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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023111509
(43)【公開日】2023-08-10
(54)【発明の名称】気体貯蔵放出化合物
(51)【国際特許分類】
   B01J 20/26 20060101AFI20230803BHJP
   B01J 20/30 20060101ALI20230803BHJP
   B01J 20/34 20060101ALI20230803BHJP
   B01J 20/22 20060101ALI20230803BHJP
   B01D 53/14 20060101ALI20230803BHJP
【FI】
B01J20/26 A
B01J20/30
B01J20/34 E
B01J20/34 H
B01J20/22 A
B01D53/14 100
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022013387
(22)【出願日】2022-01-31
(71)【出願人】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100122954
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷部 善太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100214363
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 達也
(72)【発明者】
【氏名】有村 智朗
【テーマコード(参考)】
4D020
4G066
【Fターム(参考)】
4D020AA01
4D020AA03
4D020AA08
4D020AA10
4D020BA16
4D020BA19
4D020BA21
4D020BB01
4D020BC01
4D020BC02
4D020BC10
4D020CA01
4D020CA02
4G066AB05A
4G066AB05B
4G066AB07A
4G066AB09A
4G066AB10A
4G066AB10B
4G066AB21A
4G066AC21A
4G066AC25A
4G066AC26B
4G066AC33A
4G066AD13A
4G066BA03
4G066BA09
4G066BA16
4G066BA22
4G066BA36
4G066CA27
4G066CA35
4G066CA38
4G066CA39
4G066CA51
4G066DA01
4G066FA03
4G066FA21
4G066FA40
4G066GA01
4G066GA14
4G066GA18
4G066GA40
(57)【要約】      (修正有)
【課題】各種の気体の貯蔵・放出特性に優れる、新規な気体貯蔵放出化合物及び該気体貯蔵放出化合物を含むガス貯蔵放出材料を提供すること。
【解決手段】式(1)及び(2)の構造単位を有する気体貯蔵放出化合物。


(式(1)中、mは0~20の整数。各Rは、アルキル基等。a~cは0~4の整数。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で表される構造単位と、式(2)で表される構造単位とを有する、気体貯蔵放出化合物。
【化1】
【化2】
(式(1)中、mは0から20の整数である。R、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヒドロキシ基、炭素数1~30のアルキル基(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヒドロキシ基の1つ以上でさらに置換されていてもよい)、炭素数1~20のアルコキシ基(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヒドロキシ基の1つ以上でさらに置換されていてもよい)、炭素数2~30のアルケニル基、炭素数3~30のアリール基(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヒドロキシ基、炭素数1~30のアルキル基(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヒドロキシ基の1つ以上でさらに置換されていてもよい)の1つ以上でさらに置換されていてもよい)、炭素数1~20のアシル基、炭素数4~40のアラルキル基(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヒドロキシ基、炭素数1~30のアルキル基(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヒドロキシ基の1つ以上でさらに置換されていてもよい)の1つ以上でさらに置換されていてもよい)、炭素数6~20のヘテロアリール基(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヒドロキシ基、炭素数1~30のアルキル基(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヒドロキシ基の1つ以上でさらに置換されていてもよい)の1つ以上でさらに置換されていてもよい)からなる群より選ばれる1つ以上の基である。a、b及びcは、それぞれ独立に、0~4の整数である。式(1)と式(2)は、アミド結合により結合し、同じ式の構造単位が直接結合しない。)
【請求項2】
前記気体貯蔵放出化合物が、式(1)で表される構造単位6つと、式(2)で表される構造単位6つから構成される六角形構造単位を有する、請求項1に記載の気体貯蔵放出化合物。
【請求項3】
式(3)で表されるジアミン化合物を少なくとも含むポリアミン化合物と、式(4)で表されるトリカルボン酸化合物を少なくとも含むポリカルボン酸化合物とを反応させる、気体貯蔵放出化合物の製造方法。
【化3】
【化4】
(式(3)中、mは0から20の整数である。R、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヒドロキシ基、炭素数1~30のアルキル基(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヒドロキシ基の1つ以上でさらに置換されていてもよい)、炭素数1~20のアルコキシ基(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヒドロキシ基の1つ以上でさらに置換されていてもよい)、炭素数2~30のアルケニル基、炭素数3~30のアリール基(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヒドロキシ基、炭素数1~30のアルキル基(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヒドロキシ基の1つ以上でさらに置換されていてもよい)の1つ以上でさらに置換されていてもよい)、炭素数1~20のアシル基、炭素数4~40のアラルキル基(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヒドロキシ基、炭素数1~30のアルキル基(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヒドロキシ基の1つ以上でさらに置換されていてもよい)の1つ以上でさらに置換されていてもよい)、炭素数6~20のヘテロアリール基(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヒドロキシ基、炭素数1~30のアルキル基(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヒドロキシ基の1つ以上でさらに置換されていてもよい)の1つ以上でさらに置換されていてもよい)からなる群より選ばれる1つ以上の基である。a、b及びcは、それぞれ独立に、0~4の整数である。
