(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023111592
(43)【公開日】2023-08-10
(54)【発明の名称】車両用駆動装置の制御装置
(51)【国際特許分類】
B60W 10/08 20060101AFI20230803BHJP
B60W 20/00 20160101ALI20230803BHJP
B60W 10/06 20060101ALI20230803BHJP
B60K 6/54 20071001ALI20230803BHJP
B60K 6/442 20071001ALI20230803BHJP
B60L 15/20 20060101ALI20230803BHJP
B60L 50/16 20190101ALI20230803BHJP
【FI】
B60W10/08 900
B60W20/00 900
B60W10/06 900
B60K6/54 ZHV
B60K6/442
B60L15/20 K
B60L50/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022013510
(22)【出願日】2022-01-31
(71)【出願人】
【識別番号】519314766
【氏名又は名称】株式会社BluE Nexus
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】熊田 拓郎
【テーマコード(参考)】
3D202
5H125
【Fターム(参考)】
3D202AA02
3D202BB05
3D202BB12
3D202BB37
3D202CC03
3D202CC35
3D202CC42
3D202CC75
3D202DD24
3D202DD26
3D202FF12
3D202FF13
5H125AA01
5H125AC08
5H125AC12
5H125BA00
5H125BE05
5H125CA02
5H125EE08
5H125EE42
(57)【要約】
【課題】外乱トルクを補償するための外乱オブザーバ制御を伴って車両用駆動装置を制御する場合に、適切に外乱オブザーバ制御を終了させる。
【解決手段】外乱オブザーバ制御部が実行状態から非実行状態に切り替わる場合に、補正トルクT^disの値をゼロに設定すると共に、実行状態の最後に外乱オブザーバ制御部により演算された補正トルクT^disを積分制御部の出力値に加算させる外乱オブザーバ終了処理を実行する。
【選択図】
図14
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関と、
当該内燃機関と車輪とを結ぶ動力伝達経路にトルクを伝達するように設けられた回転電機と、
前記内燃機関と前記回転電機との間の動力伝達を断接する第1係合装置と、
前記回転電機と前記車輪との間の動力伝達を断接する第2係合装置と、を備えた車両用駆動装置を制御対象とする制御装置であって、
前記回転電機の実回転速度を目標回転速度に近づけるように前記回転電機の回転速度を変化させるためのトルクであるフィードバックトルクを演算するフィードバック制御部と、
前記回転電機の要求トルクと前記フィードバックトルクとの和のトルクを出力するように前記回転電機を制御する回転電機制御部と、
前記回転電機の前記実回転速度から実際に前記回転電機の回転速度を変化させたトルクである推定フィードバックトルクを推定し、前記フィードバックトルクと前記推定フィードバックトルクとの差分に基づいて前記フィードバックトルクを補正する補正トルクを演算する外乱オブザーバ制御部と、を備え、
前記フィードバック制御部は、前記実回転速度と前記目標回転速度との差の積分値を出力する積分制御部を備え、
前記外乱オブザーバ制御部は、前記フィードバックトルクを補正する実行状態と、前記フィードバックトルクを補正しない非実行状態とに切り替え可能であり、
前記外乱オブザーバ制御部が前記実行状態から前記非実行状態に切り替わる場合に、前記補正トルクの値をゼロに設定すると共に、前記実行状態の最後に前記外乱オブザーバ制御部により演算された前記補正トルクを前記積分制御部の出力値に加算させる外乱オブザーバ終了処理を実行する、車両用駆動装置の制御装置。
【請求項2】
前記フィードバック制御部は、予め定められた制御周期で繰り返し前記フィードバックトルクを演算するように構成され、
前記外乱オブザーバ終了処理では、前記実行状態の最後の制御周期に前記外乱オブザーバ制御部により演算された前記補正トルクを、次の制御周期における前記積分制御部の出力値に加算し、その後は、前記外乱オブザーバ制御部が前記非実行状態から前記実行状態に切り替わり前記外乱オブザーバ終了処理を実行するまで、前記補正トルクを前記積分制御部の出力値に加算する処理は行わない、請求項1に記載の車両用駆動装置の制御装置。
【請求項3】
前記外乱オブザーバ制御部が前記非実行状態から前記実行状態に切り替わる場合に、前記補正トルクの絶対値を、ゼロから前記外乱オブザーバ制御部が演算した前記補正トルクである演算補正トルクまで、変化レートを制限しつつ次第に増加させる外乱オブザーバ開始処理を実行する、請求項1又は2に記載の車両用駆動装置の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用駆動装置の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許第4265567号公報には、内燃機関(3)と、内燃機関(3)と車輪(2R、2L)とを結ぶ動力伝達経路にトルクを伝達するように設けられた回転電機(7)と、内燃機関(3)と回転電機(4)との間の動力伝達を断接する第1係合装置(8)と、回転電機(7)と車輪(2R、2L)との間の動力伝達を断接する第2係合装置(9)とを備えた車両用駆動装置の制御方法が開示されている(背景技術において括弧内の符号は参照する文献のもの。)。この方法では、第1係合装置(8)を解放し、第2係合装置(9)を締結した車両走行中において、第1係合装置(8)の締結容量を増大させて内燃機関(3)に動力を伝達し、内燃機関(3)を始動する際に、下記のように、トルクを補償する制御が実行される。即ち、第1係合装置(8)を介して内燃機関(3)へ動力を伝達することによって、回転電機(7)の回転が妨げられる。そこで、この方法では、第1係合装置(8)の係合容量と同程度のトルクが補正トルクとして演算される。そして、この方法では、車両駆動のための要求トルクに、補正トルクを加えたトルクを回転電機(7)に出力させるように、回転電機(7)を制御している。上記のように回転電機の回転に影響を与えるトルクはいわゆる外乱トルクである。そして、このような外乱トルクを補償する制御として、特許4779857公報に開示されているような外乱オブザーバ制御が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4265567号公報
【特許文献2】特許第4779857号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
当然ながら、外乱オブザーバ制御は、外乱トルクが回転電機の制御に影響を与えない程度に小さい場合には必要はない。従って、外乱オブザーバ制御が実行されていても、例えば、外乱トルクが小さくなったり、解消したりした場合には、制御装置の演算負荷も考慮して外乱オブザーバ制御が適切に終了されることが好ましい。例えば特許第4265567号公報のように内燃機関の始動制御の際に実行される場合には、第1係合装置が係合状態となると終了されることが好ましい。しかし、外乱オブザーバ制御を終了する際に、ステップ応答的に補正トルクをゼロとすると、回転電機の出力トルクや回転速度の急変につながる場合がある。このようなトルクの急変は、車両の振動となって乗員に不快な感覚を与えたり、車両用駆動装置に機械的な負荷を与えたりする場合がある。一方、補正トルクを解消させるタイミングが遅れると、回転電機の回転速度が不必要に変化し、上記のように内燃機関と回転電機とが駆動連結されている場合には、内燃機関に影響を与える可能性がある。従って、外乱オブザーバ制御は補正トルクを適切に処理して適切に終了されることが好ましい。しかし、特許第4265567号公報には、外乱オブザーバ制御については言及されていない。特許4779875公報においても、外乱トルクを発生させる事象が変化した時(ここでは係合装置が係合している状態と滑り係合している状態との間で切り替わる時)に、外乱オブザーバの値(補正トルクの値)を初期化することについては言及されているが、これは上記のステップ応答的な変化に相当すると解される。従って、特許4779875公報においても、外乱オブザーバ制御を適切に終了させるための方法については言及されていない。
【0005】
上記背景に鑑みて、外乱トルクを補償するための外乱オブザーバ制御を伴って車両用駆動装置を制御する場合に、適切に外乱オブザーバ制御を終了させる技術の提供が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記に鑑みた、車両用駆動装置の制御装置は、
内燃機関と、
当該内燃機関と車輪とを結ぶ動力伝達経路にトルクを伝達するように設けられた回転電機と、
前記内燃機関と前記回転電機との間の動力伝達を断接する第1係合装置と、
前記回転電機と前記車輪との間の動力伝達を断接する第2係合装置と、を備えた車両用駆動装置を制御対象とする制御装置であって、
前記回転電機の実回転速度を目標回転速度に近づけるように前記回転電機の回転速度を変化させるためのトルクであるフィードバックトルクを演算するフィードバック制御部と、
前記回転電機の要求トルクと前記フィードバックトルクとの和のトルクを出力するように前記回転電機を制御する回転電機制御部と、
前記回転電機の前記実回転速度から実際に前記回転電機の回転速度を変化させたトルクである推定フィードバックトルクを推定し、前記フィードバックトルクと前記推定フィードバックトルクとの差分に基づいて前記フィードバックトルクを補正する補正トルクを演算する外乱オブザーバ制御部と、を備え、
