(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023111719
(43)【公開日】2023-08-10
(54)【発明の名称】検査装置
(51)【国際特許分類】
G01N 22/00 20060101AFI20230803BHJP
【FI】
G01N22/00 S
G01N22/00 W
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022013713
(22)【出願日】2022-01-31
(71)【出願人】
【識別番号】593179808
【氏名又は名称】八光オートメーション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100178906
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 充和
(72)【発明者】
【氏名】是枝 雄一
(72)【発明者】
【氏名】森田 浩暉
(72)【発明者】
【氏名】松川 真吾
(57)【要約】
【課題】従来よりも広範な材料を対象に被検査物体中の材料物質の不均一性等を従来よりも短時間に検査可能な検査装置を提供する。
【解決手段】被検査物体1に向けてミリ波2を放射し反射波信号3を受信する送受信アンテナ4と、送受信アンテナ4に接続された送受信回路5と、被検査物体1を移動させる電動ステージ6と、被検査物体1と送受信アンテナ4との間の複数の相対的に異なる位置で受信した複数の反射波信号と、それらの位置データを用いて合成開口処理を行う合成開口処理手段を備え、被検査物体1による位相シフト量の分布を求めることにより被測定物体を構成する物質のxy面内の分布を評価する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
単一又は複数の物質を構成要素とする被検査物体に対し相対的に異なる複数の位置で前記被検査物体の表面に向けて電磁波を放射して、前記被検査物体の裏面からの反射波を含む前記電磁波の反射波信号を受信する手段と、
前記受信した複数の反射波信号と、前記複数の相対的に異なる位置を示す位置データとを用いて合成開口処理を行う合成開口処理手段と、
前記合成開口処理手段により、前記反射波信号の前記被検査物体の存在による位相シフト量の分布を求める手段と、
を有し
前記位相シフト量の分布により、前記被検査物体中の前記物質の前記表面に平行な面内方向の分布を評価することを特徴とする検査装置。
【請求項2】
予め測定して求めた前記被検査物体中に存在する前記物質の存在量と前記位相シフト量との間の相関関係を用いて、前記被検査物体中に存在する前記物質の前記表面に平行な面内方向の分布を求める手段を有することを特徴とする請求項1に記載の検査装置。
【請求項3】
前記の相対的に異なる複数の位置を予め設定して、前記電磁波の前記反射波信号を受信し、
前記の予め設定した位置毎に得られる前記反射波信号によるデータに基づいて前記設定位置の間で得られる前記電磁波の反射波信号によるデータを推定して補間する補間処理手段を有し、
前記の設定位置毎に得られるデータと前記補間されたデータに基づいて前記位相シフト量の分布を求めることを特徴とする請求項1又は2に記載の検査装置。
【請求項4】
前記電磁波を送信する送信アンテナ又は前記反射波信号を受信する受信アンテナの少なくとも一方を複数個備え、それらの複数のアンテナを経由して個別に分離して受信される反射波信号により前記合成開口処理を行うことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の検査装置。
【請求項5】
前記複数の送信アンテナ又は前記複数の受信アンテナは、送信信号又は受信信号の位相量を加算又は減算することにより設定される仮想的なアンテナを含むことを特徴とする請求項4に記載の検査方法。
【請求項6】
前記被検査物体の裏面に前記電磁波を反射する反射体を有することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の検査装置。
【請求項7】
前記被検査物体の表面と裏面間の距離を計測する手段を備え、前記距離の計測結果に基づいて前記位相シフト量の補正を行う手段を有することを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の検査装置。
