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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023111866
(43)【公開日】2023-08-10
(54)【発明の名称】検査装置および検査方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/22 20180101AFI20230803BHJP
   G01N 23/223 20060101ALI20230803BHJP
   G01N 23/18 20180101ALI20230803BHJP
   H01J 35/08 20060101ALI20230803BHJP
   G21K 5/02 20060101ALI20230803BHJP
【FI】
G01N23/22
G01N23/223
G01N23/18
H01J35/08 F
H01J35/08 E
G21K5/02 X
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023001301
(22)【出願日】2023-01-06
(31)【優先権主張番号】P 2022013653
(32)【優先日】2022-01-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000227294
【氏名又は名称】キヤノンアネルバ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】塚本 健夫
【テーマコード(参考)】
2G001
【Fターム(参考)】
2G001AA01
2G001BA04
2G001BA05
2G001CA01
2G001DA09
2G001GA01
2G001KA05
2G001LA11
(57)【要約】
【課題】検査対象面に存在する異物を高い感度で検出するために有利な技術を提供する。
【解決手段】検査面に配置された検査対象面を検査する検査装置は、電子線が照射されることによってX線を発生するX線発生部を含むターゲットを有し、前記検査面に向けてX線を放射するX線発生管と、前記X線発生部からのX線が照射された前記検査対象面に存在する異物から放射され前記検査対象面で全反射されたX線を検出するX線検出器と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
検査面に配置された検査対象面を検査する検査装置であって、
電子線が照射されることによってX線を発生するX線発生部を含むターゲットを有し、前記検査面に向けてX線を放射するX線発生管と、
前記X線発生部からのX線が照射された前記検査対象面に存在する異物から放射され前記検査対象面で全反射されたX線を検出するX線検出器と、を備える、
ことを特徴とする検査装置。
【請求項2】
前記X線検出器からの出力に基づいて前記異物を検出する処理を行うプロセッサを更に備える、
ことを特徴とする請求項1に記載の検査装置。
【請求項3】
前記プロセッサは、前記異物を構成する物質を特定する処理を更に行う、
ことを特徴とする請求項2に記載の検査装置。
【請求項4】
前記検査面と前記X線発生部との距離が5mm以下である、
ことを特徴とする請求項1に記載の検査装置。
【請求項5】
前記検査面と前記X線発生部との距離が3mm以下である、
ことを特徴とする請求項1に記載の検査装置。
【請求項6】
前記X線発生部からのX線が前記検査面に入射する位置と前記X線検出器のX線取込部を結ぶ仮想線と前記検査面とがなす角度が5°以下である、
ことを特徴とする請求項1に記載の検査装置。
【請求項7】
前記X線発生部からのX線が前記検査面に入射する位置と前記X線検出器のX線取込部を結ぶ仮想線と前記検査面とがなす角度が2°以下である、
ことを特徴とする請求項1に記載の検査装置。
【請求項8】
前記仮想線の上にスリットを有するスリット部材を更に備える、
ことを特徴とする請求項6に記載の検査装置。
【請求項9】
前記X線発生部から放射され、前記検査対象面を有する検査対象物を透過したX線を検出するX線検出パネルを更に備える、
ことを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の検査装置。
【請求項10】
前記X線発生管は、密閉透過型である、
ことを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の検査装置。
【請求項11】
前記X線発生管は、前記ターゲットを保持するターゲット保持板を備え、前記ターゲット保持板の厚さは、4mm以下である、
