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特開2023-11198腐食管理システム、推定方法及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023011198
(43)【公開日】2023-01-24
(54)【発明の名称】腐食管理システム、推定方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01M 99/00 20110101AFI20230117BHJP
【FI】
G01M99/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021114897
(22)【出願日】2021-07-12
(71)【出願人】
【識別番号】518022743
【氏名又は名称】三菱造船株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【弁理士】
【氏名又は名称】古都 智
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(72)【発明者】
【氏名】松本 俊作
(72)【発明者】
【氏名】杉村 忠士
(72)【発明者】
【氏名】井上 総一郎
(72)【発明者】
【氏名】寺田 伸
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 智
【テーマコード(参考)】
2G024
【Fターム(参考)】
2G024AD16
2G024AD33
2G024BA12
2G024BA21
2G024BA22
2G024BA27
2G024CA26
2G024CA30
2G024FA06
(57)【要約】
【課題】未計測部位の腐食の状態を推定することができる手段を提供する。
【解決手段】腐食管理システムは、評価対象の構造物の第1部位における腐食の状態を示す計測データを取得する計測データ取得部と、前記評価対象の前記第1部位における腐食の状態と第2部位における腐食の状態との関係式と、前記第1部位の前記計測データとに基づいて、前記第2部位における腐食の状態を推定する腐食推定部と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
評価対象の構造物の第1部位における腐食の状態を示す計測データを取得する計測データ取得部と、
前記評価対象の前記第1部位における腐食の状態と第2部位における腐食の状態との関係式と、前記第1部位の前記計測データとに基づいて、前記第2部位における腐食の状態を推定する腐食推定部と、
を備える腐食管理システム。
【請求項2】
前記構造物とは異なる他の構造物における前記第1部位および前記第2部位の前記計測データから解析されたパラメータに基づいて、前記関係式を算出する関係式算出部、
をさらに備える請求項1に記載の腐食管理システム。
【請求項3】
前記パラメータは、腐食発生寿命Tcと、Yを腐食量、Xを時間としたときの腐食の進展量の予測式Y=AXにおけるAとBである、
請求項2に記載の腐食管理システム。
【請求項4】
前記第1部位の前記計測データを当該計測データおよび過去の他の前記構造物の前記第1部位で計測された前記計測データに基づいて補正する計測データ補正部、
をさらに備える請求項1から請求項3の何れか1項に記載の腐食管理システム。
【請求項5】
前記関係式は、前記第2部位における腐食の状態を示す量と、前記第1部位における腐食の状態を示す量に補正量を加算した量とが等しいことを示す加算則に基づく関係式と、前記第2部位における腐食の状態を示す量と、前記第1部位における腐食の状態を示す量に補正量を乗じた量とが等しいことを示す乗算則に基づく関係式と、のうちの何れか又は両方である、
請求項1から請求項4の何れか1項に記載の腐食管理システム。
【請求項6】
前記関係式は、前記第1部位についての腐食発生寿命と前記第2部位についての腐食発生寿命との関係を示す第1の関係式と、前記第1部位の腐食の進展量と前記第2部位の腐食の進展量との関係を示す第2の関係式と、を含む、
請求項1から請求項5の何れか1項に記載の腐食管理システム。
【請求項7】
前記第2の関係式によって、前記第2部位における腐食の進展量が閾値を超過する確率を予測する故障確率計算部、
をさらに備える請求項6に記載の腐食管理システム。
【請求項8】
前記第1部位および前記第2部位の腐食の状態に基づいて、前記第1部位の腐食に対する第1の保守計画と、前記第2部位の腐食に対する第2の保守計画とを作成する計画作成部、をさらに備える請求項1から請求項7の何れか1項に記載の腐食管理システム。
【請求項9】
前記計画作成部は、前記第1の保守計画に係る第1のコストと、前記第1の保守計画によって達成される前記第1部位の信頼性である第1の信頼性とを計算し、前記第2の保守計画に係る第2のコストと、前記第2の保守計画によって達成される前記第2部位の信頼性である第2の信頼性とを計算し、前記評価対象が有する前記第1部位と前記第2部位以外の全部位について作成された第3の保守計画に係る第3のコストと第3の信頼性を計算し、前記第1のコストと前記第2のコストの前記第3のコストの和である総コストと、前記第1の信頼性と前記第2の信頼性と前記第3の信頼性との積である全体信頼性と、を計算し、前記総コストと前記全体信頼性のうちの何れか又は両方が所定の基準を満たすよう、前記第1の保守計画、前記第2の保守計画および前記第3の保守計画の少なくとも一つを調整する、
請求項8に記載の腐食管理システム。
【請求項10】
評価対象の構造物の第1部位における腐食の状態を示す計測データを取得するステップと、
前記評価対象の前記第1部位における腐食の状態と第2部位における腐食の状態との関係式と、前記第1部位の前記計測データとに基づいて、前記第2部位における腐食の状態を推定するステップと、
を有する推定方法。
