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  • 特開-ハチ捕獲剤 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023111979
(43)【公開日】2023-08-10
(54)【発明の名称】ハチ捕獲剤
(51)【国際特許分類】
   A01M 1/20 20060101AFI20230803BHJP
【FI】
A01M1/20 A
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023094160
(22)【出願日】2023-06-07
(62)【分割の表示】P 2021099358の分割
【原出願日】2019-08-27
(31)【優先権主張番号】P 2018159811
(32)【優先日】2018-08-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000100539
【氏名又は名称】アース製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100202430
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 千香子
(72)【発明者】
【氏名】本田 拓之
(72)【発明者】
【氏名】山元 えみ
(57)【要約】
【課題】捕獲されたハチが致死するまでの時間を短縮できるハチ捕獲剤、この捕獲剤を含有するハチ捕獲器およびこのハチ捕獲器を使用するハチ捕獲方法を提供すること。
【解決手段】下記界面活性剤(A)を有効成分とするハチ捕獲剤であって、界面活性剤(A)は、浸透力が2000秒以下のものであることを特徴とするハチ捕獲剤、この捕獲剤を含有するハチ捕獲器およびこのハチ捕獲器を使用するハチ捕獲方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記界面活性剤(A)を有効成分とするハチ捕獲剤であって、
界面活性剤(A)は、浸透力が2000秒以下のものであることを特徴とするハチ捕獲剤。
【請求項2】
請求項1に記載のハチ捕獲剤が容器に収納されていることを特徴とする、ハチ捕獲器。
【請求項3】
請求項2に記載のハチ捕獲器を使用することを特徴とする、ハチ捕獲方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハチ捕獲剤、この捕獲剤を含有するハチ捕獲器およびこのハチ捕獲器を使用するハチ捕獲方法に関する。詳しくは、特定の浸透力を有する界面活性剤を有効成分とすることを特徴とする発明に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、害虫捕獲器として様々なものが知られており、例えば、ゴキブリや、ハエなどの小型飛翔害虫等を対象とした害虫誘引捕獲器は、一般家庭、飲食店、工場等において汎用されている。
また、ハチ捕獲器としては、各種形状のものが提案されている。具体的には、特許文献1には、カップ状の容器内部にハチを誘引するための誘引捕獲組成物を収納し、容器上部にハチの侵入口を有する蓋を取り付けた捕獲器が記載されている。特許文献2、3には、捕獲器の可視光透過率や色を調整することにより、ハチの捕獲効率を向上させる技術が紹介されている。特許文献4には、一旦捕獲されたハチが捕獲器から脱出することを抑制するために、ハチ侵入口を捕獲器上部中心部に配置されたものが記載されている。さらに、特許文献5には、特定の糖分濃度のハチ誘引成分を使用することにより、腐敗による発酵臭を発生させて、捕獲効率を向上させることが記載されている。
【0003】
しかしながら、これらのハチ捕獲器内に液状の誘引捕獲剤が使用されている場合には、ハチが液状の誘引捕獲剤中に落ちても致死するまでに時間がかかり、その間にハチは液状の誘引捕獲剤の中を泳いで容器内から脱出してしまい、捕獲効率が低下するという問題があった。また、ハチが致死しても、液状の誘引捕獲剤の液面にハチの死骸が浮いてしまい、これが別のハチの足場となって脱出を促してしまうという問題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004-073144号公報
【特許文献2】特開2007-174964号公報
【特許文献3】特開2009-247236号公報
