IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 新コスモス電機株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-接触燃焼式ガスセンサ 図1
  • 特開-接触燃焼式ガスセンサ 図2
  • 特開-接触燃焼式ガスセンサ 図3
  • 特開-接触燃焼式ガスセンサ 図4
  • 特開-接触燃焼式ガスセンサ 図5
  • 特開-接触燃焼式ガスセンサ 図6
  • 特開-接触燃焼式ガスセンサ 図7
  • 特開-接触燃焼式ガスセンサ 図8
  • 特開-接触燃焼式ガスセンサ 図9
  • 特開-接触燃焼式ガスセンサ 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023111492
(43)【公開日】2023-08-10
(54)【発明の名称】接触燃焼式ガスセンサ
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/16 20060101AFI20230803BHJP
【FI】
G01N27/16 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022013368
(22)【出願日】2022-01-31
(71)【出願人】
【識別番号】000190301
【氏名又は名称】新コスモス電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼島 裕正
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 洋
(72)【発明者】
【氏名】奥田 和治
【テーマコード(参考)】
2G060
【Fターム(参考)】
2G060AA02
2G060AB03
2G060AB17
2G060AB18
2G060AE19
2G060AF07
2G060BA03
2G060BB02
2G060BD02
2G060HB06
2G060HC02
2G060HC06
2G060JA01
2G060KA01
(57)【要約】
【課題】MEMS型の接触燃焼式ガスセンサの即時応答性を向上させる。
【解決手段】電源部(E)より電圧が印加され、パルス駆動することで可燃性ガスを検知するMEMS型の接触燃焼式ガスセンサ(1)であって、第1固定抵抗(R1)と検知素子(2)とが直列に接続される第1回路部(10)と、第2固定抵抗(R2)と温度補償素子(3)とが直列に接続される第2回路部(20)と、を含み、第1回路部と第2回路部とは、電源部(E)に対して並列に接続される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電源部より電圧が印加され、パルス駆動することで可燃性ガスを検知するMEMS型の接触燃焼式ガスセンサであって、
第1固定抵抗と、前記可燃性ガスの燃焼熱に応じて抵抗値が変化する検知素子とが直列に接続される第1回路部と、
第2固定抵抗と、環境温度に応じて抵抗値が変化する温度補償素子とが直列に接続される第2回路部と、を含み、
前記第1回路部と前記第2回路部とは、前記電源部に対して並列に接続される、接触燃焼式ガスセンサ。
【請求項2】
200ミリ秒以下のパルス幅でパルス駆動する、請求項1に記載の接触燃焼式ガスセンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、MEMS型の接触燃焼式ガスセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、可燃性ガスを検知するガスセンサとして、例えば特許文献1に開示された接触燃焼式ガスセンサが知られている。この種の接触燃焼式ガスセンサは、可燃性ガスと反応する貴金属触媒を含む検知素子と、該貴金属触媒を含まない温度補償素子とを備え、材料が異なるこれらの素子を直列に接続してブリッジ回路に組み込んだ構成を有する。
【0003】
