(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023111661
(43)【公開日】2023-08-10
(54)【発明の名称】精密な癌治療のためのターゲットを特定する方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/68 20180101AFI20230803BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230803BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20230803BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20230803BHJP
A61K 31/713 20060101ALI20230803BHJP
A61K 31/7105 20060101ALI20230803BHJP
A61K 31/7088 20060101ALI20230803BHJP
A61K 38/02 20060101ALI20230803BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20230803BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20230803BHJP
C12N 15/09 20060101ALN20230803BHJP
【FI】
C12Q1/68 ZNA
A61P35/00
A61K45/00
A61K48/00
A61K31/713
A61K31/7105
A61K31/7088
A61K38/02
A61K39/395 D
A61K39/395 N
A61K39/395 T
G01N33/53 M
C12N15/09 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022013616
(22)【出願日】2022-01-31
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (1)令和3年3月22日 テンペレ ユニバーシティー オンラインニュース (2)令和3年8月4日 Cancer Research, OnlineFirst August 4, 2021 (3)令和3年9月8日 Cancer Research, Published OnlineFirst September 8, 2021; DOI:10.1158/0008-5472 (4)令和3年11月11日E-poster presented at the 2nd AACR-KCA Joint Conference on Precision Medicine in Solid Tumors
(71)【出願人】
【識別番号】519107124
【氏名又は名称】タンペレ ユニバーシティー ファウンデーション エスアール
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100205659
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 拓也
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【弁理士】
【氏名又は名称】岩池 満
(74)【代理人】
【識別番号】100185269
【弁理士】
【氏名又は名称】小菅 一弘
(72)【発明者】
【氏名】ボヴァ ジョージ スティーヴン
(72)【発明者】
【氏名】ニクター マッティ
【テーマコード(参考)】
4B063
4C084
4C085
4C086
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA13
4B063QA19
4B063QQ03
4B063QQ42
4B063QQ52
4B063QR08
4B063QR32
4B063QR62
4B063QR66
4B063QS10
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4B063QS28
4B063QS39
4B063QX02
4C084AA01
4C084AA13
4C084AA17
4C084BA03
4C084NA05
4C084NA14
4C084ZB26
4C085AA13
4C085AA14
4C085CC23
4C085DD62
4C085EE01
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA05
4C086NA14
4C086ZB26
(57)【要約】 (修正有)
【課題】治療前後の試料において、根絶されたサブクローン及び抵抗性サブクローンのゲノムの特徴を直接比較することにより、治療効果を高めるための分子標的を特定する方法を提供する。
【解決手段】a)癌治療又は治療区間の前に患者から得られた第1の試料のサブクローナル癌細胞組成を決定する工程と、b)癌治療又は治療間隔の後に患者から得られた第2の試料のサブクローナル癌細胞組成を決定する工程と、c)第1の試料及び第2の試料のサブクローナル癌細胞組成を比較して、癌治療又は治療間隔によって根絶された癌細胞サブクローンと、癌治療又は治療間隔に抵抗性の癌細胞サブクローンとを区別する工程と、d)根絶された癌細胞サブクローン及び抵抗性の癌細胞サブクローンの分子特性を比較して、抵抗性の癌細胞サブクローンに向けられた精密な癌治療のための分子標的を特定する工程とを含む、精密な癌治療のための分子標的を特定する方法である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
精密な癌治療を必要とする患者において、精密な癌治療のための分子標的を特定する方法であって、
a)癌治療又は治療区間の前に前記患者から得られた第1の試料のサブクローナル癌細胞組成を決定する工程と、
b)前記癌治療又は治療間隔の後に前記患者から得られた第2の試料のサブクローナル癌細胞組成を決定する工程と、
c)前記第1の試料及び第2の試料のサブクローナル癌細胞組成を比較して、前記癌治療又は治療間隔によって根絶された癌細胞サブクローンと、前記癌治療又は治療間隔に抵抗性の癌細胞サブクローンとを区別する工程と、
d)前記根絶された癌細胞サブクローン及び前記抵抗性の癌細胞サブクローンの分子特性を比較して、前記抵抗性の癌細胞サブクローンに向けられた精密な癌治療のための分子標的を特定する工程と
を含む方法。
【請求項2】
前記根絶された癌細胞サブクローン及び前記抵抗性の癌細胞サブクローンの分子特性を比較する工程が、前記根絶されたサブクローン及び抵抗性のサブクローンから得られた配列データを比較することを含む請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記分子標的が、前記根絶された癌細胞サブクローンと比較して、前記抵抗性の癌細胞サブクローンにおいて発現が増加している遺伝子である請求項1又は請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記分子標的が、不完全なタンパク質を発現するか、又は機能的なタンパク質の喪失を引き起こす変異した遺伝子である請求項1又は請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記分子標的がDNA修復関連遺伝子である請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
標的特異的な癌治療薬を前記患者に投与する工程をさらに含む請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記標的特異的な癌治療薬が、siRNA分子、shRNA分子、DsiRNA分子、人工miRNA前駆体、アンチセンスオリゴヌクレオチド、抗体、ナノボディ、アフィボディ、アプタマー、ペプチド、低分子阻害剤、又はCRISPR-Casシステム等の遺伝子編集剤を含む請求項6に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、精密な癌治療のためのターゲットを特定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
治療法に対する癌細胞の抵抗性の出現を理解することは、癌の治療成績を向上させる上で重要である。抵抗性癌細胞サブクローンは、患者が元の癌細胞集団を標的とした治療を受けた後に残る癌細胞集団のことであり、それは比較的簡単に定義できる。一方、治療によって根絶された癌細胞サブクローンの定義は比較的難しい。というのも、特定の治療後に根絶されたサブクローンがもはや患者に存在しないことを合理的に証明する必要があるからである。抵抗性を定義する特性がどの時点で生じたかは事前にはわからないため、根絶されたサブクローンの主要な特性を抵抗性サブクローンの特性からのみ推測することはできないことを認識することも重要である。
【0003】
