(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023111624
(43)【公開日】2023-08-10
(54)【発明の名称】プラント運転支援システム及びプラント運転支援方法を実施するコンピュータシステム、並びにコンピュータプログラム記録媒体
(51)【国際特許分類】
G05B 23/02 20060101AFI20230803BHJP
G06N 20/00 20190101ALI20230803BHJP
【FI】
G05B23/02 R
G06N20/00 130
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022013559
(22)【出願日】2022-01-31
(71)【出願人】
【識別番号】517047488
【氏名又は名称】株式会社ABEJA
(71)【出願人】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000279
【氏名又は名称】弁理士法人ウィルフォート国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡田 陽介
(72)【発明者】
【氏名】新保 利弘
(72)【発明者】
【氏名】宇野 健人
【テーマコード(参考)】
3C223
【Fターム(参考)】
3C223AA01
3C223BA01
3C223BB01
3C223FF05
3C223FF09
3C223FF26
3C223FF42
(57)【要約】
【課題】何の運転ノウハウを学習すべきかを自ら選び人間に要求して学習を進めるプラント運転支援システムを提供する。
【解決手段】プラント運転支援システム30は、プラントシステム20で発生するプラントデータを入力して推論を行なうリアルタイム推論システム310と、プラントデータを用いて作成された教師データを入力してリアルタイム推論システム310を育成するAI育成システム300とを備える。AI育成システム300は、推論結果に関する信頼性を評価し、信頼性の評価結果に応じて選択的に、運転員40に教師データ作成への関与を要求するノウハウ評価部303を有する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラントで発生するプラントデータを受け入れ、受け入れた前記プラントデータを用いて推論を行って推論結果を出力する推論システムと、
前記プラントデータを用いて前記プラントの運転員の関与により作成された教師データを入力し、入力された前記教師データを用いてプラント運転のノウハウを前記推論システムに組み込むことで前記推論システムを育成する育成システムと
を備え、
前記育成システムは、所与のプラントデータの中から、前記推論システムに組み込むことが望ましい特定のノウハウに関係する特定のプラントデータを選択し、選択された前記特定のプラントデータに基づく新たな教師データの作成に関与するよう、前記運転員に要求する運転員利用手段を有する
プラント運転支援システム。
【請求項2】
請求項1記載のプラント運転支援システムにおいて、
前記運転員利用手段が、前記推論結果に関する信頼性を評価し、前記信頼性の評価結果に応じて選択的に、前記運転員に教師データ作成への関与を要求するように構成された
プラント運転支援システム。
【請求項3】
請求項1又は2のいずれか一項記載のプラント運転支援システムにおいて、
前記運転員利用手段が、過去に発生した前記プラントデータのセットを有し、前記セットの中からまだ前記推論システムの育成に用いられてない未学習プラントデータを選択し、選択した前記未学習プラントデータを前記運転員に提供して、前記運転員に教師データ作成への関与を要求するように構成された
プラント運転支援システム。
【請求項4】
請求項1又は2のいずれか一項記載のプラント運転支援システムにおいて、
前記運転員利用手段が、過去に発生した前記プラントデータのセットを有し、前記セットの中から発生頻度のより高い前記プラントデータをより優先的に選択し、選択した前記プラントデータを前記運転員に提供して、前記運転員に教師データ作成への関与を要求するように構成された
プラント運転支援システム。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項記載のプラント運転支援システムにおいて、
前記運転員利用手段が、前記推論システムに入力された前記プラントデータの類似性を評価し、前記類似性の評価結果に応じて選択的に、前記運転員に教師データ作成への関与を要求するように構成された
プラント運転支援システム。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一項記載のプラント運転支援システムにおいて、
前記運転員利用手段が、前記推論システムから出力された前記推論結果を前記運転員に提供し、前記運転員から前記推論結果に関するフィードバックを受け、前記フィードバックに応じて選択的に、前記運転員に教師データ作成への関与を要求するように構成された
プラント運転支援システム。
【請求項7】
請求項1記載のプラント運転支援システムにおいて、
前記運転員利用手段が、
前記プラントデータを評価するための評価方法に関する評価情報を前記運転員から入力して、前記評価情報を用いて前記評価方法を学習する評価方法学習手段と、
学習した前記評価方法を用いて、前記所与のプラントデータを評価し、前記所与のプラントデータの中から、所定条件を満たす評価結果が得られたものを前記特定のプラントデータとして選択し、選択された前記特定のプラントデータを前記運転員に提示して、前記特定のプラントデータを用いた教師データの作成に関与するよう前記運転員に要求する評価手段と
を有する
人工知能システム。
【請求項8】
コンピュータプログラムを記憶した記憶装置と、前記コンピュータプログラムを機械的に読み取り実行するCPU とを備え、プラント及び前記プラントの運転員と通信可能なコンピュータシステムにおいて、
前記CPUは、前記コンピュータプログラムを実行することにより、プラント運転支援方法を実施し、前記プラント運転支援方法は、
前記プラントで発生するプラントデータを受け入れ、受け入れた前記プラントデータを用いて推論を行って推論結果を出力する推論工程と、
前記プラントデータを用いて運転員の関与により作成された教師データを入力し、入力された前記教師データを用いてプラント運転のノウハウを前記推論工程に組み込むことで、前記推論工程を育成する育成工程と
を備え、
前記育成工程が、所与のプラントデータの中から、前記推論工程に組み込むことが望ましい特定のノウハウに関係する特定のプラントデータを選択し、選択された前記プラントデータに基づく新たな教師データの作成に関与するよう前記運転員に要求する運転員利用工程を有する、
プラント運転支援方法を実施するコンピュータシステム。
【請求項9】
機械読み取り可能なコンピュータプログラムを格納したプログラム格納媒体において、
前記プログラムが、プロセッサに対して、プラント運転支援方法を行わせる命令コードを含み、
前記プラント運転支援方法が、
プラントで発生するプラントデータを受け入れ、受け入れた前記プラントデータを用いて推論を行って推論結果を出力する推論工程と、
前記プラントデータを用いて運転員の関与により作成された教師データを入力し、入力された前記教師データを用いてプラント運転のノウハウを前記推論工程に組み込むことで、前記推論工程を育成する育成工程と
