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特開2023-111839細胞剥離方法、細胞剥離システム及び情報処理装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023111839
(43)【公開日】2023-08-10
(54)【発明の名称】細胞剥離方法、細胞剥離システム及び情報処理装置
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/07 20100101AFI20230803BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20230803BHJP
【FI】
C12N5/07
C12M1/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022190039
(22)【出願日】2022-11-29
(31)【優先権主張番号】P 2022013181
(32)【優先日】2022-01-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126240
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 琢磨
(74)【代理人】
【識別番号】100124442
【弁理士】
【氏名又は名称】黒岩 創吾
(72)【発明者】
【氏名】山内 文生
(72)【発明者】
【氏名】金崎 健吾
(72)【発明者】
【氏名】望月 信介
(72)【発明者】
【氏名】椿 圭一郎
(72)【発明者】
【氏名】加藤 舞
(72)【発明者】
【氏名】古井 貴昭
(72)【発明者】
【氏名】吉田 亮一
【テーマコード(参考)】
4B029
4B065
【Fターム(参考)】
4B029BB11
4B029CC02
4B065AA90X
4B065AA91X
4B065AA93X
4B065CA44
4B065CA46
(57)【要約】
【課題】 細胞あるいは培養条件が変わっても、細胞生存率が高く、細胞剥離効率が安定する細胞剥離方法を提供する。
【解決手段】 基材に接着した細胞に振動を与えることによって、基材から細胞を剥離する細胞剥離方法であって、タンパク質分解酵素を実質的に含まない細胞剥離液と細胞とを接触させた後に、細胞をインキュベートするインキュベート工程と、インキュベートされた細胞に関する情報を取得する情報取得工程と、細胞に関する情報に基づいて、インキュベートされた細胞に振動を付与する時刻を決定する決定工程と、インキュベートされた細胞に振動を付与する剥離工程と、を有することを特徴とする。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材に接着した細胞に振動を与えることによって、前記基材から前記細胞を剥離する細胞剥離方法であって、
タンパク質分解酵素を実質的に含まない細胞剥離液と前記細胞とを接触させた後に、前記細胞をインキュベートするインキュベート工程と、
前記インキュベートされた細胞に関する情報を取得する情報取得工程と、
前記細胞に関する情報に基づいて、前記インキュベートされた細胞に振動を付与する時刻を決定する決定工程と、
前記インキュベートされた細胞に振動を付与する剥離工程と、を有することを特徴とする細胞剥離方法。
【請求項2】
前記振動は、超音波帯域の振動であることを特徴とする請求項1に記載の細胞剥離方法。
【請求項3】
前記細胞剥離液が、金属イオンキレート剤を含むことを特徴とする請求項1に記載の細胞剥離方法。
【請求項4】
前記細胞剥離液が、ポリエチレングリコールを含むことを特徴とする請求項1に記載の細胞剥離方法。
【請求項5】
前記インキュベート工程が37℃の環境下で行われることを特徴とする請求項1に記載の細胞剥離方法。
【請求項6】
前記情報取得工程が、前記細胞の画像を取得する工程を含み、
前記細胞に関する情報が、前記細胞の画像における、前記細胞の領域の面積、前記細胞のハロ領域の面積、及び前記細胞の領域の輝度値の少なくともいずれか1つであることを特徴とする請求項1に記載の細胞剥離方法。
【請求項7】
前記輝度値が、斜入射照明により観察される前記基材の細胞を培養する面の輝度値であることを特徴とする請求項6に記載の細胞剥離方法。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか一項に記載の細胞剥離方法をコンピュータに実行させることを特徴とするプログラム。
【請求項9】
基材に接着した細胞に振動を与えることによって、前記基材から前記細胞を剥離する細胞剥離システムであって、
タンパク質分解酵素を実質的に含まない細胞剥離液と前記細胞とを接触させた後に、前記細胞をインキュベートするインキュベート部と、
前記インキュベートされた細胞に関する情報を取得する情報取得部と、
前記細胞に関する情報に基づいて、前記インキュベートされた細胞に振動を付与する時刻を決定する決定部と、
前記インキュベートされた細胞に振動を付与する剥離部と、を有することを特徴とする細胞剥離システム。
【請求項10】
基材に接着した細胞に振動を与えることによって、前記基材から前記細胞を剥離する細胞剥離装置を制御する情報処理装置であって、
タンパク質分解酵素を実質的に含まない細胞剥離液に接触した状態の細胞に関する情報を取得する情報取得部と、
前記細胞に関する情報に基づいて、前記細胞に振動を付与する時刻を決定する決定部と、を有することを特徴とする情報処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞剥離方法、細胞剥離システム及び情報処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、医薬品開発においては、従来の低分子医薬品や抗体医薬品から、細胞そのものを医薬品として活用した細胞医薬、組織や臓器の再生を目指す再生医療へと大きなパラダイムシフトが起こっている。この細胞医薬・再生医療においては、大量の細胞が必要であり、特に、生体組織の多くを占める接着性細胞を効率的かつ安定的に供給することが求められている。
【0003】
接着性細胞の培養においては、ポリスチレンディッシュのような培養基材上での細胞の培養、基材からの細胞の剥離、細胞の回収及び洗浄の各工程を経て、目的とする細胞を取得する。細胞をさらに増やしたい際には、取得した細胞の一部をまた新たな基材に移して培養する、いわゆる継代操作を行なう。この一連の工程の中でも、基材から細胞を剥離する剥離工程に関して、細胞の効率的かつ安定的な供給のための検討が行われている。
【0004】
一般的に細胞の剥離にはトリプシンなどのタンパク質分解酵素が広く用いられている。この方法では、タンパク質分解酵素を作用させることで、細胞と基材との間の結合に関与するタンパク質を分解し、そののちにタッピングやピペッティングといった操作で完全に細胞を剥離させる。しかしながら、この方法では、タンパク質分解酵素により、同時に多くの細胞表面タンパク質も分解されてしまい、細胞の品質の低下の懸念がある。また、タッピングやピペッティングといった操作は人の熟練度による差が大きく、安定的な供給という面では課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2016/047368号
【特許文献2】特開2003-235540号公報
【特許文献3】国際公開第2007/136073号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の課題に対して、タンパク質分解酵素を用いることなく、培養容器から細胞を剥離する方法が知られている。特許文献1には、細胞に対して、位置選択性に超音波を入射し、細胞を容器から剥離させる方法が提案されている。しかし、超音波を照射するかタイミングを判断するための方法については開示されていない。
【0007】
特許文献2、3では、細胞培養において、細胞面積や細胞画像の輝度などの情報を得て、細胞が剥離したか否かを判断する方法や装置を開示している。しかし、接着した状態の細胞の細胞情報を得て、超音波を照射するタイミングを判断するための方法については開示されていない。
【0008】
従来の超音波を用いる接着細胞の剥離方法は、トリプシンに代表されるタンパク分解酵素を用いる剥離方法と異なり、細胞は基材に接着したままであり、何らかのタイミングで超音波を与えなければならない。また、細胞剥離液による細胞の処理時間が長いと、細胞がダメージを受けて、その後の細胞培養に支障が生じることがある。そのため、適度なタイミングで超音波による細胞剥離工程に進める必要があった。しかし、超音波を用いる接着細胞の剥離方法において、これまでに、超音波を照射するか否かを判断するための超音波照射判断方法は分かっていなかった。
【0009】
すなわち、従来の超音波を用いる接着細胞の剥離方法においては、上記の理由により、細胞あるいは培養条件が変わったときに、細胞剥離が安定しないというおそれがあった。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本明細書に開示される細胞剥離方法は、基材に接着した細胞に振動を与えることによって、前記基材から前記細胞を剥離する細胞剥離方法であって、タンパク質分解酵素を実質的に含まない細胞剥離液と前記細胞とを接触させた後に、前記細胞をインキュベートするインキュベート工程と、前記インキュベートされた細胞に関する情報を取得する情報取得工程と、前記細胞に関する情報に基づいて、前記インキュベートされた細胞に振動を付与する時刻を決定する決定工程と、前記インキュベートされた細胞に振動を付与する剥離工程と、を有することを特徴とする。
