(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023111869
(43)【公開日】2023-08-10
(54)【発明の名称】水熱炭化処理を用いた有機性廃棄物の処理方法、および水熱炭化処理を用いた有機性廃棄物の処理設備
(51)【国際特許分類】
C02F 11/04 20060101AFI20230803BHJP
【FI】
C02F11/04 A ZAB
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023005598
(22)【出願日】2023-01-18
(31)【優先権主張番号】P 2022013488
(32)【優先日】2022-01-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000192590
【氏名又は名称】株式会社神鋼環境ソリューション
(71)【出願人】
【識別番号】522043552
【氏名又は名称】テラノバ エナジー ゲー エム ベー ハー
【氏名又は名称原語表記】TerraNova Energy GmbH
【住所又は居所原語表記】Schirmerstrasse 61, 40211 Duesseldorf, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】弁理士法人ATEN
(72)【発明者】
【氏名】隅 晃彦
(72)【発明者】
【氏名】竹田 尚弘
(72)【発明者】
【氏名】田中 裕大
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 朋弘
(72)【発明者】
【氏名】宮本 博司
(72)【発明者】
【氏名】マーク・バットマン
【テーマコード(参考)】
4D059
【Fターム(参考)】
4D059AA01
4D059AA03
4D059BA12
4D059BB03
4D059BE10
4D059BE15
4D059BE16
4D059BE26
4D059BE37
4D059BE46
4D059BE49
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4D059BE56
4D059BE57
4D059BE58
4D059BE59
4D059CA01
4D059CC03
4D059DA23
4D059DA24
4D059DB11
4D059EB01
4D059EB20
(57)【要約】
【課題】脱水性に優れる脱水対象物を得ることができる有機性廃棄物の処理方法および処理設備を提供すること。
【解決手段】有機性廃棄物の処理方法は、有機性廃棄物を消化槽1(メタン発酵槽)の中で嫌気性発酵処理するメタン発酵工程と、メタン発酵工程後の発酵処理汚泥を第1脱水機2で脱水する第1脱水工程と、第1脱水工程で得られた脱水汚泥を水熱炭化装置3で水熱炭化処理する汚泥炭化工程と、汚泥炭化工程で得られた炭化汚泥スラリーを第2脱水機4(機械式脱水機)により脱水する第2脱水工程と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機性廃棄物をメタン発酵槽の中で嫌気性発酵処理するメタン発酵工程と、
前記メタン発酵工程後の発酵処理汚泥を脱水する第1脱水工程と、
前記第1脱水工程で得られた脱水汚泥を水熱炭化処理する汚泥炭化工程と、
前記汚泥炭化工程で得られた炭化汚泥スラリーを機械式脱水機により脱水する第2脱水工程と、
を備える、
水熱炭化処理を用いた有機性廃棄物の処理方法。
【請求項2】
請求項1に記載の水熱炭化処理を用いた有機性廃棄物の処理方法において、
前記第2脱水工程において、ゲージ圧0.7MPa以上、且つゲージ圧2.0MPa以下の圧力で前記炭化汚泥スラリーを圧搾することで脱水する、
水熱炭化処理を用いた有機性廃棄物の処理方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の水熱炭化処理を用いた有機性廃棄物の処理方法において、
前記第2脱水工程において、前記炭化汚泥スラリーに凝集剤を添加することなく前記炭化汚泥スラリーを脱水する、
水熱炭化処理を用いた有機性廃棄物の処理方法。
【請求項4】
請求項1または2に記載の水熱炭化処理を用いた有機性廃棄物の処理方法において、
前記第2脱水工程により、含水率が40質量%以下の炭化汚泥を得る、
水熱炭化処理を用いた有機性廃棄物の処理方法。
【請求項5】
請求項1または2に記載の水熱炭化処理を用いた有機性廃棄物の処理方法において、
前記第1脱水工程において、得られる脱水汚泥の含水率が75質量%以上、且つ90質量%以下となるように、前記発酵処理汚泥を脱水する、
水熱炭化処理を用いた有機性廃棄物の処理方法。
【請求項6】
請求項1または2に記載の水熱炭化処理を用いた有機性廃棄物の処理方法において、
前記第2脱水工程で前記炭化汚泥スラリーから分離した水熱炭化脱水ろ液を、前記メタン発酵槽に戻すろ液返送工程をさらに備える、
水熱炭化処理を用いた有機性廃棄物の処理方法。
【請求項7】
請求項1または2に記載の水熱炭化処理を用いた有機性廃棄物の処理方法において、
前記汚泥炭化工程で得られた60℃以上の温度の前記炭化汚泥スラリーを前記第2脱水工程に供給する、
水熱炭化処理を用いた有機性廃棄物の処理方法。
【請求項8】
