(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023111476
(43)【公開日】2023-08-10
(54)【発明の名称】トランスインピーダンスアンプ
(51)【国際特許分類】
H03F 1/48 20060101AFI20230803BHJP
H03F 3/08 20060101ALI20230803BHJP
H03F 1/22 20060101ALI20230803BHJP
【FI】
H03F1/48
H03F3/08
H03F1/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022013351
(22)【出願日】2022-01-31
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、国立研究開発法人情報通信研究機構、「Beyond 5G 超大容量無線通信を支える次世代エッジクラウドコンピューティング基盤の研究開発」副題「Beyond 5Gに向けた革新的高速大容量データ転送ハードウェア開発と高機能エッジクラウド情報処理基盤の研究開発」に係る委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(71)【出願人】
【識別番号】506158197
【氏名又は名称】公立大学法人 滋賀県立大学
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 康宏
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 大輔
(72)【発明者】
【氏名】中村 誠
(72)【発明者】
【氏名】土谷 亮
(72)【発明者】
【氏名】井上 敏之
(72)【発明者】
【氏名】岸根 桂路
【テーマコード(参考)】
5J500
【Fターム(参考)】
5J500AA01
5J500AA13
5J500AA56
5J500AC35
5J500AC62
5J500AF17
5J500AH10
5J500AH25
5J500AH44
5J500AK05
5J500AK06
5J500AK26
5J500AK27
5J500AK47
5J500AM02
5J500AM08
5J500AM13
5J500AM17
5J500AM21
5J500AS13
5J500AT01
5J500AT03
5J500LU02
(57)【要約】
【課題】利得を確保しつつ、広帯域化することができるトランスインピーダンスアンプを提供することである。
【解決手段】TIA100は、入力端子Pinに入力された信号を増幅するトランジスタMN1と、ドレイン抵抗R
Dと、電流源Ic1とにより構成されるゲート接地増幅回路と、ゲート接地増幅回路を構成する要素としてのトランジスタMN1のゲートに、入力端子Pinに入力された信号を反転増幅した信号を加えるトランジスタMN2とを含むRGC型増幅器1Aと、トランジスタMN2によって反転増幅された信号を入力端子Pinに帰還する帰還回路1Bと、を備え、帰還回路1Bは、トランジスタMN2によって反転増幅された信号の入力端子Pinへの帰還を複数のループを介して行う多重帰還型の帰還回路1Bであり、多重帰還型の帰還回路1Bは、オーバーオール帰還回路と、局部帰還回路との組み合わせにより実現される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力端子に入力された信号を増幅するゲート接地増幅回路、又はベース接地増幅回路と、前記ゲート接地増幅回路、又はベース接地増幅回路を構成する要素としての第1のトランジスタのゲート又はベースに、前記入力端子に入力された信号を反転増幅した信号を加える第2のトランジスタとを含むレギュレーテッドカスコード型増幅器と、
前記第2のトランジスタによって反転増幅された信号を前記入力端子に帰還する帰還回路と、を備え、
前記帰還回路は、前記第2のトランジスタによって反転増幅された信号の前記入力端子への帰還を複数のループを介して行う多重帰還型の帰還回路であり、
前記多重帰還型の帰還回路は、オーバーオール帰還回路と、局部帰還回路との組み合わせにより実現される、
ことを特徴とするトランスインピーダンスアンプ。
【請求項2】
前記オーバーオール帰還回路は、増幅器と、バッファとのうち、少なくともいずれか一つを備え、前記増幅器、又は前記バッファの出力信号を、それぞれ帰還抵抗を介して前記入力端子に個別に帰還する、
ことを特徴とする請求項1に記載のトランスインピーダンスアンプ。
【請求項3】
