(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023111984
(43)【公開日】2023-08-10
(54)【発明の名称】三次元細胞凝集塊内導入剤
(51)【国際特許分類】
C12N 5/071 20100101AFI20230803BHJP
C12N 1/00 20060101ALI20230803BHJP
C08F 8/32 20060101ALI20230803BHJP
【FI】
C12N5/071
C12N1/00 G
C08F8/32
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023094402
(22)【出願日】2023-06-07
(62)【分割の表示】P 2018207787の分割
【原出願日】2018-11-02
(71)【出願人】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森本 展行
(72)【発明者】
【氏名】山本 雅哉
(57)【要約】
【課題】ターゲット物質を三次元細胞凝集塊内に導入するための手段を提供すること。
【解決手段】スルホベタインを含む三次元細胞凝集塊内導入剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スルホベタインを含む三次元細胞凝集塊内導入剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ターゲット物質を三次元細胞凝集塊内に導入するための手段に関する。
【背景技術】
【0002】
生体組織は細胞が三次元的に細胞間接着して形成されているが、近年、培養細胞でも三次元構造の形成がタンパク質発現量などの点でより生体に近い機能を示すことが多く明らかとされており、また社会的にも要請の多い動物実験代替法の確立と相まって、この三次元構造を形成させる技術開発が競って行われている(非特許文献1)。これらの細胞凝集塊の評価法として、細胞凝集塊のサイズの経時変化や浸潤アッセイ、細胞凝集塊から(外
液へ)の産生物・量の解析、細胞凝集塊の分散化によるフローサイトメーター解析、細胞
凝集塊中における蛍光分干の共焦点レーザー顕微鏡観察等が挙げられる。三次元細胞凝集塊はそのサイズを大きくすることができれば、組織モデルとしての用途を一層拡大でき、そのような応用も期待されている。しかし、細胞凝集塊のサイズが大きくなるほど凝集塊内部の細胞への試薬の拡散・浸透が困難となるため、生細胞の凝集状態での細胞内アッセイや共焦点レーザー顕微鏡での凝集塊内部の細胞観察も難易度が格段に上昇する。さらに根本的な問題として、細胞凝集塊が直径100μmよりも大きくなってくると酸素や栄養分が十分に供給されず、ネクローシスを起こす細胞が増加するため、評価の信頼性や長期間に渡る評価を行うことは難しい。このため、細胞凝集塊内部へ速やかに物質や酸素を送達しうる手法の開発が熱望されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】E.Fennema et al. Trends Biotechno l. 20日, 31,108-115.J
【非特許文献2】第66回高分子討論会予稿集、タイトル:上限臨界共溶温度(UCST)を有する新規スルホベタインポリマーの創製、発表者:大石 佳史、森本 展行、山本 雅哉
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、ターゲット物質を三次元細胞凝集塊内に導入するための手段を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記の状況の下、鋭意研究した結果、多数の細胞が三次元方向に凝集した細胞塊にスルホベタインを添加したところ、細胞塊の内部に移行することを見出した。本発明者らはさらに、上記新規の知見に基づき、スルホベタイン化合物の構造等を検討し、本発明を完成させた。
【0006】
従って、本発明は、以下の項を提供する:
