(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023111508
(43)【公開日】2023-08-10
(54)【発明の名称】メタクロレイン製造用触媒、その製造方法、およびメタクロレインの製造方法
(51)【国際特許分類】
B01J 23/28 20060101AFI20230803BHJP
B01J 37/04 20060101ALI20230803BHJP
B01J 37/32 20060101ALI20230803BHJP
B01J 37/30 20060101ALI20230803BHJP
C07C 45/33 20060101ALI20230803BHJP
C07C 47/22 20060101ALI20230803BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20230803BHJP
【FI】
B01J23/28 Z
B01J37/04 102
B01J37/32
B01J37/30
C07C45/33
C07C47/22 C
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022013386
(22)【出願日】2022-01-31
(71)【出願人】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】林 晃央
(72)【発明者】
【氏名】二宮 航
(72)【発明者】
【氏名】定金 正洋
【テーマコード(参考)】
4G169
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4G169AA02
4G169AA08
4G169AA09
4G169BA24C
4G169BA45C
4G169BB07A
4G169BB07B
4G169BB14A
4G169BB14B
4G169BB20A
4G169BC01A
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4G169BC06A
4G169BC29A
4G169BC53A
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4G169BC55A
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4G169BC59A
4G169BC59B
4G169BD01A
4G169BD06A
4G169BD07A
4G169BD07B
4G169CB10
4G169CB35
4G169CB63
4G169DA06
4G169EA02Y
4G169EA04Y
4G169EA06
4G169EC27
4G169FA01
4G169FB05
4G169FB26
4G169FB57
4G169FB78
4G169FC04
4G169FC08
4H006AA02
4H006AB46
4H006AC12
4H006BA02
4H006BA12
4H006BA14
4H006BA35
4H006BB61
4H006BB62
4H006BC10
4H006BC18
4H006BE30
4H039CA20
4H039CC10
(57)【要約】
【課題】メタクロレインを高収率で製造することができるメタクロレイン製造用触媒を提供することを目的とする。
【解決手段】イソブチルアルデヒドの酸化脱水素反応によりメタクロレインを製造する際に用いられる、下記式(I)で表される組成を有するヘテロポリ酸を含む、メタクロレイン製造用触媒。
PaMobXcYdOe (I)
(式(I)中、P、MoおよびOは、それぞれリン、モリブデンおよび酸素を表す。Xは遷移金属元素から選択される少なくとも1種を表す。Yはアルカリ金属元素およびアンモニウムカチオンから選択される少なくとも1種を表す。a~eは、各成分のモル比率を表し、b=12の時、1<a≦2、0<c≦12、9≦b/a+c≦15、0≦d≦18であり、eは前記各成分の価数を満足するのに必要な酸素のモル比率である。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
イソブチルアルデヒドの酸化脱水素反応によりメタクロレインを製造する際に用いられる、下記式(I)で表される組成を有するヘテロポリ酸を含む、メタクロレイン製造用触媒。
PaMobXcYdOe (I)
