(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023112138
(43)【公開日】2023-08-10
(54)【発明の名称】ワイヤ放電加工機および制御方法
(51)【国際特許分類】
B23H 7/02 20060101AFI20230803BHJP
B23H 7/10 20060101ALI20230803BHJP
【FI】
B23H7/02 R
B23H7/10 C
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023103063
(22)【出願日】2023-06-23
(62)【分割の表示】P 2019143074の分割
【原出願日】2019-08-02
(71)【出願人】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003683
【氏名又は名称】弁理士法人桐朋
(72)【発明者】
【氏名】山岡 正英
(57)【要約】
【課題】円滑に加工し得るワイヤ放電加工機および制御方法を提供する。
【解決手段】ワイヤ放電加工機10は、加工対象物Wに対してワイヤ電極12が接触した接触状態、および、接触状態にあるワイヤ電極12が加工対象物Wから離れた接触解除状態を検出する検出部66と、加工対象物Wの加工中に接触状態が検出された場合にはワイヤ電極12の相対移動を停止させ、ワイヤ電極12の相対移動を停止させた停止位置Pを基準にワイヤ電極12を振動させる振動部68と、接触状態が検出されたときから所定時間を経過するまで、または、ワイヤ電極12を振動させる振動回数が所定回数になるまでに接触解除状態が検出された場合には、ワイヤ電極12の相対移動を再開させる相対移動制御部64と、を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
加工対象物に対してワイヤ電極を相対移動させながら、前記加工対象物と前記ワイヤ電極との極間に放電を発生させることで、前記加工対象物を加工するワイヤ放電加工機であって、
前記加工対象物に対して前記ワイヤ電極が接触した接触状態、および、前記接触状態にある前記ワイヤ電極が前記加工対象物から離れた接触解除状態を検出する検出部と、
前記加工対象物の加工中に前記接触状態が検出された場合には前記ワイヤ電極の相対移動を停止させ、前記ワイヤ電極の相対移動を停止させた停止位置を基準に前記ワイヤ電極を振動させる振動部と、
前記接触状態が検出されたときから所定時間を経過するまで、または、前記ワイヤ電極を振動させる振動回数が所定回数になるまでに前記接触解除状態が検出された場合には、前記ワイヤ電極の相対移動を再開させる相対移動制御部と、
を備え、
前記停止位置から、第1振動方向、前記第1振動方向とは直交する第2振動方向、および、前記第1振動方向と前記第2振動方向との双方に直交する第3振動方向の少なくとも1つへ前記ワイヤ電極を移動させた後に再び前記停止位置に前記ワイヤ電極を戻す処理が複数回実行されるように、前記振動部は、前記ワイヤ電極を駆動するモータを制御することによって、前記ワイヤ電極を振動させる、ワイヤ放電加工機。
【請求項2】
加工対象物に対してワイヤ電極を相対移動させながら、前記加工対象物と前記ワイヤ電極との極間に放電を発生させることで、前記加工対象物を加工するワイヤ放電加工機であって、
前記加工対象物に対して前記ワイヤ電極が接触した接触状態、および、前記接触状態にある前記ワイヤ電極が前記加工対象物から離れた接触解除状態を検出する検出部と、
前記加工対象物の加工中に前記接触状態が検出された場合には前記ワイヤ電極の相対移動を停止させ、前記ワイヤ電極の相対移動を停止させた停止位置を基準に前記ワイヤ電極を振動させる振動部と、
前記接触状態が検出されたときから所定時間を経過するまで、または、前記ワイヤ電極を振動させる振動回数が所定回数になるまでに前記接触解除状態が検出された場合には、前記ワイヤ電極の相対移動を再開させる相対移動制御部と、
を備え、
前記ワイヤ電極が停止されたときの張力である停止時張力を変更した後に再び前記停止時張力に戻す処理が複数回実行されるように、前記振動部は、前記ワイヤ電極を駆動するモータを制御することによって、前記ワイヤ電極を振動させる、ワイヤ放電加工機。
【請求項3】
加工対象物に対してワイヤ電極を相対移動させながら、前記加工対象物と前記ワイヤ電極との極間に放電を発生させることで、前記加工対象物を加工するワイヤ放電加工機であって、
前記加工対象物に対して前記ワイヤ電極が接触した接触状態、および、前記接触状態にある前記ワイヤ電極が前記加工対象物から離れた接触解除状態を検出する検出部と、
前記加工対象物の加工中に前記接触状態が検出された場合には前記ワイヤ電極の相対移動を停止させ、前記ワイヤ電極の相対移動を停止させた停止位置を基準に前記ワイヤ電極を振動させる振動部と、
前記接触状態が検出されたときから所定時間を経過するまで、または、前記ワイヤ電極を振動させる振動回数が所定回数になるまでに前記接触解除状態が検出された場合には、前記ワイヤ電極の相対移動を再開させる相対移動制御部と、
を備え、
前記ワイヤ電極が停止されたときの液圧である停止時液圧を変更した後に再び前記停止時液圧に戻す処理が複数回実行されるように、前記振動部は、前記ワイヤ電極に供給される液体を出力するポンプを制御することによって、前記ワイヤ電極を振動させる、ワイヤ放電加工機。