前記フィードバック制御部は、前記実回転速度と前記目標回転速度との差の積分値を出力する積分制御部を備え、
前記外乱オブザーバ制御部は、前記フィードバックトルクを補正する実行状態と、前記フィードバックトルクを補正しない非実行状態とに切り替え可能であり、
前記外乱オブザーバ制御部が前記実行状態から前記非実行状態に切り替わる場合に、前記補正トルクの値をゼロに設定すると共に、前記実行状態の最後に前記外乱オブザーバ制御部により演算された前記補正トルクを前記積分制御部の出力値に加算させる外乱オブザーバ終了処理を実行する。
【0007】
この構成によれば、外乱オブザーバ終了処理により、補正トルクの値がゼロに設定されると共に、補正トルクが積分制御部の出力値に加算される。即ち、フィードバック制御部が演算したフィードバックトルクに加算されていた補正トルクが無くなる一方で、フィードバックトルクを演算する機能の一部を担う積分制御部に補正トルクが加算される。従って、外乱オブザーバ制御部が実行状態から非実行状態に切り替わる場合に、フィードバックトルクが急変することが抑制される。即ち、補正トルクがステップ応答的に急変することが抑制され、外乱オブザーバ制御の終了に伴って回転電機の出力トルクや回転速度が急変することが抑制される。その後は時間の経過に伴って、積分制御部に加算された補正トルクが次第に解消されていくので、補正トルクにより回転電機の回転速度が不必要に変化することも抑制される。このように、本構成によれば、外乱トルクを補償するための外乱オブザーバ制御を伴って車両用駆動装置を制御する場合に、適切に外乱オブザーバ制御を終了させることができる。
【0008】
車両用駆動装置の制御装置のさらなる特徴と利点は、図面を参照して説明する例示的且つ非限定的な実施形態についての以下の記載から明確となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図3】内燃機関始動モードを含む車両用駆動装置の動作例を示すタイムチャート
【
図4】第2係合装置スリップ発進(滑り係合発進)のシーケンスの一例を示すタイムチャート
【
図5】第2係合装置スリップ発進(滑り係合発進)において車輪が空転している場合の一例を示すタイムチャート
【
図6】回転電機制御部及び回転速度制御部におけるフィードバックトルク出力部の構成例を示す模式的ブロック図
【
図7】回転速度制御部及び回転電機制御部の構成例を模式的に示すブロック図
【
図8】外乱オブザーバ制御の終了と共に補正トルクをゼロにした場合の、外乱オブザーバ制御の終了時刻の前後における回転電機の回転速度とトルクを示す波形図
【
図9】外乱オブザーバ終了処理が実行された場合の車両用駆動装置の各部の回転速度及び補正トルク等を示す波形図
【
図10】第1外乱オブザーバ終了処理の一例を示すフローチャート
【
図11】外乱オブザーバ制御の終了と共に補正トルクをゼロにした場合の、外乱オブザーバ制御の終了時刻の前後における比例トルクと積分トルクとフィードバックトルクと補正トルクとの関係を示す波形図
【
図12】第2外乱オブザーバ終了処理を実行した場合の、外乱オブザーバ制御の終了時刻の前後における比例トルクと積分トルクとフィードバックトルクと補正トルクとの関係を示す波形図
【
図13】第2外乱オブザーバ終了処理を実行した場合の、外乱オブザーバ制御の終了時刻の前後における回転電機の回転速度とトルクを示す波形図
【
図14】第2外乱オブザーバ終了処理の一例を示すフローチャート
【
図15】第3外乱オブザーバ終了処理の原理を示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、車両用駆動装置の制御装置の実施形態を図面に基づいて説明する。本実施形態では、制御装置10は、内燃機関1と、回転電機3と、第1係合装置CL1と、第2係合装置CL2とを少なくとも備えた車両用駆動装置100を制御対象とする。
図1に示すように、回転電機3は、内燃機関1と車輪Wとを結ぶ動力伝達経路にトルクを伝達するように設けられている。第1係合装置CL1は、内燃機関1と回転電機3との間の動力伝達を断接するように配置されている。第2係合装置CL2は、回転電機3と車輪Wとの間の動力伝達を断接するように配置されている。本実施形態では、第2係合装置CL2と車輪Wとの間に、自動変速機4と、一対の車輪Wに駆動力を分配する差動歯車装置5が配置されている形態を例示している。尚、第2係合装置CL2は、自動変速機4の一部であってもよい。また、
図1に示すように、内燃機関1と第1係合装置CL1との間には、ダンパ装置2が備えられていてもよい。
【0011】
尚、本願において「駆動連結」とは、2つの回転要素が駆動力を伝達可能に連結された状態を指し、当該2つの回転要素が一体的に回転するように連結された状態、或いは当該2つの回転要素が1つ又は2つ以上の伝動部材を介して駆動力を伝達可能に連結された状態を含む。このような伝動部材としては、回転を同速で又は変速して伝達する各種の部材、例えば、軸、歯車機構、ベルト、チェーン等が含まれる。尚、伝動部材として、回転及び駆動力を選択的に伝達する係合装置、例えば、摩擦係合装置、噛み合い式係合装置等が含まれていても良い。
【0012】
図2のブロック図は、制御システムの一部を模式的に示している。本実施形態の制御装置10は、回転電機3の制御に関して特徴を有しており、
図2のブロック図は、制御システム(及び制御装置10)の内、回転電機3の制御に関する一部分を示している。制御装置10は、回転速度制御部20と、回転電機制御部50とを備えている。
【0013】
回転速度制御部20は、回転電機3の実回転速度ωresを目標回転速度ωcmdに近づけるように回転電機3の回転速度を変化させるためのトルクであるフィードバックトルクTmfbを演算する。また、回転速度制御部20は、フィードバック制御部30と、外乱オブザーバ制御部40とを備えている。フィードバック制御部30は、回転速度制御部20の中核であり、回転電機3の実回転速度ωresを目標回転速度ωcmdに近づけるように回転電機3の回転速度を変化させるためのトルクであるフィードバックトルクTmfbを演算する。本実施形態では、回転速度制御部20が外乱オブザーバ制御部40を備えている構成を例示しているが、外乱オブザーバ制御部40を備えていない形態を妨げるものではない。外乱オブザーバ制御部40が備えられていない場合には、回転速度制御部20の全てが、フィードバック制御部30に相当する。詳細については
図7を参照して後述するが、外乱オブザーバ制御部40は、回転電機3の実回転速度ωresに基づいて、実際に回転電機3の回転速度を変化させたトルクである推定フィードバックトルクTefbを推定し、フィードバックトルクTmfbと推定フィードバックトルクTefbとの差分ΔTmfbに基づいてフィードバックトルクTmfbを補正する補正トルクT^dis(実際の表記は、「^(ハット)」付きの「T」)を演算する。
【0014】
尚、回転速度制御部20(フィードバック制御部30)は、フィードバックトルクTmfbを生成する実行状態と、フィードバックトルクTmfbを生成しない非実行状態とに切り替え可能である。また、外乱オブザーバ制御部40は、フィードバックトルクTmfbを補正する実行状態と、フィードバックトルクTmfbを補正しない非実行状態とに切り替え可能である。回転速度制御部20(フィードバック制御部30)が実行状態において、外乱オブザーバ制御部40は、実行状態と非実行状態とに切り替え可能である。回転速度制御部20(フィードバック制御部30)が非実行状態の場合は、外乱オブザーバ制御を実行する必要がないため、外乱オブザーバ制御部40も非実行状態である。
【0015】
回転電機制御部50は、上位の制御装置(ここでは車両制御装置90)から与えられる要求トルクTbaseに基づく電流指令と、回転電機3を流れる実電流との差に基づいて例えば公知のベクトル制御法による電流フィードバック制御を行って、ドライブ回路61及びインバータ回路62を介して回転電機3を駆動制御する。実電流は電流センサ63によって検出され、ベクトル制御のための実回転速度ωresやロータの回転位置は、例えばレゾルバなどの回転センサ64によって検出される。本実施形態では、回転電機制御部50は、回転電機3の要求トルクTbaseとフィードバックトルクTmfbとの和のトルクを出力するように回転電機3を制御する(
図6、
図7参照)。回転速度を制御対象とする回転速度制御部20に対して、回転電機制御部50は、トルクを制御対象とするため、トルク制御部と称することもできる。
【0016】
上述したように、第1係合装置CL1は、内燃機関1と回転電機3との間での動力伝達を断接可能な係合装置である。第1係合装置CL1が係合されている状態では、内燃機関1と回転電機3との間で動力が伝達され、第1係合装置CL1が解放されている状態では、内燃機関1と回転電機3との間で動力が伝達されない。例えば第1係合装置CL1が解放されている状態では、不図示の蓄電装置(二次電池やキャパシタなど)からの電力により、回転電機3が電動機として機能して車輪Wを駆動することができる(電気自動車モード(EVモード))。
【0017】
第1係合装置CL1が係合されている状態では、主に、ハイブリッドモード(HVモード)と、充電モードとが実行可能である。ハイブリッドモードでは、回転電機3が電動機として機能する。車両用駆動装置100は、内燃機関1のトルク及び回転電機3のトルクにより車輪Wを駆動することができる。充電モードでは、回転電機3が発電機として機能する。車両用駆動装置100は、内燃機関1のトルクにより車輪Wを駆動すると共に、内燃機関1のトルクにより回転電機3に発電を行わせ、不図示の蓄電装置を充電することができる。
【0018】