【特許文献4】特開2014-103933号公報
【特許文献5】特開2007-176853号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、捕獲されたハチが致死するまでの時間を短縮することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、特定の浸透力を有する界面活性剤において、ハチが致死するまでの時間を短縮するのみならず、上記界面活性剤を有効成分とするハチ捕獲剤の中で、ハチの死骸が沈降することを見出し、この特定の浸透力を有する界面活性剤を有効成分とするハチ捕獲剤とすることにより上記課題を解決するに至ったものである。
【0007】
本発明は、具体的には次の事項を要旨とする。
1.下記界面活性剤(A)を有効成分とするハチ捕獲剤であって、
界面活性剤(A)は、浸透力が2000秒以下のものであることを特徴とするハチ捕獲剤。
2.1.に記載のハチ捕獲剤が容器に収納されていることを特徴とする、ハチ捕獲器。
3.2.に記載のハチ捕獲器を使用することを特徴とする、ハチ捕獲方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明のハチ捕獲剤は、ハチが致死するまでの時間が短いため、ハチ捕獲器からハチが脱出することもなく、優れたハチ捕獲効果を発揮する。しかも、本発明のハチ捕獲剤は、ハチの死骸がハチ捕獲剤の液中に沈降するため、ハチ捕獲剤の液面にハチの死骸が浮いて、別のハチの足場となって脱出を促すことや、別のハチのハチ捕獲剤への接触を妨げることがないため、効率的にハチを捕獲することができ有用である。
また、本発明のハチ捕獲剤は、公知の殺虫剤と組み合わせることにより、誘引したハチを確実に防除できる防除薬剤とすることができ、ハチに対する効率的な防除効果を容易に得ることができ有用である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】「スズメバチ捕獲効果確認試験」におけるスズメバチ捕獲数の累計を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明のハチ捕獲剤、この捕獲剤を含有するハチ捕獲器およびこのハチ捕獲器を使用するハチ捕獲方法について詳細に説明する。
本発明のハチ捕獲剤は、特定の浸透力を有する界面活性剤(A)を有効成分として含有するものである。
<本発明の浸透力について>
本発明における浸透力は、以下に説明する、キャンバスディスク法(ISO-8022-1990)に準拠した測定方法により、測定された時間(秒)を意味し、測定は5回行いその平均値を本発明における浸透力(秒)とした。
(測定方法)
20℃において、φ150mmの試験片保持枠にウール布帛(染色堅ろう度試験用塗布白布:JIS L 0803準拠、毛(ウール)、大きさ:200mm×200mm)をゆるみ無く張った状態で固定し、測定対象である界面活性剤1重量%水溶液を当該ウール布帛中央部の表面に50μL滴下して液滴形成し、当該液滴がウール布帛に吸収されるまでの時間をストップウォッチで測定する。
液滴がウール布帛に吸収された終点は、鏡面反射の消失により判断する。詳しくは、上記液滴周辺に、水の鏡面反射を目視確認できる500~1000luxの光を当て、液滴の鏡面反射を目視により確認する。液滴がウール布帛に徐々に吸収されるにつれ液滴の鏡面反射も弱くなり、液滴がウール布帛に吸収されつくすと液滴の鏡面反射も消失する。これにより、液滴がウール布帛に吸収された終点を客観的に判断することができる。この判断基準は、繊維製品の吸水性試験方法(JIS 1907:2010)において、適用されている方法である。
本発明のハチ捕獲剤の有効成分は、1重量%水溶液の浸透力が20℃で2000秒以下である界面活性剤であり、当該浸透力が1000秒以下である界面活性剤が好ましく、同じく500秒以下である界面活性剤がより好ましい。
【0011】
本発明のハチ捕獲剤の有効成分は、上記浸透力が2000秒以下である界面活性剤であれば、非イオン性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、両性界面活性剤の何れでも特に制限なく使用することができるが、中でも、非イオン性界面活性または陰イオン性界面活性剤が好適である。