請求項7に記載の水熱炭化処理を用いた有機性廃棄物の処理方法において、
前記第2脱水工程で前記炭化汚泥スラリーから分離した水熱炭化脱水ろ液を、前記メタン発酵槽に戻すろ液返送工程をさらに備え、
前記水熱炭化脱水ろ液を前記メタン発酵槽に戻す途中で、前記水熱炭化脱水ろ液に対して窒素ストリッピングを行うことで、前記水熱炭化脱水ろ液に含まれているアンモニア性窒素をアンモニアガスとして放出させて除去する、
水熱炭化処理を用いた有機性廃棄物の処理方法。
【請求項9】
有機性廃棄物を嫌気性発酵処理するメタン発酵槽と、
前記メタン発酵槽から排出された発酵処理汚泥を脱水する第1脱水機と、
前記第1脱水機で得られた脱水汚泥を水熱炭化処理する水熱炭化装置と、
前記水熱炭化装置で得られた炭化汚泥スラリーを機械脱水する第2脱水機と、
を備える、
水熱炭化処理を用いた有機性廃棄物の処理設備。
【請求項10】
請求項9に記載の水熱炭化処理を用いた有機性廃棄物の処理設備において、
前記第2脱水機が、フィルタープレス脱水機である、
水熱炭化処理を用いた有機性廃棄物の処理設備。
【請求項11】
請求項9または10に記載の水熱炭化処理を用いた有機性廃棄物の処理設備において、
前記水熱炭化装置は、
前記脱水汚泥を予熱する加熱熱交換器と、
前記加熱熱交換器で予熱された前記脱水汚泥を、酸素を含有しない又は酸素濃度が低いガス雰囲気下にて又は酸素を遮断した状態にて高温高圧処理するリアクターと、
前記リアクターで得られた前記炭化汚泥スラリーを冷却する冷却熱交換器と、
を備え、
前記冷却熱交換器において、前記炭化汚泥スラリーの温度が調整される、
水熱炭化処理を用いた有機性廃棄物の処理設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水熱炭化処理を用いた有機性廃棄物の処理方法、および水熱炭化処理を用いた有機性廃棄物の処理設備に関する。
【背景技術】
【0002】
有機性廃棄物の処理方法に関する技術として、例えば特許文献1に記載されたものがある。特許文献1には、メタン回収工程後の消化処理スラリーを可溶化処理し、可溶化処理した処理物を脱水機で脱水するという工程を含む有機性廃棄物の処理方法が記載されている。
【0003】
具体的には、特許文献1に記載の有機性廃棄物の処理方法は、有機性廃棄物スラリーを嫌気性消化槽で嫌気性消化処理してメタンガスを回収するメタン回収工程と、メタン回収工程後の消化処理スラリーを、温度が150~200℃で、かつ該消化処理スラリーの液相を保持する圧力で、処理時間を15~60分とする条件で、酸素供給量が該消化処理スラリーのCODCr値の5~25質量%に相当する酸素含有ガスを供給して部分分解する可溶化工程と、可溶化工程からの処理物の少なくとも一部を脱水機で脱水して含水率70質量%以下とする脱水工程と、脱水工程後の脱水物を好気性発酵して堆肥とする堆肥化工程と、を備えている。
【0004】
特許文献1の明細書の段落0057には、「従って、可溶化工程からの酸化処理スラリーは脱水機で容易に含水率70質量%以下に脱水できる。」と記載されている。また、特許文献1の明細書の段落0063には、「前記可溶化工程で得られた酸化処理スラリーの脱水をヌッチェテスト機にて行なった。その結果、水分調整剤等を添加せずとも含水率が約63質量%の脱水汚泥が得られ、」と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の記載から、特許文献1に記載の有機性廃棄物の処理方法において、その脱水工程で到達できる処理物(脱水汚泥)の含水率は、せいぜい60質量%程度である。
【0007】
対象物(脱水対象物)の含水率を下げる手段として、脱水と乾燥の両方が適用可能であれば、脱水の方が、同じ含水率を得るための投入エネルギーが少なくて済む。そのため、脱水性に優れる対象物が得られる処理をすることが好ましい。特許文献1に記載の技術では、得られる対象物(酸化処理スラリー)は、脱水後の含水率がせいぜい60質量%程度と、脱水性に劣るものである。
【0008】
本発明の目的は、脱水性に優れる脱水対象物を得ることができる有機性廃棄物の処理方法および処理設備を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願で開示する有機性廃棄物の処理方法は、水熱炭化処理を用いた有機性廃棄物の処理方法であって、有機性廃棄物をメタン発酵槽の中で嫌気性発酵処理するメタン発酵工程と、前記メタン発酵工程後の発酵処理汚泥を脱水する第1脱水工程と、前記第1脱水工程で得られた脱水汚泥を水熱炭化処理する汚泥炭化工程と、前記汚泥炭化工程で得られた炭化汚泥スラリーを機械式脱水機により脱水する第2脱水工程と、を備える。
【0010】
第1脱水工程で得られた脱水汚泥を水熱炭化処理することで、脱水汚泥中の微生物の細胞が破壊されるとともに、前記細胞内の成分の分解・重合が起こる。その結果、脱水性に優れる炭化汚泥スラリー(脱水対象物)が生成する。この脱水性に優れる炭化汚泥スラリーを機械式脱水機により脱水することで、低含水率の炭化汚泥(処理物)とすることができる。
【0011】
前記第2脱水工程において、ゲージ圧0.7MPa以上、且つゲージ圧2.0MPa以下の圧力で前記炭化汚泥スラリーを圧搾することで脱水してもよい。
【0012】
