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特開2023-11159トルクリミッタおよびトルク変動吸収装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023011159
(43)【公開日】2023-01-24
(54)【発明の名称】トルクリミッタおよびトルク変動吸収装置
(51)【国際特許分類】
   F16D 7/02 20060101AFI20230117BHJP
   F16F 15/123 20060101ALI20230117BHJP
   F16F 15/129 20060101ALI20230117BHJP
【FI】
F16D7/02 A
F16F15/123 B
F16F15/129 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021114825
(22)【出願日】2021-07-12
(71)【出願人】
【識別番号】594079143
【氏名又は名称】株式会社アイシン福井
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】弁理士法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】庄司 志雄
(72)【発明者】
【氏名】小林 義邦
(72)【発明者】
【氏名】田中 克典
(57)【要約】
【課題】トルクリミッタに含まれる第1および第2伝達部材間の初期状態における摩擦係数を良好に確保すると共に、第1および第2伝達部材の偏摩耗とコストアップとを抑制する。
【解決手段】本開示のトルクリミッタは、駆動源からのトルクが伝達される金属製の第1伝達部材と、第1伝達部材に押し付けられる金属製の第2伝達部材とを含み、駆動源からのトルクが過大になると、第1および第2伝達部材間の摩擦力に抗して両者を相対的に摺動させるものであり、第1伝達部材と第2伝達部材との間には、金属の粉末が介設されている。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源からのトルクが伝達される金属製の第1伝達部材と、前記第1伝達部材に押し付けられる金属製の第2伝達部材とを含み、前記駆動源からのトルクが過大になると、前記第1および第2伝達部材間の摩擦力に抗して両者を相対的に摺動させるトルクリミッタにおいて、
前記第1伝達部材と前記第2伝達部材との間に金属の粉末が介設されているトルクリミッタ。
【請求項2】
請求項1に記載のトルクリミッタにおいて、前記第1および第2伝達部材の一方は、他方に比べて低い硬度を有するトルクリミッタ。
【請求項3】
請求項2に記載のトルクリミッタにおいて、
前記粉末は、前記第1および第2伝達部材のうちの硬度が低い一方と同種の金属の粉末であるトルクリミッタ。
【請求項4】
請求項1から3の何れか一項に記載のトルクリミッタにおいて、前記粉末の平均粒径は、1μm以下であるトルクリミッタ。
【請求項5】
請求項1から4の何れか一項に記載のトルクリミッタにおいて、
前記第1および第2伝達部材は、鋼鉄により形成され、前記粉末は、酸化鉄の粉末であるトルクリミッタ。
【請求項6】
請求項1から5の何れか一項に記載のトルクリミッタを備えたトルク変動吸収装置であって、
前記トルクリミッタの前記第2伝達部材と一体に回転する入力要素、前記駆動源からのトルクにより駆動される回転部材と一体に回転する出力要素、および前記入力要素と前記出力要素との間でトルクを伝達する弾性体を含むダンパ機構を備え、
前記トルクリミッタの前記第1伝達部材は、前記駆動源の出力軸に連結されるトルク変動吸収装置。
【請求項7】
請求項1から5の何れか一項に記載のトルクリミッタを備えたトルク変動吸収装置であって、
前記駆動源からのトルクが伝達される入力要素、前記トルクリミッタの前記第1伝達部材として機能する出力要素、および前記入力要素と前記出力要素との間でトルクを伝達する弾性体を含むダンパ機構を備え、
前記トルクリミッタの前記第2伝達部材は、前記駆動源からのトルクにより駆動される回転部材と一体に回転するトルク変動吸収装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、駆動源からのトルクが伝達される金属製の第1伝達部材と、当該第1伝達部材に押し付けられる第2伝達部材とを含むトルクリミッタおよびそれを備えたトルク変動吸収装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジン等の駆動源と被駆動部材との間に配置されるトルク変動吸収装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。このトルク変動吸収装置は、スプリングの弾性力によって駆動源の変動トルクを吸収するダンパ部と、摩擦によるヒステリシストルクによって変動トルクを吸収(抑制)するヒステリシス部と、ダンパ部およびヒステリシス部によって変動トルクを吸収できないときに滑りを生じて変動トルクを逃がすトルクリミッタ部とを含む。トルクリミッタ部は、何れも鉄製の駆動源側のプレッシャプレートおよびカバープレート(第2金属部材)と、被駆動部材側のライニングプレート(第1金属部材)と、プレッシャプレートおよびカバープレートをライニングプレートに向けて付勢する付勢部材とを含む。かかるトルク変動吸収装置は、駆動源側で過大なトルク変動が発生した場合、プレッシャプレートおよびカバープレートとライニングプレートとの間で発生している摩擦力に抗して当該プレッシャプレートおよびカバープレートをライニングプレートに対して滑らせ、過大な変動トルクが被駆動部材側に伝達されるのを抑制する。