(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023111404
(43)【公開日】2023-08-10
(54)【発明の名称】アルカリ電池
(51)【国際特許分類】
H01M 50/193 20210101AFI20230803BHJP
H01M 6/06 20060101ALI20230803BHJP
【FI】
H01M50/193
H01M6/06 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022013244
(22)【出願日】2022-01-31
(71)【出願人】
【識別番号】000237721
【氏名又は名称】FDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002918
【氏名又は名称】弁理士法人扶桑国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松井 隼司
(72)【発明者】
【氏名】國谷 繁之
【テーマコード(参考)】
5H011
5H024
【Fターム(参考)】
5H011AA09
5H011CC06
5H011FF03
5H011GG02
5H011HH02
5H011KK00
5H011KK02
5H011KK05
5H024AA03
5H024AA14
5H024DD04
5H024EE09
5H024HH01
(57)【要約】
【課題】環境負荷を抑えつつアルカリ電池の生産性を向上する。
【解決手段】樹脂製のガスケット17を含むアルカリ電池10において、ガスケット17が、植物由来ポリアミド樹脂(たとえば、PA410、PA1010など)を有することで、カーボンニュートラル化が促進され、さらに、ガスケット17が、フルオレン系の流動性改善剤を有することで、植物由来ポリアミド樹脂による流動性の低さが流動性改善剤により改善され、ガスケット17の成形性が向上しアルカリ電池10の生産性が向上する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂製のガスケットを含むアルカリ電池であって、
前記ガスケットが、
植物由来ポリアミド樹脂と、
フルオレン系の流動性改善剤と、
を有するアルカリ電池。
【請求項2】
前記植物由来ポリアミド樹脂に含まれる炭素のうち、再生可能資源由来の炭素の割合は、70%以上である請求項1に記載のアルカリ電池。
【請求項3】
前記植物由来ポリアミド樹脂は、吸水率が2.0%以下である請求項1または2に記載のアルカリ電池。
【請求項4】
前記ガスケットにおける前記流動性改善剤の混合比率は、5wt%以上、10wt%以下である、請求項1乃至3の何れか一項に記載のアルカリ電池。
【請求項5】
前記植物由来ポリアミド樹脂は、PA410またはPA1010である、請求項1乃至4の何れか一項に記載のアルカリ電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカリ電池に関する。
【背景技術】
【0002】
アルカリ電池では、正極材の活物質として二酸化マンガンが用いられ、負極材の活物質として亜鉛が用いられている。また、電解液として、水酸化カリウムを溶解させたアルカリ電解液が用いられている。さらに、アルカリ電池では、電池缶の開口部を封口するための樹脂製のガスケットが用いられている。
【0003】
アルカリ電池のガスケットにおいて使用される樹脂は、PA(PolyAmide)66(6,6-ナイロン、ナイロン66などとも呼ばれる)やPA612(6,12-ナイロン、ナイロン612などとも呼ばれる)が主流となっている。
【0004】
ところで、近年、地球温暖化対策として、各国で温暖化の原因となる二酸化炭素濃度の上昇を抑制する「カーボンニュートラル」などの取り組みが進んでおり、各種の製品開発の際にも、カーボンニュートラル化を進め、環境負荷を削減することが求められている。
【0005】
なお、ポリアミド樹脂の流動性を改善するための流動性改善剤として、フルオレン系材料を用いることが知られている(たとえば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
アルカリ電池のガスケットに現状使用されているPA66やPA612は、石油由来の樹脂であり、樹脂中(ポリマー構造中)の炭素のうち、再生可能資源由来の炭素の割合は0%である。このため、排出される二酸化炭素の量の削減(カーボンニュートラル化)が困難である。
【0008】
