(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023112012
(43)【公開日】2023-08-10
(54)【発明の名称】デュアルヒスタミンH1及びヒスタミンH4受容体リガンドとしての新規ベンゾイミダゾール誘導体
(51)【国際特許分類】
C07D 401/12 20060101AFI20230803BHJP
A61K 31/454 20060101ALI20230803BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20230803BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230803BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20230803BHJP
A61P 37/08 20060101ALI20230803BHJP
A61P 31/00 20060101ALI20230803BHJP
A61P 11/02 20060101ALI20230803BHJP
A61P 11/06 20060101ALI20230803BHJP
A61P 11/08 20060101ALI20230803BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20230803BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20230803BHJP
A61P 1/04 20060101ALI20230803BHJP
A61P 17/04 20060101ALI20230803BHJP
A61P 27/16 20060101ALI20230803BHJP
A61P 15/00 20060101ALI20230803BHJP
A61P 15/10 20060101ALI20230803BHJP
A61P 13/10 20060101ALI20230803BHJP
A61P 17/06 20060101ALI20230803BHJP
A61P 13/08 20060101ALI20230803BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20230803BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20230803BHJP
A61P 7/02 20060101ALI20230803BHJP
A61P 9/12 20060101ALI20230803BHJP
A61P 9/06 20060101ALI20230803BHJP
A61P 19/02 20060101ALI20230803BHJP
A61P 13/12 20060101ALI20230803BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20230803BHJP
【FI】
C07D401/12 CSP
A61K31/454
A61P29/00
A61P35/00
A61P11/00
A61P37/08
A61P31/00
A61P29/00 101
A61P11/02
A61P11/06
A61P11/08
A61P27/02
A61P17/00
A61P1/04
A61P17/04
A61P27/16
A61P15/00
A61P15/10
A61P13/10
A61P17/06
A61P13/08
A61P9/10
A61P9/00
A61P7/02
A61P9/10 101
A61P9/12
A61P9/06
A61P19/02
A61P13/12
A61K45/00
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023097310
(22)【出願日】2023-06-13
(62)【分割の表示】P 2018214452の分割
【原出願日】2018-11-15
(31)【優先権主張番号】17306587.1
(32)【優先日】2017-11-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】507324887
【氏名又は名称】ビオポロジェ
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】イザベル・ベレビ-ベルトラン
(72)【発明者】
【氏名】グザヴィエ・ビヨ
(72)【発明者】
【氏名】ティエリ・カルメル
(72)【発明者】
【氏名】マルク・カペ
(72)【発明者】
【氏名】ステファン・クリエフ
(72)【発明者】
【氏名】オリヴィエ・ラビウ
(72)【発明者】
【氏名】ジャンヌ-マリー・ルコント
(72)【発明者】
【氏名】ニコラ・ルヴォアン
(72)【発明者】
【氏名】グザヴィエ・リニョー
(72)【発明者】
【氏名】フィリップ・ロベール
(72)【発明者】
【氏名】ジャン-シャルル・シュワルツ
(57)【要約】
【課題】新規の化学物質クラスのデュアルH1R-H4Rリガンド、デュアルH1-H4受容体アンタゴニスト又はインバースアゴニストとしての新規のベンゾイミダゾール誘導体、それらの調製、及び治療におけるそれらの応用を開示すること。
【解決手段】本出願は、新規のベンゾイミダゾールエナンチオマー誘導体、それらの調製法、並びにデュアルH1及びH4受容体リガンドとしてのそれらの治療用途に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(II)のエナンチオマー:
【化1】
式中、
*は規定された立体化学を示す不斉炭素を表し;
Xは、H又はFを表し;
R1、R2、R3、及びR4は同じであるか又は異なり、独立に、H、ハロゲン、アルキル又はアルコキシを表し;
X、R1、R2、R3、及びR4の1つはHを表さず;
並びにその薬学的に許容される塩、互変異性体、水和物、及び溶媒和物。
【請求項2】
XがFを表し;
R1、R2、R3、及びR4は同じであるか又は異なり、独立に、H、ハロゲン、アルキル又はアルコキシ表す、
請求項1に記載のエナンチオマー。
【請求項3】
(S)エナンチオマーである、請求項1又は2に記載の化合物。
【請求項4】
(S)-2-[(1H-ベンゾイミダゾール-2-イル)(1-メチルピペリジン-4-イルオキシ)メチル]-6-フルオロフェノール
(S)-2-[(1H-ベンゾイミダゾール-2-イル)(1-メチルピペリジン-4-イルオキシ)メチル]-6-フルオロフェノール,塩酸塩,一水和物
(S)-2-[(5-クロロ-4-フルオロ-1H-ベンゾイミダゾール-2-イル)(1-メチルピペリジン-4-イルオキシ)メチル]フェノール
(S)-2-[(4-メチル-1H-ベンゾイミダゾール-2-イル)(1-メチルピペリジン-4-イルオキシ)メチル]フェノール
(S)-2-[(5-フルオロ-1H-ベンゾイミダゾール-2-イル)(1-メチルピペリジン-4-イルオキシ)メチル]フェノール
(S)-2-[(4-クロロ-1H-ベンゾイミダゾール-2-イル)(1-メチルピペリジン-4-イルオキシ)メチル]フェノール
(S)-2-[(5-クロロ-4-メチル-1H-ベンゾイミダゾール-2-イル)(1-メチルピペリジン-4-イルオキシ)メチル]フェノール
(S)-2-[(1H-ベンゾイミダゾール-2-イル)(1-メチルピペリジン-4-イルオキシ)メチル]-6-フルオロフェノール,塩酸塩
(S)-2-[(1H-ベンゾイミダゾール-2-イル)(1-メチルピペリジン-4-イルオキシ)メチル]-6-フルオロフェノール,(R)-パラ-メチルマンデレート
からなる群から選択される、請求項1から3のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項5】
対応するラセミ混合物のエナンチオマー分離の工程を含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の式(II)の化合物の製造方法。
【請求項6】
前記ラセミ混合物を、
- 式(III) :
【化2】
(式中X、R1、R2、R3、R4は、請求項1~4のいずれか一項に定義したものである)
の化合物の、式(IV) :
【化3】
の化合物とのエーテル化、
又は
- 式(V):
【化4】
(式中X、R1、R2、R3、R4は、請求項1~4のいずれか一項に定義したものである)
の化合物のメチル化
のいずれかによって製造する、請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
炎症障害の治療及び/又は予防に使用するための、請求項1~4のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項8】
炎症障害が、アナフィラキシーショック、呼吸器炎症疾患及びアレルギー疾患、成人型呼吸窮迫症候群、急性呼吸窮迫症候群、呼吸器感染症、気管支炎、慢性気管支炎、慢性閉塞性肺疾患、嚢胞性線維症、喘息、気腫、鼻炎、鼻漏、副鼻腔炎、慢性蓄膿症、アレルギー、アレルギー誘導型気道反応、アレルギー性鼻炎、ウイルス性鼻炎、非アレルギー性鼻炎、非季節性及び季節性鼻炎、結膜炎、アレルギー性結膜炎、耳炎、鼻ポリープ、咳、眼部掻痒、慢性蕁麻疹、湿疹、痒疹、皮膚掻痒、多形滲出性紅斑、鼻づまり、アレルギー性充血、尿生殖管の障害、女性及び男性性機能障害、過活動膀胱状態、尿失禁、膀胱過活動、良性前立腺肥大及び下部尿路症状等、皮膚疾患、皮膚炎、アトピー性皮膚炎、並びに乾癬及び皮膚掻痒等、掻痒症、術後疼痛の皮膚切開モデル、アレルギー性皮膚疾患/掻痒及び炎症、アレルギー性接触皮膚炎、肝臓又は腎臓不全と関連した掻痒、血栓塞栓症、アテローム性動脈硬化症、心筋梗塞、狭心症、心筋虚血、不整脈、末梢閉塞性動脈疾患、肺動脈閉塞症、深部静脈血栓症、低血圧、肺高血圧、血管性浮腫、悪性高血圧、心不全、心又は腎不全、脳血管発作及び腎機能不全を含めた心臓血管系の疾患、炎症性腸疾患、クローン病、潰瘍性大腸炎、腸管アナフィラキシーを含めた胃腸管の疾患、食物アレルギー、炎症後過敏性腸症候群、腹膜炎、リウマチ様関節炎、多発性硬化症、ループス、骨関節炎、関節痛、全身性炎症を含めた自己免疫疾患、がん、疼痛、神経障害性疼痛、慢性好酸球増加症、マスト細胞増殖と関連した慢性疾患、リンパ増殖性疾患から選択される、請求項7に記載の使用のための化合物。