また、車輪WがEVモードで駆動されている場合に、第1係合装置CL1を、解放されている状態から係合されている状態へ遷移させることによって、内燃機関1を始動させることができる(内燃機関始動モード)。つまり、EVモードから、内燃機関始動モードを経て、HVモードへと移行させることができる。
【0019】
以下、
図3から
図5を参照して、車両用駆動装置100の3パターンの動作例を説明する。
【0020】
図3のタイムチャートは、内燃機関始動モードを含む車両用駆動装置100の動作の一例を示している。つまり、EVモードから内燃機関始動モードを経て充電モードに至る場合の車両用駆動装置100の動作の一例を示している。区間T10では、第1係合装置CL1が解放された状態、且つ、第2係合装置CL2が係合された状態で、車輪WがEVモードによって駆動され、車両が走行している。ここで、時刻t11において、制御装置10よりも上位の制御装置(ここでは
図2に示す車両制御装置90)から制御装置10に内燃機関1の始動要求が与えられる。制御装置10は、始動要求を受け取ると、第2係合装置CL2の係合油合を、完全係合状態を実現する油圧から、滑り係合状態(スリップ係合状態、半クラッチ状態)を実現する油圧へと変化させる(区間T11)。即ち、制御装置10は、区間T11において油圧の実現率を低下させる。尚、実現率とは、駆動力に対して確保されるトルク容量の割合を示している。また、区間T11では、内燃機関1の始動(いわゆるクランキング)に備えて、第1係合装置CL1への油圧の印加が開始される。
【0021】
第2係合装置CL2の油圧が目標値まで低下すると、回転速度制御要求REQrscがアクティブとなる(時刻t12)。制御装置10は、マイクロコンピュータ等を中核としたハードウェアと、プログラムやパラメータなどのソフトウェアとの協働によって実現されている。回転速度制御要求REQrscは、例えばレジスタ等に設定されたフラグとして実現することができる。例えば、フラグとして示される値が「1」の場合、回転速度制御要求REQrscがアクティブ(ON)であることを示し、「0」の場合、回転速度制御要求REQrscが非アクティブ(OFF)であることを示す。以下、他の制御要求等においても同様である。
【0022】
回転速度制御要求REQrscがアクティブとなると、制御装置10は、回転電機3の回転速度制御を開始する。回転速度制御は、指令回転速度(例えば目標回転速度ωcmd)に回転電機3の回転速度(MG回転速度、例えば実回転速度ωres)が追従するようにフィードバック制御を行う制御である。本実施形態では、上述したように、回転速度制御部20(フィードバック制御部30)により、回転電機3の実回転速度ωresを目標回転速度ωcmdに近づけるように回転電機3の回転速度を変化させるためのトルクであるフィードバックトルクTmfbが演算される。
【0023】
図3におけるインプット回転速度は、第2係合装置CL2の二次側(車輪Wの側)の回転速度を示している。制御装置10は、第2係合装置CL2を滑り係合状態とすることで、回転電機3の回転速度とインプット回転速度との間に回転速度差を設け、内燃機関1の側のトルク変動が車輪Wの側に伝達されない状態で、内燃機関1のクランキングを行う。時刻t13は、時刻t12において開始された回転速度制御により第2係合装置CL2に要求される回転速度差(第2係合装置CL2の一次側(回転電機3側)と二次側との間に要求される回転速度)の生成が完了した時刻を示している。つまり、区間T12は、回転速度差(差回転)生成期間である。
【0024】
制御装置10は、回転速度差が生成された後(時刻t13の後)、第1係合装置CL1の係合圧を上昇させ、内燃機関1の回転速度を上昇させる(クランキングを行う)。この際、制御装置10は、時刻t13以降の区間T13において、第1係合装置CL1の係合圧の上昇に同期させて、回転電機3の回転速度を変化させるためのフィードバックトルクTmfbを回転電機3に出力させる。尚、第1係合装置CL1の係合圧を上昇させ始めると、回転電機3のトルクが第1係合装置CL1を介して内燃機関1にも伝達され始める。回転速度制御の開始時にはフィードバックトルクTmfbの追従が遅れ、回転電機3の回転速度が低下する場合がある。ここで、回転電機3の回転速度がインプット回転速度まで低下するとショックが生じる場合がある。このため、回転速度差は、このような回転電機3の回転速度の低下(落ち込み)が生じた場合であっても、回転電機3の回転速度がインプット回転速度まで低下しないような差として設定されている。また、詳細は、後述するが、本実施形態では、本実施形態では、第1係合装置CL1の係合によって生じるトルクを外乱トルクとし、外乱オブザーバ制御部40によって、このような回転速度の落ち込みを補償している。
【0025】
時刻t14において、回転電機3の回転速度(MG回転速度)と、内燃機関1の回転速度(EG回転速度)とが同期すると、制御装置10は、さらに第1係合装置CL1の係合圧を上昇させて完全係合状態とする。ここでは、内燃機関1が始動した後は、内燃機関1の駆動力により車輪Wを駆動させるため、区間T14においていわゆるトルクの掛け替え制御が実行される。具体的には、回転電機3によるトルク(MGトルク)を低下させると共に、内燃機関1によるトルク(EGトルク)を上昇させる。
図3に例示する形態では、時刻t15においてトルクの掛け替え制御が完了すると、以降の区間T15、T16、T17では、回転電機3を発電機として機能させている。
【0026】
区間T14でトルクの掛け替えが完了すると、滑り係合状態の第2係合装置CL2を完全係合状態に遷移させるために、制御装置10は、内燃機関1の回転速度及び回転電機3の回転速度をインプット回転速度と同期するように低下させる(区間T15、T16)。具体的には、指令回転速度がインプット回転速度に漸近するように、指令回転速度を低下させていく。つまり、第2係合装置CL2を完全係合状態に移行させる際に、係合ショックを生じないように、回転速度差を解消させる。ここでは、区間T15において、回転速度差がある程度減少し(回転速度差が規定よりも小さくなり)、回転速度制御要求REQrscが非アクティブとなって、制御装置10は、回転速度制御を終了する(時刻t16)。制御装置10は、回転速度制御の終了と共に、第2係合装置CL2の係合圧を上昇させて、第2係合装置CL2を完全係合状態に遷移させる(区間T16)。第2係合装置CL2が完全係合状態となった時刻t17以降は、内燃機関1の回転速度、回転電機3の回転速度、インプット回転速度が同期する。
【0027】
ところで、時刻t16において回転速度制御が終了した時点では、
図3に示すように、フィードバックトルクTmfbがゼロとはなっておらず、残存している(これを残存トルクTrfbと称する。)。上述したように、時刻t16以降(区間T16)では、フィードバックトルクTmfbを用いた回転速度制御は実行されていない。区間T16において、第2係合装置CL2の係合圧が上昇していくと、第2係合装置CL2による伝達トルク容量が大きくなり、残存しているフィードバックトルクTmfbを車輪Wへ伝達してしまう。このため、第2係合装置CL2が完全係合状態となるまでに、フィードバックトルクTmfbの残存トルクTrfbを適切にゼロまで低下させることが求められる。この残存トルクTrfbの処理(フィードバックトルク収束処理)については、
図6等を参照して後述する。
【0028】
図4のタイムチャートは、第2係合装置CL2によるスリップ発進(滑り係合発進)のシーケンスの一例を示している。この例では、第1係合装置CL1は完全係合状態であり、内燃機関1は始動している。区間T21において、車両は停車中であり、インプット回転速度及び車両加速度はゼロである。内燃機関1を停止させないように、第2係合装置CL2は滑り係合状態となっている。乗員がアクセル操作を行い、時刻t21においてアクセル開度が上昇すると、すべり係合状態の第2係合装置CL2を介して、内燃機関1のトルク(EGトルク)により車輪Wが駆動され、回転電機3は内燃機関1のトルクにより発電機として機能する(回転電機3のトルク(MGトルク)は負トルクである。)。
【0029】
区間T21(区間T22)から区間T25の間、回転速度制御要求REQrscがアクティブであり、制御装置10は、
図3を参照して上述したように、回転速度制御を実行する。回転電機3の回転速度(MG回転速度)とインプット回転速度との回転速度差が、規定よりも小さくなると、回転速度制御要求REQrscが非アクティブとなり、第2係合装置CL2の完全係合要求がアクティブとなる(時刻t25)。時刻t25後の区間T25では、制御装置10は、時刻t25において残存しているフィードバックトルクTmfb(残存トルクTrfb)をゼロまで減少させると共に、第2係合装置CL2の係合圧を上昇させる。
【0030】
図5のタイムチャートは、第2係合装置CL2によるスリップ発進(滑り係合発進)において車輪Wが空転している場合の一例を示している。
図4を参照して説明した形態と同様に、第1係合装置CL1は完全係合状態であり、内燃機関1は始動している。区間T31において、車両は停車中であり、インプット回転速度及び車体速度はゼロである。また、内燃機関1を停止させないように、第2係合装置CL2は滑り係合状態となっており、区間T31から回転速度制御が実行されている。そして、ここでは、積雪路や凍結路など、路面が滑りやすい状態で、乗員がアクセルを強く操作した場合を想定している。車輪Wが空転するため、車体速度に比べてインプット回転速度が急上昇する(区間T32、T33)。
【0031】
図5に示す例では、このように車両(車輪W)が滑っている状態で、時刻t32において第2係合装置CL2を完全係合状態へと遷移させている。そして、それと同時に、回転速度制御が終了されている。この例では、区間T32において、フィードバックトルクTmfbも大きく上昇している。後述するように、フィードバックトルクTmfbは、上下限値が設定されており、本実施形態では、最大値Tmax[Nm]~最小値-Tmin[Nm]の間に制限されている(Tmax、Tminの絶対値は同じであっても良いし異なっていてもよい。)。本実施形態では、この最大値までフィードバックトルクTmfbが上昇している例を示している。このため、時刻t32において残存するフィードバックトルクTmfb(残存トルクTrfb)も最大値に近い値となっている。
