(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023111833
(43)【公開日】2023-08-10
(54)【発明の名称】電気集塵機の放電線取付け構造、それを用いた電気集塵機、及び、電気集塵機の放電線の交換方法
(51)【国際特許分類】
B03C 3/41 20060101AFI20230803BHJP
【FI】
B03C3/41 H
B03C3/41 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022184536
(22)【出願日】2022-11-18
(31)【優先権主張番号】P 2022013035
(32)【優先日】2022-01-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】596032177
【氏名又は名称】住友金属鉱山エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 正裕
(72)【発明者】
【氏名】山内 邦高
(72)【発明者】
【氏名】中井川 和広
(72)【発明者】
【氏名】太島 佳比古
(72)【発明者】
【氏名】阿部 丈晴
(72)【発明者】
【氏名】丸山 修
【テーマコード(参考)】
4D054
【Fターム(参考)】
4D054AA02
4D054BA01
4D054BA11
4D054BB02
4D054BB08
4D054BB29
(57)【要約】
【課題】放電線の水平位置の安定性を維持したまま、放電線の切断のリスクを小さくすることができる、電気集塵機用の放電極とすること。
【解決手段】電気集塵機100の放電線取付け枠12への放電線11の接合部分を構成する放電線取付け構造30であって、放電線11は、放電線取付け枠12から集塵室内に垂下される放電極部113と、放電極部113の上部側の末端から延伸して放電線取付け枠12の電極部121に接合されているリード部111とからなり、リード部111は、一方の末端が電極部121に接合されている第1リード部111Aと、第1リード部の他方の末端に、着脱可能な構造の連結用金具114を介して導通可能に連結されている第2リード部111Bと、からなる、放電線取付け構造30とする。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気集塵機の放電線取付け枠への放電線の取付け構造であって、
前記放電線は、
前記放電線取付け枠から集塵室内に垂下される放電極部と、
前記放電極部の上部側の末端から延伸して前記放電線取付け枠の電極部に接合されているリード部とからなり、
前記リード部は、一方の末端が前記電極部に接合されている第1リード部と、
前記第1リード部の他方の末端に、着脱可能な構造の連結用金具を介して導通可能に連結されている第2リード部と、からなる、
放電線取付け構造。
【請求項2】
前記連結用金具が、加締め具である、
請求項1に記載の放電線取付け構造。
【請求項3】
前記連結用金具が、一対の板状の連結用金属片によって構成されていて、
前記連結用金属片はボルト孔を有し、
各々の前記連結用金属片は、前記第1リード部及び前記第2リード部とは溶接接合されていて、
前記連結用金属片同士は、両方の前記連結用金属片の前記ボルト孔を貫通するボルトによって接合されている、
請求項1に記載の放電線取付け構造。
【請求項4】
前記ボルトが樹脂ボルトである、
請求項3に記載の放電線取付け構造。
【請求項5】
前記放電線は、導線に鉛が被覆されてなる鉛通電線である、
請求項1から4の何れかに記載の放電線取付け構造。
【請求項6】
前記電極部は板状の電極であり、前記第1リード部の末端が板状の該電極に溶接接合されている、
請求項1から4の何れかに記載の放電線取付け構造。
【請求項7】
前記電極部は線状の電極であり、前記第1リード部の末端が線状の該電極に前記連結用金具を介して着脱可能に連結されている、
請求項1から4の何れかに記載の放電線取付け構造。
【請求項8】
前記放電極部は、前記リード部側の末端にリング部が形成されていて、
前記放電線取付け枠に設けられた掛止部に前記リング部が掛止される態様で、前記放電極部が前記集塵室内に垂下されている、
