(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023111710
(43)【公開日】2023-08-10
(54)【発明の名称】導電性の被検体の厚さ測定方法及び厚さ測定装置
(51)【国際特許分類】
G01B 7/06 20060101AFI20230803BHJP
【FI】
G01B7/06 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022013697
(22)【出願日】2022-01-31
(71)【出願人】
【識別番号】593199530
【氏名又は名称】一般財団法人発電設備技術検査協会
(74)【代理人】
【識別番号】110002295
【氏名又は名称】弁理士法人M&Partners
(74)【代理人】
【識別番号】100082429
【弁理士】
【氏名又は名称】森 義明
(74)【代理人】
【識別番号】100162754
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 真樹
(72)【発明者】
【氏名】程 衛英
【テーマコード(参考)】
2F063
【Fターム(参考)】
2F063AA16
2F063BB02
2F063BC02
2F063BC05
2F063CA10
2F063DA01
2F063DA05
2F063DC08
2F063DD03
2F063GA03
2F063GA08
2F063KA01
2F063LA22
2F063LA23
(57)【要約】
【課題】
磁気特性の変動の影響を低減し、容易に導電性の被検体の厚さ測定を可能とする渦電流を利用した厚さ測定方法及び厚さ測定装置を提供することを課題とする。
【解決手段】
導電性の被検体の厚さを測定する方法であり、第1のコイル1及び第2のコイル2を和動接続させ、被検体に交番磁界を印加して和動インピーダンスZ
cumを測定する和動接続測定工程と、第1のコイル1及び第2のコイル2を差動接続させ、被検体に交番磁界を印加して差動インピーダンスZ
difを測定する差動接続測定工程と、和動インピーダンスZ
cumと差動インピーダンスZ
difとの差分である差分インピーダンスdZの成分を抽出する成分抽出工程と、差分インピーダンスdZの成分と被検体の厚さとの相関関係から被検体の厚さを算出する厚さ算出工程とを含む。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性の被検体の厚さを測定する方法であり、
第1のコイル(1)及び第2のコイル(2)を和動接続させ、前記被検体に第1の周波数の交番磁界を印加して和動インピーダンス(Zcum)を測定する和動接続測定工程と、
前記第1のコイル(1)及び前記第2のコイル(2)を差動接続させ、前記被検体に前記交番磁界を印加して差動インピーダンス(Zdif)を測定する差動接続測定工程と、
前記和動インピーダンス(Zcum)と前記差動インピーダンス(Zdif)との差分である差分インピーダンス(dZ)の成分を抽出する成分抽出工程と、
前記差分インピーダンス(dZ)の成分と前記被検体の厚さとの相関関係から前記被検体の厚さを算出する厚さ算出工程と、
を含むことを特徴とする厚さ測定方法。
【請求項2】
前記第1の周波数が低周波数であることを特徴とする請求項1記載の厚さ測定方法。
【請求項3】
前記第1の周波数がシックスキン条件を満足することを特徴とする請求項1又は2記載の厚さ測定方法。
【請求項4】
前記成分抽出工程において、前記差分インピーダンス(dZ)の成分として差分抵抗(dR)を抽出し、
前記差分抵抗(dR)を前記第1の周波数の2乗で除することにより固有抵抗(<dR>)を算出する固有抵抗算出工程をさらに含み、
前記厚さ算出工程において、前記差分インピーダンス(dZ)の成分に代えて前記固有抵抗(<dR>)と前記被検体の厚さとの相関関係から前記被検体の厚さを算出することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の厚さ測定方法。
【請求項5】
前記成分抽出工程において、前記差分インピーダンス(dZ)の成分として差分インダクタンス(dL)を抽出し、
前記第1のコイル(1)及び前記第2のコイル(2)を和動接続させ、前記被検体に前記第1の周波数より低い第2の周波数の極低周波交番磁界を印加して、極低周波和動インピーダンス(ZVLcum)を測定する極低周波和動接続測定工程と、
前記第1のコイル(1)及び前記第2のコイル(2)を差動接続させ、前記被検体に前記極低周波交番磁界を印加して極低周波差動インピーダンス(ZVLdif)を測定する極低周波差動接続測定工程と、
前記極低周波和動インピーダンス(ZVLcum)と前記極低周波差動インピーダンス(ZVLdif)との差分によりベース差分インダクタンス(dL(fvl))を算出し、前記差分インダクタンス(dL)と前記ベース差分インダクタンス(dL(fvl))との差分から補正差分インダクタンス(d(dL))を算出し、前記補正差分インダクタンス(d(dL))を前記第1の周波数の2乗で除することにより固有インダクタンス(<dL>)を算出する固有インダクタンス算出工程とをさらに含み、
前記厚さ算出工程において、前記差分インピーダンス(dZ)の成分に代えて前記固有インダクタンス(<dL>)と前記被検体の厚さとの相関関係から前記被検体の厚さを算出することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の厚さ測定方法。
【請求項6】
前記被検体は外径が一定のパイプであることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項記載の厚さ測定方法。
【請求項7】
導電性の被検体の厚さを測定する厚さ測定装置であり、
第1のコイル(1)、第2のコイル(2)、切替装置(3)、測定装置(4)及び制御装置(5)とを備え、
前記切替装置(3)は、前記第1のコイル(1)と前記第2のコイル(2)とが和動接続された和動接続状態と、前記第1のコイル(1)と前記第2のコイル(2)とが差動接続された差動接続状態との選択的切り替えが可能であり、
前記制御装置(5)は、前記切替装置(3)を制御して、前記第1のコイル(1)と前記第2のコイル(2)との接続を、前記和動接続状態、又は前記差動接続状態とし、
前記制御装置(5)は、前記測定装置(4)を制御して、前記第1のコイル(1)と前記第2のコイル(2)との前記和動接続状態での和動インピーダンス、及び前記第1のコイル(1)と前記第2のコイル(2)との前記差動接続状態での差動インピーダンスをそれぞれ測定し、
前記制御装置(5)は、前記前記測定装置(4)から前記和動インピーダンス及び前記差動インピーダンスを入力し、前記被検体の厚さを算出することを特徴とする厚さ測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非破壊で被検体の厚さ(肉厚)を測定する方法、特に、渦電流効果によるインピーダンスの変化を利用した導電性の被検体の厚さ測定方法と厚さ測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
非破壊で被検体の厚さを測定する装置は、例えば、板状体やパイプ等の製品の仕上がり厚さ(肉厚)の測定や、被検体の厚さの経時変化等の監視に利用される。被検体の厚さの測定方法の1つとして、渦電流を利用した測定方法が公知である。
このような測定方法においては、被検体に近接したコイルにより、被検体に交番磁場を印加し、コイルの電気特性の変化を測定して、その電気特性の変化から対象物の厚さを算出する。そのため、予め厚さが異なる複数の標準サンプルを準備し、測定装置の出力と厚さとの関係を示すマスターカーブ(較正曲線)を作成しておく。そして、被検体に対する測定装置の出力と予め準備された標準曲線とから被検体の厚さを算出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-152486号公報
【特許文献2】特開2012-127888号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のように、渦電流を利用した厚さ(肉厚)測定には、被検体の電磁気的特性に対応した標準曲線を必要とする。このような標準曲線の作成には高度な技術を要することがある。
また、被検体の磁気特性は、その製造工程や使用履歴により変化することがある。従来の渦電流を用いた厚さの測定方法では、磁気特性の影響を受けやすく、被検体は実質的に非磁性金属に限定されることが多い。
【0005】
本発明は、容易に導電性の被検体の厚さ測定を可能とする渦電流を利用した厚さ測定方法及び厚さ測定装置を提供することを主たる技術的課題とする。
また、磁気特性の影響の軽減を可能とすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る厚さ測定方法は、
導電性の被検体の厚さを測定する方法であり、
第1のコイル1及び第2のコイル2を和動接続させ、前記被検体に第1の周波数の交番磁界を印加して和動インピーダンスZcumを測定する和動接続測定工程と、
前記第1のコイル1及び前記第2のコイル2を差動接続させ、前記被検体に前記交番磁界を印加して差動インピーダンスZdifを測定する差動接続測定工程と、
前記和動インピーダンスZcumと前記差動インピーダンスZdifとの差分である差分インピーダンスdZの成分を抽出する成分抽出工程と、