ここで、過大な変動トルクが被駆動部材側に伝達されるのを適正に回避するためには、プレッシャプレートおよびカバープレートとライニングプレートとの間で発生する摩擦力を概ね一定にする必要がある。このため、ライニングプレートの両側の摺動面には、3d遷移金属を含む化合物である酸化鉄により構成された第1被膜層が形成され、プレッシャプレートおよびカバープレートのライニングプレート側の摺動面には、3d遷移金属を含む化合物であるリン酸亜鉛により構成された第2被膜層が形成されている。これにより、プレッシャプレートおよびカバープレートとライニングプレートとを直接摺動させる場合に比べて、初期状態(摺動回数:20回以下)における摩擦係数(静摩擦係数)を定常状態(摺動回数:20回以上)における摩擦係数(静摩擦係数)に近づけることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2015/093463号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来のトルク変動吸収装置では、伝達部材としての各プレートの摺動面に被膜層を形成することで、プレート間(第1および第2金属部材間)の摩擦係数を長期に亘って0.45-0.60程度に保つことができる。しかしながら、上記トルク変動吸収装置において、各プレート間の初期状態における摩擦係数は、定常摺動時における摩擦係数よりも低く、トルクリミッタ部のコンパクト化を図るためには、初期状態における摩擦係数をより高くすることが求められる。また、被膜層を有するプレート同士を摺動させた場合、プレートの素材の面粗さやうねりの存在により、局所的な片当たりを生じてしまい、各プレートの被膜層が偏摩耗してしまうおそれがある。更に、各プレートの摺動面に被膜層を形成する場合、表面処理工程や出荷前の慣らし工程等が必要となり、トルクリミッタ部ひいてはトルク変動吸収装置のコストアップを招いてしまう。
【0005】
そこで、本開示は、トルクリミッタに含まれる第1および第2伝達部材間の初期状態における摩擦係数を良好に確保すると共に、第1および第2伝達部材の偏摩耗とコストアップとを抑制することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示のトルクリミッタは、駆動源からのトルクが伝達される金属製の第1伝達部材と、前記第1伝達部材に押し付けられる金属製の第2伝達部材とを含み、前記駆動源からのトルクが過大になると、前記第1および第2伝達部材間の摩擦力に抗して両者を相対的に摺動させるトルクリミッタにおいて、前記第1伝達部材と前記第2伝達部材との間に金属の粉末が介設されたものである。
【0007】
本開示のトルクリミッタでは、第1伝達部材と第2伝達部材との間に金属の粉末が介設されるので、第1伝達部材と第2伝達部材との間の真実接触面積を理論上増加させることができる。これにより、第1伝達部材と第2伝達部材との摺動回数が比較的少ない初期状態から第1および第2伝達部材間の摩擦係数(静摩擦係数)を良好に確保することが可能となる。また、第1伝達部材と第2伝達部材との間の真実接触面積の増加により、第1および第2伝達部材の表面粗さやうねりの影響を低減することができるので、第1および第2伝達部材の偏摩耗を良好に抑制することができる。更に、金属の粉末は、第1および第2伝達部材の間に比較的短時間で容易に介設可能であり、本開示のトルクリミッタでは、第1および第2伝達部材の表面に被膜層を形成する工程や慣らし工程等が不要となることで、被膜層が形成されたプレートを含むトルクリミッタに比べて、コストアップを良好に抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本開示のトルクリミッタを含むトルク変動吸収装置を含む車両を示す概略構成図である。
図2】本開示のトルクリミッタを含むトルク変動吸収装置を示す断面図である。
図3】本開示のトルクリミッタに適用される第1および第2伝達部材間の摩擦係数と、比較例の第1および第2伝達部材間の摩擦係数とを比較するための図表である。
図4】本開示の他のトルク変動吸収装置を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
次に、図面を参照しながら、本開示の発明を実施するための形態について説明する。
【0010】
図1は、本開示のトルク変動吸収装置1を含む車両Vを示す概略構成図である。車両Vは、ガソリンや軽油、LPGといった炭化水素系の燃料と空気との混合気を爆発燃焼させて動力を発生するエンジン(内燃機関)EGと、当該エンジンEGからの動力(トルク)を車輪W(駆動輪)に伝達するトランスミッションTMとを含むものである。トランスミッションTMは、トルク変動吸収装置1を介してエンジンEGのクランクシャフトCS(出力軸)に連結される入力軸IS(回転部材)と、デファレンシャルギヤDFを介して左右のドライブシャフトDSおよび車輪Wに連結される出力軸OSとを含む。トランスミッションTMは、流体伝動装置(トルクコンバータ)、ロックアップクラッチおよび有段式あるいは無段式の変速機構を含むものであってもよく、発進クラッチおよび有段式あるいは無段式の変速機構を含むものであってもよく、1つのモータジェネレータ、少なくとも1つのクラッチおよび変速機構を含むものであってもよく、2つのモータジェネレータおよび動力分配機構を含むものであってもよい。
【0011】