を備え、
前記育成工程が、所与のプラントデータの中から、前記推論工程に組み込むことが望ましい特定のノウハウに関係する特定のプラントデータを選択し、選択された前記プラントデータに基づく新たな教師データの作成に関与するよう人間に要求する運転員利用工程を有する
プログラム記録媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラント運転支援システム及びプラント運転支援方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明は、好ましくは、人工知能を利用して、プラントの運転操作の少なくとも一部を自動化しプラントの運転員を支援するシステムに関する。
【0003】
プラントの運転を人工知能が自動的に行う場面が増えることにより、運転員の負担が軽減する。
【0004】
関連する従来技術として、特許文献1に記載のAIプロセス制御監視装置がある。
【0005】
この装置は、運転員の頭の中に潜在しているプロセス制御に関する制御情報をプラントの運転中にリアルタイムで運転員から入力し、その入力された制御情報、運転員がプラントを操作した操作情報、及びプラントの観測データ中から、統計的な規則性を有するパターンを弁別して学習し、学習されたパターンに基づいてプラントの動作に関する定性的モデルを構築する。学習が進行するにつれて、構築された定性的モデルに基づいてプラントのプロセスの監視制御が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
運転員の頭の中には、プラントで生じ得る多種多様な状況に対応した数多くのノウハウが暗黙知として存在する。それら膨大量の暗黙知の中から、何を選んで人工知能に教えれば、人工知能の学習が効率的に進むか、さらには、プラントの運転にとって意味のある学習になるのか、ということを判断することは、運転員にとり困難である。したがって、運転員が自らの判断で人工知能に教えるべきノウハウを選んだならば、人工知能が実用可能レベルまで育成されるまでに、暗黙知の言語化・定義、それに対する教師データの作成と紐づけが非効率的に実施され、長すぎる時間と多すぎる作業が無駄に費やされるおそれがある。
【0008】
本発明の一つの目的は、ノウハウの登録により改善されるであろう特定の運転データをシステムが自ら選び、人間に効果的にノウハウの登録を要求する、人工知能を利用したプラント運転支援システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
一つの実施形態にかかるプラント運転支援システムは、プラントで発生するプラントデータを受け入れ、受け入れたプラントデータを用いて推論を行って推論結果を出力する推論システムと、プラントデータを用いてプラント運転員の関与により作成された教師データを入力し、入力された教師データを用いてプラント運転のノウハウを推論システムに組み込むことで推論システムを育成する育成システムとを備える。育成システムは、所与のプラントデータの中から、推論システムに組み込むことが望ましい特定のノウハウに関係する特定のプラントデータを選択し、選択された特定のプラントデータに基づく新たな教師データの作成に関与するよう、プラント運転員に要求する運転員利用手段を有する。
【0010】
一つの実施形態にかかるプラント運転支援システムは、何のノウハウを組み込むべきかをシステム自身が選らんで、選ばれたノウハウに関する教育データの作成への関与を人間に要求しながら、推論システムの育成を進めていく。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】一実施形態に係るプラント運転支援システムのハード構成を例示する図である。
【
図2】本実施形態に係るプラント運転支援システムの基本的機能の概念を示す図である。
【
図3】本実施形態に係るプラント運転支援システムをプラント操作の支援に適用したシステムのより具体的な機能構成を示す図である。
【
図4】本実施形態に係るプラント運転支援システムの動作を示す図である。
【
図5】本実施形態に係るプラント運転支援システムにおけるノウハウ抽出プロセスを説明するための図である。
【
図6】本実施形態に係るプラント運転支援システムにおけるノウハウ登録と教師データ登録のユーザーインタフェースを例示する図である。
【
図7】本実施形態に係るプラント運転支援システムにおけるノウハウ提案・評価のユーザーインタフェースを例示する図である。
【
図8】本実施形態に係るプラント運転支援システムにおけるリアルタイム推論に関する信頼性評価の流れの一例を示す図である。
【
図9】本実施形態に係るプラント運転支援システムにおける
図4に示されたステップS5のノウハウ登録を行うための構成の変形例を示す図である。
【
図10】運転評価法を学習するプロセスの流れを例示する図である。
【
図11】運転評価法の学習時におけるユーザーインタフェースでの運転員とシステムとの間のコミュニケーションの流れを例示する図である。
【
図12】運転評価のプロセスの流れを例示する図である。
【
図13】運転評価時におけるユーザーインタフェースでの運転員とシステムとの間のコミュニケーションの流れを例示する図である。
【
図14】リアルタイム推論システムの提案メッセージを例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。なお、以下に説明する実施形態は請求の範囲に係る発明を限定するものではなく、また実施形態の中で説明されている諸要素及びその組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0013】
なお、実施例を説明する図において、同一の機能を有する箇所には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
【0014】
また、以下の説明では、情報の一例として「xxxデータ」といった表現を用いる場合があるが、情報のデータ構造はどのようなものでもよい。すなわち、情報がデータ構造に依存しないことを示すために、「xxxデータ」を「xxxテーブル」と言うことができる。さらに、「xxxデータ」を単に「xxx」と言うこともある。そして、以下の説明において、各情報の構成は一例であり、情報を分割して保持したり、結合して保持したりしても良い。
【0015】
なお、以下の説明では、「プログラム」を主語として処理を説明する場合があるが、プログラムは、プロセッサ(例えばCPU(Central Processing Unit))によって実行されることで、定められた処理を、適宜に記憶資源(例えばメモリ)及び/又は通信インターフェースデバイス(例えばポート)を用いながら行うため、処理の主語がプログラムとされても良い。プログラムを主語として説明された処理は、プロセッサ或いはそのプロセッサを有する計算機が行う処理としても良い。
【0016】
図1は、一つの実施形態に係るプラント運転支援システムが適用される計算機システムの物理構成を示す。
【0017】
計算機システム50は、ネットワーク240に接続された複数(又は1)の物理計算機201で構成される。
【0018】
ネットワーク240は、1以上の通信ネットワークであり、例えば、FC(Fibre Channel)ネットワークとIP(Internet Protocol)ネットワークとのうちの少なくとも1つを含んでよい。ネットワーク240は、計算機システム50の外に存在してもよい。