具体的には、例えば、非イオン性界面活性剤としては、糖エステル型、脂肪酸エステル型、植物油型、アルコール型、アルキルフェノール型、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロックポリマー型、アルキルアミン型、ビスフェノール型、多芳香環型のものが挙げられる。陰イオン性界面活性剤としては、カルボン酸型、スルホン酸型、硫酸エステル型、リン酸エステル型のものが挙げられる。陽イオン性界面活性剤としては、アンモニウム型、ベンザルコニウム型のものが挙げられる。両性界面活性剤としては、ベタイン型のものが挙げられる。
中でも好適な非イオン性界面活性剤としては、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアリールエーテル、ポリオキシアルキレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリアルキレングリコール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル等が挙げられ、好適な陰イオン性界面活性剤としては、スルホン酸塩等が挙げられる。
特に好適な非イオン性界面活性剤としては、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアリールエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステルが挙げられ、特に好適な陰イオン性界面活性剤としては、アルキルスルホ酢酸塩が挙げられる。なお、上記有効成分である界面活性剤(A)は単独もしくは2種以上を混合したもの何れも用いることができる。
【0012】
本発明のハチ捕獲剤は、上記浸透力を有する浸透力に優れた界面活性剤(A)を単に水で希釈したもの、上記浸透力を有する浸透力に優れた界面活性剤(A)と、殺虫剤や一般的に製剤に添加される成分と共に製剤化したもの、さらには、製剤化したものを水で希釈したものなどが含まれる。中でも、本発明のハチ捕獲剤として、上記浸透力を有する浸透力に優れた界面活性剤(A)とその他成分を製剤化したものが、コンパクトでありかつ保存安定性に優れるため、移送時や保管時において有利である。製剤型としては、例えば油剤、乳剤、水和剤、フロアブル剤(水中懸濁剤、水中乳濁剤等)等の液状製剤のほか、マイクロカプセル剤、粉剤、粒剤、錠剤等の固形製剤が挙げられる。中でも、液状製剤は水で希釈しやすく、溶け残りが少ない点において好適である。希釈に使用する水としては、精製水、水道水、イオン交換水、蒸留水、ろ過処理した水、滅菌処理した水、地下水、井戸水等が用いられる。
本発明のハチ捕獲剤は、有効成分である上記浸透力を有する浸透力に優れた界面活性剤(A)を、ハチ捕獲剤全体に対して0.005重量%以上含有することが好ましく、0.01重量%以上含有することがより好ましく、0.05重量%以上含有することが特に好ましい。有効成分である上記浸透力を有する浸透力に優れた界面活性剤(A)の含有量は、ハチ捕獲剤全体に対して0.005重量%未満であると、使用者が満足する程度のハチ捕獲効果を十分に発揮することができない。また、この含有量が5重量%を超えると、溶解性など製剤化における課題が出てくるため、含有量は5重量%以下であることが好ましい。
【0013】
本発明のハチ捕獲剤は、公知の殺虫剤と組み合わせて使用することにより、誘引したハチを確実に防除できる防除薬剤とすることができる。併用できる公知の殺虫剤としては、例えば、天然ピレトリン、アレスリン、レスメトリン、フラメトリン、プラレトリン、テラレスリン、フタルスリン、フェノトリン、ペルメトリン、シフェノトリン、サイパーメスリン、トランスフルトリン、メトフルトリン、プロフルトリン、イミプロトリン、エンペントリン、エトフェンプロックス、シラフルオフェン、メペルフルトリン、ジメフルトリン等のピレスロイド系化合物;プロポクスル、カルバリル等のカーバメイト系化合物;フェニトロチオン、DDVP等の有機リン系化合物;メトキサジアゾン等のオキサジアゾール系化合物;フィプロニル等のフェニルピラゾール系化合物;アミドフルメト等のスルホンアミド系化合物;イミダクロプリド、ジノテフラン等のネオニコチノイド系化合物;ピリプロキシフェン、メトプレン、ハイドロプレン等の昆虫幼若ホルモン様化合物;プレコセン等の抗幼若ホルモン様化合物;ノバルロン、ジフルベンズロン等のキチン合成阻害剤;フィトンチッド、ハッカ油、オレンジ油、桂皮油、丁子油等の殺虫精油類等の各種殺虫剤を挙げることができ、さらに、サイネピリン、ピペロニルブトキサイド等の共力剤も併用することができる。忌避性の少ない、昆虫幼若ホルモン様化合物、抗幼若ホルモン様化合物、キチン合成阻害剤等の昆虫成長制御剤も、好適に併用することができる。