トルク変動吸収装置1は、図2に示すように、連結部材としてのフライホイールFWを介してエンジンEGのクランクシャフトCSに連結されるトルクリミッタ10と、エンジンEGとトランスミッションTM(入力軸IS)との間でトルク変動すなわち振動を吸収するダンパ機構20とを含む。なお、以下の説明において、「軸方向」は、特に明記するものを除いて、基本的に、トルク変動吸収装置1の中心軸(軸心、図2等における一点鎖線参照)の延在方向を示す。また、「径方向」は、特に明記するものを除いて、基本的に、トルク変動吸収装置1の回転要素の径方向、すなわちトルク変動吸収装置1の中心軸から当該中心軸と直交する方向(半径方向)に延びる直線の延在方向を示す。更に、「周方向」は、特に明記するものを除いて、基本的に、トルク変動吸収装置1等の回転要素の周方向、すなわち当該回転要素の回転方向に沿った方向を示す。
【0012】
トルク変動吸収装置1のトルクリミッタ10は、図2に示すように、カバープレート11(第1伝達部材)と、サポートプレート12と、押圧プレート13(第1伝達部材)と、ライニングプレート14(第2伝達部材)と、皿ばね15(付勢部材)とを含む。カバープレート11は、熱間圧延鋼板(本実施形態では、SAPH440)からプレス成形により環状に形成されている。カバープレート11の外周側半部11oには、複数のボルト孔が周方向に間隔をおいて形成されており、カバープレート11の内周側半部11iは、外周側半部11oに対して軸方向にオフセットされている。
【0013】
サポートプレート12は、熱間圧延鋼板(本実施形態では、SAPH440)からプレス成形により環状に形成されており、カバープレート11の外径と略同一の外径およびカバープレート11の内径よりも大きい内径を有する。サポートプレート12の外周側半部12oにも、複数のボルト孔が周方向に間隔をおいて形成されており、サポートプレート12の内周側半部12iは、当該外周側半部12oに対して軸方向にオフセットされている。カバープレート11およびサポートプレート12は、対応するボルト孔同士が互いに重なり合い、かつ外周側半部11o,12o同士が互いに密接する状態で、それぞれ対応するボルト孔に挿通された複数のボルトBを介してフライホイールFWに固定(連結)される。そして、カバープレート11の内周側半部11iと、サポートプレート12の内周側半部12iとの間に環状の空間が画成される。
【0014】
押圧プレート13は、熱間圧延鋼板(本実施形態では、SAPH440)からプレス成形により環状に形成されており、カバープレート11の外周側半部11oと内周側半部11iとの境界部の内径よりも小さい外径と、カバープレート11の内径と略同一の内径を有する。図2に示すように、押圧プレート13は、カバープレート11とサポートプレート12との間の空間内に配置される。
【0015】
ライニングプレート14は、ガス軟窒化処理が施された熱間圧延鋼板(本実施形態では、SPHC270)から環状に形成されている。ガス軟窒化処理は、NH3,N2およびCO2を含む混合ガス雰囲気の炉内で対象物(ここでは、ライニングプレート14)を例えば530~600℃に加熱し、当該対象物の表面に例えば5~20μm程度の鉄の炭窒化物を含む緻密な化合物層を生成すると共に、対象物の内部、すなわち化合物層の直下から例えば0.3mm程度内側までの範囲に固溶窒素拡散層を生成する処理である。従って、ライニングプレート14は、カバープレート11、サポートプレート12および押圧プレート13よりも高い硬度を有する。ライニングプレート14は、カバープレート11の外周側半部11oと内周側半部11iとの境界部の内径よりも小さい外径と、カバープレート11の内径よりも小さい内径を有する。ライニングプレート14は、図2に示すように、カバープレート11の内周側半部11iと押圧プレート13との軸方向における間に配置され、両者の間から径方向内側に突出する。
【0016】
皿ばね15は、サポートプレート12の外周側半部12oと内周側半部12iとの境界部の内径よりも小さい外径と、サポートプレート12の内径よりも小さく、かつ押圧プレート13の内径よりも大きい内径を有する。皿ばね15は、外周部がサポートプレート12の内周側半部12iの内面に当接すると共に内周部が押圧プレート13に当接するように内周側半部12iと押圧プレート13との軸方向における間に圧縮された状態で配置される。これにより、皿ばね15の剛性(ばね定数)に応じた付勢力等により押圧プレート13とライニングプレート14とが互いに押し付けられると共に、ライニングプレート14とカバープレート11の内周側半部11iとが互いに押し付けられる。この結果、ライニングプレート14は、カバープレート11の内周側半部11iおよび押圧プレート13と摩擦係合する。
【0017】
トルク変動吸収装置1のダンパ機構20は、いわゆる乾式ダンパであり、回転要素として、トルクリミッタ10を介してフライホイールFWに連結されるドライブ部材21(入力要素)と、トランスミッションTMの入力軸ISに連結(固定)されるドリブン部材22(出力要素)とを含む。更に、ダンパ機構20は、トルク伝達要素(トルク伝達弾性体)として、ドライブ部材21とドリブン部材22との間で並列に作用してトルクを伝達する複数(本実施形態では、例えば2-6個)のスプリングSP(第1弾性体)と、ドライブ部材21とドリブン部材22との間で並列に作用してトルクを伝達可能な複数(本実施形態では、スプリングSPと同数であり、例えば2-6個)の弾性部材EM(第2弾性体)とを含む。
【0018】
図2に示すように、ダンパ機構20のドライブ部材21は、複数のリベットを介して互いに固定(連結)されると共にトルクリミッタ10のライニングプレート14の内周部に連結される第1プレート部材211および第2プレート部材212を含む。第1プレート部材211は、鋼板等をプレス加工することにより形成された環状の板体であり、その外周部には、複数のリベット孔が周方向に間隔をおいて(等間隔に)配設されている。また、第1プレート部材211は、周方向に間隔をおいて(等間隔に)形成された複数(スプリングSPと同数)のスプリング収容窓211wと、複数(スプリングSPと同数)のトルク授受部211c(弾性体当接部)とを含む。各スプリング収容窓211wは、スプリングSPの自然長に応じた周長を有し、各トルク授受部211cは、隣り合うスプリング収容窓211wの周方向における間に1つずつ形成されている。