【0011】
本明細書に開示される細胞剥離システムは、基材に接着した細胞に振動を与えることによって、前記基材から前記細胞を剥離する細胞剥離システムであって、タンパク質分解酵素を実質的に含まない細胞剥離液と前記細胞とを接触させた後に、前記細胞をインキュベートするインキュベート部と、前記インキュベートされた細胞に関する情報を取得する情報取得部と、前記細胞に関する情報に基づいて、前記インキュベートされた細胞に振動を付与する時刻を決定する決定部と、前記インキュベートされた細胞に振動を付与する剥離部と、を有することを特徴とする。
【0012】
本明細書に開示される情報処理装置は、基材に接着した細胞に振動を与えることによって、前記基材から前記細胞を剥離する細胞剥離装置を制御する情報処理装置であって、タンパク質分解酵素を実質的に含まない細胞剥離液に接触した状態の細胞に関する情報を取得する情報取得部と、前記細胞に関する情報に基づいて、前記細胞に振動を付与する時刻を決定する決定部と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、細胞あるいは培養条件が変わっても、細胞生存率が高く、細胞剥離効率が安定する細胞剥離方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施形態に係る細胞剥離方法を示すフローチャートである。
図2】本発明の実施形態に係る細胞剥離方法の一例を示すフローチャートである。
図3】本発明の実施形態に係る細胞剥離方法の他の例を示すフローチャートである。
図4】本発明の実施形態に係る細胞剥離方法の他の例を示すフローチャートである。
図5】本発明の実施形態に係るプログラムを実行可能な情報処理システムの構成を示す図である。
図6】本発明の実施形態に係る細胞剥離装置の模式図である。
図7】本発明の実施形態に係る細胞剥離システムの構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明者らは、タンパク質分解酵素を用いずに、超音波で細胞を基材から剥離、回収する方法において、超音波を照射するか否かを判断するための超音波照射判断方法を鋭意検討した。その結果、分解酵素を含有しない細胞剥離液で細胞をインキュベートして、基材に接着した状態の細胞の面積の変化、あるいは細胞画像の輝度値の変化が、その後の超音波での細胞剥離効率ならびに、剥離された細胞の生存率と関係することを見出した。
【0016】
本発明の実施形態に係る細胞剥離方法は、その新たに得られた知見をもとにして、分解酵素を実質的に含有しない細胞剥離液で細胞をインキュベートして、基材に接着した状態の細胞の細胞情報を計測する。本発明の実施形態に係る細胞剥離方法は、その後、細胞情報(例えば、面積、輝度など)が閾値を超えた場合に、前記接着細胞に対して超音波を照射する。それにより、細胞へのダメージを最小限として、高い剥離効率を安定に実現できる細胞剥離方法ならびに細胞剥離装置を提供するものである。その結果、細胞剥離の自動化が可能であり、品質の安定した細胞が得られる細胞剥離方法および細胞剥離装置を提供することができる。
【0017】
本発明では、細胞が接着した状態における細胞情報を取り扱うため、上記先行技術の、“細胞が剥離しかた否か”を判断する目的で使用される先行技術とは、本質的に異なった判断方法である。以下、本発明の実施形態に係る細胞剥離方法について図1を用いて説明する。
【0018】
(細胞剥離方法)
本実施形態に係る細胞剥離方法は、基材の上でインキュベートされた細胞を、振動を付与することによって前記基材から剥離する細胞剥離方法である。付与される振動は、超音波帯域の振動であってもよい。以下、超音波帯域の振動を付与する例で実施形態を説明する。本実施形態に係る細胞剥離方法は以下の工程を少なくとも有する。
【0019】
基材に設けられた細胞(基材に接着した細胞)と、タンパク質分解酵素を実質的に含まない細胞剥離液とを接触させた後に前記細胞をインキュベートするインキュベート工程(S101)。
【0020】
インキュベートした前記細胞に関する情報を取得する情報取得工程(S102)。
【0021】
前記細胞に関する情報に基づいて、インキュベートした前記細胞に対して振動を付与する(超音波を照射する)時刻を決定する決定工程(S103)。
【0022】
決定された時刻に基づいて前記細胞に対して振動を付与する(超音波を照射する)剥離工程(S104)。
【0023】
ここで、インキュベート工程とは、温度を調整する工程、湿度を調整する工程、及び空気組成を調整する工程の少なくともいずれかを含む工程を指す。温度を調整する工程とは、例えば、細胞培養容器の周辺が37℃前後であるようにヒータを制御する工程である。湿度を調整する工程とは、例えば、培地が乾燥しないように加湿バットを設置することで湿度を90%以上に調整する工程である。空気組成を調整する工程とは、例えば、培地の酸化を防ぐためにCO分圧が5%前後になるようCOを供給する工程である。
【0024】
ここで、タンパク質分解酵素を実質的に含まないとは、細胞剥離液の全質量に対するタンパク質分解酵素の量は0.0005質量%以下であるという意味である。
【0025】
また、細胞剥離液が、金属イオンキレート剤を含んでいてもよく、細胞剥離液が、ポリエチレングリコールを含んでいてもよい。
【0026】
上記インキュベート工程が37℃の環境下で行われることが好ましい。
【0027】
また、S102の情報取得工程が細胞の画像を取得する工程を含み、細胞に関する情報は例えば、細胞の画像における、細胞の領域の面積、細胞のハロ領域の面積、及び細胞の領域の輝度値の少なくともいずれか1つとすることができる。
【0028】
(細胞)
本実施形態における細胞としては、インビトロで培養器材に接着培養可能なものであれば特に限定されるものではない。例えばチャイニーズハムスター卵巣由来CHO細胞やマウス結合組織L929細胞、マウス骨格筋筋芽細胞(C2C12細胞)、ヒト胎児肺由来正常二倍体線維芽細胞(TIG-3細胞)、ヒト胎児腎臓由来細胞(HEK293細胞)、ヒト肺胞基底上皮腺癌由来A549細胞やヒト子宮頸癌由来HeLa細胞等の種々の培養細胞株に加え、例えば生体内の各組織、臓器を構成する上皮細胞や内皮細胞、収縮性を示す骨格筋細胞、平滑筋細胞、心筋細胞、神経系を構成するニューロン細胞、グリア細胞、繊維芽細胞、生体の代謝に関与する肝実質細胞、肝非実質細胞や脂肪細胞、分化能を有する細胞として、誘導多能性幹(iPS)細胞、胚性幹(ES)細胞、胚性生殖(EG)細胞、胚性癌(EC)細胞、間葉系幹細胞、肝幹細胞、膵幹細胞、皮膚幹細胞、筋幹細胞、生殖幹細胞等の各種幹細胞、又は各組織の前駆細胞、さらにはそれらから分化誘導した細胞等が挙げられる。本実施形態に係る細胞の剥離方法は、これらの中でも細胞間の結合が強い細胞や、基材への接着力が高い細胞や、トリプシン感受性の高い細胞において好適である。細胞の大量培養のニーズから、例えば、タンパク質生産用に用いられるCHO細胞や、細胞治療で利用可能な間葉系幹細胞などに対して特に好適である。
【0029】
(基材)
本実施形態における基材は、細胞培養に用いられる培養容器のことを意味する。培養容器は、細胞接着性の培養容器であれば特に制限はなく、例えば、フラスコ、組織培養用フラスコ、ディッシュ、ペトリデッシュ、組織培養用ディッシュ、マルチデッシュ、マイクロプレート、マルチウェルプレート、マルチプレート、シャーレ、培養バック、ボトルなどが挙げられる。
【0030】
本実施形態における基材の材質は、化学的に安定であり、所望の細胞を培養可能な材質であればよく、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ナイロン、ポリウレタン、ポリウレア、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリ(メタ)アクリル酸誘導体、ポリアクリロニトリル、ポリ(メタ)アクリルアミド、ポリ(メタ)アクリルアミド誘導体、ポリスルホン、セルロース、セルロース誘導体、ポリシリコーン、ポリメチルペンテン、ガラス、金属などが挙げられる。この中でもポリスチレンが好ましい。
【0031】
(細胞剥離液)
本発明の実施形態に係る細胞剥離液は、実質的に分解酵素を含まない溶液であり、本実施形態に係る細胞剥離方法で用いる、細胞を剥離させるための溶液である。言い換えれば、細胞剥離液とは、細胞の接着力を低下させる溶液である。
【0032】
本発明の実施形態に係る細胞剥離液は、細胞が培養可能な水溶液(培地と呼ぶことがある)であれば制限はないが、種々の塩や因子を含んでいても良い。培地に含まれる前記因子も、特に制限はないが、アルブミン、インスリン、トランスフェリンなどのタンパク質、セレニウム、抗生物質、グルコースなどの糖類、脂質、合成ポリマーなどを含んでいても良い。
【0033】
本実施形態における細胞剥離液のpHは中性領域であることが好ましい。ここで、中性領域とは、pH6以上pH8以下であるとする。中性領域は細胞培養に適しており、細胞の生存率を安定的に高く保つことができるためである。pHは塩酸や水酸化ナトリウム等で適宜調整可能である。また、pHを安定的に保つために各種緩衝液が好適に用いられる。
【0034】
本実施形態における細胞剥離液の粘度は1.80mPa・s以下であることが好ましい。これは、超音波振動によって発生する剥離液の流動が妨げられず、剥離効率を高く保つことができるためである。細胞剥離液の粘度はポリマーや糖類の添加などによって適宜調整可能である。
【0035】
