(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023111569
(43)【公開日】2023-08-10
(54)【発明の名称】フォトクロミック化合物、フォトクロミック組成物、フォトクロミック物品及び眼鏡
(51)【国際特許分類】
C09K 9/02 20060101AFI20230803BHJP
C09B 57/00 20060101ALI20230803BHJP
C07D 413/10 20060101ALI20230803BHJP
C07D 311/04 20060101ALI20230803BHJP
G02C 7/10 20060101ALI20230803BHJP
【FI】
C09K9/02 B
C09B57/00 Z
C07D413/10
C07D311/04
G02C7/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022013481
(22)【出願日】2022-01-31
(71)【出願人】
【識別番号】509333807
【氏名又は名称】ホヤ レンズ タイランド リミテッド
【氏名又は名称原語表記】HOYA Lens Thailand Ltd
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】川上 宏典
(72)【発明者】
【氏名】小林 敬
(72)【発明者】
【氏名】樋口 剛志
【テーマコード(参考)】
2H006
4C063
【Fターム(参考)】
2H006BE02
4C063AA01
4C063BB06
4C063CC79
4C063DD54
4C063EE10
(57)【要約】 (修正有)
【課題】退色速度が速いフォトクロミック物品を提供すること。
【解決手段】一般式1で表されるフォトクロミック化合物。式中、Rは、炭素数6以下の無置換脂肪族単環を表す。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式1で表されるフォトクロミック化合物。
【化1】
(一般式1中、
Rは、炭素数6以下(インデノ縮合ナフトピランの13位の炭素原子を含む)の無置換脂肪族単環を表し、
R
1~R
8、B及びB’は、それぞれ独立に水素原子又は置換基を表し、ただしR
1~R
8の1つ以上は電子吸引性基を表す。)
【請求項2】
一般式1中、R5~R8は、いずれも水素原子を表す、請求項1に記載のフォトクロミック化合物。
【請求項3】
一般式1中、R2は電子吸引性基を表し、R1及びR3~R8はいずれも水素原子を表す、請求項1に記載のフォトクロミック化合物。
【請求項4】
一般式1中、R1及びR3はそれぞれ独立に電子吸引性基を表し、R2及びR4~R8はいずれも水素原子を表す、請求項1に記載のフォトクロミック化合物。
【請求項5】
一般式1中、R2及びR7はそれぞれ独立に電子吸引性基を表し、R1、R3~R6及びR8はいずれも水素原子を表す、請求項1に記載のフォトクロミック化合物。
【請求項6】
前記電子吸引性基は、ハロゲン原子、炭素数1~6のパーフルオロアルキル基、パーフルオロフェニル基、パーフルオロアルキルフェニル基又はシアノ基である、請求項1~5のいずれか1項に記載のフォトクロミック化合物。
【請求項7】
前記ハロゲン原子はフッ素原子である、請求項6に記載のフォトクロミック化合物。
【請求項8】
前記パーフルオロアルキル基はトリフルオロメチル基である、請求項5に記載のフォトクロミック化合物。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載のフォトクロミック化合物を含むフォトクロミック組成物。
【請求項10】
重合性化合物を更に含む、請求項9に記載のフォトクロミック組成物。
【請求項11】
請求項10に記載のフォトクロミック組成物を硬化した硬化物を含むフォトクロミック物品。
【請求項12】
基材と、前記硬化物であるフォトクロミック層とを有する、請求項11に記載のフォトクロミック物品。
【請求項13】
眼鏡レンズである、請求項11又は12に記載のフォトクロミック物品。
【請求項14】
ゴーグル用レンズである、請求項11又は12に記載のフォトクロミック物品。
【請求項15】
サンバイザーのバイザー部分である、請求項11又は12に記載のフォトクロミック物品。
【請求項16】
ヘルメットのシールド部材である、請求項11又は12に記載のフォトクロミック物品。
【請求項17】
請求項13に記載の眼鏡レンズを備えた眼鏡。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フォトクロミック化合物、フォトクロミック組成物、フォトクロミック物品及び眼鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
フォトクロミック化合物は、光応答性を有する波長域の光の照射下で着色し(coloring)、非照射下では退色する性質(フォトクロミック性)を有する化合物である。例えば特許文献1には、フォトクロミック性を有するナフトピラン系化合物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
眼鏡レンズ等の光学物品にフォトクロミック性を付与する方法としては、フォトクロミック化合物を基材に含有させる方法及びフォトクロミック化合物を含む層を形成する方法が挙げられる。このようにフォトクロミック性が付与された光学物品に望まれる性能としては、光照射により着色した後に速い退色速度を示すことが挙げられる。
【0005】
本発明の一態様は、退色速度が速いフォトクロミック物品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、下記一般式1で表されるフォトクロミック化合物に関する。
【0007】
また、本発明の一態様は、下記一般式1で表されるフォトクロミック化合物を1種以上含むフォトクロミック物品に関する。
【0008】
また、本発明の一態様は、下記一般式1で表されるフォトクロミック化合物を1種以上含むフォトクロミック組成物に関する。
【0009】
【0010】
一般式1中、Rは、炭素数6以下(インデノ縮合ナフトピランの13位の炭素原子を含む)の無置換脂肪族単環を表し、R1~R8、B及びB’は、それぞれ独立に水素原子又は置換基を表し、ただしR1~R8の1つ以上は電子吸引性基を表す。本発明者は、一般式1において、インデノ縮合ナフトピランとスピロ結合する環構造が炭素数6以下(インデノ縮合ナフトピランの13位の炭素原子を含む)の無置換脂肪族単環であること及びR1~R8の1つ以上が電子吸引性基であることが、一般式1で表されるフォトクロミック化合物が速い退色速度を示し得ることに寄与すると推察している。ただし、本明細書に記載の推察に本発明は限定されない。
