(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023111590
(43)【公開日】2023-08-10
(54)【発明の名称】車両用駆動装置の制御装置
(51)【国際特許分類】
B60W 10/08 20060101AFI20230803BHJP
B60W 10/06 20060101ALI20230803BHJP
B60W 20/00 20160101ALI20230803BHJP
B60K 6/442 20071001ALI20230803BHJP
B60K 6/54 20071001ALI20230803BHJP
B60L 15/20 20060101ALI20230803BHJP
B60L 50/16 20190101ALI20230803BHJP
【FI】
B60W10/08 900
B60W10/06 900
B60W20/00 900
B60K6/442 ZHV
B60K6/54
B60L15/20 K
B60L50/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022013508
(22)【出願日】2022-01-31
(71)【出願人】
【識別番号】519314766
【氏名又は名称】株式会社BluE Nexus
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】熊田 拓郎
【テーマコード(参考)】
3D202
5H125
【Fターム(参考)】
3D202AA02
3D202BB05
3D202BB12
3D202BB16
3D202BB37
3D202CC03
3D202CC35
3D202CC42
3D202CC75
3D202DD24
3D202DD26
3D202FF12
3D202FF13
5H125AA01
5H125AC08
5H125AC12
5H125BA00
5H125BE05
5H125CA02
5H125EE08
5H125EE42
(57)【要約】
【課題】回転電機に対する回転速度制御が実行状態から非実行状態に切り替わる際に、回転速度制御において回転電機の回転速度を変化させるために用いられていたトルクを、回転電機の回転状態に応じて適切に解消させる。
【解決手段】回転電機の回転速度を変化させるためのフィードバックトルクを演算する回転速度制御部と、要求トルクとフィードバックトルクとの和のトルクを出力するように回転電機を制御する回転電機制御部とを備え、回転速度制御部は、実行状態から非実行状態に切り替わる場合に、フィードバックトルクの変化レートRTを制限レートの範囲内に制限しつつ、フィードバックトルクの絶対値をゼロまで低下させる。制限レートの絶対値は、回転電機の回転速度ωresが予め設定された制限範囲内の場合に、回転速度ωresが制限範囲外である場合に比べて、高い値に設定される。
【選択図】
図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関と、
当該内燃機関と車輪とを結ぶ動力伝達経路にトルクを伝達するように設けられた回転電機と、
前記内燃機関と前記回転電機との間の動力伝達を断接する第1係合装置と、
前記回転電機と前記車輪との間の動力伝達を断接する第2係合装置と、を備えた車両用駆動装置を制御対象とする制御装置であって、
前記回転電機の実回転速度を目標回転速度に近づけるように前記回転電機の回転速度を変化させるためのトルクであるフィードバックトルクを演算する回転速度制御部と、
前記回転電機の要求トルクと前記フィードバックトルクとの和のトルクを出力するように前記回転電機を制御する回転電機制御部と、を備え、
前記回転速度制御部は、前記フィードバックトルクを生成する実行状態と、前記フィードバックトルクを生成しない非実行状態とに切り替え可能であり、
前記回転速度制御部は、前記実行状態から前記非実行状態に切り替わる場合に、前記フィードバックトルクの変化レートを制限レートの範囲内に制限しつつ、前記フィードバックトルクの絶対値をゼロまで低下させ、
前記制限レートの絶対値は、前記回転電機の回転速度が予め設定された制限範囲内の場合に、前記回転電機の回転速度が前記制限範囲外である場合に比べて、高い値に設定される、車両用駆動装置の制御装置。
【請求項2】
前記制限範囲は、前記非実行状態に切り替わる前の前記フィードバックトルクが正である場合と負である場合とで異なる範囲に設定されている、請求項1に記載の車両用駆動装置の制御装置。
【請求項3】
前記非実行状態に切り替わる前の前記フィードバックトルクが負であった場合、前記回転電機の回転速度の下限値に対して回転速度が高い側に隣接する範囲に設定された前記制限範囲である下限側制限範囲が適用され、
前記非実行状態に切り替わる前の前記フィードバックトルクが正であった場合、前記回転電機の回転速度の上限値に対して回転速度が低い側に隣接する範囲に設定された前記制限範囲である上限側制限範囲が適用される、請求項2に記載の車両用駆動装置の制御装置。
【請求項4】
前記第1係合装置が前記内燃機関と前記回転電機との間で動力を伝達する状態であって前記非実行状態に切り替わる前の前記フィードバックトルクが負であった場合、前記内燃機関の回転速度の下限値に対して回転速度が高い側に隣接する範囲に設定された前記制限範囲である下限側制限範囲が適用され、
前記第1係合装置が前記内燃機関と前記回転電機との間で動力を伝達する状態であって前記非実行状態に切り替わる前の前記フィードバックトルクが正であった場合、前記内燃機関の回転速度の上限値に対して回転速度が低い側に隣接する範囲に設定された前記制限範囲である上限側制限範囲が適用される、請求項2に記載の車両用駆動装置の制御装置。
【請求項5】
前記非実行状態に切り替わる前の前記フィードバックトルクが高くなるに従って、前記制限レートの絶対値が大きくなるように設定されている、請求項1から4の何れか一項に記載の車両用駆動装置の制御装置。
【請求項6】
前記回転電機の回転速度が前記制限範囲外である場合の前記制限レートは、前記回転電機のトルクの変化による前記車輪に伝達されるトルクの変化が予め定めた範囲内となるように設定された前記変化レートを制限しないように設定されている、請求項1から5の何れか一項に記載の車両用駆動装置の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用駆動装置の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許第5971345号公報には、内燃機関(2)と車輪(6)とを結ぶ動力伝達経路にトルクを伝達するように設けられた回転電機(4)と、内燃機関(2)と回転電機(4)との間の動力伝達を断接する第1係合装置(SSC)と、回転電機(4)と車輪(6)との間の動力伝達を断接する第2係合装置(C1)とを備えた車両用駆動装置(3)を制御対象とする制御装置(1)が開示されている(背景技術において括弧内の符号は参照する文献のもの。)。この制御装置(1)では、例えば車両の発進時において、第2係合装置(C1)がスリップ係合状態である場合に、回転電機(4)を回転速度制御している。具体的には、制御装置(1)は、回転電機(4)が目標回転速度で回転するように、回転電機(4)の回転速度を変化させる回転変化トルクを演算し、回転電機(4)に駆動力を出力させるための要求トルクと回転変化トルクの和のトルクを出力するように、回転電機(4)を制御している。第2係合装置(C1)がスリップ係合状態から直結係合状態となると、制御装置(1)は、回転電機(4)と車輪(6)とが同期回転していると判断し、回転速度制御を終了して、回転電機(4)が要求トルクを出力するように制御するトルク制御に移行する。この際、制御装置(1)は、回転速度制御の終了時における回転電機(4)の出力トルクから回転変化トルクを減算した値を回転電機(4)の目標トルクとして設定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の文献には、回転速度制御からトルク制御への移行時において、回転変化トルクの減算をどのように行うかについて開示がない。通常、目標トルクが急激に変化することを回避するため、出力トルクから減算する回転変化トルクの絶対値を次第に小さくするように制御することが多い。しかし、トルク制御への移行時に残存している回転変化トルクの大きさや方向によっては、回転変化トルクの絶対値を次第に小さくする期間中に、回転電機が想定とは逆方向に回転したり、回転電機の回転速度が上限を超えて過回転となったりする可能性がある。
【0005】
上記背景に鑑みて、回転電機に対する回転速度制御が実行状態から非実行状態に切り替わる際に、回転速度制御において回転電機の回転速度を変化させるために用いられていたトルクを、回転電機の回転状態に応じて適切に解消させる技術の提供が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記に鑑みた、車両用駆動装置の制御装置は、
内燃機関と、
当該内燃機関と車輪とを結ぶ動力伝達経路にトルクを伝達するように設けられた回転電機と、
前記内燃機関と前記回転電機との間の動力伝達を断接する第1係合装置と、
前記回転電機と前記車輪との間の動力伝達を断接する第2係合装置と、を備えた車両用駆動装置を制御対象とする制御装置であって、
前記回転電機の実回転速度を目標回転速度に近づけるように前記回転電機の回転速度を変化させるためのトルクであるフィードバックトルクを演算する回転速度制御部と、
前記回転電機の要求トルクと前記フィードバックトルクとの和のトルクを出力するように前記回転電機を制御する回転電機制御部と、を備え、
前記回転速度制御部は、前記フィードバックトルクを生成する実行状態と、前記フィードバックトルクを生成しない非実行状態とに切り替え可能であり、
前記回転速度制御部は、前記実行状態から前記非実行状態に切り替わる場合に、前記フィードバックトルクの変化レートを制限レートの範囲内に制限しつつ、前記フィードバックトルクの絶対値をゼロまで低下させ、
前記制限レートの絶対値は、前記回転電機の回転速度が予め設定された制限範囲内の場合に、前記回転電機の回転速度が前記制限範囲外である場合に比べて、高い値に設定される。
【0007】