請求項1から4の何れかに記載の放電線取付け構造。
【請求項9】
請求項1又は2に記載の放電線取付け構造によって、前記放電線の前記放電線取付け枠への接合部分が構成されている、
電気集塵機。
【請求項10】
請求項9に記載の電気集塵機における放電線の交換方法であって、
交換対象である前記放電線の前記放電極部と前記第2リード部とからなる部分を、前記連結用金具から取り外す工程と、
前記放電極部と前記第2リード部とからなる新たな前記放電線の前記第2リード部側の末端を、前記連結用金具を介して、既設の前記第1リード部に連結させる工程と、
を行う、
放電線の交換方法。
【請求項11】
請求項3又は4に記載の放電線取付け構造によって、前記放電線の前記放電線取付け枠への接合部分が構成されている、
電気集塵機。
【請求項12】
請求項11に記載の電気集塵機における放電線の交換方法であって、
交換対象である前記放電線の前記放電極部と前記第2リード部とからなる部分を、前記連結用金具から取り外す工程と、
前記放電極部と前記第2リード部とからなる新たな前記放電線の前記第2リード部側の末端を、前記連結用金具を介して、既設の前記第1リード部に連結させる工程と、
を行い、
新たな前記放電線として、前記連結用金属片が前記第2リード部側の末端に予め溶接接合されている交換用放電線を用いる、
放電線の交換方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気集塵機の放電線取付け構造、それを用いた電気集塵機、及び、電気集塵機の放電線の交換方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、鉱工業における硫酸ミスト処理やアルミニウム精錬排ガス処理、廃棄物焼却プロセス等において発生する廃ガスから、有害なダストやミストを捕集する目的で、湿式の電気集塵機が使用されている(特許文献1~2参照)。
【0003】
そして、これらの電気集塵機においては、集塵室内に垂下されていて、放電により集塵機能を発現させる放電線が、集塵室の上方に配置されている取付け枠の電極部分に溶接等により接合されている(
図6参照)。
【0004】
ここで、電気集塵機の内部は、処理対象である排ガスによって激しい腐食環境にあり、そのような環境中に設置されている放電線は、定期的な交換が必要となっている。放電線の材質は、通常、鉛、ハステロイ、チタン、或いは、チタン合金等であるが、これらの溶接には、高度の熟練と多くの工数を必要とする。特に鉛溶接の場合、鉛工の高齢化、減少化が進んでいるため、作業員の確保が困難であり、作業費用の高騰に加えて、更には、放電線の交換作業時に長時間の操業停止が必要となるというリスクもあった。
【0005】
特許文献3には、放電線の末端に予め溶接接合されている電極板を取付け枠の電極部分に、ボルト・ナットで固定する放電線の取付け方法も提案されている。しかしながら、多数の放電線の接合部分において、十分な耐腐食性を有する金属材料からなるボルト・ナット等を接合部材として用いると、部材費が嵩んでコスト負担が過大となりやすいという問題があった。一方で、これらの接合部材としてPVC・FRP等の非金属を用いた場合には、接合部材の強度不足による接合部分の破損のリスクが回避し得ないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007-196159号公報
【特許文献2】特開2012-148214号公報
【特許文献3】特開2017-217588号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、電気集塵機の集塵室の上方に配置されている取付け枠の電極部分への放電線の取付け部分において、接合部材の増加等によるコスト上昇を抑えながら放電線の電極部分への十分な接合強度を維持し、尚且つ、放電線の交換作業時には、交換作業を容易に行うことができるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、電気集塵機の放電線取付け枠の電極部分への放電線の接合部分において、放電線のリード部を、一方の末端が電極部に接合されている第1リード部と、この第1リード部の他方の末端に、着脱可能な構造の連結用金具を介して導通可能に連結されている第2リード部とからなるリード部とすることにより、上記課題を解決することができることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明は以下のものを提供する。
