(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023111788
(43)【公開日】2023-08-10
(54)【発明の名称】導電性繊維材料
(51)【国際特許分類】
D06M 11/83 20060101AFI20230803BHJP
D06M 13/08 20060101ALI20230803BHJP
D03D 15/533 20210101ALI20230803BHJP
【FI】
D06M11/83
D06M13/08
D03D15/533
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022013823
(22)【出願日】2022-01-31
(71)【出願人】
【識別番号】000107907
【氏名又は名称】セーレン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124039
【弁理士】
【氏名又は名称】立花 顕治
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 幸輔
(72)【発明者】
【氏名】坂川 幸代
【テーマコード(参考)】
4L031
4L033
4L048
【Fターム(参考)】
4L031AA18
4L031AB32
4L031BA04
4L031CB11
4L031CB12
4L031CB14
4L031DA15
4L033AA07
4L033AB05
4L033AC05
4L033BA05
4L048AA20
4L048AC13
4L048DA24
(57)【要約】
【課題】難燃性を有する導電性繊維材料を提供する。
【解決手段】本発明は、導電性繊維材料であって、第1面及び第2面を有する織物と、前記織物の糸に被覆された金属層と、前記織物の第1面側に積層され、難燃剤を含有する第1難燃層と、前記織物の第2面側に積層され、難燃剤を含有する第2難燃層と、を備え、前記織物の糸の一部が前記各難燃層から露出し、前記織物の両面において、経糸と緯糸のいずれか一方が、他方よりも浮き出ており、前記経糸及前記緯糸の少なくとも一方が撚糸ではない。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性繊維材料であって、
第1面及び第2面を有する織物と、
前記織物の糸に被覆された金属層と、
前記織物の第1面側に積層され、難燃剤を含有する第1難燃層と、
前記織物の第2面側に積層され、難燃剤を含有する第2難燃層と、
を備え、
前記織物の糸の一部が前記各難燃層から露出し、
前記織物の両面において、経糸と緯糸のいずれか一方が、他方よりも浮き出ており、
前記経糸及び前記緯糸の少なくとも一方が撚糸ではない、導電性繊維材料。
【請求項2】
前記各難燃層の付与量が、15~80g/m2である、請求項1に記載の導電性繊維材料。
【請求項3】
前記経糸及び前記緯糸の両方が撚糸ではない、請求項1または2に記載の導電性繊維材料。
【請求項4】
前記経糸及び前記緯糸のいずれか一方が、他方よりも浮き出ている高さが、20~50μmである、請求項1から3のいずれかに記載の導電性繊維材料。
【請求項5】
前記経糸及び前記緯糸のいずれか一方のうねり高さが、他方のうねり高さよりも大きい、請求項1から4のいずれかに記載の導電性繊維材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性繊維材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、合成繊維表面に金属被膜を形成した、電磁波遮蔽材やグランディング材などの導電材として用いられる導電性繊維材料が提案されている。例えば、特許文献1には、平均扁平率が1.5~5である非真円形状断面を有する熱可塑性合成繊維マルチフィラメント糸を用いた布帛に金属被膜を形成した導電性繊維材料が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記のような導電性繊維材料は、使用環境によっては熱によって燃える可能性があるため、難燃性を有することが要望されていた。本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、難燃性を有する導電性繊維材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