(式(I)中、P、MoおよびOは、それぞれリン、モリブデンおよび酸素を表す。Xは遷移金属元素から選択される少なくとも1種を表す。Yはアルカリ金属元素およびアンモニウムカチオンから選択される少なくとも1種を表す。a~eは、各成分のモル比率を表し、b=12の時、1<a≦2、0<c≦12、9≦b/a+c≦15、0≦d≦18であり、eは前記各成分の価数を満足するのに必要な酸素のモル比率である。)
【請求項2】
前記式(I)において、Xが周期表第5族の遷移金属元素から選択される少なくとも1種を含む、請求項1項に記載のメタクロレイン製造用触媒。
【請求項3】
前記式(I)において、Xがニオブを含む、請求項1または2に記載のメタクロレイン製造用触媒。
【請求項4】
前記式(I)において、Yがカリウム、セシウムおよびアンモニウムカチオンから選択される少なくとも1種を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載のメタクロレイン製造用触媒。
【請求項5】
前記式(I)において、1<a≦1.4、0<c≦4.0である、請求項1~4のいずれか1項に記載のメタクロレイン製造用触媒。
【請求項6】
FT-IR測定により得られる赤外吸収スペクトルにおいて、870cm-1±10cm-1の範囲内の最大ピークの吸光度をA1、1065cm-1±10cm-1の範囲内の最大ピークの吸光度をA2としたとき、A1/A2が1以上である、請求項1~5のいずれか1項に記載のメタクロレイン製造用触媒。
【請求項7】
FT-IR測定により得られる赤外吸収スペクトルにおいて、前記A1/A2が1.05以上である、請求項6に記載のメタクロレイン製造用触媒。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載のメタクロレイン製造用触媒の製造方法であって、下記工程(i)~(iii)を含む、メタクロレイン製造用触媒の製造方法。
(i)少なくともリンおよびモリブデンを含有するヘテロポリ酸を含む溶液またはスラリー(S1)を調製する工程。
(ii)前記溶液またはスラリー(S1)にX元素の原料化合物を添加して、溶液またはスラリー(S2)を調製する工程。
(iii)前記溶液またはスラリー(S2)を乾燥して固形物を得る工程。
【請求項9】
前記工程(ii)において、前記溶液またはスラリー(S1)にX元素の原料化合物を添加した後、遠心分離して上澄み液を得ることで前記溶液またはスラリー(S2)を調製する、請求項8に記載のメタクロレイン製造用触媒の製造方法。
【請求項10】
前記工程(ii)において、強酸性陽イオン交換樹脂を用いて前記上澄み液をイオン交換することで前記溶液またはスラリー(S2)を調製する、請求項9に記載のメタクロレイン製造用触媒の製造方法。
【請求項11】
前記工程(iii)における乾燥が凍結乾燥である、請求項8~10のいずれか1項に
記載のメタクロレイン製造用触媒の製造方法。
【請求項12】
請求項1~7のいずれか1項に記載のメタクロレイン製造用触媒を用いて、イソブチルアルデヒドからメタクロレインを製造する工程を含む、メタクロレインの製造方法。
【請求項13】
請求項8~11に記載の方法により製造されたメタクロレイン製造用触媒を用いて、イソブチルアルデヒドの酸化脱水素反応によりメタクロレインを製造する工程を含む、メタクロレインの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタクロレイン製造用触媒、その製造方法、およびメタクロレインの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
メタクロレインは、メタクリル酸およびメタクリル酸メチルの合成中間体として、工業的に非常に重要な化合物である。メタクロレインを製造する方法としては、イソブチルアルデヒドを触媒存在下で酸化脱水素反応させる方法が知られており、様々な触媒が提案されている。
【0003】
例えば特許文献1には、イソブチルアルデヒドよりメタクロレインおよびメタクリル酸を製造する触媒として、亜鉛、銅、銀の1種または2種以上を含む酸化物、モリブデン酸化物、およびリン化合物からなる化合物または混合物が提案されている。
【0004】
また、特許文献2には、イソブチルアルデヒドよりメタクロレインを製造する触媒として、一般式FeaPbPbcOdで表される組成物が提案されている(式中、Feは鉄、Pはリン、Pbは鉛、Oは酸素を示し、添字のa、b、c、およびdは原子数を示し、aを1とすると、bは0.7~3、cは0.01~3の値をとる)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭54-046705号公報