式(4)中、X、X及びXは、それぞれ独立に、OH、ハロゲン、OR(Rは1~6のアルキル基であり、複数ある場合はそれぞれ同一でも異なっていてもよい。)又はNHR(Rは1~6のアルキル基であり、複数ある場合はそれぞれ同一でも異なっていてもよい。)である。)
【請求項4】
請求項1又は2に記載の気体貯蔵放出化合物を含む、ガス貯蔵放出材料。
【請求項5】
ガスが、水素、二酸化炭素、窒素、希ガス、炭化水素ガスからなる群より選ばれる1種類以上である、請求項4に記載のガス貯蔵放出材料。
【請求項6】
ガスの貯蔵及び/又は放出が、加圧、減圧、昇温、降温、電位の印加及びエネルギー波の照射からなる群より選ばれる1つ以上の手段を含む方法により行われる、請求項4又は5に記載のガス貯蔵放出材料。
【請求項7】
ガス貯蔵放出材料の形状が、粒子、繊維、フィルム、不織布、織布、多孔質体、成形体である、請求項4~6のいずれかに記載のガス貯蔵放出材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種の気体を貯蔵及び放出することができる気体貯蔵放出化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化のような環境問題を解決するために、これまでの化石燃料に代わる、クリーンなエネルギー源の開発が進められている。このうち、水素は、資源が多様かつ豊富であり、燃焼性能特性・発熱量が良好であり、燃料電池や内燃機関による発電時に二酸化炭素が排出されない低環境負荷であることから、エネルギー源として有望なものの一つとされている。
【0003】
水素をエネルギー源として用いるためには、変動する需要に柔軟に対応して供給を行うことができる、水素の貯蔵・放出システムの構築が必要である。例えば、余剰電力を用いて水を電気分解して得られた水素を、利用施設へ輸送する水素サプライチェーンの構築が必要である。
しかし、水素は常温常圧で気体であるため、現在、タンクやボンベ等の容器を用い高圧水素ガスとして貯蔵されている。そのため、これまで水素を利用する場合、高圧水素や液化水素をタンクローリーにより輸送する必要があった。また、水素貯蔵施設においても、高圧水素ガスタンクなどの大規模なインフラの整備が必要であった。
【0004】
容器を用いた高圧水素ガスの貯蔵・放出システムに代えて、オンサイトで水素を使用する場合、水素と材料間の相互作用により低圧で大量かつ安全に貯蔵・放出できる、水素貯蔵材料を用いた水素貯蔵・放出システムが検討されている。水素貯蔵材料は、水素を選択的かつ可逆的に貯蔵及び放出できる材料である。水素貯蔵材料としては、水素吸蔵合金が有望とされているが、水素貯蔵能力に問題がある。また、不純物ガスによる性能低下や、レアメタルや高純度金属を原材料として使用することに伴うコスト上昇等の点において、改善の余地がある。さらに、水素吸蔵合金は、加工性が悪く、構成するチタンやマンガンなどの密度が4~8g/cmと高いため水素貯蔵材料の重量が大きくなるとともに水素貯蔵時には冷却が、水素放出時には加熱が必要であり、取り扱い性の点で問題がある。
【0005】
水素貯蔵放出化合物の例としては以下のような特許がこれまでも出願されて来た。
特許文献1には、水素化アルミニウムに水を添加し、水素を放出する技術が記載されている。しかしながら、この水素生成反応は、可逆反応ではないために、水素を発生した後に残渣が残り、回収して再利用しなければならないという問題がある。
特許文献2には、多孔性材料の表面に高分子有機化合物を含有する被膜を形成し、多孔性材料の表面に被膜を形成する前及び/又は後に、多孔性材料に水素を取り込ませることで、水素を含有する多孔性材料からなる水素貯蔵材料が記載されている。この水素貯蔵材料は、ポリビニルアルコールバインダーに水素を吸着させるものであり、安価に製造することができ、かつ水素放出性に優れるものであるとされている。しかしながら、この水素貯蔵材料は、水素を取り込ませる際に50気圧以上の圧力が必要であり、さらに水素を吸収するために必要となる時間が1日と長いため実用的なものではない。
特許文献3には、水素化マグネシウムの加水分解を利用するエネルギーシステムであって、水素化マグネシウム貯蔵タンク、蓄電池、温度調整タンクなどの補機類からなる水素発生システムに関する技術について記載されている。しかしながら、特許文献3に記載の水素発生システムは、水酸化マグネシウムが残留物として残ってしまうため、処理費用が必要となりコストが高くなる。
特許文献4には、グラフェンの炭素にホウ素を結合させた化合物において、水素貯蔵能力が大きい旨の記載がある。しかしながら、化合物を得るためには、600℃程度の高温が必要であり、材料合成に多大なエネルギーが必要である。さらに、水素貯蔵を行うためには、50気圧の加圧が必要であることに加え、水素貯蔵の挙動が不規則であるため、水素貯蔵を制御することが困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009-196960号公報
【特許文献2】特開2010-089987号公報
【特許文献3】特表2021-501736号公報
【特許文献4】特表2020-521718号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の解決しようとする課題は、各種の気体の貯蔵・放出特性に優れ、気体の貯蔵・放出に際して必要な加圧・減圧等の条件を温和にすることができる、新規な気体貯蔵放出化合物及び該気体貯蔵放出化合物を含むガス貯蔵放出材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った。この結果、特定の構造単位を有する気体貯蔵放出化合物及び該気体貯蔵放出化合物を含むガス貯蔵放出材料が、各種のガス、特に水素の貯蔵・放出特性に優れており、これを用いることにより上記課題が解決できることを見出した。
【0009】
すなわち、上記課題を解決する本発明には、以下の構成が主に含まれる。
[項1]
式(1)で表される構造単位と、式(2)で表される構造単位とを有する、気体貯蔵放出化合物。
【化1】
【化2】
(式(1)中、mは0から20の整数である。R、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヒドロキシ基、炭素数1~30のアルキル基(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヒドロキシ基の1つ以上でさらに置換されていてもよい)、炭素数1~20のアルコキシ基(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヒドロキシ基の1つ以上でさらに置換されていてもよい)、炭素数2~30のアルケニル基、炭素数3~30のアリール基(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヒドロキシ基、炭素数1~30のアルキル基(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヒドロキシ基の1つ以上でさらに置換されていてもよい)の1つ以上でさらに置換されていてもよい)、炭素数1~20のアシル基、炭素数4~40のアラルキル基(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヒドロキシ基、炭素数1~30のアルキル基(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヒドロキシ基の1つ以上でさらに置換されていてもよい)の1つ以上でさらに置換されていてもよい)、炭素数6~20のヘテロアリール基(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヒドロキシ基、炭素数1~30のアルキル基(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヒドロキシ基の1つ以上でさらに置換されていてもよい)の1つ以上でさらに置換されていてもよい)からなる群より選ばれる1つ以上の基である。a、b及びcは、それぞれ独立に、0~4の整数である。式(1)と式(2)は、アミド結合により結合し、同じ式の構造単位が直接結合しない。)
[項2]