【0009】
(1) 電気集塵機の放電線取付け枠への放電線の取付け構造であって、前記放電線は、前記放電線取付け枠から集塵室内に垂下される放電極部と、前記放電極部の上部側の末端から延伸して前記放電線取付け枠の電極部に接合されているリード部とからなり、前記リード部は、一方の末端が前記電極部に接合されている第1リード部と、前記第1リード部の他方の末端に、着脱可能な構造の連結用金具を介して導通可能に連結されている第2リード部と、からなる、放電線取付け構造。
【0010】
(1)の放電線取付け構造によれば、電気集塵機の集塵室の上方に配置されている取付け枠の電極部分への放電線の取付け部分において、接合部材の増加等によるコスト上昇を抑えながら放電線の電極部分への十分な接合強度を維持し、尚且つ、放電線の交換作業時には、交換作業を容易に行うことができるようにする放電線の電極部分への十分な接合強度を維持しながら、放電線の交換作業を容易に行うことができる。交換用の新たな導線の設置には、溶接作業が不要であることから、溶接作業に使用するガスボンベ、ホース、トーチ等の運搬も不要で作業コストを大幅に低減することができる。又、個々の放電線を放電線取付け枠の電極部に接合させるための固定用ボルト、ナット、ワッシャ等の接合部材も不要であり、それらの接合部材によって個々の放電線を電極に接合する構成と比較しても、放電線の取付け・交換に要する費用を低減させることができる。
【0011】
(2) 前記連結用金具が、加締め具である、(1)に記載の放電線取付け構造。
【0012】
(2)の放電線取付け構造によれば、(1)に記載の放電線取付け構造の第1リード部と第2リード部との連結部分における、交換時の着脱容易性と連結中の導通安定性とを、単純な構造の安価な部材と、極めて実施容易な作業のみによって両立させることができる。
【0013】
(3) 前記連結用金具が、一対の板状の連結用金属片によって構成されていて、前記連結用金属片はボルト孔を有し、各々の前記連結用金属片は、前記第1リード部及び前記第2リード部とは溶接接合されていて、前記連結用金属片同士は、両方の前記連結用金属片の前記ボルト孔を貫通するボルトによって接合されている、(1)に記載の放電線取付け構造。
【0014】
(3)の放電線取付け構造は、予め上記の連結用金属片が各リード部末端に溶接接合されている交換用放電線によって構成することができる。そして、これにより、放電線の交換現場では、溶接作業を行わずに交換作業を行うことができる。従って、(3)の放電線取付け構造においては、(2)の放電線取付け構造同様に、第1リード部と第2リード部との連結部分における、交換時の着脱容易性と連結中の導通安定性とを、単純な構造の安価な部材と、極めて実施容易な作業のみによって両立させることができる。
【0015】
(4) 前記ボルトが樹脂ボルトである、(3)に記載の放電線取付け構造。
【0016】
(4)の放電線取付け構造によれば、(3)に記載の放電線取付け構造において、連結用金属片を接合するためのボルトを樹脂ボルトとすることによって、腐食環境に晒される上記の第1リード部と第2リード部との連結部分の耐久性をより向上させることができる。
【0017】
(5) 前記放電線は、導線に鉛が被覆されてなる鉛通電線である、(1)から(4)の何れかに記載の放電線取付け構造。
【0018】
(5)の (3)の放電線取付け構造によれば、(1)から(4)の何れかに記載の放電線取付け構造において、放電線が、溶接作業時に高度な特殊技能が必要となる鉛通電線である場合にも、そのような特殊技能に依存せずに、極めて実施容易な作業のみによって、放電線の交換を行うことができる。又、鉛は比較的柔らかい金属であるため、例えば、(2)の発明において用いる加締め具によって、安定的な接合を容易に実現しやすい点でも有利である。
【0019】