ことを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の検査装置。
【請求項12】
前記ターゲット保持板は、ダイヤモンドを含む、
ことを特徴とする請求項11に記載の検査装置。
【請求項13】
検査面に配置された検査対象面を検査する検査方法であって、
前記検査面に向けてX線を放射し、前記検査対象面に存在する異物から放射され前記検査対象面で全反射されたX線をX線検出器によって検出するX線検出工程と、
前記X線検出器の出力を処理する処理工程と、を含む、
ことを特徴とする検査方法。
【請求項14】
前記処理工程は、前記異物を検出する工程を含む、
ことを特徴とする請求項13に記載の検査方法。
【請求項15】
前記処理工程は、前記異物を構成する物質を特定する工程を含む、
ことを特徴とする請求項13に記載の検査方法。
【請求項16】
前記検査対象面を有する検査対象物を透過したX線をX線検出パネルで検出する工程を更に含み、
前記処理工程では、前記X線検出器の出力および前記X線検出パネルの出力を処理する、
ことを特徴とする請求項13乃至15のいずれか1項に記載の検査方法。
【請求項17】
前記処理工程は、前記X線検出パネルの出力に基づいて、前記異物の存在および前記異物の位置を検出する工程を含む、
ことを特徴とする請求項16に記載の検査方法。
【請求項18】
前記処理工程は、前記X線検出パネルの出力に基づいて、前記異物の存在、前記異物の位置、および、前記異物のサイズを検出する工程を含む、
ことを特徴とする請求項16に記載の検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検査装置および検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、対物レンズによって電子線をX線発生用のターゲットに集束させ、ターゲットから発生したX線を試料に照射することによって試料から発生する蛍光X線を検出する検出器と、検出器の検出結果から蛍光X線を分析する分析部とを具備した蛍光X線分析機能付き高分解能X線顕微装置が記載されている。また、特許文献1には、検出器の全部又は一部を対物レンズの磁気回路内に組み込むことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009-236622号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、例えば数十μm以下の寸法を有する異物が製品に取り込まれ、これが欠陥を引き起こすことが問題なっている。例えば、リチウムイオン電池では、炭素、銅、アルミニウムを原料とする構成部材に対し、ステンレスあるいは構成部材の一部が微細化した異物が製造時に電池内に取り込まれることがある。
【0005】
リチウムイオン電池の製造時に異物が電池内に取りこまれると、電池が出荷された後に、電池内の絶縁を保つセパレーターが異物の振動によって破れる場合がある。このような場合において、その電池はショート状態となり、発火したり爆発したりする可能性がある。
【0006】
異物を非破壊で検出することができれば、発火したり爆発したりする可能性がある製品を流通させることを防止することができる。X線を用いて試料の表面上に存在する異物を検出し、その元素を特定する方法として、蛍光X線法(別名XRF)や斜入射蛍光X線法(別名TXRF)がある。蛍光X線法では、試料基板の元素も励起してしまい、斜入射蛍光X線法では、入射X線が異物で散乱してしまう。したがって、これらの計測方法では、異物により発生した蛍光X線の強度比が弱くなるという問題があった。
【0007】
本発明は、検査対象面に存在する異物を高い感度で検出するために有利な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の1つの側面は、検査面に配置された検査対象面を検査する検査装置に係り、前記検査装置は、電子線が照射されることによってX線を発生するX線発生部を含むターゲットを有し、前記検査面に向けてX線を放射するX線発生管と、前記X線発生部からのX線が照射された前記検査対象面に存在する異物から放射され前記検査対象面で全反射されたX線を検出するX線検出器と、を備える。
【0009】
本発明の他の1つの側面は、検査面に配置された検査対象面を検査する検査方法に係り、前記検査方法は、前記検査面に向けてX線を放射し、前記検査対象面に存在する異物から放射され前記検査対象面で全反射されたX線をX線検出器によって検出するX線検出工程と、前記X線検出器の出力を処理する処理工程と、を含む。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、検査対象面に存在する異物を高い感度で検出するために有利な技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施形態の検査装置の構成を模式的に示す図。
