワイヤ間距離Lw及び(または)給電チップ距離Ltが調整されるので、フィラーワイヤ6とアーク3との位置関係が調整される。この構成によれば、溶接作業者は、手動でワイヤ間距離Lw及び給電チップ距離Ltなどを調整する必要がない。また、溶接システムA1は、接触レベルに応じて、ワイヤ間距離Lw及び(または)給電チップ距離Ltの調整量を変えるので、フィラーワイヤ6の位置補正制御の応答性を高めることができる。
【0044】
第1実施形態に係る溶接システムA1において、接触判定回路SDは、ピーク期間フィラー電圧Vfpとベース期間フィラー電圧Vfbとの組み合わせにより、接触レベルを判定するのではなく、ピーク期間フィラー電圧Vfpによって、接触レベルを判定してもよい。例えば、接触判定回路SDは、ピーク期間フィラー電圧Vfpがピーク期間第1閾値Vfp1未満であれば(Vfp<Vfp1)、アーク接触が発生していない状態を示す第1レベル(上記実施形態の第1レベル)と判定し、ピーク期間フィラー電圧Vfpがピーク期間第1閾値Vfp1以上ピーク期間第2閾値Vfp2未満であれば(Vfp1≦Vfp<Vfp2)、アーク接触が発生している状態を示す第2レベル(上記実施形態の第2レベルと第3レベルとを統合したレベル)と判定し、ピーク期間フィラー電圧Vfpがピーク期間第2閾値Vfp2以上であれば(Vfp2≦Vfp)、フィラーワイヤ6がほぼ溶接ワイヤ1に接触した状態を示す第3レベル(上記実施形態の第4レベル)と判定する。
【0045】
第1実施形態に係る溶接システムA1において、溶接ワイヤ1と溶接対象物2との短絡を検出した場合には、当該短絡からのアーク3の復帰を検出してから一定期間、アーク接触の接触レベルの判定を無効化する機能を追加してもよい。なお、溶接ワイヤ1と溶接対象物2との短絡及び短絡からのアーク3の復帰は、例えば溶接電圧検出信号Vd(溶接電圧検出回路VDの出力)または溶接電流検出信号Id(溶接電流検出回路IDの出力)により検出されうる。このような機能を追加することで、ピーク期間において、溶接ワイヤ1と溶接対象物2との短絡が発生した場合の、アーク接触の接触レベルの誤検出(誤判定)を抑制することができる。なお、接触判定回路SDは、接触レベルの判定を無効化する期間において、アーク接触の有無を継続して判定してもよい。
【0046】
第1実施形態に係る溶接システムA1において、溶接ワイヤ1と溶接対象物2とのアーク切れを検出した場合には、当該アーク切れからのアーク3の復帰を検出してから一定期間、アーク接触の接触レベルの判定を無効化する機能を追加してもよい。なお、アーク切れからのアーク3の復帰は、例えば溶接電圧検出信号Vd(溶接電圧検出回路VDの出力)または溶接電流検出信号Id(溶接電流検出回路IDの出力)により検出されうる。このような機能を追加することで、アークが消弧しアーク電圧がなくなった場合の、アーク接触の接触レベルの誤検出(誤判定)を抑制することができる。なお、接触判定回路SDは、接触レベルの判定を無効化する期間において、アーク接触の有無を継続して判定してもよい。
【0047】
<第2実施形態>
図5は、第2実施形態に係る溶接システムA2の構成例を示している。溶接システムA2は、溶接システムA1と比較して、次の点で異なる。第1に、検出切替回路SWを備えていない。第2に、接触判定回路SDの処理が異なる。溶接システムA2の他の機能ブロックは、特段の断りがない限り、溶接システムA1と同様である。なお、図5では、溶接システムA2の主要な機能ブロックを抽出したものであり、溶接システムA1と共通する一部の機能ブロックを省略している。
【0048】
溶接システムA2において、接触判定回路SDは、フィラー電圧検出信号Vfd及びピーク期間信号Tpを入力として、ピーク期間におけるフィラー電圧Vfが接触判定閾値Vfth以上であるときにHighレベルとなり、当該接触判定閾値Vfth未満であるときにLowレベルとなる接触判定信号Sd2を出力する。接触判定閾値Vfthは、例えば接触判定回路SDに予め設定されていてもよいし、溶接作業者によって設定されてもよい。また、接触判定回路SDは、ベース期間においては、アーク接触の有無の判定を行わず(無効化し)、直前のピーク期間の接触判定信号Sd2を保持する(アーク接触の判定を無効化する)。