前記局部帰還回路は、増幅器と、バッファとのうち、少なくともいずれか一つを備え、前記増幅器、又は前記バッファの出力信号を、それぞれ帰還抵抗を介して前記局部帰還回路の入力端子に帰還する、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のトランスインピーダンスアンプ。
【請求項4】
前記レギュレーテッドカスコード型増幅器は、
ドレイン、又はコレクタが前記レギュレーテッドカスコード型増幅器の出力端子に接続され、ソース、又はエミッタが前記入力端子に接続された前記第1のトランジスタと、
ゲート、又はベースが前記入力端子に接続され、ドレイン、又はコレクタが前記第1のトランジスタのゲート、又はベースに接続され、ソース、又はエミッタが第1の電源電圧に接続された前記第2のトランジスタと、
一端が前記第1のトランジスタのソース、又はエミッタに接続され、他端が前記第1の電源電圧に接続され、前記第1のトランジスタに定電流を供給する電流源と、
一端が第2の電源電圧に接続され、他端が前記第1のトランジスタのドレイン、又はコレクタに接続された第1の抵抗と、
一端が前記第2の電源電圧に接続され、他端が前記第2のトランジスタのドレイン、又はコレクタに接続された第2の抵抗とを備える、
ことを特徴とする請求項1から3のうちいずれか一項に記載のトランスインピーダンスアンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トランスインピーダンスアンプに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、情報通信量の増加に伴い、光通信システムの大容量化が求められている。例えば、現在普及している100G伝送装置は、1チャンネルあたり25Gbpsの伝送速度の信号を、4本用いて実現している。将来は、信号本数を増やすことによって伝送速度の大容量化を実現する方式や、1チャンネルあたりの伝送速度自体を高速化する方式などが検討されている。このような大容量光通信システムでは、システムに用いられる集積回路の高速化、低消費電力化、単一電源化などが求められている。
【0003】
トランスインピーダンスアンプ(Trans Impedance Amplifier、以下、TIAと称する)は、光通信システムの受信装置に広く用いられている。TIAは、光ファイバなどの伝送路から送られた光信号を光-電流変換するフォトダイオードによって電流変換された信号を電圧へと変換する回路である。TIAは、帯域利得幅積が受信回路の速度に大きく寄与しており、一般に伝送速度の0.7~0.8倍程度のカットオフ周波数(以下、-3dB周波数と称する)が求められる。したがって、TIAの広帯域化技術は重要な課題である。加えて、多チャンネル伝送によりTIAはチャンネル分必要となることから、低消費電力化の実現も望まれている。従来、TIAの回路構成として、ゲート接地型TIAやレギュレーテッドカスコード型TIAの例が知られている(例えば、特許文献1,特許文献2,特許文献3,特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-32926号公報
【特許文献2】特許第6397374号公報
【特許文献3】特開2009-152992号公報
【特許文献4】特開2021-040207号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、TIAの広帯域化は、TIAの時定数、すなわち、入力インピーダンスと、入力容量の積から決定される。つまり、TIAの広帯域化は、入力インピーダンス、及び入力容量の値を小さくすることで実現可能である。一方で、TIAの入力容量は、TIAの入力端子に接続するフォトダイオードや、フォトダイオードとTIAとの接続状況により決定されるため、入力容量そのものを小さくすることは困難である。また、入力インピーダンスの値を小さくするには、レギュレーテッドカスコード型TIAに用いられている、トランジスタのトランスコンダクタンスを大きくする、又は電流源の内部インピーダンスを小さくすることで実現可能である。一方で、内部インピーダンスを小さくするために、トランジスタの利得を調整する抵抗の抵抗値を小さくすると、TIAの利得を確保することが困難である。したがって、従来の技術では、TIAの利得を確保しつつ、TIAを広帯域化することが困難であった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するトランスインピーダンスアンプは、入力端子に入力された信号を増幅するゲート接地増幅回路、又はベース接地増幅回路と、前記ゲート接地増幅回路、又はベース接地増幅回路を構成する要素としての第1のトランジスタのゲート、又はベースに、前記入力端子に入力された信号を反転増幅した信号を加える第2のトランジスタとを含むレギュレーテッドカスコード型増幅器と、前記第2のトランジスタによって反転増幅された信号を前記入力端子に帰還する帰還回路と、を備え、前記帰還回路は、前記第2のトランジスタによって反転増幅された信号の前記入力端子への帰還を複数のループを介して行う多重帰還型の帰還回路であり、前記多重帰還型の帰還回路は、オーバーオール帰還回路と、局部帰還回路との組み合わせにより実現される、ことを特徴とする。