項1.スルホベタインを含む三次元細胞凝集塊内導入剤。
【0007】
項2.前記スルホベタインが式(1)で表される構造を有する、項1に記載の三次元細胞凝集塊内導入剤:
【0008】
【0009】
[式中、R1及びR2は、同一又は異なって、水素原子又はC1-C6アルキル基を示す。R3は、-C(=O)-O-又は-C(=O)-NH-を示す。R4は、
【0010】
【0011】
、イミダゾリウム基、ピペリジニウム基、又はピラゾリウム基を示す
(式中、R5は、同一又は異なって、C1-C6アルキル基を示す。)。
nは0~2の整数を示す。]。
【0012】
項3.前記スルホベタインの数平均分子量が3,000~90,000である、項1又は2に記載
の三次元細胞凝集塊内導入剤。
【0013】
項4.前記スルホベタインが核及び/又はミトコンドリアに移行する、項1~3のいずれかに記載の三次元細胞凝集塊内導入剤。
【0014】
項5.前記スルホベタインがリポソームへの移行挙動を示す、項1~4のいずれかに記載の三次元細胞凝集塊内導入剤。
【0015】
項6.三次元細胞凝集塊に目的物質を結合したスルホベタインを添加する工程を含む、三次元細胞凝集塊内部への物質の移行方法。
【0016】
項7.前記スルホベタインが式(1)で表される構造を有する、項1に記載の三次元細胞凝集塊内導入剤:
【0017】
【0018】
[式中、R1及びR2は、同一又は異なって、水素原子又はC1-C6アルキル基を示す。R3は、-C(=O)-O-又は-C(=O)-NH-を示す。R4は、
【0019】
【0020】
、イミダゾリウム基、ピペリジニウム基、又はピラゾリウム基を示す
(式中、R5は、同一又は異なって、C1-C6アルキル基を示す。)。
nは0~2の整数を示す。]。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、ターゲット物質を三次元細胞凝集塊内に導入するための手段を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】実施例1においてHepG2細胞凝集塊に添加したω-末端ローダミン修飾P(DMAPS-ran-PEGMA)の共焦点レーザー顕微鏡像。(左)添加後1時間(右)添加後2時間
【
図2】実施例2においてHepG2細胞凝集塊に添加したα-末端ドキソルビシン修飾P(PySMAAm)の共焦点レーザー顕微鏡像。(左)添加後1時間(中)添加後2時間(右)添加後4時間
【発明を実施するための形態】
【0023】
三次元細胞凝集塊内導入剤
本発明は、三次元細胞凝集塊内導入用化合物を含む三次元細胞凝集塊内導入剤を提供する。
【0024】
本発明において、三次元細胞凝集塊内導入剤とは、目的物質(本明細書においてターゲット分子と示すこともある)を三次元細胞凝集塊内に導入するための剤を示す。
【0025】
本発明において、三次元細胞凝集塊とは、単細胞、単層状に増殖した細胞等とは異なり、細胞が細胞-細胞間接着により三次元方向に凝集した塊を示す。三次元細胞凝集塊の内部に目的物質を移行させようとすると、目的物質に三次元細胞凝集塊に含まれる細胞膜を透過するだけでなく、細胞-細胞間接着の箇所も透過させる必要がある。そのため、一般的には、単細胞であるとか、単層状に増殖した細胞の内部に移行する性能を有する物質で
あっても、三次元細胞凝集塊の内部に当該物質を導入することは困難である。
【0026】
三次元細胞凝集塊を構成する細胞としては、哺乳動物由来のものが好ましい。哺乳動物としては、ヒト、サル、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ヒツジ、ブタ、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ等が挙げられ、ヒトが好ましい。哺乳動物細胞を用いる場合、体細胞、生殖細胞等が挙げられ、体細胞が好ましい。また、体細胞としては、例えば、線維芽細胞、上皮細胞、筋細胞、肝細胞、骨細胞、血管内皮細胞、脳神経細胞、単核球、顆粒球、リンパ球、骨芽細胞、破骨細胞、膵臓細胞等が挙げられる。また、三次元細胞凝集塊としては、iPS細胞、ES細胞等の多能性幹細胞から分化誘導した細胞であってもよい。また、三次元細胞凝集塊は、これらの細胞の2種類以上が混合されているものであってもよい。三次元細胞凝集塊の大きさは特に限定されないが、例えば、直径が50μm~1000μmのものが挙げられる。本発明において、三次元細胞凝集塊が略球形でない場合、上記直径は、長径(最も長い径)を意味する。