【請求項11】
コンピュータに、
評価対象の構造物の第1部位における腐食の状態を示す計測データを取得するステップと、
前記評価対象の前記第1部位における腐食の状態と第2部位における腐食の状態との関係式と、前記第1部位の前記計測データとに基づいて、前記第2部位における腐食の状態を推定するステップと、
を実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、腐食管理システム、推定方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
船舶、化学プラント、火力プラントなど多数の分野で構造物の健全性を維持するために、腐食への対策が重要な課題となっている。腐食減肉は、ばらつきが大きい現象であり、確率統計に基づく推論が用いられる。腐食の状態を予測する場合、腐食の発生と腐食の進展の2段階腐食モデル、或いは、腐食の発生と進展の間に、発生から進展性腐食への遷移を考慮した3段階腐食モデルが用いられる。
【0003】
鋼材の腐食進展量(減肉量)の予測は、一般にべき乗則Y=AX(Yは腐食量、Xは時間、AとBは材料と環境に依存する係数)が用いられる。係数のA、Bを決定する方法には、(1)観測可能な物理量を説明変数として推定する方法や、(2)実験や実測値から直接推定する方法などが存在する。
【0004】
特許文献1には、橋梁の設置個所での、温度、相対湿度、飛来塩分量、濡れ確率を説明変数として腐食量を確率的推論により求める方法が開示されている。特許文献1に開示の方法は、説明変数が明らかでないと利用できないが、計測の都合上、説明変数が得られない場合もある。例えば、大型構造物では、センサが設置されていないエリアが一般的である。また、防爆エリアでは通常のセンサは設置できない。このようなエリアの計測値を説明変数に含む場合、特許文献1の方法を使用することができない。また、特許文献1の方法は、説明変数が増えると、回帰の自由度調整により腐食量推定の標準誤差が大きくなる可能性がある。
【0005】
非特許文献1に記載された方法では、船体各部で取得した大量の計測データを用いて、3段階腐食モデルの係数を調整し、腐食の発生寿命と任意の時期における腐食量を確率的に推定している。しかし、船舶などの大型構造物の腐食についての検査および計測では、アクセス性を含む、時間、コスト、安全性等の観点から、全構造部材について統計的推論に十分な計測データを取得することはできない場合が多い。また、大型構造物のうちの単一の構造部材の計測データについては以下のリスクがある。(1)検査、計測のサンプルサイズが小さい(サンプルとして採取できる数が少ない)ため、統計的分布傾向を把握できない。(2)検査、計測に偏りがあり、対象部位を代表できていない。(3)作業環境や検査器具の特性、作業員の能力などによる計測誤差がある。また、(4)ある構造物でデータを蓄積しても、環境や運用など条件が異なる構造物に対しては、有効なデータにならない場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4706279号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Hiroshi Sone et al., Evaluation of thickness diminution in steel plates for the assessment of structural condition of ships in service, NK Technical bulletin vol.21, 2003
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
何らかの理由で、腐食の検査、測定の結果が得られていない部位についても腐食の状態を推定できる方法が求められている。
【0009】
本開示は、上記課題を解決することができる腐食管理システム、推定方法及びプログラムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示の腐食管理システムは、評価対象の構造物の第1部位における腐食の状態を示す計測データを取得する計測データ取得部と、前記評価対象の前記第1部位における腐食の状態と第2部位における腐食の状態との関係式と、前記第1部位の前記計測データとに基づいて、前記第2部位における腐食の状態を推定する腐食推定部と、を備える。
【0011】
本開示の推定方法は、評価対象の構造物の第1部位における腐食の状態を示す計測データを取得するステップと、前記評価対象の前記第1部位における腐食の状態と第2部位における腐食の状態との関係式と、前記第1部位の前記計測データとに基づいて、前記第2部位における腐食の状態を推定するステップと、を有する。
【0012】
本開示のプログラムは、コンピュータに、評価対象の構造物の第1部位における腐食の状態を示す計測データを取得するステップと、前記評価対象の前記第1部位における腐食の状態と第2部位における腐食の状態との関係式と、前記第1部位の前記計測データとに基づいて、前記第2部位における腐食の状態を推定するステップと、を実行させる。
【発明の効果】
【0013】
上述の腐食管理システム、推定方法及びプログラムによれば、未計測点の腐食状態を推定することができる。また、推定した腐食へ対処するための有効な保守計画を作成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施形態に係る腐食管理システムの一例を示すブロック図である。
図2】実施形態に係る腐食の推定に用いる関係式について説明する図である。
図3】実施形態に係る計測部の腐食の補正処理について説明する図である。
図4】実施形態に係る未計測部の腐食推定処理の一例を示すフローチャートである。
図5】実施形態に係る保守の費用と信頼性の関係を示す図である。
