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特開2023-111799熱伝達抑制シートの製造方法、熱伝達抑制シート及び組電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023111799
(43)【公開日】2023-08-10
(54)【発明の名称】熱伝達抑制シートの製造方法、熱伝達抑制シート及び組電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/658 20140101AFI20230803BHJP
   H01M 10/625 20140101ALI20230803BHJP
【FI】
H01M10/658
H01M10/625
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022038555
(22)【出願日】2022-03-11
(31)【優先権主張番号】P 2022013719
(32)【優先日】2022-01-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000158
【氏名又は名称】イビデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】熊野 圭司
(72)【発明者】
【氏名】古嶋 佑帆
(72)【発明者】
【氏名】井戸 貴彦
【テーマコード(参考)】
5H031
【Fターム(参考)】
5H031EE02
5H031EE04
5H031HH06
5H031KK02
(57)【要約】
【課題】熱伝達抑制シートの形状を保持することができる強度を有するとともに、無機粒子の保持性能が高く、これにより、優れた断熱性能を維持することができる熱伝達抑制シートの製造方法を提供する。
【解決手段】熱伝達抑制シートの製造方法は、無機粒子4と、芯鞘構造を有するバインダ繊維3と、を含む混合物を、乾式法によりシート状に加工する加工工程を有する。芯鞘構造を有するバインダ繊維3は、その長手方向に延びる芯部1と、芯部1の外周面を被覆するように形成された鞘部2と、を有する。芯部1を構成する第1の有機材料の融点は、鞘部2を構成する第2の有機材料7の融点よりも高い。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機粒子と、芯鞘構造を有するバインダ繊維と、を含む混合物を、乾式法によりシート状に加工する加工工程を有し、
前記芯鞘構造を有するバインダ繊維は、その長手方向に延びる芯部と、前記芯部の外周面を被覆するように形成された鞘部と、を有し、
前記芯部を構成する第1の有機材料の融点は、前記鞘部を構成する第2の有機材料の融点よりも高いことを特徴とする、熱伝達抑制シートの製造方法。
【請求項2】
前記第1の有機材料の融点は、前記第2の有機材料の融点よりも60℃以上高いことを特徴とする、請求項1に記載の熱伝達抑制シートの製造方法。
【請求項3】
前記加工工程は、前記混合物を加圧する工程と、前記混合物を加熱する工程と、を有することを特徴とする、請求項1又は2に記載の熱伝達抑制シートの製造方法。
【請求項4】
前記混合物を加熱する工程における加熱温度を、前記第2の有機材料の融点よりも高く、前記第1の有機材料の融点よりも低い温度とすることを特徴とする、請求項3に記載の熱伝達抑制シートの製造方法。
【請求項5】
前記無機粒子は、乾式シリカ粒子及びシリカエアロゲルから選択された少なくとも1種の粒子を含むことを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載の熱伝達抑制シートの製造方法。
【請求項6】
前記無機粒子は、さらに、チタニア、ジルコン、ジルコニア、炭化ケイ素、酸化亜鉛及びアルミナから選択された少なくとも1種の粒子を含むことを特徴とする、請求項5に記載の熱伝達抑制シートの製造方法。
【請求項7】
前記混合物は、ホットメルトパウダーを含むことを特徴とする、請求項1~6のいずれか1項に記載の熱伝達抑制シートの製造方法。
【請求項8】
無機粒子と、第1の有機材料からなる有機繊維と、前記有機繊維の外周面を被覆する溶着部と、を有し、
前記溶着部は、前記第1の有機材料の融点よりも低い融点を有する第2の有機材料と、前記無機粒子と、を含むことを特徴とする、熱伝達抑制シート。
【請求項9】
前記無機粒子は、酸化物粒子、炭化物粒子、窒化物粒子及び無機水和物粒子から選択される少なくとも1種の無機材料からなる粒子であることを特徴とする、請求項8に記載の熱伝達抑制シート。
【請求項10】
前記無機粒子は、乾式シリカ粒子及びシリカエアロゲルから選択された少なくとも1種の粒子を含むことを特徴とする、請求項9に記載の熱伝達抑制シート。
【請求項11】
前記無機粒子は、さらに、チタニア、ジルコン、ジルコニア、炭化ケイ素、酸化亜鉛及びアルミナから選択された少なくとも1種の粒子を含むことを特徴とする、請求項10に記載の熱伝達抑制シート。
【請求項12】
前記第2の有機材料の融点は、前記第1の有機材料の融点よりも60℃以上低いことを特徴とする、請求項8~11のいずれか1項に記載の熱伝達抑制シート。
【請求項13】
前記第1の有機材料は、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン及びナイロンから選択された少なくとも1種であり、
前記第2の有機材料は、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン及びナイロンから選択された少なくとも1種であることを特徴とする、請求項8~12のいずれか1項に記載の熱伝達抑制シート。
【請求項14】
複数の電池セルと、請求項8~13のいずれか1項に記載の熱伝達抑制シートを有し、前記複数の電池セルが直列又は並列に接続された、組電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝達抑制シート及びその製造方法、並びに該熱伝達抑制シートを有する組電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境保護の観点から電動モータで駆動する電気自動車又はハイブリッド車等の開発が盛んに進められている。この電気自動車又はハイブリッド車等には、駆動用電動モータの電源となるための、複数の電池セルが直列又は並列に接続された組電池が搭載されている。
【0003】
また、この電池セルには、鉛蓄電池やニッケル水素電池等に比べて、高容量かつ高出力が可能なリチウムイオン二次電池が主に用いられている。そして、電池の内部短絡や過充電等が原因で、ある電池セルが急激に昇温し、その後も発熱を継続するような熱暴走を起こした場合、熱暴走を起こした電池セルからの熱が、隣接する他の電池セルに伝播することで、他の電池セルの熱暴走を引き起こすおそれがある。
【0004】
上記のような熱暴走を起こした電池セルからの熱の伝播を抑制する方法として、電池セル間に断熱シートを介在させる方法が一般的に行われている。
例えば、特許文献1には、シリカナノ粒子で構成される第1粒子と、金属酸化物からなる第2粒子と、を含み、第1粒子の含有量を限定した組電池用の断熱シートが開示されている。また、特許文献1には、断熱シートは、繊維、バインダ及び耐熱樹脂から選択された少なくとも1種からなる結合材を含んでいてもよいことが記載されている。
【0005】
また、上記特許文献1には、第1粒子として、乾式シリカ又は湿式シリカを使用することができ、この断熱シートは、乾式成形法又は湿式抄造法により製造することができることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2021-34278号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、断熱シートを製造する場合のバインダとして、例えば、湿熱接着バインダ繊維が挙げられるが、湿熱接着バインダ繊維は、その接着性を発現させるために、製造時に湿潤状態にする必要がある。したがって、湿熱接着バインダ繊維を使用する場合には、断熱シートは湿式抄造法により製造する必要がある。
【0008】
しかし、断熱性能をより一層向上させることを目的として、熱伝導率が低い乾式シリカやシリカエアロゲルを使用する場合には、湿式抄造法により断熱シートを製造することができないという問題がある。これは、乾式シリカを含む材料を湿式抄造法によりシート状に成形すると、乾式シリカが水によって凝集し、熱伝導率が上昇するからである。また、一般的にシリカエアロゲルは、水中に分散させることが困難であるため、シリカエアロゲルを含む材料を湿式抄造法により成形すると、材料が均一に分散した断熱シートを得ることができず、品質低下の原因になる。
【0009】
一方、乾式シリカやシリカエアロゲル等の無機粒子を使用して、乾式成形法により断熱シートを製造すると、圧力や衝撃等により無機粒子の脱落(以下、粉落ちともいう。)が発生することがある。特に、近年の組電池においては、電池セルの容量がより一層向上しているため、充放電時の膨張率が上昇している。したがって、断熱シートを組電池の電池セル間に配置する場合に、断熱シート全体の強度が低いと、電池セルの充放電時等に電池セルの膨張により断熱シートが圧縮されて粉落ちが発生し、断熱性能が低下してしまう。その結果、電池セルが熱暴走して高温になった場合に、断熱シートの効果を発揮することができず、熱連鎖が発生することがある。これらのことから、形状を保持し続けることができる高い強度を有し、粉落ちを抑制することができるとともに、優れた断熱性を維持することができる断熱シート及びその製造方法の検討が要求されている。
【0010】