【0027】
本発明において、三次元細胞凝集塊内導入用化合物としては、典型的には、スルホベタインが挙げられる。スルホベタインとは、正電荷と負電荷とを同一分子内に有し、分子全体としては電荷を有さない化合物を示す。また、三次元細胞凝集塊内導入用化合物としては、例えば、下記式(1)で表される構造を有する化合物又はその塩が挙げられる:
【0028】
【0029】
[式中、R1及びR2は、同一又は異なって、水素原子又はC1-C6アルキル基を示す。R3は、-C(=O)-O-又は-C(=O)-NH-を示す。R4は、
【0030】
【0031】
、イミダゾリウム基、ピペリジニウム基、又はピラゾリウム基を示す
(式中、R5は、同一又は異なって、C1-C6アルキル基を示す。)。
nは0~2の整数を示す。]。
本発明において、式(1)で表される構造を有する化合物には、ブロックコポリマー、ランダムコポリマー及びホモポリマー(y=0の場合)のいずれもが包含される。
【0032】
本発明において、「C1-6アルキル基」とは、炭素数1~6の直鎖又は分枝鎖状の飽和炭化水素基を示し、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、n-ペンチル、イソペンチル、ネ
オペンチル、1-エチルフロピル、n-ヘキシル、イソヘキシル、2-エチルプチル等が挙げられる。
【0033】
式(1)において、R1及びR2は、同一又は異なって、水素原子又はC1-C6アルキル基を示す。複数あるR1は同一でも異なってもよく、好ましくは複数のR1は同一である。複数あるR2は同一でも異なってもよく、好ましくは複数のR2は同一である。
【0034】
R1としては、C1-C6アルキルが好ましく、C1-C3アルキルがより好ましく、メチル基がより好ましい。R2としては、C1-C6アルキルが好ましく、C1-C3アルキルがより好ましく、メチル基がより好ましい。
【0035】
R3は、*-C(=O)-O-**、*-O-C(=O)-**、*-C(=O)-NH-**、*-NH-C(=O)-**を示し、*-O-C(=O)-**、*-NH-C(=O)-**等が好ましい(本明細書において、R3が有する結合手のうち-R4-CH2-CH2-側に結合するほうを*で、=C(-R1)-側に結合するほうを**で表わす)。
【0036】
R5としては、C1-C3アルキル基が好ましく、メチル基がより好ましい。複数あるR5は同一でも異なってもよく、好ましくは複数のR5は同一である。
【0037】
R3で示されるイミダゾリウム基とは、イミダゾリウム
【0038】
【0039】
から2個の水素を除いてなる2価の基を示す。また、R3で示されるピペリジニウム基とは、ピペリジニウム
【0040】
【0041】
から2個の水素を除いてなる2価の基を示す。また、R3で示されるピラゾリウム基とは、ピラゾリウム
【0042】
【0043】
から2個の水素を除いてなる2価の基を示す。イミダゾリウム基、ピペリジニウム基、又
はピラゾリウム基としては、ポリマー主鎖から遠い位置にカチオン基があるもの(例えば、≡NH+又は=NH2
+部分がO--S(=O)2-CH2-(-CH2-)n-CH2-R4-C2H4-部分と結合する構造を有するもの)が好ましい。
【0044】
式(1)において、nは0~2の整数を示し、好ましくは1~2であり、より好ましくは1である。式(1)において、xは特に限定されないが、例えば、10~350の整数を示し、好ましくは10~80であり、より好ましくは30~70である。式(1)において、yは特に限定されないが、例えば、0~50の整数を示し、好ましくは0~10であり、より好ましくは0~3である。式(1)において、zは特に限定されないが、例えば、2~110の整数を示し、好ましくは2~50であり、より好ましくは20~50である。