【発明の効果】
【0011】
一般式1で表されるフォトクロミック化合物は、速い退色速度を示すことができる。一般式1で表されるフォトクロミック化合物によれば、退色速度が速いフォトクロミック物品を提供することが可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
フォトクロミック化合物は、一例として、太陽光等の光の照射を受けて励起状態を経て、着色体に構造変換する。光照射を経て構造変換した後の構造を「着色体」と呼ぶことができる。これに対し、光照射前の構造を「無色体」と呼ぶことができる。ただし、無色体について「無色」とは、完全な無色に限定されるものではなく、着色体に対して色が薄い場合も包含される。一般式1の構造は、無色体の構造である。
【0013】
本発明及び本明細書において、「フォトクロミック物品」とは、フォトクロミック化合物を含む物品をいうものとする。本発明の一態様にかかるフォトクロミック物品は、フォトクロミック化合物として、少なくとも一般式1で表されるフォトクロミック化合物の1種以上含む。フォトクロミック化合物は、フォトクロミック物品の基材に含まれることができ、及び/又は、基材とフォトクロミック層とを有するフォトクロミック物品においてフォトクロミック層に含まれることができる。「フォトクロミック層」とは、フォトクロミック化合物を含む層である。
【0014】
本発明及び本明細書において、「フォトクロミック組成物」とは、フォトクロミック化合物を含む組成物をいうものとする。本発明の一態様にかかるフォトクロミック組成物は、フォトクロミック化合物として、少なくとも一般式1で表されるフォトクロミック化合物の1種以上を含み、本発明の一態様にかかるフォトクロミック物品の製造のために使用することができる。
【0015】
本発明及び本明細書において、詳細を後述する各種一般式中の置換基、更に、後述する各基が置換基を有する場合の置換基は、それぞれ独立に、
ヒドロキシ基、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等の炭素数1~18の直鎖若しくは分岐のアルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等の炭素数5~18の単環若しくはビシクロ環等の複環の環状脂肪族アルキル基、メトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基等の構成原子数1~24の直鎖若しくは分岐のアルコキシ基、構成原子数1~24の非芳香族環状置換基、トリフルオロメチル基等の炭素数1~18の直鎖若しくは分岐のパーフルオロアルキル基、トリフルオロメトキシ基等の直鎖若しくは分岐のパーフルオロアルコキシ基、メチルスルフィド基、エチルスルフィド基、ブチルスルフィド基等の構成原子数1~24の直鎖若しくは分岐のアルキルスルフィド基、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基、フルオランテニル基、フェナントリル基、ピラニル基、ペリレニル基、スチリル基、フルオレニル基等のアリール基、フェニルオキシ基等のアリールオキシ基、フェニルスルフィド基等のアリールスルフィド基、ピリジル基、フラニル基、チエニル基、ピロリル基、ベンゾフラニル基、ベンゾチオフェニル基、インドリル基、ジベンゾフラニル基、ジベンゾチオフェニル基、カルバゾリル基、ジアゾリル基、トリアゾリル基、キノリニル基、フェノチアジニル基、フェノキサジニル基、フェナジニル基、チアンスリル基、アクリジニル基等のヘテロアリール基、アミノ基(-NH2)、モノメチルアミノ基等のモノアルキルアミノ基、ジメチルアミノ基等のジアルキルアミノ基、モノフェニルアミノ基等のモノアリールアミノ基、ジフェニルアミノ基等のジアリールアミノ基、ピペリジノ基、モルホリノ基、チオモルホリノ基、テトラヒドロキノリノ基、テトラヒドロイソキノリノ基等の環状アミノ基、エチニル基、メルカプト基、シリル基、スルホン酸基、アルキルスルホニル基、ホルミル基、カルボキシ基、シアノ基及びフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子からなる群から選ばれる置換基Rm;又は、
Rmに更に1つ以上の同一若しくは異なるRmが置換した置換基;
であることができる。
【0016】
上記のRmに更に1つ以上の同一又は異なるRmが置換した置換基の一例としては、アルコキシ基の末端の炭素原子に更にアルコキシ基が置換し、このアルコキシ基の末端の炭素原子に更にアルコキシ基が置換した構造を挙げることができる。また、上記のRmに更に1つ以上の同一又は異なるRmが置換した置換基の他の一例としては、フェニル基の5つの置換可能位置の中の2つ以上の位置に、同一又は異なるRmが置換した構造を挙げることができる。ただし、かかる例に限定されるものではない。
【0017】
本発明及び本明細書において、「炭素数」及び「構成原子数」とは、置換基を有する基については、特記しない限り、置換基の炭素数又は原子数も含む数をいうものとする。また、本発明及び本明細書において、「無置換若しくは1つ以上の置換基を有する」とは、「置換若しくは(又は)無置換の」と同義である。
【0018】
また、本発明及び本明細書において、詳細を後述する各種一般式中の置換基、更に、後述する各基が置換基を有する場合の置換基は、それぞれ独立に、可溶化基であることもできる。本発明及び本明細書において、「可溶化基」とは、任意の液体又は特定の液体との相溶性を高めることに寄与し得る置換基を指す。可溶化基としては、炭素数4~50の直鎖、分岐又は環状構造を含むアルキル基、構成原子数4~50の直鎖、分岐又は環状のアルコキシ基、構成原子数4~50の直鎖、分岐又は環状のシリル基、上記の基の一部をケイ素原子、硫黄原子、窒素原子、リン原子等に置き換えたもの、上記の基の2つ以上を組み合わせたもの等の、この置換基を有することが化合物の分子の熱運動を促進することに寄与し得る置換基が好適である。置換基として可溶化基を有する化合物は、溶質分子間の距離が近づくことを阻害することで溶質の固体化を防いだり、溶質の融点及び/又はガラス転移温度を下げることで液体に近い分子集合状態を作ることができる。こうして、可溶性基は、溶質を液体化したり、この置換基を有する化合物の液体への溶解性を高めることができる。一形態では、可溶化基としては、直鎖アルキル基であるn-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-オクチル基、分岐アルキル基であるtert-ブチル基並びに環状アルキル基であるシクロペンチル基及びシクロヘキシル基が好ましい。
