(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023111749
(43)【公開日】2023-08-10
(54)【発明の名称】スピーカー用振動板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H04R 7/02 20060101AFI20230803BHJP
C08J 5/04 20060101ALI20230803BHJP
H04R 31/00 20060101ALI20230803BHJP
【FI】
H04R7/02 Z
C08J5/04 CER
C08J5/04 CEZ
H04R7/02 D
H04R7/02 G
H04R31/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022013762
(22)【出願日】2022-01-31
(71)【出願人】
【識別番号】000116404
【氏名又は名称】阿波製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003225
【氏名又は名称】弁理士法人豊栖特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 宏亮
【テーマコード(参考)】
4F072
5D016
【Fターム(参考)】
4F072AA04
4F072AA08
4F072AB02
4F072AB03
4F072AB04
4F072AB05
4F072AB06
4F072AB08
4F072AB09
4F072AB10
4F072AB11
4F072AB28
4F072AB29
4F072AD04
4F072AD08
4F072AD09
4F072AD37
4F072AD41
4F072AD42
4F072AD44
4F072AD45
4F072AD46
4F072AG03
4F072AH04
4F072AH05
4F072AH06
4F072AH49
4F072AK05
4F072AK14
4F072AL11
4F072AL16
5D016CA06
5D016EA02
5D016EA03
5D016EA05
5D016EA06
5D016EA08
5D016EA10
5D016EC03
5D016EC04
5D016EC05
5D016EC06
5D016EC08
5D016EC09
5D016JA05
5D016JA06
(57)【要約】
【課題】周波数特性で谷間の発生を抑制したスピーカー用振動板等を提供する。
【解決手段】スピーカー用振動板は、強化繊維として、第一繊維と、第二繊維と、マトリックス樹脂と、を含み、第一繊維が、炭素繊維、アラミドチョップ、ガラス繊維の少なくともいずれかであり、第二繊維が、アラミドフィブリッド、アクリルパルプ、セルロースナノファイバ、針葉樹パルプ、広葉樹パルプ、リンターパルプ、レーヨン、果実繊維、竹、麻、キチンナノファイバ、羊毛、絹の少なくともいずれかである。上記構成により、周波数特性において急峻な落ち込みの発生を抑えることができる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スピーカー用振動板であって、
強化繊維として、第一繊維と、第二繊維と、
マトリックス樹脂と、
を含み、
前記第一繊維が、炭素繊維、アラミド繊維、液晶ポリエステル繊維、超高分子量ポリエチレン繊維、PBO繊維、ガラス繊維、バサルト繊維、金属繊維の少なくともいずれかであり、
前記第二繊維が、アラミドフィブリッド、アクリルパルプ、セルロースナノファイバ、針葉樹パルプ、広葉樹パルプ、リンターパルプ、レーヨン、果実繊維、竹、麻、キチンナノファイバ、羊毛、絹の少なくともいずれかであるスピーカー用振動板。
【請求項2】
請求項1に記載のスピーカー用振動板であって、
周波数特性において、12500Hz以下の特定の周波数に対し、当該特定周波数の+250Hzの範囲、又は-250Hzの範囲のいずれかで、10dB/20μPa以上の落ち込みがない特性を示すスピーカー用振動板。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のスピーカー用振動板であって、
前記第二繊維を、5~13vol%含んでなるスピーカー用振動板。
【請求項4】
請求項3に記載のスピーカー用振動板であって、
前記強化繊維が、前記第二繊維を、体積比で20%~50%含んでなるスピーカー用振動板。
【請求項5】
請求項3又は4に記載のスピーカー用振動板であって、
前記強化繊維を、20~30vol%含んでなるスピーカー用振動板。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載のスピーカー用振動板であって、
貯蔵弾性率が、7.1GPa以上であるスピーカー用振動板。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載のスピーカー用振動板であって、