図5に示すように、時刻t32以降もフィードバックトルクTmfbの加算によって回転電機3の回転速度が上昇を続けた場合、回転電機3、内燃機関1、その他、回転電機3に駆動連結されている部品の上限回転速度を超えるおそれがある。詳細は、
図6等を参照して後述するが、特にこのような場合には、区間T33、区間T34において迅速にフィードバックトルクTmfbの残存トルクTrfbをゼロまで収束させることが好ましい。
【0032】
尚、
図5では、時刻t34において乗員によりブレーキが操作されることで、インプット回転速度が区間T36の途中でゼロとなるが、車輪Wがロックされた状態で車体が滑っている状態を例示している。
【0033】
ここで、
図6及び
図7を参照して、回転速度制御部20の詳細について説明する。
図7に示すように、本実施形態では、回転速度制御部20は、フィードバック制御部30と、外乱オブザーバ制御部40と、フィードバックトルク出力部21とを備えている形態について説明する。しかし、回転速度制御部20は、例えば、外乱オブザーバ制御部40を備えず、フィードバック制御部30とフィードバックトルク出力部21とを備えて構成されていても良いし、フィードバックトルク出力部21を備えず、フィードバック制御部30と外乱オブザーバ制御部40とを備えて構成されていても良い。
【0034】
図7において、プラント80が制御装置10による制御対象であり、ここでは回転電機3に相当する回転電機モデル81を中核としている。例えば、プラント80は、第1係合装置CL1が滑り係合状態の場合の回転電機3に相当し、プラント80に対する外乱トルクTdisは、第1係合装置CL1において生じるトルクに相当する。g*(*:1,2,3,4,5)は、ローパスフィルタのカットオフ周波数を示し、Jは制御対象(ここでは回転電機3)のイナーシャを示し、Jnは制御対象のノミナルイナーシャを示し、K*(*:2,P,I)はゲインを示している。ノミナルイナーシャJnの「n」、カットオフ周波数「g*」及びゲイン「K*」における「*」は、小さい文字で示す添え字であるが表記の関係上、通常の大きさで表記している。
【0035】
フィードバック制御部30は、フィルタ31、フィルタ32、比例ゲイン33、及び、積分制御部37を備えている。積分制御部37は、積分器34、積分ゲイン35、アンチワインドアップ処理部36(積分器34の飽和による性能劣化を補償する処理部)を備えている。フィードバック制御部30には、制御装置10内の他の制御部或いは制御装置10とは別の制御装置から目標回転速度ωcmdが伝達されると共に、フィルタ29を介して回転電機3の実回転速度ωresが伝達されている。
図7のブロック図に示すように、フィードバック制御部30は、目標回転速度ωcmdと実回転速度ωresとの差に基づいて、比例積分制御(PI制御)を実行して、フィードバックトルクTmfbを演算する。フィードバックトルクTmfbは、比例トルクTPと積分トルクTIとの和である。外乱オブザーバ制御部40やフィードバックトルク出力部21が備えられていない場合、フィードバック制御部30により演算されたフィードバックトルクTmfbがそのまま回転電機制御部50に伝達される。
【0036】
図7に示すように、本実施形態では、フィードバック制御部30において演算されたフィードバックトルクTmfbは、外乱オブザーバ制御部40において演算された補正トルクT^disが加算され、さらにフィードバックトルク出力部21を通って値を調整されて、回転電機制御部50に伝達されている。これらのフィードバックトルクTmfbを区別する場合、フィードバック制御部30において演算されたフィードバックトルクTmfbを「源フィードバックトルクTmfb0」、これに補正トルクT^disが加算されたフィードバックトルクTmfbを「補正後フィードバックトルクTmfb1」、さらにフィードバックトルク出力部21を通過後のフィードバックトルクTmfbを「回転変化用トルクTmfb2」と称する。
【0037】
図6は、フィードバックトルク出力部21の構成を例示している。フィードバックトルク出力部21は、少なくとも第1スイッチ22(セレクタ、マルチプレクサ)及び制限部23を備えている。回転速度制御要求REQrscがアクティブな場合(ON状態の場合)、第1スイッチ22は、フィードバックトルクTmfb(補正後フィードバックトルクTmfb1)を選択し、これを出力する。
【0038】
制限部23は、補正後フィードバックトルクTmfb1を予め規定された上限値と下限値の間に制限する。本実施形態では、
図5を参照して上述したように、回転電機制御部50に入力されるフィードバックトルクTmfbを例えばTmax[Nm]から-Tmin[Nm]の間に制限している。制限部23は、補正後フィードバックトルクTmfb1の大きさが予め規定された上限値(最大値Tmax)と下限値(最小値-Tmin)の間に収まっている場合には、補正後フィードバックトルクTmfb1を回転変化用トルクTmfb2として出力する。制限部23は、補正後フィードバックトルクTmfb1の大きさが上限値を超えている場合には、その値を上限値に制限して回転変化用トルクTmfb2として出力する。また、制限部23は、補正後フィードバックトルクTmfb1の大きさが下限値未満の場合には、その値を下限値に制限して回転変化用トルクTmfb2として出力する。
【0039】
図6に示すように、本実施形態のフィードバックトルク出力部21は、さらに、レート値制限部24、前回値保持部25、第2スイッチ26(セレクタ、マルチプレクサ)、レート制御部27を備えている。これらについては、後述する。
【0040】
外乱オブザーバ制御部40は、逆プラントモデル41、フィルタ42、オブザーバゲイン43を備えている。逆プラントモデル41は、回転電機モデル81の逆モデルである。逆プラントモデル41は、実回転速度ωresに基づき、プラント80において実際に回転変化に用いられたトルクを推定する。ここでは、このトルクを推定フィードバックトルクTefbと称する。プラント80には、
図7に示すように外乱トルクTdisが影響を与えており、回転電機3の回転速度(実回転速度ωres)は、要求トルクTbaseとフィードバックトルクTmfb(回転変化用トルクTmfb2)との和によるものではなく、さらに外乱トルクTdisが加算されたトルクによって決まる。外乱トルクTdisは、回転変化用トルクTmfb2に対する外乱トルクと考えることもできる。
【0041】
逆プラントモデル41は、回転電機3の実回転速度ωresから、実際に回転変化に用いられたトルク(推定フィードバックトルクTefb)を推定している。推定フィードバックトルクTefbと、回転変化用トルクTmfb2との差分ΔTmfbを求めることによって、外乱トルクTdisを推定することができる。この差分ΔTmfbは、推定外乱トルクに相当する。外乱オブザーバ制御部40は、フィルタ42を通過後のこの差分ΔTmfbに対して、オブザーバゲイン43によってゲインを与え、フィードバックトルクTmfbを補正する補正トルクT^disを演算する。
【0042】
図7に示すように、本実施形態では、フィードバック制御部30において演算されたフィードバックトルクTmfb(源フィードバックトルクTmfb0)に、補正トルクT^disが加算されて補正後フィードバックトルクTmfb1が演算される。つまり、外乱オブザーバ制御部40は、回転電機3の回転に影響する外乱トルクを補償している。例えば、
図3の時刻t13までの間は、第2係合装置CL2の伝達トルクが外乱トルクTdisとしてプラント80に入り、要求トルクTbaseと打ち消し合う。区間T13において、内燃機関1を始動させるために、第1係合装置CL1の係合圧を上昇し始めると、第1係合装置CL1における伝達トルクがそれまでの外乱トルクTdisに追加される。その結果、
図3に示すように、回転電機3の回転速度(MG回転速度)に落ち込みが生じる場合がある。これに対応して、フィードバックトルクTmfbに補正トルクT^disが加算されることで、
図3の区間T13に示すように、回転電機3の回転速度の落ち込みが改善される。
【0043】
尚、ここでは、補正トルクT^disとして、EVモード時からHVモードへの移行時の内燃機関1の始動時における第1係合装置CL1の伝達トルクが外乱トルクTdisとなる形態について例示した。しかし、外乱トルクTdisは、この例に限るものではない。例えば、第2係合装置CL2のトルク容量のばらつき(要求トルクTbaseと第2係合装置CL2の伝達トルクとの差分)などが含まれていてもよい。
【0044】
回転電機制御部50は、
図2、
図6、
図7に示すように、回転電機3が、フィードバックトルクTmfb(回転変化用トルクTmfb2)と要求トルクTcmdとの和のトルクを出力するように、回転電機3を駆動制御する。
図6に示すように、回転電機制御部50は、制限部51及び電流制御部52を備えている。制限部51は、フィードバックトルクTmfbと要求トルクTbaseとの和のトルクが上限トルクを超えたり、下限トルク未満となったりすることや、トルクの変化率の上限を超えることがないように当該和のトルクの値を制限している。上限トルク、下限トルクは、車両用駆動装置100の機械的な制限値、及び、制御装置10の制御の可否に関する電気的な制限値である。また、制限部51から出力されたトルクに対して、
図6に示すように、予想される損失トルクを加算してもよい。制御装置10が外乱オブザーバ制御部40を備えていない場合、この損失トルクは上述した外乱トルクTdisを含んでいると好適である。また、制御装置10が外乱オブザーバ制御部40を備えている場合には、この損失トルクは加算されなくても良いし、別の要因によるトルクが損失トルクとして加算されてもよい。
【0045】
