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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023111668
(43)【公開日】2023-08-10
(54)【発明の名称】検出装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 5/02 20060101AFI20230803BHJP
【FI】
G01N5/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022013628
(22)【出願日】2022-01-31
(71)【出願人】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】後藤 哲広
(57)【要約】
【課題】検出感度を向上させることができる検出装置を提供する。
【解決手段】検出装置は、圧電層14と、前記圧電層の少なくとも一部を挟み設けられた第1電極および第2電極と、を備える圧電部21と、前記第1電極の前記圧電層の反対側に設けられ、環境の変化により質量が変化する感応膜18と、を備え、前記質量の変化に対応し、前記感応膜が設けられていない前記圧電部での電気励振が可能な周波数を弾性波の奇数次モードとしたときに、前記感応膜を前記圧電部に設けたあと、前記奇数次モードとは異なる電気励振が可能な弾性波の振動モードである偶数次振動モードにおける共振周波数および反共振周波数の少なくとも一方の周波数が変化する共振器40と、前記少なくとも一方の周波数の変化に基づき、前記環境の変化を検出する検出器45とを備える。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電層と、前記圧電層の少なくとも一部を挟み設けられた第1電極および第2電極と、を備える圧電部と、
前記第1電極の前記圧電層の反対側に設けられ、環境の変化により質量が変化する感応膜と、を備え、
前記質量の変化に対応し、前記感応膜が設けられていない前記圧電部での電気励振が可能な周波数を弾性波の奇数次モードとしたときに、前記感応膜を前記圧電部に設けたあと、前記奇数次モードとは異なる電気励振が可能な弾性波の振動モードである偶数次モードにおける共振周波数および反共振周波数の少なくとも一方の周波数が変化する共振器と、
前記少なくとも一方の周波数の変化に基づき、前記環境の変化を検出する検出器と、
を備える検出装置。
【請求項2】
前記偶数次モードは、2次モードである請求項1に記載の検出装置。
【請求項3】
前記感応膜の厚さは、前記圧電層の厚さの0.2倍以上かつ1.0倍以下である請求項2に記載の検出装置。
【請求項4】
前記感応膜の弾性スティフネスC33は前記圧電層の弾性スティフネスC33の0.06倍以上かつ0.62倍以下である請求項3に記載の検出装置。
【請求項5】
前記感応膜の密度は前記圧電層の密度の0.35倍以上かつ0.54倍以下である請求項3または4に記載の検出装置。
【請求項6】
前記圧電層は窒化アルミニウム層であり、前記感応膜のヤング率は20GPa以上かつ80GPa以下であり、前記感応膜の密度は1.2g/cm以上かつ1.7g/cm以下である請求項3に記載の検出装置。
【請求項7】
前記圧電層は窒化アルミニウム層であり、前記感応膜は、金属フタロシニアンを主成分とする請求項3に記載の検出装置。
【請求項8】
前記共振器の前記偶数次モードにおける共振周波数は、前記感応膜を除去した共振器の1次モードにおける共振周波数の0.85倍以上かつ1.15倍以下である請求項1から7のいずれか一項に記載の検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検出装置に関し、例えば感応膜を有する共振器を有する検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
感応膜の質量の変化を検出することで、環境の変化を検出する環境センサが知られている。圧電薄膜共振器の上部電極上に感応膜を設け、感応膜の質量変化による共振周波数等に基づき環境の変化を検出する検出装置が知られている(例えば特許文献1)。液体中のセンシングでは、共振器に感応膜を成長させることで、Q値が減少することが知られている。(例えば特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2005-533265号公報