本実施形態における細胞剥離液として、細胞剥離液の全質量に対するタンパク質分解酵素の量は0.0005質量%以下であることが好ましく、タンパク質分解酵素は添加しないことがより好ましい。これは、背景技術でも述べた通り、タンパク質分解酵素は細胞の一部を分解するため剥離効率が高くできる半面、細胞の品質を低下させる可能性があるからである。
【0036】
本実施形態においてタンパク質分解酵素とは、例えば、細胞の一部を分解し、細胞を基材から剥離しやすくするものである。例えば、トリプシン、アキュターゼ、コラゲナーゼ、天然プロテアーゼ、キモトリプシン、エラスターゼ、パパイン、プロナーゼ、もしくはそれらの組み換え体などが挙げられる。
【0037】
本実施形態における細胞剥離液として、金属イオンキレート剤(以後、キレート剤と呼ぶことがある)を含む溶液が、特に好ましい。キレート剤を含む細胞剥離液を用いることによって、細胞を超音波振動により効果的に剥離出来るからである。
【0038】
本実施形態におけるキレート剤としては、特に限定はないが、例えば、エチレンジアミン四酢酸(以後、EDTAと呼ぶことがある)、エチレンジアミン、エチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸、グリコールエーテルジアミン四酢酸、ニトリロトリ酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、イミノ二酢酸、ジヒドロキシエチルグリシン、ジカルボキシメチルグルタミン酸、エチレンジアミンジコハク酸、エチドロン酸、クエン酸、グルコン酸、ホスホノブタン三酢酸等を挙げることができる。この中でも二価の陽イオンとキレートを形成するキレート剤が好ましく、Ca2+及びMg2+とキレートを形成するキレート剤が特に好ましく、エチレンジアミン四酢酸が最も好ましい。キレート剤としてエチレンジアミン四酢酸を用いた場合、細胞剥離液のpHは7.0以上8.0以下であることが好ましい。これは細胞生存率を高く保つことができる中性領域の中でも高めのpHであることにより、エチレンジアミン四酢酸のキレート能を高めることができ、剥離効率をより高くすることが可能であるためである。なおキレート剤は単独で用いても、或いは2種類以上を複合して用いてもよい。
【0039】
キレート剤の含有量としては0.01mM以上5.0mM以下であることが好ましい。この範囲であることにより、キレート効果を確実に得ることができ、過剰なキレート剤の存在による細胞の活性低下も抑えることができる。
【0040】
本実施形態における細胞剥離液として、ポリアルキレングリコール構造を含む親水性ポリマーを含んでいてもよい。ポリアルキレングリコールは、超音波を用いた細胞剥離方法において、細胞の生存率を高くすることができる。ポリアルキレングリコール構造を含む親水性ポリマーの例として、ポリエチレングリコールがあげられる。親水性ポリマーは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定されるピーク分子量Mpが800以上50000以下であることが好ましく、1200以上20000以下であることがさらに好ましい。これは、ポリマーの細胞への影響が少なく、かつ、ポリマーによる培地の増粘効果が抑制できるためである。
【0041】
(緩衝液)
本実施形態における緩衝液は、中性領域を保つことができれば制限なく使用できる。ここで、中性領域はpH6以上pH8以下とする。例えば、Tris-HCl緩衝液等のTris緩衝液、リン酸緩衝液、HEPES緩衝液、クエン酸-リン酸緩衝液、グリシルグリシン-水酸化ナトリウム緩衝液、Britton-Robinson緩衝液、GTA緩衝液等が挙げられる。この中でも、生体内の環境に近いリン酸緩衝液が好ましく、このリン酸緩衝液に、細胞内液と等張になるよう調整したリン酸緩衝生理食塩水(PBS)がより好適に用いられる。
【0042】
(培地)
培地の種類に特に制限はなく、例えば、ダルベッコ改変イーグル培地(Dulbecco’s Modified Eagles’s Medium;DMEM)、ハムF12培地(Ham’s Nutrient Mixture F12)、DMEM/F12培地、マッコイ5A培地(McCoy’s 5A medium)、イーグルMEM培地(Eagles’s Minimum Essential Medium;EMEM)、αMEM培地(alpha Modified Eagles’s Minimum Essential Medium;αMEM)、MEM培地(Minimum Essential Medium)、RPMI1640培地、イスコフ改変ダルベッコ培地(Iscove’s Modified Dulbecco’s Medium;IMDM)、MCDB131培地、ウィリアム培地E、IPL41培地、Fischer‘s培地、StemSpan H3000(ステムセルテクノロジー社製)、StemSpanSFEM(ステムセルテクノロジー社製)、StemlineII(シグマアルドリッチ社製)、Endothelial Cell Growth Medium 2 Kit(プロモセル社製)、Mesenchymal Stem Cell Growth Medium 2(プロモセル社製)、MSCGM Bullet Kit(ロンザ社製)、mTeSR1或いは2培地(ステムセルテクノロジー社製)、リプロFF或いはリプロFF2(リプロセル社製)、NutriStem培地(バイオロジカルインダストリーズ社製)、MF-Medium間葉系幹細胞増殖培地(東洋紡株式会社製)などが挙げられる。
【0043】
これらの中から、それぞれの細胞の培養に適した培地を用いるのが好ましい。
【0044】
(血清)
上記の培地には、血清や抗生物質を添加してもよい。血清の例としては、牛胎児血清(Fetal Bovine Serum:FBS)、児牛血清、成牛血清、ウマ血清、ヒツジ血清、ヤギ血清、ブタ血清、ニワトリ血清、ウサギ血清、ヒト血清が使用されるが、入手の容易さから一般的にFBSがよく用いられる。また、未処理又は未精製の血清をいずれも含まず、精製された血液由来成分又は動物組織由来成分(増殖因子など)を含有する無血清培地であってもよい。
【0045】
(抗生物質)
培地に添加される抗生物質の例としては、ペニシリン、ストレプトマイシン、アンピシリン、カルベニシリン、テトラサイクリン、ブレオマイシン、アクチノマイシン、カナマイシン、アクチノマイシンD、アンホテリシンBなどが挙げられる。
【0046】
(細胞の培養条件)
細胞の培養条件は、培養する細胞に従って適宜選択し得る。一般的には、ディッシュ内に適切な培地を添加し、そこに1.0×10~5.0×10cells/cm程度の細胞を播種し、37℃、CO濃度5%の環境下で培養する。この際、基材中の細胞占有面積率が7~8割程度、いわゆるサブコンフルエントの状態になるまで培養するのが好ましい。
【0047】
(超音波を用いた細胞剥離方法)
本発明の実施形態に係る細胞剥離方法は、基材上で培養された接着細胞の超音波を用いた剥離方法であって、下記[1]~[4]工程を含むことを特徴とする細胞の剥離方法である。
[1]細胞が基材に接着した状態のまま、細胞剥離液と接触する工程。
[2]インキュベートする工程。
[3]基材に接着した状態の細胞の細胞情報を計測する工程。
[4]前記細胞情報が閾値を超えた場合に、前記接着細胞に対して超音波を照射することによって、前記基材から前記細胞を剥離する工程。
【0048】
以下、各工程について、説明する。
【0049】
([1]工程)
本発明の実施形態に係る細胞の剥離方法における[1]工程は、細胞が基材に接着した状態のまま、分解酵素を実質的に含まない細胞剥離液と接触させる。[1]工程は、細胞培養状態の増殖培地を剥離液に交換する工程であり、培地交換の操作を意味する。
【0050】
[1]工程の前後で、細胞を緩衝液で洗浄しても良い。例えば、培養している細胞を基材から剥離したいときに、まず増殖培地を除去し、細胞剥離液を添加する前に、基材に接着した状態のまま、緩衝液で洗浄することで、細胞剥離液の効果が増加する場合がある。増殖用の培地の中には、血清などの細胞剥離を阻害する因子が含まれることが一般的であるからである。
【0051】
([2]工程)
[2]工程は、細胞が基材に接着した状態のまま、分解酵素を実質的に含まない細胞剥離液と接触させた状態で、インキュベートする。「インキュベートする」とは、温度を調整する工程、湿度を調整する工程、及び空気組成を調整する工程の少なくともいずれかを含む工程を行うことを指す。温度を調整する工程とは、例えば、細胞培養容器の周辺が37℃前後であるようにヒータを制御する工程である。湿度を調整する工程とは、例えば、培地が乾燥しないように加湿バットを設置することで湿度を90%以上に調整する工程である。空気組成を調整する工程とは、例えば、培地の酸化を防ぐためにCO分圧が5%前後になるようCOを供給する工程である。
【0052】
後述するように、[2]工程における細胞と細胞剥離液との接触時間が剥離効率ならびに細胞生存率に対してきわめて重要であることが分かった。細胞の種類や培養条件に応じて、このインキュベートの時間は変化するため、後述するように、後の工程で細胞情報を計測して、超音波振動を与えるタイミングを判断する必要がある。インキュベート時間は、一例としては、例えば30秒~20分の範囲であるが、特に限られない。
【0053】
[2]工程の環境温度としては特に限定はないが、細胞生存率を維持する観点からは、10~40℃が好ましく、特に30~40℃であれば、細胞の生育の最適な温度であり、好ましい。
【0054】
この[2]工程によって、基材に接着していた細胞の基材への接着性が低減され、この後の超音波による剥離が可能となる。言い換えると、[1]工程ならびに[2]工程を経ないと、高い剥離効率で細胞を剥離することが出来ない。