上記特許文献1に記載の断熱シートは、圧縮応力が増加した場合であっても、優れた断熱性を維持するものであるが、断熱性、強度及び粉落ちを抑制する性能に関して、更なる改良が要求されている。
【0011】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、熱伝達抑制シートへの圧縮応力が印加された場合でも、その形状を保持することができる強度を有するとともに、無機粒子の保持性能が高く、これにより、優れた断熱性能を維持することができる熱伝達抑制シートの製造方法、熱伝達抑制シート及びこの熱伝達抑制シートを有する組電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の上記目的は、熱伝達抑制シートの製造方法に係る下記[1]の構成により達成される。
【0013】
[1] 無機粒子と、芯鞘構造を有するバインダ繊維と、を含む混合物を、乾式法によりシート状に加工する加工工程を有し、
前記芯鞘構造を有するバインダ繊維は、その長手方向に延びる芯部と、前記芯部の外周面を被覆するように形成された鞘部と、を有し、
前記芯部を構成する第1の有機材料の融点は、前記鞘部を構成する第2の有機材料の融点よりも高いことを特徴とする、熱伝達抑制シートの製造方法。
【0014】
また、熱伝達抑制シートの製造方法に係る本発明の好ましい実施形態は、以下の[2]~[7]に関する。
【0015】
[2] 前記第1の有機材料の融点は、前記第2の有機材料の融点よりも60℃以上高いことを特徴とする、[1]に記載の熱伝達抑制シートの製造方法。
【0016】
[3] 前記加工工程は、前記混合物を加圧する工程と、前記混合物を加熱する工程と、を有することを特徴とする、[1]又は[2]に記載の熱伝達抑制シートの製造方法。
【0017】
[4] 前記混合物を加熱する工程における加熱温度を、前記第2の有機材料の融点よりも高く、前記第1の有機材料の融点よりも低い温度とすることを特徴とする、[3]に記載の熱伝達抑制シートの製造方法。
【0018】
[5] 前記無機粒子は、乾式シリカ粒子及びシリカエアロゲルから選択された少なくとも1種の粒子を含むことを特徴とする、[1]~[4]のいずれか1つに記載の熱伝達抑制シートの製造方法。
【0019】
[6] 前記無機粒子は、さらに、チタニア、ジルコン、ジルコニア、炭化ケイ素、酸化亜鉛及びアルミナから選択された少なくとも1種の粒子を含むことを特徴とする、[5]に記載の熱伝達抑制シートの製造方法。
【0020】
[7] 前記混合物は、ホットメルトパウダーを含むことを特徴とする、[1]~[6]のいずれか1つに記載の熱伝達抑制シートの製造方法。
【0021】
また、本発明の上記目的は、熱伝達抑制シートに係る下記[8]の構成により達成される。
【0022】
[8] 無機粒子と、第1の有機材料からなる有機繊維と、前記有機繊維の外周面を被覆する溶着部と、を有し、
前記溶着部は、前記第1の有機材料の融点よりも低い融点を有する第2の有機材料と、前記無機粒子と、を含むことを特徴とする、熱伝達抑制シート。
【0023】
また、熱伝達抑制シートに係る本発明の好ましい実施形態は、以下の[9]~[13]に関する。
【0024】
[9] 前記無機粒子は、酸化物粒子、炭化物粒子、窒化物粒子及び無機水和物粒子から選択される少なくとも1種の無機材料からなる粒子であることを特徴とする、[8]に記載の熱伝達抑制シート。
【0025】
[10] 前記無機粒子は、乾式シリカ粒子及びシリカエアロゲルから選択された少なくとも1種の粒子を含むことを特徴とする、[9]に記載の熱伝達抑制シート。
【0026】
[11] 前記無機粒子は、さらに、チタニア、ジルコン、ジルコニア、炭化ケイ素、酸化亜鉛及びアルミナから選択された少なくとも1種の粒子を含むことを特徴とする、[10]に記載の熱伝達抑制シート。
【0027】
[12] 前記第2の有機材料の融点は、前記第1の有機材料の融点よりも60℃以上低いことを特徴とする、[8]~[11]のいずれか1つに記載の熱伝達抑制シート。
【0028】
[13] 前記第1の有機材料は、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン及びナイロンから選択された少なくとも1種であり、
前記第2の有機材料は、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン及びナイロンから選択された少なくとも1種であることを特徴とする、[8]~[12]のいずれか1つに記載の熱伝達抑制シート。
【0029】
また、本発明の上記目的は、組電池に係る下記[14]の構成により達成される。
【0030】
[14] 複数の電池セルと、[8]~[13]のいずれか1つに記載の熱伝達抑制シートを有し、前記複数の電池セルが直列又は並列に接続された、組電池。
【発明の効果】
【0031】
本発明の熱伝達抑制シートの製造方法は、無機粒子と芯鞘構造を有するバインダ繊維とを含む混合物を乾式法によりシート状に加工する加工工程を有し、バインダ繊維の芯部を構成する有機材料の融点は、鞘部を構成する有機材料の融点よりも高い。したがって、製造時に芯部を残して骨格を形成することができるとともに、鞘部を溶融させて周囲の無機粒子を融着させることができるため、熱伝達抑制シートから無機粒子が脱落することを抑制することができ、優れた強度と熱伝達抑制効果の両立を実現する熱伝達抑制シートを得ることができる。また、本発明の熱伝達抑制シートの製造方法によれば、バインダ繊維の芯部と鞘部との融点が異なるため、鞘部を溶融させ、芯部を残すための温度制御が容易となる。
【0032】
また、本発明の熱伝達抑制シートによれば、熱伝達抑制効果に優れる無機粒子を含むため、優れた断熱性を得ることができる。また、本発明の熱伝達抑制シートによれば、有機繊維とその外周面を被覆する溶着部とを有し、この溶着部により有機繊維の見かけ上の繊維径が太くなるため、有機繊維により構成される骨格の強度を向上させることができる。したがって、優れた強度を得ることができ、これにより、粉落ちを防止することができるとともに、優れた断熱性能を維持することができる。
【0033】
本発明の組電池によれば、上記のように高い強度と優れた断熱性能を有する熱伝達抑制シートを有するため、組電池における電池セルの熱暴走や、電池ケースの外側への炎の拡大を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1図1は、本発明の第1実施形態に係る熱伝達抑制シートの製造方法の一部であって、原料混合後の状態を示す模式図である。
図2図2は、本発明の第1実施形態に係る製造方法により製造された熱伝達抑制シートの構造を示す模式図である。
図3図3は、本発明の第1実施形態に係る製造方法により製造された熱伝達抑制シートの構造を示す模式的断面図である。
図4図4は、本発明の第1実施形態に係る熱伝達抑制シートを拡大して示す図面代用写真である。
図5図5は、本発明の第2実施形態に係る熱伝達抑制シートの製造方法により製造された熱伝達抑制シートの構造を示す模式図である。
図6図6は、本発明の第2実施形態に係る熱伝達抑制シートを拡大して示す図面代用写真である。
図7図7は、湿式シリカ及び乾式シリカの粒子の状態を示す図面代用写真である。
図8図8は、湿式シリカ及び乾式シリカの各温度における熱伝導率の変化を示すグラフ図である。
図9図9は、本発明の実施形態に係る組電池を示す模式図である。
図10図10は、飛散率の測定方法を示す模式図である。
図11図11は、比較例No.3及び実施例No.1の各温度における熱伝導率の変化を示すグラフ図である。
図12図12は、比較例No.5及び実施例No.1の表面及び断面を示す図面代用写真である。
図13図13は、縦軸を飛散率とし、横軸を打ち付け回数とした場合の、打ち付け回数に伴う飛散率の変化を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明者らは、上記課題を解決することができる熱伝達抑制シートについて、鋭意検討を行った。
その結果、高融点の芯部と低融点の鞘部とを有する芯鞘構造のバインダ繊維を使用して、乾式法により熱伝達抑制シートを製造することにより、芯部を骨格として高い強度を得ることができるとともに、鞘部が溶融して無機粒子を保持することにより、粉落ちを抑制することができることを見出した。
【0036】
具体的には、熱伝達抑制シートの製造時において、シート材料を加熱する際に、芯部を溶融させないように加熱温度を設定すると、低融点の鞘部のみを溶融させることができる。その後、冷却により鞘部は周囲の無機粒子を含んだ状態で再度芯部に溶着する。したがって、冷却後は芯部及び無機粒子を含んだ溶着部が骨格となって、熱伝達抑制シートの強度を向上させることができる。また、鞘部が溶融して無機粒子とともに芯部に溶着されることにより、熱伝達抑制シートの表面における無機粒子はシート表面に保持されるため、粉落ちを抑制することができる。その結果、熱伝達抑制シートに圧力や衝撃が与えられた場合でも、高い断熱性能を維持することができる。
【0037】
以下、本発明の実施形態に係る熱伝達抑制シートの製造方法、熱伝達抑制シート及び組電池について、詳細に説明する。なお、本発明は、以下で説明する実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変更して実施することができる。
【0038】
[1.熱伝達抑制シートの製造方法]
<第1実施形態>
図1は、本発明の第1実施形態に係る熱伝達抑制シート製造方法の一部であって、原料混合後の状態を示す模式図である。図2は、本発明の第1実施形態に係る製造方法により製造された熱伝達抑制シートの構造を示す模式図であり、図3は、その断面図である。また、図4は、本発明の第1実施形態に係る熱伝達抑制シートを拡大して示す図面代用写真である。