このようにして求められたトルクは、電流制御部52による制御対象のトルクである。例えば、損失トルクを考慮しない場合には、制限部51による制限後の、要求トルクTcmdとフィードバックトルクTmfb(回転変化用トルクTmfb2)との和に相当するトルクが、電流制御部52による制御対象の対象トルクTm(損失トルクを考慮する場合のトルクと区別する場合は、基本対象トルクTm0)である。また、損失トルクを考慮する場合には、この基本対象トルクTm0と損失トルクとの和が対象トルクTm(基本対象トルクTm0と区別する場合には最終対象トルクTm1)である。
【0046】
電流制御部52は、対象トルクTmに基づく電流指令と、回転電機3を流れる実電流との差に基づいて例えば公知のベクトル制御法による電流フィードバック制御を行う。本実施形態では、回転電機3は、3相交流回転電機であり、電流制御部52は、3相(U相、V相、W相)のそれぞれに対応する制御信号を出力する。
図2に示すように、回転電機3は、直流と交流との間で電力を変換するインバータ回路62を介して駆動されており、電流制御部52から出力された制御信号は、ドライブ回路61によって電気的な駆動力(電圧や電流)を増幅されてインバータ回路62を構成するスイッチング素子を駆動する。
【0047】
ところで、
図3を参照して上述したように、時刻t16以降(区間T16)では、フィードバックトルクTmfbを用いた回転速度制御は実行されていない。しかし、時刻t16において回転速度制御が終了した時点では、フィードバックトルクTmfbがゼロとはなっておらず、残存している。区間T16において、第2係合装置CL2の係合圧が上昇していくと、第2係合装置CL2による伝達トルク容量が大きくなり、残存しているフィードバックトルクTmfbが車輪Wへ伝達されてしまう。このため、第2係合装置CL2が完全係合状態となるまでに(時刻t17までに)、フィードバックトルクTmfbの残存トルクを適切にゼロまで低下させると好ましい。当然ながら、フィードバックトルクTmfbの残存トルクは、乗員がショック等を体感しないように時間を掛けて次第に低下するように制御されてもよい。
【0048】
フィードバックトルク出力部21は、フィードバックトルクTmfbの残存トルクを適切にゼロまで低下させるために、少なくとも、前回値保持部25、第2スイッチ26、レート制御部27を備えている。また、本実施形態では、さらに、フィードバックトルク出力部21は、レート値制限部24を備えている。ここで、レート制御部27から出力されて第1スイッチ22に入力され、回転速度制御要求REQrscの状態に基づいて第1スイッチ22からフィードバックトルクTmfb(補正後フィードバックトルクTmfb1)と選択的に出力されるトルクを収束用フィードバックトルクTcfbと称する。
【0049】
回転速度制御要求REQrscがアクティブな場合(ON状態の場合)、第1スイッチ22が、フィードバックトルクTmfb(補正後フィードバックトルクTmfb1)を選択し、これを制限部23へ出力している。従って、レート制御部27から出力される収束用フィードバックトルクTcfbは、生成されてもされなくてもよい。回転速度制御要求REQrscが非アクティブな場合(OFF状態の場合)には、レート制御部27は、第2スイッチ26から出力されたフィードバックトルクTmfbの残存トルクTrfbが、目標値であるゼロ(0[Nm])に近づくように、変化レートRTに従って残存トルクTrfbの絶対値を減少させ、収束用フィードバックトルクTcfbとして出力する。レート値制限部24が設けられていない場合、レート制御部27は、標準レートを変化レートRTとして、残存トルクTrfbの絶対値を減少させ、収束用フィードバックトルクTcfbとして出力する。
【0050】
第2スイッチ26は、ラッチ機能付きのスイッチ(セレクタ、マルチプレクサ)である。回転速度制御要求REQrscがアクティブな場合(ON状態の場合)、第2スイッチ26の出力は第1スイッチ22に入力されていても選択されないため、第2スイッチ26は何を出力していてもよい(例えばゼロ値を出力していてもよい。)。第2スイッチ26がラッチ機能を有している場合、回転速度制御要求REQrscがアクティブな状態では、後述する差分ΔTmがそのまま第2スイッチ26から出力されていてもよい。
【0051】
また、第2スイッチ26は、回転速度制御要求REQrscが非アクティブとなった場合(ON状態からOFF状態に変化した場合)、回転電機制御部50における対象トルクTmと要求トルクTbaseとの、その時点での差分ΔTmをラッチし、これを出力する。この差分ΔTmは、実際に回転電機制御部50において回転変化のために用いられたトルク(回転変化トルク)に相当する(フィードバックトルクTmfbの実効値)。つまり、フィードバックトルク出力部21では、電流制御の対象としているトルクと、要求トルクTbaseとの差分を実際に回転電機制御部50において回転変化のために用いられたトルクと推定する。制限部51によって制限された後のトルクを基準(残存トルクTrfbの初期値)とすることで、回転速度制御要求REQrscが非アクティブ状態となった時点での残存トルクTrfbの絶対値が大きくなり過ぎないように構成されている。
【0052】
レート制御部27は、変化レートRTに従い、この残存トルクTrfbの絶対値(ここでは初期値)を減少させ、収束用フィードバックトルクTcfbとして出力する。つまり、残存トルクTrfbの絶対値は、残存トルクTrfbの初期値の絶対値よりも小さくなり、ゼロに近づく。この時、回転速度制御要求REQrscは非アクティブ(OFF状態)であるから、第1スイッチ22は、レート制御部27から出力された収束用フィードバックトルクTcfbを選択し、選択された収束用フィードバックトルクTcfbは、制限部23を経てフィードバックトルクTmfb(回転変化用トルクTmfb2)として出力される。
【0053】
ところで、上述したように制御装置10は、マイクロコンピュータ等を中核としたハードウェアと、プログラムやパラメータなどのソフトウェアとの協働によって実現されている。従って、フィードバックトルクTmfbは、予め規定された制御周期(task)ごとに演算されている。前回値保持部25は、前回の制御周期において演算され、フィードバックトルク出力部21から出力されたフィードバックトルクTmfb(回転変化用トルクTmfb2)を保持している。回転速度制御要求REQrscが非アクティブとなった後は、フィードバックトルクTmfb(回転変化用トルクTmfb2)は、残存トルクTrfb(収束用フィードバックトルクTcfb)であるから、前回値保持部25は、前回の制御周期において演算され、フィードバックトルク出力部21から出力された残存トルクTrfb(収束用フィードバックトルクTcfb)を保持する。
【0054】
第2スイッチ26は、回転速度制御要求REQrscが非アクティブな場合には、前回値保持部25が保持しているフィードバックトルクTmfb(回転変化用トルクTmfb2、残存トルクTrfb)の前回値を選択し、出力する。レート制御部27は、変化レートRTに従い、この残存トルクTrfbの絶対値を減少させ、収束用フィードバックトルクTcfbとして出力する。つまり、残存トルクTrfbの絶対値は、前回の残存トルクTrfbの絶対値よりも小さくなり、ゼロに近づく。回転速度制御要求REQrscは非アクティブ(OFF状態)であるから、第1スイッチ22は、レート制御部27から出力された収束用フィードバックトルクTcfbを選択し、選択された収束用フィードバックトルクTcfbは、制限部23を経てフィードバックトルクTmfb(回転変化用トルクTmfb2)として出力される。以降、これを繰り返すことによって、残存トルクTrfbはゼロに漸近していき、最終的にゼロに収束する。
【0055】
レート値制限部24は、変化レートRTの絶対値が小さくなりすぎないように、変化レートRTの絶対値を制限レートの範囲内に制限している。例えば、制限レートが±1[Nm]の場合、変化レートRTは、1制御周期(1task)において1[Nm]以上、-1[Nm]以下に制限される(正負の値は異なっていてもよい。他の例も同様。)。尚、標準レートは、通常、数[Nm/task]から十数[Nm/task]程度に設定されるため、制限レートが±1[Nm/task]は、実質的に変化レートRTの絶対値が制限されていない状態である。
【0056】
例えば、標準レートが1制御周期において15[Nm/task]である場合、この標準レートは、1[Nm/task]以上であり、制限レートの範囲内であるから、レート値制限部24は、変化レートRTとして標準レートの15[Nm/task]を設定する。一方、制限レートが±20[Nm/task]の場合、変化レートRTは、20[Nm/task]以上、-20[Nm/task]以下に制限される。ここで、標準レートが15[Nm/task]である場合、この標準レートは、制限レートにより設定された正側の下限値(20[Nm/task])未満であり、制限レートの範囲外である。従って、レート値制限部24は、変化レートRTを制限し、変化レートRTとして制限レートの20[Nm/task]を設定する。
【0057】
当然ながら、標準レート及び制限レートは可変値であってよいが、どのような場合も標準レートが制限レートにより制限されないように設定されている場合には、変化レートRTは常に標準レートとなる。従って、どのような場合も標準レートが制限レートの範囲内に設定されると確定している場合には、レート値制限部24を備えることなく、フィードバックトルク出力部21が構成されていてもよい。
【0058】
このように、フィードバックトルク出力部21において、レート値制限部24、前回値保持部25、第2スイッチ26、レート制御部27、並びに第1スイッチ22を用いて実行され、フィードバックトルクTmfbの絶対値をゼロまで低下させる処理(制御)を、フィードバックトルク収束処理(フィードバックトルク収束制御)と称する。即ち、フィードバックトルク出力部21(回転速度制御部20)は、フィードバックトルクTmfbを生成する実行状態から非実行状態に切り替わる場合に、フィードバックトルクTmfbの変化レートRTを制限レートの範囲内に制限しつつ、フィードバックトルクTmfbの絶対値をゼロまで低下させるフィードバックトルク収束処理を実行する。
