(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023112071
(43)【公開日】2023-08-10
(54)【発明の名称】算出装置、制御方法、プログラム及び記憶媒体
(51)【国際特許分類】
B60W 40/114 20120101AFI20230803BHJP
【FI】
B60W40/114
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023101651
(22)【出願日】2023-06-21
(62)【分割の表示】P 2021132334の分割
【原出願日】2016-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000005016
【氏名又は名称】パイオニア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107331
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 聡延
(72)【発明者】
【氏名】加藤 正浩
(72)【発明者】
【氏名】新原 諒子
(57)【要約】
【課題】ヨー角を高精度に推定することが可能な算出装置を提供する。
【解決手段】制御部15は、ライダ12の出力に基づく計測ヨー角Ψ
Lの算出が可能と判断した場合には、計測ヨー角Ψ
Lを推定ヨー角Ψ
Eとして算出すると共に、ジャイロ感度係数A、ジャイロオフセット係数B、操舵角感度係数C、操舵角オフセット係数Dのキャリブレーション処理を行う。一方、制御部15は、計測ヨー角Ψ
Lの算出が不可と判断した場合には、キャリブレーションされた最新のジャイロ感度係数A及びジャイロオフセット係数Bに基づきジャイロセンサベースヨーレートΨ
・
Gを算出すると共に、操舵角感度係数C及び操舵角オフセット係数Dに基づき操舵角ベースヨーレートΨ
・
Sを算出し、これらの算出値の信頼度に応じた重み付けを行うことで、推定ヨー角Ψ
Eを算出するための推定ヨーレートΨ
・
Eを算出する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体に関する情報に基づき、前記移動体の第2ヨーレートを算出するための算出情報を補正する補正部を備え、
前記補正部は、移動体の周辺の情報から取得する第1ヨーレートを取得できる場合、前記算出情報を補正することを特徴とする算出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動体のヨー角を高精度に推定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、自車両のヨーレートを推定する技術が知られている。例えば、特許文献1には、固定物の自車両に対する相対位置の変化に基づいて、自車両のヨーレートを推定してヨーレートセンサのずれを補正する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の方法によれば、移動体の周辺に固定物が存在するときには、高精度に自車両のヨーレートを推定することができる。一方、移動体の周辺に固定物が存在しない状況が続くときに高精度に自車両のヨーレートを取得する方法については開示されていない。
【0005】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、ヨー角を高精度に推定することが可能な算出装置を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の発明は、算出装置であって、移動体の周辺の情報から取得する前記移動体の第1ヨーレート及び前記移動体に関する情報に基づき、前記移動体の第2ヨーレートを算出するための算出情報を補正する補正部と、前記第1ヨーレートを取得できる場合、前記第1ヨーレートを前記第2ヨーレートとすると共に前記算出情報を補正し、前記第1ヨーレートを取得できない場合、前記移動体に関する情報及び補正された算出情報に基づき前記第2ヨーレートを算出する制御部と、を備えることを特徴とする。
【0007】
また、請求項6に記載の発明は、算出装置が実行する制御方法であって、移動体の周辺の情報から取得する前記移動体の第1ヨーレート及び前記移動体に関する情報に基づき、前記移動体の第2ヨーレートを算出するための算出情報を補正する補正工程と、前記第1ヨーレートを取得できる場合、前記第1ヨーレートを前記第2ヨーレートとすると共に前記算出情報を補正し、前記第1ヨーレートを取得できない場合、前記移動体に関する情報及び補正された算出情報に基づき前記第2ヨーレートを算出する制御工程と、を有することを特徴とする。
【0008】
また、請求項7に記載の発明は、コンピュータが実行するプログラムであって、移動体の周辺の情報から取得する前記移動体の第1ヨーレート及び前記移動体に関する情報に基づき、前記移動体の第2ヨーレートを算出するための算出情報を補正する補正部と、前記第1ヨーレートを取得できる場合、前記第1ヨーレートを前記第2ヨーレートとすると共に前記算出情報を補正し、前記第1ヨーレートを取得できない場合、前記移動体に関する情報及び補正された算出情報に基づき前記第2ヨーレートを算出する制御部として前記コンピュータを機能させることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図2】車両を基準とするヨー、ロール、ピッチの各回転方向を明示した図である。
【
図3】推定ヨー角算出処理の概要を示すフローチャートである。
【
図4】(A)は、真のヨーレートの時間推移に対し、計測間隔ごとに得られる推定ヨーレートに基づく台形近似の図である。(B)は、真のヨーレートの時間推移に対し、計測間隔ごとに得られる推定ヨーレートに基づく短冊近似の図である。
【
図5】(A)は、横軸を真のヨーレート、縦軸を検出ヨーレートとした場合の両者の関係を示すグラフであり、(B)は、横軸を検出ヨーレート、縦軸を真のヨーレートとした場合の両者の関係を示すグラフである。
【
図7】(A)は、乾燥路面、湿潤路面、凍結路面のそれぞれに対する車輪横滑り角と横力との関係を示す。(B)は、車輪横滑り角が一定の場合のスリップ率と横力との関係を示す。
【
図8】(A)は、遠心力が働かない低速状態で車両が定常円旋回を行っているときの2輪モデルでの車両の状態を特定する各記号を示した図である。(B)は、遠心力が働く高速状態で車両が定常円旋回を行っているときの2輪モデルでの車両の状態を特定する各記号を示した図である。
【
図9】(A)は、カーブを走行中の車両の状態を示す。(B)は、横傾斜路面を走行中の車両の状態を示す。(C)は、車両の走行時に車輪に発生する駆動力、横力、及びコーナリングフォースの関係を示す。
【
図10】荷重とコーナリングフォースとの関係を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の好適な実施形態によれば、算出装置は、移動体の周辺の情報から取得する前記移動体の第1ヨーレート及び前記移動体に関する情報に基づき、前記移動体の第2ヨーレートを算出するための算出情報を補正する補正部と、前記第1ヨーレートを取得できる場合、前記第1ヨーレートを前記第2ヨーレートとすると共に前記算出情報を補正し、前記第1ヨーレートを取得できない場合、前記移動体に関する情報及び補正された算出情報に基づき前記第2ヨーレートを算出する制御部と、を備える。
【0011】