【0045】
式(1)で表される構造を有する化合物としては、例えば、下記式(2)で表される化合物又はその塩等を挙げることができる:
【0046】
【0047】
式(2)中、R1、R2、R3、R4、n、x、y及びzは、式(1)に同じ。Rαは、
HOOC-L1-、
【0048】
【0049】
又はRα’-L2-C(=O)-L1-を示す(式中、L1及びL2は同一又は異なって、単結合又はリンカー基を示し、Rα’は目的物質から1個の水素を除去してなる1価の基を示す。R6は同一又は異なって水素原子、C1-C6アルキル基(好ましくはC1-C4アルキル基)、シアノ基、フェニル基、ヒドロキシル基、アジド基、アセチルカルボニル基又はエトキシカルボニル基を示す。)。式(R6)3-C-
【0050】
【0051】
で表される基としては、例えば、
【0052】
【0053】
等が挙げられる(式中、Phはフェニル基を示し、Etはエチル基を示す。)。
Rωは、-L3-SH、
【0054】
【0055】
-S-C(=S)-S-R’又は-L3-S-L4-Rω’を示す(式中、L3及びL4は同一又は異なって、単結合又はリンカー基を示し、R’は、例えば-C12H25、-C2H5COOH、-CH(CH3)2、-C3H6Si(CH3)3を示し、Rω’は目的物質から1個の水素を除去してなる1価の基を示す。)。
【0056】
L1、L2、L3及びL4で示されるリンカー基としては、前述の式(1)で表される構造に目的物質を結合できるものであれば特に限定されない。例えば、L1がリンカー基である場合、当該リンカー基としては、-C(-R0)2-CH2-、-CH2-C(-R0)2-、-S-C(=S)-S-等が挙げられる(式中、R0は、同一又は異なって、水素原子、又はC1-C6アルキル基(アルキル基としては好ましくはC1-C3アルキル基、より好ましくはメチル基)を示す。)。
【0057】
例えば、L2がリンカー基である場合、当該リンカー基としては、置換基としてC1-C6アルキル基、オキソ基及びチオキソ基からなる群より選択される少なくとも一種を有していてもよく、炭素原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子及び水素原子からなる群より選択される少なくとも一種から構成される鎖状リンカー基等を挙げることができる。かかる鎖状リンカー基の主鎖部分の原子数としては、1~13個が好ましく、3~11個がより好ましく、5~10個がより好ましい。リンカー基としては、例えば、-NH-C(=S)-NH-CH2-CH2-NH-、-NH-CH2-CH2-NH-C(=S)-NH-、-S-C(=S)-S-等が挙げられる。
【0058】
例えば、L3がリンカー基である場合、当該リンカー基としては、-(CH2)m-、-(CH2)m-CH2-C(-CN)(-CH3)-、-C(-CN)(-CH3)-CH2-(CH2)m-、-S-C(=S)-S-等が挙げられる(式中、mは1~3の整数(好ましくは1又は2)を示す)。
【0059】
例えば、L4がリンカー基である場合、当該リンカー基としては、-CH2(CH3)-CH2-C(=O)-O-CH2-CH2-NH-C(=S)-NH-、-NH-C(=S)-NH-CH2-CH2-O-C(=O)-CH2-CH2(CH3)-、-S-C(=S)-S-等が挙げられる。
本発明において、式(2)で表される化合物には、ブロックコポリマー、ランダムコポリマー及びホモポリマー(y=0の場合)のいずれもが包含される。
【0060】