【請求項4】
請求項1または2に記載のワイヤ放電加工機であって、
前記振動部は、前記モータのみを制御する、ワイヤ放電加工機。
【請求項5】
加工対象物に対してワイヤ電極を相対移動させながら、前記加工対象物と前記ワイヤ電極との極間に放電を発生させることで、前記加工対象物を加工するワイヤ放電加工機の制御方法であって、
前記加工対象物の加工中に前記加工対象物に対して前記ワイヤ電極が接触した接触状態が検出された場合には前記ワイヤ電極の相対移動を停止させ、前記ワイヤ電極の相対移動を停止させた停止位置を基準に前記ワイヤ電極を振動させる振動ステップと、
前記接触状態が検出されたときから所定時間を経過するまで、または、前記ワイヤ電極を振動させる振動回数が所定回数になるまでに、前記接触状態にある前記ワイヤ電極が前記加工対象物から離れた接触解除状態が検出された場合には、前記ワイヤ電極の相対移動を再開させる再開ステップと、
を含み、
前記振動ステップでは、前記ワイヤ電極を駆動するモータの制御によって、前記停止位置から、第1振動方向、前記第1振動方向とは直交する第2振動方向、および、前記第1振動方向と前記第2振動方向との双方に直交する第3振動方向の少なくとも1つへ前記ワイヤ電極を移動させた後に再び前記停止位置に前記ワイヤ電極を戻す処理が複数回実行される、制御方法。
【請求項6】
加工対象物に対してワイヤ電極を相対移動させながら、前記加工対象物と前記ワイヤ電極との極間に放電を発生させることで、前記加工対象物を加工するワイヤ放電加工機の制御方法であって、
前記加工対象物の加工中に前記加工対象物に対して前記ワイヤ電極が接触した接触状態が検出された場合には前記ワイヤ電極の相対移動を停止させ、前記ワイヤ電極の相対移動を停止させた停止位置を基準に前記ワイヤ電極を振動させる振動ステップと、
前記接触状態が検出されたときから所定時間を経過するまで、または、前記ワイヤ電極を振動させる振動回数が所定回数になるまでに、前記接触状態にある前記ワイヤ電極が前記加工対象物から離れた接触解除状態が検出された場合には、前記ワイヤ電極の相対移動を再開させる再開ステップと、
を含み、
前記振動ステップでは、前記ワイヤ電極を駆動するモータの制御によって、前記ワイヤ電極が停止されたときの張力である停止時張力を変更した後に再び前記停止時張力に戻す処理が複数回実行される、制御方法。
【請求項7】
加工対象物に対してワイヤ電極を相対移動させながら、前記加工対象物と前記ワイヤ電極との極間に放電を発生させることで、前記加工対象物を加工するワイヤ放電加工機の制御方法であって、
前記加工対象物の加工中に前記加工対象物に対して前記ワイヤ電極が接触した接触状態が検出された場合には前記ワイヤ電極の相対移動を停止させ、前記ワイヤ電極の相対移動を停止させた停止位置を基準に前記ワイヤ電極を振動させる振動ステップと、
前記接触状態が検出されたときから所定時間を経過するまで、または、前記ワイヤ電極を振動させる振動回数が所定回数になるまでに、前記接触状態にある前記ワイヤ電極が前記加工対象物から離れた接触解除状態が検出された場合には、前記ワイヤ電極の相対移動を再開させる再開ステップと、
を含み、
前記振動ステップでは、前記ワイヤ電極に供給される液体を出力するポンプの制御によって、前記ワイヤ電極が停止されたときの液圧である停止時液圧を変更した後に再び前記停止時液圧に戻す処理が複数回実行される、制御方法。
【請求項8】
請求項5または6に記載の制御方法であって、
前記振動ステップでは、前記モータのみが制御される、制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工対象物に対してワイヤ電極を相対移動させながら、加工対象物とワイヤ電極との極間に放電を発生させることで、加工対象物を加工するワイヤ放電加工機および制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ワイヤ放電加工機では、加工対象物の加工中にワイヤ電極と加工対象物とが接触して短絡する場合がある。下記の特許文献1では、短絡の発生を検出した場合に、短絡の発生を検出しなくなるまでワイヤ電極を後退させ、さらにその後ワイヤ電極を元の方向へ復帰移動させるワイヤ放電加工機が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、加工対象物の加工中に加工対象物が歪むことがあり、その加工対象物の歪みに応じて、ワイヤ電極が通ることで加工対象物に形成された加工溝に加工対象物が入り込む場合がある。
【0005】
上記の特許文献1のワイヤ放電加工機では、短絡の発生を検出しなくなるまでワイヤ電極が後退されるため、後退するワイヤ電極が加工溝に入り込んだ加工対象物と接触して再び短絡するなどして加工時間が長期化することが懸念される。
【0006】
そこで、本発明は、円滑に加工し得るワイヤ放電加工機および制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様は、
加工対象物に対してワイヤ電極を相対移動させながら、前記加工対象物と前記ワイヤ電極との極間に放電を発生させることで、前記加工対象物を加工するワイヤ放電加工機であって、
前記加工対象物に対して前記ワイヤ電極が接触した接触状態、および、前記接触状態にある前記ワイヤ電極が前記加工対象物から離れた接触解除状態を検出する検出部と、
