(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023111672
(43)【公開日】2023-08-10
(54)【発明の名称】ガスセンサ
(51)【国際特許分類】
G01N 27/00 20060101AFI20230803BHJP
【FI】
G01N27/00 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022013634
(22)【出願日】2022-01-31
(71)【出願人】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】水田 博
(72)【発明者】
【氏名】ラマラジ サンカー ガネシュ
(72)【発明者】
【氏名】浜坂 省吾
(72)【発明者】
【氏名】ムルガナタン マノハラン
(72)【発明者】
【氏名】槇 恒
(72)【発明者】
【氏名】恩田 陽介
(72)【発明者】
【氏名】服部 将志
【テーマコード(参考)】
2G060
【Fターム(参考)】
2G060AA01
2G060AB07
2G060AE19
2G060BA07
2G060BB09
2G060DA14
2G060DA31
2G060JA01
2G060KA01
(57)【要約】
【課題】アンモニアに対して高い検出感度を有するガスセンサおよびこれを用いたアンモニアガスの検出方法を提供する。
【解決手段】本発明の一形態に係るガスセンサは、第1の電極と、絶縁層と、一対の第2の電極と、チャネル層とを具備する。前記絶縁層は、前記第1の電極の上に設けられる。
前記一対の第2の電極は、前記絶縁層の上に設けられる。前記チャネル層は、グラフェン膜と、酸化アルミニウム膜とを有する。前記グラフェン膜は、前記絶縁層の上に設けられ、前記一対の第2の電極の間を電気的に接続する。前記酸化アルミニウム膜は、前記グラフェン膜を被覆する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の電極と、
前記第1の電極の上に設けられた絶縁層と、
前記絶縁層の上に設けられた一対の第2の電極と、
前記絶縁層の上に設けられ前記一対の第2の電極の間を電気的に接続するグラフェン膜と、前記グラフェン膜を被覆する酸化アルミニウム膜とを有するチャネル層と
を具備するガスセンサ。
【請求項2】
請求項1に記載のガスセンサであって、
前記酸化アルミニウム膜は、ナノサイズの微粒子の集合体である
ガスセンサ。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のガスセンサであって、
前記酸化アルミニウム膜の厚みは、2nm以上40nm以下である
ガスセンサ。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1つに記載のガスセンサであって、
前記グラフェン膜の表面に占める前記酸化アルミニウム膜の被覆率は、60%以上である
ガスセンサ。
【請求項5】
一導電型でゲート電極として機能する半導体基板と、
前記半導体基板上に設けられた絶縁層と、
前記絶縁層に設けられた矩形のグラフェン膜と、
前記グラフェン膜の対向側辺およびその近傍を被覆し、前記絶縁層に形成されたソース電極およびドレイン電極と
前記ソース電極およびドレイン電極との間のグラフェン膜上に設けられた酸化アルミニウム膜と、
を具備するガスセンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンモニアを検出対象とするガスセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、高感度ガスセンサでは、高感度とガス選択性を両立することは困難であった。ガス選択性をもつセンサを実現する上で、ガスを検知する構造上に特定のガス分子が選択的に吸着する材料を導入して、その吸着量からガスの濃度を測定するものが一般的である。
【0003】