【0055】
細胞剥離のフローを示しながら後述するが、[2]工程でインキュベートし、適時[3]工程での細胞情報の計測へ進む。その後、[4]工程の超音波照射へ進まない場合は、[2]工程に戻り、インキュベートを再開するというループを繰り返すことを行うことが好ましい。
【0056】
([3]工程)
[3]工程は、分解酵素を実質的に含まない細胞剥離液の中で、インキュベートされている、基材に接着した状態の細胞情報を計測する。
【0057】
[3]工程(細胞情報の計測)は、前記[2]工程の前に実施されてもよい。
【0058】
また、[3]工程では、次の[4]工程に進むか否かを判断するプロセスを含んでおり、以下に説明する。
【0059】
なお、[4]工程に進むか否かを判断するプロセスは、細胞を剥離する剥離工程を開始する時刻を決定する工程であればよい。ここでの時刻とは13時30分のような絶対的な時刻であってもよく、時刻を決定する時点、インキュベート工程を開始した時点、または細胞情報の取得を開始した時点から30秒後のような相対的な時刻でもよい。剥離工程を開始する時刻は、時刻を決定する時点の直後であってもよい。
【0060】
細胞情報の例としては、細胞の面積や、位相差顕微鏡画像(位相差画像とも呼ぶ)におけるハロ領域の面積、位相差画像における輝度値、斜入射照明により基材の細胞培養面を観察した際の輝度値などがあげられる。
【0061】
細胞の面積の例としては、例えば、接着している細胞の位相差画像を取得し、画像処理によって、細胞一つの専有面積を計測することで、細胞の面積を数値化することができる。
【0062】
接着している細胞は位相差画像で見ると面積が大きく写り、細胞剥離液の作用で接着力が低下している細胞は表面張力により球形に近い形をとるため、位相差画像で見ると細胞の面積が小さく写ることが知られている。この現象を利用して、位相差画像上の細胞の面積を数値化し、その変化を観察する。実施例で後述するように、細胞の種類や培養条件に応じて、細胞の面積の変化のある時点で、例えば、細胞の面積の変化率が一定となる時点で、次の([4]工程)に進むことで超音波を与えると、効果的に細胞を剥離することが可能となる。前記の細胞の面積の変化率が一定となった時点は、すなわち、基材上で培養された接着細胞を剥離するための超音波照射の最適なタイミングとなり、次の([4]工程)に進めるという判断が可能になる。
【0063】
別の細胞情報として、位相差画像における輝度値あるいはハロ領域の面積があげられる。
【0064】
細胞が接着した状態の位相差画像においては全体的に小さい位相差(細胞が平たい状態)の領域しか検出されない。一方で、剥離液が添加され、細胞の接着が弱くなり、細胞が基材から浮き上がった周囲では位相差が大きくなり、他に比べて画像輝度値が高くなるハロ領域がみられることが知られている。すなわち、細胞の接着が弱くなれば、ハロ領域の面積が増え、その値は一定に近づく。例えば、ハロ領域を計測し、ハロ領域の面積が一番高くなる時点で超音波を与えればよい。あるいは、画像の輝度値を計測し、画像の輝度値が一番明るい時点で超音波を与えてもよい。
【0065】
ここで、ハロ領域について、追加の説明をする。位相差顕微鏡で細胞を観察したとき、細胞と細胞の存在しない領域との間にハロと呼ばれる(ハローとも呼ばれる)光の輪郭が生じる。細胞の位相差観察においては、ハロは相対的に輝度が高く、アーティファクトであるが、上述したように細胞の接着状態と関係するために、細胞情報として有用である。
【0066】
位相差画像における輝度値あるいはハロ領域の面積の数値化は、例えば、ImageJ(National Institutes of Health, NIH)などの画像処理ソフトウェアで行うことができる。
【0067】
処理の一例を説明する。まず位相差顕微鏡で細胞の明視野像を撮影する。次に、ImageJに、画像ファイルを取り込む。画像を、8ビットグレイスケール画像に変換する。ここで、画像内の輝度の最大値から最小値の範囲が、0から255に比例配分される。次に、関心領域を選択しても良く、ImageJにおいては、ROI(Region of Interest 関心領域)マネージャーを用いて、画像内の複数の対象物を選択できる。次に、Measure(計測)を実施する。ここで得られる輝度値とは、単位ピクセルあたりの輝度値や、各ピクセルの輝度値と対象物の面積の積の値である。Integrated Density(輝度の総和)にて、画像の輝度値が数値化できる。本発明の実施形態に係る輝度値の一例は、Integrated Densityである(以後、輝度値と略す)。輝度値は、平均相対値となり、単位として無次元や画素数などが適宜用いられる(数値化の方法に依存する)。
【0068】
後述する実施例における、位相差画像の輝度値は、計測対象物の面積と平均輝度の積で表されている。適宜、Threshold(閾値)の設定を行うことで、計測対象物とバックグラウンド(背景)に分割して、計測対象物の輝度値のみを求めることもできる。
【0069】
ハロ領域の面積の計測方法の一例を説明する。8ビットグレイスケール画像について、Threshold(閾値)の設定を行う。ここでは、ハロ領域とバックグラウンド(背景)に分割する。目視でハロ領域を抽出しても良いし、各種の閾値設定法を指定し、自動でハロ領域を抽出することもできる。次に、抽出されたハロ領域の面積率を求める。Measure(計測)を実施することで、抽出されたハロ領域の面積率が%Areaとして数値化される。
【0070】
また別の細胞情報として、斜入射照明により基材の細胞培養面を観察した際の輝度値があげられる。細胞剥離液の作用で接着力が低下している細胞は、仮足が縮み、基材との微視的な接着面が減少するため、基材と細胞との界面で光が散乱しやすくなる。よって、散乱光の比率が高くなる斜入射照明を用いて観察すると、細胞の接着状態が弱くなれば、基材の細胞培養面の輝度値が高くなり、その値は一定に近づく。したがって、斜入射照明で観察したときの基材の細胞培養面の輝度値を計測し、輝度値が一定となった時点で超音波を与えてもよい。
【0071】
実施例で後述するように、細胞の種類や培養条件に応じて、計測した細胞情報の変化の特徴的な時点で、例えば、細胞の面積の変化率が一定となる時点で、次の([4]工程)に進むことで超音波を与えると、効果的に細胞を剥離することが可能となる。前記の細胞の面積の変化率が一定となった時点は、すなわち、基材上で培養された接着細胞を剥離するための超音波照射の最適なタイミングとなり、次の([4]工程)に進めるという判断が可能になる。
【0072】
細胞の種類や培養条件に応じて、予め、この細胞の変化率の閾値を求めておくことで、細胞剥離を自動化することが容易になる。すなわち、細胞の細胞情報を計測し、細胞情報が閾値を超えた場合に、前記接着細胞に対して超音波を照射する次の([4]工程)に進めるための超音波照射タイミング判断方法、ならびにそれを実施するための超音波照射判断装置が本発明の実施形態に含まれる。
【0073】
細胞情報は様々なパラメーターを採用することができる。個々の細胞の面積、個々の細胞のサイズ、個々の細胞の真円度、個々の細胞の光透過度、細胞集団の占有面積、細胞画像の輝度値、細胞が存在していない領域の面積、ハロ領域の面積、ハロに基づく画像の輝度値、斜入射照明で基材の細胞培養面を観察した画像の輝度値などである。
【0074】
細胞情報は、様々な方法で計測できる。例えば、位相差顕微鏡を用いて細胞の位相差画像を取得し、この画像を解析することで、様々な上記細胞情報を計測することが可能になる。また、基材の細胞培養面に対して斜入射で照明する照明手段と、培養面に対して鉛直方向に配置される観察手段によって基材培養面の輝度値を計測することができる。なお、照明手段と観察手段の位置は細胞培養面での散乱光を受光しやすい配置であれば、基材を挟んで対向する位置に配置してもよいし、同じ向きに配置してもよい。さらに照明手段としてリング照明を用いることで、培養面内の輝度のムラを減らすことができる。
【0075】
(細胞情報として細胞面積の計測例)
細胞剥離液に交換した直後から、経時的に細胞の位相差画像を取得した。特定の細胞をマーキングし、この細胞の面積を画像処理ソフトで定量した。細胞剥離液と接触した直後(インキュベート時間ゼロ)の細胞の面積をA1とする。細胞剥離液中でのインキュベート時間tの細胞の面積をA2とする。
【0076】
このように求めた細胞面積は、細胞の基材との接着が弱くなるにつれて、経時的に小さくなっていく。例えば、237平方マイクロメートルであった細胞面積が、10分間のインキュベートで113平方マイクロメートルまで低下した。インキュベートを継続したところ、約100平方マイクロメートルで変化しなくなった。よって、細胞面積が約100平方マイクロメートルとなる時点で、[4]工程の超音波照射へ進めることを判断できる。
【0077】
(細胞情報として細胞面積の変化率の計測例)
細胞剥離液に交換した直後から、経時的に細胞の位相差画像を取得した。特定の細胞をマーキングし、この細胞の面積を画像処理ソフトで定量した。細胞剥離液と接触した直後(インキュベート時間ゼロ)の細胞の面積をA1とする。細胞剥離液中でのインキュベート時間tの細胞の面積をA2とする。細胞面積の変化率を以下の式(I)で求めた。
(A1-A2)/A1・・・(I)
【0078】
このように求めた細胞面積の変化率は、細胞の基材との接着が弱くなるにつれて、経時的に大きくなっていく。例えば、インキュベート1分間では、0.15であったが、インキュベート5分間では、0.5程度で一定となる。よって、0.5となる時点で、[4]工程の超音波照射へ進めることを判断できる。