【特許文献2】特表2020-519886号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
気体内において環境の変化を検出する場合、共振器の共振特性を劣化させないため感応膜は薄い方が好ましい。しかし、感応膜を薄くすると、感応膜の表面積が小さくなり、環境の変化に対する感度が低下する。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、共振器の共振特性の劣化を抑えつつ、検出感度を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、圧電層と、前記圧電層の少なくとも一部を挟み設けられた第1電極および第2電極と、を備える圧電部と、前記第1電極の前記圧電層の反対側に設けられ、環境の変化により質量が変化する感応膜と、を備え、前記質量の変化に対応し、前記感応膜が設けられていない前記圧電部での電気励振が可能な周波数を弾性波の奇数次モードとしたときに、前記感応膜を前記圧電部に設けたあと、前記奇数次モードとは異なる電気励振が可能な弾性波の振動モードである偶数次モードにおける共振周波数および反共振周波数の少なくとも一方の周波数が変化する共振器と、前記少なくとも一方の周波数の変化に基づき、前記環境の変化を検出する検出器と、を備える検出装置である。
【0007】
上記構成において、前記偶数次モードは、2次モードである構成とすることができる。
【0008】
上記構成において、前記感応膜の厚さは、前記圧電層の厚さの0.2倍以上かつ1.0倍以下である構成とすることができる。
【0009】
上記構成において、前記感応膜の弾性スティフネスC33は前記圧電層の弾性スティフネスC33の0.06倍以上かつ0.62倍以下である構成とすることができる。
【0010】
上記構成において、前記感応膜の密度は前記圧電層の密度の0.35倍以上かつ0.54倍以下である構成とすることができる。
【0011】
上記構成において、前記圧電層は窒化アルミニウム層であり、前記感応膜のヤング率は20GPa以上かつ80GPa以下であり、前記感応膜の密度は1.2g/cm以上かつ1.7g/cm以下である構成とすることができる。
【0012】
上記構成において、前記圧電層は窒化アルミニウム層であり、前記感応膜は、金属フタロシニアンを主成分とする構成とすることができる。
【0013】
上記構成において、前記共振器の前記偶数次モードにおける共振周波数は、前記感応膜を除去した共振器の1次モードにおける共振周波数の0.85倍以上かつ1.15倍以下である構成とすることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、検出感度を向上させることを目的とする。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、実施例1に係る検出装置を示すブロック図である。
図2図2(a)は、実施例1に係る共振器40の平面図、図2(b)は、図2(a)のA-A断面図である。
図3図3(a)および図3(b)は、シミュレーション1における周波数に対するインピーダンスの大きさ|Z|およびQ値を示す図である。
図4図4(a)から図4(c)は、実験における周波数に対するインピーダンス|Z|を示す図である。
図5図5は、実験における周波数に対するインピーダンス|Z|を示す図である。
図6図6(a)および図6(b)は、実験における周波数に対するQ値を示す図である。
図7図7(a)は、実験におけるT=450nmサンプルの周波数に対するインピーダンス|Z|を示す図、図7(b)は、図7(a)の拡大図である。
図8図8(a)から図8(c)は、シミュレーション2におけるZ方向の位置に対する変位を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照し実施例について説明する。
【実施例0017】
図1は、実施例1に係る検出装置を示すブロック図である。検出装置100は、発振回路42および検出器45を備えている。発振回路42は、共振器40およびアンプ41を備え、共振器40の偶数次モードにおける共振周波数または反共振周波数において発振し発振信号を出力する。測定器44は発振信号の周波数を測定する。算出器46は、測定器44が測定した発振信号の周波数の変化に基づき、環境の変化を検出する。環境の変化としては、気体中の特定の原子または分子等の物質の量の変化、環境の温度の変化、湿度の変化などである。気体内の特定の物質がにおいの元になる場合には、検出装置100はにおいセンサとして機能する。
【0018】