【0019】
上記置換基は、好ましくは、メトキシ基、エトキシ基、フェノキシ基、メチルスルフィド基、エチルスルフィド基、フェニルスルフィド基、トリフルオロメチル基、フェニル基、ナフチル基、ジベンゾフラニル基、ジベンゾチオフェニル基、カルバゾリル基、フェノチアジニル基、フェノキサジニル基、フェナジニル基、アクリジニル基、ジメチルアミノ基、ジフェニルアミノ基、ピペリジノ基、モルホリルノ基、チオモルホリノ基、シアノ基及び可溶化基からなる群から選ばれる置換基であることができ、より好ましくは、メトキシ基、フェノキシ基、メチルスルフィド基、フェニルスルフィド基、トリフルオロメチル基、フェニル基、ジメチルアミノ基、ジフェニルアミノ基、ピペリジノ基、モルホリルノ基、チオモルホリノ基、シアノ基及び可溶化基からなる群から選ばれる置換基であることができる。
【0020】
本発明及び本明細書において、「電子吸引性基」とは、水素原子と比較して、結合している原子側から電子を引きつけやすい置換基をいう。電子吸引性基は、誘起効果、メソメリー効果(又は共鳴効果)等の置換基効果の結果、電子を引きつけることができる。電子吸引性基の具体例としては、ハロゲン原子(フッ素原子:-F、塩素原子:-Cl、臭素原子:-Br、ヨウ素原子:-I)、トリフルオロメチル基:-CF3、ニトロ基:-NO2、シアノ基:-CN、ホルミル基:-CHO、アシル基:-COR(Rは置換基)、アルコキシカルボニル基:-COOR、カルボキシ基:-COOH、置換スルホニル基:-SO2R(Rは置換基)、スルホ基:-SO3H等を挙げることができる。好適な電子吸引性基としては、電気陰性度の高い電子吸引性基であるフッ素原子、ハメット則に基づくパラ位の置換基定数σpが正の値である電子吸引性基等を挙げることができる。
【0021】
ハメット則に基づくパラ位の置換基定数σp(出典:岩村秀、野依良治、中井武、北川勲 編、大学院有機化学(上)(1988))の具体例を以下に示す。
-N(CH3)2:-0.83
-OCH3:-0.27
-t-C4H9:-0.20
-CH3:-0.17
-C2H5:-0.15
-C6H5:-0.01
(-H:0)
-F:+0.06
-Cl:+0.27
-Br:+0.23
-CO2C2H5:+0.45
-CF3:+0.54
-CN:+0.66
-SO2CH3:+0.72
-NO2:+0.78
【0022】
[一般式1で表されるフォトクロミック化合物]
以下に、一般式1で表されるフォトクロミック化合物について、更に詳細に説明する。
【0023】
【0024】
一般式1中、Rは、炭素数6以下(インデノ縮合ナフトピランの13位の炭素原子を含む)の無置換脂肪族単環を表す。インデノナフトピランの13位の炭素原子は、インデノ縮合ナフトピランとRで表される無置換脂肪族単環とによって共有されるスピロ原子であり、Rで表される無置換脂肪族単環は、インデノ縮合ナフトピランとスピロ縮合する環構造である。
【0025】
Rで表される無置換脂肪族単環の炭素数は、6以下(インデノ縮合ナフトピランの13位の炭素原子を含む)であり、3、4、5または6であることができる。即ち、一般式1中、下記部分構造:
【化3】
の具体例としては、以下の部分構造を挙げることができる。本発明及び本明細書において、化合物の部分構造に関する「*」は、かかる部分構造が結合する原子との結合位置を示す。
【0026】
【0027】
一般式1、R1~R8、B及びB’は、それぞれ独立に水素原子又は置換基を表す。ただしR1~R8の1つ以上は電子吸引性基を表す。置換基及び電子吸引性基については、それぞれ先に記載した通りである。
【0028】
R1~R8の1つ又は2つ以上は電子吸引性基であって、かかる電子吸引性基としては、ハロゲン原子、炭素数1~6のパーフルオロアルキル基、パーフルオロフェニル基、パーフルオロアルキルフェニル基又はシアノ基が好ましい。ハロゲン原子としてはフッ素原子が好ましい。炭素数1~6のパーフルオロアルキル基としてはトリフルオロメチル基が好ましい。
【0029】
一般式1中、B及びB’は、それぞれ独立に水素原子又は置換基を表し、それぞれ独立に、置換若しくは無置換のフェニル基、置換若しくは無置換のナフチル基、置換若しくは無置換のフルオレニル基、置換若しくは無置換のベンゾフルオレニル基、置換若しくは無置換のフルオランテニル基、置換若しくは無置換のジベンゾフラニル基又は置換若しくは無置換のジベンゾチオフェニル基を表すことが好ましい。B及びB’は、それぞれ独立に置換若しくは無置換のフェニル基を表すことがより好ましい。かかる置換フェニル基は、メトキシ基、イソプロピル基、tert-ブチル基、メチルスルフィド基、アミノ基、ジメチルアミノ基、ピペリジノ基、モルホリノ基、チオモルホリノ基、フェニル基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、トリフルオロメチル基及びシアノ基からなる群から選択される1つ以上の置換基を含むことができる。
【0030】
一形態では、一般式1中、R5~R8がいずれも水素原子を表すことが好ましい。
【0031】
一形態では、一般式1中、R2が電子吸引性基を表し、R1及びR3~R8がいずれも水素原子を表すことが好ましい。即ち、一形態では、一般式1で表されるフォトクロミック化合物は、下記一般式1-1で表されるフォトクロック化合物であることが好ましい。
【0032】
【0033】
一形態では、一般式1中、R1及びR3がそれぞれ独立に電子吸引性基を表し、R2及びR4~R8がいずれも水素原子を表すことが好ましい。即ち、一形態では、一般式1で表されるフォトクロミック化合物は、下記一般式1-2で表されるフォトクロック化合物であることが好ましい。
【0034】
【0035】
一形態では、R2及びR7がそれぞれ独立に電子吸引性基を表し、R1、R3~R6及びR8がいずれも水素原子を表すことが好ましい。即ち、一形態では、一般式1で表されるフォトクロミック化合物は、下記一般式1-3で表されるフォトクロック化合物であることが好ましい。
【0036】
【0037】
一般式1-1、1-2及び1-3において、R、B及びB’は、それぞれ一般式1と同義であり、それらの詳細については先に一般式1について記載した通りである。一般式1-1において、Xは電子吸引性基を表す。一般式1-2及び一般式1-3において、2つのXは、それぞれ独立に電子吸引性基を表す。
【0038】
一般式1で表されるフォトクロミック化合物としては、以下の化合物を例示できる。ただし、本発明は以下に例示された化合物に限定されるものではない。
【0039】
【0040】
【0041】
【0042】
【0043】
【0044】
【0045】
【0046】