【請求項9】
請求項1~4のいずれか一項に記載の化合物及び薬学的に許容される賦形剤を含む医薬組成物。
【請求項10】
請求項1~4のいずれか一項に記載の化合物とH1Rアンタゴニストを含む組合せ物。
【請求項11】
以下の粉末X線回折ピーク:(特徴的ピーク、°単位の2θ):8.6、12.4、13.1、15.9、16.8、18.8、19.9、20.4、21.3、23.4、25.0、25.7、26.3、26.9、28.4、及び30.1によって特徴付けられる(S)-2-[(1H-ベンゾイミダゾール-2-イル)(1-メチルピペリジン-4-イルオキシ)メチル]-6-フルオロフェノールの塩酸塩無水物(I型)である、請求項1~4のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項12】
以下の粉末X線回折ピーク:(特徴的ピーク、°単位の2θ):6.3、13.7、15.1、15.7、16.4、20.3、22.1、24.4、及び29.1によって特徴付けられる(S)-2-[(1H-ベンゾイミダゾール-2-イル)(1-メチルピペリジン-4-イルオキシ)メチル]-6-フルオロフェノールの塩酸塩一水和物(II型)である、請求項1~4のいずれか一項に記載の化合物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本特許出願は、H4-受容体の新規のリガンド、それらの調製法及びそれらの治療用途に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒスタミンH4受容体(H4R)はG-タンパク質共役型7回膜貫通型受容体のスーパーファミリーに属し、様々な免疫適格/炎症細胞、例えば好酸球、好塩基球、マスト細胞又は樹状細胞の原形質膜において発現される。H4Rには、例えばヒスタミン放出によって誘発される炎症部位へのマスト細胞又は好酸球の流入を制御する化学走性的役割があり、したがって慢性炎症障害の発症において主要な役割を果たす。H4Rは、好酸球及び数クラスのリンパ球の活性も制御する。したがって、アンタゴニスト又はインバースアゴニストによるH4Rの遮断は、喘息、気腫、アレルギー性鼻炎、鼻づまり、気管支炎、慢性閉塞性肺疾患、皮膚炎、関節炎、乾癬、大腸炎等のような疾患において新規の治療手法となるはずであり、その中では単独又は既に使用されている他のクラスの抗炎症薬、即ちH1Rアンタゴニストと共にそれらを使用することが可能である。更に、H4Rアンタゴニスト/インバースアゴニストの使用は、様々な自己免疫疾患、例えばI型糖尿病、クローン病、多発性硬化症、ループス等において興味深い可能性もある。げっ歯類モデルにおける幾つかのH4Rアンタゴニストの痒み止め効果は、掻痒症におけるこれらの作用物質の使用を更に示唆する(Bellら、Br J Pharmacol, 2004年, 142, 374)。
【0003】
特許出願WO2012/041860は、H4ヒト受容体のアンタゴニスト及び/又はインバースアゴニストとしての、以下の一般式(I)
【0004】
【0005】
の化合物を記載する。
【0006】
・ヒスタミンH1受容体(H1R)はG-タンパク質共役型7回膜貫通型受容体のスーパーファミリーに属する。血管及び神経終末におけるH1受容体の活性化は、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、接触皮膚炎、アトピー性皮膚炎、眼部掻痒、慢性蕁麻疹、湿疹、痒疹、皮膚掻痒、尋常性乾癬、アナフィラキシーショック及び多形滲出性紅斑の症状の多くの原因である。
【0007】
H1-抗ヒスタミン化合物は、これらの疾患又は症状を治療する際に少なくとも部分的には有効である。
【0008】
したがって、ヒトH1受容体とH4受容体の両方においてアンタゴニスト又はインバースアゴニストとしての活性を示す化合物は、多数の病状、アナフィラキシーショック、呼吸器炎症疾患及びアレルギー疾患、成人型呼吸窮迫症候群、急性呼吸窮迫症候群、呼吸器感染症、気管支炎、慢性気管支炎、慢性閉塞性肺疾患、嚢胞性線維症、喘息、気腫、鼻炎、鼻漏、慢性蓄膿症(副鼻腔炎)、アレルギー、アレルギー誘導型気道反応、アレルギー性鼻炎、ウイルス性鼻炎、非アレルギー性鼻炎、非季節性及び季節性鼻炎、結膜炎、アレルギー性結膜炎、鼻づまり、アレルギー性充血、耳炎、鼻ポリープ、咳、女性及び男性性機能障害、過活動膀胱状態、尿失禁、膀胱過活動、良性前立腺肥大、下部尿路症状、皮膚炎、アトピー性皮膚炎、乾癬、皮膚掻痒、掻痒症、蕁麻疹、慢性蕁麻疹、術後疼痛の皮膚切開モデル、アレルギー性皮膚疾患/掻痒及び炎症、アレルギー性接触皮膚炎、血栓塞栓症、アテローム性動脈硬化症、心筋梗塞、狭心症、心筋虚血、不整脈、末梢閉塞性動脈疾患、肺動脈閉塞症、深部静脈血栓症、低血圧、肺高血圧、血管性浮腫、悪性高血圧、心不全、心又は腎不全、脳血管発作及び腎機能不全、炎症性腸疾患、クローン病、潰瘍性大腸炎、腸管アナフィラキシー、食物アレルギー、炎症後過敏性腸症候群、腹膜炎、リウマチ様関節炎、多発性硬化症、ループス、骨関節炎、関節痛、全身性炎症、がん、神経障害性疼痛、慢性好酸球増加症、マスト細胞増殖と関連した慢性疾患等に対して活性があり得る。
【0009】
2つの性質の組合せは化合物の治療有効性を改善し得るので、したがってデュアルH4R-H1Rアンタゴニスト/インバースアゴニストは非常に興味深い。これまで、この事は組合せによってのみ探索されている。適切なデュアルH4R-H1Rアンタゴニスト/インバースアゴニストは現在入手不能だからである。例えば、JNJ7777120(H4Rリガンド)とH1Rアンタゴニストレボカバスチンは両方共に目をこする挙動を防ぎ、この2つの作用物質の組合せはアレルギー性結膜炎においてより一層強力な阻害を引き起こした(Nakano Yら, Eur J Pharmacol 2009; 608: 71~5頁)。JNJ-39758979(H4Rアンタゴニスト)とメピラミン(H1Rインバースアゴニスト)の組合せはマウスのアトピー性皮膚炎モデルにおいて相乗活性を示し(Kochling Hら, J.Dermatol.Sci.2017; 87; 130~137頁)、掻痒症(Exp.Dermatol.18; 2009; 57~63頁)、腸管アナフィラキシー(Wang Mら, Allergy71; 2016; 1561~1574頁)、アレルギー性接触皮膚炎(Matsushita Aら, Exp.Dermatol.21; 2012; 714~5頁)用の治療剤となり得る。
【0010】
デュアルH1R-H4Rアンタゴニスト/インバースアゴニストはまだ臨床用途がなく、したがって、高い効能及び安全性を示すようなデュアル化合物が必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Bellら、Br J Pharmacol、2004年、142,374
【非特許文献2】Nakano Yら、Eur J Pharmacol 2009; 608: 71~5頁
【非特許文献3】Kochling Hら、J.Dermatol.Sci.2017; 87; 130~137頁
【非特許文献4】Exp.Dermatol.18; 2009; 57~63頁
【非特許文献5】Wang Mら、Allergy71; 2016; 1561~1574頁
【非特許文献6】Matsushita Aら、Exp.Dermatol.21; 2012; 714~5頁
【非特許文献7】R.C.Larock、Comprehensive Organic Transformations、VCH publishers、1989年
【非特許文献8】T.W.Greene and P.G.M.Wuts in Protective Groups in Organic Chemistry、John Wiley and Sons、1991年
【非特許文献9】J.F.W.McOmie in Protective Groups in Organic Chemistry、Plenum Press、1973年
【非特許文献10】Remington's Pharmaceutical Sciences、第17版、Mack Publishing Company、Easton、PA、1985年、1418頁
【非特許文献11】Remington: The Science and Practice of Pharmacy、第20版; Gennaro、A.R.、Ed.; Lippincott Williams and Wilkins: Philadelphia、PA、2000年
【非特許文献12】S.G.Hammerら、Bioorg.Med.Chem.Lett.26; 2016年; 292~300頁
【非特許文献13】Bagdanoffら、J.Med.Chem.、2015年、58(15)、5781~5788頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本出願は新規の化学物質クラスのデュアルH1R-H4Rリガンドに関するものであり、デュアルH1-H4受容体アンタゴニスト又はインバースアゴニストとしての新規のベンゾイミダゾール誘導体、それらの調製、及び治療におけるそれらの施用に関する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、WO2012/041860中に開示された誘導体の規定の立体化学的性質を有する幾つかのエナンチオマーは、開示されたH4活性以外に、ヒトH1受容体においてアンタゴニスト及び/又はインバースアゴニスト活性を示すことを驚くことに発見した。言い換えると、前記規定の立体化学的性質を有するエナンチオマー、典型的には(S)エナンチオマーは、ヒトH1受容体とヒトH4受容体両方に対する活性を示す。H1受容体とH4受容体両方に対する活性は、炎症障害及びアレルギー障害に関する化合物の治療有用性につながるので、これは非常に興味深い。
【0015】
更に他に、ヒトH4受容体に対して最大活性があることが証明されたエナンチオマー(ユートマー)はヒトH1受容体に対しても最大活性があり、一方ヒトH4受容体に対して低活性であるエナンチオマー(ディストマー)はヒトH1受容体に対しても低活性であることを、全く予想外に発見した。
【0016】
これらのエナンチオマーの一般式は
【化2】
上式で