【0019】
第2プレート部材212は、鋼板等をプレス加工することにより第1プレート部材211と同一の外径および内径を有するように形成された環状のプレス加工品である。また、第2プレート部材212は、第1プレート部材211の対応するスプリング収容窓211wと対向するように周方向に間隔をおいて(等間隔に)形成された複数(スプリングSPと同数)のスプリング収容窓212wと、複数(スプリングSPと同数)のトルク授受部212c(弾性体当接部)とを含む。各スプリング収容窓212wも、スプリングSPの自然長に応じた周長を有し、各トルク授受部212cは、隣り合うスプリング収容窓212wの周方向における間に1つずつ形成されている。
【0020】
ダンパ機構20のドリブン部材22は、筒状部220と、当該筒状部220の軸方向における中央部付近から径方向外側に延出された環状のフランジ部221とを含む。筒状部220の内周面には、スプラインが形成されており、ドリブン部材22は、当該スプラインを介してトランスミッションTMの入力軸ISに一体回転するように連結(固定)される。また、ドリブン部材22のフランジ部221からは、複数(スプリングSPと同数)の図示しないトルク授受部(弾性体当接部)がスプリングSPの自然長に応じた周方向における間隔をおいて径方向外側に延出されている。
【0021】
第1プレート部材211の各スプリング収容窓211wと、第2プレート部材212の各スプリング収容窓212w内には、スプリングSPが1個ずつ配置される。また、各スプリングSPには、図2に示すように、スプリング収容窓211w,212wへの配置に先立ってスプリングシートSSが装着される。スプリングシートSSは、対応するスプリングSPの一端に嵌合されると共に当該スプリングSPの外周面の径方向外側の領域を覆うように形成されている。更に、各スプリングSPの他端には、図示しないスプリングシートが嵌合される。スプリングシートSS等が装着されたスプリングSPは、当該スプリングシートSSが対応するスプリング収容窓211w,212wの内壁面等に摺接するように当該スプリング収容窓211w,212wに配置される。ダンパ機構20の取付状態において、ドライブ部材21の各トルク授受部211c,212cは、対応するスプリング収容窓211w,212wに配置されたスプリングSPの一端側または他端側のスプリングシートSS等に当接する。更に、ドリブン部材22の各トルク授受部は、対応するスプリングSPの一端側または他端側のスプリングシートSS等に当接する。これにより、ドライブ部材21とドリブン部材22とが複数のスプリングSPを介して連結される。
【0022】
本実施形態では、スプリングSPとして、荷重が加えられてないときに真っ直ぐに延びる軸心を有するように螺旋状に巻かれた金属材からなる直線型コイルスプリングが採用されている。これにより、アークコイルスプリングを用いた場合に比べて、スプリングSPを軸心に沿ってより適正に伸縮させることができる。この結果、ドライブ部材21(入力要素)とドリブン部材22(出力要素)との相対変位が増加していく際にスプリングSPからドリブン部材22に伝達されるトルクと、ドライブ部材21とドリブン部材22との相対変位が減少していく際にスプリングSPからドリブン部材22に伝達されるトルクとの差すなわちヒステリシスを低減化することが可能となる。ただし、スプリングSPとして、アークコイルスプリングが採用されてもよい。
【0023】
また、弾性部材EMは、樹脂により短尺円柱状に形成されており、各スプリングSPの内部に1個ずつ同軸に配置される。各弾性部材EMは、ドライブ部材21への入力トルク(駆動トルク)あるいはドライブシャフトDS側からドリブン部材22に付与されるトルク(被駆動トルク)がダンパ機構20の最大捩れ角θmaxに対応したトルクT2(第2の閾値)よりも小さい予め定められたトルク(第1の閾値)T1以上であって、ドライブ部材21とドリブン部材22との相対捩れ角が角度θref以上であるときに、複数のスプリングSPと並列に作用する。これにより、ダンパ機構20に大きなトルクが伝達された際に、当該ダンパ機構20のねじれ剛性を高めることが可能となる。加えて、ダンパ機構20はドライブ部材21とドリブン部材22との相対回転を規制する図示しないストッパを含む。当該ストッパは、ドライブ部材21への入力トルクがダンパ機構20の最大捩れ角θmaxに対応した上記トルクT2に達すると、ドライブ部材21とドリブン部材22との相対回転を規制し、それに伴って、スプリングSP並びに弾性部材EMのすべての撓みが規制される。なお、ダンパ機構20において、弾性部材EMの数は、必ずしもスプリングSPの数と同数である必要はなく、スプリングSPよりも少ない数の弾性部材EMが、複数のスプリングSPに対して周方向に等間隔に組み付けられてもよい。
【0024】