【0014】
これらの公知の殺虫剤の中でも、本発明のハチ捕獲剤と殺虫剤とを混合して使用する場合には、本発明の効果である致死速度と沈降作用を得るために、20℃における水溶解度が100ppm以上のものが好ましい。このような水溶解度を有する殺虫剤としては、例えば、アセフェート、バミドチオン、メチダチオン(DMTP)、フェノブカルブ(BPMC)、エチオフェンカルブ、カルタップ、チオシクラム、イミダクロプリド、チアクロプリド、シロマジン、ホスチアゼート、アセタミプリド、チアメトキサム、カルバリル(NAC)、クロチアニジン、ピメトロジン、ジノテフラン等が挙げられる。これらの中でも、例えば、ジノテフラン(20℃における水溶解度:約54000ppm)、チアメトキサム(20℃における水溶解度:約4100ppm)、イミダクロプリド(20℃における水溶解度:約510ppm)、フェノブカルブ(BPMC、20℃における水溶解度:約610ppm)等の20℃における水溶解度が500ppm以上のものが、本発明のハチ捕獲剤と組み合わせる殺虫剤としてより好適である。
【0015】
本発明のハチ捕獲剤は、公知の誘引成分と組み合わせて使用することにより、ハチを誘引し、確実に捕獲することができる。公知の誘引成分としては、例えば、バルサミコ酢、リンゴ酢、米酢、玄米酢、粕酢、大豆酢、黒酢、ワインビネガー、すだち酢、赤酢、柿酢、麦芽酢、紫イモ酢、サトウキビ酢等の酢、乳酸製品(乳酸菌飲料等)、砂糖類、でんぷん糖類、はちみつ、果実、果実加工品、果汁、果汁飲料、果実酒等、酒類、酒粕、魚介類、魚介類加工品、魚介類抽出物、食肉、食肉加工品、食肉抽出物、香料等をベースとしたものであってもよい。上記誘引成分の中でも、特に液体のものが好ましい。さらに、グリセリン等の脂肪族多価アルコール、ソルビトール等の糖アルコール、キサンタンガム等の増粘多糖類等の保湿成分を含ませれば、長期にわたり誘引成分の効能を発揮させることができる。
【0016】
本発明のハチ捕獲剤は、一般的に製剤に添加される成分を本発明の効果を妨げない範囲で含有させて製剤化することができる。一般的に製剤に添加される成分の例としては、安定化剤、防腐剤、着色料、誤飲防止剤、液体担体等が挙げられる。安定化剤の例としては、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)やブチルヒドロキシアニソール(BHA)等の酸化防止剤、アスコルビン酸等が挙げられる。防腐剤の例としては、ソルビン酸、ソルビン酸塩、パラヒドロキシ安息香酸エステル類、チアベンダゾール等が挙げられる。着色料としては、カラメル色素、クチナシ色素、アントシアニン色素、紅花色素、フラボノイド色素、赤色2号、赤色3号、黄色4号、黄色5号、等が挙げられる。誤飲防止剤としては、安息香酸デナトニウム等が挙げられる。
【0017】
製剤化の際に用いられる液体担体としては、例えばアルコール類(メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール、ヘキサノール、ベンジルアルコール、エチレングリコール等)、エーテル類(ジエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等)、エステル類(酢酸エチル、酢酸ブチル、ミリスチン酸イソプロピル、乳酸エチル等)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等)、芳香族または脂肪族炭化水素類(キシレン、トルエン、アルキルナフタレン、フェニルキシリルエタン、ケロシン、軽油、ヘキサン、シクロヘキサン等)、ハロゲン化炭化水素類(クロロベンゼン、ジクロロメタン、ジクロロエタン、トリクロロエタン等)、ニトリル類(アセトニトリル、イソブチロニトリル等)、スルホキシド類(ジメチルスルホキシド等)、ヘテロ環系溶剤(スルホラン、γ-ブチロラクトン、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、N-オクチル-2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン)、酸アミド類(N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等)、炭酸アルキリデン類(炭酸プロピレン等)、植物油(大豆油、綿実油等)、植物精油(オレンジ油、ヒソップ油、レモン油等)、および水が挙げられる。
