IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 学校法人東京農業大学の特許一覧

特開2023-111728メンブランベシクルの生産方法及びメンブランベシクルを利用した物質生産方法
<>
  • 特開-メンブランベシクルの生産方法及びメンブランベシクルを利用した物質生産方法 図1
  • 特開-メンブランベシクルの生産方法及びメンブランベシクルを利用した物質生産方法 図2
  • 特開-メンブランベシクルの生産方法及びメンブランベシクルを利用した物質生産方法 図3
  • 特開-メンブランベシクルの生産方法及びメンブランベシクルを利用した物質生産方法 図4
  • 特開-メンブランベシクルの生産方法及びメンブランベシクルを利用した物質生産方法 図5
  • 特開-メンブランベシクルの生産方法及びメンブランベシクルを利用した物質生産方法 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023111728
(43)【公開日】2023-08-10
(54)【発明の名称】メンブランベシクルの生産方法及びメンブランベシクルを利用した物質生産方法
(51)【国際特許分類】
   C12P 1/04 20060101AFI20230803BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20230803BHJP
   C12N 1/20 20060101ALI20230803BHJP
   C12N 1/00 20060101ALI20230803BHJP
【FI】
C12P1/04 Z
C12N1/21
C12N1/20 Z
C12N1/00 N
C12N1/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022013732
(22)【出願日】2022-01-31
(71)【出願人】
【識別番号】598096991
【氏名又は名称】学校法人東京農業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100122574
【弁理士】
【氏名又は名称】吉永 貴大
(72)【発明者】
【氏名】田口 精一
(72)【発明者】
【氏名】高 相昊
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B064AH19
4B064BH20
4B064CA02
4B064CA19
4B064CC30
4B064CD09
4B064CE20
4B064DA01
4B065AA26X
4B065AB01
4B065AC14
4B065AC20
4B065BA02
4B065BB15
4B065BD15
4B065CA44
4B065CA45
4B065CA46
(57)【要約】
【課題】効率的な大腸菌からのメンブランベシクル生産およびその制御法を提供することを目的とする。
【解決手段】ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)生産遺伝子をコードした大腸菌をグルコース存在下で培養し、大腸菌の細胞内にポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)を蓄積させることにより細胞内の内圧を高める工程と、大腸菌の細胞膜の外膜-ペプチドグリカン-内膜に物理的な摂動を誘発させる工程と、細胞膜の外膜にメンブランベシクルを生産する工程と、を有する、メンブランベシクルの生産方法により解決する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)生産遺伝子をコードした微生物を炭素源存在下で培養し、前記微生物の細胞内にポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)を蓄積させることにより細胞内の内圧を高める工程と、
前記微生物の細胞膜の外膜-ペプチドグリカン-内膜に物理的な摂動を誘発させる工程と、
メンブランベシクルを前記細胞膜の外膜に生産する工程と、
を有する、メンブランベシクルの生産方法。
【請求項2】
前記メンブランベシクルの平均粒子径が、50~200nmである請求項1に記載の複合樹脂組成物。
【請求項3】
前記炭素源が、グルコースである、請求項1又は2に記載のメンブランベシクルの生産方法。
【請求項4】
前記グルコースが、0.2~4.0重量%である、請求項3に記載のメンブランベシクルの生産方法。