前記マトリックス樹脂が、熱可塑性樹脂であるスピーカー用振動板。
【請求項8】
請求項7に記載のスピーカー用振動板であって、
前記熱可塑性樹脂が、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニルアセテート、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ナイロン、ポリアミド、ポリオキシメチレン、ポリカーボネート、ポリブチレンテレフタレート、フェノキシ、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトン、熱可塑性ポリイミド、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリフェニレンサルファイド、ポリアミドイミドの少なくともいずれかであるスピーカー用振動板。
【請求項9】
スピーカー用振動板の製造方法であって、
強化繊維として、第一繊維と、第二繊維と、マトリックス樹脂で構成された不織布又は織布を含む基材を形成する工程と、
前記基材を加熱、加圧して成形体を作成する工程と、
を含み、
前記第一繊維が、炭素繊維、アラミド繊維、液晶ポリエステル繊維、超高分子量ポリエチレン繊維、PBO繊維、ガラス繊維、バサルト繊維、金属繊維の少なくともいずれかであり、
前記第二繊維が、アラミドフィブリッド、アクリルパルプ、セルロースナノファイバ、針葉樹パルプ、広葉樹パルプ、リンターパルプ、レーヨン、果実繊維、竹、麻、キチンナノファイバ、羊毛、絹の少なくともいずれかであるスピーカー用振動板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、スピーカー用振動板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、スピーカー用振動板材料としては、パルプなどの短繊維を抄造したもの、金属薄板を成形したもの、ポリプロピレン等の熱可塑性樹脂を射出成形したもの等が多く提案されている。
【0003】
近年、スピーカーシステムのハイパワー化のため、コイルからの発熱や大きな駆動力に耐えられる耐熱性と剛性が求められている。種々の振動板材料の中では、合成繊維や天然繊維の織布や不織布にエポキシ樹脂または不飽和ポリエステル樹脂等の熱硬化性樹脂を含浸して成形した繊維強化樹脂(FRP)が比較的優れており、FRPを用いた振動板が多用されている。FRP振動板としては、炭素繊維やガラス繊維の強化繊維織布にマトリックス樹脂としてエポキシ樹脂を含浸して熱硬化させたものが般的である(例えば特許文献1)。
【0004】
このようなFRP振動板は十分に優れた弾性率を有するが、内部損失(tanδ)が極端に少ない。その結果、Fh(高域共振周波数)で急峻なピークが発生するので、音色への色付けが大きいという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許4049179号公報
【特許文献2】特公平7-32511号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本開示の目的の一は、周波数特性で谷間の発生を抑制したスピーカー用振動板及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0007】
本発明の第1の側面に係るスピーカー用振動板によれば、スピーカー用振動板であって、強化繊維として、第一繊維と、第二繊維と、マトリックス樹脂と、を含み、前記第一繊維が、炭素繊維、アラミド繊維、液晶ポリエステル繊維、超高分子量ポリエチレン繊維、PBO繊維、ガラス繊維、バサルト繊維、金属繊維の少なくともいずれかであり、前記第二繊維が、アラミドフィブリッド、アクリルパルプ、セルロースナノファイバ、針葉樹パルプ、広葉樹パルプ、リンターパルプ、レーヨン、果実繊維、竹、麻、キチンナノファイバ、羊毛、絹の少なくともいずれかである。上記構成により、周波数特性において急峻な落ち込みの発生を抑えることができる。
【0008】
また、本発明の第2の側面に係るスピーカー用振動板によれば、上記側面において、周波数特性において、12500Hz以下の特定の周波数に対し、当該特定周波数の+250Hzの範囲、又は-250Hzの範囲のいずれかで、10dB/20μPa以上の落ち込みがない特性を示す。
【0009】
さらに、本発明の第3の側面に係るスピーカー用振動板によれば、上記側面のいずれかにおいて、前記第二繊維を、5~13vol%含んでいる。
【0010】
さらにまた、本発明の第4の側面に係るスピーカー用振動板によれば、上記側面のいずれかにおいて、前記強化繊維が、前記第二繊維を、体積比で20%~50%含んでいる。
【0011】
さらにまた、本発明の第5の側面に係るスピーカー用振動板によれば、上記側面のいずれかにおいて、前記強化繊維を、20~30vol%含んでいる。上記構成により、内部損失を変えず、周波数特性において谷間の発生を抑えたスピーカー用振動板を得ることができる。