【0018】
本発明のハチ捕獲剤が優れた捕獲効果を発揮するハチは、スズメバチ科(Vespidae)に属するハチを主な対象とするものであるが、アリガタバチ類、クマバチ、ベッコウバチ、ジガバチ、ドロバチ等の膜翅目害虫に属するものが挙げられる。中でも、スズメバチ科ハチとしては、スズメバチ亜科(Vespinae)およびアシナガバチ亜科(Polistinae)に属するハチを挙げることができる。
スズメバチ亜科に属するハチとしては、例えば、オオスズメバチ、キイロスズメバチ、コガタスズメバチ、モンスズメバチ、ヒメスズメバチ、チャイロスズメバチ、クロスズメバチ、シダクロスズメバチ、ヤドリスズメバチなどを挙げることができる。
また、アシナガバチ亜科に属するハチとしては、例えば、キアシナガバチ、セグロアシナガバチ、フタモンアシナガバチ、トガリフタモンアシナガバチ、ヤマトアシナガバチ、キボシアシナガバチ、コアシナガバチ、ヤエヤマアシナガバチ、ムモンホソアシナガバチ、ヒメホソアシナガバチなどの土着種を挙げることができる。これら土着種に加えて、対馬や北九州市に侵入したツマアカスズメバチも挙げることができる。アシナガバチの攻撃性や毒性はスズメバチに比べて小さいものの、民家に営巣することがあり、また、それに刺されることによる死亡例もあるため、防除対象である点ではスズメバチと同様である。
これらのハチの中でも、本発明のハチ捕獲剤は、体長が10mm以上45mm以下の範囲のハチ、好ましくは体長が10mm以上30mm以下の範囲のハチ、より好ましくは体長が10mm以上25mm以下の範囲のハチに対して優れた捕獲効果を発揮する。
【0019】
<ハチ捕獲器について>
本発明のハチ捕獲剤は、容器に収納してハチ捕獲器として使用してもよい。
収納する容器は、本発明のハチ捕獲剤を内部に収容できる形態であれば形状や大きさ等は制限されず、使用場所や使用方法に合った形態であればよい。この容器の材質としては、例えば、ガラス、金属、プラスチック等のほか、本発明のハチ捕獲剤が容器から漏出することがない防水や撥水機能を有する特殊紙などの材質であれば特に制限されない。
容器の態様の1例として、容器の開口部を覆う蓋を有し、この蓋または容器の何れかにハチが侵入する開口部が形成されていると良い。この開口部は、ハチが容器内に容易に侵入できる大きさや形状であればよく、開口部の寸法(径、幅、長さ)は、20mm以上35mm以下に設定することが好ましく、25mm以上30mm以下に設定することがより好ましい。開口部が20mmより小さくなると、オオスズメバチ等の大型のハチが開口部から侵入し難く捕獲効率が低下する。また、開口部が35mmより大きくなると、ハチ以外の蝶、蛾、甲虫等が容器内に侵入してしまう。ハチが容器内に侵入しやすいように、複数の開口部を容器に形成することが良いが、その数は容器の大きさにもよるが2個以上5個以下の開口部を形成することが好ましい。また、容器内に侵入したハチが容易に容器外に脱出することを防止するために、開口部は漏斗状等の形状であることが好ましい。
容器は、ハチ捕獲数を目視できるように、透明又は半透明の窓相当部を設けたもの、もしくは透明または半透明の容器としてもよく、捕獲したハチを見えにくくして不快感を抑えることもできる。
ハチ捕獲器を野外に設置する場合、雨水等が浸入し本発明のハチ捕獲剤が希釈され、ハチ捕獲効率が低下することを防止するために、開口部に対し空間を有しつつ雨水等の浸入を防止する覆い部を備える態様が好ましい。
本発明のハチ捕獲器は、なるべく直射日光の当たらない、地面から1~3m辺りに吊るす、または柵などに固定して使用することが好ましい。
【実施例0020】
以下、処方例および試験例等により、本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は、これらの例に限定されるものではない。
なお、実施例において、特に明記しない限り、部は重量部を意味する。
【0021】
<浸透力の確認試験>
(1)試験検体の調製
下記界面活性剤1~21それぞれを、水と混合して1重量%の均一な水溶液を得、これを試験検体とした。
(2)浸透力の測定