図2(a)は、実施例1に係る共振器40の平面図、図2(b)は、図2(a)のA-A断面図である。基板10の上面の法線方向をZ方向、下部電極12が共振領域50から引き出される方向をX方向、平面方向のうちX方向に直行する方向をY方向とする。
【0019】
図2(a)および図2(b)に示すように、共振器40の構成を説明する。厚みを持ち平面視で長方形の基板10がある。この基板10の平坦な上面には、下部電極12が基板10の上面の中央付近から長手方向(X方向)で基板10の一端まで延在されている。また圧電層14とこの圧電層14の上に形成される上部電極16は、基板10の上面の中央部から長手方向で基板の他端まで延在されている。共振領域50は圧電層14の少なくとも一部を挟み下部電極12と上部電極16とが対向する領域により画定される。図2(a)の楕円形状の部分が共振領域50で、この共振領域50に対応する圧電層14が下部電極12と上部電極16で挟まれている。この共振領域50に対応する基板10と下部電極12との間には、ドーム状の膨らみを有する空隙22が形成されている。下部電極12と上部電極16に電圧を印加することで圧電層14が振動し、この空隙22を設けることで、振動をし易くしている。
【0020】
上部電極16の全面には保護膜17が設けられている。少なくとも共振領域50に対応する保護膜17上に感応膜18が設けられている。なお、保護膜17は設けられていなくてもよい。感応膜18の厚さはTであり、後述する。感応膜18は平面視において共振領域50を含むように設けられていればよく、感応膜18は共振領域50を覆うか、共振領域50周囲よりも外側まで大きく被覆してもよい。共振領域50における下部電極12、圧電層14、上部電極16、保護膜17および感応膜18は積層膜20を形成する。感応膜18を設ける前における、下部電極12、圧電層14、上部電極16および保護膜17は圧電部21である。共振領域50内の積層膜20には、厚み縦振動モードまたは厚みすべり振動モード等の弾性波で共振する。
【0021】
図2(a)のように、共振領域50の平面形状は、例えば楕円形状である。格子状にハッチングした部分が共振領域50の平面形状である。共振領域50の平面形状は五角形状等の多角形状でもよい。本実施例では、共振器40として、共振領域50において空隙22が基板10と下部電極12との間に形成されているFBAR(Film Bulk Acoustic Resonator)を例に説明した。
【0022】
気体中の原子または分子等の物質が感応膜18に吸着すると感応膜18の質量が増加する。感応膜18の周囲の湿度が高くなると、水分が感応膜18に吸着し感応膜18の質量が増加する。温度が変化すると、膜の吸着特性に変化が発生し、感応膜18の質量が変化する。このように、感応膜18の周囲の気体中の特定の物質の濃度、湿度、温度の環境の変化により感応膜18の質量が変化する。感応膜18の質量が変化すると、圧電薄膜共振器の共振周波数および反共振周波数が変化する。例えば、感応膜18に特定物質が吸着すると、感応膜18の質量が増加する。特定物質とは、アセトン、エタノールおよびトルエンなどが挙げられる。これにより、共振器40の共振周波数および反共振周波数が低くなる。感応膜18から特定物質が脱離すると、感応膜18の質量が減少する。これにより、共振器40の共振周波数および反共振周波数が高くなる。
【0023】
基板10は、例えばシリコン基板、サファイア基板、石英基板、ガラス基板、セラミック基板またはGaAs基板である。下部電極12および上部電極16は、例えばルテニウム(Ru)、クロム(Cr)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、銅(Cu)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、タンタル(Ta)、白金(Pt)、ロジウム(Rh)またはイリジウム(Ir)等の単層膜またはこれらの中から複数の膜が選択された積層膜である。本実施例では、下部電極12、上部電極16ともにルテニウム膜である。
【0024】