【0059】
図3に例示した形態では、内燃機関1が始動した後、車輪Wの駆動力となるトルクを出力する駆動源が回転電機3から内燃機関1へ移り、区間T14においてトルクの掛け替えが行われている。本実施形態では、時刻t15以降は、回転電機3は発電機として機能し、回転電機3のトルクも負トルクとなっている形態を例示しており、フィードバックトルクTmfbも負トルクとなっている。従って、回転速度制御要求REQrscが非アクティブとなった時点において、フィードバックトルクTmfbの残存トルクTrfbも負トルクである。フィードバックトルク収束処理では、残存トルクTrfbの絶対値が小さくなるように、正方向の変化レートRT(上昇レート)により、残存トルクTrfbを減少させていく。
【0060】
残存トルクTrfb(フィードバックトルクTmfb)が区間T16で十分に収束可能である程度のトルクである場合には、回転速度制御部20は、例えば、上述したような標準レートを変化レートRTとしてフィードバックトルク収束処理を実行する。一方、残存トルクTrfb(フィードバックトルクTmfb)が区間T16では収束できないほど大きい場合には、回転速度制御部20は、制限レート(制限レートの絶対値)を大きくすることによって、標準レートよりも大きい変化レートRTでフィードバックトルク収束処理を実行することができる。上述したように、標準レートが15[Nm/task]である場合に、制限レートを1[Nm/task]から20[Nm/task]に上げることで、変化レートRTを15[Nm/task]から20[Nm/task]に上げることができる。
【0061】
ここでは、残存トルクTrfb(フィードバックトルクTmfb)に応じて変化レートRTを可変にし得る形態を例示した。フィードバックトルクTmfbが高いほど、フィードバックトルクTmfbの解消には時間を要する。従って、例えば、回転速度制御が非実行状態に切り替わる際のフィードバックトルクTmfb(残存トルクTrfb)が高くなるに従って、制限レートの絶対値が大きくなるように設定されると、迅速にフィードバックトルクTmfb(残存トルクTrfb)を解消させることができて好適である。尚、ここでは、残存トルクTrfb(フィードバックトルクTmfb)に応じて変化レートRTを可変にし得る形態を例示したが、回転電機3の回転速度に応じて変化レートRTが変更されてもよい。
【0062】
回転速度制御と同様に、外乱オブザーバ制御も外乱トルクTdisが収束した場合には終了される。
図3を参照して上述したように、内燃機関始動モードにおいて第1係合装置CL1を係合する際、第1係合装置CL1において生じるトルクが外乱トルクTdisとなる。第1係合装置CL1が完全係合状態となると、第1係合装置CL1を原因とする外乱トルクTdisは解消され、外乱オブザーバ制御を実行する必要もなくなる。従って、外乱オブザーバ制御は、補償対象の外乱トルクTdisが解消した場合には適切に終了されることが望ましい。このとき、内燃機関1の回転速度と回転電機3の回転速度とがほぼ一致するため、これらの回転速度の差が予め規定された差回転閾値以下となった場合に、外乱オブザーバ制御が実行状態から非実行状態となる。
【0063】
但し、
図7のブロック図に示すように、外乱オブザーバ制御によって演算された補正トルクT^disは、フィードバックトルクTmfbに加算されている。従って、外乱オブザーバ制御を中止し、補正トルクT^disを直ちにゼロとした場合には、フィードバックトルクTmfbが大きく変動し、回転電機3の回転速度やトルクに影響を与える場合がある。
図8は、外乱オブザーバ制御の終了と共に補正トルクT^disをゼロにした場合の、外乱オブザーバ制御の終了時刻(toff)の前後における回転電機3の回転速度とトルクを示している。このように補正トルクT^disが直ちに0[Nm]となると、
図8に示すように、回転速度及びトルクに落ち込みが観測されている。つまり、外乱オブザーバ制御の終了によって、回転速度及びトルクに変動が生じている。
【0064】
一方、外乱オブザーバ制御の終了後、補正トルクT^disの収束が遅れると、外乱トルクTdisが解消されていることから、回転電機3の出力トルクは必要以上に大きくなり、回転速度も必要以上に速くなる。上記の例のように外乱トルクTdisが第1係合装置CL1のトルク容量に起因する場合、外乱トルクTdisが解消した時点で第1係合装置CL1は係合状態となっており、回転電機3の回転速度が高くなることによって内燃機関1に吹き上がりを発生させる場合がある。反対に、外乱オブザーバ制御の終了よりも早いタイミングで補正トルクT^disを収束させると、外乱トルクTdisが完全に解消されていないため、回転電機3が内燃機関1及び第1係合装置CL1に引き込まれて回転速度が低下し、車両用駆動装置100にトルク変動によるショックを発生させる場合がある。また、外乱オブザーバ制御の終了に合わせてステップ応答的に補正トルクT^disを一気に収束させると、
図8を参照して上述したように、回転速度やトルクの大きな変動を招く場合がある。従って、外乱トルクTdisの収束に伴って適切に外乱オブザーバ制御を終了させることが望まれる。
【0065】
このため、本実施形態では、外乱オブザーバ制御部は、実行状態から非実行状態に切り替わる場合に、補正トルクT^disの絶対値を、変化レート(後述する外乱オブザーバ反映率を変化させる反映率変化レート)を制限しつつゼロまで次第に減少させる外乱オブザーバ終了処理を実行する。外乱オブザーバ終了処理の詳細については、後述するが、
図9は、外乱オブザーバ終了処理が実行された場合の車両用駆動装置100の各部の回転速度等を示している。尚、
図9以降、図中において「外乱オブザーバ」を「外乱OB」と表記する場合がある。また、
図9に示す時刻t12、時刻t14は、
図3に対応する時刻である。時刻tcは、内燃機関1の回転速度と回転電機3の回転速度とがほぼ一致する時刻、例えばこれらの回転速度の差が予め規定された差回転閾値以下となった時刻である。
【0066】
時刻tcにおいて、内燃機関1の回転速度と回転電機3の回転速度とがほぼ一致すると、外乱オブザーバ終了処理が実行される。時刻tc以降、変化レートとしての外乱オブザーバ反映率が「1」からゼロまで次第に低下していく。そして、外乱オブザーバ反映率の減少に応じて、補正トルクT^disは、ゼロまで次第に減少している。外乱オブザーバ終了処理を実行することによって、上述したような回転電機3の回転速度やトルクの変動や、内燃機関1の大きな吹き上がりを招くことなく、安定して外乱オブザーバ制御を終了させることができている。
図9に示すように、これにより、外乱オブザーバ制御の終了に伴って回転電機3の出力トルクや回転速度が急変することが抑制される。また、補正トルクT^disがゼロまで減少するので、回転電機3の回転速度が変化し続けることも抑制される。
【0067】
図10のフローチャートは、外乱オブザーバ終了処理の一例(第1外乱オブザーバ終了処理)を示している。
図10のフローチャートにおけるスタートとエンドとの間の処理は、上述した1回の制御周期(1task)に実行され、これが繰り返される。
図7を参照して上述したように、外乱オブザーバ制御部40は、推定外乱トルク(ΔTmfb)を演算する(#21)。具体的には、推定フィードバックトルクTefbと、回転変化用トルクTmfb2との差分ΔTmfbを求めることによって、外乱トルクTdisを推定する。
【0068】
次に、外乱オブザーバ制御部40は、外乱オブザーバ制御実行要求がアクティブか否かを判定する(#22)。外乱オブザーバ制御実行要求は、回転速度制御実行要求REQrscと同様に、フラグ等として設定されていると好適である。外乱オブザーバ制御実行要求がアクティブである場合、外乱オブザーバ制御部40は、外乱オブザーバ反映率の目標値を「1」に設定する(#23)。一方、実行要求が非アクティブである場合には、外乱オブザーバ制御部40は、外乱オブザーバ反映率の目標値をゼロに設定する(#24)。
【0069】
次に、外乱オブザーバ制御部40は、ステップ#23又はステップ#24において設定した外乱オブザーバ反映率の目標値に向けて、これまでの外乱オブザーバ反映率を変化させ、補正トルクT^disの演算に用いる外乱オブザーバ反映率を演算する(#26)。外乱オブザーバ制御を実行中の外乱オブザーバ反映率は「1」であり、外乱オブザーバ制御を実行中にステップ#23で外乱オブザーバ反映率の目標値が「1」に設定された場合には、外乱オブザーバ反映率は変化することなく、「1」と設定される。一方、外乱オブザーバ制御の実行要求が非アクティブである場合には、目標値のゼロに向けて反映率変化レートによる制限を受けつつ、「1」よりも小さい外乱オブザーバ反映率が設定される。反映率変化レートは、例えば1制御周期あたり「0.1」(0.1/task)に制限されている。例えば、前回の制御周期における外乱オブザーバ反映率が「1」である場合、現在の制御周期における外乱オブザーバ反映率は「0.9」となる。
【0070】
次に、外乱オブザーバ制御部40は、ステップ#21で演算した推定外乱トルク(ΔTmfb)とステップ#26で演算した外乱オブザーバ反映率とを乗じて、補正トルクT^disを演算する(#27)。反映率変化レートが、1制御周期あたり「0.1」の場合、10制御周期で外乱オブザーバ反映率が「1」からゼロに低下する。従って、この場合には、10制御周期で補正トルクT^disがゼロに収束し、外乱オブザーバ終了処理が完了する。
【0071】