【0079】
細胞種や培養条件に応じて、細胞情報を閾値として、あらかじめ設定することができる。例えば、上記の例において、細胞面積の変化率の閾値を0.5と設定しておく。
【0080】
細胞剥離の際、[3]工程において、細胞情報を計測し、0.5となった時点で、[4]工程に進むことを判断することができる。
【0081】
(細胞情報としてハロ領域の面積率の計測例)
細胞剥離液に交換した直後から、経時的に細胞の位相差画像を取得した。これらの細胞の位相差画像を画像処理ソフトで、適宜、二値化、閾値設定、エリア測定を行うことで、ハロ領域の面積率を計測した。輝度値は、細胞情報の取得手段に依存するもので、それらは平均相対値であることが一般的であるが、単位として無次元や画素数などが適宜用いられる。例えば、単位ピクセルあたりの輝度値や、各ピクセルの輝度値と対象物の面積の積の値である。輝度値の計測に関しては、各種の画像処理ソフトウェアを用いることで、数値化することが可能である。例えば、ImageJ(National Institutes of Health, NIH)などの画像処理ソフトウェアで行うことができる。
【0082】
このように求めたハロ領域の面積率は、細胞の基材との接着が弱くなるにつれて、経時的に大きくなっていく。例えば、細胞剥離液中でのインキュベート時間30秒の位相差画像のハロ領域面積率は2.8%であった。細胞剥離液中でのインキュベート時間5分の位相差画像のハロ領域面積率は49.9%であった。インキュベート時間をこれ以上増やしても、ハロ領域面積率は増加しなかった。よって、ハロ領域面積率49.9%となる時点で、[4]工程の超音波照射へ進めることを判断できる。
【0083】
(細胞情報として位相差画像の輝度値の計測例)
細胞剥離液に交換した直後から、経時的に細胞の位相差画像を取得した。
【0084】
これらの細胞の位相差画像の輝度値を画像処理ソフトで、二値化、閾値設定、輝度測定を行うことで、位相差画像の輝度値を計測した。
【0085】
このように求めた位相差画像の輝度値は、細胞の基材との接着が弱くなるにつれて、ハロ領域が増えるために、経時的に大きくなっていく。例えば、細胞剥離液中でのインキュベート時間30秒の位相差画像の輝度値は7.2であった。細胞剥離液中でのインキュベート時間5分の位相差画像の輝度値は127.2であった。インキュベート時間をこれ以上増やしても、位相差画像の輝度値は増加しなかった。よって、位相差画像の輝度値127.2となる時点で、[4]工程の超音波照射へ進めることを判断できる。
【0086】
(細胞情報として斜入射照明観察像の輝度値の計測例)
細胞剥離液に交換した直後から、経時的に斜入射により照明した細胞培養面の観察像を取得した。基材の細胞培養面全体を画像処理ソフトで、輝度測定を行うことで、輝度値を計測した。
【0087】
このように求めた斜入射照明で観察される細胞培養面の輝度値は、細胞の基材との接着が弱くなるにつれて、散乱光強度が増していくため、経時的に大きくなっていく。例えば、細胞剥離液中でのインキュベート時間30秒の基材の培養面全体の輝度の平均値は96.2であった。細胞剥離液中でのインキュベート時間5分の基材の培養面全体の輝度の平均値は108.0であった。インキュベート時間をこれ以上増やしても、培養面全体の輝度の平均値はほとんど増加しなかった。よって、散乱光観察像の基材培養面の輝度の平均値108.0となる時点で、[4]工程の超音波照射へ進めることを判断できる。
【0088】
([4]工程)
[4]工程は、接着細胞に対して超音波を照射することによって、基材から細胞を剥離する。
【0089】
(超音波による振動)
本実施形態において超音波による振動として、国際公開第2016-047368号に記載されているように、10kHzないし1MHz程度の周波数をもつ振動を例示できる。振動発生手段は、細胞に超音波による振動を与えることができる手段であれば、特に制限なく用いることができる。一例として特開2008-92857号公報に記載されているように、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等の超音波発振子を挙げることができる。
【0090】
ここで、特開2006-314204号公報に記載されているように、培地が充填されて密閉された培養容器の外面に、振動子を直接当接されて、培養容器に振動を与えることができる。他には、国際公開第2016-047368号に記載されているように超音波照射手段を直接容器に接触させるのではなく、超音波照射手段と処置対象領域との間に超音波伝達物質を介在させて、超音波を、剥離対象たる細胞に入射させることもできる。
【0091】
(超音波による振動を与えることによる細胞剥離)
[4]工程は、細胞に対して超音波による振動を与えることによって、前記基材から前記細胞を剥離する。
【0092】
本実施形態に係る細胞剥離方法の[4]工程は、上記の超音波による振動を与える工程以外にも培養液への対流等の外部刺激を与える工程を含んでいても良い。培養液への対流を生じさせる方法としては、ピペッティングやポンプ、撹拌翼を用いる等が挙げられる。
【0093】
前記[4]工程の超音波による振動を与える時間としては特に限定はないが、細胞を効果的に剥離し、細胞の生存率も高める観点からは、例えば1秒~1時間、好ましくは5秒~30分、さらに好ましくは10秒~15分である。
【0094】
前記[4]工程の環境温度としては特に限定はないが、細胞生存率を維持する観点からは、20~40℃が好ましく、特に30.0℃以上37.5℃以下であることが好ましい。これにより、細胞剥離時の温度が培養時の温度と近く、細胞への温度変化による影響を少なくでき、生存率を高く保つことができるためである。
【0095】
(超音波による振動)
(細胞剥離フロー1)
本発明の一実施形態に係る細胞剥離方法の一例を、図2に示すフローチャートに従い、以下のように実施する。
【0096】
まず、[1]工程である、培養基材に細胞剥離液を添加する(S201)。次に、手動あるいはロボット操作などにより、培養基材は、細胞情報取得部(画像取得部など)に移送される。細胞情報取得部において、培養基材内の所定位置の画像(位相差画像など)を撮像して第1の画像を得る(S202)。第1の画像から、細胞面積A1を求める(S203)。ここで画像処理装置を用いてもよい。ここでは、[3]工程(細胞情報の計測)が[2]工程の前に実施されているが、特に問題はない。
【0097】
次に、[2]工程である、所定時間インキュベートするステップが行われる(S204)。
【0098】
続いて、[3]工程である、所定時間経過後、インキュベートが継続中に、S202と同様にして、第1の画像と同じ位置の画像を撮像し第2の画像を得る(S205)。第2の画像から、細胞面積A2を求める(S206)。
【0099】
次いで、作業者あるいは画像処理装置において、細胞面積の変化率X((A1-A2)/A1)を求める(S207)。求めた変化率Xは、作業者による確認あるいは超音波照射判断装置に送られ、作業者あるいは超音波照射判断装置はこれらの変化率に基づいて、予め設定していた閾値と比較する(S208)。変化率Xが閾値より小さい場合には、処理はS204に戻り、再びS204から208が繰り返される。そして、変化率Xが閾値より大きいか等しい場合には、培養基材は超音波照射部に移送され、そこで培養基材に超音波が照射される(S209)。すなわち、[4]工程が実施される。その後、剥離した細胞を含む細胞懸濁液を回収することで、細胞剥離が終了する。
【0100】
(細胞剥離フロー2)
本発明の一実施形態に係る細胞剥離方法の一例を、図3に示すフローチャートに従い、以下のように実施する。
【0101】
まず、[1]工程である、培養基材に細胞剥離液を添加する(S301)。次に、[2]工程である、所定時間インキュベートするステップが行われる(S302)。
【0102】
続いて、[3]工程である、所定時間経過後、インキュベートが継続中に、培養基材内の所定位置の細胞の位相差画像を、位相差顕微鏡を用いて撮像して第1の画像を得る(S303)。第1の画像から、細胞の輝度値あるいはハロ領域面積率を算出する(S304)。次いで、算出した細胞の輝度値あるいはハロ領域面積率Xを、予め設定していた閾値と比較する(S305)。Xが閾値より小さい場合には、処理はS301に戻り、再びS3010、S303~S305が繰り返される。そして、Xが閾値より大きいか等しい場合には、培養基材は超音波照射部に移送され、そこで培養基材に超音波が照射される(S306)。すなわち、[4]工程が実施される。その後、剥離した細胞を含む細胞懸濁液を回収することで、細胞剥離が終了する。
【0103】
(細胞剥離フロー3)
本発明の一実施形態に係る細胞剥離方法の一例を、図4に示すフローチャートに従い、以下のように実施する。
【0104】
まず、[1]工程である、培養基材に細胞剥離液を添加する(S601)。次に、[2]工程である、所定時間インキュベートするステップが行われる(S602)。
【0105】
続いて、[3]工程である、所定時間経過後、インキュベートが継続中に、培養基材の培養面を、斜入射照明により観察像を撮像して、第1の画像を得る(S603)。第1の画像から、培養面の輝度の平均値を算出する(S604)。次いで、算出した輝度値Xを、予め設定していた閾値と比較する(S605)。Xが閾値より小さい場合には、処理はS602に戻り、再びS40、S603~S605が繰り返される。そして、Xが閾値より大きいか等しい場合には、培養基材は超音波照射部に移送され、そこで培養基材に超音波が照射される(S606)。すなわち、[4]工程が実施される。その後、剥離した細胞を含む細胞懸濁液を回収することで、細胞剥離が終了する。