【請求項8】
予め、前記被検査物体の表面に向けて周波数及び強度を変化させた条件設定用の電磁波を照射してその反射波を受信し、該受信波の前記周波数及び強度に対する特性を解析することにより、前記被検査物体の前記位相シフト量の分布を求めるための電磁波の周波数及び強度を自動的に決定する手段を有することを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の検査装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検査物体を構成する材料等の不均一性を検査するため、マイクロ波やミリ波等の電磁波を被検査物体に照射して、被検査物体を通過し反射して戻る反射波の位相分布形状を求める検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
様々な工業製品の製造過程や製品完成後の検査、評価等において、その製品を構成する材料が複数の物質を混合、合成等して作成される場合、それらの物質の混合状態や密度分布、分散状態等が設定通りになっているか、許容される範囲に入っているか等を把握することが必要である。従来、このような評価は、個々の製品ごとに様々な計測手段を用い、様々な分析、評価方法で行われている。例えば、場所ごとのサンプルを採取して重量分析する方法、光学的な透過率や反射率を利用する方法、カメラや光学顕微鏡、走査型顕微鏡、X線等による撮影画像を用いて分析、評価する方法等である。特許文献1には、特定点の分布状態を広い範囲にわたって定量評価するための評価方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
物体内の材料の不均一性等の検査結果を直ちにフィードバックして材料の混合工程等を修正する必要がある場合や、製造された完成品の検査工程で多くの製品の検査を行う必要がある場合等は短時間に上記の検査を行う必要がある。従来のサンプルを採取する方法や画像等を用いた評価方法では検査結果を出すのに時間がかかり、上記のような目的には対応できない。また、光学的な評価は、評価可能な対象が限られ、広範な材料に適用することは難しい。
【0005】
そこで、本発明は、係る問題を解決するためになされたものであり、従来よりも広範な材料を対象に被検査物体中の材料物質の不均一性等を従来よりも短時間に検査可能な検査装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の観点では、本発明の検査装置は、単一又は複数の物質を構成要素とする被検査物体に対し相対的に異なる複数の位置で前記被検査物体の表面に向けて電磁波を放射して、前記被検査物体の裏面からの反射波を含む前記電磁波の反射波信号を受信する手段と、前記受信した複数の反射波信号と、前記複数の相対的に異なる位置を示す位置データとを用いて合成開口処理を行う合成開口処理手段と、前記合成開口処理手段により、前記反射波信号の前記被検査物体の存在による位相シフト量の分布を求める手段と、を有し、前記位相シフト量の分布により、前記被検査物体中の前記物質の前記表面に平行な面内方向の分布を評価することを特徴とする。
【0007】
本発明においては、電磁波とは、マイクロ波、又はミリ波、又はテラヘルツ波をいい、一般的には、マイクロ波の周波数範囲は0.3~30GHz、ミリ波の周波数範囲は30~300GHz、テラヘルツ波の周波数範囲は300GHz~10THzである。本発明では、上記のように、被検査物体の表面に向けて電磁波を放射し、被検査物体の少なくとも裏面からの反射波を含む反射波信号を受信する。被検査物体の厚さがほぼ均一である場合、被検査物体中に誘電率の異なる部分が存在すると受信する電磁波の位相が変化する。本発明では誘電率の異なる材料を位相シフト量の違いとして検出する。被検査物体中でその材料の密度が異なる場合も位相シフト量の差として検出できる。また、物体の表面や内部に電磁波の反射率が異なる材料が存在する場合、反射位置が異なるのでやはり反射波の位相の変化として検出できる。すなわち、本発明は電磁波に対し、誘電率や反射率が異なる広範な物質を対象に、被検査物体中での面内方向の分布を求めることができる。さらに、本発明では、合成開口処理技術を用いて、被検査物体の面内方向の二次元的な分布形状を高い分解能で求めることができる。本発明においては、被検査物体に対し相対的に異なる位置の電磁波の送信及び受信アンテナにおいてそれぞれ受信した複数の反射波信号を用いて合成開口処理を行うことにより、単に電磁波の反射波の強度や位相の分布からそれらの形状を求める場合に比べて、大幅に高い分解能での検出を可能としている。すなわち、被検査物体中の不均一な材料などの厚さ方向に積分された存在量の二次元的な面内分布が、高い分解能で検出できる。また、物体の内部に誘電率や反射率の異なる物質が存在する場合もその面内での位置を検出可能である。
