(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023112027
(43)【公開日】2023-08-10
(54)【発明の名称】造血性幹細胞の増殖を調節する方法
(51)【国際特許分類】
A61K 35/28 20150101AFI20230803BHJP
A61K 35/14 20150101ALI20230803BHJP
A61K 35/50 20150101ALI20230803BHJP
A61K 35/51 20150101ALI20230803BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20230803BHJP
A61P 7/06 20060101ALI20230803BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20230803BHJP
C12N 5/0789 20100101ALN20230803BHJP
【FI】
A61K35/28
A61K35/14
A61K35/50
A61K35/51
A61P3/10
A61P7/06
A61P35/02
C12N5/0789
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023098876
(22)【出願日】2023-06-16
(62)【分割の表示】P 2021170835の分割
【原出願日】2007-03-26
(31)【優先権主張番号】60/785,968
(32)【優先日】2006-03-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】596115687
【氏名又は名称】ザ チルドレンズ メディカル センター コーポレーション
(71)【出願人】
【識別番号】592017633
【氏名又は名称】ザ ジェネラル ホスピタル コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】ゾン レオナード アイ.
(72)【発明者】
【氏名】ノース トリスタ イー.
(72)【発明者】
【氏名】ゴエスリング ウォルフラム
(57)【要約】
【課題】造血性幹細胞調節物質および薬学的に許容される担体を投与する段階を含む、被験体において造血性幹細胞の増殖を促進および阻害するための方法の提供。
【解決手段】造血性幹細胞の増殖を促進物質が、プロスタグランジン(PG)E2、PGI2、リノール酸、ミード酸、エイコサトリエン酸、エポキシエイコサトリエン酸、フォルスコリン、フェンジリン、ニカルジピン、ニフェジピン、ピモジド、ストロファンチジン、ラナトシド、L-アルギニン、ニトロプルシドナトリウム、バナジン酸ナトリウム、ブラジキニン、アテノロール、ピンドロール、ヒドララジンなどからなる群、および造血性幹細胞の増殖を阻害する物質が、インドメタシン、フェンブフェン、スリンダク、スキシブゾン、アスピリン、ナプロキセン、イブプロフェン、セレコキシブ、PGJ2、アリストロキン酸などからなる群から選択される、造血性幹細胞の増殖を促進および阻害するための方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
造血性幹細胞(HSC)の集団および薬学的に許容される担体を含む、HSC治療において使用するための薬学的組成物であって、HSCが1つまたは複数のHSC調節物質とエクスビボで接触されており、1つまたは複数のHSC調節物質がプロスタグランジンE2(PGE2)またはPGE2誘導体であり、かつ、1つまたは複数のHSC調節物質がプロスタグランジンEP2および/またはEP4受容体アゴニストである、薬学的組成物。
【請求項2】
造血性幹細胞(HSC)を含む細胞の集団および薬学的に許容される担体を含む、移植のための薬学的組成物であって、細胞の集団が少なくとも1つのPGE2またはPGE2誘導体とエクスビボで接触されており、PGE2誘導体がプロスタグランジンEP2および/またはEP4受容体アゴニストである、薬学的組成物。
【請求項3】
細胞の集団が末梢血、臍帯血、骨髄、羊水または胎盤血から収集される、請求項1または2記載の薬学的組成物。
【請求項4】
細胞の集団が臍帯血から収集される、請求項3記載の薬学的組成物。
【請求項5】
細胞の集団が低温保存される、請求項1または2記載の薬学的組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
政府支援
本発明は、National Institutes of Health-NIH Grant No. CA103846-02により支援された。米国政府はそれに対して一定の権利を有する。
【0002】
関連出願の相互参照
本出願は、Leonard I ZonおよびTrista E. Northによる、「造血性幹細胞増殖を調節する方法」と題された、全体が参照により本明細書に組み入れられる2006年3月24日出願の米国特許仮出願第60/785,968号の恩典を主張する。
【0003】
技術分野
本態様は、インビトロ、インビボおよびエクスビボで造血性幹細胞を増加または減少させる調節物質を提供する。
【背景技術】
【0004】
背景
幹細胞研究は、白血病、糖尿病、および貧血症のような疾患を患う者にとって、将来を変化させる可能性がある治療の開発に、顕著な可能性を有する。多くの研究は疾患の処置への鍵として、幹細胞生物学の探求に集中している。正常な発生における幹細胞の役割を理解することを通して、研究者らは多数の状態を処置するために、幹細胞生来の能力を捕捉しかつ方向付けることを探求している。研究は同時に多数の分野において進行中である:胚性幹細胞を様々な組織へ発達させるために駆動する遺伝学的および分子トリガーを試験すること;それらの細胞を分裂させかつ分化した組織を形成することがどのように推進されるかを学ぶこと;胚性幹細胞を培養し、かつ新規の取り扱い系統を開発すること;ドナーの要求を排除することにより、移植片対宿主病を排除または調節する方法を探索すること;かつ普遍的に移植可能な細胞系統を生成することである。
【0005】
造血性幹細胞(HSC)は胚発生の間に、特異的誘導性事象により中胚葉が血液幹細胞および前駆体へ変換される独特な領域中に由来する。これらの誘導性事象において、特定の生物分子、化学物質および他の因子の間の関係を解明する必要性が残っている。例えば、研究または治療のためのHCS集団の増加のように、所望の目的のためのHSC集団の操作において、どの生物分子または化学物質が将来性を示すかを同定する必要性が残る。
【発明の概要】
【0006】
概要
本態様の構成および方法は、特定の指示により望まれるようにHSC数を増加またはHSC数を減少させる薬剤である、HCS調節物質を提供する。例えば、HSC数を増加させることが見出されているHSC調節物質は、プロスタグランジンE2(PGE2)およびPGE2経路を刺激する薬剤を含む。逆に、PGE2合成を妨げるHSC調節物質はHSC数を減少させる。
【0007】
1つの態様は、少なくとも1つの造血性幹細胞(HSC)調節物質および薬学的に許容される担体の投与を含む、被験体において造血性幹細胞増殖を促進するための方法を提供する。
【0008】
別の態様においては、HSC調節物質はプロスタグランジン経路を改変することによりHSCを増加させる。プロスタグランジン経路を改変することによりHCS集団を増大させるHSC調節物質は、PGE2、dmPGE2、PGI2、リノール酸、13(s)-HODE、LY171883、ミード酸、エイコサトリエン酸、エポキシエイコサトリエン酸、ONO-259、Cay1039、PGE2受容体アゴニスト、およびこれらの薬剤の任意の誘導体からなる群より選択される少なくとも1つの化合物であってもよい。より特定の態様においては、HSC調節物質は、16,16-ジメチルPGE2、19(R)-ヒドロキシPGE2、16,16-ジメチルPGE2 p-(p-アセトアミドベンザミド)フェニルエステル、11-デオキシ-16,16-ジメチルPGE2、9-デオキシ-9-メチレン-16,16-ジメチルPGE2、9-デオキシ-9-メチレンPGE2、ブタプロスト(Butaprost)、サルプロストン(Sulprostone)、PGE2セリノールアミド、PGE2メチルエステル、16-フェニルテトラノールPGE2、15(S)-15-メチルPGE2、および15(R)-15-メチルPGE2からなる群より選択されるPGE2誘導体である。
【0009】
別の態様においては、HSC調節物質は、Wnt経路を改変することによりHSCを増加させる。wnt経路を改変することによりHCS集団を増大させるHSC調節物質は、少なくともPGE2、dmPGE2、BIO、LiCl、およびこれらの化合物の誘導体からなる群より選択される化合物であってもよい。
【0010】
さらに別の態様においては、HSC調節物質はcAMP/P13K/AKT二次メッセンジャーを改変することによりHSC集団を増大させる。cAMP/P13K/AKT二次メッセンジャーを改変することによりHCS集団を増大させるHSC調節物質は、8-ブロモ-cAMP、フォルスコリン、およびこれらの薬剤の誘導体からなる群より選択される少なくとも1つの化合物であってもよい。
【0011】
さらに別の態様においては、HSC調節物質はCa2+二次メッセンジャーを改変することによりHCS集団を増加させる。Ca2+二次メッセンジャーを改変することによりHCS集団を増大させるHCS調節物質は、Bapta-AM、フェンジリン(Fendiline)、ニカルジピン、およびこれらの化合物の誘導体からなる群より選択される少なくとも1つの薬剤であってもよい。
【0012】
別の態様においては、HSC調節物質はNO/アンジオテンシン(Angiotensin)シグナル伝達を改変することによりHSC集団を増加させる。NO/アンジオテンシンシグナル伝達を改変することによりHCS集団を増大させるHCS調節物質は、L-Arg、ニトロプルシドナトリウム、バナジン酸ナトリウム、ブラジキニン、およびそれらの誘導体からなる群より選択される少なくとも1つの化合物であってもよい。
【0013】
さらに別の態様においては、HCS集団を増大させるHSC調節物質は、メベベリン、フルランドレノリド(Flurandrenolide)、アテノロール、ピンドロール、ガボキサドール(Gaboxadol)、キヌレン酸、ヒドララジン、チアベンダゾール、ビククリン、ベサミコール(Vesamicol)、ペルボシド(Peruvoside)、イミプラミン、クロルプロパミド、1,5-ペンタメチレンテトラゾール、4-アミノピリジン、ジアゾキシド、ベンフォチアミン、12-メトキシドデセン酸(Methoxydodecenoic acid)、N-ホルミル-Met-Leu-Phe、ガラミン、IAA 94、クロロトリアニセン、およびこれらの化合物の誘導体からなる群より選択される少なくとも1つの薬剤であってもよい。
【0014】
別の態様は、発生期の幹細胞集団を以下からなる群より選択される少なくとも1つの化合物と接触させることにより、HSC増殖を促進するための方法を提供する。PGE2、PGI2、リノール酸、13(s)-HODE、LY171883、ミード酸、エイコサトリエン酸、エポキシエイコサトリエン酸、ONO-259、Cay1039、PGE2受容体アゴニスト、16,16-ジメチルPGE2、19(R)-ヒドロキシPGE2、16,16-ジメチルPGE2 p-(p-アセトアミドベンザミド)フェニルエステル、11-デオキシ-16,16-ジメチルPGE2、9-デオキシ-9-メチレン-16,16-ジメチルPGE2、9-デオキシ-9-メチレンPGE2、ブタプロスト、サルプロストン、PGE2セリノールアミド、PGE2メチルエステル、16-フェニルテトラノールPGE2、15(S)-15-メチルPGE2、および15(R)-15-メチルPGE2、BIO、8-ブロモ-cAMP、フォルスコリン、Bapta-AM、フェンジリン、ニカルジピン、ニフェジピン、ピモジド、ストロファンチジン、ラナトシド、L-Arg、ニトロプルシドナトリウム、バナジン酸ナトリウム、ブラジキニン、メベベリン、フルランドレノリド、アテノロール、ピンドロール、ガボキサドール、キヌレン酸、ヒドララジン、チアベンダゾール、ビククリン)、ベサミコール、ペルボシド、イミプラミン、クロルプロパミド、1,5-ペンタメチレンテトラゾール、4-アミノピリジン、ジアゾキシド、ベンフォチアミン、12-メトキシドデセン酸、N-ホルミル-Met-Leu-Phe、ガラミン、IAA 94、クロロトリアニセン、およびこれらの誘導体である。発生期の幹細胞集団は末梢血、臍帯血、絨毛膜絨毛、羊水、胎盤血、または骨髄から収集されてもよい。
【0015】
本発明の別の態様は、エクスビボでのHSC増大を促進するための方法であって、少なくとも1つのHSC調節物質の存在下でHSCをインキュベーションする段階を含む方法を提供する。本発明の別の態様は、エクスビボでのHSC増大を促進するための方法であって、HSC源試料(例えば、末梢血、臍帯血、羊水、胎盤血、骨髄、絨毛膜絨毛)を収集し、かつPGE2のような少なくとも1つのHSC調節物質の存在下で保存する段階を含む方法を提供する。特定の態様は、HCSを増加させる少なくとも1つのHSC調節物質を事前搭載された容器中にHCS源試料の保管のために適する容器を含むキットを提供する。さらなる態様は、HCS源試料保管のために適する容器、およびHSCを増加させる少なくとも1つのHSC調節物質の適する量を含むバイアルを含む。本発明のさらなる態様は、発生期のHSC源がPGE2またはその誘導体と最初の収集段階、加工の間、保管段階、溶解または注入の間に接触させられる、エクスビボでHSC増大を促進するための方法を提供する。
【0016】
本発明の別の態様においては、HSC調節物質がプロスタグランジン経路を改変させることによりHSCを阻害する。プロスタグランジン経路を改変させることによりHCS集団を阻害するHSC調節物質は、インドメタシン、フェンブフェン、NS398、SC560、スリンダク、スキシブゾン、アスピリン、ナプロキセン、イブプロフェン、セレコキシブ、PGJ2、アリストロキン酸(Aristolochic Acid)、AH6809、AH23848、およびこれらの誘導体からなる群より選択される少なくとも1つの化合物であってもよい。
【0017】
別の態様において、HSC調節物質はWnt経路を改変することによりHSCを阻害する。Wnt経路を改変することによりHCS集団を阻害するHSC調節物質は、プロスタグランジン阻害剤、ケンパウロン(Kenpaullone)、バルプロ酸、またはその誘導体からなる群より選択される少なくとも1つの薬剤であってもよい。
【0018】
本発明のさらに別の態様においては、HSC調節物質はcAMP/P13K/AKT二次メッセンジャーを改変することによりHSCを阻害する。cAMP/P13K/AKT二次メッセンジャーを改変することによりHCS集団を阻害するHSC調節物質は、PD98059、KT5720、H89、U0126、ワートマニン、およびその誘導体からなる群より選択される1つまたは複数の化合物であってもよい。
【0019】
別の態様においては、HSC調節物質はCa2+二次メッセンジャーを改変することによりHSCを阻害する。Ca2+二次メッセンジャーを改変することによりHCS集団を阻害するHSC調節物質は、BayK-8644、チリダジン、およびこれらの薬剤の誘導体からなる群より選択される少なくとも1つの薬剤であってもよい。
【0020】
さらに別の態様においては、HSC調節物質はNO/アンジオテンシンシグナル伝達を改変することによりHSCを阻害する。NO/アンジオテンシンシグナル伝達を改変することによりHCS集団を阻害するHSC調節物質は、L-NAME、エナラプリル、カプトプリル、AcSDKP、ロサルタン、AcSDKP、ロサルタン、テリマサルタン(Telimasartan)、ヒスタミン、アンブロキソール、クリシン、シクロヘキシミド、メチレンブルー、エピネフリン、デキサメタゾン、プロアジフェン(Proadifen)、ベンジルイソチオシアネート、エフェドリン、およびその誘導体からなる群より選択される少なくとも1つの化合物であってもよい。
【0021】
本発明のさらなる態様においては、HCS集団を阻害するHSC調節物質はパラジリン(Paragyline)、プロプラノロール、エタニダゾール(Etanidazole)、メチマゾール、シノキサシン、ペニシラミン、フロセミド、エブルナミニノン(Eburnamininone)、アクラルビシン、ワルファリン、γ-アミノ酪酸、ノルエチンドロン、ルピニジン(Lupinidine)、ヒドロキニジン(Hydroquinidine)、トドララジン、メトキサミン、ヒドロキシウレア、ジヒドロエルゴタミン、アンタゾリン、3-ニトロプロピオン酸(3-Nitropropionic Acid)、N-フェニルアントラニル酸、フェナゾピリジン、ジクロロキヌレン酸(Dichlorokynureic acid)、3-エストラジオール、L-Leu、フェノキシベンザミン、メフェンテルミン、グバシン(Guvacine)、グアイアズレン、イミダゾール、β-カロテン、クロフィブラート、およびこれらの化合物の誘導体からなる群より選択される少なくとも1つの化合物である。
【0022】
さらに別の態様は被験体においてHSC増殖を阻害するための方法であって、少なくとも1つのHSC調節物質および薬学的に許容される担体を投与する段階を含む。特定の態様においては、HSC調節物質はインドメタシン、セレコキシブ、フェンブフェン、プロスタグランジンJ2、スキシブゾン、スリンダク、およびその誘導体からなる群より選択される少なくとも1つまたは複数の化合物である。
【0023】