【0106】
(細胞剥離後の処理)
基材に接着した細胞に対して超音波による振動を与えることによって、前記基材から前記細胞を剥離する[4]工程のあと、剥離した細胞は、新しい基材、ディッシュ、フラスコ等の培養容器に播種されても良いし、細胞の標識などの工程に進めても良い。また、細胞数や細胞生存率の測定のためのサンプルとしても良い。さらに、得られた細胞が会合して細胞塊の状態となる場合では、適宜、細胞の単一化処理を行っても良い。
【0107】
(情報処理システムの構成)
図5は、本発明の実施形態に係るプログラムを実行可能な情報処理システム110のハードウェア構成例を示すブロック図である。情報処理システム110は情報処理装置の一例であり、タンパク質分解酵素を実質的に含まない細胞剥離液に接触した状態の細胞に関する情報を取得する情報取得部と、細胞に関する情報に基づいて細胞に振動を付与する時刻を決定する決定部と、を含む。情報取得部と決定部の機能は、例えば、CPU1101によって実現される。
【0108】
情報処理システム110は、コンピュータの機能を有する。例えば、情報処理システム110は、デスクトップPC(Personal Computer)、ラップトップPC、タブレットPC、スマートフォン等と一体に構成されていてもよい。
【0109】
情報処理システム110は、演算および記憶を行うコンピュータとしての機能を実現するため、CPU(Central Processing Unit)1101、RAM(Random Access Memory)1102、ROM(Read Only Memory)1103およびHDD(Hard Disk Drive)1104を備える。また、情報処理システム110は、通信I/F(インターフェース)1105、表示装置1106、および入力装置1107を備える。CPU1101、RAM1102、ROM1103、HDD1104、通信I/F1105、表示装置1106、および入力装置1107は、バス1110を介して相互に接続される。なお、表示装置1106および入力装置1107は、これらの装置を駆動するための不図示の駆動装置を介してバス1110に接続されてもよい。
【0110】
図5では、情報処理システム110を構成する各部が一体の装置として図示されているが、これらの機能の一部は外付け装置により構成されていてもよい。例えば、表示装置1106および入力装置1107は、CPU1101等を含むコンピュータの機能を構成する部分とは別の外付け装置であってもよい。
【0111】
CPU1101は、RAM1102、HDD1104等に記憶されたプログラムに従って所定の動作を行うとともに、情報処理システム110の各部を制御する機能をも有する。RAM1102は、揮発性記憶媒体から構成され、CPU1101の動作に必要な一時的なメモリ領域を提供する。ROM1103は、不揮発性記憶媒体から構成され、情報処理システム110の動作に用いられるプログラム等の必要な情報を記憶する。HDD1104は、不揮発性記憶媒体から構成され、個別独立分離区画の数や位置に関する情報、蛍光強度等の記憶を行う記憶装置である。
【0112】
通信I/F1105は、Wi-Fi(登録商標)、4G等の規格に基づく通信インターフェースであり、他の装置との通信を行うためのモジュールである。表示装置1106は、液晶ディスプレイ、OLED(Organic Light Emitting Diode)ディスプレイ等であって、動画、静止画、文字等の表示に用いられる。入力装置1107は、ボタン、タッチパネル、キーボード、ポインティングデバイス等であって、利用者が情報処理システム110を操作するために用いられる。表示装置1106および入力装置1107は、タッチパネルとして一体に形成されていてもよい。
【0113】
なお、図5に示されているハードウェア構成は例示であり、これら以外の装置が追加されていてもよく、一部の装置が設けられていなくてもよい。また、一部の装置が同様の機能を有する別の装置に置換されていてもよい。さらに、一部の機能がネットワークを介して他の装置により提供されてもよく、本実施形態を構成する機能が複数の装置に分散されて実現されるものであってもよい。例えば、HDD1104は、フラッシュメモリ等の半導体素子を用いたSSD(Solid State Drive)に置換されていてもよく、クラウドストレージに置換されていてもよい。
【0114】
(細胞剥離システム)
図7は、本発明の実施形態に係る細胞剥離システムの構成を示す図である。細胞剥離システム200は、インキュベート部201、情報取得部202、決定部203、及び、剥離部204を備える。細胞剥離システム200は後述する細胞剥離装置であってもよい。細胞剥離システム200は複数の装置から構成され、複数の装置によって細胞剥離システム200の機能が実現されてもよい。
【0115】
(細胞剥離装置)
本発明の実施形態に係る超音波を用いた細胞剥離装置の一例は、基材上で培養された細胞を剥離する細胞剥離装置であって、前記細胞が基材に接着した状態のまま、細胞剥離液に接触させる培地交換部を含む。また、細胞剥離装置は、前記細胞の細胞情報を取得・計測するための細胞情報取得部、超音波照射タイミングを判断する超音波照射判断部と、前記細胞に対して超音波による振動を与えるための超音波照射部と、を有する細胞剥離装置である。
【0116】
本発明の実施形態に係る超音波剥離装置100の構成の一例について、図6の概念図を用いて説明する。図6の構成要素は、100:細胞剥離装置、1S:超音波照射部、40:培養基材移動制御部、41:アンプ、42:ファンクションジェネレーター、43:細胞情報取得部(細胞情報解析部を含むことがある)、44:細胞培養基材、45:ピペッティング部、46:ピペッター移動制御部、47:廃液回収部、48:剥離細胞回収部(細胞培養基材)、49:剥離細胞回収部(チューブ)、50:洗浄用培地、51:培養用培地、52:細胞剥離液、53:液体輸送制御部、54:超音波照射判断部(細胞情報解析部を含むことがある)。また、P4:細胞情報取得時の培養基材の位置、P5:細胞剥離時の培養基材の位置(超音波照射部にセットされる)、P6:細胞剥離液の添加、培地交換または細胞回収時の培養基材の位置、P7:剥離細胞を新しい培養基材に播種する時の新しい培養基材の位置、P8:細胞剥離液の添加、培地交換または細胞回収時のピペッターの位置、P9:培地または細胞懸濁液の廃棄時のピペッターの位置、P10:細胞懸濁液をディッシュに播種する時のピペッターの位置、P11:細胞懸濁液をチューブに回収する時のピペッターの位置である。
【0117】
培養基材移動制御部40は、培養基材44を保持ならびに移動させるユニットである。
【0118】
培養基材移動制御部40は、細胞剥離環境の温度や湿度を制御する保温器を備えていても良く37℃に保温できる加温ユニットや加湿ユニットが例示される。培養基材44の移動のために、例えば、XYZ電動ステージが用いられる。または、培養基材44をホールドして移動させるためのロボットアームであってもよい。培養基材移動制御部40は、培養基材44を、位置P4、位置P5、および位置P6の間で水平移動させる。位置P4では、細胞情報取得部43により、培養基材44内で培養された細胞情報、例えば位相差画像を取得することができる。位置P5では、培養基材44内に対して、超音波照射部1Sによる超音波の照射が行われる。また、位置P6では、ピペッティング部45により培養基材44内の溶液が回収、あるいは各種の溶液(培地と呼ぶことがある)が培養基材44に添加される。ピペッティング部45には、培地を自動あるいは手動で排出あるいは吸引する機構を設けていても良い。ピペッティング部45は、液体を輸送できるものであれば構成に制限はなく、例えばチューブポンプであってもよい。またピペッティング部は複数備えていても良く、培地の種類や役割に応じて、独立させておいても良い。
【0119】
超音波を用いた細胞剥離のプロセスの例でさらに説明する。
【0120】
培養基材44で細胞を培養し、細胞を剥離したいタイミングとなった際、培養基材44を位置P6に配置する。適宜、培養基材移動制御部40を用いて、培養基材44を位置P4に配置して、細胞情報取得部43で細胞の様子を観察することが出来る。位置P6に配置された培養基材44には、細胞が基材に接着している。まず、培地を除去して細胞剥離液に交換する必要がある。そのため、位置P6で、ピペッティング部45により培養基材44内の培地を回収する。回収した培地は、位置P9において、廃液回収部47に捨てられる。各種の培地は、洗浄用培地50、培養用培地51、細胞剥離液52にストックされており、液体輸送制御部53により、ピペッティング部45に輸送される。ピペッティング部は上下方向に動くことで、培養基材44へアクセスすることが可能である。適宜、培養基材44のフタの開閉システムを有していても良い。培地を除去した後、適宜、基材に接着している細胞を洗浄することもできる。位置P6で、ピペッティング部45により培養基材44内に、洗浄用培地50を、液体輸送制御部53により、ピペッティング部45に輸送して、位置P6で、ピペッティング部45により培養基材44内に洗浄用培地50を添加する。上記の培地除去方法と同様にして洗浄用培地50を除去した後、位置P6で、ピペッティング部45により培養基材44内に、細胞剥離液52を添加する。
【0121】
次に、培養基材移動制御部40は、培養基材44を、位置P4に移動させる。ここで、細胞情報取得部43で細胞情報を取得しながら、細胞剥離液中で細胞をインキュベートする。適当なタイミングあるいはインキュベート中を通して、細胞情報取得部43で細胞情報を取得し、得られた細胞情報を解析し、次の剥離工程に進むか否かを判断する。判断は、超音波照射判断部54で行われる。例えば、細胞情報が、予め設定した閾値を超えなかった場合は、インキュベートを継続する。細胞情報が閾値を超えた場合は、超音波照射判断部54が超音波照射を行うことを判断して、培養基材移動制御部40に培養基材44の移動を指示し、超音波照射部1S、ファンクションジェネレーター42、アンプ41をアクティブにする指示を送信する。