*が規定された立体化学、典型的には(S)の立体化学を示す不斉炭素を表し、
XがH又はFを表し、
同じであるか又は異なるR1、R2、R3、及びR4がH、ハロゲン、アルキル又はアルコキシを独立に表し、
X、R1、R2、R3、及びR4の1つはHを表さない一般式(II)、
並びにそれらの薬学的に許容される塩、互変異性体、水和物及び溶媒和物である。
【0017】
式(II)の化合物は新規である。WO2012/041860は、前に定義した規定の立体化学的性質を有するこれらの具体的エナンチオマーのいずれも記載していない。
【0018】
他に明記しない限り、本明細書で前又は後に使用した用語は、以下のそれらに帰する意味を有する。
【0019】
「ハロ」又は「ハロゲン」はフッ素、塩素、臭素又はヨウ素原子を指す。
【0020】
「アルキル」は、他に明記しない限り、鎖中に1~20個の炭素原子を有し直鎖型又は分岐型であり得る脂肪族炭化水素基を表す。好ましいアルキル基は鎖中に1~12個の炭素原子を有し、より好ましくは鎖中に1~6個、又は1~4個の炭素原子を有し、低級アルキルは1~4個の炭素原子を有することが好ましい。分岐型は、メチル、エチル又はプロピル等の1つ又は複数の低級アルキル基が直鎖型アルキル鎖と結合したことを意味する。例示的なアルキル基には、メチル、エチル、n-プロピル、i-プロピル、n-ブチル、t-ブチル、n-ペンチル、3-ペンチル、オクチル、ノニル、デシルがある。
【0021】
「アルコキシ」は、アルキルが前に定義したものである-O-アルキルを指す。
【0022】
好ましい一実施形態では、本発明は、
(S)-2-[(1H-ベンゾイミダゾール-2-イル)(1-メチルピペリジン-4-イルオキシ)メチル]-6-フルオロフェノール
(S)-2-[(1H-ベンゾイミダゾール-2-イル)(1-メチルピペリジン-4-イルオキシ)メチル]-6-フルオロフェノール,塩酸塩,一水和物
2-[(5-クロロ-4-フルオロ-1H-ベンゾイミダゾール-2-イル)(1-メチルピペリジン-4-イルオキシ)メチル]フェノールエナンチオマーB
2-[(4-メチル-1H-ベンゾイミダゾール-2-イル)(1-メチルピペリジン-4-イルオキシ)メチル]フェノールエナンチオマーB
2-[(5-フルオロ-1H-ベンゾイミダゾール-2-イル)(1-メチルピペリジン-4-イルオキシ)メチル]フェノールエナンチオマーB
2-[(4-クロロ-1H-ベンゾイミダゾール-2-イル)(1-メチルピペリジン-4-イルオキシ)メチル]フェノールエナンチオマーB
2-[(5-クロロ-4-メチル-1H-ベンゾイミダゾール-2-イル)(1-メチルピペリジン-4-イルオキシ)メチル]フェノールエナンチオマーB
(S)-2-[(1H-ベンゾイミダゾール-2-イル)(1-メチルピペリジン-4-イルオキシ)メチル]-6-フルオロフェノール,塩酸塩
(S)-2-[(1H-ベンゾイミダゾール-2-イル)(1-メチルピペリジン-4-イルオキシ)メチル]-6-フルオロフェノール,(R)-パラ-メチルマンデレート、
及び特に
(S)-2-[(1H-ベンゾイミダゾール-2-イル)(1-メチルピペリジン-4-イルオキシ)メチル]-6-フルオロフェノール
(S)-2-[(1H-ベンゾイミダゾール-2-イル)(1-メチルピペリジン-4-イルオキシ)メチル]-6-フルオロフェノール,塩酸塩,一水和物
(S)-2-[(5-クロロ-4-フルオロ-1H-ベンゾイミダゾール-2-イル)(1-メチルピペリジン-4-イルオキシ)メチル]フェノール
(S)-2-[(4-メチル-1H-ベンゾイミダゾール-2-イル)(1-メチルピペリジン-4-イルオキシ)メチル]フェノール
(S)-2-[(5-フルオロ-1H-ベンゾイミダゾール-2-イル)(1-メチルピペリジン-4-イルオキシ)メチル]フェノール
(S)-2-[(4-クロロ-1H-ベンゾイミダゾール-2-イル)(1-メチルピペリジン-4-イルオキシ)メチル]フェノール
(S)-2-[(5-クロロ-4-メチル-1H-ベンゾイミダゾール-2-イル)(1-メチルピペリジン-4-イルオキシ)メチル]フェノール
(S)-2-[(1H-ベンゾイミダゾール-2-イル)(1-メチルピペリジン-4-イルオキシ)メチル]-6-フルオロフェノール,塩酸塩
(S)-2-[(1H-ベンゾイミダゾール-2-イル)(1-メチルピペリジン-4-イルオキシ)メチル]-6-フルオロフェノール,(R)-パラ-メチルマンデレート,
からなる群から選択される化合物、
並びにそれらのエナンチオマー、ジアステレオマー、これらの混合物及び薬学的に許容される塩、遊離型、互変異性体、水和物及び溶媒和物を提供する。
【0023】
本明細書で開示する「B」エナンチオマーは、H4受容体とH1受容体の両方に関して高活性を示す、所与のラセミ構造に関して規定の立体化学的性質の2つのエナンチオマーの1つである。
【0024】
典型的には、このエナンチオマーは、ラセミ混合物にキラルHPLC分析を実施したとき、例えば、1ml/分の流速においてヘプタン/イソプロパノール、及びジエチルアミン(0.1%)を含む溶出混合物を用いて、分析用キラルパックAD-H250X 4.6mmカラムでキラルHPLC分析を実施したとき、より長い保持時間を有する、2つのエナンチオマーの1つである。
【0025】
本明細書で使用する「エナンチオマーB」は、典型的には(S)エナンチオマーを指す。
【0026】
本明細書で使用する「エナンチオマーA」は、典型的には(R)エナンチオマーを指す。
【0027】
本発明の化合物は、いずれも本発明によって包含される互変異性型も含み得る。特に、式(II)中、ベンゾイミダゾールは互変異性型を有し得る。1H-ベンゾイミダゾールは3H-ベンゾイミダゾールの互変異性体である。代表例を以下に示す。
【0028】
【0029】
式(II)の化合物は遊離塩基の形又は酸付加塩の形で提供することができ、これらも本発明の一部を形成する。
【0030】
これらの塩は薬学的に許容される酸を用いて有利に調製されるが、例えば式(II)の化合物の精製又は単離に有用な、他の酸との塩も本発明の一部を形成する。
【0031】
一実施形態によれば、式(II)の化合物は(S)-2-[(1H-ベンゾイミダゾール-2-イル)(1-メチルピペリジン-4-イルオキシ)メチル]-6-フルオロフェノール,塩酸塩である。
【0032】
前記塩酸塩は、その無水又は溶媒和/水和状態で、様々な多形体を含み得る。
【0033】
一実施形態によれば、本明細書中I型と呼ぶ無水状態の多形体は、典型的には以下の条件:
トランスミッションモード
2°から50°の間の記録値
でPANALYTICAL X'PERT PRO MPD回折計装置を用いて測定される、以下の粉末X線回折ピークを含む。
【0034】
無水状態の特徴的ピークは以下の通りである。
【0035】
【0036】
【0037】
一実施形態によれば、本明細書中II型と呼ぶ水和状態の多形体は一水和物型であり、典型的には以下の条件:
トランスミッションモード
2°から50°の間の記録値
でPANALYTICAL X'PERT PRO MPD回折計装置を用いて測定される、以下の粉末X線回折ピークを含む。
【0038】
一水和物状態の特徴的ピークは以下の通りである。
【0039】
【0040】
更なる目的によれば、本発明は式(II)の化合物の調製法にも関する。
【0041】
本発明の化合物及び方法は、当業者によく知られている幾つかの方法で調製することができる。例えば、当業者によって理解される下記の方法、又はそれらの変形の適用又は採用によって、化合物を合成することができる。適切な改変及び代替は当業者に容易に理解され、よく知られており、又は科学文献から容易に入手可能である。
【0042】
特に、このような方法はR.C.Larock, Comprehensive Organic Transformations, VCH publishers, 1989年に見ることができる。
【0043】
本発明の化合物は1つ又は複数の非対称に置換された炭素原子を含有する可能性があり、光学活性型又はラセミ型で単離することができることが理解されよう。したがって、具体的な立体化学的性質又は異性体型が具体的に示されない限り、全てのキラル、ジアステレオマー、ラセミ型、及び全ての幾何異性体型の構造が考えられる。このような光学活性型の調製法及び単離法は、当技術分野でよく知られている。例えば、立体異性体の混合物は、ラセミ型の分割、順相、逆相、及びキラルクロマトグラフィー、優先的塩形成、再結晶等だけには限られないが、これらを含めた標準的手法により、又はいずれかのキラル出発物質からのキラル合成により、又は標的キラル中心の意図的合成により分離することができる。
【0044】
本発明の化合物は様々な合成経路により調製することができる。その試薬及び出発物質は市販されており、又は当業者により周知の手法によって容易に合成される。他に示さない限り、全ての代替は前に定義した通りである。
【0045】
本明細書で以下に記載する反応では、反応性官能基、例えばヒドロキシ、ケト、アミノ、イミノ、チオ又はカルボキシ基を、これらが最終生成物において所望される場合、反応におけるそれらの望ましくない関与を回避するために保護することが必要となる可能性がある。従来用いられている保護基を標準的なやり方に従って使用することができ、例えばT.W.Greene and P.G.M.Wuts in Protective Groups in Organic Chemistry, John Wiley and Sons, 1991年、J.F.W.McOmie in Protective Groups in Organic Chemistry,Plenum Press, 1973年を参照されたい。
【0046】
幾つかの反応は、塩基の存在下で実施することができる。この反応において使用される塩基の性質に関する特別な制限はなく、それが分子の他の部分に悪影響がないという条件で、このタイプの反応において従来使用された任意の塩基をここでも同様に使用することができる。適切な塩基の例には、水酸化ナトリウム、炭酸カリウム、トリエチルアミン、アルカリ金属水素化物、例えば、水素化ナトリウム及び水素化カリウム、アルキルリチウム化合物、例えば、メチルリチウム及びブチルリチウム、並びにアルカリ金属アルコキシド、例えば、ナトリウムメトキシド及びナトリウムエトキシドがある。
【0047】