また近年、電池でガスセンサを長期間駆動するという要望が高まっている。電池の電力消費を抑えると共に電池の交換の頻度をできるだけ少なくするには、ガスセンサの消費電力を低下させることが望ましい。そこで、微細加工が可能なMEMS(Micro Electro Mechanical System)技術を利用すれば、微小な部材加工が可能となり、小型化により消費電力が低い接触燃焼式ガスセンサを製造することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007-198816号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、接触燃焼式ガスセンサでは、電圧印加時に、貴金属触媒を含む検知素子が貴金属触媒を含まない温度補償素子よりも先に温度が上昇する。このため、検知素子と温度補償素子との間で温度(抵抗値)のばらつきが生じる。
【0006】
しかしながら、従来のように検知素子と温度補償素子とが直列に接続された回路構成では、前記温度のばらつきが素子間で互いに影響し合い、電圧印加からセンサ出力が安定するまでの時間(起動安定時間)がある程度必要であった。このため、従来の接触燃焼式ガスセンサでは、より即時応答性が求められる際には適用が難しいことがあった。特に、MEMS技術により小型化されたMEMS型の接触燃焼式ガスセンサの場合、起動安定時間の長期化による即時応答性の低下が顕著となる。そこで、起動安定時間を短縮し、MEMS型の接触燃焼式ガスセンサの即時応答性をより向上させる技術の開発が望まれていた。
【0007】
本発明の一態様は、前記課題に鑑みてなされたものであって、即時応答性を向上させたMEMS型の接触燃焼式ガスセンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る接触燃焼式ガスセンサは、電源部より電圧が印加され、パルス駆動することで可燃性ガスを検知するMEMS型の接触燃焼式ガスセンサであって、第1固定抵抗と、前記可燃性ガスの燃焼熱に応じて抵抗値が変化する検知素子とが直列に接続される第1回路部と、第2固定抵抗と、環境温度に応じて抵抗値が変化する温度補償素子とが直列に接続される第2回路部と、を含み、前記第1回路部と前記第2回路部とは、前記電源部に対して並列に接続される。
【0009】
前記構成では、検知素子と温度補償素子とが並列に接続されるため、検知素子と温度補償素子とが直列に接続された従来の回路構成に比べて、電圧印加時における検知素子と温度補償素子との温度(抵抗値)のばらつきが素子間で影響し難くなっている。また、第1固定抵抗と検知素子とが直列に接続され、第2固定抵抗と温度補償素子とが直列に接続されているため、電圧印加時における各素子への突入電流が減少する。これらにより、電圧印加からセンサ出力が安定するまでの時間(起動安定時間)を短縮することができる。
【0010】
さらに、電圧印加からセンサ出力が安定するまでの時間が短縮されることにより、ガスセンサをパルス駆動させるために必要なパルス幅を短くすることができる。これにより、ガスセンサの消費電力を低下させることができる。
【0011】
従って、前記構成によれば、即時応答性を向上させると共に消費電力が低いMEMS型の接触燃焼式ガスセンサを実現することができる。
【0012】
また、本発明の一態様に係る接触燃焼式ガスセンサは、200ミリ秒以下のパルス幅でパルス駆動させることが望ましい。
【0013】
前記構成によれば、従来よりも短いパルス幅で接触燃焼式ガスセンサをパルス駆動させるため、接触燃焼式ガスセンサの消費電力を低下させることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の一態様によれば、即時応答性を向上させたMEMS型の接触燃焼式ガスセンサを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施形態に係るガスセンサの構成例を示す回路図である。
図2図1に示されるセンサ素子部の平面図である。
図3図2に示されるセンサ素子部のA-A断面矢視図である。
図4図2に示されるセンサ素子部からガス感応部および補償部を取り除いた構成例を示す平面図である。
図5図1に示されるガスセンサの変形例を示す回路図である。
図6】第1実施例で用いた比較例であるガスセンサの構成を示す回路図である。
図7図6に示す比較例における第4電圧計の出力値を示すグラフである。
図8】表2に示す実施例1が備える第1電圧計の出力値の割合(%)を示すグラフである。
図9】表2に示す実施例1が備える第2電圧計の出力値の割合(%)を示すグラフである。