前記加工対象物の加工中に前記接触状態が検出された場合には前記ワイヤ電極の相対移動を停止させ、前記ワイヤ電極の相対移動を停止させた停止位置を基準に前記ワイヤ電極を振動させる振動部と、
前記接触状態が検出されたときから所定時間を経過するまで、または、前記ワイヤ電極を振動させる振動回数が所定回数になるまでに前記接触解除状態が検出された場合には、前記ワイヤ電極の相対移動を再開させる相対移動制御部と、
を備える。
【0008】
本発明の第2の態様は、
加工対象物に対してワイヤ電極を相対移動させながら、前記加工対象物と前記ワイヤ電極との極間に放電を発生させることで、前記加工対象物を加工するワイヤ放電加工機の制御方法であって、
前記加工対象物の加工中に前記加工対象物に対して前記ワイヤ電極が接触した接触状態が検出された場合には前記ワイヤ電極の相対移動を停止させ、前記ワイヤ電極の相対移動を停止させた停止位置を基準に前記ワイヤ電極を振動させる振動ステップと、
前記接触状態が検出されたときから所定時間を経過するまで、または、前記ワイヤ電極を振動させる振動回数が所定回数になるまでに、前記接触状態にある前記ワイヤ電極が前記加工対象物から離れた接触解除状態が検出された場合には、前記ワイヤ電極の相対移動を再開させる再開ステップと、
を含む。
【発明の効果】
【0009】
本発明の態様によれば、ワイヤ電極を後退させることなく短絡を解消することができ、この結果、加工対象物が歪んで加工溝に入り込んでいたとしても、円滑に加工することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は実施形態のワイヤ放電加工機の構成を示す模式図である。
【
図2】
図2はワイヤ放電加工機の加工制御系統の構成を示す模式図である。
【
図3】
図3はカメラで撮像された画像を例示する図である。
【
図4】
図4は画像取得処理の手順を示すフローチャートである。
【
図5】
図5は加工中に加工対象物に対するワイヤ電極の接触が検出された以降の制御処理の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明について、好適な実施形態を掲げ、添付の図面を参照しながら以下、詳細に説明する。
【0012】
[実施形態]
図1を用いてワイヤ放電加工機10の全体の構成を説明する。なお、
図1では、ワイヤ放電加工機10が有する軸が延びるX方向、Y方向およびZ方向が示される。なお、X方向およびY方向は面内で互いに直交し、Z方向はX方向およびY方向の各々に対して直交する。
【0013】
ワイヤ放電加工機10は、加工液中で加工対象物Wとワイヤ電極12との極間に電圧を印加して放電を発生させることで、加工対象物Wを加工する工作機械である。ワイヤ放電加工機10は、加工機本体14と、加工液処理装置16と、加工機本体14および加工液処理装置16を制御する制御装置18と、を備える。
【0014】
ワイヤ電極12の材質は、例えば、タングステン系、銅合金系、黄銅系などの金属材料である。一方、加工対象物Wの材質は、例えば、鉄系材料または超硬材料などの金属材料である。
【0015】
加工機本体14は、加工対象物W(ワーク、被加工物)に向けてワイヤ電極12を供給する供給系統20と、加工対象物Wを通過したワイヤ電極12を回収する回収系統22とを備える。
【0016】
供給系統20は、未使用のワイヤ電極12が巻かれたワイヤボビン24と、ワイヤボビン24に対してトルクを付与するトルクモータ26と、ワイヤ電極12に対して摩擦による制動力を付与するブレーキシュー28と、ブレーキシュー28に対してブレーキトルクを付与するブレーキモータ30と、ワイヤ電極12の張力の大きさを検出する張力検出部32と、加工対象物Wの上方でワイヤ電極12をガイドするダイスガイド(上ダイスガイド)34とを備える。
【0017】
回収系統22は、加工対象物Wの下方でワイヤ電極12をガイドするダイスガイド(下ダイスガイド)36と、ワイヤ電極12を挟持可能なピンチローラ38およびフィードローラ40と、フィードローラ40に対してトルクを付与するトルクモータ42と、ピンチローラ38およびフィードローラ40により搬送されたワイヤ電極12を回収する回収箱44とを備える。
【0018】
加工機本体14は、加工液を貯留可能な加工槽46を備える。加工液は、加工の際に使用される脱イオン水または油などの液体である。加工槽46は、ベース部48上に載置されている。加工槽46内にはダイスガイド34、36が配置され、ダイスガイド34とダイスガイド36との間に加工対象物Wが設けられる。ダイスガイド34、36、および、加工対象物Wは、加工槽46に貯留された加工液に浸漬している。
【0019】
ダイスガイド34、36は、ワイヤ電極12を支持する支持部34a、36aを有する。また、ダイスガイド36は、ワイヤ電極12の向きを変えてピンチローラ38およびフィードローラ40に案内するガイドローラ36bを備える。
【0020】
なお、ダイスガイド34は、スラッジ(加工屑)を含まない清潔な加工液を、ワイヤ電極12と加工対象物Wとの極間に向けて噴出する。これにより、加工に適した清潔な液体で極間を満たすことができ、加工に応じて生じたスラッジにより加工精度が低下することを防止することができる。また、ダイスガイド36も、スラッジ(加工屑)を含まない清潔な加工液を極間に向けて噴出してもよい。
【0021】