【0007】
かかる構成によれば、TIAの利得を確保しつつ、TIAを広帯域化することができる。
【0008】
上記トランスインピーダンスアンプにおいて、前記オーバーオール帰還回路は、増幅器と、バッファとのうち、少なくともいずれか一つを備え、前記増幅器、又は前記バッファの出力信号を、それぞれ帰還抵抗を介して前記入力端子に個別に帰還してもよい。
【0009】
かかる構成によれば、オーバーオール帰還回路の利得を適宜調整することができる。
【0010】
上記トランスインピーダンスアンプにおいて、前記局部帰還回路は、増幅器と、バッファとのうち、少なくともいずれか一つを備え、前記増幅器、又は前記バッファの出力信号を、それぞれ帰還抵抗を介して前記局部帰還回路の入力端子に帰還してもよい。
【0011】
かかる構成によれば、局部帰還回路の利得を適宜調整することができる。
【0012】
上記トランスインピーダンスアンプにおいて、前記レギュレーテッドカスコード型増幅器は、ドレイン、又はコレクタが前記レギュレーテッドカスコード型増幅器の出力端子に接続され、ソース、又はエミッタが前記入力端子に接続された前記第1のトランジスタと、ゲート、又はベースが前記入力端子に接続され、ドレイン、又はコレクタが前記第1のトランジスタのゲート、又はベースに接続され、ソース、又はエミッタが第1の電源電圧に接続された前記第2のトランジスタと、一端が前記第1のトランジスタのソース、又はエミッタに接続され、他端が前記第1の電源電圧に接続され、前記第1のトランジスタに定電流を供給する電流源と、一端が第2の電源電圧に接続され、他端が前記第1のトランジスタのドレイン、又はコレクタに接続された第1の抵抗と、一端が前記第2の電源電圧に接続され、他端が前記第2のトランジスタのドレイン、又はコレクタに接続された第2の抵抗とから構成されてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、TIAの利得を確保しつつ、TIAを広帯域化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本実施形態のTIAの構成の一例を示す図である。
【
図2】本実施形態のTIAのブロックダイアグラムの一例を示す図である。
【
図3】本実施形態のTIA、及び従来回路の利得と、規格化周波数との関係を示す図である。
【
図4】本実施形態のTIAの具体的な回路構成の一例を示す図である。
【
図7】従来回路のブロックダイアグラムの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<実施形態>
[全体構成]
以下、図面を参照し、トランスインピーダンスアンプを具体化した実施形態について説明する。
図1に示すように、トランスインピーダンスアンプ(Trans Impedance Amplifier、以下、TIAと称する)100は、例えば、レギュレーテッドカスコード型増幅器1A(Regulated Cascode 型増幅器、以下、RGC型増幅器1Aと称する)と、帰還回路1Bと、入力端子Pinと、出力端子Poutとを備える。
【0016】
入力端子Pinには、例えば、フォトダイオードPDと、入力容量Cpdとが接続される。入力容量Cpdは、フォトダイオードPDの寄生容量等であってもよい。フォトダイオードPDは、電流Ipdを出力する。また、入力端子Pinには、入力電圧Vinが印加される。
【0017】
RGC型増幅器1Aは、例えば、トランジスタMN1と、トランジスタMN2と、ドレイン抵抗RDと、ドレイン抵抗RBと、電流源Ic1とを備える。トランジスタMN1、及びトランジスタMN2は、MOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor)や、バイポーラトランジスタにより実現される。以下、トランジスタMN1、及びトランジスタMN2がMOSFETにより実現される場合について説明する。トランジスタMN1は、「第1のトランジスタ」の一例であり、トランジスタMN2は、「第2のトランジスタ」の一例であり、ドレイン抵抗RDは、「第1の抵抗」の一例であり、ドレイン抵抗RBは、「第2の抵抗」の一例である。