【特許文献2】特開平7-53435号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記触媒を用いたメタクロレインの製造は、メタクロレイン収率の観点で未だ不十分であった。そのため工業的な見地から、更なる改善が望まれている。すなわち本発明の課題は、メタクロレインを高収率で製造することができるメタクロレイン製造用触媒(以下、単に「触媒」とも称する。)を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、前記事情に鑑みてなされたものであり、本発明者らは、特定の組成比を有するメタクロレイン製造用触媒を使用することにより、前記問題を解決できることを見出し、本発明を達成するに至った。
【0008】
本発明は以下を要旨とする。
[1]:イソブチルアルデヒドの酸化脱水素反応によりメタクロレインを製造する際に用いられる、下記式(I)で表される組成を有するヘテロポリ酸を含む、メタクロレイン製造用触媒。
PaMobXcYdOe (I)
(式(I)中、P、MoおよびOは、それぞれリン、モリブデンおよび酸素を表す。Xは遷移金属元素から選択される少なくとも1種を表す。Yはアルカリ金属元素およびアンモニウムカチオンから選択される少なくとも1種を表す。a~eは、各成分のモル比率を表し、b=12の時、1<a≦2、0<c≦12、9≦b/a+c≦15、0≦d≦18であり、eは前記各成分の価数を満足するのに必要な酸素のモル比率である。)
[2]:前記式(I)において、Xが周期表第5族の遷移金属元素から選択される少なくとも1種を含む、[1]に記載のメタクロレイン製造用触媒。
[3]:前記式(I)において、Xがニオブを含む、[1]または[2]に記載のメタクロレイン製造用触媒。
[4]:前記式(I)において、Yがカリウム、セシウムおよびアンモニウムカチオンから選択される少なくとも1種を含む、[1]~[3]のいずれかに記載のメタクロレイン製造用触媒。
[5]:前記式(I)において、1<a≦1.4、0<c≦4.0である、[1]~[4]のいずれかに記載のメタクロレイン製造用触媒。
[6]:FT-IR測定により得られる赤外吸収スペクトルにおいて、870cm-1±10cm-1の範囲内の最大ピークの吸光度をA1、1065±10cm-1の範囲内の最大ピークの吸光度をA2としたとき、A1/A2が1以上である、[1]~[5]のいずれかに記載のメタクロレイン製造用触媒。
[7]:FT-IR測定により得られる赤外吸収スペクトルにおいて、前記A1/A2が1.05以上である、[6]に記載のメタクロレイン製造用触媒。
[8]:[1]~[7]のいずれかに記載のメタクロレイン製造用触媒の製造方法であって、下記工程(i)~(iii)を含む、メタクロレイン製造用触媒の製造方法。
(i)少なくともリンおよびモリブデンを含有するヘテロポリ酸を含む溶液またはスラリー(S1)を調製する工程。
(ii)前記溶液またはスラリー(S1)にX元素の原料化合物を添加して、溶液またはスラリー(S2)を調製する工程。
(iii)前記溶液またはスラリー(S2)を乾燥して固形物を得る工程。
[9]:前記工程(ii)において、前記スラリー(S1)にX元素の原料化合物を添加した後、遠心分離して上澄み液を得ることで前記溶液またはスラリー(S2)を調製する、[8]に記載のメタクロレイン製造用触媒の製造方法。
[10]:前記工程(ii)において、強酸性陽イオン交換樹脂を用いて前記上澄み液をイオン交換することで前記溶液またはスラリー(S2)を調製する、[9]に記載のメタクロレイン製造用触媒の製造方法。
[11]:前記工程(iii)における乾燥が凍結乾燥である、[8]~[10]のいずれかに記載のメタクロレイン製造用触媒の製造方法。
[12]:[1]~[7]のいずれかに記載のメタクロレイン製造用触媒を用いて、イソブチルアルデヒドからメタクロレインを製造する、メタクロレインの製造方法。