別の態様は、以下からなる群より選択される少なくとも1つの化合物と発生期の幹細胞集団を接触させることにより、HSC増殖を減少させるための方法を提供する。インドメタシン、フェンブフェン、NS398、SC560、スリンダク、スキシブゾン、アスピリン、ナプロキセン、イブプロフェン、セレコキシブ、PGJ2、アリストロキン酸、AH6809、AH23848、ケンパウロン、バルプロ酸、PD98059、KT5720、H89、U0126、ウォルトマニン、BayK 8644、チリダジン、L-NAME、エナラプリル、カプトプリル、AcSDKP、ロサルタン、テリマサルタン、ヒスタミン、アンブロキソール、クリシン、シクロヘキシミド、メチレンブルー、エピネフリン、デキサメタゾン、プロアジフェン、ベンジルイソチオシアネート、エフェドリン、パラジリン、プロプラノロール、エタニダゾール、メチマゾール、シノキサシン、ペニシラミン、フロセミド、エブルナミニノン、アクラルビシン、ワルファリン、γ-アミノ酪酸、ノルエチンドロン、ルピニジン、ヒドロキニジン、トドララジン、メトキサミン、ヒドロキシウレア、ジヒドロエルゴタミン、アンタゾリン、3-ニトロプロピオン酸、N-フェニルアントラニル酸、フェナゾピリジン、ジクロロキヌレン酸、3-エストラジオール、L-Leu、フェノキシベンザミン、メフェンテルミン、グバシン、グアイアズレン、イミダゾール、β-カロテン、クロフィブラート、PGE2受容体アンタゴニスト、およびこれらの化合物の誘導体である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】ゼブラフィッシュ胚を使用した、AGM中の幹細胞に影響する化学物質のスクリーニングの概略図を提示する。
【
図2】
図2Aおよび2Bは、血管発生に影響することなくrunx1/cmyb発現を変化させるプロスタグランジンアゴニストおよびアンタゴニストに関連する。
図2Aは、初期(gata1およびlmo2)および決定的(lmo2およびcd41)造血作用の間に単離され、FACS分類された細胞集団のマイクロアレイ発現プロファイルを示す。GFP-細胞と比較して、各々GFP+に分類された画分におけるcox1(薄い灰色)およびcox-2(濃い灰色)の相対的発現が示される。
図2Bは、内皮およびHSC特異的遺伝子発現のqPCRプロファイル、続く長期作用するdmPGE2(10μM、各三つ組中2番目の棒、濃い灰色)または非特異的cox阻害剤インドメタシン(10μM、三つ組中3番目の棒)に対する対照(三つ組中1番目の棒)への曝露を示す。双方の処置により、試験された各遺伝子について対照と比較して統計学的に有意な相違がもたらされた(ANOVA、p<0.05、n=8)。
【
図3】共焦点顕微鏡により検出されたバイジェニックゼブラフィッシュ胚におけるHSC数の定量解析により、プロスタグランジンアゴニストおよびアンタゴニストがrunx1/cmyb発現を変化させることを示すデータを提示する:DMSO 23.3±5.0(平均値±SD)、dmPGE2(10μM)38.0±2.2、インドメタシン(10μM)(ANOVA、p<0.00001、n=10/処置)。
【
図4A】
図4Aは、dmPGE2を用いた処置によって、亜致死に放射線照射された成体ゼブラフィッシュにおいて造血性回復が増大されることを示す。ゼブラフィッシュ全KM放射線照射回復実験が遂行された。星印(*)は、統計的に有意な相違を示す:*=50μM対対照、**=50μM対10μMおよび50μM対対照、***=全ての有意な変数(ANOVA、p<0.05、n=15/変数)。
図4Aは、DMSOおよびdmPGE2処置された(50μM)ゼブラフィッシュでの放射線照射回復の0、4、7、10および14日目のKMにおける造血性細胞系譜の代表的なFSC/SSC FACSプロファイルを示す。
【
図4B】
図4Bは、dmPGE2を用いた処置によって、亜致死に放射線照射された成体ゼブラフィッシュにおいて造血性回復が増大されることを示す。ゼブラフィッシュ全KM放射線照射回復実験が遂行された。星印(*)は、統計的に有意な相違を示す:*=50μM対対照、**=50μM対10μMおよび50μM対対照、***=全ての有意な変数(ANOVA、p<0.05、n=15/変数)。
図4Bは対照フィッシュ(三角形)およびdmPGE2処置されたフィッシュ(正方形、10μM;円形、50μM)における、前駆体、リンパ球および骨髄細胞のKM再構成の反応速度論を示す。
【
図5A】
図5Aは、亜致死に放射線照射された成体ゼブラフィッシュにおける、HSC関連遺伝子の発現および回復を変化させるPG経路の調節を示す。
図5Aは、放射線照射後3日目に単離された全KMのqPCRにより計測される、幹細胞および内皮標識におけるdmPGE2処置の影響を示す。星印(*)は、統計学的に有意な相違(両側t検定、n=15、runx1:p=0.0001;lmo2:p=0.014;fli1:p=0.049)を示す。
【
図5B】
図5Bは、亜致死に放射線照射された成体ゼブラフィッシュにおける、HSC関連遺伝子の発現および回復を変化させるPG経路の調節を示す。
図5Bは、放射線照射回復におけるcox1(SC560、10μM)およびcox2(NS398、10μM)阻害の効果を示す(n=5/処置)。これらの処置群での過剰な死亡のため、SC560またはNS398を用いて処置されたフィッシュは14日目において解析が得ることが可能でなかった。
【
図6】
図6Aおよび6Bは、マウスES細胞において、dmPGE2がコロニー数および造血性分化を調節することを示す。M3434およびOP9 ES細胞コロニー形成アッセイが遂行された;計数はプレートされた100,000細胞当りである。棒は、対照処置されたES細胞および次第に増加するdmPGE2用量(10μM、20μM、100μM)またはインドメタシン処置された(10μM、100μM)ES細胞を示す。星印(*)は、統計学的に有意な相違(両側t検定、n=5/変数)を示す。
図6A、次第に増加するdmPGE2用量の影響、およびメチルセルロース中の造血性分化におけるインドメタシンによるシクロオキシゲナーゼ活性の阻害;決定的赤血球数(E)、混合顆粒球/単球(GM)、および多能性(GEMM)前駆体コロニーが示される(10μM dmPGE2:GM p=0.005、GEMM p=0.017;20μM dmPGE2:dE p=0.04、GM p=0.007、GEMM 0.016;100μMインドメタシン:GM p=0.024)。
図6B、OP9造血性コロニー数におけるdmPGE2およびインドメタシンの効果(20μM:p=0.047)。
【
図7】
図7Aおよび7Bは、PGE2がコロニー数に影響を及ぼすことを示す。より特異的には、
図7Aおよび7Bは、(A)メチルセルロース中および(B)OP9アッセイにおける、コロニー形成のインドメタシン(100μM)阻害の、dmPGE2に媒介される(10μM)回復を例証する。
【
図8A】
図8A~8Fは、マウスBMのdmPGE2への曝露によって、CFU-Sの数およびHSCの再増殖が増加することを示す。星印(*)は、統計学的に有意な相違を示す。
図8Aおよび8B:CFU-S8およびCFU-S12に対するEtOH対照またはdmPGE2(1μM/106細胞)を用いたWBM(氷上2時間)のエクスビボ処置の影響(60,000細胞/受容個体;CFU-S12:両側t検定、n=10、p<0.0001)。
【
図8B】
図8A~8Fは、マウスBMのdmPGE2への曝露によって、CFU-Sの数およびHSCの再増殖が増加することを示す。星印(*)は、統計学的に有意な相違を示す。
図8Aおよび8B:CFU-S8およびCFU-S12に対するEtOH対照またはdmPGE2(1μM/106細胞)を用いたWBM(氷上2時間)のエクスビボ処置の影響(60,000細胞/受容個体;CFU-S12:両側t検定、n=10、p<0.0001)。
【
図8C】
図8A~8Fは、マウスBMのdmPGE2への曝露によって、CFU-Sの数およびHSCの再増殖が増加することを示す。星印(*)は、統計学的に有意な相違を示す。
図8C:インドメタシン(1μM/106細胞)を用いたエクスビボ処置に続くCFU-S12への影響(100,000細胞/受容個体;両側t検定、n=10、p<0.0002)。
【
図8D】
図8A~8Fは、マウスBMのdmPGE2への曝露によって、CFU-Sの数およびHSCの再増殖が増加することを示す。星印(*)は、統計学的に有意な相違を示す。
図8D:dmPGE2またはEtOH対称を用いたckit+sca1+lineage-幹細胞の処置後のCFU-S12評価(両側t検定、100細胞:n=10、p=0.013;300細胞:p=0.0003)。
【
図8E】
図8A~8Fは、マウスBMのdmPGE2への曝露によって、CFU-Sの数およびHSCの再増殖が増加することを示す。星印(*)は、統計学的に有意な相違を示す。
図8Eおよび8F:限界希釈競合再増殖アッセイ。対照(正方形)またはdmPGE2処置された(円形)細胞試料を移植された全細胞数に対して、FACS解析(e)により決定された陰性受容個体の数が12週目で示される。EtOHに対してdmPGE2処置されたWBMの受容個体における、移植後6、12、24週目での移植の頻度(パネルF)は、ポワソン統計により算出された(ANOVA、n=10/変数、6週間:p=0.005;12週間:p=0.002;24週間:p=0.05);各時点での解析まで生存した受容個体数は表6~表8に示される。
【
図8F】
図8A~8Fは、マウスBMのdmPGE2への曝露によって、CFU-Sの数およびHSCの再増殖が増加することを示す。星印(*)は、統計学的に有意な相違を示す。
図8Eおよび8F:限界希釈競合再増殖アッセイ。対照(正方形)またはdmPGE2処置された(円形)細胞試料を移植された全細胞数に対して、FACS解析(e)により決定された陰性受容個体の数が12週目で示される。EtOHに対してdmPGE2処置されたWBMの受容個体における、移植後6、12、24週目での移植の頻度(パネルF)は、ポワソン統計により算出された(ANOVA、n=10/変数、6週間:p=0.005;12週間:p=0.002;24週間:p=0.05);各時点での解析まで生存した受容個体数は表6~表8に示される。
【
図9A】
図9A~9Nは、マウスBMのdmPGE2への曝露によって、脾臓重量および1 HSC移植が増加することを示すデータを示す。
図9Aおよび9B:(a)8日目および(b)12日目での脾臓重量に対する、EtOH対照、またはdmPGE2を用いたWBMおよび単離されたHSCのエクスビボ処置の影響(両側t検定、CFU-S
8:n=5、p=0.339;CFU-S
12:n=9、p<0.00001)。
【
図9B】
図9A~9Nは、マウスBMのdmPGE2への曝露によって、脾臓重量および1 HSC移植が増加することを示すデータを示す。
図9Aおよび9B:(a)8日目および(b)12日目での脾臓重量に対する、EtOH対照、またはdmPGE2を用いたWBMおよび単離されたHSCのエクスビボ処置の影響(両側t検定、CFU-S
8:n=5、p=0.339;CFU-S
12:n=9、p<0.00001)。
【
図9C】
図9A~9Nは、マウスBMのdmPGE2への曝露によって、脾臓重量および1 HSC移植が増加することを示すデータを示す。
図9C:対照と比較した、インドメタシン処置(緑)に続く脾臓重量(両側t検定、n=10、p=0.00026)。
【
図9D】
図9A~9Nは、マウスBMのdmPGE2への曝露によって、脾臓重量および1 HSC移植が増加することを示すデータを示す。
図9D、KSL細胞のdmPGE2処置後の脾臓コロニー数(両側t検定、100細胞:n=4、p=0.0013;300細胞:n=5、p=0.009)。
【
図9E】
図9A~9Nは、マウスBMのdmPGE2への曝露によって、脾臓重量および1 HSC移植が増加することを示すデータを示す。
図9E:対照およびdmPGE2に曝露されたBM細胞の受容個体における、CD45.1移植レベル(上部左4分の1区分)を例証する代表的FACSプロット。
【
図9F】
図9A~9Nは、マウスBMのdmPGE2への曝露によって、脾臓重量および1 HSC移植が増加することを示すデータを示す。
図9F:dmPGE2処置されたWBM(円形)および対照(正方形)の受容個体における、平均キメラ化。
【
図9G】
図9A~9Nは、マウスBMのdmPGE2への曝露によって、脾臓重量および1 HSC移植が増加することを示すデータを示す。
図9G:dmPGE2処置されたWBM(円形)および対照(正方形)の受容個体における、算出された移植頻度。
【
図9H】
図9A~9Nは、マウスBMのdmPGE2への曝露によって、脾臓重量および1 HSC移植が増加することを示すデータを示す。
図9H:dmPGE2処置されたWBM(円形)および対照(正方形)の受容個体における、平均キメラ化。
【
図9I】
図9A~9Nは、マウスBMのdmPGE2への曝露によって、脾臓重量および1 HSC移植が増加することを示すデータを示す。
図9I:dmPGE2処置されたWBM(円形)および対照(正方形)の受容個体における、平均キメラ化。
【
図9J】
図9A~9Nは、マウスBMのdmPGE2への曝露によって、脾臓重量および1 HSC移植が増加することを示すデータを示す。
図9J:dmPGE2処置されたWBM(円形)および対照(正方形)の受容個体における、および算出された移植頻度。
【
図9K】
図9A~9Nは、マウスBMのdmPGE2への曝露によって、脾臓重量および1 HSC移植が増加することを示すデータを示す。
図9Kおよび9L:CFU-S
12アッセイでのcox1(SC560、10μM)およびcox2(NS398、10μM)阻害剤を用いたWBMの、エクスビボ処置でのコロニー数(対応t検定、n=10、SC560 p=0.00016、NS398 p<0.00001)および脾臓重量(対応t検定、n=10、SC560 p=0.025、NS398 p=0.00075)に対する影響。
【
図9L】
図9A~9Nは、マウスBMのdmPGE2への曝露によって、脾臓重量および1 HSC移植が増加することを示すデータを示す。
図9Kおよび9L:CFU-S
12アッセイでのcox1(SC560、10μM)およびcox2(NS398、10μM)阻害剤を用いたWBMの、エクスビボ処置でのコロニー数(対応t検定、n=10、SC560 p=0.00016、NS398 p<0.00001)および脾臓重量(対応t検定、n=10、SC560 p=0.025、NS398 p=0.00075)に対する影響。
【
図9M】
図9A~9Nは、マウスBMのdmPGE2への曝露によって、脾臓重量および1 HSC移植が増加することを示すデータを示す。
図9Mおよび9N:5-FU骨髄損傷に続く、末梢血(処置後14日目)および骨髄(処置後16日目)のWBC計数;SC560またはNS398へのインビボ曝露によりWBC回復が有意に阻害され、一方dmPGE2はWBC計数を増大させた。
【
図9N】
図9A~9Nは、マウスBMのdmPGE2への曝露によって、脾臓重量および1 HSC移植が増加することを示すデータを示す。
図9Mおよび9N:5-FU骨髄損傷に続く、末梢血(処置後14日目)および骨髄(処置後16日目)のWBC計数;SC560またはNS398へのインビボ曝露によりWBC回復が有意に阻害され、一方dmPGE2はWBC計数を増大させた。
【
図10】Wntシグナル伝達経路の図解を提示する。
【
図11】
図11Aおよび11Bは、wnt活性の調節が生体ホメオスタシスに影響を与えるというデータを示す。
図11Aは、放射線照射アッセイの模式図を示す;
図11Bはwt、hs:wnt8、hs:dkkおよびhs::dnTCF成体における、放射線照射後10日目での全腎臓髄質のFACS解析を提示する。
【
図12】インビボTop:dGFPアッセイで、プロスタグランジンシグナル伝達により引き起こされた、発生中の胚におけるwnt活性の変化のqPCR定量を示す。
【
図13】PGおよびwnt経路の、潜在的な相互作用点を示すモデルを提示する。(1)PGE2はdkk、axin、dnTCFを回復させることが可能でない;インドメタシンはwnt8を遮断することが可能でない(2)PGE2はdkkを回復させるが、axinおよびdnTCFを回復させることが可能でない;インドメタシンはwnt8を遮断することが可能である;PGE2はdkkおよびaxinを回復させるが、dnTCFを回復させることが可能でない;インドメタシンはwnt8を遮断することが可能である;(4)PGE2はdkk、axin、dnTCFを回復させる; インドメタシンはwnt8を遮断することが可能である。
【
図14】放射線照射、およびdmPGE2またはインドメタシンを用いた処置後3日目での、Top:dGFP成体の腎臓髄質中のGFP陽性細胞のパーセンテージを示す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
詳細な説明
本明細書で他に定義されない限り、本出願との関連において使用される科学的および技術的用語は、当業者に一般に理解される意味を有するであろう。さらに、文脈により要求されない限り、単数用語は複数性を含み、かつ複数用語は単数性を含むであろう。
【0026】
本発明は、本明細書で記載される特定の方法論、プロトコールおよび試薬等に限定されず、かつそれ自体は変動してもよいことが理解されるべきである。本明細書で使用される用語は、特定の態様を記載する目的のためのみであって、かつ唯一特許請求の範囲によってのみ定義される、本発明の範囲を限定することを意図しない。
【0027】
遂行する実施例中、または他に示されない限り、本明細書で使用される成分または反応条件の量を表現する全ての数は、全ての場合において、「約」という用語により改変されることが理解されるべきである。「約」という用語は、パーセンテージとの関連で使用される場合、±1%を意味してもよい。
【0028】
同定される全ての特許および他の刊行物は、例えば、本発明との関連において使用される可能性があるそのような刊行物において記載された方法論のように、記載および開示の目的で明らかに参照により本明細書に組み入れられる。これらの刊行物は、本出願日以前の開示のためにのみ提供される。この点において、本明細書において何物も先行する発明によるそのような開示に対し、本発明者が先行するに値しないという承認として解釈されるべきではない。日付に関する全ての記載、またはこれらの文書の内容に関する表示は、出願者に利用可能な情報に基づき、かつこれらの文書の日付または内容の正確性に関するいかなる承認も成さない。
【0029】
造血性幹細胞(HSC)ホメオスタシスは、増殖因子、シグナル伝達分子、および転写因子により密接に制御されている。大動脈、生殖腺、中腎(AGM)領域において、胚発生の間に由来した決定的HCSは、続いて胎児および成体の造血性器官中のニッチにコロニーを形成する。Dzierzak, 12 Curr. Opin. Hematol. 197-202 (2004); Galloway & Zon, 53 Curr. Top. Devel. Biol. 139-58 (2003)。