【0122】
次に、培養基材移動制御部40は、培養基材44を、位置P5に移動させる。ここで、培養基材44は、超音波照射部1Sにセットされる。超音波剥離ユニットと、その超音波剥離ユニットに任意の周波数、電圧等を入力するファンクションジェネレーター42とアンプ41を組み合わせた形態が例示される。培養基材44に超音波照射部1Sから、超音波が照射され、培養基材44に接着している細胞を剥離させる。適宜、培養基材44を、位置P4に移動させて、細胞情報取得部43を用いて、細胞の剥離状態をモニターしても良い。
【0123】
細胞の剥離が終了したあと、培養基材移動制御部40は、培養基材44を、位置P6に移動させる。位置P6で、ピペッティング部45により培養基材44内の剥離細胞を含む細胞剥離液を回収する。回収した剥離細胞を含む細胞剥離液は、位置P10において、剥離細胞回収部48、例えば、位置P7に設置した新しい細胞培養基材に播種する。あるいは、位置P11において、剥離細胞回収部であるチューブ49に回収する。これらの回収された細胞は、その後の、細胞培養や細胞計測、細胞標識などのアッセイに用いられる。
【0124】
本発明の実施形態に係る超音波を用いた細胞剥離装置は、上記の細胞剥離プロセスを制御する制御部をさらに有していても良い。制御部は、細胞剥離装置100内の各部を動作制御するための手段である。例えば、制御部は、CPU等の演算処理部、RAM等のメモリ、およびハードディスクドライブ等の記憶部を有するコンピュータにより構成されていても良い。制御部には操作部も含んでいても良い。操作部は、表示部および入力部などを有していてもよい。表示部は、制御部から出力される画像データや、細胞剥離装置100の動作に関わる種々の情報を表示できる。表示部には、例えば、液晶ディスプレイが用いられる。入力部は、ユーザからの種々の指示入力を受け付ける。入力部には、例えば、キーボードやマウスが用いられる。表示部の機能および入力部の機能の双方が、タッチパネルディスプレイ等の単一のユニットであってもよい。
【0125】
(実施例)
以下、実施例、比較例をもって本発明をさらに詳細に説明するが、これは本発明を何ら限定するものではない。
【0126】
[実施例1]
(細胞の基材上の培養)
ヒト肺胞基底上皮腺癌由来A549細胞(以後、A549細胞と略す)をΦ60ポリスチレンディッシュ(コーニング社製)に10000cells/cm2の密度で播種し、37℃、CO2濃度5%の環境下で培養した。培地はDMEM(サーモフィッシャーサイエンティフィック製)にFetal Bovine Serum(シグマアルドリッチ製)を10%、ペニシリン-ストレプトマイシン(10000U/ml、サーモフィッシャーサイエンティフィック製)を1%添加したものを用いた。培養は48時間行ない、位相差顕微鏡で細胞の様子を観察し、細胞接着ならびに増殖を確認した。ディッシュの細胞占有面積率は8割程度であった。
【0127】
(細胞の剥離)
ディッシュ内の培地を除去し、剥離液としてリン酸緩衝生理食塩水(PBS(-)、サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)を、ディッシュ内に添加した。次に、ディッシュを位相差顕微鏡のステージ上にセットして、位相差画像を取得した。位相差画像から、複数の細胞に対して、細胞面積を計測した。細胞面積の計測には、画像処理ソフトImageJ(National Institutes of Health, NIH)を用いて定量化した。定量化した細胞の面積を平均化した。この細胞剥離液と接触した直後(インキュベート時間ゼロ)の細胞の面積をA1とした。
【0128】
その後、ディッシュを37℃の恒温器に置いて、インキュベートした。このインキュベートの時間を、インキュベート時間(分)とする。所定のインキュベート時間(分)で、ディッシュを恒温器から取り出し、位相差顕微鏡のステージ上にセットして、上記と同様に、位相差画像を取得し、細胞面積を定量化した。この細胞剥離液中でのインキュベート時間tの細胞の面積をA2とする。細胞面積の変化率Xを以下の式(II)で求めた。
X=(A1-A2)/A1・・・(II)
【0129】
細胞面積の変化率Xを求めたのち、超音波剥離装置にディッシュをセットし、環境温度37℃において3分間スイープ振動(周波数22-27kHz、スイープ周期1s、電圧200V)して、細胞を剥離させた。
【0130】
剥離した細胞は回収した後、血球計算盤を用いて細胞数の測定及びトリパンブルー染色による生死判別法を用いて細胞の生存率を算出した。また、超音波剥離後のディッシュに対して、セルスクレーパーを用いて超音波で剥離できなかった細胞も全て剥離し、血球計算盤で細胞数を測定した。超音波で剥離した細胞数とその後セルスクレーパーで剥離した細胞数を合わせて総剥離細胞数とし、総剥離細胞数に対する超音波剥離細胞数の割合を剥離効率と定義し、算出した。
【0131】
表1に、インキュベート時間(分)、細胞面積の変化率X、剥離した細胞の生存率(%)、ならびに細胞の剥離効率(%)を示す。
【0132】
【表1】
【0133】
表1から分かるように、細胞面積の変化率は、細胞の基材との接着が弱くなるにつれて、経時的に大きくなった。例えば、インキュベート1分間では、0.15であったが、インキュベート5分間では、0.52となった。さらにインキュベート時間20分では、0.7まで増加した。
【0134】
インキュベートを行わずに、剥離液を細胞に添加して、直ちに超音波剥離を行った結果、細胞はほとんど剥離しなかった。また剥離した少数の細胞の生存率は低かった。インキュベート時間を長くすると、細胞の剥離効率が向上した。細胞の生存率も同様であった。インキュベート時間が20分まで長くした場合、細胞の生存率が低下する傾向が見られた。
【0135】
以上の結果より、細胞を超音波剥離する際に、細胞を剥離液でインキュベートする時間は、細胞の生存率ならびに細胞剥離効率に大きく影響することが分かった。ここでは、より実用的な意味では、高い細胞生存率と高い剥離効率を両立するための、細胞面積の変化率は0.45以上であることが分かる。
【0136】
つまり、予め細胞面積の変化率Xの閾値を例えば0.4と設定して、経時的にXをモニターすることで、超音波剥離のための超音波照射タイミングを判断することが可能になる。なお、細胞面積の変化率Xの閾値を0.45以上としてもよい。本実施例においては、例えば、上記の例において、Xの閾値を0.4と設定した場合、細胞剥離の際、[3]工程において、細胞情報を計測し、Xが0.4となった時点で、[4]工程に進むことを判断することができる。Xは、細胞種や培養条件に応じて異なることがあるため、実験データを取得して、予め閾値を設定することができる。
【0137】
[実施例2]
細胞情報を、位相差画像の輝度値とする以外は、実施例1と同様にして、インキュベート時間(分)、位相差画像の輝度値、剥離した細胞の生存率(%)、ならびに細胞の剥離効率(%)の関係を調べた。位相差画像の輝度値の算出は、画像処理ソフトを用いて、位相差画像を2値化してから、平均輝度値の計測で求めることが出来る。
【0138】
結果を表2に示す。
【0139】
【表2】
【0140】
表2から分かるように、位相差画像の輝度値は、細胞の基材との接着が弱くなるにつれて、経時的に大きくなった。これは、細胞接着が弱まることで、接着状態の細胞の形状変化に伴い、画像輝度値が高いハロ領域が増えるからである。
【0141】
位相差画像の輝度値は、インキュベート0.5分間では、7.2であったが、インキュベート1分間では、32.2となった。さらにインキュベート時間5分では、127.2まで増加した。
【0142】
実施例1と同様に、細胞を剥離液でインキュベートする時間は、細胞の生存率ならびに細胞剥離効率に大きく影響することが分かった。ここでは、より実用的な意味では、高い細胞生存率と高い剥離効率を両立するための、位相差画像の輝度値は127程度であることが分かる。
【0143】
つまり、予め位相差画像の輝度値の閾値を127と設定して、経時的に輝度値をモニターすることで、超音波剥離のための超音波照射タイミングを判断することが可能になる。
【0144】
本実施例における閾値の数値は、細胞の種類、細胞培養の環境、細胞情報の種類、細胞情報の解析方法、細胞情報を取得するための機器などに応じて様々なパラメーターならびにその閾値を選択、設定することになる。
【0145】
[実施例3]
細胞情報を、斜入射照明により観察されるディッシュ培養面の平均の輝度値とする以外は、実施例1と同様にして、インキュベート時間(分)、位相差画像の輝度値、剥離した細胞の生存率(%)、ならびに細胞の剥離効率(%)の関係を調べた。培養面の平均輝度値の算出は、画像処理ソフトを用いて求めることが出来る。
【0146】
結果を表3に示す。
【0147】
【表3】
【0148】
表3から分かるように、斜入射照明によるディッシュ培養面の観察像の輝度値は、細胞の基材との接着が弱くなるにつれて、経時的に大きくなった。これは、細胞接着が弱まることで、接着状態の細胞の形状変化に伴い、基材と細胞界面での散乱光が増えるからである。
【0149】
ディッシュ培養面の輝度値は、インキュベート0.5分間では、96.5であったが、インキュベート1分間では、103.5となった。さらにインキュベート時間5分では、108.0まで増加した。