図6】実施形態に係る保守計画の作成処理の一例を示すフローチャートである。
図7】実施形態に係る腐食管理システムのハードウェア構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<実施形態>
以下、本開示の腐食管理システムについて、図1図7を参照して説明する。
(システム構成)
図1は、実施形態に係る腐食管理システムの一例を示すブロック図である。
腐食管理システム1は、船舶などの浮体構造物、化学プラントなどの各種設備や機械における構造物の腐食状態を推定し、さらに腐食によって生じる将来の故障確率を予測し、その故障に対処するための有効な保守計画を作成する。腐食が課題となる構造物では、腐食の検査や計測が行われる。しかし、例えば、船舶などの大型構造物では、必ずしも注目する部位の全てについて検査や測定が可能とは限らない。これに対し、腐食管理システム1は、評価対象について、十分な検査データが入手できない場合や、検査データが頻繁に得られない部位に対して、過去の腐食データベースを参照し、各部位の腐食発生寿命(腐食が発生するまでの時間)、腐食量(減肉量)の時系列変化を取得し、これらのデータと評価対象の限られた計測データから、腐食発生寿命や腐食量を確率的に推定する。
【0016】
腐食管理システム1は、腐食推定装置10と、保守計画装置20とを備える。腐食推定装置10は、評価対象の未計測部位の腐食状態を推定する。保守計画装置20は、腐食推定装置10によって推定された腐食状態に基づいて、信頼性またはコストを最適化する腐食に対する保守計画を作成する。
【0017】
(腐食推定装置の構成)
腐食推定装置10は、計測データ取得部11と、関係式算出部12と、腐食推定部13と、計測データ補正部14、故障確率計算部15と、記憶部16と、出力部17と、を備える。
計測データ取得部11は、評価対象の構造物について検査、計測された腐食の状態を示す情報である計測データを取得する。計測データには、腐食の有無、減肉量などの情報が含まれる。評価対象の構造物に限定は無い。以下の説明においては、一例として、評価対象を船舶Hとする。また、計測データが得られた部位を部位Sとし、計測データが得られなかったが腐食の評価を行う部位を部位Uとする。ここで部位とは、船舶Hのアッパーデッキ、サイドシェル、バラスト水タンク、オイルタンク等のある程度の大きさを有する構造物である。
【0018】
関係式算出部12は、過去の他の船舶における部位Uと部位Sの計測データから、部位Uと部位Sの関係を算出する。関係式算出部12は、部位Uで腐食が発生するまでの期間と部位Sで腐食が発生するまでの期間との関係を示す腐食発生寿命の関係式と、時間Tにおける部位Uの腐食量(減肉量)と部位Sの腐食量との関係を示す腐食量の関係式とを算出する。部位S内でも実際に計測した位置によって腐食発生寿命、腐食量は、ばらつきを有し、また、部位Uと部位Sの腐食に関す関係性についても、部位Uと部位Sの計測データが共に得られている船舶1と船舶2の間では異なる。従って、関係式算出部12は、これらの不確実性を包含した腐食発生寿命の関係式および腐食量の関係式を算出する。
【0019】
次に図2を参照して、これらの関係式について説明する。
船舶などの多くの海洋構造物については、過去の腐食検査の結果に基づく各部材の腐食データベースが提供されている。腐食データベースには、多様な船舶についてのデータが登録されていて、あらゆる構造や使用環境の違いなどを包含するデータを含んだものとなっている。
【0020】
腐食データベースには、各部位別で計測された計測データに基づいて解析された、以下の情報(パラメータ)が格納されている。
・腐食発生寿命Tcの確率データベース・・・例えば、腐食発生寿命Tcの対数平均、対数標準偏差が登録されている。
・腐食進展パラメータaの確率データベース・・・例えば、腐食進展パラメータaの対数平均、対数標準偏差が登録されている。
・腐食進展パラメータbのデータベース・・・bは、例えば、材質や部位(場所、環境)ごとに定められた確定値である。又はbは確率変数でもよい。
【0021】
腐食進展パラメータa、bは、それぞれ、上述したべき乗則Y=AXのAとBである。Tc、a、bを用いると、ある時間t(t>Tc)における腐食量d(t)は、以下の式(1)で表される。
d(t)=a×(t-Tc) ・・・(1)
腐食の関係式は、過去の腐食データベースを元に、腐食発生寿命Tc、腐食量d(t)のそれぞれについて作成される。腐食量の関係式については時間依存性を考慮する。
【0022】
図2の上図2Aに、腐食データベースに記録された既知の部位Aおよび部位Bの腐食発生寿命Tcの中央値(それぞれ、μTc,A、μTc,B)と、式(1)による腐食量d(t)の中央値と、の関係を表したグラフを示す。グラフ100Aが部位A、グラフ100Bが部位Bの腐食進展量グラフである。また、μTc,Aは部位Aの腐食発生寿命Tcの中央値を示し、μTc,Bは部位Bの腐食発生寿命Tcの中央値を示す。
【0023】
図2の下図2Bに、腐食データベースに記録された既知の部位Aおよび部位BのTc、a、bと式(1)に基づく時間tobsにおける腐食量の確率分布を表したグラフを示す。グラフ200Aが部位A、グラフ200Bが部位Bの腐食量の確率分布である。ここで、時間tobsにおける部位Aの腐食量がdA,Pであるとき、d(tobs)の確率分布を用いて腐食量dA,Pの累積確率を算出する。グラフ200Bにおいて同じ累積確率を与える値が同じ時間tobsにおける部位Bの腐食量dB,Pである。
【0024】
関係式算出部12は、腐食発生寿命Tcと腐食量d(t)のそれぞれについて、部位Aと部位Bの関係性をそれぞれ加算則と乗算則で定式化する。
【0025】
1.腐食量d(t)について
加算則:d(tobs)=d(tobs)+K1(tobs) ・・・(2)
乗算則:d(tobs)=K2(tobs)×d(tobs) ・・・(3)
【0026】