上記算出装置は、補正部と、制御部とを備える。補正部は、移動体の周辺の情報から取得する移動体の第1ヨーレート及び移動体に関する情報に基づき、移動体の第2ヨーレートを算出するための算出情報を補正する。制御部は、第1ヨーレートを取得できる場合、第1ヨーレートを第2ヨーレートとすると共に算出情報を補正する。一方、制御部は、第1ヨーレートを取得できない場合、移動体に関する情報及び補正された算出情報に基づき第2ヨーレートを算出する。この態様では、算出装置は、移動体の周辺の情報に基づき高精度な第1ヨーレートが算出できるときに、第1ヨーレートが算出できない場合に使用する算出情報を補正する。これにより、算出装置は、第1ヨーレートが算出できない場合であっても、補正された算出情報を用いることで、信頼性の高い第2ヨーレートを算出することができる。
【0012】
上記算出装置の一態様では、算出装置は、前記移動体に搭載される角速度センサの出力及び前記算出情報に基づき前記移動体のヨーレートを算出する第1算出部と、前記移動体の操舵角及び速度と前記算出情報とに基づき前記移動体のヨーレートを算出する第2算出部と、前記第1算出部が算出したヨーレートと前記第2算出部が算出したヨーレートとに基づき、前記第2ヨーレートを算出する第3算出部と、を備える。この態様では、算出装置は、第1ヨーレートが算出できない場合であっても、異なる方法により第1及び第2算出部が算出情報を用いてそれぞれ算出した2つのヨーレートに基づき、信頼性の高い第2ヨーレートを好適に算出することができる。
【0013】
上記算出装置の他の一態様では、前記補正部は、前記移動体の周辺の情報から取得する前記第1ヨーレート及び前記移動体の速度に基づき、前記第1算出部がヨーレートを算出するために必要な第1変換情報と、前記第2算出部がヨーレートを算出するために必要な第2変換情報とを、それぞれ前記算出情報として補正する。このように、算出装置は、移動体の周辺の情報に基づき高精度な第1ヨーレートが算出できるときに第1及び第2算出部がヨーレートの算出に必要な第1及び第2変換情報を更新することで、第1ヨーレートが算出できない場合であっても、高精度な第2ヨーレートを算出することができる。
【0014】
上記算出装置の他の一態様では、前記第3算出部は、前記算出情報を補正してからの温度変化量、前記移動体の横加速度の変化量、及び前記移動体のロール角の変化量の少なくとも1つに基づき、前記第2ヨーレートを算出する際の前記第1算出部が算出したヨーレート及び前記第2算出部が算出したヨーレートに対する重み付けを決定する。この態様では、算出装置は、算出情報に誤差を生じさせる各変化量を勘案し、第1及び第2算出部が算出したヨーレートの信頼度に応じた重み付けを的確に行って第2ヨーレートを算出することができる。
【0015】
上記算出装置の他の一態様では、前記第3算出部は、前記温度変化量、前記横加速度の変化量、及び前記ロール角の変化量に加えて、前記算出情報を補正してからの前記移動体の縦加速度の変化量及び前記移動体のピッチ角の変化量の少なくとも1つに基づき、前記第2ヨーレートを算出する際の前記第1算出部が算出したヨーレート及び前記第2算出部が算出したヨーレートに対する重み付けを決定する。この態様では、算出装置は、算出情報に誤差を生じさせる変化量に加えて、算出情報に誤差を生じさせる蓋然性が高い変化量をさらに勘案し、第1及び第2算出部が算出したヨーレートの信頼度に応じた重み付けを的確に行って第2ヨーレートを算出することができる。
【0016】
本発明の他の好適な実施形態によれば、算出装置が実行する制御方法であって、移動体の周辺の情報から取得する前記移動体の第1ヨーレート及び前記移動体に関する情報に基づき、前記移動体の第2ヨーレートを算出するための算出情報を補正する補正工程と、前記第1ヨーレートを取得できる場合、前記第1ヨーレートを前記第2ヨーレートとすると共に前記算出情報を補正し、前記第1ヨーレートを取得できない場合、前記移動体に関する情報及び補正された算出情報に基づき前記第2ヨーレートを算出する制御工程と、を有する。算出装置は、この制御方法を実行することで、第1ヨーレートが算出できない場合であっても、補正された算出情報を用いることで、信頼性の高い第2ヨーレートを算出することができる。
【0017】
本発明の他の好適な実施形態によれば、コンピュータが実行するプログラムであって、移動体の周辺の情報から取得する前記移動体の第1ヨーレート及び前記移動体に関する情報に基づき、前記移動体の第2ヨーレートを算出するための算出情報を補正する補正部と、前記第1ヨーレートを取得できる場合、前記第1ヨーレートを前記第2ヨーレートとすると共に前記算出情報を補正し、前記第1ヨーレートを取得できない場合、前記移動体に関する情報及び補正された算出情報に基づき前記第2ヨーレートを算出する制御部として前記コンピュータを機能させる。算出装置は、このプログラムを実行することで、第1ヨーレートが算出できない場合であっても、補正された算出情報を用いることで、信頼性の高い第2ヨーレートを算出することができる。好適には、上記プログラムは、記憶媒体に記憶される。
【実施例0018】
以下、図面を参照して本発明の好適な各実施例について説明する。なお、任意の記号の上に「・」が付された文字を、本明細書では便宜上、「A・」(「A」は任意の記号)と表す。
【0019】
[概略構成]
図1は、本実施例に係る車載機1の概略構成図である。車載機1は、車載機1が搭載された車両のヨー角を高精度に推定する装置であって、主に、センサ群11と、記憶部12と、入力部14と、制御部15と、出力部16とを有する。車載機1は、本発明における「算出装置」の一態様である。
【0020】
センサ群11は、主にライダ(Lidar:Light Detection and Ranging、または、Laser Illuminated Detection And Ranging)21、車速センサ22、加速度センサ23、ジャイロセンサ24、傾斜センサ25、温度センサ26、GPS受信機27、及び操舵角センサ28を有する。
【0021】
ライダ21は、パルスレーザを出射することで、外界に存在する物体までの距離を離散的に測定する。ライダ21は、パルスレーザが反射された物体までの距離と、当該パルスレーザの出射角度との組により示された計測点の点群を出力する。本実施例では、ライダ21は、道路付近に設けられたランドマークの検出に用いられる。ランドマークは、例えば、道路脇に周期的に並んでいるキロポスト、100mポスト、デリニエータ、交通インフラ設備(例えば標識、方面看板、信号)、電柱、街灯などの地物である。
【0022】
車速センサ22は、車両の車輪の回転に伴って発生されているパルス信号に基づく車体速度を計測する。加速度センサ23は、車両の進行方向(「縦方向」とも呼ぶ。)における加速度及び車両の側面方向(「横方向」とも呼ぶ。)における加速度を検出する。以後では、加速度センサ23により検出する車両の縦方向における加速度を「検出縦加速度」、横方向における加速度を「検出横加速度」と呼ぶ。
【0023】
ジャイロセンサ24は、車両の垂直方向(即ち高さ方向)を軸とした角度(単に「ヨー角」とも呼ぶ。)の回転角速度を検出する。
図2は、車両を基準とするヨー、ロール、ピッチの各回転方向を明示した図である。本実施例では、進行方向を軸とした回転角度を「ロール角φ」、横方向を軸とした回転角度を「ピッチ角θ」、垂直方向を軸とした回転角度を「ヨー角Ψ」と表記する。例えば、ロール角φ及びピッチ角θは水平面を0度とする角度を示し、ヨー角Ψは所定の方角を0度とする角度を示す。同様に、本実施例では、進行方向を軸とした回転角速度を「ロールレートφ
・」、横方向を軸とした回転角速度を「ピッチレートθ
・」、垂直方向を軸とした回転角速度を「ヨーレートΨ