【0008】
被検査物体は単一又は複数の物質を構成要素とし、本発明はその構成要素の1つの物質又は任意の複数の物質の被検査物体中の分布を評価する。例えば、その物質の密度分布、分散状態、局在部分、等の評価である。被検査物体で必要とされる評価項目に依存して対象物質、分布形状の精度、数値化の要否等を選択すればよい。
【0009】
本発明において、被検査物体の存在による位相シフト量とは被検査物体が存在しないでその裏面の位置に反射体がある場合の電磁波の反射波信号の位相と比較した場合の、電磁波の被検査物体での表面及び内部での反射やその物体を通過して裏面で反射すること等により生ずる反射波信号の位相の変化量をいう。なお、合成開口処理を行うため、使用する電磁波の送信及び受信アンテナの電磁波の放射角度はある程度広いことが必要であり、例えばプローブアンテナやパッチアンテナ、ホーンアンテナ等が使用可能である。また、車両などで使用されるミリ波レーダ用の送信及び受信アンテナを用いることも可能である。
【0010】
本発明においては、合成開口処理を行うため、被検査物体と電磁波の送信及び受信アンテナとの間の相対的に異なる位置の電磁波信号が必要であるが、複数の相対的に異なる位置の送信及び受信アンテナから被検査物体に対して電磁波を放射して反射波を受信する手段として、送信及び受信アンテナ又は被検査物体の少なくとも一方を移動させる手段、又は複数の送信及び受信アンテナを備える手段、のいずれか一方の手段を備えるか、又は両方の手段を備えてもよい。すなわち、被検査物体と送信及び受信アンテナのいずれか一方又は両方を移動させるか、若しくは複数の送信及び受信アンテナを配置させてもよく、必要な検査領域全体に電磁波が照射されるようにすればよい。
【0011】
合成開口処理においては、例えばレンジ方向はFM-CWレーダ方式等を用いて反射位置を把握することができる。この場合、被検査物体が配置される場所の基準となる位置に、予め電磁波の反射板を設置して電磁波の反射信号を取得しておき、その信号を参照することにより、より正確に被検査物体内の反射位置を把握でき、高分解能化が図れる。また、アジマス方向の合成開口処理の一例としては、レンジマイグレーション補正を行い、各レンジ位置で伝達関数の複素共役を計測条件から解析的に生成し、それを2次元又は1次元の参照信号として計測データと相関処理を行うことで合成開口処理データを得ることができる。
【0012】
第2の観点では、本発明は、前記第1の観点の検査装置において、予め測定して求めた前記被検査物体中に存在する前記物質の存在量と前記位相シフト量との間の相関関係を用いて、前記被検査物体中に存在する前記被測定物質の前記表面に平行な面内方向の分布を求める手段を有することを特徴とする。
【0013】
ここで、被検査物体の構成要素となる物質とは、原材料物質、複数の混合物を含む場合はそれらの混合物質、発泡による気泡を構成要素とする場合はその気泡、ウール等の繊維物質及びそれらの繊維の隙間の空気、異物を含む可能性がある場合はそれらの異物、等様々な物質をいう。分布形状を求める対象の被測定物質は上記の物質の1つ、又は複数から構成される物質である。存在量とは、被測定物質の密度、被測定物質以外の物質との構成比率、等である。例えば、密度または誘電率が異なる2つ以上の材料を混合してなる被検査物体において、それぞれの材料の位相変化量の特性、すなわち厚さに対する位相変化量を事前に計測しておけば、その混合したものの位相変化量から構成比率や材料の分散具合を求めることができる。例えば、複数の物質からなる被検査物体において、1つの物質の分量を変化させた混合物質のサンプルを作成し、その分量と位相シフト量の関係を本発明による検査装置で求めれば、その相関関係が得られる。また、単一の物質または複数の材料が均一に混合された物質からなる被検査物体においては、密度を変えたサンプルを作成して、それらの位相シフト量を求めれば、その密度と位相シフト量の相関関係が得られる。この相関関係を用いれば、被検査物体中に存在する前記被測定物質の密度分布を求めることができる。