一般的にフィードバックトルクなど、フィードバック制御の演算対象は急激な変化による制御の追従性の低下等を抑制するために、単位時間当たりの変化レートが制限レートによって制限される場合がある。このため、追従性が低下する可能性が低く、且つ迅速な対応が必要な場合には、その制限レートにより応答性が妨げられることがある。本構成によれば、回転電機の回転速度が制限範囲である場合には、制限レートを高い値とすることでフィードバックトルクを高い応答性で変化させることができる。例えば、回転速度制御部は、実行状態から非実行状態に切り替わる場合に、高い制限レートでフィードバックトルクの絶対値を迅速にゼロまで低下させることができる。従って、フィードバックトルクをゼロまで低下させる期間の残留トルクによって回転電機の回転速度が変化し、望ましくない回転速度に到達してしまうことも回避し易い。このように、本構成によれば、回転電機に対する回転速度制御が実行状態から非実行状態に切り替わる際に、回転速度制御において回転電機の回転速度を変化させるために用いられていたトルクを、回転電機の回転状態に応じて適切に解消させることができる。
【0008】
車両用駆動装置の制御装置のさらなる特徴と利点は、図面を参照して説明する例示的且つ非限定的な実施形態についての以下の記載から明確となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図3】内燃機関始動モードを含む車両用駆動装置の動作例を示すタイムチャート
【
図4】第2係合装置スリップ発進(滑り係合発進)のシーケンスの一例を示すタイムチャート
【
図5】第2係合装置スリップ発進(滑り係合発進)において車輪が空転している場合の一例を示すタイムチャート
【
図6】回転電機制御部及び回転速度制御部におけるフィードバックトルク出力部の構成例を示す模式的ブロック図
【
図7】回転速度制御部及び回転電機制御部の構成例を模式的に示すブロック図
【
図8】フィードバックトルクが負の場合における回転速度制御の終了時の一例を示すタイムチャート
【
図9】フィードバックトルクが正の場合における回転速度制御の終了時の一例を示すタイムチャート
【
図10】フィードバックトルク収束処理の一例を示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、車両用駆動装置の制御装置の実施形態を図面に基づいて説明する。本実施形態では、制御装置10は、内燃機関1と、回転電機3と、第1係合装置CL1と、第2係合装置CL2とを少なくとも備えた車両用駆動装置100を制御対象とする。
図1に示すように、回転電機3は、内燃機関1と車輪Wとを結ぶ動力伝達経路にトルクを伝達するように設けられている。第1係合装置CL1は、内燃機関1と回転電機3との間の動力伝達を断接するように配置されている。第2係合装置CL2は、回転電機3と車輪Wとの間の動力伝達を断接するように配置されている。本実施形態では、第2係合装置CL2と車輪Wとの間に、自動変速機4と、一対の車輪Wに駆動力を分配する差動歯車装置5が配置されている形態を例示している。尚、第2係合装置CL2は、自動変速機4の一部であってもよい。また、
図1に示すように、内燃機関1と第1係合装置CL1との間には、ダンパ装置2が備えられていてもよい。
【0011】
尚、本願において「駆動連結」とは、2つの回転要素が駆動力を伝達可能に連結された状態を指し、当該2つの回転要素が一体的に回転するように連結された状態、或いは当該2つの回転要素が1つ又は2つ以上の伝動部材を介して駆動力を伝達可能に連結された状態を含む。このような伝動部材としては、回転を同速で又は変速して伝達する各種の部材、例えば、軸、歯車機構、ベルト、チェーン等が含まれる。尚、伝動部材として、回転及び駆動力を選択的に伝達する係合装置、例えば、摩擦係合装置、噛み合い式係合装置等が含まれていても良い。
【0012】
図2のブロック図は、制御システムの一部を模式的に示している。本実施形態の制御装置10は、回転電機3の制御に関して特徴を有しており、
図2のブロック図は、制御システム(及び制御装置10)の内、回転電機3の制御に関する一部分を示している。制御装置10は、回転速度制御部20と、回転電機制御部50とを備えている。
【0013】
回転速度制御部20は、回転電機3の実回転速度ωresを目標回転速度ωcmdに近づけるように回転電機3の回転速度を変化させるためのトルクであるフィードバックトルクTmfbを演算する。また、回転速度制御部20は、フィードバック制御部30と、外乱オブザーバ制御部40とを備えている。フィードバック制御部30は、回転速度制御部20の中核であり、回転電機3の実回転速度ωresを目標回転速度ωcmdに近づけるように回転電機3の回転速度を変化させるためのトルクであるフィードバックトルクTmfbを演算する。本実施形態では、回転速度制御部20が外乱オブザーバ制御部40を備えている構成を例示しているが、外乱オブザーバ制御部40を備えていない形態を妨げるものではない。外乱オブザーバ制御部40が備えられていない場合には、回転速度制御部20の全てが、フィードバック制御部30に相当する。詳細については
図7を参照して後述するが、外乱オブザーバ制御部40は、回転電機3の実回転速度ωresに基づいて、実際に回転電機3の回転速度を変化させたトルクである推定フィードバックトルクTefbを推定し、フィードバックトルクTmfbと推定フィードバックトルクTefbとの差分ΔTmfbに基づいてフィードバックトルクTmfbを補正する補正トルクT^dis(実際の表記は、「^(ハット)」付きの「T」)を演算する。
【0014】
尚、回転速度制御部20(フィードバック制御部30)は、フィードバックトルクTmfbを生成する実行状態と、フィードバックトルクTmfbを生成しない非実行状態とに切り替え可能である。また、外乱オブザーバ制御部40は、フィードバックトルクTmfbを補正する実行状態と、フィードバックトルクTmfbを補正しない非実行状態とに切り替え可能である。回転速度制御部20(フィードバック制御部30)が実行状態において、外乱オブザーバ制御部40は、実行状態と非実行状態とに切り替え可能である。回転速度制御部20(フィードバック制御部30)が非実行状態の場合は、外乱オブザーバ制御を実行する必要がないため、外乱オブザーバ制御部40も非実行状態である。
【0015】
回転電機制御部50は、上位の制御装置(ここでは車両制御装置90)から与えられる要求トルクTbaseに基づく電流指令と、回転電機3を流れる実電流との差に基づいて例えば公知のベクトル制御法による電流フィードバック制御を行って、ドライブ回路61及びインバータ回路62を介して回転電機3を駆動制御する。実電流は電流センサ63によって検出され、ベクトル制御のための実回転速度ωresやロータの回転位置は、例えばレゾルバなどの回転センサ64によって検出される。本実施形態では、回転電機制御部50は、回転電機3の要求トルクTbaseとフィードバックトルクTmfbとの和のトルクを出力するように回転電機3を制御する(
図6、
図7参照)。回転速度を制御対象とする回転速度制御部20に対して、回転電機制御部50は、トルクを制御対象とするため、トルク制御部と称することもできる。
【0016】
上述したように、第1係合装置CL1は、内燃機関1と回転電機3との間での動力伝達を断接可能な係合装置である。第1係合装置CL1が係合されている状態では、内燃機関1と回転電機3との間で動力が伝達され、第1係合装置CL1が解放されている状態では、内燃機関1と回転電機3との間で動力が伝達されない。例えば第1係合装置CL1が解放されている状態では、不図示の蓄電装置(二次電池やキャパシタなど)からの電力により、回転電機3が電動機として機能して車輪Wを駆動することができる(電気自動車モード(EVモード))。
【0017】
第1係合装置CL1が係合されている状態では、主に、ハイブリッドモード(HVモード)と、充電モードとが実行可能である。ハイブリッドモードでは、回転電機3が電動機として機能する。車両用駆動装置100は、内燃機関1のトルク及び回転電機3のトルクにより車輪Wを駆動することができる。充電モードでは、回転電機3が発電機として機能する。車両用駆動装置100は、内燃機関1のトルクにより車輪Wを駆動すると共に、内燃機関1のトルクにより回転電機3に発電を行わせ、不図示の蓄電装置を充電することができる。
【0018】
また、車輪WがEVモードで駆動されている場合に、第1係合装置CL1を、解放されている状態から係合されている状態へ遷移させることによって、内燃機関1を始動させることができる(内燃機関始動モード)。つまり、EVモードから、内燃機関始動モードを経て、HVモードへと移行させることができる。
【0019】
以下、
図3から
図5を参照して、車両用駆動装置100の3パターンの動作例を説明する。
【0020】
図3のタイムチャートは、内燃機関始動モードを含む車両用駆動装置100の動作の一例を示している。つまり、EVモードから内燃機関始動モードを経て充電モードに至る場合の車両用駆動装置100の動作の一例を示している。区間T10では、第1係合装置CL1が解放された状態、且つ、第2係合装置CL2が係合された状態で、車輪WがEVモードによって駆動され、車両が走行している。ここで、時刻t11において、制御装置10よりも上位の制御装置(ここでは
図2に示す車両制御装置90)から制御装置10に内燃機関1の始動要求が与えられる。制御装置10は、始動要求を受け取ると、第2係合装置CL2の係合油合を、完全係合状態を実現する油圧から、滑り係合状態(スリップ係合状態、半クラッチ状態)を実現する油圧へと変化させる(区間T11)。即ち、制御装置10は、区間T11において油圧の実現率を低下させる。尚、実現率とは、駆動力に対して確保されるトルク容量の割合を示している。また、区間T11では、内燃機関1の始動(いわゆるクランキング)に備えて、第1係合装置CL1への油圧の印加が開始される。
【0021】
第2係合装置CL2の油圧が目標値まで低下すると、回転速度制御要求REQrscがアクティブとなる(時刻t12)。制御装置10は、マイクロコンピュータ等を中核としたハードウェアと、プログラムやパラメータなどのソフトウェアとの協働によって実現されている。回転速度制御要求REQrscは、例えばレジスタ等に設定されたフラグとして実現することができる。例えば、フラグとして示される値が「1」の場合、回転速度制御要求REQrscがアクティブ(ON)であることを示し、「0」の場合、回転速度制御要求REQrscが非アクティブ(OFF)であることを示す。以下、他の制御要求等においても同様である。
【0022】
回転速度制御要求REQrscがアクティブとなると、制御装置10は、回転電機3の回転速度制御を開始する。回転速度制御は、指令回転速度(例えば目標回転速度ωcmd)に回転電機3の回転速度(MG回転速度、例えば実回転速度ωres)が追従するようにフィードバック制御を行う制御である。本実施形態では、上述したように、回転速度制御部20(フィードバック制御部30)により、回転電機3の実回転速度ωresを目標回転速度ωcmdに近づけるように回転電機3の回転速度を変化させるためのトルクであるフィードバックトルクTmfbが演算される。
【0023】