項1.導電性繊維材料であって、
第1面及び第2面を有する織物と、
前記織物の糸に被覆された金属層と、
前記織物の第1面側に積層され、難燃剤を含有する第1難燃層と、
前記織物の第2面側に積層され、難燃剤を含有する第2難燃層と、
を備え、
前記織物の糸の一部が前記各難燃層から露出し、
前記織物の両面において、経糸と緯糸のいずれか一方が、他方よりも浮き出ており、
前記経糸及前記緯糸の少なくとも一方が撚糸ではない、導電性繊維材料。
【0006】
項2.前記各難燃層の付与量が、15~80g/m2である、項1に記載の導電性繊維材料。
【0007】
項3.前記経糸及前記緯糸の両方が撚糸ではない、項1または2に記載の導電性繊維材料。
【0008】
項4.前記経糸及前記緯糸のいずれか一方が、他方よりも浮き出ている高さが、20~50μmである、項1から3のいずれかに記載の導電性繊維材料。
【0009】
項5.前記経糸及前記緯糸のいずれか一方のうねり高さが、他方のうねり高さよりも大きい、項1から4のいずれかに記載の導電性繊維材料。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、難燃性を有する導電性繊維材料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明に係る導電性繊維材料の一実施形態の断面図である。
【
図3】
図2とは90度異なる断面の拡大断面図である。
【
図6】
図5とは異なる実施例1の断面の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る導電性繊維材料の一実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
図1は、本実施形態に係る導電性繊維材料の断面図である。
図1に示すように、この導電性繊維材料は、第1面及び第2面を有する織物1と、この織物1の糸に被覆される金属層と、織物1の第1面側に積層される第1難燃層2と、織物1の第2面側に積層される第2難燃層3と、を備えている。なお、
図1は、織物1の一部が露出している形態を模式的に示したものであり、両難燃層2,3の形状を厳密に示したものではない。以下、これらの部材について詳細に説明する。
【0013】
<1.織物>
本発明の織物1に使用する糸は、加工性、及び、耐久性を考慮するとポリエステルフィラメントを主体とする糸であることが好ましい。全ての糸をポリエステルから構成されていてもよいが、ポリアミド、アクリル、ポリオレフィン等の合成繊維、レーヨンなどの再生繊維、アセテートなどの半合成繊維を用いてもよい。あるいは、上述した繊維のうちの複数の繊維を混繊、交絡、交撚等によって加工してもよい。用いられる糸は、特には限定されないが、例えば、総繊度が33~220dtexのマルチフィラメントを用いるのが好ましく、56~84dtexのマルチフィラメントがより好ましい。
【0014】
織物1の厚みは、特には限定されないが、例えば、40~250μmであることが好ましく、60~200μmであることがさらに好ましい。織物1の厚みが40μm未満であると、強度が十分でないおそれがある一方、厚みが250μm以上になると、厚みが大きくなり、軽量化、コンパクト化した電子機器での使用が困難になり、経済的にも好ましくない。また、織物1の厚みが大きいと、後述する剛軟度にも影響を及ぼすおそれがある。なお、布材の厚みは、厚み計(例えば、ピーコック G―6 株式会社尾崎製作所製)によって測定することができる。また、厚みは、測定を10箇所において行い、最大値と最小値を除外した残り8箇所における平均値を算出して求められる。
【0015】
一般に織物は、経糸と緯糸の一方が沈み他方が浮く構造ではなく、浮き高さは零に近い場合が多い。しかし、本発明では、
図2に示すように、浮き高さXを20μm~70μm、特に30~50μmとすることが好ましい。浮き高さが20μm未満であると、難燃剤を含む樹脂を塗工できる量が少なくなり、浮き高さが70μmより大きいと織物の製織性が悪くなるおそれがある。なお、浮き高さは測定を10箇所において行い、最大値と最小値を除外した残り8箇所における平均値を算出して求められる。
【0016】