【0019】
各物理計算機201は、例えば汎用計算機であり、物理コンピュータリソース330を有する。物理コンピュータリソース330は、インターフェース部251、記憶部252及びそれらに接続されたプロセッサ部253を含む。
【0020】
計算機システム50は、例えば、XaaS(X as a Service)を提供するクラウドコンピューティングシステムでよい。なお、「XaaS」とは、一般には、システムの構築又は運用に必要な何らかのリソース(例えば、ハードウェア、回線、ソフトウェア実行環境、アプリケーションプログラム、開発環境など)をインターネットのようなネットワークを通じて利用できるようにしたサービスを意味する。XaaSの「X」として採用される文字(又はワード)は、XaaSのタイプ(サービスモデル)によって異なる。例えば、XaaSの例として、PaaS(Platform as a Service)、SaaS(Software as a Service)、PaaS(Platform as a Service)、IaaS(Infrastructure as a Service)又はHaaS(Hardware as a Service)がある。
【0021】
図2は、実施形態に係るプラント運転支援システムの基本的機能の概念を示す図である。
【0022】
図2に示すプラントシステム20は、プラントそれ自体はもちろん、プラントに関わる人(以下「運転員」というが、運転員にはプラントの運転に関わる人だけでなく、運転以外の面でプラントに関わる人も含まれ得る)40、ならびにプラントと関係性をもつ環境や外部システムなども含み得る。プラントシステム20からプラント運転支援システム30に入るデータ(以下「プラントデータ」と呼ぶ)は、プラントシステム20に/から入力/出力されるデータや信号、プラントシステム20を通過するデータや信号などを含み得る。例えば、プラントシステム20への各種操作指令、プラントシステム20に設置された各種センサが出すセンサデータ、プラントシステム20を制御するDCS(Distributed Control System:分散制御システム)に入出力される各種のDCSデータ、それら各種データの分析やプラントの生成物や状態などを分析して得られる分析データなどがありえる。
【0023】
プラント運転支援システム30は、プラントシステム20からプラントデータを入力し、入力されたプラントデータプラントデータに関する推論を行う。好ましくは、プラント運転支援システム30は、リアルタイムでプラントデータを入力し、リアルタイムで推論作業を行う。プラント運転支援システム30が行う推論(つまり、プラント運転支援システム30の推論能力つまり学習レベル、あるいは、その推論から得られた推論結果)に関しての信頼性が評価される。信頼性の評価は、好ましくは、各時点で入力されるプラントデータごとに、またはプラントデータの分類グループごとに、なされる。したがって、ある時点で、あるプラントデータに関しては推論の信頼性が高いと評価されるが、別のプラントデータについては信頼性が低いと評価される場合がある。
【0024】
ある時点で、あるプラントデータに関し推論の信頼性が低いと評価された場合、それは、その時点では、 プラント運転支援システム30はその環境データに関するノウハウなどの知識の学習が未熟であり、ゆえに、そのプラントデータに関する学習をすることが望ましいことを意味する。そこで、 プラント運転支援システム30は、そのプラントデータを運転員40に提示して、運転員40に対し、そのプラントデータに関する運転ノウハウを教師データとして プラント運転支援システム30に入力するよう依頼する。そして、その教師データに基づいて、 プラント運転支援システム30がノウハウの学習を行う。つまり、 プラント運転支援システム30が主体的に運転員40に働きかけて人間知能(HI)を利用し、新しいノウハウを獲得し学習する。他方、ある時点で、あるプラントデータに関し推論の信頼性が高いと評価された場合、 プラント運転支援システム30は運転員40に推論結果(運転操作の提案)を提供する。
【0025】
このように、 プラント運転支援システム30は、HIを利用することが好ましい機会、状況又は事象を主体的に見つけ出し、その機会に主体的に運転員40に働きかけてHIを学習に利用する(HIから教えを受ける)ことで、推論の信頼性を高める。
【0026】
図2中の(2)「推論の信頼性を評価する」から(3)「信頼性が低い場合は人間に通知する」のプロセスの非限定的な具体例として、プラント運転支援システム30は例えば次の3つのプロセスをもつ。
1)プラント運転支援システム30に過去に入力され保存されたプラントデータの中から、未だ教師データの作成に利用した履歴のないプラントデータを選別して(好ましくは、発生頻度のより高いプラントデータから優先的に選別して)、新たな教師データの材料とする。
2)各時点でリアルタイムでプラントデータを入力してリアルタイムに推論を行なう時、その各時点の入力プラントデータの特徴に基づいて(例えば入力プラントデータの特徴の類似性に基づいて)、その入力プラントデータがどの程度に信頼できる推論結果を引き出し得るかを評価し、引き出し得る推論結果の信頼性が低いと評価されたプラントデータを新たな教師データの材料として選ぶ。
3)各時点でリアルタイムでプラントデータを入力してリアルタイムに推論を行なう時、その各時点の入力プラントデータの推論結果を人間に提供して、人間にその推論結果の妥当性の評価を要求する。そして、人間からフィードバックされる妥当性の評価結果に基づいて、推論結果の妥当性が低いと評価された入力プラントデータを、新たな教師データの材料として選ぶ。
【0027】
図3は、実施形態に係るプラント運転支援システムのより具体的な機能構成を示す図である。
【0028】
図3に示す本実施形態のプラント運転支援システム30は、プラントシステム20とプラント運転員40とに通信可能である。プラント運転支援システム30は、AI育成システム300及びリアルタイム推論システム310を有する。リアルタイム推論システム310は、例えば国際公開2019/003485に開示されたような構成を有する。
【0029】
プラントシステム20は、分析システム21、操作盤22、DCS23、センサ群24、機器群25、及び被処理物群26を有する。機器群25はプラントシステムの生産設備を構成する各種の機器であり、被処理物群26はその生産設備日で処理される原料、中間生成物、生産物、廃棄物などである。センサ群24は、機器群25及び被処理物群26の状態や動作などをセンスする。DCS23は、機器群25のプロセス制御を行う。操作盤22は、運転員40により操作されて機器群25を操作する。分析システム21は、センサ群24から出力されるデータを受けて、プラントシステム20の各種の状態、動作、性能及び生産性などに関する分析を行う。本明細書でいう「プラントデータ」は、これらのプラントシステム20の構成要素から生じる種々の信号やデータの束を指す。
【0030】
プラント運転支援システム30は、プラントシステム20で時々刻々発生するプラントデータをリアルタイムに入力し、このリアルタイムに入力されたプラントデータ(