特定の治療法によって根絶されることがゲノム上で証明された最初の癌サブクローンは、2015年に白血病で報告されたが(1)、その際には、根絶されたサブクローンの特性よりも抵抗性の出現に大きい焦点が当てられた。本発明者らは最近、転移性前立腺癌(mPC)の患者「A34」において、カルボプラチン化学療法によって根絶された臨床的に重要なサブクローンを報告した(2)。本発明者らの知る限り、これは、固形腫瘍である転移性前立腺癌においてサブクローンが根絶されたことを示す初めて報告されたゲノム上の証拠であり、本発明者らは、以前、体細胞性L1レトロトランスポゾン活性が追跡可能なゲノムの不均一性の原因であることを報告した(3)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Ma X、Edmonson M、Yergeau D、Muzny DM、Hampton OA、Rusch Mら、Nature Communications. 2015;6:6604
【非特許文献2】Woodcock DJ、Riabchenko E、Taavitsainen S、Kankainen M、Gundem G、Brewer DSら、Nature Communications. Nature Publishing Group; 2020;11:5070
【非特許文献3】Tubio JMC、Li Y、Ju YS、Martincorena I、Cooke SL、Tojo Mら、Science. 2014;345:1251343
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、少なくとも部分的には、1)部分的奏効を示す個々の患者において、プロスペクティブに(将来を見越して)計画されたサイドバイサイドの(対照させた)サブクローンの根絶及び抵抗性の差異的ゲノム解析が、精密な癌医療を進めるためのユニークで強力な中間工程を提供できるかどうか、2)L1活性化は、それ自体が根絶性又は抵抗性につながるゲノム不均一性のダイナミックな源であり、この反応を既存の薬物でブロックできるかどうかを評価するという驚くべき目的に基づく。
【課題を解決するための手段】
【0006】
BRCA2欠損の転移性前立腺癌患者由来の治療前後の試料において、根絶されたサブクローン及び抵抗性サブクローンのゲノムの特徴を直接比較することにより、治療効果を高めるための分子標的を特定するために開発された方法が本明細書に開示される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1A】患者A34における原発性及び転移性の試料及びサブクローンのゲノム進化解析により、抵抗性サブクローン及び根絶されたサブクローンにおける明確なゲノムの特徴が明らかになる。(A)系統樹とサブクローン及び試料のボタンプロットとで示された、患者A34の致死性転移性前立腺癌のサブクローン構造(Woodcockら(2)より改変)。全19個のサブクローンのうち、17個のサブクローンが系統樹を構築するために使用された(2個のサブクローンは50%を超えるインデルを含んでいたため除外された)。赤色のボックスは、治療によって根絶され、剖検試料では検出されなかったサブクローンを表し、水色のボックスは、剖検時に見つかった化学療法に抵抗したサブクローンの概要を示す。系統樹では、系統の最終的なサブクローンと、それが観察された試料(複数可)を表す文字とを点線が結んでいる。各サブクローンの色は、記号表に示されているように、その位置を反映している。赤い数字は、WGSデータに基づいて、系統樹の各ポイントに存在する置換の総数を示す。ボタンプロットも、各試料で検出されたサブクローンを示しており、各円の面積はサブクローンの癌細胞割合(CCF)に対応している(1というCCFは、プロットのトップの(主幹の(truncal)ノードで見られる)。点線で囲まれた円は、試料で検出されなかったサブクローンを示す。ボタンプロットの下には、患者A34由来の試料の治療暴露がマトリクスとして示されている。根絶されたサブクローンは、外照射及びアンドロゲン除去療法を受けた後も存在し続けたため、サブクローン根絶はカルボプラチン+エトポシドの化学療法と関連づけられる。試料は採取時期(yrsptd=死亡前の年数)及び場所に応じてラベルが付けられている。仙骨転移(SacralBoneMet)試料は、患者が亡くなる11年前に摘出された脊髄を圧迫する仙骨神経根の転移である。
【
図1B】患者A34における原発性及び転移性の試料及びサブクローンのゲノム進化解析により、抵抗性サブクローン及び根絶されたサブクローンにおける明確なゲノムの特徴が明らかになる。(B)A34由来の全ゲノム配列決定試料におけるL1挿入イベントのCircos(サーコス)プロットツリー。曲線はソースエレメントが決定されたL1トランスダクションであり、各線はソースの染色体に応じて色付けされている。黒い三角形は単独L1組込み部位(挿入部位)(ソースエレメント不明)を表す。根絶されたサブクローンに特異的なTARIDにおける体細胞L1組み込みに印が付されている。
【
図1C】患者A34における原発性及び転移性の試料及びサブクローンのゲノム進化解析により、抵抗性サブクローン及び根絶されたサブクローンにおける明確なゲノムの特徴が明らかになる。(C)仙骨転移試料の3’隣接センス-アンチセンス対のTARID遺伝子へのL1挿入により影響を受けていると思われるEYA4遺伝子のプロモーター領域のCpGアイランドにおけるメチル化率(%)の棒グラフ。色分けされた実線のバーは、肝転移(LiverMet)試料及び剖検血液試料の同じゲノム位置(シアン)と比較して、仙骨転移で有意に過剰メチル化された部位(黒)を示す。バイオリンプロットは、TARIDへのL1挿入の結果として考えられる、EYA4遺伝子プロモーターの有意に過剰メチル化されたCpG部位におけるメチル化率(%)を示す。
【
図1D】患者A34における原発性及び転移性の試料及びサブクローンのゲノム進化解析により、抵抗性サブクローン及び根絶されたサブクローンにおける明確なゲノムの特徴が明らかになる。(D)FANCIのノックダウンはLNCaP細胞の増殖を低下するが、PC-3細胞の増殖は低下しない。スクランブル(Scr)対照のsiRNAを基準として使用した。IncuCyte S3 Image解析ツールを用いて、5日間のノックダウン後に細胞のコンフルエンスを測定した。アスタリスクは、t検定に基づく試料条件間の有意差を示す(
**、p<0.01)。
【
図2】症例A34におけるサブクローンの根絶及び抵抗性の差異(DSER)分析。(A)カルボプラチン及びエトポシドはDNAの二本鎖切断を誘導し、ヒストンH2AXがATMのS139リン酸化部位で標的にされてy-H2AXが形成される。(B)EYAタンパク質は、y-H2AXのY142残基での脱リン酸化を媒介し、DNA損傷に対する修復反応を促進する。根絶されたサブクローンではEYAタンパク質が欠損し、その結果、脱リン酸化が起こらないため、抵抗性サブクローンに比べて細胞死が促進される。EYAに媒介される脱リン酸化が起こると、DNA修復反応が進行する。(C)BRCA DNA修復複合体の活性化には、FANCD2及びFANCIが形成する複合体のユビキチン化が必要である。ユビキチン化が阻害されると、これが細胞死を促進する。FANCD2のユビキチン化にはFANCIの存在が必要であり、BRCA2欠損腫瘍ではFANCD2の活性が代償的に上昇することが知られているので(12)、FANCIが存在しない(かつ/又はFANCIのレベルが低下している)と、DNA損傷性の化学療法を受けると細胞死が促進されると考えられる。RB/E2F経路は、FANCD2の転写の負の制御因子として関与している。有害なRB1 S485F(3つの抵抗性肝転移のすべてに存在)は、FANCD2レベルの増加とDNA修復反応の亢進をもたらし、DNA損傷性の化学療法中にサブクローンの生存につながる可能性がある。
【
図3A】カルボプラチン及びエンザルタミドは、前立腺癌細胞のL1トランスポゾン活性を誘導し、この活性はアジドチミジン(AZT)でブロック(阻止)できる。(A)レトロ転位L1-EGFPレポーターアッセイ、及び緑色蛍光チャンネルを備えたIncuCyte S3イメージングを用いて分析した、カルボプラチン(5μM)又はエンザルタミド(ENZ、10μM)のLNCaP前立腺癌細胞におけるL1活性への影響。未処理のLNCaP細胞、ENZに曝露したLNCaP細胞、及びカルボプラチンに曝露したLNCaP細胞の代表的なIncuCyte細胞像が、緑色のチャンネルのみ(L1-EGFP)及び位相差で示されている。使用した対照プラスミドには、2つの陰性対照プラスミド(L1Neg-EGFP及びL1Mut-EGFP)並びに陽性対照プラスミド(L1Pos-EGFP)が含まれていた。棒グラフは、IncuCyteを用いて定量したmm
2/培養密度(confluency)あたりのL1陽性EGFP+の数を示す。
図8も参照。アスタリスクは、t検定に基づく処理条件間の有意差を示す(
*、p<0.05;
**、p<0.01;
***、p<0.001)。
【
図3B】カルボプラチン及びエンザルタミドは、前立腺癌細胞のL1トランスポゾン活性を誘導し、この活性はアジドチミジン(AZT)でブロックできる。(B)LNCaP、VCaP、PC-3、及び22Rv1の前立腺癌細胞におけるORF1 mRNA及びORF2 mRNAの発現に対するカルボプラチン又はENZの効果。アスタリスクは、t検定に基づく処理条件間の有意差を示す(
*、p<0.05;
**、p<0.01;
***、p<0.001)。
【
図3C】カルボプラチン及びエンザルタミドは、前立腺癌細胞のL1トランスポゾン活性を誘導し、この活性はアジドチミジン(AZT)でブロックできる。(C)LuCaP 77及びLuCaP 105(23)由来の去勢前及び去勢後の異種移植試料から得られたL1 ORF1 mRNA及びORF2 mRNAのレベル。アスタリスクは、t検定に基づく処理条件間の有意差を示す(