【0018】
トランジスタMN1のソース端子と、TIA100の入力端子Pinとは、接続されている。トランジスタMN1のドレイン端子と、ドレイン抵抗RDを介した電源電圧Vddとは、接続されている。トランジスタMN1のゲート端子と、トランジスタMN2のドレイン端子と、ドレイン抵抗RBを介した電源電圧Vddとは、接続されている。トランジスタMN2のゲート端子と、TIA100の入力端子Pinとは、接続されている。トランジスタMN2のソース端子と、電源電圧Vssとは、接続されている。トランジスタMN2のドレイン端子と、トランジスタMN1のゲート端子と、ドレイン抵抗RBを介した電源電圧Vddとは、接続されている。入力端子Pinは、電流源Ic1を介して電源電圧Vssに接続されている。電源電圧Vssは、「第1の電源電圧」の一例であり、電源電圧Vddは、「第2の電源電圧」の一例である。
【0019】
以降の説明において、トランジスタMN1のドレイン端子と、ドレイン抵抗RDとの接続点を、接続点N1と記載する。また、トランジスタMN1のゲート端子と、トランジスタMN2のドレイン端子と、ドレイン抵抗RBとの接続点を、接続点N2と記載する。また、トランジスタMN2のゲート端子と、トランジスタMN1のソース端子と、入力端子Pinとの接続点を、接続点N3と記載する。接続点N1と、出力端子Poutとは、接続されている。
【0020】
RGC型増幅器1Aは、トランジスタMN1と、ドレイン抵抗RDと、電流源Ic1とにより構成されるゲート接地増幅回路と、トランジスタMN2とドレイン抵抗RBとにより構成される帰還回路とを実現する。これにより、RGC型増幅器1Aは、ゲート接地増幅回路に対し、入力端子Pinに入力された入力電流Iinを、帰還回路により反転増幅してトランジスタMN1のゲート端子に帰還するようにしたものである。これにより、RGC型増幅器1Aは、トランジスタMN1の動作電位を適切な値に設定する。
【0021】
電流源Ic1は、例えば、カレントミラー回路等により実現される。電流源Ic1は、例えば、トランジスタMN1から供給される入力電流Iinを、複数個の増幅器によって整数倍した出力電流Ioutを出力する。
【0022】
帰還回路1Bは、例えば、増幅器22と、増幅器23と、帰還抵抗Rf3と、帰還抵抗Rf4とを備える。帰還回路1Bは、トランジスタMN2によって反転増幅された信号を、さらに増幅してTIA100の接続点N3に帰還する回路である。詳しくは、帰還回路1Bは、オーバーオール帰還回路と、局部帰還回路との組み合わせにより実現される。
【0023】
オーバーオール帰還回路は、入力端子が接続点N2に接続されており、出力端子が局部帰還回路の入力端子に接続されている。詳しくは、増幅器22は、入力端子が接続点N2に接続されており、接続点N2の信号を増幅する。帰還抵抗Rf3は、増幅器22の出力端子と接続点N3との間に設けられている。局部帰還回路は、入力端子がオーバーオール帰還回路の出力端子に接続されており、出力端子が、増幅器23の入力端子に接続されている。詳しくは、増幅器23は、入力端子が増幅器22の出力端子に接続されており、増幅器22が出力した信号を増幅する。帰還抵抗Rf4は、増幅器23の出力端子と、増幅器23の入力端子との間に設けられている。これにより、局部帰還回路は、オーバーオール帰還回路が出力した信号のうち、一部を局部帰還する。
【0024】
このように、帰還回路1Bは、トランジスタMN2によって反転増幅された信号の入力端子Pinへの帰還を、オーバーオール帰還回路と、局部帰還回路との複数のループを介して行う多重帰還型の帰還回路となっている。
【0025】
[従来回路について]
以下、本発明のTIA100の広帯域化を説明するため、従来回路CT1、及び従来回路CT2について説明する。
【0026】
図5に示すように、従来回路CT1は、TIA100に比して、帰還回路1Bを備えないRGC-TIAの一例である。従来回路CT1は、例えば、RGC型増幅器2Aを備える。RGC型増幅器2Aは、トランジスタM1と、トランジスタM2と、ドレイン抵抗R
1と、ドレイン抵抗R
2とを備える。トランジスタM1、及びトランジスタM2は、例えば、MOSFETにより実現される。RGC型増幅器2AにおけるトランジスタM1の接続は、RGC型増幅器1AにおけるトランジスタMN1の接続と同様であるため、説明を省略する。また、RGC型増幅器2AにおけるトランジスタM2の接続は、RGC型増幅器1AにおけるトランジスタMN2の接続と同様であるため、説明を省略する。また、RGC型増幅器2Aにおけるドレイン抵抗R
1の接続は、RGC型増幅器1Aにおけるドレイン抵抗R