また、トルク変動吸収装置1のダンパ機構20は、ドライブ部材21とドリブン部材22との間で摩擦力(ヒステリシストルク)を発生させる摩擦発生機構25を含む。摩擦発生機構25は、それぞれ筒状部Cおよび当該筒状部Cの一端から径方向外側に延出された環状のフランジ部Fを含む第1および第2スラスト部材26,27と、付勢部材としての皿ばね28とを含む。第1スラスト部材26の筒状部Cは、フランジ部Fがドリブン部材22のフランジ部221に当接するように当該ドリブン部材22の筒状部220の一端(図2における左端)により支持されると共に、ドライブ部材21の第1プレート部材211の内周を回転自在に支持する。また、第2スラスト部材27の筒状部Cは、フランジ部Fがドリブン部材22のフランジ部221に当接するように当該ドリブン部材22の筒状部220の他端(図2における右端)により支持されると共に、ドライブ部材21の第2プレート部材212の内周を回転自在に支持する。更に、皿ばね28は、第2スラスト部材27のフランジ部Fとドライブ部材21の第2プレート部材212の内周部との間に配置される。これにより、皿ばね28の付勢力(弾性力)によって第1および第2スラスト部材26,27がドリブン部材22(フランジ部221)に押し付けられることから、ドライブ部材21とドリブン部材22との間で摩擦力を発生させてドライブ部材21の振動を減衰することが可能となる。
【0025】
上述のように構成されたトルク変動吸収装置1を含む車両Vでは、エンジンEG(クランクシャフトCS)からフライホイールFWに伝達されたトルクが、摩擦係合して一体に回転するトルクリミッタ10のカバープレート11、サポートプレート12、押圧プレート13、ライニングプレート14および皿ばね15を介してダンパ機構20のドライブ部材21に伝達される。ドライブ部材21に伝達されたトルクは、複数のスプリングSP(および複数の弾性部材EM)やドリブン部材22を介して、トランスミッションTMの入力軸ISに伝達される。この際、エンジンEGからのトルクの変動すなわち振動は、ダンパ機構20の複数のスプリングSP(および複数の弾性部材EM)により減衰される。更に、エンジンEGからトランスミッションTMの入力軸ISにトルクが伝達される際には、摩擦発生機構25から比較的小さい摩擦力がドライブ部材21の第1および第2プレート部材211,212に常時付与される。これにより、エンジンEGからトランスミッションTMの入力軸ISにトルクが伝達される際に、ドライブ部材21の振動を適正に減衰してノイズや振動の発生を良好に抑制することが可能となる。
【0026】
また、トルク変動吸収装置1を含む車両Vでは、車輪W(トランスミッションTM)側からのトルクが入力軸ISに伝達されると、当該入力軸ISに伝達されたトルクが、ドリブン部材22、複数のスプリングSP(および複数の弾性部材EM)、ドライブ部材21、摩擦係合して一体に回転するトルクリミッタ10のカバープレート11、サポートプレート12、押圧プレート13、ライニングプレート14および皿ばね15、並びにフライホイールFWを介してエンジンEG側に伝達される。この際、入力軸ISからのトルクの変動すなわち振動は、ダンパ機構20の複数のスプリングSP(および複数の弾性部材EM)により減衰される。更に、トランスミッションTMの入力軸ISからエンジンEG側にトルクが伝達される際にも、摩擦発生機構25から比較的小さい摩擦力がドライブ部材21の第1および第2プレート部材211,212に常時付与される。これにより、トランスミッションTMの入力軸ISからエンジンEG側にトルクが伝達される際に、ドライブ部材21の振動を適正に減衰してノイズや振動の発生を良好に抑制することが可能となる。
【0027】
一方、エンジンEGからフライホイールFWに伝達されるトルクあるいは車輪W(トランスミッションTM)側からダンパ機構20のドライブ部材21に伝達されるトルク(エンジンEGの変動トルク)がカバープレート11とライニングプレート14との間および押圧プレート13とライニングプレート14との間の摩擦係数(静摩擦係数)や、カバープレート11、押圧プレート13およびライニングプレート14の作動半径、皿ばね15の剛性(ばね定数)等から定まるトルクリミッタ10のリミッタトルク(滑り発生トルク)Tlimを上回ると、カバープレート11および押圧プレート13とライニングプレート14との間に滑りを生じる。これにより、エンジンEGからトランスミッションTM側に過大なトルクが伝達されたり、トランスミッションTMからエンジンEG側に過大なトルクが伝達されたりするのを良好に抑制することが可能となる。
【0028】
ここで、フライホイールFWとダンパ機構20との間で過大なトルクの伝達を抑制しつつトルクを適正に伝達するためには、トルクリミッタ10のカバープレート11とライニングプレート14との間および押圧プレート13とライニングプレート14との間の摩擦係数(静摩擦係数)を車両V(トルクリミッタ10)の使用開始当初すなわちカバープレート11および押圧プレート13とライニングプレート14との摺動回数が比較的少ない初期状態から十分に確保することが必要となる。カバープレート11および押圧プレート13とライニングプレート14との間の摩擦係数を確保するためには、カバープレート11(内周側半部11i)の内面、押圧プレート13のライニングプレート14側の表面およびライニングプレート14の両面に、酸化鉄あるいはリン酸亜鉛の被膜層を形成することも考えられる。ただし、カバープレート11、押圧プレート13およびライニングプレート14に酸化鉄あるいはリン酸亜鉛の被膜層を形成しても、カバープレート11および押圧プレート13とライニングプレート14との間の摩擦係数をトルクリミッタ10の初期状態において十分に確保し得なくなるおそれがある。
【0029】