通常、反応は適切な溶媒中で実施される。それが関与する反応又は試薬に対して悪影響がないという条件で様々な溶媒を使用することができる。適切な溶媒の例には、ヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、トルエン及びキシレン等の芳香族、脂肪族又は脂環式炭化水素であってよい炭化水素;N,N-ジメチルホルムアミド等のアミド;エタノール及びメタノール等のアルコール;並びにジエチルエーテル、メチルtert-ブチルエーテル、メチルシクロペンチルエーテル及びテトラヒドロフラン等のエーテルがある。
【0048】
反応は広範囲の温度にわたって起こり得る。一般に、本発明者らは、0℃~150℃(より好ましくはほぼ室温~100℃)の温度で反応を実施するのが好都合であることを発見している。反応に必要とされる時間も、多くの要因、とりわけ反応温度及び試薬の性質に応じて大きく変わり得る。しかしながら、反応を前述の好ましい条件下で行うという条件で、3時間~20時間で通常充分である。
【0049】
このように調製した化合物は、従来手段によって反応混合物から回収することができる。例えば、化合物は、反応混合物から溶媒を蒸留除去する工程、又は必要な場合には、反応混合物から溶媒を蒸留除去した後、残渣を水に注ぎ、次に水に不混和性の有機溶媒で抽出し、抽出物から溶媒を蒸留除去する工程によって回収することができる。更に、望む場合には、再結晶、再沈殿、又は様々なクロマトグラフィー法、とりわけカラムクロマトグラフィー若しくは分取用薄層クロマトグラフィー等の様々な周知の方法によって生成物を更に精製することができる。
【0050】
典型的には、本発明の式(II)のエナンチオマーは、対応するラセミ混合物のエナンチオマー分離によって調製することができる。
【0051】
2つのエナンチオマーの分離は、擬似移動床クロマトグラフィーを含めたキラルクロマトグラフィー、キラル試薬による塩形成、キラルな相手とのジアステレオマー形成、及び優先的結晶化によって実施することができる。
【0052】
式(II)の化合物のラセミ混合物は、WO2012/041860中に開示された方法の適用によって調製することができる。より詳細には、それらの化合物は、下記式(III):
【化4】
(式中、X、R1、R2、R3、R4が一般式(II)において定義したものである)
の化合物を、下記式(IV):
【化5】
の化合物でエーテル化することによる実施形態にしたがって調製することができる。
【0053】
このエーテル化反応は、室温から約160℃の間の温度で不活性溶媒(トルエン、クロロベンゼン、ジクロロエタン)中、酸性媒体(トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸)のなかで、実施することができる。
【0054】
式(III)の化合物は、WO2012/041860中に開示された方法の適用によって調製することができる。
【0055】
或いは、別の実施形態によれば、式(I)の化合物は、下記式(V):
【化6】
(式中、R1、R2、R3、R4、Xは一般式(II)において定義したものである)
の化合物のメチル化によって調製することができる。
【0056】
このメチル化は、カルボニル化化合物、及び水素化ホウ素、シアノ水素化ホウ素、トリアセトキシ水素化ホウ素、次亜リン酸、ギ酸、ギ酸/トリエチルアミン又は水素等の還元剤を使用した還元的方法によって実施することができ、水素又は水素ドナーを使用するときは、この変換のためにパラジウム等の触媒を添加することができる。
【0057】
式(V)の化合物は、WO2012/041860中に開示された方法に従い調製することができる。
【0058】
更に式(III)の化合物を、基の相互変換又は基の変換によって、式(II)の化合物から調製することができる。このような反応には、ハロゲン交換反応、銅触媒によるエーテル形成、Sonogashira反応、Heck反応、Suzuki反応、硫化物縮合、グリニャール試薬を用いたトリフレートの置換、銅触媒によるエーテル形成、金属触媒によるアミン芳香族置換、芳香族カルボニル化反応等の芳香族又はヘテロ芳香族基に関する反応; アシル化、窒素含有基、例えば、アミン、アミジン、グアニジン等のアルコキシカルボニル化等の反応基に関する反応; 求核剤でのヒドロキシの置換(Mitsunobu反応、又は活性化及び求核置換反応); 不飽和基の水素化(アルケニルからアルキル、アルキニルからアルケニル、アルキニルからアルキル); アジド基のStaudinger反応があるが、これらだけには限定されない。
【0059】
本発明の方法は、所望の式(II)の化合物を単離する追加工程を含むことができる。
【0060】
出発物質及び/又は試薬は市販されている可能性があり、又は以下の実験項中に開示した手順を適用若しくは採用することによって、当業者が容易に調製することができる。
【0061】
他の更なる目的によれば、本発明は更に、前に定義した式(II)の化合物を薬学的に許容される賦形剤とともに含む医薬組成物に関する。
【0062】
本発明の化合物は、H1R及びH4Rのデュアルアンタゴニスト及び/又はインバースアゴニストである。したがって、本発明の医薬組成物及び化合物は、炎症障害等のH1及び/又はH4機能障害と関係がある疾患の治療及び/又は予防において使用するのに有用であり得る。
【0063】
前記疾患は、成人型呼吸窮迫症候群、急性呼吸窮迫症候群、気管支炎、慢性気管支炎、慢性閉塞性肺疾患、嚢胞性線維症、喘息、気腫、鼻炎、副鼻腔炎、慢性蓄膿症、アレルギー、アレルギー誘導型気道反応、アレルギー性鼻炎、ウイルス性鼻炎、非アレルギー性鼻炎、非季節性及び季節性鼻炎、結膜炎、アレルギー性結膜炎、眼部掻痒、慢性蕁麻疹、湿疹、痒疹、皮膚掻痒、多形滲出性紅斑、鼻づまり、アレルギー性充血、尿生殖管の障害、女性及び男性性機能障害、過活動膀胱状態、尿失禁、膀胱過活動、良性前立腺肥大及び下部尿路症状等、皮膚疾患、皮膚炎、アトピー性皮膚炎、並びに乾癬及び皮膚掻痒の治療等、血栓塞栓症、アテローム性動脈硬化症、心筋梗塞、狭心症、心筋虚血及び不整脈、末梢閉塞性動脈疾患、肺動脈閉塞症又は深部静脈血栓症、低血圧、肺高血圧、悪性高血圧、心不全、心又は腎不全、脳血管発作及び腎機能不全を含めた心臓血管系の疾患、炎症性腸疾患、クローン病、潰瘍性大腸炎を含めた胃腸管の疾患、リウマチ様関節炎、多発性硬化症を含めた自己免疫疾患、がん、疼痛、リンパ増殖性疾患を含む。
【0064】
更なる目的によれば、本発明は更に、
・ ヒスタミンH1、H2、H3、又はH4受容体アンタゴニスト、
・ ロイコトリエンアンタゴニスト、
・ 5-リポキシゲナーゼ(5-LO)阻害剤又は5-リポキシゲナーゼ活性化タンパク質(FLAP)アンタゴニスト
・ 鬱血除去用途のCX1-及びα2-アドレナリン作動性受容体アゴニスト、血管収縮性交感神経興奮薬
・ テオフィリン及びアミノフィリン等のキサンチン
・ クロモグリク酸ナトリウム及びネドクロミルナトリウム等の非ステロイド性抗炎症薬
・ ケトティフェン
・ COX-1阻害剤(NSAID)及びCOX-2選択的阻害剤
・ 免疫抑制薬
・ 粘液溶解薬又は鎮咳薬
から選択される1つ又は複数の治療剤(複数可)と本発明の化合物(II)の組合せ物に関する。
【0065】
より詳細には、本発明は更に、本発明の式(II)の化合物と、セチリジン、デスロラタジン、ベポタスチン又はドキセピン等のH1Rアンタゴニストを含む組合せ物に関する。
【0066】
他の更なる目的によれば、本発明は更に、上記の状態を治療及び/又は予防するための式(II)の化合物に関する。
【0067】
他の更なる目的によれば、本発明は更に、上記の状態又は障害を治療及び/又は予防するために有効量の本発明の化合物(II)を、それを必要とする患者に投与する工程を含む治療法に関する。
【0068】
本発明の化合物は、H1及びH4ヒト受容体において興味深いデュアル活性、優れたセーフティーマージン、優れたバイオアベイラビリティー、及び優れた分布プロファイルを示す。
【0069】
本明細書で使用する用語「患者」は、本明細書に記載する1つ又は複数の疾患及び状態に罹患した、又はそれらに罹患する可能性がある、哺乳動物、好ましくはヒト又はヒトの子供等の恒温動物を指す。
【0070】
本明細書で使用する「治療有効量」は、本明細書に記載する疾患及び状態の症状の低減、除去、治療又は制御において有効である本発明の化合物の量を指す。用語「制御」は、本明細書に記載する疾患及び状態の進行の遅延、妨害、阻止、又は停止があり得る全ての過程を指すものとするが、全ての疾患及び状態の症状の完全な除去を必ずしも示すわけではなく、予防的治療及び慢性的使用を含むものとする。
【0071】
本明細書で使用する「薬学的に許容される塩」は、その酸性塩又は塩基性塩の作製によって親化合物が修飾された、開示する化合物の誘導体を指す。薬学的に許容される塩は、例えば無毒無機酸又は有機酸から形成された、親化合物の従来型無毒塩又は第四級アンモニウム塩を含む。例えば、このような従来型無毒塩は、例えば塩酸、臭化水素酸、硫酸、スルファミン酸、リン酸、硝酸等の無機酸から誘導された塩、及び例えば酢酸、プロパン酸、コハク酸、酒石酸、クエン酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、グルクロン酸、グルタミン酸、安息香酸、サリチル酸、トルエンスルホン酸、シュウ酸、フマル酸、マレイン酸等の有機酸から調製された塩を含む。更なる他の塩には、例えばトロメタミン、メグルミン、エポラミン等のアンモニウム塩、ナトリウム、カリウム、カルシウム、亜鉛又はマグネシウム等の金属塩がある。塩酸塩及びシュウ酸塩が好ましい。
【0072】
本発明の薬学的に許容される塩は、従来の化学的方法によって、塩基性又は酸性部分を含有する親化合物から合成することができる。一般に、遊離酸又は塩基型のこれらの化合物と化学量論量の適切な塩基又は酸を、水中、又は有機溶媒中、又はこの2つの混合物中で反応させることによって、このような塩を調製することができる。一般に、エーテル、酢酸エチル、エタノール、イソプロパノール、又はアセトニトリルなどの非水性媒体が好ましい。適切な塩の一覧は、その開示が参照により本明細書に組み込まれているRemington's Pharmaceutical Sciences, 第17版, Mack Publishing Company, Easton, PA, 1985年, 1418頁中に見られる。
【0073】