前記気体貯蔵放出化合物が、式(1)で表される構造単位6つと、式(2)で表される構造単位6つから構成される六角形構造単位を有する、項1に記載の気体貯蔵放出化合物。
[項3]
式(3)で表されるジアミン化合物を少なくとも含むポリアミン化合物と、式(4)で表されるトリカルボン酸化合物を少なくとも含むポリカルボン酸化合物とを反応させる、気体貯蔵放出化合物の製造方法。
【化3】
【化4】
(式(3)中、mは0から20の整数である。R、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヒドロキシ基、炭素数1~30のアルキル基(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヒドロキシ基の1つ以上でさらに置換されていてもよい)、炭素数1~20のアルコキシ基(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヒドロキシ基の1つ以上でさらに置換されていてもよい)、炭素数2~30のアルケニル基、炭素数3~30のアリール基(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヒドロキシ基、炭素数1~30のアルキル基(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヒドロキシ基の1つ以上でさらに置換されていてもよい)の1つ以上でさらに置換されていてもよい)、炭素数1~20のアシル基、炭素数4~40のアラルキル基(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヒドロキシ基、炭素数1~30のアルキル基(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヒドロキシ基の1つ以上でさらに置換されていてもよい)の1つ以上でさらに置換されていてもよい)、炭素数6~20のヘテロアリール基(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヒドロキシ基、炭素数1~30のアルキル基(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヒドロキシ基の1つ以上でさらに置換されていてもよい)の1つ以上でさらに置換されていてもよい)からなる群より選ばれる1つ以上の基である。a、b及びcは、それぞれ独立に、0~4の整数である。
式(4)中、X、X及びXは、それぞれ独立に、OH、ハロゲン、OR(Rは1~6のアルキル基であり、複数ある場合はそれぞれ同一でも異なっていてもよい。)又はNHR(Rは1~6のアルキル基であり、複数ある場合はそれぞれ同一でも異なっていてもよい。)である。)
[項4]
項1又は2に記載の気体貯蔵放出化合物を含む、ガス貯蔵放出材料。
[項5]
ガスが、水素、二酸化炭素、窒素、希ガス、炭化水素ガスからなる群より選ばれる1種類以上である、項4に記載のガス貯蔵放出材料。
[項6]
ガスの貯蔵及び/又は放出が、加圧、減圧、昇温、降温、電位の印加及びエネルギー波の照射からなる群より選ばれる1つ以上の手段を含む方法により行われる、項4又は5に記載のガス貯蔵放出材料。
[項7]
ガス貯蔵放出材料の形状が、粒子、繊維、フィルム、不織布、織布、多孔質体、成形体である、項4~6のいずれかに記載のガス貯蔵放出材料。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、各種の気体の貯蔵・放出特性に優れた新規な気体貯蔵放出化合物及び該気体貯蔵放出化合物を含むガス貯蔵放出材料が提供される。
本発明の気体貯蔵放出化合物及び該気体貯蔵放出化合物を含むガス貯蔵放出材料は、特に、水素貯蔵・放出特性が非常に優れている。
本発明の気体貯蔵放出化合物及び該気体貯蔵放出化合物を含むガス貯蔵放出材料は、気体の貯蔵・放出に際して必要な加圧・減圧等の条件を温和にすることができるため、酸化グラフェン等の炭素系材料を用いた場合と比較して、加圧や減圧等を行う周辺機器類のサイズ等を小さくすることが可能である。さらに、建物内部に安全に水素を貯蔵することが可能となる。
本発明の気体貯蔵放出化合物及び該気体貯蔵放出化合物を含むガス貯蔵放出材料は、水素吸蔵合金よりも水素を多量に貯蔵できて密度が低い。また、水素吸蔵合金は、水素を貯蔵させる場合に冷却が、放出させる場合に加温が、それぞれ必要になるが、本発明の気体貯蔵放出化合物及び該気体貯蔵放出化合物を含むガス貯蔵放出材料の場合は、水素を貯蔵させる場合の冷却時や放出させる際の加温時に必要とするエネルギーが小さく、水素貯蔵・放出の制御が容易である。
【0011】
本発明の気体貯蔵放出化合物及び該気体貯蔵放出化合物を含むガス貯蔵放出材料は、市販の化合物原料を用い、簡便な合成方法により得られる高分子材料であることから、安価で汎用性が高い。また、水素吸蔵合金よりも密度が低い高分子材料であるから、取扱性に優れ、効率の良い水素輸送が可能となる。さらに、水素吸蔵合金を用いた場合、水素を貯蔵させる場合に冷却が必要であり、放出させる際に加温が必要になるが、本発明の気体貯蔵放出化合物及び該気体貯蔵放出化合物を含むガス貯蔵放出材料は、水素の貯蔵・放出時における、加熱冷却、加圧減圧等の条件を温和なものにできることから、低いエネルギー利用下にて使用できる。
そして、余剰電力により水を電気分解して得られた水素を、高分子貯蔵タンク内部に収着させておき、そのタンクをトラックに積載し、水素利用施設へ輸送する水素サプライチェーンを安全に安価で構築することが可能である。その際、本発明の気体貯蔵放出化合物及び該気体貯蔵放出化合物を含むガス貯蔵放出材料は、軽量な高分子材料から構成されているので、輸送時の燃料費の軽減につながり、取扱性も良好である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の気体貯蔵放出化合物を含むガス貯蔵放出材料と、水素吸蔵合金との水素貯蔵・放出特性を示す図。
図2】本発明の気体貯蔵放出化合物の、ゲルパーミュエーションクロマトグラフィー(GPC)によるGPC挙動を示す図(クロマトグラム)。
図3】本発明の気体貯蔵放出化合物の表面のFE-SEM(電界放出型走査電子顕微鏡)写真。
図4】本発明の気体貯蔵放出化合物の、示差走査熱量計(Differential Scanning Calorimetry、DSC)を用いた昇温時の吸熱挙動を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の気体貯蔵放出化合物及びそれを含むガス貯蔵放出材料について説明する。
[気体貯蔵放出化合物]
本発明の気体貯蔵放出化合物は、式(1)で表される構造単位と、式(2)で表される構造単位とを有している。
【化5】
【化6】
(式(1)中、mは0から20の整数である。R、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヒドロキシ基、炭素数1~30のアルキル基(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヒドロキシ基の1つ以上でさらに置換されていてもよい)、炭素数1~20のアルコキシ基(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヒドロキシ基の1つ以上でさらに置換されていてもよい)、炭素数2~30のアルケニル基、炭素数3~30のアリール基(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヒドロキシ基、炭素数1~30のアルキル基(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヒドロキシ基の1つ以上でさらに置換されていてもよい)の1つ以上でさらに置換されていてもよい)、炭素数1~20のアシル基、炭素数4~40のアラルキル基(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヒドロキシ基、炭素数1~30のアルキル基(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヒドロキシ基の1つ以上でさらに置換されていてもよい)の1つ以上でさらに置換されていてもよい)、炭素数6~20のヘテロアリール基(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヒドロキシ基、炭素数1~30のアルキル基(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヒドロキシ基の1つ以上でさらに置換されていてもよい)の1つ以上でさらに置換されていてもよい)からなる群より選ばれる1つ以上の基である。a、b及びcは、それぞれ独立に、0~4の整数である。式(1)と式(2)は、アミド結合により結合し、同じ式の構造単位が直接結合しない。)