加工液処理装置16は、加工槽46に発生したスラッジを除去するとともに、電気抵抗率や温度などを調整することで加工液の液質を管理する装置である。この加工液処理装置16によって液質が管理された加工液は、加工槽46に再び戻されるとともに、少なくともダイスガイド34から噴出される。
【0022】
次に、
図2を用いてワイヤ放電加工機10の加工制御系統の構成を説明する。加工機本体14は、電源部50、テーブル52、カメラ54およびモータ56を有する。一方、制御装置18は、記憶部58および制御部60を有する。
【0023】
電源部50は、加工対象物Wとワイヤ電極12との極間に電圧を印加するものである。電源部50は、加工対象物Wとワイヤ電極12との極間に対して、一過性の電圧(パルス電圧)を所定の周期で繰り返し印加する。加工対象物Wとワイヤ電極12との極間には電圧センサ50Aが設けられる。電圧センサ50Aは、加工対象物Wとワイヤ電極12との極間に印加される電圧を検出し、検出した電圧を制御装置18に出力する。なお、電圧センサ50Aは、電源部50に含まれていてもよい。
【0024】
テーブル52は、加工対象物Wを固定するための台であり、X方向およびY方向の各々に移動可能に設けられる。テーブル52には、所定の固定具により加工対象物Wが固定される。したがって、加工対象物Wは、テーブル52と一体的に移動する。
【0025】
カメラ54は、加工対象物Wを撮像するものであり、ワイヤ電極12が延びる方向に設けられる。カメラ54は、加工対象物Wに対してワイヤ電極12を送る側のダイスガイド34に設けられていてもよく、加工対象物Wに送られたワイヤ電極12を回収する側のダイスガイド36に設けられていてもよい。
【0026】
モータ56は、加工対象物Wに対してワイヤ電極12を相対移動させるためのモータである。モータ56は、本実施形態では、加工対象物Wに対してワイヤ電極12をX方向に移動させるためのXモータ56xと、加工対象物Wに対してワイヤ電極12をY方向に移動させるためのYモータ56yとを有する。
【0027】
Xモータ56xは、テーブル52をX方向に移動させることにより、加工対象物Wに対してワイヤ電極12をX方向に相対移動させる。Xモータ56xは、ダイスガイド34、36をX方向に移動させることにより、加工対象物Wに対してワイヤ電極12を相対移動させてもよい。Yモータ56yは、テーブル52をY方向に移動させることにより、加工対象物Wに対してワイヤ電極12をY方向に相対移動させる。Yモータ56yは、ダイスガイド34、36をY方向に移動させることにより、加工対象物Wに対してワイヤ電極12を相対移動させてもよい。
【0028】
記憶部58は、各種の情報を記憶可能な記憶媒体である。記憶部58には、加工対象物Wを加工するための加工プログラムおよび加工条件が少なくとも記憶される。加工条件は、制御装置18が有する入力部を用いたオペレータの設定操作に応じて設定される。なお、オペレータの設定操作がない場合、予めデフォルトとして設定された加工条件が記憶部58に記憶される。加工条件には、加工対象物Wとワイヤ電極12との極間に印加する電圧(パルス電圧)の電圧値、極間に繰り返し印加する電圧(パルス電圧)の間隔(パルス間隔)、および、加工対象物Wに対するワイヤ電極12の相対移動速度が含まれる。
【0029】
なお、パルス間隔は、加工対象物Wとワイヤ電極12との極間に電圧(パルス電圧)を印加しない休止時間である。また、加工対象物Wに対するワイヤ電極12の相対移動速度は、加工対象物Wに対してワイヤ電極12を相対移動させるときの速度である。
【0030】
制御部60は、記憶部58に記憶された加工プログラムおよび加工条件に基づいて、加工機本体14および加工液処理装置16を制御するものである。制御部60は、CPU(Central Processing Unit)やMPU(Micro Processing Unit)などのプロセッサであってもよい。制御部60は、電源制御部62、相対移動制御部64、検出部66、振動部68、画像取得部70、判定部72および報知部74を有する。
【0031】
電源制御部62は、記憶部58に記憶された電圧(パルス電圧)の電圧値および電圧(パルス電圧)の間隔(パルス間隔)に基づいて電源部50を制御し、加工対象物Wとワイヤ電極12との極間に一過性の電圧(パルス電圧)を所定の周期で繰り返し印加させる。
【0032】
相対移動制御部64は、記憶部58に記憶された相対移動速度と、加工プログラムが指定する加工経路とに基づいてモータ56を制御し、加工対象物Wに対してワイヤ電極12を相対移動させる。相対移動制御部64は、具体的には、モータ56のXモータ56xおよびYモータ56yの各々を制御し、加工対象物Wに対してワイヤ電極12をX方向およびY方向の少なくとも一方に相対移動させる。
【0033】
検出部66は、加工対象物Wに対してワイヤ電極12が接触した接触状態、および、接触状態にあるワイヤ電極12が加工対象物Wから離れた接触解除状態を検出する。検出部66は、電圧センサ50Aを用いて、接触状態および接触解除状態を検出してもよい。また、検出部66は、加工対象物Wとワイヤ電極12との極間に流れる電流を検出する電流センサを用いて、接触状態および接触解除状態を検出してもよい。
【0034】