Dの接続と同様であるため、説明を省略する。また、RGC型増幅器2Aにおけるドレイン抵抗R
2の接続は、RGC型増幅器1Aにおけるドレイン抵抗R
Bの接続と同様であるため、説明を省略する。
【0027】
従来回路CT1としてのRGC-TIAの利得(以下、トランスインピーダンス利得と称する)、-3dB周波数、及び入力インピーダンスは、それぞれ次式(1)~(3)で表すことができる。
【0028】
【数1】
【数2】
【数3】
Z
t(0):従来回路CT1のトランスインピーダンス利得
f
c:従来回路CT1の-3dB周波数
Z
in:従来回路CT1の入力インピーダンス
A:RGC型増幅器2Aの利得
g
m1:トランジスタM1のトランスコンダクタンス
g
m2:トランジスタM2のトランスコンダクタンス
C
pd:入力容量C
pdの容量値
R
2:ドレイン抵抗R
2の抵抗値
【0029】
従来回路CT1を光受信機の受信増幅器として用いる場合、トランスインピーダンス利得は、トランジスタM1のドレイン抵抗R1により制限を受けることが式(1)に示される。また、従来回路CT1を光受信機の受信増幅器として用いる場合、-3dB周波数は、入力インピーダンスZinと、入力容量Cpdとの積である時定数から制限を受けることが式(2)、及び式(3)に示される。
【0030】
ここで、従来回路CT1としてのRGC-TIAは、他のTIAよりも入力インピーダンスZinが小さいことが知られている。TIAの広帯域化は、入力インピーダンス、及び入力容量の値を小さくすることで実現可能である。従来回路CT1は、入力インピーダンスZinが小さいため、広帯域化の実現が容易である。その一方で、従来回路CT1は、式(3)に示すように、入力インピーダンスZinの値は、トランスコンダクタンスに反比例している。すなわち、トランスコンダクタンスはトランジスタの寸法比に比例することから、トランジスタの寸法を大きくすることによる入力インピーダンスZin低減による広帯域化には限界がある。
【0031】
図6に示すように、従来回路CT2は、従来回路CT1に比して帯域を改善した従前のRCG-TIAの一例である。従来回路CT2は、例えば、RGC型増幅器3Aと、帰還回路2Bとを備える。RGC型増幅器3Aは、トランジスタM3と、トランジスタM4と、ドレイン抵抗R
3と、ドレイン抵抗R
4とを備える。トランジスタM3、及びトランジスタM4は、例えば、MOSFETにより実現される。RGC型増幅器3AにおけるトランジスタM3の接続は、RGC型増幅器1AにおけるトランジスタMN1の接続と同様であるため、説明を省略する。また、RGC型増幅器3AにおけるトランジスタM4の接続は、RGC型増幅器1AにおけるトランジスタMN2の接続と同様であるため、説明を省略する。また、RGC型増幅器3Aにおけるドレイン抵抗R
3の接続は、RGC型増幅器1Aにおけるドレイン抵抗R
Dの接続と同様であるため、説明を省略する。また、RGC型増幅器3Aにおけるドレイン抵抗R
4の接続は、RGC型増幅器1Aにおけるドレイン抵抗R
Bの接続と同様であるため、説明を省略する。
【0032】
帰還回路2Bは、例えば、増幅器13と、増幅器14と、帰還抵抗Rf1と、帰還抵抗Rf2とを備える。帰還回路2Bは、トランジスタM4によって反転増幅された信号を、さらに増幅して従来回路CT2の接続点N3に帰還する回路である。帰還回路2Bは、オーバーオール帰還回路により実現される。オーバーオール帰還回路は、接続点N2と入力端子とが接続され、接続点N3と、出力端子とが接続されている。詳しくは、増幅器13は、入力端子が接続点N2に接続されており、接続点N2の信号を増幅する。帰還抵抗Rf3は、増幅器13の出力端子と接続点N3との間に設けられている。増幅器14は、入力端子と、増幅器13の出力端子とが接続されており、増幅器13が出力した信号を増幅する。帰還抵抗Rf4は、増幅器14の出力端子と接続点N3との間に設けられている。これにより、帰還回路2Bは、従来回路CT2に対して電圧帰還を形成している。以降の説明では、増幅器13の利得が利得A1であり、増幅器14の利得が利得A2であるものとする。
【0033】
従来回路CT2としてのトランスインピーダンス利得と、及び-3dB周波数は、それぞれ次式(4)~(5)で表すことができる。
【0034】
【数4】
【数5】
Z
t(0):従来回路CT2のトランスインピーダンス利得
f
c:従来回路CT2の-3dB周波数
R
f1:帰還抵抗R
f1の抵抗値
R
f2:帰還抵抗R
f2の抵抗値
A:RGC型増幅器3Aの利得
A
1:増幅器13の利得
A
2:増幅器14の利得
g
m3:トランジスタM3のトランスコンダクタンス
g