【0012】
さらにまた、本発明の第6の側面に係るスピーカー用振動板によれば、上記側面のいずれかにおいて、貯蔵弾性率が、7.1GPa以上である。
【0013】
さらにまた、本発明の第7の側面に係るスピーカー用振動板によれば、上記側面のいずれかにおいて、前記マトリックス樹脂が、熱可塑性樹脂である。
【0014】
さらにまた、本発明の第8の側面に係るスピーカー用振動板によれば、上記側面のいずれかにおいて、前記熱可塑性樹脂が、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニルアセテート、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ナイロン、ポリアミド、ポリオキシメチレン、ポリカーボネート、ポリブチレンテレフタレート、フェノキシ、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトン、熱可塑性ポリイミド、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリフェニレンサルファイド、ポリアミドイミドの少なくともいずれかである。
【0015】
さらにまた、本発明の第9の側面に係るスピーカー用振動板の製造方法によれば、強化繊維として、第一繊維と、第二繊維と、マトリックス樹脂で構成された不織布又は織布を含む基材を形成する工程と、前記基材を加熱、加圧して成形体を作成する工程とを含み、前記第一繊維が、炭素繊維、アラミド繊維、液晶ポリエステル繊維、超高分子量ポリエチレン繊維、PBO繊維、ガラス繊維、バサルト繊維、金属繊維の少なくともいずれかであり、前記第二繊維が、アラミドフィブリッド、アクリルパルプ、セルロースナノファイバ、針葉樹パルプ、広葉樹パルプ、リンターパルプ、レーヨン、果実繊維、竹、麻、キチンナノファイバ、羊毛、絹の少なくともいずれかである。これにより、周波数特性において急峻な落ち込みの発生を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図2】特定の周波数aの±250Hzの範囲で10dB/20μPaを越える落ち込みが生じている特性を示すグラフである。
【
図3】実施例1に係るスピーカー用振動板の周波数特性を示すグラフである。
【
図4】実施例2に係るスピーカー用振動板の周波数特性を示すグラフである。
【
図5】実施例3に係るスピーカー用振動板の周波数特性を示すグラフである。
【
図6】実施例4に係るスピーカー用振動板の周波数特性を示すグラフである。
【
図7】実施例5に係るスピーカー用振動板の周波数特性を示すグラフである。
【
図8】比較例1に係るスピーカー用振動板の周波数特性を示すグラフである。
【
図9】比較例2に係るスピーカー用振動板の周波数特性を示すグラフである。
【
図10】比較例3に係るスピーカー用振動板の周波数特性を示すグラフである。
【
図11】実施例4と比較例2に係るスピーカー用振動板の周波数特性を重ねて表示したグラフである。
【
図12】第二繊維の配合量と比率の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。ただし、以下に示す実施の形態は、本発明の技術思想を具体化するための例示であって、本発明は以下のものに限定されない。また、本明細書は特許請求の範囲に示される部材を、実施の形態の部材に特定するものでは決してない。特に実施の形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は特定的な記載がない限りは、本発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。なお、各図面が示す部材の大きさや位置関係等は、説明を明確にするため誇張していることがある。さらに以下の説明において、同一の名称、符号については同一もしくは同質の部材を示しており、詳細説明を適宜省略する。さらに、本発明を構成する各要素は、複数の要素を同一の部材で構成して一の部材で複数の要素を兼用する態様としてもよいし、逆に一の部材の機能を複数の部材で分担して実現することもできる。
【0018】
スピーカーに用いられる振動板として、従来は紙が用いられてきた。一方でスピーカーシステムのハイパワー化のため、コイルからの発熱や大きな駆動力に耐えられる耐熱性と弾性率と軽量化(比重の小ささ)が振動板に求められている。これに応じて、炭素繊維等の強化繊維織布にマトリックス樹脂としてエポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂を含浸させて熱硬化させたFRP振動板が知られている(例えば特許文献1参照)。
【0019】