【0030】
本発明は、インビトロ、インビボ、またはエクスビボでのHSC増殖および再生を調節するための方法を提供する。該方法は、発生期の幹細胞集団を少なくとも1つのHSC調節物質と接触させる段階を含む。この集団は、末梢血、臍帯血、骨髄、羊水、絨毛膜絨毛、胎盤、または他の造血性幹細胞ニッチ内に含まれてもよい。1つの態様においては、本発明は、細胞集団中の造血性幹細胞増殖および再生を促進するための方法を提供する。別の態様においては、本発明は細胞集団中の造血性幹細胞増殖および再生を阻害するための方法を提供する。
【0031】
本発明は、PGE2およびPGE2合成を増大させる薬剤がHSC数の増加を引き起こすという発見に、部分的に基づく。逆に、PGE2合成を遮断する薬剤はHSCを減少させる。その点において、PGE2合成に影響を与える薬剤はHSC調節物質と考慮されてもよい。例えば、PGE2合成の役割を担うシクロオキシゲナーゼ(cox)は、HSC形成に要求されてもよい。さらに血管拡張剤はHSC増殖を促進し、逆に血管収縮剤はHSC数を減少させる。例えば、抗高血圧血管拡張剤であるヒドララジンは、HSCを増加させ、一方非ステロイド性抗炎症性血管収縮剤であるフェンブフェンは、HSCを減少させる。従って、これらの薬剤もまたHSC調節物質と考慮される。
【0032】
本明細書で使用されるように、HSC調節物質は、HSC増殖および再生を促進または阻害してもよい。HSC調節物質は、細胞集団中のHSC数に影響する。HSC調節物質は、培養液中(インビトロ)、短期間のインキュベーション(エクスビボ)、またはインビボでHSC増殖に影響する。下記表1を参照。HSC数を増加させるHSC調節物質は、PGE2合成を上方制御する薬剤を含む。HSC数の増加は、処置以前に被験体に示されたHSC数より、約10%、約20%、約30%、約40%、約50%、約60%、約70%、約80%、約90%、約100%、約150%、約200%以上の増加でありうる。
【0033】
HSC数の減少を引き起こすHSC調節物質は、PGE2合成を下方制御および/または血管収縮を促進する。例えば、下記表2を参照。HSC数の減少は、処置以前に被験体に示されたHSC数より、約10%、約20%、約30%、約40%、約50%、約60%、約70%、約80%、約90%、約100%、約150%、約200%以上の減少でありうる。HSC数は、例えば血小板計数の増加、ヘマトクリット値の増加であって、血小板計数またはヘマトクリット値が約10%、約20%、約30%、約40%、約50%、約60%、約70%、約80%、約90%、約100%、約150%、約200%以上増加するような、疾患症状の緩和により評価されてもよい。HSC数への影響は、例えば、増加した血小板計数、増加したヘマトクリット値であって、血小板計数またはヘマトクリット値が約10%、約20%、約30%、約40%、約50%、約60%、約70%、約80%、約90%、約100%、約150%、約200%以上増加するような、疾患症状の緩和により評価されてもよい。
【0034】
1つの態様において、PGE2またはdmPGE2はHSC集団を増加させるHSC調節物質として使用される。
【0035】
本発明のHCS調節物質はまた、HCS調節物質の誘導体も含む。本明細書で使用されるような誘導体は、さらなる化学的部分(例えば、エステルまたは酸のアミド、アルコールまたはチオールへのベンジル基のような保護基、およびアミンへの第3ブトキシカルボニル基)のような修飾が当業者によりルーチンであると考慮される、化学修飾された化合物を含む。誘導体はまた、放射性標識されたHSC調節物質、HSC調節物質の接合体(例えば、ビオチンまたはアビジン、西洋ワサビペルオキシダーゼ等を用いた、生物発光剤、化学発光剤または蛍光剤を用いたもの)を含む。さらに、インビボでの半減期を増加させるため、部分がHCS調節物質またはその一部へ添加されてもよい。本明細書で使用される誘導体はまた、特異的化合物またはそのクラスの化学修飾された形状を含む化合物で、かつ該化合物またはクラスに特徴的な薬剤および/または薬理学的活性を維持する化合物のようなアナログも包含し、本発明にも包含される。本明細書で使用される誘導体はまた、薬剤に所望される多数の品質(例えば、可溶性、生物学的利用率、製造等)を増大することが公知であるHCS調節物質のプロドラッグも包含する。
【0036】
HSC調節物質の直接的エクスビボ投与は、造血性幹細胞の有意なインビボ増殖を可能にし、移植においてはさらに少量の造血性幹細胞が十分でありうる。結果として、例えば臍帯血幹細胞移植が、今や子供のみならず成人へも適用されてもよい。そのような幹細胞は例えば、末梢血、臍帯血、骨髄、羊水、または絨毛膜絨毛を含む起源から収集されてもよい。あるいは、HSC含有源試料が収集され、続いてPGE2のようなHSC調節物質の存在下で迅速に保管され、被験体への導入前にHSC調節物質の存在下で最初に(分化前に)インキュベーションされてもよい。
【0037】
加えて、1つまたは複数のHSC調節物質は、骨髄または他の起源(臍帯血のような)における幹細胞数を増加させるためインビボで使用されうる。幹細胞数を増加させることにより、被験体からの全収集幹細胞数が有意に改善されうる。さらには、被験体からの全収集幹細胞数を増加させることにより、該被験体または別の被験体へ移植するために利用可能な幹細胞数もまた有意に改善されることが可能で、それによって潜在的に移植の時間を減少させ、かつ結果的に被験体が不十分な好中球および血小板を有する間の時間の減少が導かれ、従って感染、出血または他の合併症を回避する。
【0038】
加えて、本発明は、さもなくば十分な細胞を幹細胞収集し、例えば化学療法および他の骨髄切除処置のような一次的疾患のための処置を行うことが不可能な被験体の割合を減少させることが可能である。従って、一次的移植が遅延した被験体数の割合もまた減少されうる。さらには、本発明はHSC数を増加させることにより、骨髄切除処置に続く回復を促進しうる。
【0039】
表1中および本明細書で開示されるようなHSC調節物質は、HSC産生を増加させるためにインビボで、かつHSC数を増加させるためエクスビボで使用されうる。これは、1つまた複数の化合物を被験体または幹細胞へ投与することにより達成される。
【0040】
HSC調節物質はまた被験体へ自己HSCを提供するためにも使用されうる。典型的には、これは必要とする被験体へ、骨髄内の幹細胞集団の増殖を増大させるためおよび/または末梢循環中へ幹細胞を移動させるためにHSC調節物質を投与する段階;1つまたは複数の骨髄幹細胞または末梢循環中の1つまたは複数の幹細胞を収集する段階;かつ1つまたは複数の収集された幹細胞を被験体へ戻し移植する段階に関与する。
【0041】
加えて、上に記載の本発明に係る収集から得られた幹細胞は、幹細胞低温保存に関して当技術分野において公知の技術を使用して低温保存されうる。従って、低温保存を使用して幹細胞が維持されることが可能であり、一旦被験体が幹細胞移植の必要があると決定されれば、幹細胞は溶解され、被験体へ戻し移植される。以前に記述されたように、低温保存技術の間に、例えばPGE2のような1つまたは複数のHSC調節物質の使用によりHSC集団が増大されてもよい。
【0042】
より特異的には、本発明の別の態様は、溶解し幹細胞の治療的使用のために低温保存されることが可能な、臍帯血またはそれと同等の新生児または胎児幹細胞起源から収集されるHSCの増大のための方法を提供する。そのような血液は、当技術分野で公知のいくつかの方法により収集されてもよい。例えば、臍帯血はHSCの豊富な起源であるため(Nakahata & Ogawa, 70 J. Clin. Invest. 1324-28(1982);Prindull et al., 67 Acta. Paediatr. Scand. 413-16 (1978);Tchernia et al., 97(3) J. Lab. Clin. Med. 322-31 (1981)を参照)、新生児血液に関する優れた起源は臍帯および胎盤である。新生児血液は、臍帯からの直接的な排液法および/または出産された胎盤の根元および拡張静脈での針吸引により得られてもよい。例えば、米国特許第7,160,714号;第5,114,672号;第5,004,681号;米国特許出願第10/076180号、米国特許出願公開第20030032179号を参照。
【0043】
真に、臍帯血幹細胞は、悪性および非悪性疾患を患う子供において化学放射線治療の骨髄破壊的用量を用いた処置の後に、造血系を再構成するために使用されている。Sirchia & Rebulla, 84 Haemotologica 738-47 (1999)。Laughlin 27 Bone Marrow Transplant. 1-6 (2001);米国特許第6,852,534号も参照。さらに、臍帯血中の幹細胞および前駆体細胞は、成人骨髄におけるものよりも培養液においてより顕著な増殖用量を有するように見受けられることが報告されている。Salahuddin et al., 58 Blood 931-38 (1981);Cappellini et al., 57 Brit. J. Haemotol. 61-70 (1984)。
【0044】
あるいは胎児血液が、超音波により(Daffos et al., 153 Am. J. Obstet. Gynecol. 655-60 (1985); Daffos et al., 146 Am. J. Obstet. Gynecol. 985-87 (1983))、胎盤造影穿刺により(Valenti, 115 Am. J. Obstet. Gynecol. 851-53 (1973); Cao et al., 19 J. Med. Genet. 81-87 (1982))、胎児鏡検査により(Rodeck, in PRENATAL DIAGNOSIS, (Rodeck & Nicolaides, eds., Royal College of Obstetricians & Gynaecologists, London, 1984))先導された針を使用して、胎盤付け根で胎児循環から採取されうる。真に、臍帯血および胎盤に加え、絨毛膜絨毛および羊水は、本発明のHCS調節物質により処置されてもよい多分化能胎児幹細胞(国際公開公報第2003 042405号を参照)の起源である。
【0045】
様々なキットおよび収集装置が、臍帯血の収集、加工、および保管のために公知である。例えば、米国特許第7,147,626号;第7,131,958号を参照。収集は無菌条件下で成されるべきであり、かつ血液は抗凝血剤を用いて処置されてもよい。そのような抗凝血剤はクエン酸リン酸塩デキストロース、酸クエン酸デキストロース、Alserver溶液(Alserver & Ainslie, 41 N. Y. St. J. Med. 126-35 (1941))、DeGowin溶液(DeGowin et al., 114 J. A. M. A. 850-55 (1940))、Edglugate-Mg(Smith et al., 38 J. Thorac. Cardiovasc. Surg. 573-85 (1959))、Rous-Turner溶液(Rous & Turner 23 J. Exp. Med. 219-37 (1916))、他のグルコース混合物、ヘパリン、またはビスクマ酢酸エチルである。Hurn Storage of Blood 26-160(Acad. Press, NY, 1968)を参照。
【0046】
様々な手法が当技術分野において周知であり、かつ収集された臍帯血をHCSに関して濃縮するために使用されうる。これらは平衡密度遠心法、単位重力速度遠心沈殿法、免疫ロゼット(rosetting)および免疫付着、向流遠心分離水簸、Tリンパ球除去、および蛍光活性化細胞分類、またはそれらの組み合わせを含むが、これらに限定されない。例えば、米国特許第5,004,681号を参照。
【0047】
典型的には、収集された血液はDMSO(Lovelock & Bishop, 183 Nature 1394-95 (1959);Ashwood-Smith 190 Nature 1204-05 (1961))、グリセロール、ポリビニルピロリドン(Rinfret 85 Ann. N. Y. Acad. Sci. 576-94 (1960))、ポリエチレングリコール(Sloviter & Ravdin 196 Nature 899-900 (1962))、アルブミン、デキストラン、スクロース、エチレングリコール、i-エリスリトール、D-リビトール、D-マンニトール(Rowe, 3(1) Cryobiology 12-18 (1966))、D-ソルビトール、i-イノシトール、D-ラクトース、塩化コリン(Bender et al., 15 J. Appl. Physiol. 520-24 (1960))、アミノ酸(Phan & Bender, 20 Exp. Cell Res. 651-54 (1960))、メタノール、アセトアミド、グリセロールモノアセテート(Lovelock, 56 Biochem. J. 265-70 (1954))、および無機塩(Phan & Bender, 104 Proc. Soc. Exp. Biol. Med. (1960))のような低温保存剤の添加により低温保存のために調製される。血漿の添加(例えば、20~25%の濃度へ)はDMSOの保護効果を増大させる可能性がある。
【0048】
収集された血液は、低温保存のために制御された速度で冷却されるべきである。異なる低温保存剤および異なる細胞型は異なる最適冷却速度を有する。例えば、Rapatz, 5(1) Cryobiology 18-25 (1968), Rowe & Rinfret, 20 Blood 636-37 (1962); Rowe, 3(1) Cryobiology 12-18 (1966); Lewis et al., 7(1) Transfusion 17-32 (1967); Mazur 168 Science 939-49 (1970)を参照。HSC源の操作、低温保存、および長期保管のための考慮および手法は当技術分野において公知である。例えば、米国特許第4,199,022号;第3,753,357号;第4,559,298号;第5,004,681号を参照。血液の保管のために付随するプロトコールを伴う様々な装置も存在する。米国特許第6,226,997号;第7,179,643号。
【0049】
HCS源の溶解および再構成についての考慮もまた当技術分野において公知である。米国特許第7,179,643号;第5,004,681号。HCS源の血液はまた凝集を回避するため(Spitzer, 45 Cancer 3075-85 (1980);Stiff et al., 20 Cryobiology 17-24 (1983))、かつ毒性の低温保存剤を除去するため(米国特許第5,004,681号)に処置されてもよい。さらに、HSC移植単位の移植細胞用量を決定する様々なアプローチが存在する。米国特許第6,852,534号;Kuchler Biochem. METHODS IN CELL CULTURE & VIROLOGY 18-19 (Dowden, Hutchinson & Ross, Strodsburg, PA, 1964);10 Methods in Medical Research 39-47 (Eisen, et al., eds., Year Book Med. Pub., Inc., Chicago, IL, 1964)を参照。
【0050】
従って、いかなる特定の収集法、処置、または保管プロトコールに限定されることなく、本発明の態様はPGE2またはdmPGE2のようなHSC調節物質を新生児血液へ添加するための方法を提供する。これは、収集時、または保管のための調製時、または溶解および注入の前に成されてもよい。
【0051】
例えば、HSC調節物質を用いて事前に処置されたまたは処置されていない被験体から単離された幹細胞は、HSC数を増殖させるために、例えば、PGE2または表1に列挙されるHSC調節物質のようなHSC調節物質の存在下でインキュベーションされてもよい。続いて、増殖されたHSCは、それらが得られた被験体へ再導入されてもよいし、または別の被験体へ導入されてもよい。
【0052】
従って、PGE2および表1に示されるおよび本明細書で開示される化合物を含むHSC調節物質は、以下のために使用されうる:被験体において幹細胞の再注入に続く移植の時間を減少させる;遅延した一次的移植の頻度を減少させる;血小板産生の二次的不全の頻度を減少させる;かつ被験体における幹細胞の再注入に続く血小板および/または好中球回復の時間を減少させる。これらの方法は典型的に、被験体の特定の必要により決定されるように、骨髄内で幹細胞集団の増殖を増大させるためおよび/または末梢循環中で幹細胞を移動させるために、必要とする被験体へHSC調節物質を投与する段階、かつ末梢循環中で1つまたは複数の骨髄幹細胞または幹細胞を収集する段階、かつ適切な時点で収集された幹細胞を被験体へ戻し移植する段階を含む。
【0053】
例えば、幹細胞移植の効率を改善するため、強固な腫瘍、ミエローマおよびリンパ腫のより積極的な処置を許容するため、かつ幹細胞移植のための候補数を増加させるために、HSC数の増加を引き起こすHSC調節物質のようなHSC調節物質は簡便な単一用量の治療を提供しうる。
【0054】
本発明の方法はまた、細胞が骨髄切除化学治療または放射線治療を受けた受容被験体の回復のために使用される、ドナー被験体からの幹細胞数(骨髄細胞または臍帯血細胞を含む)を増加させるために使用されてもよい。
【0055】
本明細書で使用されるように、被験体は悪性疾患の処置過程の間または遺伝子治療の構成要素として、自己幹細胞または骨髄移植のための候補である任意の対象体を含む。他の可能な候補は、悪性疾患または遺伝子治療に関する同種間移植のために、被験体へ幹細胞または骨髄を提供する被験体である。被験体は例えば、造血系以外の細胞型の悪性疾患のための処置として放射線治療を受けていてもよい。被験体は例えば、鎌形赤血球貧血、サラセミア、再生不良性貧血のような貧血、またはHSC誘導体の他の欠損を患っていてもよい。