本明細書に記載する疾患及び状態の治療を必要とする対象の確認は、充分当業者の能力及び知識の範囲内にある。当技術分野の臨床医は、臨床試験、身体検査及び病歴/家族歴の使用によって、このような治療を必要とする対象を容易に確認することができる。
【0074】
治療有効量は、従来方法の使用によって、及び類似した状況下で得た結果の観察によって、当業者としての担当医により容易に決定することができる。治療有効量の決定では、対象の種類、その大きさ、年齢、及び一般的健康状態、関係する具体的疾患、疾患の関係又は重症度、個別対象の応答性、投与する個々の化合物、投与の形式、投与する調製物のバイオアベイラビリティー特性、選択する用量レジメン、共動薬の使用、及び他の関連状況だけには限られないが、これらを含めた幾つかの要因が担当医によって考慮される。
【0075】
所望の生物学的効果を得るのに必要とされる式(II)の化合物の量は、投与する薬物の用量、利用する化合物の化学的特性(例えば疎水性)、化合物の効能、疾患のタイプ、患者の病状、及び投与の経路を含めた幾つかの要因に応じて変わり得る。
【0076】
一般的に、本発明の化合物は、非経口投与用に、0.1~10%w/vの化合物を含有する水性生理的緩衝溶液中に提供することができる。典型的用量範囲は1日につき体重1kgあたり1μg~0.1gであり、好ましい用量範囲は1日につき体重1kgあたり0.01mg~10mgである。成人に好ましい1日用量は1、5、50、100及び200mgを含み、小人においても同等の用量である。投与する薬物の好ましい用量は、疾患又は障害の進行のタイプ及び程度、個々の患者の全身健康状態、選択化合物の相対的生物学的有効性、及び化合物賦形剤の調剤、及びその投与経路等の変数におそらく依存する。
【0077】
本発明の化合物は単位剤形で投与することができ、この場合用語「単位用量」は、患者に投与することができ、活性化合物自体を含む物理的及び化学的に安定した単位用量として又は本明細書で以後に記載する薬学的に許容される組成物としてのままで、容易に処理及びパッケージ化できる一回用量を意味する。このように、典型的な1日の用量範囲は体重1kgあたり0.01mg~10mgである。一般的指針によって、ヒトの単位用量は1日当たり0.1mg~1000mgである。単位用量範囲は1~500mg、1日1回~4回投与することが好ましく、1日1回、1mg~300mgがより一層好ましい。本明細書で提供する化合物は、1つ又は複数の薬学的に許容される賦形剤との混合によって医薬組成物に製剤化することができる。このような組成物は、特に錠剤又はカプセルの型で経口投与、又は特に液体溶液、懸濁液若しくはエマルジョンの型で非経口投与、又は特に粉末、点鼻薬、若しくはエアロゾルの型で鼻腔内投与、又は例えば局所若しくは経皮吸収パッチを介した皮膚投与、又は眼部投与、又は特にペッサリーの形での膣内若しくは子宮内投与、又は直腸投与において使用するため調製することができる。
【0078】
組成物は単位剤形で都合よく投与することができ、例えばRemington: The Science and Practice of Pharmacy, 第20版; Gennaro、A.R., Ed.; Lippincott Williams and Wilkins: Philadelphia, PA, 2000年に記載されたような、製薬分野でよく知られている任意の方法によって調製することができる。薬学的に適合性がある結合剤及び/又はアジュバント物質を組成物の一部として含めることができる。経口組成物は、不活性希釈剤担体又は可食性担体を一般に含む。
【0079】
錠剤、ピル、粉末、カプセル、トローチ等は、類似した性質の以下の成分、又は化合物、微晶質セルロース、又はトラガカントゴム等の結合剤、デンプン又はラクトース等の希釈剤、デンプン及びセルロース誘導体等の崩壊剤、ステアリン酸マグネシウム等の潤滑剤、コロイド状二酸化ケイ素等の滑剤、スクロース又はサッカリン等の甘味剤、又はペパーミント、若しくはサリチル酸メチル等の香味剤のいずれかの1つ又は複数を含有し得る。カプセルは、可塑剤が任意選択で配合されていてもよいゼラチン配合物から一般に構成される硬質カプセル又は軟質カプセル、及びデンプンカプセルの形態であってよい。更に単位剤形は、その物理的形態を改変する様々な他の物質、例えば糖衣コーティング、セラック、又は腸溶剤を含有し得る。他の経口剤形シロップ又はエリキシル剤は、甘味剤、防腐剤、染料、着色剤、及び香味剤を含有し得る。更に、活性化合物は速溶性、徐放性又は持続放出性調製物及び製剤中に取り込ませることが可能であり、この場合このような持続放出性製剤はバイモダール(bi-modal)であることが好ましい。
【0080】
好ましい製剤は、本発明の化合物が経口若しくは非経口投与用に製剤化された医薬組成物、又はより好ましくは本発明の化合物が錠剤として製剤化された医薬組成物を含む。好ましい錠剤は、ラクトース、コーンスターチ、ケイ酸マグネシウム、クロスカルメロースナトリウム、ポビドン、ステアリン酸マグネシウム、又はタルクを任意の組合せで含有する。本発明の化合物が食品又は液体中に組み込まれていてもよいことも本開示の一態様である。
【0081】
投与用の液体調製物には、滅菌した水溶液又は非水溶液、懸濁液、及びエマルジョンがある。液体組成物は、結合剤、バッファー、防腐剤、キレート剤、甘味剤、香味剤及び着色剤等も含み得る。非水溶媒には、アルコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、アクリレートコポリマー、オリーブオイル等の植物油、及びオレイン酸エチル等の有機エステルがある。水性担体には、アルコールと水の混合物、ヒドロゲル、緩衝媒体、及び生理食塩水がある。特に、生体適合性、生分解性ラクチドポリマー、ラクチド/グリコリドコポリマー、又はポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンコポリマーは、活性化合物の放出を制御するのに有用な賦形剤であり得る。静脈内用賦形剤は、流体及び栄養補充剤、電解質補充剤、例えばリンガー液、デキストロースをベースとする補充剤等を含み得る。これらの活性化合物のためのその他の有用性のある非経口送達系には、エチレン-酢酸ビニルコポリマー粒子、浸透圧ポンプ、埋め込み型注入システム、及びリポソームがある。
【0082】
投与の他の形態には、乾燥粉末、エアロゾル、又は点滴薬等の手段を含めた吸入用製剤がある。それらは、ポリオキシエチレン-9-ラウリルエーテル、グリコレート及びデオキシコレートを例えば含有する水溶液、又は点鼻薬の型で、若しくは鼻腔内施用するゲルとして投与するための油溶液であり得る。経口投与用の製剤には例えば薬用ドロップ又はトローチがあり、スクロース又はアカシア等の香味剤、及びグリコレート等の他の賦形剤も含み得る。直腸投与に適した製剤は、ココアバター等の固形ベース担体を含む単位用量座薬として示されることが好ましく、サリチレートを含み得る。皮膚に局所施用するための製剤は、軟膏、クリーム、ローション、ペースト、ゲル、スプレー、エアロゾル、又は油の形態をとることが好ましい。使用することができる担体には、ワセリン、ラノリン、ポリエチレングリコール、アルコール、又はこれらの組合せがある。経皮投与に適した製剤は個別パッチとして示すことが可能であり、ポリマー又は接着剤中に溶解及び/又は分散させた、脂溶性エマルジョン又は緩衝水溶液であり得る。
【0083】
他の投与には、眼部投与に許容される溶液、軟膏又は他の製剤もある。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【
図1】(全体の半分を差し引いた)CD
2Cl
2中での実施例1のラセミ混合物の2つのエナンチオマーのVCDスペクトルの図である。
【
図2】(全体の半分を差し引いた)CD
2Cl
2中での実施例1の2つのエナンチオマーの実験VCDスペクトルと、コンフォーマーA2(Rエナンチオマー)に関して計算したスペクトルの比較を示す図である。
【
図3】(S)-2-[(1H-ベンゾイミダゾール-2-イル)(1-メチルピペリジン-4-イルオキシ)メチル]-6-フルオロフェノール,塩酸塩のフェーズI(無水物)及びフェーズII(一水和物)のXRPDを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0085】
本発明の他の特徴は、以下の例示的実施形態の記載の過程において明らかとなり、これらの実施形態は本発明の説明のために与えられ、それらを限定することを意図するものではない。
【実施例0086】
融点は、Buechiキャピラリー融点測定装置で測定する。
【0087】
プロトンNMRスペクトルをVarian 400MHz NMR測定装置で記録する。他に言及しない限り、溶媒として重クロロホルムを使用する。化学シフト値δはppmで表す。以下の略語を使用してシグナルパターンを示す: s = 一重項、d = 二重項、t = 三重項、q = 四重項、m = 多重項、ms = かたまり。結合定数はHzで表す。記録したスペクトルは提示された構造と一致している。
【0088】
実施例1: (S)-2-[(1H-ベンゾイミダゾール-2-イル)(1-メチルピペリジン-4-イルオキシ)メチル]-6-フルオロフェノール
ラセミ2-[(1H-ベンゾイミダゾール-2-イル)(1-メチルピペリジン-4-イルオキシ)メチル]-6-フルオロフェノールの合成は特許出願WO2012041860(実施例581)中に記載されている。
【0089】