(6) 前記電極部は板状の電極であり、前記第1リード部の末端が板状の該電極に溶接接合されている、(1)から(4)の何れかに記載の放電線取付け構造。
【0020】
(6)の放電線取付け構造によれば、(1)から(4)の何れかに記載の放電線取付け構造において、腐食環境である集塵極室の外に配置されている第1リード部の末端については、板状の電極(リード板)に溶接接合しておく構造とした。これにより、第2リード部及び放電極部の交換前後を通じて、第1リード部の当該電極(リード板)への接合強度を十分に高めて、当該電気接合部分の導通の安定性をより長期に亘って維持することができる。
【0021】
(7) 前記電極部は線状の電極であり、前記第1リード部の末端が線状の該電極に前記連結用金具を介して着脱可能に連結されている、(1)から(4)の何れかに記載の放電線取付け構造。
【0022】
(7)の放電線取付け構造によれば、(1)から(4)の何れかに記載の放電線取付け構造において、腐食環境である集塵極室の外に配置されている第1リード部の末端については、線状の電極(放電線取付け枠側に設置されているリード線)に着脱可能な連結用具を介して連結しておく構造とした。これにより、当該連結部分における安定的な導通を確保しながら、尚且つ、長期使用後に第1リード部の交換が必要となった場合には、第2リード部同様に、実施容易な作業のみによって、その交換を行うことができる。
【0023】
(8) 前記放電極部は、前記リード部側の末端にリング部が形成されていて、前記放電線取付け枠に設けられた掛止部に前記リング部が掛止される態様で、前記放電極部が前記集塵室内に垂下されている、(1)から(4)の何れかに記載の放電線取付け構造。
【0024】
(8)の放電線取付け構造によれば、(1)から(4)の何れかに記載の放電線取付け構造において、リード部と掛止部とからなる簡易な掛止構造によって、集塵室内に垂下されている放電極部を安定的に支持することができる。これにより、操業中に、リード部、特には、本発明の特徴的部分である連結用金具による接合部分に強い張力がかかることを防ぐことができ、尚且つ、放電極部の交換時には、リング部を容易に掛止部から外すこともできるので、交換作業の作業性も良好に維持することができる。
【0025】
(9) (1)又は(2)に記載の放電線取付け構造によって、前記放電線の前記放電線取付け枠への接合部分が構成されている、電気集塵機。
【0026】
(9)の電気集塵機によれば、当該電気集塵機の集塵室の上方に配置されている取付け枠の電極部分への放電線の取付け部分において、放電線の電極部分への十分な接合強度を維持しながら、尚且つ、放電線の交換作業時には、放電線の交換作業を容易に行うことができる。又、放電線を取付け枠に接合させるための固定用ボルト、ナット、ワッシャ等の接合部材も不要であり、放電線の取付けにかかる費用も低減させることができる。
【0027】
(10) (9)に記載の電気集塵機における放電線の交換方法であって、交換対象である前記放電線の前記放電極部と前記第2リード部とからなる部分を、前記連結用金具から取り外す工程と、前記放電極部と前記第2リード部とからなる新たな前記放電線の前記第2リード部側の末端を、前記連結用金具を介して、既設の前記第1リード部に連結させる工程と、を行う、放電線の交換方法。
【0028】
(10)の放電線の交換方法によれば、(9)に記載の電気集塵機において、鉛溶接等の特殊な技能に依存せずに、放電線の交換作業を容易に且つ低コストで行うことができる。
【0029】
(11) (3)又は(4)に記載の放電線取付け構造によって、前記放電線の前記放電線取付け枠への接合部分が構成されている、電気集塵機。
【0030】
(11)の電気集塵機によれば、当該電気集塵機の集塵室の上方に配置されている取付け枠の電極部分への放電線の取付け部分において、放電線の電極部分への十分な接合強度を維持しながら、尚且つ、放電線の交換作業時には、放電線の交換作業を容易に行うことができる。