【0056】
従って、本発明の方法は以下の利点を提供する:(1)許容不可能な移植失敗のハイリスクのために、そうでなければ候補として考慮されないであろう患者において、移植の遂行を許容する;(2)最小限の許容される収集を生成するために要求される除去療法の数を減少させる;(3)移植に利用可能なHSC数を増加させることにより、移植の一次的および二次的失敗の頻度を減少させる;かつ(4)重要な造血性系譜にコミットした前駆体の数を増加させることにより、一次的移植に要求される時間を減少させる。
【0057】
本発明のHSC調節物質は幹細胞移植において、除去療法収率の改善および除去療法に供された細胞の移植可能性の改善の臨床的利点を有する可能性がある。
【0058】
例えば、HSC数の減少を引き起こすHSC調節物質のような、本発明のHSC調節物質はまた、造血系の過剰増殖疾患を患う被験体を処置する際に使用されてもよい。過剰増殖疾患は、真性赤血球増加、本態性血小板血症、骨髄様化症を伴う骨髄線維症、および慢性骨髄性白血病を含んでもよいが、これらに限定されない。
【0059】
本発明の化合物または薬剤は、薬学的に許容される製剤に含有されうる。そのような薬学的に許容される製剤は、薬学的に許容される担体および/または賦形剤を含んでもよい。本明細書で使用されるように「薬学的に許容される担体」は、任意および全ての溶媒、分散媒、被覆物、抗菌剤および抗カビ剤、等張性および吸収遅延剤および生理学的に適合性のあるもの等を含む。例えば、担体は脳脊髄液への注射に適しうる。賦形剤は薬学的に許容される安定剤を含む。本発明は、マクロ分子複合体、ナノカプセル、マイクロスフェア、またはビーズの形状の合成または天然のポリマーを含む任意の薬学的に許容される製剤、および水中油型乳剤、ミセル、混合ミセル、合成膜粒子、および修復された赤血球を含む脂質ベースの製剤に属する。
【0060】
薬剤または化合物が被験体へ送達される際に、例えば経口的(例えば、カプセル、懸濁剤または錠剤において)または非経口的投与によるものを含む、任意の適する経路によって投与されうる。非経口的投与は例えば筋肉内、静脈内、関節内、動脈内、鞘内、皮下、または腹腔内投与を含みうる。薬剤はまた吸入(例えば、気管支内、鼻腔内、経口吸入または鼻腔内滴下)または直腸により、経口的、経皮的、局所的にも投与されうる。投与は、示されるように局部的または全身的でありうる。薬剤はまた、当業者に周知のウイルスベクターを使用しても送達されうる。
【0061】
局部的および全身的投与の双方が、本発明により考慮される。局部的投与の望ましい特徴は、有効化合物が効果的濃度を達成すること、ならびに有効化合物の全身的投与からの副作用を回避することを含む。好ましい態様においては、アンタゴニストは局部的に投与される。局部的送達技術は、例えば、51 J. Biomed. Mat. Res. 96-106 (2000);100(2) J. Control Release 211-19 (2004);103(3) J. Control Release 541-63 (2005);15(3) Vet. Clin. North Am. Equine Pract. 603-22 (1999);1(1) Semin. Interv. Cardiol. 17-23 (1996)に記載される。
【0062】
薬学的に許容される製剤は、水溶性溶剤に懸濁され、慣習的皮下針を通してまたは注入ポンプを使用して導入されうる。
【0063】
個体へ投与される薬剤量は、一般的健康状態、年齢、性別、体重および薬剤に対する耐性ならびに拒絶反応の程度、重症度および型のような個体の特徴に依存するであろう。熟練者はこれらおよび他の因子に依存して、適切な用量を決定することが可能であろう。
【0064】
本発明の範囲内のHSC調節物質は、ゼブラフィッシュ遺伝学系のような様々な様式において同定されてもよい。ゼブラフィッシュは脊椎動物の発生および疾患の研究のための優れた遺伝学系である。例えば、Hsia & Zon, 33(9) Exp. Hematol. 1007-14 (2005);de Jong & Zon; 39 Ann. Rev. Genet. 481-501 (2005); Paffett-Lugassy & Zon, 105 Meth. Mol. Med. 171-98 (2005); Haffner & Nusslein-Volhard, 40 Int’l J. Devel. Biol. 221-27 (1996)を参照。外部で発生する胚は透明でかつ器官が容易に可視化されうる。ゼブラフィッシュおよび哺乳動物は、発生において多くの同一遺伝子プログラムを共有する。ゼブラフィッシュが交配する際には、多数の(毎週100~200匹)透明な胚を産生する。多くの胚は比較的小さい空間に設置することが可能で、かつ世代時間(約3ヶ月)は短い。大規模スクリーニングにより、実質的に胚発生の各局面に影響する特異的欠損を伴う2000個以上の遺伝学的変異体が生成されている。Driever et al., 123 Devel. 37-46 (1996); Eisen, 87 Cell 969-77 (1996)。多くの血液変異体は造血系の主要事象を記載する際に有用である。Dooley & Zon, 10 Curr. Op. Genet. Devel. 252-56 (2000)。ゼブラフィッシュは、多数の胚が化学物質ライブラリー由来の化合物を含むマイクロタイタープレート中へ配列されうるため、生物体全体ベースの小型分子スクリーニングを遂行するために有用である。例えば、Petersonおよび共同研究者らは発生的欠損について、1,100個の化合物を試験した。Peterson et al., 97 P.N.A.S. USA 12965-69 (2000)。このスクリーニングから、約2%の化合物が致死性であり、かつ1%は特異的表現型を引き起こした。例えば、1つの化合物は耳石と称される内耳構造の形成を抑制したが、他のいかなる欠損も引き起こさなかった。
【0065】
変異体表現型の化学的サプレッサーのスクリーニングをすることも可能である。Peterson et al., 22 Nat. Biotech. 595-99 (2004); Stern et al., 1 Nat. Chem. Biol. 366-70 (2005)。そのようなスクリーニングの1つにおいて、化学物質が大動脈の先天性狭窄のモデルであるgridlock変異体を回復させることが見出された。Peterson et al., 2004。この回復の機構は、血管形成の欠損を修正するVEGFの誘導を含んでいた。これらのデータは、高度に能力がありかつ特異的な化合物がゼブラフィッシュを使用して同定されうることを実証する。
【0066】
さらには、ゼブラフィッシュに関してマイクロサテライト標識、遺伝子、および発現配列タグ(EST)を含む高密度遺伝学的マップが構築されている。Knapuk et al., 18 Nat. Genet. 338-43 (1998); Shimoda et al., 58 Gemonic 219-32 (1999); Kelly et al., 10 Genome Res. 558-67 (2000); Woods et al., 20 Genome Res. 1903-14 (2000)。ゼブラフィッシュESTプロジェクトの拡張として、全長cDNAプロジェクトも着手されている。高密度RHマップが構築され、Sanger Centerでのゲノム配列決定プロジェクトのデータと共に統合されている。NIHにより支援される重要なウェブ資源は、コミュニティーの活動の中心であるゼブラフィッシュ情報ネットワーク(ZFIN)である。ストックセンターおよびZebrafish International Resource Center(ZIRC)と称される支援研究室も該分野を際立って支援している。Sanger Centerは2007年には完成される可能性があるゼブラフィッシュゲノムの配列決定を行っている。
【0067】
決定的造血の開始が、多数の脊椎動物種において研究されてきている。鳥類種の精液研究において、ニワトリ-ウズラキメラによって決定的造血性幹細胞は卵黄嚢で生じるのではなく、胚本体内部で生じることが実証された。Dieterien-Lievre 33 J. Embryol. Exp. Morphol. 607-19 (1975)。2倍体/3倍体キメラを使用したアフリカツメガエル(Xenopus)胚における同様の研究によって、成体造血系において腹側血島(卵黄嚢同等物)は背側側板と比較して軽微な役割を担うことが解明された。Kau & Turpen 131 J. Immunol. 2262-66 (1983)。背板中胚葉は決定的造血を誘発する推定上の造血性細胞を含むという知見に基づき、いくつかのグループがさらに大動脈-生殖腺-中腎(AGM)領域の発生を調査した。Medvinsky et al., 364 Nature 64-67 (1993); Godin et al., 364 Nature 67-70 (1993)。この領域内には、当初はブタにおいて認識されていた大動脈の腹側壁中の細胞クラスターが存在する。Sabin, 9 Contrib. to Embryol. 213-62 (1920)。他の研究者らは、これらのクラスターが「造血の」内皮細胞に由来する初期の造血性幹細胞の象徴であることを示唆している。
【0068】
AGM造血の工程は、脊椎動物において進化的に保存されている。Galloway & Zon, 53 Curr. Topics Dev. Biol. 139-58 (2003)。マウスでは、幹細胞の開始はちょうど循環が開始する8.5日目~9日目に起こる。11日目のAGM領域の造血性幹細胞は移植されうるが、10日目の細胞は長期の移植を誘導しないであろう。さらなる研究により、大動脈が極性を持ち、かつ腹側および背側領域由来の因子が細胞行動を改変するであろうことが解明されている。例えば、大動脈の背側領域は体節中胚葉から由来する。それはTGFα、BMP、およびsonic hedgehogシグナル伝達の影響による。Parnanud & Dieterlen-Lievre, 126 Devel. 617-27 (1999)。
【0069】
細胞標識研究によって、AGMにおける推定上のHSCは大動脈下間充織および様々な組織へも侵入する可能性があることが実証されている。Jaffredo et al., 125 Devel. 4575-83 (1998); Jaffredo et al., 224 Devel. Biol. 204-14 (2000)。これらの細胞標識研究はIndia ink、または血管系へ注入されLacZを用いてタグされたレトロウイルスの感染を受けた細胞を使用した。これらの運命マッピング実験により、組織内の造血性細胞の標識が示された。これらの研究により脊椎動物胚における動脈内の造血性幹細胞の開始が解明された。
【0070】
いくつかの遺伝子がAGM造血に要求されることが見出されている。遺伝子runx1(以前はAML1癌タンパク質)は、造血性細胞が見出される腹側領域の大動脈壁において発現されている;この遺伝子機能はAGM造血に要求される。Cal et al., 13 Immunity 423-31 (2000)。runx1変異体マウスは、AGMを欠如し、かつ不完全な造血を有する。runx1変異体における欠損はTie2プロモーターにより誘導されるrunx1トランスジーンにより回復されることが可能であり、内皮的および造血的に誘導されたrunx1がAGM造血を制御するのに十分であることを実証している。Miller et al., 32 Nature Genet. 645-49 (2002)。runx1ノックインにおいては、LacZを用いて標識された大動脈下間充織細胞が存在し、かつこの観察は、大動脈下細胞のいくつかは造血性幹細胞を引き起こす可能性があることを意味すると解釈されている。North et al., 126 Devel. 2563-75 (1999)。最近の研究により、大動脈下内皮細胞は内皮層を貫通しかつ造血性クラスターを形成することが実証されている。Bertrand et al., 102 P.N.A.S. USA 134-39 (2005); Tavian & Peault, 33 Exp. Hemat. 1062-69 (2005); Tavian & Peault, 49 Int’l J. Devel. Biol. 243-50 (2005); Tavian et al., 1044 Ann. NY Acad. Sci. 41-50 (2005)。
【0071】
従って、造血の内皮細胞または大動脈下中胚葉細胞がHSCの真の前駆体である。一旦造血性幹細胞が内皮壁から分離すると、それらはCD45+であり、かつ転写因子runx1およびc-mybを発現する。AGM細胞はまたnotchシグナル伝達による制御下にもある。notch1ノックアウトマウスのAGM造血性幹細胞ならびにrunx1およびc-mybの発現は大動脈領域において欠如している。Kumano et al., 18 Immunity 699-711 (2003); Robert-Moreno et al., 132 Devel. 1117-26 (2005)。加えて、徹底的には研究されていないが、coupTF転写因子もまたAGM造血性幹細胞を欠如している。You et al., 435 Nature 98-104 (2005)。runx1、cymb、notchおよびcoupはAGM造血に重要であるよう見受けられるが、これら因子の相互作用、時間的および空間的関係、ならびに他の潜在的な未知の因子の役割は公知ではない。造血開始の遺伝学的プログラムのより良い理解が明らかに必要である。
【0072】
ゼブラフィッシュ胚発生の間の決定的HSC形成を調節する新規の経路を同定するために、化学的遺伝学的スクリーニングが実施された。
図1。哺乳動物造血の間のHSC発生に要求されるrunx1およびcmybのような遺伝子は、受精後(hpf)36時間で哺乳動物AGMと相同な領域内の背側大動脈の腹側壁で発現される。North et al., 16 Immunity 661-72 (2002); Mukouyama et al., 9 Curr. Biol. 833-86 (1999); Kalev-Zylinska et al., 129 Devel. 2015-30 (2002); Burns et al., 30 Exp. Hematol. 1381-89 (2002)。野生型胚が、3体節期から36hpfまで個々の化合物とインキュベーションされた。runx1およびcmybのプローブが組み合わせられ、かつインサイチューハイブリダイゼーションによりHSCを検出するために利用された。2357個中の大多数である2275個(91.7%)の化学物質はrunx1/cmyb発現を変化させなかったが、一方35個(1.4%)および47個(1.9%)は各々AGM HSCの増加または減少を導いた。
【0073】
runx1/cmyb発現を変化させた82個の物質中、10個がプロスタグランジン(PG)経路に影響する。PGはcox1、cox2および組織特異的イソメラーゼによりアラキドン酸から形成される。少なくとも5個のPG経路化合物がHSC遺伝子発現を増加させ(表1)、かつ5個がHSC遺伝子発現を減少させた(表2)。36hpfで、runx1/cmyb+ HSCは平板化した内皮細胞の列および動脈中に造血性クラスターを含む。PG前駆体であるリノール酸(10μM)はrunx1/cmyb+ HSCを増加させ(22変化/30評価)、一方cox2の選択的阻害剤であるセレコキシブ(20μM)はHSCを減少させた(26/31)。血管性標識flk1は比較的変化がないままであった。プロスタグランジンE2はゼブラフィッシュで産生される主要なエフェクタープロスタノイドであり(Grosser et al., 99 P.N.A.S. USA 8418-23 (2002))、かつcox1およびcox2の双方により制御される。ゼブラフィッシュ胚はプロスタグランジン合成の阻害剤、ならびに外来性プロスタノイドへ曝露された。PGE2を用いた処置(25/49)は、20μMでのPGI2(28/47)よりもrunx1/cmybのより強い発現をもたらし、一方SC560(cox1、10μM、30/36)およびNS398(cox2、20μM、35/44)ならびに非特異的cox阻害剤を用いたcox活性のアイソフォーム選択的阻害は、HSCを減少させた。これらの知見は、AGM HSCの形成におけるPGの特異的役割に関して説得力を持って議論する。
【0074】
(表1)HSCを増加させるHSC調節物質の例
runx1/cmyb
+ HSC調節物質として同定されたPG経路化合物が、第1列に列挙される。第2列は、特定の化合物が同定された頻度を表す。第3列は、HSC遺伝子発現における化合物の影響を示す(変化した胚の数/評価した胚の数)。
【0075】
(表2)HSCを減少させるHSC調節物質の例
runx1/cmyb
+ HSC調節物質として同定されたPG経路化合物が、第1列に列挙される。第2列は、特定の化合物が同定された頻度を表す。第3列は、HSC遺伝子発現における化合物の影響を示す(変化した胚の数/評価した胚の数)。
【0076】
さらなるHSCプロスタグランジン経路の修飾因子が、表3に示されるような、本明細書で記載されるゼブラフィッシュスクリーニング技術を使用して同定された。
【0077】
【0078】
血管系におけるcox1の発現は以前に記載されていた;cox1活性のノックダウンは動脈および静脈の間の内皮境界の発生を阻害した。Cha et al., 282 Devel. Biol. 274-83 (2005)。HSCは造血の内皮細胞集団から生じるため、cox1機能の喪失はHSC発生に強い影響を与えるであろう。インサイチューハイブリダイゼーションにより、cox2は36 hpfで、AGMを包囲する尾の領域において広く発現されていた。FACS単離された血液および内皮細胞集団において、cox1およびcox2の双方が初期から決定的造血へのスイッチの間、上方制御されていることが見出された。高レベルのcox1発現がlmo2+内皮細胞およびCD41+ HSCの双方において検出され、一方cox2はHSC画分のみにおいて上方制御されていた(