一般式1で表されるフォトクロミック化合物は、公知の方法で合成することができる。合成方法については、例えば以下の文献を参照できる。特許第4884578号明細書、US2006/0226402A1、US2006/0228557A1、US2008/0103301A1、US2011/0108781A1、US2011/0108781A1、米国特許第7527754号明細書、米国特許第7556751号明細書、WO2001/60811A1、WO2013/086248A1、WO1996/014596A1、WO2001/019813A1、WO1995/16215A1、米国特許第5656206号明細書及びWO2011/016582A1。
【0047】
[フォトクロミック組成物、フォトクロミック物品]
本発明の一態様は、一般式1で表されるフォトクロミック化合物を1種以上含むフォトクロミック組成物に関する。
また、本発明の一態様は、一般式1で表されるフォトクロミック化合物を1種以上含むフォトクロミック物品に関する。
【0048】
上記フォトクロミック組成物及び上記フォトクロミック物品は、一般式1で表されるフォトクロミック化合物を1種のみ含むことができ、又は2種以上(例えば2種以上4種以下)含むことができる。上記フォトクロミック物品及び上記フォトクロミック組成物は、それらの全量を100質量%として、一般式1で表されるフォトクロミック化合物を、例えば0.1~15.0質量%程度含むことができる。ただし、上記範囲に限定されるものではない。
【0049】
上記フォトクロミック物品は、少なくとも基材を有することができる。一形態では、一般式1で表されるフォトクロミック化合物は、上記フォトクロミック物品の基材に含まれることができる。上記フォトクロミック物品は、基材とフォトクロミック層とを有することができ、基材及び/又はフォトクロミック層に、一般式1で表されるフォトクロミック化合物の1種以上を含むことができる。一般式1で表されるフォトクロミック化合物は、基材及びフォトクロミック層において、一形態では基材のみに含まれることができ、他の一形態ではフォトクロミック層のみに含まれることができ、また他の一形態では基材とフォトクロミック層とに含まれることができる。また、基材及びフォトクロミック層は、フォトクロミック化合物として、一般式1で表されるフォトクロミック化合物のみを含むことができ、又は1種以上の他のフォトクロミック化合物を含むこともできる。他のフォトクロミック化合物としては、アゾベンゼン類、スピロピラン類、スピロオキサジン類、ナフトピラン類、インデノナフトピラン類、フェナントロピラン類、ヘキサアリルビスイミダゾール類、ドナー-アクセプターステンハウス付加物(DASA)類、サリシリデンアニリン類、ジヒドロピレン類、アントラセンダイマー類、フルギド類、ジアリールエテン類、フェノキシナフタセンキノン類、スチルベン類等を挙げることができる。
【0050】
<基材>
上記フォトクロミック物品は、フォトクロミック物品の種類に応じて選択された基材を含むことができる。基材の一例として、眼鏡レンズ基材としては、プラスチックレンズ基材又はガラスレンズ基材が挙げられる。ガラスレンズ基材は、例えば無機ガラス製のレンズ基材であることができる。プラスチックレンズ基材としては、(メタ)アクリル樹脂をはじめとするスチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、アリル樹脂、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート樹脂(CR-39)等のアリルカーボネート樹脂、ビニル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、イソシアネート化合物とジエチレングリコール等のヒドロキシ化合物との反応で得られたウレタン樹脂、イソシアネート化合物とポリチオール化合物とを反応させたチオウレタン樹脂、分子内に1つ以上のジスルフィド結合を有する(チオ)エポキシ化合物を含有する硬化性組成物を硬化した硬化物(一般に透明樹脂と呼ばれる。)を挙げることができる。レンズ基材としては、染色されていないもの(無色レンズ)を用いてもよく、染色されているもの(染色レンズ)を用いてもよい。レンズ基材の屈折率は、例えば、1.50~1.75程度であることができる。ただしレンズ基材の屈折率は、上記範囲に限定されるものではなく、上記の範囲内でも、上記の範囲から上下に離れていてもよい。ここで屈折率とは、波長500nmの光に対する屈折率をいうものとする。また、レンズ基材は、屈折力を有するレンズ(いわゆる度付レンズ)であってもよく、屈折力なしのレンズ(いわゆる度なしレンズ)であってもよい。
【0051】
例えば、上記フォトクロミック組成物は、重合性組成物であることができる。本発明及び本明細書において、「重合性組成物」とは、1種以上の重合性化合物を含む組成物である。一般式1で表されるフォトクロミック化合物の1種以上と、重合性化合物の1種以上と、を少なくとも含む重合性組成物を公知の成形方法によって成形することにより、かかる重合性組成物の硬化物を作製することができる。かかる硬化物は、上記フォトクロミック物品に基材として含まれることができ、及び/又は、フォトクロミック層として含まれることができる。硬化処理は、光照射及び/又は加熱処理であることができる。重合性化合物とは、重合性基を有する化合物であり、重合性化合物の重合反応が進行することによって重合性組成物が硬化し硬化物が形成され得る。重合性組成物は、1種以上の添加剤(例えば重合開始剤等)を更に含むことができる。
【0052】
眼鏡レンズは、単焦点レンズ、多焦点レンズ、累進屈折力レンズ等の各種レンズであることができる。レンズの種類は、レンズ基材の両面の面形状により決定される。また、レンズ基材表面は、凸面、凹面、平面のいずれであってもよい。通常のレンズ基材及び眼鏡レンズでは、物体側表面は凸面、眼球側表面は凹面である。ただし、これに限定されるものではない。フォトクロミック層は、通常、レンズ基材の物体側表面上に設けることができるが、眼球側表面上に設けてもよい。
【0053】
<フォトクロミック層>
フォトクロミック層は、基材の表面上に直接又は一層以上の他の層を介して間接的に設けられた層であることができる。フォトクロミック層は、例えば、重合性組成物を硬化した硬化層であることができる。一般式1で表されるフォトクロミック化合物の1種以上と、重合性化合物の1種以上と、を少なくとも含む重合性組成物を硬化した硬化層として、フォトクロミック層を形成することができる。例えば、かかる重合性組成物を基材の表面上に直接塗布するか、又は基材上に設けられた層の表面に塗布し、塗布された重合性組成物に硬化処理を施すことによって、一般式1で表されるフォトクロミック化合物の1種以上を含む硬化層として、フォトクロミック層を形成することができる。塗布方法としては、スピンコート法、ディップコート法、スプレーコート法、インクジェット法、ノズルコート法、スリットコート法等の公知の塗布方法を採用することができる。硬化処理は、光照射及び/又は加熱処理であることができる。重合性組成物は、1種以上の重合性化合物に加えて、1種以上の添加剤(例えば重合開始剤等)を更に含むことができる。重合性化合物の重合反応が進行することによって重合性組成物が硬化し硬化層が形成され得る。