図3中の「(1)リアルタイムデータ」)を用いてリアルタイムに推論を行なう。推論の結果(典型的には、どのようなプラントデータに対してどのノウハウを適用してどのような運転操作を提案するかを示す通知)は運転員40に出力される。プラント運転支援システム30は、また、プラントシステム20で過去に発生したプラントデータ(
図3中の「(1)時系列データ」)(時系列データは、事前にある期間にわたり外部で蓄積された過去のプラントデータでもよいし、入力リアルタイムデータをプラント運転支援システム30内で順に保存し蓄積したものでもよい)を入力して、この時系列データを学習サイクルに用いる。
【0031】
AI育成システム300は、データ分類部301、ノウハウ登録部302及びノウハウ評価部303を有する。
【0032】
データ分類部301は、入力されたプラントデータ(リアルタイムデータ及び時系列データ)を、分類ルールに従って、複数のグループに分類する(つまり、入力プラントデータにラベル付けをする)。分類ルールは予めシステム設計者又は運転員などによって設定されてよい。グループ(つまり、ラベル)は、例えば、各種の運転操作別のグループ、各種のアラーム別のグループ、あるいは、機器の立ち上げや目標値変更など各種の運転場面別のグループなど、任意に設定されてよい。リアルタイムデータに関しては、データ分類部301はリアルタイムデータを分類した(ラベルを付けた)の後に、そのリアルタイムデータをリアルタイム推論システム310に提供する。
【0033】
他方、時系列データに関しては、データ分類部301は、時系列データを分類した後、その分類結果に基づいて、優先的に学習すべき運転ノウハウ(つまり、リアルタイム推論システム310が未学習か学習レベルが未熟である運転ノウハウ)に関わる時系列データ(プラントデータ)を選別して抽出する。その選別抽出方法は後述される。そして、データ分類部301は、抽出されたプラントデータをノウハウ登録部302に提供する。
【0034】
ノウハウ登録部302は、データ分類部301により抽出されたプラントデータを運転員40に通知して、運転員40に対してノウハウの登録を依頼する。運転員40はノウハウ登録部302からの依頼に応じてノウハウの登録を行う。ノウハウの登録には、図中で「ノウハウ登録」と「教師データ登録」と示された2段階の登録がある。「ノウハウ登録」は、通知されたプラントデータに示される運転操作の根拠なったノウハウに関する基本的な情報(例えば、そのノウハウの名称や運手操作の内容)を運転員40が入力することにより行われる。「教師データ登録」は、教師データに必要とされるそのノウハウのより詳細な情報(例えば、機器の温度や圧力がこのようになったからその操作を行ったというような、その操作の必要性を生んだ条件など)を運転員40が入力することにより行われる。
【0035】
ノウハウ登録と教師データ登録が運転員40によりなされたら、ノウハウ登録部302は、その登録された情報から教師データを作成して、教師データをデータ分類部301に提供する。データ分類部301は、学習途中の推論モデル(図示せず。以下、学習モデルという)を有しており、その学習モデルに教師データを与えて、学習モデルにノウハウを学習させる。以上が多数のプラントデータについて繰り返されることで、学習モデルの推論性能が向上していく。所定の条件に合うレベルまで学習モデルの学習が進むと、データ分類部301は、その学習モデルをリアルタイム推論システム310にデプロイする(つまり、リアルタイム推論システム310内の推論モデルを、より推論性能の高いものに更新つまり育成する)。
【0036】
リアルタイム推論システム310は、リアルタイムでプラントデータを入力して推論を行い、各プラントデータに関する推論結果をノウハウ評価部303に渡す。ノウハウ評価部303は、各プラントデータの推論結果の信頼性を評価し、信頼性があるレベルより低い(つまり、そのプラントデータは学習すべきノウハウに関わるものである)のか、信頼性があるレベルより高い(つまり、そのプラントデータは学習すべきノウハウに関わるものではない)のかを判断する。その判断結果が信頼性があるレベルより高いという場合、それは、その時の入力プラントデータに関して、まだ未学習または学習未熟であるから、新しいノウハウを登録するべきである、ということを意味する。したがって、リアルタイム推論システム310は、その推論結果(これには少なくともその時の推論に使われた入力プラントデータが含まれる)をデータ分類部301に提供する。
【0037】
すると、データ分類部301は、すでに説明した通りの方法で、その入力プラントデータをノウハウ登録部302に渡す。すると、ノウハウ登録部302が、既に説明した通りの方法で、その入力プラントデータについて、運転員40に依頼してノウハウ登録と教師データ登録を行う。このときのノウハウ登録と教師データ登録は、推論結果が出た直後に行ってもよいし、あるいは、信頼性の低い推論結果がある程度溜まってから行ってもよい。しかし、直後に行った場合には、運転員40にとっては、自分がある操作を行った直後にその操作に関してノウハウ登録と教師データ登録を要求されるので都合がいい。いずれにせよ、こうして教師データが新たに登録されると、その後に、すでに説明した通りの方法で、新たに登録された教師データを用いた学習モデルの学習が行われ、やがて、学習レベルが一層上がった学習モデルが推論システム310にデプロイされる。これにより、リアルタイム推論システム310の推論能力が更に高まる。
【0038】
他方、その時の入力プラントデータに関する推論結果があるレベル以上に信頼性が高いと判断した場合、ノウハウ評価部303は、その推論結果(そこには、入力プラントデータと、その推論に用いた学習済みノウハウと、推論から得られた運転操作の提案とが含まれる)を「ノウハウ提案」(例えば、XXXXという事象が発生したから、XXXXというノウハウに従って、XXXという操作を提案する)という形で、運転員40に表示する。運転員40は、そのノウハウ提案が妥当か不当かを評価し、その評価結果を入力してノウハウ評価部303にフィードバックする。
【0039】
ノウハウ評価部303は、運転員40からフィードバックされたノウハウ評価結果が妥当と不当どちらを示すかを、データ分類部301に通知する。運転員40がノウハウ提案を不当と判断した場合、それは、その時の推論に使われた入力プラントデータデータについて、新たなノウハウを登録すべきことを意味する。したがって、この場合は、上述した推論結果の信頼性が低かった場合と同様に、データ分類部301は、その入力プラントデータをノウハウ登録部302に渡し、そして、ノウハウ登録部302が、既に説明した通りの方法で、その入力プラントデータについて、ノウハウ登録と教師データ登録を行う。この場合のノウハウ登録と教師データ登録も、運転員40からのフィードバックの直後に行ってもよいし、あるいは、運転員40からのフィードバックがある程度の量溜まってからノ行ってもよいが、前者の方が運転員40には都合がよいであろう。いずれせよ、このフィードバックに基づいたノウハウと教師データのとうろくによっても、リアルタイム推論システム310の推論能力が更に高まる。
【0040】
図4は、本実施形態に係るプラント運転支援システムの動作を示す図である。
【0041】
本実施形態のAIシステム30は、プラントシステム20からプラントデータ(リアルタイムデータ及び/又は時系列データ)を取得する(ステップS1)。
【0042】
リアルタイム推論システム310は、プラントシステム20からのリアルタイムデータを取得し(S2)、このリアルタイムデータに基づいて推論動作を行い、推論結果をAI育成システム300に出力する(S3)。