【請求項5】
前記微生物が、グラム陰性菌である、請求項1~4のいずれか1項に記載のメンブランベシクルの生産方法。
【請求項6】
前記グラム陰性菌が、大腸菌である、請求項5に記載のメンブランベシクルの生産方法。
【請求項7】
前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)が、ポリ(3-ヒドロキシブチレートである、請求項1~6のいずれか1項に記載のメンブランベシクルの生産方法。
【請求項8】
ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)生産遺伝子と、目的物質生産遺伝子とをコードした微生物を炭素源存在下で培養し、前記微生物の細胞内にポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)を蓄積させることにより細胞内の内圧を高める工程と、
前記微生物の細胞膜の外膜-ペプチドグリカン-内膜に物理的な摂動を誘発させる工程と、
前記目的物質を含有するメンブランベシクルを前記細胞膜の外膜に生産する工程と、
を有する、物質生産方法。
【請求項9】
前記目的物質が、タンパク質、核酸、ポリエステルからなる群から選択された少なくとも1種である、請求項8に記載の物質生産方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細菌を利用したメンブランベシクルの効率的生産法及びメンブランベシクルを利用した物質生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
メンブランベシクル(MV)は、菌種によって粒子径に相違があるが、20~200nmほどの膜小胞である。多くの細菌がMVを生産することが知られてきている。MVは、細胞膜由来のリン脂質や膜タンパク質、LPS(lypopolysaccharide)等で構成されており、核酸や酵素などの様々な物質を含有していることも明らかになってきている。MVは構造安定性も高いことから、多面的な機能を有していると考えられ、ドラックデリバリー(DDS)に代表されるような効率的な微生物制御への応用が期待されている。またMVはワクチン抗原としてあるいは抗原を輸送するキャリアとして近年注目されており研究が進んでいる。
【0003】
尾花ら(2016)は、様々な遺伝子変異株や制御因子を用いた解析により多くのMV生産関連遺伝子が同定され、様々なMV機構が提唱されているが、これらのMV生産機構に共通することとして細胞膜がたわむことが挙げられることを報告している(非特許文献1)。
【0004】
また、特開2021-71357号公報には、試料と、担体に担持されたペプチドまたはポリミキシンBとを接触させることによって複合体を形成させる複合体形成工程、および、複合体に解離バッファーを接触させることによって、複合体からメンブランベシクルを解離させるメンブランベシクルの単離方法を開示している(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2021-71357号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】尾花ら,“グラム陽性細菌が能動的につくるメンブランベシクルの機能と生合成”,日本乳酸菌学会,2016年,第27巻,第1号,p.10-16
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
MVの生産は微生物において普遍的な現象であると考えられているが、効率的なMV生産およびその制御法については十分に検討されていない。そこで、本発明は、効率的な大腸菌からのMV生産およびその制御法を提供することを目的とする。また、本発明は、その制御法を利用した物質生産方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、効率的な大腸菌からのMV生産およびその制御法を提供するため、大腸菌にバイオポリマーを生産させ、また培地中のグルコース濃度を調整することにより、大腸菌から均一な粒子径のMVを効率的に高生産することを見出した。さらに、本発明者らは、当該MVが内部に内容物を包摂しうることを見出した。
【0009】