ジクロロメタン(180mL)中に溶かしたラセミ2-[(1H-ベンゾイミダゾール-2-イル)(1-メチルピペリジン-4-イルオキシ)メチル]-6-フルオロフェノール(6.52g)の溶液に、トリメチルアミン(2.86mL)及び(1S)-クロロギ酸メチル(3.96mL)を添加した。混合物は室温で2時間攪拌し、次いで水で希釈した。有機相を塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥させ、減圧下で濃縮した。分取HPLCクロマトグラフィー(Waters社、AutoPurification HPLC/MS System、Sunfire Prep C18 OBD 5μm 30×150mmカラム、溶出液: 水/0.1%ギ酸(A)及びアセトニトリル/0.1%ギ酸(B)、11分間A/B 73/27、次いで4分間5/95までの直線勾配でのイソクラティック溶出、サンプルはメタノールに希釈、多サイクル)により残渣を精製した。二番目に溶出したジアステレオマーの分画(13分の保持時間)を回収し、重炭酸ナトリウムで処理し、酢酸エチルで抽出した。硫酸マグネシウム上での乾燥後、有機相を減圧下で濃縮した。残渣はエタノールで希釈し、室温で30分間、水(10mL)に溶かした水酸化カリウム(2.0g)で処理した。3N水性HCl次いで水性重炭酸ナトリウムを用いて約8にpHを調節した後、酢酸エチルで水性相を抽出し、貯めた抽出物を硫酸マグネシウム上で乾燥させ、減圧下で濃縮し、シリカゲル上でのカラムクロマトグラフィー(勾配95/5/0.5~90/10/0.5のジクロロメタン/メタノール/アンモニア)により残渣を精製して、以下のNMRスペクトルを示す白色粉末として(S)-2-[(1H-ベンゾイミダゾール-2-イル)(1-メチルピペリジン-4-イルオキシ)メチル]-6-フルオロフェノールを得た。1H NMR (MeOD): 7.52 (m,2H), 7.20 (m,2H), 7.16 (m,1H), 7.02 (m,1H), 6.79 (m,1H), 6.25 (s,1H), 3.59 (m,1H), 2.74 (m,2H), 2.25 (s,3H), 2.20 (m,2H), 1.95 (m,2H), 1.78 (m,2H)).交換可能なプロトンは報告していない。
【0090】
キラルHPLC分析: 分析用キラルパックAD-H、250x4.6mmカラム。1ml/分の流速で、ジエチルアミン(0.1%)を含有するヘプタン/イソプロパノール(95/5)の混合物を用いて溶出を実施した。(S)エナンチオマーは27.7分の保持時間を有する((R)エナンチオマーの保持時間=18.6分)。e.e.=100%。
【0091】
実施例2: (S)-2-[(1H-ベンゾイミダゾール-2-イル)(1-メチルピペリジン-4-イルオキシ)メチル]-6-フルオロフェノール,塩酸塩,一水和物
アセトン(100mL)中に溶かした(S)-2-[(1H-ベンゾイミダゾール-2-イル)(1-メチルピペリジン-4-イルオキシ)メチル]-6-フルオロフェノール(7.82g)の溶液を、室温において1当量の37%塩酸で処理した。3時間強く攪拌した後、固体を濾過し、アセトンですすぎ、減圧下で乾燥させて以下のNMRスペクトルを示す白色粉末として2-[(1H-ベンゾイミダゾール-2-イル)(1-メチルピペリジン-4-イルオキシ)メチル]-6-フルオロフェノール,塩酸塩,一水和物を得た。1H NMR (MeOD): 7.55 (m,2H), 7.23 (m,2H), 7.10 (m,1H), 7.08 (m,1H), 6.83 (m,1H), 6.28 (s,1H), 3.89 (m,1H), 3.43-3.20 (ms,4H), 2.84 (s,3H), 2.20-1.90 (ms,4H)。交換可能なプロトンは報告していない。
XRPD(主要ピーク、°単位の2θ): 13.6、15.1、15.6、16.4、18.1、20.3、22.2、27.6、29.0
【0092】
実施例3: (S)-2-[(5-クロロ-4-フルオロ-1H-ベンゾイミダゾール-2-イル)(1-メチルピペリジン-4-イルオキシ)メチル]フェノール
【0093】
【0094】
3A
2-[(5-クロロ-4-フルオロ-1H-ベンゾイミダゾール-2-イル)(1-メチルピペリジン-4-イルオキシ)メチル]フェノールエナンチオマーBを、実施例1に従い、ラセミ2-[(5-クロロ-4-フルオロ-1H-ベンゾイミダゾール-2-イル)(1-メチルピペリジン-4-イルオキシ)メチル]フェノール及び(1R)-クロロギ酸メチルを用いた誘導体化から調製した。分取HPLC中、最初に溶出したジアステレオマーを回収し、次いで水酸化カリウム処理により脱保護して、以下のNMRスペクトルを示す白色粉末として2-[(5-クロロ-4-フルオロ-1H-ベンゾイミダゾール-2-イル)(1-メチルピペリジン-4-イルオキシ)メチル]フェノールエナンチオマーBを得た。1H NMR (MeOD): 7.34 (m,1H), 7.27 (m,1H), 7.22 (m,1H), 7.11 (m,1H), 6.83 (m,1H), 6.79 (m,1H), 6.20 (s,1H), 3.57 (m,1H), 2.71 (m,2H), 2.22 (s,3H), 2.18 (m,2H), 1.93 (m,2H), 1.75 (m,2H)。交換可能なプロトンは報告していない。
【0095】
キラルHPLC分析: 分析用キラルパックAD-H、250x4.6mmカラム。1ml/分の流速で、ジエチルアミン(0.1%)を含有するヘプタン/イソプロパノール(93/7)の混合物を用いて溶出を実施した。エナンチオマーBは12.6分の保持時間を有する (エナンチオマーAの保持時間 = 8.9分)。e.e.=99%。3B
【0096】
トルエン(350mL)及びN-メチルピロリドン(35mL)中の2-[(5-クロロ-4-フルオロ-1H-ベンゾイミダゾール-2-イル)ヒドロキシメチル]フェノール(6.48g)、4-ヒドロキシ-1-メチルピペリジン(12.75g)、及びp-トルエンスルホン酸一水和物(29.5g)の混合物を、ディーン・スターク装置を用いて完全に転化するまで(1.5時間)還流下で加熱した。次いで水を添加し、混合物を激しく攪拌した。不溶性物質の濾過及び9付近へのpH調節後、水性相を酢酸エチルで数回抽出した。再混合有機相を塩水で洗浄し、硫酸マグネシウム上で乾燥させ、減圧下で濃縮した。シリカゲル上でのカラムクロマトグラフィー(勾配95/5/0.5~90/10/0.5のジクロロメタン/メタノール/アンモニア)により残渣を精製して、144℃で溶解する灰白色の固体としてラセミ2-[(5-クロロ-4-フルオロ-1H-ベンゾイミダゾール-2-イル)(1-メチルピペリジン-4-イルオキシ)メチル]フェノールを得た。
【0097】
3C
テトラヒドロフラン(30mL)中に溶かした5-クロロ-4-フルオロ-1-(ピロリジン-1-イルメチル)-1H-ベンゾイミダゾール(5.50g)の溶液に、リチウムジイソプロピルアミドの2M溶液(19.4mL)を-78℃で添加し、この温度で2時間攪拌した。テトラヒドロフラン(30mL)中のサリチルアルデヒド(4.58g)とリチウムジイソプロピルアミドの2M溶液(20mL)の冷却混合物を次いで添加した。混合物は-78℃で50分間攪拌し、15分かけて-10℃まで温めた。飽和塩化アンモニウム水溶液での加水分解及び濃塩酸での6付近へのpH調節後、有機相を塩水で洗浄し、硫酸マグネシウム上で乾燥させ、減圧下で濃縮した。残渣は15分間ジクロロメタン中での還流によって精製した。冷却後、固体を濾過して2-[(5-クロロ-4-フルオロ-1H-ベンゾイミダゾール-2-イル)ヒドロキシメチル]フェノールを得た。
【0098】
3D
エタノール(100mL)中に溶かした5-クロロ-4-フルオロ-1H-ベンゾイミダゾール(10.7g)、ピロリジン(4.68g)、及びホルムアルデヒド(水中37%、5.85g)の溶液を100分間還流させた。減圧下での濃縮後、残渣をジクロロメタンで希釈し、硫酸マグネシウム上で乾燥させ、減圧下で濃縮して5-クロロ-4-フルオロ-1-(ピロリジン-1-イルメチル)-1H-ベンゾイミダゾールを得た。
【0099】
3E
4-クロロ-3-フルオロベンゼン-1,2-ジアミン(13.9g)及びギ酸(6.84g)の混合物を35分間95℃で攪拌した。冷却後、混合物を水と酢酸エチルで希釈し、pH1~2へ酸性化した。濾過後、水性相を酢酸エチルで洗浄し、水酸化ナトリウムを用いてpH9~10まで塩基性化して、酢酸エチルで抽出した。貯めた抽出物は硫酸マグネシウム上で乾燥させ、減圧下で濃縮した。残渣はジクロロメタン中での再結晶により精製して5-クロロ-4-フルオロ-1H-ベンゾイミダゾールを得た。
【0100】
実施例4: (S)-2-[(4-メチル-1H-ベンゾイミダゾール-2-イル)(1-メチルピペリジン-4-イルオキシ)メチル]フェノール
【0101】
【0102】
4A
2-[(4-メチル-1H-ベンゾイミダゾール-2-イル)(1-メチルピペリジン-4-イルオキシ)メチル]フェノールエナンチオマーBを、実施例1に従い、ラセミ2-[(4-メチル-1H-ベンゾイミダゾール-2-イル)(1-メチルピペリジン-4-イルオキシ)メチル]フェノール及び(1S)-クロロギ酸メチルを用いた誘導体化から調製した。分取HPLC中、二番目に溶出したジアステレオマーを回収し、次いで水酸化カリウム処理により脱保護して、以下のNMRスペクトルを示す白色粉末として2-[(4-メチル-1H-ベンゾイミダゾール-2-イル)(1-メチルピペリジン-4-イルオキシ)メチル]フェノールエナンチオマーBを得た。1H NMR (MeOD): 7.33 (m,2H), 7.13 (m,1H), 7.09 (m,1H), 6.96 (m,1H), 6.81 (m,1H), 6.79 (m,1H), 6.21 (s,1H), 3.56 (m,1H), 2.70 (m,2H), 2.53 (s,3H), 2.21 (s,3H), 2.17 (m,2H), 1.92 (m,2H), 1.74 (m,2H).交換可能なプロトンは報告していない。
【0103】
キラルHPLC分析: 分析用キラルパックAD-H、250x4.6mmカラム。1ml/分の流速で、ジエチルアミン(0.1%)を含有するヘプタン/イソプロパノール(90/10)の混合物を用いて溶出を実施した。エナンチオマーBは8.4分の保持時間を有する(エナンチオマーAの保持時間 = 7.2分)。e.e.=98%。
【0104】
4B
ラセミ2-[(4-メチル-1H-ベンゾイミダゾール-2-イル)(1-メチルピペリジン-4-イルオキシ)メチル]フェノールを、2,3-ジアミノトルエンから出発して手順3B、3C、3D、及び3Eと同様にして調製した。
【0105】
実施例5: (S)-2-[(5-フルオロ-1H-ベンゾイミダゾール-2-イル)(1-メチルピペリジン-4-イルオキシ)メチル]フェノール
【0106】
【0107】
5A