・」と表記する。
【0024】
再び
図1を参照して車載機1の各構成要素について説明する。傾斜センサ25は、車両の水平面に対するピッチ方向及びロール方向での傾斜角を検出する。以後では、傾斜センサ25が出力するピッチ方向の傾斜角を「検出ピッチ角」と呼び、ロール方向での傾斜角を「検出ロール角」とも呼ぶ。温度センサ26は、ジャイロセンサ24の周辺での温度を検出する。温度センサ26が出力する検出温度を以後では「検出温度」と呼ぶ。GPS受信機27は、複数のGPS衛星から、測位用データを含む下り回線データを搬送する電波を受信することで、車両の絶対的な位置を検出する。操舵角センサ28は、車両の操舵角を検出する。以後では、操舵角センサ28が検出する操舵角を「検出操舵角」と呼ぶ。センサ群11の各センサの出力は、制御部15に供給される。
【0025】
なお、センサ群11の一部又は全部は、車両に備わるセンサであってもよい、この場合には、制御部15は、CANなどの所定の通信プロトコルにより、車両に備わるセンサの出力を車両から取得する。
【0026】
記憶部12は、制御部15が実行するプログラムや、制御部15が所定の処理を実行するのに必要な情報を記憶する。本実施例では、記憶部12は、道路データ及びランドマークの情報を含む地図データベース(DB)10を記憶する。なお、地
図DB10は、定期的に更新されてもよい。この場合、例えば、制御部15は、図示しない通信部を介し、地図情報を管理するサーバ装置から、自車位置が属するエリアに関する部分地図情報を受信し、地
図DB10に反映させる。なお、記憶部12が地
図DB10を記憶する代わりに、車載機1と通信可能なサーバ装置が地
図DB10を記憶してもよい。この場合、制御部15は、サーバ装置と通信を行うことにより、地
図DB10から必要なランドマークの情報等を取得する。
【0027】
入力部14は、ユーザが操作するためのボタン、タッチパネル、リモートコントローラ、音声入力装置等であり、出力部16は、例えば、制御部15の制御に基づき出力を行うディスプレイやスピーカ等である。
【0028】
制御部15は、プログラムを実行するCPUなどを含み、車載機1の全体を制御する。本実施例では、制御部15は、ヨー角推定部17とキャリブレーション部18とを有する。
【0029】
ヨー角推定部17は、自車位置の算出等の他の処理に用いるための、ヨー角の推定値(「推定ヨー角ΨE」とも呼ぶ。)を算出する。ここで、ヨー角推定部17は、ライダ21の出力に基づくヨー角の推定が可能な場合には、ライダ21の出力に基づき計測した車両のヨー角(「計測ヨー角ΨL」とも呼ぶ。)を推定ヨー角ΨEとして設定する。一方、ヨー角推定部17は、計測ヨー角ΨLが算出できない場合、まず、推定ヨー角ΨEを算出するためのヨーレートの推定値(「推定ヨーレートΨ・
E」とも呼ぶ。)を算出する。この場合、ヨー角推定部17は、ジャイロセンサ24の出力に基づくヨーレートの推定値(「ジャイロセンサベースヨーレートΨ・
G」とも呼ぶ。)と、車体速度及び操舵角に基づくヨーレートの推定値(「操舵角ベースヨーレートΨ・
S」とも呼ぶ。)とをそれぞれ算出し、これらの推定値に対して所定の重み付けを行うことで推定ヨーレートΨ・
Eを算出する。そして、ヨー角推定部17は、現在の処理時刻(「時刻t」とも呼ぶ。)の推定ヨーレートΨ・
Eと、前回の処理時刻(「時刻t-1」とも呼ぶ。)で算出した推定ヨー角ΨE及び推定ヨーレートΨ・
Eとに基づき、時刻tの推定ヨー角ΨEを算出する。推定ヨーレートΨ・
Eは本発明における「第2ヨーレート」の一例である。
【0030】
キャリブレーション部18は、ライダ21の出力に基づきヨー角の推定が可能な場合には、計測ヨー角ΨLに基づき、ジャイロセンサ24が検出したヨーレートをジャイロセンサベースヨーレートΨ・
Gに変換するのに必要な係数であるジャイロ感度係数「A」及びジャイロオフセット係数「B」のキャリブレーションを行う。さらに、キャリブレーション部18は、ライダ21の出力に基づき計測した車両速度(「計測車体速度VL」とも呼ぶ。)と計測ヨー角ΨLとに基づき、操舵角センサ28が検出した検出操舵角を操舵角ベースヨーレートΨ・
Sに変換するのに必要な係数である操舵角感度係数「C」及び操舵角オフセット係数「D」のキャリブレーションを行う。各係数A~Dの詳細については後述する。ジャイロ感度係数A及びジャイロオフセット係数Bは、本発明における「算出情報」及び「第1変換情報」の一例であり、操舵角感度係数C及び操舵角オフセット係数Dは、本発明における「算出情報」及び「第2変換情報」の一例である。
【0031】
なお、制御部15は、本発明における「第1算出部」、「第2算出部」、「第3算出部」、「制御部」、「補正部」、及びプログラムを実行するコンピュータの一例である。また、ライダ21で検出する周辺物体までの距離や方向に関する情報は、本発明における「移動体の周辺の情報」の一例である。
【0032】
[推定ヨー角算出処理の概要]
次に、制御部15が実行する推定ヨー角ΨEの算出方法の概要について説明する。概略的には、制御部15は、計測ヨー角ΨLの算出が可能と判断した場合には、計測ヨー角ΨLを推定ヨー角ΨEとして算出すると共に、ライダ21の出力に基づき係数A~Dのキャリブレーション処理を行う。一方、制御部15は、計測ヨー角ΨLの算出が不可と判断した場合には、キャリブレーションされた最新の係数A~Dを用いて、ジャイロセンサベースヨーレートΨ・
G及び操舵角ベースヨーレートΨ・
Sをそれぞれ算出し、これらの算出値の信頼度に応じた重み付けを行うことで、推定ヨー角ΨEの算出に必要な推定ヨーレートΨ・
Eを算出する。
【0033】
具体的には、制御部15は、ライダ21によるヨー角の計測に必要なランドマークがライダ21の測定範囲内に存在すると判断した場合には、ライダ21の出力に基づき特定される当該ランドマークの相対位置の変化及び相対的な方向の変化に基づき、計測車体速度VLと計測ヨー角ΨLをそれぞれ算出する。また、制御部15は、算出した計測車体速度VLと計測ヨー角ΨLとを用いて、係数A~Dのキャリブレーションを実行する。計測ヨー角ΨLの算出可否判定及びキャリブレーション方法については、[推定ヨー角算出処理の詳細]のセクションで説明する。
【0034】
一方、制御部15は、計測ヨー角ΨLの算出が不可と判断した場合には、処理基準となる現時刻tでのジャイロセンサベースヨーレートΨ・
G[t]を、現時刻tにおいてジャイロセンサ24が出力するヨーレート(「検出ヨーレート」とも呼ぶ。)「ω[t]」と、ジャイロ感度係数A及びジャイロオフセット係数Bとを用いて、以下の式(1)により算出する。
【0035】
【数1】
また、制御部15は、現時刻tでの操舵角ベースヨーレートΨ
・
S[t]を、現時刻tにおける車体速度の推定値である推定車体速度「V
E[t]」と、現時刻tでの検出操舵角「S[t]」と、操舵角感度係数C及び操舵角オフセット係数Dとを用いて、以下の式(2)により算出する。
【0036】
【数2】
ここで、推定車体速度V
E[t]は、ライダ21や車速センサ22などのセンサ群11の出力に基づき計測又は推定した車体速度であり、本実施例では特にその導出方法は限定されない。式(1)及び式(2)の導出方法については[推定ヨー角算出処理の詳細]のセクションで詳しく説明する。
【0037】
次に、ジャイロセンサベースヨーレートΨ・
G及び操舵角ベースヨーレートΨ・
Sから推定ヨーレートΨ・
Eを算出するための重み付けについて説明する。
【0038】