このため、本発明者らは、カバープレート11および押圧プレート13とライニングプレート14との間の摩擦係数をトルクリミッタ10の初期状態においても十分に確保すべく鋭意研究を行った。そして、研究の結果、本発明者らは、カバープレート11とライニングプレート14との間および押圧プレート13とライニングプレート14との間に金属の粉末を介設することで、カバープレート11および押圧プレート13とライニングプレート14との間の摩擦係数を初期状態においても十分に確保し得ることを見出した。かかる研究結果を踏まえて、本実施形態のトルクリミッタ10では、図2に示すように、カバープレート11(内周側半部11i)とライニングプレート14との間および押圧プレート13とライニングプレート14との間に、熱間圧延鋼板(鋼鉄)から形成されたカバープレート11、押圧プレート13およびライニングプレート14と同種の金属であるヘマタイト(酸化鉄)の粉末Pが介設される。また、ヘマタイトの粉末Pとしては、平均粒径が1μm以下、好ましくは、カバープレート11および押圧プレート13とライニングプレート14との摺動により発生する摩耗粉(金属粉)の平均粒径(例えば、0.7μm)以下であるものが採用される。
【0030】
更に、本実施形態では、水あるいは揮発性液体にヘマタイト(酸化鉄)の粉末Pを混入させたスラリーをカバープレート11、押圧プレート13およびライニングプレート14の少なくとも何れか1つに塗布した後に水あるいは揮発性液体を気化させることで、カバープレート11とライニングプレート14との間および押圧プレート13とライニングプレート14との間にヘマタイトの粉末Pが介設される。ただし、ヘマタイト(酸化鉄)の粉末Pは、カバープレート11、押圧プレート13およびライニングプレート14の少なくとも何れか1つにプレスにより圧着させられてもよい。また、カバープレート11、押圧プレート13およびライニングプレート14の少なくとも何れか1つを磁化させてヘマタイト(酸化鉄)の粉末Pを該当するプレートに磁力により付着させてもよい。更に、ヘマタイト(酸化鉄)の粉末Pは、噴霧機あるいはふるい等を用いてカバープレート11とライニングプレート14との間および押圧プレート13とライニングプレート14との間に介設されてもよい。
【0031】
図3に、カバープレート11および押圧プレート13とライニングプレート14との間にヘマタイト(金属)の粉末Pが介設されるトルクリミッタ10の性能を評価するために本発明者らが行った試験の結果を示す。本発明者らによる試験は、トルクリミッタ10のライニングプレート14(第2伝達部材)に相当する環状の第1試験プレートに、カバープレート11および押圧プレート13(第1伝達部材)に相当する環状の第2試験プレートを所定の力で押し付けながら、第1試験プレートを所定の回転数で回転させるものである。そして、本発明者らは、複数組の第1および第2試験プレートについて試験を行い、組ごとに第1および第2試験プレートの摺動距離と第1および第2試験プレートの摩擦係数(静摩擦係数)との関係を求めた。第1および第2試験プレートの摺動距離は、第1試験プレートを回転させ始めてから滑りを生じた第1および第2試験プレートの発熱を抑制し得る時間として予め定められた試験時間が経過するまでの第1および第2試験プレートの回転距離に試験回数を乗じて得られるものである。また、第1および第2試験プレートの摩擦係数(静摩擦係数)は、第1試験プレートに対する第2試験プレートの押し付け力と、第2試験プレートの第1試験プレートとの接触部以外の部分で測定された摩擦力等から算出されるものである。
【0032】
図3において、実線は、ガス軟窒化処理が施されたSPHC270から形成された第1試験プレートと、SAPH440から形成された第2試験プレートと、第1および第2試験プレート間に介設された平均粒径が0.7μm以下(ここでは、0.22μm)であるヘマタイトの粉末Pとを含むトルクリミッタ10に対応した供試品についての試験結果を示す。また、図3において、一点鎖線は、ガス軟窒化処理が施されたSPHC270から形成されると共に酸化鉄の被膜を有する第1試験プレートと、SAPH440から形成されると共にリン酸亜鉛の被膜を有する第2試験プレートとを含む第1の比較例についての試験結果を示す。更に、図3において、二点鎖線は、SAPH440から形成された第1試験プレートと、SAPH440から形成された第2試験プレートと含む第2の比較例(粉体および被膜層を有さないもの)についての試験結果を示す。
【0033】
図3に示す試験結果より、ヘマタイト(金属)の粉末Pを含むトルクリミッタ10では、カバープレート11および押圧プレート13とライニングプレート14との摺動回数が比較的少ない初期状態(使用開始当初)から、カバープレート11とライニングプレート14との間および押圧プレート13とライニングプレート14との間の摩擦係数(静摩擦係数)を第1および第2の比較例に比べて十分に高く(μ=0.75以上)に確保し得ることが理解されよう。すなわち、カバープレート11および押圧プレート13とライニングプレート14との間にヘマタイトの粉末Pを介設することで、カバープレート11(内周側半部11i)とライニングプレート14との間の真実接触面積と、押圧プレート13とライニングプレート14との間の真実接触面積とを理論上増加させることができる。これにより、初期状態からカバープレート11とライニングプレート14との間および押圧プレート13とライニングプレート14との間の摩擦係数(静摩擦係数)を良好に確保することが可能となる。
【0034】
加えて、真実接触面積の増加により、カバープレート11(内周側半部11i)、押圧プレート13およびライニングプレート14の表面粗さやうねりの影響を低減することができるので、カバープレート11、押圧プレート13およびライニングプレート14の偏摩耗を良好に抑制することができる。また、トルクリミッタ10において、粉末Pの平均粒径は、1μm以下、好ましくはカバープレート11および押圧プレート13とライニングプレート14との摺動により発生する摩耗粉(金属粉)の平均粒径(例えば、0.7μm)以下とされる。これにより、カバープレート11とライニングプレート14との間の真実接触面積と、押圧プレート13とライニングプレート14との間の真実接触面積とを極めて良好に確保することが可能となる。更に、ヘマタイト(金属)の粉末Pは、カバープレート11とライニングプレート14との間および押圧プレート13とライニングプレート14との間に比較的短時間で容易に介設可能である。従って、トルクリミッタ10では、各プレートの表面に被膜層を形成する工程や慣らし工程等が不要となることで、被膜層が形成されたプレートを含むトルクリミッタに比べて、コストアップを良好に抑制することが可能となる。