【0039】
(加工工程)
図1に示すように、まず、芯鞘構造を有するバインダ繊維3と、無機粒子4とを所定の割合でV型混合機などの混合機に投入し、混合物9を作製する。本実施形態においては、乾式法により熱伝達抑制シートを製造するため、混合物9には、湿式法により成形する際に必要な水等の溶媒を添加しない。ただし、熱伝達抑制シートの製造時に、無機粒子等の粉体が舞って、原料の取り扱いが困難になることを防止するため、本実施形態においては、乾式法とされる範囲内で少量の水などの溶媒を添加してもよい。例えば、混合物9に水などの少量の溶媒を添加することにより、製造時における無機粒子の飛散をより一層抑制することができる。
なお、バインダ繊維3は、繊維の長手方向に延びる芯部1と、芯部1の外周面を被覆するように形成された鞘部2とを有し、芯部1は第1の有機材料により構成され、鞘部2は、第2の有機材料により構成されている。また、第1の有機材料の融点は、第2の有機材料の融点よりも高いものとする。
【0040】
その後、得られた混合物9を所定の型内に投入し、プレス機等により加圧して、得られた成形体(図示せず)を加熱する。このとき、加熱により、バインダ繊維3の鞘部2が溶融し、芯部1の周囲に存在する無機粒子を含む不図示の溶融部が形成される。その後、図2及び図3に示すように、加熱された混合物を冷却することにより、溶融していた鞘部2が再び芯部1に溶着し、鞘部2を構成する第2の有機材料7及び無機粒子4を含む溶着部5と、芯部1とを含む繊維部6が形成される。また、複数の繊維部6の間には、無機粒子4を含む母材部8が形成される。これにより、シート状に加工された熱伝達抑制シート10を得ることができる。
【0041】
本実施形態に係る製造方法によると、芯部1を構成する第1の有機材料の融点が、鞘部2を構成する第2の有機材料の融点よりも高いため、混合物9を加熱する際に、芯部1を残して鞘部2を溶融させることができる。したがって、芯部1により、熱伝達抑制シート10の強度を確保することができる。また、冷却後に、芯部1の外周面は、無機粒子4を含んだ第2の有機材料7により被覆され、溶着部5が形成されるため、無機粒子4を保持することができる。また、得られた繊維部6は、芯部1と溶着部5により、太い繊維径を有するものとなるため、芯部1のみの強度よりも高強度となる。さらに、混合物9中には、バインダ繊維3が不規則な方向で存在しており、一部でバインダ繊維3同士が接触していることがある。そうすると、図4の接触部11に示すように、溶融した鞘部2が冷却される際に、隣接している芯部1同士が溶着部5により互いに融着され、立体的な骨格が形成される。その結果、熱伝達抑制シート全体の形状をより一層高強度に保持することができる。
【0042】
なお、詳細は後述するが、熱伝達抑制シートの原料として、混合物9中に、ホットメルトパウダー等の接着剤を含有させてもよい。混合物9中に含有させる接着剤の種類及び含有量を適切に調整することにより、無機粒子4の保持力を向上させ、粉落ちをより一層抑制することができる。
【0043】
なお、バインダ繊維として、芯鞘構造を有さない有機繊維を使用した場合であっても、温度設定によっては、バインダ繊維の芯部を残して表面のみを溶融させ、表面に無機粒子を被着させることは可能である。しかし、熱伝達抑制シートの製造時には、厚さ方向に直交する片面側又は両面側から加熱することが一般的であり、断熱性能が高い材料を使用するため、シートの表面側と厚さ方向の中心側とにおいて、同程度の温度に上昇させることは困難である。すなわち、シートの表面側において、有機繊維の表面のみを溶融させる温度に設定した場合に、シートの中心側では、有機繊維の表面が溶融せず、無機粒子4の保持力が低下する。また、シートの中心側において、有機繊維の表面を溶融させる温度に設定した場合に、シートの表面側では、有機繊維の径方向中心部まで溶融し、シートの強度を確保することが困難となる。
【0044】
これに対して、本実施形態においては、芯部1を構成する第1の有機材料の融点が、鞘部2を構成する第2の有機材料の融点よりも高いため、極めて容易に芯部1を残し、鞘部2を溶融させるための温度を設定することができる。そして、得られた熱伝達抑制シートは、表面側及び中心側のいずれにおいても、芯部1がシートの強度を保持する骨格となり、芯部1の表面に無機粒子4を含む溶着部5が形成された理想的な構造を有するものとなる。
その結果、本実施形態に係る製造方法により製造された熱伝達抑制シート10は、強固な骨格を有するものとなり、熱伝達抑制シートに対して押圧力又は衝撃が与えられた場合でも、その形状を維持することができ、粉落ちを抑制することができるとともに、優れた断熱性能を維持することができる。
【0045】
なお、粉落ちをより一層抑制するために、熱伝達抑制シート10の表面をフィルム等で被覆してもよい。高分子フィルムとしては、ポリイミド、ポリカーボネート、PET、p-フェニレンスルフィド、ポリエーテルイミド、架橋ポリエチレン、難燃クロロプレンゴム、ポリビニルデンフロライド、硬質塩化ビニル、ポリブチレンテレフタレート、PTFE、PFA、FEP、ETFE、硬質PCV、難燃性PET、ポリスチレン、ポリエーテルサルホン、ポリアミドイミド、ポリアクリロニトリル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド等からなるフィルムが挙げられる。なお、熱伝達抑制シート10の表面をフィルムで被覆する方法については特に限定されず、接着剤等により貼付する方法や、熱伝達抑制シート10をフィルムで包む方法、袋状のフィルムに熱伝達抑制シート10を収容する方法等が挙げられる。
【0046】
<第2実施形態>
図5は、本発明の第2実施形態に係る熱伝達抑制シートの製造方法により製造された熱伝達抑制シートの構造を示す模式図である。また、図6は、本発明の第2実施形態に係る熱伝達抑制シートを拡大して示す図面代用写真である。なお、第2実施形態は、材料のみが第1実施形態と異なり、製造工程は第1実施形態とに係る熱伝達抑制シートの製造方法と同様であるため、図5及び図6において、図1~4に示すものと同一物には同一符号を付して、その説明を省略又は簡略化する。
【0047】
(加工工程)
図1に示すように、まず、芯鞘構造を有するバインダ繊維3と、無機粒子4と、不図示のホットメルトパウダーとを所定の割合でV型混合機などの混合機に投入し、混合物を作製する。ホットメルトパウダーは、第3の有機材料、例えばエチレン酢酸ビニル(EVA:Ethylene-vinyl acetate)がパウダー状に成形されたものである。なお、ホットメルトパウダーの融点は、芯部1を構成する第1の有機材料の融点よりも低いものとする。
【0048】
その後、得られた混合物を所定の型内に投入し、プレス機等により加圧して、得られた成形体を加熱することにより、バインダ繊維3の鞘部2が溶融するとともに、ホットメルトパウダーが溶融する。その後、加熱された混合物を冷却することにより、溶融していた鞘部2が再び芯部1に溶着し、鞘部2を構成する第2の有機材料7及び無機粒子4を含む溶着部5が形成される。溶着部5は、芯部1の表面の少なくとも一部を被覆しており、芯部1とともに繊維部6を構成している。また、溶融していたホットメルトパウダーが、周囲の無機粒子4を含んだ状態で硬化し、複数の繊維部6の間のあらゆる領域において、ホットメルトパウダーを構成する第3の有機材料と無機粒子4とを含む硬化部16が形成される。このようにして、第2実施形態に係る熱伝達抑制シート13を得ることができる。
【0049】
なお、上述のように、熱伝達抑制シートの材料として、ホットメルトパウダーを追加すると、加熱により溶融したホットメルトパウダーが成形体の表面に偏析しやすくなる。したがって、熱伝達抑制シート13の表面において薄肉の硬化層17が形成される。なお、硬化部16は、複数の領域に分散した薄肉の硬化層17を含み、複数の硬化層17の間には、クラック12が形成されることがある。
【0050】
第2実施形態に係る製造方法によると、芯部1を構成する第1の有機材料の融点が、鞘部2を構成する第2の有機材料の融点及びホットメルトパウダーを構成する第3の有機材料の融点よりも高いため、混合物9を加熱する際に、芯部1を残して鞘部2及びホットメルトパウダーを溶融させることができる。したがって、芯部1により、熱伝達抑制シート13の強度を確保することができる。
【0051】
また、冷却により、鞘部2は周囲の無機粒子4を含んだ状態で再度芯部1に溶着し、溶着部5が形成されるとともに、ホットメルトパウダーは周囲の無機粒子4を含んだ状態で硬化し、硬化部16が形成される。したがって、溶着部5によって無機粒子4を保持するのみでなく、溶着部5を除く領域においても、硬化部16により無機粒子4を保持することができる。特に、上述のとおり、加熱により溶融したホットメルトパウダーは、成形体の表面に偏析しやすくなり、熱伝達抑制シート13の表面は、薄肉の硬化層17に覆われた状態となるため、無機粒子4の脱落をより一層抑制することができる。
【0052】
さらに、本実施形態において、複数の領域に分散した薄肉の硬化層17の間にクラック12が形成されていると、複数の電池セルの間に熱伝達抑制シート13を配置した場合に充放電時の電池セルの膨張収縮に伴って、熱伝達抑制シート13が変形しやすくなる。したがって、熱伝達抑制シート13の破損を抑制することができるとともに、隣接する電池セルへの負荷も低減することができる。
【0053】
さらにまた、繊維部6により構成される骨格の間において、ホットメルトパウダー及び無機粒子4を含んだ硬化部16が骨格を支持するため、熱伝達抑制シート全体の形状をより一層高強度に保持することができ、その結果、熱伝達抑制シートに圧力や衝撃が与えられた場合でも、高い断熱性能を維持することができる。