この構成によると、含水率が25質量%以上、且つ55質量%以下の炭化汚泥(処理物)を得ることができる。また、汚泥炭化工程で得られた炭化汚泥スラリー中の水分には、溶解性のNa、K、Clが溶出している。これらの成分は、第2脱水工程で脱水ろ液とともに除去されるので、炭化汚泥の含水率を低くできるほど、炭化汚泥中のNa、K、Clの含有割合を低くできる。そのため、含水率が25質量%以上、且つ55質量%以下の炭化汚泥を得ることができることで、炭化汚泥中のNa、K、Clの含有割合を低くできる。その結果、不純物含有量が少ない炭化汚泥(処理物)を得ることができる。
【0013】
また、前記第2脱水工程において、前記炭化汚泥スラリーに凝集剤を添加することなく前記炭化汚泥スラリーを脱水してもよい。
【0014】
この構成によると、炭化汚泥スラリーの脱水に凝集剤を使用しないため、その分、有機性廃棄物の処理コストを抑えることができる。また、凝集剤を使用しない分、不純物含有量が少ない炭化汚泥(処理物)を得ることができる。
【0015】
また、前記第2脱水工程により、含水率が40質量%以下の炭化汚泥を得る。
【0016】
この構成によると、低含水率の炭化汚泥(処理物)を得ることができる。
【0017】
また、前記第1脱水工程において、得られる脱水汚泥の含水率が75質量%以上、且つ90質量%以下となるように、前記発酵処理汚泥を脱水してもよい。
【0018】
この構成によると、前記水熱炭化処理を安定的に行うことができ、また、前記水熱炭化処理のための供給熱量や前記水熱炭化処理を行うリアクターの容量が、過大になることを抑制できる。
【0019】
また、前記第2脱水工程で前記炭化汚泥スラリーから分離した水熱炭化脱水ろ液を、前記メタン発酵槽に戻すろ液返送工程をさらに備えてもよい。
【0020】
この構成によると、水熱炭化脱水ろ液に含まれる有機物がメタン発酵の原料となることからエネルギー回収量が増える。また、有機物はその分、処理系から減少するので、処理水のCOD上昇が抑制され、放流水質の悪化を抑制することができる。詳しくは、次のとおりである。水熱炭化脱水ろ液をそのまま水処理系に送って処理すると、水処理系のCOD負荷が上昇し、放流水質が悪化する可能性があるが、メタン発酵によって有機物が分解されることで、水処理系のCOD負荷上昇が抑制され、放流水質の悪化を抑制することができる。
【0021】
また、前記汚泥炭化工程で得られた60℃以上の温度の前記炭化汚泥スラリーを前記第2脱水工程に供給してもよい。
【0022】
この構成によると、炭化汚泥スラリーの粘性を低く保つことができ、炭化汚泥スラリーの移送を行い易く、且つ、炭化汚泥スラリーの脱水性が向上する。
【0023】
また、前記第2脱水工程で前記炭化汚泥スラリーから分離した水熱炭化脱水ろ液を、前記メタン発酵槽に戻すろ液返送工程をさらに備え、前記水熱炭化脱水ろ液を前記メタン発酵槽に戻す途中で、前記水熱炭化脱水ろ液に対して窒素ストリッピングを行うことで、前記水熱炭化脱水ろ液に含まれているアンモニア性窒素をアンモニアガスとして放出させて除去してもよい。
【0024】
この構成によると、水熱炭化脱水ろ液の性状によってはメタン発酵槽内の窒素濃度が高くなって、微生物活性を阻害することがあるところ、当該微生物活性の阻害を抑制することができる。また、除去したアンモニアガスを、例えば肥料として利用することができる。
【0025】
本願で開示する有機性廃棄物の処理設備は、水熱炭化処理を用いた有機性廃棄物の処理設備であって、有機性廃棄物を嫌気性発酵処理するメタン発酵槽と、前記メタン発酵槽から排出された発酵処理汚泥を脱水する第1脱水機と、前記第1脱水機で得られた脱水汚泥を水熱炭化処理する水熱炭化装置と、前記水熱炭化装置で得られた炭化汚泥スラリーを機械脱水する第2脱水機と、を備える。
【0026】
第1脱水機で得られた脱水汚泥を水熱炭化処理することで、脱水汚泥中の微生物の細胞が破壊されるとともに、前記細胞内の成分の分解・重合が起こる。その結果、脱水性に優れる炭化汚泥スラリー(脱水対象物)が生成する。この脱水性に優れる炭化汚泥スラリーを第2脱水機により脱水することで、低含水率の炭化汚泥(処理物)とすることができる。
【0027】
前記第2脱水機が、フィルタープレス脱水機であってもよい。
【0028】
この構成によると、低含水率の炭化汚泥(処理物)を得ることができる。
【0029】
また、前記水熱炭化装置は、前記脱水汚泥を予熱する加熱熱交換器と、前記加熱熱交換器で予熱された前記脱水汚泥を、酸素を含有しない又は酸素濃度が低いガス雰囲気下にて又は酸素を遮断した状態にて高温高圧処理するリアクターと、前記リアクターで得られた前記炭化汚泥スラリーを冷却する冷却熱交換器と、を備え、前記冷却熱交換器において、前記炭化汚泥スラリーの温度が調整されてもよい。
【0030】
この構成によると、炭化汚泥スラリーの粘性を調整することができ、炭化汚泥スラリーの移送を行い易くすることができるとともに、炭化汚泥スラリーの脱水性を向上させることができる。また、炭化汚泥スラリーの引抜量の安定化を図ることができる。
【発明の効果】
【0031】
前記構成の有機性廃棄物の処理方法、または有機性廃棄物の処理設備によれば、脱水性に優れる脱水対象物を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】水熱炭化処理を用いた有機性廃棄物の処理設備の一例を示すブロック図である。
【