図2、パネルA)。これらの結果は、cox1およびcox2が幹細胞ニッチの制御を通してAGM HSCの誘導、ならびにHSC自体に関与することを示唆する。
【0079】
リノール酸およびミード酸は、プロスタグランジン産生の基質として作用し、かつHSC形成を上方制御する薬剤としてスクリーニングで単離された。どちらのプロスタグランジンがAGMにおけるHSCの上昇を媒介しているのかを決定するために、ゼブラフィッシュは3体節期から36 hpfまで外来性の精製プロスタグランジンに曝露され、以前に記載されたように染色された。ゼブラフィッシュにおいては、生理学的に活性型の主要なプロスタグランジンはPGE2、PGI2およびPGF2である。Pini et al., 25 Arterioscler. Thromb. Vasc. Biol. 315-20 (2005);Grosser et al., 2002。これらの各々がAGM HSCに対する影響について試験された。PGE2およびPGI2の双方はAGMにおけるRunx1+Cmyb+細胞数を中程度増加させることが見出され、一方PGF2は全く影響を有さなかった。インビボでのプロスタグランジン産生および破壊の密接な制御により、遅く代謝される種類のPGE2も検査された。
【0080】
長期作用型誘導体である16,16-ジメチル-PGE2(dmPGE2、10μM)は検査された胚の78%において(97/124)、runx1/cmyb+ AGM HSCにおける増加を引き起こした。AGM HSCは、解析された胚の90%において(92/102)、インドメタシン(10μM)処置により阻害された。PGE2は、36 hpf胚(18+/-6pg/50胚;n=4)における質量分析法により測定される最も豊富なPGであり、かつインドメタシン処置は、PGE2形成を検出可能なレベルより低く抑制した(<2pg/50胚;n=3)7。dmPGE2を用いた処置は、flk1染色により血管系に最小限の影響を有していた;インドメタシンは検査された胚の30%において(15/49)、体節間血管をわずかに変化させた。化学曝露の影響をインビボで可視化するために、緑色蛍光性HSCおよび骨髄性前駆細胞を伴うトランスジェニックcmyb:GFPゼブラフィッシュが、赤色蛍光性内皮細胞およびHSCを有するlmo2:dsRedフィッシュへ交配された。36 hpfにおいて、共焦点顕微鏡により画像解析された生存胚は、インドメタシン処置に続き動脈床に沿って有意に減少したHSC数を、かつdmPGE2曝露後には有意に増加したHSCを示した。
図3。これはPGが動脈の背側壁に沿って形成される全HSC数に影響することを示す;異常な位置でのHSCの誘導は明確ではなかった。qPCRにより、runx1の発現はdmPGE2の添加後に3倍増大され、一方インドメタシンはrunx1の発現において有意な50%の減少を引き起こした;cmybの発現における有意な変化もまた観察された(
図2、パネルB)。
【0081】
PGE2活性の要求を確認するため、低用量(40μM)モルホリノオリゴヌクレオチド(MO)がcox1およびcox2の発現をノックダウンするために使用された;cox1活性の低用量阻害により、胚は原腸形成までの進行が許容されたが、一方cox依存的発生欠損を模倣していた。Grosser et al., (2002)。coxのMO阻害により、AGM HSCが減少した(cox1 54/74;cox2 60/71)。質量分析解析により、PGE2はこれらの胚において検出可能レベルを下回ることが実証され、MOに媒介される内在性プロスタグランジン合成の抑制と一致する(n=4)。MO注射された胚を10μM dmPGE2とインキュベーションすることにより、HSCにおける影響は逆転された(cox1/dmPGE2 29/52回復された;cox2/dmPGE2 43/60)。PGE2合成のMOノックダウンにより、dmPGE2の添加により回復される(25/45)HSCの減少を引き起こし(35/50)、これはPGE2を通じたシグナル伝達がHSC形成を調節するのに十分であることを示している。PGE2は、全てゼブラフィッシュゲノムに存在する数個の受容体、EP1~4を通してシグナル伝達する。Cha et al., 20 Genet. Devel. 77-86 (2002)。EP2およびEP4のMOノックダウンは、内在性dmPGE2への曝露により逆転されないrunx1/cmyb発現の減少をもたらした(EP2 39/63;EP4 44/67)。qPCRによる解析により、EP2およびEP4は36 hpfにおいて、CD41+ HSCおよびCD41-非幹細胞のFACS分類細胞集団の双方に存在することが実証された。これらの実験によって、PGE2に媒介されるシグナル伝達はAGM領域におけるHSCの形成を制御することが確認される。
【0082】
プロスタグランジンおよびHSC産生の間の相互作用をさらに探求するため、多数のプロスタグランジン誘導体が、本明細書に記載されるゼブラフィッシュ胚技術を使用してスクリーニングされた。一般に、アッセイによりPGE2の安定性を増大する誘導体はHSCを増加させることが示された。対照と比較していかなる増大も観察されなかったものは、HSCで活性型ではない受容体へ好ましく結合する化合物である傾向があった。HSC数におけるこれらの化合物の影響は表4中に示される。
【0083】
(表4)HSC産生に影響するプロスタグランジン誘導体
は、HSC産生を増加させる相対的能力を示す。矢印がないものは、対照と比べて有意でないHSC増大を示す。
【0084】
成体ゼブラフィッシュでのHSCホメオスタシスにおけるPGE2の役割を試験するため、腎臓髄質(kidney marrow)(KM)放射線照射回復アッセイが遂行された。Burns et al., 19 Genes & Devel. 2331-42 (2005)。野生型フィッシュは亜致死まで放射線照射され、dmPGE2へ曝露され、FACS 11によりKM回復のキネティクスが評価された(
図4A)。KMの造血性再構成の速度は、DMSO曝露された対象と比較して50μM dmPGE2へ曝露されたフィッシュにおいて有意に増大した(
図4A、B)。前駆体のパーセンテージにおける上昇は、各々骨髄およびリンパ球集団の回復に先行していた。放射線照射後3日目でのPGE2処置されたKMにおけるqPCRによる幹細胞、前駆細胞および内皮細胞標識の発現レベルは、runx1およびlmo2の有意な上方制御を示した(
図5)。非選択的および選択的阻害剤によるcox活性の阻害により、KM回復を有意に減少させ、全体の生存へも影響した(
図5)。本発明者らの結果は、PGE2はKMホメオスタシスにおいて重要な役割を担うことを示す。
【0085】
哺乳動物HSCおよび前駆体集団へのプロスタグランジン経路の影響もまた評価された。胚様体増殖の間にES細胞へdmPGE2を添加することにより、OP9間質細胞層上およびメチルセルロースコロニー形成アッセイにおける造血性コロニー数が増加した(
図6A、B)。Nakano et al., 272 Sci. 722-24 (2002)。決定的赤血球(dE)であるOP9および顆粒球/単球(GM)コロニーは、10μM(GM p=0.005)および20μM(OP9 p=0.047;dE p=0.04;GM p=0.007)dmPGE2への曝露後に、用量依存様式で増加した。多分化能顆粒球/赤血球/単球/マクロファージ(GEMM)コロニーは、dmPGE2処置に続き2.9倍増大した(10μM p=0.017;20μM:p=0.016)。100μMで、dmPGE2はES細胞に対して毒性があった。PG経路構成物がES細胞中に存在するかを決定するためにqPCRが遂行された:Cox1、Cox2、PGE2合成およびPGE受容体1~4が、検査された全ての段階に存在した。インドメタシン20μM(OP9 p=0.047)および100μM(GM p=0.024)でコロニー増殖を阻害した(
図6A、B);双方のコロニー形成アッセイにおいて、阻害効果は外来性dmPGE2により回復された(
図7A、B)。これらのデータによって、造血におけるプロスタグランジン経路の役割は、ゼブラフィッシュおよび哺乳動物の間で保存されていることが示唆される。
【0086】
あるいは、AGM(aorta-gonad-mesonephros)領域における造血性または内皮細胞の増殖は、マウスを交配させ、新規に妊娠したメスに胚発生の8.5日目から飲用水中のPGE2を服用させることにより研究されてもよい。PGE2レベルはマウス胚の着床に影響を有する可能性がある;処置を開始するために8.5日目まで待機することにより、着床を進行させ、依然として薬剤が10.5日目に開始するAGM領域に見出されうる幹細胞集団に影響を及ぼす時間を提供する。妊娠したメスは、胚発生の11.5日目にCO2を用いて犠牲にされ、胚は子宮から単離され、パラフォルムアルデヒドを用いて固定される。固定された胚はRunx1、c-mybまたはSca1のようなHSCの標識によるホールマウントインサイチューハイブリダイゼーションのため加工され、または増殖した幹細胞集団の証拠を見出すためにHSCに対する抗体を用いた免疫組織化学へ供されてもよい。例えば、10(-1)、10(-3)および10(-5)マイクログラム/g体重のような異なる用量が使用されてもよい。これらの妊娠したメスマウスは上記の各用量、および非曝露対照変量に使用されてもよい。続いて、該有効量が、胚のAGM領域から解剖された細胞に関与する移植実験において使用される。
【0087】
CFU-Sの増殖および長期HSC再増殖は、マウスにおいても研究されてよい。AGM領域における潜在的幹細胞を増殖することが見出されている単回用量のPGE2が、着床に続き(およそE8.5)飲用水中で妊娠したメスに摂食されてもよい。対照メスは並行して処置される。妊娠したメスは、11.5 dpcで安楽死される。胚は子宮から収集され、AGM領域が顕微解剖により単離され、AGM細胞が移植のために調製される。1つの胚の実験細胞および/または対称細胞と同等の組み合わせで放射線照射された受容マウスの尾静脈へ注射され、脾臓(短期的)および骨髄(長期的)へ回帰するであろう。実験細胞対対照細胞の寄与は、移植後12日で犠牲にされた受容マウスの脾臓コロニー数に関して、標準的CFU-Sアッセイにより、または競合的長期的HSC再増殖を決定するため移植後1ヶ月で骨髄のフローサイトメトリーにより解析されてもよい。
【0088】
心臓血管系の発生は胚発生の間の造血性幹細胞の産生と密接に関連するため、PGE2シグナル伝達における血圧の影響およびAGM HSCの誘導が関連していてもよい。任意の脊椎動物において、最も保存された造血の部位は動脈の腹側壁である。動脈中の細胞はゼブラフィッシュにおいて発生30時間で生じ、それらが循環に入る、または組織へ侵入する約46時間までそこで発達する。AGM HSC産生は、最初の心拍後かつ血管系内の血圧が臨界レベルに達した際に生じるよう調和されていてもよい。ゼブラフィッシュでは、最初の心拍は23時間で生じる。この時、心拍は遅くかつ心臓の収縮は比較的弱い。30時間で堅固な循環が確立される。AGM幹細胞を作成するきっかけは、血圧の変化であってもよい。ゼブラフィッシュのスクリーニングで同定された数個の化学物質は、血圧および心臓収縮性を制御する。例えば、一般に抗高血圧薬として使用される化学物質ヒドララジンは、プロスタグランジンE2発現を増加させることが公知である。ヒドララジンに曝露された胚のインサイチュー解析によって血管新生においてほんのわずかな変化ではあるが、血液幹細胞数における顕著な増加が実証されている。加えて、心臓グリコシドである薬物ストロファンチジンは、心臓の収縮性を増加させ、かつAGM幹細胞も増加させる。さらに、β-遮断薬であるアテノールは血管拡張を誘導し、かつ高揚したAGM幹細胞の産生も誘導する。BDMおよびエピネフリンのような心拍を撹乱する化学物質、ならびにsilent heart変異体はAGM幹細胞の産生を変化させる可能性があり、かつAGM産生のために循環が必要である場合には確立される可能性がある。血圧およびプロスタグランジン経路の間の関連をさらに確立するために、ヒドララジン、ストロファンチジンおよびアテノールがCOX2阻害剤存在下でゼブラフィッシュとインキュベーションされてもよい。ヒドララジンにより媒介される幹細胞の活性化を遮断することが可能であるかを決定するために、同様の研究がCOX2モルホリノを用いて成されうる。
【0089】
潜在的なインビボの影響を探求するため、マウス全骨髄(WBM)がdmPGE2に対してエクスビボで曝露され(1μM/106細胞)、放射線照射された受容個体は6x10
4個の処置されたWBM細胞を用いて移植された。CFU-S12の数はdmPGE2処置されたWBMの受容個体において3倍(p<0.0001)増加した(
図8b、
図9A、表6~表8);同様に、より成熟したCFU-S8コロニーも増大した(
図9A、表5)。内在性のPGE2要求性を評価するため、WBM細胞はエクスビボでインドメタシンとインキュベーションされた(1μM/106細胞)。1x10
5個の細胞の移植後に、CFU-S12の数において70%の減少(p=0.0002)がインドメタシン処置された細胞の受容個体において観察された(
図8C、
図9C、表4~表6);同様の結果が特異的cox1およびcox2阻害において見られた(
図9K、L)。これらの結果は、PGE2処置が造血性幹細胞形成を増強するのみならず、CFU-S活性に関しても要求されることを示唆する。
【0090】
(表5)CFU-S
12に対するdmPGE2の影響
脾臓重量およびCFU-S活性は、EtOH、dmPGE2またはインドメタシン(1μM/10
6細胞)を用いて処置されたWBM、またはckit+sca1+lineage-のFACS分類された細胞の注射を受け放射線照射された受容個体において12日目に評価された。
【0091】
(表6)放射線保護性競合的BM再増殖に対するdmPGE2の影響
WBM(CD45.1)は、EtOH溶媒またはdmPGE2を用いてエクスビボで処置され、列2および3中に示される割合で、固定数の(CD45.1/CD45.2)競合細胞と共に亜致死に放射線照射された受容個体(CD45.2)へ移植された。列4は6週目で5%を上回るCD45.1のキメラ化(chimerism)を伴う動物数を例証し、かつ列5は、キメラ化の平均パーセンテージを実証する。最終列は解析されたCD45.2受容個体数を示す。
【0092】
(表7)放射線保護性競合的BM再増殖に対するdmPGE2の影響
WBM(CD45.1)は、EtOH溶媒またはdmPGE2を用いてエクスビボで処置され、列2および3中に示される割合で固定数の(CD45.1/CD45.2)競合細胞と共に亜致死に放射線照射された受容個体(CD45.2)へ移植された。列4は12週目で5%を上回るCD45.1のキメラ化を伴う動物数を例証し、かつ列5は、キメラ化の平均パーセンテージを実証する。最終列は解析されたCD45.2受容個体数を示す。
【0093】
(表8)放射線保護性競合的BM再増殖におけるdmPGE2の影響
WBM(CD45.1)はEtOH溶媒またはdmPGE2を用いてエクスビボで処置され、列2および3中に示される割合で固定数の(CD45.1/CD45.2)競合細胞と共に亜致死に放射線照射された受容個体(CD45.2)へ移植された。列4は24週目で5%を上回るCD45.1のキメラ化を伴う動物数を例証し、かつ列5は、キメラ化の平均パーセンテージを実証する。最終列は解析されたCD45.2受容個体数を示す。
【0094】
PG経路構成成分は、マウスおよびヒトにおいて間質細胞およびHSC集団の双方に存在する(Princeton Stem Cell and Stromal cell databases)。Ivanova et al., 298 Sci. 601-04 (2002);Nakano et al., 101 Blood 383-89 (2003)。Cox1、Cox2、PGE2合成ならびに受容体EP2およびEP4は、胎児の肝臓HSC中および5-フルオロウラシル(5FU)損傷後のBM HSC中に存在し、これによりPGE2シグナル伝達はHSCにより利用されていることが示唆される。Venezia et al., PLoS Biol 2, e301 (2004)。CFU-S数における増加が幹細胞集団におけるPGE2の直接的影響によるものかを決定するため、FACS単離されたckit+sca1+lineage-(KSL)BM細胞がdmPGE2に曝露され、かつ、照射された受容個体当たり100細胞または300細胞で移植された。脾臓重量およびCFU-S12の双方は、dmPGE2処置された細胞の受容個体において有意に増加した(
図9D、表6~表8)。これらの結果は、dmPGE2がHSCおよび未成熟前駆体の細胞自立的活性化を誘導しうることを示す。
【0095】
dmPGE2曝露がHSC再構成を増強しうるかどうかを決定するため、限界希釈競合的再増殖アッセイが行われた。Zhang & Lodish, 103 Blood 2513-21 (2004)。エクスビボでdmPGE2へ曝露されたWBM(CD45.1)は、固定数の未処理競合細胞(CD45.1/CD45.2)と共に様々な用量で独立に混合され、類似遺伝子型の受容個体マウス(CD45.2)へ注射された。末梢血液が移植後6、12、および24週目で得られ、処置された試験細胞の造血集団への寄与を決定するためにFACSにより検査された(
図9E~9J)。陽性再構成は、5%超の試験細胞複数系統キメラ化として定義された(
図9F、H、I)。dmPGE2処置されたBMにおいて、ポワソン統計解析によって再増殖細胞数における有意な増加が見られた(
図8E、
図9G、9J)。算出された106WBM細胞当りの移植細胞頻度は、6週目でdmPGE2処置されたWBMの受容個体において3.3倍(p=0.005)増大され、かつ移植後12週で短期再増殖中のHSC頻度は4倍(p=0.002)高かった(
図8E、8F、
図9G)。24週目では、長期再増殖中のHSC頻度はdmPGE2処置された細胞の受容個体において2.3倍(p=0.05)増大した(
図8F、
図9J)。12週目、および24週目の双方の解析では、全受容個体における再構成は多重系統であって、これは一過的dmPGE2処置によって分化許容度を損傷することなく、マウスにおいてHSCの再増殖の頻度を増加させたことを示している。造血に対するdmPGE2処置されたHSCの寄与においては、いかなる減退も観察されなかった。dmPGE2処置がBMニッチへの回帰を増強するかどうかを決定するために、WBMは生体色素であるCDFAを用いて標識され、続いてdmPGE2へ曝露され、移植された。移植後12時間で、対照およびdmPGE2処置された細胞間の回帰において有意な相違は全く存在しなかった(p=0.83)。