しかしながら、このようなFRP振動板は、優れた弾性率を有するものの、高域共振周波数で急峻なピークが発生するため、音への影響が大きいという問題があった。特に、周波数特性において特定の周波数域の音が十分に出力されない、いわば谷間の領域が発生する結果、広い周波数域の音を正確に表現できないという問題があった。
【0020】
ここで音の大きさの感覚(ラウドネス)の周波数特性である等ラウドネス曲線を、
図1に示す(出典:「2次元等ラウドネス曲線の全聴野精密決定」<https://www.nedo.go.jp/content/100084730.pdf>)。この図に示すように、ISO 226:2次元等ラウドネス曲線において、人間の可聴域に対応する20~12,500Hzの範囲(横軸)で音圧レベル(縦軸)が規定されている。このように、周波数の高い高音の領域においてはグラフの曲線に谷間が発生していることが確認できる。実際にFRP振動板を用いてスピーカーを作成すると、用いるFRP振動板に応じて周波数特性は変化し、このような特定周波数での落ち込みがより急峻となり、音の再現性に影響を与える。一般的にスピーカー振動板材料としては比弾性率E/ρと内部損失tanδに優れたものが要求されている。比弾性率が高いほど特性の良いピストン運動領域が得られ、内部損失が大きいほど再生周波数特性を平坦化する効果が期待できる。しかし材料側の特性では比弾性率の高い材料は内部損失が小さい、または反対の特性となり、この2つの特性がトレードオフの関係にある。従来は、スピーカー用振動板の内部損失を調整することで、このような落ち込みを低減する試みがなされてきた。しかしながら内部損失は、スピーカー用振動板を構成する素材によって固有の値となるため、調整が難しく、未だ完全な解消には至っていない。
【0021】
そこで本願発明者は、このような落ち込みを低減するべく種々検討し、FRP振動板のような繊維強化樹脂を用いたスピーカー用振動板を構成する強化繊維に、特定の繊維を添加することで、あるいは強化繊維の量を調整することで、落ち込みの抑制効果が得られることを見出し、本願発明を成すに至った。以下、説明する。
【0022】
本明細書において、周波数特性における急峻な落ち込みを定量的に表現するために、周波数特性において12500Hz以下の範囲で、
図2に示すように極小値にあたる特定の周波数a[Hz]に対し、この極小周波数a[Hz]の+250Hzの範囲、又は-250Hzの範囲のいずれかで、10dB/20μPaを越える落ち込みがない特性を、急峻な谷間のないスピーカー用振動板と規定する。
【0023】
本発明の実施形態に係るスピーカー用振動板は、強化繊維とマトリックス樹脂を含む。例えば、強化繊維を短繊維マットや織布または不織布として利用できる。
【0024】
強化繊維は、20~30vol%含むことが好ましい。これにより、内部損失を高くすることなく、谷の発生を抑えることができる。
【0025】
繊維体積含有率Vfは、ASTM D 3171に下式で規定されている。
【0026】
【0027】
上式において、Rρは樹脂の密度であり、Fρは第一繊維及び第二繊維の密度の、重量で重み付けした加重平均値であり、Wfは繊維重量含有率(すなわち、複合体重量に占める強化繊維重量の割合)である。
(貯蔵弾性率)
【0028】
またスピーカー用振動板の貯蔵弾性率が、7.1GPa以上であることが好ましい。
(強化繊維)
【0029】
強化繊維は、第一繊維と、第二繊維を含む。第二繊維は、強化繊維全体を100%とした時の体積比で20%~50%含まれることが好ましい。
【0030】
第一繊維には、炭素繊維が利用できる。例えばPAN系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、高弾性率炭素繊維等が利用できる。あるいは炭素繊維に限られず、アラミド繊維、液晶ポリエステル繊維、超高分子量ポリエチレン繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール(PBO)繊維等の有機合成繊維、さらにガラス繊維、バサルト繊維、金属繊維等も利用できる。これらの繊維はスピーカーに求められる高い弾性率を有しており、その弾性率は概ね50GPa以上である。
これらの繊維は不連続繊維でもよいし、連続繊維でもよく、必要に応じてめっきや変性等の、表面処理されたものでもよい。また、市販品、端材等からリサイクルされた繊維であってもよい。
また、炭素繊維及び有機合成繊維はバイオマス原料由来で作製されたものであってもよい。
【0031】
第二繊維には、アラミドフィブリッド、アクリルパルプ等の有機合成繊維が利用できる。アラミドフィブリッドとは、アラミドからなるフィルム状又は繊維状の微小粒子であり、アラミドパルプ、又はフィブリル化アラミド繊維と称されることもある(アラミドフィブリッドについては特公昭35-11851号、特公昭37-5752号等を参照)。さらに、キチンナノファイバ、羊毛、絹等の動物性繊維や、セルロースナノファイバ、針葉樹パルプ、広葉樹パルプ、リンターパルプ、レーヨン、果実繊維、竹、麻等の植物性繊維の少なくともいずれかを利用できる。これらの繊維は第一繊維より柔軟で、微細化(フィブリル化)した繊維を含むことが多く、見掛け上の弾性率は、概ね50GPa未満である。これらの繊維は、市販品、端材等からリサイクルされた繊維であってもよい。また、有機合成繊維はバイオマス原料由来で作製されたものであってもよい。このように、第二繊維を加えることで、周波数特性において急峻な落ち込みの発生を抑えることができる。特にアラミドパルプは、広範囲な周波数帯で、音圧レベルの急峻な落ち込みの発生を抑えることができる点で好ましい。