*、p<0.05;
**、p<0.01;
***、p<0.001)。
【
図3D】カルボプラチン及びエンザルタミドは、前立腺癌細胞のL1トランスポゾン活性を誘導し、この活性はアジドチミジン(AZT)でブロックできる。(D)LNCaP細胞における5日間及び25日間のカルボプラチン及びアジドチミジン(AZT、50μM)、又はENZ及びAZTの単独及び併用、並びにVCaP細胞における5日間のカルボプラチン及びアジドチミジン、又はENZ及びAZTの単独及び併用が、ORF1及びORF2の発現に及ぼす影響。アスタリスクは、t検定に基づく処理条件間の有意差を示す(
*、p<0.05;
**、p<0.01;
***、p<0.001)。
【
図4】LNCaP細胞株及びVCaP細胞株のAZT処理。予備的研究として、AZTがLNCaP細胞又はVCaP細胞において何らかの細胞傷害効果を持つかどうかを探った。細胞を様々な濃度のAZT(0.1μM、5μM、20μM、50μM)に5日間曝露し、IncuCyte S3を用いて細胞のコンフルエンスを測定した。細胞増殖に対するAZTの効果は、未処理の対照と比較して算出された。50μMのAZT処理までは、有意な細胞傷害効果は見られなかった。
【
図5】A34の臨床年表と解析した試料。患者A34は54歳の時(研究同意により年齢は-3~3歳の間で変更された)、無痛性の血尿が1回発生し、それをきっかけに医師の診察を受けた。直腸指診でA34が前立腺の右葉に硬結を持つことが判明した。前立腺生検ではグリーソンスコア2+3=5の前立腺腺癌が認められた。診断時の血清PSA値は16.2ng/mLであり、テクネシウム(99mTc MDP)骨スキャン及び前立腺酸ホスファターゼは正常であった。その後、A34は、治癒を目的として前立腺に6400cGyの外照射を受けた。その7ヶ月後に、A34は、下肢痛及び会陰部のしびれを生じ、S1-S3除圧的椎弓切除術を受け、その際に転移した腫瘍組織の試料(赤色の「e」)及び血清試料(無細胞循環DNAの分離に使用)が得られた。A34は、椎弓切除術の際にリュープロリド/フルタミドによるアンドロゲン除去療法を開始し、椎弓切除術の1ヶ月後から仙骨に4500cGyの対症的放射線照射を受けた。椎弓切除術から18ヶ月後の定期的な胸部X線検査で左肺門部に腫瘤が認められ、気管支鏡生検では腺病変を伴う低分化癌が認められ、左肺門部に6000cGyの放射線照射を受けた。その8ヶ月後には、A34において、前立腺癌の陰茎皮膚転移があることが生検で確認された。前立腺癌組織Z、X及びYが図のように得られた同時期に、尿路閉塞症状のため経尿道的前立腺切除術も受けた。その後、A34は、陰茎に4000cGyの放射線照射を受けた。尿路閉塞症状が持続したとき、両側の経皮的腎瘻チューブを留置した。6ヶ月後、カルボプラチン及びエトポシドによる化学療法を初めて受けた。化学療法後、患者は劇的に気分が良くなり、その後3年間、腎瘻チューブの交換以外の受診を拒否した。その後、A34は、重度の嗜眠状態に陥り、図に示すように4年間でカルボプラチン/エトポシドをはじめとする化学療法をさらに3回受けた。死亡時の血清PSAのピーク値は603.1ng/mLであった。剖検では、大きい肝転移が肝臓をほぼ完全に覆っており、腰仙骨及び腎周囲への転移も認められた。肺転移はなかった。剖検時には、3つの独立した肝転移からの転移性癌のDNA及びRNAの試料(紫色の「cda」)、並びに無細胞の循環DNAが分析のために入手された。
【
図6(1)】A34転移試料の対立遺伝子(アレル)特異的コピー数プロファイル。各試料について図が示されており、染色体が水色及び灰色で交互に表示されている。セグメントの平均値は赤い線で示されている。各図の一番上のパネルは、健常試料と比較した転移試料の読み深度(リードデプス、read depth)の対数比を示す。緑及び紫の線は、それぞれ試料の中央値の対数比及び2倍体対数比(diploid log-ratio)を示す。2番目のパネルは、健常試料と比較した、転移試料におけるバリアント対立遺伝子数の対数オッズ比を示す。3番目のパネルは、総コピー数(黒線)及びマイナーコピー数(赤線)を示す。各図の下部にある染色体バーは、推定細胞率(cf)を示しており、濃青色は細胞率が高いことを、水色は細胞率が低いことを、ベージュは総コピー数が2、マイナーコピー数が1の2倍体のセグメントを示す(4)。
【
図7A】DSER解析によって特定された標的としてのFANCIを支持する追加データ。(A)A34で根絶されたサブクローンを保有する仙骨転移試料に特有の15番染色体の約40Mbpの領域で1コピーの損失を示す絶対的なコピー数の折れ線グラフ。本発明者らは、肝転移試料では15qのコピーニュートラルなヘテロ接合性の消失がないことを確認した(
図6)。15qの失われた領域には295のタンパク質をコードする遺伝子が含まれており、そのうち4つ、NEIL1、FANCI、POLG、及びBLMはDNA修復に関わるものである。これらの遺伝子は、プロットの下部にあるゲノム軸に沿ってマークされている。
【
図7B】DSER解析によって特定された標的としてのFANCIを支持する追加データ。(B)仙骨転移試料でヘテロ接合性が消失したchr15q領域にある4つのDNA修復関連遺伝子(FANCI、POLG、BLM及びNEIL1)についての、Behanら(53)のデータに基づいたPICKLESデータベースの必須性スコア。FANCIは、22Rv1細胞及びLNCaP細胞で正の必須性スコアを有し、細胞の生存に必要であることが示唆されている。必須性スコアは、その遺伝子が必須であることの信頼度を示す分位正規化ベイズ因子である。
【
図7C】DSER解析によって特定された標的としてのFANCIを支持する追加データ。(C)スクランブル(Scr)と比較してFANCI mRNAの発現レベルが有意に低下していることに基づいて、PC-3細胞及びLNCaP細胞におけるFANCI siRNAのノックダウンを確認する棒グラフ。mRNAの発現値は、測定されたGAPDHの発現値に対して正規化された(
*、p<0.05;
**、p<0.01;
***、p<0.001)。
【
図7D】DSER解析によって特定された標的としてのFANCIを支持する追加データ。(D)FANCI siRNA及び様々な濃度のカルボプラチンに曝露されたときのLNCaP細胞の培養密度曲線。スクランブル(Scr)siRNAが対照として示されている。t検定を用いて、FANCI siRNA(左)及びScr(中及び右)と比較した各時間点における試料条件の統計的有意性が判定された(
*、p<0.05;
**、p<0.01;
***、p<0.001)。
【
図8A】画像処理の詳細を含むカルボプラチン及びエンザルタミドへの曝露に対するLNCaP L1の反応。(A)レトロ転位L1-EGFPレポーターアッセイ、及び緑色蛍光チャンネルを備えたIncuCyte S3イメージングシステムを用いて分析した、カルボプラチン(5μM)又はエンザルタミド(ENZ、10μM)のLNCaP前立腺癌細胞におけるL1活性への影響。使用した対照プラスミドには、2つの陰性対照プラスミド(L1Neg-EGFP)及び(L1Mut-EGFP)、並びに陽性対照プラスミド(L1Pos-EGFP)が含まれていた。
【
図8B】画像処理の詳細を含むカルボプラチン及びエンザルタミドへの曝露に対するLNCaP L1の反応。(B)LNCaP前立腺癌細胞におけるL1活性アッセイで使用した代表的なIncuCyte細胞像及び可視化された画像処理計算。未処理のLNCaP細胞、カルボプラチン曝露のLNCaP細胞、及びENZ暴露のLNCaP細胞について、緑チャンネルのみ(L1-EGFP)、位相差のみ、及び位相差+L1-EGFPを用いた、並びに個々の緑色細胞のマスキング「L1-EGFPカウントマスク」(紫)、及び「位相差培養密度及びL1-EGFPカウントマスク」(黄)についての別々の画像が示されている。方法を参照。
【
図9A】L1の活性化及び抑制のさらなる検証。(A)LuCaP 77及びLuCaP 105由来の去勢前後の試料からのL1 mRNAレベル(16)。y軸は、L1Base2から得られたORF1及びORF2が損なわれていない146個の推定上のレトロ転位活性L1エレメントにマッピングされたリードの数を、各試料のヒトゲノムにアラインメントされたリードの合計100万個で割ったものを示す。
【
図9B】L1の活性化及び抑制のさらなる検証。(B)PBS又はセツキシマブで処理された頭頸部扁平上皮癌細胞株SCC25試料からの11週間の時系列のL1 mRNAレベル(17)。y軸は、L1Base2から得られたORF1及びORF2が損なわれていない146個の推定上のレトロ転位活性L1エレメントにマッピングされたリードの数を、各試料のヒトゲノムにアラインメントされたリードの合計100万個で割ったものを示す。L1 mRNAレベルは、治療の最初の5週間において、セツキシマブ処理試料とPBS処理試料の間で有意に異なる(p=0.023、対応のあるt検定)。
【
図9C】L1の活性化及び抑制のさらなる検証。(C)LNCaP細胞で行ったL1-EGFPレポーターアッセイにおいて、アジドチミジン(AZT)はL1トランスポゾン活性をブロックする。アスタリスクは、t検定に基づく処理条件間の有意差を示す(
*、p<0.05;
**、p<0.01;
***、p<0.001)。
【