【0096】
幹細胞産生におけるプロスタグランジン経路の要求をより正確に特徴付けるための努力において、さらにいくつかの市販されているシクロオキシゲナーゼ(COX)阻害剤が利用された。一般的なCOX阻害剤であるインドメタシン、ナプロキセン、イブプロフェン、およびアスピリンならびにCox2特異的阻害剤NS-398は全て、上に記載のアッセイを介してAGM HSCに対する影響に関して試験された。各Cox1またはCox2化学阻害剤は、動脈中の幹細胞を減少させた。Coxは、アラキドン酸を変化させることによりPGの加工において役割を担う。血管形成および動脈特異化は、ephrinB2およびFlk1染色により見られるように、処置された胚において不変のままであったが、血管新生のいくつかの局面、とりわけ体節間の血管系の形態はいくつかの化学物質により撹乱された。COX1およびCOX2のモルホリノアンチセンスオリゴヌクレオチドもまた、動脈における幹細胞の減少がCox阻害によるものであることを確認するために、ゼブラフィッシュ胚へ個々に注射された。Runx1+Cmyb+細胞は、いずれのモルホリノを用いてもAGM領域において減少した。以前に報告されていたように、非常に高濃度のCox1 MOは動脈および静脈の特異化において欠損を引き起こし、一方cox2モルホリノは、高濃度で原腸形成停止を引き起こした。Cha et al., 20 Genes & Devel. 77-86 (2006); Cha et al., 282 Devel. Biol. 274-83 (2005)。HSCにおける減少はいずれのMOでも低濃度で観察され、かつ尾の血管構造は極度に変化していなかった。さらに、血管系を正確に描画するfli1 GFPトランスジェニックゼブラフィッシュが、血管新生についてのモルホリノおよび化学物質の影響を評価するために使用された。Cox1またはCox2のハイブリダイゼーションは、化学物質またはモルホリノによる動脈の発生に影響を及ぼさない。体節間血管系はいくつかの処置により変化する。
【0097】
プロスタグランジンE2は、ゼブラフィッシュ胚発生の間に作製され、かつ血管組織を制御する主要なプロスタグランジンである。Pini et al., 25 Arterioscler Thromb Vasc Biol. 315-20 (2005); Grosser et al., 99 P.N.A.S. USA 8418-23 (2002)。プロスタグランジン経路の化学物質および/またはモルホリノ阻害の双方により、正確にどちらのプロスタグランジンが影響されるかが、質量分析解析により解析されてもよい。同様に、質量分析によりリノール酸またはミード酸のような、プロスタグランジン経路の基質への曝露に続くE2誘導を確認することが可能である。AGM HSCの形成におけるPGE2の役割の解析は、局所的にプロスタグランジンシグナル伝達を下流のエフェクターに伝播する際に、どちらの受容体が活性型であるかの解析へと導く。ゼブラフィッシュにおいては、4つのPGE2受容体が同定されている。PGE受容体の特異的アゴニストおよびアンタゴニストはこの同定の手助けをする。さらにHSC誘導を媒介する特異的受容体は、以前に記載されるようなモルホリノを使用して、機能的ノックダウンにより研究されうる。プロスタグランジン受容体の各々ならびに双方のシクロオキシゲナーゼの発現は、発生を通して、とりわけAGM領域に焦点を当ててこれらの遺伝子産物の局在を評価するために、インサイチューハイブリダイゼーションにより研究されてもよい。
【0098】
本発明は脊椎動物種の2つであるゼブラフィッシュおよびマウスにおいて、PGE2が造血性幹細胞数および多分化能前駆体を増大させることを実証する。以前の研究は、マウスにおいて非修飾型PGE2が血液細胞成熟に(Boer et al., 100 Blood 467-73 (2002); Rocca et al., 99 P.N.A.S. USA 7634-39 (2002))、かつCFU-S8前駆体における細胞周期の刺激に(Feher & Gidali, 247 Nature 550-551 (1974))影響しうることを実証している;しかし、HSCに対するPGに媒介される細胞シグナル伝達の影響は、以前に試験されていない。cox1およびcox2は、AGM HSC形成において別個の機能を有するように見受けられる:cox1は造血性ニッチ、とりわけ造血の内皮の形成において重要であり、一方cox2は恐らく自己再生およびHSC自体の増殖に関与している。逆に、Cox1またはCox2のホモ接合体マウスは、HSC形成において何ら明らかな欠損もなく生存可能である(Laugenbach et al., 58 Biochem . Pharmacol. 1237-46 (1999));これはPGE2の母系的および同胞的貢献によるものであると信じられている。Cha et al., 282 Devel. Biol. 274-83 (2005); Langenbach et al., 83 Cell 483-92 (1995)。
【0099】
有意に、Cox2-/-マウスの解析によって、ヘマトクリット値における変化および5-FU誘導されたBM損傷から回復する能力を有さないことが実証された(Lorenz et al., 27 Exp. Hematol. 1494-502 (1999);これらの知見は成体Cox2-/-マウスにおけるHSC欠損の存在は、HSCホメオスタシスにおける本発明者らの提案するPGの役割と一致することを意味する。成体でのHSCホメオスタシスの制御におけるCox1およびCox2の役割を明白にするため、本発明者らは、cox1(SC560)またはcox2(NS398)のいずれかの選択的化学阻害剤CFUS12(
図9K、l)、および5-FU骨髄回復アッセイを遂行した。いずれかの酵素の阻害によって、対照と比較してCFUS活性ならびに末梢血液の回復およびBM WBC数(
図9m、n)が有意に変化することが見出された。さらに、5FU処置に続くdmPGE2の投与はBM回復を有意に増大させた。統合すると、これらのデータは、ゼブラフィッシュにおけるように成体マウスにおいても、Cox1およびCox2の双方がHSCホメオスタシスを制御する際に役割を維持し、かつPGE2はこのHSC制御の媒介物質であることを示唆する。
【0100】
BM移植を受ける患者は、増加した内在性PGE2レベルを示す。Cayeux et al., 12 Bone Marrow Transplant 603-08 (1993)。血小板阻害のためcox阻害剤は一般に移植後に供与されないが、本発明者らの研究により、ヒトBM移植に続いてそのような薬剤を投与することはHSC移植を損傷し得るという可能性が生じた。PGE2およびそのアナログは、ヒトへ安全に投与されている。Talosi et al., 32 J. Perinat. Med. 368-74 (2004);Thanopoulos et al., 146 Eur. J. Pediatrics 279-82 (1987)。これらはHSCのエクスビボまたはインビボ増殖に関して有用であってもよい。マウスHSCを増殖するために使用されたdmPGE2の濃度は、ヒト血清中のPGE2の生理学的範囲内に入る。Hertelendy et al., 3 Prostaglandins 223-37 (1973)。本開示は、PGE2が脊椎動物において潜在的なHSCの制御因子として機能し、かつ骨髄損傷を患う患者の処置の際、または移植後に有用であることを証明してもよい。
【0101】
ゼブラフィッシュにおける造血の研究は、以前には初期的と称される造血の第一波、かつゼブラフィッシュ胚の動脈、生殖腺および中腎(AGM)領域における決定的(definitive)造血性幹細胞の誘導に焦点が合わせられていた。脊椎動物におけるAGM幹細胞の産生についてはほとんど公知ではなかったが、runx1およびnotch1の双方がAGM HSC形成に要求されることが示されていた。またnotchがrunx1を制御する遺伝学的関係も存在する。既知の作用を伴う約2500個の化合物のライブラリーを使用して、幹細胞誘導のエフェクターに関する大規模な化学的遺伝学スクリーニングにより、プロスタグランジン(PG)E2の産生を導く化学物質は幹細胞数における増加を引き起こし、一方PGE2合成を妨げる化学物質は幹細胞の減少を導くことが示された。血管拡張薬および血管収縮薬のような他の化学物質もまた、幹細胞数を変化させることが見出され、胚発生の間の血管緊張が幹細胞産生の引き金であるという仮説を確立した。Wntシグナル伝達経路のメンバーは、造血性幹細胞数を制御すると仮定されているが、今日までこれらの研究により成体の骨髄ホメオスタシスのみが検査されてきている。notch-runx経路、またはプロスタグランジンとの潜在的遺伝学的相互作用を同定するために、胚性AGM産生におけるWntシグナル伝達の役割が調査される。AGM幹細胞形成に関与するさらなる遺伝子を定義するため、AGM産生における欠損を伴う変異体に関する大規模スクリーニングが継続する。少なくとも12変異体が単離されている。同定される遺伝子および経路は、基礎的幹細胞細胞生物学の理解に有意な影響を有する可能性があり、かつ鎌形赤血球貧血、サラセミア、および再生不良性貧血のような疾患に関する新規治療を導く可能性がある。
【0102】
ゼブラフィッシュをモデルとして、胚発生の間の決定的造血幹細胞誘導に関与するシグナル伝達経路を特徴づけるアプローチは、変異体、モルファント、トランスジェニックおよび化学物質を使用して、プロスタグランジンがAGM幹細胞産生を制御するという仮説を評価し、かつAGM HSCの形成におけるwnt経路の役割を調査し、かつAGM領域において活性型であることが公知の、他のシグナル伝達経路との潜在的相互作用を調査することを含む。ゼブラフィッシュ遺伝学は、胚発生の間のAGM HSC形成に関与する新規経路を定義するために使用されてもよく、ゼブラフィッシュにおける決定的造血の欠損に関する大規模突然変異誘発スクリーニングが成されてもよい。これにより正常なAGM HSC産生に役割を担う変異型遺伝子のいくつかが単離および特徴づけられる。
【0103】
胚性造血の産生を制御する新規経路を定義する研究によりCDX-HOX経路が解明されてきている。変異体ゼブラフィッシュkugeligにおいて、減少したHSC数の原因である欠損遺伝子が発見された。Davidson et al., 425 Nature 300-06 (2003)。kgg変異体は初期胚発生の間のSCL+造血性幹細胞の欠損を有しており、かつ前駆体標識であるGATA-1およびrunx1の発現を欠如している。変異体胚における血管系は正常に形成されるが、血管中には非常に少数の赤血球しか循環していない。変異された遺伝子はcaudalファミリーのメンバーであるCDX4をコードしていた。哺乳動物はCDX1、2および4を含む3つのCDX遺伝子を有する。Caudal遺伝子はHOX遺伝子を制御することにより作用することが公知である。尾側HOX遺伝子はkgg変異体において減少した発現を示した。HOX遺伝子は、血液の発生においてCDX4の下流で作用することが確立されている。hoxb7またはhoxa9の過剰発現によって、kgg変異体における造血性欠損の堅固な回復が導かれた。CDX4が胚発生の間に造血性幹細胞運命を特異化するのに十分であるのかを評価するため、CDX4 mRNAがゼブラフィッシュ胚中へ注射された。通常血液を形成しない胚の領域において、多数のSCL陽性細胞が見出された。cdx4が異所血液幹細胞を誘導するのに十分であるという事実は、この研究の哺乳動物系への適用を許容する。
【0104】
マウス胚性幹細胞(ESC)におけるインビトロでの有意な血液形成の可能性にも関わらず、放射線照射されたマウスを再構成しうる造血性幹細胞(HSC)誘導は、難易度が高いことが証明されている。研究者らは、致死の状態に放射線照射された成体マウスに、異所的にhoxB4を発現するよう設計されたESCsを用いて成功裡に移植してきている。Kyba et al., 109 Cell 29-37 (2002)。血液再構成は骨髄優性を示し、これは恐らく、これらの胚性集団からの成体HSCを完全に形成する能力を有しないことによるものであろう。CDX4およびhoxb4の共発現は、支持性のOP9間質培養上で造血性芽細胞の堅固な増殖を促進する。致死の状態に放射線照射されたマウスの静脈中へ注射された際には、これらの細胞集団は堅固な放射線保護を提供し、かつ高レベルのリンパ球-骨髄ドナーキメラ化を再構成する。Wang et al., 102 P.N.A.S. USA 1981-86 (2005)。
【0105】
cdx-hox経路の下流でありうる経路を探求するために、kgg変異体および野生型において異なる様式で発現される遺伝子を同定する目的で、マイクロアレイ解析が使用された。レチノイン酸(RA)産生に要求される酵素であるRaldh2は、血液形成の初期の間にkgg変異体で過剰発現される。Perz-Edwards et al., 229 Devel. Biol. 89-101 (2001); Begemann et al., 128 Devel. 3081-94 (2001)。このデータによって、RAが血液形成を抑制するために作用する可能性があり、かつCDX-HOX経路がRA産生を制限するために機能し、それにより血液形成が生じることを許容するという仮説が導かれる。言い換えれば、cdx-hox経路はレチノイン酸シグナル伝達を制御する。
【0106】
これを試験するために、野生型ゼブラフィッシュ胚がRAを用いて処置され、真にそれらは極度な貧血状態になった。raldh2活性を遮断する化学物質であるDEAB(Perz-Edwards, 2001)を用いてkgg胚を処置することにより、kgg変異体における造血が回復した。DEABを用いた処置によってhoxa9aの発現の回復が損なわれたことにより、RAはhox遺伝子の下流で作用することが示唆される。DEABはまた、野生型胚において赤血球細胞の増殖も誘導した。DEABおよびRAはまた、ES細胞由来の胚様体(EB)から生じるマウス造血性前駆体の形成にも影響を及ぼした。発生の2~3日の間にDEABをEBへ添加することにより、ゼブラフィッシュにおける結果と類似して、「初期的」赤血球コロニー(CFU-Ep)において5~8倍の増加がもたらされた。同様の初期的卵黄嚢赤血球細胞の刺激が、DEABを用いて見られた。対照的に、RA処置により全コロニー型の増殖において一般的な阻害が引き起こされた。統合すると、これらの結果によって、CDX-HOX経路によるRAの抑制は卵黄嚢造血が生じるために必要であるという新規のモデルが示唆される。Davidson et al., 425 Nature 300-06 (2003); Davidson & Zon, 292 (2) Devel. Biol. 506-18 (2006)も参照。
【0107】
同定されたさらなる遺伝子は、正常な初期的および決定的赤血球形成に必要とされるmoonshine遺伝子である。変異された遺伝子はTif1γで、推定上のクロマチン制御因子である。Ransom et al., 2 PloS 1188-96 (2004)。この因子はPHDフィンガー、ブロモドメイン、リングフィンガーを含み、かつ最近SMAD2およびSMAD437との相互作用を通してBMPシグナル伝達へ関連づけられている。Dupont et al., 121 Cell 87-99 (2005)。この因子の造血における役割は、サプレッサー、エンハンサーのスクリーニングを使用して決定されてもよい。
【0108】
さらなる変異体はbloodlessと名付けられている。この遺伝子は初期的造血およびAGM造血の双方に必要とされるが、決定的造血は回復する。bloodless表現型は非細胞自律的であるよう見受けられるが、bloodlessはSCLおよびGATA1の発現を制御する。この変異遺伝子をマッピングする際に困難が存在する。Liao et al., 129 Devel. 649-59 (2002)。
【0109】
赤血球から骨髄運命へのスイッチのメカニズムを解明する研究により、GATA1が骨髄系譜を抑制するために必要とされることが示されている。Galloway et al., 8(1) Devel. Cell 109-16 (2005)。より具体的には、vlad tepesとして公知のGATA1欠損ゼブラフィッシュ変異体の調査により、全体の血島が骨髄運命へと転換されていることが明らかになった。この興味深い細胞運命の変化は、GATA1およびPU.1が互いの活性をアンタゴナイズすることを示す。それらは骨髄および赤血球プログラムを制御する複合体を形成してもよい。さらなる研究によって、PU.1のノックダウンは骨髄細胞前駆体を赤血球細胞へ変化させることが実証された。39 Rhose et al., 8 Devel. Cell 97-108 (2005)。この研究は造血系内の可塑性に関する合理性を提供する。標的遺伝子発現およびGATA1およびGATA2の赤血球細胞の依存性を研究することにより、ほとんどの遺伝子はGATA1に完全に依存的であるが、いくつかの遺伝子は完全な発現のためにGATA1およびGATA2の双方を要することが示されている。いくつかの新規遺伝子は、完全にGATAと独立であることが見出されている。
【0110】
SCL欠損モルファントの特徴付けによって、このSCL MO表現型は哺乳動物生物学におけるSCLノックアウトの表現型と非常に類似していることが示された。SCLは初期の造血細胞が発生するために必要とされる。異常なSCLの制御は、正常な造血に欠損を有するclocheおよびspadetailの双方の変異体において明らかである。Dooley et al., 277 (2) Devel. Biol. 522-36 (2005)。
【0111】