図10】表2に示す実施例1~4におけるメンブレン径と起動安定時間との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態について、図1図4に基づいて説明する。ただし、以下の説明は本発明に係る接触燃焼式ガスセンサの一例であり、本発明の技術的範囲は図示例に限定されるものではない。
【0017】
<ガスセンサ1の概要>
図1は、本実施形態に係るガスセンサ1の構成例を示す回路図である。ガスセンサ1は、被検知ガスである可燃性ガスを検知する接触燃焼式ガスセンサであり、MEMS技術を利用して形成された小型のガスセンサである。
【0018】
図1に示すように、ガスセンサ1は、可燃性ガスの燃焼熱に応じて抵抗値が変化する検知素子2と、環境温度に応じて抵抗値が変化する温度補償素子3とが、電源部Eに対して並列に接続された回路構成を有する。検知素子2と温度補償素子3とを並列に接続することにより、検知素子2と温度補償素子3とを直列に接続した従来の回路構成に比べて、電圧印加時における検知素子2と温度補償素子3との温度のばらつきが各素子間で影響し難くなる。従って、電圧を印加してからセンサ出力が安定するまでの起動安定時間を短縮し、ガスセンサ1の即時応答性を向上させることができる。
【0019】
<ガスセンサ1の回路構成>
ガスセンサ1は、ガスセンサ1の駆動に必要な電力を供給する電源部Eに接続される。ガスセンサ1は、電源部Eより電圧が印加され、パルス駆動することで可燃性ガスを検知する。電源部Eは、例えば電池または商用電源等の電源を含み、これらの電源より印加された電圧は、例えばパルス変換器(図示省略)によってパルス電圧に変換され、第1回路部10および第2回路部20に印加される。なお、前記パルス変換器は、ガスセンサ1側に備えられていてもよく、または電源部E側に備えられていてもよい。
【0020】
図1に示すように、ガスセンサ1は、第1固定抵抗R1と検知素子2とが直列に接続された第1回路部10と、第2固定抵抗R2と温度補償素子3とが直列に接続された第2回路部20とを含む。検知素子2には、該検知素子2の電圧を計測する第1電圧計V1が並列に接続される。また、温度補償素子3には、該温度補償素子3の電圧を計測する第2電圧計V2が並列に接続される。第1回路部10と第2回路部20とは、電源部Eに対し並列に接続される。ガスセンサ1は、可燃性ガスが燃焼し易い所定温度(例えば、300℃以上700℃以下)に検知素子2が維持されるようにパルス駆動する。
【0021】
(検知素子2)
検知素子2は、可燃性ガスの燃焼熱により抵抗値が変化することに基づいて可燃性ガスを検出する接触燃焼式の素子である。本実施形態における可燃性ガスとしては、例えば、水素、メタン、イソブタン、エタン、プロパン等が挙げられる。検知素子2は、可燃性ガスと反応する貴金属触媒を含む。検知素子2は、可燃性ガスが存在すると燃焼反応により温度が上昇し、温度の上昇に応じて抵抗が増加する。
【0022】
(温度補償素子3)
温度補償素子3は、可燃性ガスと反応する貴金属触媒を含んでおらず、ガスセンサ1が設置される環境温度等に応じて抵抗値が変化する。温度補償素子3は、検知素子2の抵抗値の変化を補償(補正)するために用いられる。つまり、検知素子2の抵抗値は、可燃性ガスとの燃焼反応以外の要因、例えば環境温度等によっても変化する。このような燃焼反応以外の要因に起因する検知素子2の抵抗値の変化を補償するために温度補償素子3が用いられる。
【0023】
ガスセンサ1では、検知素子2と温度補償素子3とは、同じ抵抗値に設定することが好ましい。また、検知素子2と第1固定抵抗R1とは同じ抵抗値に設定され、温度補償素子3と第2固定抵抗R2とは同じ抵抗値に設定されることが好ましい。つまり、検知素子2、温度補償素子3、第1固定抵抗R1および第2固定抵抗R2の各々の抵抗値(動作抵抗値)が等しいことが好ましい。これにより、検知素子2の抵抗値の変化を補正処理、可燃ガスの検出処理等を簡素化することができる。また、ガスセンサ1の計測精度および計測範囲を最大化することができる。
【0024】
ただし、検知素子2、温度補償素子3、第1固定抵抗R1および第2固定抵抗R2の抵抗値がそれぞれ異なっていても構わない。この場合であっても、制御部(図示省略)によってデータ処理を行うことで、可燃性ガスの検出が可能である。
【0025】
なお、検知素子2と温度補償素子3とは、MEMS技術を利用して形成されたセンサ素子部60に含まれる。センサ素子部60の具体的構成については後述する。
【0026】
(第1固定抵抗R1・第2固定抵抗R2)