【0054】
フォトクロミック層の厚さは、例えば5μm以上、10μm以上若しくは20μm以上であることができ、また、例えば80μm以下、70μm以下若しくは50μm以下であることができる。
【0055】
<重合性化合物>
本発明及び本明細書において、重合性化合物とは、1分子中に1つ以上の重合性基を有する化合物をいい、「重合性基」とは、重合反応し得る反応性基をいうものとする。重合性基としては、例えば、アクリロイル基、メタクリロイル基、ビニル基、ビニルエーテル基、エポキシ基、チオール基、オキセタン基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アミノ基、イソシアネート基等を挙げることができる。
【0056】
上記基材及び上記フォトクロミック層の形成のために使用可能な重合性化合物としては、以下の化合物を例示できる。
【0057】
(エピスルフィド系化合物)
エピスルフィド系化合物は、1分子内に2個以上のエピスルフィド基を有する化合物である。エピスルフィド基は、開環重合し得る重合性基である。エピスルフィド系化合物の具体例としては、ビス(1,2-エピチオエチル)スルフィド、ビス(1,2-エピチオエチル)ジスルフィド、ビス(2,3-エピチオプロピル)スルフィド、ビス(2,3-エピチオプロピルチオ)メタン、ビス(2,3-エピチオプロピル)ジスルフィド、ビス(2,3-エピチオプロピルジチオ)メタン、ビス(2,3-エピチオプロピルジチオ)エタン、ビス(6,7-エピチオ-3,4-ジチアヘプチル)スルフィド、ビス(6,7-エピチオ-3,4-ジチアヘプチル)ジスルフィド、1,4-ジチアン-2,5-ビス(2,3-エピチオプロピルジチオメチル)、1,3-ビス(2,3-エピチオプロピルジチオメチル)ベンゼン、1,6-ビス(2,3-エピチオプロピルジチオメチル)-2-(2,3-エピチオプロピルジチオエチルチオ)-4-チアヘキサン、1,2,3-トリス(2,3-エピチオプロピルジチオ)プロパン、1,1,1,1-テトラキス(2,3-エピチオプロピルジチオメチル)メタン、1,3-ビス(2,3-エピチオプロピルジチオ)-2-チアプロパン、1,4-ビス(2,3-エピチオプロピルジチオ)-2,3-ジチアブタン、1,1,1-トリス(2,3-エピチオプロピルジチオ)メタン、1,1,1-トリス(2,3-エピチオプロピルジチオメチルチオ)メタン、1,1,2,2-テトラキス(2,3-エピチオプロピルジチオ)エタン、1,1,2,2-テトラキス(2,3-エピチオプロピルジチオメチルチオ)エタン、1,1,3,3-テトラキス(2,3-エピチオプロピルジチオ)プロパン、1,1,3,3-テトラキス(2,3-エピチオプロピルジチオメチルチオ)プロパン、2-[1,1-ビス(2,3-エピチオプロピルジチオ)メチル]-1,3-ジチエタン、2-[1,1-ビス(2,3-エピチオプロピルジチオメチルチオ)メチル]-1,3-ジチエタン等を挙げることができる。
【0058】
(チエタニル系化合物)
チエタニル系化合物は、1分子内に2個以上のチエタニル基を有するチエタン化合物である。チエタニル基は、開環重合し得る重合性基である。チエタニル系化合物の中には、複数のチエタニル基と共にエピスルフィド基を有するものがある。かかる化合物は、上記のエピスルフィド系化合物の例に挙げられている。その他のチエタニル系化合物には、分子内に金属原子を有している含金属チエタン化合物と、金属を含んでいない非金属系チエタン化合物とがある。
【0059】
非金属系チエタン化合物の具体例としては、ビス(3-チエタニル)ジスルフィド、ビス(3-チエタニル)スルフィド、ビス(3-チエタニル)トリスルフィド、ビス(3-チエタニル)テトラスルフィド、1,4-ビス(3-チエタニル)-1,3,4-トリチアブタン、1,5-ビス(3-チエタニル)-1,2,4,5-テトラチアペンタン、1,6-ビス(3-チエタニル)-1,3,4,6-テトラチアヘキサン、1,6-ビス(3-チエタニル)-1,3,5,6-テトラチアヘキサン、1,7-ビス(3-チエタニル)-1,2,4,5,7-ペンタチアヘプタン、1,7-ビス(3-チエタニルチオ)-1,2,4,6,7-ペンタチアヘプタン、1,1-ビス(3-チエタニルチオ)メタン、1,2-ビス(3-チエタニルチオ)エタン、1,2,3-トリス(3-チエタニルチオ)プロパン、1,8-ビス(3-チエタニルチオ)-4-(3-チエタニルチオメチル)-3,6-ジチアオクタン、1,11-ビス(3-チエタニルチオ)-4,8-ビス(3-チエタニルチオメチル)-3,6,9-トリチアウンデカン、1,11-ビス(3-チエタニルチオ)-4,7-ビス(3-チエタニルチオメチル)-3,6,9-トリチアウンデカン、1,11-ビス(3-チエタニルチオ)-5,7-ビス(3-チエタニルチオメチル)-3,6,9-トリチアウンデカン、2,5-ビス(3-チエタニルチオメチル)-1,4-ジチアン、2,5-ビス[[2-(3-チエタニルチオ)エチル]チオメチル]-1,4-ジチアン、2,5-ビス(3-チエタニルチオメチル)-2,5-ジメチル-1,4-ジチアン、ビスチエタニルスルフィド、ビス(チエタニルチオ)メタン、3-[<(チエタニルチオ)メチルチオ>メチルチオ]チエタン、ビスチエタニルジスルフィド、ビスチエタニルトリスルフィド、ビスチエタニルテトラスルフィド、ビスチエタニルペンタスルフィド、1,4-ビス(3-チエタニルジチオ)-2,3-ジチアブタン、1,1,1-トリス(3-チエタニルジチオ)メタン、1,1,1-トリス(3-チエタニルジチオメチルチオ)メタン、1,1,2,2-テトラキス(3-チエタニルジチオ)エタン、1,1,2,2-テトラキス(3-チエタニルジチオメチルチオ)エタン等を挙げることができる。
【0060】
含金属チエタン化合物としては、分子内に、金属原子として、Sn原子、Si原子、Ge原子、Pb原子等の14族の原子、Zr原子、Ti原子等の4族の元素、Al原子等の13族の原子、Zn原子等の12族の原子等を含むものが挙げられる。具体例としては、アルキルチオ(チエタニルチオ)スズ、ビス(アルキルチオ)ビス(チエタニルチオ)スズ、アルキルチオ(アルキルチオ)ビス(チエタニルチオ)スズ、ビス(チエタニルチオ)環状ジチオスズ化合物、アルキル(チエタニルチオ)スズ化合物等が挙げられる。