2.腐食発生寿命Tcについて
加算則:Tc=Tc+K3 ・・・(4)
乗算則:Tc=K4×Tc ・・・(5)
【0027】
補正項K1~K4については、決定論的に定数としてもよいし、確率分布として算出してもよい。補正項を確率的に扱う場合は、部位の腐食関係性に関する不確かさを、工学的判断により定性的に設定する。補正項K1~K4は、腐食データベースに登録されている船舶と、評価対象の船舶Hとの性質(材質、大きさ、環境)の違いを考慮して設定されてもよい。なお、関係式(2)~(5)で計算されるd(tobs)やTcの値も確率分布として算出される。
【0028】
船舶の場合、多数の船舶についてTc、a、bの値が解析され、公知のデータベースとして提供されている。腐食データベースに登録された部位Sと部位Uのデータには、例えば、船舶によって、あるいは、同一船舶の同一部位内であっても実際に検査、計測を行った位置によって、ばらつきが生じている。しかし、図2Aで例示したように平均値や中央値を用いることで、腐食データベースに内包される多様な腐食影響因子(コーティング、環境)や誤差因子(検査員スキル、計測誤差)の影響が緩和され、また、腐食データベース全体の分布特性から、例えば、「アッパーデッキが腐食しやすい船体では、サイドシェルも腐食しやすい」という仮定で、部位間の腐食関係性を定義する。このような前提で算出された確率的なパラメータであるTcとa(場合によってはbも含む)には船舶間のばらつき、同一部材内のばらつきが概ね包含されると考えられる。このような腐食発生寿命Tcと腐食進展パラメータaを用いて、関係式(2)~(5)を算出することにより、さらに、必要に応じて補正項K1~K4を確率分布(例えば正規分布)で表すことで、ばらつきに対してロバストな関係式が得られる。関係式算出部12は、部位Aと部位Bだけではなく、腐食データベースに登録されている他の全部位についても、腐食発生寿命や進展量を計算し、全ての部位の組合せにおいて関係性を定式化する。
【0029】
腐食推定部13は、計測部位Sの計測データと、部位Sと部位Uの腐食データベースに基づいて定式化された関係式(2)~(5)(上で例示した関係式において、部位Aが部位Sに相当し、部位Bが部位Uに相当する場合の関係式)とを用いて評価部位Uの腐食の状態を推定する。例えば、腐食推定部13は、関係式(4)、(5)の何れか又は両方を用いて、部位Uの腐食発生寿命μTc,Uを推定する。また、腐食推定部13は、関係式(2)、(3)の何れか又は両方を用いて、tobsにおける部位Uの腐食量d(tobs)を推定する。tobsは計測部位Sについて、腐食の検査、計測を行った時間である。
【0030】
ここで、計測部位Sの計測データには、次のリスクが発生する可能性がある。(1)検査計測のサンプルサイズが小さい。(2)実際に計測した位置に偏りがあり、対象部位Sを代表できていない。(3)計測位置の環境や検査器具特性、作業員の能力などによる計測誤差がある。これに対し、計測データ補正部14は、部位Sの計測データの精度を向上させるべく計測データの補正を行ってもよい。計測データ補正部14は、計測部位Sの精度が十分ではないと考えられる場合には、計測部位Sについて、過去実績(腐食データベースのパラメータから計算できる値や実測値)と、計測部位Sの計測データをベイズ法により融合評価することにより、計測部位Uの計測データを補正する。融合評価の方法は、例えば、2014年のJIP(Joint Industry Project)報告書「Life Cycle Management of Hull Structure JIP」などに記載されている。以下、図3を参照して計測データの補正方法について説明する。
【0031】
図3に腐食関係式モデルの一例を示す。図3のモデルは、腐食進展パラメータa(300)を確率パラメータμ(301)、σ(302)で表し、さらに確率パラメータμ(301)をμμa(311)、σμa(312)で表し、確率パラメータσ(302)をμσa(313)、σσa(314)で表した確率モデルである。ここで、腐食進展パラメータa(300)の確率パラメータμ(301)はaの対数平均、σ(302)はaの対数標準偏差である。同様にμμa(311)はμ(301)の対数平均、σμa(312)はμ(301)の対数標準偏差である。腐食発生寿命Tc(320)についても同様のμTc(321)等のパラメータを用いた確率モデル(図示省略)で表す。計測データ補正部14は、この補正モデルにおける計測部位Sの腐食量d(t)(340)に対して、評価対象の船舶Hの計測部位Sで実際に計測された計測データ、同じ部位Sにおける他の船舶の過去実績を与え、腐食発生寿命Tc(340)に、船舶Hの計測部位Sで実際に計測された計測データ、同じ部位Sにおける他の船舶の過去実績を与える。そして、計測データ補正部14は、ベイズ推論の枠組みにより、上記のパラメータ301~302,311~314,321値を調整することにより、精度の良いパラメータa、Tcを求め、上記の式(1)により、過去実績と計測データの融合評価による補正後の計測部位Sにおけるd(t)340を得る。
【0032】
そして、腐食推定部13は、補正後のd(t)(340)と、補正項(350)と、式(4)、(5)により、未計測部位Uの腐食量d(t)(360)を推定する。
【0033】
故障確率計算部15は、腐食推定部13が推定した評価部位Uについて、一般的な不確実性の進展計算により、腐食状態の確率的予測を行う。故障確率計算部15は、確率パラメータを変化させつつ、1年後、2年後、・・・、10年後・・・の腐食状態を予測し、X年後の腐食量が故障とみなせる腐食量に至る確率(故障確率)を計算する。
【0034】
記憶部16は、さまざまな船舶の腐食に関する計測データ、腐食発生寿命Tc、腐食進展パラメータa,bが登録された腐食データベースなどを記憶する。
出力部17は、評価部位Uについて推定した腐食発生寿命Tc、腐食量d(t)、故障確率等の情報を、表示装置や電子ファイル出力する。