第1固定抵抗R1および第2固定抵抗R2は、例えば表面実装タイプの小型固定抵抗器が用いられる。ガスセンサ1では、第1回路部10において電源部Eの陽極側に第1固定抵抗R1が配置されるように、第1固定抵抗R1と検知素子2とが直列に接続される。また、第2回路部20において電源部Eの陽極側に第2固定抵抗R2が配置されるように、第2固定抵抗R2と温度補償素子3とが直列に接続される。ただし、第1回路部10における第1固定抵抗R1と検知素子2との接続の順番、並びに、第2回路部20における第2固定抵抗R2と温度補償素子3との接続の順番は特に限定されない。例えば、第1回路部10において電源部Eの陽極側に検知素子2が配置されてもよく、第2回路部20において電源部Eの陽極側に温度補償素子3が配置されていてもよい。
【0027】
このように、ガスセンサ1では、第1回路部10において第1固定抵抗R1と検知素子2とが直列に接続され、第2回路部20において第2固定抵抗R2と温度補償素子3とが直列に接続されている。このため、電圧印加時における各素子2・3への突入電流が減少するため、電圧印加からセンサ出力が安定するまでの起動安定時間をより短縮することができる。
【0028】
(第1電圧計V1・第2電圧計V2)
第1電圧計V1および第2電圧計V2は、検知素子2および温度補償素子3の電圧値を測定する計測器である。第1電圧計V1は、検知素子2と並列に接続され、検知素子2の電圧値を計測する。第2電圧計V2は、温度補償素子3と並列に接続され、温度補償素子3の電圧値を計測する。第1電圧計V1および第2電圧計V2の各々は、計測した電圧値に応じた出力信号を制御部(図示省略)へ出力する。制御部は、例えば第1電圧計V1および第2電圧計V2から出力された各電圧値(出力値)の差分等に基づいて、可燃性ガスの有無を判定する。
【0029】
<センサ素子部60の構成>
次に、ガスセンサ1が備えるセンサ素子部60の構成について説明する。センサ素子部60には、上述した検知素子2および温度補償素子3等がMEMS技術を利用して形成されたセンサユニットである。
【0030】
図2は、図1に示されるセンサ素子部60の平面図である。図3は、図2に示されるセンサ素子部60のA-A断面矢視図である。図4は、図2に示されるセンサ素子部60からガス感応部41および補償部43を取り除いた構成例を示す平面図である。
【0031】
図2図4に示すように、センサ素子部60は、シリコン(Si)基板31と、このシリコン基板31上に形成された絶縁膜(絶縁層)Fと、を含む。検知素子2および温度補償素子3は、絶縁膜F上に互いに離間して形成される。
【0032】
シリコン基板31は、検知素子2および温度補償素子3等を支持するための基板である。シリコン基板31には、検知素子2および温度補償素子3のそれぞれに対応する位置に凹部状に窪んだ一対の空間Sが設けられる。
【0033】
絶縁膜Fは、薄膜状の1つの絶縁性部材を所定のパターン形状で加工した部材である。絶縁膜Fは、シリコン基板31上に取り付けられる。この絶縁膜Fは、ガス感応部41および貴金属線材42を設けるための上面円形状の被支持基板部32と、一端が被支持基板部32に連結される複数(本実施形態では4本)の架橋部33と、該架橋部33の他端が連結される支持基板部34と、を含む。
【0034】
2つの被支持基板部32は、シリコン基板31の空間Sの上方に各々が配置され、複数の架橋部33によって吊橋状に保持される。これにより、検知素子2および温度補償素子3の各々は、空間Sの上方に位置した状態、すなわちシリコン基板31に中空状態で支持される。なお、被支持基板部32の上面視の形状は、円形に限られず、矩形または楕円形等の形状でもよい。
【0035】
検知素子2は、ガス感応部41と、当該ガス感応部41を加熱する貴金属線材42とを含む。ガス感応部41は、貴金属線材42を覆って焼結させた金属酸化物を主成分とする焼結体である。ガス感応部41は、触媒担体に貴金属触媒を担持して構成される。貴金属触媒としては、例えば、白金、パラジウム等が挙げられる。また、触媒担体としては、例えば、アルミナ、シリカアルミナ等が挙げられる。
【0036】
貴金属線材42は、貴金属線が平面螺旋(平面コイル)状に形成されたヒーター(加熱部)である(図4参照)。貴金属線材42を形成する貴金属としては、例えばPt(白金)等が挙げられる。貴金属線材42は、電源部Eから印加される電圧に応じてガス感応部41を所定温度に加熱するヒータ部としての機能を有する。また、貴金属線材42は、ガス感応部41と可燃性ガスとの燃焼反応による温度上昇に応じて抵抗値が変化する。この貴金属線材42の抵抗値の変化が、第1電圧計V1によって計測され、可燃性ガスの有無の判定に用いられる。