【0054】
なお、第2実施形態においても、粉落ちをより一層抑制するために、熱伝達抑制シート13の表面をフィルム等で被覆してもよい。フィルムの種類及びフィルムで被覆する方法については、上記したとおりである。
【0055】
次に、本実施形態に係る熱伝達抑制シートの製造方法において、使用するバインダ繊維及び加熱条件について、説明する。
【0056】
<バインダ繊維>
本実施形態において使用することができるバインダ繊維3としては、芯鞘構造を有し、芯部1を構成する第1の有機材料の融点が、鞘部2を構成する第2の有機材料の融点よりも高いものであれば、特に限定されない。芯部1となる第1の有機材料としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン及びナイロンから選択された少なくとも1種を選択することができる。また、鞘部2となる第2の有機材料としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン及びナイロンから選択された少なくとも1種を選択することができる。
【0057】
芯部1を構成する第1の有機材料の融点が、鞘部2を構成する第2の有機材料の融点よりも十分に高いと、加熱する工程における加熱温度の設定裕度を広げることができ、より一層所望の構造を得るための温度設定を容易にすることができる。例えば、第1の有機材料の融点は、第2の有機材料の融点よりも60℃以上高いことが好ましく、70℃以上高いことがより好ましく、80℃以上高いことがさらに好ましい。
【0058】
なお、上記のような芯鞘構造を有するバインダ繊維は、一般的に市販されており、芯部と鞘部を構成する材質は、同一でも互いに異なっていてもよい。芯部1及び鞘部2が同一の材質であって、異なる融点を有するバインダ繊維の例としては、例えば、芯部1及び鞘部2がポリエチレンテレフタレートからなるもの、ポリプロピレンからなるもの、ナイロンからなるもの等が挙げられる。芯部1及び鞘部2が互いに異なる材質からなるバインダ繊維の例としては、芯部1がポリエチレンテレフタレートからなり、鞘部2がポリエチレンからなるもの、芯部1がポリプロピレンからなり、鞘部2がポリエチレンからなるもの等が挙げられる。
【0059】
本実施形態において、バインダ繊維の鞘部を構成する第2の有機材料の融点とは、第2の有機材料が融解変形し始める融解温度を表すが、形状変化を伴う軟化も、融解変形の1種と判断する。バインダ繊維の鞘部の融点は、例えば、以下の方法により測定することができる。
測定対象とするバインダ繊維を、より融点が高いガラス繊維と接するように配置し、室温から5℃/分の昇温速度で、例えば200℃まで加熱して、その後室温まで冷却する。このとき、バインダ繊維の表面が融解変形して、ガラス繊維と接している部分で融着しているか、又は、バインダ繊維の断面形状が変化していれば、鞘部を構成する第2の有機材料の融点が200℃以下であると判断することができる。本実施形態においては、加熱温度を種々に変化させて、上記の方法で冷却後のバインダ繊維とガラス繊維との融着状態、又はバインダ繊維の断面形状を観察することにより、鞘部を構成する第2の有機材料の融点を特定することができる。
【0060】
(バインダ繊維の含有量)
本実施形態において、混合物9中のバインダ繊維3の含有量が適切に制御されていると、得られる熱伝達抑制シート10における骨格の補強効果を十分に得ることができる。
バインダ繊維3の含有量は、混合物9の全質量に対して5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましい。また、バインダ繊維3の含有量が多くなりすぎると、無機粒子4の含有量が相対的に減少するため、所望の断熱性能を得るためには、バインダ繊維3の含有量は、混合物9の全質量に対して25質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましい。
【0061】
<無機粒子>
本実施形態において使用することができる無機粒子4の種類については、後述する。
【0062】
(無機粒子の含有量)
本実施形態において、混合物9中の無機粒子4の含有量が適切に制御されていると、得られる熱伝達抑制シート10における断熱性を十分に確保することができる。
混合物9中に含有させる全ての無機粒子4の含有量は、混合物9の全質量に対して60質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましい。また、無機粒子4の含有量が多くなりすぎると、バインダ繊維3の含有量が相対的に減少するため、骨格の補強効果を十分に得るためには、無機粒子4の含有量は、混合物9の全質量に対して95質量%以下であることが好ましく、90質量%以下であることがより好ましい。
【0063】
<ホットメルトパウダー>
本実施形態においては、上記バインダ繊維3及び無機粒子4の他に、混合物9中に不図示のホットメルトパウダーを含有させてもよい。ホットメルトパウダーは、例えば上記第1の有機材料及び第2の有機材料とは異なる第3の有機材料を含有し、加熱により溶融する性質を有する粉体である。混合物9中にホットメルトパウダーを含有させ、加熱することにより、ホットメルトパウダーは溶融し、その後冷却すると、周囲の無機粒子4を含んだ状態で硬化し、硬化部16が形成される。上述のとおり、硬化部16は、熱伝達抑制シート13の表面において、複数の領域に分散した薄肉の硬化層17を含み、熱伝達抑制シート13の表面は薄肉の硬化層により覆われるため、熱伝達抑制シート13からの無機粒子4の脱落をより一層抑制することができる。
【0064】
ホットメルトパウダーとしては、種々の融点を有するものが挙げられるが、使用するバインダ繊維3の芯部1及び鞘部2の融点を考慮して、適切な融点を有するホットメルトパウダーを選択すればよい。例えば、ホットメルトパウダーの融点が、芯部1の融点よりも低いものであると、芯部1を残して、鞘部2及びホットメルトパウダーを溶融させるための加熱温度を設定することができる。さらに、ホットメルトパウダーの融点が、鞘部2の融点以下であると、製造時の加熱温度は、芯部1の融点と鞘部2の融点との間で設定すればよいため、より一層容易に加熱温度を設定することができる。
【0065】
一方、ホットメルトパウダーの融点が、芯部1の融点と鞘部2の融点との間となるように、使用するホットメルトパウダーの種類を選択することもできる。このような融点を有するホットメルトパウダーを使用すると、鞘部2及びホットメルトパウダーがともに溶融した後、冷却されて硬化する際に、先に有機繊維(芯部1)とその周囲の溶融した鞘部2を除くあらゆる領域に存在するホットメルトパウダーが硬化する。その結果、有機繊維の位置を固定することができ、その後、溶融していた鞘部2が有機繊維に溶着することにより、立体的な骨格が形成されやすくなる。したがって、シート全体の強度をより一層向上させることができる。
【0066】
ホットメルトパウダーを構成する第3の有機材料の融点が、芯部1を構成する第1の有機材料の融点よりも十分に低いと、加熱する工程における加熱温度の設定裕度を広げることができ、より一層所望の構造を得るための温度設定を容易にすることができる。例えば、第1の有機材料の融点は、第3の有機材料の融点よりも60℃以上高いことが好ましく、70℃以上高いことがより好ましく、80℃以上高いことがさらに好ましい。
【0067】
なお、ホットメルトパウダーを構成する成分としては、ポリエチレン、ポリエステル、ポリアミド、エチレン酢酸ビニル等が挙げられる。
【0068】
(ホットメルトパウダーの含有量)
無機粒子の脱落を抑制するために、混合物9中にホットメルトパウダーを含有させる場合に、その含有量は微量でも粉落ち抑制の効果を得ることができる。したがって、ホットメルトパウダーの含有量は、混合物9全質量に対して0.5質量%以上であることが好ましく、1質量%以上であることがより好ましい。
一方、ホットメルトパウダーの含有量を増加させると、無機粒子4の含有量が相対的に減少するため、所望の断熱性能を得るためには、ホットメルトパウダーの含有量は、混合物9の全質量に対して5質量%以下であることが好ましく、4質量%以下であることがより好ましい。
【0069】
<加熱条件>
上記混合物9をシート状に加工する工程としては、混合物9を加圧する工程と、混合物9を加熱する工程とが挙げられる。加熱する工程における加熱温度は、鞘部2を構成する第2の有機材料の融点よりも高く、芯部1を構成する第1の有機材料の融点よりも低い温度とすることが好ましい。このような加熱温度に設定することにより、上述のとおり、シートの表面側及び中心側のいずれにおいても、芯部1によりシートの強度を確保することができるとともに、溶着部5により無機粒子4を保持することができる。
【0070】
なお、芯部1を構成する第1の有機材料の融点が、鞘部2を構成する第2の有機材料の融点よりも十分に高いと、加熱する工程における加熱温度の設定裕度を広げることができ、より一層所望の構造を得るための温度設定を容易にすることができる。例えば、第1の有機材料の融点は、第2の有機材料の融点よりも60℃以上高いことが好ましく、70℃以上高いことがより好ましく、80℃以上高いことがさらに好ましい。
【0071】
また、加熱する工程における加熱温度は、鞘部2を構成する第2の有機材料の融点よりも10℃以上高く設定することが好ましく、20℃以上高く設定することがより好ましい。一方、加熱温度は、芯部1を構成する第1の有機繊維の融点よりも10℃以上低く設定することが好ましく、20℃以上低く設定することがより好ましい。
【0072】