図2】実施形態の検査装置の具体的な構成例を示す図。
図3】X線発生管の構成例を模式的に示す図。
図4図2の検査装置の一部を拡大した模式図。
図5図4の検査装置の一部を拡大した模式図。
図6】距離Dxs(横軸)とX線検出器で検出される異物のカウント数(縦軸)との関係を例示する図。
図7】実施形態の検査装置の具体的な構成例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して実施形態を詳しく説明する。尚、以下の実施形態は請求の範囲に係る発明を限定するものでない。実施形態には複数の特徴が記載されているが、これらの複数の特徴の全てが発明に必須のものとは限らず、また、複数の特徴は任意に組み合わせられてもよい。さらに、添付図面においては、同一若しくは同様の構成に同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0013】
図1には、実施形態の検査装置IAの構成が模式的に示されている。検査装置IAは、例えば、検査面IPに配置された検査対象面TSを検査する検査装置として構成されうる。ここで、検査面IPは、検査対象面TSを配置すべき面であり、検査対象面TSは、検査対象物ITの1つの面である。検査装置IAは、X線発生管101を備えうる。X線発生管101は、電子線が照射されることによってX線を発生するX線発生部XGを含むターゲット(不図示)を有し、検査面IPに向けてX線XRを放射する。X線発生部XGからのX線XRが照射された異物FSは、異物FSを構成する物質に応じたX線を発生し、このようなX線は、蛍光X線あるいは特性X線とも呼ばれる。X線XRが照射された異物FSが発生したX線の一部は、検査対象面TSで全反射される。異物FSから放射され検査対象面TSで全反射されたX線は、X線XFとして示されている。検査装置IAは、X線検出器120を備えうる。X線検出器120は、X線発生部XGからのX線XRが照射された検査対象面TSに存在する異物FSから放射され検査対象面TSで全反射されたX線XFを検出するように構成されうる。検査装置IAは、X線検出器120からの出力に基づいて異物FSを検出する処理を行うプロセッサを更に備えうる。該プロセッサは、X線検出器120からの出力に基づいて異物FSを構成する物質を特定する処理を更に行いうる。該プロセッサは、例えば、検査装置IAの動作を制御する制御部によって実現されうる。
【0014】
図2には、図1に示される検査装置IAをより具体化した構成例が示されている。検査装置IAは、X線発生装置100と、X線検出器120と、制御部140とを備えうる。X線発生装置100は、X線発生管101と、X線発生管101を駆動する駆動回路103とを備えうる。X線発生装置100は、昇圧された電圧を駆動回路103に供給する昇圧回路102を更に備えうる。X線発生装置100は、X線発生管101、駆動回路103および昇圧回路102を収納する収納容器(不図示)を更に備え、該収納容器の中には絶縁油等の絶縁流体が充填されうる。制御部140は、X線発生装置100およびX線検出器120を制御するように構成されうる。制御部140はまた、上記のプロセッサの機能を備えることができる。より具体的には、制御部140は、X線検出器120からの出力に基づいて異物FSを検出する処理を行いうる。また、制御部140は、X線検出器120からの出力に基づいて異物FSを構成する物質を特定する処理を更に行いうる。制御部140は、例えば、FPGA(Field Programmable Gate Arrayの略。)などのPLD(Programmable Logic Deviceの略。)、又は、ASIC(Application Specific Integrated Circuitの略。)、又は、プログラムが組み込まれた汎用又は専用のコンピュータ、又は、これらの全部または一部の組み合わせによって構成されうる。
【0015】