制御部15は、最後にキャリブレーションを実施した時刻「t0」(即ち最後に計測ヨー角ΨL及び計測車体速度VLを算出した時刻)と現時刻tとでの検出温度の差分(「温度差ΔT」とも呼ぶ。)、検出縦加速度の差分(「縦方向加速度差Δαx」とも呼ぶ。)、検出横加速度の差分(「横方向加速度差Δαy」とも呼ぶ。)、検出ピッチ角の差分(「ピッチ角度差Δθ」とも呼ぶ。)、及び検出ロール角の差分(「ロール角度差Δφ」とも呼ぶ。)をそれぞれ算出する。そして、制御部15は、温度差ΔTが大きいほど、ジャイロセンサベースヨーレートΨ・
Gが操舵角ベースヨーレートΨ・
Sよりも精度が低いと判断し、ジャイロセンサベースヨーレートΨ・
Gに対する重み付けを、操舵角ベースヨーレートΨ・
Sに対する重み付けよりも小さくする。また、制御部15は、縦方向加速度差Δαx、横方向加速度差Δαy、ピッチ角度差Δθ、又はロール角度差Δφが大きいほど、操舵角ベースヨーレートΨ・
SがジャイロセンサベースヨーレートΨ・
Gよりも精度が低いと判断し、操舵角ベースヨーレートΨ・
Sに対する重み付けを、ジャイロセンサベースヨーレートΨ・
Gに対する重み付けよりも小さくする。
【0039】
以上を勘案し、本実施例では、重み付け方法の一例として、制御部15は、以下の式(3)に基づき、操舵角ベースヨーレートΨ・
S及びジャイロセンサベースヨーレートΨ・
Gから推定ヨーレートΨ・
Eを算出する。
【0040】
【数3】
好適には、温度差ΔT、縦方向加速度差Δα
x、横方向加速度差Δα
y、ピッチ角度差Δθ、ロール角度差Δφの各差分値は、およそ同一範囲の値域(例えば0から1の範囲)になるように正規化されるとよい。
【0041】
図3は、本実施例に係る推定ヨー角算出処理の概要を示すフローチャートである。
【0042】
まず、制御部15は、時刻tでの温度「T」を温度センサ26により検出し、時刻tでの縦加速度「αx」及び横加速度「αy」を加速度センサ23により検出し、ピッチ角「θ」及びロール角「φ」を傾斜センサ25によりそれぞれ検出する(ステップS101)。
【0043】
次に、制御部15は、ライダ21による車体速度及びヨー角の計測が可能か否か判定する(ステップS102)。即ち、制御部15は、計測車体速度VL及び計測ヨー角ΨLを算出可能か否か判定する。この判定方法の詳細については後述する。そして、制御部15は、ライダ21による車体速度及びヨー角の計測が可能であると判断した場合(ステップS102;Yes)、ステップS103~ステップS107の処理を実行する。一方、制御部15は、ライダ21による車体速度及びヨー角の計測ができないと判断した場合(ステップS102;No)、ステップS108~S112の処理を実行する。
【0044】
まず、ライダ21による車体速度及びヨー角の計測が可能な場合に実行するステップS103~ステップS107の処理について説明する。
【0045】
制御部15は、ライダ21の出力から公知の方法に基づき現時刻tでの計測ヨー角ΨL[t]を算出し、現時刻tでの推定ヨー角ΨE[t]として設定する(ステップS103)。そして、制御部15は、算出した現時刻tでの計測ヨー角ΨL[t]から現時刻tでの計測ヨーレート「Ψ・
L[t]」を算出する(ステップS104)。計測ヨーレートΨ・
L[t]は、本発明における「第1ヨーレート」の一例である。ここで、現時刻tと前の時刻t-1との計測間隔「δt」が十分に短い場合には、計測ヨーレートΨ・
L[t]は、時刻t-1から時刻tまでの計測ヨー角ΨLの単位時間当たりの変化を示す以下の式(4)により算出される。
【0046】
【数4】
次に、制御部15は、計測ヨーレートΨ
・
L[t]とジャイロセンサ24が出力する検出ヨーレートω[t]から、ジャイロ感度係数Aとジャイロオフセット係数Bをそれぞれ算出する(ステップS105)。さらに、制御部15は、時刻tでの計測ヨーレートΨ
・
L[t]と計測車体速度V
L[t]と検出操舵角S[t]から、操舵角感度係数C及び操舵角オフセット係数Dをそれぞれ算出する(ステップS106)。ステップS105及びステップS106の処理の詳細については後述する。
【0047】
そして、制御部15は、ステップS101で検出した温度T、縦加速度αx、横加速度αy、ピッチ角θ、ロール角φを、それぞれ、検出温度「T0」、検出縦加速度「αx0」、検出横加速度「αy0」、検出勾配角「θ0」、検出ロール角「φ0」として保存する(ステップS107)。そして、再びステップS101へ処理を戻す。
【0048】
次に、ライダ21による車体速度及びヨー角の計測ができない場合に実行するステップS108~ステップS112の処理について説明する。
【0049】
制御部15は、ジャイロセンサ24が出力する検出ヨーレートω[t]と、ステップS105で算出された最新のジャイロ感度係数A及びジャイロオフセット係数Bとから、式(1)に基づき時刻tにおけるジャイロセンサベースヨーレートΨ・
G[t]を算出する(ステップS108)。次に、制御部15は、検出操舵角S[t]、推定車体速度VE[t]、ステップS106で算出された最新の操舵角感度係数C及び操舵角オフセット係数Dを用いて、式(2)に基づき、時刻tにおける操舵角ベースヨーレートΨ・
S[t]を算出する(ステップS109)。そして、制御部15は、最後にステップS105及びS106のキャリブレーションを実施した時刻t0と現時刻tとの間に生じた温度差ΔT(=T-T0)、縦加速度差Δαx(=αx―αx0)、横方向加速度差Δαy(=αy-αy0)、ピッチ角差Δθ(=θ-θ0)、ロール角差Δφ(=φ-φ0)をそれぞれ算出する(ステップS110)。そして、制御部15は、ステップS108で算出したジャイロセンサベースヨーレートΨ・
G[t]、ステップS109で算出した操舵角ベースヨーレートΨ・
S[t]、ステップS110で算出した各差分値ΔT、Δαx、Δαy、Δθ、Δφに基づき、式(3)に従い、時刻tにおける推定車体速度VEを算出する(ステップS111)。
【0050】
このように、制御部15は、ランドマークによるライダ21のヨー角等の計測を実施する毎に、ライダ21のヨー角計測ができない場合に算出するジャイロセンサベースヨーレートΨ・
G及び操舵角ベースヨーレートΨ・
Sの算出に必要なジャイロ感度係数A、ジャイロオフセット係数B、操舵角感度係数C、及び操舵角オフセット係数Dのキャリブレーションを行う。これにより、制御部15は、ライダ21のヨー角計測ができない場合に算出するジャイロセンサベースヨーレートΨ・
G及び操舵角ベースヨーレートΨ・
Sの信頼性を好適に維持することができる。また、制御部15は、計測ヨー角ΨLを算出できない場合に、上述した重み付けにより推定ヨー角ΨEを算出することで、温度変化(即ち温度差ΔT)に対して誤差が大きくなるジャイロセンサベースヨーレートΨ・
Gと、縦加速度変化(即ち縦加速度差Δαx)と横加速度変化(即ち横方向加速度差Δαy)とピッチ角変化(即ちピッチ角差Δθ)とロール角変化(即ちロール角差Δφ)に対して誤差が大きくなる操舵角ベースヨーレートΨ・
Sのそれぞれの欠点を好適に補うことができる。
【0051】
その後、制御部15は、前処理時刻t-1での推定ヨー角ΨE[t-1]及び推定ヨーレートΨ・
E[t-1]と、現在時刻tでの推定ヨーレートΨ・
E[t]とから、台形近似に基づき、現在時刻tでの推定ヨー角ΨE[t]を以下の式(5)により算出する(ステップS112)。
【0052】
【数5】
ここで、ステップS112の処理について補足説明する。
【0053】
図4(A)は、真のヨーレートの時間推移に対し、計測間隔δtごとに得られる推定ヨーレートΨ
・
Eに基づく台形近似の図である。この例では、時刻t-1と時刻tとの間に挟まれた台形領域70の面積を、時刻t-1から時刻tまでの間に増減したヨー角とみなす。ここで、台形領域70の面積は、上述の式(5)の第2項に相当する。従って、現在時刻tでの推定ヨー角Ψ
