(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023111611
(43)【公開日】2023-08-10
(54)【発明の名称】プラズマ処理方法
(51)【国際特許分類】
B01J 19/08 20060101AFI20230803BHJP
H05H 1/46 20060101ALI20230803BHJP
【FI】
B01J19/08 K
H05H1/46 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022013536
(22)【出願日】2022-01-31
(71)【出願人】
【識別番号】593030923
【氏名又は名称】株式会社ニッシン
(74)【代理人】
【識別番号】110000947
【氏名又は名称】弁理士法人あーく事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤立 隆史
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 浩
【テーマコード(参考)】
2G084
4G075
【Fターム(参考)】
2G084AA02
2G084AA03
2G084AA07
2G084CC14
2G084CC16
2G084CC33
2G084DD04
2G084DD12
2G084DD18
2G084DD22
4G075AA27
4G075AA30
4G075BA06
4G075BA10
4G075CA47
4G075CA51
4G075DA02
4G075EB41
4G075FB02
4G075FB06
(57)【要約】
【課題】利便性の高いプラズマ処理方法の提供。
【解決手段】本願記載のプラズマ処理方法は、処理対象を収容可能な処理容器と、処理容器内に気体を導入可能な気体導入部と、気体導入部から導入された気体から、処理容器内にプラズマを発生させることが可能なプラズマ発生部とを備えるプラズマ処理装置を用いる。プラズマ処理方法では、処理容器内に収容した処理対象に対して、プラズマ発生部にて発生させたプラズマを照射することで処理を行う。気体導入部から導入する気体は、水蒸気、水蒸気及び酸素の混合ガス、並びに水蒸気及び空気の混合ガスのいずれかを主成分とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理対象を収容可能な処理容器と、前記処理容器内に気体を導入可能な気体導入部と、前記気体導入部から導入された気体から、前記処理容器内にプラズマを発生させることが可能なプラズマ発生部とを備えるプラズマ処理装置を用い、前記処理容器内に収容した処理対象に対して、前記プラズマ発生部にて発生させたプラズマを照射することで処理するプラズマ処理方法であって、
前記気体導入部から導入する気体は、水蒸気、水蒸気及び酸素の混合ガス、並びに水蒸気及び空気の混合ガスのいずれかを主成分とする
ことを特徴とするプラズマ処理方法。
【請求項2】
請求項1に記載のプラズマ処理方法であって、
前記処理対象は、微小体である
ことを特徴とするプラズマ処理方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のプラズマ処理方法であって、
前記処理対象に対する処理は、還元処理である
ことを特徴とするプラズマ処理方法。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のプラズマ処理方法であって、
前記処理対象に対する処理は、処理対象に水酸基を付加する処理である
ことを特徴とするプラズマ処理方法。
【請求項5】
請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載のプラズマ処理方法であって、
前記処理対象に対する処理は、灰化処理である
ことを特徴とするプラズマ処理方法。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載のプラズマ処理方法であって、
前記気体導入部から導入する気体は、水素を含まない
ことを特徴とするプラズマ処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマ処理装置を用いて処理対象を処理するプラズマ処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