【0061】
アルキルチオ(チエタニルチオ)スズの具体例としては、メチルチオトリス(チエタニルチオ)スズ、エチルチオトリス(チエタニルチオ)スズ、プロピルチオトリス(チエタニルチオ)スズ、イソプロピルチオトリス(チエタニルチオ)スズ等を例示できる。
【0062】
ビス(アルキルチオ)ビス(チエタニルチオ)スズの具体例としては、ビス(メチルチオ)ビス(チエタニルチオ)スズ、ビス(エチルチオ)ビス(チエタニルチオ)スズ、ビス(プロピルチオ)ビス(チエタニルチオ)スズ、ビス(イソプロピルチオ)ビス(チエタニルチオ)スズ等を例示できる。
【0063】
アルキルチオ(アルキルチオ)ビス(チエタニルチオ)スズの具体例としては、エチルチオ(メチルチオ)ビス(チエタニルチオ)スズ、メチルチオ(プロピルチオ)ビス(チエタニルチオ)スズ、イソプロピルチオ(メチルチオ)ビス(チエタニルチオ)スズ、エチルチオ(プロピルチオ)ビス(チエタニルチオ)スズ、エチルチオ(イソプロピルチオ)ビス(チエタニルチオ)スズ、イソプロピルチオ(プロピルチオ)ビス(チエタニルチオ)スズ等を例示できる。
【0064】
ビス(チエタニルチオ)環状ジチオスズ化合物の具体例としては、ビス(チエタニルチオ)ジチアスタンネタン、ビス(チエタニルチオ)ジチアスタンノラン、ビス(チエタニルチオ)ジチアスタンニナン、ビス(チエタニルチオ)トリチアスタンノカン等を例示できる。
【0065】
アルキル(チエタニルチオ)スズ化合物の具体例としては、メチルトリス(チエタニルチオ)スズ、ジメチルビス(チエタニルチオ)スズ、ブチルトリス(チエタニルチオ)スズ、テトラキス(チエタニルチオ)スズ、テトラキス(チエタニルチオ)ゲルマニウム、トリス(チエタニルチオ)ビスマス等を例示できる。
【0066】
(ポリアミン化合物)
ポリアミン化合物は、一分子中にNH2基を2つ以上有する化合物であり、ポリイソシアネートとの反応でウレア結合を形成することができ、ポリイソチオシアネートとの反応でチオウレア結合を形成することができる。ポリアミン化合物の具体例としては、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、イソホロンジアミン、ノナメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、メタキシレンジアミン、1,3-プロパンジアミン、プトレシン、2-(2-アミノエチルアミノ)エタノ-ル、ジエチレントリアミン、p-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、メラミン、1,3,5-ベンゼントリアミン等が挙げられる。
【0067】
(エポキシ系化合物)
エポキシ系化合物は、分子内にエポキシ基を有する化合物である。エポキシ基は、開環重合し得る重合性基である。エポキシ系化合物は、一般に、脂肪族エポキシ化合物、脂環族エポキシ化合物及び芳香族エポキシ化合物に分類される。
【0068】
脂肪族エポキシ化合物の具体例としては、エチレンオキシド、2-エチルオキシラン、ブチルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、2,2’-メチレンビスオキシラン、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、トリエチレングリコールジグリシジルエーテル、テトラエチレングリコールジグリシジルエーテル、ノナエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ジプロピレングリコールジグリシジルエーテル、トリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、テトラプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ノナプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、グリセロールトリグリシジルエーテル、ジグリセロールテトラグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテル、トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートのトリグリシジルエーテル等が挙げられる。
【0069】
脂環族エポキシ化合物の具体例としては、イソホロンジオールジグリシジルエーテル、ビス-2,2-ヒドロキシシクロヘキシルプロパンジグリシジルエーテル等が挙げられる。
【0070】
芳香族エポキシ化合物の具体例としては、レゾールシンジグリシジルエーテル、ビスフェノ-ルAジグリシジルエーテル、ビスフェノールFジグリシジルエーテル、ビスフェノールSジグリシジルエーテル、オルトフタル酸ジグリシジルエステル、フェノールノボラックポリグリシジルエーテル、クレゾールノボラックポリグリシジルエーテル等が挙げられる。
【0071】
また、上記以外にも、エポキシ基と共に、分子内に硫黄原子を有するエポキシ系化合物も使用することができる。このような含硫黄原子エポキシ系化合物には、鎖状脂肪族系のものと環状脂肪族系のものとがある。
【0072】
鎖状脂肪族系含硫黄原子エポキシ系化合物の具体例としては、ビス(2,3-エポキシプロピル)スルフィド、ビス(2,3-エポキシプロピル)ジスルフィド、ビス(2,3-エポキシプロピルチオ)メタン、1,2-ビス(2,3-エポキシプロピルチオ)エタン、1,2-ビス(2,3-エポキシプロピルチオ)プロパン、1,3-ビス(2,3-エポキシプロピルチオ)プロパン、1,3-ビス(2,3-エポキシプロピルチオ)-2-メチルプロパン、1,4-ビス(2,3-エポキシプロピルチオ)ブタン、1,4-ビス(2,3-エポキシプロピルチオ)-2-メチルブタン、1,3-ビス(2,3-エポキシプロピルチオ)ブタン、1,5-ビス(2,3-エポキシプロピルチオ)ペンタン、1,5-ビス(2,3-エポキシプロピルチオ)-2-メチルペンタン、1,5-ビス(2,3-エポキシプロピルチオ)-3-チアペンタン、1,6-ビス(2,3-エポキシプロピルチオ)ヘキサン、1,6-ビス(2,3-エポキシプロピルチオ)-2-メチルヘキサン、3,8-ビス(2,3-エポキシプロピルチオ)-3,6-ジチアオクタン、1,2,3-トリス(2,3-エポキシプロピルチオ)プロパン、2,2-ビス(2,3-エポキシプロピルチオ)-1,3-ビス(2,3-エポキシプロピルチオメチル)プロパン、2,2-ビス(2,3-エポキシプロピルチオメチル)-1-(2,3-エポキシプロピルチオ)ブタン等が挙げられる。
【0073】