【0037】
本実施形態では、平面螺旋状の貴金属線材42のうち最も外側に配置される部分(線材)は、円形の被支持基板部32の外周部分に沿って配置される(図4参照)。例えば、円形の被支持基板部32の直径(以下、メンブレン径と称する場合がある)Dと平面螺旋状の貴金属線材42の直径とは概ね一致してもよい。ただし、検知素子2は、貴金属線材42によって被支持基板部32全体を均一な温度に効率的に上昇させることができるような設計であればよい。そのため、メンブレン径Dが貴金属線材4の直径と一致しておらず、メンブレン径Dに比べて貴金属線材42の直径が小さく設計されていても構わない。
【0038】
被支持基板部32、貴金属線材42、およびガス感応部41は、シリコン基板31側からこの順に積層され、積層体を構成している。この積層体のうち、ガス感応部41を除いた各部はMEMS技術を利用して作製されている。MEMS技術は、超微小構造の電子機器システムの製造技術である。当該技術により微細な回路の加工を行うことができる。当該積層体は、MEMS技術を利用して公知の方法により形成できる。なお、被支持基板部32と貴金属線材42とが面一になるように、貴金属線材42が被支持基板部32に埋め込まれていてもよい。
【0039】
下記表1に、被支持基板部32のメンブレン径D、並びにメンブレン径Dに応じた貴金属線材(Pt線)42の幅および検知素子2の室温抵抗値の数値例を示す。
【0040】
【表1】
被支持基板部32が円形である場合、表1に示すように、被支持基板部32のメンブレン径Dは例えば102μm以上158μm以下程度に設定される。また、この被支持基板部32上に形成される貴金属線材(Pt線)42の幅は、メンブレン径Dに応じて例えば4μm以上10μm以下程度に設定される。つまり、メンブレン径Dが小さくなるに応じて形成される貴金属線材42の幅も小さくなり、それに伴い検知素子2の室温抵抗値が大きくなる。
【0041】
具体的には、メンブレン径Dが158μmの被支持基板部32には幅が10μmの貴金属線材42が形成され、この場合の検知素子2の室温抵抗値は57Ω程度となる。また、メンブレン径Dが102μmの被支持基板部32には幅が4μmの貴金属線材42が形成され、この場合の検知素子2の室温抵抗値は89Ω程度となる。
【0042】
温度補償素子3は、検知素子2と略同じ構成であり、検知素子2のガス感応部41において貴金属触媒を含まない構成となる補償部43を有している。すなわち、補償部43は、検知素子2で用いられるものと同じ触媒担体のみで構成されている。
【0043】
貴金属線材42は、架橋部33上に形成される薄膜配線51を介して支持基板部34上に配置されたパッド52、53、54に接続される。これらのパッド52、53、54には、リード(図示せず)がワイヤボンディングされることにより、ガスセンサ1に搭載される。
【0044】
<ガスセンサ1の動作>
次に、ガスセンサ1の動作について説明する。ガスセンサ1の電源がONされると、検知素子2および温度補償素子3には一定のパルス周期で間欠的に電圧が印加され、可燃性ガスが燃焼し易い所定温度まで各素子2・3の温度が上昇する。ガスセンサ1は、例えば、5秒以上15秒以下のパルス周期、200ミリ秒以下のパルス幅のパルス電圧でパルス駆動する。
【0045】
ここで、ガスセンサ1では検知素子2と温度補償素子3とが並列に接続されるため、電圧印加時における検知素子2と温度補償素子3との温度(抵抗値)のばらつきが素子間で影響し難くなっている。また、ガスセンサ1では、第1固定抵抗R1と検知素子2とが直列に接続され、第2固定抵抗R2と温度補償素子3とが直列に接続されているため、電圧印加時における各素子への突入電流が減少する。従って、検知素子2と温度補償素子3とが直列に接続された従来の回路構成に比べて、素子間における温度のばらつきが収束し易く、電圧印加からセンサ出力が安定するまでの時間である起動安定時間を短縮することができる。さらに、起動安定時間が短縮されることにより、ガスセンサ1をパルス駆動させるために必要なパルス幅を短くすることができる。これにより、ガスセンサ1の消費電力を低下させることができる。
【0046】