(12) (11)に記載の電気集塵機における放電線の交換方法であって、交換対象である前記放電線の前記放電極部と前記第2リード部とからなる部分を、前記連結用金具から取り外す工程と、前記放電極部と前記第2リード部とからなる新たな前記放電線の前記第2リード部側の末端を、前記連結用金具を介して、既設の前記第1リード部に連結させる工程と、を行い、新たな前記放電線として、前記連結用金属片が前記第2リード部側の末端に予め溶接接合されている交換用放電線を用いる、放電線の交換方法。
。
【0031】
(12)の放電線の交換方法によれば、(11)に記載の電気集塵機における放電線の交換作業を、交換現場では溶接作業を行わない実施態様とすることができる。従って、鉛溶接等の特殊な技能に依存せずに、放電線の交換作業を容易に且つ低コストで行うことができる。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、電気集塵機の集塵室の上方に配置されている取付け枠の電極部分への放電線の取付け部分において、放電線の電極部分への十分な接合強度を維持しながら、尚且つ、放電線の交換作業時には、放電線の交換作業を容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】本発明の放電線取付け構造によって、放電線の放電線取付け枠への接合部分が構成されている、電気集塵機の構成を示す断面図である。
【
図2】本発明の放電線取付け構造の構成を示す図面である。
【
図3】本発明の放電線取付け構造によって、放電線の放電線取付け枠への接合部分が構成されている電気集塵機における、放電線の交換方法の手順の一例を模式的に示す図面である。
【
図4】
図3に示す放電線の交換方法について、その手順の他の一例を模式的に示す図面である。
【
図5】本発明の放電線取付け構造の他の実施形態の構成を模式的に示す図面である。
【
図6】従来の一般的な放電線取付け構造の構成を示す図面である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
<電気集塵機>
本発明の好ましい実施形態の一つである電気集塵機100は、
図1に示す通り、内部で集塵処理を行う電気集塵機本体10と、電気集塵機本体10内の放電極及び集塵極に電圧を印加するための電力を供給する給電構造20、及び、本発明独自の構成からなる放電線取付け構造30とを含んで構成される湿式の電気集塵機である。本発明に係る電気集塵機100における特徴的な構造部分である、放電線取付け構造30の詳細については、別途後述する。以下、本発明を湿式の電気集塵機に適用する場合の実施形態を、好ましい実施形態の一例として説明する。本発明の「電気集塵機の放電線取付け構造」、「電気集塵機」、及び、「電気集塵機の放電線の交換方法」は、何れも、集塵室の上方に配置されている取付け枠の電極部分に放電線が垂下される構造を含んでなるものであれば、あらゆる集塵機に適用可能な技術である。
【0035】
[電気集塵機本体]
電気集塵機100の主たる部分を構成する電気集塵機本体10は、
図1に示すように、上部側筺体16、下部側筐体17、及び、放電線11からなる放電極と集塵板14からなる集塵極によって、上記の集塵処理を進行させるための集塵室が構成されている。
【0036】
集塵極を構成する集塵板14は、集塵極枠15に接合される態様で、電気集塵機本体10の内部に多数設置されている。そして、これらの多数の集塵板14の間毎に、放電極を構成する多数の放電線11が配置されている。これらの多数の放電線11は、集塵室上方の放電線取付け枠12から垂下される態様で設置されていて、それぞれの放電線11の下部側の末端には、ウエイト13が接続されている。鉛直方向に沿って垂下されている放電線11には、このウエイト13の重みにより、不要な弛緩や位置ずれが生じないようにするための張力が付与されている。
【0037】
放電線11を設置する放電線取付け枠12は、一例として、給電構造20の末端に配置されている支持碍子24に、吊りロッド25を介して吊り下げられる形で支持されている。
【0038】
尚、上部側筺体16及び下部側筐体17の材質としては、一例として、導電性のFRP(Fiber Reinforced Plastic)を挙げることができる。
【0039】
[給電構造]
給電構造20は、