検出部66は、本実施形態では、電圧センサ50Aを用いて、接触状態および接触解除状態を検出するものとする。検出部66は、例えば、電圧センサ50Aから出力される電圧に基づいて、単位時間ごとに加工対象物Wとワイヤ電極12との極間に印加される平均電圧を求める。検出部66は、求めた単位時間あたりの平均電圧が所定の閾値未満である場合に、接触状態を検出する。一方、検出部66は、単位時間あたりの平均電圧が所定の閾値以上である場合に、接触解除状態を検出する。
【0035】
振動部68は、加工対象物Wの加工中に検出部66で接触状態が検出された場合にはワイヤ電極12の相対移動を停止させ、ワイヤ電極12の相対移動を停止させた停止位置P(
図3参照)を基準にワイヤ電極12を振動させる。なお、停止位置Pは、制御部60で用いられる座標系で示されるワイヤ電極12の位置である。
【0036】
振動部68は、Xモータ56xを制御することで、停止位置Pを基準とするX方向と-X方向との第1振動方向にワイヤ電極12を振動させてもよい。振動部68は、Yモータ56yを制御することで、停止位置Pを基準とするY方向と-Y方向との第2振動方向にワイヤ電極12を振動させてもよい。振動部68は、トルクモータ26およびトルクモータ42の各々を制御することで、停止位置Pを基準とするZ方向と-Z方向との第3振動方向にワイヤ電極12を振動させてもよい。振動部68は、ブレーキモータ30などを制御してワイヤ電極12の張力を変更することでワイヤ電極12を振動させてもよい。振動部68は、加工液処理装置16に設けられたポンプなどを制御して少なくともダイスガイド34から噴出する加工液の液圧を変更することでワイヤ電極12を振動させてもよい。
【0037】
なお、振動部68は、上述した第1振動方向の振動、第2振動方向の振動、第3振動方向の振動、張力の変更による振動、および、加工液の液圧の変更による振動のうち、少なくとも2つの振動を組み合わせてもよい。
【0038】
画像取得部70は、加工対象物Wの画像をカメラ54から取得する。画像取得部70は、本実施形態では、加工槽46に貯留された加工液内で加工される加工対象物Wのうち、少なくともカメラ54に対向する加工対象物Wの面が加工液に浸漬していない状態で撮像された画像を取得する。なお、具体的な画像取得処理については後述する。
【0039】
判定部72は、加工対象物Wの加工中に相対移動が停止されたワイヤ電極12の停止位置Pから、ワイヤ電極12を後退可能であるか否かを判定する。ここで、
図3を用いて、判定部72の判定処理を説明する。なお、
図3は、画像取得部70が取得した画像を例示している。
【0040】
判定部72は、本実施形態では、画像取得部70が取得した画像に基づいて、ワイヤ電極12の停止位置Pから、当該停止前の加工により加工対象物Wに形成された加工溝PGに沿って後退するワイヤ電極12が加工対象物Wと接触するか否かを判定する。
【0041】
停止位置Pにおける加工溝PGの溝幅W1に対する、停止位置Pから設定された距離Dを隔てた後方位置における加工溝PGの溝幅W2との差(W1-W2)が閾値以上である場合、判定部72は、停止位置Pから後退するワイヤ電極12が加工対象物Wと接触すると判定する。一方、溝幅W1に対する溝幅W2との差が閾値未満である場合、判定部72は、停止位置Pから後退するワイヤ電極12が加工対象物Wと接触しないと判定する。
【0042】
なお、距離Dは、加工条件と同様に、オペレータの設定操作に応じて設定され、または、予めデフォルトとして設定された距離である。また、溝幅W1、W2は、ワイヤ電極12が延びる方向、および、当該ワイヤ電極12が後退する後退方向の各々に直交する方向における加工溝PGの長さである。
【0043】
報知部74は、加工対象物Wの加工中に検出部66で接触状態が検出されたときから所定時間を経過するまでに検出部66で接触解除状態が検出されない場合、かつ、停止位置Pから後退するワイヤ電極12が加工対象物Wと接触すると判定部72で判定された場合に、異常が生じたことを報知する。
【0044】
表示部、スピーカおよび発光部の少なくとも1つが制御装置18に備えられている場合、報知部74は、表示部、スピーカおよび発光部の少なくとも1つを用いて、異常が生じたことを報知してもよい。また、表示部、スピーカおよび発光部の少なくとも1つを備えた外部装置が制御装置18に接続される場合、報知部74は、その外部装置に作動信号を送信することで、異常が生じたことを報知してもよい。
【0045】
次に、
図4を用いて、画像取得部70の画像取得処理を説明する。
【0046】
画像取得部70は、加工対象物Wの加工中に検出部66で接触状態が検出されたときから、当該検出部66で接触解除状態が検出されることなく所定時間を経過した時点を契機として、ステップS1に移行する。
【0047】
ステップS1において、画像取得部70は、加工槽46内の加工液を排水させる。画像取得部70は、具体的には、加工液処理装置16と加工槽46とを連結する排水管に設けられたバルブを開放し、当該排水管に設けられた流水センサに基づいて設定量の加工液を加工槽46から排水させる。設定量は、少なくともカメラ54に対向する加工対象物Wの面が加工液に浸漬しない状態になる量であり、オペレータの設定操作に応じて設定され、または、予めデフォルトとして設定される。画像取得部70は、加工槽46から設定量の加工液を排水させ終わるとバルブを閉塞し、ステップS2に移行する。
【0048】
ステップS2において、画像取得部70は、カメラ54を制御し、停止位置Pのワイヤ電極12を含む加工対象物Wを撮像させる。画像取得部70は、カメラ54で撮像された画像を取得すると、ステップS3に移行する。