[13]:[8]~[11]に記載の方法により製造されたメタクロレイン製造用触媒を用いて、イソブチルアルデヒドの酸化脱水素反応によりメタクロレインを製造する、メタクロレインの製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、イソブチルアルデヒドの酸化脱水素反応により高収率でメタクロレインを製造できるメタクロレイン製造用触媒、その製造方法、およびメタクロレインの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に係る実施形態について説明するが、本発明は以下に限定されるものではない。
本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載された数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味し、「A~B」は、A以上B以下であることを意味する。
【0011】
[メタクロレイン製造用触媒]
(触媒の組成)
本発明の一実施形態に係るメタクロレイン製造用触媒は、イソブチルアルデヒドの酸化脱水素反応によりメタクロレインを製造する際に用いられ、下記式(I)で表される組成を有するヘテロポリ酸を含む。なお、本明細書における各元素のモル比率は、触媒をアンモニア水に溶解した成分をICP発光分析法で分析することによって求めた値とする。またアンモニウムカチオンのモル比率は、触媒をケルダール法で分析することによって求めた値とする。
PaMobXcYdOe (I)
(式(I)中、P、MoおよびOは、それぞれリン、モリブデンおよび酸素を表す。Xは遷移金属元素から選択される少なくとも1種を表す。Yはアルカリ金属元素およびアンモニウムカチオンから選択される少なくとも1種を表す。a~eは、各成分のモル比率を表し、b=12の時、1<a≦2、0<c≦12、9≦b/a+c≦15、0≦d≦18であり、eは前記各成分の価数を満足するのに必要な酸素のモル比率である。)
このような触媒を用いることで、イソブチルアルデヒドの酸化脱水素反応において高収率でメタクロレインを製造することができる。
【0012】
メタクロレイン製造用触媒が前記式(I)に示される組成を有するヘテロポリ酸を含むことにより、イソブチルアルデヒドの転化率が向上し、メタクロレインを高収率で得られる。このメカニズムについて、前記式(I)に示されるように、ヘテロポリ酸が遷移金属を含有することで、イソブチルアルデヒドの酸化脱水素反応において好ましい酸化特性を持つメタクロレイン製造用触媒が得られるためと考えられる。
【0013】
前記式(I)において、Xは遷移金属元素から選択される少なくとも1種を表す。メタクロレイン収率の観点から、Xは周期表第5族の遷移金属元素から選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、バナジウムおよびニオブから選択される少なくとも1種を含むことがより好ましく、ニオブを含むことがさらに好ましい。
【0014】
前記式(I)において、Yはアルカリ金属元素およびアンモニウムカチオンから選択される少なくとも1種を表す。メタクロレイン収率の観点から、Yはリチウム、ナトリウム、カリウム、セシウム、ルビジウムおよびアンモニウムカチオンから選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、カリウム、セシウムおよびアンモニウムカチオンから選択される少なくとも1種を含むことがより好ましい。なお、アルカリ金属元素は1種のみであっても2種以上を組み合わせてもよい。
【0015】
前記式(I)において、メタクロレインを高収率で製造することができる観点から、b=12の時、a、c、及びdは次の条件が適用され得る。1<a≦2であり、好ましくは1<a≦1.4、より好ましくは1<a≦1.2である。また、0<c≦12であり、好ましくは0<c≦4.0、より好ましくは0<c≦2.5である。また9≦b/a+c≦15であり、好ましくは10≦b/a+c≦14、より好ましくは11≦b/a+c≦13である。また0≦d≦18であり、好ましくは0≦d≦12、より好ましくは0≦d≦10である。
【0016】
(触媒の赤外吸収スペクトル)
本実施形態に係るメタクロレイン製造用触媒は、メタクロレイン収率の観点から、ケギン型ヘテロポリ酸を含むことが好ましい。ヘテロポリ酸の構造は、FT-IR測定により判断することができる。該触媒がケギン型ヘテロポリ酸を含む場合、得られる赤外吸収スペクトルは、1065cm-1±10cm-1、960cm-1±10cm-1、870cm-1±10cm-1、780cm-1±10cm-1に特徴的なピークを有する。ケギン型ヘテロポリ酸を含むメタクロレイン製造用触媒を得る方法としては、例えば、後述する工程(ii)において、得られる溶液またはスラリー(S2)のpHを調整して4以下とする、または焼成工程を含む方法により製造する方法が挙げられる。