図1に示す通り、電源21、ブスバー22、及び、電圧印加部23を含んで構成されている。給電構造20においては、電源21から供給される電力が、ブスバー22、電圧印加部23を通じて、吊りロッド25に印加され、更に、放電線取付け枠12に設置されている電極部121(
図2参照)を介して、放電線11に高圧の負電圧が印加される。
【0040】
[放電線取付け構造]
放電線取付け構造30は、
図1に示す電気集塵機100における放電線取付け枠12への放電線11の接合部分であって、放電線11、電極部121を備える放電線取付け枠12、及び、連結用金具114を含んで構成される。
【0041】
(放電線)
放電線取付け構造30を構成する放電線11としては、特段の限定はなく、従来、電気集塵機の放電線を形成している各種の導線を用いることができる。但し、本発明においては、銅芯線に鉛の被覆が施されてなる鉛通電線を、放電線11として特に好ましく用いることができる。鉛は、上述した通り、溶接作業の負担は大きくなるが、その一方で、比較的柔らかい金属であることから、後述する加締め具による接合を容易に行えるからである。又、放電線の太さや断面形状についても特段の限定はなく、従来、電気集塵機の放電線として用いられている各種の導線を適宜選択して用いることができる。
【0042】
又、放電線11は、
図2に示す通り、リード部111と放電極部113とからなり、更に、放電極部113のリード部111側の末端には、同図に示す通り、リング部112が形成されていることが好ましい。本明細書における放電線11のリード部111とは、当該放電線11の放電極部113の上部側末端から更に延伸して、電極部121にまで達する部分のことを言う。尚、放電極部113の末端にリング部112が形成されている場合には、リング部112から先の電極部121に向かう部分を、リード部111とする。リード部111の末端は電極部121に接合される。又、本明細書における放電線11の放電極部113とは、リード部111以外の部分であって、電気集塵機本体10内に垂下されて放電極を構成する部分のことを言う。
【0043】
リング部112は、放電線取付け枠12に形成されている軸上の突起物からなる掛止部123に、放電極部113を掛止して垂下するための構造である。リング部112は、放電線11の放電極部113の上部側末端近傍部分を丸めてリング状に折り返し、そのリングの首部分で放電線の対向部分を接合することにより形成することができる。リング部112を形成するための、この首部分における放電線同士の接合は、形成したリング部112により、放電線11を掛止部123に掛止する態様で垂下した時に、放電極部113の重さに充分に耐えられる強度とすることが必要である。この接合は溶接によることもできるが、各種の加締め具等によって機械的に当該部分を接合することもできる。
【0044】
そして、放電線11は、リード部111が、第1リード部111Aと第2リード部111Bとが、着脱可能な構造の連結用金具114を介して導通可能に連結されている連結構造を備えることを主たる特徴とする。ここで、リード部111のうちの第1リード部111Aとは、放電線11において、一方の末端が電極部121に接合され、他方の末端が、連結用金具114を介して、第2リード部111Bと接合されている部分のことを言う。又、第2リード部111Bとは、同じく放電線11において、連結用金具114の側とは反対側の末端において、放電極部113に繋がっている部分のことを言う。
図2に示す通り、放電線11は、全体としては、第2リード部111Bとリング部112を含む放電極部113とを単一の導線で形成し、この導線に、他の導線を、連結用金具114を介して連結させることによって構成することができる。
【0045】
(連結用金具)
放電線取付け構造30を構成する放電線11において、第1リード部111Aと第2リード部111Bとを連結する連結用金具114としては、各部を構成する2本の導線を、着脱可能で、且つ、導通可能に連結することができる公知の各種の導線接続用の金具を適宜選択して用いることができる。
【0046】
但し、連結用金具114は、