2-[(5-フルオロ-1H-ベンゾイミダゾール-2-イル)(1-メチルピペリジン-4-イルオキシ)メチル]フェノールエナンチオマーBを、実施例1にしたがい、ラセミ2-[(5-フルオロ-1H-ベンゾイミダゾール-2-イル)(1-メチルピペリジン-4-イルオキシ)メチル]フェノール及び(1S)-クロロギ酸メチルを用いた誘導体化から調製した。分取HPLC中、二番目に溶出したジアステレオマーを集め、次に水酸化カリウム処理により脱保護して、以下のNMRスペクトルを示す白色粉末として2-[(5-フルオロ-1H-ベンゾイミダゾール-2-イル)(1-メチルピペリジン-4-イルオキシ)メチル]フェノールエナンチオマーBを得た。1H NMR (MeOD): 7.46 (m,1H), 7.32 (d,1H), 7.20 (m,1H), 7.12 (m,1H), 6.96 (m,1H), 6.80 (m,2H), 6.19 (s,1H), 3.56 (m,1H), 2.73 (m,2H), 2.23 (s,3H), 2.20 (m,2H), 1.93 (m,2H), 1.75 (m,2H)。交換可能なプロトンは報告していない。
【0108】
キラルHPLC分析: 分析用キラルパックAD-H、250x4.6mmカラム。1ml/分の流速で、ジエチルアミン(0.1%)を含有するヘプタン/イソプロパノール(90/10)の混合物を用いて溶出を実施した。エナンチオマーBは15.6分の保持時間を有する(エナンチオマーAの保持時間 = 9.5分)。e.e.=97%。
【0109】
5B
ラセミ2-[(5-フルオロ-1H-ベンゾイミダゾール-2-イル)(1-メチルピペリジン-4-イルオキシ)メチル]フェノールを、1,2-ジアミノ-4-フルオロベンゼンから出発して、手順3B、3C、3D、及び3Eと同様にして調製した。
【0110】
実施例6: (S)-2-[(4-クロロ-1H-ベンゾイミダゾール-2-イル)(1-メチルピペリジン-4-イルオキシ)メチル]フェノール
【0111】
【0112】
6A
2-[(4-クロロ-1H-ベンゾイミダゾール-2-イル)(1-メチルピペリジン-4-イルオキシ)メチル]フェノールエナンチオマーBを、実施例1に従い、ラセミ2-[(4-クロロ-1H-ベンゾイミダゾール-2-イル)(1-メチルピペリジン-4-イルオキシ)メチル]フェノール、及び(1S)-クロロギ酸メチルを用いた誘導体化から調製した。分取HPLC中、二番目に溶出したジアステレオマーを集め、次いで水酸化カリウム処理により脱保護して、以下のNMRスペクトルを示す白色粉末として2-[(4-クロロ-1H-ベンゾイミダゾール-2-イル)(1-メチルピペリジン-4-イルオキシ)メチル]フェノールエナンチオマーBを得た。1H NMR (MeOD): 7.43 (d,1H), 7.34 (d,1H), 7.21-7.10 (ms,3H), 6.85-6.78 (ms,2H), 6.22 (s,1H), 3.59 (m,1H), 2.74 (m,2H), 2.24 (s,3H), 2.22 (m,2H), 1.93 (m,2H), 1.76 (m,2H)。交換可能なプロトンは報告していない。
【0113】
キラルHPLC分析: 分析用キラルパックAD-H、250x4.6mmカラム。1ml/分の流速で、ジエチルアミン(0.1%)を含有するヘプタン/イソプロパノール(80/20)の混合物を用いて溶出を実施した。エナンチオマーBは5.0分の保持時間を有する(エナンチオマーAの保持時間 = 4.5分)。e.e.=97%。
【0114】
6B
ラセミ2-[(4-クロロ-1H-ベンゾイミダゾール-2-イル)(1-メチルピペリジン-4-イルオキシ)メチル]フェノールを、2,3-ジアミノクロロベンゼンから出発して、手順3B、3C、3D、及び3Eと同様にして調製した。
【0115】
実施例7: (S)-2-[(5-クロロ-4-メチル-1H-ベンゾイミダゾール-2-イル)(1-メチルピペリジン-4-イルオキシ)メチル]フェノール
【0116】
【0117】
7A
2-[(5-クロロ-4-メチル-1H-ベンゾイミダゾール-2-イル)(1-メチルピペリジン-4-イルオキシ)メチル]フェノールエナンチオマーBを、実施例1に従い、ラセミ2-[(5-クロロ-4-メチル-1H-ベンゾイミダゾール-2-イル)(1-メチルピペリジン-4-イルオキシ)メチル]フェノール、及び(1R)-クロロギ酸メチルを用いた誘導体化から調製した。分取HPLC中、最初に溶出したジアステレオマーを集め、次いで水酸化カリウム処理により脱保護して、以下のNMRスペクトルを示す白色粉末として2-[(5-クロロ-4-メチル-1H-ベンゾイミダゾール-2-イル)(1-メチルピペリジン-4-イルオキシ)メチル]フェノールエナンチオマーBを得た。1H NMR (MeOD): 7.33 (d,1H), 7.30 (d,1H), 7.18 (d,1H), 7.12 (m,1H), 6.83-6.78 (ms,2H), 6.21 (s,1H), 3.56 (m,1H), 2.72 (m,2H), 2.56 (s,3H), 2.22 (s,3H), 2.17 (m,2H), 1.92 (m,2H), 1.76 (m,2H)。交換可能なプロトンは報告していない。
【0118】
キラルHPLC分析: 分析用キラルパックAD-H、250x4.6mmカラム。1ml/分の流速で、ジエチルアミン(0.1%)を含有するヘプタン/イソプロパノール(95/5)の混合物を用いて溶出を実施した。エナンチオマーBは13.9分の保持時間を有する(エナンチオマーAの保持時間 = 12.2分)。e.e.=97%。
【0119】
7B
ラセミ2-[(5-クロロ-4-メチル-1H-ベンゾイミダゾール-2-イル)(1-メチルピペリジン-4-イルオキシ)メチル]フェノールを、6-クロロ-2,3-ジアミノトルエンから出発して、手順3B、3C、3D、及び3Eと同様にして調製した。
【0120】
実施例8: (S)-2-[(1H-ベンゾイミダゾール-2-イル)(1-メチルピペリジン-4-イルオキシ)メチル]-6-フルオロフェノール,塩酸塩
約2900mlのアセトン及び112gの(S)-2-[(1H-ベンゾイミダゾール-2-イル)(1-メチルピペリジン-4-イルオキシ)メチル]-6-フルオロフェノール(塩基)を反応容器に投入した。混合物を約40℃まで温め、出発物質が溶けるまで攪拌し、溶液を濾過して不溶粒子/外来粒子を除去した。濾液の温度を約30℃に調節し、約47.5gのHCl/MeOH(アッセイ26.4%、1.1当量)を32~34℃で15~25分のあいだに添加した。混合物を1~2時間攪拌し、25~30℃で濾過し、約1000mlのアセトンで洗浄した。約1時間、1750mlのアセトンとともに室温でそれらを攪拌することによって、5つのバッチを最終的に混合した。生成物を濾過し、250mlのアセトンで洗浄した。最後に、45℃において減圧下で生成物を乾燥させた。
(実施例1と同様に)キラルHPLCにより測定したエナンチオマー純度: 99.8%
滴定によるアッセイ: 99.3%
GCヘッドスペースによるアセトン含有率: 0.3%
XRPD(主要ピーク、°単位の2θ): 8.6、12.4、13.1、15.9、16.8、19.9、20.4、21.3、23.4、25.0、25.7、26.3、26.9、28.4、30.1
【0121】
実施例9: (S)-2-[(1H-ベンゾイミダゾール-2-イル)(1-メチルピペリジン-4-イルオキシ)メチル]-6-フルオロフェノール,(R)-p-メチルマンデレート
メタノール(450mL)中のラセミ2-[(1H-ベンゾイミダゾール-2-イル)(1-メチルピペリジン-4-イルオキシ)メチル]-6-フルオロフェノール(64.7g)の懸濁液を温めて還流させ、次いでメタノール(150mL)中に溶かした(R)-p-マンデル酸メチル(18.1g)の溶液で処理した。2時間の還流後、混合物を室温まで冷却して白色固体を濾過した。数回の再結晶を実施して、以下のNMRスペクトルを示す光学的に純粋な(S)-2-[(1H-ベンゾイミダゾール-2-イル)(1-メチルピペリジン-4-イルオキシ)メチル]-6-フルオロフェノール,(R)-p-メチルマンデレートを得た。1H NMR (DMSO-d6): 12.45 (大きなs,1H), 7.50 (m,2H), 7.25 (d,2H), 7.20 (d,1H), 7.14 (m,2H), 7.12-7.06 (ms,3H), 6.82 (m,1H), 6.11 (s,1H), 4.77 (s,1H), 2.75 (m,2H), 2.32-2.20 (ms,8H), 1.87 (m,2H), 1.63 (m,2H)。交換可能なプロトンは報告していない。
【0122】
実施例10: (S)-2-[(1H-ベンゾイミダゾール-2-イル)(1-メチルピペリジン-4-イルオキシ)メチル]-6-フルオロフェノール,塩酸塩,一水和物
(S)-2-[(1H-ベンゾイミダゾール-2-イル)(1-メチルピペリジン-4-イルオキシ)メチル]-6-フルオロフェノール,(R)-p-メチルマンデレート(36.7g)を水及び水酸化ナトリウム水溶液中で希釈した。次いで酢酸エチルを添加し、約8.5にpHを調節した。酢酸エチルで水性相を(5回)抽出した後、貯めた抽出物を硫酸マグネシウム上で乾燥させ、減圧下で濃縮し灰白色の固体として(S)-2-[(1H-ベンゾイミダゾール-2-イル)(1-メチルピペリジン-4-イルオキシ)メチル]-6-フルオロフェノールを得た。アセトン(330mL)及び濃塩酸(1当量)で処理し3時間激しく攪拌した後、形成された固体を濾過し、アセトンですすぎ、減圧下で乾燥させて、以下のNMRスペクトルを示す白色固体として(S)-2-[(1H-ベンゾイミダゾール-2-イル)(1-メチルピペリジン-4-イルオキシ)メチル]-6-フルオロフェノール,塩酸塩,一水和物を得た。1H NMR (MeOD): 7.55 (m,2H), 7.23 (m,2H), 7.10 (m,1H), 7.08 (m,1H), 6.83 (m,1H), 6.28 (s,1H), 3.89 (m,1H), 3.43-3.20 (ms,4H), 2.84 (s,3H), 2.20-1.90 (ms,4H)。.交換可能なプロトンは報告していない。
XRPD(主要ピーク、°単位の2θ): 6.3、11.0、13.7、15.1、15.7、16.4、18.1、20.3、22.1、24.4、27.6、及び29.1
【0123】
実施例11: 実験による赤外線(IR)及び振動円偏光二色性(VCD)の測定
IR及びVCDスペクトルを、3000スキャンコレクション、4cm
-1解像度、1050~1700cm