図9D】L1の活性化及び抑制のさらなる検証。(D)カルボプラチン、アジドチミジン(AZT)、又はその両方で処理した場合のLNCaP細胞におけるL1 ORF1タンパク質のウエスタンブロット。
【発明を実施するための形態】
【0008】
定義
本明細書及び特許請求の範囲に使用されている用語及び表現は、特段の定義がない限り、癌診断の分野で一般的に適用される意味を持つ。本明細書中で使用されているいくつかの用語及び表現は、以下の段落で定義されている意味を持つ。本明細書では、さらなる定義が後述される場合がある。
【0009】
本明細書使用する場合、単数形の表現である「a」、「an」及び「the」は、1つ又は複数を意味する。従って、単数形の名詞は、特段の記載がない限り、対応する複数形の名詞の意味も持つ。
【0010】
本明細書で使用する場合、用語「癌」は、前立腺癌、胃癌、肝臓癌、子宮頸部癌、食道癌、膀胱癌、腎臓癌、膵臓癌、頭頸部扁平上皮癌(HNSCC)等の扁平上皮癌(SCC)、肺癌、乳癌、及び結直腸癌(大腸癌)等の固形腫瘍癌、並びに様々なタイプの白血病、リンパ腫及び骨髄腫等の血液癌を含むがこれらに限定されないあらゆる癌を指す。従って、実験部では前立腺癌に焦点を当てているが、本発明は特定の癌種に限定されるものではないことを理解されたい。
【0011】
本明細書で使用する場合、用語「癌細胞サブクローン」等は、同じ患者の癌細胞の別の集団の遺伝子構成とは異なる遺伝子構成を有する癌細胞の集団を指す。
【0012】
本明細書で使用する場合、用語「抵抗性癌細胞サブクローン」等は、患者が元の癌細胞集団を標的とする治療を受けた後に残る癌細胞の集団を指す。
【0013】
本明細書で使用する場合、用語「治療によって根絶された癌細胞サブクローン」等は、最初の標準的な癌治療の後に患者にもはや存在しない癌細胞の集団を指す。
【0014】
本明細書で使用する場合、用語「試料のサブクローン組成」等は、生物学的試料中の1つ以上の癌細胞サブクローンの存在を意味する。
【0015】
本明細書で使用する場合、サブクローンの「分子特性」という用語は、サブクローンの分子構成を広く指し、サブクローンの細胞から得られるマルチオミクス的データ又は他の分子データを含む。そのようなデータの非限定的な例としては、任意のDNA、RNA、タンパク質又は他の分子測定データが挙げられる。
【0016】
本明細書で使用する場合、用語「試料」は、精密な癌治療の分子標的が特定されるべき患者から得られる生物学的試料を指す。典型的には、試料は、原発性癌組織若しくは転移性癌組織等の癌組織の試料、又は癌であることが疑われる組織の試料である。用語「試料」は、遠心分離、濾過、沈殿、透析、クロマトグラフィー、試薬による処理、洗浄、又は細胞集団等の試料の特定の成分に対する濃縮等を含むがこれらに限定されない、調達後に任意の適切な方法で操作又は処理された試料も含む。
【0017】
本明細書で使用する場合、用語「患者」、「個体」及び「対象」は互換的に使用され、哺乳動物、特にヒトを指す。獣医学的な目的では、この用語は、家畜、ペット、競技用動物等の家庭動物等の哺乳動物を含む。このような動物の例としては、ネコ及びイヌ等の肉食動物、ウマ等の有蹄動物が挙げられるが、これらに限定されない。疾患のモデル動物の開発に用いられる動物のような実験動物、限定されないがマウス、ラット及びハムスター等のげっ歯類並びに霊長類等も含まれる。従って、本発明は、ヒトに対する医学及び獣医学の両方に適用されてもよい。
【0018】
本明細書で使用する場合、用語「癌治療又は治療区間」は、元の癌細胞集団を標的とし、「抵抗性」及び「根絶された」癌細胞サブクローンを生じさせる特定の治療を指す。癌治療又は治療区間は、化学療法、免疫療法、放射線療法又はそれらの任意の組み合わせを含んでもよい(これらに限定されない)。本文脈において、「癌治療又は治療区間」は、本発明に従って特定された分子標的に向けられ、先行する癌治療又は治療区間に抵抗性があった癌細胞サブクローンに特異的に向けられた後続の精密な癌治療とは区別されるべきである。
【0019】
本明細書で使用する場合、用語「精密な癌治療」は、先行する癌治療又は治療様式の後に残っている抵抗性癌細胞サブクローンを標的とする強化された癌治療を指す。より具体的には、精密な癌治療は、本発明の方法によって特定された分子標的に向けられる。一実施形態では、精密な癌治療は、患者特異的である。
【0020】
本明細書で使用する場合、用語「分子標的」は、遺伝子、その調節エレメント又は非コード領域等のDNA領域、RNA、タンパク質、又は根絶された(消滅した)癌細胞サブクローンと抵抗性癌細胞サブクローンとで差異的に発現される(異なる発現をしている)脂質等の他の細胞化合物を含むがこれらに限定されない任意の分子実体を広く指す。あるいは、分子標的は、根絶された癌細胞又は抵抗性癌細胞のいずれかに変異を含んでもよい。
【0021】
本明細書で使用する場合、用語「発現の増加」は、癌細胞の根絶されたサブクローンと比較して、癌細胞の抵抗性サブクローンにおける標的のmRNA又はタンパク質の量が増加することを指す。この増加は、当該技術分野で公知の標準的な方法を用いた定性的及び/又は定量的な評価に基づいて決定されてもよい。抵抗性サブクローンにおける標的のmRNA又はタンパク質の量若しくはレベルが、例えば、根絶されたサブクローンにおけるそのmRNA又はタンパク質の量の少なくとも約1.5倍、1.75倍、2倍、3倍、4倍、5倍、6倍、8倍、9倍、時間倍、10倍、20倍又は30倍である場合、発現は増加している。好ましくは、用語「発現の増加」は、発現レベルの統計的に有意な増加を指す。
【0022】
本明細書で使用する場合、用語「発現の低下」は、癌細胞の根絶されたサブクローンと比較して、癌細胞の抵抗性サブクローンにおける標的のmRNA又はタンパク質の量が減少することを指す。この減少は、当該技術分野で公知の標準的な方法に従って、定性的及び/又は定量的に決定することができる。抵抗性サブクローンにおける標的のmRNA又はタンパク質の量若しくはレベルが、例えば、根絶されたサブクローンにおけるそのmRNA又はタンパク質の量よりも、少なくとも約1.5倍、1.75倍、2倍、3倍、4倍、5倍、6倍、8倍、9倍、時間倍、10倍、20倍又は30倍低い場合、発現は低下している。好ましくは、用語「発現の低下」は、発現レベルの統計的に有意な低下を指す。
【0023】
本明細書で使用する場合、用語「治療」及び「治療する」等は、癌を改善、軽減、抑制、又は治癒することを含んでもよい目的で、必要とする患者に癌治療薬を投与することを指す。この治療薬の投与量及び投与方法は、癌治療の臨床技術の当業者によって容易に決定されてもよい。一般に、治療薬の投与量は、治療を受ける患者の年齢、性別及び一般的な健康状態、同時治療がある場合はその種類、治療の頻度及び所望の効果の性質、症状の継続期間、並びに個々の医師によって調整される他の変動因子等の考慮事項に応じて変わる。所望の結果を得るために、任意の適切な投与経路を用いて、1回以上の服用(適用)で所望の用量を投与することができる。加えて、治療薬は単独で使用されてもよいし、又は組み合わせて使用されてもよく、すなわち他の医薬品若しくは治療様式と同時に、別々に、又は連続して投与されてもよい。
【0024】
本明細書で使用する場合、用語「有効量」は、癌の有害な影響が少なくとも改善される癌治療薬の量を指す。
【0025】
本発明は、記載されている特定の方法論、プロトコル、試薬、及び製剤に限定されるものではなく、それらは変化する可能性があることを理解されたい。本明細書で使用される用語は、特定の実施形態を説明するためだけのものであり、本発明の範囲を限定することを意図したものではなく、本発明の範囲は添付の特許請求の範囲によってのみ限定されることも理解されたい。
【0026】
発明の方法
本発明は、標的化可能な変化及び抵抗性メカニズムを特定するための新規なアプローチとしての、根絶された癌細胞サブクローン及び抵抗性癌細胞サブクローンの差異分析に関する。本明細書中で、このアプローチは、サブクローンの根絶及び抵抗性の差異分析(Differential Subclone Eradication and Resistance Analysis、DSER)と呼ばれる。
【0027】
本質的に、DSERは、患者から得られた試料を、サブクローンの根絶の前後で比較することに基づく。基本的には、DNA、RNA、タンパク質、又はその他の分子測定データを含む(ただし、これらに限定されない)任意のマルチオームデータを比較に使用し、組み合わせることができる。
【0028】
いくつかの実施形態では、当該差異分析は、全ゲノム配列決定(WGS)データ又は高深度の標的配列(deep targeted sequence)データ、CpGメチル化データ(プロモーター領域のメチル化の増加は、少なくともいくつかの例では、より低いレベルのタンパク質発現を示す可能性がある)、及び/又はmRNA若しくはタンパク質発現データ等の任意の利用可能な配列データの比較に基づいてもよい。
【0029】
DSERは、サブクローン根絶の前後の患者試料の比較に基づくため、精密な癌治療のための患者固有の標的を特定するツールとなる。
【0030】
通常、患者の試料を得ることはDSERの一部ではない。その結果、DSERは、先に入手した患者試料に対して実施されるインビトロ法とみなされてもよい。
【0031】