粉体、粒体等の微小体を処理対象としてプラズマ処理を行うプラズマ処理方法が提案されている。例えば、本願発明者は、連続処理が可能なプラズマ処理装置及びプラズマ処理方法を発明し、特許文献1に開示している。特許文献1に記載のプラズマ処理装置等は、酸素、水素、アルゴン、窒素、弗化炭素、空気、更にはこれらの混合ガスを主成分として含む気体を処理容器内に導入し、プラズマを発生させて処理対象を連続処理している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
プラズマ処理方法は、処理対象の処理として、利便性を高める新たな処理方法が求められている。
【0005】
本発明は斯かる事情に鑑みてなされたものであり、導入する気体に水蒸気を用いることにより、利便性を高めた新たな処理方法を実現することが可能なプラズマ処理方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本願開示のプラズマ処理方法は、処理対象を収容可能な処理容器と、前記処理容器内に気体を導入可能な気体導入部と、前記気体導入部から導入された気体から、前記処理容器内にプラズマを発生させることが可能なプラズマ発生部とを備えるプラズマ処理装置を用い、前記処理容器内に収容した処理対象に対して、前記プラズマ発生部にて発生させたプラズマを照射することで処理するプラズマ処理方法であって、前記気体導入部から導入する気体は、水蒸気、水蒸気及び酸素、並びに水蒸気及び空気の混合ガスのいずれかを主成分とすることを特徴とする。
【0007】
また、本願開示のプラズマ処理方法において、前記処理対象は、微小体であることを特徴とする。
【0008】
また、本願開示のプラズマ処理方法において、前記処理対象に対する処理は、還元処理であることを特徴とする。
【0009】
また、本願開示のプラズマ処理方法において、前記処理対象に対する処理は、処理対象に水酸基を付加する処理であることを特徴とする。
【0010】
また、本願開示のプラズマ処理方法において、前記処理対象に対する処理は、灰化処理であることを特徴とする。
【0011】
また、本願開示のプラズマ処理方法において、前記気体導入部から導入する気体は、水素を含まないことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るプラズマ処理方法は、処理容器に導入する気体として水蒸気、水蒸気及び酸素の混合ガス、並びに水蒸気及び空気の混合ガスのいずれかを主成分とすることにより、利便性の高い新たなプラズマ処理方法を提供することが可能である等、優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本願開示のプラズマ処理装置の外観の一例を模式的に示す概略正面図である。
【
図2】本願開示のプラズマ処理装置が備える本体装置の外観の一例を模式的に示す概略正面図である。
【
図3】本願開示のプラズマ処理装置が備える本体装置の内部の一例を模式的に示す概略断面図である。
【
図4】本願開示のプラズマ処理装置が備えるプラズマ発生部の内部構造の一例を模式的に示す断面図である。
【
図5】本願開示のプラズマ処理方法においてチャンバー内の真空圧力と、プラズマ発生の際に発生する反射電力との関係の一例を示すグラフである。
【
図6】本願開示のプラズマ処理方法におけるプラズマの分光分析の結果の一例を示すチャートである。
【
図7】本願開示のプラズマ処理方法におけるプラズマの分光分析の結果の一例を示すチャートである。
【
図8】本願開示のプラズマ処理方法における分光分析の結果の一例を示すチャートである。
【
図9】本願開示のプラズマ処理方法における処理対象の一例を説明するための画像である。
【
図10】本願開示のプラズマ処理方法における処理対象の一例を説明するための画像である。
【
図11】本願開示のプラズマ処理方法における灰化処理の結果を示す図表である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、実施形態について図面を参照しながら説明する。本願開示のプラズマ処理装置Eは、粉体、粒体等の処理対象に対してプラズマ処理による表面改質等の用途に用いられる。本願開示のプラズマ処理装置Eは、例えば、工場内の連続処理ラインとして使用可能であり、プラズマ処理を連続又は断続して行うことができる。
【0015】