また、本実施形態に係るメタクロレイン製造用触媒は、赤外吸収スペクトルにおいて、870cm-1±10cm-1の範囲内の最大ピークの吸光度をA1、1065cm-1±10cm-1の範囲内の最大ピークの吸光度をA2としたとき、A1/A2が1以上であることが好ましく、1.05以上であることがより好ましい。またA1/A2の上限は特に限定されないが、通常2以下であり、1.5以下であってもよく、1.35以下であってもよい。A1/A2が上記の値を有する触媒を用いることにより、メタクロレインを高収率で製造することができる。この理由としては、以下が考えられる。
メタクロレイン製造用触媒の赤外吸収スペクトルにおいて、A1/A2が1以上であることは、ヘテロポリ酸のポリ原子として、前記式(I)におけるX元素が含まれるものが多く存在することを意味する。このようなヘテロポリ酸を含有する触媒を用いることで、メタクリル酸の収率がより向上すると考えられる。上記の赤外吸収スペクトルを有するメタクロレイン製造用触媒を得る方法としては、例えば、後述する工程(i)~(iii)を含む方法により触媒を製造する方法が挙げられる。
なおFT-IR測定に使用する装置としては、NICOLET6700FT-IR(製品名、Thermo electron社製)等、1200~2000cm-1の範囲を測定できる装置を用いることができる。測定方法は透過法とし、下記の通り測定するものとする。希釈剤としてKBrを用い、錠剤成型機にてペレット状に成型する。次いで、触媒の濃度が0.5~1質量%となるようにKBrで希釈混合し、同様にペレット状に成型して測定を行う。得られた赤外吸収スペクトルに関して、縦軸を吸光度、横軸を波数とし、1200cm-1における吸光度が0となるように水平にベースライン補正を実施した。得られた補正後の赤外吸収スペクトルから、A1/A2を算出した。
【0017】
[メタクロレイン製造用触媒の製造方法]
上記の実施形態に係るメタクロレイン製造用触媒の製造方法は、特段の制限はないが、本発明の別の実施形態に係るメタクロレイン製造用触媒の製造方法である、下記の工程(i)~(iii)を含む方法により製造されることが好ましい。
(i)少なくともリンおよびモリブデンを含有するヘテロポリ酸を含む溶液またはスラリー(S1)を調製する工程。
(ii)前記溶液またはスラリー(S1)にX元素の原料化合物を添加して、溶液またはスラリー(S2)を調製する工程。
(iii)前記溶液またはスラリー(S2)を乾燥して固形物を得る工程。
また本実施形態に係るメタクロレイン製造用触媒の製造方法は、後述する成形工程および焼成工程をさらに有してもよい。
以下、各工程について詳細に説明する。
【0018】
(工程(i))
工程(i)では、少なくともリンおよびモリブデンを含有するヘテロポリ酸を含む溶液またはスラリー(S1)を調製する。溶液またはスラリー(S1)は、前記式(I)で表される組成に含まれる成分の原料化合物を、溶媒と混合して調製することが好ましい。
用いる原料化合物としては特段の制限はなく、各元素の硝酸塩、炭酸塩、酢酸塩、アンモニウム塩、カリウム塩、酸化物、ハロゲン化物、オキソ酸、またはオキソ酸塩などが挙げられ、それらを組み合わせて使用することもできる。リン原料としては、例えば正リン酸、五酸化リン、またはリン酸アンモニウム等のリン酸塩などが挙げられる。モリブデン原料としては、例えばパラモリブデン酸アンモニウム、三酸化モリブデン、モリブデン酸、塩化モリブデンなどが挙げられる。また、リンおよびモリブデン原料として、リンモリブデン酸等のリンモリブデン系ヘテロポリ酸を用いてもよい。原料化合物は、触媒成分を構成する各元素に対して1種のみを用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
前記溶媒としては特段の制限はなく、水、または有機溶媒等を用いることができるが、工業的な観点から水を用いることが好ましい。
リンおよびモリブデン原料として、リンモリブデン系ヘテロポリ酸以外の原料を用いる
場合は、原料化合物を溶媒と混合後、60~150℃の温度で0.5~24時間撹拌することが好ましい。これによりリンおよびモリブデンを含むヘテロポリ酸が好適に生成する。撹拌温度の下限は80℃以上がより好ましく、90℃以上がさらに好ましい。また撹拌温度の上限は130℃以下がより好ましく、110℃以下がさらに好ましい。撹拌時間の下限は1時間以上、上限は12時間以下がより好ましい。