いくつかの実施形態では、当該差異分析は、DNA修復経路に関連する遺伝子又はタンパク質に焦点を当ててもよい。例示として、実験部は、根絶された癌細胞サブクローン及び抵抗性癌細胞サブクローンの当該差異分析によって、精密な癌治療のための潜在的なDNA修復関連標的遺伝子として、FANCD2/FANCI及びEYA4が特定された方法を示す。従って、本発明の一態様は、必要とする患者における癌の治療方法であって、FANCD2/FANCI又はEYA4の発現を停止又は阻害する薬剤を投与する工程を含む方法に関する。この態様は、癌の治療のための、FANCD2/FANCI又はEYA4の発現を停止又は阻害する薬剤の治療的使用として定式化されてもよい。FANCD2/FANCI又はEYA4を発現停止又は阻害する手段及び方法は、当業者に利用可能である。
【0032】
当該差異分析の目的は、抵抗性に寄与する差異、従って精密な癌治療の標的を特定することである。
【0033】
分子標的が特定されると、その分子標的は、当該技術分野で利用可能な任意の適切な手段及び方法によって標的とされてもよい。従って、精密な癌治療を必要とする患者における精密な癌治療のための標的を特定する開示された方法は、いくつかの実施形態では、適切な標的治療薬をその患者に投与することを含んでもよい。本発明のこの態様は、必要とする患者の癌の治療方法であって、まず、本明細書に開示されている内容に従って精密な癌治療のための分子標的を特定する工程と、次いで、その精密な癌治療を患者に適用する工程とを含む方法として定式化されてもよい。
【0034】
いくつかの実施形態では、精密な癌治療のための分子標的を特定する本方法は、いかなる治療的処置工程も含まない。
【0035】
標的遺伝子の発現が、根絶されたサブクローンと比較して、癌細胞の抵抗性サブクローンにおいて上方制御されている場合、適用される標的治療薬は、いくつかの実施形態では、標的遺伝子の発現を減少若しくは阻害すること、又は標的遺伝子によってコードされるタンパク質の機能をブロックすることを目的としてもよい。この目的は、当該技術分野で周知であるような様々な技術を採用することによって達成されてもよい。例えば、特定のタンパク質の喪失又は特定の転写産物の喪失は、アンチセンス療法又はRNA干渉(RNAi)によって達成されてもよい。RNAiベースの遺伝子サイレンシング(遺伝子発現抑制)の最も一般的なアプローチは、低分子干渉RNA(siRNA)の使用である。RNAiの代替アプローチの非限定的な例としては、ショートヘアピンRNA(shRNA)、ダイサー(Dicer)基質siRNA(DsiRNA)、及び人工マイクロRNA(miRNA)前駆体の使用が挙げられる。当業者は、これらのアプローチを標的癌治療に適用する方法を理解している。
【0036】
標的特異的なRNAi分子の送達は、主に2つの異なる方法で達成できる:1)そのRNAi分子をコードするポリヌクレオチドの内因性転写、又は2)そのRNAi分子の外因性送達。内因性転写の場合、標的特異的なRNAi分子は、当該技術分野で公知の方法を用いて適切な発現系に挿入されてもよい。このような発現系の非限定的な例としては、当該技術分野で公知の1つ以上の誘導性プロモーターを伴うか又は伴わない、レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、レンチウイルスベクター、他のウイルスベクター、発現カセット、及びペグ化イムノリポソーム(PIL)に封入されたプラスミド等のプラスミドが挙げられる。外因性送達の場合、RNAi分子は、典型的には、リポソーム又は脂質ベースのキャリア、コレステロール結合体、又はポリエチレンイミン(PEI)と複合化される。
【0037】
いくつかの実施形態では、標的癌治療薬は、標的タンパク質の機能をブロックすることを含んでもよい。この目的は、例えば、ブロック性のペプチド、抗体、抗原結合抗体フラグメント若しくはその一本鎖バリアント、ナノボディ、アフィボディ又はアプタマーを使用することによって達成されてもよい。当業者は、任意の与えられた分子標的に対して適切な標的指向(ターゲティング)剤を設計及び調製する方法、並びにこれらのアプローチを標的癌治療に適用する方法を理解している。
【0038】
最初の標準的な治療に対する抵抗性が、必要なタンパク質が不完全になるか又は欠損している原因となる変異した遺伝子に起因する場合、遺伝子治療が、遺伝子の正常なコピーを導入し、タンパク質の機能を回復させるために適用されてもよい。これは、当該技術分野で周知のように、CRISPR-Casシステム等の任意の利用可能な遺伝子編集技術を用いて欠陥のある遺伝子を置き換えることによって、又は、治療上有効な量で若しくは治療上有用な時期に産生されていない遺伝子産物を、例えば、エレクトロポレーション、ジーンボンバードメント(遺伝子衝撃、gene bombardment)、ソノポレーション(細胞超音波処理、sonoporation)、マグネトフェクション、リポフェクション、若しくはリポソーム媒介核酸導入等により裸のDNAとして、若しくは、レンチウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター及びアデノウイルスベクター等のレトロウイルスベクターを含むがこれらに限定されないウイルスベクター等のベクターの助けを借りて、標的タンパク質をコードする適切なポリヌクレオチドを所望に応じて導入することにより補充することによって達成されてもよい。
【0039】
残存する抵抗性サブクローンにおいてDSERによって特定された分子標的を使用して、ウイルス又は細菌等の送達ビヒクルを設計し、この送達ビヒクルが、ビヒクルに含まれる標的特異的要素を介して抵抗性サブクローンの細胞に到達し、RNA、DNA、細菌若しくはウイルスが産生するタンパク質、又は薬剤等(これらに限定されない)のその担持物(ペイロード)を、抵抗性癌細胞に送達するようにできることも想定される。
【0040】
さらには、本明細書では、抵抗性に関連するL1活性が、現在の癌治療によって誘導され、アジドチミジンによってブロックされることが開示されている。従って、本発明の一態様は、L1活性を防止(阻止)する癌治療薬としてのアジドチミジン及び機能的に同等の選択的逆転写酵素阻害剤に関する。本発明のこの態様は、必要とする癌患者においてL1活性を防止する方法であって、アジドチミジン又はその機能的等価物をその患者に投与する工程を含む方法として定式化されてもよい。
【0041】
本明細書に記載された実施形態の特徴のうち、任意の1つ以上の特徴は、本明細書中の任意の他の実施形態の1つ以上の特徴と任意の方法で組み合わせることができることを理解されたい。さらに、以下の実験例は、限定としてではなく説明のために提供される。
【0042】
実験部
方法
A34の試料及びDNAデータ
患者A34からの組織及び血液の試料は、致死性前立腺癌の統合された臨床-死亡後遺伝子検査(integrated clinical-molecular autopsy)研究「PELICAN」の一環として収集した(表1)。この患者は、John Hopkins Medicine(ジョンズ・ホプキンス・メディスン)のIRBが承認した研究に参加することに、書面によるインフォームド・コンセントを提出した。標本の単離と分析方法の詳細は、Woodcockら(2)に記載されている。
【0043】
L1挿入部位の特定
TraFiC-mem v1.1(3)を用いて、A34転移試料のhg19にアライメントされた全ゲノム配列決定リードを、体細胞L1挿入(単独L1挿入又はL1媒介トランスダクション)について解析した。
【0044】
CpGメチル化データの生成及び解析
A34の転移及び剖検血液DNA試料から、Illumina TruSeq Methyl Capture EPICライブラリから生成したペアエンドリードを品質管理し、トリミングし、Bismark v0.22.3及びBowtie v2.3.4.1を用いてhg19ゲノムにアラインメントした。差異的なメチル化の解析にはMethylKit v1.11.0を使用した。
【0045】
細胞培養
LNCaP細胞及び22Rv1細胞は、10%FBS(Gibco標準FBS、サーモフィッシャーサイエンティフィック(Thermo Fisher Scientific))、2mM L-グルタミン(Gibco(登録商標)、Thermo Fisher Scientific)、並びに100U/ml ペニシリン及び100μg/mL ストレプトマイシン(Gibco(登録商標) Pen Strep、Thermo Fisher Scientific)の組み合わせを添加したGibco(商標) RPMI 1640(1X)培地(Thermo Fisher Scientific)を用いて、加湿したCO2-インキュベーター内で37℃で培養した。VCaP細胞には、10%FBS(GE Healthcare(商標) HyClone(商標))を添加したダルベッコ変法イーグル培地(DMEM、Gibco、Thermo Fisher Scientific)を、PC-3には10%FBSを添加したF-12 K培地を使用し、LNCaP用の増殖培地と同様に抗生物質を使用した。細胞株はATCCから入手し、STR(縦列型反復配列、ショートタンデムリピート)マーカーを用いて認証し、マイコプラズマ検査を行った。
【0046】
カルボプラチン/エンザルタミド単独への細胞株の暴露