図2】
図1中に示す水熱炭化装置の具体的構成の一例を示す図である。
【
図3】水熱炭化装置で得られた炭化汚泥スラリーを、機械式脱水機により脱水した試験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照しつつ説明する。
【0034】
本発明の処理方法における処理対象の有機性廃棄物は、下水汚泥、生ごみなどの食品廃棄物(食品系バイオマス)、古紙・廃紙などのリグノセルロース系廃棄物、農業残渣、および家畜糞尿などである。これらの有機性廃棄物は、それぞれ単独で処理されてもよいし、混合処理されてもよい。以下では、処理対象として下水汚泥を例にとって、その処理について説明する。
【0035】
図1に示すように、有機性廃棄物の処理設備は、メタン発酵槽としての消化槽1と、第1脱水機2と、水熱炭化装置3と、第2脱水機4と、養生容器5と、分離液処理装置6と、を備える。消化槽1、第1脱水機2、水熱炭化装置3、第2脱水機4、および養生容器5は、処理工程の上流側から順に、この順で設けられる。分離液処理装置6は、処理工程において、第1脱水機2の下流側に設けられる。
【0036】
(消化槽、およびメタン発酵工程)
消化槽1は、下水汚泥を嫌気性発酵処理するタンクである。メタン発酵工程は、下水汚泥を消化槽1の中で嫌気性発酵処理する工程である。消化槽1に投入される下水汚泥の固形物濃度は、例えば3~9質量%である。消化槽1は、中温発酵処理においては温度約30~42℃で滞留時間15~30日程度、高温発酵処理においては温度約50~60℃で滞留時間7~20日程度で運転される。
【0037】
下水汚泥の嫌気性発酵により消化槽1の中で消化ガスが発生する。消化ガスは、メタンが約60容量%、二酸化炭素が約40容量%のガス(バイオガス)である。発生した消化ガスは、消化槽1の中から取り出され、消化槽1や水熱炭化装置3の加温のための燃料として利用されたり、発電設備(不図示)の燃料として利用されたりする。すなわち、下水汚泥を嫌気性発酵処理することで、下水汚泥が有するエネルギーを消化ガス(ガスエネルギー)として回収することができる。
【0038】
嫌気性発酵処理後の下水汚泥の発酵残渣、すなわち発酵処理汚泥は、消化槽1の中から外部へ排出される。
【0039】
(第1脱水機、および第1脱水工程)
消化槽1の中から外部へ排出された発酵処理汚泥は、第1脱水機2に供給される。第1脱水機2は、消化槽1から排出された発酵処理汚泥を脱水する機械である。第1脱水工程は、メタン発酵工程後の発酵処理汚泥を脱水する工程である。発酵処理汚泥の固形物濃度は、例えば1.5~5質量%である。第1脱水機2は、ベルトプレス脱水機、フィルタープレス脱水機、遠心脱水機、スクリュープレス脱水機、ベルト濃縮機、または遠心濃縮機などである。
【0040】
第1脱水機2(第1脱水工程)では、脱水汚泥の含水率が75質量%以上、且つ90質量%以下となるように、発酵処理汚泥を脱水することが好ましい。第1脱水機2(第1脱水工程)により、発酵処理汚泥は、例えば含水率が80質量%程度の脱水汚泥となる。
【0041】
第1脱水機2(第1脱水工程)では、鉄系無機凝集剤を用いて脱水してもよく、鉄系無機凝集剤と高分子凝集剤とを併用して脱水してもよい。鉄系無機凝集剤として、例えば、ポリ硫酸第二鉄、塩化第二鉄、硫酸第一鉄などの無機凝集剤を使用することができる。また、高分子凝集剤としては、例えば、カチオン系高分子凝集剤、アニオン系高分子凝集剤などの他、ノニオン系高分子凝集剤や両性高分子凝集剤などを用いることができるが、ここではカチオン系高分子凝集剤を用いることが好ましい。第1脱水機2(第1脱水工程)では、発酵処理汚泥の固形物量当たり0.5~2.5質量%の高分子凝集剤を添加して脱水することが好ましい。発酵処理汚泥を上記好ましい条件下で脱水する第1脱水機2(第1脱水工程)により、発酵処理汚泥は、含水率が75~90質量%程度の脱水汚泥となる。なお、より好ましくは、脱水汚泥の含水率が75質量%以上、且つ85質量%以下となるように、発酵処理汚泥を脱水することである。
【0042】
含水率が75質量%未満であると、脱水汚泥の流動性が低下し、その内部を脱水汚泥が移送される配管や後述する加熱熱交換器8の圧力損失が増大して、脱水汚泥の移送に支障が生じ、後述するリアクター7における水熱炭化処理を安定的に行えない虞がある。
【0043】
含水率が90質量%を超えると、脱水汚泥の含水率が高いので、後段の水熱炭化処理において、より多くの熱量を供給する必要が生じる虞や、後述するリアクター7の容量をより大きくする必要が生じる虞がある。
【0044】
第1脱水機2(第1脱水工程)で上記の好ましい含水率範囲となるように発酵処理汚泥に凝集剤を添加して脱水し脱水汚泥と成してから水熱炭化処理することにより、後述するリアクター7における水熱炭化処理を安定的に行うことができ、また、リアクター7への供給熱量やリアクター7の容量が、過大になることを抑制できる。なお、第1脱水機2(第1脱水工程)による発酵処理汚泥の脱水は、上記の好ましい含水率範囲となるように発酵処理汚泥を脱水することに限定されるものではない。
【0045】
第1脱水機2によって発酵処理汚泥から分離した脱水ろ液(消化脱水ろ液)は、分離液処理装置6に送られる。
【0046】
(分離液処理装置、および分離液処理工程)