血島の発生を理解する試みにおいて、研究者らはLMO2プロモーターを単離し、かつプロモーターと隣接する163塩基対が、発生中の血島ならびに血管系においてGFP発現を誘導するのに十分であることを実証した。これらのトランスジェニックフィッシュ系統は、移植実験のために貴重である。DsRedならびにGFPの双方がLMO2プロモーターへ連結され、2重トランスジェニック系統の構築を許容する。これらの初期的系統のLMO2陽性細胞は、初期胚の移植モデルまたは成体における長期再構成を与えない。Zhu et al., 281 (2) Devel. Biol. 256-269 (2005); Mead et al., 128 Devel. 2301-08 (2001); Oates et al., 98 Blood 1792-1801 (2001); Pratt et al., 11 Physiological Genomics 91-98 (2002); Huber et al., 11 Current Biology 1456-61 (2001)。
【0112】
主要な目標は、ゼブラフィッシュ系に関して造血性細胞移植を開発することであった。フローサイトメトリーによる造血性集団アッセイにより単純な前方散乱光、および側方散乱光によりゼブラフィッシュにおける造血系の全ての系譜を分離することが可能であることが見出された。赤血球、骨髄およびリンパ球細胞ならびに前駆体画分が分離されうる。これにより、特定の細胞集団の血液を欠如する変異体胚中への移植が誘導される。ドナーからのGFP陽性腎臓髄質は、典型的に無血性であるこれらの胚へ注射された。移植後6ヶ月で、循環中の全細胞は緑色であり、それらはドナー由来であることが示唆される。vlad tepesおよびbloodless胚は非常に優れた宿主であると見受けられる。加えて、二次的移植により腎臓髄質中の長期再構成活性が実証された。また致死の状態に放射線照射された成体ゼブラフィッシュにおける造血を回復させるため、成体髄も使用されうることが実証された。Traver et al., 104 Blood 1298-1305 (2004)。この移植プロトコールは、以下に続く幹細胞生物学研究に関して非常に有用である。Traver et al., 4 Nature Immunol. 1238-46 (2003)も参照。
【0113】
ゼブラフィッシュの全腎臓髄質(WKM)細胞の限界希釈解析により、ゼブラフィッシュの腎臓髄質におけるHSCの頻度が示されてもよい。これらの研究によって移植可能な幹細胞数が定量化されるため、それらは野生型対変異体ゼブラフィッシュにおける幹細胞機能の比較のための機能的アッセイを提供する。この目的において、亜致死のγ-線照射用量を使用して、非標識の受容個体の血液リンパ系を損傷し、続いて5,000~500,000の範囲の希釈のGFP標識されたWKM細胞を宿主へ移植することにより、再構成実験が遂行された。末梢血液がWKM希釈アッセイにおける担体細胞として使用され、かつ単独で注射された際には陰性対照として作用した。移植後3ヶ月でWKMは宿主から解剖され、骨髄門におけるGFP+ドナー細胞のパーセンテージを測定するためにフローサイトメトリーにより解析された。受容個体はドナー移植に関して「成功」または「失敗」のいずれかとして評価された。二項最大限度統計を使用すると、ゼブラフィッシュWKMにおけるHSCの出現は、95%信頼区間を用いて、50,798~79,244個細胞の間で61,910細胞中1個である。この数は骨髄細胞容量あたり50,000~130,000 HSC中に1個を有するマウスの数と非常に類似している。Smith et al., 88 P.N.A.S. USA 2788-92 (1991)。従って、これらのデータにより骨髄集団中の幹細胞数は、進化的に保存されていることが示唆される。
【0114】
研究により、ゼブラフィッシュAGM幹細胞産生およびnotch経路についても探求されている。AGMは、初期体節形成の間に存在する側方中胚葉から形成すると考えられている。該組織はflk1を発現する。移動に伴い、gridlockと称される動脈特異的標識を発現し始める。その後18体節期までに、細胞はtie1およびtie2を発現し、中央へ移動を継続し、強固な脊髄を形成する。脊髄は空洞になり、動脈へ入る。30時間でrunx1転写因子が最初に腹側で発現される。すぐ後に、c-myb陽性造血性細胞が動脈の腹側壁で見出される。動脈の背側部分はtbx20と称されるT box転写因子を発現する。ゼブラフィッシュにおける工程は、ヒト、マウス、ニワトリおよびカエルを含む他の脊椎動物のものと非常に類似しているようである。Galloway & Zon, 53 Curr. Topics Devel. Biol. 139-58 (2002)。
【0115】
AGMの発生におけるrunx1の役割も検査された。マウスノックアウトと類似して、ゼブラフィッシュにおけるrunx1ノックダウンは、c-mybを発現するAGMにおける細胞数の減少を導いた。runx1の過剰発現は、動脈中の幹細胞の増殖および静脈中でのc-myb nの異所発現を導いた。初期的造血は、runx1モルファントにおいて正常に進行する。これはAGM形成に関するrunx1の要求性の証拠を提供し、かつさらに決定的幹細胞を生成するのに十分な因子としてrunx1を確立する。AGM形成におけるnotch経路の役割の評価により、runx1はnotchシグナル伝達の下流で、または並行して作用することが明らかになった。
【0116】
変異体mindbombは、notch受容体のリガンドであるdeltaのE3ユビキチンリガーゼを欠如している。従って、mindbomb変異体は完全にnotchシグナル伝達を欠如し、かつAGMにおいていかなる造血性幹細胞をも作製することができない。Itoh et al., 4 Devel. Cell 67-82 (2003)。runx1の過剰発現によりmindbombのAGMにおいてc-myb陽性細胞数を回復させる。これはrunxがnotchの重要な標的であることを意味する。予備的な研究においては、mindbomb変異体へ長期作用するプロスタグランジンE2の添加により、いかなる型の回復をも実証することができなかった。これは、細胞のプロスタグランジンE2に応答する能力の欠損によるものである可能性がある;おそらくnotchシグナル伝達は、プロスタグランジンE2よりもAGM領域の発生においてより初期に要求されるのであろう。mindbomb変異体におけるプロスタグランジンE2を用いた用量応答曲線によって、これが解明される可能性がある。逆に、36 hpfまでに増加した幹細胞数を有するNotch ICD胚において、プロスタグランジンシグナル伝達がAGM HSCの上方制御を媒介する際に役割を有するかどうかを観察するために、Cox阻害剤と共にインキュベーションされてもよい。他の造血性変異体が同様に研究されてもよい。
【0117】
固有のトランスジェニック系が、notch経路を検査するために使用された。gal4駆動性の熱ショック(HS)プロモーターを保持する1つのトランスジェニック系統が、notchの細胞内ドメイン(NICDと称される活性型)駆動性のUAS配列を有する別の系統へ交配された。Lawson et al., 128 Devel. 3675-83 (2001)。これは熱ショック時に、胚へ活性型notchシグナルを提供する。熱ショックに続いて、これらの胚のAGMではc-mybおよびrunx1が増加した強度で、かつ背側ならびに腹側の双方の動脈および静脈を含むより広大な領域全体で発現されることが示された。この異所発現には、リン酸化ヒストンH3抗体を用いた免疫染色、またはBrdU標識に基づく細胞増殖における変化は付随していなかった。この運命変化はrunx1モルホリノにより回避されることが可能で、runx1がnotchの下流で作用することを公式に実証している。
【0118】
notchの活性化が成体の造血において同様の役割を担うかどうかが、条件的にnotchを過剰発現する2重トランスジェニックフィッシュを使用して研究された。フィッシュは2000 radsで亜致死に放射線照射され、続いてnotchを活性化する熱ショックに供された。骨髄造血は、骨髄系、リンパ系および前駆体画分を検査するために前方および側方散乱光に関してFACSにより解析された。熱ショック後7日目までに、NICDを発現するフィッシュは増加した骨髄細胞および前駆体画分を有し、14日目までに、野生型と比較してリンパ球細胞の増加も存在した。照射後の回復は、notch活性化後に、より急速である。さらに、runx1、sclおよびlmo2は熱ショック後すぐに成体中で上方制御される。これによって本発明者らが発見したnotch-runx経路は、成体ゼブラフィッシュにおいても作動していることが確認される。Burns et al., 19(19) Genes & Devel. 2331-42 (2005)を参照。
【0119】
ゼブラフィッシュもまた、疾患の特徴付けにおいて有用であることが証明されている。ヒト疾患と同等物を有する多数の変異体フィッシュが開発されている。例えば、Dooley & Zon, 10 Curr. Op. Genet. Devel. 252-56 (2000)を参照。例えば、ゼブラフィッシュ系において、赤血球形成に影響する多数の膜欠損が見出されている。研究において同定された変異体遺伝子は、BAND 3、BAND 4.1およびspectrinであった。興味深いことに、BAND 3変異体はHEMPASまたはCDA type2に非常に類似した欠損を有するよう見受けられた。BAND 3は、先天性;異常造血性貧血を制御する分裂中の赤血球前駆細胞中の紡錘体に局在する。例えば、Liao et al., 127 (3) Devel. 127 (3): 5123-32 (2000); Paw et al., 34 (1) Nature Genet. 59-64 (2003)を参照。
【0120】
最近、grx5がshiraz変異体遺伝子として単離された。Shaw et al., 440 Nature 96-100 (2006)。Glutaredoxin 5はミトコンドリアに局在し、かつ鉄硫黄クラスター産生に必要とされる。frascati変異体で欠損されているミトコンドリアの鉄輸送遺伝子もまた単離され、かつfrascatiノックアウトマウスはフィッシュと類似して貧血を発症する。Donovan et al., 403 Nature 776-81 (2000); Donovan et al., 100 Blood 4655-60 (2002); Wingert et al., 131(24) Devel. 6225-35 (2004); Fraenkel et al., 115 J. Clin. Invest. 1532-41.(2005); Wingert et al., 436 Nature 1035-39 (2005)も参照。
【0121】
Trans-NIH Zebrafish Genome Initiativeの一環として、Affymetrixチップが設計された。これは異なる時点での変異体および野生型における遺伝子発現パターンを研究することによって、ゼブラフィッシュの造血に影響を及ぼす10超の変異体の調査に関与した。Weber et al., 106(2) Blood 521-30 (2005)。本発明者らはまた、個々のインサイチューハイブリダイゼーションスクリーニングによって、大規模発現プロファイリングも評価した。この研究によって、血液特異的プログラムの一部として160超の遺伝子が同定されている。
【0122】
AGM HSCの形成におけるwnt経路の役割、およびAGM領域において活性型であることが公知の他のシグナル伝達経路との潜在的相互作用もまた関連がある。成体髄中のHSC自己再生におけるwnt経路の役割についての優れた研究(Reya et al., 423 Nature 409-14 (2003))に基づき、wnt経路はAGM HSC産生を制御していてもよい。wntシグナル伝達に関する標準的な経路は、GSKβの活性化および続くβ-カテニンの核への移行に関与し、そこでwnt制御される遺伝子を活性化するために、2つの類似転写因子TCFまたはLEF1のうちの1つと相互作用する(
図10)。wnt経路は、dickkopfおよびAPCにより負に制御される。wnt3の発現によって、マウスにおけるHSCの増殖が3倍刺激される(Reya 2003; Wilbert et al., 423 Nature 448-52 (2003))が、驚くことにHSCにおけるβ-カテニンのノックアウトにより自己再生における欠損は導かれない。Cobas et al., 199 J. Exp. Med. 221-29 (2004)。より最近の研究によって、GSK3B阻害剤がHSC分化における減少を導くことが実証されている。
【0123】
幹細胞自己再生におけるwntシグナル伝達の作用については公知であることにも関わらず、AGMにおける決定的幹細胞のwnt誘導についてはほとんど情報が存在しない。wntシグナル伝達がHSC誘導において役割を担うという仮説を支持して、β-カテニンがマウスにおけるHSC形成時でのAGM領域中で異なる様式で発現される遺伝子として、ディファレンシャルディスプレイRT-PCR法を通して同定された(REF)。AGMにおけるwntシグナル伝達に関する役割を定義するために、トランスジェニックフィッシュのwnt経路特異的誘導可能系統が研究されてもよい。熱ショックプロモーターによって、wnt経路の様々なメンバーの発現を誘導するよう、多数のトランスジェニックフィッシュが作製されている。研究のための例示的フィッシュは:熱ショックwnt8、熱ショックdickkopf、および熱ショックドミナントネガティブTCF変異体を含む。notchの研究において利用されたものと同様に、単一の熱パルスがAGM HSC産生におけるwntシグナル伝達阻害、または上方制御の影響を研究するために使用されうる。
【0124】
AGM形成におけるwntシグナル伝達の役割をよりよく理解するための努力において、熱ショックwnt8フィッシュが検査されてもよい。wnt8は尾芽領域における胚の尾側局面で発現される。18~22体節期の間の胚の熱ショックによるrunx1およびc-myb発現に基づいて、AGMにおける幹細胞集団の有意な上方制御が導かれる。wnt8の活性化により幹細胞の増殖が導かれるが、この工程において他のwntが同様な役割を担う可能性がある。発生中のAGM領域においてどのwntタンパク質が発現されているかを決定することは、関連がある可能性がある。CDX4+細胞は、マイクロアレイ解析により検査されるであろう。これらのHSCにおいて発現されるwntおよびwnt受容体のアイデンティティーを検査するために、情報科学が使用されてもよい。さらに、wnt3、wnt5およびwnt8 cDNAは、インサイチューハイブリダイゼーションにより研究されるであろう。マイクロアレイから導き出される他のwntは、ISHにより研究されるであろう。発生の間の熱ショックの完全な時間経過により、wntシグナル伝達がHSC形成に要求される正確な期間を位置付けることが可能である。AGMにおけるwntシグナル伝達を阻害する熱ショックドミナントネガティブTCF、および熱ショックdickkopf系統もまた検査されてもよい。ドミナントネガティブTCFは古典的経路を排除し、一方dickkopf熱ショック構築物は、古典的および非古典的wnt経路の双方を阻害する。これらの系統の熱への曝露に続いて、造血性幹細胞は完全に欠如していた。wntがAGM HSC形成に必要とされるかをさらに解析するために、いくつかのwntアゴニストおよびアンタゴニスト化学物質が、例えば、本明細書に記載される方法により検査されてもよい。
【0125】
HS wnt8、HS dkk、およびHS-DN TCFトランスジェニック系統における、熱ショックに続く遺伝子発現研究は、発現ハイブリダイゼーション技術およびQ-PCR解析を介して検査される。SCL、LMO2、GATA-2、GATA-1、runx1、PU.1、およびikarosを含む造血性幹細胞標識は、HSC集団におけるwntシグナル伝達の影響を決定するために関連性があってもよい。同様に最終分化したリンパ球(rag1、LCK、免疫グロブリンT細胞)、骨髄(ミエロペルオキシダーゼ、L-プラスチン)、および赤血球(エリスロポエチン受容体、Erb2)、血液細胞集団ならびに内皮細胞(fli1、flk1、tie2およびtie1)の標識の発現が、wnt誘導および阻害に続いて検査されるであろう。さらに、AGM領域におけるwnt発現は、TOP-FLASHゼブラフィッシュ系統を使用して直接的にモニターされうる。TOP-FLASHレポーターフィッシュは、多量体LEF1結合部位から成る誘導性プロモーター支配下でGFPを発現する。Dorsky et al., 241 Devel. Biol. 229-37 (2002)。レポーターは尾側中胚葉形成において活性型であることが公知である。以前に記載されるように、恐らくcdx4は、wntにより模倣されている可能性がある。TOP-FLASHレポーターの発現は、発達中のAGM領域において詳細に検査されてもよい。wnt経路熱ショックフィッシュは、成体の髄ホメオスタシスにおいてwntシグナル伝達の役割をさらに調査するために有用である。HS wnt8およびHS-DN TCFトランスジェニックフィッシュにおいて、放射線照射に続く腎臓髄質回復を評価することにより、HSC増殖および維持におけるwntシグナル伝達の要求性が解明されるであろう。加えて、正常な髄と比較して、熱ショック誘導された髄を用いた限界希釈、および競合的再増殖研究は有用である。
【0126】
AGM幹細胞のプロスタグランジン誘導を用いたwntおよびnotch経路の関係は、造血においても重要である可能性がある。notch機能欠失およびwnt機能欠失の胚性表現型は非常に類似しており、双方ともにAGM幹細胞の劇的な欠損が誘導される。これにより1つの経路が、他を交差的に制御する可能性があるという仮説が導かれる。本発明者らは、熱ショックwnt8構築物がmindbomb変異体を回復するか、かつ同様にドミナントネガティブTCF変異体が、notch ICDを活性化することにより回復されうるかを評価することを計画する。この型の解析によって、胚発生の間のこれらの経路の活性化の正確なタイミングについて、よりよい理解が導かれるべきである。またそれによって、本発明者らにとって、これらの経路の相互作用についてのより良い理解が許容されるであろう。変異体フィッシュ(および/またはモルホリノ注射されたフィッシュ)もまた、notchおよびwnt欠失ならびに機能獲得表現型と組み合わせて使用されてもよい。上に記載される、およびNotchの特徴付けのための分子標識検査によって、幹細胞誘導および/または幹細胞増殖、再生、および分化を制御するために、双方の経路が協同しているかが確立されるであろう。