20℃において、ウール布帛(染色堅ろう度試験用塗布白布:JIS L 0803準拠、毛(ウール)、大きさ:200mm×200mm)を、φ150mmステンレスシャーレとプラスチック製の試験片保持枠でゆるみ無く張った状態で固定し、これを光源(935lux)と観察者の間に置き、試験検体を滴下するピペットマンを、その先端とウール布帛表面までが10mmとなるように設置した。観察者は、水による鏡面反射を確実に確認できる角度から観察した。ピペットマンから試験検体を50μL滴下し、ウール布帛表面に形成された液滴の鏡面反射を観察した。試験検体がウール布帛表面に達した時から、ウール布帛が液滴全てを吸収(鏡面反射が消失)して、ウール布帛表面上に湿潤だけが残った状態となるまでの時間(秒)を、ストップウォッチで測定した。測定を5回行い、その平均値を使用した界面活性剤の浸透力(秒)とした。
【0022】
<ハチ致死効果確認試験1>
(1)試験検体の調製
下記界面活性剤1~21それぞれを、水と混合して0.06重量%の均一な水溶液を得、これをハチ捕獲剤の試験検体とした。
(2)試験方法について
上記各試験検体を、容器(口径92mm、高さ131mm、底径58mm、東罐興業株式会社製)の底面から100mmの高さまで注ぎ入れた。試験検体液面に体長10~15mm程度のセイヨウミツバチ(以下、「試験ハチ」という。)1匹を投入し、行動停止するまでの時間を測定した。この試験を3回繰り返し、その平均値をハチ致死時間(秒)とした。
【0023】
<ハチ溺沈効果確認試験1>
(1)試験検体の調製
下記界面活性剤1~21それぞれを、水と混合して0.06重量%の均一な水溶液を得、これをハチ捕獲剤の試験検体とした。
(2)試験方法について
上記「ハチ致死効果確認試験1」と同じ容器に、各試験検体を底面から100mmの高さまで注ぎ入れた。試験検体液面に試験ハチ7匹を投入し、24時間後の試験ハチ死骸の溺沈数を確認した。ここで溺沈とは、試験ハチの死骸が容器底面まで沈降していることを意味し、水面下や液中に浮遊しているものは意味しない。
下記式(1)から、溺沈率(%)を算出した。
式(1):溺沈率(%)=100×(容器底面まで沈降した試験ハチ)/(試験ハチ数7)
【0024】
各試験検体の浸透力(秒)、ハチ致死時間(秒)、溺沈率(%)をまとめて示した。ハチ致死時間(秒)と溺沈率(%)に関する下記[評価基準]に従い、それぞれの評価結果も併せ下記表1に示す。
[ハチ致死時間(秒)の評価基準]
A:ハチ致死時間(秒)が200秒未満
B:ハチ致死時間(秒)が200秒以上400秒未満
C:ハチ致死時間(秒)が400秒以上600秒未満
D:ハチ致死時間(秒)が600秒以上または脱出
上記ハチ致死時間(秒)の評価基準A~Cを、実用性があると判断した。
[溺沈率(%)の評価基準]
A:溺沈率(%)が80%以上
B:溺沈率(%)が65%以上80%未満
C:溺沈率(%)が50%以上65%未満
D:溺沈率(%)が50%未満または脱出
×:試験検体入りの容器から逃走したことを意味する
上記溺沈率(%)の評価基準A~Cを、実用性があると判断した。
【0025】
使用した界面活性剤の詳細は、以下のとおりである。
界面活性剤1:ラウリン酸ポリグリセリル(10)、HLB:15.5
界面活性剤2:ポリオキシエチレンアルキル(C12~14)エーテル、HLB:13.5
界面活性剤3:ラウリルスルホ酢酸ナトリウム
界面活性剤4:ショ糖ラウリン酸エステル、HLB:16
界面活性剤5:ショ糖ミリスチン酸エステル、HLB:16
界面活性剤6:ポリオキシエチレントリスチリル化フェニルエーテル、HLB:12
界面活性剤7:ラウリン酸ポリグリセリル(5)、HLB:15.8
界面活性剤8:ポリオキシエチレンジスチリル化フェニルエーテル、HLB:12.8
界面活性剤9:ラウリン酸ポリグリセリル(10)、HLB:17.1
界面活性剤10:ポリオキシエチレンヤシ油脂肪酸ソルビタン、HLB:16.7
界面活性剤11:モノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビタン(20E.O.)、HLB:16.7
界面活性剤12:ミリスチン酸ポリグリセリル(5)、HLB:15.4
界面活性剤13:ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンセチルエーテル(20E.O.)(8P.O.)、HLB:12.5