前記差分インピーダンスdZの成分と前記被検体の厚さとの相関関係から前記被検体の厚さを算出する厚さ算出工程と、を含むことを特徴とする。
【0007】
和動インピーダンスZcumと差動インピーダンスZdifとの差分による差分インピーダンスdZを算出することにより、渦電流の影響を効果的に抽出することができ、被検体の厚さ測定を容易にする。
また、差分インピーダンスdZの成分と被検体の厚さとの相関関係を容易に算出することが可能となり、さらに被検体の厚さ測定が容易となる。
【0008】
また、本発明に係る厚さ測定方法は、上記構成において、
前記第1の周波数が低周波数であってもよい。
【0009】
また、本発明に係る厚さ測定方法は、上記構成において、
前記第1の周波数がシックスキン条件を満足してもよい。
【0010】
被検体に印加する交番磁界の周波数を低周波とし、又シックスキン条件を満足することにより、表皮効果による被検体の厚さ測定の制限を緩和することができる。
【0011】
また、本発明に係る厚さ測定方法は、上記構成において、
前記成分抽出工程において、前記差分インピーダンスdZの成分として差分抵抗dRを抽出し、
前記差分抵抗dRを前記第1の周波数の2乗で除することにより固有抵抗<dR>を算出する固有抵抗算出工程をさらに含み、
前記厚さ算出工程において、前記差分インピーダンスdZの成分に代えて前記固有抵抗<dR>と前記被検体の厚さとの相関関係から前記被検体の厚さを算出してもよい。
【0012】
固有抵抗<dR>を用いて被検体の厚さ測定を行うことにより、被検体の磁気的影響を軽減することができる。
【0013】
また、本発明に係る厚さ測定方法は、上記構成において、
前記成分抽出工程において、前記差分インピーダンスdZの成分として差分インダクタンスdLを抽出し、
前記第1のコイル1及び前記第2のコイル2を和動接続させ、前記被検体に前記第1の周波数より低い第2の周波数の極低周波交番磁界を印加して、極低周波和動インピーダンスZVLcumを測定する極低周波和動接続測定工程と、
前記第1のコイル1及び前記第2のコイル2を差動接続させ、前記被検体に前記極低周波交番磁界を印加して極低周波差動インピーダンスZVLdifを測定する極低周波差動接続測定工程と、
前記極低周波和動インピーダンスZVLcumと前記極低周波差動インピーダンスZVLdifとの差分によりベース差分インダクタンスdL(fvl)を算出し、前記差分インダクタンスdLと前記ベース差分インダクタンスdL(fvl)との差分から補正差分インダクタンスd(dL)を算出し、前記補正差分インダクタンスd(dL)を前記第1の周波数の2乗で除することにより固有インダクタンス<dL>を算出する固有インダクタンス算出工程とをさらに含み、
前記厚さ算出工程において、前記差分インピーダンスdZの成分に代えて前記固有インダクタンス<dL>と前記被検体の厚さとの相関関係から前記被検体の厚さを算出してもよい。
【0014】
固有インダクタンス<dL>を用いて被検体の厚さ測定を行うことにより、被検体の磁気的影響を軽減することができる。
【0015】
また、本発明に係る厚さ測定方法は、上記構成において、
前記被検体は外径が一定のパイプであってもよい。
【0016】
このようにパイプの厚さを測定することにより、非破壊でパイプの内径を検査することができる。
【0017】
本発明に係る厚さ測定装置は、
導電性の被検体の厚さを測定する厚さ測定装置であり、
第1のコイル1、第2のコイル2、切替装置3、測定装置4及び制御装置5とを備え、
前記切替装置3は、前記第1のコイル1と前記第2のコイル2とが和動接続された和動接続状態と、前記第1のコイル1と前記第2のコイル2とが差動接続された差動接続状態との選択的切り替えが可能であり、
前記制御装置5は、前記切替装置3を制御して、前記第1のコイル1と前記第2のコイル2との接続を、前記和動接続状態、又は前記差動接続状態とし、
前記制御装置5は、前記測定装置4を制御して、前記第1のコイル1と前記第2のコイル2との前記和動接続状態での和動インピーダンス、及び前記第1のコイル1と前記第2のコイル2との前記差動接続状態での差動インピーダンスをそれぞれ測定し、
前記制御装置5は、前記前記測定装置4から前記和動インピーダンス及び前記差動インピーダンスを入力し、前記被検体の厚さを算出することを特徴とする。
【0018】
このような厚さ測定装置によれば、第1のコイル1と第2のコイル2との和動インピーダンスと、差動インピーダンスとから被検体の厚さを測定することにより、渦電流の影響を効果的に抽出し、容易に被検体の厚さを測定することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明は、容易に導電性の被検体の厚さ測定を可能とする渦電流を利用した厚さ測定方法及び厚さ測定装置を提供することができる。
また、磁気特性の影響を軽減することを可能とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、渦電流によるインピーダンス変化を模式的に示す等価回路である。
【
図2】
図2(A)は、交番磁界H中に置かれた、厚さD、半径r
0の円板形状の被検体TPの例を示す斜視図、
図2(B)はコイルCにより被検体TPに交番磁界を印加する様子を模式的に示す斜視図である。
【
図3】
図3は、浸透深さδの渦電流損P
eddyに対する影響を示すグラフである。
【
図4】
図4(A)は、比透磁率μrが500である物質A、比透磁率μrが250である物質Bに対して計算したR
acと厚さとの関係を示すグラフ、
図4(B)は物質A及び物質Bに対して計算した<R
ac>と厚さとの関係を示すグラフである。
【
図5】
図5(A)は、同一の2つのコイルを和動接続した回路を示し、
図5(B)は2つのコイルを差動接続した回路を示す。
【
図6】
図6(A)は2つのコイルが和動接続された状態の厚さ測定装置100を示し、
図6(B)は2つのコイルが差動接続された状態の厚さ測定装置100を示す。
【
図7】
図7は、パイプ形状の被検体TPと第1のコイル1及び第2のコイルの配置を示す断面図である。
【
図8】
図8(A)はdRの断面積依存性を示すグラフ、
図8(B)は<dR>の断面積依存性を示すグラフ、
図8(C)はdXの断面積依存性を示すグラフ、
図8(D)はdLの断面積依存性を示すグラフである。
【
図9】
図9は、導電性の被検体TP、第1のコイル1及び第2のコイル2の配置を示す写真、及び測定条件を示す。
【
図10】
図10(A)はdRの周波数依存性を示す実測データ、
図10(B)は<dR>の周波数依存性を示す実測データ、
図10(C)は<dR>の断面積依存性を示す実測データである。
【
図11】
図11(A)はdLの周波数依存性を示すグラフであり、
図11(B)はdLの断面積(r
o
2-r
i
2)依存性を示すグラフである。
【
図12】
図12(A)はd(dL)の周波数依存性、
図12(B)は<dL>の周波数依存性、
図12(C)は<dL>の断面積(r
o
2-r
i
2)依存性を示すグラフである。
【
図13】
図13は、厚さ測定装置100を用いて平板の被検体TPの厚さを測定する例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。但し、以下の実施形態は、いずれも本発明の要旨の認定において限定的な解釈を与えるものではない。また、同一又は同種の部材については同じ参照符号を付して、説明を省略することがある。
【0022】
さらに、本明細書において用いる、形状や幾何学的条件ならびにそれらの程度を特定する、例えば、「平行」、「直交」、「同一」等の用語や長さや角度の値等については、厳密な意味に縛られることなく、同様の機能を期待し得る程度の範囲を含めて解釈することとする。
【0023】
(測定原理)
以下、渦電流を利用した非破壊での被検体TPの厚さ(肉厚)測定の原理について説明する。
測定対象の被検体TPは、均質な材質で構成され、同一厚さを有する様に製造されている。被検体TPの厚さを測定することで、設計通り(狙い通り)の厚さであるか否かを非破壊で検査することができる。
図1は、渦電流によるインピーダンス変化を模式的に示す等価回路であり、1つのコイルCのインピーダンス変化を示す。インピーダンスZは、測定装置Tにより測定される。
図1においてZ
0はコイル自身のインピーダンスを示し、ΔZは渦電流によるインピーダンス変化を示す。
【0024】
図1に示すように、コイルCの直流抵抗(オーミック抵抗)をR
0[Ω]、コイルCの自己インダクタンスをL
0[H]とすると、コイル自身のインピーダンスZ
0は、
Z
0=R
0+jωL
0[Ω] ・・・(式1)
となる。
ここでωは、コイルCに印加する交流電流の角周波数であり、周波数をfとするとω=2πfにより定義される。交流電流は、例えば正弦波の電流を用いることができる。
以下の説明において、簡単のため角周波数ωを「周波数」と略称することがある。
【0025】
なお、交流電流は測定装置TによりコイルCに印加され、コイルCのインピーダンスは測定装置Tにより測定される。測定装置Tは、コイルCに印加する交流電流を参照し、検出された交流電流の振幅、位相差からコイルのインピーダンスを測定し、測定したインピーダンスの実部と虚部とを出力することができる。
測定装置Tは、印加する交流電流の周波数を変更しながら、それぞれの周波数においてインピーダンスを測定することができる。