【0014】
本観点の発明は様々な用途に用いることができる。例えば、以下のような用途がある。
(1)タイヤのようなゴム製品の製造過程において、混合された1つ又は複数の物質を被測定物質として予め求めた相関関係を使ってゴムの混錬状態を計測して数値化し、その分布を求める。
(2)焼結前のセラミックスの材料の混合された1つ又は複数の物質や含まれる水分を被測定物質として混合状態や含水率を計測して数値化し、その分布を求める。
(3)不織布、グラスウール等の繊維からなる不定形の材料において、その繊維材料を被測定物質として密度を計測して数値化し、分布形状を求める。
(4)発泡ゴム、ウレタン等の気泡を含む材料において、原材料又は気泡を被測定物質としてその密度を計測して数値化し、分布形状を求める。
(5)樹脂材料に含まれるフィラーを被測定物質として計測して数値化し、その分散状態の分布を求める。
(6)食品の製造工程において、小麦粉等の粉状材料を被測定物質として密度等を計測して数値化し、その分布形状を求め、混ざり具合の判定に用いる。
(7)薬剤の製造工程において、1つ又は複数の成分を被測定物質としてその密度等を計測して数値化し、分布形状を求める。
(8)複数の液体を混合した製品又はその製造工程において、1つ又は複数の液体を被測定物質として計測して数値化し、その分布形状を求め、混ざり具合の判定に用いる。
(9)歯磨き粉、コンパウンド等のゲル状材料からなる製品の製造工程において、その材料の1つ又は複数を被測定物質として計測して数値化し、その分布形状を求め、混ざり具合の判定に用いる。
(10)カーボンナノチューブ、セルロース等においてファイバーを被測定物質として計測して数値化し、その分布形状を求めて分散状態の判定に用いる。
(11)建材ボードの製造工程において、混錬する材料の1つ又は複数を被測定物質として計測して数値化し、その分布形状を求める。
(12)火薬の製造工程において、その原料の1つ又は複数を被測定物質として計測して数値化し、その分布形状を求める。
(13)スタッドレスタイヤ等のようにゴムに異物を混入させ分散する工程において、その異物を被測定物質として密度等を計測して分布形状を求める。
(14)セメントの製造工程において、1つ又は複数の原料を被測定物質として計測して数値化し、その分布形状を求めて混ざり具合を判定する。
【0015】
第3の観点では、本発明は、前記第1又は第2の観点の検査装置において、前記の相対的に異なる複数の位置を予め設定して、前記電磁波の前記反射波信号を受信し、前記の予め設定した位置毎に得られる前記電磁波の反射波信号によるデータに基づいて前記設定位置の間で得られる前記電磁波の反射波信号によるデータを推定して補間する補間処理手段を有し、前記の設定位置毎に得られるデータと前記補間されたデータに基づいて前記位相シフト量の分布を求めることを特徴とする。
【0016】
本観点の発明においては、予め設定した複数の相対的に異なる位置での電磁波の反射波信号の測定により得られるデータを使用して、上記の設定位置の間での測定により得られると推定される補間データを計算により求め、その補間データを実際に反射波信号により得られたデータに加えて被検査物体の位相シフト量の分布、又は被検査物体中に存在する被検査物質の分布を求めるものである。これにより、さらに高い分解能での分布形状の把握が可能となる。また、補間位置で実際の測定を行うことなく、計算による補間処理を行うことにより、測定及び測定結果の処理に要する時間の大幅な短縮が可能となる。
【0017】
第4の観点では、本発明は、前記第1乃至3の観点の検査装置において、前記電磁波を送信する送信アンテナ又は前記反射波信号を受信する受信アンテナの少なくとも一方を複数個備え、それらの複数のアンテナを経由して個別に分離して受信される反射波信号により前記合成開口処理を行うことを特徴とする。
【0018】
本観点の発明は、MIMO(Multi Input Multi Output)方式のレーダ技術を応用するものである。複数の送信アンテナ又は受信アンテナを用いることにより、複数の測定個所の反射波信号をアンテナや被測定物体を移動することなく測定できるので、高速の計測が可能となる。送信アンテナ又は受信アンテナの一方のみ複数個備えてもよく、又は両方を複数個備えてもよい。コンパクトな空間に複数の送信又は受信アンテナを配置して構成されたMIMO方式の車載用のミリ波レーダ送受信アンテナを用いることにより、低コストで小型の検査装置を実現可能である。