発酵処理汚泥から分離した脱水ろ液(消化脱水ろ液)は、分離液処理装置6に供給される。分離液処理装置6は、第1脱水機2で発酵処理汚泥から分離した脱水ろ液(消化脱水ろ液)を処理する装置である。分離液処理工程は、第1脱水工程で発酵処理汚泥から分離した脱水ろ液(消化脱水ろ液)を処理する工程である。分離液処理装置6で得られた処理水は、水処理設備(不図示)へ返送される。
【0047】
分離液処理装置6は、例えば、上記脱水ろ液(消化脱水ろ液)を凝集沈殿処理する装置である。分離液処理工程は、例えば、上記脱水ろ液(消化脱水ろ液)を凝集沈殿処理する工程である。なお、上記脱水ろ液(消化脱水ろ液)の処理は、凝集沈殿処理に限られず、凝集浮上分離処理、または凝集ろ過処理などであってもよい。
【0048】
(水熱炭化装置、および汚泥炭化工程)
脱水汚泥は、水熱炭化装置3に供給される。水熱炭化装置3は、第1脱水機2で得られた脱水汚泥を水熱炭化処理する装置である。汚泥炭化工程は、第1脱水工程で得られた脱水汚泥を水熱炭化処理する工程である。水熱炭化処理とは、水を含む処理対象物を、酸素を含有しない又は酸素濃度が低いガス雰囲気下にて又は酸素を遮断した状態にて高温高圧処理することで、炭化させる処理のことをいう。
【0049】
図2に示すように、水熱炭化装置3は、例えば、加熱熱交換器8と、リアクター7と、冷却熱交換器9と、を備える。なお、水熱炭化装置3の構成は、これに限定されるものではない。
【0050】
加熱熱交換器8は、第1脱水機2で得られた脱水汚泥をリアクター7に供給する前に、脱水汚泥を予熱する加熱器である。加熱熱交換器8には、例えば含水率が80質量%程度の脱水汚泥が第1脱水機2から供給される。
【0051】
リアクター7は、酸素を含有しない又は酸素濃度が低いガス雰囲気下にて又は酸素を遮断した状態にて脱水汚泥を高温高圧処理する容器である。一例としてリアクター7は酸素濃度5体積%以下のガス雰囲気下にて脱水汚泥を高温高圧処理する。不活性ガスによって置換した状態で前記高温高圧処理をスタートするか、若しくはスタート時が空気(酸素濃度21体積%)であったとしても被処理物中の易分解性の有機物の酸化にて速やかに酸素が消費されてその後に空気が供給されることがないため、スタート直後を除いて、反応中のリアクター7内気相の酸素濃度は略0体積%に保たれる。リアクター7は、撹拌機7aを有する。リアクター7の中の炭化汚泥スラリーと、リアクター7に供給された脱水汚泥とは、撹拌機7aによって混合・撹拌される。リアクター7の外周に筒状のジャケット7bが設けられる。熱媒油ボイラ10で加熱された熱媒油は、熱媒油循環ポンプ11によって、ジャケット7bに循環供給される。リアクター7の中の炭化汚泥スラリーは、循環供給される熱媒油によって間接加熱される。なお、前記熱媒油に替えて他の熱媒が使用されてもよい。
【0052】
リアクター7内の炭化汚泥スラリーは、熱媒油によって間接加熱されて、例えば、200℃の温度にされる。リアクター7内の圧力は、リアクター7内温度に対応する亜臨界水相当の圧力に、被処理物の成分の分解によって生じたガスによる圧力が加わった圧力とされる。リアクター7内の炭化汚泥スラリーの温度は、200℃に限定されるものではない。リアクター7内の炭化汚泥スラリーの温度は、160℃から220℃の範囲のうちの任意の温度にされてもよい。リアクター7内の圧力は、ゲージ圧0.6MPaからゲージ圧3MPa程度の圧力とされる。脱水汚泥を高温高圧処理するとは、脱水汚泥の温度が160℃以上220℃以下、且つ、リアクター7内の圧力がゲージ圧0.6MPa以上ゲージ圧3MPa以下で脱水汚泥を処理することをいう。
【0053】
脱水汚泥の処理時間、すなわち、リアクター7内の炭化汚泥スラリーの滞留時間は、例えば、3時間とされる。リアクター7内の炭化汚泥スラリーの滞留時間は、3時間に限定されるものではない。リアクター7内の炭化汚泥スラリーの滞留時間は、2時間から5時間の範囲内であればよい。
【0054】
リアクター7内に供給された脱水汚泥は、上記圧力および温度で、上記処理時間、処理されることで炭化汚泥スラリーとなる。水熱炭化処理により、脱水汚泥中の微生物の細胞が破壊されるとともに、細胞内の成分の分解・重合が起こる。その結果、脱水性に優れる炭化汚泥スラリーが生成する。
【0055】
冷却熱交換器9は、リアクター7の中で水熱炭化処理により得られた炭化汚泥スラリーを冷却する冷却器である。冷却熱交換器9において、炭化汚泥スラリーの温度が取扱いに適した領域に調整される。炭化汚泥スラリーの温度が調整されることで、炭化汚泥スラリーの粘性を調整することができ、炭化汚泥スラリーの移送を行い易くすることができるとともに、炭化汚泥スラリーの脱水性を向上させることができる。
【0056】