本発明はかかる知見に基づきなされたものであり、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)生産遺伝子をコードした微生物を炭素源存在下で培養し、前記微生物の細胞内にポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)を蓄積させることにより細胞内の内圧を高める工程と、前記微生物の細胞膜の外膜-ペプチドグリカン-内膜に物理的な摂動を誘発させる工程と、メンブランベシクルを前記細胞膜の外膜に生産する工程と、を有する、メンブランベシクルの生産方法を提供するものである。
【0010】
また、本発明は、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)生産遺伝子及び目的物質生産遺伝子をコードした微生物を炭素源存在下で培養し、前記微生物の細胞内にポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)を蓄積させることにより細胞内の内圧を高める工程と、前記微生物の細胞膜の外膜-ペプチドグリカン-内膜に物理的な摂動を誘発させる工程と、前記目的物質を含有するメンブランベシクルを前記細胞膜の外膜に生産する工程と、を有する、物質生産方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、微生物にバイオポリマーを生産させ、また培地中の糖濃度により大腸菌から均一な粒子径のメンブランベシクルを効率的に高生産するとともに、目的物質を効率的に高生産する技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、本発明の実施形態に係るメンブランベシクルの生産方法の概要を説明するための図である。
図2図2(A)は遠心管内の粒子含有帯域の量の比較(BW/PHB(+)、BW/PHB(-)、BW)、図2(B)はBW/PHB(+)の試料からのMVの抽出をFM1-43 FXの蛍光強度に基づいてモニターした結果を示す図である。
図3図3(A)は、グルコース濃度依存的にMVが生産されることを示した図である。図3(B)は、グルコース濃度依存的にPHBが生産されることを示した図である。図3(C)は、PHB生産量とMV生産量との間の相関関係を示す図である。
図4】走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した顕微鏡写真である。
図5図5(A)は、透過型電子顕微鏡(TEM)による顕微鏡写真である。図5(B)は、 NanoSightトラッキング解析によりMVの粒度分布を解析した結果を示す図である。
図6図6は大腸菌にGFP遺伝子を組みこんでMV生産を行った結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は本発明の実施形態に係るメンブランベシクルの生産方法の概要を説明するための図である。本実施形態に係るメンブランベシクルの生産方法は、以下の3つのステップで構成されている。
【0014】
ステップ1:ポリ(3-ヒドロキシブチレート)(PHB)生産遺伝子をコードした微生物を炭素源存在下で培養し、PHB蓄積による内圧を利用してPHB生産が行われる。
【0015】
ステップ2:内圧は、外膜-ペプチドグリカン-内膜の3つの構造体である生体高分子の間に形成されるリンクネットワークに物理的な摂動を与える。ここで、摂動(せつどう)とは、一般に力学系において、主要な力の寄与(主要項)による運動が、他の副次的な力の寄与(摂動項)によって乱される現象をいう。なお、転じて摂動現象をもたらす副次的な力のことを摂動と呼ぶ場合がある。その結果、エンベロープストレスとしてペリプラズム空間に無秩序な状態が発生し、MVの生合成を引き起こす。
【0016】
ステップ3:細胞膜の外膜にMVを生産する。(A)OMVが形成される場合(低内圧)、単層小胞が多く発生する。(B)OIMV(高内圧)が形成されると、多層小胞が多く発生する。
【0017】
大腸菌のようなグラム陰性菌の場合、ペプチドグリカンと膜合成の不均衡などいくつかの経路を経てMV形成が促進される。特に、膜のエンベロープストレスは、MVの生成によく関与することが分かっている。エンベロープストレスは、外膜-ペプチドグリカン-内膜という3つの生体高分子の連結構造の乱れによって引き起こされる。そのため、エンベロープストレスと密接に関連する多くの自然変異や人工変異が、細胞内に顕著に分布している。
【0018】
一方、本実施形態のメンブランベシクルの生産方法は、MV形成のトリガーがPHB蓄積そのものであるという、従来のメンブランベシクルの生産機構とは異なる機構である。すなわち、放出されたMVの量とPHB生成量には、細胞の形態変化を伴う直線的な関係が存在する。このことから、細胞の体積変化は、PHB蓄積によって引き起こされる内圧、いわばエンベロープストレスとよく相関していると考えられる(図1)。