図2に示すように、浮き高さXは、織物1を表面に対して垂直方向に切断し、断面方向から観た際の、経糸(ここでは浮糸)12と緯糸(ここでは沈糸)11の各々の表面高さの差を指す。このような、浮き高さXを持つ織物1を作製するには、製織時や精練、熱セット処理時の張力、及び経糸と緯糸の太さなどを変えて、同様に一方の糸を他方より多く収縮させることにより、或いは糸をより太くすることにより浮き高さを作ることもできる。例えば、精練加工を、織物の生地を引張ながら精練し、その後の熱セット時にもテンション(張力)を上げて加工すると浮き高さは小さくなり、この逆の方法、すなわち、経緯のどちらか一方をできるだけ引っ張らずに、精練、熱セットすると浮き高さが大きい織物を製造することができる。更に上記3つの方法(高張力、高収縮、太糸)の2つ以上を組み合わせてさらに浮き高さXを大きくすることもできる。なお、経糸12と緯糸11のいずれを浮糸または沈糸にするかは特に限定されず、いずれであってもよい。
【0017】
また、本実施形態に係る織物1では、経糸12と緯糸11のうねりの差を大きくすることもできる。
図3は、
図2とは90°交差する面の断面図である。
図2及び
図3に示すように、本実施形態においては、織物1の経糸12による厚さ(うねり高さ)Aと、緯糸11による厚さ(うねり高さ)Bが相違している。この例では、経糸12のうねり高さが、緯糸11のうねり高さよりも大きくなっている。このうねり高さの差(|A-B|)は、例えば、20~140μmであることが好ましく、50~130μmであることがより好ましく、65~120μmであることがさらに好ましい。なお、このようなうねり高さの差を設けるには、上述した浮き高さXを設けるための手法と同様の手法を用いることができる。また、測定方法についても浮き高さと同様にすることができる。
【0018】
<2.金属層>
金属層を構成する金属としては、例えば、金、銀、銅、亜鉛、ニッケル、およびそれらの合金等を挙げることができる。このうち、導電性と製造コストとを考慮すると銅、ニッケルが好ましい。これらの金属によって形成される金属層は、金属を1層または2層積層することで構成することが好ましい。金属を3層以上積層すると、金属層が厚くなり、導電性繊維材料が硬くなるおそれがある。また、加工コストが高くなるという問題もある。金属層を2層で構成する場合には、同種の金属を2層にしてもよいし、異なる金属を積層してもよい。これらは、求められるシールド性や、耐久性を考慮して適宜に設定することができる。
【0019】
金属層は、蒸着法、スパッタリング法、電気メッキ法、無電解メッキ法などで織物1の糸に被覆することができる。このうち、形成される金属層の均一性、及び生産性の観点から無電解メッキ法、或いは、無電解メッキ法と電気メッキ法との併用が好ましく用いられる。金属層の被覆量は、例えば、5~50g/m2であることが好ましく、10~40g/m2であることがさらに好ましく、15~30g/m2であることが特に好ましい。被覆量が5g/m2より少ないと表面導電性や電磁波シールド性が損なわれるおそれがある。一方、被覆量が50g/m2より多くなると風合いが硬くなり、コストが高くなるおそれがある。
【0020】
例えば、スパッタリングなどで織物1の片面ずつ金属を被覆する場合には、第1面及び第2面に被覆する金属を同じにしてもよいし、異なるものにしてもよい。
【0021】
<3.難燃層>
第1難燃層2及び第2難燃層3は、熱可塑性樹脂と難燃剤とを含有している。熱可塑性樹脂としては、例えば、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、エステル樹脂等を挙げることができる。このうち、ウレタン樹脂は、アクリル樹脂やエステル樹脂に比較して、難燃効果、摩擦強度、柔軟性の点で優れているため、好ましい。ウレタン樹脂の中でも難黄変性のエステル系ウレタンが耐久性、経済性の点で好ましい。これらのウレタン樹脂において、イソシアネートとしてはジフェニルメタンジイソシアナート(MDI)、トリレンジイソシアナート(TDI)等の芳香族イソシアネート、ポリオールとしては脂肪族カルボン酸とグリコール成分からなるポリエステル系のジオールが好ましく用いられる。
【0022】
本発明に使用できる難燃剤としては、ハロゲン系難燃剤、リン系難燃剤、及び三酸化アンチモン等が挙げられる。ハロゲン系難燃剤及びリン系難燃剤を併用すると相乗作用により優れた難燃効果を発揮し、三酸化アンチモンはこの相乗効果を増大させるため、ハロゲン系難燃剤、リン系難燃剤、及び三酸化アンチモンの3種混合物が好ましく用いられる。