炭化汚泥スラリーは、冷却熱交換器9で冷却されてから第2脱水機4に供給される。第2脱水機4に供給される際に、炭化汚泥スラリーの温度が60℃未満であると、炭化汚泥スラリーの粘性が大きくなり、その結果、炭化汚泥スラリーの移送のし易さ、および炭化汚泥スラリーの脱水性が低下する懸念がある。そのため、冷却熱交換器9において、炭化汚泥スラリーの温度を60℃以上に調整し、この汚泥炭化工程で得られた60℃以上の温度の炭化汚泥スラリーを第2脱水工程に供給することが好ましい。これにより、炭化汚泥スラリーの粘性を低く保つことができ、炭化汚泥スラリーの移送を行い易く、且つ、炭化汚泥スラリーの脱水性が向上する。また、炭化汚泥スラリーを略一定の温度に冷却してから引抜装置(炭化汚泥スラリーを第2脱水機4に供給する装置)を通過させることによって、引抜量の安定化を図ることができる。例えば、引抜装置として一軸ねじポンプを使用した場合、炭化汚泥スラリーの温度が高温で安定しなければ、一軸ねじポンプのロータおよびステータの膨張により流量が変動する虞があるところ、これを防止することができる。なお、第2脱水機4としてフィルタープレス脱水機を用いることが好ましいところ、フィルタープレス脱水機の耐久性の観点から、第2脱水工程に供給する炭化汚泥スラリーの温度は80℃以下であることが好ましい。すなわち、冷却熱交換器9において、炭化汚泥スラリーの温度を60℃以上80℃以下に調整し、60℃以上80℃以下の温度の炭化汚泥スラリーを第2脱水工程に供給することが好ましい。なお、冷却熱交換器9で回収した熱エネルギーは、後述のように、炭化汚泥の養生に使用する酸素含有ガスを予め加熱するために使用されてもよいし、その他の用途の加熱の熱源として使用するようにされてもよい。その他の用途の加熱の熱源として、例えば、リアクター7に投入する脱水汚泥を予め加熱するための熱源が挙げられる。
【0057】
(第2脱水機、および第2脱水工程)
第2脱水機4は、水熱炭化装置3で得られた炭化汚泥スラリーを機械脱水する機械である。なお、機械脱水とは、機械式脱水機により脱水することをいう。第2脱水工程は、汚泥炭化工程で得られた炭化汚泥スラリーを第2脱水機4により脱水する工程である。第2脱水機4は、フィルタープレス脱水機、遠心脱水機、またはスクリュープレス脱水機などの機械式脱水機である。
【0058】
第2脱水機4は、特に限定されるものではないが、フィルタープレス脱水機であることが好ましい。炭化汚泥スラリーは微粒子となった炭化物が水中に分散した状態である。そのため、フィルターの目開きが細かく、高圧で圧搾しても高い固形分回収率が得られるフィルタープレス脱水機が第2脱水機4として適している。
【0059】
第2脱水機4としてフィルタープレス脱水機を用い、ゲージ圧0.7MPa以上、且つゲージ圧2.0MPa以下の圧力(圧搾圧力)で、炭化汚泥スラリーを圧搾して脱水することが好ましい。炭化汚泥スラリーを上記圧力で圧搾して脱水することで、含水率が25質量%以上、且つ55質量%以下の炭化汚泥を得ることができる。また、前記汚泥炭化工程で得られた炭化汚泥スラリー中の水分には、溶解性のNa、K、Clが溶出している。これらの成分は、第2脱水工程で脱水ろ液とともに除去されるので、炭化汚泥の含水率を低くできるほど、炭化汚泥中のNa、K、Clの含有割合を低くできる。そのため、含水率が25質量%以上、且つ55質量%以下の炭化汚泥を得ることができることで、炭化汚泥中のNa、K、Clの含有割合を低くできる。その結果、不純物含有量が少ない炭化汚泥(処理物)を得ることができる。
【0060】
さらには、第2脱水機4としてフィルタープレス脱水機を用い、ゲージ圧1.5MPa以上、且つゲージ圧2.0MPa以下の圧力(圧搾圧力)で、炭化汚泥スラリーを圧搾して脱水することが好ましい。炭化汚泥スラリーを上記圧力で圧搾して脱水することで、含水率が25質量%以上、且つ35質量%以下の炭化汚泥を得ることができる。なお、フィルタープレス脱水機による炭化汚泥スラリーの圧搾圧力は、上記圧力に限定されるものではない。また、フィルタープレス脱水機以外の第2脱水機4を用いて、炭化汚泥スラリーを脱水してもよい。
【0061】
さらには、この第2脱水工程において、炭化汚泥スラリーに凝集剤を添加することなく炭化汚泥スラリーを脱水するとよい。炭化汚泥スラリーの脱水に凝集剤を使用しないことで、その分、有機性廃棄物の処理コストを抑えることができる。また、凝集剤を使用しない分、不純物含有量が少ない炭化汚泥(処理物)を得ることができるので、後述するように炭化汚泥を固形燃料などの用途で利用する場合に好適である。特に、凝集剤として無機凝集剤を使用した場合には炭化汚泥(処理物)中の灰分含有量が増加するが、凝集剤を使用しない分、灰分含有量が少ない炭化汚泥(処理物)を得ることができるので、炭化汚泥を固形燃料などの用途で利用する場合に好適である。水熱炭化処理を経た脱水汚泥、すなわち炭化汚泥スラリーは脱水性に優れるため、当該炭化汚泥スラリーを機械脱水する場合、炭化汚泥スラリーに凝集剤を添加しなくても、炭化汚泥スラリーを、含水率が25質量%以上、且つ55質量%以下の炭化汚泥にすることが可能である。なお、炭化汚泥スラリーに凝集剤を添加して、炭化汚泥スラリーを機械脱水してもよい。
【0062】
第2脱水機4(第2脱水工程)により、炭化汚泥スラリーは、含水率が低い炭化汚泥となる。上記のとおり、含水率が25質量%以上、且つ55質量%以下の炭化汚泥を炭化汚泥スラリーから得ることができるが、炭化汚泥の含水率は、これに限られない。
【0063】
図3は、水熱炭化装置3で得られた炭化汚泥スラリーを、第2脱水機4により脱水した試験結果を示すグラフである。第2脱水機4として、フィルタープレス脱水機を用いた。なお、少なくともゲージ圧2.0MPaの圧力を炭化汚泥スラリーに作用させることができる第2脱水機4であれば、フィルタープレス脱水機以外の第2脱水機4を用いてもよい。この脱水試験において、炭化汚泥スラリーへの凝集剤の添加は行わなかった。
【0064】