【0035】
(腐食推定装置の動作)
次に未計測部の腐食推定処理の流れについて説明する。
図4は、実施形態に係る未計測部の腐食推定処理の一例を示すフローチャートである。
まず、関係式算出部12が、各部位間の関係式を算出する(ステップS1)。関係式算出部12は、腐食データベースに登録されているTc、a、bに基づいて、腐食関係式(2)~(5)を算出する。関係式算出部12は、算出した関係式を記憶部16に記録する。次に評価対象の評価部位を設定する(ステップS2)。例えば、ユーザが、船舶Hの評価部位U(例えば、アッパーデッキ)を腐食推定装置10へ入力する。腐食推定装置10は、入力された部位Uの情報を取得し、記憶部16に記録する。次にユーザが、計測部位Sの計測データを腐食推定装置10へ入力する。計測データ取得部11は、計測部位Sの計測データ(腐食の有無、腐食量)と計測部位Sの情報(例えば、サイドシェル)とを取得し(ステップS3)、計測データと計測部位Sの情報とを対応付けて記憶部16に記録する。
【0036】
次に計測データ補正部14は、入力された計測部位Sの計測データを補正するかどうかを判定する(ステップS4)。例えば、ユーザは、計測部位Sの計測データの信頼性が低い(複数の作業員によって計測された部位Sの計測誤差が閾値より大きいなど)場合には、計測データの信頼性が低い旨を腐食推定装置10に入力する。計測データ補正部14は、信頼性が低いことを示す情報が入力された場合に船舶Hの計測データを補正すると判定し、信頼性が高いことを示す情報が入力された場合に計測データの補正を行わないと判定する。計測データの補正を行わないと判定した場合(ステップS4;No)、ステップS6の処理に進む。
【0037】
計測データの補正を行うと判定した場合(ステップS4;Yes)、計測データ補正部14は、計測データを補正する(ステップS5)。図3を用いて説明したように、計測データ補正部14は、パラメータa、Tc、μa等を用いてモデル化された腐食量dt(t)について、計測データと実績値から確率的にμa等のパラメータを算出する。そして、計測データ補正部14は、算出したパラメータを用いて補正後の計測データである腐食量dt(t)を算出する。
【0038】
次に腐食推定部13が、ステップS1で作成した関係式の中から、評価部位と計測部位の関係式を算出する(ステップS6)。腐食推定部13は、部位Sから部位Uの腐食状態を算出する関係式(2)~(5)を記憶部16から読み出す。次に腐食推定部13が、計測データと関係式とに基づいて評価部位の腐食状況を推定する(ステップS7)。腐食推定部13は、評価部位Uの腐食発生寿命μTcUについて、計測データ又は補正後の計測データと、加算則に基づく関係式(4)によって推定する。また、腐食推定部13は、計測データ又は補正後の計測データと、乗算則に基づく関係式(5)とに基づいて腐食発生寿命μTcUを推定する。同様に、腐食推定部13は、腐食量dt(t)について、計測データ又は補正後の計測データと、関係式(1)および関係式(2)とに基づいて2つの推定値を算出する。腐食推定部13は、算出した評価部位Uの腐食の状態の推定値を記憶部16に記録する。加算則および減算則により推定された推定値は、全て部位Uの腐食状態を示すものとして使用することができるが、例えば4つの推定値(但し、1つ1つの推定値は確率的に表されている。)のうち、部位Sと比較して極端に値が大きい等の場合、この推定値を使用しないことも可能である。例えば、腐食推定部13は、部位Uの腐食量が部位Sよりも所定数以上大きい場合(例えば100倍以上)、この値は不正確な推定である可能性が高いとして、推定値に使用不可のフラグ情報を付加して記憶部16に記録してもよい。
【0039】
次に故障確率計算部15が、腐食による将来の故障確率を予測する(ステップS8)。図6を参照する。例えば、故障確率計算部15は、図6の評価部位Uの腐食量du(t)(360)について、パラメータa(300)とパラメータTc(320)を所定の範囲で変動させて計算したd(t)に基づいて、将来の腐食量を計算する。例えば、故障確率計算部15は、パラメータa(300)、Tc(320)の各々に値a1、Tc1を設定して、1年後~20年後までの1年ごとの腐食量d(t)を計算し、その腐食量d(t)と関係式(1)~(2)に基づいて、腐食量d(t)を計算する。故障確率計算部15は、各年の腐食量d(t)を記録する。故障確率計算部15は、パラメータa(300)、Tc(320)の値を変えながら、この計算を、例えば、数千~数万回行う。例えば、パラメータa(300)、Tc(320)の組合せを1万通り試行した場合であって、10年後の腐食量d(t=10年)が閾値以上となった回数が5千回の場合、故障確率計算部15は、部位Uの10年後の故障確率を50%と計算する。なお、パラメータの変動のさせ方には、例えば、パラメータμについて、事後分布が最大となる値を用いるMAP(maximum a posteriori)推定を適用し、不確実性の進展計算をする方法(他のパラメータについても同じ)と、パラメータμμaとσμaを用いてパラメータμをモンテカルロ法により変動させる二重モンテカルロ試行による方法などが考えられる。
【0040】
次に出力部17が、ステップS7で推定した部位Uの腐食の推定値、ステップS8で推定した故障確率などを出力する(ステップS9)。腐食推定装置10は、船舶Hの腐食の検査、計測が実施できていない箇所について、図4に示す処理を実行し、腐食状態の推定や将来における故障確率の計算を実施する。これにより、船舶Hの全ての部位について腐食状態が推定され(一部は実際に計測されたもの)、全ての部位について将来の故障確率が計算される。ユーザは、出力された情報に基づいて、腐食の状態を確認したり、腐食による故障などを防ぐための保守計画を作成したりする。次に腐食に対処する為の保守計画の作成について説明する。
【0041】
(保守計画装置の構成)