図1は、本願開示のプラズマ処理装置Eの外観の一例を模式的に示す概略正面図である。プラズマ処理装置Eは、例えば、粉体、粒体等の微小体を処理対象として、プラズマを照射することにより、表面改質等の処理を行う装置である。本願開示のプラズマ処理装置Eは、粉体、粒体等の処理対象を連続して投入し、投入され続ける処理対象に対してプラズマ処理を行い、処理後の処理対象を連続して取り出す連続処理が可能である。処理対象は、粒径が1μm~10mm程度の粉体、粒体等の微小体である。ここでいう粒径とは、処理対象が球体の場合は直径であり、球体以外の形状の場合は最も長い方向の長さをいう。処理対象としては、窒化ボロン、グラファイト、グラフェン、炭素粉、金属粉体、PTFE(Poly Tetra Fluor Ethylene)粉末等の化学物質を例示することができる。また、処理対象としては、化学物質以外にも、電子素子を配置したチップ部品、半田ボール等の工業製品も処理対象となる。プラズマ処理装置Eは、処理対象に対して、還元処理、水酸基の付加、灰化処理(アッシング)等の処理、更には、エッチング、撥水機の付加等の様々な表面処理を行うことができる。
【0016】
プラズマ処理装置Eは、本体装置1と、本体装置1を固定するアルミニウム、鉄等の金属製の枠材を用いたフレーム2とを備えている。本体装置1は、処理対象を収容してプラズマ処理を行う密閉可能なチャンバー10(処理容器)を備えている。更に、本体装置1は、チャンバー10へ処理対象を投入可能な投入部11、チャンバー10内で処理された処理対象を取り出すことが可能な取出部12、チャンバー10内の圧力を調整可能な圧力調整部13、チャンバー10内に気体を導入可能な気体導入部14、チャンバー10内にプラズマを発生させることが可能なプラズマ発生部15(
図2等参照)、気体導入部14及びプラズマ発生部15を覆うカバー部材16(
図3等参照)等の各種ユニットを備えている。フレーム2は、本体装置1を固定する上部フレーム2aと、上部フレーム2aの下方に位置して基台となる下部フレーム2bとを有している。上部フレーム2aは、下部フレーム2bに揺動自在に軸支されており、上部フレーム2a及び下部フレーム2bに取り付けられたジャッキ部20(傾斜腕部)を伸長させることにより、上部フレーム2aを揺動させ、本体装置1を傾斜させることができる。本体装置1を傾斜させるため、上部フレーム2aに取り付けられた取出部12、圧力調整部13等の配管の一部には、可撓性のフレキシブル管が用いられている。
【0017】
フレーム2に固定された本体装置1の投入部11には、処理前の処理対象を投入部11まで搬送し、搬送した処理対象を投入部11から投入するための投入用ユニット3が接続可能である。また、フレーム2に固定された本体装置1の取出部12には、処理後の処理対象を取出部12から取り出して搬送するための取出用ユニット4が接続可能である。なお、ここでは、説明の便宜上、投入用ユニット3として説明するが、投入に用いられるユニットであれば、フレコンバッグ、プラスチックケース、金属容器等の各種コンテナ、固定された配管、更には、作業者による手作業等、様々な装置及び方法を投入用ユニット3として用いることが可能である。取出用ユニット4についても同様であり、様々な装置及び方法を用いることが可能である。投入用ユニット3及び取出用ユニット4については、処理対象の種類、量、本体装置1の処理能力等の各種要因に応じて適宜設計される。
【0018】
下部フレーム2bには、圧力調整部13を構成する真空ポンプ130が固定されている。上部フレーム2aには、プラズマ発生部15にマイクロ波を供給するマイクロ波供給ユニット5が固定されている。マイクロ波供給ユニット5は、マイクロ波発生システム50、導波管51、同軸変換器52等の構成を備え、プラズマ発生部15に接続されている。マイクロ波発生システム50は、マイクロ波電源、発振器、チューナ等の装置を備えており、マイクロ波を発生させて導波管51へ出力する。導波管51は、マイクロ波発生システム50から入力されたマイクロ波を同軸変換器52まで伝送する。同軸変換器52は、導波管51から伝わったマイクロ波を同軸用の電磁波に変換し、プラズマ発生部15へ供給する。
【0019】
気体導入部14は、水槽140、第1マスフローコントローラ141、酸素ボンベ142、第2マスフローコントローラ143、T字管144、導入管145、ノズル146(
図3等参照)等の各種部材を備えている。水槽140は、水を貯留する減圧容器であり、下部フレーム2bに固定されている。水槽140は、内部を減圧状態にすることで、貯溜している水を気化させ、気化した水蒸気を配管に取り付けられた第1マスフローコントローラ141側へ供給する。酸素ボンベ142は、高圧状態の酸素を収容しており、収容している酸素を配管に取り付けられた第2マスフローコントローラ143側へ供給する。第1マスフローコントローラ141により体積流量を制御された水蒸気及び第2マスフローコントローラ143により体積流量を制御された酸素は、T字管144で合流し、混合ガスとして導入管145を通ってノズル146からチャンバー10へ導入される。