測定装置Tは、例えば市販されている汎用のLCRメータ(周波数掃引型LCR測定器)を使用することができる。汎用のLCRメータを利用することで、
図1に示される測定システムは、特別に設計された装置を使用することなく、容易に、安価に構築することができる。
なお、測定装置TとしてLCRメータを用いる代わりに、周波数を変更可能な交流電流の供給源を準備して、コイルCに交流電流を印加し、コイルCの電気特性を測定する計測器を設け、パーソナルコンピュータPC等により印加した交流電流と測定されたコイルCの電気特性とを比較し、振幅、位相差から公知の計算方法によりインピーダンスZを算出してもよい。
【0026】
コイルCにより発生した交番磁界を測定対象の被検体TPに印加すると、コイルCのインピーダンスZはΔZ変化し、
Z=Z0+ΔZ ・・・(式2)
となる。一般に、渦電流を利用した厚さ測定で使用される磁場は弱く、ヒステリシス損失を無視すると、ΔZは渦電流損失に起因するインピーダンス変化となる。
渦電流によるコイルCの抵抗の変化量をRac[Ω]、渦電流によるコイルCのインダクタンスの変化量をLac[H]とすると、渦電流の発生によるインピーダンス変化ΔZは、
ΔZ=Rac+jωLac[Ω] ・・・(式3)
となる。ΔZは渦電流により発生したインピーダンス変化であるため、ΔZを解析することで、被検体TPによる渦電流の影響を検出することができる。
渦電流損失(Peddy)は周波数の2乗に比例するため、印加する交流電流をI0exp(j(ωt+θ))とすると、渦電流損失(Peddy)とRacとの関係は以下のとおり。
Rac=Re[ΔZ]≒Peddy/I0
2∝σω2 ・・・(式4)
従って、近似的にRacはω2に比例することになる。
ここで、I0は交流電流の振幅、Re[ ]は実部、σは被検体TPの導電率である。
【0027】
Racはω2に比例するため、固有抵抗<Rac>を以下のように定義する。
<Rac>=Rac/ω2[Ω/(rad/s)2] ・・・(式5)
固有抵抗<Rac>は、ωの依存性が除去される。
インピーダンス変化ΔZの近似式は固有抵抗<Rac>を用いて以下のようになる。
ΔZ=<Rac>ω2+jωLac[Ω] ・・・(式6)
【0028】
上記のように、Racはω2に比例して増大するため、交番磁界の周波数が低いと、Z0に対して十分に大きなインピーダンス変化ΔZを得られず、また、ドリフトの影響を大きく受けることがあり、被検体TPの厚さ測定が困難になる。
そのため、渦電流損失により被検体TPの厚さを測定する場合、渦電流損失の効果が十分に得られるよう、一般的には高い周波数、例えば数kHz~数MHzの交番磁界を被検体TPに印加し、インピーダンス変化ΔZを解析する。
【0029】
一般に物質への磁界の浸透深さδは、周波数f、導電率σ、透磁率μに依存し、以下の式で算出されることが知られている。
δ=1/(πfμσ)1/2 ・・・(式7)
すなわち、浸透深さδは、交番磁界の周波数fの平方根に反比例する。
そのため、被検体TPの厚さの測定可能範囲は、浸透深さδにより制約される。このような表皮効果による測定可能範囲の制約を軽減するためには、交番磁界の周波数を低くすることが有効である。
従って、渦電流によるインピーダンス変化ΔZの検出に適した交番磁界の周波数の条件と、測定可能範囲の制約を軽減するために適した交番磁界の周波数の条件は、互いに逆の関係となる。
【0030】
(平板の厚さ測定)
以下では、平板の被検体TPの厚さ測定の例について説明する。
図2(A)は、交番磁界H中に置かれた、厚さD、半径r
0の円板形状の被検体TPの例を示す斜視図、
図2(B)はコイルCにより被検体TPに交番磁界を印加する様子を模式的に示す斜視図である。
図2において被検体TPの深さ方向をY方向とし、被検体TPの表面をY=0とする。
なお、以下の説明において、簡単のため物理量の単位を省略することがある。
【0031】
図2(A)に示すように、被検体TPには交番磁界Hが印加され、点線矢印で示すように渦電流Ieが発生する。被検体TPの表面での磁束密度をB
0とすると、渦電流損P
eddyは以下の通り。
P
eddy=(r
0
2/8)ω
2σ(B
0
2/2)δ(1-exp(-2D/δ))
・・・(式8)
浸透深さδが厚さDより十分大きい(δ>>D)条件(シックスキン条件と称す。)においては、
P
eddy=βω
2σB
0
2D ・・・(式9)
と近似できる。ここで、β=r
0
2/8である。従って、
R
ac∝P
eddy∝ω
2σD ・・・(式10)
<R
ac>=R
ac/ω
2∝σD ・・・(式11)
となる。
導電率σが一定であるため、<R
ac>はDに比例する。
【0032】
以下、シックスキン条件について、具体的に検証する。
図3は、浸透深さδの渦電流損P
eddyに対する影響を示すグラフである。
横軸はDとδとの比(D/δ)、縦軸は関数「1-exp(-2D/δ)」の値を示す。
関数「1-exp(-2D/δ)」はP
eddyのD/δ依存性を示す。
【0033】
図3において、例えばD/δ<0.3、 すなわち、浸透深さδが被検体TPの厚さDの3倍以上の範囲において、シックスキン条件が成り立つことが理解できる。
被検体TPの浸透深さδが既知であれば、厚さD<0.3δの範囲の被検体TPの厚さDは、上記<R
ac>を用いて測定可能である。
【0034】
図4は、磁気特性が異なり導電率σが同じ物質に対して渦電流によるインピーダンス変化の抵抗成分をシミュレーションした結果を示すグラフである。
図4(A)は、比透磁率μrが500である物質A、比透磁率μrが250である物質Bに対して計算したR
acと厚さとの関係を示すグラフ、
図4(B)は物質A、物質Bに対して計算した<R
ac>と厚さとの関係を示すグラフである。
【0035】
図4(A)は、複数の異なる厚さの物質Aに対して周波数10Hz(図中●)、及び4Hz(図中○)の交番磁界を用いてR
acを計算した結果、及び複数の異なる厚さの物質Bに対して周波数20Hz(図中▲)及び8Hz(図中△)の交番磁界を用いてR
acを計算した結果を示す。交番磁界は、物質A、Bに近接させたコイルCに正弦波の交流電流を印加して発生させることができる。
【0036】
図4(A)から、厚さが増大するに従い、R
acが増大することが理解できる。
また、交番磁界の周波数が低くなるとR
acが減少することが理解できる。
【0037】
図4(B)から、導電率が同一で比透磁率が異なる物質A及び物質Bについて、<R
ac>の厚さ依存性が同じであることが分かる。すなわち、固有抵抗<R
ac>は、磁気特性である比透磁率の依存性が排除されることが理解できる。
固有抵抗<R
ac>を用いて比透磁率の依存性を排除することで、被検体TPの厚さ測定において、磁気特性の変動による測定の制約を軽減することができる。
【0038】
また、物質Aに対して周波数10Hzの交番磁界を印加した条件(図中●)及び物質Bに対して周波数20Hzの交番磁界を印加した条件(図中▲)においては、厚さ5mmまで、<Rac>は厚さに比例する。すなわち、厚さ5mmまでシックスキン条件が成立することを意味する。
一方、物質Aに対して周波数4Hzの交番磁界を印加した条件(図中○)及び物質Bに対して周波数8Hzの交番磁界を印加した条件(図中△)においては、厚さ8mmまで、<Rac>は厚さに比例する。すなわち、厚さ8mmまでシックスキン条件が成立することを意味する。
【0039】
被検体TPの浸透深さδが未知の場合、被検体TPの測定がシックスキン条件を満たすか否かについては、<R
ac>の周波数依存性からも判定が可能である。
交番磁界の周波数がシックスキン条件を満たさない場合、周波数を変化(増大)させると<R
ac>の値が変化する。例えば、被検体TPである物質Aの厚さが5mmより大きくなると、交番磁界の周波数4Hzの<R
ac>の値より、交番磁界の周波数10Hzの<R
ac>の値は小さくなる。
図4で示す例においては、周波数4Hzと周波数10Hzとの間に厚さDが浸透深さδを超える境界があることになる。
浸透深さδは周波数の増大とともに小さくなるため、測定周波数fに対して若干異なる周波数(f+α)、例えば、周波数fに対して、f+2Hz、f+4Hzに増大させた周波数の交番磁界に対して、<R
ac>の測定結果を比較する。すなわち、周波数を数Hz(例えば、α=1~5Hz)増大させ、この変動範囲で<R
ac>が変動しない、又は所定量、例えば5%以下の変動量に押さえられる場合、この変動範囲を許容範囲としてシックスキン条件を満たすと判断できる。なお、許容範囲は、測定装置Tの周波数制御の精度(安定性能)等を考慮して設定することができる。
シックスキン条件を満たすと判断された場合、被検体TPの厚さを<R
ac>と厚さの比例関係から、容易に、正常に測定可能であると判断される。
以下の他の厚さ測定においても、同様に、周波数の変動試験により、シックスキン条件の判定は可能である。
シックスキン条件を満たすことは、浸透深さδが既知の場合にはD/δ<0.3を満たすこと、又は浸透深さδが不明の場合には固有抵抗が周波数の変動試験を満足することにより判定できる。
なお、上記
図4で示す物質Aの場合、<R
ac>の厚さ依存性から周波数4Hzはシックスキン条件を満たすと判断されるため、周波数の許容範囲は6Hz未満となる。
【0040】
コイルCの抵抗が十分に低い場合、理想的には超伝導コイルを使用した場合、渦電流の影響を反映する<Rac>を、実測により算出することが可能であり、<Rac>と被検体TPの厚さとの比例関係により、被検体TPの厚さ測定が可能となる。