E[t]は、式(5)に示すように、一時刻前の推定ヨー角Ψ
E[t-1]に台形領域70の面積を足した値となる。
【0054】
なお、制御部15は、台形近似に代えて、短冊(矩形)近似に基づき推定ヨー角ΨE[t]を算出してもよい。
【0055】
図4(B)は、真のヨーレートの時間推移に対し、計測間隔δtごとに得られる推定ヨーレートΨ
・
Eに基づく短冊近似の図である。この例では、時刻t-1と時刻tとの間に挟まれた短冊領域71の面積を、時刻t-1から時刻tまでの間に増減したヨー角とみなす。ここで、短冊領域71の面積は、長辺に相当する推定ヨーレートΨ
・
E[t-1]と、短辺に相当する計測間隔δtとを乗算した値となるため、現在時刻tでの推定ヨー角Ψ
E[t]は、以下の式(6)により表される。
【0056】
【数6】
このように、制御部15は、式(5)又は式(6)のいずれによっても、好適に推定ヨーレートΨ
・
E[t]から推定ヨー角Ψ
E[t]を算出することができる。
【0057】
[推定ヨー角算出処理の詳細]
(1)係数A,B及びジャイロセンサベースヨーレートΨ・
Gの算出
まず、ジャイロ感度係数A及びジャイロオフセット係数Bのキャリブレーションについて説明する。
【0058】
図5(A)は、横軸を真のヨーレート、縦軸をジャイロセンサ24による検出ヨーレートωとした場合の両者の関係を示すグラフである。
図5(A)に示すように、一般的にジャイロセンサは直線性が高いため、真のヨーレートと検出ヨーレートωとは、ほぼ一次式の関係となる。さらに、
図5(A)の横軸と縦軸を入れ替えたものが
図5(B)である。
図5(B)において、グラフの傾きは検出ヨーレートωの変化に対する真のヨーレートの変化の割合を示すジャイロ感度係数Aであり、グラフの切片は検出ヨーレートωが0のときの真の加速度を示すジャイロオフセット係数Bである。また、
図5(A)に示すグラフの傾きに相当する感度は、感度係数Aを用いて「1/A」と表され、上述のグラフの切片に相当するオフセットは、感度係数A及びオフセット係数Bを用いて「-B/A」と表される。
【0059】
このように、ジャイロセンサ24により検出する検出ヨーレートωは、感度とオフセットとを持つため、真のヨーレートΨ・は、検出ヨーレートωを用いて、
Ψ・=Aω+B
と表される。ここで、ライダ21により算出した計測ヨーレートΨ・
Lは真のヨーレートと見なせるので、時刻tでの計測ヨーレートΨ・
L[t]は、
Ψ・
L[t]=Aω[t]+B
となる。ここで、
x[t]=ω[t]
y[t]=Ψ・
L[t]
とすると、上記の式は、以下の式(7)により表される。
【0060】
【数7】
式(7)は1次式であるため、x[t]、y[t]の組が複数あれば、ジャイロ感度係数A及びジャイロオフセット係数Bを算出することが可能である。よって、制御部15は、計測ヨーレートΨ
・
Lが算出できる期間では、計測ヨーレートΨ
・
L[t]と検出ヨーレートω[t]の組をx[t]、y[t]の組として保存し、得られた最新の所定個数分のx[t]、y[t]の組を用いて、逐次最小二乗法などの回帰分析に基づき、一次式の傾き及び切片に相当するジャイロ感度係数A及びジャイロオフセット係数Bを算出する。また、制御部15は、計測ヨーレートΨ
・
Lが算出できない期間では、算出された最新のジャイロ感度係数A及びジャイロオフセット係数Bに基づき、検出ヨーレートω[t]から式(1)に基づきジャイロセンサベースヨーレートΨ
・
Gを算出することができる。
【0061】
(2)係数C、D及び操舵角ベースヨーレートΨ・
Sの算出
まず、操舵角感度係数C及び操舵角オフセット係数Dの導出に関する基本的な事項について説明する。
【0062】
図6(A)、(B)は、車輪に発生する横力を説明する図である。一般に、車両の進行方向に対して車輪が傾くと、車輪の進む方向と車輪の回転方向との差(所謂、車輪横滑り角)が生じ、車輪横滑り角が生じると横力が車輪に対して発生する。この場合の横力は、車輪横滑り角に対してコーナリングスティフネスを乗じた値となる。即ち、前輪に対して発生する横力「Y
f」及び後輪に対して発生する横力「Y
r」は、前輪の車輪横滑り角を「β
f」、後輪の車輪横滑り角を「β
r」、前輪のコーナリングスティフネスを「K
f」、後輪のコーナリングスティフネスを「K
r」とすると、
Y
f=-K
f・β
f
Y
r=-K
r・β
r
となる。
【0063】
また、横力は、路面の滑りやすさ及びスリップ率によって変化する。
図7(A)は、乾燥路面、湿潤路面、凍結路面のそれぞれに対する車輪横滑り角と横力との関係を示す。
図7(A)の例では、横力は、乾燥した滑りにくい路面ほど、同一の車輪横滑り角に対する横力が大きくなっている。
図7(B)は、車輪横滑り角が一定の場合のスリップ率「λ」と横力との関係を示す。
図7(B)の例では、車輪横滑り角が一定の場合には、乾燥した滑りにくい路面ほど、同一のスリップ率λに対する横力が大きくなっている。
【0064】
横力が発生すると、車両は路面から横方向の力を受けて旋回動作に入る。そして旋回によって横方向の速度が生まれる。前方向と横方向の車体速度のなす角度を「車体横滑り角β」、車体速度を「V」、車体横滑り角βの角速度を「β・」、車両のヨーレートを「Ψ・」とすると、横加速度αyは、以下の式(8)で表される。
【0065】
【数8】
よって、横方向の運動方程式は、以下の式(9)で表される。
【0066】
【数9】
図8(A)は、遠心力が働かない低速状態で車両が定常円旋回を行っているときの2輪モデルでの車両の状態を特定する各記号を示した図である。
図8(A)において、「S
a」は実舵角、「l」はホイールベース、「R」は車体の旋回半径、「R
r」は後輪の旋回半径を示す。この場合、以下の式(10)及び式(11)が成り立つ。
【0067】
【0068】
【数11】
そして、式(10)及び式(11)を合わせると、ヨーレートΨ
・は以下の式(12)により表される。
【0069】
【数12】
図8(B)は、遠心力が働く比較的高速状態で車両が定常円旋回を行っているときの2輪モデルでの車両の状態を特定する各記号を示した図である。
図8(B)において、「Fc」は遠心力、「l
f」は車体の中心と前輪との距離、「l
r」は車体の中心と後輪との距離を示す。
【0070】
図8(B)の場合、前輪と後輪にはそれぞれ車輪横滑り角β
f、β
rが生じるため、旋回中心が移動する。この場合、ヨーレートΨ
・は、式(12)の実舵角S
aを
図8(B)の関係に基づき「S
a-β
f+β
r」に置き換えた以下の式(13)により表される。
【0071】
【数13】
操舵角に対する実舵角は所定の遅れを持つが、通常の走行においてはステアリング操作は緩やかなため,時刻tでの実舵角Sa[t]と操舵角S[t]との関係は以下の比例関係で表わすことができる。
Sa[t]=kS[t]
【0072】
従って、時刻tでのヨーレートΨ・[t]は、上述の比例関係の式と式(13)とに基づき、以下の式(14)により表される。
【0073】
【数14】
ここで、式(14)の両辺を車体速度V[t]で割り、操舵角感度係数Cを以下の式(15)、操舵角オフセット係数Dを以下の式(16)のように定める。
【0074】
【0075】
【数16】
この場合、以下の式(17)が得られる。
【0076】
【数17】
ここで、ライダ21により算出した計測車体速度V
L[t]は真の車体速度、計測ヨーレートΨ
・
L[t]は真のヨーレートと見なせるため、式(17)から以下の式(18)が得られる。
【0077】
【数18】
ここで、
x[t]=S[t]