図2、3に示すように、円筒状の金具であって、両開口部から各1本ずつの導線を挿入した状態で加締めることによって、2本の導線を安定的に連結することができる加締め具とすることが好ましい。加締め具を構成する金具については、放電線11の材質や外径、及び断面形状に応じて、適宜、適切な材料、サイズ、及び、開口部の形状からなる、加締め具を選択して、これを、連結用金具114として用いればよい。これにより、第1リード部111Aと第2リード部111Bとを、相互の末端部分で安定的に導通を確保した状態で接合することができ、且つ、必要に応じてそれぞれの導線を接合部分から容易に取り外すこともできる。
【0047】
一例として、第1リード部111Aと第2リード部111Bとが、何れも鉛製の導線であり、その外径が10mm程度である場合であれば、内径が10~25mm程度であり長さが10mm~100mm程度の円筒状の形状からなる鉛製の圧着スリーブを、本発明の放電線取付け構造の連結用金具(加締め具)として好ましく用いることができる。
【0048】
或いは、本発明の放電線取付け構造は、他の実施形態として、第1リード部111Aと第2リード部111Bとを連結するための連結用金具を、上述の連結用金具114に代えて、
図5に示すよう連結用金具115を用いた構成とすることもできる。
【0049】
本発明の放電線取付け構造の上記の他の実施形態において用いられる連結用金具115は、
図5に示すように、一対の板状の連結用金属片116(116A、116B)によって構成されている。そして、連結用金属片116(116A、116B)には、ボルト孔118が形成されている。ボルト孔118は、ボルト117を螺合させる螺子孔となる貫通孔である。又、連結用金属片116Aは、第1リード部111Aと、連結用金属片116Bは第2リード部111Bと、それぞれ溶接接合されている。そして、連結用金属片116(116A、116B)同士は、両方の連結用金属片116(116A、116B)のボルト孔118(118A、118B)を貫通するボルト117及びナットによって接合されている。放電線取付け構造30を、このように連結用金具115によって構成する場合にも、上記において説明した連結用金具114を用いる実施形態同様に、第1リード部111Aと第2リード部111Bとを、相互の末端部分で安定的に導通を確保した状態で接合することができ、且つ、必要に応じてそれぞれの導線を接合部分から容易に取り外すこともできる。
【0050】
連結用金具115において、連結用金属片116(116A、116B)同士を接合するために用いるボルト117については樹脂ボルトを用いることが好ましい。樹脂ボルトとしては、電気集塵機周辺の温度や腐食環境に対して要求される耐熱性や耐食性を有する樹脂材料からなる樹脂からなるものを使用環境に応じて適宜選択して用いることができる。一例として、強度、耐熱性及び耐食性において特に優れた性質を備えるポリエーテルケトン(PEEK)製の樹脂ボルトを好ましく用いることができる。或いは、耐熱性についてはポリエーテルケトン(PEEK)よりは劣るものの強度と耐食性を必要十分な水準で備え、経済性に優れるポリプロピレン(PP)製の樹脂ボルトも連結用金属片116(116A、116B)同士を接合するために用いるボルト117として好ましく用いることができる。
【0051】
(放電線取付け枠)
放電線取付け構造30を構成する放電線取付け枠12は、一例として、FRP(繊維強化プラスチック)製の板材である。放電線取付け枠12が、FRP材等、非導電性の材料からなる場合には、放電線取付け枠12の表面に、
図2に示すように、放電線11に給電するための電極部121となる板状の電極(電極板)が設置されている。板状の電極(電極板)は、一例として、鉛板によって形成される。
【0052】
電極部121が、上記のように板状の電極(電極板)である場合、放電線11の電極部121側の末端、即ち、第1リード部111Aの末端の電極部121への接合は、溶接部122による溶接接合とすることが好ましい。尚、放電線取付け構造30においては、この部分の溶接は、放電線11の最初の設置時に一度だけ行えばよく、その後においては、工場内での再度の溶接作業の実施を要せずに、放電極部113を含む部分の交換作業を行うことができる。本発明特有の「放電線の交換方法」の詳細については、別途後述する。
【0053】