なお、再生可能資源由来の炭素を含む植物由来ポリアミド樹脂は、溶融プラスチックの状態における流動性が低く、この樹脂をそのまま用いた場合、複雑な形状をもつガスケットを成形することが困難であり、アルカリ電池の生産性が悪化する。
【0009】
1つの側面では、本発明は、環境負荷を抑えつつ生産性の高いアルカリ電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
1つの実施態様では、樹脂製のガスケットを含むアルカリ電池であって、前記ガスケットが、植物由来ポリアミド樹脂と、フルオレン系の流動性改善剤と、を有するアルカリ電池が提供される。
【発明の効果】
【0011】
1つの側面では、本発明は、環境負荷を抑えつつアルカリ電池の生産性を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本実施の形態のアルカリ電池の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、発明を実施するための形態を、図面を参照しつつ説明する。
図1は、本実施の形態のアルカリ電池の一例を示す断面図である。
図1の例では、アルカリ電池10として、円筒形のアルカリ乾電池が示されている。
【0014】
アルカリ電池10において、有底筒状の金属製の正極缶11内に、正極材(正極合剤とも呼ばれる)12、セパレータ13、負極材(負極合剤とも呼ばれる)14が、アルカリ電解液と共に収容されている。正極缶11の開口部は、内側に棒状の集電子15が固設された負極端子板16と樹脂製のガスケット17を用いて封止されている。集電子15は、負極材14の中に挿入されている。
【0015】
正極缶11は、たとえば、電池内側から鉄材、合金層、ニッケルメッキ層、導電膜の順に積層された積層構造を有する。ニッケルメッキ層と導電膜との間にレアメタルによるレアメタルコート層が設けられていてもよい。正極缶11は、正極集電体及び正極端子としての機能も有し、底部には凸状の正極端子部11aが形成されている。正極材12は、たとえば、二酸化マンガンや黒鉛などを混ぜ、リング状に成型したものである。セパレータ13には、たとえば、セルロース製品などが用いられる。
【0016】
負極材14は、活物質である亜鉛合金粉末と、電解液などを用いてゲル化した合剤である。
本実施の形態のアルカリ電池10において、ガスケット17は、植物由来ポリアミド樹脂と、フルオレン系の流動性改善剤とを有する。
【0017】
植物由来ポリアミド樹脂は、カーボンニュートラルをより進め、環境負荷を抑えるために、含まれる炭素のうち、再生可能資源由来の炭素の割合(以下炭素比率という)が70%以上であるものを用いることが望ましい。再生可能資源由来の炭素比率が70%以上の植物由来ポリアミド樹脂として、PA410、PA1010などがある。PA410の再生可能資源由来の炭素比率は70%、PA1010の再生可能資源由来の炭素比率は100%である。PA410、PA1010は、ひまし油を原料としている。
【0018】
前述のように、再生可能資源由来の炭素を含む植物由来ポリアミド樹脂は、溶融プラスチックの状態における流動性が低く、この樹脂をそのまま用いた場合、複雑な形状をもつガスケット17を成形することが困難である。流動性が低くなっている要因は、アミノ基の水素と酸素との間の水素結合にある。
【0019】
そこで、本実施の形態のアルカリ電池10では、上記のようにフルオレン系の流動性改善剤を用いて、ガスケット17を作製する際の、溶融プラスチックの状態における流動性を改善している。流動性改善剤を植物由来ポリアミド樹脂に混ぜることで、上記の水素結合を弱める形で流動性改善剤が水素結合間に入り込み、流動性の高い溶融プラスチックが得られる。
【0020】
この効果は、溶融プラスチックの流動性が特に低い、再生可能資源由来の炭素比率が70%以上の植物由来ポリアミド樹脂を用いた場合に、特に有効である。
フルオレン系の流動性改善剤として、たとえば、9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-フェニルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(2,4-ジヒドロキシフェニル)フルオレン、などを用いることができる。
【0021】
なお、ポリアミド樹脂は水分を透過するため、ポリアミド樹脂をガスケットに用いたアルカリ電池内部に水分が入り込み、長期保管中に漏液が発生する現象が確認されている。そのため、植物由来ポリアミド樹脂を用いる場合も、安全性の観点から、吸水率(≒水分透過性)ができるだけ低い材料(たとえば、吸水率が2.0%以下の材料)を用いることが望ましい。たとえば、PA410、PA1010などは、吸水率が2.0%以下の植物由来ポリアミド樹脂である。