【0023】
本発明で使用できるハロゲン系難燃剤は、ブロム系難燃剤及びクロル系難燃剤に大別されるが、本発明においてはブロム系難燃剤を使用することが好ましい。さらに、ブロム系難燃剤は有機ブロム化合物及び無機ブロム化合物に分類され、本発明においては有機ブロム化合物を使用することが特に好ましい。有機ブロム化合物とは1つ以上の臭素原子で置換された有機化合物をいう。但し、1つ以上の臭素原子を含むリン酸エステルは除く。有機ブロム化合物としては、ヘキサブロモベンゼン、ヘキサブロモビスフェニルエーテル、トリブロモフェノール、デカブロモジフェニルエタン、ピガロールSR103(第一工業製薬(株)製)、ピガロールSR700(第一工業製薬(株)製)等が例示される。本発明においては、ヘキサブロモベンゼン及びヘキサブロモビスフェノールが好ましい有機ブロム化合物である。
【0024】
また、近年の環境対応を考慮すると、デカブロモジフェニルエタン以外の上記の有機ブロム化合物がより好ましい。
【0025】
リン系難燃剤は、無機系リン酸塩、含窒素リン化合物、非ハロゲンリン酸エステル、含ハロゲンリン酸エステル等に分類される。無機系リン酸塩としては、ポリリン酸アンモニウム等が例示される。含窒素リン化合物としては、塩化ホスフォトニトリル誘導体やホスフォノアミド系のものが例示できる。
【0026】
非ハロゲンリン酸エステルとしては、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、オクチルジフェニルホスフェート等が例示される。また、含ハロゲンリン酸エステルは、1分子内に1以上のハロゲン原子(臭素原子を含む。)を含むリン酸エステルである。ハロゲン原子としては、臭素原子又は塩素原子が好ましい。ハロゲン原子とリン原子が互いに相乗的に働くので強力な防燃効果を発揮する。含ハロゲンリン酸エステルとしては、トリス(クロロエチル)ホスフェート、トリス(ジクロロプロピル)ホスフェート、トリス(クロロプロピル)ホスフェート、ビス(2,3-ジブロモプロピル)2,3-ジクロロプロピルホスフェート、トリス(2,3-ジブロモプロピル)ホスフェート、ビス(クロロプロピル)モノオクチルホスフェート等が例示できる。
【0027】
本発明においては、トリス(クロロエチル)ホスフェート及びビス(クロロプロピル)モノオクチルホスフェートが好ましく使用できる。また、本発明においては1つ以上の臭素原子で置換されたリン酸エステルは含ハロゲンリン酸エステルに分類されるものとする。本発明においては、リン酸エステルは、非ハロゲンリン酸エステル、或いは、含ハロゲンリン酸エステルを用いることが好ましい。
【0028】
熱可塑性樹脂に対する難燃剤の比率は重量比で、有機ブロム化合物が200~400%、好ましくは300~350%、リン酸エステルが50~150%、好ましくは80~120%、三酸化アンチモンが60~170%、好ましくは100~150%である。これ以上の比率になると樹脂被膜が脆くなり、また、少ないと十分な難燃性が得られない。難燃剤としては有機ブロム化合物、リン酸エステル、三酸化アンチモンの三種類を組み合わせることにより顕著な難燃性が得られる。この3種の難燃剤の併用により特に優れた相乗効果が得られるためである。
【0029】
各難燃層2,3には、着色、風合い調整、絶縁性などの機能性付与などを目的に、その性能を阻害しない範囲で他の添加剤を配合することができる。このような添加剤の具体例として、シリコーンゴム、オレフィン系共重合体、変性ニトリルゴム、変性ポリブタジエンゴムなどのエラストマー、ポリエチレンなどの熱可塑性樹脂、顔料などを挙げることができる。
【0030】
各難燃層2,3の付与量は15~80g/m2であることが好ましく、20~60g/m2であることがさらに好ましい。付与量が15g/m2より少ないと十分な難燃性が得られないおそれがある。一方、付与量が80g/m2より多いと表面導電性が損なわれるとともに、コストが高くなるおそれがある。
【0031】
各難燃層2,3を積層する方法は特には限定されないが、例えば、パッディング法、コーティング法、ラミネート法などを挙げることができる。このような方法によって、各難燃層2,3の粘度を適宜調整することができる。また、第1難燃層2及び第2難燃層3は同じ材料で形成されてもよいし、異なる材料で形成されてもよい。