環状脂肪族系含硫黄原子エポキシ系化合物の具体例としては、1,3-ビス(2,3-エポキシプロピルチオ)シクロヘキサン、1,4-ビス(2,3-エポキシプロピルチオ)シクロヘキサン、1,3-ビス(2,3-エポキシプロピルチオメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(2,3-エポキシプロピルチオメチル)シクロヘキサン、2,5-ビス(2,3-エポキシプロピルチオメチル)-1,4-ジチアン、2,5-ビス[<2-(2,3-エポキシプロピルチオ)エチル>チオメチル]-1,4-ジチアン、2,5-ビス(2,3-エポキシプロピルチオメチル)-2,5-ジメチル-1,4-ジチアン等が挙げられる。
【0074】
(ラジカル重合性基を有する化合物)
ラジカル重合性基を有する化合物は、ラジカル重合し得る重合性基である。ラジカル重合性基としては、アクリロイル基、メタクリロイル基、アリル基、ビニル基等が挙げられる。
【0075】
以下において、アクリロイル基及びメタクリロイル基からなる群から選ばれる重合性基を有する化合物を、「(メタ)アクリレート化合物」と呼ぶ。(メタ)アクリレート化合物の具体例としては、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレ-ト、テトラエチレングリコ-ルジ(メタ)アクリレ-ト、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコ-ルジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールビスグリシジル(メタ)アクリレ-ト、ビスフェノ-ルAジ(メタ)アクリレート、2,2-ビス(4-(メタ)アクロキシエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクロキシジエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3,5-ジブロモ-4-(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシジプロポキシフェニル)プロパン、ビスフェノ-ルFジ(メタ)アクリレート、1,1-ビス(4-(メタ)アクロキシエトキシフェニル)メタン、1,1-ビス(4-(メタ)アクロキシジエトキシフェニル)メタン、ジメチロールトリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、グリセロールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリト-ルテトラ(メタ)アクリレート、メチルチオ(メタ)アクリレート、フェニルチオ(メタ)アクリレート、ベンジルチオ(メタ)アクリレート、キシリレンジチオールジ(メタ)アクリレート、メルカプトエチルスルフィドジ(メタ)アクリレート、2官能ウレタン(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0076】
アリル基を有する化合物(アリル化合物)の具体例としては、アリルグリシジルエーテル、ジアリルフタレ-ト、ジアリルテレフタレート、ジアリルイソフタレート、ジアリルカーボネート、ジエチレングリコールビスアリルカ-ボネート、メトキシポリエチレングリコールアリルエーテル、ポリエチレングリコールアリルエーテル、メトキシポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコールアリルエーテル、ブトキシポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコールアリルエーテル、メタクリロイルオキシポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコールアリルエーテル、フェノキシポリエチレングリコールアリルエーテル、メタクリロイルオキシポリエチレングリコールアリルエーテル等が挙げられる。
【0077】
ビニル基を有する化合物(ビニル化合物)としては、α-メチルスチレン、α-メチルスチレンダイマー、スチレン、クロロスチレン、メチルスチレン、ブロモスチレン、ジブロモスチレン、ジビニルベンゼン、3,9-ジビニルスピロビ(m-ジオキサン)等が挙げられる。
【0078】
上記フォトクロミック物品は、フォトクロミック物品の耐久性向上のための保護層、反射防止層、撥水性又は親水性の防汚層、防曇層、層間の密着性向上のためのプライマー層等のフォトクロミック物品の機能性層として公知の層の1層以上を任意の位置に含むことができる。
【0079】
上記フォトクロミック物品は、光学物品であることができる。光学物品の一形態は、眼鏡レンズである。かかる眼鏡レンズは、フォトクロミックレンズ又はフォトクロミック眼鏡レンズとも呼ぶことができる。また、光学物品の一形態としては、ゴーグル用レンズ、サンバイザーのバイザー(ひさし)部分、ヘルメットのシールド部材等を挙げることもできる。これら光学物品用の基材上に重合性組成物である上記フォトクロミック組成物を塗布し、塗布された組成物に硬化処理を施すことによりフォトクロミック層を形成することによって、防眩機能を有する光学物品を得ることができる。
【0080】
[眼鏡]
本発明の一態様は、上記フォトクロミック物品の一形態である眼鏡レンズを備えた眼鏡に関する。この眼鏡に含まれる眼鏡レンズの詳細については、先に記載した通りである。上記眼鏡は、かかる眼鏡レンズを備えることにより、例えば屋外ではフォトクロミック化合物が太陽光の照射を受けて着色することでサングラスのように防眩効果を発揮することができ、屋内に戻るとフォトクロミック化合物が退色することで透過性を回復することができる。上記眼鏡について、フレーム等の構成については、公知技術を適用することができる。
【実施例0081】
以下、本発明を実施例により更に説明する。ただし、本発明は実施例に示す実施形態に限定されるものではない。
【0082】
以下において、分子構造の同定には核磁気共鳴装置(NMR)を用いた。NMRとしては、日本電子製ECS-400のプロトンNMRを使用した。測定溶媒としては、主に重クロロホルムを用い、重クロロホルムに難溶な場合に限り、重ジメチルスルホキシド、重アセトン、重アセトニトリル、重ベンゼン、重メタノール、重ピリジン等を適宜用いた。
純度の分析には高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いた。HPLCとしては、島津製作所製LC-2040Cを用いた。カラムにはYMC-Triart C18を用い、測定温度を40℃に設定した。移動相はトリフルオロ酢酸を0.1%含んだ水とアセトニトリルの混合溶媒を用い、流速は0.4mL/min.とした。