【0049】
図6は、溶接システムA2において、アーク接触の有無を判定する様子を示している。図6は、(a)溶接電流Iw、(b)ピーク期間信号Tp、(c)フィラー電圧Vf、(d)接触判定信号Sd2、及び(e)アーク3とフィラーワイヤ6との位置関係の各変化をそれぞれ示している。なお、図6は、初期段階(第1実施形態における接触レベルが第2レベル)のアーク接触が発生している場合であって、ワイヤ間距離設定回路LWR及び給電チップ先端位置設定回路HRによってアーク接触を抑制する処理は行わないものとする。
【0050】
図6に示すように、1つ目の1パルス期間(1つ目のピーク期間及び1つ目のベース期間)では、アーク接触が発生していないので、フィラー電圧Vfは0Vである。つまり、フィラー電圧Vfは、接触判定閾値Vfthを超えていないので、接触判定信号Sd2はLowレベルである。その後、アーク接触が発生し、2つ目のピーク期間において、フィラー電圧Vfが上昇し、接触判定閾値Vfthを超える。このため、接触判定信号Sd2がHighレベルとなる。つまり、接触判定回路SDによって、アーク接触が発生したと判定される。なお、上述の通り、図6に示す例では、発生するアーク接触は初期段階であるので、ベース期間ではアーク3の幅Wが狭くなり、フィラーワイヤ6がアーク3に接触しない。そのため、2つ目のピーク期間後のベース期間において、フィラー電圧Vfは上昇しない。しかしながら、溶接システムA2の接触判定回路SDは、ベース期間の接触判定を無効化し、直前のピーク期間の接触判定信号Sd2を保持するため、2つ目のピーク期間後のベース期間においては、Highレベルの接触判定信号Sd2を出力する。なお、第1実施形態における接触レベルが第3レベルまたは第4レベルの状態では、ベース期間においてもアーク接触が発生することになる。この場合も、溶接システムA2の接触判定回路SDは、ピーク期間中の判定によりHighレベルの接触判定信号Sd2の出力を保持する。
【0051】
溶接システムA2の作用及び効果は、次の通りである。
【0052】
溶接システムA2では、接触判定回路SDは、ピーク期間におけるフィラー電圧に応じてアーク接触の有無を判定しており、ピーク期間におけるフィラー電圧Vfが接触判定閾値Vfth以上であれば、アーク接触が発生していると判定する。この構成によると、溶接システムA2は、溶接システムA1と同様に、アーク接触が発生した旨を警告することができる。つまり、溶接システムA2は、溶接システムA1と同様に、フィラーワイヤ6がアーク3に接触することが抑制されるので、良好な溶接品質を得ることが可能となる。
【0053】
溶接システムA2では、フィラー電圧Vfがベース期間において接触判定閾値Vfth以上となってもアーク接触が発生したと判定しない。つまり、接触判定回路SDは、ピーク期間におけるフィラー電圧Vfのみを対象として、アーク接触の有無を判定する。この構成によると、溶接システムA2は、ベース期間のフィラー電圧Vf(ベース期間フィラー電圧Vfb)をデマルチプレクサ回路(あるいは当該回路に相当するデジタル処理)により時分割でサンプリングする必要がないので、シンプルなシステム構成で、アーク接触の有無を判定できる。また、溶接システムA2は、実用上重要となる上記第2レベル(フィラーワイヤ6が少しだけアーク3にかかった状態)の検出において、溶接システムA1と同等のアーク接触に対する感度が得られる。
【0054】
第2実施形態に係る溶接システムA2において、接触判定回路SDは、単位時間当たりの出力パルス数Npに対する接触判定閾値Vfthを超えたパルス数Niの割合(Ni/Np)を計算し、当該割合が所定の割合を超えた場合に、アーク接触が発生したと判定してもよい。これにより、当該変形例に係る接触判定回路SDは、当該割合に応じた接触判定信号を出力することができる。