m4:トランジスタM4のトランスコンダクタンス
C
pd:入力容量C
pdの容量値
R
3:ドレイン抵抗R
3の抵抗値
R
4:ドレイン抵抗R
4の抵抗値
【0035】
式(1)、及び式(4)が示すように、従来回路CT2は、トランスインピーダンス利得を従来回路CT1と比較して、A×A1×A2倍とすることができる。また、式(2)、及び式(5)が示すように、従来回路CT2は、-3dB周波数を従来回路CT1と比較して、(1+A1×A2)倍へ拡張することができる。また、従来回路CT2は、従来回路CT1と比較して、入力インピーダンスを増幅器13の利得A1、及び増幅器14の利得A2を、帰還抵抗Rf1、及び帰還抵抗Rf2の値に応じて小さく設定できる。
【0036】
本実施形態のTIA100は、従来回路CT2に比して、更に広帯域化を実現するものである。以下、従来回路CT2と、TIA100とを比較し、TIA100の広帯域化について説明する。
【0037】
[ブロックダイアグラム]
TIA100の広帯域化について説明するために、まず、従来回路CT2の伝達関数を求める。伝達関数を求めるために用いられる従来回路CT2のブロックダイアグラムは、
図7に示すようにモデル化できる。従来回路CT2の伝達関数は、次式(6)のように表すことができる。
【0038】
【数6】
V
out:出力電圧
V
in:入力電圧
A:RGC型増幅器3Aの利得
A
1:増幅器22の利得
A
2:増幅器23の利得
H
1:帰還抵抗R
f1の分圧比
H
2:帰還抵抗R
f2の分圧比
【0039】
次に、TIA100の伝達関数を求める。伝達関数を求めるために用いられるTIA100のブロックダイアグラムは、
図2に示すようにモデル化できる。従来回路CT2との比較のため、増幅器22の利得A
3を利得A
1とし、増幅器23の利得A
4を利得A
2とした場合、TIA100の伝達関数は、次式(7)のように表すことができる。
【0040】
【数7】
V
out:出力電圧
V
in:入力電圧
A:RGC型増幅器1Aの利得
A
1:増幅器22の利得
A
2:増幅器23の利得
H
1:帰還抵抗R
f3の分圧比
H
2:帰還抵抗R
f4の分圧比
【0041】
式(6)、及び式(7)の比較により、従来回路CT2と、TIA100との利得の差は、次式(8)のように表すことができる。
【0042】
【0043】
したがって、TIA100は、従来回路CT2に比して、式(8)が示す差分だけ、帯域延長することができる。
【0044】
また、TIA100としてのトランスインピーダンス利得、及び-3dB周波数は、それぞれ次式(9)~(10)で表すことができる。
【0045】
【数9】
【数10】
Z
t(0):TIA100のトランスインピーダンス利得
f
c:TIA100の-3dB周波数
R
f3:帰還抵抗R
f3の抵抗値
R
f4:帰還抵抗R
f4の抵抗値
A:RGC型増幅器1Aの利得
A
3:増幅器22の利得
A
4:増幅器23の利得
g
m(MN1):トランジスタMN1のトランスコンダクタンス
g
m(MN2):トランジスタMN2のトランスコンダクタンス
C
pd:入力容量C
pdの容量値
R
B:ドレイン抵抗R
Bの抵抗値
R
D:ドレイン抵抗R
Dの抵抗値
【0046】
従来回路CT2に係る式(4)と、TIA100に係る式(9)とを比較すると、トランスインピーダンス利得には、ほぼ変化がない。一方で、従来回路CT2に係る式(5)と、TIA100に係る式(10)とを比較すると、-3dB周波数は、次式(11)に示すような関係が得られる。
【0047】
【数11】
R
f1:帰還抵抗R
f1の抵抗値
R
f2:帰還抵抗R
f2の抵抗値
R
f3:帰還抵抗R
f3の抵抗値
R
f4:帰還抵抗R
f4の抵抗値
A:RGC型増幅器1Aの利得
A
3:増幅器22の利得
A
4:増幅器23の利得
【0048】
ここで、式(11)において、利得Aは、利得A1=利得A3、及び利得A2=利得A4であり、帰還抵抗Rf1=帰還抵抗Rf3、及び帰還抵抗Rf2=帰還抵抗Rf4であるものとする。この場合、-3dB周波数は、従来回路CT2に比して、TIA100の方が大きくなる。よって、TIA100は、従来回路CT2に比して、局部帰還回路により帯域延伸を実現することができる。
【0049】
[-3dB周波数の比較]
以下、
図3を参照し、従来回路CT1、従来回路CT2、及びTIA100の-3dB周波数の差について説明する。
図3に示すグラフのうち、縦軸は、各回路のトランスインピーダンス利得の大きさを示す。また、横軸は、規格化周波数の大きさを示す。
【0050】
また、