【0019】
本実施形態において、MVの平均粒子径は、50~200nmである。本実施形態において、平均粒子径は、ナノ粒子解析システム ナノサイトシリーズ(NanoSight社製)により測定した数値を利用している。ナノ粒子解析システム ナノサイトシリーズ(NanoSight社製)は、ナノ粒子のブラウン運動の速度を計測し、その速度から粒子径を算出する。本実施形態では、生産されるMVの粒子径の均一性が高いため、工業規格化や製造管理の点で利点を有する。
【0020】
本実施形態の物質生産方法は、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)生産遺伝子と、目的物質生産遺伝子とをコードした微生物を炭素源存在下で培養し、前記微生物の細胞内にポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)を蓄積させることにより細胞内の内圧を高める工程と、前記微生物の細胞膜の外膜-ペプチドグリカン-内膜に物理的な摂動を誘発させる工程と、前記目的物質を含有するメンブランベシクルを前記細胞膜の外膜に生産する工程と、を有する。
【0021】
グラム陰性菌では、与えられた生理的状況に応じて、単層MV(Outer MV, OMV)と多層MV(Outer/Inner MV, OIMV)の形成がしばしば議論されている。先述したメンブランベシクルの生産方法では、培養上清中に OMV と OIMV が混在している状態である。そのため、本実施形態に係る物質生産方法は、この OIMVs の形成を利用して、目的物質を封入するためのカプセルとして利用することができる。
【0022】
前記目的物質としては、微生物が細胞内に生成蓄積することができ、かつ、MVに封入できる有機化合物であれば限定されないが、例えば、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体、免疫グロブリンなどの抗体;アミラーゼ、プロテアーゼ、リパーゼなどの酵素;乳酸、酢酸、コハク酸などの有機酸;エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノールなどの低級アルコール;インシュリン、副腎皮質ホルモン、アドレナリン、ノルアドレナリン、甲状腺ホルモンなどのホルモン;インターフェロン、インターロイキン、腫瘍壊死因子、コロニー刺激因子、成長因子などのサイトカイン;ワクチンの抗原;DNA、RNA、これらの誘導体などの核酸;DHA、EPAなどの高級不飽和脂肪酸、そのモノエステル、ジエステル、トリグリセリドや、リン脂質、糖脂質などの脂質;高級アルカジエン、高級アルカトリエン、トリテルペン、テトラテルペンなどの高級炭化水素;β-カロテンやアスタキサンチン等のカロチノイド、クロロフィルやバクテリオクロロフィル等の色素;ビタミンA、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンC、ビタミンB1、ビタミンB2などのビタミン類;その他の生理活性物質(タンパク質、ペプチド等)を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0023】
また、本実施形態において微生物の細胞膜の外膜-ペプチドグリカン-内膜に物理的な摂動を誘発させるPHBのモノマーやPHBオリゴマーであってもよい。
【0024】
本実施形態の物質生産方法においては、その他の共通する事項について、先述したメンブランベシクルの生産方法で述べた事項が適宜適用される。
【実施例0025】
1.実験と方法
(1)細菌株、プラスミド、増殖条件
本研究で使用した菌株とプラスミドを示す(表1)。宿主株としてE.coli BW25113を使用した。PHB生産には、PHA合成酵素遺伝子(Ralstonia eutropha由来phaCRe)、3-ケトチオラーゼ遺伝子(R.eutropha由来phaARe)、アセトアセチル-CoA還元酵素遺伝子(R.eutropha由来phaBRe)を有するプラスミドpGEM-phaCReAB6を使用した。
【0026】
【表1】
【0027】