y[t]=Ψ
・
L[t]/V
L[t]
とすると、以下の式(19)が得られる。
【0078】
【数19】
式(19)は1次式であるため、x[t]、y[t]の組が複数あれば、操舵角感度係数C及び操舵角オフセット係数Dを算出することが可能である。よって、制御部15は、計測ヨー角Ψ
L及び計測車体速度V
Lが算出できる期間では、検出操舵角S[t]をx[t]、計測ヨーレートΨ
・
L[t]を計測車体速度V
L[t]で割った値をy[t]として保存し、得られた最新の所定個数分のx[t]、y[t]の組を用いて、逐次最小二乗法などの回帰分析に基づき、一次式の傾き及び切片に相当する操舵角感度係数C及び操舵角オフセット係数Dを算出する。
【0079】
また、計測ヨー角ΨL及び計測車体速度VLが算出できない期間では、制御部15は、式(17)の「V[t]」を「VE[t]」、「Ψ・[t]」を「Ψ・
S[t]」とみなして変形した式(2)に基づき、操舵角ベースヨーレートΨ・
Sを算出する。具体的には、制御部15は、算出された最新の操舵角感度係数C及び操舵角オフセット係数Dを用いて、検出操舵角S[t]及び推定車体速度VE[t]から式(2)に基づき操舵角ベースヨーレートΨ・
Sを算出する。これにより、制御部15は、真の車体のヨーレートに高精度に近似された操舵角ベースヨーレートΨ・
Sを算出することができる。
【0080】
(3)重み付けの設定
次に、温度差ΔT、縦方向加速度差Δαx、横方向加速度差Δαy、ピッチ角度差Δθ、ロール角度差Δφに基づくジャイロセンサベースヨーレートΨ・
G及び操舵角ベースヨーレートΨ・
Sに対する重み付けの設定方法について説明する。
【0081】
(3-1)温度差ΔTに関する重み付け
一般に、
図5(A)、(B)に示される感度(ジャイロ感度係数A)及びオフセット(ジャイロオフセット係数B)は、ジャイロセンサ24の環境温度によって変化するため、時刻t
0と現時刻tとの間に生じた温度差ΔTが大きいほど、ジャイロ感度係数A及びジャイロオフセット係数Bの誤差が大きくなることが予想される。以上を勘案し、本実施例では、制御部15は、式(3)に示されるように、温度差ΔTが大きいほど、係数A、Bを用いるジャイロセンサベースヨーレートΨ
・
Gが、係数A、Bを用いない操舵角ベースヨーレートΨ
・
Sよりも精度が低いと判断し、ジャイロセンサベースヨーレートΨ
・
Gに対する重み付けを、操舵角ベースヨーレートΨ
・
Sに対する重み付けよりも小さくする。これにより、制御部15は、ライダ21の出力に基づくヨー角の推定ができない場合であっても、真のヨー角に好適に近似された推定ヨー角Ψ
Eを算出することができる。
【0082】
(3-2)ロール角度差Δφに関する重み付け
図9(A)は、カーブを走行中の車両の状態を示す。また、
図9(B)は、横傾斜路面を走行中の車両の状態を示す。
図9(A)、(B)において、矢印の向きは力の向きを示し、矢印の長さは力の大きさを示す。
【0083】
一般に、車両に備わるサスペンション機構により、車両の旋回時の遠心力が大きい場合、車体がローリングし、これにより、内側車輪と外側車輪の間で荷重移動が生じる。
図9(A)の例では、カーブの旋回中に内側車輪から外側車輪への荷重移動が生じたことにより、内側車輪の荷重が外側車輪の荷重よりも小さくなっている。同様に、横傾斜のある路面においても、重力の横方向成分の影響で荷重移動が生じる。
図9(B)の例では、重力の横方向成分の影響により、谷側車輪の荷重が山側車輪の荷重よりも大きくなっている。
【0084】
ここで、一方の側の車輪の荷重が「ΔW」だけ減少し,他方の側の車輪の荷重が「ΔW」だけ増加した場合について考察する。
【0085】
図9(C)は、車両の走行時に車輪に発生する駆動力、横力、及びコーナリングフォースの関係を示す。また、
図10は、荷重とコーナリングフォースとの関係を示す。
図10において、「Cf
W-ΔW」は、荷重が「W」からΔWだけ減少した場合のコーナリングフォース、「Cf
W」は、荷重がWの場合のコーナリングフォース、「Cf
W+ΔW」は、荷重がWからΔWだけ増加した場合のコーナリングフォースを示す。
【0086】
図10に示すように、コーナリングフォース(即ち横力の車輪進行方向に直角な成分)は,荷重に対して若干の飽和曲線を描くため、ΔWだけ減少した車輪のコーナリングフォースとΔWだけ増加した車輪のコーナリングフォースの和は、元のコーナリングフォースの2倍よりも小さい。即ち、以下の式(20)が成立する。
【0087】
【数20】
したがって、車輪間で荷重移動が発生した場合、車両の全車輪に対するコーナリングフォースの総和が低下することがわかる。そして、車両のロール角の変化が大きい場合は、車輪間の荷重移動が大きくなり、結果として横力の変化も大きくなる。したがって、この場合、車輪横滑り角β
f、β
rの変化も大きくなるため、車輪横滑り角β
f、β
rに応じて変化する操舵角オフセット係数D(式(16)参照)も変化し、操舵角オフセット係数Dを用いる操舵角ベースヨーレートΨ
・
Sの誤差が大きくなる。
【0088】
以上を勘案し、制御部15は、式(3)に示されるように、ロール角差Δφが大きいほど、操舵角オフセット係数Dを用いる操舵角ベースヨーレートΨ・
Sが、操舵角オフセット係数Dを用いないジャイロセンサベースヨーレートΨ・
Gよりも精度が低いと判断し、操舵角ベースヨーレートΨ・
Sに対する重み付けを、ジャイロセンサベースヨーレートΨ・
Gに対する重み付けよりも小さくする。これにより、制御部15は、ライダ21の出力に基づくヨー角の推定ができない場合であっても、高精度な推定ヨー角ΨEを算出することができる。
【0089】
(3-3)横方向加速度差Δαyに基づく重み付け
式(8)及び式(9)に基づき、以下の式が成立する。
mαy=2Yf+2Yr
【0090】
上記の式によれば、横加速度αyが変化した場合は、横力Yf、Yrが変化していることがわかる。また、前述した「Yf=-Kf・βf」、及び「Yr=-Kr・βr」の関係により、横力Yf、Yrの変化は、車輪横滑り角βf、βrの少なくともいずれかが変化していることが言える。したがって、横加速度αyの変化が大きいと、車輪横滑り角βf、βrに応じて変化する操舵角オフセット係数D(式(16)参照)も変化し、操舵角オフセット係数Dを用いる操舵角ベースヨーレートΨ・
Sの誤差が大きくなる。
【0091】
以上を勘案し、制御部15は、式(3)に示されるように、横方向加速度差Δαyが大きいほど、操舵角オフセット係数Dを用いる操舵角ベースヨーレートΨ・
Sが、操舵角オフセット係数Dを用いないジャイロセンサベースヨーレートΨ・
Gよりも精度が低いと判断し、操舵角ベースヨーレートΨ・
Sに対する重み付けを、ジャイロセンサベースヨーレートΨ・
Gに対する重み付けよりも小さくする。これにより、制御部15は、ライダ21の出力に基づくヨー角の推定ができない場合であっても、高精度な推定ヨー角ΨEを算出することができる。
【0092】
(3-4)縦方向加速度差Δα
x及びピッチ角度差Δθに基づく重み付け
一般に、縦加速度α
xあるいはピッチ角θが変化した場合、車両の駆動力が変化する。また、スリップ率λの変化は走行状態によって動的に変化し、車両の加速や減速が生じた場合にスリップ率λが変化するため、車両の駆動力が変化すると、スリップ率λが変化している可能性が高い。また、前述した
図7(B)に示す横力とスリップ率λとの関係に示されるように、スリップ率λが変化すると横力が変化するため、スリップ率λの変化により結果として車輪横滑り角β
f、β
rも変化している可能性が高くなる。従って、縦方向加速度差Δα
x又はピッチ角度差Δθが大きいほど、車輪横滑り角β