図3におけるインプット回転速度は、第2係合装置CL2の二次側(車輪Wの側)の回転速度を示している。制御装置10は、第2係合装置CL2を滑り係合状態とすることで、回転電機3の回転速度とインプット回転速度との間に回転速度差を設け、内燃機関1の側のトルク変動が車輪Wの側に伝達されない状態で、内燃機関1のクランキングを行う。時刻t13は、時刻t12において開始された回転速度制御により第2係合装置CL2に要求される回転速度差(第2係合装置CL2の一次側(回転電機3側)と二次側との間に要求される回転速度)の生成が完了した時刻を示している。つまり、区間T12は、回転速度差(差回転)生成期間である。
【0024】
制御装置10は、回転速度差が生成された後(時刻t13の後)、第1係合装置CL1の係合圧を上昇させ、内燃機関1の回転速度を上昇させる(クランキングを行う)。この際、制御装置10は、時刻t13以降の区間T13において、第1係合装置CL1の係合圧の上昇に同期させて、回転電機3の回転速度を変化させるためのフィードバックトルクTmfbを回転電機3に出力させる。尚、第1係合装置CL1の係合圧を上昇させ始めると、回転電機3のトルクが第1係合装置CL1を介して内燃機関1にも伝達され始める。回転速度制御の開始時にはフィードバックトルクTmfbの追従が遅れ、回転電機3の回転速度が低下する場合がある。ここで、回転電機3の回転速度がインプット回転速度まで低下するとショックが生じる場合がある。このため、回転速度差は、このような回転電機3の回転速度の低下(落ち込み)が生じた場合であっても、回転電機3の回転速度がインプット回転速度まで低下しないような差として設定されている。また、詳細は、後述するが、本実施形態では、本実施形態では、第1係合装置CL1の係合によって生じるトルクを外乱トルクとし、外乱オブザーバ制御部40によって、このような回転速度の落ち込みを補償している。
【0025】
時刻t14において、回転電機3の回転速度(MG回転速度)と、内燃機関1の回転速度(EG回転速度)とが同期すると、制御装置10は、さらに第1係合装置CL1の係合圧を上昇させて完全係合状態とする。ここでは、内燃機関1が始動した後は、内燃機関1の駆動力により車輪Wを駆動させるため、区間T14においていわゆるトルクの掛け替え制御が実行される。具体的には、回転電機3によるトルク(MGトルク)を低下させると共に、内燃機関1によるトルク(EGトルク)を上昇させる。
図3に例示する形態では、時刻t15においてトルクの掛け替え制御が完了すると、以降の区間T15、T16、T17では、回転電機3を発電機として機能させている。
【0026】
区間T14でトルクの掛け替えが完了すると、滑り係合状態の第2係合装置CL2を完全係合状態に遷移させるために、制御装置10は、内燃機関1の回転速度及び回転電機3の回転速度をインプット回転速度と同期するように低下させる(区間T15、T16)。具体的には、指令回転速度がインプット回転速度に漸近するように、指令回転速度を低下させていく。つまり、第2係合装置CL2を完全係合状態に移行させる際に、係合ショックを生じないように、回転速度差を解消させる。ここでは、区間T15において、回転速度差がある程度減少し(回転速度差が規定よりも小さくなり)、回転速度制御要求REQrscが非アクティブとなって、制御装置10は、回転速度制御を終了する(時刻t16)。制御装置10は、回転速度制御の終了と共に、第2係合装置CL2の係合圧を上昇させて、第2係合装置CL2を完全係合状態に遷移させる(区間T16)。第2係合装置CL2が完全係合状態となった時刻t17以降は、内燃機関1の回転速度、回転電機3の回転速度、インプット回転速度が同期する。
【0027】
ところで、時刻t16において回転速度制御が終了した時点では、
図3に示すように、フィードバックトルクTmfbがゼロとはなっておらず、残存している(これを残存トルクTrfbと称する。)。上述したように、時刻t16以降(区間T16)では、フィードバックトルクTmfbを用いた回転速度制御は実行されていない。区間T16において、第2係合装置CL2の係合圧が上昇していくと、第2係合装置CL2による伝達トルク容量が大きくなり、残存しているフィードバックトルクTmfbを車輪Wへ伝達してしまう。このため、第2係合装置CL2が完全係合状態となるまでに、フィードバックトルクTmfbの残存トルクTrfbを適切にゼロまで低下させることが求められる。この残存トルクTrfbの処理(フィードバックトルク収束処理)については、
図6等を参照して後述する。
【0028】
図4のタイムチャートは、第2係合装置CL2によるスリップ発進(滑り係合発進)のシーケンスの一例を示している。この例では、第1係合装置CL1は完全係合状態であり、内燃機関1は始動している。区間T21において、車両は停車中であり、インプット回転速度及び車両加速度はゼロである。内燃機関1を停止させないように、第2係合装置CL2は滑り係合状態となっている。乗員がアクセル操作を行い、時刻t21においてアクセル開度が上昇すると、すべり係合状態の第2係合装置CL2を介して、内燃機関1のトルク(EGトルク)により車輪Wが駆動され、回転電機3は内燃機関1のトルクにより発電機として機能する(回転電機3のトルク(MGトルク)は負トルクである。)。
【0029】
区間T21(区間T22)から区間T25の間、回転速度制御要求REQrscがアクティブであり、制御装置10は、
図3を参照して上述したように、回転速度制御を実行する。回転電機3の回転速度(MG回転速度)とインプット回転速度との回転速度差が、規定よりも小さくなると、回転速度制御要求REQrscが非アクティブとなり、第2係合装置CL2の完全係合要求がアクティブとなる(時刻t25)。時刻t25後の区間T25では、制御装置10は、時刻t25において残存しているフィードバックトルクTmfb(残存トルクTrfb)をゼロまで減少させると共に、第2係合装置CL2の係合圧を上昇させる。
【0030】
図5のタイムチャートは、第2係合装置CL2によるスリップ発進(滑り係合発進)において車輪Wが空転している場合の一例を示している。
図4を参照して説明した形態と同様に、第1係合装置CL1は完全係合状態であり、内燃機関1は始動している。区間T31において、車両は停車中であり、インプット回転速度及び車体速度はゼロである。また、内燃機関1を停止させないように、第2係合装置CL2は滑り係合状態となっており、区間T31から回転速度制御が実行されている。そして、ここでは、積雪路や凍結路など、路面が滑りやすい状態で、乗員がアクセルを強く操作した場合を想定している。車輪Wが空転するため、車体速度に比べてインプット回転速度が急上昇する(区間T32、T33)。
【0031】
図5に示す例では、このように車両(車輪W)が滑っている状態で、時刻t32において第2係合装置CL2を完全係合状態へと遷移させている。そして、それと同時に、回転速度制御が終了されている。この例では、区間T32において、フィードバックトルクTmfbも大きく上昇している。後述するように、フィードバックトルクTmfbは、上下限値が設定されており、本実施形態では、最大値Tmax[Nm]~最小値-Tmin[Nm]の間に制限されている(Tmax、Tminの絶対値は同じであっても良いし異なっていてもよい。)。本実施形態では、この最大値までフィードバックトルクTmfbが上昇している例を示している。このため、時刻t32において残存するフィードバックトルクTmfb(残存トルクTrfb)も最大値に近い値となっている。
図5に示すように、時刻t32以降もフィードバックトルクTmfbの加算によって回転電機3の回転速度が上昇を続けた場合、回転電機3、内燃機関1、その他、回転電機3に駆動連結されている部品の上限回転速度を超えるおそれがある。詳細は、
図6等を参照して後述するが、特にこのような場合には、区間T33、区間T34において迅速にフィードバックトルクTmfbの残存トルクTrfbをゼロまで収束させることが好ましい。
【0032】
尚、
図5では、時刻t34において乗員によりブレーキが操作されることで、インプット回転速度が区間T36の途中でゼロとなるが、車輪Wがロックされた状態で車体が滑っている状態を例示している。
【0033】
ここで、
図6及び
図7を参照して、回転速度制御部20の詳細について説明する。
図7に示すように、本実施形態では、回転速度制御部20は、フィードバック制御部30と、外乱オブザーバ制御部40と、フィードバックトルク出力部21とを備えている形態について説明する。しかし、回転速度制御部20は、例えば、外乱オブザーバ制御部40を備えず、フィードバック制御部30とフィードバックトルク出力部21とを備えて構成されていても良いし、フィードバックトルク出力部21を備えず、フィードバック制御部30と外乱オブザーバ制御部40とを備えて構成されていても良い。
【0034】
図7において、プラント80が制御装置10による制御対象であり、ここでは回転電機3に相当する回転電機モデル81を中核としている。例えば、プラント80は、第1係合装置CL1が滑り係合状態の場合の回転電機3に相当し、プラント80に対する外乱トルクTdisは、第1係合装置CL1において生じるトルクに相当する。g*(*:1,2,3,4,5)は、ローパスフィルタのカットオフ周波数を示し、Jは制御対象(ここでは回転電機3)のイナーシャを示し、Jnは制御対象のノミナルイナーシャを示し、K*(*:2,P,I)はゲインを示している。ノミナルイナーシャJnの「n」、カットオフ周波数「g*」及びゲイン「K*」における「*」は、小さい文字で示す添え字であるが表記の関係上、通常の大きさで表記している。
【0035】
フィードバック制御部30は、フィルタ31、フィルタ32、比例ゲイン33、及び、積分制御部37を備えている。積分制御部37は、積分器34、積分ゲイン35、アンチワインドアップ処理部36(積分器34の飽和による性能劣化を補償する処理部)を備えている。フィードバック制御部30には、制御装置10内の他の制御部或いは制御装置10とは別の制御装置から目標回転速度ωcmdが伝達されると共に、フィルタ29を介して回転電機3の実回転速度ωresが伝達されている。
図7のブロック図に示すように、フィードバック制御部30は、目標回転速度ωcmdと実回転速度ωresとの差に基づいて、比例積分制御(PI制御)を実行して、フィードバックトルクTmfbを演算する。フィードバックトルクTmfbは、比例トルクTPと積分トルクTIとの和である。外乱オブザーバ制御部40やフィードバックトルク出力部21が備えられていない場合、フィードバック制御部30により演算されたフィードバックトルクTmfbがそのまま回転電機制御部50に伝達される。
【0036】