【0014】
式(1)で表される構造単位は、例えば、式(3)で表されるジアミン化合物に基づくものとすることができる。
【化7】
(式(3)中、mは0から20の整数である。R、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヒドロキシ基、炭素数1~30のアルキル基(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヒドロキシ基の1つ以上でさらに置換されていてもよい)、炭素数1~20のアルコキシ基(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヒドロキシ基の1つ以上でさらに置換されていてもよい)、炭素数2~30のアルケニル基、炭素数3~30のアリール基(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヒドロキシ基、炭素数1~30のアルキル基(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヒドロキシ基の1つ以上でさらに置換されていてもよい)の1つ以上でさらに置換されていてもよい)、炭素数1~20のアシル基、炭素数4~40のアラルキル基(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヒドロキシ基、炭素数1~30のアルキル基(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヒドロキシ基の1つ以上でさらに置換されていてもよい)の1つ以上でさらに置換されていてもよい)、炭素数6~20のヘテロアリール基(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヒドロキシ基、炭素数1~30のアルキル基(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヒドロキシ基の1つ以上でさらに置換されていてもよい)の1つ以上でさらに置換されていてもよい)からなる群より選ばれる1つ以上の基である。a、b及びcは、それぞれ独立に、0~4の整数である。)
【0015】
本発明において、式(1)、式(3)中のmは、0~20の整数、好ましくは1~10の整数、特に好ましくは1~5の整数であることが好ましい。mが20超の整数の場合、気体貯蔵放出特性が低下するおそれがある。
本発明において、式(1)で表される構造単位は、例えば、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル(m=0)、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン(m=1)、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]エーテル(m=2)、1,4-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェノキシ]ベンゼン(m=3)、3,3’-ジフロロ-4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、1,4-ビス(3-メチル-4-アミノフェノキシ)ベンゼン、HN-(Ph-O)-Ph-NH、HN-(Ph-O)-Ph-NH、HN-(Ph-O)-Ph-NH、HN-(Ph-O)-Ph-NH、HN-(Ph-O)-Ph-NH、HN-(Ph-O)-Ph-NH、HN-(Ph-O)11-Ph-NH、HN-(Ph-O)13-Ph-NH、HN-(Ph-O)15-Ph-NH、HN-(Ph-O)17-Ph-NH、HN-(Ph-O)19-Ph-NH、等(式中、Phは、1,4-フェニレン基であり、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヒドロキシ基、炭素数1~30のアルキル基(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヒドロキシ基の1つ以上でさらに置換されていてもよい)、炭素数1~20のアルコキシ基(フッ素原子、塩素原子、臭素原子の1つ以上でさらに置換されていてもよい)、炭素数3~30のアリール基(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヒドロキシ基、炭素数1~30のアルキル基(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヒドロキシ基の1つ以上でさらに置換されていてもよい)の1つ以上でさらに置換されていてもよい)、炭素数1~20のアシル基、炭素数4~40のアラルキル基(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヒドロキシ基、炭素数1~30のアルキル基(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヒドロキシ基の1つ以上でさらに置換されていてもよい)の1つ以上でさらに置換されていてもよい)、炭素数6~20のヘテロアリール基(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヒドロキシ基、炭素数1~30のアルキル基(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヒドロキシ基の1つ以上でさらに置換されていてもよい)の1つ以上で置換されていてもよい)からなる群より選ばれる1種類以上の化合物から得ることができる。これらのジアミン化合物は、市販品を用いてもよく、また合成して得ることができる。
本発明においては、特に、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル(m=0)、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン(m=1)、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]エーテル(m=2)、1,4-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェノキシ]ベンゼン(m=3)、ビス{4-[4-(4-アミノフェノキシ)フェノキシ]フェニル}エーテル(m=4)、3,3’-ジフロロ-4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、1,4-ビス(3-メチル-4-アミノフェノキシ)ベンゼン等からなる群より選ばれる1種類以上のジアミン化合物を用いることが好ましい。
【0016】
式(2)で表される構造単位は、例えば、式(4)で表されるトリカルボン酸化合物又はその反応性誘導体から得ることができる。
【化8】
(式(4)中、X、X及びXは、それぞれ独立に、OH、ハロゲン、OR(Rは1~6のアルキル基であり、複数ある場合はそれぞれ同一でも異なっていてもよい。)又はNHR(Rは1~6のアルキル基であり、複数ある場合はそれぞれ同一でも異なっていてもよい。)である。)
【0017】
式(4)で表される化合物は、トリメシン酸(1,3,5-ベンゼントリカルボン酸)又はその反応性誘導体である。式(2)で表される構造単位を得るために用いられる式(4)で表される化合物は、市販品を用いてもよく、また合成して得ることができる。本発明においては、反応性等の観点から、酸ハロゲン化物(特に、酸塩化物)を用いることが好ましい。