【0043】
一方、AI育成システム300は、プラントシステム20からの時系列データを取得して保存し、所定の分類ルールに従ってこの時系列データを複数のグループに分類する(S4)。次いで、AI育成システム300は、それらのグループ(つまり、様々なノウハウ領域)のうち、発生頻度が高い(そこに分類されたプラントデータの量が比較的に大きい)グループを優先的に選び、その選ばれたグループ内から、未だ教師データ作成に使われてないデータ(つまり、新しいノウハウ領域に属するプラントデータ)を抽出して、その抽出されたプラントデータを運転員40に提示して、ノウハウ登録と教師データ登録とを運転員40に依頼する(S5)。そして、AI育成システム300は、運転員40が登録した(S6)ノウハウとそのノウハウに関する教師データとを受け取る(S5)。さらに、AI育成システム300は、運転員40が登録した教師データを用いて、自身が有する学習モデルに新しい(つまり運転員40により登録された)ノウハウを学習させる(S7)。そして、AI育成システム300は、学習した新しい学習モデルをリアルタイム推論システム310に登録(デプロイ)する(S8)。
【0044】
また、AI育成システム300は、リアルタイム推論システム310から入力された推論結果の信頼性を判断し、信頼性が高いと判断したら運転員40に対して推論結果に基づくノウハウを提案する(S9)。推論結果の信頼性が低いと判断したら、その時の推論に用いた入力プラントデータをもって上記ステップS5へ進む(S9)。また、運転員40に提案したノウハウに対する運転員40の評価を受け取り、ノウハウ提案が不当という評価を受けた場合には、その時の推論に用いた入力プラントデータをもって上記ステップS5へ進む(S9)。
【0045】
図5は、本実施形態に係るプラント運転支援システムにおけるノウハウ抽出プロセスを説明するための図である。
図6は、本実施形態に係るプラント運転支援システムにおけるノウハウ登録と教師データ登録のユーザーインタフェースを例示する図である。
【0046】
図5に示されたプロセスは、
図3におけるデータ分類部301とノウハウ登録部302が行なうプロセス、すなわち、
図4におけるステップS4からS5のプロセスに相当する。
【0047】
図5において、まず、ステップS11のデータの分類とグラフ化と頻度計算では、時系列データを所定の分類ルールに基づいて複数のグループ(例えば、複数タイプの運転操作にそれぞれ対応するグループ、あるいは、複数タイプのアラームにそれぞれ対応するグループなど、起り得る複数タイプの事象つまり複数のノウハウ領域にそれぞれ対応するグループ)に分類し、グループ(つまり、事象タイプ、換言すれば、ノウハウ領域)ごとに、各時点のプラントデータを保存していく。そして、各グループの保存データ量、換言すれば、各グループの発生頻度を計算しグラフ化する。図示の例では、3つのグループA、B、Cにデータが分類され、グループAの発生頻度が最も高い。
【0048】
このようなグループごとのヒストグラムは、運転員40に提示されてよい。また、各グループに属するプラントデータのセットの詳細も、運転員40に提示されてよい。それにより、運転員は、何がモデルに優先的に学習させるべきノウハウかの判断がやりやすくなる。
【0049】
次に、ステップS12のノウハウ登録では、複数のグループの中から、未だ教師データ作成に利用されてないプラントデータの量がより多い(つまり、発生頻度のより高い未学習の事象を含んだ)グループが優先的に選ばれ(典型的には発生頻度が最も高いグループが選ばれ)、そのグループから、教師データ作成に未利用のプラントデータが抽出される。例えば
図5において、発生頻度の最も高いグループAの中から、ある未利用のプラントデータが抽出される。そして、抽出されたプラントデータとともに、
図6(A)に例示するようなノウハウ登録フォームが運転員に表示され、それにより、運転員に対してノウハウ登録が依頼される。運転員は、そのフォームに必要事項を入力することで、ノウハウ登録を行う。
【0050】
図6(A)に例示するように、ノウハウ登録時には、抽出されたプラントデータに関する運転ノウハウの基本的な事項、例えば、ノウハウ名、操作された機器、操作の内容、操作された時間などが、運転員40から入力される。
【0051】
その後のステップS13の教師データ登録では、
図6(B)に例示するような教師データ登録フォームが運転員40に表示され、運転員40はそのフォームに、教師データの作成に必要な、ノウハウ登録に追加して登録すべきより細かい事項を入力する。
図6(B)に示す例では、登録された操作を行う時に確認すべき(つまり、その操作を行うために満たされるべき)1以上の条件、例えば「機器Aの液体温度」及び「機器Aの気化速度」などが登録される。これらの登録事項に基づいて、教師データが作成される。
【0052】
上記のノウハウ登録と教師データ登録により、ある運転ノウハウの教師データが作られて登録されると、その後、
図5にステップS13で示すように、その登録教師データに基づいて、その登録ノウハウの適用に該当すると判断されるプラントデータ(例えば、ノウハウ登録に使ったプラントデータに類似度の高いプラントデータ)が、既に蓄積されている過去のプラントデータ(時系列データ)のセットの中から自動的にサーチされ抽出される。そして、抽出されたプラントデータに対して、その登録ノウハウと同じラベルが自動的に付けられる。これにより、その登録ノウハウに該当するプラントデータだけを集めた新たなグループ(ラベル)が作られたことになる。すなわち、
図5のステップS12のグループAのグラフに例示するように、ステップS11で所定の分類ルールで分類されたグループA(これは、比較的に大雑把な分類である)の中に、登録ノウハウごとのより詳細なグループ1、2、3が作られて、それぞれのグループのデータにそのグループのラベルが付けられることになる。そして、それら登録ノウハウ毎に分類された抽出データに基づいて、その登録ノウハウに関する追加の教師データが作られ、それら追加の教師データを用いて、学習モデルの追加の学習が行われ、それにより、学習レベルがさらに向上する。
【0053】
上記のように登録ノウハウ毎の詳細なグループが一旦作られると、
図3に示したデータ分類部301が時系列データやリアルタイムデータを分類する(ラベルを付ける)時(
図5のS11)にも、それら詳細なグループ(ラベル)が適用される。したがって、登録ノウハウが増えていくにつれて、データ分類がより精細になっていき、それは、推論の精度向上に寄与する。なお、詳細なグループの作成は、完全に自動で行ってもよいが、運転員40の助けを利用してもよい。例えば、過去の蓄積データセットから登録ノウハウに該当するデータを抽出した際、その抽出されたデータを運転員40に提示して、抽出デーが妥当か否かを判断してもらい、妥当な場合にのみ抽出データをそのグループに入れるようにしてもよい。あるいは、その抽出データに基づいて作った教師データを運転員40に提示して、教師デーが妥当か否かを判断してもらい、妥当な場合にのみその教師データを学習に使うようにしてもよい。
【0054】
図7は、本実施形態に係るプラント運転支援システムにおけるノウハウ提案・評価のユーザーインタフェースを例示する図である。
【0055】