図3に示す波形W1は、従来回路CT1におけるトランスインピーダンス利得と、規格化周波数との関係を示す。波形W2は、従来回路CT2におけるトランスインピーダンス利得と、規格化周波数との関係を示す。波形W3は、TIA100におけるトランスインピーダンス利得と、規格化周波数との関係を示す。また、
図3における点PT1は、従来回路CT1における規格化周波数が、-3dBである場合の周波数の大きさを示す。点PT2は、従来回路CT2における規格化周波数が、-3dBである場合の周波数の大きさを示す。点PT3は、TIA100における規格化周波数が、-3dBである場合の周波数の大きさを示す。
【0051】
図3の点PT1~PT3が示すように、従来回路CT2、及びTIA100の-3dB周波数の大きさは、従来回路CT1に比して十分に大きい。一例として、式(6)、及び式(7)の伝達関数において、利得Aを1/(s+1)とし、利得A
1、及び利得A
2を1/(s+2)とし、分圧比H
1、及び分圧比H
2を1とした場合、点PT2は、0.27[Hz]を示し、点PT3は、0.34[Hz]を示す。したがって、TIA100は、従来回路CT2に比して、帰還回路1Bに局部帰還回路を設けることにより、1.26倍の帯域延伸を実現することができる。
【0052】
[TIA100の具体的な回路構成]
以下、
図4を参照し、TIA100の具体的な回路構成について説明する。
図4に示すように、TIA100は、上述した構成の他、トランジスタMb1と、トランジスタMb2と、ソース抵抗R
s1~R
s3と
、ドレイン抵抗R
s4と、第1バイアス端子Vb1と、第2バイアス端子Vb2と、ソースフォロワ21とを備える。トランジスタMb1、及びトランジスタMb2は、例えば、MOSFETにより実現される。
【0053】
図4の一例において、トランジスタMN1のソース端子と、トランジスタMb1のドレイン端子とは、接続されている。トランジスタMb1のソース端子は、電源電圧Vssに接続されている。トランジスタMb1のゲート端子と、第1バイアス端子Vb1とは、接続されている。第1バイアス端子Vb1には、電圧が印加され、トランジスタMb1は、電流源Ic1と同様に動作し、RGC型増幅器1Aの利得を可変するために用いられる。
【0054】
トランジスタMN2のソース端子は、ソース抵抗Rs1を介して電源電圧Vssに接続されている。増幅器22のソース端子は、ソース抵抗Rs2を介して電源電圧Vssに接続されている。増幅器23のソース端子は、ソース抵抗Rs3を介して電源電圧Vssに接続されている。増幅器22のドレイン端子、及び増幅器23のドレイン端子は、ドレイン抵抗Rs4を介して電源電圧Vddに接続されている。ソース抵抗Rs1の抵抗値によって、トランジスタMN2の利得が適宜決定される。ソース抵抗Rs2、ソース抵抗Rs3、及びドレイン抵抗Rs4によって、増幅器22、及び増幅器23に印加されるバイアスが適宜決定される。
【0055】
これにより、帰還回路1Bのオーバーオール帰還回路は、ソースフォロワ回路の特性を有する増幅器22、ソース抵抗Rs2、及び帰還抵抗Rf3を備える。また、帰還回路1Bの局部帰還回路は、ソースフォロワ回路の特性を有する増幅器23、ソース抵抗Rs3、及び帰還抵抗Rf4を備える。
【0056】
ソースフォロワ21のソース端子と、トランジスタMb2のドレイン端子とは、接続されている。トランジスタMb2のソース端子は、電源電圧Vssに接続されている。トランジスタMb2のゲート端子と、第2バイアス端子Vb2とは、接続されている。第2バイアス端子Vb2には、電圧が印加される。これにより、ソースフォロワ21と、トランジスタMb2との効果により、出力電圧Voutのインピーダンスを低くすることができ、且つ出力電圧Voutの電圧レベルが適宜調整される。
【0057】
[実施形態の効果]
上記実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)入力端子Pinに入力された信号を増幅するトランジスタMN1と、ドレイン抵抗RDと、電流源Ic1とにより構成されるゲート接地増幅回路と、ゲート接地増幅回路を構成する要素としての第1のトランジスタであるトランジスタMN1のゲートに、入力端子Pinに入力された信号を反転増幅した信号を加える第2のトランジスタであるトランジスタMN2とを含むRGC型増幅器1Aと、トランジスタMN2によって反転増幅された信号を入力端子Pinに帰還する帰還回路1Bと、を備え、帰還回路1Bは、トランジスタMN2によって反転増幅された信号の入力端子Pinへの帰還を複数のループを介して行う多重帰還型の帰還回路1Bであり、多重帰還型の帰還回路1Bは、オーバーオール帰還回路と、局部帰還回路との組み合わせにより実現される。かかる構成によれば、TIA100の利得を確保しつつ、TIA100を広帯域化することができる。