保守計画装置20は、腐食データ取得部21と、保守メニュー取得部22と、計画作成部23と、記憶部24と、出力部25と、を備える。
腐食データ取得部21は、腐食推定装置10によって算出された各部位の腐食発生寿命Tc、腐食量d(t)、故障確率等の情報を取得する。保守メニュー取得部22は、部位別の保守メニューの情報を取得する。計画作成部23は、部位別の保守計画、評価対象の構造物(船舶H)全体の保守計画を作成する。記憶部24は、保守計画に必要な情報を記憶する。出力部25は、作成された保守計画を出力する。
【0042】
(動作)
保守計画の作成処理について図6を参照して説明する。
図6は、実施形態に係る保守計画の作成処理の一例を示すフローチャートである。
まず、ユーザが、評価対象全体に対する信頼性、部位ごとの信頼性、部位ごとの費用の期待値、保守計画の作成にあたって何を重視するか(例えば、信頼性が所定値以上で、総コストが最小となる保守計画)など、保守計画を作成する際の評価条件を保守計画装置20へ入力する。保守計画装置20は入力された評価条件を取得し、記憶部24に記録する(ステップS11)。
【0043】
次に腐食データ取得部21が、各部位の故障確率データを腐食推定装置10から取得し、記憶部24に記録する(ステップS12)。
次に保守メニュー取得部22は、部位別の保守メニューの情報を取得する(ステップS13)。例えば、保守メニューとは、船舶Hの部位1を方法1により予防保全する方法(保守メニュー1)、部位1を方法2により予防保全する方法(保守メニュー2)、・・・・、部位1の減肉が進んだ状態に対処する方法3により保守する方法(保守メニュー3)、・・・・、部位1に腐食による故障が発生した場合に方法4(補用品、予備品を含む)により対処する方法(保守メニュー4)・・・などである。保守メニュー取得部22は、他の部位2、3、・・・についても様々な保守メニューを取得する。また、保守メニュー取得部22は、各部位の各保守メニューを実施した場合に要する予防保全費用(保守メニューの実施だけに掛かる費用)、信頼性の向上度、総費用(保守メニューの実施費用に加えて、故障に対処する費用)の情報を取得する。保守メニュー取得部22は、取得した情報を記憶部24に記録する。
【0044】
次に計画作成部23は、部位別に保守計画を設定する(ステップS14)。計画作成部23は、部位ごとに所望の信頼性を満たしつつ総費用(又は、予防保全費用)を抑える保守メニューの組合せを算出する。例えば、計画作成部23は、所定の評価期間について、対象部位の腐食発生寿命(例えば、平均値)までの期間については、予防保全に関する上記の保守メニュー1を年に1回実施し、それ以降は、保守メニュー3を年に1回実施し、故障確率が所定値以上となった時期に保守メニュー4を実施する保守計画1と、保守メニュー1を2に1回実施し、保守メニュー3を2年に1回実施し、・・・といった保守計画2と、・・・など部位ごとの保守計画を複数策定する。また、計画作成部23は、策定した保守計画に含まれる保守メニューの実施コストの合計を計算する。また、計画作成部23は、保守計画1、2、・・・のそれぞれに含まれる保守メニューを実施した場合の信頼性を計算する評価モデルなどを有しており、この評価モデルによって、各保守計画を実施した場合の評価期間における当該部位の信頼性(例えば、平均的な信頼性)を計算する。また、計画作成部23は、例えば、故障確率データが示す評価期間における故障確率と、部位1が腐食により故障した場合に必要となるコストとを乗じて、評価期間における故障に対処する費用を計算する。計画作成部23は、故障に対処する費用と予防保全実施コストの合計とを加算して総費用を計算する。このようにして作成された、ある1つの部位についての複数の保守計画と、その保守計画を実施したときの総費用と信頼性の関係、予防保全費用と信頼性の関係の一例を図5に示す。図5の1つの丸印は、1つの保守計画を実施したときの総費用と信頼性の関係を示す。計画作成部23は、丸印の点を回帰分析して、当該部位に対する保守の総費用と信頼性の関係を示す回帰式L1を算出する。例えば、ユーザが、信頼性についてある基準C1以上となり、総費用が最も安くなる当該部位についての保守計画を望む場合、計画作成部23は、ある〇印(例えば、P1)に対応する保守計画を選択し、その総費用と信頼性を算出する。選択した保守計画の信頼性がC1以上且つ、総費用の目標値以下であれば、選択した〇印に対応する保守メニューを当該部位に対する保守メニューとして仮設定する。あるいは、回帰式L1に基づいて、信頼性が基準C1以上となり、さらに総費用が安くなる保守計画が存在すれば、計画作成部23は、それらの保守計画(P2、P3)を選択してもよい。
【0045】
図5の1つのバツ印は、1つの保守計画を実施したときの予防保全費用と信頼性の関係を示す。計画作成部23は、バツ印の点を回帰分析して、当該部位における予防保全費用と信頼性の関係を示す回帰式L2を算出する。例えば、ユーザが、信頼性についてある基準C1以上となり、予防保全費用が最も安くなる保守計画を望む場合、バツ印の中から条件を満たす保守計画を選択し、当該部位に対する保守計画として仮設定する。計画作成部23は、全部位に対して同様の処理を行い、各部位について、信頼性の基準を満たし、費用(総費用または予防保全費用)を目標値以下とする部位別の保守計画を仮設定する。
【0046】