図3を参照して既に説明したように、リアルタイム推論システム310が出力する推論結果の信頼性をノウハウ評価部303が評価して、推論の信頼性が所定レベル以上に高ければ、その推論結果(例えば、どんな操作をすべきかということ)が、その推論で用いられたプラントデータと、そこに適用されたノウハウ(ラベル)の情報と共に、ノウハウ提案という形で運転員40に提示される。例えば、
図7に例示するように、適用ノウハウの名称、提案された操作内容(推論結果)、対象のプラントデータの日時、そのノウハウの登録者などが提示される。運転員40は、その提案を評価して妥当か否かを判断し、その結果をノウハウ提案フォームに入力する。
【0056】
ノウハウ提案が妥当でないと評価された場合には、すでに説明したように、その推論で用いられたプラントデータを用いて新たにノウハウ登録と教師データ登録が行われる。
【0057】
図8は、リアルタイム推論システム310からの推論結果についてノウハウ評価部303が行う信頼性の判断の流れの一例を示す。
【0058】
図8に示すように、リアルタイム推論システム310で推論に用いられた入力リアルタイムに付けられたラベルと同じラベルをもつ(つまり、同じグループの)プラントデータを、時系列データのセットの中から抽出する(ステップS21)。そして、その抽出された同ラベルをもつ時系列データの所定の特徴量と、その入力リアルタイムデータの特徴量との間の類似度を計算する(S22)。その際、その時系列データに付いて教師データが既に作成済みなら、その教師データに含まれる操作条件(例えば、
図5や
図6(B)に例示した「温度センサ1がXX」、「圧力センサ1がXXX」など)は、特徴量の中でも他の成分により重みの大きい成分として扱うことができる。
【0059】
その後、計算された類似度が所定レベルより高ければ、その推論結果は信頼性が高いと判断され、そうでなければ、信頼性が低いと判断される(S23)。
【0060】
図9は、
図4に示されたステップS5の“新ノウハウ領域の提示と、ノウハウの登録”を行うための構成の変形例を示す。
【0061】
図9に示すように、ノウハウ登録部302(これは、
図3に示すように、AI育成システム300の一部である)が、運転評価法学習部322と、運転評価部324と、ノウハウ・教師データベース326を有する。運転評価法学習部322は、運転評価法、すなわち、運転員40が行ったプラントシステム20の操作つまり運転アクションの良し悪しを評価する(例えば、百点満点中の60点などというように採点する)方法、を学習して、その方法で運転アクションを評価する運転評価モデルを作成するシステムである。運転評価部324は、運転評価法学習部322によって作成された運転評価モデルを用いて、運転員40が行った運転アクションを評価して、その評価結果(例えば、百点満点中の60点などという採点結果)を運転員40に伝えて、その運転アクションに関するノウハウ(特に、評価結果の低い運転アクションに関するノウハウ)の登録を運転員40に依頼するシステムである。ノウハウ・教師データベース326は、運転員40が登録したノウハウ及び教師データを格納するシステムである。
【0062】
図9に示すように、運転評価法学習部322は、プラントシステム20から過去に出力された運転データ(時系列データ)を蓄積した時系列データベース320(これは、本実施形態にかかるシステム内にあっても、同システム外にあってもよい)から、過去の特定種類の(例えば、特定の機器を特定の目的で操作する)運転アクションに関わるデータセットを取り出し、そして、そのデータセットを運転員40に提示して、そのデータセットの示す運転アクションの良し悪しの評価(評価法の学習のために行う事前の準備的な評価)を、運転員40に依頼する。運転員40は、その依頼に応えて、提示されたデータセットの示す運転アクションの良し悪しを判断して、その評価結果を運転評価法学習部322に入力(登録)する。運転評価法学習部322は、一つの種類の運転アクションについて、時系列データベース320から多数のデータセットを取りだして、上記のような事前の運転評価依頼と運転評価結果の登録とを繰り返すことで、その種類の運転アクションを評価する方法を必要なレベルまで学習する。
【0063】
なお、プラントには数多くの機器があり、そして、プラント運転に必要な運転アクションの種類は数多くある。例えば、それぞれの機器について、立ち上げ操作、停止操作、及び、運転条件変更の操作などがある。それらの運転アクション種類の各々ごとに、運転評価法学習部322と運転評価部324が設けられてよい。しかし、以下の説明では、一種類の運転アクションに関する運転評価法学習部322と運転評価部324を取り上げて説明する。
【0064】
運転評価法学習部322により作成された学習済みの運転評価モデルは、運転評価部324にデプロイされ、それにより、運転評価部324が動作可能になる。運転評価部324は、プラントシステム20から出力される運転データ(時系列データベース320に蓄積された過去の運転データでもよいし、あるいは、プラントシステム20から得られる現在の運転データ(リアルタイムデータ)でもよい)を入力し、その運転データから所定の機器の所定の運転アクション種類を示すデータセットを取り出して、そのデータセットを評価する(例えば、90点であるとか、65点であるとか、採点をする)。そして、運転評価部324は、そのデータセットと、そのデータセット(運転アクション)の評価結果(例えば、90点や65点などの点数)とを、運転員に提示する。この場合、データセットは、運転員40が視覚的に把握しやすいように、それぞれのデータ値の時間軸に沿った変化を示したグラフの形式で表示される。運転評価部324が評価を行う時期と、その評価結果を運転員40に提示する時期は、それぞれ、評価対象となった運転アクションが行われた後の所定時期か又は選択された時期でもよいし、あるいは、その運転アクションとほぼ同時(つまり、リアルタイム)でもよい。例えば、運転アクションの評価もその結果の運転員への提示も、運転アクションが終わった後の運転員40により選択された時期のような運転員40にとり都合の良い時期であってよい。あるいは、例えば、運転アクションの評価は運転アクションとほぼ同時にリアルタイムで行われ、その評価結果は一旦本システム内に保存され、その後、運転員40により選択された時期のような運転員40にとり都合の良い時期に、その評価結果が運転員40に提示されるようになっていてよい。
【0065】
運転員40に評価結果を提示する時、評価結果の良し悪しに関わらず、評価した運転アクション(データセット)を全て運転員40に提示しても良いし、あるいは、評価結果が所定基準より悪い(例えば、点数が80点未満の)運転アクションだけを選んで運転員40に提示しても良い。いずれにせよ、少なくとも、評価結果が所定基準より悪い運転アクションは、運転員40が不得意なアクションであるから、運転員40を助けるために、ノウハウの登録対象とすることが望ましい。したがって、運転評価部324は、評価結果の悪い運転アクションを運転員40に通知した際には、そのアクションについてのノウハウの登録を運転員40に依頼する。
【0066】
運転員40は、その登録依頼に応えて、その運転アクションに関するノウハウと教師データとを運転評価部324に登録することができる。運転評価部324は、登録されたノウハウと教師データをノウハウ・教師データベース326に格納する。ここに格納された教師データは、既に
図3と
図4を参照して説明したように、リアルタイム推論システム310を構築する推論モデルの学習又は推論ルールの設計に用いられる(