DMSO及びFBSを含まない培養培地に溶解したカルボプラチン又はエンザルタミドを24時間の初期インキュベーション期間の後に添加した。対照細胞には、培養培地で希釈したDMSOを最終濃度0.02%になるように添加した。LNCaP前立腺癌細胞を、L1プラスミド、又は陽性対照プラスミド及び陰性対照プラスミドでトランスフェクションし、トランスフェクションの翌日にカルボプラチン(5μM)又はENZ(10μM)で処理し、細胞を5日間モニターした。
【0047】
カルボプラチン/エンザルタミド及びAZTへの細胞株の曝露
まず、AZT単独の潜在的な細胞毒性を決定し、LNCaP細胞又はVCaP細胞で試験した50μMまでは、細胞生存率に対するAZTの影響は見られなかった(
図4)。次に、AZTをLNCaP細胞及びVCaP細胞の両方に、単独及びカルボプラチン又はENZと組み合わせて導入した。
【0048】
L1-EGFPレトロ転位アッセイ
レトロ転位アッセイのセットアップ、及び緑色蛍光タンパク質(GFP)でタグ付けされたL1RP(4)エレメントを含むプラスミドの作成は、Ostertagら(5)に記載されているとおりであり、いくつかの変更を加えてFaulknerら(6)に示されているように実施した。
【0049】
siRNAサイレンシング
LNCaP細胞又はPC-3細胞を、25nMのFANCIに対するsiRNA(Dharmacon(ダーマコン)、ON-TARGETplus SMARTpool、L-022320-01-0005;ターゲット配列の配列番号9~12)又はScr対照(Dharmacon、非標的化プール;ターゲット配列の配列番号13~16)で、OPTI-MEM及びLipofectamine 2000トランスフェクション試薬(Invitrogen(インビトロジェン))を用いて、12ウェルプレートで3回の生物的反復(バイオロジカルレプリケート)で逆トランスフェクションした。72時間後に、mRNAの単離のために試料を回収した。
【0050】
細胞増殖アッセイ
細胞増殖アッセイのために、細胞を、25nMのFANCIに対するsiRNA(Dharmacon、ON-TARGETplus SMARTpool、L-022320-01-0005)又はScr対照(Dharmacon、非標的化プール)で、OPTI-MEM及びLipofectamine 2000トランスフェクション試薬(Invitrogen)を用いて、384ウェルプレートで4回の生物的反復で逆トランスフェクションした。LNCaP細胞を、抗生物質を含まない通常の増殖培地でウェル上にプレーティングした(1000細胞/ウェル)。48時間後、ビヒクル対照(DMSO)又はカルボプラチンの希釈液をFBSを含まない培地で適切な濃度に希釈してウェルに加え、生細胞イメージング(IncuCyte S3、Sartorius(ザルトリウス))を用いて5日間細胞のコンフルエンスをモニターした。細胞のコンフルエンスは、IncuCyte S3 Image解析ツールを用いた自動カウントにより決定した。各時間点での細胞のコンフルエンス(コンフルエンスマスク)は、150μm2の最小面積フィルタ、1.0のセグメンテーション調整、100μm2のクリーンアップ、及び-2ピクセルのサイズ調整を用いた位相コントラストイメージングに基づいて算出した。コンフルエンス曲線を、各時点での処理条件間の統計的差異をt検定で比較した。
【0051】
定量的リアルタイムPCR
細胞株からのRNAの単離は、TriPure Isolation Reagent(Roche(ロシュ))を用いて、製造者のプロトコルに従って行った。RNA試料の濃度は、NanoDrop(商標) One/OneC Microvolume UV-Vis Spectrophotometerを用いて測定し、その後、試料を1μg/μlに希釈した。1μgのRNAのcDNAへの変換は、Transcriptor First Strand cDNA Synthesis Kit(Roche)を用いて、製造者の説明書に従って行った。RT-PCRランは、LightCycler(商標) 480 SYBR Green I Master(Roche)及びThe LightCycler(登録商標) 480 Real-Time PCR System(Roche)を用いて、96マルチウェル型式で実施した。ORF1及びORF2を別々に解析できるように、L1RP-ORF1(以降ORF1 mRNA)、L1RP-ORF2(以降ORF2 mRNA)、及びFANCIを標的にした2組のプライマー対を設計した(表2)。各ランには、処理あたり2つの生物学的反復及び2つの技術的反復(テクニカルレプリケート)が含まれ、得られたCt値に基づいて倍率変化を計算した。正規化は、測定したGAPDH値に対して行った(表2)。
【0052】
ウエスタンブロット
プロテアーゼ阻害剤(cOmplete(商標) Protease Inhibitor Cocktail、Roche)を添加したSDS試料バッファ(66mM Tris-HCl pH6.8、13%グリセロール、2.1%SDS、及び0.01%ブロモフェノール・ブルー)を用いて全細胞溶解液を調製した。
【0053】
RNA-seqからのL1 mRNAレベルの推定
RNA配列決定リードは、品質管理し(TrimGalore v0.6.5)、トリミングし(Cutadapt v1.18)、hg38ゲノムへのアラインメントを行った(Gencode Release 33アノテーションを伴うSTAR v2.7.8)。featureCounts v2.0.2(7)を用いて、L1Base2データベースにアノテーションされているORF1及びORF2がそのまま残っている、レトロ転位活性があると推定される146個のヒトL1エレメント内のリードを定量した。各試料のカウントは、その試料の100万アラインメントリードあたりの推定活性L1エレメントにマッピングされたリードの数を表すように正規化した。
【0054】
結果
明確に異なる根絶されたサブクローン及び抵抗性サブクローン
患者A34は、原発性腫瘍及び転移性腫瘍に19種の異なるサブクローンを呈し、これらは、以前に示されたように(2)、DPClust法を用いてDNAの一塩基変異(SNV)及びインデルを解析することで特定することができた。死亡する11年前の手術で摘出された仙骨転移に特異的な4つの癌サブクローンは、カルボプラチン化学療法前の前立腺癌試料の血清及び経尿道的切除物にも存在していたが、3つの肝転移並びに剖検時に採取された血清及び血漿には存在せず、カルボプラチン化学療法によって根絶されたことと整合していた(
図1A、
図5)(2)。アンドロゲン除去療法も放射線療法もこのサブクローン根絶の原因ではない。というのは、アンドロゲン除去療法後でかつ前立腺、仙骨、肺、陰茎への放射線療法後の前立腺からの経尿道的切除により得られた試料Z、X及びYに、根絶されたサブクローンの1つがまだ検出されているからである(
図1A、
図5)。肝転移及び剖検の血液試料では、抵抗性サブクローン(根絶されたサブクローンではない)が検出され、剖検の血清及び血漿からもサブクローンが検出されたことは、別個の肝転移から血液中に腫瘍DNAが別途流出したことと整合していた。これらの知見に基づいて、根絶されたサブクローンがA34の死亡の時点でまだA34の体内に存在していたとすれば、それらのサブクローンは、実施した高深度の標的配列決定法で検出可能な腫瘍DNAを排出すると考えるのが妥当であるが、そのようなシグナルは検出されなかった(
図1A)。
【0055】
根絶をもたらす可能性のあるゲノム上の病変
本発明者らは、以前に報告された(2、8)A34のWGS及び高深度の標的配列データを解析し、これにゲノムワイドなCpGメチル化データを追加して、癌サブクローンの選択的な根絶及び抵抗性の潜在的原因を調べた。根絶されたサブクローンには4825個の総置換が存在し、BRCA2、PTEN LOHの二対立遺伝子不活性化、CEBPA及びARID1Aの変異、並びにサブクローンのFOXA1の増幅等の主幹的なドライバー(truncal driver)が確認されたにもかかわらず、サブクローン15、14、13及び12はカルボプラチン及びエトポシドによる化学療法で根絶された(
図1A、
図5)(2、8)。
【0056】
最近、BRCA2欠損腫瘍は、DNA修復能力の低下を利用した化学療法に反応することが明らかにされている(9、10)ことから、本発明者らは、根絶されたサブクローンには、DNA損傷に対する感受性を高める追加的なゲノム上の病変があるのではないかとの仮説を立てた。そこで、現在公知であるDNA修復経路のメンバーの変化を検索した。化学療法で根絶されたサブクローンには、15番染色体のq腕に40Mbpのヘテロ接合性欠失部分があり、この欠失部分は295個のタンパク質をコードする遺伝子を含み、そのうち4つの遺伝子(NEIL1、FANCI、POLG及びBLM)がDNA修復に関わる機能を持っていた(
図6、
図7A)。その中でもFANCIは、BRCA2と同じファンコーニ貧血遺伝子ファミリーに属し、FANCD2とは独立してDNA損傷部位でのファンコーニ貧血コア複合体の補充(動員)を制御していること(11)、及び卵巣癌モデルで欠損するとBRCA1/2欠損細胞の生存率を低下させることがこれまでに明らかになっていること(12)から、特に注目されている。加えて、FANCIは、PICKLESデータベースからのCRISPRノックアウト実験で前立腺癌細胞に必須とされた領域内の唯一のDNA修復遺伝子である(
図7B)(13)。
【0057】
本発明者らは、A34における転移の進化の間の体細胞のL1トランスポゾンの導入に解析を拡張し、最新のL1検出アルゴリズムを使用してこれらの発見の分解能を拡張し、A34の癌DNA試料全体で合計50のL1挿入イベントを特定した(