酸化物半導体を母材とするセンサに不純物ドープを行う方法が一般に試される他、グラフェン表面への分子吸着による仕事関数の変化を測定して同定するグラフェンセンサが知られている。例えば特許文献1には、半導体層と、半導体層上方に設けられたグラフェン膜と、半導体層とグラフェン膜との間のバリア膜と、グラフェン膜に接して電気的に接続された第1の電極と、半導体層に接して電気的に接続された一対の第2の電極とを備えたガスセンサが開示されている。
【0004】
また、検出対象を高感度に検出できるセンサとして、例えば特許文献2には、グラフェン膜と、グラフェン膜に電気的に接触し検出対象との相互作用によるグラフェン膜の電気的特性の変化を読み出すための少なくとも2つの電極とを備えたセンサの構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第6687862号公報
【特許文献2】特開2018-163146号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特定のガスをターゲットにしたセンシングを目的とするとき、目的とするガスのみに応答し、それ以外のガスに対しては反応しないことが好ましい。酸化物半導体型のガスセンサにおいては、一般に高い選択性を得ることが難しいとされている。
また、特許文献1に記載のガスセンサは、グラフェンをガス分子との相互作用に利用し、ガスの選択性を仕事関数に依存している。この場合グラフェンに対してドナーとなりうるガスは誤検知の可能性があり、アンモニア選択性については課題がある。またグラフェン自体を化学修飾する方法にも触れているが、簡便さの面において課題がある。
【0007】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、アンモニアに対して高い検出感度を有するガスセンサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一形態に係るガスセンサは、第1の電極と、絶縁層と、一対の第2の電極と、チャネル層とを具備する。
前記絶縁層は、前記第1の電極の上に設けられる。
前記一対の第2の電極は、前記絶縁層の上に設けられる。
前記チャネル層は、グラフェン膜と、酸化アルミニウム膜とを有する。前記グラフェン膜は、前記絶縁層の上に設けられ、前記一対の第2の電極の間を電気的に接続する。前記酸化アルミニウム膜は、前記グラフェン膜を被覆する。
【0009】
上記ガスセンサによれば、グラフェン膜が酸化アルミニウム膜で被覆されたチャネル層を備えるため、アンモニアガスに対する選択的な吸着作用が得られ、これによりアンモニアガスに対する検出感度を向上させることができる。
【0010】
前記酸化アルミニウム膜は、ナノ粒子サイズの微粒子の集合体であってもよい。これにより、アンモニアガスに対する吸着性のさらに向上させて検出感度を高めることができる。
前記酸化アルミニウム膜の厚みは、例えば、2nm以上40nm以下である。
前記グラフェン膜の表面に占める前記酸化アルミニウム膜の被覆率は、例えば、60%以上である。
【0011】
本発明の他の形態に係るガスセンサは、
一導電型でゲート電極として機能する半導体基板と、
前記半導体基板上に設けられた絶縁層と、
前記絶縁層に設けられた矩形のグラフェン膜と、
前記グラフェン膜の対向側辺およびその近傍を被覆し、前記絶縁層に形成されたソース電極およびドレイン電極と
前記ソース電極およびドレイン電極との間のグラフェン膜上に設けられた酸化アルミニウム膜と、
を具備する
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、アンモニアに対して高い検出感度を有するガスセンサを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施形態に係るガスセンサの構成を模式的に示す側断面図である。
【
図3】上記ガスセンサにおけるチャネル層の構造を模式的に示す断面図である。
【
図4】上記ガスセンサを用いたアンモニアガスの検出方法を説明する模式図である。
【
図5】上記ガスセンサのゲート電圧とドレイン電流との関係を示す模式図である。
【
図6】上記ガスセンサを備えたガス検出システムを示す模式図である。