【0020】
図2は、本願開示のプラズマ処理装置Eが備える本体装置1の外観の一例を模式的に示す概略正面図である。
図3は、本願開示のプラズマ処理装置Eが備える本体装置1の内部の一例を模式的に示す概略断面図である。前述のようにプラズマ処理装置Eが備える本体装置1は、チャンバー10、投入部11、取出部12、圧力調整部13、気体導入部14、プラズマ発生部15、カバー部材16等の各種ユニットを備えている。
【0021】
チャンバー10は、略有底円筒状をなしており、図に向かって左側となる一方の底面側には、投入口100が開設されており、図に向かって右側となる他方の底面側には、取出口101が開設されている。より詳細には、全体として略有底円筒状をなすチャンバー10は、投入口100側に内径の大きい円筒が位置し、当該円筒の途中から取出口101側にかけてテーパー状に内径が小さくなり、更に小さい内径の細長い円筒が取出口101まで形成された形状となっている。略有底円筒状をなすチャンバー10は、略水平となる中心軸を回転軸として回転可能に形成されている
【0022】
チャンバー10の一方の底面側に開設された投入口100は略円形に開設されており、外周面が略円形状をなす軸管1000が挿嵌されている。チャンバー10の投入口100側の底面にはフランジを介して真空シールベアリングが取り付けられており、チャンバー10は、真空シールベアリングを介して軸管1000に対し回転可能に軸支されている。軸管1000自体は、フレーム2に固定されている。投入部11、気体導入部14のノズル146及びプラズマ発生部15は、軸管1000の内側を通ってチャンバー10内に入り込んでおり、軸管1000の内部は投入部11、ノズル146及びプラズマ発生部15以外は密閉されている。ノズル146及びプラズマ発生部15のチャンバー10内の部位は、カバー部材16にて覆われている。投入部11は、チャンバー10内へ処理対象を投入し、ノズル146は、チャンバー10内へ気体を導入し、プラズマ発生部15は、チャンバー10内でプラズマを発生させる。
【0023】
チャンバー10の内側壁には、投入口100から投入される処理対象を取出口101まで搬送可能な搬送部102として、チャンバー10と中心軸を一にする螺旋体が形成されている。チャンバー10が回転することにより、チャンバー10内に投入された処理対象は、螺旋体に沿って取出口101まで搬送される。なお、ここでは、搬送部102として、内側壁から突出する螺旋体を用いた例を示したが、内側壁に螺旋状の溝を刻設し、搬送部102として用いる等、様々な構成を適用することが可能である。
【0024】
チャンバー10の取出口101側は、前述のように細長い円筒状をなしており、T型継手103の側部に形成された円筒状をなす分岐管内に若干の遊びをもって内挿されている。T型継手103の分岐管にはフランジを介して真空シールベアリングが取り付けられており、真空シールベアリングにより、チャンバー10は回転可能に軸支されている。T型継手103は、上部管が圧力調整部13に接続され、下部管が取出部12に接続されている。
【0025】
チャンバー10は、内部の圧力を維持し気密性を保つように密閉することが可能である。また、チャンバー10は、投入口100側に取り付けられた軸管1000の周囲の真空シールベアリング及び取出口101側に取り付けられた真空シールベアリングにより回転可能に軸支されており、密閉状態を維持しながら、図中の弧状の矢印にて示すように、中心軸を回転軸として回転することが可能である。
【0026】
プラズマ処理装置Eが備える投入部11は、ホッパー110、投入管111、第1バルブ112、スクリューコンベア113等の各種構成を備えている。ホッパー110は、粉体等の処理対象を投入する略箱状をなしている。ホッパー110の上面には開閉扉が取り付けられ、また、投入用ユニット3が接続されており、開閉扉又は投入用ユニット3からホッパー110内へ処理対象を投入することが可能である。ホッパー110の底面には、開口が開設されており、開口には、処理対象を下方へ送るパイプである投入管111の上端が取り付けられている。投入管111の途中には、外気と遮断可能な第1バルブ112が取り付けられている。投入管111の下端は、スクリューコンベア113に接続されている。スクリューコンベア113は、ホッパー110から投入管111を介して送られる処理対象を、チャンバー10まで搬送し、チャンバー10内へ投入する。
【0027】