測定に用いる交番磁界の周波数fに対して、比例係数をσfとすると、
<Rac>=σfD ・・・(式12)
となる。
比例係数σfは、既知の厚さD0を有し、測定対象となる被検体TPと同一材料から構成された標準サンプルに対して<Rac>を算出し、得られた標準サンプルの固有抵抗<Rac>を<R0>とすると、
<R0>=σfD0 ・・・(式13)
となる。これより
σf=<R0>/D0 ・・・(式14)
となる。このように標準サンプルの<R0>と厚さとの関係から比例係数をσf算出することができる。
比例係数σfを用いて、被検体TPの測定により得られた<Rac>と比例係数により、測定対象である被検体TPの厚さを測定することができる。
【0041】
また、
図4(A)、(B)から、印加する交番磁界の周波数を低減することにより、固有抵抗<R
ac>と厚さとの比例関係を用いた厚さ測定可能範囲は増大するが、インピーダンス変化ΔZの実部であるR
acは減少することが理解できる。
すなわち、全インピーダンスZに対して、相対的にΔZが減少し、現実的にはΔZの検出は困難になることも理解できる。
従って、一般に、渦電流損失の検出と、測定可能範囲の制約を軽減することを両立させることは困難である。
【0042】
以下では、厚さの測定可能範囲を拡大するとともに、渦電流を利用した正確な厚さ測定を両立させるため、低周波数(10Hz~100Hz)の交番磁界を用いて、インピーダンスZからインピーダンス変化ΔZを抽出し、解析する手法について説明する。
【0043】
図5(A)は、同一の2つのコイルを和動接続した回路を示し、
図5(B)は2つのコイルを差動接続した回路を示す。和動接続された2つのコイルによって生成される磁束は同じ方向となり、差動接続された2つのコイルによって生成される磁束は互いに逆方向となる。
【0044】
また、
図5(A)は和動接続された2つの同一のコイルのインピーダンス変化、
図5(B)は差動接続された2つの同一のコイルのインピーダンス変化を示す。
接続された2つのコイルのインピーダンスは、測定装置Tにより測定される。
図5においてZ
0はコイル自身のインピーダンスを示し、ΔZは渦電流によるインピーダンス変化、ΔZ
cumは和動接続された各コイルの渦電流によるインピーダンス変化、ΔZ
difは差動接続された各コイルの渦電流によるインピーダンス変化である。
なお、「同一のコイル」とは、「実質的に同一のコイル」を意味し、製造上のばらつきの範囲内で同一であることを意味する。
【0045】
図5(A)において、第1のコイルC1のインピーダンスをZ
1cum、第2のコイルC2のインピーダンスをZ
2cumとすると、第1のコイルC1と第2のコイルC2とは同一コイルであるため、
Z
2cum=Z
1cum ・・・(式15)
である。Z
0_1cum、R
0_1、L
0_1を第1のコイルのインピーダンス、抵抗、インダクタンスとし、ΔZ
_1cum、R
ac_1cum、L
ac_1cumを、それぞれ渦電流による第1のコイルC1のインピーダンス変化、抵抗変化、インダクタンス変化とすると、
Z
1cum=Z
0_1cum+ΔZ
_1cum ・・・(式16)
=(R
0_1+jωL
0_1)+(R
ac_1cum+jωL
ac_1cum)
=(R
0_1+R
ac_1cum)+(jωL
0_1+jωL
ac_1cum)
・・・(式17)
となる。
和動接続された第1のコイルC1と第2のコイルC2とによるインピーダンスZ
cumは、相互インダクタンスをMとすると、
Z
cum=2Z
1cum+2jωM ・・・(式18)
Z
cum=2(R
0_1+R
ac_1cum)+2(jωL
0_1+jωL
ac_1cum+jωM)
・・・(式19)
となる。
なお、インピーダンスZ
cumを和動インピーダンスZ
cumと称することがある。
【0046】
図5(B)において、第1のコイルC1のインピーダンスをZ
1dif、第2のコイルC2のインピーダンスをZ
2difとする。
第1のコイルC1と第2のコイルC2とは同一コイルであるため、
Z
1dif=Z
2dif ・・・(式20)
である。Z
0_1dif、R
0_1、L
0_1を第1のコイルC1のインピーダンス、抵抗、インダクタンスとし、ΔZ
_1dif、R
ac_1dif、L
ac_1difを、それぞれ渦電流による第1のコイルC1のインピーダンス変化、抵抗変化、インダクタンス変化とすると、
Z
1dif=Z
0_1dif+ΔZ
_1dif ・・・(式21)
=(R
0_1+jωL
0_1)+(R
ac_1dif+jωL
ac_1dif)
=(R
0_1+R
ac_1dif)+(jωL
0_1+jωL
ac_1dif)
・・・(式22)
となる。差動接続された第1のコイルC1と第2のコイルC2とによるインピーダンスZ
difは、相互インダクタンスをMとすると、
Z
dif=2Z
1dif-2jωM ・・・(式23)
Z
dif=2(R
0_1+R
ac_1dif)+2(jωL
0_1+jωL
ac_1dif-jωM)
・・・(式24)
となる。
なお、インピーダンスZ
difを差動インピーダンスZ
difと称することがある。
【0047】
和動接続された2つのコイルの和動インピーダンスZcumと、差動接続された2つのコイルの差動インピーダンスZdifとの差をdZ(差分インピーダンスと称する。)とすると、
dZ=Zcum-Zdif ・・・(式25)
=2[Rac_1cum-Rac_1dif]+2jω[Lac_1cum-Lac_1dif]+4jωM
・・・(式26)
となる。
差分インピーダンスdZの成分の抵抗成分、リアクタンス成分、インダクタンス成分を、それぞれdR、dX、dLとすると、
dR=Re[dZ]=2[Rac_1cum-Rac_1dif] ・・・(式27)
dX=Im[dZ]=2ω[Lac_1cum-Lac_1dif]+4ωM
・・・(式28)
dL=2[Lac_1cum-Lac_1dif]+4M ・・・(式29)
となる。ここでIm[]は虚部を示す。
dZ、dR、dX、dLはコイル自身のインピーダンスが排除されている。そのため、これらの値を用いて、低周波数での渦電流損失に起因する電気特性を効果的に抽出することができ被検体の厚さ測定を容易にする。
後述するように、特にdR、dLを利用して被検体TPの厚さ測定が可能である。
なお、dRを差分抵抗、dLを差分インダクタンス、dXを差分リアクタンスと称する。
【0048】
また、差分抵抗dRに対して、固有抵抗<dR>を、以下のように定義する。
dR=ω2<dR> ・・・(式30)
固有抵抗<dR>は周波数成分を取り除いた量であり、固有抵抗<dR>を用いて被検体TPの厚さを測定することができる。
なお、dRに周波数に依存しない成分が含まれていたとしても、<dR>はdRをω2で除した値であり、例えば低周波数10Hzにおいてωは20πであり、周波数に依存しない成分の寄与は0.03%より小さくなる。
【0049】
(測定装置)
dZの抽出には、同一の2つのコイルを和動接続した状態で測定装置TでインピーダンスZcumの周波数依存性を測定し、その後2つのコイル接続状態を差動接続した状態に切り替えて、インピーダンスZdifの周波数依存性を測定し、それぞれの周波数において、ZcumとZdifとの差を算出する必要がある。
2つのコイルの接続の切り替えを手動で行い、測定装置TでインピーダンスZcum、及びインピーダンスZdifの測定を実行してもよいが、自動で、インピーダンスZcum、及びインピーダンスZdifの測定、及びdZの算出も可能である。
【0050】
図6は、2つのコイルの和動接続と差動接続とを切り替えてインピーダンスを測定することが可能な厚さ測定装置100の主要構成例を模式的に示す回路図である。
図6(A)は2つのコイルが和動接続された状態の厚さ測定装置100を示し、
図6(B)は2つのコイルが差動接続された状態の厚さ測定装置100を示す。
コイル自身の抵抗を出来る限り小さくするため、コイルの巻き線には好適にはリッツ線が採用される。
なお、後述するようにdR、dLを用いて被検体TPの厚さ測定が可能であり、厚さ測定装置100はdZから被検体TPの厚さを自動で算出するよう構成することも可能である。
【0051】
厚さ測定装置100は、第1のコイル1、第2のコイル2、切替装置3、測定装置4及び制御装置5を備える。
第1のコイル1及び第2のコイル2は、実質的に同一であり、電気的、磁気的特性が実質的に同一である。
切替装置3は、例えばC接点のリレーやマルチプレクサ等で構成することができる。
切替装置3は、第1のコイル1及び第2のコイル2の和動接続と、第1のコイル1及び第2のコイル2の差動接続とを、選択的に切り替えることができる。
【0052】
制御装置5は、入出力部、記憶部、演算処理部(CPU)を有し、例えば、パーソナルコンピュータ(PC)により構成することができるが、マイコン及び記憶装置(例えば、半導体メモリ)により構成することもできる。制御装置5は、記憶部に必要なデータを記憶する。
制御装置5は、切替装置3を制御し、切替装置3により第1のコイル1及び第2のコイル2の和動接続と、第1のコイル1及び第2のコイル2の差動接続との切り替えを制御することができる。
制御装置5は、測定装置4を制御し、測定装置4にインピーダンスの測定を命令することができる。
【0053】
第1のコイル1は
図5のコイルC1に対応し、第2のコイル2は
図5のコイルC2に対応し、測定装置4は
図5又は