圧電層14は、例えば窒化アルミニウム(AlN)膜、酸化亜鉛(ZnO)膜、窒化ガリウム(GaN)膜、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)膜、チタン酸鉛(PbTiO3)膜、タンタル酸リチウム(LiTaO)膜またはニオブ酸リチウム(LiNbO)膜である。圧電層14は、(002)方向(Z軸方向)を主軸とする窒化アルミニウム(AlN)を主成分とし、共振特性の向上または圧電性の向上のため他の元素を含んでもよい。例えば、添加元素として、スカンジウム(Sc)、2族元素もしくは12族元素と4族元素との2つの元素、または2族元素もしくは12族元素と5族元素との2つの元素を用いることにより、圧電層14の圧電性が向上する。このため、圧電薄膜共振器の電気機械結合係数を向上できる。2族元素は、例えばカルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、ストロンチウム(Sr)であり、12族元素は例えば亜鉛(Zn)である。4族元素は、例えばチタン、ジルコニウム(Zr)またはハフニウム(Hf)である。5族元素は、例えばタンタル、ニオブ(Nb)またはバナジウム(V)である。さらに、圧電層14は、窒化アルミニウムを主成分とし、ボロン(B)を含んでもよい。
【0025】
共振領域50内の圧電層14に挿入膜が設けられていてもよい。例えば、図2(b)において、基板10上に圧電層14の厚みの半分の厚さを有する下部圧電層が設けられる。その下部圧電層上に前記挿入膜が設けられる。さらに挿入膜上に圧電層14の厚みの半分を有する上部圧電層が設けられる。このような構造の共振器では、共振周波数の温度依存性を抑制することができる。挿入膜は例えば酸化シリコン膜である。挿入膜は、例えば共振周波数の温度依存性を抑制するための膜、または共振器のQ値(Quality factor)を向上させるための膜である。
【0026】
保護膜17は、上部電極16の表面を保護する膜であり、例えば酸化シリコン膜、窒化シリコン膜、または窒化酸化シリコン膜等の絶縁膜または金属膜である。
【0027】
感応膜18は、例えば有機高分子膜、有機低分子膜、または無機膜である。有機高分子材料としては、例えばポリスチレン、ポリメタクリル酸メチル、6-ナイロン、セルロースアセテート、ポリ-9,9-ジオクチレフルオレン、ポリビニルアルコール、ポリビニルカルバゾール、ポリエチレンオキシド、ポリ塩化ビニル、ポリ-p-フェニレンエーテルスルホン、ポリ-1-ブテン、ポリブタジエン、ポリフェニルメチルシラン、ポリカプロラクトン、ポリビスフェノキシホスファゼン、ポリプロピレンなどの単一構造からなるホモポリマー、ホモポリマー2種以上の共重合体であるコポリマー、これらから複数選択して混合したブレンドポリマーなどを用いることができる。
【0028】
例えば、有機低分子材料としては、トリス(8-キノリノラト)アルミニウム(Alq3)、ナフチルジアミン(α-NPD)、BCP(2,9 - dimethyl - 4,7 - diphenyl - 1,10 - phenanthroline)、CBP(4,4' - N,N' - dicarbazole - biphenyl)、銅フタロシアニン、フラーレン、ペンタセン、アントラセン、チオフェン、Ir(ppy(2 - phenylpyridinato))、トリアジンチオール誘導体、ジオクチルフルオレン誘導体、テトラテトラコンタン、パリレンなどから少なくとも一つを用いることができる。
【0029】
例えば、無機材料としては、アルミナ、チタニア、五酸化バナジウム、酸化タングステン、フッ化リチウム、フッ化マグネシウム、アルミニウム、金、銀、スズ、インジウム・ティン・オキサイド(ITO)、カーボンナノチューブ、塩化ナトリウム、塩化マグネシウムなどから少なくとも一つを用いることができる。
【0030】
感応膜18は、金属フタロシニアンでもよい。金属フタロシニアンとしては、例えば銅フタロシアニン(CuPc)、フッ化銅フタロシアニン(CuPcF、CuPcF16)、コバルトフタロシアニン(CoPc)、マンガンフタロシアニン(MnPc)、鉄フタロシアニン(FePc)またはニッケルフタロシアニン(NiPc)などを用いることができる。
【0031】
[シミュレーション1]
共振器40の応答をシミュレーションした。シミュレーションは、積層膜20を短冊状としたモデルを用い行った。シミュレーション条件を以下に示す。
下部電極12:基板10側から厚さが約70nmのクロム層が設けられ、その上に厚さが166nmのルテニウム層が積層される。
圧電層14:厚さが996nmの窒化アルミニウム層
上部電極16:圧電層14側から厚さが173nmのルテニウム層が設けられ、その上に厚さが55nmのクロム層が積層される。
保護膜17:上部電極16の上面に、厚さが70nmの酸化シリコン層が被覆される。
感応膜18:厚さTを変えた銅フタロシアニン層
【0032】