【0058】
(2)RGC型増幅器1Aは、ドレインがRGC型増幅器1Aの出力端子としての接続点N1に接続され、ソースが入力端子Pinに接続されたトランジスタMN1と、ゲートが入力端子Pinに接続され、ドレインがトランジスタMN1のゲートに接続され、ソースが第1の電源電圧としての電源電圧Vssに接続されたトランジスタMN2と、一端がトランジスタMN1のソースに接続され、他端が電源電圧Vssに接続され、トランジスタMN1に定電流を供給する電流源Ic1と、一端が第2の電源電圧としての電源電圧Vddに接続され、他端がトランジスタMN1のドレインに接続されたドレイン抵抗RDと、一端が電源電圧Vddに接続され、他端がトランジスタMN2のドレインに接続されたドレイン抵抗RBとから構成されてもよい。これにより、利得を確保しつつ、広帯域化することができるTIA100を実現することができる。
【0059】
上記各実施形態は以下のように変更してもよい。なお、上記実施形態、及び以下の各別例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせてもよい。
【0060】
〇なお、上述では、TIA100が、電源電圧Vddと、電源電圧Vssとに接続される場合について説明したが、これに限られない。TIA100は、一つの電圧電源に接続されるものであってもよい。この場合、電源電圧Vddは、正電源に接続され、電源電圧Vssは、グランドに接続される。
【0061】
〇電源電圧Vssの電圧レベルは、フォトダイオードPDにかかるバイアスに応じて、適宜調整されてもよい。
【0062】
〇オーバーオール帰還回路は、単数の増幅器22に代えて、複数の増幅器22を縦続接続して実現してもよい。この場合、オーバーオール帰還回路は、複数の増幅器22、及び増幅器22の数に対応した数の帰還抵抗Rf3により実現される。また、増幅器22の出力信号は、それぞれ対応する帰還抵抗Rf3を介して、入力端子Pinに個別に帰還する。また、増幅器22の一部、又は全部が、利得が1のバッファ回路により実現されてもよい。
【0063】
〇局部帰還回路は、単数の増幅器23に代えて、複数の増幅器23を縦続接続して実現してもよい。この場合、局部帰還回路は、複数の増幅器23、及び増幅器23の数に対応した数の帰還抵抗Rf4により実現される。増幅器23の出力信号は、それぞれ対応する帰還抵抗Rf4を介して局部帰還回路の入力端子(つまり、各増幅器22の入力端子)に帰還する。また、増幅器23の一部、又は全部が、利得が1のバッファ回路により実現されてもよい。
【0064】
〇トランジスタMN1~MN2、トランジスタMb1~Mb2、及びトランジスタM1~M4は、MOSFETに代えて、バイポーラトランジスタにより実現されてもよい。この場合、上述の記載のうち、ゲートをベースに読み替え、ドレインをコレクタに読み替え、ソースをエミッタに読み替えればよい。また、ドレイン抵抗R1~R4、ドレイン抵抗Rs4、ドレイン抵抗RD、及びドレイン抵抗RBは、コレクタ抵抗に読み替えればよい。また、ソース抵抗Rs1~Rs3は、エミッタ抵抗に読み替えればよい。また、ゲート接地増幅回路は、ベース接地増幅回路に読み替えればよい。
【0065】
〇トランジスタMN1~MN2、トランジスタMb1~Mb2、及びトランジスタM1~M4は、いずれも利得が1のバッファにより実現されてもよい。
【0066】
〇TIA100は、RGC型増幅器1Aの出力信号を増幅する反転増幅器をさらに備えてもよい。これにより、反転増幅器は、反転増幅器の入力側回路と、出力側回路とが、互いに干渉しないようにすることができ、且つ反転増幅器の利得により、出力信号を適宜調整することができる。なお、TIA100は、反転増幅器に代えて、正相増幅器を用いてもよいし、増幅率が1のバッファを用いてもよい。
【符号の説明】
【0067】
1A,2A,3A…RGC型増幅器、1B,2B…帰還回路、13,14,22,23…増幅器、M1,M2,M3,M4,Mb1,Mb2,MN1,MN2…トランジスタ、100…TIA、A,A1,A2,A3,A4…利得、Cpd…入力容量、H1,H2…分圧比、Ic1…電流源、Iin…入力電流、Iout…出力電流、Ipd…電流、N1,N2,N3…接続点、PD…フォトダイオード、Pin…入力端子、Pout…出力端子、R1,R2,R3,R4,RB,RD,Rs4…ドレイン抵抗、Rf1,Rf2,Rf3,Rf4…帰還抵抗、Rs1,Rs2,Rs3…ソース抵抗、Vb1…第1バイアス端子、Vb2…第2バイアス端子、Vin…入力電圧、Vout…出力電圧、Vdd,Vss…電源電圧。