加熱時間については特に限定されないが、鞘部2を十分に溶融させることができるための加熱時間を設定することが好ましい。例えば、3分以上15分以内に設定することができる。
【0073】
上記第2実施形態で示すように、熱伝達抑制シートの材料としてホットメルトパウダーを含む場合に、加熱する工程における加熱温度は、鞘部2を構成する第2の有機材料の融点、及びホットメルトパウダーを構成する第3の有機材料の融点のいずれか高い方よりも10℃以上高く設定することが好ましく、20℃以上高く設定することがより好ましい。一方、加熱温度は、芯部1を構成する第1の有機材料の融点よりも10℃以上低く設定することが好ましく、20℃以上低く設定することがより好ましい。このような加熱温度に設定することにより、上述のとおり、繊維部6により構成される骨格及び硬化部16によりシートの強度をより一層向上させることができるとともに、溶着部5及び硬化層17により無機粒子4の脱落を防止することができる。
【0074】
[2.熱伝達抑制シート]
(第1実施形態)
上記第1実施形態に係る熱伝達抑制シートの製造方法により製造された、熱伝達抑制シートの第1実施形態について、以下に説明する。
図2図4に示すように、本実施形態に係る熱伝達抑制シートは、無機粒子4と、第1の有機材料からなる有機繊維(芯部1)と、この有機繊維の外周面を被覆する溶着部5と、を有する。上述のとおり、溶着部5は、第1の有機材料の融点よりも低い融点を有する第2の有機材料7と、無機粒子4と、を含んでいる。
【0075】
このように構成された本実施形態に係る熱伝達抑制シート10においては、上記[1.熱伝達抑制シートの製造方法]で説明したとおり、有機繊維(芯部1)及び溶着部5が骨格として作用するため、優れた強度及び形状保持性を得ることができる。また、熱伝達抑制シート10の表面側及び中心側のいずれにおいても、有機繊維の外周面を被覆する溶着部5が、無機粒子4を有機繊維(芯部1)に固着させているため、粉落ちを抑制することができる。したがって、例えば、後述する複数の電池セルの間に、本実施形態に係る熱伝達抑制シート10が配置され、電池セルが膨張して熱伝達抑制シート10に圧縮応力や衝撃が与えられた場合でも、優れた断熱性能を維持することができる。
【0076】
本実施形態において、シート表面からの無機粒子4の脱落(粉落ち)を抑制することができるメカニズムについては定かではないが、有機繊維(芯部1)及び溶着部5が立体的で強固な骨格を形成しており、熱伝達抑制シート10の形状が保持されているため、熱伝達抑制シート10の変形又は圧縮が抑制されることが理由の一つであると考えられる。また、シート表面に露出している有機繊維(芯部1)及び溶着部5からなる繊維部6が、熱伝達抑制シート10に対して与えられる衝撃を吸収することができることも、無機粒子4が保持されている理由になっていると考えられる。
【0077】
なお、図4に示すように、熱伝達抑制シート10において、溶着部5は有機繊維(芯部1)の外周面を完全に被覆している必要はなく、部分的に有機繊維(芯部1)が露出されていてもよい。本実施形態に係る熱伝達抑制シートの製造方法では、芯鞘構造のバインダ繊維3を使用しているため、製造工程において鞘部2が剥離することがあるが、部分的に有機繊維(芯部1)が露出されている場合であっても、本発明の効果を十分に得ることができる。
【0078】
(第2実施形態)
上記第2実施形態に係る熱伝達抑制シートの製造方法により製造された、熱伝達抑制シートの第2実施形態について、以下に説明する。図5及び図6に示すように、熱伝達抑制シート13は、図4に示す第1実施形態に係る熱伝達抑制シートの例と同様に、芯鞘構造のバインダ繊維の鞘部が再び芯部1に溶着している。具体的には、鞘部を構成する第2の有機材料及び無機粒子4を含む溶着部5と、芯部1と、により繊維部6が構成されている。また、隣接している芯部1同士が溶着部5により互いに融着され、接触部11が形成されている。さらに、複数の繊維部6を除く領域には、ホットメルトパウダーを構成する第3の有機材料と、無機粒子と、を含む硬化部16が形成されている。さらに、硬化部16は、熱伝達抑制シート13の表面に複数の硬化層17を有し、複数の硬化層17の間にクラック12が形成されている。
【0079】
なお、材料の混合物にホットメルトパウダーが含有されていると、ホットメルトパウダーは成形体のあらゆる領域に存在することになるため、製造工程において加熱後に冷却すると、溶着部5には、ホットメルトパウダーの成分である第3の有機材料が含まれることがある。同様に、有機繊維の近傍では、硬化部16に鞘部2の成分である第2の有機材料が含まれることがある。いずれの場合であっても本発明の効果に影響はない。
【0080】
このように構成された第2実施形態に係る熱伝達抑制シート13においては、上記第1実施形態と同様に、骨格の間においてホットメルトパウダー及び無機粒子4を含んだ硬化部16が骨格を支持するため、熱伝達抑制シート全体の形状をより一層高強度に保持することができる。また、有機繊維の外周面は、溶着部5により被覆され、溶着部5を除く領域においても、硬化部16が形成されているため、無機粒子4を保持することができる。さらに、熱伝達抑制シート13の表面において薄肉の硬化層17が形成されるため、高い粉落ち抑制効果を得ることができる。さらにまた、クラック12が形成されていると、充放電時の電池セルの膨張収縮に伴う変形に、熱伝達抑制シート13が追従しやすくなる。したがって、例えば、後述する複数の電池セルの間に、本実施形態に係る熱伝達抑制シート13が配置され、電池セルが膨張して熱伝達抑制シート13に圧縮応力や衝撃が与えられた場合でも、優れた断熱性能を維持することができる。
【0081】
以下、本実施形態に係る熱伝達抑制シートを構成する材料について、詳細に説明する。
【0082】
<有機繊維>
熱伝達抑制シート10において、第1の有機材料により構成される芯部1が、シートの強度及び形状を保持する有機繊維として作用する。有機繊維を構成する第1の有機材料は、有機繊維の外周面に存在する第2の有機材料の融点よりも高いものであれば、特に限定されない。第1の有機材料としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン及びナイロンから選択された少なくとも1種が挙げられる。
【0083】
(有機繊維の含有量)
本実施形態において、熱伝達抑制シート10における有機繊維の含有量が適切に制御されていると、骨格の補強効果を十分に得ることができる。
有機繊維の含有量は、熱伝達抑制シート10の全質量に対して2質量%以上であることが好ましく、4質量%以上であることがより好ましい。また、有機繊維の含有量が多くなりすぎると、無機粒子4の含有量が相対的に減少するため、所望の断熱性能を得るためには、有機繊維の含有量は、熱伝達抑制シート10の全質量に対して10質量%以下であることが好ましく、8質量%以下であることがより好ましい。
【0084】
(有機繊維の繊維長)
有機繊維の繊維長については特に限定されないが、成形性や加工性を確保する観点から、有機繊維の平均繊維長は10mm以下とすることが好ましい。
一方、有機繊維を骨格として機能させ、熱伝達抑制シートの圧縮強度を確保する観点から、有機繊維の平均繊維長は0.5mm以上とすることが好ましい。
【0085】
<溶着部>
溶着部5は、芯鞘構造を有するバインダ繊維3の鞘部2が加熱により一旦溶融した後、冷却されて形成されたものであり、第2の有機材料7と無機粒子4とを含む。
【0086】
(第2の有機材料)
第2の有機材料は、上記有機繊維を構成する第1の有機材料の融点よりも低いものであれば、特に限定されない。第2の有機材料としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン及びナイロンから選択された少なくとも1種が挙げられる。
なお、第2の有機材料の融点は、90℃以上であることが好ましく、100℃以上であることがより好ましい。また、第2の有機材料の融点は、150℃以下であることが好ましく、130℃以下であることがより好ましい。
【0087】
<硬化部>
熱伝達抑制シートの材料として、ホットメルトパウダーを含有させる場合に、製造される熱伝達抑制シートは硬化部16を有する。硬化部16は、ホットメルトパウダーが加熱により一旦溶融した後、冷却されることにより形成されたものであり、ホットメルトパウダーを構成する第3の有機材料と無機粒子4とを含む。
【0088】
(第3の有機材料)
上記のとおり、ホットメルトパウダーを構成する成分である第3の有機材料は、上記有機繊維を構成する第1の有機材料の融点よりも低いものであれば、特に限定されない。製造時の加熱温度の制御を容易にするためには、ホットメルトパウダー(第3の有機材料)の融点は、鞘部を構成する第2の有機材料の融点以下であることが好ましい。ただし、より立体的な骨格を形成し、熱伝達抑制シートの強度を向上させることを目的として、第3の有機材料の融点が、第1の有機材料の融点と第2の有機材料の融点との間となるようにしてもよい。
なお、ホットメルトパウダー(第3の有機材料)の融点は、80℃以上であることが好ましく、90℃以上であることがより好ましい。また、ホットメルトパウダー(第3の有機材料)の融点は、180℃以下であることが好ましく、150℃以下であることがより好ましい。また、ホットメルトパウダーを構成する第3の有機材料は、ポリエチレン、ポリエステル、ポリアミド及びエチレン酢酸ビニルから選択された少なくとも1種であることが好ましい。
【0089】
(無機粒子)