【
図7】上記ガス検出システムの動作手順を示すフローチャートである。
【
図8】上記ガスセンサの作用を説明する一実験結果である。
【
図9】上記ガスセンサの作用を説明する他の実験結果である。
【
図10】比較例に係るガスセンサの作用を説明する一実験結果である。
【
図11】本発明の一実施形態に係るガスセンサの作用を説明する他の実験結果である。
【
図12】酸化シリコン膜を構成する微粒子の粒子サイズとアンモニアガスの検出感度との関係を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
【0015】
[ガスセンサ]
図1は、本発明の一実施形態に係るガスセンサの構成を模式的に示す側断面図、
図2はその平面図である。
なお、
図2において、X軸方向は紙面の縦方向、Y軸方向は紙面の横方向、Z軸方向は紙面の高さ(デバイスの厚み)方向にそれぞれ相当する。
【0016】
本実施形態のガスセンサ10は、3電極型の半導体デバイスであり、本実施形態では電界効果型トランジスタ(FET)構造を有する。
【0017】
ガスセンサ10は、半導体基板11と、絶縁層12と、一対の金属電極13,14と、チャネル層15とを備える。
【0018】
半導体基板11は、例えば、P型またはN型の不純物元素がドーピングされたシリコン(Si)基板である。半導体基板11は、ゲート電極(第1の電極)として機能し、第1の直流電源(ゲート電圧Vgの電源(
図4参照))に接続される。半導体基板11の厚みは特に限定されず、例えば、約500μmである。
【0019】
絶縁層12は、半導体基板11の上に設けられる。絶縁層12は、例えば、酸化シリコンで構成され、ゲート絶縁膜として機能する。絶縁層12は、典型的には、半導体基板11の熱酸化膜であってもよいし、半導体基板11の上にCVD法またはスパッタ法などで形成された膜であってもよい。絶縁層12の厚みは特に限定されず、例えば、285nmである。
【0020】
一対の金属電極13,14は、絶縁層12の上に設けられ、Y軸方向に間隔をおいて対向配置される。一対の金属電極13,14は、ドレイン電極およびソース電極(一対の第2の電極)として機能し、ドレイン電極としての金属電極13は、
図4に示すように、第2の直流電源(ドレイン電圧Vdの電源(
図4参照))に直列に接続される。ソース電極としての金属電極14は、接地される。一対の金属電極13,14を構成する金属材料は特に限定されず、例えば、クロム(Cr)上に金(Au)を積層した膜(Au/Cr)である。
【0021】
一対の金属電極13,14は、コンタクト部13a,14aとパッド部13b、14bとを有する。近卓タオ部13a,13bは、一対の金属電極13,14が相互に対向する位置に設けられ、チャネル層15と接続される。パッド部13b、14bは、配線引き出し用の電極パッドに相当する。
【0022】
ここで、少し詳細にデバイス構造を説明する。
図2に示す様に、表面に絶縁層12が被覆されたSi基板11は、平面視で矩形であり、その中央にチャネル層15が設けられている。このチャネル層15は、ごく薄く平面視で矩形、ここでは長方形で成る。そしてこのチャネル層15の対向する側辺およびその近傍を覆うようにコンタクト部13a,14aが設けられる。コンタクト部13a,14aは、ボンディングや半田付けなどの外部電極としては小さいため、矩形の拡張されたパッド部13b,14bがコンタクト部13a,14aに隣接して又は配線を介して設けられる。また後述するが、チャネル層15の膜厚が極めて薄く、平面サイズも小さい事から、コンタクト部13a,14aは、チャネル層15よりも厚いがパッド部13b,14bの厚みよりも薄い膜で構成される。コンタクト部13a,14aが薄い事で、チャネル層15への応力負荷を抑止でき、パターン精度も向上する。パッド部13b,14bは、半田付けまたはワイヤーボンドなどで外部との接続が実現されるため、厚い必要がある。そのため、
図1では、金属電極13,14の断面がステップ状に形成されている。
【0023】