【0150】
実施例1と同様に、細胞を剥離液でインキュベートする時間は、細胞の生存率ならびに細胞剥離効率に大きく影響することが分かった。ここでは、より実用的な意味では、高い細胞生存率と高い剥離効率を両立するための、斜入射照明によるディッシュ培養面の観察像の輝度値は108程度であることが分かる。
【0151】
つまり、予めの輝度値の閾値を108と設定して、経時的に輝度値をモニターすることで、超音波剥離のための超音波照射タイミングを判断することが可能になる。
【0152】
本実施例における斜入射照明による基材培養面の観察像の閾値の数値として、様々なパラメーターならびにその閾値を選択、設定することになる。様々なパラメーターならびにその閾値は、細胞の種類、細胞培養の環境、細胞情報の種類、培養基材の種類、斜入射照明の入射角度・配置・強度などの照明方法、細胞情報の解析方法、細胞情報を取得するための機器などに応じて設定される。
【0153】
[実施例4]
細胞情報を、ハロ領域の面積率とする以外は、実施例1と同様にして、インキュベート時間(分)、ハロ領域の面積率、剥離した細胞の生存率(%)、ならびに細胞の剥離効率(%)の関係を調べた。ハロ領域の面積率の算出は、画像処理ソフトを用いて、位相差画像を2値化してから、ハロ領域の面積率の計測で求めることが出来る。
【0154】
結果を表4に示す。
【0155】
【表4】
【0156】
表4から分かるように、位相差画像からのハロ領域の面積率は、細胞の基材との接着が弱くなるにつれて、経時的に大きくなった。これは、細胞接着が弱まることで、接着状態の細胞の形状変化に伴い、画像輝度値が高いハロ領域が増えるからである。
【0157】
ハロ領域の面積率は、インキュベート0.5分間では、2.8%であったが、インキュベート1分間では、12.6%となった。さらにインキュベート時間5分では、49.9%まで増加した。
【0158】
実施例2と同様に、細胞を剥離液でインキュベートする時間は、細胞の生存率ならびに細胞剥離効率に大きく影響することが分かった。ここでは、より実用的な意味では、高い細胞生存率と高い剥離効率を両立するための、ハロ領域の面積率は49.9%程度であることが分かる。
【0159】
つまり、予めハロ領域の面積率の閾値を49.9%と設定して、経時的にハロ領域の面積率をモニターすることで、超音波剥離のための超音波照射タイミングを判断することが可能になる。
【0160】
本実施例における閾値の数値は、細胞の種類、細胞培養の環境、細胞情報の種類、細胞情報の解析方法、細胞情報を取得するための機器などに応じて様々なパラメーターならびにその閾値を選択、設定することになる。
【0161】
[実施例5]
(細胞の基材上の培養)
マウス骨格筋筋芽細胞(以後、C2C12細胞と略す)をΦ35ポリスチレンディッシュ(コーニング社製)に10000cells/cm2の密度で播種し、37℃、CO2濃度5%の環境下で培養した。培地はDMEM(サーモフィッシャーサイエンティフィック製)にFetal Bovine Serum(シグマアルドリッチ製)を10%、ペニシリン-ストレプトマイシン(10000U/ml、サーモフィッシャーサイエンティフィック製)を1%添加したものを用いた。培養は48時間行ない、位相差顕微鏡で細胞の様子を観察し、細胞接着ならびに増殖を確認した。ディッシュの細胞占有面積率は8割程度であった。
【0162】
(細胞の剥離)
ディッシュ内の培地を除去し、剥離液としてリン酸緩衝生理食塩水を、ディッシュ内に添加した。その後、ディッシュを37℃の恒温器に置いて、インキュベートした。所定のインキュベート時間(分)で、ディッシュを恒温器から取り出し、位相差顕微鏡のステージ上にセットして、位相差画像を取得した。画像解析により、細胞が接着していない領域の面積(細胞外領域の面積)を定量することで、位相差画像内における細胞外領域の面積率(%)を求めた。面積率の算出は、ImageJを用いて、位相差画像を2値化してから、閾値設定により領域を設定し、細胞外領域を定量化することができる。
【0163】
細胞情報として、細胞外領域の面積率を求めたのち、超音波剥離装置にディッシュをセットし、環境温度37℃において3分間スイープ振動(周波数22-27kHz、スイープ周期1s、電圧100V)して、細胞を剥離させた。
【0164】
剥離した細胞は、実施例1と同様に、細胞の生存率を算出した。また、細胞の剥離効率は、位相差顕微鏡で4か所以上の位置を目視観察することで評価した。視野内において、ディッシュに接着している細胞の占める面積が2割より小さい状態を、剥離効率「高」として、2割以上~6割より小さい状態を、剥離効率「中」として、6割以上の状態を、剥離効率「低」とする。
【0165】
表5に、インキュベート時間(分)、細胞外領域の面積率(%)、剥離した細胞の生存率(%)、ならびに細胞の剥離効率を示す。
【0166】
【表5】
【0167】
表5から分かるように、位相差画像からの細胞外領域の面積率は、細胞の基材との接着が弱くなるにつれて、経時的に大きくなった。これは、細胞接着が弱まることで、接着状態の細胞の形状変化に伴い、細胞外領域が増えるからである。実施例1と同様に、細胞を剥離液でインキュベートする時間は、細胞の生存率ならびに細胞の剥離効率に大きく影響することが分かった。ここでは、より実用的な意味では、高い細胞生存率と高い剥離効率を両立するための、細胞外領域の面積率は79%程度であることが分かる。つまり、予め細胞外領域の面積率の閾値を79%と設定して、経時的に細胞外領域の面積率をモニターすることで、超音波剥離のための超音波照射タイミングを判断することが可能になる。本実施例における閾値の数値は、細胞の種類、細胞培養の環境、細胞情報の種類、細胞情報の解析方法、細胞情報を取得するための機器などに応じて様々なパラメーターならびにその閾値を選択、設定することになる。
【0168】
[実施例6]
剥離液を、金属イオンキレート剤としてEDTA(0.1mM)ならびにポリエチレングリコール(平均分子量4000,濃度1.0%)を含む剥離液とする以外は、実施例5と同様にして細胞剥離を行った。また、インキュベート時間(分)、細胞外領域の面積率、剥離した細胞の生存率(%)、ならびに細胞の剥離効率の関係を調べた。
【0169】
結果を表6に示す。
【0170】
【表6】
【0171】
表6から分かるように、実施例5と同様に、例えば、高い細胞生存率と高い剥離効率を両立するための、細胞外領域の面積率は76%程度であることが分かる。つまり、予め細胞外領域の面積率の閾値を76%と設定して、経時的に細胞外領域の面積率をモニターすることで、超音波剥離のための超音波照射タイミングを判断することが可能になる。
【0172】
本明細書の開示は以下の方法及び構成を含む。
【0173】
(方法1)
基材に接着した細胞に振動を与えることによって、前記基材から前記細胞を剥離する細胞剥離方法であって、
タンパク質分解酵素を実質的に含まない細胞剥離液と前記細胞とを接触させた後に、前記細胞をインキュベートするインキュベート工程と、
前記インキュベートされた細胞に関する情報を取得する情報取得工程と、
前記細胞に関する情報に基づいて、前記インキュベートされた細胞に振動を付与する時刻を決定する決定工程と、
前記インキュベートされた細胞に振動を付与する剥離工程と、を有することを特徴とする細胞剥離方法。
【0174】
(方法2)
前記振動は、超音波帯域の振動であることを特徴とする方法1に記載の細胞剥離方法。
【0175】
(方法3)
前記細胞剥離液が、金属イオンキレート剤を含むことを特徴とする方法1または2に記載の細胞剥離方法。
【0176】
(方法4)
前記細胞剥離液が、ポリエチレングリコールを含むことを特徴とする方法1乃至3のいずれか1項に記載の細胞剥離方法。
【0177】
(方法5)
前記インキュベート工程が37℃の環境下で行われることを特徴とする方法1乃至4のいずれか一項に記載の細胞剥離方法。
【0178】
(方法6)
前記情報取得工程が、前記細胞の画像を取得する工程を含み、
前記細胞に関する情報が、前記細胞の画像における、前記細胞の領域の面積、前記細胞のハロ領域の面積、及び前記細胞の領域の輝度値の少なくともいずれか1つであることを特徴とする方法1乃至5のいずれか一項に記載の細胞剥離方法。
【0179】
(方法7)
前記輝度値が、斜入射照明により観察される前記基材の細胞を培養する面の輝度値であることを特徴とする方法6に記載の細胞剥離方法。
【0180】
(構成1)
方法1乃至7のいずれか一項に記載の細胞剥離方法をコンピュータに実行させることを特徴とするプログラム。
【0181】
(構成2)
基材に接着した細胞に振動を与えることによって、前記基材から前記細胞を剥離する細胞剥離システムであって、
タンパク質分解酵素を実質的に含まない細胞剥離液と前記細胞とを接触させた後に、前記細胞をインキュベートするインキュベート部と、
前記インキュベートされた細胞に関する情報を取得する情報取得部と、
前記細胞に関する情報に基づいて、前記インキュベートされた細胞に振動を付与する時刻を決定する決定部と、
前記インキュベートされた細胞に振動を付与する剥離部と、を有することを特徴とする細胞剥離システム。
【0182】
(構成3)
基材に接着した細胞に振動を与えることによって、前記基材から前記細胞を剥離する細胞剥離装置を制御する情報処理装置であって、
タンパク質分解酵素を実質的に含まない細胞剥離液に接触した状態の細胞に関する情報を取得する情報取得部と、
前記細胞に関する情報に基づいて、前記細胞に振動を付与する時刻を決定する決定部と、を有することを特徴とする情報処理装置。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7