【0049】
ステップS3において、画像取得部70は、加工槽46内の加工液を注水させる。画像取得部70は、具体的には、加工液処理装置16と加工槽46とを連結する注水管に設けられたバルブを開放し、当該注水管に設けられた流水センサに基づいて設定量の加工液を
加工液処理装置16から注水させる。画像取得部70は、加工液処理装置16から設定量の加工液を注水させ終わるとバルブを閉塞し、画像取得処理を終了する。
【0050】
次に、
図5を用いて、制御部60の制御処理を説明する。具体的には、加工中に加工対象物Wに対するワイヤ電極12の接触が検出部66により検出された以降に実行する制御部60の制御処理を説明する。
【0051】
すなわち、制御処理は、加工対象物Wの加工中に検出部66で接触状態が検出されると、ステップS11に移行する。
【0052】
ステップS11において、振動部68は、ワイヤ電極12の相対移動を停止させ、ワイヤ電極12の相対移動を停止させた停止位置Pを基準にワイヤ電極12を振動させる。ワイヤ電極12の振動が開始されると、制御処理は、ステップS12に移行する。
【0053】
ステップS12において、相対移動制御部64は、接触状態を検出したときから所定時間を経過するまでに、検出部66で接触解除状態が検出されるか否かを監視する。ここで、接触状態を検出したときから所定時間を経過するまでに接触解除状態が検出された場合、制御処理は、ステップS13に移行する。これに対し、接触状態を検出したときから所定時間を経過しても接触解除状態が検出されなかった場合、制御処理は、ステップS14に移行する。
【0054】
ステップS13において、相対移動制御部64は、ワイヤ電極12の相対移動を停止させた停止位置Pからワイヤ電極12の相対移動を再開させる。ワイヤ電極12の相対移動が再開されると、制御処理は終了する。
【0055】
ステップS14において、画像取得部70は、上述した画像取得処理を実行することで、停止位置Pのワイヤ電極12を含む加工対象物Wの画像を取得する。画像取得部70が画像を取得すると、制御処理はステップS15に移行する。
【0056】
ステップS15において、判定部72は、画像取得部70が取得した画像に基づいて、ワイヤ電極12の停止位置Pから、当該停止前の加工により加工対象物Wに形成された加工溝PGに沿って後退するワイヤ電極12が加工対象物Wと接触するか否かを判定する。
【0057】
ここで、停止位置Pにおける溝幅W1に対する、停止位置Pから設定された距離Dを隔てた後方位置における溝幅W2との差(W1-W2)が閾値未満である場合、判定部72は、停止位置Pから後退するワイヤ電極12が加工対象物Wと接触しないと判定する。この場合、制御処理はステップS16に移行する。これに対し、溝幅W1に対する溝幅W2との差が閾値以上である場合、判定部72は、停止位置Pから後退するワイヤ電極12が加工対象物Wと接触すると判定する。この場合、制御処理はステップS17に移行する。
【0058】
ステップS16において、相対移動制御部64は、停止位置Pから所定の距離Dを隔てた後退位置まで加工溝PGに沿って後退するようにワイヤ電極12を相対移動させる。相対移動制御部64は、ワイヤ電極12を後退位置に相対移動させると、ステップS13に移行し、後退位置からワイヤ電極12の相対移動を再開させる。
【0059】
ステップS17において、報知部74は、異常が生じたことを報知する。報知部74が報知し終わると、制御処理は終了する。
【0060】
[変形例]
上記の実施形態は、以下のように変形してもよい。
【0061】
(変形例1)
相対移動制御部64は、ワイヤ電極12を振動させる振動回数が所定回数になるまでに接触解除状態が検出されるか否かを監視してもよい(ステップS12)。振動回数が所定回数になるまでに接触解除状態が検出された場合、相対移動制御部64は、ワイヤ電極12の相対移動を再開させる(ステップS13)。一方、振動回数が所定回数になるまでに接触解除状態が検出されない場合、かつ、停止位置Pから後退するワイヤ電極12が加工対象物Wと接触しないと判定された場合、相対移動制御部64は、加工溝PGに沿って停止位置Pから設定された距離まで後退するようにワイヤ電極12を相対移動させる(ステップS16)。
【0062】
また、報知部74は、振動回数が所定回数になるまでに接触解除状態が検出されない場合、かつ、停止位置Pから後退するワイヤ電極12が加工対象物Wと接触すると判定された場合、異常が生じたことを報知してもよい(ステップS17)。
【0063】
なお、ワイヤ電極12に対する第1振動方向への移動によりワイヤ電極12を振動させる場合、振動回数は、例えば、Xモータ56xを制御することで、停止位置PからX方向または-X方向に所定距離を隔てた位置を経由して停止位置Pに戻したときを1回として換算される。また、ワイヤ電極12に対する第2振動方向への移動によりワイヤ電極12を振動させる場合、振動回数は、例えば、Yモータ56yを制御することで、停止位置PからY方向または-Y方向に所定距離を隔てた位置を経由して停止位置Pに戻したときを1回として換算される。また、ワイヤ電極12に対する第3振動方向への移動によりワイヤ電極12を振動させる場合、振動回数は、例えば、トルクモータ26およびトルクモータ42の各々を制御することで、停止位置PからZ方向または-Z方向に所定距離を隔てた位置を経由して停止位置Pに戻したときを1回として換算される。