【0022】
以下、
図1に示したアルカリ電池10を製造する際の製造方法の一例を説明する。
まず、電界二酸化マンガン、黒鉛、バインダ、水酸化カリウム溶液が混ぜ合わされ、正極材12が作製される。
【0023】
そして、亜鉛合金粉末、電解液などを用いてゲル状の負極材14が作製される。なお、各亜鉛合金粉末の亜鉛には、ビスマスに加え、アルミニウムやインジウムが合金化されていてもよい。亜鉛合金粉末は、たとえば、遠心噴霧法やガスアトマイズ法などにより造紛される。
【0024】
次に、外装体となる正極缶11に、正極材12をリング状に成型したものが嵌合される。そして、正極缶11の胴部上端にビーディングが施され、集電子15と正極缶11の接触面にシール剤が塗布される。
【0025】
その後、正極缶11に嵌合したリング状の正極材12の内側に、セパレータ13が挿入され、水酸化カリウム電解液をセパレータ13に染み込ませる工程が行われる。そして、セパレータ13の内側に負極材14が充填される。正極缶11の開口部は、集電子15が固設された負極端子板16と、ガスケット17によって封止される。
【0026】
ガスケット17は、たとえば、押出成形により作製される。押出成形では、前述の植物由来ポリアミド樹脂とフルオレン系の流動性改善剤とが混錬され、加熱されることで得られた溶融プラスチックが、金型に押し出され、金型においてガスケット17の形状に成形され、その後、金型から冷却層に押し出されて冷却される。
【0027】
以上のような手法により、アルカリ電池10が作製される。
このようなアルカリ電池10によれば、ガスケット17が植物由来ポリアミド樹脂を含むため、カーボンニュートラル化が促進され、環境負荷を抑えることができる。また、ガスケット17は、フルオレン系の流動性改善剤を含むため、ガスケット17の作製時の溶融プラスチックの流動性が改善され、ガスケット17の成形性が向上し、その結果アルカリ電池10の生産性を向上させることができる。
【0028】
(評価結果)
次に、ガスケット17により好適な植物由来ポリアミド樹脂と、フルオレン系の流動性改善剤の混合比率の望ましい範囲とを検討するために、各種の評価を行った結果を示す。なお、フルオレン系の流動性改善剤として、9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレンを用いた。また、比較のため、植物由来ポリアミド樹脂とは異なる樹脂(PA612やPA66)を用いた場合についても評価を行った。
【0029】
評価内容は、MFR(Melt Flow Rate)測定結果、吸水率測定結果、高温多湿条件下保存試験結果、バリの発生の有無である。
MFR測定は、JIS K 7210-1に準じて行われた。試験温度は230℃、加重は2.16kgである。試料は、流動性改善剤の混合比率が0wt%でないものについては樹脂と流動性改善剤を混錬したものである。
【0030】
吸水率測定は、JIS K 7209に準じて行われた。吸水率は、試料を50℃で十分乾燥させた際の重量と、23℃の水に24時間浸漬させた時の重量とから算出した。
高温多湿条件下保存試験は、使用する樹脂と、流動性改善剤の混合比率とを変えて作製したガスケットを用いて組み立てた、それぞれ100個のアルカリ電池に対して行われた。より具体的には、それらのアルカリ電池を、温度60℃、湿度90%の雰囲気下で100日間保存した後に漏液の有無を確認することで行われた。
【0031】
バリの発生の有無については、上記のように作製された100個のガスケットについて目視による確認が行われた。
図2は、評価結果を示す図である。
【0032】
比較例1は、PA612を用い、フルオレン系の流動性改善剤の混合比率を0wt%(つまり流動性改善剤を含まない)とした場合を表す。
図2に示されているように、比較例1では、MFR測定結果が50g/10minであり、十分な流動性を示し、吸水率も1.3%であり低く、漏液発生率が0%であり、良好な結果となった。また、バリの発生も見られなかった。
【0033】
しかし、PA612は、石油由来材料であり、再生可能資源由来の炭素の比率が0%である。このため排出される二酸化炭素の量を削減する効果は得られない。
比較例2は、PA66を用い、フルオレン系の流動性改善剤の混合比率を0wt%(つまり流動性改善剤を含まない)とした場合を表す。
【0034】