ガスセンサ1の周囲に可燃性ガスが存在しない場合、検知素子2の抵抗値と温度補償素子3の抵抗値とは同値であり差が生じない。このため、第1電圧計V1によって計測された検知素子2の電圧値と、第2電圧計V2によって計測された温度補償素子3の電圧値との差分は、可燃性ガスが存在しないことを示す0またはこれに近い値となる。
【0047】
一方、ガスセンサ1の周囲に可燃性ガスが存在する場合、可燃性ガスが検知素子2のガス感応部41と接触する。これにより、貴金属触媒上で可燃性ガスと空気中の酸素とが反応(燃焼反応)し、燃焼熱(反応熱)が生じる。この燃焼熱は可燃性ガスの濃度に比例し、濃度に応じて検知素子2の貴金属線材42の温度が上昇し、これに伴って検知素子2の抵抗値が変化する。これに対し、温度補償素子3は、可燃性ガスと反応せず、環境温度に応じて抵抗値が変化する。これらの検知素子2および温度補償素子3は、電気特性が等しく、互いの温度が影響しない程度に離間して設けられる。このため、可燃性ガスの濃度に応じて検知素子2の温度が上昇した分だけ、検知素子2の抵抗値と温度補償素子3の抵抗値との間に差が生じる。
【0048】
ガスセンサ1は、この燃焼熱に起因する抵抗値の差を、第1電圧計V1によって計測された検知素子2の電圧値と、第2電圧計V2によって計測された温度補償素子3の電圧値との差分に基づいて検知する。例えば、ガスセンサ1の制御部は、検知素子2と温度補償素子3の電圧値の差分が所定閾値以上である場合、可燃性ガスが存在すると判定する。そして、可燃性ガスが存在することを、警報音または警告灯等によって周囲に警報する警報動作を実行したり、ガス濃度に換算した値を表示したりする。
【0049】
<ガスセンサ1のまとめ>
以上のように、本実施形態に係るガスセンサ1は、電源部Eより電圧が印加され、パルス駆動することで可燃性ガスを検知するMEMS型の接触燃焼式ガスセンサである。ガスセンサ1は、第1固定抵抗R1と、可燃性ガスの燃焼熱に応じて抵抗値が変化する検知素子2とが直列に接続される第1回路部10と、第2固定抵抗R2と、環境温度に応じて抵抗値が変化する温度補償素子3とが直列に接続される第2回路部20とを含み、第1回路部10と第2回路部20とは、電源部Eに対して並列に接続される。
【0050】
ガスセンサ1では、検知素子2と温度補償素子3とが並列に接続されるため、検知素子2と温度補償素子3とが直列に接続された従来の回路構成に比べて、電圧印加時における検知素子2と温度補償素子3との温度(抵抗値)のばらつきが素子間で影響し難くなっている。また、第1固定抵抗R1と検知素子2とが直列に接続され、第2固定抵抗R2と温度補償素子3とが直列に接続されているため、電圧印加時における各素子2・3への突入電流が減少する。これらにより、電圧印加からセンサ出力が安定するまでの時間(起動安定時間)を短縮することができ、特に、MEMS技術により小型化されたMEMS型の接触燃焼式ガスセンサの即時応答性を向上させることができる。
【0051】
さらに、電圧印加からセンサ出力が安定するまでの時間が短縮されることにより、ガスセンサ1をパルス駆動させるために必要なパルス幅を短くすることができる。これにより、ガスセンサ1の消費電力を低下させることができる。
【0052】
従って、本実施形態によれば、即時応答性を向上させると共に消費電力が低いMEMS型の接触燃焼式ガスセンサを実現することができる。
【0053】
<変形例>
図5は、本実施係形態に係るガスセンサ1の変形例であるガスセンサ1aを示す回路図である。図5に示すように、ガスセンサ1aは、第1電圧計V1および第2電圧計V2に代えて第3電圧計V3を備え、ブリッジ回路を構成している点においてガスセンサ1と異なっている。
【0054】
図5に示されるように、ガスセンサ1aでは、第1回路部10と第2回路部20とは電源部Eに対して並列に接続され、第1固定抵抗R1と検知素子2との接続点P1と、第2固定抵抗R2と温度補償素子3との接続点P2との間に第3電圧計V3が接続される。可燃性ガスが存在しない場合、ブリッジ回路が平衡状態となり、第3電圧計V3の出力は0となる。対して、可燃性ガスが存在する場合、ブリッジ回路の平衡状態が崩れ、第3電圧計V3はガスの濃度に比例した出力信号を制御部へ出力する。
【0055】
ガスセンサ1aにおいても、検知素子2と温度補償素子3とが並列に接続されるため、即時応答性を向上させると共に消費電力が低いMEMS型の接触燃焼式ガスセンサを実現することができる。
【実施例0056】
<実施例および比較例の構成>