【0064】
また、ワイヤ電極12に対する張力の変更によりワイヤ電極12を振動させる場合、振動回数は、例えば、ブレーキモータ30などを制御することで、停止位置Pでワイヤ電極12が停止されたときの停止時張力から張力を変更して再び停止時張力に戻したときを1回として換算される。また、加工液の液圧の変更によりワイヤ電極12を振動させる場合、振動回数は、例えば、加工液処理装置16のポンプなどを制御することで、停止位置Pでワイヤ電極12が停止されたときの停止時液圧から液圧を変更して再び停止時液圧としたときを1回として換算される。
【0065】
(変形例2)
判定部72は、加工対象物Wに形成された加工溝PGを計測するセンサの計測結果に基づいて、加工対象物Wに形成された加工溝PGに沿って停止位置Pから後退するワイヤ電極12が加工対象物Wと接触するか否かを判定してもよい。
【0066】
センサの計測結果に基づいて判定する場合、例えば、カメラ54に代えて、加工溝PGまでの距離を計測するプローブなどのセンサがダイスガイド34に設けられる。また、画像取得部70に代えて、ダイスガイド34を走査してセンサで計測された距離に基づいて溝幅W1、W2を取得する取得部が設けられる。これにより、上記の実施形態と同様に、加工溝PGに沿って停止位置Pから後退するワイヤ電極12が加工対象物Wと接触するか否かを判定することが可能となる。
【0067】
(変形例3)
判定部72は、記憶部58に記憶されたデータテーブルに基づいて、加工対象物Wに形成された加工溝PGに沿って停止位置Pから後退するワイヤ電極12が加工対象物Wと接触するか否かを判定してもよい。
【0068】
データテーブルとして、例えば、少なくとも、加工対象物Wの厚さと、ワイヤ電極12の外径と、加工条件と、加工時に推定される加工対象物Wの歪の程度(歪度)とを関連付けたものが採用される。加工対象物Wの厚さは、テーブル52に固定される加工対象物Wにおいてワイヤ電極12が延びる方向に対応する方向の厚さである。
【0069】
判定部72は、データテーブルを参照して加工対象物Wの加工中に検出部66で接触状態が検出されたときの歪度を認識し、その歪度に対して設定された閾値と比較する。これにより、加工溝PGに沿って停止位置Pから後退するワイヤ電極12が加工対象物Wと接触するか否かを判定することが可能となる。
【0070】
(変形例4)
上記の実施の形態および変形例は、矛盾の生じない範囲で任意に組み合わされてもよい。
【0071】
[実施形態および変形例から得られる発明]
上記の実施形態および変形例から把握しうる発明について、以下に記載する。
【0072】
(第1の発明)
第1の発明は、
加工対象物(W)に対してワイヤ電極(12)を相対移動させながら、加工対象物(W)とワイヤ電極(12)との極間に放電を発生させることで、加工対象物(W)を加工するワイヤ放電加工機(10)であって、
加工対象物(W)に対してワイヤ電極(12)が接触した接触状態、および、接触状態にあるワイヤ電極(12)が加工対象物(W)から離れた接触解除状態を検出する検出部(66)と、
加工対象物(W)の加工中に接触状態が検出された場合にはワイヤ電極(12)の相対移動を停止させ、ワイヤ電極(12)の相対移動を停止させた停止位置(P)を基準にワイヤ電極(12)を振動させる振動部(68)と、
接触状態が検出されたときから所定時間を経過するまで、または、ワイヤ電極(12)を振動させる振動回数が所定回数になるまでに接触解除状態が検出された場合には、ワイヤ電極(12)の相対移動を再開させる相対移動制御部(64)と、
を備える。
【0073】
これにより、ワイヤ電極(12)を後退させることなく短絡を解消することができ、この結果、加工対象物(W)が歪んで加工溝(PG)に入り込んでいたとしても、円滑に加工することができる。
【0074】
ワイヤ放電加工機(10)は、加工対象物(W)に形成された加工溝(PG)に沿って、停止位置(P)から後退するワイヤ電極(12)が加工対象物(W)と接触するか否かを判定する判定部(72)を備え、相対移動制御部(64)は、接触状態が検出されたときから所定時間を経過するまで、または、振動回数が所定回数になるまでに接触解除状態が検出されない場合、かつ、停止位置(P)から後退するワイヤ電極(12)が加工対象物(W)と接触しないと判定された場合には、加工溝(PG)に沿って停止位置(P)から設定された距離(D)まで後退するようにワイヤ電極(12)を相対移動させてもよい。これにより、加工対象物(W)が歪んで加工溝(PG)に入り込んでいた場合に、ワイヤ電極(12)を後退させることを抑制できる。
【0075】
判定部(72)は、停止位置(P)における加工溝(PG)の溝幅(W1)に対する、停止位置(P)から設定された距離(D)を隔てた後方位置における加工溝(PG)の溝幅(W2)との差(W1-W2)が閾値以上である場合には、停止位置(P)から後退するワイヤ電極(12)が加工対象物(W)と接触すると判定し、当該差が閾値未満である場合には、停止位置(P)から後退するワイヤ電極(12)が加工対象物(W)と接触しないと判定してもよい。これにより、後退するワイヤ電極(12)と加工対象物(W)との接触の是非を正確に判定することができる。
【0076】