図2に示されているように、比較例2では、MFR測定結果が、30g/10minであり、比較的良好な流動性を示す。また、バリの発生も見られなかった。
しかし、比較例2では、吸水率が2.5%であり高かった。その結果、アルカリ電池として長期保管中に電池内部に水分が入り込んでしまい、
図2に示されているように、漏液発生率が50%となり高かった。さらに、PA612と同様PA66も、石油由来材料であり、再生可能資源由来の炭素の比率が0%である。このため排出される二酸化炭素の量を削減する効果は得られない。
【0035】
比較例3は、PA610を用い、フルオレン系の流動性改善剤の混合比率を0wt%(つまり流動性改善剤を含まない)とした場合を表す。
PA610は、再生可能資源由来の炭素を含むものの、その炭素比率は50%にとどまっている。また、比較例3では、MFR測定結果が、10g/10minであり、流動性が悪い。
【0036】
なお、比較例3では、吸水率が1.5%であり漏液発生率は0%であった。また、バリの発生も見られなかった。
比較例4は、PA410を用い、フルオレン系の流動性改善剤の混合比率を0wt%(つまり流動性改善剤を含まない)とした場合を表す。
【0037】
PA410は、再生可能資源由来の炭素比率が70%であり、排出される二酸化炭素の量を削減可能である。その一方、比較例4では、MFR測定結果が、10g/10minであり、流動性が悪い。
【0038】
なお、比較例4では、吸水率が2.0%となり、比較例3と比べて上昇しているものの、漏液発生率は0%であり漏液は見られなかった。また、バリの発生も見られなかった。
比較例5は、PA410を用い、フルオレン系の流動性改善剤の混合比率を4wt%とした場合を表す。
【0039】
比較例5では、フルオレン系の流動性改善剤が用いられるが、MFR測定結果が、20g/10minであり、比較例4と比べると流動性は改善しているものの、比較例1,2の場合よりも劣り、十分ではない。
【0040】
なお、比較例5では比較例4と同様、吸水率が2.0%となり、漏液発生率は0%であり漏液は見られなかった。また、バリの発生も見られなかった。
実施例1は、PA410を用い、フルオレン系の流動性改善剤の混合比率を5wt%とした場合を表す。
【0041】
実施例1では、フルオレン系の流動性改善剤の効果により、MFR測定結果が、35g/10minであり、比較例1には劣るものの比較例2よりも改善されている。
なお、実施例1では比較例4,5と同様、吸水率が2.0%となり、漏液発生率は0%であり漏液は見られなかった。また、バリの発生も見られなかった。
【0042】
実施例2は、PA410を用い、フルオレン系の流動性改善剤の混合比率を10wt%とした場合を表す。
実施例2では、フルオレン系の流動性改善剤の効果により、MFR測定結果が、50g/10minであり、比較例1と同等の良好な流動性が得られている。
【0043】
なお、実施例2では比較例4,5、実施例1と同様、吸水率が2.0%となり、漏液発生率は0%であり漏液は見られなかった。また、バリの発生も見られなかった。
比較例6は、PA410を用い、フルオレン系の流動性改善剤の混合比率を11wt%とした場合を表す。
【0044】
比較例6では、フルオレン系の流動性改善剤の効果により、MFR測定結果が、60g/10minであり、比較例1よりも高い流動性が得られている。しかしながら、バリ発生率が55%となり、金型の型割部分に溶融プラスチックが入り込むことに起因したバリが発生していることが確認された。このため、比較例6では、流動性が高すぎるといえる。
【0045】
なお、比較例6では比較例4,5、実施例1,2と同様、吸水率が2.0%となり、漏液発生率は0%であり漏液は見られなかった。
比較例7は、PA1010を用い、フルオレン系の流動性改善剤の混合比率を0wt%(つまり流動性改善剤を含まない)とした場合を表す。
【0046】
PA1010は、再生可能資源由来の炭素比率が100%であり、排出される二酸化炭素の量を十分削減可能である。その一方、比較例7では、MFR測定結果が、15g/10minであり、流動性が悪い。
【0047】
なお、比較例7では、吸水率が1.5%であり、漏液発生率は0%であり、漏液は見られなかった。また、バリの発生も見られなかった。
比較例8は、PA1010を用い、フルオレン系の流動性改善剤の混合比率を4wt%とした場合を表す。
【0048】
比較例8では、フルオレン系の流動性改善剤が用いられるが、MFR測定結果が、25g/10minであり、比較例7と比べると流動性は改善しているが、比較例1,2の場合よりも劣り、十分ではない。
【0049】