【0055】
第2実施形態に関わる溶接システムA2において、接触判定回路SDは、ピーク期間中のフィラー電圧Vf(ピーク期間フィラー電圧Vfp)を積分し、積分値が所定の閾値を超えた場合にアーク接触が発生したと判定してもよい。この場合、積分値はパルス周期毎にリセットされる。また、フィラー電圧の積分値はフィラーワイヤ6がアーク3中に接近するにつれて増加するため、積分値に応じたレベルの接触判定信号を出力することができる。このような積分値に応じたレベルの接触判定信号を出力する溶接システムでは、たとえば上記第2レベルの接触レベルを細分化したレベルを判定することが可能となる。このような変形例に係る溶接システムにおいて、接触判定回路SDは、溶接システムA1の接触判定回路SDと同様に、溶接ワイヤ1と溶接対象物2との短絡開放から一定期間、アーク接触のレベル判定を無効化する不感帯を設けてもよい。また、このような変形例に係る溶接システムにおいて、接触判定回路SDは、溶接システムA1の接触判定回路SDと同様に、アーク切れからのアーク3の復帰を検出してから一定期間、アーク接触のレベル判定を無効化する不感帯を設けてもよい。
【0056】
第1実施形態及び第2実施形態に係る各溶接システムA1,A2において、各機能ブロックの構成は、技術的な矛盾を生じない範囲において相互に組み合わせ可能である。例えば、接触判定回路SDは、アーク接触の有無を第2実施形態と同様に判定し、アーク接触の度合いを第1実施形態と同様に判定してもよい。
【0057】
第1実施形態及び第2実施形態に係る各溶接システムA1,A2において、溶接ワイヤ1の代わりに、非消耗電極(例えばタングステン棒)を用いてもよい。つまり、本開示の溶接システムで用いる溶接電極は、消耗電極であるか非消耗電極であるかは、何ら限定されない。また、第1実施形態及び第2実施形態に係る各溶接システムA1,A2は、溶接電極(溶接ワイヤ1)の極性が正極である構成であってもよいし、負極である構成であってもよいし、正極と負極とを交互に繰り返す構成であってもよい。例えば、各溶接システムA1,A2は、溶接電源(電源回路PMなど)から溶接電極(溶接ワイヤ1)への出力電流波形が正弦波(例えばピーク期間における振幅がベース期間における振幅よりも大きい正弦波)となる構成であってもよい。
【0058】
第1実施形態及び第2実施形態に係る各溶接システムA1,A2では、パルスアーク溶接を行う例を示したが、これに限定されず、溶接電極(溶接ワイヤ1)に第1出力を行う期間と、第1出力よりも小さい第2出力を行う期間がある他の溶接手法においても適用可能である。また、第1実施形態及び第2実施形態に係る各溶接システムA1,A2において、第1出力を行う第1期間(ピーク期間)及び第2出力を行う第2期間(ベース期間)に追加して、溶接電源(溶接ワイヤ1)に第2出力より小さい第3出力を行う第3期間が含まれてもよい。つまり、本開示の溶接システムは、電源回路(溶接電源)からの出力を2段階に切り替える構成に限定されない。
【0059】
本開示に係る溶接システムは、上記した実施形態に限定されるものではない。本開示の溶接システムの各部の具体的な構成は、種々に設計変更自在である。
【符号の説明】
【0060】
A1,A2:溶接システム、1:溶接ワイヤ、2:溶接対象物、3:アーク、6:フィラーワイヤ、9:駆動機構、10:溶接トーチ移動機構、21:溶融池、IR:溶接電流設定回路、Ib:ベース電流、Ip:ピーク電流、Iw:溶接電流、PM:電源回路、SD:接触判定回路、SW:検出切替回路、TPR:ピーク期間設定回路、Tp:ピーク期間信号、VFD:フィラー電圧検出回路、Vf:フィラー電圧、Vfb:ベース期間フィラー電圧、Vfp:ピーク期間フィラー電圧、Vfp1:ピーク期間第1閾値、Vfth:接触判定閾値
図1
図2
図3
図4
図5
図6