判定部(72)は、ワイヤ電極(12)が延びる方向に設けられたカメラ(54)で撮像された画像に基づいて、停止位置(P)から後退するワイヤ電極(12)が加工対象物(W)と接触するか否かを判定してもよい。これにより、実際の加工状態を捉えることができ、この結果、後退するワイヤ電極(12)と加工対象物(W)との接触の是非を正確に判定することができる。
【0077】
判定部(72)は、液体内で加工される加工対象物(W)のうち、少なくともカメラ(54)に対向する加工対象物(W)の面が液体に浸漬していない状態で撮像された画像に基づいて、停止位置(P)から後退するワイヤ電極(12)が加工対象物(W)と接触するか否かを判定してもよい。これにより、実際の加工状態を鮮明に捉えることができ、この結果、後退するワイヤ電極(12)と加工対象物(W)との接触の是非を正確に判定することができる。
【0078】
ワイヤ放電加工機(10)は、接触状態が検出されたときから所定時間を経過するまで、または、振動回数が所定回数になるまでに接触解除状態が検出されない場合、かつ、停止位置(P)から後退するワイヤ電極(12)が加工対象物(W)と接触すると判定された場合に、異常が生じたことを報知する報知部(74)を備えてもよい。これにより、自動復帰し難い状況にあることをオペレータに通知することができる。
【0079】
(第2の発明)
第2の発明は、
加工対象物(W)に対してワイヤ電極(12)を相対移動させながら、加工対象物(W)とワイヤ電極(12)との極間に放電を発生させることで、加工対象物(W)を加工するワイヤ放電加工機(10)の制御方法であって、
加工対象物(W)の加工中に加工対象物(W)に対してワイヤ電極(12)が接触した接触状態が検出された場合にはワイヤ電極(12)の相対移動を停止させ、ワイヤ電極(12)の相対移動を停止させた停止位置(P)を基準にワイヤ電極(12)を振動させる振動ステップ(S11)と、
接触状態が検出されたときから所定時間を経過するまで、または、ワイヤ電極(12)を振動させる振動回数が所定回数になるまでに、接触状態にあるワイヤ電極(12)が加工対象物(W)から離れた接触解除状態が検出された場合には、ワイヤ電極(12)の相対移動を再開させる再開ステップ(S13)と、
を含む。
【0080】
これにより、ワイヤ電極(12)を後退させることなく短絡を解消することができ、この結果、加工対象物(W)が歪んで加工溝(PG)に入り込んでいたとしても、円滑に加工することができる。
【0081】
制御方法は、加工対象物(W)に形成された加工溝(PG)に沿って、停止位置(P)から後退するワイヤ電極(12)が加工対象物(W)と接触するか否かを判定する判定ステップ(S15)と、接触状態が検出されたときから所定時間を経過するまで、または、振動回数が所定回数になるまでに接触解除状態が検出されない場合、かつ、停止位置(P)から後退するワイヤ電極(12)が加工対象物(W)と接触しないと判定された場合には、加工溝(PG)に沿って停止位置(P)から設定された距離(D)まで後退するようにワイヤ電極(12)を相対移動させる後退ステップ(S16)と、を含んでもよい。これにより、加工対象物(W)が歪んで加工溝(PG)に入り込んでいた場合に、ワイヤ電極(12)を後退させることを抑制できる。
【0082】
判定ステップ(S15)は、停止位置(P)における加工溝(PG)の溝幅(W1)に対する、停止位置(P)から設定された距離(D)を隔てた後方位置における加工溝(PG)の溝幅(W2)との差(W1-W2)が閾値以上である場合には、停止位置(P)から後退するワイヤ電極(12)が加工対象物(W)と接触すると判定し、当該差が閾値未満である場合には、停止位置(P)から後退するワイヤ電極(12)が加工対象物(W)と接触しないと判定してもよい。これにより、後退するワイヤ電極(12)と加工対象物(W)との接触の是非を正確に判定することができる。
【0083】
判定ステップ(S15)は、ワイヤ電極(12)が延びる方向に設けられたカメラ(54)で撮像された画像に基づいて、停止位置(P)から後退するワイヤ電極(12)が加工対象物(W)と接触するか否かを判定してもよい。これにより、実際の加工状態を捉えることができ、この結果、後退するワイヤ電極(12)と加工対象物(W)との接触の是非を正確に判定することができる。
【0084】
判定ステップ(S15)は、液体内で加工される加工対象物(W)のうち、少なくともカメラ(54)に対向する加工対象物(W)の面が液体に浸漬していない状態で撮像された画像に基づいて、停止位置(P)から後退するワイヤ電極(12)が加工対象物(W)と接触するか否かを判定してもよい。これにより、実際の加工状態を鮮明に捉えることができ、この結果、後退するワイヤ電極(12)と加工対象物(W)との接触の是非を正確に判定することができる。
【0085】
制御方法は、接触状態が検出されたときから所定時間を経過するまで、または、振動回数が所定回数になるまでに接触解除状態が検出されない場合、かつ、停止位置(P)から後退するワイヤ電極(12)が加工対象物(W)と接触すると判定された場合に、異常が生じたことを報知する報知ステップ(S17)を含んでもよい。これにより、自動復帰し難い状況にあることをオペレータに通知することができる。
【符号の説明】
【0086】
10…ワイヤ放電加工機 12…ワイヤ電極
60…制御部 62…電源制御部
64…相対移動制御部 66…検出部
68…振動部 70…画像取得部
72…判定部 74…報知部