(マトリックス樹脂)
【0032】
マトリックス樹脂としては、熱可塑性樹脂や未硬化の熱硬化性樹脂が利用できる。特に熱可塑性樹脂が好ましい。熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニルアセテート、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ナイロン、ポリアミド、ポリオキシメチレン、ポリカーボネート、ポリブチレンテレフタレート、フェノキシ、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトン、熱可塑性ポリイミド、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリフェニレンサルファイド、ポリアミドイミド、ポリイミド等が利用できる。熱硬化性樹脂としては、エポキシ、不飽和ポリエステル、ウレア、メラミン、フェノール、ジアリルフタレート等が利用できる。マトリックス樹脂は変性処理されたものでもよいし、2種類以上を混合しても良い。リサイクルまたはバイオマス原料由来で作製されたものであってもよい。
[スピーカー用振動板の製造方法]
(基材形成工程)
【0033】
このようなスピーカー用振動板の製造方法は、以下の工程を含む。まず強化繊維として、第一繊維と、第二繊維とマトリックス樹脂で構成された不織布又は織布を含む基材を形成する。マトリックス樹脂は、樹脂繊維や粒子の形態で基材形成時に配合してもよいし、強化繊維に含浸したものを用いてもよいし、先の強化繊維の基布を形成した後で含侵してもよい。製造工程を簡略化する点では、樹脂繊維として基材形成時に配合する事が好適である。また、基材にはバインダー成分を含んでもよい。
(成形工程)
更にスピーカー用振動板を作成するために、基材を加熱、加圧して成形体を作成する。この工程で、基材に配合した樹脂が流動、固化してマトリックス樹脂となる。成形体は、熱圧工程の後に振動板形状に加工してもよいし、所望の形状の金型を用いて加圧してもよい。これにより、周波数特性において急峻な落ち込みの発生を抑えることができる。
[実施例]
【0034】
以下、実施例1~5及び比較例1~3に係るスピーカー用振動板を作成した。すべての実施例、比較例において、マトリックス樹脂にはPETを用いた。
【0035】
得られた各実施例、比較例のスピーカー用振動板に対し、周波数特性を測定した。周波数の測定は、JIS C5532:2014に従い、ポータブル音響振動マルチ分析装置を用いて行った。
【0036】
さらに、各サンプルの密度を測定した。密度の測定はJIS P8118:2014に従い行った。
【0037】
さらにまた、実施例4及び比較例1~3の貯蔵弾性率(GPa)及び内部損失(tanδ)を測定した。貯蔵弾性率の測定はJIS K7244-4:1999に従い、引張モード条件で動的粘弾性測定装置(METRAVIB社;DMA+100)を用いて行った。測定周波数は1Hz、動的ひずみの振幅は0.01%であった。
【0038】
各サンプルの周波数特性の測定結果を、
図3~
図11に示す。これらの図において、
図3は実施例1、
図4は実施例2、
図5は実施例3、
図6は実施例4、
図7は実施例5、
図8は比較例1、
図9は比較例2、
図10は比較例3に係る、各スピーカー用振動板の周波数特性のグラフを、それぞれ示している。また
図11は、比較のため実施例4と比較例2の周波数特性を重ねたグラフを示している。
図8~
図10において、破線で囲んだ領域は周波数特性の谷間を示している。
【0039】
実施例1においては、第一繊維として繊維長6mmの炭素繊維を12.5vol%、第二繊維としてアラミドパルプを12.5vol%用いた。得られたスピーカー用振動板の周波数特性の谷間は、
図3において破線の丸で囲んだ領域となり、極小周波数は10500Hzで66dBを示し、その-250Hz(
図3において左側)では76dB、+250Hz(
図3において右側)では74dBとなった。極小周波数との差はそれぞれ10dB、8dBとなり、後者が10dB/20μPa以上の落ち込みのない、換言すると急峻な谷間のない優れた特性を示した。
【0040】
同じく実施例2においては、炭素繊維を20vol%、アラミドパルプを10vol%用いた。得られたスピーカー用振動板の周波数特性の谷間は、
図4に示すように極小周波数が1800Hzで80dBを示し、その-250Hz(
図4において左側)では88dB、+250Hz(