【0019】
(工程(ii))
工程(ii)では、工程(i)で得られた溶液またはスラリー(S1)にX元素の原料化合物を添加して、溶液またはスラリー(S2)を調製する。X元素の原料化合物は、5~80℃の温度範囲で添加することが好ましく、下限は10℃以上、上限は60℃以下であることがより好ましい。
X元素の原料化合物の添加後は、20~120℃の温度で0.5~10時間撹拌することが好ましい。撹拌温度の下限は60℃以上、上限は90℃以下がより好ましい。また撹拌時間の下限は2時間以上、上限は5時間以下がより好ましい。
また、X元素の原料化合物を溶液またはスラリー(S1)に添加した後、遠心分離して上澄み液を得ることで溶液またはスラリー(S2)を調製することが好ましい。これにより、ポリ原子としてX元素が含まれるヘテロポリ酸を、触媒中により多く含有させることができる。遠心分離は、1000~15000rpmの回転数で行うことが好ましく、5000~15000rpmの回転数で行うことがより好ましい。また遠心分離は5~60分間行うことが好ましく、10~60分間行うことがより好ましい。
また遠心分離して得られた上澄み液を、強酸性陽イオン交換樹脂を用いてイオン交換することで溶液またはスラリー(S2)を調製することが好ましい。イオン交換の方法は特段の制限がなく、例えば強酸性陽イオン交換樹脂が充填された容器に、溶液またはスラリー(S2)を通液させる方法が挙げられる。同じ強酸性陽イオン交換樹脂に、溶液またはスラリー(S2)を繰り返し通液させてもよい。また強酸性陽イオン交換樹脂は、溶液またはスラリー(S2)の重量に対して、0.01~100倍の重量を使用することが好ましい。
溶液またはスラリー(S2)のpHは4以下であることが好ましく、3以下であることがより好ましい。pHを調整する方法としては、原料化合物の添加量等を適宜選択し、硝酸、シュウ酸等を適宜添加する等の方法を用いることができる。
【0020】
(工程(iii))
工程(iii)では、前記工程(ii)で得られた溶液またはスラリー(S2)を乾燥して固形物を得る。乾燥方法や乾燥温度等の条件は特に限定されず、所望の乾燥物の形状や大きさにより適宣選択することができる。本実施形態に係る方法における乾燥は、凍結乾燥、減圧乾燥、ドラム乾燥、噴霧乾燥または蒸発乾固等を用いることができるが、凍結乾燥、減圧乾燥、噴霧乾燥が好ましい。これにより、溶液またはスラリー(S2)を低温で乾燥できるため、ヘテロポリ酸の分解を抑制することができる。これらの中でも、凍結乾燥が特に好ましい。
工程(iii)において凍結乾燥を用いる場合、条件は特に限定されないが、通常は溶液またはスラリー(S2)を温度-200~0℃にて凍結した後、凍結乾燥機で圧力5~500Paとし、凍結した溶液またはスラリー(S2)が液体にならないよう昇華させて乾燥を行う。
工程(iii)で得られた固形物は触媒性能を示し、これをメタクロレイン製造用触媒として用いることができるが、さらに、後述する成形や焼成を行うことで触媒としての性能が向上するため好ましい。本実施形態では、これら成形後、焼成後のものを含めて触媒と総称する。
【0021】
(成形工程)
成形工程では、前記工程(iii)で得られた固形物を必要に応じて成形して成形体を
得る。成形方法は特に制限されず、公知の乾式又は湿式の成形方法が適用できる。例えば、打錠成形、プレス成形、押出成形、または造粒成形等が挙げられる。成形品の形状は特に限定されず、例えば、円柱状、リング状、または球状等が挙げられる。また、成形時には触媒前駆体に担体やバインダー等を添加せず、固形物のみを成形することが好ましいが、必要に応じて例えばグラファイト、もしくはタルク等の公知の添加剤、または有機物、もしくは無機物由来の公知のバインダーを添加してもよい。
【0022】
(焼成工程)
前記工程(iii)で得られた固形物、または前記成形工程で得られた成形体を焼成することが、メタクロレイン収率の観点から好ましい。焼成は、例えば空気等の酸素含有ガスおよび不活性ガスの少なくとも一方の流通下で行うことができ、空気等の酸素含有ガス流通下で行われることが好ましい。
ここで、不活性ガスとは触媒活性を低下させない気体のことを示し、例えば窒素、炭酸ガス、またはヘリウム、アルゴン等が挙げられる。これらは一種を用いてもよく、二種以上を混合して使用してもよい。
【0023】