図1の測定装置Tに対応する。
第1のコイル1と第2のコイル2とは同一のコイルであり、同じ電磁気特性を有する。
測定装置4は、第1のコイル1と第2のコイル2に交流電流、例えば正弦波の交流電流を印加し、第1のコイル1と第2のコイル2に交流電流を印加しながら、接続された第1のコイル1と第2のコイル2のインピーダンスを測定する。インピーダンスの測定は、印加する交流電流と、接続された第1のコイル1と第2のコイル2の電流の振幅、位相差から算出することができる。
【0054】
測定装置4は、LCRメータとしての機能を有し、例えば市販のLCRメータを利用できる。具体的には、測定装置4は交流信号(交流電流又は交流電圧)の供給源を有する。供給源は、交流信号、すなわち交流電流、又は交流電圧を第1のコイル1と第2のコイル2に出力することができる。また、測定装置4は、出力する交流信号と同期して、第1のコイル1と第2のコイル2の両端の出力信号、出力電流又は出力電圧を測定する検出器を有する。供給する交流信号と、第1のコイル1と第2のコイル2の出力信号の振幅及び位相を解析することにより、インピーダンス、すなわちインピーダンスの実部と虚部を検出する。
【0055】
図6において、第1のコイル1、及び第2のコイル2は検出部6を構成し、切替装置3、測定装置4及び制御装置5は解析部7を構成する。解析部7は、検出部6からの電気信号を解析するとともに、検出部6に交流電流を出力することもできる。
【0056】
図6(A)に示すように、切替装置3内の接点P1と接点P3とが接続され、接点P2と接点P4とが接続されると、第1のコイル1と第2のコイル2とが和動接続される。
測定装置4は、低周波数(10Hz~100Hz)の範囲の周波数において、和動接続された第1のコイル1と第2のコイル2の和動インピーダンスZ
cumを測定する。
なお、和動インピーダンスZ
cumは、周波数に依存する。
【0057】
測定装置4は、測定周波数の値と、測定された和動インピーダンスZcum(和動インピーダンスZcumの実部と虚部)を制御装置5に出力する。制御装置5は、入出力部を介して入力した周波数の値と和動インピーダンスZcumとを関連付けて記憶部に記憶ずる。
なお、制御装置5は、入出力部を介して測定装置4に測定周波数の値を指定してもよい。
【0058】
制御装置5は、入出力部を介して、切替装置3を制御し、第1のコイル1と第2のコイル2との接続の切り替えを行う。
図6(B)に示すように、切替装置3内の接点P1と接点P4とが接続され、接点P2と接点P5とが接続されると、第1のコイル1と第2のコイル2とが差動接続される。
【0059】
測定装置4は、低周波数(10Hz~100Hz)の範囲の周波数において、差動接続された第1のコイル1と第2のコイル2の差動インピーダンスZdifを測定する。
なお、差動インピーダンスZdifは、周波数に依存する。
測定装置4は、測定周波数の値と、測定された差動インピーダンスZdif(差動インピーダンスZdifの実部と虚部)を制御装置5に出力する。制御装置5は、入出力部を介して入力した周波数の値と差動インピーダンスZdifとを関連付けて記憶部に記憶ずる。
なお、制御装置5は、入出力部を介して測定装置4に測定周波数の値を指定してもよい。
【0060】
制御装置5は、測定周波数に対して和動インピーダンスZcumと差動インピーダンスZdifとの差である差分インピーダンスdZを算出する。dZは周波数の関数となる。
制御装置5は、差分抵抗dR、差分インダクタンスdLを算出し、記憶する。
制御装置5は、dR及び、又はdLの値から、被検体の厚さを算出し、記憶装置に記憶することができる。
なお、複数の周波数において、上記測定を行い、周波数毎にdZ、dR、dLを算出してもよい。dRの周波数依存性(又はω2依存性)を評価し、測定の妥当性を評価することができる。
【0061】
なお、和動インピーダンスZcumと差動インピーダンスZdifとの測定の順序は入れ換えてもよい。
【0062】
また、複数の周波数で測定を行う場合、複数の周波数で和動インピーダンスZcumを測定した後、切替装置3により和動接合と差動接合を切り替えて、複数の周波数で差動インピーダンスZdifを測定してもよく、又は周波数毎に切替装置3により和動接合と差動接合とを切り替えて、和動インピーダンスZcumと差動インピーダンスZdifとを測定してもよい。
ただし、1つの周波数において和動インピーダンスZcumと差動インピーダンスZdifとを測定し、その後周波数を変更して和動インピーダンスZcumと差動インピーダンスZdifとを測定する方が、ドリフトの影響を受けにくく、好適である。
【0063】
被検体TPの浸透深さδが既知であれば、例えば厚さD<0.3δの範囲の被検体TPの厚さDを上記dRを用いて測定可能である。
また、被検体TPの浸透深さδ未知の場合、被検体TPの測定がシックスキン条件を満たすか否かについては、上記dRの周波数依存性から判定が可能である。
上記のように、交番磁界の周波数を若干、例えば、周波数fに対して5Hz以下の変動を与え、この変動範囲でdRが変動しない、又は所定量、例えば5%以下の変動量に押さえられる場合、シックスキン条件を満たすと判断できる。
シックスキン条件を満たすと判断された場合、被検体TPの厚さを正常に測定可能であると判断される。
【0064】
検証のため、外径が一定のパイプ形状の被検体TPについてシミュレーションを実行した。
図7は、パイプ形状の被検体TPと第1のコイル1及び第2のコイルの配置を示す断面図である。シミュレーションに用いたパラメータは
図7に示す。
被検体TPは円筒形状であり、第1のコイル1及び第2のコイル2の中心に挿入されている。被検体TPの内径をDci(=2r
i)、外径をDco(=2r
o)とすると、被検体TPの断面積はπ(r
o
2-r
i
2)となり、被検体TPの断面を通る磁束Φは、
Φ=π(r
o
2-r
i
2)B
となる。ここでBは磁束密度である。
接続された第1のコイル1と第2のコイル2とにより被検体TPに印加される磁束Φにより、導体から構成された被検体TPに渦電流損失が発生し、第1のコイル1と第2のコイル2とインピーダンス変化をもたらすことになる。被検体TPの断面積と導電率σとの積は、その断面における抵抗を反映する。
被検体TPの断面積π(r
o
2-r
i
2)と上記インピーダンス変化を反映したdR、<dR>、dX、dLの断面積及び交番磁界の周波数依存性をシミュレーションした。
なお、被検体TPの厚さ(肉厚)はr
o-r
iであり、断面積のπ(r
o
2-r
i
2)と既知で一定のr
oから算出可能である。
【0065】
図8はシミュレーション結果を示すグラフである。
図8(A)はdRの断面積依存性、
図8(B)は<dR>の断面積依存性、
図8(C)はdXの断面積依存性、
図8(D)はdLの断面積依存性を示す。なお、被検体TPの断面積はπ(r
o
2-r
i
2)であるが、
図8においては断面積の代わりに、「r
o
2-r
i
2」を用いている。「r
o
2-r
i
2」を断面積π(r
o
2-r
i
2)への変換は、定数πを乗ずることで容易に変換可能であるため、以下では「r
o
2-r
i
2」を断面積として説明する。
図8中、□は周波数1Hz、◆は周波数10Hz、△は周波数20Hz、◇は周波数40Hz、●は周波数80Hzの条件でのシミュレーション結果を示す。
【0066】
図8(A)より、dRは断面積に依存し、また周波数に依存することが理解できる。
図8(B)より、<dR>は断面積に対して線形に増加するが、周波数に依存しないことが理解できる。
ただし、周波数が80Hzの場合、断面積(r
o
2-r
i
2)が48mm
2以上において、<dR>は断面積との線形関係から外れる傾向が見られる。これは、周波数が高くなると浸透深さδが小さくなるため、断面積(r
o
2-r
i
2)が48mm
2以上においてシックスキン条件を満足しなくなるためである。
図8(C)より、dXは断面積に依存して線形に変化するものの、断面積依存性は明確ではない。また、dXは周波数に依存する。
一方、
図8(D)より、dLは、明確に断面積に依存して変化することが理解でき、また周波数に依存しないことが理解できる。
また、<dR>同様に、断面積(r
o
2-r
i
2)が48mm
2以上においては、周波数80HzにおけるdLは、他の周波数におけるdLとずれが生じていることが理解できる。
【0067】
<dR>と断面積との線形関係から、被検体TPの断面積が求められ、断面積から被検体TPの厚さが測定可能となる。すなわち、予め断面積(厚さ)が異なる複数の被検体TPに対して、<dR>と断面積との線形関係を求めておき、その線形関係をマスターカーブ(較正曲線)として準備することで、<dR>の測定結果から断面積(ro
2-ri
2)を測定値として出力できる。マスターカーブは、線形関数であるため、<dR>の測定結果から断面積(ro
2-ri
2)を算出することは容易である。
さらに、得られた断面積(ro
2-ri
2)の値と既知の(又は他の方法で測定された)外径2roから被検体TPの厚さを測定値として出力できる。
具体的には、被検体TPの外径2roから被検体TPの外壁の半径roを算出し、roの2乗と(ro
2-ri
2)との差を算出し、その平方根により、被検体TPの内壁の半径riを算出し、被検体TPの厚さro-riを算出することができる。
このように断面積(ro
2-ri
2)から厚さro-riを算出することも容易である。
【0068】
なお、