図3に示すグラフの横軸は、圧力(圧搾圧力、MPa(ゲージ圧))であり、縦軸は、機械脱水により得られた炭化汚泥の含水率(質量%)である。
【0065】
図3からわかるように、水熱炭化装置3で得られた炭化汚泥スラリーを、ゲージ圧0.7MPa以上、且つゲージ圧2.0MPa以下の圧力で機械脱水することで、含水率が25質量%以上、且つ55質量%以下の炭化汚泥を得ることができる。また、ゲージ圧1.5MPa以上、且つゲージ圧2.0MPa以下の圧力で機械脱水することで、含水率が25質量%以上、且つ35質量%以下の炭化汚泥を得ることができる。また、含水率が40質量%以下の炭化汚泥を得るには、ゲージ圧1.3MPa程度以上の圧力で脱水するとよい。圧力がゲージ圧2.0MPaを超えると、含水率の低下はほとんど見られなかった。ゲージ圧0.7MPaの圧力では、55質量%程度の炭化汚泥を得ることができることがわかる。すなわち、ゲージ圧0.7MPaの圧力で、含水率60質量%程度という従来の脱水汚泥よりは、十分に低い含水率の炭化汚泥(処理物)を得ることができる。
【0066】
表1は、第2脱水工程で炭化汚泥スラリーから分離した脱水ろ液(水熱炭化脱水ろ液)中のNa、K、Cl濃度を示す表である。なお、各濃度は、脱水ろ液を希釈処理した際の実測濃度を、無希釈で行った場合に換算した値である。
【0067】
【0068】
表2は、ゲージ圧0.7MPa、1.5MPa、2.0MPaの各圧力(圧搾圧力)条件で炭化汚泥スラリーを圧搾して脱水して得られる炭化汚泥中のNa、K、Cl濃度の計算値を示す表である。表2からわかるように、圧搾圧力を高くして炭化汚泥の含水率を低下させると、炭化汚泥の水分減少に伴い、溶解しているNa、K、Clの各成分が脱水ろ液中に流出する。その結果、炭化汚泥中のNa、K、Cl濃度が低くなる。例えば、Naについては、ゲージ圧0.7MPaのときは733mg/kgDSであり、ゲージ圧2.0MPaのときは257mg/kgDSである。K、Clの濃度についても同様である。
【0069】
【0070】
(ろ液返送工程)
ろ液返送工程は、第2脱水工程で炭化汚泥スラリーから分離した脱水ろ液(水熱炭化脱水ろ液)を消化槽1に送る(戻す)工程である。水熱炭化処理によって、脱水汚泥中の微生物の細胞が破壊されて、脱水汚泥中の有機物がろ液(水熱炭化脱水ろ液)中に溶出する。水熱炭化脱水ろ液に含まれる有機物が消化ガスの原料となるので、水熱炭化脱水ろ液を消化槽1に投入すると、消化ガスの発生量はその分増加する。消化ガスは燃料として利用することが可能な、下水汚泥から回収されるエネルギー(ガスエネルギー)である。すなわち、第2脱水工程で炭化汚泥スラリーから分離した脱水ろ液(水熱炭化脱水ろ液)を消化槽1に戻すことで、消化ガスの発生量を増加させることができ、エネルギー回収量を増加させることができる。
【0071】
また、水熱炭化脱水ろ液に含まれる有機物の一部が消化ガスとなるので、有機物はその分、処理系から減少する。その結果、CODなどの下水処理場からの放流水質の悪化を抑制することができる。詳しくは、次のとおりである。水熱炭化脱水ろ液をそのまま水処理系に送って処理すると、水処理系のCOD負荷が上昇し、放流水質が悪化する可能性があるが、メタン発酵によって有機物が分解されることで、水処理系のCOD負荷上昇が抑制され、放流水質の悪化を抑制することができる。
【0072】
水熱炭化脱水ろ液を消化槽1に戻す途中で、水熱炭化脱水ろ液に対して窒素ストリッピングを行うことで、水熱炭化脱水ろ液に含まれているアンモニア性窒素をアンモニアガスとして放出させて除去するとよい。窒素ストリッピングとは、ストリッピング対象物から窒素を除去することをいう。水熱炭化脱水ろ液にNaOH等のアルカリを添加することでpHを8程度以上のアルカリ性とし、水熱炭化脱水ろ液に含まれているアンモニア性窒素(NH4-N)をアンモニアガスとして放出させて除去する。窒素ストリッピングを行うには、ストリッピング対象物の温度が比較的高温であることが望ましいので、汚泥炭化工程において、炭化汚泥スラリーの温度を60℃以上に調整し、この汚泥炭化工程で得られた60℃以上の温度の炭化汚泥スラリーを第2脱水工程に供給することで、第2脱水工程で炭化汚泥スラリーから分離した水熱炭化脱水ろ液を比較的高温にしておくとよい。
【0073】
水熱炭化脱水ろ液の性状によっては消化槽1内の窒素濃度が高くなって、微生物活性を阻害することがある。消化槽1内に入る前にアンモニア性窒素(NH4-N)を除去することで、微生物活性の阻害を抑制することができる。また、除去したアンモニアガスは、希硫酸で捕捉して硫酸アンモニウムを生成させて肥料として利用することができる。
【0074】
(養生容器、および養生工程)
養生容器5は、第2脱水機4で得られた炭化汚泥の乾燥、および炭化汚泥の発熱発火性の低減を行う容器である。養生工程は、第2脱水工程で得られた炭化汚泥の乾燥、および炭化汚泥の発熱発火性の低減を行う工程である。養生容器5は、一般にホッパと呼ばれる容器である。
【0075】
第2脱水機4からの炭化汚泥は養生容器5に投入される。養生容器5には、例えば、その下部の側面から養生容器5の中に空気(酸素含有ガス)が吹き込まれる。養生容器5内の炭化汚泥は、吹き込まれた空気と接触することで、乾燥するとともに、部分的に酸化する。部分的に酸化することで、炭化汚泥の発熱発火性は低減する。
【0076】