【0127】
wnt経路のメンバーは、プロスタグランジンと相互作用することが示されている。例えば、wntにより誘導された直腸癌モデルに関して、Cox1または2を阻害する非ステロイド性剤は癌形成を回避する。上に記載されるように、PGE2はAGMにおける幹細胞の増加を導く。PGE2はwnt欠損胚を回復する可能性がある。COX2阻害剤はHS-wnt8の効果を遮断してもよい。本発明に包含される他のHSC修飾因子は、Wnt経路修飾因子を含む。HSCを阻害することが見出されているWnt経路修飾因子の例は、ケンパウロン(HDAC効果、GSK3bでない)、およびバルプロ酸(HDAC効果、GSK3bでない)である。Wnt経路を修飾することが見出されているHSCエンハンサーは、塩化リチウムおよびBIOである。
【0128】
wntの活性因子、または抑制因子を発現しているトランスジェニックゼブラフィッシュを使用して、動脈-生殖腺-中腎(AGM)領域でのHSCの発達におけるwntシグナル伝達の効果が検査された。wntシグナル伝達の誘導により増大したHSC形成が導かれ、一方阻害によりHSC産生が減少した。成体ゼブラフィッシュにおいて、増加したwnt活性によって、放射線照射後の腎臓髄質回復の間の前駆細胞数が増大した。(PG)E2は脊椎動物においてHSC形成およびホメオスタシスを制御するため、HSC発生の間および髄回復におけるwntおよびPG経路の相互作用が、プロスタグランジンシグナル伝達を制御する薬剤へTOP:dGFP胚を曝露することにより探求された。効力のあるHSC形成の誘導剤であるジメチル-PGE2(dmPGE2)がwntシグナル伝達を増強することが見出され、一方、シクロオキシゲナーゼ阻害剤インドメタシン(indo)はwnt活性の実質的な欠如をもたらした。wnt抑制によるHSC形成阻害は、dmPGE2処置により部分的に回復し、一方wnt過剰発現によるHSCの誘導はindo曝露により逆転した。Indoはまた、成体フィッシュにおける放射線照射後の腎臓髄質前駆体において、wntに媒介される増加も遮断した。PGE2はTOP:galマウスのAGMにおいてwnt活性を誘導し、これはwntおよびPG相互作用、ならびにHSC形成におけるwntの役割の分子的保存を示している。
【0129】
より具体的には、主要な転写媒介因子であるβ-カテニンを通して、Wntシグナル伝達は組織パターン形成、細胞運命決定、ならびに器官の発生および分化を含む多数の胚性状況における増殖の制御において重要な役割を担う。
図10を参照。Wnt活性は成体のHSC自己再生を増加させ、かつNOD/SCIDマウスへのHSC移植に続く幹細胞再増殖を増大させることが示されている。β-カテニンはまた、e10~12のマウス胚のAGM領域において、異なる様式で発現されることも見出されている。ゼブラフィッシュのHSC形成の間にwntシグナル伝達が役割を有するかどうかが、熱ショック誘導性のwnt経路活性因子および抑制因子を使用して決定された。端的には、wnt誘導性胚が収集され、38℃で20分間熱ショックに供された。GFP発現により遺伝子型が分類され、AGM HSCがインサイチューでのrunx1/cmyb発現により解析された。5体節期での熱ショックによるwnt8の誘導によって、36 hpfでAGM中で増加したHSC形成が導かれ、一方dkkおよびdnTCFの誘導によるwntシグナル伝達の抑止により、runx1/cmyb発現が有意に阻害された。これは任意の器官において、wntシグナル伝達がAGM HSC形成に必要とされる最初の証拠である。
【0130】
ゼブラフィッシュでの造血性ホメオスタシスにおける、wntシグナル伝達の役割を調査するために、放射線照射回復アッセイもまた利用された。wnt関連遺伝子を発現するトランスジェニックフィッシュは、亜致死に放射線照射され、かつ放射線照射後2日目に38℃での1晩インキュベーションにより熱ショック遺伝子誘導が開始された。プロスタグランジン実験に関して以前に概略が述べられていたように、腎臓髄質が放射線照射後の様々な時点で収集された。
図11。熱ショックwnt8フィッシュを使用することにより、PGE2で見られたのと同様に、照射後10日目で対照と比較して前駆体集団での増加が実証された。熱ショックdkkまたはdnTCFによるwntシグナル伝達の阻害によって、髄回復の反応速度論を劇的に変化させ、かつ髄再分化の完全な欠損および致死性をもたらしうる。
【0131】
APC変異を有する患者での臨床的経験により、プロスタグランジン合成の阻害が、wntに媒介されるポリープ形成の減少をもたらすことが示されている。さらに、直腸癌細胞株における最近の研究により、プロスタグランジンおよびwntシグナル伝達経路の間の相互作用が示唆されている。これらの相互作用は、wntレポーターゼブラフィッシュトランスジェニック系統であるTOP:dGFPを使用してインビボで検査された。50%被覆原腸胚形成時で、胚は曝露されないか(対照)、インドメタシンまたはPGE2へ曝露され、かつwnt結合部位から駆動されるGFP誘導によって、胚で活性化されるwntシグナル伝達の量が評価された。頭部でのGFP発現の変化の解析は、インサイチューハイブリダイゼーションにより解析された。対照と比較して、PGE2処置はwnt活性を顕著に増大させ、一方インドメタシンはGFP発現を著しく減少させた。
図12。これらのデータは、胚発生の間のwntおよびプロスタグランジン経路の相互作用の最初のインビボ実証例を含む。
【0132】
さらに、インドメタシンおよびdmPGE2は、HSC発生の間および損傷後の髄回復における、wntおよびプロスタグランジン経路の相互作用を調査するために使用された。
図13はPGおよびwnt経路の相互作用の可能な点を反映する。5体節期で熱ショックされたwnt8胚における、runx1/cmyb発現のwntに媒介される増大は、インドメタシンを用いた処置により遮断されうる。さらに、runx1/cmybに関するインサイチューハイブリダイゼーションによって示されるように、dmPGE2は36 hpfでAGM HSC形成のdkk活性化の阻害効果を回復しうる。しかし予備段階的な結果により、dmPGE2処置は、dnTCFを過剰発現する胚においてHSC形成を回復するのに十分ではないことが示される。
【0133】
プロスタグランジン経路の操作によって、成体での腎臓髄質再増殖におけるwnt活性を変化させることが可能であるかを決定するため、dmPGE2およびインドメタシンの効果が、Top:dGFP系統においてさらに検査された。DmPGE2は放射線照射後3日目でwnt活性を有意に増強し、一方インドメタシンはGFP発現を阻害した。
図14。プロスタグランジンシグナル伝達の調節によって、放射線照射後の腎臓髄質回復におけるwntに媒介される効果が改変されうるかどうかを識別するために、放射線照射後2日目に38℃での熱ショック、続いて熱ショック後1日目にプロスタグランジン経路の薬剤へ曝露することにより、wnt遺伝子が活性化された。hs:wnt8-GFPフィッシュはインドメタシンへ曝露され、一方dkk1、axin、およびdnTCFトランスジェニックフィッシュはdmPGE2へ曝露された。全腎臓髄質は、放射線照射後10日目でFACSにより解析された。インドメタシンを用いた処置によって、前駆体細胞集団においてwntに媒介された増大を顕著に減少させることが観察され、PGE2レベルがインビボでwntシグナル伝達を直接的に調節しうることが示唆される。
【0134】
これらの実験によって、PGシグナル伝達の調節を通してのwnt活性の薬理学的操作は、治療的に制御するHSCホメオスタシスに関する新規の手段を提供するであろうことが示唆される。
【0135】
いくつかの態様が、非制限的実施例によってここにさらに記載されるであろう。
【実施例0136】
実施例
実施例1 化学的スクリーニング設計および確認試験
野生型の齢一致した胚が、個々の試験化合物の48穴プレートに配列され(約5胚/穴)、3体節期から36 hpfまで曝露された。3つの化合物ライブラリーが利用された:NINDS Custom Collection (1040)、SpecPlus Collection(960)およびBIOMOL ICCB Known Bioactives(480)。5%(123/2480)の化合物は毒性があり、死亡または顕著な形態学的異常をもたらした。HSCを評価するために、runx1およびcmybに関するインサイチューハイブリダイゼーションが遂行された。化合物は、10μM、20μM、および50μMで再試験された。幹細胞特異性は36 hpfでflk1を使用して評価された。PGE2、PGI2、dmPGE2および全てのcox阻害剤(Sigma)は10μM~20μMで使用された。
【0137】
runx1/cmybの定量的評価(変化したHSCを伴う胚の数/評価された数)が以下の判断基準を使用して実施された:正常/未変化=runx1/cmyb+の内皮細胞の継続的な線および場合により造血性クラスター。減少/欠如=HSC線の大型ギャップ、単離した陽性細胞の存在、または発現の欠如を含むrunx1/cmyb+細胞における減少。増加/過剰=多数のHSCクラスター、HSCの肥厚した線、または異所発現を含むrunx1/cmyb+細胞における増大。
【0138】
共焦点画像解析
36 hpfで処置された生存バイジェニックゼブラフィッシュ胚は、共焦点画像解析のために0.4 mg/mlのトリカイン(Tricaine)-Sを含む1%低融点アガロース中に包埋された。cmyb-GFPトランスジェニックレポーター系統は、cmybプロモーターゲノム配列を含むBACから作成された(Galloway, Zhu, Lin, Zon,未発表);lmo2:DsRedフィッシュは記載されるように作成された27。HSC定量のために、cmyb/lmo2+陽性細胞はzスタック画像の投影法で計測された(n=10/処置)。
【0139】
モルホリノノックダウン
ゼブラフィッシュcox1およびcox2に方向付けられたモルホリノオリゴヌクレオチド(GeneTools)、PGE2合成酵素、ならびにEP2およびEP4(Grosser et al., 2002; Cha et al., 2006, Pina et al., 25 Arterioscler. Thromb. Vasc. Biol. 315-20 (2005))は1細胞期にゼブラフィッシュ胚へ注射された(40μM)。回復実験に関しては、3体節期でMO注射された胚が10μM dmPGE2へ曝露された。
【0140】
マイクロアレイ遺伝子発現プロファイリング
gata1:GFP(12体節)、lmo2:GFP(12体節および35 hpf)およびcd41:GFP(35 hpf)陽性細胞がFACS分類された;全RNAが精製され、以前に記載されたようにAffymetrixゼブラフィッシュ遺伝子チップを使用して解析された。Weber et al., 106 Blood 521-30 (2005)。
【0141】
定量PCR
qPCRが以前に記載されたプライマー対を使用して遂行された。Burns et al,, 19 Genet Devel. 2331-42 (2005)。胚(n=50)は記載のように処置された。qPCR(60℃アニーリング)は、iQ5 Multicolor RTPCR Detection System(BioRad)上でSYBR Green Supermixを使用して遂行され(n=10反復)、かつ相対的発現レベルが決定された。EP2およびEP4に関するプライマー対は、当技術分野で周知の方法により決定された。全KM RNAのqPCR(n=15/変数)は、記載のように放射線照射後3日目に遂行された。Burns et al., 19 Genes Devel. 2331-42 (2005)。S細胞RNAについてのqPCR(Stat-60、Tel-Test中で収集された)は、Stratagene qPCR装置上のStratagene Sybrgreenキットを使用して遂行された。PGプライマー配列は、当技術分野で周知の方法により決定された。
【0142】
質量分光法
PGE2および安定なPGI2代謝産物、6-ケト-PGF1αは、HPLC-直列型質量分析を使用して計測された。ホモゲナイズされた胚からの酢酸エチル抽出物は、内部基準が標識された対応する安定なアイソトープ(d4-PGE2およびd4-6-ケトPGF1α)を用いてスパイクされ、メトキシルアミンと反応させられた。続く質量遷移がモニターされた:m/z 384→272(PGE)、m/z 398→368(6-ケトPGF1αおよびTxB2)。
【0143】
放射線回復アッセイ
成体ゼブラフィッシュは23Gyのγ-線照射に曝露された。照射後2日目で、フィッシュはDMSO対照、dmPGE2(10または50μM)、インドメタシン(10μM)、SC560(10μM)またはNS398(10μM)へ、水中で1晩曝露された。0、2、4、7、10、14日目に単離された全KMは、造血性系譜を同定するためにFSC/SSC FACS解析へ供された(n=5/処置x3反復)。Traver et al,, 104 Blood 12980305 (2004)。
【0144】
ES細胞分化アッセイ
ES細胞造血性分化アッセイは、以前に記載されるよう遂行された。Kyba et al. 100(1) P.N.A.S. USA 11904-10(2003); Wang et al., 102 P.N.A.S. USA 19081-86 (2005)。dmPGE2(10、20または100μM)またはインドメタシン(20、100μM)は、EB増殖の間4日目および5日目に添加された。M3434メチルセルロースコロニー形成、およびOP9コロニーアッセイは6日目に実施され、各々8日目、5日目に解析された。コロニー型は形態学的解析により同定された;報告されたコロニー数を決定するために、2回の化学物質曝露が平均化された(最低限n=3の反復)。
【0145】
マウスコロニー形成単位-脾臓(CFU-S)
8週齢のC57B1/6マウス大腿骨由来のWBM細胞は、dmPGE2(1μM/106細胞)、インドメタシン、SC560、NS398またはEtOH対照と共に氷上で2時間、エクスビボにてインキュベーションされた。各変数に関して、2つの独立したBM試料が処置された(n=5/処置x2回反復)。受容個体マウスは、10 Gyの分割線量を用いて致死の状態に放射線照射された。6x104個の非分画dmPGE2、または対照処置されたBM細胞が、照射された受容個体マウスの眼窩後方へ注射された。8日目または12日目に脾臓が解剖され、計量され、Bouin溶液を用いて固定された;脾臓当りの造血性コロニーが計測された。1x105細胞/受容個体がcox阻害剤を用いた処置後に移植された。FACS分類されたckit+sca1+lineage-BM細胞は上のように処置され、100細胞/受容個体または300細胞/受容個体のいずれかの用量で移植された。
【0146】
5-フルオロウラシル骨髄損傷
マウスは記載されるように5-FU(150 mg/kg)を用いて処置された。Venezia et al., 2004。注射後1、5、9、13、17日目にSC560、NS398、dmPGE2(1 mg/kg)またはEtOH対照がIP注射により投与された。末梢血液は7日目および14日目で得られ、定量され、B220/IgM(Bリンパ球)、CD4/8(Tリンパ球)、Mac1/Gr1(骨髄)、Ter119/CD71(赤血球)およびckit/sca1(幹細胞/前駆体)に対する抗体(eBioscience)を使用して多重系譜FACS解析へ供された。マウスは16日目に犠牲にされ、骨髄が単離され、定量され、FACSにより解析された。
【0147】
限界希釈競合的移植
CD45.1 C57B1/6マウスからのWBMは、記載されるようにdmPGE2またはEtOH対照とエクスビボでインキュベーションされた。処置試験細胞は、以下の割合で未処理CD45.1/CD45.2競合体と共に放射線照射されたCD45.2受容個体へ独立に移植された(n=5/変数x2):15,000:200,000(0.075:1)、50,000:200,000(0.25:1)、200,000:200,000(1:1)、2,000,000:200,000(10:1)。末梢血液(PB)が移植後6、12、24週目で得られ、全血液細胞は、各処置系列集団に関する試験再構成を決定するためにFACS解析された。5%超のPBキメラ化頻度が、L-Calcプログラムを使用して再増殖細胞数を算出するために使用された(Stem Cell Technologies)。12週および24週のPB試料に関しては、多重系譜再構成は上のようなFACS解析により計測された。
【0148】
実施例2 さらなるHSC調節物質
ゼブラフィッシュ胚は、上に記載されるようスクリーニングされた。本明細書で記載される技術により同定され、かつ本発明により包含されるHSC調節物質の他の群は、PGシグナル伝達の下流である可能性があるcAMP/P13K/AKT二次メッセンジャー修飾因子である。HCSを阻害するものは、PD9805、KT5720、H89、U0126およびワートマニンを含む。HSCを増強するものは、8-ブロモ-cAMPおよびフォルスコリンを含む。
【0149】
PGシグナル伝達の下流で作用する可能性もあるHSC修飾因子の別の群は、Ca2+二次メッセンジャー修飾因子である。これらは表9に列挙されるHSC阻害剤、およびHSC増強剤を含む。
【0150】
【0151】
本明細書で記載されるスクリーニング技術により記載され、かつ本発明により包含されるHSC修飾因子のさらなる群は、PGおよびwntシグナル伝達を相互作用する可能性があるNO/アンジオテンシンシグナル伝達修飾因子である。これらは表10に列挙されるHSC阻害剤およびHSC増強剤を含む。
【0152】
(表10)NO/アンジオテンシンシグナル伝達修飾因子の例
【0153】
本発明のゼブラフッィシュスクリーニング方法はまた、PGまたはwntシグナル伝達との相互作用が現在明確でない他のHSC調節物質を同定するためにも適用された。また、本発明に包含されるこれらの化合物は、表11に示されるようなHCSを阻害または増大させるものを含む。
【0154】