目的物質としては、特に限定されず、高分子及び低分子のいずれであってもよい。例えば、高分子化合物としては、DNA、RNA(siRNA、shRNA等)等の核酸分子;オリゴペプチド、タンパク質(抗体、抗体フラグメント、酵素、サイトカイン、ケモカイン、レセプターポリペプチド等)等のペプチド等、糖鎖等が挙げられる。低分子としては、例えば、抗生物質、抗癌剤、抗炎症剤、フルオロカーボン、脂質、蛍光色素等が挙げられる。また、三次元細胞凝集塊内導入用化合物にこれらの目的物質を結合させる方法としては特に限定されず、公知の方法に準じて行うことができる。
【0061】
本発明において、三次元細胞凝集塊内導入用化合物の数平均分子量は特に限定されないが、例えば、3,000~90,000、好ましくは3,000~20,000等の範囲で適宜設定できる。三次元細胞凝集塊内導入用化合物(目的物質を結合した化合物を含む)は、公知の化合物であるか、公知の方法に基づき製造することができる。
【0062】
本発明の有効成分である三次元細胞凝集塊内導入用化合物が塩を形成する場合、当該塩は、酸付加塩と塩基との塩を包含する。酸付加塩の具体例として、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、硫酸塩、過塩素酸塩、リン酸塩等の無機酸塩、シュウ酸塩、マロン酸塩、コハク酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、乳酸塩、リンゴ酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩、安息香酸塩、トリフルオロ酢酸塩、酢酸塩、メタンスルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩、トリフルオロメタンスルホン酸塩等の有機酸塩、及びグルタミン酸塩、アスパラギン酸塩等の酸性アミノ酸塩が挙げられる。塩基との塩の具体例としては、ナトリウム塩、カリウム塩又はカルシウム塩のようなアルカリ金属又はアルカリ土類金属塩、ピリジン塩、トリエチルアミン塩のような有機塩基との塩、リジン、アルギニン等の塩基性アミノ酸との塩が挙げられる。
【0063】
本発明の有効成分である化合物は、水和物又は溶媒和物の形で存在することもあるので、これらの水和物及び溶媒和物もまた本発明の有効成分である化合物に包含される。
【0064】
溶媒和物を形成する溶媒としては、エタノール、プロパノール等のアルコール、酢酸等の有機酸、酢酸エチル等のエステル類、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル等のエー
テル類、アセトン等のケトン類、DMSO等が例示される。
【0065】
本発明においては、本発明の有効成分である三次元細胞凝集塊内導入用化合物又はその塩そのものを三次元細胞凝集塊内導入剤として用いても、各種添加剤(例えば、例えば等張化剤、キレート剤、安定化剤、pH調節剤、防腐剤、抗酸化剤、溶解補助剤、粘稠化剤等)と組み合わせた組成物として用いてもよい。
【0066】
組成物の実施形態において、組成物中の三次元細胞凝集塊内導入用化合物又はその塩の含有量は特に限定されず、三次元細胞凝集塊内導入用化合物の含有量換算で、例えば、90質量%以上、70質量%以上、50質量%以上、30質量%以上、10質量%以上、5質量%以上、1質量%以上等の条件から適宜設定できる。
【0067】
三次元細胞凝集塊内導入剤は、三次元細胞凝集塊の評価に用いる以外に、ドラッグデリバリーシステム用途に用いることができる。従って、各種疾患の治療及び/又は予防効果を有する活性成分を目的物質として、前記式(1)で表される構造に必要に応じてリンカーを介して結合した化合物を用いることにより、活性成分を患者の体内で細胞内に導入することができる。
【0068】
かかる実施形態において、医薬製剤の形態は、特に限定されず、例えば錠剤、丸剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、シロップ剤等の経口投与剤; 注射剤(静脈注射、筋肉注射、局所注射等)、含嗽剤、点滴剤、外用剤(軟膏、クリーム、貼付薬、吸入薬)、座剤等の非経口投与剤等の各種製剤形態を挙げることができる。上記製剤形態のうち、好ましいものとしては、例えば、経口投与剤(錠剤、丸剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、シロップ剤等)、外用剤(軟膏、クリーム、貼付薬、吸入薬)等が挙げられる。