図4のステップS7~S8)。
【0067】
図10は、上述した運転評価学習部322が運転評価法を学習するプロセスの流れを例示する。
図11は、運転評価法の学習時におけるユーザーインタフェースでの運転評価学習部22と運転員40との間のコミュニケーションの流れを例示する。
【0068】
図10に示すように運転評価学習部322は、運転員40に運転支援の対象にしたいプラントシステム20内の装置と運転アクションの種類を選択させる(S31)。例えば、
図11に示すように、S311で、運転評価学習部322が運転員40に「装置と操作を選んでください」というような要求メッセージを提示し、これに応答して運転員40が、S312で、例えば「XXX反応系の起動操作」というように、支援対象にしたい装置と運転アクションの種類を指定する。
【0069】
その後、
図10に示すように運転評価学習部322は、運転員40に、その対象装置と運転アクション種類に関して表示させたい(つまり、運転アクションの良し悪しを評価するために見るべき)データ項目のセットを選択させる(S32)。例えば、
図11に示すように、S321で、運転評価学習部322が運転員40に「表示したい項目を選んでください」というような要求メッセージを提示し、これに応答して運転員40が、S322で、例えば「XXヒーター出口ガス温度、XX触媒1層目下部温度、XXXヒーター出口ガス温度、XXX出口ガス圧」というように、評価のために見るべきデータ項目のセットを指定する。
【0070】
その後、
図10に示すように運転評価学習部322は、運転員40に指定された対象装置と運転アクション種類に関して、運転員40に指定されたデータ項目のデータセットを時系列データベース320から1セット以上抽出し、それらのデータセットをグラフ形式で運転員40に提示する(S33)。例えば、
図11に示すように、S331で、運転評価学習部322が、抽出した各データセットのデータ値の時間軸に沿った変化を表したグラフを作成して、「このグラフで問題ないか確認してください」というような要求メッセージとともに、そのグラフをユーザーインタフェーススクリーンに表示する。
【0071】
その後、
図10に示すように運転評価学習部322は、グラフ形式で表示された運転データの各セット(つまり、過去の各運転アクション)についての評価(採点)を運転員40に行わせる(S34)。例えば、
図11に示すように、S341で、運転評価学習部322が「過去の運転データを選択し点数をつけてください」というような要求メッセージを表示し、それに応答して運転員40が、S342で、それぞれのグラフ(運転アクション)に対して、例えば70点とか、20点などの評価点数を入力する。
【0072】
その後、
図10に示すように運転評価学習部322は、運転員40に提示したそれぞれのデータセット(運転アクション)と、運転員40から入力されたそれぞれのデータセット(運転アクション)の評価結果(点数)を用いて、対応する装置の運転アクション種類の運転評価法を学習した運転評価モデルを作成する(S35)。なお、ここで学習される評価方法は、必ずしも例示された二桁の点数をつけるような詳細な評価方法でなければならないわけではなく、より簡易な評価方法であってもよい。簡易な評価方法として、例えば、良いか悪いかの二段階で評価する方法があり得る。この二段階評価法の場合、良い(又は悪い)という一方の評価結果を得たデータセットだけを用いて学習してもよい。例えば、良いという評価を得たデータセットだけを用いて学習する場合、学習した良いデータセットからのデータ空間上での距離を計算して、その距離に応じた点数又は単に良いか悪いかの判断を、評価結果として出すような運転評価モデルを作ることができる。
【0073】
上述の学習により作成された運転評価モデルを用いて、運転評価部324が、運転員40が行った運転アクションをリアルタイムで評価する。
図12は、運転評価部324が行う運転評価のプロセスの流れを例示する。
図13は、その時のユーザーインタフェースでの運転評価部324と運転員40との間のコミュニケーションの流れを例示する。
【0074】
図12に示すように運転評価部324は、プラントシステム20からリアルタイムの運転データ(リアルタイムデータ)を入力し、その中の対象の装置と運転アクション種類に関するリアルタイムデータから、選択されたデータ項目のデータセットを抽出する(S41)。そして、運転評価部324は、その抽出したデータセット(つまり、今実施された運転アクション)を学習済みの評価方法で評価(採点)する(S42)。
【0075】
そして、運転評価部324は、その評価結果が所定の選別条件(例えば、採点された点数がある基準値より低い、つまり、今行われた運転アクションをある基準より悪いと追う条件)を満たすか否かを判断し、その条件を満たす場合、評価されたデータセットとその評価結果とを、運転員40に提示する(S43)。データセットは、運転員40が視覚的に理解しやすいように、例えば、時間軸に沿ったデータ値の変化を表現したグラフの形式で表示される。そして、運転評価部324は、その評価結果の指標(根拠)となるデータ状態が何であるかを、表示されたデータセットのグラフ上で、運転員40に指定させる(S44)。
【0076】
なお、上記のS43では、低い評価結果が出た場合だけが選択的に運転員40に提示されるが、必ずしもそうでなければならないわけではない。別法として、評価結果の高い低いに関わらず、評価を行った全ての場合が運転員40に提示され得るようにしてもよいし、あるいは、高い評価結果が出た場合が選択的に運転員40に提示され得るようにしてもよい。
【0077】
上述した
図12のS43~S44のプロセスにおけるユーザーインタフェースの表示例が、
図13のS431~S442に示されている。(なお、
図13に示された表示メッセージに応答する運転員40は、評価された運転アクションを行った運転員40とは異なる人物であってよい。)例えば、運転員40が対象機器の起動操作を行ない、その起動操作を運転評価部324はある基準より低いと評価した場合、運転評価部324は、
図13のS431で、「今日の起動操作は65点です。この評価点数は正しいですか?」というように、その低い評価結果を示すメッセージを運転員40に表示する。このメッセージに応答して、運転員40が、S432で「はい」のように、その評価結果に同意すれば、運転評価部324は、S442に示すように、評価されたデータセットのグラフを運転員40に表示するとともに、S441に示すように、「減点された個所を教えてください」のようなメッセージを表示して、その評価結果の指標となるデータ状態がグラフ上のどの個所であるかを指定するよう、運転員40に要求する。この要求に応えて、運転員40は、S442に示すように、指標マーク51をグラフ上の上記指標に該当するデータ状態の個所(この例では、あるデータ値が急激に変化した個所)に付す。運転評価部324は、この指定マーク51が付された個所のデータ状態を、上記評価結果(低い評価結果)の指標として記憶する。
【0078】
その後、
図12に示すように、運転評価部324は、そのデータ状態が意味する事柄と、そのデータ状態が起きた時に行うべきであった正しい操作の詳細情報を、運転員40に入力させる(S45)。例えば、