検査装置IAは、X線発生部XGから放射され、検査対象面TSを有する検査対象物ITを透過したX線を検出するX線検出パネル130を更に備えてもよい。制御部140は、X線検出パネル130からの出力に基づいて、検査対象物ITを透過したX線の画像(検査対象物ITの透過画像)を生成し、該画像に基づいて、検査対象面TSに存在する異物FSを検出するように構成されうる。X線検出パネル130を用いることにより、検査対象物ITの内部に存在する異物や、検査対象面TSとは反対側の面に存在する異物も検出することもできる。制御部140は、異物FSの存在を検出する他、異物FSの位置および/またはサイズを検出するように構成されうる。X線検出器120に加えてX線検出パネル130を備えることにより、X線検出器120では検出できない異物FSをX線検出パネル130によって検出することができるので、異物FSを検出する確度を向上させることができる。また、一つのX線発生管から放射されるX線を用いて透過画像の取得と異物の検出とを行う検査装置IAは、透過画像の取得と異物の検出とを個別に行う2つの装置を有するシステムと比較して、小型化およびコスト削減の観点で有利である。
【0016】
検査装置IAは、表示部150を更に備えてもよく、制御部140は、X線検出器120の出力に基づいて特定された異物FSの構成物質を示す情報を表示部150に表示させるように構成されうる。制御部140はまた、X線検出パネル130からの出力に基づいて生成された検査対象物ITの透過画像を表示部150に表示させるように構成されうる。制御部140はまた、X線検出パネル130からの出力に基づいて検出された異物の位置および/またはサイズを示す情報を表示部150に表示させるように構成されうる。制御部140は、単体のユニットで構成されもよいし、複数のユニットに分割されて構成されてもよい。
【0017】
図3には、X線発生管101の構成例が模式的に示されている。X線発生管101は、電子銃EGと、電子銃EGからの電子が衝突することによってX線を発生するX線発生部XGを含むターゲット933を有するアノード93と、絶縁管92とを備えうる。X線発生管101において、絶縁管92の2つの開口端の一方を閉塞するようにアノード93が配置され、絶縁管92の2つの開口端の他方を閉塞するように、電子銃EGを含む閉塞部材91が配置されうる。絶縁管92の外側には、電子銃EGからの電子の流れ(電子線)を偏向させる偏向器94が配置されてもよい。図3に示されたX線発生管101は、絶縁管92の内部空間が真空状態に維持され、X線がターゲット933および後述するターゲット保持板932を透過する密閉透過型のX線発生管の一例であるが、X線発生管101としては、非密閉の開放型、または、非透過の反射型のX線発生管が採用されてもよい。
【0018】
偏向器94は、X線発生管101の外側に配置されうる。X線発生管101の軸AXに平行な方向に関しては、偏向器94は、アノード93とカソード(不図示)との間に設けられうる。X線発生管101の軸AXに平行な方向に関して、一例において、偏向器94は、電子銃EGとターゲット933との間に設けられる。具体的には、偏向器94を横切る仮想平面97は、電子銃EGの先端に接する仮想平面95とターゲット933の一部に接する仮想平面96に挟まれた空間に位置しうる。仮想平面95、仮想平面96、仮想平面97は、X線発生管101の軸AXに直交する平面である。
【0019】
アノード93は、ターゲット933と、ターゲット933を保持するターゲット保持板932と、ターゲット保持板932を保持する電極931とを含みうる。電極931は、ターゲット933に電気的に接続されていて、ターゲット933に電位を与えうる。ターゲット933は、電子銃EGから放出された電子(電子線)がターゲット933に衝突することによってX線を発生する。X線発生部XGは、ターゲット933の表面における電子(電子線)が衝突する部分である。X線発生部XGで発生したX線は、ターゲット保持板932を透過してX線発生管101の外部に放射される。アノード93は、例えば、接地電位に維持されうるが、他の電位に維持されてもよい。
【0020】
ターゲット933は、金属材料で構成される。ターゲット933は、融点が高い材料、例えば、タングステン、タンタルまたはモリブデン等で構成されることが望ましく、これはX線の発生効率の向上に寄与する。ターゲット保持板932は、X線を透過し易い材料、例えば、ベリリウムまたはダイヤモンド等で構成されうる。ターゲット保持板932は、ダイヤモンドで構成されることが望ましく、これにより、ターゲット保持板932の強度を保ちつつ厚さを薄くすることができ、検査面IP(検査対象面TS)とターゲット933(X線発生部XG)との距離を近づけることができうる。ターゲット保持板932の厚さは、薄いことが望ましい。具体的には、ターゲット保持板932の厚さは、4mm以下であることが望ましく、2mm以下、1mm以下、0.3mm以下であることが更に望ましい。これらのターゲット保持板932の厚さは、後述する異物に含まれる元素を特定するために必要なX線発生部XGから検査面IPまでの距離を参考に設定されうる。異物に含まれる元素を特定するためには、ターゲット保持板932は限り無く薄いことが望ましいが、ターゲット保持板932の加工コストや個体差、絶縁管92の内部空間を真空状態に維持するための強度等の観点からは厚いことが望ましい。そのため最適なターゲット保持板932の厚さを使用することが望ましい。なお、図3は、ターゲット933の厚さとターゲット保持板932の厚さとの関係を示すことを意図したものでない。例えば、ターゲット933の厚さは数μmであってもよく、ターゲット保持板932の厚さは数百μmであってもよい。