【0069】
本発明において、三次元細胞凝集塊内導入用化合物又はその塩の投与量は、投与経路、患者の年齢、体重、症状等によって異なり一概に規定できないが、活性成分の投与量として、成人に対する1日投与量が通常、約5000mg以下、好ましくは約1000mg以下、より好ましくは500mg以下になる量とすればよい。活性成分の投与量の下限も特に限定されず、例えば、活性成分の投与量として、成人に対する1日投与量が通常、1mg以上、好ましくは10mg以上、より好ましくは100mg以上の範囲で適宜設定できる。1日1回投与する場合は、1製剤中にこの量が含まれていればよく、1日3回投与する場合は、1製剤中にこの3分の1量が含まれていればよい。
【0070】
本発明の医薬組成物は、哺乳動物等の患者に投与される。哺乳動物としては、ヒト、サル、マウス、ラット、ウサギ、ネコ、イヌ、ブタ、ウシ、ウマ、ヒツジ等が挙げられる。
【0071】
三次元細胞凝集塊にターゲット分子を導入する方法
本発明は、三次元細胞凝集塊に目的物質を結合した三次元細胞凝集塊内導入用化合物を添加する工程を含む、三次元細胞凝集塊内部への物質の移行方法を提供する。本実施形態における三次元細胞凝集塊、目的物質、三次元細胞凝集塊内導入用化合物等については、三次元細胞凝集塊内導入と同様のものを適宜採用できる。当該方法は、前記三次元細胞凝集塊内導入用化合物をin vitro及びin vivoのいずれで細胞に添加してもよい。好ましい
実施形態において、当該添加工程は、三次元細胞凝集塊を培地、緩衝液等に懸濁したものに、三次元細胞凝集塊内導入用化合物を添加することにより行うことができる。培地、緩衝液等は、三次元細胞凝集塊の培養、調整に使用し得るものを適宜採用できる。また培地、緩衝液等には、10%までの血清が含まれていてもよい。また、本発明の方法は、三次元細胞凝集塊内導入用化合物を三次元細胞凝集塊に添加した後、保持する工程を含んでもよい。当該保持工程の時間は特に限られないが、例えば、0.5~24時間、好ましくは0.5~4時間の範囲で適宜設定できる。当該添加工程、保持工程における温度は限定され
ないが、4~37℃、好ましくは25~37℃の範囲で適宜設定できる。
【0072】
以下に、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されない。
【実施例0073】
実施例1
P(DMAPS-ran-PEGMA)を可逆的付加開裂連鎖移動(RAFT)重合により合成した。モノマーである[2-(Methacryloyloxy)ethyl]dimethyl-(3-sulfopropyl)ammonium hydroxide,DMAPS
およびpoly(ethylene glycol)methacrylate, PEGMA(数平均分子量Mn = 2,080)をDMAPS濃
度が0.1Mとなるように純水に溶解し、メタノールに溶解した連鎖移動剤である2-(1-isobutyl) sulfanylthiocarbonylsulfanyl-2-methyl propionic acidおよび開始剤2-2’-Azobis[2-(2-imidazolin-2-yl)propane]を順次添加した。ここで、モノマーと連鎖移動剤、開
始剤のモル比は[モノマー]:[連鎖移動剤]:[開始剤]=100:1:0.3とし、最終的な溶媒
組成は純水:メタノール=2:1とした。この溶液を60 ℃のオイルバス中で18時間重合反
応を行った。純水中で5日間透析を行い精製し凍結乾燥することで数平均分子量17,000の
白色のポリマー粉末を得た。
【0074】
P(DMAPS-ran-PEGMA)ω末端へのローダミンB修飾は、まずP(DMAPS-ran-PEGMA)を20 mg/mlとなるように1M NaClに溶解し、ポリマーに対して100モル等量のn-buthylamineを添加し、室温で2 h撹拌することでω末端をチオール基に置換後、ポリマーに対して20モル等量