図1B)。注目すべきは、L1体細胞進化系統樹において、chrXp22.2、chr22q12.1、chr13q21.2、及びchr5q21.3にある同じソースエレメントから、ユニークなトランスダクションが繰り返し認められたことである(
図1B)。これらのエレメントはすべて、前立腺癌を含む複数の癌種において、L1トランスダクションの反復的な発生源であることが最近示されており、特にchrXp22.2及びchr22q12.1のエレメントが頻繁にトランスダクションの発生源となっている(14)。
【0058】
根絶された仙骨転移サブクローンには、抵抗性サブクローンには見られない7つのL1挿入という特有のプロファイルがあり、そのうちの1つは、染色体Xp22.2のソースエレメントからTARID遺伝子のイントロン3への595bpのL1のトランスダクションであった(
図1B)。TARIDはプロモーター脱メチル化酵素として機能し、遺伝子EYA4とセンス-アンチセンス遺伝子対を形成し、これは、TARIDがEYA4の転写制御に関与している可能性を示唆する(15、16)。従って、根絶された仙骨転移では、抵抗性の肝転移及び剖検血液試料に比べて、EYA4プロモーターが有意に過剰メチル化されていることがわかった(66/122(54%)CpG部位)(
図1C)。仙骨転移のトランスクリプトーム解析は、組織材料が残っていないためできなかったが、それでもEYA4プロモーター領域のメチル化が増加していることから、EYA4の発現レベルが低い可能性が指摘される。以前の研究では、EYA4が発現していない細胞は、シスプラチンに曝露された際のDNA損傷に敏感であることがわかっている(17、18)。
【0059】
FANCIの機能低下がサブクローンの選択的根絶に寄与しているのではないかという仮説を検証するために、前立腺癌細胞株PC-3及びLNCaPをカルボプラチン処理とともに、又はこの処理を伴わずにFANCI siRNAに曝露した。FANCIを阻害すると、LNCaP細胞の増殖が有意に低下したが、PC-3細胞では影響が見られず(
図1D、
図7C~D)、これにより、FANCIがLNCaPの細胞分裂能力を維持する役割を果たしていることが確認された。siFANCI LNCaP細胞を10μMのカルボプラチンに曝露すると、増殖がさらに有意に低下した(
図7D)。A34におけるBRCA2の体細胞不活性化と同様に、LNCaP(PC-3ではない)ではBRCA複合体の上流にあるRAD50及びCHEK2の機能が欠損しており、ここでも、BRCA欠損腫瘍ではFANCIへの依存性が高まることが裏付けられた(19)。
【0060】
抵抗性サブクローンにおける化学療法への抵抗性を徐々に増加させる可能性のあるゲノム上の病変
肝転移、血清、及び血漿において特定された抵抗性サブクローンには、8915個の総置換があった(
図1A)。これらのサブクローンにおける考えられる追加のドライバーとしては、RB1 S485F変異、17p LOH、PDE4B二対立遺伝子喪失、並びにNCOA2及びFOXA1の増幅が挙げられる。RB1 S485Fは、現在COSMIC(20)には含まれていないが、MutationTaster2(21)、Provean(22)、及びICGC Data Portalでは、有害であると予測されている。
【0061】
また、これまでの研究で、L1挿入イベントがゲノムの変異、欠失、再配列のメディエーターとなることが示唆されていたので(14)、化学療法への抵抗性の一因としてL1挿入イベントを分析したが、すべての抵抗性サブクローンに共通するものはなかった。
【0062】
臨床年表(
図5)からは、カルボプラチン/エトポシドの1回目のラウンド(投与)は、最も長い(約4年)奏効期間と関連しており、サブクローン15、14、13及び12が根絶されたラウンドであったと考えられる。その後のカルボプラチン/エトポシドのラウンドでは奏効率が低下しており、カルボプラチン/エトポシドに抵抗性を持つサブクローンがダーウィン的に選択されたことと整合する。
【0063】
以上のことから、A34の転移性癌の根絶されたサブクローン及び抵抗性サブクローンの比較ゲノム解析により、すべてのサブクローンで主観的なBRCA2の二対立遺伝子不活性化によりDNA損傷性の化学療法に対する感受性が高く、根絶されたサブクローンではFANCI及びEYA4の機能が相対的に低下しているために化学療法に対する感受性が高まり、RB1 S485変異及び他の検出された変化を保有する抵抗性サブクローンではカルボプラチン/エトポシドに対する抵抗性が段階的に高まるという概念が支持された。A34についての提唱するDSER解析の視覚的概要を
図2A~Cに示す。
【0064】
カルボプラチン及びエンザルタミドは前立腺癌細胞においてL1を誘導する
A34の転移性癌細胞における体細胞L1トランスポゾン組み込みの系統は、根絶されたサブクローンと抵抗性サブクローンとで大きく異なり、化学療法への反応性の違いと関連している可能性があることから、本発明者らは、L1活性はアンドロゲン除去療法又は化学療法自体によって引き起こされるという仮説を立てた。この仮説を検証するために、前立腺癌細胞株をカルボプラチン又はエンザルタミド(ENZ)に暴露し、レトロ転位L1-EGFPレポーターアッセイを用いてL1レトロトランスポゾンの活性化を調べた(
図3A、
図8A~B)。LNCaP前立腺癌細胞では、カルボプラチンへの曝露の開始から5日後に、緑色蛍光で示されるL1レトロ転位が出現した(
図3A)。同じアッセイで、LNCaPをENZに曝露すると、L1-EGFPレポーターの相対的な増加が見られたが、対照細胞と比べて統計的に有意ではなかった(
図3A)。次に、未処理のLNCaP、VCaP、PC-3及び22Rv1の細胞、5日間カルボプラチンで処理したLNCaP、VCaP、PC-3及び22Rv1の細胞、並びに5日間エンザルタミドで処理したLNCaP、VCaP、PC-3及び22Rv1の細胞におけるL1 ORF1 mRNA及びORF2 mRNAのレベルをqPCRで測定して調べた。カルボプラチンは、LNCaP細胞ではORF1及びORF2の発現を約4倍(ORF1についてはp=0.004、及びORF2についてはp=0.139、t検定)、VCaP細胞では7倍(ORF1についてはp=0.073、及びORF2についてはp=0.009、t検定)誘導したが、PC-3及び22Rv1前立腺癌細胞では誘導しなかった(
図3B)。特に、VCaP細胞においてのみ、ENZはORF1及びORF2の発現を5.5倍誘導した(ORF1についてはp=0.022、及びORF2についてはp=0.026、t検定)(
図3B)。これらの知見は、A34で観察されたL1挿入イベントと合わせると、化学療法及び/又はアンドロゲン除去療法によるL1トランスポゾン活性の誘導が、個々の患者の腫瘍に保有される癌細胞集団におけるゲノムの不均一性の一因である可能性を示唆する。
【0065】
抗アンドロゲン治療の結果、腫瘍組織でもL1誘導が起こるかどうかを検証するために、無傷のマウス及び去勢マウス(LuCaP 77及び105)で成長させた患者由来のLuCaP異種移植モデル(23)において、L1 ORF1 mRNA及びORF2 mRNAのレベルをqPCRを用いて調べた。去勢により、どちらの異種移植片でも、ORF1及びORF2の発現が約3倍に増加し(LuCaP 77ではORF1についてp<0.001、及びORF2についてp=0.002、LUCaP 105ではORF1についてp=0.005、及びORF2についてp=0.037)(
図3C)、細胞株のデータと一致した。補完的なアプローチとして、同じ異種移植モデル(24)の既報のRNA-seqデータからL1の発現量(「方法」を参照)を追加で定量したところ、去勢したマウスの方がL1 mRNAのレベルが高かった(
図9A)。PBS又はセツキシマブで11週間処理した頭頸部癌細胞株SCC25からの既報のデータ(25)も解析し、1週間に1回、トランスクリプトームを調べた。セツキシマブ処理細胞は、処理の最初の5週間の間に高いL1 mRNAレベルを示した(p=0.023、対応のあるt検定)(
図9B)。合わせて考えると、これらの結果は、ストレス下でのL1の活性化は、癌に共通する現象である可能性を示唆する。
【0066】
抗レトロウイルス薬アジドチミジン(AZT)は、前立腺癌細胞における治療誘導性のL1活性を回復させる
抗レトロウイルス化合物として、ヌクレオシドアナログ逆転写酵素阻害剤(nRTI)アジドチミジン(AZT)は、これまでにHeLa細胞におけるL1のレトロ転位を抑制することが報告されている(26)。本発明者らは、AZTがカルボプラチン誘導及びENZ誘導のL1の活性を低下させうるのではないかとの仮説を立てた。そこで、LNCaP及びVCaPの前立腺癌細胞において、AZTがORF1及びORF2の両方の発現に単独で、及びカルボプラチン又はENZと併用して及ぼす影響をインビトロで調べた。加えて、ENZによって誘導されたORF1及びORF2の発現は、VCaP細胞では5日間の遅延後にしか見られなかったため、LNCaP細胞においてENZ及びAZTを単独及び併用してより長い25日間の暴露期間を設け、ENZに対する獲得抵抗性に応じてORF1及びORF2の発現が変化するかどうかを調べた。次に、AZTをLNCaP細胞及びVCaP細胞の両方に単独で及びカルボプラチン又はENZと組み合わせて導入した。その結果、カルボプラチン単独では、対照処理したLNCaP細胞に比べてORF1 mRNA及びORF2 mRNAの発現を約4倍(ORF1についてはp=0.036、及びORF2についてはp=0.013、t検定)、対照処理したVCaP細胞に比べて9倍(ORF1についてはp=0.004、及びORF2についてはp=0.002、t検定)誘導するが、AZT単独では、基底状態のORF1 mRNA及びORF2 mRNAの発現には有意な影響を及ぼさないことが明らかになった(