大腸菌は、通常、2.0%(w/v)のグルコースを含むLB培地(10 g/L Tryptone,5 g/L Yeast extract,10 g/L NaCl)で培養し、PHB生産に使用した。グルコース依存的なPHB生産量を調べる場合、その濃度は、0,0.25,0.5,1.0,1.5,2.0% (w/v) のように変化させた。プラスミドベクターを保有する菌株の培地には、50 mg/L アンピシリンを添加した。すべての試験菌株はLBで30℃、13時間前培養し、500 mL坂口フラスコ中の新鮮なLB 100 mlに接種した。組換え株は125strokes/minで往復振盪して培養した。
【0028】
(2)電子顕微鏡による観察
組換え大腸菌の培養上清を電子顕微鏡観察に供した。遠心分離(6000×g,1分)により細胞ペレットを回収し、10mM PBS中2.5%グルタルアルデヒドで4℃、一晩固定した。固定した細胞を10 mM PBSで3回洗浄し、2%酸化オスミウム溶液で追加固定した。固定した細胞を水で3回洗浄した後、t-ブチルアルコールで凍結乾燥した。凍結乾燥した細胞をカーボンテープに貼り付け、イオンスパッタリング装置(HPC-1SW,Vacuum device)を用いてオスミウムをスパッタリングコーティングした。この細胞を走査型電子顕微鏡(JSM-6700F,日本電子)を用いて5kVの電圧で検査した。
【0029】
(3)細胞の大きさの決定
顕微鏡BZ-X700(キーエンス社製)を用いて細胞画像を撮影した。SH800 cell sorter (SONY)を用いてフローサイトメトリーにより相対的な細胞サイズを測定した。48時間後に細胞を採取し、PBSで10倍希釈したサンプルを分析した。流速は6μL/minとした(圧力1)。SH800ソフトウェア(SONY)を用いて、10万カウントの前方散乱データおよび後方散乱データを記録した。
【0030】
(4)PHB総量の定量化
培養後、回収した細胞を水で3回洗浄し、凍結乾燥させた。細胞中のPHB含量は、メタノールで乾燥させた細胞試料を用いて、先に述べたようにガスクロマトグラフ(GC)により定量した。簡単に説明すると、約50 mgの乾燥細胞を、15:85% (v/v) 硫酸/メタノール 2 mLおよびクロロホルム 2 mL中、100 ℃で140分間メタノール化した。冷却後、純水 1 mL を加え、2 層に分離するまで放置した。クロロホルム層の一部を炎イオン化検出器(FID)付きGC(GC-2030、島津製作所)に供し、P(3HB)由来のメチルエステル化3HBを検出した。
【0031】
(5)MVの分離と定量化
MVの単離と定量は、65 mLの培養上清(BW/PHB(+)、BW/PHB(-)、BW)を0.45μm孔径のセルロースアセテートフィルター(Merck Millipore)でろ過し、15万×g、4℃で1時間超遠心をした。このペレットを二重蒸留水に再懸濁し、MVの定量を行った。さらに精製するために、MVペレットをHEPES-NaClバッファーの45%ヨードキサノール(Optiprep,AXIS-SHIELD)に再懸濁し、45-10%のヨードキサノールグラジエントで密度勾配超遠心に付した。MVの定量化のため、単離したMVを200μLのPBSに溶解し、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)中の1.25μg/mL FM1-43 FX(Molecular Probes,Invitrogen)とインキュベートした。その後、マイクロプレートリーダーSynergy H1(BioTek Instruments社製)を用いて、励起波長472nm、発光波長580nmでMVを測定した。FM1-43 FXによる染色を行わないMVサンプル、またはFM1-43 FX単独をネガティブコントロールとした。
【0032】
MVの粒子径は、NanoSight NTA 3.2 (Malvern Instruments) を用いて測定した。単離したMVを用いてNanoSight粒子追跡解析を行った。ナノサイト粒子解析は、ゲインを10、検出閾値を2、カメラレベルを13に設定し、3回に分けて60秒リードで実施した。各サンプルから対応するブランクサンプルのバックグラウンドが差し引かれ、3つのリードの平均が計算され、粒子径とmLあたりの粒子数でプロットされた。
【0033】
TEM 観察では、単離した MV を 2%酢酸ウラニルで染色し、120 kV の透過型電子顕微鏡(JEM-2010、日本電子)で検査した。分離した MV に関与するタンパク質は、12.0%ポリアクリルアミドゲルを用いたドデシル硫酸ナトリウム-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)により分析し、クーマシーブリリアントブルー(EzStain AQua,ATTA)で染色した。