図4において右側)では93dBとなった。極小周波数との差はそれぞれ8dB、13dBとなり、前者が10dB/20μPa以上の落ち込みのない特性を示した。
【0041】
同じく実施例3においては、炭素繊維を20vol%、アラミドパルプを5vol%用いた。得られたスピーカー用振動板の周波数特性の谷間は、
図5に示すように極小周波数が1800Hzで81dBを示し、その-250Hzでは90dB、+250Hzでは93dBとなった。極小周波数との差はそれぞれ9dB、12dBとなり、同じく前者が10dB/20μPa以上の落ち込みのないの特性を示した。
【0042】
さらに実施例4においては、炭素繊維を15vol%、アラミドパルプを5vol%用いた。得られたスピーカー用振動板の周波数特性の谷間は、
図6に示すように極小周波数が1700Hzで84dBを示し、その-250Hzでは93dB、+250Hzでは92dBとなった。極小周波数との差はそれぞれ9dB、8dBとなり、、いずれも10dB/20μPa以上の落ち込みのない、急峻な谷間のない優れた特性を示した。
【0043】
さらにまた実施例5においては、炭素繊維を15vol%、第二繊維としてアラミドパルプに代えてアクリルパルプを5vol%用いた。得られたスピーカー用振動板の周波数特性の谷間は、
図7に示すように極小周波数が1600Hzで80dBを示し、その-250Hzでは94dB、+250Hzでは84dBとなった。極小周波数との差はそれぞれ14dB、4dBとなり、後者が10dB/20μPa以上の落ち込みのない特性を示した。
【0044】
一方比較例1においては、強化繊維として炭素繊維を15vol%のみとし、第二繊維を加えなかった。得られたスピーカー用振動板の周波数特性の谷間は、
図8に示すように極小周波数が10400Hzで64dBを示し、その-250Hzでは78dB、+250Hzでは74dBとなった。極小周波数との差はそれぞれ14dB、10dBとなり、いずれも10dB/20μPa以上の落ち込みがある特性を示した。
【0045】
また比較例2においては、強化繊維として炭素繊維を20vol%のみとした。得られたスピーカー用振動板の周波数特性の谷間は、
図9に示すように極小周波数が8100Hzで65dBを示し、その-250Hzでは78dB、+250Hzでは78dBとなった。極小周波数との差はいずれも13dBとなり、10dB/20μPa以上の落ち込みがある特性を示した。
【0046】
最後に比較例3においては、第一繊維として炭素繊維を15vol%とし、第二繊維としてアラミドパルプを15vol%加えた。得られたスピーカー用振動板の周波数特性の谷間は、
図10に示すように極小周波数が1700Hzで81dBを示し、その-250Hzでは93dB、+250Hzでは95dBとなった。極小周波数との差はそれぞれ12dB、14dBとなり、いずれも10dB/20μPa以上の落ち込みがある特性を示した。
【0047】
ここで、いずれも強化繊維が20vol%である実施例4と比較例2に係るスピーカー用振動板の周波数特性を重ねて表示したグラフを
図11に示す。この図に示すように、比較例2では8100Hz付近に大きな谷間が発生しているのに対し、実施例4ではこのような谷間の発生が抑えられており、音の再現性が高めたスピーカー用振動板が得られていることが確認された。
【0048】
また各実施例及び比較例の組成と特性(密度、貯蔵弾性率、内部損失を測定した結果を、表1に示す。さらに第二繊維の配合量と、強化繊維全体における第二繊維の比率、すなわち第二繊維の配合量を強化繊維全体で除算した値との関係を
図12に示す。この図において実施例は○、比較例は×でプロットしている。
【0049】
【0050】
実施例4と比較例1とを比較すると、いずれも強化繊維を20vol%としているが、第一繊維である炭素繊維の少ない実施例4の方が、貯蔵弾性率が高くなっている。また、炭素繊維を15vol%含む比較例1に、さらに炭素繊維を5vol%加えて20vol%とした比較例2よりも、第二繊維としてアラミドパルプを5vol%加えた実施例4の方が、貯蔵弾性率が高くなっている。以上から、炭素繊維を多くせずとも、貯蔵弾性率を向上できることが確認された。
【0051】
一方で、第二繊維としてアラミドパルプを15vol%加えた比較例3では、アラミドパルプを5vol%加えた実施例4よりも貯蔵弾性率が低下している。このことから、アラミドパルプを加えすぎると、貯蔵弾性率が低下することが判明した。よって貯蔵弾性率を高める観点からは、第二繊維を、第一繊維よりも少なくすることが好ましいといえる。実施例によれば、第二繊維を、第一繊維の25%~50%として良好な貯蔵弾性率を得た。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明に係るスピーカー用振動板及びその製造方法は、車載用のスピーカーやPA用スピーカー等の屋外用途のスピーカー、あるいはイヤホン用のスピーカーなど、任意の適切なスピーカーに好適に利用できる。