図13に示すように、運転操作部324は、S451で、「どんな状態か、どう操作すべきか教えてください」のような要求メッセージを運転員40に提示する。この要求に応えて運転員40が、S452で、「状態『XXヒーター出口温度』が『急降下しています』。状態『反応停止する可能性があります』。操作『XXXX操作幅』を『小さくしてください』。」のような情報を入力する。運転評価部324は、その入力情報を、リアルタイム推論部310(
図3参照)が運転員40に提示することになる提案メッセージの内容として、記憶する。
【0079】
その後、
図12に示すように、運転評価部324は、時系列データベース320から、対象の装置と運転アクション種類に該当するデータセットを1セット以上(通常は多くのセットを)抽出して、それぞれのデータセットを上記と同様のグラフ形式で運転員40に提示する(S46)。そして、運転評価部324は、それらのデータセットのグラフの中から、先ほどの評価結果(低評価結果)とは対照的な評価結果(高評価結果)の指標となるデータ状態を指定するよう、運転員40に要求する(S47)。例えば、
図13に示すように、運転操作部324は、S471で、「目指すべき運転を教えてください」のようなメッセージを運転員40に表示するとともに、S472 で、抽出された1セット以上(通常は多くのセット)のデータセットのグラフを表示する。これに応えて、運転員40は、S472に示すように、表示されたグラフの中から、目指すべき(高く評価される)運転アクションの指標となるデータ状態の個所を選び、その個所に指標マーク53を付けることで、その指標に該当するデータ状態を指定する。運転評価部324は、その指定されたデータ状態を、上記対照的な評価結果(高い評価結果)の指標として記憶する。
【0080】
その後、
図12に示すように、運転評価部324は、S44~S47で運転員40が入力した低評価と高評価の指標となるデータ状態と行うべき運転アクションについて、ノウハウ名を運転員40に入力させ(S48)(例えば、
図13のS481~S482)、そして、そのノウハウ名に関連付けて、それらの入力情報を、教師データとして、ノウハウ・教師データベース326に格納する(S49)。
【0081】
ノウハウ・教師データベース326に格納された教師データは、既に説明したように、リアルタイム推論システム310(
図3参照)を構成する推論モデルの作成に使用される。例えば、その推論モデルが機械学習可能なニューラルネットワークを用いて構成される場合には、ノウハウ・教師データベース326内の教師データは、その機械学習のための教師データとして使用され得る。あるいは、その推論モデルが、予めプログラムされた推論ルールを用いて推論を行うノイマン型のシステムを用いて構成される場合には、ノウハウ・教師データベース326内の教師データは、その推論ルールのプログラミングつまり設計に利用され得る。
【0082】
こうして作られたリアルタイム推論システム310は、プラントシステム20からリアルタイムの運転データ(リアルタイムデータ)を入力し、そのリアルタイムデータの中から、対象の機器の運転アクション種類に関する選択されたデータ項目のデータセットであって、低評価結果の指標に該当するデータ状態を含んだデータセットを抽出する。そして、リアルタイム推論システム310は、その抽出されたデータセットの中から低評価の指標に相当するデータ状態を特定し、そのデータ状態が何を意味するか、及び、そのデータセットに関して行うべき操作は何かを特定し、その特定された事柄を用いて提案メッセージを作成して運転員40に提示する。
【0083】
図14は、リアルタイム推論システム310が運転者40に提示する提案メッセージの一例を示す。
図14に示すように、抽出されたデータセットがグラフ形式で表示され、そのグラフ上で、低評価の指標に該当するデータ状態の個所に指標マーク55が表示される。そして、そのデータセットについて、「装置:XXX反応系。操作:起動」のように、対象の機器と運転アクション種類が表示される。さらに、「状態:XXヒーター出口温度が急低下しています。提案:XXXX操作幅を小さくしてください」のように、指標のデータ状態についての説明と、行うべき操作の詳細情報が表示される。
【0084】
以上詳細に説明したように、本実施形態のプラント運転支援システム30によれば、何の知識を学習すべきかを自ら選んで人間に要求しながら学習を進めていくプラント運転支援システム及びプラント運転支援システムにおける学習方法を実現することができる。
【0085】
なお、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために構成を詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、各実施例の構成の一部について、他の構成に追加、削除、置換することが可能である。
【0086】
また、上記の各構成、機能、処理部、処理手段等は、それらの一部または全部を、例えば集積回路で設計する等によりハードウェアで実現してもよい。また、本発明は、実施例の機能を実現するソフトウェアのプログラムコードによっても実現できる。この場合、プログラムコードを記録した記憶媒体をコンピュータに提供し、そのコンピュータが備えるプロセッサが記憶媒体に格納されたプログラムコードを読み出す。この場合、記憶媒体から読み出されたプログラムコード自体が前述した実施例の機能を実現することになり、そのプログラムコード自体、及びそれを記憶した記憶媒体は本発明を構成することになる。このようなプログラムコードを供給するための記憶媒体としては、例えば、フレキシブルディスク、CD-ROM、DVD-ROM、ハードディスク、SSD(Solid State Drive)、光ディスク、光磁気ディスク、CD-R、磁気テープ、不揮発性のメモリカード、ROMなどが用いられる。
【0087】
また、本実施例に記載の機能を実現するプログラムコードは、例えば、アセンブラ、C/C++、perl、Shell、PHP、Java(登録商標)、Python等の広範囲のプログラムまたはスクリプト言語で実装できる。
【0088】
さらに、各実施例の機能を実現するソフトウェアのプログラムコードのすべてまたは一部は、予め計算機の記憶資源に格納されていてもよいし、必要に応じて、ネットワークに接続された他の装置の非一時的記憶装置から、または計算機が備える図略の外部I/Fを介して、非一時的な記憶媒体から、計算機の記憶資源に格納されてもよい。
【0089】
さらに、実施例の機能を実現するソフトウェアのプログラムコードを、ネットワークを介して配信することによって、それをコンピュータのハードディスクやメモリ等の記憶手段またはCD-RW、CD-R等の記憶媒体に格納し、コンピュータが備えるプロセッサが当該記憶手段や当該記憶媒体に格納されたプログラムコードを読み出して実行するようにしてもよい。
【0090】
上述の実施例において、制御線や情報線は、説明上必要と考えられるものを示しており、製品上必ずしも全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。全ての構成が相互に接続されていてもよい。
【符号の説明】
【0091】
20…プラントシステム 30…プラント運転支援システム 40…運転員 300…AI育成システム 301…データ分類部 302…ノウハウ登録部 303…ノウハウ評価部 310…リアルタイム推論システム 320…時系列データベース 322…運転評価法学習部 324…運転評価部 326…ノウハウ・教師データベース