図7に示すように、本実施形態では、フィードバック制御部30において演算されたフィードバックトルクTmfbは、外乱オブザーバ制御部40において演算された補正トルクT^disが加算され、さらにフィードバックトルク出力部21を通って値を調整されて、回転電機制御部50に伝達されている。これらのフィードバックトルクTmfbを区別する場合、フィードバック制御部30において演算されたフィードバックトルクTmfbを「源フィードバックトルクTmfb0」、これに補正トルクT^disが加算されたフィードバックトルクTmfbを「補正後フィードバックトルクTmfb1」、さらにフィードバックトルク出力部21を通過後のフィードバックトルクTmfbを「回転変化用トルクTmfb2」と称する。
【0037】
図6は、フィードバックトルク出力部21の構成を例示している。フィードバックトルク出力部21は、少なくとも第1スイッチ22(セレクタ、マルチプレクサ)及び制限部23を備えている。回転速度制御要求REQrscがアクティブな場合(ON状態の場合)、第1スイッチ22は、フィードバックトルクTmfb(補正後フィードバックトルクTmfb1)を選択し、これを出力する。
【0038】
制限部23は、補正後フィードバックトルクTmfb1を予め規定された上限値と下限値の間に制限する。本実施形態では、
図5を参照して上述したように、回転電機制御部50に入力されるフィードバックトルクTmfbを例えばTmax[Nm]から-Tmin[Nm]の間に制限している。制限部23は、補正後フィードバックトルクTmfb1の大きさが予め規定された上限値(最大値Tmax)と下限値(最小値-Tmin)の間に収まっている場合には、補正後フィードバックトルクTmfb1を回転変化用トルクTmfb2として出力する。制限部23は、補正後フィードバックトルクTmfb1の大きさが上限値を超えている場合には、その値を上限値に制限して回転変化用トルクTmfb2として出力する。また、制限部23は、補正後フィードバックトルクTmfb1の大きさが下限値未満の場合には、その値を下限値に制限して回転変化用トルクTmfb2として出力する。
【0039】
図6に示すように、本実施形態のフィードバックトルク出力部21は、さらに、レート値制限部24、前回値保持部25、第2スイッチ26(セレクタ、マルチプレクサ)、レート制御部27を備えている。これらについては、後述する。
【0040】
外乱オブザーバ制御部40は、逆プラントモデル41、フィルタ42、オブザーバゲイン43を備えている。逆プラントモデル41は、回転電機モデル81の逆モデルである。逆プラントモデル41は、実回転速度ωresに基づき、プラント80において実際に回転変化に用いられたトルクを推定する。ここでは、このトルクを推定フィードバックトルクTefbと称する。プラント80には、
図7に示すように外乱トルクTdisが影響を与えており、回転電機3の回転速度(実回転速度ωres)は、要求トルクTbaseとフィードバックトルクTmfb(回転変化用トルクTmfb2)との和によるものではなく、さらに外乱トルクTdisが加算されたトルクによって決まる。外乱トルクTdisは、回転変化用トルクTmfb2に対する外乱トルクと考えることもできる。
【0041】
逆プラントモデル41は、回転電機3の実回転速度ωresから、実際に回転変化に用いられたトルク(推定フィードバックトルクTefb)を推定している。推定フィードバックトルクTefbと、回転変化用トルクTmfb2との差分ΔTmfbを求めることによって、外乱トルクTdisを推定することができる。この差分ΔTmfbは、推定外乱トルクに相当する。外乱オブザーバ制御部40は、フィルタ42を通過後のこの差分ΔTmfbに対して、オブザーバゲイン43によってゲインを与え、フィードバックトルクTmfbを補正する補正トルクT^disを演算する。
【0042】
図7に示すように、本実施形態では、フィードバック制御部30において演算されたフィードバックトルクTmfb(源フィードバックトルクTmfb0)に、補正トルクT^disが加算されて補正後フィードバックトルクTmfb1が演算される。つまり、外乱オブザーバ制御部40は、回転電機3の回転に影響する外乱トルクを補償している。例えば、
図3の時刻t13までの間は、第2係合装置CL2の伝達トルクが外乱トルクTdisとしてプラント80に入り、要求トルクTbaseと打ち消し合う。区間T13において、内燃機関1を始動させるために、第1係合装置CL1の係合圧を上昇し始めると、第1係合装置CL1における伝達トルクがそれまでの外乱トルクTdisに追加される。その結果、
図3に示すように、回転電機3の回転速度(MG回転速度)に落ち込みが生じる場合がある。これに対応して、フィードバックトルクTmfbに補正トルクT^disが加算されることで、
図3の区間T13に示すように、回転電機3の回転速度の落ち込みが改善される。
【0043】
尚、ここでは、補正トルクT^disとして、EVモード時からHVモードへの移行時の内燃機関1の始動時における第1係合装置CL1の伝達トルクが外乱トルクTdisとなる形態について例示した。しかし、外乱トルクTdisは、この例に限るものではない。例えば、第2係合装置CL2のトルク容量のばらつき(要求トルクTbaseと第2係合装置CL2の伝達トルクとの差分)などが含まれていてもよい。
【0044】
回転電機制御部50は、
図2、
図6、
図7に示すように、回転電機3が、フィードバックトルクTmfb(回転変化用トルクTmfb2)と要求トルクTcmdとの和のトルクを出力するように、回転電機3を駆動制御する。
図6に示すように、回転電機制御部50は、制限部51及び電流制御部52を備えている。制限部51は、フィードバックトルクTmfbと要求トルクTbaseとの和のトルクが上限トルクを超えたり、下限トルク未満となったりすることや、トルクの変化率の上限を超えることがないように当該和のトルクの値を制限している。上限トルク、下限トルクは、車両用駆動装置100の機械的な制限値、及び、制御装置10の制御の可否に関する電気的な制限値である。また、制限部51から出力されたトルクに対して、
図6に示すように、予想される損失トルクを加算してもよい。制御装置10が外乱オブザーバ制御部40を備えていない場合、この損失トルクは上述した外乱トルクTdisを含んでいると好適である。また、制御装置10が外乱オブザーバ制御部40を備えている場合には、この損失トルクは加算されなくても良いし、別の要因によるトルクが損失トルクとして加算されてもよい。
【0045】
このようにして求められたトルクは、電流制御部52による制御対象のトルクである。例えば、損失トルクを考慮しない場合には、制限部51による制限後の、要求トルクTcmdとフィードバックトルクTmfb(回転変化用トルクTmfb2)との和に相当するトルクが、電流制御部52による制御対象の対象トルクTm(損失トルクを考慮する場合のトルクと区別する場合は、基本対象トルクTm0)である。また、損失トルクを考慮する場合には、この基本対象トルクTm0と損失トルクとの和が対象トルクTm(基本対象トルクTm0と区別する場合には最終対象トルクTm1)である。
【0046】
電流制御部52は、対象トルクTmに基づく電流指令と、回転電機3を流れる実電流との差に基づいて例えば公知のベクトル制御法による電流フィードバック制御を行う。本実施形態では、回転電機3は、3相交流回転電機であり、電流制御部52は、3相(U相、V相、W相)のそれぞれに対応する制御信号を出力する。
図2に示すように、回転電機3は、直流と交流との間で電力を変換するインバータ回路62を介して駆動されており、電流制御部52から出力された制御信号は、ドライブ回路61によって電気的な駆動力(電圧や電流)を増幅されてインバータ回路62を構成するスイッチング素子を駆動する。
【0047】
ところで、
図3を参照して上述したように、時刻t16以降(区間T16)では、フィードバックトルクTmfbを用いた回転速度制御は実行されていない。しかし、時刻t16において回転速度制御が終了した時点では、フィードバックトルクTmfbがゼロとはなっておらず、残存している。区間T16において、第2係合装置CL2の係合圧が上昇していくと、第2係合装置CL2による伝達トルク容量が大きくなり、残存しているフィードバックトルクTmfbが車輪Wへ伝達されてしまう。このため、第2係合装置CL2が完全係合状態となるまでに(時刻t17までに)、フィードバックトルクTmfbの残存トルクを適切にゼロまで低下させると好ましい。当然ながら、フィードバックトルクTmfbの残存トルクは、乗員がショック等を体感しないように時間を掛けて次第に低下するように制御されてもよい。
【0048】
フィードバックトルク出力部21は、フィードバックトルクTmfbの残存トルクを適切にゼロまで低下させるために、少なくとも、前回値保持部25、第2スイッチ26、レート制御部27を備えている。また、本実施形態では、さらに、フィードバックトルク出力部21は、レート値制限部24を備えている。ここで、レート制御部27から出力されて第1スイッチ22に入力され、回転速度制御要求REQrscの状態に基づいて第1スイッチ22からフィードバックトルクTmfb(補正後フィードバックトルクTmfb1)と選択的に出力されるトルクを収束用フィードバックトルクTcfbと称する。
【0049】
回転速度制御要求REQrscがアクティブな場合(ON状態の場合)、第1スイッチ22が、フィードバックトルクTmfb(補正後フィードバックトルクTmfb1)を選択し、これを制限部23へ出力している。従って、レート制御部27から出力される収束用フィードバックトルクTcfbは、生成されてもされなくてもよい。回転速度制御要求REQrscが非アクティブな場合(OFF状態の場合)には、レート制御部27は、第2スイッチ26から出力されたフィードバックトルクTmfbの残存トルクTrfbが、目標値であるゼロ(0[Nm])に近づくように、変化レートRTに従って残存トルクTrfbの絶対値を減少させ、収束用フィードバックトルクTcfbとして出力する。レート値制限部24が設けられていない場合、レート制御部27は、標準レートを変化レートRTとして、残存トルクTrfbの絶対値を減少させ、収束用フィードバックトルクTcfbとして出力する。
【0050】
第2スイッチ26は、ラッチ機能付きのスイッチ(セレクタ、マルチプレクサ)である。回転速度制御要求REQrscがアクティブな場合(ON状態の場合)、第2スイッチ26の出力は第1スイッチ22に入力されていても選択されないため、第2スイッチ26は何を出力していてもよい(例えばゼロ値を出力していてもよい。)。第2スイッチ26がラッチ機能を有している場合、回転速度制御要求REQrscがアクティブな状態では、後述する差分ΔTmがそのまま第2スイッチ26から出力されていてもよい。
【0051】