次に計画作成部23は、全部位について仮設定した保守メニューを組み合わせて、全体の保守計画を作成、評価する(ステップS15)。計画作成部23は、各部位について仮設定した保守計画の総費用(又は予防保全費用)を合計して、全体の総費用(又は予防保全費用)を計算する。また、計画作成部23は、各部位について仮設定した保守メニューの信頼性の積を計算して、全体の信頼性を計算する。計画作成部23は、全体の総費用(又は予防保全費用)と全体の信頼性に基づいて、保守計画の全体最適化を行う。例えば、計画作成部23は、部位1~Nのそれぞれについて、信頼性の感度(例えば、部位1~Nの各々について総費用をX円上昇させ、それに応じた保守メニューを実施したときの全体の信頼性の上昇度)を計算し、信頼性の高い部位については総費用(又は予防保全費用)を多く割り当てて、当該部位についての保守計画を再設定する。計画作成部23は、この感度評価を全部位に対して実施する。計画作成部23は、信頼性の感度が大きい部位に対しては、総費用(又は予防保全費用)を増やす方向に、信頼性の感度が低い部位に対しては、現状維持か、総費用を減らす方向にシフトし、全体の信頼性と総費用(又は予防保全費用)を再評価する。計画作成部23は、全体の総費用(又は予防保全費用)と全体の信頼性が評価条件を満たすまで(ステップS16)、各部位についての保守計画の調整と、全体の総費用(又は予防保全費用)および全体の信頼性の再計算を繰り返し行う。計画作成部23は、全体の総費用(又は予防保全費用)と全体の信頼性が、所望の信頼性と総費用の条件を満たす場合の各部位の保守計画の組合せを最終的な全体の保守計画として算出する。出力部25は、最終的な保守計画を表示装置等に出力する(ステップS17)。
【0047】
(効果)
以上説明したように腐食推定装置10によれば、ある部位の腐食の計測データから、他の部位の腐食発生寿命、腐食量を予測することができる。これにより、大型構造物など全ての部位について腐食の検査、計測を実施せずとも腐食の状態を推定することができる。また、腐食状態を検出するセンサ等を設置することができない部位についても腐食の状態を推定することができる。また、腐食推定装置10によれば、未計測部位の腐食の状態として、腐食発生寿命Tcと腐食量d(t)を、諸々のばらつきを考慮したうえで、確率分布として予測するので、腐食の状態の予測値とともにその確からしさを把握することができる。また、評価対象において、計測部位の計測データの信頼性に疑問がある場合でも、計測データを補正することにより、検査の不信頼性(検査の偏りや計測誤差)を加味して、部材の減肉状態を予測することができる。さらに、計測データと腐食データベースから生成した腐食関係式(2)~(5)に基づいて、将来の腐食量、故障発生確率、腐食クライテリア超過確率を定量化することができる。これにより、評価対象の運用のリスクマネジメントが可能となる。例えば、故障確率を用いることで、特定の注目部位に対して、部位の腐食による故障リスクを見積もり、合理的な保守計画を立てることができる。また、評価対象全体について、信頼性とコストを良リスする保守計画を立てることができる。
【0048】
図7は、実施形態に係る腐食管理システムのハードウェア構成の一例を示す図である。
コンピュータ900は、CPU901、主記憶装置902、補助記憶装置903、入出力インタフェース904、通信インタフェース905を備え、センサ800と接続されている。
上述の腐食管理システム1は、コンピュータ900に実装される。そして、上述した各機能は、プログラムの形式で補助記憶装置903に記憶されている。CPU901は、プログラムを補助記憶装置903から読み出して主記憶装置902に展開し、当該プログラムに従って上記処理を実行する。また、CPU901は、プログラムに従って、記憶領域を主記憶装置902に確保する。また、CPU901は、プログラムに従って、処理中のデータを記憶する記憶領域を補助記憶装置903に確保する。センサ800が計測した計測値は、入出力インタフェース904又は通信インタフェース905を通じて、コンピュータ900へ入力され、CPU901の処理によって補助記憶装置903に保存される。
【0049】
なお、腐食管理システム1の全部または一部の機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することにより各機能部による処理を行ってもよい。ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータシステム」は、WWWシステムを利用している場合であれば、ホームページ提供環境(あるいは表示環境)も含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、CD、DVD、USB等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。また、このプログラムが通信回線によってコンピュータ900に配信される場合、配信を受けたコンピュータ900が当該プログラムを主記憶装置902に展開し、上記処理を実行しても良い。また、上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであっても良く、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであってもよい。
【0050】
以上のとおり、本開示に係るいくつかの実施形態を説明したが、これら全ての実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することを意図していない。これらの実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態及びその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0051】
<付記>
実施形態に記載の腐食管理システム、推定方法及びプログラムは、例えば以下のように把握される。
【0052】
(1)第1の態様に係る腐食管理システム1は、評価対象の構造物(船舶H)の第1部位(部位S)における腐食の状態を示す計測データを取得する計測データ取得部11と、前記評価対象の前記第1部位における腐食の状態と第2部位(部位U)における腐食の状態との関係式(2)~(5)と、前記第1部位の前記計測データとに基づいて、前記第2部位における腐食の状態(腐食発生寿命、腐食量)を推定する腐食推定部13と、を備える。