【0032】
<4.導電性繊維材料の用途>
本実施形態に係る導電性繊維材料は、電子機器のケーブルのカバー、シールドカバー、シールドケース、シールドカーテン、シールドテープ等に使用することができる。
【0033】
<5.特徴>
本実施形態に係る導電性繊維材料は、以下の効果を得ることができる。
(1)織物1の経糸12及び緯糸11の少なくとも一方が撚られていないため、糸を構成する繊維の間にも難燃層2,3を浸透させることができる。そのため、高度な難燃性を得ることができる。
【0034】
(2)織物1の経糸12及び緯糸11の少なくとも一方が撚られていないため、織物1の柔軟性が高くなる。したがって、例えば、後述するように、ケーブルに導電性繊維材料を巻き付けやすくなり、作業性が高くなる。
【0035】
(3)織物1の一部が外部に露出するように難燃層2,3が積層されている。すなわち、織物1の表面全体を難燃層2,3で覆っていないため、柔軟性を確保することができる。その一方で、織物1の表面に難燃層2、3がしっかりと積層されるように、織物1の表面に凹凸を形成し、凹部に難燃層2,3が積層されるようにしている。凹凸は、上述した浮き高さXを形成することで得られる。これに加えて、うねり高さの差を形成することでも、凹凸を形成することができる。
【0036】
なお、導電性繊維材料の表面における織物1の経糸12及び緯糸11が露出する面積の割合は、例えば、20~60%であることが好ましい。露出面積の割合の求め方としては、例えば、写真を印刷して難燃層2,3と未塗工部に切り分けその重量比から求めても良いし、画像ソフトから読み取り、難燃層2,3が積層されていない部分の割合を求めても良い。また、導電性繊維材料の第1面側及び第2面側でそれぞれ面積の割合を求め、その平均を露出面積の割合とする。
【実施例0037】
以下、本発明の実施例について説明する。但し、本発明は以下の実施例に限定されない。
【0038】
<1.実施例及び比較例の作製>
実施例1~3,比較例に係る導電性繊維材料を以下のように作成した。
【0039】
(実施例1)
織物の経糸に84dtex/36fのポリエステル加工糸、緯糸に84dtex/36fのポリエステル加工糸を使用した。この時の加工糸は2ヒーターの撚りなしを使用し、整経前に経糸はサイジング加工を行った。その結果、経糸密度86本/25.4mm、緯糸密度82本/25.4mm、織物厚み85μmの平織物を得た。その後、精練、乾燥、熱処理した織物を得た。また、織物の浮き高さ及びうねり高さは、後述する表1に記載の通り調整した。この織物を用い、引き続き、塩化パラジウム0.3g/L、 塩化第一錫30g/L、36%塩酸300ml/Lを含む40℃の水溶液に2分間浸漬後、水洗した。
【0040】
続いて、酸濃度0.1N、30℃のホウ沸化水素酸に5分間浸漬後水洗した。次に、硫酸銅7.5g/L、37%ホルマリン30ml/L、ロッシェル塩85g/Lを含む30℃の無電解銅メッキ液に5分間浸漬後水洗した。続いて、スルファミン酸ニッケル300g/L、ホウ酸30g/L、塩化ニッケル15g/Lを含む、pH3.7、35℃の電気ニッケルメッキ液に10分間、電流密度5A/dm2で浸漬しニッケルを積層させた後水洗した。
【0041】
織物の糸には、銅が10g/m2、ニッケルが4g/m2が、この順でメッキされた。こうして、織物の糸に金属層が被覆された。得られた金属被覆織物の目付は64g/m2であった。次に、この金属被覆織物の両面に、下記処方1の混合処理液を、ナイフを用いてコーティングし130℃で2分間乾燥し、難燃層を形成した。各面の合計の付与量は固形分で50g/m2であった。
【0042】
(処方1)
クリスボン2016EL(DIC(株)製 ウレタン樹脂) 100部
ビゴールBui-854(大京化学株式会社製 臭素系化合物、三酸化アンチモン、塩素系化合物リン酸エステル) 160部
上記にN、N-ジメチルホルムアミドを添加することにより、粘度を8000mPa・sに調整した。粘度計として、東京計器製造所B型粘度計を用いた(ローター番号 4、回転数 30rpm)。この点は、後述する粘度においても同様である。
【0043】
(実施例2)