即ち、本実施形態における外乱オブザーバ終了処理では、外乱オブザーバ制御部40が演算した補正トルクである演算補正トルク(推定外乱トルク(ΔTmfb))の絶対値に、時間の経過に応じて次第に減少する係数(外乱オブザーバ反映率)を乗算することで、ゼロまで次第に減少する終了時補正トルク(補正トルクT^dis)を演算し、当該終了時補正トルクによりフィードバックトルクTmfb(本実施形態では源フィードバックトルクTmfb0)を補正する。例えば、
図7のブロック図において、オブザーバゲイン43の後段に、反映率乗算部を設け、フィルタ42を通過後の演算補正トルク(推定外乱トルク(ΔTmfb))に、外乱オブザーバ反映率を乗算することができる。つまり、外乱オブザーバ制御部40を有する回転速度制御部20に対して、簡単な構成で外乱オブザーバ終了処理の機能を付加することができる。
【0072】
或いは、そのような反映率乗算部を設けることなく、オブザーバゲイン43を利用して外乱オブザーバ反映率を適用してもよい。補正トルクT^disは、フィルタ42を通過後の推定外乱トルク(ΔTmfb)にオブザーバゲイン43に設定された乗算係数と、外乱オブザーバ反映率を乗じて演算される。従って、オブザーバゲイン43に反映率乗算部に相当する機能が備えられていてもよいし、オブザーバゲイン43における乗算係数を調整することによって外乱オブザーバ反映率が適用される形態であってもよい。
【0073】
尚、上記においては、外乱オブザーバ制御を実行中の外乱オブザーバ反映率が「1」であり、外乱オブザーバ制御を実行中にステップ#23で外乱オブザーバ反映率の目標値が「1」に設定された場合には、外乱オブザーバ反映率は変化することなく、「1」と設定されると説明した。しかし、外乱オブザーバ制御部40が非実行状態から実行状態に切り替わった直後も、反映率変化レートを制限しつつ、次第に補正トルクT^disを増加させてもよい。フローチャートとしては、
図10と同一であるので詳細な説明は省略するが、この場合の処理を外乱オブザーバ開始処理と称することができる。
【0074】
即ち、外乱オブザーバ制御部40は、外乱オブザーバ制御部40が非実行状態から実行状態に切り替わる場合に、補正トルクT^disの絶対値を、ゼロから外乱オブザーバ制御部40が演算した補正トルクT^disである演算補正トルク(推定外乱トルク(ΔTmfb))まで、反映率変化レートを制限しつつ次第に増加させる外乱オブザーバ開始処理を実行すると好適である。外乱オブザーバ制御部40が実行を開始する際においても、回転電機3のトルクの急変や回転速度の急変を抑えつつ、適切に外乱オブザーバ制御の実行を開始することができる。
【0075】
上記においては、
図7のブロック図に示されているような、回転電機制御部50と外乱オブザーバ制御部40との間におけるフィードバックループにおける補正トルクT^disに着目して実行される、外乱オブザーバ終了処理の形態(第1外乱オブザーバ終了処理)について説明した。また、これまでの説明では、外乱オブザーバ制御部40が補償する外乱トルクTdisとして第1係合装置CL1が解放状態から係合状態に遷移する際に第1係合装置CL1によって生じるトルク容量がほぼ全てを占めるものとして説明した。しかし、外乱トルクTdisには、第2係合装置CL2のトルク容量のばらつきなどが含まれる場合もある。外乱オブザーバ制御部40は、第1係合装置CL1が外乱トルクTdisの要因となる事象が解消した場合に、実行状態から非実行状態に遷移するが、補償していた外乱トルクTdisにそのような他の要因による外乱トルクが含まれていた場合には、当該外乱トルクをフィードバック制御部30において補償すると好適である。
【0076】
例えば、フィードバック制御部30は、第2係合装置CL2のトルク容量のばらつきに相当する回転速度差の情報に基づいて比例積分制御を実行することによって外乱トルクを補償することができる。しかし、外乱オブザーバ制御部40が非実行状態となった直後には、当該外乱トルクが外乱オブザーバ制御部40によって補償されていたため、フィードバック制御部30にはその情報がない。従って、外乱オブザーバ制御の終了後、フィードバック制御部30において、直ちに当該外乱トルクを補償することは困難である。このため、例えば外乱オブザーバ制御部40が非実行状態となり、直ちに補正トルクT^disがゼロとなると、
図8に例示したように、目標回転速度ωcmdとしての指令回転速度と、回転電機3の回転速度との間に差が生じてしまう。
【0077】
図11は、外乱オブザーバ制御部40が非実行状態となった時刻toffの前後の、フィードバック制御部30における比例トルクTPと、積分トルクTIと、フィードバックトルクTmfbと、補正トルクT^disとの関係を示している。時刻toffにおいて補正トルクT^disをゼロとすると、フィードバックトルクTmfbが急変して大きく減少している。これにより、
図8に例示したように、回転電機3の回転速度が低下すると共に、出力トルクも低下することになる。
【0078】
そこで、第2外乱オブザーバ終了処理では、外乱オブザーバ制御部40が実行状態から非実行状態に切り替わる場合に、補正トルクT^disの値をゼロに設定すると共に、実行状態の最後に外乱オブザーバ制御部40により演算された補正トルクT^disを積分制御部37の出力値(積分トルクTI)に加算する。外乱オブザーバ制御部40からフィードバック制御部30へ補正トルクT^disを移行するこの処理を「積分項移し」と称する。積分項移しの処理を行うか否かについても、フラグ等によって実行要求が示される。
【0079】
図12は、第2外乱オブザーバ終了処理を実行した場合における、外乱オブザーバ制御部40が非実行状態となった時刻toffの前後の、フィードバック制御部30における比例トルクTPと、積分トルクTIと、フィードバックトルクTmfbと、補正トルクT^disとの関係を示している。時刻toffにおいて補正トルクT^disをゼロとすると同時に、補正トルクT^disの値を積分トルクTIに加算している。その結果、
図11においては、時刻toffを境に急変し大きく減少していたフィードバックトルクTmfbが時刻toffの前後においても安定している。
図13は、第2外乱オブザーバ終了処理を実行した場合における、回転電機3の回転速度とトルクとを示している。
図8とは異なり、時刻toffの前後において、回転電機3の回転速度及び出力トルクが共に安定している。
【0080】
図14のフローチャートは、第2外乱オブザーバ終了処理の一例を示している。第1外乱オブザーバ終了処理と共通する処理については共通の符号を付している。ステップ#21、#22、#23、#24については、
図10を参照して上述した第1外乱オブザーバ終了処理と同様であるから説明を省略する。また、ステップ#23の後のステップ#26、#27についても
図10を参照して上述した第1外乱オブザーバ終了処理と同様であるから説明を省略する。
【0081】
ステップ#24において、外乱オブザーバ反映率の目標値がゼロに設定されると、第2外乱オブザーバ終了処理では、現制御周期の前の制御周期において外乱オブザーバ制御の実行要求がアクティブであったか否か、及び、現制御周期において積分項移しの実行要求がアクティブであるか否かを判定する(#25)。外乱オブザーバ制御部40は、この2つの条件の少なくとも一方を満たしていないと判定した場合には、ステップ#26を実行する。つまり、ステップ#25の条件を満たさない場合、外乱オブザーバ制御部40は、第1外乱オブザーバ終了処理を実行する。
【0082】
ステップ#25において2つの条件を満たしていると判定された場合には、補正トルクT^disが積分制御部37の出力値に加算される。フィードバック制御部30と外乱オブザーバ制御部40とを有する回転速度制御部20が、積分制御部37の出力値である積分トルクTIに補正トルクT^disを加算してもよいし、外乱オブザーバ制御部40からフィードバック制御部30に補正トルクT^disが伝達され、フィードバック制御部30が積分制御部37の出力値である積分トルクTIに補正トルクT^disを加算してもよい。
【0083】
続いて、外乱オブザーバ制御部40は、補正トルクT^disをゼロにリセットすると共に、外乱オブザーバ反映率も変化率制限に拘わらずゼロに設定する(#29)。これにより、前回の制御周期において演算された補正トルクT^disは、フィードバック制御部30に移動し、積分制御部37に移管されたことになる。また、現在の制御周期において補正トルクT^disが演算されたとしても、外乱オブザーバ反映率がゼロであるため、値がゼロとなる。つまり、補正トルクT^disがゼロに収束し、外乱オブザーバ終了処理(第2外乱オブザーバ終了処理)が完了する。
【0084】
第2外乱オブザーバ終了処理は、外乱トルクがまだ存在している状況において、外乱の種類(外乱の原因となる事象)が変わり、フィードバック制御に求める性能を低下させても良いから外乱オブザーバを停止させたいような場合に特に有効な処理である。例えば、内燃機関始動時の制御において、第1係合装置CL1から第2係合装置CL2へと補償対象が移る際に、外乱オブザーバ制御部40により第2係合装置CL2におけるトルクのばらつきを高い応答性で補償した後、第2外乱オブザーバ終了処理を実行して、フィードバック制御部30へ引き継ぐような制御を適切に実行することができる。
【0085】
フィードバック制御部30や外乱オブザーバ制御部40の処理は、上述したように、制御周期ごとに繰り返し実行される。従って、フィードバック制御部30は、制御周期で繰り返しフィードバックトルクTmfbを演算するように構成されている。但し、第2外乱オブザーバ終了処理では、フィードバック制御部30は、実行状態の最後の制御周期に外乱オブザーバ制御部40により演算された補正トルクT^disを、次の制御周期における積分制御部37の出力値に加算する。そして、その後は、外乱オブザーバ制御部40が非実行状態から実行状態に切り替わり、再度外乱オブザーバ終了処理を実行するまで、補正トルクT^disを積分制御部37の出力値に加算する処理は行わないように構成されていると好適である。
【0086】