投入用ユニット3及び投入部11が備えるホッパー110には、給気管及び排気管が接続されており、ホッパー110内の気圧を調整することが可能である。例えば、ホッパー110内の処理対象が所定量以下となった場合、第1バルブ112を閉じ、給気管から窒素等の不活性ガスを注入して外気圧との気圧差を調整することにより、ホッパー110内への処理対象の投入を安全に行うことができる。ホッパー110内への処理対象の投入後、排気管から内部の気体を排気し、スクリューコンベア113との気圧差を調整後、第1バルブ112が開かれ、処理対象がホッパー110から投入管111を介してスクリューコンベア113へ送られる。
【0028】
プラズマ処理装置Eが備える取出部12は、チャンバー10に対し、T型継手103を介して下方に接続されている。取出部12は、パイプを用いた取出管120、処理対象を貯留する貯留容器121等の構成を備えている。取出管120の途中には、外気と遮断可能な第2バルブ122が取り付けられている。チャンバー10内で搬送部102にて搬送されながらプラズマ処理された処理対象は、チャンバー10の取出口101から放出され、T型継手103内で下方の取出部12へ向けて落下する。落下した処理対象は、取出管120を通って貯留容器121内に貯留される。貯留容器121内の処理対象は、適宜、取出用ユニット4へ送出される。取出用ユニット4を適宜交換することにより、連続して処理される処理対象を取り出すことが可能である。
【0029】
取出部12が備える貯留容器121及び取出用ユニット4には、給気管及び排気管が接続されている。例えば、取出用ユニット4にコンテナを用いる場合、貯留容器121及び取出用ユニット4に用いられるコンテナ内の気圧を調整することが可能である。例えば、コンテナ内の処理対象が所定量以上となった場合、第2バルブ122を閉じ、給気管から窒素等の不活性ガスを注入して外気圧との気圧差を調整することにより、コンテナの交換を安全に行うことができる。コンテナの交換後、排気管から内部の気体を排気し、T型継手103との気圧差を調整後、第2バルブ122が開かれ、貯留容器121及び取出用ユニット4への処理対象の取出工程が継続される。なお、コンテナを交換中、貯留容器121内の気圧をT型継手103と同様にして、貯留容器121内に処理対象を貯留する等、適宜作業工程を調整することができる。
【0030】
プラズマ処理装置Eが備える圧力調整部13は、チャンバー10に対し、T型継手103を介して上方に接続されている。圧力調整部13は、パイプを用いた減圧管131、減圧管131に接続される真空ポンプ130、減圧管131に取り付けられた第3バルブ132等の構成を備えている。圧力調整部13は、真空ポンプ130によりチャンバー10内の気体を吸引して減圧し、減圧状態を保つことができる。なお、チャンバー10内が、真空ポンプ130により過剰に減圧されることを防止するため、減圧管131には、ゲートバルブ、リーク弁等の調整補助装置が設けられている。
【0031】
プラズマ処理装置Eが備える気体導入部14のノズル146は、プラズマ用ガスとして用いられる水蒸気、酸素等の気体をチャンバー10内へ導入する。チャンバー10内において、ノズル146は、チャンバー10の回転軸と略平行な方向へ延伸する硬質の管状をなしている。管状をなすノズル146の先端は、プラズマ発生部15に向けて気体を吐出するように、斜め下方へ屈曲している。ノズル146は、先端側が斜め下方へ屈曲し、プラズマ発生部15に向けて気体を吐出することができるので、プラズマ発生部15に付着した粉体等を吹き飛ばすクリーニング用のガスポートとして使用することも可能である。
【0032】
プラズマ処理装置Eが備えるプラズマ発生部15は、チャンバー10内で回転軸と略平行な方向へ延伸する棒状をなしており、ノズル146の下方に配置されている。プラズマ発生部15は、マイクロ波発生システム50にて発生するマイクロ波をプラズマ源とし、チャンバー10内に導入された気体を励起してプラズマを発生させる。ここでは、マイクロ波をプラズマ源とする形態を例示しているが、プラズマ源としては、装置の形態、用途及び目的に応じて高電圧パルス、高周波等の様々な電磁波を用いることが可能である。
【0033】
プラズマ処理装置Eが備えるカバー部材16は、チャンバー10内のノズル146及びプラズマ発生部15を覆うように取り付けられている。カバー部材16は、長尺の角筒状をなし、一方の底面が、チャンバー10の図に向かって左側となる一方の底面側に固定された片持ち状に取り付けられている。
【0034】
図4は、本願開示のプラズマ処理装置Eが備えるプラズマ発生部15の内部構造の一例を模式的に示す断面図である。