焼成容器の形状は特に制限されないが、断面積が2~100cm2である管状熱処理容器を用いることが好ましい。焼成温度は300~700℃が好ましく、下限は320℃以上、上限は450℃以下がより好ましい。
【0024】
[メタクロレインの製造方法]
本発明の別の実施形態に係るメタクロイレンの製造方法は、上述したメタクロレイン製造用触媒を用いて、イソブチルアルデヒドの酸化脱水素反応によりメタクロレインを製造する工程を含む。また、本発明の別の実施形態に係るメタクロレインの製造方法は、上述した方法により製造されたメタクロレイン製造用触媒を用いて、イソブチルアルデヒドの酸化脱水素反応によりメタクロレインを製造する工程を含む。この方法によれば、高収率でメタクロレインを製造することができる。
【0025】
前記酸化脱水素方法は、反応器内にメタクロレイン製造用触媒を充填し、該反応器へイソブチルアルデヒドと酸素を含む原料ガスを供給することにより行うことができる。前記反応器としては、固定床型反応器を使用することができる。触媒層は1層でもよく、活性の異なる複数の触媒をそれぞれ複数の層に分けて充填してもよい。また、活性を制御するために、触媒を不活性担体により希釈し充填してもよい。
原料ガス中のイソブチルアルデヒドの濃度は特に限定されないが、0.5~20容量%が好ましく、下限は1容量%以上、上限は10容量%以下がより好ましい。またイソブチルアルデヒドは、水、または低級飽和アルデヒド等の本反応に実質的な影響を与えない不純物を少量含んでいてもよい。
【0026】
原料ガス中の酸素の濃度は、イソブチルアルデヒド1モルに対して1~10モルが好ましい。また酸素源としては、経済性の観点から空気が好ましい。必要であれば、空気に純酸素を加えて酸素を富化した気体を用いてもよい。
原料ガスは、イソブチルアルデヒドおよび酸素を、窒素ガス、または炭酸ガス等の不活性ガスで希釈したものであってもよい。さらに、原料ガスに水蒸気を加えてもよい。
【0027】
原料ガスとメタクロレイン製造用触媒を接触させる際、下記式で表されるW/Fが1~1000g・hr/m3以下であることが好ましい。
W/F=(反応器内に充填されたメタクロレイン製造用触媒の質量[g])/(反応器内に供給する原料ガスの速度[m3/hr])
また反応圧力は、0.1~1MPa(G)が好ましい。ただし、(G)はゲージ圧を意味する。反応温度は200~500℃が好ましく、上限は400℃以下であることがより
好ましい。これにより、メタクロレイン製造用触媒中に含有されるヘテロポリ酸が、反応中に安定して構造を維持することができる。
【実施例0028】
以下、実施例および比較例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、「部」は質量部を意味する。
以下の実施例において、遠心分離装置はAS-ONE製AS185、凍結乾燥装置は東京理科器械株式会社製FDU-2200、ICP測定装置はパーキンエルマー社製Optima8300を用いた。
【0029】
(メタクロレイン製造用触媒の組成比)
各元素のモル比率は、メタクロレイン製造用触媒をアンモニア水に溶解した成分をICP発光分析法で分析することによって求めた。またアンモニウムカチオンのモル比率は、メタクロレイン製造用触媒をケルダール法で分析することによって求めた。
【0030】
(FT-IR測定)
FT-IR測定には、NICOLET6700FT-IR(製品名、Thermo electron社製)を用い、透過法によって測定した。まず、錠剤成形機にてKBrをペレット状に成型し、バックグラウンド測定を実施した。次いで、触媒の濃度が0.5~1質量%となるようにKBrで希釈混合し、同様にペレット状に成型して測定を行った。得られた赤外吸収スペクトルに関して、縦軸を吸光度、横軸を波数とし、1200cm-1における吸光度が0となるように水平にベースライン補正を実施した。得られた補正後の赤外吸収スペクトルから、A1/A2を算出した。
【0031】
(原料ガスおよび生成物の分析)
原料ガスおよび生成物の分析は、ガスクロマトグラフィー(装置:島津製作所製GC-2010、カラム:J&W社製DB-FFAP、30m×0.32mm、膜厚1.0μm)を用いて行った。ガスクロマトグラフィーの結果から、イソブチルアルデヒド反応率、メタクロレイン選択率およびメタクロレイン収率を下記式にて求めた。
【0032】
イソブチルアルデヒド反応率(%)=反応したイソブチルアルデヒドのモル数/供給したイソブチルアルデヒドのモル数×100