f、β
rに応じて変化する操舵角オフセット係数D(式(16)参照)も変化し、操舵角オフセット係数Dを用いる操舵角ベースヨーレートΨ
・
Sの誤差が大きくなる。
【0093】
以上を勘案し、制御部15は、式(3)に示されるように、縦方向加速度差Δαx又はピッチ角度差Δθが大きいほど、操舵角オフセット係数Dを用いる操舵角ベースヨーレートΨ・
Sが、操舵角オフセット係数Dを用いないジャイロセンサベースヨーレートΨ・
Gよりも精度が低いと判断し、操舵角ベースヨーレートΨ・
Sに対する重み付けを、ジャイロセンサベースヨーレートΨ・
Gに対する重み付けよりも小さくする。これにより、制御部15は、ライダ21の出力に基づくヨー角の推定ができない場合であっても、高精度な推定ヨー角ΨEを算出することができる。
【0094】
なお、厳密的には、スリップ率λの変化によってコーナリングスティフネスKf、Krが変化し、コーナリングスティフネスKf、Krの変化により横力Yf(=-Kf・βf)、Yr(=-Kr・βr)が変化する。よって、この場合、結果として車輪横滑り角βf、βrが変化する蓋然性が高くなる。このように、縦方向加速度差Δαx又はピッチ角度差Δθに基づくスリップ率λの変化により、車輪横滑り角βf、βrが変化する蓋然性が高い。一方、リップ率λの変化により、車輪横滑り角βf、βrの変化が必然的に生じるとは厳密には言えないため、縦方向加速度差Δαx及びピッチ角度差Δθに基づく重み付けは、他の温度差ΔT、横方向加速度差Δαy、ロール角度差Δφに基づく重み付けよりも重要度が低い。よって、例えば、制御部15は、ライダ21に基づくヨー角の算出ができないときの推定ヨーレートΨ・
Eの算出時に、縦方向加速度差Δαx及びピッチ角度差Δθに基づく重み付けを、他の温度差ΔT、横方向加速度差Δαy、ロール角度差Δφに基づく重み付けよりも影響が小さくなるように設定してもよい。例えば、制御部15は、温度差ΔT、縦方向加速度差Δαx、横方向加速度差Δαy、ピッチ角度差Δθ、ロール角度差Δφの各差分値を正規化する場合に、縦方向加速度差Δαx及びピッチ角度差Δθを、他の温度差ΔT、横方向加速度差Δαy、ロール角度差Δφよりも小さくしてもよい。
【0095】
(4)ライダによる計測の可否判定
次に、
図3のステップS102におけるライダ21によるヨー角及び車体速度の計測可否の判定方法の具体例について説明する。
【0096】
例えば、制御部15は、ライダ21によるヨー角及び車体速度の測定に必要なランドマークが存在するか否か地
図DB10を参照して判定する。即ち、制御部15は、ライダ21の測定対象範囲内となる位置に紐付けられたランドマークが地
図DB10に登録されているか否か判定する。この場合、地
図DB10には、例えば、ライダ21によるヨー角及び車体速度の測定時の基準となるランドマークの位置情報と、当該ランドマークの識別に必要な情報(例えば形状情報)とが関連付けられている。
【0097】
そして、制御部15は、ライダ21による測定対象範囲内となる位置に紐付けられたランドマークが地
図DB10に登録されていない場合には、ライダ21によるヨー角及び車体速度の計測ができないと判断し、ステップS108へ処理を進める。
【0098】
この場合、まず、制御部15は、推定又は測定した車両の位置及び進行方向の方位と、予め記憶されたライダ21の測距可能距離及び車両の進行方向に対するレーザのスキャン角度の範囲とに基づき、ライダ21の測定対象範囲を特定する。そして、制御部15は、特定したライダ21の測定対象範囲内の位置に紐付けられたランドマークが地
図DB10に登録されているか否か判定する。そして、制御部15は、ライダ21による測定対象範囲内となる位置に紐付けられたランドマークが地
図DB10に登録されていない場合には、ライダ21によるヨー角及び車体速度の計測ができないと判断する。
【0099】
また、制御部15は、ライダ21の測定対象範囲内となる位置に紐付けられたランドマークが地
図DB10に登録されていると判断した場合であっても、当該ランドマークが実際に存在しないと判断した場合には、ライダ21によるヨー角及び車体速度の計測ができないと判断する。
【0100】
この場合、例えば、制御部15は、地
図DB10を参照し、ライダ21の測定対象範囲内に存在するランドマークの形状及び位置を特定する。そして、制御部15は、地
図DB10により特定したランドマークの形状及び位置と、ライダ21が出力する点群が構成する形状及び位置との類比判定を行う。そして、制御部15は、地
図DB10により特定したランドマークの形状及び位置と類似する形状及び位置を示す点群が存在しない場合には、ランドマークは存在しないと判断し、ライダ21によるヨー角及び車体速度の計測ができないと判断する。
【0101】
これらの例によれば、制御部15は、
図3のステップS102におけるライダ21によるヨー角及び車体速度の計測可否を的確に判定することができる。
【0102】
[効果の補足説明]
次に、本実施例による効果について補足説明する。
【0103】
式(3)に示す推定ヨーレートΨ
・
Eの算出方法によれば、制御部15は、温度変化(即ち温度差ΔT)に対して誤差が大きくなるジャイロセンサベースヨーレートΨ
・
Gと、縦及び横の加速度変化(即ち加速度差Δα
x、Δα
y)、ピッチ角変化(即ちピッチ角差Δθ)、及びロール角変化(即ちロール角度差Δφ)に対して誤差が大きくなる操舵角ベースヨーレートΨ
・
Sの、それぞれの欠点を好適に補って推定ヨーレートΨ
・
Eを高精度に算出することが可能となる。また、制御部15は、ランドマークによるライダ21のヨー角及び車体速度計測を実施するたびに、ジャイロ感度係数A、ジャイロオフセット係数B、操舵角感度係数C、及び操舵角オフセット係数Dのキャリブレーションを行う(
図2のステップS105及びS106参照)。このため、ジャイロセンサベースヨーレートΨ
・
Gと操舵角ベースヨーレートΨ
・
Sの信頼性は好適に維持される。
【0104】
また、ランドマークによるライダ21のヨー角及び車体速度計測が数秒間隔以内であれば急激な温度変化はなく(即ち温度差ΔTが小さく)、また通常走行であれば急激な縦加速度変化もなく(即ち縦加速度差Δαxが小さく)、ステアリング操作が緩やかであれば急激な横加速度変化もなく(即ち横加速度差Δαyが小さく)、通常の路面であれば急激なピッチ角変化及びロール角変化もない(即ちピッチ角度差Δθ及びロール角度差Δφも小さい)と考えられるため、ライダ21による計測は数秒間隔でも良いことが言える。これは,ライダ21によるヨー角及び車体速度計測に用いるランドマークの位置が、ある程度の間隔を持っていても良いことを示している。例えば,100m間隔のキロポストをランドマークとして高速道路を走行する場合、ライダ21の計測可能距離が50mとしても、ライダ21による計測ができない時間は、100km/h走行時は1.8秒間となり、50km/h走行時は3.6秒間となる。
【0105】
[変形例]
以下では、実施例に好適な変形例について説明する。以下の変形例は、任意に組み合わせて実施例に適用されてもよい。
【0106】
(変形例1)
制御部15は、式(3)においてジャイロセンサベースヨーレートΨ・
Gと操舵角ベースヨーレートΨ・
Sの重み付けを決定する各差分値ΔT、Δαx、Δαy、Δθ、Δφに対し、それぞれ所定の係数を乗じてもよい。即ち、制御部15は、各差分値ΔT、Δαx、Δαy、Δθ、Δφに乗じる係数「wT」、「wαx」、「wαy」、「wθ」、「wφ」を設定し、以下の式(21)に基づき推定ヨーレートΨ・
Eを算出してもよい。
【0107】
【数21】