図3(a)および図3(b)は、シミュレーション1における周波数に対するインピーダンスの大きさ|Z|およびQ値を示す図である。図3(a)および図3(b)の横軸は周波数であり、図3(a)の縦軸はインピーダンスの絶対値であり、図3(b)の縦軸はQ値である。感応膜18の厚さTを75nm~700nmの範囲で変えている。図3(a)に示すように、感応膜18の厚さTが大きくなると、共振周波数fr1および反共振周波数fa1は低くなる。感応膜18の厚さTが大きくなると、共振周波数fr1および反共振周波数fa1のピークの差が小さくなる。共振周波数fr1および反共振周波数fa1は積層膜20において弾性波が1次モードにおいて共振するときの共振周波数および反共振周波数である。図3(b)に示すように、Q値は共振周波数fr1と反共振周波数fa1の間において極大となる。感応膜18の厚さTが大きくなると、Q値が小さくなる。
【0033】
図3(a)および図3(b)に示すように感応膜18の厚さT1が大きくなると、1次モードにおける共振が小さくなり、Q値が小さくなる。これにより、共振器40が共振しにくくなる。一方、感応膜18が薄くなると、感応膜18内の特定物質を吸着するサイトの数が減る。また、感応膜18の表面の凹凸が小さくなる。感応膜18が薄くなると、感応膜18内の、特定物質を吸着するサイトの数が減るので、環境の変化による感応膜18の質量の変化が小さくなる。これにより、検出装置100における環境の変化の検出感度が低下する。1次モードを用いて共振器を発振させ、計測しようとすると、上記に挙げた課題が発生する。
【0034】
[実験]
共振器40を作製し共振器40の共振応答を測定した。感応膜18以外の共振器40の作製条件は、若干の製造誤差はあるものの、実質シミュレーション1の条件と同じである。感応膜18の厚さTをそれぞれ0nm、130nm、297nm、324nmおよび506nmとしたサンプルを作製した。なお、厚さTは感応膜18の作製時に段差計で測定した結果である。
【0035】
図4(a)から図4(c)は、実験における周波数に対するインピーダンス|Z|を示す図である。横軸は周波数であり、縦軸はインピーダンスの絶対値|Z|である。図4(a)から図4(c)は、感応膜18の厚さTは段差計を用い測定しそれぞれ297nm、324nmおよび506nmである。各図内のT=0nmは共振器に感応膜18を形成する前に測定した結果である。
【0036】
図4(a)に示すように、感応膜18を形成する前には、共振周波数fr1および反共振周波数fa1を有するピークが観測される。厚さT=297nmの感応膜18を形成した後には、共振周波数fr1および反共振周波数fa1を有するピークと、共振周波数fr2および反共振周波数fa2を有するピークと、が観測される。共振周波数fr1および反共振周波数fa1は、T=0nmの共振周波数fr1および反共振周波数fa1より低い周波数である。共振周波数fr2および反共振周波数fa2は、T=0nmの共振周波数fr1および反共振周波数fa1より高い周波数である。
【0037】
図4(b)に示すように、厚さT=324nmの感応膜18を有するサンプルの共振周波数fr1および反共振周波数fa1は、図4(a)のT=297nmのサンプルの共振周波数fr1および反共振周波数fa1より低い周波数にシフトする。T=324nmの共振周波数fr2および反共振周波数fa2は、T=297nmの共振周波数fr2および反共振周波数fa2より低い周波数にシフトし、感応膜18を成膜する前の共振周波数fr1および反共振周波数fa1に近づく。T=324nmにおける共振周波数fr2の|Z|に対する反共振周波数fa2の|Z|のZ比およびQ値は、T=297nmにおけるZ比およびQ値より高い。
【0038】
図4(c)に示すように、厚さT=506nmの感応膜18を有するサンプルの共振周波数fr2および反共振周波数fa2は、感応膜18を形成する前(T=0nm)の共振周波数fr1および反共振周波数fa1とほぼ同じ周波数である。
【0039】
図4(a)から図4(c)のように、T=297nmおよび324nmのサンプルでは、感応膜18の厚さTが大きくなると、共振周波数fr1および反共振周波数fa1のピークは小さくなりかつ低周波数にシフトする。T=297nmでは、共振周波数fr2および反共振周波数fa2のピークが2600MHz~2700MHz付近において観察される。T=324nmおよび506nmのサンプルのように、感応膜18の厚さTが大きくなると、共振周波数fr2および反共振周波数fa2のピークは、大きくなりかつ低周波数にシフトし、感応膜18を成膜する前の設計周波数(すなわち共振周波数fr1および反共振周波数fa1)に近づく。
【0040】