【0018】
本発明の気体貯蔵放出化合物は、式(1)及び(2)で表される構造単位以外に、共重合単位を含んでいてもよい。
本発明の気体貯蔵放出化合物が含んでいてもよい共重合単位としては、例えば、次の式(5)~(7)で表され、式(1)又は(2)で表される構造単位以外のものがあげられる。
-HN-R(-NH-) ・・・(5)
-OC-R(-CO-) ・・・(6)
(-HN-)(-CO-) ・・・(7)
(式(5)~(7)中、wは1~3の整数、xは1~3の整数、yは1又は2、zは1又は2、Rはw+1価の有機基、Rはx+1価の有機基、Rはy+z価の有機基である。なお、式(5)は式(1)と同じではなく、式(6)は式(2)と同じではない。)
なお、式(1)、式(2)、式(5)~(7)で表される構造単位は、それぞれ、アミド結合(-HN-CO-又は>N-CO-)を形成することで結合している。
本発明において、式(5)で表される構造単位は、式(1)で表される構造単位を構成しないポリアミン化合物から、式(6)で表される構造単位は、式(2)で表される構造単位を構成しないポリカルボン酸又はその反応性誘導体から、式(7)で表される構造単位は、(ジ)アミノ(ジ)カルボン酸、その反応性誘導体又はラクタムから、それぞれ得ることができる。
【0019】
、R及びRとしては、それぞれ独立に、例えば、炭素数2~30の2価の脂肪族炭化水素基(例えば、それぞれ独立に、-(CH-、-(CH-、-CH(CH)CH-、-CH-C(CH-CH-、-(CH-、-(CH-、-(CH-、-(CH10-、-(CH12-、-(CH18-、-(CH24-等)、炭素数3~20の2価の脂環族炭化水素基、炭素数6~20の2価の芳香族炭化水素基及び炭素数6~20でN及び/又はO及び/又はSを有する芳香族複素環基があげられる。好ましくは、それぞれ独立に、炭素数2~6のアルキレン基、フェニレン基等があげられる。
【0020】
式(5)中のw+1価の有機基であるRとしては、例えば、1,4-ジアミノベンゼン、1,3-ジアミノベンゼン、1,2-ジアミノベンゼン、1,5-ジアミノナフタレン、1,8-ジアミノナフタレン、2,3-ジアミノナフタレン、2,6-ジアミノトルエン、2,4-ジアミノトルエン、3,4-ジアミノトルエン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノ-1,2-ジフェニルエタン、3,3’-ジアミノジフェニルメタン、3,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノベンゾフェノン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジアミノベンゾフェノン、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン等の芳香族ジアミン;エチレンジアミン、1,3-プロパンジアミン、1,2-プロパンジアミン、1,4-ブタンジアミン、2,2-ジアミノブタン、1,6-ヘキサンジアミン、1,7-ヘプタンジアミン、1,8-オクタンジアミン、1,9-ノナンジアミン、1,10-デカメチレンジアミン、1,12-ドデカメチレンジアミン、メタキシレンジアミン等の脂肪族ジアミン;ピペラジン等の複素環ジアミン;2,2-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、9,9-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)フルオレン、2,2-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン等のポリアミンフェノール;1,2,4-トリアミノベンゼン、3,4,4’-トリアミノジフェニルエーテル、トリス(2-アミノエチル)アミン、トリス(3-アミノトリメチレン)アミン、トリス(4-アミノブチル)アミン、トリス(6-アミノヘキシル)アミン、トリス(アミノプロピル)アミン等の多官能アミン等からなる群より選ばれる1種類以上のポリアミン化合物から誘導される基が好ましい。
【0021】
式(6)中のx+1価の有機基であるRとしては、例えば、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、ベンゾフェノン-4,4’-ジカルボン酸、4,4’-ビフェニルジカルボン酸、2,7-ピレンジカルボン酸等の芳香族二塩基酸;コハク酸、メチルマロン酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ヘキサデカ二酸、ペンタデカン二酸、ヘキサデセン二酸、オクタデカ二酸、オクタデセン二酸、エイコサン二酸、エイコセン二酸、ドコサン二酸、ジグリコール酸、2,2,4-/2,4,4-トリメチルアジピン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、トリデカン二酸、テトラデカン二酸、シュウ酸、マレイン酸、フマル酸、りんご酸、酒石酸、チオりんご酸、ジグリコール酸等の脂肪族二塩基酸;1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロペンタンジカルボン酸、ジシクロヘキサンメタン-4,4’-ジカルボン酸、ノルボルナンジカルボン酸等の脂環族二塩基酸;トリメリット酸、1,2,3-ベンゼントリカルボン酸、ヘミリット酸、1,2,4-ナフタレントリカルボン酸、1,4,5-ナフタレントリカルボン酸、1,3,6-ナフタレントリカルボン酸又は2,3,6-ナフタレントリカルボン酸、1,2,8-ナフタレントリカルボン酸、2,3,6-アントラセントリカルボン酸、3,4,4’-ベンゾフェノントリカルボン酸、3,4,4’-ビフェニルエーテルトリカルボン酸、3,4,4’-ビフェニルトリカルボン酸、2,3,2’-ビフェニルトリカルボン酸、3,4,4’-ビフェニルメタントリカルボン酸、3,4,4’-ビフェニルスルホントリカルボン酸、水添トリメリット酸、ピロメリット酸、水添ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸等からなる群より選ばれる1種類以上のポリカルボン酸化合物又はその反応性誘導体(酸ハロゲン化物、エステル化物、アミド化物、酸無水物等)から誘導される基が好ましい。
【0022】
式(7)中のy+1価の有機基であるRとしては、例えば、7-アミノヘプタン酸、8-アミノオクタン酸、9-アミノノナン酸、10-アミノカプリン酸、11-アミノウンドデカン酸、アミノ安息香酸、ジアミノ安息香酸、1,5-ジアミノ-2,4,-ジカルボキシルベンゼン、ε-カプロラクタム、ω-エナントラクタム、ω-ウンデカラクタム、ω-ラウロラクタム、α-ピロリドン、α-ピペリドン等からなる群より選ばれる1種類以上の(ジ)アミノ(ジ)カルボン酸、その反応性誘導体又はラクタムから誘導される基が好ましい。
【0023】
本発明の気体貯蔵放出化合物は、式(1)で表される構造単位及び式(2)で表される構造単位のみから構成されていてもよい。また、式(1)で表される構造単位及び式(2)で表される構造単位に加えて、式(5)~(7)で表される構造単位を1種類以上含んでいてもよい。
気体貯蔵放出化合物中の全構造単位(式(1)で表される構造単位、式(2)で表される構造単位、式(5)で表される構造単位、式(6)で表される構造単位及び式(7)で表される構造単位、以下、これらをまとめて「全構造単位」という場合がある。)の合計量に対する、式(1)で表される構造単位の含有量は、例えば1モル%以上、好ましくは5モル%以上、より好ましくは10モル%以上であり、例えば60モル%以下、好ましくは50モル%以下である。1モル%未満又は60モル%超の場合には、気体貯蔵放出特性が低下するおそれがある。
【0024】
気体貯蔵放出化合物中の全構造単位の合計量に対する、式(2)で表される構造単位の含有量は、例えば1モル%以上、好ましくは5モル%以上、より好ましくは10モル%以上であり、例えば60モル%以下、好ましくは50モル%以下である。1モル%未満又は60モル%超の場合には、高分子内部の気体包摂空間が縮小するため気体貯蔵放出特性が低下するおそれがある。