【0019】
第5の観点では、本発明は、前記第4の観点の検査装置において、前記複数の送信アンテナ又は前記複数の受信アンテナは、送信信号又は受信信号の位相量を加算又は減算することにより設定される仮想的なアンテナを含むことを特徴とする。
【0020】
本観点の発明においては、MIMOレーダ技術を本発明に適用する際に、仮想アンテナの反射波信号を加えることにより、見かけ上の送信、受信アンテナの数を増やし、分布形状の計測においてさらなる測定速度や測定精度の向上を図ることができる。
【0021】
第6の観点では、本発明は、前記第1乃至5の観点の検査装置において、前記被検査物体の裏面に前記電磁波を反射する反射体を有することを特徴とする。本観点の発明は、裏面の電磁波の反射率が不十分な被検査物体の裏面に電磁波の反射体を設けることにより、被検査物体の表面と裏面間を往復して戻る反射波信号の強度を大きくして目的とする情報に対するS/Nを上げ、被検査物体中の位相シフト量の分布形状の測定精度を向上させることができる。反射体としては、金属板や金属膜等を用いることができ、金属以外の物質であっても、電磁波の反射率が被測定物体よりも大きくなればよい。
【0022】
第7の観点では、本発明は、前記第1乃至6の観点の検査装置において、前記被検査物体の表面と裏面間の距離を計測する手段を備え、前記距離の計測結果に基づいて前記位相シフト量の補正を行う手段を有することを特徴とする。被検査物体の厚さが均一でない場合や部分的に厚さが異なる被検査物体の測定においては、その厚さの違いにより位相シフト量の差が生じてしまい、目的とする被検査物質等による位相シフト量の正確な測定を妨げてしまう。そこで本観点の発明においては、被検査物体の表面と裏面間の距離、すなわち、測定個所の被検査物体の厚さを常に計測し、その厚さの増減による位相シフト量に基づいて反射波信号から求めた測定値を補正することにより、厚さの影響を除くことができる。
【0023】
第8の観点では、本発明は、前記第1乃至7の観点の検査装置において、予め、前記被検査物体の表面に向けて周波数及び強度を変化させた条件設定用の電磁波を照射してその反射波を受信し、該受信波の前記周波数及び強度に対する特性を解析することにより、前記被検査物体の前記位相シフト量の分布を求めるための電磁波の周波数及び強度を自動的に決定する手段を有することを特徴とする。
【0024】
本発明の検査装置において、電磁波に対する特性が十分に明らかでない被検査物体に対して、どのような周波数でどの程度の強度の電磁波を使用するかを選定し、その条件に合致させるように送受信部を調整する作業は多くの手間を要する。本観点の発明は、自動的に最適な電磁波の周波数と強度を求め、その条件に設定することを可能とするオートキャリブレーション機能を備えるものである。この機能を有することにより、新規な被検査物体に対しても電磁波の選定や調整が容易となる。
【発明の効果】
【0025】
以上のように、本発明の検査装置によれば、従来よりも広範な材料を対象に被検査物体中の材料物質の不均一性等を従来よりも短時間に検査可能な検査装置が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明の実施例1に係る検査装置のブロック構成図。
【
図2】実施例1の検査手順のフローチャートの一例を示す図。
【
図3】実施例2に係る検査装置の主要な構成部分を示す斜視図。
【
図4】実施例2で使用する送信及び受信アンテナとMIMO方式の構成を模式的に示す図。
【
図5】実施例2の検査装置を用いた第1の実験結果の一例を示す図。
【
図6】実施例2の検査装置を用いた第2の実験結果の一例を示す図。
【
図7】実施例3に係る検査装置の主要な構成部分を示す斜視図。
【
図8】実施例4に係る検査装置の主要な構成部分を示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を参照して本発明の検査装置を実施例により詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一符号を付し、その重複した説明を省略する。