しかし、第2外乱オブザーバ終了処理は、必ずしもこの通りに実行されなくてもよい。外乱オブザーバ制御部40は、実行状態の最後の制御周期において補正トルクT^disを演算した後、少なくとも次の制御周期では補正トルクT^disをゼロにリセットしている(ステップ#29)。そして、外乱オブザーバ反映率もゼロに設定されている(ステップ#29)。さらに次の制御周期においてステップ#22、#24、#25と遷移した場合、前回の制御周期で既に外乱オブザーバ実行要求がアクティブではないため、ステップ#25の判定はNoとなりステップ#26、ステップ#27に遷移する。しかし、ステップ#26においても外乱オブザーバ反映率はゼロに維持される。つまり、前回の制御周期において外乱オブザーバ反映率はゼロに設定されており、今回の制御周期で外乱オブザーバ反映率の目標値がゼロであっても変化はしない。推定外乱トルク(ΔTmfb)がゼロではない値を有していたとしても、ステップ#27では、値がゼロの外乱オブザーバ反映率が乗算されるので、補正トルクT^disはゼロとなる。従って、フィードバック制御部30は、実行状態の最後の制御周期に外乱オブザーバ制御部40により演算された補正トルクT^disを、次の制御周期における積分制御部37の出力値に加算した後、外乱オブザーバ制御部40が非実行状態から実行状態に切り替わるまでの間であれば、補正トルクT^disを積分制御部37の出力値に加算しても問題はない。
【0087】
以上説明したように、第1外乱オブザーバ終了処理では、
図9に示したように、時間の経過に伴って次第に補正トルクT^disをゼロまで減少させている。第2外乱オブザーバ終了処理では、
図12に示したように1回の制御周期で補正トルクT^disを一気にゼロまで減少させている。これらを組み合わせて、例えば
図15に例示するように、時間の経過に伴って次第に補正トルクT^disを減少させると共に、減少分のトルクを順次、積分制御部37に移管してもよい。
【0088】
〔その他の実施形態〕
以下、その他の実施形態について説明する。尚、以下に説明する各実施形態の構成は、それぞれ単独で適用されるものに限られず、矛盾が生じない限り、他の実施形態の構成と組み合わせて適用することも可能である。
【0089】
(1)上記においては、
図1に例示したように、内燃機関1から車輪Wまでの動力伝達経路に、内燃機関1、回転電機3、車輪Wが記載の順に配置された、いわゆる1モータパラレルハイブリッドの車両用駆動装置100を例示して説明した。しかし、制御装置10が制御対象とする車両用駆動装置100は、この形態に限らず、内燃機関1、車輪Wが記載の順に配置された動力伝達経路に対して並列に回転電機3が配置され、当該回転電機3がその動力伝達経路にトルクを伝達可能な形態(いわゆるパラレルハイブリット)であってもよく、また、回転電機3を含む2つの回転電機を備え、内燃機関1から車輪Wまでの動力伝達経路に、内燃機関1、一方の回転電機、他方の回転電機、車輪Wが記載の順に配置された形態(いわゆるシリーズパラレルハイブリッド)であってもよい。
【0090】
(2)
図3を参照して上述したように、外乱オブザーバ制御部40は、第1係合装置CL1がスリップ係合状態(滑り係合状態)である場合に実行状態とされ、内燃機関1の回転速度と回転電機3の回転速度との差が、予め設定された差回転閾値以下となった場合に、実行状態から非実行状態に切り替えられる。しかし、上述したように、外乱トルクTdisは、この例に限るものではない。例えば、第2係合装置CL2のトルク容量のばらつきなどを補償するために外乱オブザーバ制御部40が起動され、当該ばらつきが解消した場合に終了されてもよい。
【0091】
(3)また、上記においては、第1係合装置CL1がスリップ係合状態となる場合について、内燃機関1の停止状態から、第1係合装置CL1をスリップ係合状態として回転電機3のトルクを内燃機関1に伝達して内燃機関1を始動する内燃機関始動モードを例示した。つまり、内燃機関始動モードにおける始動処理中に外乱オブザーバ制御部40を実行状態とし、内燃機関1の回転速度と回転電機3の回転速度との差が、予め設定された差回転閾値以下となった場合に、外乱オブザーバ制御部40を実行状態から非実行状態に切り替える形態を例示した。しかし、内燃機関始動モード(始動処理)に限らず、第1係合装置CL1におけるトルク容量が外乱トルクとなる場合に、これを補償するために外乱オブザーバ制御部40が起動され、当該トルクが解消した場合に終了されてもよい。
【0092】
(4)上記においては、外乱オブザーバ開始処理が実行される形態を例示した。しかし、外乱オブザーバ制御の開始時には、補正トルクT^disの値もゼロであるから、反映率変化レートを制限しつつ次第に増加させなくても、補正トルクT^disが急激に増加しない場合もある。従って、外乱オブザーバ制御部40が非実行状態から実行状態に切り替わる場合に、外乱オブザーバ開始処理を実行されなくてもよい。
【0093】
〔実施形態の概要〕
以下、上記において説明した車両用駆動装置の制御装置の概要について簡単に説明する。
【0094】
1つの態様として、車両用駆動装置の制御装置は、
内燃機関と、
当該内燃機関と車輪とを結ぶ動力伝達経路にトルクを伝達するように設けられた回転電機と、
前記内燃機関と前記回転電機との間の動力伝達を断接する第1係合装置と、
前記回転電機と前記車輪との間の動力伝達を断接する第2係合装置と、を備えた車両用駆動装置を制御対象とする制御装置であって、
前記回転電機の実回転速度を目標回転速度に近づけるように前記回転電機の回転速度を変化させるためのトルクであるフィードバックトルクを演算するフィードバック制御部と、
前記回転電機の要求トルクと前記フィードバックトルクとの和のトルクを出力するように前記回転電機を制御する回転電機制御部と、
前記回転電機の前記実回転速度から実際に前記回転電機の回転速度を変化させたトルクである推定フィードバックトルクを推定し、前記フィードバックトルクと前記推定フィードバックトルクとの差分に基づいて前記フィードバックトルクを補正する補正トルクを演算する外乱オブザーバ制御部と、を備え、
前記フィードバック制御部は、前記実回転速度と前記目標回転速度との差の積分値を出力する積分制御部を備え、
前記外乱オブザーバ制御部は、前記フィードバックトルクを補正する実行状態と、前記フィードバックトルクを補正しない非実行状態とに切り替え可能であり、
前記外乱オブザーバ制御部が前記実行状態から前記非実行状態に切り替わる場合に、前記補正トルクの値をゼロに設定すると共に、前記実行状態の最後に前記外乱オブザーバ制御部により演算された前記補正トルクを前記積分制御部の出力値に加算させる外乱オブザーバ終了処理を実行する。
【0095】
この構成によれば、外乱オブザーバ終了処理により、補正トルクの値がゼロに設定されると共に、補正トルクが積分制御部の出力値に加算される。即ち、フィードバック制御部が演算したフィードバックトルクに加算されていた補正トルクが無くなる一方で、フィードバックトルクを演算する機能の一部を担う積分制御部に補正トルクが加算される。従って、外乱オブザーバ制御部が実行状態から非実行状態に切り替わる場合に、フィードバックトルクが急変することが抑制される。即ち、補正トルクがステップ応答的に急変することが抑制され、外乱オブザーバ制御の終了に伴って回転電機の出力トルクや回転速度が急変することが抑制される。その後は時間の経過に伴って、積分制御部に加算された補正トルクが次第に解消されていくので、補正トルクにより回転電機の回転速度が不必要に変化することも抑制される。このように、本構成によれば、外乱トルクを補償するための外乱オブザーバ制御を伴って車両用駆動装置を制御する場合に、適切に外乱オブザーバ制御を終了させることができる。
【0096】
前記フィードバック制御部は、予め定められた制御周期で繰り返し前記フィードバックトルクを演算するように構成され、
前記外乱オブザーバ終了処理では、前記実行状態の最後の制御周期に前記外乱オブザーバ制御部により演算された前記補正トルクを、次の制御周期における前記積分制御部の出力値に加算し、その後は、前記外乱オブザーバ制御部が前記非実行状態から前記実行状態に切り替わり前記外乱オブザーバ終了処理を実行するまで、前記補正トルクを前記積分制御部の出力値に加算する処理は行わないと好適である。
【0097】
外乱オブザーバ制御部は、実行終了に際して直ちに補正トルクの演算を終了することができる。また、フィードバック制御部では、外乱オブザーバ制御部が実行状態から非実行状態に切り替わるタイミングで、その時点における補正トルクを積分制御に加算すれば足りる。そして、補正トルクを積分制御部に加算した後は、通常通りのフィードバック制御を行えばよい。このように、この構成によれば、外乱オブザーバ部を有する回転速度制御部に対して、簡単な構成で外乱オブザーバ終了処理を付加することができる。
【0098】
また、前記外乱オブザーバ制御部が前記非実行状態から前記実行状態に切り替わる場合に、前記補正トルクの絶対値を、ゼロから前記外乱オブザーバ制御部が演算した前記補正トルクである演算補正トルクまで、変化レートを制限しつつ次第に増加させる外乱オブザーバ開始処理を実行すると好適である。
【0099】
この構成によれば、外乱オブザーバ制御部が実行を開始する際においても、回転電機のトルクの急変や回転速度の急変を抑えつつ、適切に外乱オブザーバ制御の実行を開始することができる。
【符号の説明】
【0100】
1 :内燃機関
3 :回転電機
10 :制御装置
30 :フィードバック制御部
40 :外乱オブザーバ制御部
50 :回転電機制御部
100 :車両用駆動装置
CL1 :第1係合装置
CL2 :第2係合装置
OB :外乱
TI :積分トルク(積分制御部の出力値)
T^dis :補正トルク
Tefb :推定フィードバックトルク
Tmfb :フィードバックトルク
W :車輪
ΔTmfb :差分(フィードバックトルクと推定フィードバックトルクとの差分)
ωcmd :目標回転速度