【0021】
図4は、図2の検査装置IAの一部を拡大した模式図である。検査対象面TSには、異物FSが存在しうる。検査対象面TSで全反射するように異物FSから放射され検査対象面TSで全反射したX線(特性X線)XFは、X線検出器120のX線取込部121に入射する。一方、X線(特性X線)XFを検出するように配置されたX線検出器120のX線取込部121には、X線発生部XGからのX線XRの照射によって検査対象物IT自体から発生しうる蛍光X線は、殆ど入射しない。したがって、異物FSから放射されX線検出器120によって検出されるX線(特性X線)XFに対する検査対象物IT自体から放射されX線検出器120によって検出される蛍光X線の比率をきわめて小さくすることができる。
【0022】
X線検出器120は、シリコンドリフト型検出器(SDD)であってもよいし、CdTe検出器またはCdZnTe検出器であってもよい。X線検出器120は、エネルギー分散型検出器であってもよい。X線検出器120がエネルギー分散型検出器である場合、制御部(あるいはプロセッサ)140は、エネルギー分散の元素プロファイル(エネルギー毎のカウント値)から異物FSを構成する物質あるいは元素を決定することができる。制御部(あるいはプロセッサ)140には、異物FSを構成する物質あるいは元素を決定するために、市販のソフトウェアが組み込まれてもよい。そのようなソフトウェアとしては、例えば、AMETEK社の”XRS-FP Quantitative XRF Analysis Software”、または、Uniquant社製のソフトウェアを挙げることができる。
【0023】
異物FSからの蛍光X線が検査対象面TSで全反射されるためには、異物FSからの蛍光X線が検査対象面TSに入射する角度が全反射臨界角θ以下である必要がある。
【0024】
【数1】
【0025】
ここで、
θ:全反射臨界角
:電子の古典半径(2.818×10-15m)
:アボガドロ数
λ:X線の波長
ρ:密度(g/cm
Zi,Mi,xi:i番目の原子の原子番号,原子量および原子数比(モル比)
f’:i番目の原子の原子散乱因子(異常分散項)
【0026】
理論上、検査対象面TSが金属である場合の全反射臨界角は、おおむね1°以下であるが、現実には、金属表面は酸化または炭化されている場合や、グラファイト層で覆われている等により理論値とは異なる反射臨界角となる場合が多い。検査対象面TSに対してX線XRを照射した場合に、全反射条件を満たしている場合は、検査対象面TSと、異物FSから放射され検査対象面TSで全反射された特性X線XFとの角度(全反射臨界角)は、5°以下であることが実験を通して確認された。ここで、異物FSは、X線発生部XGと検査面IP(検査対象面TS)との距離DXSに比べてきわめて小さいので、異物FSから放射され検査対象面TSで全反射される位置は、X線発生部XGからのX線XRが検査面IPに入射する位置と見做してよい。また、図4のようにX線発生部XGからのX線XRが検査面IPに垂直に入射する位置に異物FSがある場合は、異物FSから放射され検査対象面TSで全反射される位置は、X線発生部XGからのX線XRが検査面IPに垂直に入射する位置と見做してよい。
【0027】
全反射臨界角が5°以下であることから、X線発生部XGからのX線XRが検査面IPに入射する位置とX線検出器120のX線取込部121を結ぶ仮想線と検査面IPとがなす角度θは、5°以下とすることができ、2°以下であることが望ましく、1°以下であることが更に望ましい。角度θが小さいほど、異物FSから放射されX線検出器120によって検出されるX線(特性X線)XFに対する検査対象物IT自体から放射されX線検出器120によって検出される蛍光X線の比率を小さくすることができる。
【0028】