また、第2スイッチ26は、回転速度制御要求REQrscが非アクティブとなった場合(ON状態からOFF状態に変化した場合)、回転電機制御部50における対象トルクTmと要求トルクTbaseとの、その時点での差分ΔTmをラッチし、これを出力する。この差分ΔTmは、実際に回転電機制御部50において回転変化のために用いられたトルク(回転変化トルク)に相当する(フィードバックトルクTmfbの実効値)。つまり、フィードバックトルク出力部21では、電流制御の対象としているトルクと、要求トルクTbaseとの差分を実際に回転電機制御部50において回転変化のために用いられたトルクと推定する。制限部51によって制限された後のトルクを基準(残存トルクTrfbの初期値)とすることで、回転速度制御要求REQrscが非アクティブ状態となった時点での残存トルクTrfbの絶対値が大きくなり過ぎないように構成されている。
【0052】
レート制御部27は、変化レートRTに従い、この残存トルクTrfbの絶対値(ここでは初期値)を減少させ、収束用フィードバックトルクTcfbとして出力する。つまり、残存トルクTrfbの絶対値は、残存トルクTrfbの初期値の絶対値よりも小さくなり、ゼロに近づく。この時、回転速度制御要求REQrscは非アクティブ(OFF状態)であるから、第1スイッチ22は、レート制御部27から出力された収束用フィードバックトルクTcfbを選択し、選択された収束用フィードバックトルクTcfbは、制限部23を経てフィードバックトルクTmfb(回転変化用トルクTmfb2)として出力される。
【0053】
ところで、上述したように制御装置10は、マイクロコンピュータ等を中核としたハードウェアと、プログラムやパラメータなどのソフトウェアとの協働によって実現されている。従って、フィードバックトルクTmfbは、予め規定された制御周期(task)ごとに演算されている。前回値保持部25は、前回の制御周期において演算され、フィードバックトルク出力部21から出力されたフィードバックトルクTmfb(回転変化用トルクTmfb2)を保持している。回転速度制御要求REQrscが非アクティブとなった後は、フィードバックトルクTmfb(回転変化用トルクTmfb2)は、残存トルクTrfb(収束用フィードバックトルクTcfb)であるから、前回値保持部25は、前回の制御周期において演算され、フィードバックトルク出力部21から出力された残存トルクTrfb(収束用フィードバックトルクTcfb)を保持する。
【0054】
第2スイッチ26は、回転速度制御要求REQrscが非アクティブな場合には、前回値保持部25が保持しているフィードバックトルクTmfb(回転変化用トルクTmfb2、残存トルクTrfb)の前回値を選択し、出力する。レート制御部27は、変化レートRTに従い、この残存トルクTrfbの絶対値を減少させ、収束用フィードバックトルクTcfbとして出力する。つまり、残存トルクTrfbの絶対値は、前回の残存トルクTrfbの絶対値よりも小さくなり、ゼロに近づく。回転速度制御要求REQrscは非アクティブ(OFF状態)であるから、第1スイッチ22は、レート制御部27から出力された収束用フィードバックトルクTcfbを選択し、選択された収束用フィードバックトルクTcfbは、制限部23を経てフィードバックトルクTmfb(回転変化用トルクTmfb2)として出力される。以降、これを繰り返すことによって、残存トルクTrfbはゼロに漸近していき、最終的にゼロに収束する。
【0055】
レート値制限部24は、変化レートRTの絶対値が小さくなりすぎないように、変化レートRTの絶対値を制限レートの範囲内に制限している。例えば、制限レートが±1[Nm]の場合、変化レートRTは、1制御周期(1task)において1[Nm]以上、-1[Nm]以下に制限される(正負の値は異なっていてもよい。他の例も同様。)。尚、標準レートは、通常、数[Nm/task]から十数[Nm/task]程度に設定されるため、制限レートが±1[Nm/task]は、実質的に変化レートRTの絶対値が制限されていない状態である。
【0056】
例えば、標準レートが1制御周期において15[Nm/task]である場合、この標準レートは、1[Nm/task]以上であり、制限レートの範囲内であるから、レート値制限部24は、変化レートRTとして標準レートの15[Nm/task]を設定する。一方、制限レートが±20[Nm/task]の場合、変化レートRTは、20[Nm/task]以上、-20[Nm/task]以下に制限される。ここで、標準レートが15[Nm/task]である場合、この標準レートは、制限レートにより設定された正側の下限値(20[Nm/task])未満であり、制限レートの範囲外である。従って、レート値制限部24は、変化レートRTを制限し、変化レートRTとして制限レートの20[Nm/task]を設定する。
【0057】
当然ながら、標準レート及び制限レートは可変値であってよいが、どのような場合も標準レートが制限レートにより制限されないように設定されている場合には、変化レートRTは常に標準レートとなる。従って、どのような場合も標準レートが制限レートの範囲内に設定されると確定している場合には、レート値制限部24を備えることなく、フィードバックトルク出力部21が構成されていてもよい。
【0058】
このように、フィードバックトルク出力部21において、レート値制限部24、前回値保持部25、第2スイッチ26、レート制御部27、並びに第1スイッチ22を用いて実行され、フィードバックトルクTmfbの絶対値をゼロまで低下させる処理(制御)を、フィードバックトルク収束処理(フィードバックトルク収束制御)と称する。即ち、フィードバックトルク出力部21(回転速度制御部20)は、フィードバックトルクTmfbを生成する実行状態から非実行状態に切り替わる場合に、フィードバックトルクTmfbの変化レートRTを制限レートの範囲内に制限しつつ、フィードバックトルクTmfbの絶対値をゼロまで低下させるフィードバックトルク収束処理を実行する。
【0059】
図3に例示した形態では、内燃機関1が始動した後、車輪Wの駆動力となるトルクを出力する駆動源が回転電機3から内燃機関1へ移り、区間T14においてトルクの掛け替えが行われている。本実施形態では、時刻t15以降は、回転電機3は発電機として機能し、回転電機3のトルクも負トルクとなっている形態を例示しており、フィードバックトルクTmfbも負トルクとなっている。従って、回転速度制御要求REQrscが非アクティブとなった時点において、フィードバックトルクTmfbの残存トルクTrfbも負トルクである。フィードバックトルク収束処理では、残存トルクTrfbの絶対値が小さくなるように、正方向の変化レートRT(上昇レート)により、残存トルクTrfbを減少させていく。
【0060】
残存トルクTrfb(フィードバックトルクTmfb)が区間T16で十分に収束可能である程度のトルクである場合には、回転速度制御部20は、例えば、上述したような標準レートを変化レートRTとしてフィードバックトルク収束処理を実行する。一方、残存トルクTrfb(フィードバックトルクTmfb)が区間T16では収束できないほど大きい場合には、回転速度制御部20は、制限レート(制限レートの絶対値)を大きくすることによって、標準レートよりも大きい変化レートRTでフィードバックトルク収束処理を実行することができる。上述したように、標準レートが15[Nm/task]である場合に、制限レートを1[Nm/task]から20[Nm/task]に上げることで、変化レートRTを15[Nm/task]から20[Nm/task]に上げることができる。
【0061】
ここでは、残存トルクTrfb(フィードバックトルクTmfb)に応じて変化レートRTを可変にし得る形態を例示した。フィードバックトルクTmfbが高いほど、フィードバックトルクTmfbの解消には時間を要する。従って、例えば、回転速度制御が非実行状態に切り替わる際のフィードバックトルクTmfb(残存トルクTrfb)が高くなるに従って、制限レートの絶対値が大きくなるように設定されると、迅速にフィードバックトルクTmfb(残存トルクTrfb)を解消させることができて好適である。尚、ここでは、残存トルクTrfb(フィードバックトルクTmfb)に応じて変化レートRTを可変にし得る形態を例示したが、回転電機3の回転速度に応じて変化レートRTが変更されてもよい。
【0062】
上述したように、本実施形態では、レート値制限部24における制限レートを活用することによって、後述するように残存トルクTrfbの絶対値を迅速にゼロまで低下させることができるように構成されている。具体的には、レート値制限部24における制限レートの絶対値が、回転電機3の回転速度が予め設定された制限範囲内の場合には、回転電機3の回転速度が制限範囲外である場合に比べて、高い値に設定されている。
【0063】
例えば、
図3から
図5を参照して上述した形態では、何れの場合も回転電機3の回転方向は内燃機関1の回転方向と同一である(ここではこの方向を正方向とする。)。しかし、例えば、
図8に破線で例示するように、回転電機3の回転速度(実回転速度ωres)が低下していく場合において、負のフィードバックトルクTmfbの収束が遅れると、回転電機3の回転速度がゼロを超えて低下し、回転方向が正方向から負方向へと逆転する可能性がある。この時、変化レートRTは負のフィードバックトルクTmfbを上昇させるための上昇レートであり、破線は標準レートを示している。特に回転電機3の回転速度が、比較的低い場合には、収束が遅れたフィードバックトルクTmfbによって回転電機3がより減速され、逆回転してしまう可能性も高くなる。
【0064】
車両用駆動装置100の構造によっては、回転電機3の回転方向が逆転した場合に、機械的負荷が増大したり、逆転に対応できないように連結されていたりする部材が存在する場合がある。例えば第1係合装置CL1が係合状態であれば、内燃機関1に影響を与えるおそれがある。また、内燃機関1の出力軸にダンパ装置DPなどが連結されている場合には、ダンパ装置DPに捻れ等を生じさせるおそれもある。また、回転電機3が不図示のオイルポンプやコンプレッサーなどの補機の駆動力源となっている場合、これら補機の仕様によっては逆回転で駆動されることが好ましくない場合もある。
【0065】
そこで、レート値制限部24は、そのように回転電機3の回転速度が比較的低い場合(即ち、制限範囲内の場合)には、迅速にフィードバックトルクTmfb(残存トルクTrfb)を収束させるために、回転電機3の回転速度が比較的高い場合(即ち、制限範囲外の場合)に比べて、制限レートを高い値に設定する。この例のように、回転速度制御が非実行状態に切り替わる前のフィードバックトルクTmfbが負であった場合、回転電機3の回転速度の下限値に対して回転速度が高い側に隣接する範囲に設定された制限範囲である下限側制限範囲が適用される。ここで言う「回転電機3の回転速度の下限値」とは、回転電機3自身の回転速度の下限値であっても良いし、第1係合装置CL1を介して駆動連結された場合の内燃機関1の回転速度の下限値に基づく回転電機3の回転速度の下限値であっても良い。また、回転電機3を駆動力源とする補機の回転速度の下限値に基づく回転電機3の回転速度の下限値であってもよい。