これにより、未計測部位の腐食の状態を推定することができる。
【0053】
(2)第2の態様に係る腐食管理システム1は、(1)の腐食管理システムであって、前記構造物とは異なる他の構造物(腐食データベースに登録された他の船舶)における前記第1部位および前記第2部位の前記計測データから解析されたパラメータ(腐食データベースに登録されたTc、a、b)に基づいて、前記関係式を算出する関係式算出部12、をさらに備える。
他の構造物における第1部位と第2部位の計測データによって、関係式(2)~(5)を算出することができる。
【0054】
(3)第3の態様に係る腐食管理システム1は、(2)の腐食管理システム1であって、前記パラメータは、腐食発生寿命Tcと、Yを腐食量、Xを時間としたときの腐食の進展量の予測式Y=AXにおけるAとBである。
多くの構造物について、これらの値は公表されている。公表された値を用いて関係式を算出することができる。
【0055】
(4)第4の態様に係る腐食管理システム1は、(1)~(3)の腐食管理システム1であって、前記第1部位の前記計測データを当該計測データおよび過去の他の前記構造物の前記第1部位で計測された前記計測データに基づいて補正する計測データ補正部、をさらに備える。
これにより、第1部位の計測データの信頼性に不安がある場合でも、当該計測データの信頼性を確保し、第2部位の腐食状態の推定値の精度を担保することができる。
【0056】
(5)第5の態様に係る腐食管理システム1は、(1)~(4)の腐食管理システム1であって、前記関係式は、前記第2部位における腐食の状態を示す量と、前記第1部位における腐食の状態を示す量に補正量を加算した量とが等しいことを示す加算則に基づく関係式と、前記第2部位における腐食の状態を示す量と、前記第1部位における腐食の状態を示す量に補正量を乗じた量とが等しいことを示す乗算則に基づく関係式と、のうちの何れか又は両方である。
加算則による関係式と乗算則による関係式の両方で定式化することで、一方の関係式の推定精度に問題がある場合でも、他方の関係式によって未計測部位の腐食状態を推定することができる。
【0057】
(6)第6の態様に係る腐食管理システム1は、(1)~(5)の腐食管理システムであって、前記関係式は、前記第1部位についての腐食発生寿命と前記第2部位についての腐食発生寿命との関係を示す第1の関係式と、前記第1部位の腐食の進展量と前記第2部位の腐食の進展量との関係を示す第2の関係式と、を含む。
これにより、第2部位の腐食状態として、腐食発生寿命と腐食伸展量を推定することができる(腐食2段階モデル)。
【0058】
(7)第7の態様に係る腐食管理システム1は、(1)~(6)の腐食管理システムであって、前記第2の関係式によって、前記第2部位における腐食の進展量が閾値を超過する確率を予測する故障確率計算部をさらに備える。
腐食による故障確率を計算することで腐食に対する保守計画を検討することができる。
【0059】
(8)第8の態様に係る腐食管理システム1は、(1)~(7)の腐食管理システムであって、前記第1部位および前記第2部位の腐食の状態に基づいて、前記第1部位の腐食に対する第1の保守計画と、前記第2部位の腐食に対する第2の保守計画とを作成する計画作成部23、をさらに備える。
各部位ごとに腐食の状況に応じた保守計画を作成することができる。
【0060】
(9)第9の態様に係る腐食管理システム1は、(8)の腐食管理システム1であって、前記計画作成部は、前記第1の保守計画に係る第1のコストと、前記第1の保守計画によって達成される前記第1部位の信頼性である第1の信頼性とを計算し、前記第2の保守計画に係る第2のコストと、前記第2の保守計画によって達成される前記第2部位の信頼性である第2の信頼性とを計算し、前記評価対象が有する前記第1部位と前記第2部位以外の全部位について作成された第3の保守計画に係る第3のコストと第3の信頼性を計算し、前記第1のコストと前記第2のコストと前記第3のコストの和である総コストと、前記第1の信頼性と前記第2の信頼性と前記第3の信頼性との積である全体信頼性と、を計算し、前記総コストと前記全体信頼性のうちの何れか又は両方が所定の基準を満たすよう、前記第1の保守計画、前記第2の保守計画および前記第3の保守計画の少なくとも一つを調整する。
これにより、各部位の腐食に対応しつつ、全体最適化された保守計画を作成することができる。
【0061】
(10)第10の態様に係る推定方法では、評価対象の構造物の第1部位における腐食の状態を示す計測データを取得するステップと、前記評価対象の前記第1部位における腐食の状態と第2部位における腐食の状態との関係式と、前記第1部位の前記計測データとに基づいて、前記第2部位における腐食の状態を推定するステップと、を有する。
【0062】
(11)第11の態様に係るプログラムは、コンピュータ900に、評価対象の構造物の第1部位における腐食の状態を示す計測データを取得するステップと、前記評価対象の前記第1部位における腐食の状態と第2部位における腐食の状態との関係式と、前記第1部位の前記計測データとに基づいて、前記第2部位における腐食の状態を推定するステップと、を実行させる。
【符号の説明】
【0063】
1・・・腐食管理システム
10・・・腐食推定装置
11・・・計測データ取得部
12・・・関係式算出部
13・・・腐食推定部
14・・・計測データ補正部
15・・・故障確率計算部
16・・・記憶部
17・・・出力部
20・・・保守計画装置
21・・・腐食データ取得部
22・・・保守メニュー取得部
23・・・計画作成部
24・・・記憶部
25・・・出力部
900・・・コンピュータ
901・・・CPU
902・・・主記憶装置
903・・・補助記憶装置
904・・・入出力インタフェース
905・・・通信インタフェース
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7