【0025】
気体貯蔵放出化合物中の全構造単位の合計量に対する、式(5)で表される構造単位の含有量は、例えば30モル%以下、好ましくは20モル%以下、より好ましくは10モル%以下である。30モル%超の場合には、高分子構造と気体分子との相互作用が弱くなるために気体貯蔵放出特性が低下するおそれがある。
気体貯蔵放出化合物中の全構造単位の合計量に対する、式(6)で表される構造単位の含有量は、例えば30モル%以下、好ましくは20モル%以下、より好ましくは10モル%以下である。30モル%超の場合には、高分子内部における分子骨格の熱振動が大きくなり気体分子を包摂するメカニズムが効果を発揮しなくなるため、気体貯蔵放出特性が低下するおそれがある。
気体貯蔵放出化合物中の全構造単位の合計量に対する、式(7)で表される構造単位の含有量は、例えば40モル%以下、好ましくは20モル%以下、より好ましくは10モル%以下である。40モル%超の場合には、高分子構造が容易に酸化分解されるようになるため、気体貯蔵放出特性が低下するおそれがある。
【0026】
本発明の気体貯蔵放出化合物の重量平均分子量は、特に限定されないが、例えば5,000以上、好ましくは10,000以上であり、例えば3,000,000以下、好ましくは2,000,000以下、より好ましくは1,500,000以下である。重量平均分子量が5,000未満の場合、気体貯蔵放出化合物が液状になるおそれがあり、気体が気体貯蔵放出化合物の表面のみに吸着されることから貯蔵放出能力が低下するおそれがある。重量平均分子量が3,000,000を超えると、水素ガスによる脆性を発現するおそれがあり、気体貯蔵放出化合物の化学的安定性が失われるおそれがある。
【0027】
[気体貯蔵放出化合物の製造方法]
本発明の気体貯蔵放出化合物は、少なくとも、式(3)で表される脂環族ジアミン化合物を含むポリアミン成分と、式(4)で表される脂肪族ジカルボン酸化合物又はその反応性誘導体を含むポリカルボン酸成分とを、公知のポリアミド重合反応手段を用いて反応させて得ることができる。
【0028】
【化9】
(式(3)中、mは0から20の整数である。R、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヒドロキシ基、炭素数1~30のアルキル基(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヒドロキシ基の1つ以上でさらに置換されていてもよい)、炭素数1~20のアルコキシ基(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヒドロキシ基の1つ以上でさらに置換されていてもよい)、炭素数2~30のアルケニル基、炭素数3~30のアリール基(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヒドロキシ基、炭素数1~30のアルキル基(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヒドロキシ基の1つ以上でさらに置換されていてもよい)の1つ以上でさらに置換されていてもよい)、炭素数1~20のアシル基、炭素数4~40のアラルキル基(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヒドロキシ基、炭素数1~30のアルキル基(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヒドロキシ基の1つ以上でさらに置換されていてもよい)の1つ以上でさらに置換されていてもよい)、炭素数6~20のヘテロアリール基(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヒドロキシ基、炭素数1~30のアルキル基(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヒドロキシ基の1つ以上でさらに置換されていてもよい)の1つ以上でさらに置換されていてもよい)からなる群より選ばれる1つ以上の基である。a、b及びcは、それぞれ独立に、0~4の整数である。)
【0029】
【化10】
(式(4)中、X、X及びXは、それぞれ独立に、OH、ハロゲン、OR(Rは1~6のアルキル基であり、複数ある場合はそれぞれ同一でも異なっていてもよい。)又はNHR(Rは1~6のアルキル基であり、複数ある場合はそれぞれ同一でも異なっていてもよい。)である。)
【0030】
<ポリアミン成分>
ポリアミン成分に含まれる式(3)で表されるジアミン化合物は、前記式(1)で表される構造単位を構成する、式(3)で表されるジアミン化合物と同じものである。
また、ポリアミン成分に含まれていてもよい、式(3)で表されるジアミン化合物以外のポリアミン又はその反応性誘導体は、例えば、前記式(5)で表される構造単位を構成するポリアミン化合物である。
【0031】
ポリアミン成分中における、式(3)で表されるジアミン化合物の含有量は、例えば10モル%以上、好ましくは50モル%以上であり、100モル%以下である。10モル%未満であると、高分子構造中における気体貯蔵空間が縮小するため、気体貯蔵放出特性が低下するおそれがある。
【0032】
<ポリカルボン酸成分>
ポリカルボン酸成分に含まれる式(4)で表されるトリカルボン酸化合物(トリメシン酸)又はその反応性誘導体は、式(2)で表される構造単位を構成する式(4)で表されるトリカルボン酸化合物と同じものである。本発明においては、式(4)で表されるトリカルボン酸化合物又はその反応性誘導体として、トリカルボン酸ハロゲン化物を用いることが、反応性等の点から好ましい。
また、ポリカルボン酸成分に含まれていてもよい、式(4)で表されるトリカルボン酸化合物又はその反応性誘導体以外のポリカルボン酸又はその反応性誘導体は、例えば、前記式(6)で表される構造単位を構成するポリカルボン酸化合物である。
【0033】
ポリカルボン酸成分中における、式(4)で表されるトリカルボン酸化合物又はその反応性誘導体の含有量は、例えば10モル%以上、好ましくは50モル%以上であり、100モル%以下である。10モル%未満であると、高分子構造中における気体貯蔵空間が縮小するため、気体貯蔵放出特性が低下するおそれがある。
【0034】
<その他の反応成分>
本発明においては、ポリアミド重合反応の際には、ポリカルボン酸成分及びポリアミン成分以外に、必要に応じて、(ジ)アミノ(ジ)カルボン酸化合物(ジアミノカルボン酸化合物、ジアミノジカルボン酸化合物、アミノジカルボン酸化合物)、ラクタム等をその他の反応成分として用いることができる。(ジ)アミノ(ジ)カルボン酸及びラクタムは、例えば、式(7)で表される構造単位を構成する(ジ)アミノ(ジ)カルボン酸及びラクタムである。
【0035】
<各成分の反応比率>
本発明において、式(3)で表されるジアミン化合物を含むポリアミン成分と、式(4)で表されるトリカルボン酸化合物又はその反応性誘導体を含むポリカルボン酸成分との反応モル比は、式(3)で表されるジアミン化合物を含むポリアミン成分1モルに対して、式(4)で表されるトリカルボン酸化合物又はその反応性誘導体を含むポリカルボン酸成分が、例えば0.8モル以上、好ましくは0.9モル以上、より好ましくは0.95モル以上であり、例えば1.7モル以下、好ましくは1.6モル以下、より好ましくは1.45モル以下である。式(4)で表されるトリカルボン酸化合物又はその反応性誘導体を含むポリカルボン酸成分の量が1.7モル超又は0.8モル未満であると、気体貯蔵放出化合物の分子量が十分に大きくならず、気体貯蔵放出特性が低下するおそれがある。
【0036】
[重合方法]
本発明において、少なくとも、式(3)で表されるジアミン化合物を含むポリアミン成分と、式(4)で表されるトリカルボン酸化合物又はその反応性誘導体を含むポリカルボン酸成分とを反応させる方法としては、公知のポリアミド重合反応手段を用いることができる。
例えば、
(i)式(4)で表されるトリカルボン酸化合物又はその反応性誘導体を含むポリカルボン酸成分としてカルボン酸塩化物を用い、式(3)で表されるジアミン化合物を含むポリアミン成分と反応させる方法、