実施例2が実施例1と相違するのは、表1に示す織物の浮き高さ及びうねり高さ、難燃層の付与量と経糸に撚りがあることであり、その他は同じであるため、説明を省略する。実施例2では、難燃層の付与量を固形分で40g/m2とした。
【0044】
(実施例3)
実施例3が実施例1と相違するのは、表1に示す織物の浮き高さ及びうねり高さ、経糸に撚りがあることであり、その他は同じであるため、説明を省略する。
【0045】
(比較例)
比較例が実施例1と相違するのは、表1に示す織物の浮き高さ及びうねり高さ、難燃層の付与量と、経糸と緯糸に撚り糸を使用している事で、その他は同じであるため、説明を省略する。比較例では、難燃層の付与量は固形分で13g/m2であった。
【0046】
<2.実施例及び比較例の評価>
上記のように作製された実施例及び比較例に対し、以下の評価を行った。
(1)剛軟度
JIS-L-1096:2010(8.21.1 A法(45°カンチレバー法))に準じて測定した。ここでは、第1面側を上にした場合と、第2面側を下にした場合とを測定した。
【0047】
(2)難燃性
UL94 VTM-0法に準ずる方法で評価した。
【0048】
(3)導電性
抵抗値測定器((株)三菱化学アナリテック製 ロレスターMP)を用い、プローブ四端子四探針測定法(JIS-K-7194)により、第1面側及び第2面側の表面抵抗値を測定した(単位はΩ/□)。表面抵抗値が1Ω/□以下であれば、導電性を有すると判断した。
【0049】
(4)樹脂の裏漏れ
導電性繊維材料の一方の面に樹脂を塗工した際、導電性繊維材料の他方の面からの樹脂裏漏れの程度を目視にて判断した。
1:樹脂の裏漏れなし
2:裏漏れ若干あり
3:樹脂の裏漏れが多い
【0050】
(5)柔軟性
実施例1~3及び比較例を経方向に1m、緯方向に20cmにカットする。直径5mm長さ1.2mのケーブルを10本準備し、実施例1~3及び比較例の経方向とケーブルを平行になるように設置して、緯方向に巻き、巻き付け作業性を確認した。
1:巻き付けやすく生地の戻りが全くない
2:巻き付けやすいが、生地の戻りが少々ある
3:巻き付けにくく、生地が平坦に戻ろうとする
【0051】
(6)露出面積
導電性繊維材料の表面の面積に対し、経糸及び緯糸が難燃層から露出する面積の割合を求めた。露出面積の割合の算出方法は上述したとおりである。
【0052】
【0053】
表1によれば、実施例1~3は、経糸及び緯糸の少なくとも一方の糸が撚られていないため、難燃層を織物の繊維に浸透させることができる。そのため、難燃性を確実に確保することができる。また、実施例1~3は、織物の浮き高さ及びうねり高さの差が形成されているため、これによっても難燃層を織物の表面に保持できている。一方、比較例では、織物の糸が撚られており、織物の浮き高さ及びうねり高さの差が形成されていないため、難燃層の付与量が少なくなっている。その結果、難燃性が不合格になっている。また、撚り糸を使用していることから織物の糸間隙があるため、樹脂漏れが発生している。
【0054】
なお、樹脂の裏漏れは、主に導電性繊維材料の経糸と緯糸の密度や厚みが起因するが、上記のように糸の撚りの有無も起因する。同じ密度構成で糸の撚りがあるものは撚りのないものと比較し糸間隙ができやすく、その間隙から樹脂漏れ(裏漏れ)が発生する傾向にあることを本発明者は確認している。
【0055】
比較例の織物の糸は撚られているため、柔軟性が低い。また、実施例1は経糸も緯糸も撚りなしの糸を使用しているため、実施例2、3や比較例に比べ、柔軟性は低くなっている。
【0056】
実施例3は、実施例2と比較して浮き高さが大きいため、難燃層の付与量が同じであっても難燃層を形成する樹脂が織物の表面の凹凸の段差にひっかかりやすく、その結果、露出面積が大きくなっている。
【0057】
図4は実施例1の表面の写真である。この図によると、金属層が被覆された織物の表面が露出しているが、浮糸と沈糸との境界付近に難燃層が積層されている。
【0058】
図5は実施例1の断面の写真である。
図5によれば、織物の浮糸と沈糸との高さの差が確認できる。
【0059】
図6は
図5とは異なる実施例1の断面の写真、
図7は
図6とは90度異なる断面の写真である。
図6及び
図7によれば、経糸と緯糸のうねりの差が明確に確認することができる。
【0060】
なお、実施例2,3においても、実施例1と同様に織物の浮糸と沈糸との高さの差、うねりの差を確認できている。