式(21)によれば、制御部15は、各差分値ΔT、Δα
x、Δα
y、Δθ、Δφのうちの特定の値が誤差に対する影響が特に大きいと推定される場合に、当該特定の値に対する係数を大きくする。これにより、ジャイロセンサベースヨーレートΨ
・
Gと操舵角ベースヨーレートΨ
・
Sの重み付けをより的確に設定することができる。
【0108】
ここで、係数wT、wαx、wαy、wθ、wφの設定例について説明する。
【0109】
例えば、制御部15は、温度変化に応じたジャイロ感度係数A及びジャイロオフセット係数Bの変化が大きいジャイロセンサ24ほど、係数wTを他の係数よりも相対的に大きくする。例えば、この場合、ジャイロセンサ24として用いるジャイロセンサのジャイロ感度係数A及びジャイロオフセット係数Bの温度による変化度合を予め実験等により測定しておき、通常のジャイロセンサよりもジャイロ感度係数A及びジャイロオフセット係数Bの温度による変化度合が大きい場合には、係数wTを他の係数より大きくする。例えば、制御部15は、係数wTを他の係数の平均値よりも大きくする。
【0110】
他の例では、制御部15は、車両が走行中の路面が滑りやすい状態であると判断した場合には、係数w
αxを他の係数よりも相対的に大きくする。一般的に、湿潤路面や凍結路面など路面が滑りやすい状態の場合は、同じ駆動力を得るためのスリップ率λは乾燥した路面と比べて大きい。よって、滑りやすい路面で縦加速度α
xの変化があった場合は、車輪横滑り角β
f、β
rの変化も大きいこととなる。よって、この場合、縦方向加速度差Δα
xに対する操舵角オフセット係数Dの変化が大きくなり、縦方向加速度差Δα
xに起因した操舵角ベースヨーレートΨ
・
Sの誤差影響度合いが大きくなる。以上を勘案し、制御部15は、路面が滑りやすい状態であると判断した場合、係数w
αxを他の係数より大きくする。この場合、例えば、制御部15は、図示しない雨滴センサにより雨滴を検出した場合、図示しないサーバ装置から受信した天気情報に基づき雨又は雪が降っていることを認識した場合、又は地
図DB10に含まれる路面情報に基づき走行道路の路面が滑りやすいことを認識した場合等では、路面が滑りやすい状態であると判断する。
【0111】
さらに別の例では、制御部15は、車体重量が大きいほど、係数wθ、wφの少なくとも一方を他の係数より大きくする。一般に、車体重量が重いほど、道路勾配の変化(即ちピッチ角度差Δθ)に伴うスリップ率λの変化も大きくなり、結果として車輪横滑り角βf、βrの変化も大きくなる。よって、この場合、ピッチ角度差Δθに対する操舵角オフセット係数Dの変化が大きくなり、ピッチ角度差Δθに起因した操舵角ベースヨーレートΨ・
Sの誤差影響度合いが大きくなる。同様に、車体重量が重いほど、ロール角変化に伴う車輪間の荷重移動が大きくなるため横力変化も大きくなる。また、横力の変化が大きいほど、車輪横滑り角βf、βrの変化も大きいこととなる。よって、この場合、ロール角度差Δφに対する操舵角オフセット係数Dの変化が大きくなり、ロール角度差Δφに起因した操舵角ベースヨーレートΨ・
Sの誤差影響度合いが大きくなる。
【0112】
以上を勘案し、制御部15は、車体重量が大きいほど、係数wθ、wφの少なくとも一方を他の係数より大きくする。例えば、制御部15は、座席への着席の有無を検出するセンサの出力等に基づき検出した乗車人数に応じて、係数wθ、wφの少なくとも一方を大きくする。この場合、好適には、制御部15は、車両の基本重量が重い車両ほど、乗者人数が0のときに設定する係数wθ、wφの初期値を大きくするとよい。
【0113】
(変形例2)
制御部15は、式(2)に基づく操舵角ベースヨーレートΨ・
Sの算出において、操舵角センサ28が出力する操舵角の検出値を用いる代わりに、車輪ごとの回転速度の差に基づき算出した操舵角の推定値を用いてもよい。
【0114】
この場合、制御部15は、車輪ごとに設けられた車輪の回転速度を検出するセンサの出力に基づき、操舵角の推定値を算出する。この場合、時刻tにおける左前輪に対する右前輪の回転速度差(即ち「右前輪回転速度-左前輪回転速度」)を「Sf[t]」、時刻tにおける左後輪に対する右後輪の回転速度差(即ち「右後輪回転速度-左後輪回転速度」)を「Sr[t]」とすると、制御部15は、式(2)の操舵角S[t]を以下の式に基づき算出する。
S[t]=(Sf[t]+Sr[t])/2
【0115】
この場合であっても、制御部15は、車輪ごとの回転速度を検出するセンサの出力から操舵角を算出し、式(2)に基づく操舵角ベースヨーレートΨ・
Sを好適に算出することができる。
【0116】
(変形例3)
制御部15は、ライダ21以外の外界センサの出力に基づき高精度なヨー角を算出してもよい。
【0117】
この場合、制御部15は、対象の外界センサの出力に基づき高精度なヨー角を算出可能な場合には、当該外界センサの出力に基づくヨー角を推定ヨー角ΨEとして設定すると共に、係数A~Dのキャリブレーションを実行する。一方、制御部15は、対象の外界センサの出力に基づくヨー角の算出ができない場合には、実施例と同様に、式(3)に基づき係数A~Dを用いて推定ヨーレートΨ・
Eを算出した後に推定ヨー角ΨEを算出する。このように、高精度にヨー角を算出可能なライダ21以外の外界センサによっても、本実施例と同様に係数A~Dを更新し、当該外界センサを利用できない場合でも高精度な推定ヨー角ΨEを算出することができる。
【0118】
(変形例4)
制御部15は、式(3)によれば、各差分値ΔT、Δαx、Δαy、Δθ、Δφを全て勘案してジャイロセンサベースヨーレートΨ・
G及び操舵角ベースヨーレートΨ・
Sへの重み付けを決定した。しかし、本発明が適用可能なジャイロセンサベースヨーレートΨ・
G及び操舵角ベースヨーレートΨ・
Sへの重み付けの方法は、これに限られない。
【0119】
第1の例では、制御部15は、縦方向加速度差Δαx及びピッチ角度差Δθ以外の差分値ΔT、Δαy、Δφを用いて推定ヨーレートΨ・
E[t]を算出する。この場合、例えば、制御部15は、式(3)のΔαxとΔθをそれぞれ「0」に設定する。「(3-4)縦方向加速度差Δαx及びピッチ角度差Δθに基づく重み付け」のセクションで説明したように、縦方向加速度差Δαx及びピッチ角度差Δθに基づく重み付けは、他の温度差ΔT、横方向加速度差Δαy、ロール角度差Δφに基づく重み付けよりも重要度が低い。よって、この場合であっても、制御部15は、ジャイロセンサベースヨーレートΨ・
G及び操舵角ベースヨーレートΨ・
Sの信頼度に応じた重み付けを好適に実行することができる。なお、制御部15は、縦方向加速度差Δαx及びピッチ角度差Δθのいずれか一方のみを除外して推定ヨーレートΨ・
E[t]を算出してもよい。
【0120】
第2の例では、制御部15は、縦方向加速度差Δαx及びピッチ角度差Δθ以外の差分値ΔT、Δαy、Δφの1つ又は2つを用いて推定ヨーレートΨ・
E[t]を算出する。なお、第2の例において、差分値ΔT、Δαy、Δφの1つに基づき重み付けを行う場合、制御部15は、例えば、対象となる差分値(「対象差分値Δ」と表記する)をおよそ0から1の値域になるように正規化を行った上で、ジャイロセンサベースヨーレートΨ・
G及び操舵角ベースヨーレートΨ・
Sの一方に「1-Δ」を乗じ、他方に「Δ」を乗じる。例えば、制御部15は、対象差分値Δが温度差ΔTの場合には、「Δ」を操舵角ベースヨーレートΨ・
Sに乗じ、「1-Δ」をジャイロセンサベースヨーレートΨ・
Gに乗じる。
【0121】
このように、制御部15は、差分値ΔT、Δαx、Δαy、Δθ、Δφの全部を用いない場合であっても、推定ヨーレートΨ・
Eを好適に算出することができる。