-1領域で、FVS-6000VCD分光計において記録した。実施例1(400μLのCD
2Cl
2中20.8mg)及び実施例1(300μLのCD
2Cl
2中14.06mg)のディストマーの試料を、BaF2ウインドウを有する200μmパス長のセル中に入れた。2つのエナンチオマーについて観察したIRスペクトルのオーバーレイを
図1に示す。それらは、より高濃度のため、実施例1のディストマーについてわずかに高い強度をもつ同一IRピークを示す。
図2中には、溶媒を差し引いた、実施例1の2つのエナンチオマー及び実施例1のディストマーについての実験VCDスペクトルを示す。ベースラインの勾配にもかかわらず、VCDスペクトルは予想された鏡像関係を示す。考えられる人工産物及びVCDベースラインの勾配を排除するため、
図1に示したように、2つのVCDスペクトルは全体の半分を差し引かれている。
【0124】
溶媒に対応する吸収領域も除去した。これらは2つの一般的な作業である。
【0125】
VCDの計算
理論計算をGaussian09ソフトウエアで実施した。振動円偏光二色性スペクトルは、B3LYP機能性及び6-311G(d,p)ベースセットを使用してTD-DFTによって得た。
【0126】
Rエナンチオマーを計算用に選択した。理論上のVCDスペクトルを、存在が考えられる各コンフォーマーに関して計算した。コンフォメーション分析によって、それぞれ96.1%及び3.6%であるA2及びBで示す2つの主要コンフォーマーの存在が明らかになった。4つの他のコンフォーマーを発見しているが、それらは0.3%未満の分布に相当し、したがって計算において考慮していない。
【0127】
各コンフォーマーA2及びBに関して、以下の3工程を実施した: i) Gaussian09-B3LYP-6-311G(d,p)を用いたDFTによる最適化、ii) Gaussian09-B3LYP-6-311G(d,p)を用いたTDDFTによるIR/VCDの計算、iii) 計算した周波数に0.97を掛けて実験値と合致させた。
【0128】
実験のVCDスペクトルと最も多いコンフォーマーA2の理論上のVCDスペクトルの比較を
図2に示す。
【0129】
計算したスペクトルは、実施例1のディストマーの試料に相当する実験スペクトルと非常によく合致する。実験と理論上で同じサインを有するVCDピークを矢印で強調している。
【0130】
コンフォーマーBの理論的VCDスペクトルを、実験のVCDスペクトルと比較した。計算したスペクトルは、特に矢印で強調したピークに関して、実施例1のディストマーの試料の実験VCDスペクトルと合致する。しかしながら、その合致はコンフォーマーA2ほどには充分ではない。
【0131】
結論
実施例1のエナンチオマー試料ディストマーの実験VCDスペクトルと、その最も多い(96%)コンフォーマーA2中のRエナンチオマーの計算したVCDスペクトルの比較によって得た非常に充分な合致によって、実施例1のディストマーに関する絶対配置R及び実施例1のSを、高い信頼度で決定することができる。更に、このVCD試験によって、CD2Cl2溶液において、分子がそのA2コンフォメーションのみで存在する事実を確認する。
【0132】
結果として、実施例1、2、8、9、10、及び12の絶対配置は(S)である。
【0133】
実施例12: 多形体
多くの相(フェーズ)及び多形体が、(S)-2-[(1H-ベンゾイミダゾール-2-イル)(1-メチルピペリジン-4-イルオキシ)メチル]-6-フルオロフェノール塩酸塩について発見されている。より安定したフェーズは、無水塩酸塩に相当するフェーズIと、塩酸塩一水和物に相当するフェーズIIである。
【0134】
試料はトランスミッションモードで粉末X線回折によって分析する(試料はKapton(登録商標)とポリプロピレンホイルの間に置く)。
スキャン範囲2°~50°
ステップサイズ0.026°
取得時間20.4秒
スキャン数20
【0135】
回折計はX'Pert PRO MPD Panalyticalである。ビームの特性は以下の通りである:
【0136】
【0137】
【0138】
XRPDによって、これら2フェーズの充分な特徴付けが可能である。
【0139】
フェーズIとフェーズIIは、それぞれXRPDによる以下の特徴的ピークを含む:
フェーズIのXRPD (特徴的ピーク、°単位の2θ): 8.6、12.4、13.1、15.9、16.8、18.8、19.9、20.4、21.3、23.4、25.0、25.7、26.3、26.9、28.4、及び30.1
フェーズIIのXRPD (特徴的ピーク、°単位の2θ): 6.3、13.7、15.1、15.7、16.4、20.3、22.1、24.4、及び29.1
【0140】
実施例13: 生物学的データ
実施例13a: H1-H4結合
ユートマー(eutomer)が両受容体を認識するという上述した性質を以下の表中に示す。ヒトH1受容体における活性は、組換え受容体における放射性GTP-γ-S結合のアゴニスト誘導型刺激の阻害によって測定する。この活性は定数Kbとして報告され、最小値が最も効力が高い。ヒトH4受容体に関するアフィニティーは結合競合によって測定する。このアフィニティーはKiで報告され、最小値が最も効力が高い。
【0141】
【0142】
【0143】
1つのエナンチオマーが、受容体に対してその鏡像体より高いアフィニティーを示すことは普通である。しかしながら、H4受容体に対して高いアフィニティーを有するエナンチオマーが、H1受容体に対しても高いアフィニティーを有することは予測できなかった。この全く予想外の性質は非常に興味深く、なぜなら、デュアルH1R-H4R受容体リガンドは長年求められているが、いずれも臨床分野に達しておらず、ごく少数のみしか開示されていないからである。同等効力のデュアルH1R-H4Rリガンドの発見は非常に困難であることが以下のように知られている:「hH1R及びhH4Rのオルソステリック結合ポケットを形成するアミノ酸は、ヒトヒスタミン受容体との比較時に最小同一率を有し、hH1R及びhH4Rに対して同等のアフィニティーを有するリガンドを開発することは非常に難しい可能性があるからである」(S.G.Hammerら, Bioorg.Med.Chem.Lett.26; 2016年; 292~300頁)。引用したこの刊行物は、両受容体に対してマイクロモルのアフィニティーを示すリガンドを開示する。これらの非常に弱いアフィニティーが、これらの化合物を臨床開発に対して適していないものにしている。本出願の化合物は、両受容体に対してナノモルの、即ち千倍強力なアフィニティーを示す。
【0144】
実施例13b: hERG結合
ヒトH1受容体におけるアンタゴニスト又はインバースアゴニストである化合物はhERGチャネルと結合し、突然の心停止につながり得る不整脈をもたらすことがしばしば発見されている。このためクリニックから数種の薬が回収された。したがって、本出願の化合物に関してこのパラメーターを評価した。
【0145】
一般式(II)によって表される前述したユートマーは、最小アフィニティーでhERGチャネルを認識するエナンチオマーであることが、驚くことに発見されている。近年の刊行物(Bagdanoffら, J.Med.Chem., 2015年, 58(15), 5781~5788頁)が、両エナンチオマーがhERGチャネルに対して同等のアフィニティーを通常示すことを示しているので、この性質は全く予想外である。
【0146】
ユートマー対ディストマーによるhERGチャネルの弁別認識を以下の表中に示しており、報告した値は競合結合により決定した阻害定数である。
【0147】
【0148】
この性質は、WO2012/041860の一般式(I)によって表されるが本発明の一般式(II)によっては包含されない構造上密接に関連した化合物によって共有されない。これを以下の表中に示す。
【0149】
WO2012/041860の比較化合物:
【表6】
【0150】
1つの単一エナンチオマーがヒトH1受容体とヒトH4受容体の両方を認識するという特性は、hERGチャネルを効率よく識別する実証された傾向とともに、したがって全く予想外であり、薬学上非常に興味深い。
【0151】
これらの予想外の特性の結果として、本出願の化合物はin vitroで抜群の性質を示す。本出願の化合物は、低ナノモル又はサブナノモルのアフィニティーをもつ、H1とH4ヒトヒスタミン受容体の両方において強力なアンタゴニスト又はインバースアゴニストである。本出願の化合物は、1600から129000までの範囲の比で、これらの受容体に関してhERGチャネルに対する高い選択性を示す。これらの特性は、それらが高いセーフティーマージンをもつ化合物をもたらすはずなので、医薬品には最も重要である。
【0152】
実施例13c: in vivo試験
脳の曝露:
ヒスタミンH1受容体に対するアンタゴニスト又はインバースアゴニストとして作用する化合物は脳に進入し得ない。これは、鎮静状態及び体重増加等の望ましくない副作用をもたらし得る。脳内への進入に関する効率は、マウスに化合物を経口投与し、脳中及び血漿中での8時間の曝露を測定することによって評価することができる。結果は、血漿中でのそれに対する脳内の曝露の比によって表すことができる。
【0153】
本発明の化合物対WO2012/041860の幾つかの比較化合物で、この性質を比較した。
【0154】
WO2012/041860の比較化合物:
【表7】
【0155】
本発明の実施例の結果を下の表中に報告する。
【表8】
【0156】
血漿に対する脳での曝露の比は、本発明の化合物に関して明らかに1未満である。これは、本発明の化合物が脳に著しく進入しないことを示す。この性質は、それが以前に示唆されておらず、その多くの化合物の大部分が脳に進入することが発見された特許出願WO2012/041860の化合物によって共有されない点において画期的である。
【0157】
バイオアベイラビリティー
更に、本発明の化合物は、マウスに経口投与したとき生物学的に利用可能であることが分かった。肺中の濃度は、興味深いことに高いことが分かった。下の表中に報告したように、薬物動態調査の累積曝露及び曲線下面積として、これを示すことができる。
【0158】
【0159】
これらのin vivoでの結果は、本出願の化合物は充分吸収され、血液脳関門を効率よく通過しないが、肺等の治療上関連がある器官中に効率よく分布することを示している。