金属電極13,14の各部の厚みは特に限定されず、例えば、コンタクト部13a,14aの厚みは40nm、本体部13b,14bの厚みは80nmである。金属電極13,14の形成方法も特に限定されず、スパッタ法、真空蒸着法等の適宜の成膜方法が適用可能である。なお、コンタクト部13a,14aの形成は省略されてもよく、この場合、各金属電極13,14は、一様な厚みで形成される。
【0024】
図3は、チャネル層15の構造を模式的に示す断面図である。
図3に示すように、チャネル層15は、グラフェン膜151と、グラフェン膜151を被覆する酸化アルミニウム膜152とを有する。
【0025】
グラフェン膜151は、絶縁層12の上に設けられ、一対の金属電極13,14の間に配置される。グラフェン膜151は、金属電極13,14の間を電気的に接続する導電層である。一対の金属電極13,14が、コンタクト部13a,14aを有する場合は、グラフェン膜151は、それぞれのコンタクト部13a,14aと、絶縁層12の間に挟まれることで、金属電極13,14と導通する。一対の金属電極13,14が、コンタクト部13a,14aを有しない場合は、グラフェン膜151は、それぞれのパッド部13b、14bと、絶縁層12の間に挟まれることで、金属電極13,14と導通する。
ガスセンサ10は、チャネル層15における特定のガスの吸着をチャネル層15の電気伝導特性の変化に基づいて検出する。特定のガスの例として、アンモニアガスが挙げられる。グラフェン膜151は、そのチャネル層15における主要な導体部として機能する。
【0026】
グラフェン膜151は単層膜であり、本実施形態では、縦および横の長さが200nm、厚みが0.34nm(グラフェン1層分)である。グラフェン膜151は、単層膜に限られず、数層の多層膜であってもよい。グラフェン膜151の形成方法は特に限定されず、ここでは、転写法により絶縁層12の上に設けられる。
【0027】
酸化アルミニウム膜152は、アンモニアに対して高い選択性をもたせるため、グラフェン膜151の表面に形成される。酸化アルミニウム膜152は、アンモニアガスとの接触により酸化反応するため、発生した余剰電子はグラフェン膜151へ流れる。
この現象を利用して、酸化アルミニウム膜152からグラフェン膜151へ流れる電子の流入量に応じて、アンモニアガスの濃度を検出できる。
【0028】
また、酸化アルミニウムは多孔質の材料であるため、グラフェン膜151にアンモニアガスを選択的に吸着させる。このようにグラフェン膜151の表面に酸化アルミニウム膜152を担持させることで、アンモニアガスの吸着性を向上させ、これによりアンモニアに対する検出感度が高いガスセンサ10を得ることができる。
【0029】
酸化アルミニウム膜152を構成する酸素とアルミニウムの組成比は、典型的には量論比であるAl2O3である。酸化アルミニウム膜152は、ナノサイズの微粒子の集合体であるのが好ましい。酸化アルミニウム膜152がナノサイズの微粒子の集合体で構成されることで、酸化アルミニウム膜152の比表面積を大きくすることができる。これにより、グラフェン膜151のみでチャネル層15が構成される場合と比較して、チャネル層15の表面におけるアンモニアガスの吸着性がさらに向上し、アンモニアガスに対する検出感度をさらに高めることができる。
【0030】
上記微粒子の平均粒径は、例えば、10nm以上50nm以下、より好ましくは、20nm以上40nm以下である。
酸化アルミニウム膜152のグラフェン膜151の表面に占める被覆率は高い方が好ましく、典型的には60%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上である。
【0031】
酸化アルミニウム膜152は、グラフェン膜151の上に真空蒸着法などにより金属アルミニウム膜を形成した後、当該金属アルミニウム膜を酸化させることで形成される。
本実施形態では、アルミニウムの厚さが薄い事から、自然酸化で、酸化アルミニウムを生成させている。
金属アルミニウム膜の酸化方法は特に限定されず、酸素雰囲気で熱酸化させる事も可能である。なお、酸化アルミニウム膜152は、例えばALD法などによって金属アルミニウム膜の酸化処理を経ることなく、グラフェン膜151の上に直接形成されてもよい。