図8(A)により、周波数を固定し、dRにより断面積断面積(r
o
2-r
i
2)を測定することも可能である。この場合、測定周波数と同じ周波数での測定により作成したマスタ-カーブが必要となる。
しかし、<dR>は周波数に依存しないため、代表的な周波数でのマスタ-カーブを準備しておけば、測定周波数に対応したマスタ-カーブは必ずしも必要ではない。そのため、マスターカーブの作成も容易となる。
また、複数の周波数で算出した<dR>の平均値を算出し、その<dR>を用いて断面積(r
o
2-r
i
2)又は厚さを算出し、厚さ測定の信頼性を向上させることも可能である。
【0069】
なお、後述するように、インダクタンス成分であるdLを利用して被検体TPの断面積及び厚さを検出することも可能である。
【0070】
以下、パイプ状の被検体TPに対する実測結果について説明する。
図9は、導電性の被検体TP、第1のコイル1及び第2のコイル2の配置を示す写真、及び測定条件を示す。被検体TPとしてサンプル1~7に対してインピーダンス測定を行い、上記解析を行った。サンプル1、2、3、4、5、6は、それぞれ断面積(r
o
2-r
i
2)が28、39、48、55、57.75、60mm
2のパイプ状の被検体TPである。また、比較対象であるサンプル7は、断面積(r
o
2-r
i
2)が64mm
2の中実な棒状の被検体TPである。
なお、サンプル1~7の外径は全て16mmであり、サンプル1、2、3、4、5、6の厚さ(肉厚)は、それぞれ2、3、4、5、5.5、6mmである。
なお、実際の厚さ測定において、外径は被検体TPの外部から容易に直接測定ができるため、被検体TPの外径は既知として取り扱うことができる。
【0071】
図10(A)はdRの周波数依存性を示す実測データ、
図10(B)は<dR>の周波数依存性を示す実測データ、
図10(C)は<dR>の断面積依存性を示す実測データである。
図10(C)は、交番磁界の周波数が10Hzから20Hzの範囲において、<dR>の断面積依存性を示すグラフである。
図10(A)、
図10(B)において、▲、□、■、●、◇、△、◆はそれぞれ断面積(r
o
2-r
i
2)が28、39、48、55、57.75、60、64mm
2のデータを示す。
図10(C)において■、○、◆、□、●は、測定周波数が12、14、16、18、20Hzのデータを示す。
【0072】
図10(A)より、dRは周波数に依存して増加し、また断面積に依存して増加することが理解できる。
一方、
図10(B)より、周波数が10Hz以上になると、<dR>の周波数依存性が非常に小さくなることが理解できる。この結果は、上記理論式を支持する。
また、周波数の変動に対して安定的に<dR>を測定できることが理解できる。
なお、10Hz以下において<dR>の周波数依存性が現れる原因は寄生容量の影響である。
また、中実な棒状の被検体TP(断面積64mm
2)については、他のパイプ状(中空)の被検体TPと比較して、<dR>の周波数依存性が異なる。
【0073】
図10(C)に示すように、周波数が10~20Hzの範囲の条件に注目すると、断面積(r
o
2-r
i
2)が50mm
2以下においては、<dR>の周波数依存性は見られない(又は周波数依存性が非常に小さい)。
なお、<dR>の周波数依存性は見られない(又は周波数依存性が非常に小さい)とは、測定周波数fを数Hz(1~5Hz)増加(f+数Hz)させても、<dR>は、変動せず(又は変動が小さく)シックスキン条件を満たすことを示す。
また、断面積(r
o
2-r
i
2)が50mm
2以下においては、断面積(r
o
2-r
i
2)と<dR>とが線形関係にあり、上記の理論的考察を支持することが理解できる。
なお、断面積(r
o
2-r
i
2)が50mm
2以下の領域のように、断面積(r
o
2-r
i
2)の線形関数により<dR>を再現することが可能な領域を、<dR>の断面積(r
o
2-r
i
2)による線形近似領域と称す。
【0074】
従って、予め準備した外径が同じで厚さの異なる複数の標準サンプルを測定して得られた<dR>と断面積(ro
2-ri
2)との線形関係からマスターカーブを作成し、作成したマスタ-カーブを利用して、被検体TPの測定結果である<dR>から容易に断面積(ro
2-ri
2)を測定することができる。
被検体TPの外径が既知であるため、得られた断面積(ro
2-ri
2)から被検体TPの厚さを測定することができる。
また、周波数に依存せず安定して厚さの測定が可能であり、さらに複数の周波数で測定することにより、データの信頼性を検証できる。
【0075】
なお、差分インダクタンスdLを用いても被検体TPの断面積、又は厚さの測定が可能である。
以下、dLを用いた被検体TPの厚さの測定方法について説明する。
【0076】
図11はdLの周波数依存性及び断面積(r
o
2-r
i
2)依存性についての実測結果を示すグラフである。
図11(A)はdLの周波数依存性を示すグラフであり、
図11(B)はdLの断面積(r
o
2-r
i
2)依存性を示すグラフである。
図11(A)において、▲、□、■、●、◇、△、◆は、それぞれ断面積(r
o
2-r
i
2)が28、39、48、55、57.75、60、64mm
2のデータを示す。
図11(B)において、□、◆、○、▲は、それぞれ測定に用いた周波数fが4Hz、6Hz、8Hz、10Hzのデータを示す。
【0077】
図11(A)に示すように、10Hz以下の周波数においてdLは周波数に殆ど依存しないことが理解できる。
図11(B)は10Hz以下の周波数でのdLの断面積(r
o
2-r
i
2)依存性を示す。
図11(B)に示すように、10Hz以下の周波数において、断面積(r
o
2-r
i
2)が48mm
2までは、dLは断面積(r
o
2-r
i
2)に対して線形に増加する傾向が見られる。
従って、断面積(r
o
2-r
i
2)が48mm
2までは断面積(r
o
2-r
i
2)の線形関数によりdLを再現することが可能であり、dLの断面積(r
o
2-r
i
2)に対する線形近似領域となり、dLから容易に厚さ(r
o-r
i)を算出できることが理解できる。
【0078】
しかし、48mm2以上60mm2の範囲では、dLは断面積(ro
2-ri
2)に対して線形に減少し、48mm2を境に、dLの断面積(ro
2-ri
2)依存性が変化することが理解できる。
上述のようにdL=2[Lac_1cum-Lac_1dif]+4Mであり、dLには渦電流に起因する項である”2[Lac_1cum-Lac_1dif]”の他に相互インダクタンスMが含まれる。
48mm2を境に、dLの断面積(ro
2-ri
2)依存性が変化する原因として磁気特性である相互インダクタンスMの影響が寄与することが考えられる。
この磁気特性に依存する相互インダクタンスMを除去することで、渦電流の影響をさらに抽出することが可能となる。以下、相互インダクタンスMの影響を除去する方法について説明する。
【0079】
上述のように渦電流に起因する影響は周波数の2乗に比例して増大する。
従って、周波数が低周波数より低い条件(極低周波数条件)においては、
abs(2[Lac_1cum-Lac_1dif]/4M)<<1
・・・(式31)
となる。なお、abs()は絶対値を示す。極低周波数fvlとして、例えば、低周波数の10分の1の値又はそれ以下の値を選択する。極低周波数fvlとして、例えば1Hzを選択することができる。
周波数fの関数であるdLをdL(f)とすると、極低周波数であるfvl=1Hzにおいて、
dL(fvl=1)=4M ・・・(式32)
と近似する。
なお、極低周波数fvlに対するdL(fvl)をベース差分インダクタンス(基底差分インダクタンス)と称する。
【0080】
周波数fの関数であるLac_1cum、Lac_1difをLac_1cum(f)、Lac_1dif(f)とすると、dL(f)とベース差分インダクタンスdL(fvl)との差分により、周波数fの関数であるd(dL)を以下のように定義する。
d(dL)=d(dL(f)) ・・・(式33)
=dL(f>10)-dL(fvl) ・・・(式34)
ベース差分インダクタンスdL(fvl)=4Mであるため、
d(dL)=2[Lac_1cum(f>10)-Lac_1dif(f>10)]
・・・(式35)
となる。このように定義されたd(dL)を補正差分インダクタンスと称する。
なお、dL(f>10)はdL(fvl=1)と比較して、渦電流の寄与が大きい周波数f(>10)を選択する。
周波数fとして、例えば好適には上記低周波数(10~100Hz)を選択することができるが、それに限定するものではない。
なお、極低周波数の例としてfvl=1Hzを選択したが、それに限定するものではない。例えば、極低周波数fvlとして0.1Hzや2Hz、3Hz等の極低周波数を選択してもよい。
【0081】
さらに、差分抵抗dRに対して、dR=ω2<dR>により定義した固有抵抗<dR>と同様に、補正差分インダクタンスd(dL)に対して固有インダクタンス<dL>を以下のように定義する。
d(dL)=ω2<dL> ・・・(式36)
なお、簡単のためd(dL(f))をd(dL)と表記した。なお、ωはdL(f>1)の測定に使用した交番磁界の周波数である。
【0082】
図12に補正差分インダクタンスd(dL)及び固有インダクタンス<dL>の実測値を示す。
図12(A)はd(dL)の周波数依存性、
図12(B)は<dL>の周波数依存性、
図12(C)は<dL>の断面積(r