【0034】
2.結果
(1)大腸菌の乾燥細胞重量、PHB含量、相対的なMV生産量
表2に、各大腸菌の乾燥細胞重量、PHB含量を測定した結果を示す。また、図2(A)は遠心管内の粒子含有帯域の量の比較(BW/PHB(+)、BW/PHB(-)、BW)、図2(B)はBW/PHB(+)の試料からのMVの抽出をFM1-43 FXの蛍光強度に基づいてモニターした結果を示す図である。
【0035】
PHB 合成経路を有する組換え株 BW/PHB (+) (pGEM-phaCReAB を保有する BW25113) を培養すると、坂口フラスコ内に多数の気泡が観察された。表2に示すように、2%グルコースを含む LB 培地において、PHB の細胞内含量は 60 ± 4 wt% であった。
【0036】
一方、不活性化PHB合成酵素遺伝子 [phaCRe(C319A)]6 を保有するBW/PHB (-) とプラスミドを保有しない親株大腸菌BW25113 (BW) ではこの現象が見られないことを確認した。したがって、この現象はPHB生産株に特異的であることがわかった。このため、いくつかの解析により、さらに泡の存在を確認した。その結果、透過型電子顕微鏡観察のために固定液(四酸化オスミウム)にさらすと、泡の中には少なくとも黒く変化した脂質が含まれていることが示唆された。
【0037】
【表2】
【0038】
また、図2に示すように、BW/PHB(+)の試料からのMVの抽出をFM1-43 FXの蛍光強度に基づいてモニターしたところ、大腸菌にPHB(polyhydroxybutyrate)生産遺伝子群を発現させ、PHBを高発現させると、大腸菌表面にMVが大量に生成されることが明らかとなった。
【0039】
(2)PHB蓄積量とMV生成量の関係
次に、グルコース添加濃度に伴う PHB 生産および MV 分泌の亢進が、細胞自体にどのような影響を及ぼすかについて検討した。図3(A)は、グルコース濃度依存的にMVが良好に生成されることを示している。これは、グルコース濃度を調節することで、MV生成量を微調整できることを意味している。また、放出されたMVの量は、図3(B)に示すように、PHB生産量と良好に比例していた。驚くべきことに、図3(C)に示すように、PHB生産量とMV生産量の間には、R2=0.99625という極めて高い相関関係を得ることができた。したがって、グルコース濃度を調節することで、MVの分泌量を細かく調節・制御できることが明らかとなった。
【0040】
(3)電子顕微鏡による観察
図4は、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した顕微鏡写真である。走査型電子顕微鏡(SEM)により、BW/PHB(+)の単細胞表面に複数の粒子(約100nmスケール)が出芽していた。これらの形態学的観察から、このような出芽した粒子は、Hirayamaら,Microb.,Biotechnol.13,1162-1178 (2020)に基づき、メンブランベシクル(MV)であると推測した。
【0041】
(4)細胞の大きさの決定
図5(A)は、透過型電子顕微鏡(TEM)による顕微鏡写真である。また、図5(B)は、 NanoSightトラッキング解析によりMVの粒度分布を解析した結果を示す図である。
【0042】
透過型電子顕微鏡(TEM)分析によっても、回収画分にMVが存在することが明らかになった(図5A)。TEM像では、単層および多層のMVが混在していることが確認された。次に、Nanosightトラッキング分析によりMVの直径を測定し、そのサイズ分布をプロットした(図5B)。BW/PHB (+) 細胞由来の MV の平均粒子径は 93.2 ±3.1 nm であり、先行研究 で見られた親株の大腸菌 BW25113 で観察されたものと一致した。これらの結果から、BW/PHB(+)細胞は、MVを培養液中に放出したことが示唆された。最終的に、MVの生合成について結論付けた。
【0043】
(5)細胞内物質 (GFP) のMVへの内包
図6は、大腸菌にGFP遺伝子を組みこんでMV生産を行った結果を示す図である。常法に従い、大腸菌にGFP遺伝子を組みこんで先述した培養下で培養した。その結果、生成したMV中にGFPが大量に含有されていることが明らかになった。
【0044】
この結果から、MV生成方法により有用な物質を大量にMVに含有させることが可能となった。これらの技術は、DDSやワクチンにも応用展開可能と考えられる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6