【0033】
メタクロレイン選択率(%)=生成したメタクロレインのモル数/反応したメタクロレインのモル数×100
【0034】
メタクロレイン収率(%)=メタクロレインの反応率(%)×メタクロレインの選択率(%)/100
【0035】
[実施例1]
リンモリブデン酸(日本無機化学工業株式会社製、P1Mo12)3.5gを常温の蒸留水5mlと混合し、ヘテロポリ酸を含む溶液(S1)を調製した。
次いで、ニオブ酸カリウム(三津和化学薬品株式会社製、K8Nb6O19・16.6H2O)0.37gを常温の蒸留水5mlに溶解し、ニオブ酸カリウム溶液を調製した。該ニオブ酸カリウム溶液を、上記で得られた溶液(S1)に室温で添加し、85℃で3時間加熱した。次いで、得られたスラリーを11000rpmで10分間遠心分離を行い、上澄み液を得ることで、溶液(S2)を調製した。
次いで、得られた溶液(S2)を凍結乾燥して固形物を得た。該固形物の酸素を除く組成は、P1.1Mo12Nb1.1K1.1であった。
【0036】
得られた固形物をメタクロレイン製造用触媒として反応器に充填し、イソブチルアルデヒド1.4容量%、水蒸気10容量%、酸素10容量%、および窒素78.6容量%、から成る原料ガスを、ガス流量2.3m3/sで流通させ、反応温度240℃で、イソブチルアルデヒドの酸化脱水素反応を行った。反応器に充填したメタクロレイン製造用触媒の重量およびW/Fを表1に示す。
得られた生成物を補修し、ガスクロマトグラフィーを用いて分析してイソブチルアルデヒドの反応率、メタクロレインの選択率およびメタクロレインの収率を算出した。得られた結果を表1に示す。
【0037】
[実施例2]
メタクロレイン製造用触媒としてリンバナドモリブデン酸1(日本無機化学工業株式会社製)を用いた。該触媒の酸素を除く組成は、P1.1Mo12V1.1であった。該触媒を用いた以外は、実施例1と同様の方法によりイソブチルアルデヒドの酸化脱水素反応を行った。反応器に充填したメタクロレイン製造用触媒の重量およびW/Fを表1に示す。
得られた生成物を補修し、ガスクロマトグラフィーを用いて分析してイソブチルアルデヒドの反応率、メタクロレインの選択率およびメタクロレインの収率を算出した。得られた結果を表1に示す。
【0038】
[実施例3]
実施例1と同様の方法により、溶液(S1)を調製した。
次いで、遠心分離して得られた上澄み液を、強酸性陽イオン交換樹脂H形(富士フィルム和光純薬株式会社、ダウエックスTM50W50-100)5.0gを用いてイオン交換した以外は、実施例1と同様の方法により、溶液(S2)を調製した。
次いで、得られた溶液(S2)を凍結乾燥して固形物を得た。該固形物の酸素を除く組成は、P1.1Mo12Nb1.1であった。
【0039】
得られた固形物をメタクロレイン製造用触媒として、実施例1と同様の方法によりイソブチルアルデヒドの酸化脱水素反応を行った。反応器に充填したメタクロレイン製造用触媒の重量およびW/Fを表1に示す。
得られた生成物を補修し、ガスクロマトグラフィーを用いて分析してイソブチルアルデヒドの反応率、メタクロレインの選択率およびメタクロレインの収率を算出した。得られた結果を表1に示す。
【0040】
[比較例1]
リンモリブデン酸(日本無機化学工業株式会社製、P1Mo12O40)30gを蒸留水100mlに溶かしたリンモリブデン酸溶液を調製した。次いで、硝酸カリウム(富士フィルム和光純薬株式会社、KNO3)1.5gを蒸留水10mlに溶解し、硝酸カリウム溶液を調製した。該硝酸カリウム溶液を、上記で得られたリンモリブデン酸溶液に室温で添加し、室温で1時間撹拌することで、へテロポリ酸を含むスラリー(S1)を調製した。
次いで、得られたスラリー(S1)を、90℃で蒸発乾固することで固形物を得た。該固形物の酸素を除く組成は、P1Mo12K1であった。
【0041】
得られた固形物をメタクロレイン製造用触媒として、実施例1と同様の方法によりイソブチルアルデヒドの酸化脱水素反応を行った。反応器に充填したメタクロレイン製造用触媒の重量およびW/Fを表1に示す。
得られた生成物を補修し、ガスクロマトグラフィーを用いて分析してイソブチルアルデヒドの反応率、メタクロレインの選択率およびメタクロレインの収率を算出した。得られた結果を表1に示す。
【0042】
【表1】
表1に示されるように、特定の組成比を有するヘテロポリ酸を含む触媒を用いた実施例1~3は、高い収率でメタクロレインを製造することができた。