【0066】
例えば、第1係合装置CL1が内燃機関1と回転電機3との間で動力を伝達する状態であって、回転速度制御部20が非実行状態に切り替わる前のフィードバックトルクが負であった場合、内燃機関1の回転速度の下限値に対して回転速度が高い側に隣接する範囲に設定された制限範囲である下限側制限範囲が適用される。尚、下限側制限範囲は、第1係合装置CL1が内燃機関1と回転電機3との間で動力を伝達する状態で有る場合と、第1係合装置CL1が内燃機関1と回転電機3との間で動力を伝達しない状態(第1係合装置CL1が解放状態)とで異なる値に設定されていてもよい。補機等の制限がなければ、第1係合装置CL1が解放状態の場合には、回転電機3が逆回転することも許容され易く、例えば第1係合装置CL1が内燃機関1と回転電機3との間で動力を伝達する状態では回転電機3が逆回転することが制限されるように下限側制限範囲が設定され、第1係合装置CL1が解放状態では回転電機3が逆回転することが許容される下限側制限範囲が設定されてもよい。
【0067】
下記の表1は、回転速度と制限レートとの関係の一例を示している。例えば、逆回転を防止する観点からこの下限値が0[rpm]の場合、0[rpm]に対して高い側に隣接する範囲(ここでは、0[rpm]を超え100[rpm]以下の範囲、表1では整数値で示している。)が下限側制限範囲に相当する。尚、ここでは、下限値を0[rmp]としているが、当然ながら下限値は、0[rpm]に限らず、正の値、負の値であってもよい。
【0068】
【0069】
ここで、表1を
図8の例に適用して説明する。
図8の下段の波形図において、破線はこのような制限レートが適用されない場合(例えばレート値制限部24がない場合)の変化レートRTを示している。上述したように、この変化レートは、標準レートとなる。一点鎖線は制限レートを示し、実線は、制限レートが適用される場合の変化レートRTを示している。後述するように、回転速度制御が実行状態から非実行状態となった時刻tendより前では、破線で示す変化レートRTと実線で示す変化レートは同値であり、時刻tendより後では、一点鎖線で示す制限レートと実線で示す変化レートは同値であるが、視認性を考慮するために、これらの線を離して図示している。これは
図9についても同様である。
【0070】
図8において回転電機3の回転速度(実回転速度ωres)は100[rpm]以下である。そして、標準レートは20[Nm/task]に設定されている。ここで、回転速度制御が実行されている場合には、収束処理は実行されないので、制限レートは1[Nm/task]であり、実質的に変化レートRTは制限を受けず標準レートが適用される。一方、回転速度制御が実行状態から非実行状態となると、表1を参照して上述したように、100[rpm]以下である回転電機3の回転速度(実回転速度ωres)は下限側制限範囲に含まれるため、制限レートは、1[Nm/task]から50[Nm/task]に引き上げられる。このため、20[Nm/task]として与えられている標準レートは制限レートによる制限を受け、変化レートRTは制限レートに規定された下限値の50[Nm/task]に設定される。
【0071】
例えば、フィードバックトルクTmfbの絶対値の最大値(最大値Tmax、最小値-Tminの絶対値の内の大きい方)が200[Nm]であるとすれば、変化レートRTが50~70[Nm/task]であると、概ね3~4回の制御周期以内でフィードバックトルクTmfbを収束させることができる。例えば、制限レートは、フィードバックトルクTmfb(残存トルクTrfb)の大きさに拘わらず、規定回数(先の例の場合は3~4回)の制御周期以内にフィードバックトルクTmfb(残存トルクTrfb)の絶対値をゼロに収束させることができる値に設定されていると好適である。また、制御周期の規定回数は、フィードバックトルクを収束させたい時間との関係で設定されていると好適である。例えば、制御周期が5[ms]であり、フィードバックトルクTmfbを30[ms]以内に収束させたい場合には、規定回数は5以下に設定されると好適である。
【0072】
上述したように、非実行状態に切り替わる前のフィードバックトルクTmfbが負であった場合、フィードバックトルクTmfbの解消が遅れると、回転電機3の回転速度が低下し過ぎるおそれがある。回転速度がゼロを下回るほど低下した場合には、回転電機3が逆回転することになる。例えば回転方向が規定された補機等が回転電機3により駆動されていた場合には、当該補機の機械的負荷を増大させてしまうことになる。下限側制限範囲が回転電機3の回転速度の下限値に対して回転速度が高い側に隣接する範囲に設定されていることで、フィードバックトルクTmfbを迅速に解消させ、回転電機3の回転速度が下限値(例えばゼロ)を下回ることを回避し易い。また、回転電機3により駆動される補機が不適切に駆動されることを回避し易い。
【0073】
また、第1係合装置CL1が内燃機関1と回転電機3との間で動力を伝達する状態である場合、回転電機3が逆回転すると内燃機関に影響を与えるおそれがある。また、内燃機関1の出力軸にダンパ装置DPなどが連結されている場合には、ダンパ装置DPに捻れ等を生じさせるおそれもある。下限側制限範囲が内燃機関の回転速度の下限値に対して回転速度が高い側に隣接する範囲に設定されていることで、フィードバックトルクを迅速に解消させ、回転電機3に駆動連結された内燃機関1の回転速度が下限値(例えばゼロ)を下回ることを回避し易い。
【0074】
図9は、
図8とは逆に、回転電機3の回転速度(実回転速度ωres)が上昇していく場合において、正のフィードバックトルクTmfbの収束が遅れ、回転電機3の回転速度が上限回転速度THを超えてしまうことを抑制すべく、制限レートが設定される例を示している。
【0075】
例えば、
図5を参照して上述したように、車両(車輪W)が滑っている状態では区間T32において回転電機3の回転速度が急上昇し、フィードバックトルクTmfbも急上昇している。ここで、時刻t32において回転速度制御が非実行状態となると、残存するフィードバックトルクTmfbも比較的大きな値となる。既に、車輪Wが滑っていることによって回転電機3の回転速度は非常に高くなっているため、残存トルクTrfbによって回転速度がさらに上昇することは好ましくない。回転速度制御が非実行状態に切り替わる前(
図5の例では時刻t32の前)のフィードバックトルクTmfbは正であるから、回転速度制御部20では、負の変化レートRT(下降レート)によりフィードバックトルクTmfbを減少させる。この変化レートRTが十分ではない場合、
図9に破線で示すように、フィードバックトルクTmfbが迅速に解消されず、回転電機3の回転速度が上限回転速度THを超えてしまうおそれがある。
【0076】
そこで、レート値制限部24は、そのように回転電機3の回転速度が非常に高い場合(即ち、制限範囲内の場合)には、迅速にフィードバックトルクTmfb(残存トルクTrfb)を収束させるために、回転電機3の回転速度が十分低い場合(即ち、制限範囲外の場合)に比べて、制限レートを高い値に設定する。この例のように、回転速度制御が非実行状態に切り替わる前のフィードバックトルクTmfbが正であった場合、回転電機3の回転速度の上限値(上限回転速度TH)に対して回転速度が低い側に隣接する範囲に設定された制限範囲である上限側制限範囲が適用される。ここで言う「回転電機3の回転速度の上限値」とは、回転電機3自身の回転速度の上限値であっても良いし、第1係合装置CL1を介して駆動連結された場合の内燃機関1の回転速度の上限値(いわゆるレブリミット)に基づく回転電機3の回転速度の上限値であっても良い。また、回転電機3を駆動力源とする補機の回転速度の上限値に基づく回転電機3の回転速度の上限値であってもよい。
【0077】
例えば、第1係合装置CL1が内燃機関1と回転電機3との間で動力を伝達する状態であって、回転速度制御部20が非実行状態に切り替わる前のフィードバックトルクが正であった場合、内燃機関1の回転速度の上限値に対して回転速度が低い側に隣接する範囲に設定された制限範囲である上限側制限範囲が適用される。尚、上限側制限範囲は、第1係合装置CL1が内燃機関1と回転電機3との間で動力を伝達する状態で有る場合と、第1係合装置CL1が内燃機関1と回転電機3との間で動力を伝達しない状態(第1係合装置CL1が解放状態)とで異なる値に設定されていてもよい。一般的に、回転電機3の回転速度の上限は、内燃機関1の回転速度の上限よりも高い場合が多い、従って、例えば、第1係合装置CL1が内燃機関1と回転電機3との間で動力を伝達する状態で有る場合に比べて、第1係合装置CL1が解放状態の場合の上限側制限範囲が高い値に設定されていてもよい。
【0078】
下記の表2は、回転速度と制限レートとの関係の一例を示している。例えば上限値がV1[rpm]の場合、V1[rpm]に対して低い側に隣接する範囲(ここでは、V1[rpm]未満でV2[rpm]を超える範囲、表2では整数値で示している。)が上限側制限範囲に相当する。尚、表2に示す回転速度は、「V3<V2<V1」である。
【0079】
【0080】
ここで、表2を
図9の例に適用して説明する。
図8と同様に、
図9の下段の波形図において、破線はこのような制限レートが適用されない場合(例えばレート値制限部24がない場合)の変化レートRTを示している。上述したように、この変化レートRTは、標準レートとなる。一点鎖線は制限レートを示し、実線は、制限レートが適用される場合の変化レートRTを示している。
【0081】
図9において回転電機3の回転速度(実回転速度ωres)はV2[rpm]を超えている(整数とすると(V2+1)[rpm]以上)。そして、標準レートは-20[Nm/task]に設定されており、その絶対値は20[Nm/task]である。ここで、回転速度制御が実行されている場合には、、収束処理は実行されないので、制限レートは-1[Nm/task]であり、制限レートの絶対値は1[Nm/task]である。実質的に変化レートRTは制限を受けず標準レートが適用される。一方、回転速度制御が実行状態から非実行状態となると、表2を参照して上述したように、(V2+1)[rpm]以上である回転電機3の回転速度(実回転速度ωres)は上限側制限範囲に含まれるため、下降レートとしての制限レートは、-1[Nm/task]から-50[Nm/task]に引き下げられる。つまり、下降レートの絶対値が1[Nm/task]から50[Nm/task]に引き上げられる。このため、-50[Nm/task]として与えられている標準レート(絶対値が20[Nm/task]の下降レート)は制限レートによる制限を受ける。即ち、変化レートRTの絶対値は制限レートに規定された上限値である50[Nm/task]に制限され、下降レートとして-50[Nm/task]に設定される。