図5は、実験における周波数に対するインピーダンス|Z|を示す図である。横軸は周波数であり、縦軸はインピーダンスの絶対値|Z|である。図5に示すように、T=130nmのサンプルでは、共振周波数fr1および反共振周波数fa1の大きなピークが観察される。共振周波数fr2および反共振周波数fa2のピークは2900MHz以下では観察されない。
【0041】
図6(a)および図6(b)は、実験における周波数に対するQ値を示す図である。図6(b)は、図6(a)の拡大図である。横軸は周波数であり、縦軸はQ値である。図6(a)および図6(b)に示すように、T=130nmのサンプルでは、共振周波数fr1と反共振周波数fa1の間に大きなQ値のピークが観察される。T=297nmのサンプルでは、共振周波数fr2と反共振周波数fa2の間にQ値のピークが観察される。T=297nmのサンプルのQ値のピークはT=130nmのサンプルのQ値のピークより非常に小さい。T=324nmのサンプルでは、共振周波数fr2と反共振周波数fa2の間のQ値のピークはT=297nmのサンプルより大きくなる。T=506nmのサンプルでは、共振周波数fr2と反共振周波数fa2の間のQ値のピークはT=324nmのサンプルよりさらに大きくなる。このように、2次モードにおけるQ値は、感応膜18が厚くなると大きくなる。
【0042】
図7(a)は、実験におけるT=450nmサンプルの周波数に対するインピーダンス|Z|を示す図、図7(b)は、図7(a)の拡大図である。横軸は周波数であり、縦軸はインピーダンスの絶対値|Z|である。図7(a)は図5より周波数範囲を大きくしている。図7(b)は、周波数が1400MHz付近を拡大している。T=0nmは、感応膜18を形成する前の特性である。図7(a)および図7(b)に示すように、T=450nmでは、1400MHzに小さなピークがあり、このピークが1次モードの共振周波数fr1および反共振周波数fa1のピークである。T=0nmの1次モードの共振周波数fr1および反共振周波数fa1のピークとほぼ同じ周波数を有する共振周波数fr2および反共振周波数fa2は2次モードの共振周波数fr2および反共振周波数fa2のピークと考えられる。
【0043】
[シミュレーション2]
感応膜18が厚くなると2次モードのQ値が高くなる理由を調べるため、1次モードおよび2次モードにおける積層膜20内の変位をシミュレーションした。シミュレーション条件はシミュレーション1と同じである。感応膜18については、感応膜18の厚さは一定とし、感応膜18のヤング率を変えることで、感応膜18の厚さTを疑似的に変えた状態を再現した。
【0044】
図8(a)から図8(c)は、シミュレーション2におけるZ方向の位置に対する変位を示す図である。縦軸がZ方向の位置を示し、下部電極12の下面をZ=0に設定している、横軸は弾性波による変位を示している。下部電極12上および上部電極16下に記載した丸+および丸-は、弾性波の変位により生じる電位の正および負を示している。
【0045】
図8(a)では、感応膜18が設けられていない。図8(a)に示すように、1次モード(基本波モード)では、積層膜20の厚さが弾性波の波長λの1/2に相当する。1次モードの共振状態では、時間とともに、下部電極12が負電位および上部電極16が正電位の状態と、下部電極12が正電位および上部電極16が負電位の状態と、が繰り返される。図8(a)では、下部電極12が負電位であり上部電極16が正電位のときを示している。これにより、1次モードの電気励振が可能である。
【0046】
2次モード(2次高調波モード)では、積層膜20の厚さが弾性波の波長λに相当する。下部電極12が正電位のときは上部電極16も正電位である。このように、2次モードでは、下部電極12と上部電極16とがほぼ同じ電位となるため、電気励振ができない。
【0047】
図8(b)および図8(c)では、上部電極16上に感応膜18が設けられている。感応膜18のヤング率は、下部電極12、圧電層14および上部電極16のヤング率より小さい。図8(b)に示すように、感応膜18が設けられると、感応膜18内に弾性波の変位が入る。このため、感応膜18を含めた積層膜20の厚さが1次モードでは、λ/2に相当し、2次モードでは、λに相当する。下部電極12、圧電層14および上部電極16のヤング率より感応膜18のヤング率が小さいと、感応膜18内の弾性波の変位が大きくなるため、電位も感応膜18内で大きく変化する。図8(b)では、感応膜18のヤング率はさほど低くないため、下部電極12、圧電層14および上部電極16における1次モードおよび2次モードの電位は、図8(a)とほとんど変わらない。これにより、1次モードでは電気励振可能であるが、2次モードでは電気励振ができない。