無機粒子として、単一の無機粒子を使用してもよいし、2種以上の無機粒子を組み合わせて使用してもよい。無機粒子の種類としては、熱伝達抑制効果の観点から、酸化物粒子、炭化物粒子、窒化物粒子及び無機水和物粒子から選択される少なくとも1種の無機材料からなる粒子を使用することが好ましく、酸化物粒子を使用することがより好ましい。また、形状についても特に限定されないが、ナノ粒子、中空粒子及び多孔質粒子から選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、具体的には、シリカナノ粒子、金属酸化物粒子、マイクロポーラス粒子や中空シリカ粒子等の無機バルーン、熱膨張性無機材料からなる粒子、含水多孔質体からなる粒子等を使用することもできる。
【0090】
無機粒子の平均二次粒子径が0.01μm以上であると、入手しやすく、製造コストの上昇を抑制することができる。また、200μm以下であると、所望の断熱効果を得ることができる。したがって、無機粒子の平均二次粒子径は、0.01μm以上200μm以下であることが好ましく、0.05μm以上100μm以下であることがより好ましい。
【0091】
なお、2種以上の熱伝達抑制効果が互いに異なる無機粒子を併用すると、発熱体を多段に冷却することができ、吸熱作用をより広い温度範囲で発現できる。具体的には、大径粒子と小径粒子とを混合使用することが好ましい。例えば、一方の無機粒子として、ナノ粒子を使用する場合に、他方の無機粒子として、金属酸化物からなる無機粒子を含むことが好ましい。以下、小径の無機粒子を第1の無機粒子、大径の無機粒子を第2の無機粒子として、無機粒子についてさらに詳細に説明する。
【0092】
<第1の無機粒子>
(酸化物粒子)
酸化物粒子は屈折率が高く、光を乱反射させる効果が強いため、第1の無機粒子として酸化物粒子を使用すると、特に異常発熱などの高温度領域において輻射伝熱を抑制することができる。酸化物粒子としては、シリカ、チタニア、ジルコニア、ジルコン、チタン酸バリウム、酸化亜鉛及びアルミナから選択された少なくとも1種の粒子を使用することができる。すなわち、無機粒子として使用することができる上記酸化物粒子のうち、1種のみを使用してもよいし、2種以上の酸化物粒子を使用してもよい。特に、シリカは断熱性が高い成分であり、チタニアは他の金属酸化物と比較して屈折率が高い成分であって、500℃以上の高温度領域において光を乱反射させ輻射熱を遮る効果が高いため、酸化物粒子としてシリカ及びチタニアを用いることが最も好ましい。
【0093】
(酸化物粒子の平均一次粒子径:0.001μm以上50μm以下)
酸化物粒子の粒子径は、輻射熱を反射する効果に影響を与えることがあるため、平均一次粒子径を所定の範囲に限定すると、より一層高い断熱性を得ることができる。
すなわち、酸化物粒子の平均一次粒子径が0.001μm以上であると、加熱に寄与する光の波長よりも十分に大きく、光を効率よく乱反射させるため、500℃以上の高温度領域において熱伝達抑制シート内における熱の輻射伝熱が抑制され、より一層断熱性を向上させることができる。
一方、酸化物粒子の平均一次粒子径が50μm以下であると、圧縮されても粒子間の接点や数が増えず、伝導伝熱のパスを形成しにくいため、特に伝導伝熱が支配的な通常温度域の断熱性への影響を小さくすることができる。
【0094】
なお、本発明において平均一次粒子径は、顕微鏡で粒子を観察し、標準スケールと比較し、任意の粒子10個の平均をとることにより求めることができる。
【0095】
(ナノ粒子)
本発明において、ナノ粒子とは、球形又は球形に近い平均一次粒子径が1μm未満のナノメートルオーダーの粒子を表す。ナノ粒子は低密度であるため伝導伝熱を抑制し、第1の無機粒子としてナノ粒子を使用すると、更に空隙が細かく分散するため、対流伝熱を抑制する優れた断熱性を得ることができる。このため、通常の常温域の電池使用時において、隣接するナノ粒子間の熱の伝導を抑制することができる点で、ナノ粒子を使用することが好ましい。
さらに、酸化物粒子として、平均一次粒子径が小さいナノ粒子を使用すると、電池セルの熱暴走に伴う膨張によって熱伝達抑制シートが圧縮され、内部の密度が上がった場合であっても、熱伝達抑制シートの伝導伝熱の上昇を抑制することができる。これは、ナノ粒子が静電気による反発力で粒子間に細かな空隙ができやすく、かさ密度が低いため、クッション性があるように粒子が充填されるからであると考えられる。
【0096】
なお、本発明において、第1の無機粒子としてナノ粒子を使用する場合に、上記ナノ粒子の定義に沿ったものであれば、材質について特に限定されない。例えば、シリカナノ粒子は、断熱性が高い材料であることに加えて、粒子同士の接点が小さいため、シリカナノ粒子により伝導される熱量は、粒子径が大きいシリカ粒子を使用した場合と比較して小さくなる。また、一般的に入手されるシリカナノ粒子は、かさ密度が0.1(g/cm)程度であるため、例えば、断熱シートの両側に配置された電池セルが熱膨張し、断熱シートに対して大きな圧縮応力が加わった場合であっても、シリカナノ粒子同士の接点の大きさ(面積)や数が著しく大きくなることはなく、断熱性を維持することができる。したがって、ナノ粒子としてはシリカナノ粒子を使用することが好ましい。シリカナノ粒子としては、湿式シリカ、乾式シリカ及びエアロゲル等が挙げられるが、本実施形態に特に好適であるシリカナノ粒子について、以下に説明する。
【0097】
図7は、湿式シリカ及び乾式シリカの粒子の状態を示す図面代用写真である。また、図8は、湿式シリカ及び乾式シリカの各温度における熱伝導率の変化を示すグラフ図である。図7に示すように、湿式シリカは粒子が凝集しているのに対し、乾式シリカは粒子を分散させることができる。300℃以下の温度範囲において、熱の伝導は伝導伝熱が支配的であるため、図8に示すように、粒子を分散させることができる乾式シリカの方が、湿式シリカと比較して、優れた断熱性能を得ることができる。
なお、本実施形態に係る熱伝達抑制シートの製造方法においては、材料を含む混合物を、乾式法によりシート状に加工する。したがって、無機粒子としては、熱伝導率が低い乾式シリカ、シリカエアロゲル等を使用することが好ましい。
【0098】
(ナノ粒子の平均一次粒子径:1nm以上100nm以下)
ナノ粒子の平均一次粒子径を所定の範囲に限定すると、より一層高い断熱性を得ることができる。
すなわち、ナノ粒子の平均一次粒子径を1nm以上100nm以下とすると、特に500℃未満の温度領域において、熱伝達抑制シート内における熱の対流伝熱及び伝導伝熱を抑制することができ、断熱性をより一層向上させることができる。また、圧縮応力が印加された場合であっても、ナノ粒子間に残った空隙と、多くの粒子間の接点が伝導伝熱を抑制し、熱伝達抑制シートの断熱性を維持することができる。
なお、ナノ粒子の平均一次粒子径は、2nm以上であることがより好ましく、3nm以上であることが更に好ましい。一方、ナノ粒子の平均一次粒子径は、50nm以下であることがより好ましく、10nm以下であることが更に好ましい。
【0099】
(無機水和物粒子)
無機水和物粒子は、発熱体からの熱を受けて熱分解開始温度以上になると熱分解し、自身が持つ結晶水を放出して発熱体及びその周囲の温度を下げる、所謂「吸熱作用」を発現する。また、結晶水を放出した後は多孔質体となり、無数の空気孔により断熱作用を発現する。
無機水和物の具体例として、水酸化アルミニウム(Al(OH))、水酸化マグネシウム(Mg(OH))、水酸化カルシウム(Ca(OH))、水酸化亜鉛(Zn(OH))、水酸化鉄(Fe(OH))、水酸化マンガン(Mn(OH))、水酸化ジルコニウム(Zr(OH))、水酸化ガリウム(Ga(OH))等が挙げられる。
【0100】
例えば、水酸化アルミニウムは約35%の結晶水を有しており、下記式に示すように、熱分解して結晶水を放出して吸熱作用を発現する。そして、結晶水を放出した後は多孔質体であるアルミナ(Al)となり、断熱材として機能する。
2Al(OH)→Al+3H
【0101】
なお、後述するように、本実施形態に係る熱伝達抑制シート10は、例えば、電池セル間に介在されることが好適であるが、熱暴走を起こした電池セルでは、200℃を超える温度に急上昇し、700℃付近まで温度上昇を続ける。したがって、無機粒子としては熱分解開始温度が200℃以上である無機水和物からなることが好ましい。
上記に挙げた無機水和物の熱分解開始温度は、水酸化アルミニウムは約200℃、水酸化マグネシウムは約330℃、水酸化カルシウムは約580℃、水酸化亜鉛は約200℃、水酸化鉄は約350℃、水酸化マンガンは約300℃、水酸化ジルコニウムは約300℃、水酸化ガリウムは約300℃であり、いずれも熱暴走を起こした電池セルの急激な昇温の温度範囲とほぼ重なり、温度上昇を効率よく抑えることができることから、好ましい無機水和物であるといえる。
【0102】
(無機水和物粒子の平均二次粒子径:0.01μm以上200μm以下)
また、第1の無機粒子として、無機水和物粒子を使用した場合に、その平均粒子径が大きすぎると、熱伝達抑制シート10の中心付近にある第1の無機粒子(無機水和物)が、その熱分解温度に達するまでにある程度の時間を要するため、シート中心付近の第1の無機粒子が熱分解しきれない場合がある。このため、無機水和物粒子の平均二次粒子径は、0.01μm以上200μm以下であることが好ましく、0.05μm以上100μm以下であることがより好ましい。
【0103】
(熱膨張性無機材料からなる粒子)
熱膨張性無機材料としては、バーミキュライト、ベントナイト、雲母、パーライト等を挙げることができる。
【0104】
(含水多孔質体からなる粒子)
含水多孔質体の具体例としては、ゼオライト、カオリナイト、モンモリロナイト、酸性白土、珪藻土、湿式シリカ、乾式シリカ、エアロゲル、マイカ、バーミキュライト等が挙げられる。
【0105】
(無機バルーン)
本発明に用いる断熱材は、第1の無機粒子として無機バルーンを含んでいてもよい。