本実施例では、本発明に係る回路構成を備えるガスセンサ(実施例)と、検知素子と温度補償素子とが直列に接続された従来の回路構成を備えるガスセンサ(比較例)とを作製した。
【0057】
(実施例の構成)
表2に、本実施例で用いた本発明の実施例1~4の構成および駆動条件を示す。
【0058】
【表2】
表2に示すように、本発明の実施例1~4として、検知素子2および温度補償素子3のメンブレン径Dが異なる4つのガスセンサを作製した。各実施例1~4は、図1に示す回路構成とした。
【0059】
表2において、「メンブレン径φ」は、検知素子2および温度補償素子3の各々の被支持基板部32の直径を示す。また、「素子温度」は可燃性ガスが燃焼し易い所定温度を示し、検知素子2および温度補償素子3の表面温度が550℃になるように設定した。また「動作抵抗値」は所定温度(550℃)における検知素子2および温度補償素子3の抵抗値を示し、「固定抵抗値」は所定温度(550℃)における第1固定抵抗R1および第2固定抵抗R2の各々の抵抗値を示す。また「印加電圧」は電源部Eから印加される電圧値を示し、「第1電圧計出力」および「第2電圧計出力」は可燃性ガスが存在しない場合の第1電圧計V1および第2電圧計V2の出力値(電圧値)を示す。
【0060】
なお、検知素子2のガス感応部41には、アルミナ中に20質量%の割合でパラジウムを混合した。また、温度補償素子3の補償部43には、アルミナ中に20質量%の割合で二酸化ケイ素を混合した。
【0061】
(比較例の構成)
図6は、本実施例で用いた比較例であるガスセンサ100の構成を示す回路図である。図6に示すように、比較例として、直列に接続された検知素子2および温度補償素子3と、直列に接続された第3固定抵抗R3および第4固定抵抗R4とが、電源部Eに対して並列に接続されたブリッジ回路を有するガスセンサ100を作製した。比較例では、検知素子2と温度補償素子3の接続点P3と、第3固定抵抗R3と第4固定抵抗R4との接続点P4との間に第4電圧計V4を接続した。
【0062】
なお、比較例では、実施例1と同様に、表2に示す検知素子2および温度補償素子3を用いた。また、比較例では、第3固定抵抗R3および第4固定抵抗R4の抵抗値を510Ωに設定した。第3固定抵抗R3および第4固定抵抗R4の抵抗値を検知素子2および温度補償素子3の動作抵抗値(150Ω)より大きい510Ωの値に設定したのは、検知素子と温度補償素子3とが直列に接続されたブリッジ回路において、第4電圧計V4の計測に支障がない範囲内で第3固定抵抗R3および第4固定抵抗R4に流れる電流を小さくし、消費電流を抑えるためである。
【0063】
<第1実施例>
第1実施例では、表2に示す実施例1と前記比較例とについて、即時応答性および消費電力を検証した。
【0064】
(起動安定時間の検証)
図7は、図6に示す比較例における第4電圧計V4の出力値(ブリッジ出力)を示すグラフである。図7の7001は空気中に可燃性ガスが存在しない場合、図7の7002は空気中にメタンが50%LEL(若しくは2.5vol%)存在する場合、図7の7003は空気中にイソブタンが50%LEL(若しくは0,9vol%)存在する場合のグラフである。図7の7004は空気中に水素が25%LEL(若しくは1.0vol%)存在する場合における第4電圧計V4の出力値を示す。なお、図7の7001~7004は、5.0Vの電圧を印加し、素子温度が所定温度(550℃)における第4電圧計V4の出力値をガスごとに3個の異なるガスセンサ100で計測した結果を示す。
【0065】
図7に示すように、比較例では、可燃性ガスの有無および可燃性ガスの種類に関わらず、電圧印加から検知素子2と温度補償素子3の温度のばらつきが収束し、センサ出力が安定するまでに200ミリ秒程度を要した。これは、検知素子2と温度補償素子3とが直列に接続された比較例の回路では、各素子の温度のばらつきが素子間で互いに影響し合い、電圧印加からセンサ出力が安定するまでの時間がある程度必要であったためであると考えられる。
【0066】
図8は、表2に示す実施例1が備える第1電圧計V1の出力値の割合(%)を示すグラフである。図9は、表2に示す実施例1が備える第2電圧計V2の出力値の割合(%)を示すグラフである。図8および図9は、5.0Vの電圧印加後400ミリ秒経過時点における第1電圧計V1または第2電圧計V2の出力値を100%とした場合の電圧値の割合(%)を縦軸に、横軸に時間をとっている。図8の8001および図9の9001は空気中に可燃性ガスが存在しない場合、図8の8002および図9の9002は空気中にメタンが50%LEL存在する場合、図8の8003および図9の9003は空気中にイソブタンが50%LEL存在する場合、図8の8004および図9の9004は空気中に水素が25%LEL存在する場合のグラフである。