界面活性剤14:ポリオキシエチレントリベンジルフェニルエーテル、HLB:13.2
界面活性剤15:モノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン(20E.O.)、HLB:15.0
界面活性剤16:ショ糖オレイン酸エステル、HLB:15
界面活性剤17:モノステアリン酸ポリエチレングリコール(40E.O.)、HLB:17.5
界面活性剤18:ポリオキシエチレンフィトスチロール、HLB:12.5
界面活性剤19:ポリオキシエチレンフィトスチロール、HLB:18.0
界面活性剤20:ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、HLB:12.5
界面活性剤21:ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、HLB:14.0
【0026】
【表1】
【0027】
表1に示すとおり、本発明の浸透力が2000秒以下の界面活性剤(A)である界面活性剤1~17を有効成分とするハチ捕獲剤は、ハチが致死するまでの時間が短く、しかも、ハチの死骸がハチ捕獲剤の液中に溺沈することが確認された。特に、本発明の浸透力が1000秒以下の界面活性剤1~16を有効成分とするハチ捕獲剤は、優れたハチ捕獲効果を発揮することが明らかとなった。なお、界面活性剤18および19においては、ハチを試験検体に投入したものの、当該ハチは試験検体から脱出し、致死に至らなかった。よって、表1中の「-」は、前記理由により致死の時間および溺沈率が測定できなかったことを意味する。
【0028】
<ハチ致死効果確認試験2>
(1)試験検体の調製
上記界面活性剤1の含有量が0.3重量%となるように、ハチ誘引成分(酒、酢、糖など)を組み合わせて、ハチ捕獲剤原液を調製し、この原液を水で5倍希釈して実施例試験検体を作製した。また、実施例試験検体と同様にして、界面活性剤1を含まない比較例試験検体を作製した。
(2)試験方法について
上記「ハチ致死効果確認試験1」と同様の方法で試験を行い、行動停止するまでの時間を測定した。この試験を3回繰り返し、その平均値をハチ致死時間(秒)とした。実施例試験検体を用いたものを実施例1とし、比較例試験検体を用いたものを比較例1として、得られた結果を表2に示す。なお、評価基準についても、上記「ハチ致死効果確認試験1」と同様とした。
【0029】
<ハチ溺沈効果確認試験2>
(1)試験検体の調製
上記「ハチ致死効果確認試験2」の実施例試験検体と比較例試験検体を使用した。
(2)試験方法について
84時間後に試験ハチの死骸の溺沈数を確認した以外は、上記「ハチ溺沈効果確認試験1」と同様の方法で試験を行い、溺沈率(%)を算出した。実施例試験検体を用いたものを実施例1とし、比較例試験検体を用いたものを比較例1として、得られた結果を表2に示す。なお、評価基準についても、上記「ハチ溺沈効果確認試験1」と同様とした。
【0030】
【表2】
【0031】
表2に示すように、本発明の浸透力が2000秒以下の界面活性剤(A)である界面活性剤1と、誘引剤とを混合した実施例1においては、ハチが致死するまでの時間が短く、しかも、ハチの死骸がハチ捕獲剤の液中に溺沈することが確認された。一方、界面活性剤1を含まない誘引剤である比較例1は、ハチが溺死したものの、その時間は極めて長時間を要した。さらに、ハチの死骸は、比較例1の液中にほとんど溺沈せず、液面に浮かんだ状態であった。このことから、比較例1を屋外での実場面で用いた場合には、ハチが誘引されたとしても、先に捕獲され、比較例1の液面に浮かんだ状態のハチが足場となり、後から誘引されたハチは、比較例1の液中に捕獲および溺沈することなく脱出してしまう可能性が高くなると推察される。
【0032】
<ハチ溺沈・致死効果確認試験>
(1)試験検体の調製
上記界面活性剤1を、水と混合して0.1重量%の均一な水溶液を得て、これをハチ捕獲剤の実施例試験検体とした。
(2)試験方法について
上記試験検体を、容器(口径92mm、高さ131mm、底径58mm、東罐興業株式会社製)の底面から100mmの高さまで注ぎ入れた。この試験検体液面に体長20~25mm程度のセグロアシナガバチ(以下、「試験ハチ」という。)1匹を投入し、溺死するまでの時間を測定した。この試験を2回繰り返し、その平均値をハチ致死時間(秒)とした。