無機バルーンが含まれると、500℃未満の温度領域において、断熱材内における熱の対流伝熱または伝導伝熱を抑制することができ、断熱材の断熱性をより一層向上させることができる。
無機バルーンとしては、シラスバルーン、シリカバルーン、フライアッシュバルーン、バーライトバルーン、およびガラスバルーンから選択された少なくとも1種を用いることができる。
【0106】
(無機バルーンの含有量:断熱材全質量に対して60質量%以下)
無機バルーンの含有量としては、断熱材全質量に対し、60質量%以下が好ましい。
【0107】
(無機バルーンの平均粒子径:1μm以上100μm以下)
無機バルーンの平均粒子径としては、1μm以上100μm以下が好ましい。
【0108】
<第2の無機粒子>
熱伝達抑制シートに2種の無機粒子が含有されている場合に、第2の無機粒子は、第1の無機粒子と材質や粒子径等が異なっていれば特に限定されない。第2の無機粒子としては、酸化物粒子、炭化物粒子、窒化物粒子、無機水和物粒子、シリカナノ粒子、金属酸化物粒子、マイクロポーラス粒子や中空シリカ粒子等の無機バルーン、熱膨張性無機材料からなる粒子、含水多孔質体からなる粒子等を使用することができ、これらの詳細については、上述のとおりである。
【0109】
なお、ナノ粒子は伝導伝熱が極めて小さいとともに、熱伝達抑制シートに圧縮応力が加わった場合であっても、優れた断熱性を維持することができる。また、チタニア等の金属酸化物粒子は、輻射熱を遮る効果が高い。さらに、大径の無機粒子と小径の無機粒子とを使用すると、大径の無機粒子同士の隙間に小径の無機粒子が入り込むことにより、より緻密な構造となり、熱伝達抑制効果を向上させることができる。したがって、上記第1の無機粒子として、例えばナノ粒子を使用した場合に、さらに、第2の無機粒子として、第1の無機粒子よりも大径である金属酸化物からなる粒子を、熱伝達抑制シートに含有させることが好ましい。
金属酸化物としては、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化アルミニウム、チタン酸バリウム、酸化亜鉛、ジルコン、酸化ジルコニウム等を挙げることがでる。特に、酸化チタン(チタニア)は他の金属酸化物と比較して屈折率が高い成分であり、500℃以上の高温度領域において光を乱反射させ輻射熱を遮る効果が高いため、チタニアを用いることが最も好ましい。
【0110】
第1の無機粒子として、乾式シリカ粒子及びシリカエアロゲルから選択された少なくとも1種の粒子を使用し、第2の無機粒子として、チタニア、ジルコン、ジルコニア、炭化ケイ素、酸化亜鉛及びアルミナから選択された少なくとも1種の粒子を使用する場合に、300℃以下の温度範囲内において、優れた断熱性能を得るためには、第1の無機粒子は、無機粒子全質量に対して、50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましく、70質量%以上であることがさらに好ましい。また、第1の無機粒子は、無機粒子全質量に対して、95質量%以下であることが好ましく、90質量%以下であることがより好ましく、80質量%以下であることがさらに好ましい。
【0111】
一方、300℃を超える温度範囲内において、優れた断熱性能を得るためには、第2の無機粒子は、無機粒子全質量に対して、5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、20質量%以上であることがさらに好ましい。また、第2の無機粒子は、無機粒子全質量に対して、50質量%以下であることが好ましく、40質量%以下であることがより好ましく、30質量%以下であることがさらに好ましい。
【0112】
(第2の無機粒子の平均一次粒子径)
金属酸化物からなる第2の無機粒子を熱伝達抑制シートに含有させる場合に、第2の無機粒子の平均一次粒子径は、1μm以上50μm以下であると、500℃以上の高温度領域で効率よく輻射伝熱を抑制することができる。第2の無機粒子の平均一次粒子径は、5μm以上30μm以下であることが更に好ましく、10μm以下であることが最も好ましい。
【0113】
(無機粒子の含有量)
本実施形態において、熱伝達抑制シート10中の無機粒子4の含有量が適切に制御されていると、熱伝達抑制シート10の断熱性を十分に確保することができる。
無機粒子4の含有量は、熱伝達抑制シート10の全質量に対して60質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましい。また、無機粒子4の含有量が多くなりすぎると、有機繊維及び溶着部の含有量が相対的に減少するため、骨格の補強効果及び無機粒子の保持効果を十分に得るためには、無機粒子4の含有量は、熱伝達抑制シート10の全質量に対して95質量%以下であることが好ましく、90質量%以下であることがより好ましい。
【0114】
なお、熱伝達抑制シート10中の無機粒子の含有量は、例えば、熱伝達抑制シートを800℃で加熱し、有機分を分解後、残部の質量を測定することにより、算出することができる。
【0115】
また、本実施形態に係る熱伝達抑制シートには、上記有機繊維、溶着部5及び無機粒子4の他に、上記第1の有機材料とは異なる有機材料により構成された有機繊維や、無機繊維等が含まれていてもよい。また、母材部8は、上記第1の有機材料及び第2の有機材料とは異なる有機材料が存在していてもよく、無機粒子はこの有機材料に保持されていてもよい。
【0116】
<熱伝達抑制シートの厚さ>
本実施形態に係る熱伝達抑制シートの厚さは特に限定されないが、0.05mm以上10mm以下であることが好ましい。厚さが0.05mm以上であると、充分な圧縮強度を得ることができる。一方、厚さが10mm以下であると、熱伝達抑制シートの良好な断熱性を得ることができる。
【0117】
[3.組電池]
図9は、本発明の実施形態に係る組電池を示す模式図である。本実施形態に係る組電池100は、複数の電池セル20a、20b、20cと、本実施形態に係る熱伝達抑制シートと、を有し、該複数の電池セルが直列又は並列に接続されたものである。
例えば、図9に示すように、本実施形態に係る熱伝達抑制シート10は、電池セル20aと電池セル20bとの間、及び電池セル20bと電池セル20cとの間に介在されている。さらに、電池セル20a、20b、20c及び熱伝達抑制シート10は、電池ケース30に収容されている。
なお、熱伝達抑制シート10については、上述したとおりである。
【0118】
このように構成された組電池100においては、ある電池セル20aが高温になった場合でも、電池セル20bとの間には、熱伝達抑制効果を有する熱伝達抑制シート10が存在しているため、電池セル20bへの熱の伝播を抑制することができる。
また、本実施形態に係る熱伝達抑制シート10は、高い圧縮強度を有するため、電池セル20a、20b、20cの充放電時においても、これら電池セルの熱膨張を抑制することができる。したがって、電池セル間の距離を確保することができ、優れた断熱性能を維持することができ、電池セルの熱暴走を防止することができる。また、粉落ちを抑制する効果を有するため、容易に取り扱うことができる。
【0119】
なお、本実施形態の組電池100は、図9に例示した組電池に限定されず、電池セル20aと電池セル20bとの間、及び電池セル20bと電池セル20cとの間のみでなく、電池セル20a、20b、20cと電池ケース30との間に、熱伝達抑制シート10を配置することもできる。
【0120】
このように構成された組電池100においては、ある電池セルが発火した場合に、電池ケース30の外側に炎が広がることを抑制することができる。
例えば、本実施形態に係る組電池100は、電気自動車(EV:Electric Vehicle)等に使用され、搭乗者の床下に配置されることがある。この場合に、仮に電池セルが発火しても、搭乗者の安全を確保することができる。
また、熱伝達抑制シート10を、各電池セル間に介在させるだけでなく、電池セル20a、20b、20cと電池ケース30との間に配置することができるため、新たに防炎材等を作製する必要がなく、容易に低コストで安全な組電池100を構成することができる。
【0121】
本実施形態の組電池において、電池セル20a、20b、20cと電池ケース30との間に配置された熱伝達抑制シート10と、電池セルとは、接触していても、隙間を有していてもよい。ただし、熱伝達抑制シート10と電池セル20a、20b、20cとの間に隙間を有していると、複数ある電池セルのうち、いずれかの電池セルの温度が上昇し、体積が膨張した場合であっても、電池セルの変形を許容することができる。
【0122】
なお、本実施形態に係る熱伝達抑制シート10は、その製造方法によって、種々の形状に作製することができる。したがって、電池セル20a、20b、20c及び電池ケース30の形状に影響されず、どのような形状のものにも対応させることができる。具体的には、角型電池の他、円筒形電池、平板型電池等にも適用することができる。
【実施例0123】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0124】
[試験1]
種々の材料を使用して、乾式法又は湿式法によって熱伝達抑制シートの試験材を作製し、断熱性能と粉落ち抑制性能(飛散率)とを評価した。
【0125】
<試験材の作製>
(実施例No.1)
無機粒子として、乾式シリカとチタニアを準備するとともに、芯鞘構造のバインダ繊維を準備した。各成分の具体的な含有量及び名称を以下に示す。
・無機粒子:乾式シリカ(60質量%、平均一次粒子径:0.012μm)
・無機粒子:チタニア(25質量%、平均一次粒子径:8μm)
・バインダ繊維(15質量%、平均繊維長:5mm)
芯部:ポリエチレンテレフタレート(融点:240℃)
鞘部:低融点ポリエチレンテレフタレート(融点:110℃)
【0126】