図3D)。さらに、カルボプラチン及びAZTを併用投与することで、ORF1及びORF2のレベルは基底レベルに保たれ、併用で処理したLNCaP細胞(ORF1についてはp=0.045、及びORF2についてはp=0.017、t検定)又はVCaP細胞(ORF1についてはp=0.004、及びORF2についてはp=0.001、t検定)では、ORF1もORF2も発現の誘導は検出されなかった(
図3D)。興味深いことに、LNCaP細胞ではENZによっても5日後にはORF1 mRNA及びORF2 mRNAの発現に有意な変化は見られなかったが、より長期の25日間のENZのインキュベーションでは、LNCaP細胞ではORF1 mRNA及びORF2 mRNAの発現が8倍も有意に誘導された(ORF1についてはp=0.014、及びORF2についてはp=0.007、t検定)。さらに、AZTを添加すると、ENZが誘導するORF1 mRNA及びORF2 mRNAの発現が60%減少し、ENZ及びAZTの併用で処理したLNCaP細胞では、ORF1及びORF2が3倍にしか誘導されなかった(ORF1についてはp=0.038、及びORF2についてはp=0.029、t検定)(
図3D)。AZTは、L1-EGFPレポーターアッセイにおけるL1トランスポゾン活性をブロックすることもできた(p<0.05、t検定)(
図9C)。加えて、AZTは、VCaP細胞においてENZが誘導するORF1 mRNA及びORF2 mRNAの発現をブロックした(
図3D)。タンパク質レベルでは、LNCaP細胞をカルボプラチンで処理すると、細胞が産生するL1 ORF1pのレベルが有意に上昇したが、AZTをさらに添加すると、ORF1pのレベルは正常に戻った(
図9D)。これらの結果は、AZTがカルボプラチン及びENZによって誘導されるORF1及びORF2の発現を防ぎ、治療中の患者の癌細胞におけるL1活性による癌ゲノムの不均一性誘導のモジュレーターとなりうることを示唆する。
【0067】
考察
患者A34の転移性前立腺癌の臨床データ、液体細胞診(リキッドバイオプシー)データ、及び腫瘍ゲノムデータの深く縦断的な解析を組み合わせることにより、本発明者らは、固形腫瘍における癌サブクローンの根絶と抵抗性との差異がゲノム上で記録された初めてのケースと考えられるものを特定した(2)。今回の研究では、さらに深く掘り下げて、治療に対する感受性の違いの潜在的な根底にある原因を特定し、サブクローンの根絶及び抵抗性の差異分析(DSER)が、効果的な精密な癌医療に向けた非常に情報に富む中間工程を提供できるという考えを検証することを目的とした。DSERは、治療によって根絶された癌サブクローンと治療に抵抗性を示した癌サブクローンの分子属性を治療前と治療後で直接比較し、抵抗性サブクローンを根絶可能な状態に治療的に変換するための分子標的を特定することと定義できる。
【0068】
今回の結果は、患者A34の根絶された癌サブクローンでは、BRCA2の二対立遺伝子喪失によってもたらされたすでに低下したDNA損傷修復能力が、EYA4及び/又はFANCIの活性低下によって増強された可能性があることを明らかにした。抵抗性サブクローンは、RB1 S485F変異により化学療法に耐えた可能性がある。精密医療の仮説生成システムとして、この種の解析は、個々の患者において、及び一般的なメカニズムの理解を進める上で、精密医療をより迅速に進展させるための新たな、そして大いに必要とされる橋渡しとなると考えられる。患者A34又はA34を模倣したインビトロの細胞において、FANCD2又はFANCIをブロックする薬剤、及び/又はEYA4の活性をブロックする薬剤を加えることで、白金/エトポシド又はオラパリブ等のDNA修復阻害薬物によって抵抗性サブクローンを根絶させることができるのか? 根源的な観察はインビボであり、人間の中で自然に発達したものであるため、DSERを用いて観察された差異は、細胞株又は動物実験から始まる研究よりも、有用な脆弱性を特定する可能性が高いと言えよう。さらに、DSERにより得られた仮説をインビトロ及び動物実験で検証すると、重要なメカニズムを解明する力が大幅に増幅される可能性が高い。
【0069】
DSERを広く適用することで、精密な癌医療の進歩を促進できるという仮説を、どのように検証すればよいのか? 近年、転移性癌の治療で最も劇的な進歩を遂げたのは、DNA修復欠損を保有する癌(10)、及び最近開発された免疫療法に反応する癌においてであったが、これらの治療は通常、患者を治癒させるものではない。このため、これらの癌は、DSERを適用するには最適な場所となる。DSERを大規模に行うために必要なツールは、比較的控えめなものである。まず、治療前及び再発時に、腫瘍及び血液の全ゲノム配列決定試料が必要である。この試料で特定された根絶されたサブクローン及び抵抗性サブクローンについて何がわかるかは、統合した臨床解析及び分子解析のための試料の質と充足度に直接比例する。現在の部分的に有効な治療法でサブクローンの根絶が十分に見られ、DSERアプローチの拡大が正当化されるかどうかは、各腫瘍と治療法の組み合わせで20人程度の患者で明らかになるはずである。この方法は、既存の臨床試験に追加することができ、Robinsonら(27)及びSwantonら(28)が報告したような、転移性癌に関する既存の大規模研究の特定の追加焦点となりうる。
【0070】
A34患者にDSERを行ったことで、L1トランスポゾンの活性化自体が、治療に対する感受性の差異につながる癌のゲノムの不均一性の原因として、標的になりうるかどうかを問うことになった。
【0071】
今回の結果は、カルボプラチン又はエンザルタミドのいずれかが癌細胞のL1トランスポゾン機構を起動し、抗レトロウイルス薬であるAZTがインビトロでこの誘導された活性化をブロックすることができるということを示した、本発明者らの知る限り初めてのものである。本発明者らは、カルボプラチン後のL1の活性化は、試験した4つの前立腺癌細胞株のうち2つの細胞株で、5日間の遅れをもって初めて起こることを、驚きをもって発見した。シスプラチン曝露直後に骨肉腫細胞を調べた以前の研究でL1活性化が検出されなかった(29)のは、この遅延が原因かもしれない。これらの知見は、カルボプラチンによる化学療法又はアンドロゲン除去療法等のストレスに応答して誘導されたL1活性が、いくつかの癌においてゲノム不均一性に起因する治療抵抗性の原因となっている可能性があることを示す。
【0072】
癌における体細胞L1誘導に関して不明なまま残っている点は、何がRNAポリメラーゼIIの最初の結合を開始し、転位プロセスを開始するのかということである。今回の結果は、L1誘導のメカニズム研究の基盤となるものであり、癌細胞の種類によって体細胞L1誘導の発生度合(発生率)が異なる(14)理由を明らかにするのに役立つであろう。前立腺癌では、PC-3/22Rv1細胞株では見られないLNCaP/VCaP細胞で見られるL1誘導性の背景には、ドライバー遺伝子及び残存するアンドロゲン受容体(AR)応答経路の違いがあるのではないかと推測される。
【0073】
A34では、カルボプラチン及びエトポシドによる化学療法によって誘導されたL1活性が、ゲノムの不安定性に寄与し、根絶可能なサブクローン及び抵抗性サブクローンの両方を生み出した可能性があると考えられる。化学療法によって誘導されたL1活性が臨床的に重要であるかどうかは、化学療法前にAZTでL1を抑制した患者とプラセボを投与した患者の化学療法に対するctDNA反応を比較することにより、インビボで検証することができよう。AZTは現在、白血病、リンパ腫、及び他の癌を対象としたいくつかの臨床試験に含まれている。L1活性化に対するAZTの影響は、これらの臨床試験に登録された患者の試料において研究することができよう(30)。
【0074】
まとめとして、DSERに基づいて新規癌治療標的を特定することについての将来的な研究検証、並びに癌の進化及び治療におけるL1誘導の役割及び操作性に関するより深いメカニズムの研究は、効果的な精密な腫瘍学の開発の進展を加速させる可能性がある。
【0075】
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【0076】
表
【0077】
表1.研究したA34試料及びデータ。研究に使用した10個の試料のそれぞれについて、識別子及び試料採取の時期が示されており、利用可能な配列決定データタイプも示されている。WGSデータのある試料の純度は、Battenbergアルゴリズム(https://github.com/cancerit/cgpBattenberg)を用いて推測し、WGSデータのない試料の純度は、Woodcockら(2)に記載されているように、変位対立遺伝子頻度情報及びDPClustアルゴリズムに基づいていた。試料ごとの置換数は、Gundemら(8)で分析されたWGSデータに基づく。WGS基準の正常な脾臓DNAは表に含まれていない。
【表1】
【0078】
表2.L1-ORF1、L1-ORF2、FANCI、及びGAPDHに使用したqPCRプライマー.
【表2】
【配列表】
【外国語明細書】