図4は、発生させる電場から開放型リアクターに分類されるプラズマ発生部15の先端部分を拡大して示している。プラズマ発生部15は、マイクロ波供給ユニット5に接続されており、直線状に延びる硬質管状の同軸管150、同軸管150の先端を離隔して覆う誘電体151等の構成を備えている。同軸管150は、マイクロ波供給ユニット5の同軸変換器52にて同軸用の電磁波に変換されたマイクロ波を伝送し、誘電体151の表面にプラズマを発生させる。同軸管150は、外部金属管1500に内部導体1501を挿通して形成されており、外部金属管1500の電位は接地電位となっている。同軸管150の先端は、外部金属管1500が軸に対して斜め方向に切断されており、外部金属管1500より先端側に内部導体1501が突出している。同軸管150の先端を覆う誘電体151は、例えば、石英ガラスを用いて形成されている。高電圧パルス、高周波等の電磁波を使用する場合であっても、例示した同軸管150を用いて伝送することが可能であり、同軸管150に代替して、同軸ケーブル等の他の伝送体を使用することも可能である。
【0035】
内部導体1501に、例えば、1kW程度のマイクロ波電力を印加すると、接地電位にある外部金属管1500との間に電位差が生じ、更に、誘電体151を透過する電場により、誘電体151の外側の表面で放電が開始される。誘電体151の表面で生じた放電は、誘電体151の外側の表面に接する気体を励起して表面波等の形態のプラズマを発生させる。マイクロ波により誘電体151の表面で発生したプラズマ、即ち、マイクロ波表面波プラズマは、処理対象に照射される。外部金属管1500が斜めに切断されていることにより、プラズマの発生部位が内部導体1501の延伸方向に沿って延び、極端に偏在化することを防止する。内部導体1501の延伸方向は、処理対象の搬送方向であるため、螺旋体に攪拌されながら搬送される処理対象に対してプラズマを長時間照射することが可能となる。従って、処理対象の表面処理を均質化することが可能となる。チャンバー10内の気圧は、導入された気体に応じて200Pa以下又は100Pa以下に調整することが好ましく、例えば、10~200Pa又は10~100Pa程度に調整することにより、誘電体151の表面に表面波プラズマを発生させることができる。
【0036】
以上のように構成されたプラズマ処理装置Eを用いて処理対象である粉体の表面をプラズマ処理する例について説明する。プラズマ処理装置Eでは、圧力調整部13の真空ポンプ130を起動させてチャンバー10内の気体を吸引し、チャンバー10内を減圧する。減圧目標は、導入される気体、プラズマの種類、処理対象等の要因に応じて適宜設定可能であるが、例えば、50Pa程度の略真空となるまで減圧する。
【0037】
減圧目標に到達後、気体導入部14からカバー部材16内へ、水蒸気、水蒸気及び酸素の混合ガス、水蒸気及び空気の混合ガス等のプラズマ用ガスを主成分として含む気体を導入する。
【0038】
導入した気体によりカバー部材16内、更には、チャンバー10内を充填した後、プラズマ発生部15は、マイクロ波等の電磁波により、導入された気体を励起してプラズマを発生させる。
【0039】
また、投入部11は、ホッパー110に投入されている処理対象を、ホッパー110から投入管111を介してスクリューコンベア113により連続してチャンバー10内へ投入する。投入される処理対象は、例えば、粒径が1~300μm程度の粉体、粒体等の微小体である。処理対象は、窒化ボロン、グラファイト、グラフェン、炭素粉、金属粉体、PTFE粉末等の化学物質を例示することができる。また、処理対象としては、化学物質以外にも、電子素子を配置したチップ部品、半田ボール等の工業製品も処理対象となる。なお、スクリューコンベア113によりチャンバー10内へ投入される処理対象は、連続して投入されることになるが、ホッパー110への処理対象の投入は、必ずしも連続投入で無くてもよい。例えば、前述の様にホッパー110内の貯留量が所定量以下となった場合、ホッパー110内の圧力を調整の上、ホッパー110へ処理対象が投入される。その間、スクリューコンベア113は、停止又は空送り状態となり、チャンバー10内への投入ができなくなるため、結果として断続的に処理対象が投入されることになる。連続投入速度は、スクリューコンベア113の回転速度により調整可能である。なお、例えば、投入される処理対象の粒径等の要因により、処理対象を密に投入することが好ましくない場合、断続的にチャンバー10内に投入するように調整することも可能である。即ち、本願開示のプラズマ処理装置Eは、回転するチャンバー10内で続けて処理することが可能であれば、投入は連続的であっても、断続的であってもよい。