上記材料を混合機に投入し、混合物を作製した。その後、得られた混合物を所定の型内に投入し、プレス機等により加圧するとともに加熱し、冷却することにより、坪量が740(g/m)、厚さが2mmである実施例No.1の試験材を得た。なお、加熱条件は、150℃で15分とした。また、得られた試験材中における有機繊維(芯部)の含有量は、試験材全質量に対して7質量%であった。
【0127】
(比較例No.1)
無機粒子として、乾式シリカとチタニアを準備するとともに、単成分のバインダ繊維を準備した。各成分の具体的な含有量及び名称を以下に示す。
・無機粒子:乾式シリカ(60質量%、平均一次粒子径:0.012μm)
・無機粒子:チタニア(25質量%、平均一次粒子径:8μm)
・バインダ繊維:低融点ポリエチレンテレフタレート(15質量%、融点:130℃、平均繊維長:5mm)
【0128】
その後、実施例No.1と同様の乾式法により、坪量が740(g/m)、厚さが2mmである比較例No.1の試験材を作製した。なお、加熱条件は、160℃で15分とした。
【0129】
(比較例No.2)
無機粒子として、湿式シリカとチタニアを準備するとともに、単成分のバインダ繊維を準備した。各成分の具体的な含有量及び名称を以下に示す。
・無機粒子:湿式シリカ(60質量%、平均一次粒子径:0.014μm)
・無機粒子:チタニア(25質量%、平均一次粒子径:8μm)
・バインダ繊維:低融点ポリエチレンテレフタレート(15質量%、融点:130℃、平均繊維長:5mm)
【0130】
その後、実施例No.1と同様の乾式法により、坪量が740(g/m)、厚さが2mmである比較例No.2の試験材を作製した。なお、加熱条件は、160℃で15分とした。
【0131】
(比較例No.3)
無機粒子として、湿式シリカとチタニアを準備するとともに、単成分のバインダ繊維を準備した。各成分の具体的な含有量及び名称を以下に示す。
・無機粒子:湿式シリカ(60質量%、平均一次粒子径:0.014μm)
・無機粒子:チタニア(25質量%、平均一次粒子径:8μm)
・バインダ繊維:低融点ポリエチレンテレフタレート(15質量%、融点:130℃、平均繊維長:5mm)
【0132】
上記材料をパルパーにより水中に分散させ、均一な抄紙スラリー(分散液)を調製した後、抄紙機を用いて脱水することにより湿潤シートを得た。その後、表面温度が140℃であるヤンキードライヤーを用いて乾燥したのち、熱風乾燥により250℃まで加熱して乾燥シートを得た。その後、乾燥シートを冷却することにより、坪量が740(g/m)、厚さが2mmである比較例No.3の試験材を作製した。
【0133】
(比較例No.4)
無機粒子として、実施例No.1と同様の乾式シリカとチタニアを準備するとともに、芯鞘構造のバインダ繊維を準備した。各成分の具体的な含有量及び名称を以下に示す。
・無機粒子:乾式シリカ(60質量%、平均一次粒子径:0.012μm)
・無機粒子:チタニア(25質量%、平均一次粒子径:8μm)
・バインダ繊維(15質量%、平均繊維長:5mm)
芯部:ポリエチレンテレフタレート(融点:240℃)
鞘部:低融点ポリエチレンテレフタレート(融点:110℃)
【0134】
その後、比較例No.3と同様の湿式法により、坪量が740(g/m)、厚さが2mmである比較例No.4の試験材を作製した。なお、加熱条件も比較例No.3と同一条件とした。
【0135】
<試験材の評価>
各試験材について、熱伝導率を測定し、断熱性能を評価するとともに、飛散率を測定し、粉落ち抑制性能を評価した。試験材の作製条件及び評価結果を下記表1に示す。
【0136】
(熱伝導率の測定)
室温(25℃)において、熱伝導率(W/m・K)を測定した。なお、熱伝導率は、ISO8894-1に準拠して、非定常熱線法にて測定した。なお、熱伝導率が0.05以下であったものを断熱性が良好であると判断した。また、熱伝導率が0.05を超えたものを断熱性が不良であると判断した。
【0137】
(飛散率の測定)
図10は、飛散率の測定方法を示す模式図である。図10に示すように、支柱24の頂点に稼働するように、アーム25を取り付け、そのアーム25の先端に試験材23が取り付けられる装置を使用した。まず、アーム25の先端に試験材23を取り付けた後、任意の角度までアーム25を引き上げ固定し、その後固定を解除し落下させることよって支柱24とアーム25を衝突させ衝撃を与えた。なお、試験材23のサイズは50mm×50mmとし、アームの長さは915mm、衝撃を与える回数を1回、支柱とアームの角度を90°とした。そして衝撃前の試験材23の質量をF0(g)、衝撃後の試験材23の質量をFw(g)として、以下の式により飛散率E(無機粒子の脱落量)(質量%)を算出した。
飛散率E=(F0-Fw)/F0
上記評価方法において、飛散率Eが0.15質量%以下であれば、粉落ち抑制性能が良好であると判断した。
【0138】
【表1】
【0139】
図11は、比較例No.3及び実施例No.1の各温度における熱伝導率の変化を示すグラフ図である。表1及び図11に示すように、実施例No.1は、乾式法により熱伝達抑制シートの試験材を作製したものであるため、比較例と比較して、優れた断熱性を得ることができた。また、無機粒子としてチタニアを使用しているため、300℃以上の温度領域においても、優れた断熱性が得られた。さらに、実施例No.1は、材料として芯鞘構造のバインダ繊維を含んでいたため、飛散率Eが0.15質量%以下となり、良好な粉落ち抑制性能を得ることができた。
【0140】
これに対して、比較例No.1~4は、材料として単成分バインダ繊維を使用しているか、又は湿式法により試験材を作製したものであるため、断熱性及び粉落ち抑制性能の少なくとも1種の評価結果が悪いものとなった。
【0141】
[試験2]
次に、本発明から外れる製造方法により製造された比較例No.5の試験材と、上記実施例No.1の試験材について、構造を確認するため、走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)により写真を撮影した。
なお、比較例No.5の試験材は、湿式シリカとガラス繊維を含み、湿式法により製造したものである。
【0142】
図12は、比較例No.5及び実施例No.1の表面及び断面を示す図面代用写真である。図12に示すように、比較例No.5は、ガラス繊維を使用しているため、繊維の表面に無機粒子が溶着しておらず、また、繊維同士の溶着もなかった。また、湿式法により試験材を作製しているため、無機粒子が凝集していた。これに対して、実施例No.1は、芯鞘構造のバインダ繊維を使用したため、芯部である有機繊維の外周面に、無機粒子を含む溶着部が形成されており、太径の繊維部が得られた。また、複数の有機繊維同士が接近している箇所において、複数の有機繊維が溶着部により固定されているため、太径の繊維部が立体的で強固な骨格を形成していることが観察できた。
【0143】
[試験3]
ホットメルトパウダーの有無による粉落ち抑制性能を比較した。
【0144】
<試験材の作製>
(実施例No.2)
無機粒子として、乾式シリカとチタニアを準備するとともに、芯鞘構造のバインダ繊維を準備した。各成分の具体的な含有量及び名称を以下に示す。
・無機粒子:乾式シリカ(60質量%、平均一次粒子径:0.012μm)
・無機粒子:チタニア(25質量%、平均一次粒子径:8μm)
・バインダ繊維:PET/低融点PET繊維(TJ04CN:帝人フロンティア株式会社製:15質量%、平均繊維長:5mm)
芯部:ポリエチレンテレフタレート(融点:240℃)
鞘部:低融点ポリエチレンテレフタレート(融点:110℃)
【0145】
その後、実施例No.1と同様の乾式法により、坪量が740(g/m)、厚さが2mmである実施例No.2の試験材を得た。なお、加熱条件は、150℃で15分とした。
【0146】
(実施例No.3)
上記実施例No.2の材料にホットメルトパウダーを添加したものを準備した。各成分の具体的な含有量及び名称を以下に示す。
・無機粒子:乾式シリカ(57.7質量%、平均一次粒子径:0.012μm)
・無機粒子:チタニア(24.7質量%、平均一次粒子径:8μm)
・ホットメルトパウダー:パウダーレジン(PR D60C-Z:東京インキ株式会社製、2.6質量%、融点:100℃)
・バインダ繊維:PET/低融点PET繊維(TJ04CN:帝人フロンティア株式会社製:15質量%、平均繊維長:5mm)
芯部:ポリエチレンテレフタレート(融点:240℃)
鞘部:低融点ポリエチレンテレフタレート(融点:110℃)
【0147】
その後、実施例No.1と同様の乾式法により、坪量が740(g/m)、厚さが2mmである実施例No.3の試験材を得た。なお、加熱条件は、150℃で15分とした。
【0148】
<試験材の評価>
各試験材について、上記試験1において実施した飛散率の測定と同様の方法により、複数回の飛散率の測定を実施し、粉落ち抑制性能を比較した。図13は、縦軸を飛散率とし、横軸を打ち付け回数とした場合の、打ち付け回数に伴う飛散率の変化を示すグラフ図である。図13に示すように、実施例No.3は、ホットメルトパウダーを含有する材料を使用して熱伝達抑制シートの試験材を作製したものであるため、ホットメルトパウダーを含まない実施例No.2と比較して、優れた粉落ち抑制性能を得ることができた。
【符号の説明】
【0149】
1 芯部
2 鞘部
3 バインダ繊維
4 無機粒子
5 溶着部
6 繊維部
7 第2の有機材料
8 母材部
9 混合物
10,13 熱伝達抑制シート
12 クラック
16 硬化部
17 硬化層
20a,20b,20c 電池セル
30 電池ケース
100 組電池
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13