の2-aminoethyl methacrylate hydrochlorideを添加し、室温で16 h反応させた。反応液
を透析膜を用いて純水中で3日間透析することで精製した。溶媒をリン酸緩衝液(pH7.4)に置換後、ポリマーに対して1.5モル等量のローダミンBイソチオシアネートを添加し、室温、遮光下で16 h撹拌することで反応させ透析膜を用いて純水中で7日間透析することで精
製し、凍結乾燥によってω末端ローダミン修飾ポリマーを得た。
【0075】
【0076】
ヒト肝癌由来細胞株であるHepG2細胞を三次元細胞凝集塊調製用の低タンパク質吸着96
ウェルプレートに1250cells/wellで播種し、10%FBSを含むDMEM中で37℃、5%CO
2インキュベータ内で4日間培養することで三次元細胞凝集塊を調製した。この三次元細胞凝集塊を
ガラスベースディッシュへ移した後、上記のポリマーを終濃度0.1 mg/mLとなるよう添加
し、37℃における三次元細胞凝集塊へのポリマーの移行挙動を共焦点レーザー顕微鏡におけるスライス像を観察した。結果を
図1に示す。観察の結果、添加と同時に三次元細胞凝集塊の外部に存在する細胞内への取込が認められ、添加1時間では外周から30-50μmま
でポリマーの移行が観察されたのに対し、添加2時間後ではポリマーが三次元細胞凝集塊
中心部まで到達していることが認められた。またポリマーの細胞内分布は核を避け、細胞質、ミトコンドリアを中心に分布していると考えられた。
【0077】
実施例2
既報(非特許文献2)に従い合成したピリジニウム基含有メタクリルアミドモノマー、[3-(4-(2-methacrylamidoethyl)pyridin-1-ium-1-yl)propane-1-sulfonate]を終濃度0.1 Mとなるように1 M 塩化ナトリウム水溶液に溶解後、水酸化ナトリウムによりpH 7に調製
した。また連鎖移動剤として4-[(2-carboxyethylsulfanylthiocarbonyl)sulfanyl-4-cyanopentanoic acidを開始剤に対して3モル等量となるように1 M 塩化ナトリウム水溶液.に
加え、pH 7に調製した。開始剤として2,2’- azobis[2-(2-imidazolin-2-yl)propane](1モル等量)を加え60 ℃、4時間の条件で可逆的付加開裂連鎖移動(RAFT)重合を行った。セルロース透析膜を用いて未反応モノマーを除去、凍結乾燥することで数平均分子量14,000のポリ(スルホベタインメタクリルアミド)、P(PySMAAm)粉末を得た。次に抗がん剤であるドキソルビシンを2段階の反応によりP(PySMAAm)のα末端であるカルボキシ基に修飾し
た。まず1モル当量のP(PySMAAm)を1 M NaCl aq.に溶解させ、このポリマー溶液に純水に
溶解した縮合剤の4-(4,6-dimethoxy-1,3,5-triazin-2-yl)-4-methylmorpholinium chlorideを1.5モル等量加えたのち、1.2モル等量のドキソルビシンとtriethylamineを添加し、
遮光下で終夜反応させた。サイズ排除カラムを用いて精製後、凍結乾燥によって目的物を得た。
【0078】
【0079】
ヒト肝癌由来細胞株であるHepG2細胞を三次元細胞凝集塊調製用の低タンパク質吸着96
ウェルプレートに1250cells/wellで播種し、10%FBSを含むDMEM中で37℃、5%CO
2インキュベータ内で4日間培養することで三次元細胞凝集塊を調製した。この三次元細胞凝集塊を
共焦点レーザー顕微鏡観察用ガラスディッシュへ移した後、上記のポリマーを終濃度0.1 mg/mLとなるよう添加し、37℃におけるこのポリマーの三次元細胞凝集塊への取込挙動を
観察した。結果を
図2に示す。観察の結果、添加と同時に三次元細胞凝集塊の外部に存在する細胞内への取込が観察され、時間の経過とともに三次元細胞凝集塊中心部へ移行する挙動を確認した。