o
2-r
i
2)依存性を示すグラフである。
図12(A)、
図12(B)において、▲、□、■、●、◇、△、◆は、それぞれ断面積(r
o
2-r
i
2)が28、39、48、55、57.75、60、64mm
2のデータを示す。
図12(C)において、■、○、◆、◇、▲は、それぞれ測定周波数が22Hz、24Hz、26Hz、28Hz、30Hzのデータを示す。
【0083】
図12(A)より、d(dL)の絶対値は、dRの絶対値と同様の周波数依存性を示すことが理解できる。
図12(B)より、周波数が10Hz以上で、<dL>は周波数に対して線形に変化する傾向があるが、その変化量は小さい。特に20Hz以上の周波数においては、<dL>の周波数に対する増加は非常に小さい。従って、周波数の変動に対して、<dL>は安定していることが理解できる。
【0084】
図12(C)より、周波数20Hzから30Hzにおいて、<dL>は断面積(r
o
2-r
i
2)に対して、線形に減少していることが理解できる。
このように、固有抵抗<dR>と同様に、固有インダクタンス<dL>は周波数依存性が小さく、断面積(r
o
2-r
i
2)に対して線形に変化(減少)することが実測により確認された。
【0085】
固有インダクタンス<dL>と断面積(ro
2-ri
2)との線形関係をマスターカーブとして利用することにより、容易に<dL>から断面積(ro
2-ri
2)を算出し、断面積(ro
2-ri
2)から被検体TPの厚さ(肉厚)を算出することができる。
【0086】
また、
図12(C)より、固有インダクタンス<dL>が断面積(r
o
2-r
i
2)に対して線形に変化する範囲は、断面積(r
o
2-r
i
2)が28mm
2から60mm
2の範囲であり、
図10(C)に示す固有抵抗<dR>と比較して断面積(r
o
2-r
i
2)に対して線形に変化する範囲が拡大していることが理解できる。
そのため、<dL>を用いることにより、さらに広範囲に、容易に被検体TPの厚さを測定することが可能となる。
<dL>と被検体TPの断面積(r
o
2-r
i
2)との関係を示すマスターカーブを作成し、そのマスタ-カーブを用いることにより、被検体TPの厚さ測定が可能となる。
【0087】
<dR>と同様に<dL>は周波数に依存しない(又は周波数依存性が小さい)ため、<dL>についてのマスターカーブは代表的な周波数に対して作成すればよい。
【0088】
このように2つの貫通コイル(第1のコイル1、第2のコイル2)の和動接合及び差動接合の状態で検出される2種のインピーダンスを演算することにより、コイル自身の抵抗の影響を排除することができ、渦電流による抵抗変化を固有抵抗<dR>として抽出することができる。
また、極低周波(1Hz)のインダクタンスとの差を取ることにより、渦電流によるインダクタンス変化を固有インダクタンス<dL>として抽出することができる。
導電率と比較して磁気特性は対象物の加工や使用履歴により変化し易い傾向があるが、固有抵抗<dR>及び固有インダクタンス<dL>は、被検体TPの導電率に依存するが磁気特性にほとんど影響されない。そのため、安定して被検体TPの厚さ測定が可能である。
また、被検体TPに低周波数の交番磁界を印加し、シックスキン条件で厚さの測定を行うことで、被検体TPの測定可能な厚さの制限が緩和される。
固有抵抗<dR>及び固有インダクタンス<dL>は、断面積と線形関係があるため、マスターカーブがシンプルであり、外径が一定なパイプの厚さを、容易に評価することができる。
【0089】
また、<dR>と<dL>との両方を用いることにより、測定データの信頼性を確保することができる。
【0090】
なお、固有インダクタンス<dL>と比較して、被検体TPの厚さの測定可能範囲が制約されるが、差分インダクタンスdLを用いても被検体TPの断面積、又は厚さの測定が可能である。
【0091】
なお、厚さ測定装置100の定期検査のため、被検体TPが存在しない状態で第1のコイル1及び第2のコイル2のインピーダンス測定を実施してもよい。ただし、被検体TPの厚さの測定毎に、校正のために被検体TPが存在しない状態で第1のコイル1及び第2のコイル2のインピーダンス測定を実施する必要はない。
【0092】
また、厚さ測定装置100の検出部6を相対的に被検体TPに対して移動させ、被検体TPの異なる場所の厚さ測定を行ってもよい。その結果、被検体TPの厚さの分布を測定することができる。例えば、パイプ状の被検体TPに対して、その長手方向に被検体TPの厚さを測定し、被検体TPの厚さの均一性の評価や、局部での厚さ異常を検出するこができる。
【0093】
(平板の厚さ測定への適用)
2つの第1のコイル1及び第2のコイル2を備えた厚さ測定装置100を用いて、平板の被検体TPの厚さを測定することも可能である。
図13は、厚さ測定装置100を用いて平板の被検体TPの厚さを測定する例を示す斜視図である。
平板の被検体TPの表面に検出部6を配置し、所定の周波数f(各周波数ω=2πf)好適には低周波数において和動インピーダンスZ
cumと差動インピーダンスZ
difとを測定する。
その後、和動インピーダンスZ
cumと差動インピーダンスZ
difとを用いて<dR>、dLを算出することができる。
さらに、低周波数における和動インピーダンスZ
cum及び差動インピーダンスZ
difの測定結果と、極低周波数における和動インピーダンスZ
VLcum(極低周波和動インピーダンスZ
VLcumと称す。)及び極低周波数における差動インピーダンスZ
VLdif(極低周波差動インピーダンスZ
VLdifと称す。)の測定結果とを用いて、<dL>を算出することができる。
被検体TPと同一材質の複数の異なる厚さを有する標準サンプルを用いてマスターカーブの製作が可能であり、マスタ-カーブを用いて被検体TPの厚さ測定が可能である。
【0094】
平板状の被検体TP表面上で、厚さ測定装置100の検出部6を相対的に移動させ、被検体TPの異なる箇所の厚さ測定が可能である。被検体TPの厚さの面内均一性を評価することができる。
【0095】
(測定手順)
以下、厚さ測定装置100による導電性の被検体TPを測定するための工程について説明する。
なお、被検体TPは均質な材料から構成され、被検体TPの導電率が、均一であることを前提とする。
(1)標準サンプルを用いてマスターカーブを作成する。
(1-1)同一材質であり、外径が同一で異なる内径の標準サンプルに対して、厚さ測定装置100の第1のコイル1及び第2のコイル2によって低周波数(例えば、10Hzから100Hz)(第1の周波数)の交番磁界を印加し、和動接続された第1のコイル1及び第2のコイル2により、低周波数における和動インピーダンスZcumと、差動接続された第1のコイル1及び第2のコイル2により、低周波数における差動インピーダンスZdifとを測定する。
なお、上述のように、第1のコイル1及び第2のコイル2は実質的に同一である。
なお、この工程の交番磁界の周波数を基準周波数と称することがある。
(1-2)また、上記標準サンプルに対して、厚さ測定装置100の第1のコイル1及び第2のコイル2によって極低周波数(第1の周波数の10分の1以下である第2の周波数)の交番磁界を印加し、和動接続された第1のコイル1及び第2のコイル2により、極低周波和動インピーダンスZVLcumを測定し、差動接続された第1のコイル1及び第2のコイル2により、極低周波差動インピーダンスZVLdifを測定する。
なお、(1-1)の交番磁界と区別するため、極低周波数の交番磁界を極低周波交番磁界と称する。
【0096】
なお、(1-1)、(1-2)において和動インピーダンスZcumと差動インピーダンスZdifとの測定順は任意である。
【0097】
(1-3)低周波数における和動インピーダンスZcumと差動インピーダンスZdifとの差分である差分インピーダンスdZから、低周波数における差分抵抗dR、及び低周波数における差分インダクタンスdLを算出する。
差分抵抗dRを、測定に用いた周波数の2乗(又は角周波数の2乗)で除することにより、固有抵抗<dR>を算出する。
なお、<dR>、dLは異なる内径毎に算出する。
【0098】
(1-4)固有抵抗<dR>を用いて、測定に利用した周波数がシックスキン条件を満足することを確認する。測定に用いた交番磁界の周波数を所定量(例えば、2Hz、4Hz)増大させ、固有抵抗<dR>の変動を評価し、<dR>の変動が所定量(例えば5%、又は10%以下)であれば、シックスキン条件を満足すると判断する。
シックスキン条件を満足しない場合、測定に用いる周波数を変更し、<dR>、dLを算出し、シックスキン条件を満足するか否かを判断する。
または、予め複数の周波数において<dR>、dLを算出しておき、シックスキン条件を満たす周波数に対する<dR>、dLを採用する。
なお、シックスキン条件を満足する周波数が得られない場合、その被検体TPの厚さは測定不能と判断し、その厚さを制御装置5に記憶してもよい。
【0099】
(1-5)得られた固有抵抗<dR>と断面積(r
o
2-r
i
2)との関係を再現する近似曲線(特に線形関数)を第1のマスターカーブ(抵抗成分のマスターカーブ)として作成する。(
図10(C)参照)
第1のマスターカーブを厚さ測定装置100の制御装置5に記憶する。
上記第1のマスターカーブは、固有抵抗<dR>と断面積(r
o
2-r
i
2)との相関関係を規定(決定)するが、既知のr
oと断面積(r
o
2-r
i
2)から厚さ(肉厚)r