【0082】
上述したように、非実行状態に切り替わる前のフィードバックトルクTmfbcが正であった場合、フィードバックトルクTmfbの解消が遅れると、回転電機3の回転速度が上昇し過ぎるおそれがある。回転速度が高くなると逆起電圧も高くなり、回転電機3を駆動するための回路部品(インバータ回路62、平滑コンデンサ(不図示)、蓄電装置(不図示)等)の電気的負荷を増大させるおそれがある。上限側制限範囲が、回転電機3の回転速度の上限値に対して回転速度が低い側に隣接する範囲に設定されていることで、フィードバックトルクを迅速に解消させ、回転電機の回転速度が上限値を上回ることを回避し易い。そして、回転電機3により駆動される補機が不適切に駆動されることを回避し易い。
【0083】
また、第1係合装置CL1が内燃機関1と回転電機3との間で動力を伝達する状態であれば、内燃機関1の回転速度が上限値(いわゆるレブリミット)を超えるおそれがある。上限側制限範囲が、内燃機関1の回転速度の上限値に対して回転速度が低い側に隣接する範囲に設定されていることで、フィードバックトルクTmfbを迅速に解消させ、回転電機3に駆動連結された内燃機関1の回転速度が上限値を上回ることを回避し易い。
【0084】
図8及び
図9を参照して説明したように、フィードバックトルク収束処理における制限範囲は、回転速度制御が非実行状態に切り替わる前のフィードバックトルクTmfbが正である場合と負である場合とで異なる範囲に設定されている。上述したように、回転速度制御が非実行状態に切り替わる前のフィードバックトルクTmfbが正であった場合、残存するフィードバックトルクTmfbによって回転電機3の回転速度が望ましくない速度まで上昇する可能性がある。また、回転速度制御が非実行状態に切り替わる前のフィードバックトルクTmfbが負であった場合には、残存するフィードバックトルクTmfbによって回転電機3の回転速度が望ましくない速度まで下降する可能性がある。本実施形態のように、制限範囲が、フィードバックトルクTmfbの正負に応じて異なる範囲に設定されていることで、回転速度制御が非実行状態に切り替わる前のフィードバックトルクTmfbが正であった場合における回転電機3の回転速度の上昇を規定の範囲内に抑えることができると共に、回転速度制御が非実行状態に切り替わる前のフィードバックトルクTmfbが負であった場合における回転電機3の回転速度の下降を規定の範囲内に抑えることができる。
【0085】
尚、上記においては表1、表2に例示したように、制限レートが2種類のみ設定されている形態を例示した。しかし、制限レートは複数の値を有していてもよく、それらが回転電機3の回転速度に応じて段階的に設定されるように構成されていてもよい。
【0086】
尚、上述した標準レートは、回転電機3のトルクがフィードバックトルクTmfbの変化に応じて変化しても車輪Wに伝達されるトルクの変化が予め定めた範囲内となるように設定されている。この予め定められた範囲とは、車輪Wに伝達されるトルクの変化を乗員が感じるか否かによって設定されている。つまり、いわゆる乗り心地への影響(ドライバビリティ)に応じて設定されている。従って、車両の走行状態(走行モードや、走行速度)等に応じて異なる値や、第2係合装置CL2の油圧制御と連動した値等に設定されていると好適である。そして、回転電機3の回転速度が制限範囲外である場合の制限レート(表1、表2等において±1[Nm/task]で例示した制限レート)は、標準レートを制限しないように設定されている。
【0087】
例えば、
図8、
図9、表1、表2を参照して上述した形態では、標準レートの絶対値が20[Nm/task]、回転電機3の回転速度が制限範囲外である場合の制限レートの絶対値が1[Nm/task]である例を用いた。しかし、この制限レートの絶対値は、回転速度制御が実行されているとき(即ち、収束処理も実行されないとき)に、トルクの変化を妨げない値に設定されていれば1[Nm/task]に限るものではない。制限レートの絶対値は、標準レートの絶対値未満であればよい。例えば、標準レートの絶対値が20[Nm/task]に固定されている場合には、制限レートの絶対値は20[Nm/task]未満の値に設定されていればよい。標準レートが可変の場合には、正負それぞれにおいて、制限レートの絶対値が、標準レートの絶対値の最小値未満の値に設定されていればよい。例えば、上記の例のように、制限レートの絶対値が1[Nm/task]の場合には、標準レートとして、例えば2[Nm/task]や3[Nm/task]を取り得る。
【0088】
以下、
図10のフローチャートを参照して、制御装置10によるフィードバックトルク収束処理の手順について説明する。
図10においては、「フィードバックトルク」を「FBトルク」と表記する。
図10のフローチャートにおけるスタートとエンドとの間の処理は、上述した1回の制御周期(1task)に実行され、これが繰り返される。
【0089】
制御装置10は、始めに回転速度制御要求REQrscがアクティブ(ON状態)か否かを判定する(#11)。この判定結果又は回転速度制御要求REQrscの状態は、レジスタ等に記憶される。回転速度制御要求REQrscがアクティブな場合、制御装置10は、フィードバックトルクTmfbを演算する回転速度制御を実行し(#12)、1回の制御周期における処理を終了する。回転速度制御要求REQrscがアクティブである間は、ステップ#11とステップ#12が繰り返し実行される。
【0090】
制御装置10は、ステップ#11において回転速度制御要求REQrscがアクティブではない(OFF状態である)と判定すると、前回の制御周期におけるステップ#11の判定結果を判定する。つまり、制御装置10は、前回の回転速度制御要求REQrscがアクティブ(ON状態)であったか否かを判定する(#13)。制御装置10は、ステップ#13において、前回の回転速度制御要求REQrscがアクティブ(ON状態)であったと判定した場合、今回の制御周期において回転速度制御要求REQrscの状態が変化したと判定し、現在のフィードバックトルクTmfbの実効値(
図6における差分ΔTm)をラッチし、処理を終了する。ステップ#11からステップ#13を経てステップ#14へ至るこの処理は、回転速度制御要求REQrscがアクティブな状態から、非アクティブな状態に変化した制御周期において実行される。また、この一連の処理には、ステップ#12の回転速度制御の実行が含まれないため、この制御周期において回転速度制御が終了したこととなる。
【0091】
制御装置10は、ステップ#11において回転速度制御要求REQrscがアクティブではない(OFF状態である)と判定し、続くステップ#13において前回の回転速度制御要求REQrscがアクティブ(ON状態)ではなかったと判定した場合、少なくとも1つ前の制御周期以前から回転速度制御要求REQrscが非アクティブ(OFF状態)であったと判定し、フィードバックトルク収束処理(ステップ#18)を実行する。制御装置10は、ステップ#18の実行に先立って、回転電機3の回転速度(実回転速度ωres)が制限範囲外か否かを判定する(#15)。実回転速度ωresが制限範囲外の場合、制御装置10は、変化レートRTとして、
図8、
図9、表1、表2を参照して上述したように標準レート(レート小)を設定する(#16)。一方、実回転速度ωresが制限範囲内の場合、制御装置10は、変化レートRTとして、
図8、
図9、表1、表2を参照して上述したように制限レートによって制限された加速レート(レート大)を設定する(#17)。そして、制御装置10は、設定された変化レートRTに応じてフィードバックトルク収束処理を実行する。
【0092】
〔その他の実施形態〕
以下、その他の実施形態について説明する。尚、以下に説明する各実施形態の構成は、それぞれ単独で適用されるものに限られず、矛盾が生じない限り、他の実施形態の構成と組み合わせて適用することも可能である。
【0093】
(1)上記においては、
図1に例示したように、内燃機関1から車輪Wまでの動力伝達経路に、内燃機関1、回転電機3、車輪Wが記載の順に配置された、いわゆる1モータパラレルハイブリッドの車両用駆動装置100を例示して説明した。しかし、制御装置10が制御対象とする車両用駆動装置100は、この形態に限らず、内燃機関1、車輪Wが記載の順に配置された動力伝達経路に対して並列に回転電機3が配置され、当該回転電機3がその動力伝達経路にトルクを伝達可能な形態(いわゆるパラレルハイブリット)であってもよく、また、回転電機3を含む2つの回転電機を備え、内燃機関1から車輪Wまでの動力伝達経路に、内燃機関1、一方の回転電機、他方の回転電機、車輪Wが記載の順に配置された形態(いわゆるシリーズパラレルハイブリッド)であってもよい。
【0094】
(2)上記においては、標準レートが、乗り心地への影響(ドライバビリティ)に応じて設定されている形態を例示した。しかし、標準レートは、システムに設定されたフィードバックトルクTmfbの最大値と、フィードバックトルク収束処理に許される標準時間とに基づいて設定されていてもよい。この場合、標準時間と制御周期との関係より、フィードバックトルク収束処理に許される制御周期の数も定まる。例えば、フィードバックトルクTmfbの絶対値の最大値が200[Nm]であり、20制御周期でフィードバックトルク収束処理を終える場合、変化レートRTとして最低10[Nm/task]が必要である。従って、この場合には標準レートが10[Nm/task]に設定される。
【0095】
(3)上記においては、回転速度制御が非実行状態に切り替わる前のフィードバックトルクTmfbが正である場合と負である場合とで、制限範囲が、異なる範囲に設定されている形態を例示して説明した。しかし、制限範囲は、当該フィードバックトルクTmfbの正負に拘わらず、同じ範囲に設定されていてもよい。ここで同じ範囲とは、絶対値における数値が同一であることをいう。
【0096】