【0040】
投入部11によりチャンバー10の投入口100から、連続的に又は断続的に続けて投入された処理対象は、回転するチャンバー10内の内側壁に形成された搬送部102の螺旋体に沿って、投入口100側から取出口101側へ、チャンバー10の軸方向と略平行に搬送される。
【0041】
カバー部材16内でプラズマ発生部15の周囲に発生した水蒸気又は水蒸気の混合ガスに基づくプラズマは、下方の処理対象へ向けて照射される。
【0042】
投入口100側から取出口101側へ搬送される処理対象に対し、プラズマ発生部15により発生したプラズマが照射され、処理対象の表面が処理される。粉体の表面に対する処理としては、還元処理、灰化処理(アッシング)、親水基の付加による親水性の向上等の処理を例示列挙することができる。
【0043】
表面処理が行われた粉体は、チャンバー10の取出口101から放出され、T型継手103内を落下し、取出部12の貯留容器121に貯留される。
【0044】
以上のようにして、本願開示のプラズマ処理装置Eを用いた水蒸気又は水蒸気の混合ガスに基づくプラズマ処理が実施される。
【0045】
更に、本願開示のプラズマ処理方法について実験結果を例示しながら説明する。本願開示のプラズマ処理方法では、チャンバー10内に、水蒸気、水蒸気及び酸素の混合ガス、水蒸気及び空気の混合ガス等の主成分に水蒸気を含む気体を導入し、導入した気体をプラズマ化する。導入する気体に水蒸気が含まれる場合、水蒸気は、プラズマ化することによりOHラジカルとHラジカルとに分離する。OHプラズマは酸化力があり、Hプラズマは還元力がある。チャンバー10内を減圧し、気圧が低い状態とすることにより、チャンバー10内は、Hプラズマが優勢となり、チャンバー10内の処理対象に対する還元処理が可能となる。気体導入部14からチャンバー10内に導入する気体として例示した水蒸気、水蒸気及び酸素の混合ガス、並びに水蒸気及び空気の混合ガスは、いずれも水素を含まない気体である。従って、本願開示のプラズマ処理方法は、水素を含む場合と比べ気体の取り扱いが容易である。しかしながら、本願開示のプラズマ処理方法は、気体に含まれる水蒸気からHラジカルが発生するため、充分な還元力を得ることができる。
【0046】
本願開示のプラズマ処理装置Eでは、マイクロ波表面波プラズマによりプラズマ化する場合、水蒸気の放電開始電圧は、酸素の放電開始電圧より低く、水蒸気の方がプラズマ化し易い。このため本願開示のプラズマ処理装置Eにおいて、水蒸気のプラズマは表面波として広がり易く、反射電力を小さくすることができる。他方、酸素のプラズマは、表面波として広がり難く、結果として反射電力が大きくなる。
【0047】
図5は、本願開示のプラズマ処理方法においてチャンバー10内の真空圧力と、プラズマ発生の際に発生する反射電力との関係の一例を示すグラフである。
図5に例示するグラフでは、チャンバー10内に導入するガスを、酸素、水蒸気、並びに酸素及び水蒸気の混合ガス(H2 O:O2 =50:50[体積流量比])とした場合におけるチャンバー10内の圧力と、反射電力との関係を示している。
図5のグラフにおいて、実線が酸素を示し、一点鎖線が水蒸気を示し、二点鎖線が水蒸気及び酸素の混合ガスを示している。
図5に例示するように、チャンバー10内でプラズマ化する気体を酸素とした場合と比べ、水蒸気、並びに水蒸気及び酸素の混合ガスをプラズマ化した場合は、圧力にかかわらず反射電力を抑制することができる。
【0048】
図6及び
図7は、本願開示のプラズマ処理方法におけるプラズマの分光分析の結果の一例を示すチャートである。
図6及び
図7は、横軸に波長をとり、縦軸にカウント値をとって、分光分析の結果を示している。
図6及び
図7は、チャンバー10内に水蒸気を主成分とする気体を10sccmの流量で導入し、1kwのマイクロ波電力を印加してプラズマ化した結果を示している。
図6は、チャンバー10内の圧力を50Paとした結果を示しており、
図7は、チャンバー10内の圧力を200Paとした結果を示している。
図6及び
図7において、308nmがOHラジカルのピークであり、656nmがHラジカルのピークである。
図6及び
図7を比較すると、OHラジカルは気圧の影響が小さいが、Hラジカルのピーク強度は気圧が低い50Paの方が200Paより数倍大きくなっている。
【0049】