【0035】
また、トルクリミッタ10において、カバープレート11および押圧プレート13(第1伝達部材)は、ライニングプレート14(第2伝達部材)に比べて低い硬度を有する。従ってカバープレート11および押圧プレート13とライニングプレート14とが相対的に摺動する際に硬度が低いカバープレート11および押圧プレート13を摩耗させ、それにより発生する摩耗粉(金属粉)と既存のヘマタイトの粉末Pとを混合させることで、カバープレート11とライニングプレート14との間および押圧プレート13とライニングプレート14との間の摩擦係数(静摩擦係数)を高く保つことが可能となる。
【0036】
更に、トルクリミッタ10において、カバープレート11および押圧プレート13とライニングプレート14との間に介設される粉末Pは、ライニングプレート14に比べて低い硬度を有するカバープレート11および押圧プレート13と同種の金属(酸化鉄)の粉末である。これにより、粉末Pの特性と、カバープレート11および押圧プレート13とライニングプレート14との相対的な摺動により発生する摩耗粉の特性とを近づけることができるので、粉末Pが摩耗粉で置き換えられても、トルクリミッタ10の性能を概ね一定に保つことが可能となる。ただし、ヘマタイトの粉末Pは、マグネタイトの粉末で置き換えられてもよく、酸化鉄以外の金属の粉末で置き換えられてもよい。また、カバープレート11および押圧プレート13とライニングプレート14は、熱間圧延鋼板(鋼鉄)以外の金属により形成されてもよく、この場合も、粉末Pは、酸化鉄以外の金属の粉末であってもよい。
【0037】
そして、トルク変動吸収装置1は、上記トルクリミッタ10に加えて、ダンパ機構20を含み、ダンパ機構20は、トルクリミッタ10のライニングプレート14(第2伝達部材)と一体に回転するドライブ部材21(入力要素)と、駆動源としてのエンジンEGからのトルクにより駆動されるトランスミッションTMの入力軸IS(回転部材)と一体に回転するドリブン部材22(出力要素)と、およびドライブ部材21とドリブン部材22との間でトルクを伝達するスプリングSP(第1弾性体)および弾性部材EM(第2弾性体)とを含む。かかるトルク変動吸収装置1では、初期状態からカバープレート11および押圧プレート13とライニングプレート14との間の摩擦係数を良好に確保し得ることから、ダンパ機構20を包囲するトルクリミッタ10を小径化して装置全体のコンパクト化を図ることが可能となる。
【0038】
図4は、本開示の他のトルク変動吸収装置1Bを示す模式図である。なお、トルク変動吸収装置1Bの構成要素のうち、上記トルク変動吸収装置1と同一の要素については同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0039】
図4に示すトルク変動吸収装置1Bでは、トルクリミッタ10Bがダンパ機構20Bの径方向内側に配置される。すなわち、トルク変動吸収装置1Bにおいて、ダンパ機構20Bは、駆動源としてのエンジンEGからのトルクが伝達されるドライブ部材(入力要素)21Bと、ガス軟窒化処理が施された熱間圧延鋼板(本実施形態では、SPHC270)から環状に形成されてトルクリミッタ10Bの第1伝達部材として機能するドリブン部材(出力要素)22Bと、ドライブ部材21Bとドリブン部材22Bとの間でトルクを伝達する弾性体としてのスプリングSPや弾性部材EMを含む。また、トルクリミッタ10Bのカバープレート11Bおよびサポートプレート12B(第2伝達部材)は、熱間圧延鋼板(本実施形態では、SAPH440)からプレス成形により環状に形成されており、互いに一体化されると共にトランスミッションTMの入力軸ISに一体回転するように連結(固定)される。更に、トルクリミッタ10Bの押圧プレート13B(第2伝達部材)は、熱間圧延鋼板(本実施形態では、SAPH440)からプレス成形により環状に形成されており、カバープレート11Bとサポートプレート12Bとの間の空間内に配置される。また、ダンパ機構20Bのドリブン部材22Bは、カバープレート11Bの外周部と押圧プレート13Bとの軸方向における間に配置されて径方向外側に突出し、カバープレート11Bとドリブン部材22Bとの間および押圧プレート13Bとドリブン部材22Bとの間には、ヘマタイト(酸化鉄)等の粉末Pが介設される。更に、皿ばね15Bがサポートプレート12Bと押圧プレート13Bとの軸方向における間に圧縮された状態で配置され、皿ばね15Bの剛性(ばね定数)に応じた付勢力等によりカバープレート11Bの外周部および押圧プレート13Bがドリブン部材22Bに押し付けられる。

かかるトルク変動吸収装置1Bでは、トルクリミッタ10Bをダンパ機構20Bの径方向内側に配置して装置全体のコンパクト化を図りつつ、初期状態からカバープレート11Bおよび押圧プレート13Bとドリブン部材22Bとの間の摩擦係数を良好に確保することが可能となる。
【0040】
以上説明したように、本開示のトルクリミッタは、駆動源(EG)からのトルクが伝達される金属製の第1伝達部材(11,13,22B)と、前記第1伝達部材(11,13,22B)に押し付けられる金属製の第2伝達部材(14,11B,13B)とを含み、前記駆動源(EG)からのトルクが過大になると、前記第1および第2伝達部材(11,13,14,22B,11B,13B)間の摩擦力に抗して両者を相対的に摺動させるトルクリミッタ(10,10B)において、前記第1伝達部材(11,13,22B)と前記第2伝達部材(14,11B,13B)との間に金属の粉末(P)が介設されたものである。