放電線取付け枠12の表面に設置する電極部は、線状の電極(放電線取付け枠側に設置されているリード線)であってもよい。この場合には、第1リード部111Aの末端は、溶接によらずに、連結用金具を介して、当該線状の電極に連結することもできる。
【0054】
又、放電線取付け枠が導電性を有する材料(例えば、金属、或いは、導電性樹脂等)で形成されている場合には、放電線取付け枠の任意の一部を電極部とみなして当該部分に第1リード部111Aの末端を直接接合することによっても本発明の放電線取付け構造を構成することも可能である。
【0055】
<放電線の交換方法>
上記において詳細を説明した電気集塵機100の他、その他様々な電気集塵機において、本発明の「放電線取付け構造」を採用することによって、以下に説明する手順、即ち、本発明の放電線の交換方法(以下、単に「放電線の交換方法」とも言う)によって、鉛溶接等の特殊な技能に依存せずに、放電線の交換作業を容易に且つ低コストで行うことができる。
【0056】
「放電線の交換方法」は、一例として、
図3に示す手順で行うことができる。本方法を実施するには、先ず、交換対象である放電線11のうち、放電極部113と第2リード部111Bとからなる部分を、加締め具等の連結用金具114から取り外す工程を行う(
図3(a))。この時、第1リード部111Aについては、特段の交換の必要がなければ、電極部121に接合されたままの状態としておけばよい。
【0057】
「放電線の交換方法」では、上記工程に続いて、放電極部113と第2リード部111Nを含んでなる交換用の新たな導線を、既設の第1リード部111Aに連結させる工程を行う(
図3(b)、(c))。この工程では、交換用の新たな導線の第2リード部111N側の末端を、連結用金具114を介して、既設の第1リード部111Aに連結させればよい。尚、この工程では、
図4に示すように、交換用の新たな導線の先端部の一部と、既設の第1リード部111Aの末端部の一部とを重ね合わせた状態で、連結用金具114によって締め付けることにより、より安定的に各導線を連結させることもできる(
図4(b)、(c))。
【0058】
本発明の放電線取付け構造の他の実施形態として、放電線取付け構造30を、
図5に示す連結用金具115によって構成する場合にも、「放電線の交換方法」を、上記同様に行うことができる。この場合には、先ず、連結用金具115を構成する一対の板状の連結用金属片116(116A、116B)のボルト117による接合を開放することによって、放電極部113と第2リード部111Bとからなる交換対象部分を、第1リード部111Aから取り外す。そして、連結用金属片116(116A、116B)同士を既設の第1リード部111Aにボルト締めによって接合することによって、既設の第1リード部111Aに放電極部と第2リード部を含んでなる交換用の新たな導線を連結させる工程を行う。この時、交換用の新たな導線としては、交換作業時の溶接作業を不要とするために、連結用金属片が導線の末端に予め溶接接合されている導線(交換用放電線)を用いることが好ましい。
【0059】
以上説明した本発明の「放電線の交換方法」によれば、例えば、電気集塵機の初期状態において、リード部111の末端が電極部121に溶接部122を介して強固に接合されていることによって、リード部111の電極部121への電気的接合の長期安定性を担保しながら、一方で、放電線11の交換作業については、過酷な腐食環境に晒される部分のみを優先的に交換していく作業とすることにより、この交換作業を、高度の技能に依存せずに、実施容易な簡易な作業のみによって実行することができる。
【符号の説明】
【0060】
10 電気集塵機本体
11 放電線
12 放電線取付け枠
121 電極部
122 溶接部
123 掛止部
111 リード部
111A 第1リード部
111B、111N 第2リード部
112 リング部
113 放電極部
114 連結用金具
115 連結用金具(他の実施形態)
116A、116B 連結用金属片
117 ボルト
118 ボルト孔
13 ウエイト
14 集塵板
15 集塵極枠
16 上部側筺体
17 下部側筐体
20 給電構造
21 電源
22 ブスバー
23 電圧印加部
24 支持碍子
25 吊りロッド
30 放電線取付け構造
100 電気集塵機