処理対象となる微小体は、体積比の表面積が大きいため、還元処理の際には、Hラジカルが必要となる。水蒸気を主成分とする気体から得られたプラズマは、圧力を低くすることにより、Hラジカルを活性化し、マイクロ波プラズマによる強力なHラジカルを発生させて還元能力を高めることができる。なお、プラズマによる還元処理に際し、水素を用いてHラジカルを発生させることも可能であるが、水素は防爆構造が必要となり、取扱が難しい。本願開示のプラズマ処理方法は、水素を使用せず、取扱が容易な水を気化させた水蒸気を用いることにより、安全性及び利便性を高めることが可能となる。
【0050】
図8は、本願開示のプラズマ処理方法における分光分析の結果の一例を示すチャートである。
図8は、横軸に波長をとり、縦軸に強度をとって、分光分析の結果を示している。
図8は、チャンバー10内に水蒸気及び酸素の混合ガス(体積流量比 1:1)を主成分とする気体を導入し、100Paの圧力下で、1kwのマイクロ波電力を印加してプラズマ化した結果を示している。
図8に例示するように、水蒸気及び酸素の混合ガスを用いたブラスマ処理方法では、308nmのOHラジカルのピーク及び656nmのHラジカルのピークに加え、777nm及び844nmにOラジカルのピークが現れている。
【0051】
図9及び
図10は、本願開示のプラズマ処理方法における処理対象の一例を説明するための画像である。
図9及び
図10は、処理対象となる粒径2[mm]の銅の粒体である。
図9は、表面が酸化された状態の銅の粒体であり、
図10は、本願開示のプラズマ処理方法により、還元した銅の粒体である。
図10に例示する処理対象は、
図9に例示する処理対象に対し、水蒸気を主成分としたプラズマにより、50Pa雰囲気下で還元処理を行っている。
図9及び
図10の比較により、外見からも還元処理が行われたことを確認することができる。なお、
図9及び
図10の画像(現物:カラーコピー)を参考資料として物件提出書で提出する。
【0052】
図11は、本願開示のプラズマ処理方法における灰化処理の結果を示す図表である。
図11は、70Paの減圧下において、処理対象に対する灰化処理の能力を、シリコンウェハ上に塗布したレジスト表面の削れ量[nm/min]にて評価した結果を示している。灰化処理の能力の実験は、上記のシリコンウェハと酸化していない銅板とを処理対象とし、これらの処理対象を同時に処理する方法を用いた。この実験方法は、銅粉体表面上の灰化処理を模した方法である。灰化処理の能力の評価は、レジストの削れ量を測定することにより行った。
図11は、体積流量比で、水蒸気:酸素が、10:20、20:10、30:0の水蒸気及び酸素の混合ガスを用いた灰化処理の結果を示している(30:0は、水蒸気のみ)。
図11に示すように、70Paの環境下では、酸素比率が高いほど、灰化処理の能力が高いことが読み取れるが、水蒸気を加えることで銅に酸化が発生しない状態で灰化ができる。水蒸気:酸素が、10:20であっても銅を酸化させずにレジストを灰化できる。同様に銅を酸化させずにレジストを灰化する方法としては水素ガスのプラズマを使う方法があるが、本願開示のプラズマ処理方法は、水素を使用せず、取扱が容易な水を気化させた水蒸気を用いることにより、安全性及び利便性を高めることが可能となる。
【0053】
以上詳述した本願開示のプラズマ処理方法は、水蒸気又は水蒸気を含む混合ガスに起因するプラズマ処理により、還元処理等の様々な処理に用いることが可能である。しかも、水蒸気は取扱が容易な水を気化させたものであるため、安全性及び利便性を高めることが可能である等、優れた効果を奏する。
【0054】
本発明は、以上説明した実施形態に限定されるものではなく、他の様々な形態で実施することが可能である。そのため、上述した実施形態はあらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。本発明の技術範囲は、請求の範囲によって説明するものであって、明細書本文には何ら拘束されない。更に、請求の範囲の均等範囲に属する変形及び変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【0055】
また、例えば、前記実施形態では、処理対象の連続処理に適用する形態を示したが、本発明はこれに限らず、処理対象のバッチ処理に適用する形態に適用する等、適宜設計することが可能である。
【符号の説明】
【0056】
E プラズマ処理装置
1 本体装置
10 チャンバー(処理容器)
11 投入部
12 取出部
13 圧力調整部
14 気体導入部
140 水槽
141 第1マスフローコントローラ
142 酸素ボンベ
143 第2マスフローコントローラ
144 T字管
145 導入管
146 ノズル
15 プラズマ発生部
16 カバー部材
2 フレーム
3 投入用ユニット
4 取出用ユニット
5 マイクロ波供給ユニット