【0032】
酸化アルミニウム膜152の厚みは、例えば、2nm以上40nm以下、より好ましくは、5nm以上20nm以下である。厚みが2nm未満では、酸化アルミニウムの担持量を十分に確保できず、グラフェン膜151の上に酸化アルミニウム膜152を所望の被覆率で安定に形成することが困難である。
このため、グラフェン膜151とアンモニア以外の他のガス種との接触機会が増えるため、検出対象であるアンモニアガスの選択性および感度の低下が余儀なくされる。
一方、厚みが40nmを超えると、アンモニアガスとの反応により生じた余剰電子のグラフェン膜151への流入が困難になり、アンモニアガスに対する検出感度に悪影響をもたらすおそれがある。
【0033】
なお、アルミニウムは酸化時に体積膨張を伴うため、アルミニウム膜を酸化させて酸化アルミニウム膜152を形成する場合は、グラフェン膜151上に成膜する金属アルミニウムの膜厚を調整することで、酸化アルミニウム膜152の厚みを上記の範囲に収めることができる。例えば、金属アルミニウム膜を0.5nm~5nmの厚みの範囲に調整することで、2.5nm~10nmの厚みの酸化アルミニウム膜を形成できることが確認された。また、厚み0.5nmの金属アルミニウム膜から酸化アルミニウム膜152を形成した場合、酸化アルミニウムのナノ粒子の平均粒径は約30nm、グラフェン膜151に対する被覆率は約80%であった。
【0034】
酸化アルミニウム膜152を構成するナノ粒子膜の凝集度合いは金属アルミニウムの成膜条件によって異なり、成膜速度が速いほど凝集が強くなる傾向がある。膜の凝集が強いと、粒子サイズの拡大、膜厚の不均一化が起こりやすくなる。このため、金属アルミニウムの成膜速度は、1.0Å/sec以下であることが好ましく、より好ましくは、0.5Å/sec以下、さらに好ましくは、0.1Å/sec以下である。
【0035】
次に、以上のように構成されるガスセンサ10の作製方法について、簡単に説明する。
一導電型の不純物元素がドープされたSi基板(半導体基板11)を用意する。そしてこの基板を酸化性雰囲気に晒し、基板の上に絶縁層12を形成する。
続いて、この絶縁層12上に別途作製したグラフェン膜151を転写する。
次に、リソグラフィー技術及び蒸着法を用いて、ソース/ドレイン電極として一対の金属電極13,14を、グラフェン膜151の両端を被覆するように形成する。
続いて、一対の金属電極13,14のコンタクト部13a,14a間にあるグラフェン膜151を所定の大きさ(例えば、200nm×200nm)のレジストで保護した後、酸素プラズマエッチングにより保護されていない余分なグラフェンを除去することで、グラフェン膜151を矩形のリボン形状に加工する。
保護層に用いたレジストを除去した後、再度リソグラフィーによりグラフェン膜151以外の部分をレジストで保護し、蒸着によってアルミニウムを蒸着する。蒸着されたアルミニウムは、真空チャンバから取り出す際に自然に酸化され、アルミニウム酸化物となる。残されたレジストを除去することで、グラフェン膜151にアルミニウム酸化物ナノ粒子を担持させたチャネル層15を有するガスセンサ10が作製される。
【0036】
この製造プロセスのため、コンタクト部13a,14aの上面の一部にアルミニウム酸化物が形成されることもある。コンタクト部13a,14aの側面にも、わずかにアルミニウム酸化物が形成されることもある。以上の説明は、金属電極13,14がコンタクト部13a,14aを有しない場合でも同様である。その場合は、パッド部13b,14bの上面または側面にアルミニウム酸化物が形成される。
レジストを用いずに、蒸着などでアルミニウムを形成してもよい。その際は、金属電極13,14の本体部13b,14bとコンタクト部13a,14aの上面または側面にも、アルミニウム酸化物が形成される。
【0037】
[ガス検出原理]
続いて、以上のように構成されるガスセンサ10を用いたアンモニアガスの検出方法について説明する。
【0038】