また、溺死から24時間後に、試験ハチの死骸が容器底面まで溺沈しているかを確認し、上記「ハチ溺沈効果確認試験1」と同様に溺沈率(%)を算出した。
実施例試験検体を用いたものを実施例2として、ハチ致死時間(秒)と溺沈率(%)および、その評価結果を表3にまとめて示す。なお、評価基準についても、上記「ハチ溺沈効果確認試験1」と同様とした。
【0033】
【表3】
【0034】
表3に示すように、本発明の浸透力が2000秒以下の界面活性剤(A)である界面活性剤1を含有する実施例2は、アシナガバチ類に対しても致死するまでの時間が短く、しかも、ハチの死骸がハチ捕獲剤の液中に溺沈することが確認された。
【0035】
<スズメバチ捕獲効果確認試験>
本発明のハチ捕獲剤のスズメバチに対する捕獲効果を確認するために、屋外においてスズメバチ捕獲効果確認試験を行った。参考例として、市販されているハチ誘引液入りの捕獲器(市販品A)を使用した。
(1)実施例検体の調製
上記「ハチ致死効果確認試験2」の実施例試験検体を使用し、これを、上記市販品Aのハチ誘引液が入っていないハチ捕獲器に、市販品Aと同じ液量となるように注入したものを実施例3とした。
(2)試験方法について
雑木林の中(試験区1)と建物近くの庭園(試験区2)それぞれに、上記実施例3と参考例を3m離し、地上から2mの高さに設置し、スズメバチの累積捕獲数を4週間(2018年5月)にわたり観測した。試験は上記2箇所で行い、その合計をスズメバチ累計捕獲数とした。
試験区1、2における、実施例3と参考例とにおけるスズメバチ累計捕獲数を表4と図1に、捕獲されたスズメバチの種類について、表5に示す。
【0036】
【表4】
【0037】
【表5】
【0038】
表4、図1に示すように、本発明のハチ捕獲剤を含有するハチ捕獲器(実施例3)は、参考例の市販品に比べて、1~2週目の初期段階でのハチ捕獲効果に非常に優れており、4週目までに約1.7倍のハチを捕獲できることが確認された。この結果は、本発明のハチ捕獲剤が、浸透力に優れハチが致死するまでの時間が短い界面活性剤を有効成分としていることにより、発揮された効果であると考えられる。しかも、本発明のハチ捕獲剤(実施例3)は、ハチの死骸がハチ捕獲剤に沈降する効果を有するため、ハチの死骸が液面に浮遊し、捕獲器に入り込んだ別のハチの脱出の足掛りとなることもないため、捕獲開始の初期段階からハチ捕獲数が順調に増えたものと考えられる。
実際にハチ捕獲器の中を観察したところ、本発明のハチ捕獲器は、捕獲されたハチは捕獲器の底面に溺沈していたが、参考例の市販品は、ハチのみならず蛾やコバエ類も捕獲されており、しかも、それらの死骸は全て捕獲液面に浮かんだ状態であった。そのため、捕獲液面に浮かんだそれらの死骸が液面を覆ってしまったため、新たなハチの捕獲が阻害され、ハチ捕獲数が少なかったものと考えられる。本発明のハチ捕獲器は、捕獲された蛾やコバエ類等の他の昆虫の死骸も沈降するため、新たなハチの捕獲および溺死を妨げることなく、長期にわたり優れたハチ捕獲効果を得ることができ有用である。
さらに、参考例の市販品ではコバエ類が産卵し、捕獲器の中でコバエ類が大量発生して見た目が汚いという欠点があった。これに対して、本発明のハチ捕獲器は、捕獲されたコバエ類もすぐに溺死し、かつ死骸が沈降するため、産卵によるコバエ類の大量発生もなく、見た目もきれいに使用を継続できることも明らかとなった。
また、表5に示すように、本発明のハチ捕獲剤を含有するハチ捕獲器(実施例3)は、参考例の市販品に比べて、オオスズメバチ(体長25~45mm程度)、コガタスズメバチ(体長22~30mm程度)、キイロスズメバチ(17~28mm程度)の攻撃性の高い肉食系ハチのハチ捕獲効果に優れていることが改めて確認された。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明のハチ捕獲剤は、ハチが致死するまでの時間が短いため、ハチ捕獲器からハチが脱出することもなく、優れたハチ捕獲効果を発揮する。しかも、本発明のハチ捕獲剤は、ハチの死骸がハチ捕獲剤の液中に沈降するため、ハチ捕獲剤の液面にハチの死骸が浮いて、別のハチの足場となって脱出を促すことや、別のハチのハチ捕獲剤への接触を妨げることがないため、効率的にハチを捕獲することができ有用である。
また、本発明のハチ捕獲剤は、捕獲されたハチ以外の昆虫も溺死し死骸が沈降するため、例えば、コバエ類の大量発生等もなく、長期間にわたり優れたハチ捕獲効果とともに、美観をも維持することができる。
図1