【実施例0028】
図1は、本発明の実施例1に係る検査装置のブロック構成図である。
図1において、本実施例の検査装置10は、被検査物体1に向けてミリ波2を放射する送信アンテナと被検査物体1から反射する反射波信号3を受信する受信アンテナの機能を有する送受信アンテナ4と、送受信アンテナ4に接続された送受信回路5と、被検査物体1を搭載して被検査物体1を移動させる移動手段として電動ステージ6を備えている。ここで、被検査物体1は、板状の形状を有し、送受信アンテナ4から放射されるミリ波2は被検査物体1の表面1aに対してほぼ垂直に放射される。電動ステージ6は、被検査物体1を表面1aに平行な面内、すなわちxy面内で移動させ、被検査物体1の異なる部位が送受信アンテナ4のミリ波2の放射方向に順次位置するように設定する。本実施例では、送受信アンテナ4としてプローブアンテナを用いている。
【0029】
本実施例において、被検査物体1は、ほぼ平行平板状の誘電率の異なる物質が不均一に混合された誘電体材料からなり、その裏面側には、金属平板からなる電動ステージの上面が存在している。これにより、被検査物体1からの反射波信号3は被検査物体1の表面と裏面間を往復して戻る反射波が主要な成分となり、被検査物体1のそれぞれの測定点における位相シフト量は、混合された誘電率の異なる物質の密度や構成比率をz軸方向、すなわち厚さ方向に積分した値を反映したものとなる。
【0030】
また、検査装置10は、被検査物体1と送受信アンテナ4との間の複数の相対的に異なる位置に対して受信した複数の反射波信号と、それらの複数の相対的に異なる位置を示す位置データを用いて合成開口処理を行う合成開口処理手段を備え、その合成開口処理手段はパーソナルコンピュータ7におけるソフトウェアの1つとして備えている。具体的には、被検査物体1の移動に伴って、予め設定した移動間隔、例えば0.5~5.0mm程度毎に被検査物体1から反射する反射波信号を受信し、それぞれの移動位置で受信した複数の反射波信号と、それぞれの受信位置における送受信アンテナ4に対する被検査物体1の位置を示す位置データを用いて合成開口処理を行う。この合成開口処理手段により被検査物体1の存在によるxy面内方向の位相シフト量の分布を求め、その分布の形状がパーソナルコンピュータ7の表示部8に表示される。
【0031】
電動ステージ6はコントローラ9により制御され、コントローラ9はパーソナルコンピュータ7からの制御信号11により制御される。また、コントローラ9からは、移動に伴って、パーソナルコンピュータ7には受信信号取り込みのため、送受信回路5には送信信号の送出のため、トリガー信号12が送られる。なお、x及びy方向の移動速度を一定にして、トリガー信号を不要とすることも可能である。
【0032】
本実施例の検査装置10による検査方法の検査手順について以下に説明する。
図2は、本実施例の検査手順のフローチャートの一例を示す図である。先ず、最初に計測条件の設定を行う。具体例としては、
図1においてFM-CWレーダ方式を用いる場合、送受信アンテナ4から放射するミリ波の周波数を周期的に直線的に変化させたチャープ信号を用いるので、その場合の周波数及びその変化幅及び周期等を設定する。この設定された条件に基づいて、ミリ波送信信号が作成され、送受信アンテナ4に供給される。なお、ミリ波の周波数の一例としては、77GHz~81GHzの間で掃引することができる。
【0033】
次に、設定された移動位置に被検査物体1が到達したとき、受信データ処理として、被検査物体1からの反射波信号3を送受信アンテナ4により受信し、その受信波の周波数を低周波数領域に変換し、ADコンバータによる電圧値の変換等を行いレンジ方向の受信信号の生データとして出力する。次に、レンジ方向、すなわち
図1における被検査物体1の深さz方向の相関処理を行う。具体的には、送信信号に基づいて参照信号を作成し、受信信号と参照信号で相関処理を行ってレンジ圧縮データを得る。なお、深さz方向の計測精度を必要としない場合は、レンジ方向の上記の相関処理は不要である。
【0034】