【0041】
本開示のトルクリミッタでは、第1伝達部材と第2伝達部材との間に金属の粉末が介設されるので、第1伝達部材と第2伝達部材との間の真実接触面積を増加させることができる。これにより、第1伝達部材と第2伝達部材との摺動回数が比較的少ない初期状態から第1および第2伝達部材間の摩擦係数(静摩擦係数)を良好に確保することが可能となる。また、第1伝達部材と第2伝達部材との間の真実接触面積の増加により、第1および第2伝達部材の表面粗さやうねりの影響を低減することができるので、第1および第2伝達部材の偏摩耗を良好に抑制することができる。更に、金属の粉末は、第1および第2伝達部材の間に比較的短時間で容易に介設可能であり、本開示のトルクリミッタでは、第1および第2伝達部材の表面に被膜層を形成する工程や慣らし工程等が不要となることで、被膜層が形成されたプレートを含むトルクリミッタに比べて、コストアップを良好に抑制することが可能となる。
【0042】
また、前記第1伝達部材(11,13,22B)および前記第2伝達部材(14,11B,13B)の一方は、他方に比べて低い硬度を有してもよい。これにより、第1および第2伝達部材が相対的に摺動する際に、当該第1および第2伝達部材の硬度が低い一方を摩耗させ、それにより発生する摩耗粉と既存の金属の粉末とを混合させることで、第1および第2伝達部材間の摩擦係数を高く保つことが可能となる。
【0043】
更に、前記粉末(P)は、前記第1および第2伝達部材(11,13,14,22B,11B,13B)のうちの硬度が低い一方と同種の金属の粉末であってもよい。これにより、第1および第2伝達部材間に介設された金属の粉末の特性と、第1および第2伝達部材の相対的な摺動により発生する摩耗粉の特性とを近づけることができるので、金属の粉末が摩耗粉で置き換えられても、トルクリミッタの性能を概ね一定に保つことが可能となる。
【0044】
また、前記粉末(P)の平均粒径は、1μm以下であってもよい。これにより、第1伝達部材と第2伝達部材との間の真実接触面積を良好に確保することが可能となる。
【0045】
更に、前記第1および第2伝達部材(11,13,14,22B,11B,13B)は、鋼鉄により形成されてもよく、前記粉末(P)は、酸化鉄の粉末であってもよい。
【0046】
本開示のトルク変動吸収装置(1)は、上記何れかのトルクリミッタ(10)と、前記トルクリミッタ(10)の前記第2伝達部材(14)と一体に回転する入力要素(21)、前記駆動源(EG,CS)からのトルクにより駆動される回転部材(IS)と一体に回転する出力要素(22)、および前記入力要素(21)と前記出力要素(22)との間でトルクを伝達する弾性体(SP,EM)を含むダンパ機構(20)とを含み、前記トルクリミッタ(10)の前記第1伝達部材(11,13)が、前記駆動源(EG)の出力軸(CS)に連結されるものである。
【0047】
かかるトルク変動吸収装置では、初期状態から第1および第2伝達部材間の摩擦係数を良好に確保し得ることから、ダンパ機構を包囲するトルクリミッタを小径化して装置全体のコンパクト化を図ることが可能となる。
【0048】
本開示の他のトルク変動吸収装置(1B)は、上記何れかのトルクリミッタ(10B)と、前記駆動源(EG,CS)からのトルクが伝達される入力要素(21B)、前記トルクリミッタ(10B)の前記第1伝達部材として機能する出力要素(22B)、および前記入力要素(21B)と前記出力要素(22B)との間でトルクを伝達する弾性体(SP,EM)を含むダンパ機構(20B)とを含み、前記トルクリミッタ(10B)の前記第2伝達部材(11B,13B)は、前記駆動源(EG)からのトルクにより駆動される回転部材(IS)と一体に回転するものである。かかるトルク変動吸収装置においても、初期状態から第1および第2伝達部材間の摩擦係数を良好に確保することが可能となる。
【0049】
本開示の発明は上記実施形態に何ら限定されるものではなく、本開示の外延の範囲内において様々な変更をなし得ることはいうまでもない。更に、上記実施形態は、あくまで発明の概要の欄に記載された発明の具体的な一形態に過ぎず、発明の概要の欄に記載された発明の要素を限定するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本開示の発明は、トルク変動吸収装置の製造分野において利用可能である。
【符号の説明】
【0051】
1,1B トルク変動吸収装置、10,10B トルクリミッタ、11,11B カバープレート、11i 内周側半部、11o 外周側半部、12,12B サポートプレート、12i 内周側半部、12o 外周側半部、13,13B 押圧プレート、14 ライニングプレート、15,15B 皿ばね、20,20B ダンパ機構、21,21B ドライブ部材、211 第1プレート部材、211c トルク授受部、211w スプリング収容窓、212 第2プレート部材、212c トルク授受部、212w スプリング収容窓、22,22B ドリブン部材、220 筒状部、221 フランジ部、25 摩擦発生機構、26 第1スラスト部材、27 第2スラスト部材、28 皿ばね、B ボルト、C 筒状部、CS クランクシャフト、DF デファレンシャルギヤ、DS ドライブシャフト、EG エンジン、EM 弾性部材、F フランジ部、FW フライホイール、IS 入力軸、OS 出力軸、P 粉末、SP スプリング、SS スプリングシート、TM トランスミッション、V 車両、W 車輪。
図1
図2
図3
図4