例えば、上記においては、回転速度制御が非実行状態に切り替わる前のフィードバックトルクTmfbが負であった場合、回転電機3の回転速度の下限値に対して回転速度が高い側に隣接する範囲に設定された下限側制限範囲が適用され、回転速度制御が非実行状態に切り替わる前のフィードバックトルクTmfbが正であった場合、回転電機3の回転速度の上限値に対して回転速度が低い側に隣接する範囲に設定された上限側制限範囲が適用される形態を例示した。しかし、車両用駆動装置100は、負の回転速度の絶対値が大きくなり、負方向の過回転が生じる得る構成である場合もある。この場合、回転速度制御が非実行状態に切り替わる前のフィードバックトルクTmfbが負であっても、回転電機3の回転速度の下限値(絶対値では上限値)に対して回転速度が低い側(負方向の回転速度が高い側、絶対値では大きい側)に隣接する範囲に、下限側制限範囲が適用されてもよい。この時の回転速度の下限値(負の回転速度であるから絶対値では上限値)と、回転速度制御が非実行状態に切り替わる前のフィードバックトルクTmfbが正であった場合の回転電機3の回転速度の上限値とが同一であってもよい。この場合、制限範囲は、当該フィードバックトルクTmfbの正負に拘わらず、同じ範囲に設定されているということができる。
【0097】
(4)上記においては、回転速度制御が非実行状態に切り替わる前のフィードバックトルクTmfbが高くなるに従って、制限レートの絶対値が大きくなるように設定されていてもよいと説明した。当然ながら、フィードバックトルクTmfbの大きさに拘わらず、回転電機3の回転速度のみに基づいて制限レートが設定される形態を妨げるものではない。
【0098】
〔実施形態の概要〕
以下、上記において説明した車両用駆動装置の制御装置の概要について簡単に説明する。
【0099】
1つの態様として、車両用駆動装置の制御装置は、
内燃機関と、
当該内燃機関と車輪とを結ぶ動力伝達経路にトルクを伝達するように設けられた回転電機と、
前記内燃機関と前記回転電機との間の動力伝達を断接する第1係合装置と、
前記回転電機と前記車輪との間の動力伝達を断接する第2係合装置と、を備えた車両用駆動装置を制御対象とする制御装置であって、
前記回転電機の実回転速度を目標回転速度に近づけるように前記回転電機の回転速度を変化させるためのトルクであるフィードバックトルクを演算する回転速度制御部と、
前記回転電機の要求トルクと前記フィードバックトルクとの和のトルクを出力するように前記回転電機を制御する回転電機制御部と、を備え、
前記回転速度制御部は、前記フィードバックトルクを生成する実行状態と、前記フィードバックトルクを生成しない非実行状態とに切り替え可能であり、
前記回転速度制御部は、前記実行状態から前記非実行状態に切り替わる場合に、前記フィードバックトルクの変化レートを制限レートの範囲内に制限しつつ、前記フィードバックトルクの絶対値をゼロまで低下させ、
前記制限レートの絶対値は、前記回転電機の回転速度が予め設定された制限範囲内の場合に、前記回転電機の回転速度が前記制限範囲外である場合に比べて、高い値に設定される。
【0100】
一般的にフィードバックトルクなど、フィードバック制御の演算対象は急激な変化による制御の追従性の低下等を抑制するために、単位時間当たりの変化レートが制限レートによって制限される場合がある。このため、追従性が低下する可能性が低く、且つ迅速な対応が必要な場合には、その制限レートにより応答性が妨げられることがある。本構成によれば、回転電機の回転速度が制限範囲である場合には、制限レートを高い値とすることでフィードバックトルクを高い応答性で変化させることができる。例えば、回転速度制御部は、実行状態から非実行状態に切り替わる場合に、高い制限レートでフィードバックトルクの絶対値を迅速にゼロまで低下させることができる。従って、フィードバックトルクをゼロまで低下させる期間の残留トルクによって回転電機の回転速度が変化し、望ましくない回転速度に到達してしまうことも回避し易い。このように、本構成によれば、回転電機に対する回転速度制御が実行状態から非実行状態に切り替わる際に、回転速度制御において回転電機の回転速度を変化させるために用いられていたトルクを、回転電機の回転状態に応じて適切に解消させることができる。
【0101】
ここで、前記制限範囲は、前記非実行状態に切り替わる前の前記フィードバックトルクが正である場合と負である場合とで異なる範囲に設定されていると好適である。
【0102】
例えば、非実行状態に切り替わる前のフィードバックトルクが正であった場合、残存するフィードバックトルクによって回転電機の回転速度が望ましくない速度まで上昇する可能性がある。また、非実行状態に切り替わる前のフィードバックトルクが負であった場合には、残存するフィードバックトルクによって回転電機の回転速度が望ましくない速度まで下降する可能性がある。本構成によれば、制限範囲が、フィードバックトルクの正負に応じて異なる範囲に設定されているため、非実行状態に切り替わる前のフィードバックトルクが正であった場合における回転電機の回転速度の上昇を規定の範囲内に抑えることができると共に、非実行状態に切り替わる前のフィードバックトルクが負であった場合における回転電機の回転速度の下降を規定の範囲内に抑えることができる。
【0103】
また、前記制限範囲が、前記非実行状態に切り替わる前の前記フィードバックトルクが正である場合と負である場合とで異なる範囲に設定されている場合、1つの態様として下記のように前記制限範囲が設定されていると好適である。即ち、
前記非実行状態に切り替わる前の前記フィードバックトルクが負であった場合には、前記回転電機の回転速度の下限値に対して回転速度が高い側に隣接する範囲に設定された前記制限範囲である下限側制限範囲が適用され、
前記非実行状態に切り替わる前の前記フィードバックトルクが正であった場合には、前記回転電機の回転速度の上限値に対して回転速度が低い側に隣接する範囲に設定された前記制限範囲である上限側制限範囲が適用されると好適である。
【0104】
非実行状態に切り替わる前のフィードバックトルクが負であった場合、フィードバックトルクの解消が遅れると、回転電機の回転速度が低下し過ぎるおそれがある。例えば、回転速度がゼロを下回るほど低下した場合には、回転電機が逆回転することになる。例えば回転方向が規定された補機等が回転電機により駆動されていた場合には、当該補機の機械的負荷を増大させてしまうことになる。下限側制限範囲が回転電機の回転速度の下限値に対して回転速度が高い側に隣接する範囲に設定されていることで、フィードバックトルクを迅速に解消させ、回転電機の回転速度が下限値(例えばゼロ)を下回ることを回避し易い。
【0105】
非実行状態に切り替わる前のフィードバックトルクが正であった場合、フィードバックトルクの解消が遅れると、回転電機の回転速度が上昇し過ぎるおそれがある。回転速度が高くなると逆起電圧も高くなり、回転電機を駆動するための回路部品(インバータ回路、平滑コンデンサ、蓄電装置等)の電気的負荷を増大させるおそれがある。上限側制限範囲が回転電機の回転速度の上限値に対して回転速度が低い側に隣接する範囲に設定されていることで、フィードバックトルクを迅速に解消させ、回転電機の回転速度が上限値を上回ることを回避し易い。
【0106】
また、前記制限範囲が、前記非実行状態に切り替わる前の前記フィードバックトルクが正である場合と負である場合とで異なる範囲に設定されている場合、1つの態様として下記のように前記制限範囲が設定されていても好適である。即ち、
前記第1係合装置が前記内燃機関と前記回転電機との間で動力を伝達する状態であって前記非実行状態に切り替わる前の前記フィードバックトルクが負であった場合、前記内燃機関の回転速度の下限値に対して回転速度が高い側に隣接する範囲に設定された前記制限範囲である下限側制限範囲が適用され、
前記第1係合装置が前記内燃機関と前記回転電機との間で動力を伝達する状態であって前記非実行状態に切り替わる前の前記フィードバックトルクが正であった場合、前記内燃機関の回転速度の上限値に対して回転速度が低い側に隣接する範囲に設定された前記制限範囲である上限側制限範囲が適用されると好適である。
【0107】
非実行状態に切り替わる前のフィードバックトルクが負であった場合、フィードバックトルクの解消が遅れると、回転電機の回転速度が低下し過ぎるおそれがある。例えば、回転速度がゼロを下回るほど低下した場合には、回転電機が逆回転することになり、第1係合装置が係合状態であれば、内燃機関に影響を与えるおそれがある。また、内燃機関の出力軸にダンパ装置などが連結されている場合には、ダンパ装置に捻れ等を生じさせるおそれもある。下限側制限範囲が内燃機関の回転速度の下限値に対して回転速度が高い側に隣接する範囲に設定されていることで、フィードバックトルクを迅速に解消させ、回転電機に駆動連結された内燃機関の回転速度が下限値(例えばゼロ)を下回ることを回避し易い。
【0108】
非実行状態に切り替わる前のフィードバックトルクが正であった場合、フィードバックトルクの解消が遅れると、回転電機の回転速度が上昇し過ぎるおそれがある。第1係合装置が係合状態であれば、内燃機関の回転速度が上限値(いわゆるレブリミット)を超えるおそれがある。上限側制限範囲が、内燃機関の回転速度の上限値に対して回転速度が低い側に隣接する範囲に設定されていることで、フィードバックトルクを迅速に解消させ、回転電機に駆動連結された内燃機関の回転速度が上限値を上回ることを回避し易い。
【0109】
また、前記非実行状態に切り替わる前の前記フィードバックトルクが高くなるに従って、前記制限レートの絶対値が大きくなるように設定されていると好適である。
【0110】
フィードバックトルクが高いほど、フィードバックトルクの解消には時間を要する。フィードバックトルクが高くなるに従って、制限レートの絶対値が大きくなることで、迅速にフィードバックトルクを解消させることができる。
【0111】
また、前記回転電機の回転速度が前記制限範囲外である場合の前記制限レートは、前記回転電機のトルクの変化による前記車輪に伝達されるトルクの変化が予め定めた範囲内となるように設定された前記変化レートを制限しないように設定されていると好適である。
【0112】
回転電機の回転速度が制限範囲外の場合は、例えば車両の乗り心地等を考慮して車輪に伝達されるトルクの変化が大きくなり過ぎないように変化レートを設定することで、車両の乗り心地を高めることが可能となる。一方、回転電機の回転速度が制限範囲内の場合は、制限レートによって変化レートをそれより高い値に設定することで、フィードバックトルクの絶対値を迅速にゼロまで低下させることができる。これにより、フィードバックトルクをゼロまで低下させる期間の残留トルクによって、回転電機の回転速度が変化して望ましくない回転速度に到達してしまうことを回避し易い。
【符号の説明】
【0113】
1 :内燃機関
3 :回転電機
10 :制御装置
20 :回転速度制御部
50 :回転電機制御部
100 :車両用駆動装置
CL1 :第1係合装置
CL2 :第2係合装置
RT :変化レート
Tbase :要求トルク
Tcmd :要求トルク
Tmfb :フィードバックトルク
Tmfbc :フィードバックトルク
W :車輪
ωcmd :目標回転速度
ωres :実回転速度