本実施例においては、このレンジ方向の相関処理において、被検査物体1が配置される領域内の所定の位置、例えば、被検査物体1の表面1aの位置に放射されるミリ波に対して、被測定物体1の裏面側の電動ステージ6の金属板による反射波信号を受信し、その受信データを用いて送受信アンテナ4及び送受信回路5による測定系全体の補正を行うことができる。この場合、金属板による反射波信号を用いて上記の相関処理を行い、その結果として金属板を正しく示すデータが出力するように参照信号を補正し、相関処理を行うものである。この補正を行うことにより、送受信システムの系全体の歪を補正して、誤差の少ない被検査物体1の存在による位相シフト量のデータを得ることができる。
【0035】
次に、被検査物体1をアジマス方向に移動させた際の、解析点とアンテナ間の距離変化を補正するため、レンジ圧縮データに対してレンジマイグレーション補正を行い、アジマス方向、すなわち
図1において被検査物体1の移動方向の相関処理を行う。相関処理に使用するアジマス方向の参照信号は、送信信号に基づいて、解析的に各レンジ位置での伝達関数の複素共役を求めて作成される。移動方向の複数の受信データにより一般的な合成開口処理と同様な手順によって合成開口処理データが得られる。被検査物体1を移動させながら、予め設定した領域の全体にわたって合成開口処理を行った後、得られた合成開口処理データを用いて被検査物体1によるxy面内方向の位相シフト量の分布が表示部8に表示される。
【0036】
但し、本実施例においては、設定した移動間隔毎の反射波信号により得られるデータを使用して、移動間隔の間での測定により得られると推定される補間データを計算により求め、その補間データを実際の反射波信号により得られたデータに加えて被検査物体の位相シフト量の分布形状を求めている。具体的には、反射波信号のデータが得られる位置のみではなく、それらの間の補間位置においてもアジマス方向の参照信号を作成し、反射波信号のデータと相関処理を行ってその補間位置における合成開口処理データを求め、その補間処理データを追加して被検査物体1の位相分布形状を求めている。例えば、受信信号を得る移動間隔に対し、5分の1の間隔で補間処理のための参照信号を作成し、得られている受信信号と相関処理を行う。このように、補間位置で実際の測定を行うことなく、計算による補間処理を行うことにより、測定及び測定結果の処理に要する時間の大幅な短縮が可能となり、測定される分布形状の分解能も大幅に向上することが確認されている。
さらに、本実施例の検査装置20は、測定個所の被検査物体21の厚さを計測し、その厚さの増減による位相シフト量に基づいて反射波信号から求めた測定値を補正するため、レーザ変位計24をミリ波レーダ23と一体に備えている。
本実施例においては、送受信のアンテナを含めた送受信部にミリ波レーダ23を用いているため、低コストで小型の送受信部を構成できる。さらに、ミリ波レーダ23が複数の送信及び受信アンテナを有することにより、複数の計測個所からの反射波信号を同時に取得することができ、高速で計測を行うことができる。
本実施例の検査手順は、複数の送信及び受信アンテナによる反射波信号の数が多いこと以外は実施例1とほぼ同様であり、被検査物体21及びミリ波レーダ23のx及びy方向への移動に伴って、予め設定した移動間隔、例えば0.5~5.0mm程度毎に被検査物体21からの反射波信号を受信し、それぞれの移動位置で受信した複数の反射波信号と、それぞれの受信位置におけるミリ波レーダ23の送信及び受信アンテナに対する被検査物体21の位置を示す位置データを用いて合成開口処理を行う。この合成開口処理手段により被検査物体21のxy面内での位相シフト量の分布形状を求め、その分布形状はパーソナルコンピュータ7の表示部8に表示される。また、反射波信号のデータが得られる位置の間の補間位置においてもアジマス方向の参照信号を作成し、受信信号のデータとの相関処理を行ってその補間位置における合成開口処理データをもとめ、それを加えて被検査物体21の位相シフト量の分布形状を求めることも可能である。
上記の実験のように、密度分布を求めその標準偏差を算出すれば材料の分散具合や密度分布を数値化することができる。また、材料を混合する製造工程等において、算出した標準偏差を上流の工程にフィードバックすることで、均一な製品製造が可能となる。密度や標準偏差に閾値を設けることで、良否判定に使用することも可能となる。
また、本実施例の検査装置は、位相シフト量と密度の相関関係を用いれば、前述した多くの用途、例えば、タイヤのようなゴム製品の製造過程における混練状態の計測、評価、セラミック材料の混合状態や含水率分布の測定、液体材料やセメント等の複数の材料の混合状態の計測、検査等、において有効に利用できることがわかる。