o-r
iを一意に算出できるため、第1のマスターカーブは間接的に固有抵抗<dR>と被検体TPの厚さとの相関関係を規定する。
【0100】
なお、固有抵抗<dR>と厚さ(ro-ri)との相関関係を直接的に再現する近似曲線を第1のマスターカーブとして算出し、厚さ測定装置100の制御装置5に記憶してもよい。
従って、第1のマスターカーブは間接的又は直接的に固有抵抗<dR>と被検体TPの厚さ(ro-ri)との相関関係を規定する。
【0101】
(1-6)また、得られた差分インダクタンスdLと断面積(r
o
2-r
i
2)との相関関係を再現する近似曲線(特に線形関数)を第2のマスターカーブ(インダクタンス成分のマスターカーブ)として算出する。(
図11(C)参照)
第2のマスターカーブを厚さ測定装置100の制御装置5に記憶する。第2のマスターカーブは、間接的に差分インダクタンスdLと被検体TPの厚さとの相関関係を規定する。
なお、差分インダクタンスdLと厚さ(r
o-r
i)との相関関係を直接的に再現する近似曲線を第2のマスターカーブとして算出し、厚さ測定装置100の制御装置5に記憶してもよい。
従って、第2のマスターカーブは、間接的又は直接的にdLと被検体TPの厚さ(r
o-r
i)との相関関係を規定する。
なお、インダクタンス成分による被検体TPの厚さ測定用のマスターカーブとして、第2のマスターカーブを作成せず、以下に記載する第3のマスターカーブのみを作成してもよい。上述のように、磁気的特性の影響を考慮すると、dLより<dL>の方が、さらに厚さ測定の性能が向上するためである。
【0102】
(1-7)さらに、極低周波和動インピーダンスZ
VLcumと極低周波差動インピーダンスZ
VLdifとから算出したベース差分インダクタンスdL(f
vl)と、低周波数における差分インダクタンスdLとの差分(補正差分インダクタンスd(dL))を用いて、固有インダクタンス<dL>を算出する。
固有インダクタンス<dL>は、d(dL)を、(1-1)工程での交番磁界の周波数(基準周波数)ωの2乗(ω
2)で除することにより算出される。
なお、<dL>は異なる内径毎に算出する。
得られた固有インダクタンス<dL>と断面積(r
o
2-r
i
2)との相関関係を再現する近似曲線(特に線形関数)を第3のマスターカーブ(補正インダクタンス成分のマスターカーブ)として算出する。(
図12(C)参照)
第3のマスターカーブを厚さ測定装置100の制御装置5に記憶する。第3のマスターカーブは、間接的に固有インダクタンス<dL>と被検体TPの厚さとの相関関係を規定する。
【0103】
なお、固有インダクタンス<dL>と厚さ(ro-ri)との相関関係を直接的に再現する近似曲線を第3のマスターカーブとして算出し、厚さ測定装置100の制御装置5に記憶してもよい。
従って、第3のマスターカーブは、間接的又は直接的に<dL>と被検体TPの厚さ(ro-ri)との相関関係を規定する。
【0104】
(1-8)以後、異なる外径に対して、同様に内径を変えた被検体TPを用いて、第1、2、3のマスターカーブを算出し、制御装置5に記憶する。
【0105】
さらに、同様に、別の材質の被検体TPに対して、異なる外径、異なる内径に対して、第1、第2、第3のマスターカーブを算出し、制御装置5に記憶する。
【0106】
厚さ測定装置100の制御装置5には、異なる材質、異なる外径の被検体TPのそれぞれに対して、被検体TPの厚さを間接又は直接規定することができる第1、第2、第3のマスターカーブが記憶される。
【0107】
(2)マスターカーブを用いて被検体TPの厚さを測定する。
作業者は、厚さ測定装置100の制御装置5に対して、被検体TPの材質、外径を指定する。
【0108】
(2-1)厚さが未知の導電性の被検体TPの厚さ測定を行う場合、被検体TPに対して、厚さ測定装置100の第1のコイル1及び第2のコイル2によって低周波数(例えば、10Hzから100Hz)の交番磁界を印加し、和動接続された第1のコイル1及び第2のコイル2により、低周波数における和動インピーダンスZcumと、差動接続された第1のコイル1及び第2のコイル2により、低周波数における差動インピーダンスZdifとを測定する。
なお、この工程の交番磁界の周波数を基準周波数(第1の周波数)と称する。
(2-2)また、本被検体TPに対して、厚さ測定装置100の第1のコイル1及び第2のコイル2によって極低周波数(第1の周波数の10分の1以下の第2の周波数)の交番磁界(極低周波交番磁界)を印加し、和動接続された第1のコイル1及び第2のコイル2により、極低周波数における和動インピーダンスZcum(極低周波和動インピーダンスZVLcum)と、差動接続された第1のコイル1及び第2のコイル2により、極低周波数における差動インピーダンスZdif(極低周波差動インピーダンスZVLdif)とを測定する。
なお、(2-1)、(2-2)において、和動インピーダンスZcumと差動インピーダンスZdifとの測定順は任意である。
【0109】
(2-3)制御装置5は、低周波数における和動インピーダンスZcumと差動インピーダンスZdifとから、低周波数における固有抵抗<dR>、及び低周波数における差分インダクタンスdLを算出する。
【0110】
(2-4)
固有抵抗<dR>を用いて、測定に利用した周波数がシックスキン条件を満足することを確認する。
シックスキン条件を満足しない場合、周波数を変更し、シックスキン条件を満足する周波数を決定し、シックスキン条件を満足する周波数で測定して算出した<dR>、dLを採用する。
なお、シックスキン条件を満足する周波数が存在しない場合、厚さ測定装置100は測定不能と判断することができる。
【0111】
(2-5)
制御装置5は、作業者により指定された被検体TPの材質、外径に対応したマスターカーブ(第1、第2、第3のマスターカーブ)を記憶部から読み出す。
【0112】
(2-6)
制御装置5は、被検体TPの測定により得られた<dR>と第1のマスターカーブとにより、被検体TPの第1の厚さ(抵抗成分に基づく厚さ)を得る。
また、制御装置5は、被検体TPの測定により得られたdLと第2のマスターカーブとにより、被検体TPの第2の厚さ(インダクタンス成分に基づく厚さ)を得る。
【0113】
(2-7)
制御装置5は、極低周波和動インピーダンスZVLcumと極低周波差動インピーダンスZVLdifとの差分により算出したベース差分インダクタンスdL(fvl)と、上記低周波における差分インダクタンスdLとの差分から補正差分インダクタンスd(dL)を算出し、補正差分インダクタンスd(dL)を(2-1)の交番磁界の周波数(基準周波数)ωの2乗(ω2)で除することにより、固有インダクタンス<dL>を算出する。
(2-8)
制御装置5は、得られた<dL>と第3のマスターカーブとにより、被検体TPの第3の厚さ(補正されたインダクタンス成分に基づく厚さ)を算出する。
【0114】
(2-9)
制御装置5は、被検体TPの第1、第2、第3の厚さを記憶部に保存し、入出力部を介して外部に被検体TPの第1、第2、第3の厚さを出力する。
なお、出力先は、例えばディスプレー、記憶装置、外部コンピュータ等であってもよい。
【0115】
なお、上記においては、制御装置5は、第1、第2、第3のマスターカーブを算出して記憶し、それぞれに対応する被検体TPの第1、第2、第3の厚さを算出する例を示したが、第1、第2、第3のマスターカーブの少なくともいずれか1つを算出し、そのマスターカーブに対応する被検体TPの厚さを出力するように構成してもよく、例えば、第1のマスターカーブのみを作成し、第1の厚さのみを出力してもよい。
また、第1、第2、第3のマスターカーブの任意の組み合わせの2つを算出し、それぞれのマスターカーブに対応した被検体TPの2種の厚さを出力するように構成してもよく、例えば第1のマスターカーブと第3のマスターカーブとを作成し、第1の厚さ及び第3の厚さを出力してもよい。
【0116】
操作者は、被検体TPの材料や形状に合わせて、出力される第1、第2、第3の厚さから任意に1つ以上の厚さの測定結果を選択することができる。
【0117】
なお、厚さ測定装置100は、被検体TPの相対的な厚さの変動を検知することも可能である。例えば、被検体TPの厚さが周囲より異常に大きい又は小さい箇所を探索する用途にも使用できる。この場合、厚さの絶対値は必ずしも必要ではなく、相対的な厚さをモニタ出来ればよい。固有抵抗<dR>、差分インダクタンスdL、及び固有インダクタンス<dL>は厚さを反映した値であるため、厚さに換算することなく出力してもよい。
厚さ測定装置100の検出部6を被検体TPに対して相対的に移動し、固有抵抗<dR>、差分インダクタンスdL、又は固有インダクタンス<dL>の少なくとも1つをモニタし、例えばその値が急に増大、又は低下する箇所を異常箇所として探索することができる。この場合、マスターカーブを必要としない。
【産業上の利用可能性】
【0118】
本発明の渦電流を利用した厚さ測定方法によれば、測定可能範囲の制限を軽減し、容易に被検体の厚さ測定を可能となる。非破壊で導電性のパイプ状の被検体の肉厚を測定することができ、配管等の製品の出荷前検査や、被検体の経時劣化の診断、肉厚異常部の検出等、種々の目的で使用することができ、産業上の利用可能性は大きい。
【符号の説明】
【0119】
100 厚さ測定装置
1 第1のコイル
2 第2のコイル
3 切替装置
4 測定装置
5 制御装置
6 検出部
7 解析部
C、C1、C2 コイル
T 測定装置