【0048】
図8(c)では、感応膜18のヤング率を図8(b)より小さくし、図8(b)の感応膜18の厚さTより感応膜18を疑似的に厚くする。図8(b)よりさらに、感応膜18内に弾性波の変位が入る。1次モードでは、λ/2の変位のうちλ/4以上の変位が感応膜18内で生じる。このため、1次モードにおける下部電極12と上部電極16との電位差は図8(b)より小さくなる。これにより、1次モードの共振応答は図8(b)より小さくなると考えられる。2次モードでは、λの変位のうちλ/2以上の変位が感応膜18内で生じる。このため、下部電極12が正電位となり上部電極16が負電位となる。これにより、2次モードの電気励振が可能となる。
【0049】
以上のように、感応膜18を厚くすると、1次モードの共振応答が小さくなり、2次モードの共振応答が大きくなると考えられる。
【0050】
実施例1によれば、共振器40は、上部電極16(第1電極)と下部電極12(第2電極)とが圧電層14の少なくとも一部を挟み設けられた圧電部と、上部電極16の圧電層14と反対側に設けられた感応膜18と、を備える。共振器40は、感応膜18の質量の変化に対応し2次モードにおける共振周波数fr2および反共振周波数fa2の少なくとも一方の周波数が変化する。検出器45は、共振周波数fr2および反共振周波数fa2の少なくとも一方の変化に基づき、環境の変化を検出する。これにより、感応膜18を厚くしても、Q値の高い共振応答を得られる。感応膜18を厚くできるため、環境の変化に対応する感応膜18の質量の変化を大きくできる。これらにより、検出装置100の環境の変化の検出感度を向上できる。
【0051】
実施例1では、2次モードにおける共振周波数fr2および反共振周波数fa2を例に説明したが、偶数次モードでは、感応膜18を設けなければ、下部電極12と上部電極16の電位がほぼ同じとなり、電気励振がほとんど生じない。感応膜18の厚さTを大きくすることで、下部電極12と上部電極16との間の電位差が大きくなり、偶数次モードの電気励振が可能となる。なお、偶数次モードとして4次モードでは、積層膜20の厚さがほぼ2λであり、6次モードでは、積層膜20の厚さがほぼ3λである。このように、偶数次モードでは、n次モードのとき、積層膜20の厚さはほぼn×λ/2となる。
【0052】
また、1次モードにおける共振周波数fr1および反共振周波数fa1を例に説明したが、感応膜18を設けなければ、奇数次モードの励振が可能である。奇数次モードとして3次モードでは、積層膜20の厚さがほぼ3λ/2であり、5次モードでは、積層膜20の厚さがほぼ5λ/2である。このように、奇数次モードでは、n次モードのとき、積層膜20の厚さはほぼn×λ/2となる。共振器40では、感応膜18を設ける前の圧電部21での電気励振が可能な周波数を弾性波の奇数次モードとしたときに、感応膜18を圧電部21に設けたあとに、奇数次モードとは異なる電気励振が可能な弾性波の振動モードである偶数次モードである。
【0053】
図8(a)から図8(d)より、感応膜18の厚さTが大きくなると、共振器40は2次モードにおいて電気励振可能となる。図5から、感応膜18の厚さTが200nm以上において2次モードにおいて共振すると考えられる。積層膜20中では圧電層14が最も厚い。また、様々な共振周波数を有する共振器40を設計したとしても、圧電層14の厚さに対する下部電極12および上部電極16の厚さの比は大きくは変わらない。そこで、感応膜18の厚さTを圧電層14の厚さで規格化すると、感応膜18の厚さTは、200nmであり、圧電層14の厚さの0.2倍である。よって、感応膜18の厚さTは、圧電層14の厚さの0.2倍以上が好ましい。感応膜18の厚さTは、圧電層14の厚さの0.3倍以上がより好ましく、0.4倍以上がさらに好ましい。
【0054】
感応膜18が厚くなると、弾性波のほとんどの変位が感応膜18内になってしまい共振応答が小さくなる。例えば、T=506nmのとき、2次モードにおけるλの定在波のうちλ/2相当の変位が感応膜18内で変位しているとすると、例えばT=1000nmとしたときに、2λ/3相当の変位が感応膜18内で変位してしまい、下部電極12と上部電極16との電位差が小さくなる。これにより、共振応答が小さくなると考えられる。この観点から、感応膜18の厚さTは、圧電層14の厚さの1倍以下が好ましく、0.7倍以下がより好ましく、0.6倍以下がさらに好ましい。
【0055】