X線検出器120は、検査面IPの延長面がX線検出器120を横切る位置に配置されうる。X線取込部121は、図5に模式的に示されるように、X線XFを透過する窓部122を含みうる。窓部122は、例えば、直径が数mm、厚さが数百μmでありうる。窓部122は、例えば、ベリリウム等で構成されうる。検査装置IAは、図5に模式的に示されるように、X線発生部XGからのX線XRが検査面IPに入射する位置とX線検出器120のX線取込部121を結ぶ仮想線の上にスリット(開口)を有するスリット部材125を備えてもよい。スリット部材125に設けられるスリットの大きさやX線検出器120の配置位置は、検査対象面TS上のX線XRが当たる範囲や検査対象面TSおよび異物FSを構成しうる物質等に応じて決定されうる。図7に模式的に示されるように、検査対象面TS上のX線XRが当たる幅Yの両端に異物FS1、FS3が存在し、幅Yの中心からX線取込部121までの距離Zが幅Yと同じ長さの場合を考える。この場合、スリットの幅Wの下限をY×tanθ、X線取込部121の中心と検査面IPの距離XもY×tanθとすることで、検査対象面TS上のX線XRが当たる範囲の異物をもれなく検知することができる。
【0029】
X線検出器120によって検出されるX線XFの強度を高めるためには、X線発生部XGから検査面IPまでの距離Dxsを小さくすることが望ましい。図6には、距離Dxs(横軸)とX線検出器120で検出される異物FSのカウント数(縦軸)との関係を実験によって得た結果が示されている。カウント数は、異物に含まれる特定の元素から出た蛍光X線(例えばNiのKα線)の位置に相当するエネルギーの一定時間当たりの総カウント数(ピークカウント)である。元素を特定するために必要なカウント数THを考慮すると、X線発生部XGから検査面IPまでの距離Dxsは5mm以下であることが望ましく、4mm以下であることが更に望ましく、3mm以下であることが一層望ましい。X線発生管101としては、例えば、キヤノンアネルバ社製の透過密閉型マイクロフォーカスX線源、具体的にはGシリーズ、更に具体的にはG-511シリーズやG-311シリーズが有用である。
【0030】
数μmから数十μmのサイズの異物を透過画像により高感度で検出するためには、検査面IPからX線検出パネル130までの距離DsfをDxsに対して十分に大きくする必要がある。例えば、直径が5μmの異物を検出するために10個の画素が必要である場合、画素ピッチが100μmのX線検出パネル(FPD)を用いると、100x10/5=200倍が検出に必要な倍率となり、直径が50μmの異物の場合は20倍が検出に必要な倍率となる。そのため、Dsf/Dxsを20以上にすることが望ましく、200以上にすることが更に望ましい。これにより、透過画像を使って異物を高感度で異検出することができる。
【0031】
検査装置IAは、例えば、リチウムイオン電池の生産工程において、その材料に付着した遺物を検出するために有用であるが、これは一例に過ぎず、他の用途にも有用である。検査装置IAは、例えば、PM2.5等の環境、健康に影響を及ぼす大気浮遊粒子の測定、分析に利用されてもよい。この場合、粒子の数およびサイズを定期的(例えば、毎時、毎日)に計測している従来技術に対し、検査装置IAを用いることで、粒子の数およびサイズの計測に加えて、粒子を構成する物質あるいは元素の特定を同時に行うことができるので、より高度な環境、健康対策が可能となる。あるいは、近年微細化が高度化している半導体、例えばEUV用マスク製造装置、検査装置や、半導体製造工程の検査装置等の分野に検査装置IAを用いることで、歩留まりの改善や、異物の元素情報を用いた異常原因の早期解決が可能となる。
【0032】
以下、検査装置IAを用いて、検査面IPに配置された検査対象面TSを検査する検査方法を説明する。該検査方法は、検査面IP(検査対象面TS)に向けてX線を放射し、検査対象面TSに存在する異物FSから放射され検査対象面TSで全反射されたX線XFをX線検出器120によって検出するX線検出工程と、X線検出器120の出力を処理する処理工程とを含みうる。該処理工程は、異物FSを検出する工程、および/または、異物FSを構成する物質を特定する工程を含みうる。該検査方法は、検査対象面TSを有する検査対象物ITを透過したX線をX線検出パネル130で検出する工程を更に含むことができ、該処理工程では、X線検出器120の出力およびX線検出パネル130の出力を処理しうる。該処理工程は、X線検出パネル130の出力に基づいて、異物FSの存在および異物FSの位置を検出する工程を含みうる。あるいは、該処理工程は、X線検出パネル130の出力に基づいて、異物FSの存在、異物FSの位置を、および、異物FSのサイズを検出する工程を含みうる。
【0033】
発明は上記実施形態に制限されるものではなく、発明の精神及び範囲から離脱することなく、様々な変更及び変形が可能である。従って、発明の範囲を公にするために請求項を添付する。
図1
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