なお、比較例8では比較例7と同様、吸水率が1.5%となり、漏液発生率は0%であり漏液は見られなかった。また、バリの発生も見られなかった。
実施例3は、PA1010を用い、フルオレン系の流動性改善剤の混合比率を5wt%とした場合を表す。
【0050】
実施例3では、フルオレン系の流動性改善剤の効果により、MFR測定結果が、35g/10minであり、比較例1には劣るものの比較例2よりも改善されている。
なお、実施例3では比較例7,8と同様、吸水率が1.5%となり、漏液発生率は0%であり漏液は見られなかった。また、バリの発生も見られなかった。
【0051】
実施例4は、PA1010を用い、フルオレン系の流動性改善剤の混合比率を10wt%とした場合を表す。
実施例4では、フルオレン系の流動性改善剤の効果により、MFR測定結果が、55g/10minであり、比較例1よりもさらに良い流動性が得られている。
【0052】
なお、実施例4では比較例7,8、実施例3と同様、吸水率が1.5%となり、漏液発生率は0%であり漏液は見られなかった。また、バリの発生も見られなかった。
比較例9は、PA1010を用い、フルオレン系の流動性改善剤の混合比率を11wt%とした場合を表す。
【0053】
比較例9では、フルオレン系の流動性改善剤の効果により、MFR測定結果が、65g/10minであり、比較例1よりも高い流動性が得られている。しかしながら、バリ発生率が60%となり、金型の型割部分に溶融プラスチックが入り込むことに起因したバリが発生していることが確認された。このため、比較例9では、流動性が高すぎるといえる。
【0054】
なお、比較例9では比較例7,8、実施例3,4と同様、吸水率が1.5%となり、漏液発生率は0%であり漏液は見られなかった。
以上の結果から、次のことがいえる。
【0055】
図1に示したような複雑な形状をもつガスケット17の成形のためには、少なくとも、ガスケット用の樹脂として用いられることがあるPA66の適用時と同等以上の流動性が得られることが望ましい。比較例2のように、PA66の適用時のMFR測定結果は、30g/10minであるので、これ以上の高い流動性が得られるのは、実施例1~4、比較例6,9である。ただ、比較例6,9では、前述のようにバリが発生する。このようなバリは、複雑な構造をもつアルカリ電池10の組み立て時などに悪影響を及ぼす可能性がある。
【0056】
このため、フルオレン系の流動性改善剤として9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレンを用いたとき、実施例1~4のように、流動性改善剤の混合比率を、5wt%以上、10wt%以下とすることが望ましい。
【0057】
なお、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-フェニルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(2,4-ジヒドロキシフェニル)フルオレンなどの他のフルオレン系の流動性改善剤を用いた場合も、望ましい混合比率は、上記と同様の範囲になることが考えられる。
【0058】
バリが発生しなければ、流動性が高いほど、ガスケット17の成形性を向上できる。
図2の例では、実施例2,4の場合、MFR測定結果が50g/10min以上であり、しかもバリが発生しない。つまり、実施例2,4のように、流動性改善剤の混合比率を10wt%とすると、ガスケット17の成形性をより向上できる。
【0059】
また、吸水率は2.0%以下であれば、漏液が発生せず望ましい。
図2の結果から、吸水率は、樹脂の種類に依存していることがわかる。実施例1~4のようにPA410、PA1010を用いた場合、吸水率が2.0%以下となるので、植物由来ポリアミド樹脂としてこのような樹脂を用いることが好ましい。
【0060】
さらに、PA1010は、再生可能資源由来の炭素比率が100%であるため、PA1010を用いた場合、PA410を用いた場合よりも、カーボンニュートラルをより進められ、環境負荷をより抑えることができる。
【0061】
以上、実施の形態に基づき、本発明のアルカリ電池の一観点について説明してきたが、これらは一例にすぎず、上記の記載に限定されるものではない。
たとえば、上記に示した具体的な材料名などはあくまで一例であり、他の材料を用いてもよい。
【符号の説明】
【0062】
10 アルカリ電池
11 正極缶
11a 正極端子部
12 正極材(正極合剤)
13 セパレータ
14 負極材(負極合剤)
15 集電子
16 負極端子板
17 ガスケット