【0067】
なお、図8は、第1電圧計V1の出力値をガスの種類ごとに6個の異なるガスセンサ1で計測した結果を示す。また、図9は、第2電圧計V2の出力値をガスの種類ごとに4個の異なるガスセンサ1で計測した結果を示す。
【0068】
図8および図9に示すように、実施例1は、可燃性ガスの有無および可燃性ガスの種類に関わらず、電圧印加から検知素子2と温度補償素子3の温度のばらつきが収束し、センサ出力が安定するまでの時間が100ミリ秒以下であった。これは、検知素子2と温度補償素子3とが並列に接続された比較例1の回路では、電圧印加時における検知素子2と温度補償素子3との温度(抵抗値)のばらつきが素子間で影響し難いためであると考えられる。また、第1固定抵抗R1と検知素子2とが直列に接続され、第2固定抵抗R2と温度補償素子3とが直列に接続されているため、電圧印加時における各素子2・3への突入電流が減少したたことも一因であると考えられる。
【0069】
(消費電力の検証)
次に、表2に示す実施例1と前記比較例とについて、消費電力の違いを検証した。表3は、実施例1および比較例の駆動条件および消費電力等を示す表である。
【0070】
【表3】
前記第1実施例で検証したように、比較例では、センサ出力が安定する起動安定時間に200ミリ秒程度必要であった。このため、比較例のパルス駆動には200ミリ秒程度のパルス幅で電圧を供給する必要性がある。従って、例えば7秒のパルス周期、200ミリ秒のパルス幅で比較例を駆動したとき、消費電力は約3.17mWとなる。対して、実施例1では、センサ出力が安定する起動安定時間が100ミリ秒以下に短縮することができた。このため、例えばパルス周期7秒、100ミリ秒のパルス幅で実施例1を駆動することが可能とであり、このときの消費電力は約2.38mWとなった。
【0071】
このように、本発明の実施例1によれば、検知素子2と温度補償素子3とが直列に接続された回路構成に比べて即時応答性が向上し、これによりMEMS型の接触燃焼式ガスセンサの消費電力を低くすることができる。
【0072】
<第2実施例>
次に、第2実施例では、表2に示す実施例1~4を用いて、メンブレン径Dと起動安定時間との関係性に関して検証した。図10は、表2に示す実施例1~4におけるメンブレン径Dと起動安定時間との関係を示すグラフである。なお、図10は、5個の異なるガスセンサ1で計測した起動安定時間の平均値をプロットしたものである。また、図10では、メンブレン径Dごとに、エラーバーにて計測結果の最大・最小値を示した。
【0073】
図10に示すように、メンブレン径Dが小さくなるほど起動安定時間が短くなった。例えば、メンブレン径Dが最も大きい158μmである実施例1の場合、センサ出力の起動安定時間は約60ミリ秒程度であった。また、メンブレン径Dが142μmである実施例2の場合、センサ出力の起動安定時間は約50ミリ秒程度であった。また、メンブレン径Dが124μmである実施例3の場合、センサ出力の起動安定時間は約40ミリ秒であった。さらに、メンブレン径Dが最も小さい102μmである実施例4の場合、センサ出力の起動安定時間は約30ミリ秒であった。
【0074】
このように、メンブレン径Dを小さくすることによってセンサ出力の起動安定時間を短縮することができ、これによりMEMS型の接触燃焼式ガスセンサの消費電力を低減させることができる。
【0075】
メンブレン径Dは、実施例1~4に限定されない。特に、メンブレン径Dを実施例4(メンブレン径Dが102μm)よりも小さくした場合、起動安定時間をさらに短くできる可能性もあり、起動安定時間を約30ミリ秒未満に短縮し得る。
【0076】
〔付記事項〕
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0077】
1 ガスセンサ
2 検知素子
3 温度補償素子
10 第1回路部
20 第2回路部
E 電源部
R1 第1固定抵抗
R2 第2固定抵抗
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10