質量分析には日本ウォーターズ製ACQUITY UPLC H-Classシステム(UPLC)に質量分析ユニットとしてSQD2を装備した装置を用いた。カラムはACQUITY UPLC BEH C18を用い、測定温度を40℃に設定した。移動相はギ酸を添加した水とアセトニトリルの混合溶媒を用い、濃度勾配を付けて流速0.61 mL/min.で流した。イオン化はエレクトロスプレーイオン化(ESI)法を用いた。
CHN(炭素・水素・窒素)元素分析は燃焼法により実施した。
【0083】
[実施例1]
表1に示す反応物から、以下の方法によって下記例示化合物1を得た。
アルゴン雰囲気下、表1に示す反応物1(1.5g,4mmol)及び反応物2(2.3g,8mmol)のトルエン溶液(36mL)に、p-トルエンスルホン酸一水和物(0.15g,0.80mmol)を添加し、室温で終夜撹拌した。水酸化ナトリウム水溶液(1.0M,37 mL)を添加し、約20分間撹拌した。不純物をろ過で取り除き、トルエン(30mL×2)で抽出後、併せた有機層を水(20mL×2)で洗浄し、濃縮した。得られた残渣をカラムクロマトグラフィー(SiO2:200g,ヘプタン/クロロホルム(体積基準)=70/30~60/40)で精製した(1.2g,褐色固体)。得られた固体をヘプタン/酢酸エチル(2/1(体積基準),90mL)に懸濁させ、約30分間超音波処理を行い、ろ過及び乾燥することにより、最終生成物として、例示化合物1を薄黄緑色固体(0.9g)として得た。
【0084】
得られた生成物の分析を、以下の方法によって行った。
核磁気共鳴装置(NMR)にて構造同定を行った。
HPLCにより純度を分析したところ面積比で表1に示す値であった。
質量分析の結果、表1に示す精密質量の計算値に対し、表1に示す実測値(M+,相対強度100)であった。
燃焼法によるCHN元素分析の結果、表1に示す計算値に対し、実測値は表1に示す値であった。
以上の分析結果より総合的に目的化合物である、例示化合物1が生成していることを確認した。
【0085】
[実施例2~5、比較例1]
化合物の合成に使用した反応物1及び反応物2として、それぞれ表1に示す反応物を使用した点以外は上記と同様の操作により、例示化合物2~5及び比較化合物1それぞれ得た。
得られた生成物の分析を、先に記載した方法によって行った。分析結果を表1(表1-1~表1-2)に示す。
【0086】
【0087】
[評価方法]
<溶液スペクトルの測定、退色速度の評価>
実施例1~5及び比較例1について、各化合物を、安定剤を含有しないクロロホルムに溶解し、この化合物のクロロホルム溶液を調製した。
調製した溶液を入れた1cm角の石英分光セルに蓋をし、紫外線光源として浜松ホトニクス製UV-LED(LIGHTNINGCURE LC-L1V5及びL14310-120を組み合わせたもの、出力70%)を用いて紫外線を15秒間照射した。紫外線照射中は小型スターラーで溶液を撹拌した。紫外線照射終了から10秒以内に紫外可視分光光度計(島津製作所製UV-1900i、測定波長700~400nm、波長2nm刻み、サーベイモード)で吸光度を計測した。吸光度の計測は室温(23~28℃)で行った。なお、溶液の濃度は第一吸収波長(最も長波長に観察される吸収強度のピーク)の吸光度が0.95~1.05になるように調製した。更に10秒おきに吸光度の計測を行い、吸光度の減衰を計測した。第一回目の吸光度測定の第一吸収波長のピークが1になるように規格化し、その後の吸光度の減衰を計測し、時間による吸光度変化から退色の初期100秒間(11回の吸光度測定)のデータを一次反応のモデルで解析し、反応速度定数を求めた。[A0]を着色体の初期濃度、即ち、吸光度を規格化した値である1、[A]を一定時間後の着色体の濃度、即ち、規格化された吸光度の値、tを時間(秒)、kを速度定数とすると一次反応は以下の式で表すことができる。
【0088】
【0089】
表1に、実施例1~5及び比較例1のそれぞれについて求められた反応速度定数を示す。表1に示す結果から、実施例1~5の各化合物が、比較例1の比較化合物1と比べて退色速度が速いことが確認できる。
また、上記測定において、いずれの実施例の化合物についても、紫外線を照射することで強い可視域の吸収を持つ分子構造へ構造転移するフォトクロミック性能を示すことが確認された。
【0090】
【0091】
【0092】
最後に、前述の各態様を総括する。
【0093】
一態様によれば、一般式1で表されるフォトクロミック化合物が提供される。
【0094】
一形態では、一般式1中、R5~R8は、いずれも水素原子を表すことができる。
【0095】
一形態では、一般式1中、R2は電子吸引性基を表し、R1及びR3~R8はいずれも水素原子を表すことができる。
【0096】
一形態では、一般式1中、R1及びR3はそれぞれ独立に電子吸引性基を表し、R2及びR4~R8はいずれも水素原子を表すことができる。
【0097】
一形態では、一般式1中、R2及びR7はそれぞれ独立に電子吸引性基を表し、R1、R3~R6及びR8はいずれも水素原子を表すことができる。
【0098】
一形態では、上記電子吸引性基は、ハロゲン原子、炭素数1~6のパーフルオロアルキル基、パーフルオロフェニル基、パーフルオロアルキルフェニル基又はシアノ基であることができる。
【0099】
一形態では、上記ハロゲン原子は、フッ素原子であることができる。
【0100】
一形態では、上記パーフルオロアルキル基は、トリフルオロメチル基であることができる。
【0101】
一態様によれば、上記フォトクロミック化合物を含むフォトクロミック組成物が提供される。
【0102】
一形態では、上記フォトクロミック組成物は、重合性化合物を更に含むことができる。
【0103】
一態様によれば、上記フォトクロミック組成物を硬化した硬化物を含むフォトクロミック物品が提供される。
【0104】
一形態では、上記フォトクロミック物品は、基材と、上記硬化物であるフォトクロミック層とを有することができる。
【0105】
一形態では、上記フォトクロミック物品は、眼鏡レンズであることができる。
【0106】
一形態では、上記フォトクロミック物品は、ゴーグル用レンズであることができる。
【0107】
一形態では、上記フォトクロミック物品は、サンバイザーのバイザー部分であることができる。
【0108】
一形態では、上記フォトクロミック物品は、ヘルメットのシールド部材であることができる。
【0109】
一態様によれば、上記眼鏡レンズを備えた眼鏡が提供される。
【0110】
本明細書に記載の各種態様及び各種形態は、任意の組み合わせで2つ以上を組み合わせることができる。
【0111】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。