図4は、ガスセンサ10を用いたアンモニアガスの検出方法を説明する模式図である。ゲート電極としての半導体基板11にゲート電圧Vgの電源が接続され、ドレイン電極としての金属電極13にドレイン電圧Vdの電源が接続される。ソース電極としての金属電極14は、グランド電位に接続される。ゲート電圧Vgの電源は、ゲート電極を例えば-40Vから+40Vまで(または、-80Vから+80V)まで掃引印加可能な可変電源である。ドレイン電圧Vdの電源は、ドレイン電極に例えば2mVの定電圧を印加可能な固定電源である。そして、ソース-ドレイン間にドレイン電圧を印加した状態で、ゲート電極を上記電圧範囲で掃引したときのソース-ドレイン間に流れる電流(ドレイン電流Id)の変化を検出する。掃引条件は特に限定されず、例えば、掃引間隔は0.5V、掃引時間は1分である。
【0039】
図5は、ゲート電圧Vgとドレイン電流Idとの関係(Id-Vg特性)を示す図である。
図において、
符号51は、検出対象ガス導入前のドレイン電流曲線、
符号52は、検出対象ガス導入後のドレイン電流曲線
である。いずれの曲線も、下に凸なる形状の放物線形状を示す。各ドレイン電流曲線51,52の最小値31,32は電荷中性点(CNP:Charge Neutral Point)とも呼ばれる。
【0040】
電荷中性点は、キャリア層(本実施形態ではグラフェン膜151)中の正負のキャリアの総量が極小になる点を示しており、電子供与性又は電子受容性のガスが吸着されると、電荷中性点を与えるゲート電圧が変化する。電子供与性とは、ドナー性とも呼び、電荷を与える性質のことでる。この性質を持つガスを、ドナーと呼ぶ。アンモニアガスはドナーとして機能する。反対に、電子供与性とは、アクセプタ性とも呼び、電荷をもらう性質のことである。このゲート電圧の変化を追跡することにより、ガスの吸着を検出することができる。以下、電荷中性点といった場合、この極小の点を与えるゲート電圧のことを指すものとする。また、ガス導入前後における電荷中性点の変化量を電荷中性点のシフト量(ΔVCNP(絶対値))ともいう。シフト量(ΔVCNP)は、検出対象ガスの濃度に比例して大きくなる傾向を示す。本実施形態ではこのような検出原理を利用して、アンモニアガスの濃度を検出する。以降、この検出原理はCNP法ともいう。
【0041】
図6は、ガスセンサ10を備えたガス検出システム1を示す模式図である。ガス検出システム1は、検出チャンバ2と、情報処理装置4と、表示装置5と、記憶部6と、を備える。
【0042】
検出チャンバ2は、収容室20内に、ガスセンサ10と、加熱部26とを備える。
収容室20は、外部からガスを吸気する吸気口21と、収容室20から外部に排気する排気口22とを有する。吸気口21には収容室20内へのガスの流入を調節するバルブ24が設けられ、排気口22には収容室20内のガスの外部への流出を調節するバルブ25が設けられている。排気口22には、バルブ25の先に真空ポンプが接続される。
加熱部26は、例えばヒータからなり、ガスセンサ10を所定温度に加熱することで、グラフェン膜151の表面を清浄化する。清浄化するとは、グラフェン膜151に吸着したガスや水分を脱着させることである。
【0043】
情報処理装置4は、取得部41と、演算部42と、制御部43と、を備える。
取得部41は、ガスセンサ10のドレイン電流Id(
図4参照)およびその変化に関する電流情報を取得する。
演算部42は、取得部41で取得された電流情報に基づき、ガス導入前後におけるガスセンサ10の電荷中性点を算出し、その算出結果を表示装置5へ出力する。
制御部43は、
図4に示したゲート電圧Vgの電源およびドレイン電圧Vdの電源、検出チャンバ2の各部の動作など、ガス検出システム1の動作を統括的に制御する。
【0044】
表示装置5は表示部を有し、情報処理装置4から出力されたガスの種類や濃度等を表示部に表示する。
【0045】
記憶部6は、制御部43において実行されるソフトウェアプログラムを記憶する。また、記憶部6は、情報処理装置4から送信される取得部41における取得データ、演算部42における演算パラメータや演算結果、および制御部43における制御データ等を記憶する。記憶部6は、情報処理装置4が通信可能なクラウドサーバ上にあってもよいし、情報処理装置4に内蔵されてもよい。