(ii)式(4)で表されるトリカルボン酸化合物又はその反応性誘導体を含むポリカルボン酸成分としてカルボン酸エステル化物を用い、金属触媒存在下において式(3)で表されるジアミン化合物を含むポリアミン成分と反応させる方法、
(iii)式(4)で表されるトリカルボン酸化合物又はその反応性誘導体を含むポリカルボン酸成分としてポリカルボン酸を用い、カルボジイミド触媒存在下において式(3)で表されるジアミン化合物を含むポリアミン成分と反応させる方法、
等があげられる。
本発明においては、式(4)で表されるトリカルボン酸化合物又はその反応性誘導体をカルボン酸塩化物とし、式(3)で表されるジアミン化合物を含むポリアミン成分と反応させる方法を用いることが好ましい。
【0037】
本発明の気体貯蔵放出化合物は、式(1)で表される構造単位及び式(2)で表される構造単位を含むもので、特に、ベンゼン環が直鎖状に結合した構成プレポリマーがさらにアミド結合することによって六角形構造単位を繰返し単位として含むポリマーが生成する。この六角形構造単位は、2~5nmの内部空間(包摂内部空間)を備えており、当該内部空間(包摂内部空間)に気体、例えば、水素分子(水素ガス)が相互作用を維持しながら収着されることにより、気体、例えば、水素分子(水素ガス)を貯蔵放出する機能が発現するのではないかと推測されるが、この推測により本発明は何ら限定されない。
【0038】
[ガス貯蔵放出材料]
本発明のガス貯蔵放出材料は、前記気体貯蔵放出化合物の1種類以上を1~100質量%、好ましくは10~100質量%、より好ましくは50~100質量%含んでいる。前記気体貯蔵放出化合物の含有量が1質量%未満であると、ガス貯蔵特性を十分に発揮することができない場合がある。
本発明のガス貯蔵放出材料に含まれていてもよい、式(1)及び(2)で表される構造単位を有する気体貯蔵放出化合物以外の成分としては、例えば、樹脂、充填剤、各種添加剤等をあげることができる。
【0039】
樹脂としては、特に限定されないが、例えば、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ウレタン系樹脂等があげられる。充填剤としては、特に限定されないが、例えば、シリカ、タルク、クレー、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化チタン、ガラスフレーク、炭素繊維、ガラス繊維、金属繊維、有機繊維、有機ナノファイバー、無機ナノファイバー、金属ナノファイバー等があげられる。各種添加剤としては、特に限定されないが、例えば、有機顔料、無機顔料、染料等の着色剤、ゼオライトや活性炭等の吸着剤、可塑剤、抗菌剤、導電材、酸化防止剤等があげられる。
【0040】
ガス貯蔵放出材料の形状は、任意の形状とすることができる。例えば、粒子、繊維、フィルム、不織布、織布、多孔質体、成形体等のいずれかとすることができる。
粒子である場合は、例えば、平均粒子径0.1μm~20mmの範囲で任意に調節することができる。本発明におけるガス貯蔵放出材料の平均粒子径は、レーザー回折散乱式粒度分布測定法による累積体積50容量%における体積基準累積粒子径D50の値である。
繊維である場合は、例えば、長さ1mm~3m、直径0.1mm~5mm、デニール数0.5d~20dの範囲で任意に調節することができる。
フィルムである場合、例えば、厚さ2μm~5mmの範囲で任意に調整することができる。フィルムの幅及び長さは、任意の大きさとすることができる
不織布又は織布である場合は、例えば、目付5g/m~200g/mの範囲であり、通気度において5cm/cm・s~100cm/cm・sの範囲を任意に調整することができる。
多孔質体である場合は、例えば、見かけ密度0.1g/m~1.2g/m、空隙率5~80vol%の範囲で任意に調整することができる。
成形体である場合は、例えば、押出成形、射出成形等の任意の成形手段を用い、任意の形状の成形体に調整することができる。
本発明のガス貯蔵放出材料は、粒子、多孔質体、不織布、フィルム、繊維の形状であることが、製造の容易性、水素等とのガスと接触する面積の調整、取り扱い性の向上等の点から好ましい。
【0041】
[気体(ガス)]
本発明の気体貯蔵放出化合物又はガス貯蔵放出材料が貯蔵・放出する気体(ガス)は、特に限定されない。例えば、水素、二酸化炭素、窒素、希ガス(ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、ラドン)、炭化水素ガス(メタン、エタン、プロパン、ブタン、アセチレン等)、酸素、ハロゲンガス(フッ素、塩素)等からなる群より選ばれる1種類以上があげられる。好ましくは、水素、窒素、二酸化炭素、アルゴン、メタン、エタン、プロパン、アセチレンからなる群より選ばれる1種類以上であり、特に好ましくは水素である。
【0042】
[気体の貯蔵・放出方法]
本発明の気体貯蔵放出化合物又はガス貯蔵放出材料における気体(ガス)の貯蔵(会合)・放出(離脱)方法は、気体貯蔵放出化合物又はガス貯蔵放出材料、特に、水素貯蔵材料において、水素を貯蔵・放出させる公知の方法を用いることができる。
例えば、加圧、減圧、昇温(加熱)、降温(冷却)、電位の印加、紫外線、赤外線、電磁波などのエネルギー波の照射からなる群より選ばれる1つ以上の手段を含む方法があげられる。
【0043】
貯蔵手段として、好ましくは、加圧、減圧、昇温(加熱)、降温(冷却)、電位の印加、紫外線の照射からなる群より選ばれる1つ以上の手段を含む方法があげられ、より好ましくは、加圧、減圧、昇温(加熱)、降温(冷却)からなる群より選ばれる1つ以上の手段を含む方法があげられる。本発明において、特に好ましくは、加圧手段を含む方法が用いられる。
放出手段として、好ましくは、減圧、加圧、昇温(加熱)、降温(冷却)、電位の印加、紫外線の照射からなる群より選ばれる1つ以上の手段を含む方法があげられ、より好ましくは、減圧、加圧、昇温(加熱)、降温(冷却)からなる群より選ばれる1つ以上の手段を含む方法があげられる。本発明において、特に好ましくは、減圧手段を含む方法が用いられる。
本発明の気体貯蔵放出化合物又はガス貯蔵放出材料における気体(ガス)の貯蔵(会合)・放出(離脱)手段は、上記の手段を用いる際に温和な条件(例えば、水素吸蔵合金と比較して、温和な条件)であっても、気体(ガス)の貯蔵(会合)・放出(離脱)を行うことができ、非常に有用である。
【0044】
[気体貯蔵放出化合物又はガス貯蔵放出材料の用途]
本発明の気体貯蔵放出化合物又はガス貯蔵放出材料は、気体(ガス)を、常温(25℃±20℃)で大気圧下において安全に長期間貯蔵でき、貯蔵された気体(ガス)を簡便な手段で放出させることができる。本発明の気体貯蔵放出化合物又はガス貯蔵放出材料は、特に水素を、常温(25℃±20℃)で大気圧下において安全に長期間貯蔵でき、貯蔵された水素を簡便な手段で放出できることから、水素貯蔵材料として有用である。
また、水素吸蔵合金が水素の貯蔵・放出特性を示さない大気圧未満の低圧状態においても、水素の貯蔵・放出特性に優れるものであるから、この点からも、水素貯蔵材料として有用である。
さらに、成形性に優れることから任意の形状に容易に加工することが可能であり、軽量であることから、運搬・保存を容易に行うことができる。
【0045】
例えば、風力発電所で発電した電気を使い、水電解水素製造装置で水素を製造し、車載コンテナに収納した本発明の気体貯蔵放出化合物又はガス貯蔵放出材料に水素を貯蔵する。水素を貯蔵した気体貯蔵放出化合物又はガス貯蔵放出材料が収納されたコンテナを車両に搭載し、水素貯蔵材料タンクと純水素型燃料電池とを設備として有する温浴施設に運び、気体貯蔵放出化合物又はガス貯蔵放出材料からこれら設備に水素を移送する。
燃料電池で発生する電気と温水は温浴施設で使用するとともに、水素移送時に「熱のカスケード利用」を行い、水素を貯蔵する側で発生する熱を、放出する側の加熱に利用する。また、水素貯蔵材料タンクから水素を放出するために必要な熱は、建物からの低温排熱を利用しエネルギー効率を向上させることができる。
【実施例0046】
以下に実施例をあげて本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明は、実施例により何ら限定されるものではない。
【0047】
[気体貯蔵放出化合物の合成]
<実施例1>