なお、養生工程は、養生容器5(ホッパ)を用いた工程に限られることはない。例えば、その周囲を囲ったコンベヤ(養生部)の上に、第2脱水機4で得られた炭化汚泥を投下し、空気などの酸素含有ガスを通すことで養生工程を実施してもよい。また、酸素含有ガスは、乾燥をより促進するために予め加熱されていてもよいし、その加熱の熱源として冷却熱交換器9で回収した熱エネルギーを使用するようにしてもよい。
【0077】
日本産業規格JIS Z7312において、下水汚泥固形燃料の製品仕様は、その含水率が20質量%以下であることが定められている。第2脱水機4で得られた炭化汚泥の含水率は、上記養生工程を行うことで、例えば20質量%以下に調整される。20質量%以下に含水率を調整することで、炭化汚泥を固形燃料として利用することができる。なお、炭化汚泥の用途は、固形燃料に限られない。養生工程において、炭化汚泥の含水率は、20質量%以下に調整されることに限られない。
【0078】
(効果)
本実施形態の有機性廃棄物の処理方法は、下水汚泥(有機性廃棄物)を消化槽1(メタン発酵槽)の中で嫌気性発酵処理するメタン発酵工程、メタン発酵工程後の発酵処理汚泥を脱水する第1脱水工程、第1脱水工程で得られた脱水汚泥を水熱炭化処理する汚泥炭化工程、および、汚泥炭化工程で得られた炭化汚泥スラリーを第2脱水機4(機械式脱水機)により脱水する第2脱水工程を備えている。
【0079】
上記処理方法によると、次のような効果が得られる。
【0080】
上記第1脱水工程で得られた脱水汚泥を水熱炭化処理することで、脱水汚泥中の微生物の細胞が破壊されるとともに、細胞内の成分の分解・重合が起こる。その結果、脱水性に優れる炭化汚泥スラリーが生成する。この脱水性に優れる炭化汚泥スラリーを機械式脱水機により脱水することで、低含水率の炭化汚泥(処理物)とすることができる。
【0081】
また、低含水率の炭化汚泥(処理物)が得られるので、前記養生工程において、炭化汚泥の乾燥に要するエネルギー消費量を少なくすることができる。換言すれば、その後の工程において少ない投入エネルギーで目標の含水率まで処理物の水分を蒸発させることができる。炭化汚泥を固形燃料として利用する場合には、その含水率を20質量%以下に調整することになるため、乾燥に要するエネルギー消費量を少なくすることができるという効果は非常に重要である。
【0082】
上記第2脱水工程において、ゲージ圧0.7MPa以上、且つゲージ圧2.0MPa以下の圧力で炭化汚泥スラリーを圧搾することで脱水することが好ましい。これにより、含水率が25質量%以上、且つ55質量%以下の炭化汚泥を得ることができる。また、汚泥炭化工程で得られた炭化汚泥スラリー中の水分には、溶解性のNa、K、Clが溶出している。これらの成分は、第2脱水工程で脱水ろ液とともに除去されるので、炭化汚泥の含水率を低くできるほど、炭化汚泥中のNa、K、Clの含有割合を低くできる。そのため、含水率が25質量%以上、且つ55質量%以下の炭化汚泥を得ることができることで、炭化汚泥中のNa、K、Clの含有割合を低くできる。その結果、不純物含有量が少ない炭化汚泥(処理物)を得ることができる。なお、より好ましくは、ゲージ圧1.5MPa以上、且つゲージ圧2.0MPa以下の圧力で炭化汚泥スラリーを圧搾することで脱水することである。
【0083】
また、上記第2脱水工程において、炭化汚泥スラリーに凝集剤を添加することなく炭化汚泥スラリーを脱水することが好ましい。これによれば、炭化汚泥スラリーの脱水に凝集剤を使用しないため、その分、下水汚泥(有機性廃棄物)の処理コストを抑えることができる。
【0084】
また、上記第2脱水工程により、含水率が40質量%以下の炭化汚泥を得ることで、前記養生工程において、炭化汚泥の乾燥に要するエネルギー消費量を少なく抑えることができる。なお、より好ましくは、含水率が35質量%以下の炭化汚泥を得ることである。
【0085】
さらには、本実施形態の有機性廃棄物の処理方法は、上記第2脱水工程で炭化汚泥スラリーから分離した水熱炭化脱水ろ液を、消化槽1(メタン発酵槽)に戻すろ液返送工程を備えている。これによれば、消化ガスの発生量を増加させることができ、エネルギー回収量を増加させることができる。また、CODなどの下水処理場からの放流水質の悪化を抑制することができる。
【0086】
上記の実施形態は次のように変更可能である。
【0087】
上記の実施形態は、分離液処理装置6、および分離液処理工程を備える。本発明において、分離液処理装置6、および分離液処理工程は、必須ではない。
【0088】
上記の実施形態は、ろ液返送工程を備える。本発明において、ろ液返送工程は、必須ではない。
【0089】
上記の実施形態は、養生容器5、および養生工程を備える。本発明において、養生容器5、および養生工程は、必須ではない。
【0090】
処理対象の有機性廃棄物は、下水汚泥に限られるものではない。本発明は、下水汚泥、生ごみなどの食品廃棄物(食品系バイオマス)、古紙・廃紙などのリグノセルロース系廃棄物、農業残渣、および家畜糞尿などの様々な有機性廃棄物を処理対象とすることができる。前記のとおり、これらの有機性廃棄物は、それぞれ単独で処理されてもよいし、混合処理されてもよい。
【符号の説明】
【0091】
1:消化槽(メタン発酵槽)
2:第1脱水機
3:水熱炭化装置
4:第2脱水機
5:養生容器
6:分離液処理装置
7:リアクター
8:加熱熱交換器
9:冷却熱交換器