【0046】
図7は、ガス検出システム1の動作手順を示すフローチャートである。
【0047】
まず、収容室20内を真空排気する(ステップS101)。
続いて、上述したCNP法の条件で、当該真空雰囲気でのガスセンサ10のドレイン電流特性に基づいてチャネル層15の電荷中性点を測定する(ステップS102)。
【0048】
続いて、収容室20にアンモニアガスを導入する(ステップS103)。アンモニアガスの導入圧は、ここでは、ゲージ圧で700Torr(93.3kPa)とした。
続いて、上述したCNP法の条件で、当該アンモニアガス雰囲気でのガスセンサ10のドレイン電流特性に基づいてチャネル層15の電荷中性点を測定する(ステップS104)。
【0049】
続いて、アンモニアガス導入前の電荷中性点に対するアンモニアガス導入後の電荷中性点のシフト量を算出し、このシフト量に対応するアンモニアガスの濃度を判定する(ステップS105,S106)。アンモニアガス濃度の判定は、例えば、あらかじめ記憶部6に格納された電荷中性点のシフト量とアンモニアガス濃度との関係を示すテーブルを用いて判定される。
【0050】
[本実施形態の作用]
本実施形態のガスセンサ10においては、チャネル層15がグラフェン膜151とそれを被覆する酸化アルミニウム膜152とを有する。
アルミニウム酸化物は、アンモニアの酸化を促進する機能を有すると考えられている。これは、アルミニウムをドープした酸化亜鉛を母材とする酸化物半導体ガスセンサによるアンモニア応答の結果によって知られている。
アルミニウム酸化物層上に存在する酸化物イオンがアンモニアガスを酸化することにより、余剰の電子が発生する。この余剰の電子は酸化アルミニウム膜152からグラフェン膜151へと流入し、グラフェン膜151の電荷中性点を変化させる。
【0051】
酸化アルミニウム膜152について考えるとき、その厚みは以下のように制限される。
まず、酸化アルミニウム膜152は、比較的薄い方が優れていると考えられる。これは、酸化アルミニウム膜152の表面でアンモニアの酸化反応が起きる為、発生した余剰の電子はグラフェン膜151へと流れる必要がある。したがって、酸化アルミニウム膜152の厚みが厚いと、表面で発生した余剰の電子がグラフェン膜151へと到達できず、感度に悪影響をもたらすこととなる。
一方、酸化アルミニウム膜152は、一定以上の厚みがある必要がある。これは、酸化アルミニウム膜152の厚みが薄い、すなわち酸化アルミニウムの担持量が少ない場合、グラフェン膜151の露出を意味し、直接グラフェン膜151へのガスの相互作用を認める他、酸化アルミニウム膜151の表面積の低下を意味し、選択性及び感度の低下が起きると考えらえる。したがって、酸化アルミニウム膜152には一定の厚みが求められる。
以上から、酸化アルミニウム膜152の厚みとして、およそ2nmから40nm程度の範囲が最適と考えられる。なお、露出するグラフェン膜151が少ないほど高い選択性が予想されることから、グラフェン膜151を覆う酸化アルミニウム膜152の被覆率は高い方が好ましい。具体的には、80%以上が好ましい。
また酸化アルミニウムの形状である、ナノ粒子形状によるグラフェン膜151への担持は、ガス吸着に寄与する表面積を大きくするという意味で重要である。酸化アルミニウム膜151をナノ粒子サイズの微粒子膜にすることにより、膜厚を大きくすることなく、アンモニアに対する吸着反応サイトの数を増大させることができ、感度の向上が達成できると考えられる。
【0052】
図8で特性を説明する。グラフェン膜151の厚みは、0.34nm。金属アルミニウム膜の厚みは5nmで、これを酸化させた。
この条件で形成した酸化アルミニウム膜152を有するガスセンサ10(以下、サンプル1ともいう)を作製し、このガスセンサ10のId-Vg特性を
図8に示す。
同図において、
曲線C1は、アンモニアガス導入前の真空雰囲気下での測定結果、
曲線C2は、濃度4ppmのアンモニアガスが存在する雰囲気下での測定結果、