無水N,N-ジメチルホルムアミド200mlに、1,3,5-ベンゼントリカルボニルトリクロリド(分子量265)30g(0.11mol)と、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン(分子量292)100g(0.34mol)とを加え、25℃にて6時間撹拌した。次いで、メタノール50mlを加えた後、沈殿物をグラスフィルターG3で吸引ろ過して得た後に1時間風乾した。得られた固形物を、ヤマト科学社製真空乾燥機(DP200)を用いて80℃で1日真空乾燥を行い、気体貯蔵放出化合物を得た。
【0048】
<構造分析>
(FT-IR)
得られた気体貯蔵放出化合物のFT-IRを、日本分光社製フーリエ変換赤外分光光度計(FT/IR-6800)を用い、一回反射ATR法により測定した。結果は以下のとおりである。
CO:1738,1780(cm-1
CH:1498,2936,2978(cm-1
NH:1763,1789(cm-1
COC:1646,1687(cm-1
ベンゼン環:3061,3082(cm-1
【0049】
(重量平均分子量)
得られた気体貯蔵放出化合物について、島津製作所社製ゲルパーミュエーションクロマトグラフィー(GPC)装置に、島津ジーエルシー社製HPLCカラム(Shim-pack GPC-805)を装着し、N,N’-ジメチルホルムアミド溶媒に溶解させた気体貯蔵放出化合物を注入し、カラム保持時間を測定した。本発明の気体貯蔵放出化合物の、GPC挙動を示す図(クロマトグラム)を図1に示す。
得られたカラム保持時間から、分子量が判明しているポリスチレンを測定することで予め作成した検量線と比較計算して、ポリスチレン換算分子量を算出した。
【0050】
なお、島津製作所社製ゲルパーミュエーションクロマトグラフィー装置の装置構成は以下のとおりである。
・システム
Nexera GPCシステム
・システムコントローラ
CBM-40
・送液ユニット
LC40D
・オンライン脱気ユニット
DGU-403
・オートサンプラ
SIL-40C
・カラムオーブン
CTO-40C
・検出器
RID-20ABLK、LabSolutionsGPCソフトウエア、LCワークステーションPC、LabSolutions LC Single LC
・カラム
Shim-pack GPC-805
・溶媒
N,N’-ジメチルホルムアミド
【0051】
(構造分析の結果)
これらFT-IR及び重量平均分子量測定の結果より、実施例に係る気体貯蔵放出化合物は、重量平均分子量が202,000であり、下記の2種類の構造単位(1A)及び(2A)を有し、これらの構造単位がアミド結合しており、さらに、式(8)で表される六角形構造単位を有する高分子が合成されていることが確認された。
【化11】
【化12】
【化13】
【0052】
(式(8)中、Aは、下記式(9)
【化14】
で表される基である。)
【0053】
<水素貯蔵放出能力の評価>
水素貯蔵放出能力の評価は、PCT(Pressure Composition Temperature)法を用いた。
試験用粉末をSUS製サンプル管に充填し、鈴木商館社製PCT(Hydrogen Pressure-Composition-Isomers)測定装置(PCT-4SDWIN)を用い、25℃においてPCT曲線を観察することで行った。PCT特性測定装置は、物質が水素を吸放出するときの特性(P:圧力、C:貯蔵量(吸収量)、T:温度)を測定する装置で、ジーベルツ装置とも呼ばれるものである。
圧力に対する、実施例に係る気体貯蔵放出化合物の水素の貯蔵量(Adsorption:質量%)及び放出量(Desorption:質量%)との関係は、図2のとおりとなった。なお、ここでいう貯蔵量及び放出量は、気体貯蔵放出化合物の質量に対する水素の貯蔵量(吸収量)又は放出量を質量%として表したものである。
その結果、比較例の酸化グラフェンよりも実施例1において合成した気体貯蔵放出化合物の方が高い水素貯蔵能力を有していることが分かった。
【0054】
<走査電子顕微鏡観察>
得られた気体貯蔵放出化合物の粉末を、40℃真空中で1時間乾燥後、分散法にて観察試料を調製した。気体貯蔵放出化合物の表面を、Zeiss社製FE-SEM(電界放射型走査型電子顕微鏡)を用いて観察した。結果を図3に示す。
図3より、高分子粒子表面に100nm~200nm程度の細孔が多数存在することが確認され、気体分子がこれらの細孔を通じて高分子鎖内部に吸着されるものと推察できる。
なお、走査電子顕微鏡観察の条件は、以下のとおりである。
・電界放出型走査電子顕微鏡
Zeiss社製 Merlin
・加圧電圧
0.8kV
・試料調製
試料を40℃(真空中)にて1時間乾燥後、分散法にて観察試料とした。
【0055】
<昇温時の吸熱挙動>
得られた気体貯蔵放出化合物の昇温時の吸熱挙動を、エスアイアイ・ナノテクノロジー社製示差走査熱量計(Differential Scanning Calorimetry、DSC)を用いて観察した。結果を図4に示す。
図4より、90℃と270℃に吸熱が見られ、高分子内部構造における相転移現象が見られた。これらから、気体貯蔵放出化合物が高次構造を有しており、水素包摂空間を形成していることを示していると推察できる。
【0056】
なお、昇温時の吸熱挙動の観察の条件は、以下のとおりである。
・DSC装置
エスアイアイ・ナノテクノロジー社製 DSC7020型
・温度範囲
室温~300℃
・昇温速度
10℃/分
・雰囲気ガス
【0057】
<比較例>
塩化パラジウム水溶液(5質量%in10質量%HCl)50mlをメスフラスコにより10倍に希釈した後、200ml丸底フラスコに30ml注ぎ込んだ。そこへ、酸化グラフェン3.0gを入れ、丸底フラスコをアズワン社製超音波装置(二周波・樹脂筐体タイプMCD-2P)に浸し、2時間超音波照射した。その後、1%アンモニア水溶液を、pH試験紙の色がpH7を示すまで滴下した。水溶液全体をグラスフィルターG3にてろ過し、上から水10mlで洗浄した。得られた粉末を、ケニス社製ポットミル(MT-90mm)に入れ、アズワン社製卓上型ポットミル架台(PM-001 2-7816-01)に載せ、300rpmの回転速度で2時間処理して酸化グラフェンを得た。
得られた酸化グラフェンを、東京スクリーン社製篩(試験用ふるいJTS-200-45-48、網目:平織、目開:0.053mm)を用いて分取し、水素貯蔵放出能力評価用試料とした。
得られた水素貯蔵放出能力評価用試料について、実施例1と同様に水素貯蔵放出能力を評価した。結果を図2に併せて示す。その結果、実施例1の気体貯蔵化合物(それを含むガス貯蔵放出材料)の方が、比較例1の酸化グラフェンよりも高い水素貯蔵放出能力を示した。
【0058】
実施例の気体貯蔵放出化合物の気体貯蔵放出特性が高い理由について、本発明者は次のように推察している。
比較例に示す酸化グラフェンは、炭素-炭素結合からなる六員環が2次元的に広がった層が積層して形成された炭素化合物であって、層と層の間の距離は0.5nmから2nmの範囲であり、層間にパラジウムが分散されたものである。層間に分散されたパラジウムと水素分子との反応により、Hが2Hに分解され、10MPa以上の圧力を加えることで、生成した水素原子が酸化グラフェンの炭素上に配位結合して、水素が酸化グラフェン内部に貯蔵される。
一方、実施例1に示す発明の気体貯蔵放出化合物は、前記式(8)で示される六角形構造単位を有する高分子で、六角形構造単位に基づく高次構造によって形成された、酸化グラフェンの層よりも水素が容易に入ることが可能である水素包摂空間を有しており、水素分子の貯蔵率を高くすることができる。したがって、10MPaよりも低い1MPaの圧力下においても、水素貯蔵率が大きくなると推察している。なお、本発明は、本推察に限定されるものではない。
【0059】
これらの結果より、本発明の気体貯蔵放出化合物及びそれを含むガス貯蔵放出材料は、比較例の酸化グラフェンと比較して、気体貯蔵放出化合物の質量に対する水素の貯蔵量(吸収量)及び放出量の質量%が大きく、水素の貯蔵・放出能力が高いことが判明した。
これより、本発明の気体貯蔵放出化合物及びそれを含むガス貯蔵放出材料は、ガス、特に水素を貯蔵・放出することができる材料として有用であることが確認された。
図1
図2
図3
図4