感応膜18のヤング率が低くなると弾性波の変位は感応膜18内により入りやすくなる。感応膜18として用いた銅フタロシアニンのヤング率は55GPa、ポアソン比は0.35である。そこで、感応膜18として、20GPa~80GPaかつポアソン比が0.2~0.4であれば、実験の結果を一般化できると考える。圧電層14の窒化アルミニウム層は等方的でないため、弾性スティフネスを用いて検討する。圧電層14は、結晶方位のZ軸方向が図2(a)および図2(b)におけるZ方向になるように配向する多結晶である。そこで弾性スティフネスC33について検討する。なお、弾性スティフネスC33の添え字3は窒化アルミニウムのZ軸方向を示す。圧電層14の窒化アルミニウムのC33は280GPa~340GPaである、一方、感応膜18のヤング率を20GPa~80GPaかつポアソン比が0.2~0.4とする。このとき、感応膜18の弾性スティフネスC33は圧電層14の弾性スティフネスC33の0.06倍~0.62倍であれば、実験の結果を一般化できると考えられる。感応膜18のC33は圧電層14のC33の0.1倍~0.5倍が好ましく、0.2倍~0.4倍がより好ましい。
【0056】
感応膜18の密度も弾性波の変位に関係する。感応膜18として用いた銅フタロシアニンの密度は1.5g/cmである。そこで、感応膜18の密度として、1.2g/cm~1.7g/cmであれば、実験の結果を一般化できると考える。圧電層14の窒化アルミニウム層の密度は3.2g/cm~3.4g/cmである。よって、感応膜18の密度は圧電層14の密度の0.35倍以上かつ0.54倍以下であれば、実験の結果を一般化できると考えられる。感応膜18の密度は圧電層14の密度の0.4倍~0.5倍が好ましい。
【0057】
圧電層14が窒化アルミニウム層のとき、感応膜18のヤング率は20GPa以上かつ80GPa以下が好ましく、30GPa以上かつ70Gpa以下がより好ましく、50GPa以上かつ60GPa以下がさらに好ましい。感応膜18の密度は1.2g/cm以上かつ1.7g/cm以下が好ましく、1.3g/cm以上かつ1.65g/cm以下が好ましく、1.4g/cm以上かつ1.6g/cm以下がより好ましい。
【0058】
圧電層14は窒化アルミニウム層であり、感応膜18は、金属フタロシニアンを主成分とする。これにより、感応膜18は、銅フタロシアニンと同程度のヤング率および密度を有する。よって、実験の結果をより一般化できる。なお、感応膜18が金属フタロシニアンを主成分とするとは、感応膜18が金属フタロシニアン以外の不純物を意図的または意図せず含んでいてもよい。感応膜18の金属フタロシニアンの割合は例えば50重量%以上または80重量%以上である。
【0059】
図1の検出装置100は、感応膜18を設ける前に、共振器40の1次モードにおける共振応答を用い検出器45の調整を行う。感応膜18を設けた共振器40の共振周波数または反共振周波数が感応膜18を設ける前の共振器の共振周波数または反共振周波数と大きく異なると、検出器45を再度調整することになる。この観点から、共振器40の偶数次モードにおける共振周波数は、共振器40から感応膜18を除去した共振器の1次モードにおける共振周波数の0.85倍以上かつ1.15倍以下であることが好ましく、0.9倍以上かつ1.1倍以下がより好ましく、0.95倍以上かつ1.05倍以下がさらに好ましい。
【0060】
これまでは、共振器40が有する圧電部21の共振周波数または反共振周波数は、感応膜18を形成することで変化が生じていた。このため、発振回路42は、この変化した共振周波数を発振させるための調整が必要であった。本実施例では、圧電部21に感応膜18を形成し、偶数次モードで発振させるので、圧電部21の共振周波数または反共振周波数を感応膜18形成前に近づけることができる。このため、発振回路42の調整が不要となる。さらに、感応膜18を厚く形成できるので、検出装置100の感度向上を実現できる。
【0061】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明はかかる特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0062】
10 基板
12 下部電極
14 圧電層
16 上部電極
17 保護膜
18 感応膜
20 積層膜
21 圧電部
22 空隙
40 共振器
42 発振回路
44 測定器
45 検出器
46 算出器
50 共振領域
T 厚さ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8