曲線C3は、曲線C2で示した測定後、ガスの追加の導入を止めて5分間静置し、再度測定した結果である。曲線C3で示した測定は、5分後に測定しても、ガスセンサ10のId-Vg特性にあまり変化がないことを示した。曲線C3で示した測定は、ガスセンサ10のId-Vg特性を確認するために行ったため、本発明の測定のために必須ではない。
【0053】
図8において曲線C1,C2で示すように、極小点である電荷中性点(CNP)は、ガス導入により負の方向へ2V、つまり、-2Vシフトしている。これは、アンモニア吸着により、グラフェン膜151に対してアンモニアがドナーとして機能した事を示している。
【0054】
図9は、上記サンプル1に相当するガスセンサ10のチャネル層15の電荷中性点(CNP)とアンモニア濃度との関係を測定したときの実験結果である。測定温度は室温とした。
図9に示すように、アンモニアガスの濃度と電荷中性点のシフト量との間には強い相関があり、濃度が高いほど大きなシフト量が認められた。なお、濃度が2ppmから500ppbの範囲および250ppbから25ppbの範囲でそれぞれ電荷中性点のシフト量が一定値となったが、上記サンプル1の作製精度に由来するものであると推定されるが、例えば濃度3ppmのアンモニアガスの雰囲気中では、約-1.5V以上の電荷シフト量が測定されると考えられる。
【0055】
比較のため、酸化シリコン膜152が形成されていないグラフェン膜151単層のチャネル層を備えたガスセンサ(以下、サンプル2ともいう)を用いて、真空雰囲気および濃度3ppmのアンモニアガスが存在する雰囲気中での電荷中性点のシフト量を測定した。測定温度は室温とした。実験結果を
図10に示す。
図10に示すように、電荷中性点のシフト量は-1Vであった。
【0056】
図9および
図10の結果より、酸化アルミニウム膜152でグラフェン膜151が被覆されたチャネル層を有する本実施形態のガスセンサ10によれば、酸化アルミニウム膜152が無い場合と比較して、アンモニアガスに対して高い感度を有することが確認される。
【0057】
続いて、他の例として、厚み0.34nmのグラフェン膜151を被覆する厚み2nmの金属アルミニウム膜を酸化させることで形成された、酸化アルミニウム膜152を有するガスセンサ10(以下、サンプル3ともいう)を作製し、このガスセンサ10のガス選択性について評価した。実験には、サンプル3と同一の条件で作製した5つのサンプル(Device1~5)を用い、評価用ガスとして、アンモニア(NH
3)、アセトン(C
3H
6O)、エタノール(C
2H
6O)、ホルムアルデヒド(CH
2O)および水素(H
2)の5種類を用い、それぞれ単一のガス種と窒素(N
2)との混合ガス雰囲気下で測定した。各ガスの濃度はいずれも3ppmとし、測定温度は室温とした。その実験結果を
図11に示す。
【0058】
図11に示すように、評価用ガスとして用いた5種類のガスのうち、アンモニアに対して高い感度(電荷中性点のシフト量ΔV
CNP)が得られた。一方、それ以外のアセトン、エタノール、ホルムアルデヒド、水素については大きくとも-1Vの変動量にとどまっており、比較的小さくノイズ相当の変動のみを示した。つまり、アンモニアにのみ応答し、それ以外のガスについては応答がほとんど見られなかった。
このことから、本実施形態のガスセンサ10によれば、アンモニアガスに対する高い選択性をもつことが確認された。また、測定に用いて5つのサンプル3(Device1~5)について同様な結果が得られており、再現性が得られることも確認された。
【0059】
図12は、上記サンプル1の実験結果(
図8参照)を踏まえた酸化アルミニウム膜152を構成する微粒子膜の粒子サイズと電荷中性点のシフト量との関係を示すシミュレーション結果である。ここでは、酸化アルミニウム膜の個々の微粒子が理想的な球形であると仮定した。酸化アルミニウム膜の担持量が同じであれば、表面体積比率から粒子径が小さいほど比表面積は大きくなるため、その分アンモニアガスに対する感度も向上する傾向にあると予測される。
【符号の説明】
【0060】
1…ガス検出システム
10…ガスセンサ
11…半導体基板(第1の電極)
12…絶縁層
13,14…金属電極(第2の電極)
15…チャネル層
151…グラフェン膜
152…酸化アルミニウム膜