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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023011221
(43)【公開日】2023-01-24
(54)【発明の名称】ハウス栽培システム及びその制御方法
(51)【国際特許分類】
   A01G 9/24 20060101AFI20230117BHJP
   A01G 7/00 20060101ALI20230117BHJP
【FI】
A01G9/24 M
A01G7/00 601Z
A01G7/00 603
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021114951
(22)【出願日】2021-07-12
(71)【出願人】
【識別番号】501418498
【氏名又は名称】矢崎エナジーシステム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145908
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 信雄
(74)【代理人】
【識別番号】100136711
【弁理士】
【氏名又は名称】益頭 正一
(72)【発明者】
【氏名】石田 和秀
(72)【発明者】
【氏名】石松 征弘
(72)【発明者】
【氏名】近藤 正治
【テーマコード(参考)】
2B022
2B029
【Fターム(参考)】
2B022DA13
2B022DA15
2B022DA17
2B029MA06
2B029MA07
2B029SA01
2B029SB06
2B029SF08
(57)【要約】
【課題】収益の最大化を図ることができるハウス栽培システム及びその制御方法を提供する。
【解決手段】ハウス栽培システムは、ハウス内に燃料の燃焼を利用して空調効果をもたらすと共に、燃料の燃焼によって発生した二酸化炭素を供給可能な吸収式冷温水器及び送風機と、これらを制御する運転制御部85と、作物の品質及び収量と温度との相関を示す相関データを記憶する記憶部81と、ハウス内の栽培作物の育成予定期間について、将来の気象条件を設定する設定部82と、設定された気象条件に基づいて栽培作物の収量を予測する収量予測部83と、予測された収量に基づいて収益の最大化のためのハウス内の設定温度を算出する算出部84と、を備え、運転制御部85は、算出された設定温度に基づいてハウス内の温度を制御すると共に、ハウス内の二酸化炭素濃度が所定濃度以上を維持する制御を実行する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
作物を栽培するためのハウス内に、燃料の燃焼を利用して空調効果をもたらすと共に、燃料の燃焼によって発生した二酸化炭素を供給可能な空調機器と、
前記ハウス内の温度を検出するための温度センサと、
前記ハウス内の二酸化炭素濃度を検出するための二酸化炭素センサと、
前記温度センサ及び前記二酸化炭素センサからの情報に基づいて前記空調機器を制御する制御手段と、を備えるハウス栽培システムであって、
作物の品質及び収量と温度との相関を示す相関データを記憶する記憶手段と、
前記ハウス内の栽培作物の育成予定期間について、将来の気象条件を設定する設定手段と、
前記設定手段により設定された気象条件に基づいて、前記栽培作物の収量を予測する予測手段と、
前記予測手段により予測された収量に基づいて、収益の最大化のための前記ハウス内の設定温度を算出する算出手段と、を備え、
前記制御手段は、前記算出手段により算出された設定温度に基づいて前記ハウス内の温度を制御すると共に、前記ハウス内の二酸化炭素濃度が所定濃度以上を維持する制御を実行する
ことを特徴とするハウス栽培システム。
【請求項2】
前記算出手段は、前記予測手段により予測された作物の収量から豊作であると判断した場合、前記記憶手段により記憶される相関データに基づいて、前記ハウス内の栽培作物の品質を最大化させる品質温度を前記設定温度として算出する
ことを特徴とする請求項1に記載のハウス栽培システム。
【請求項3】
前記算出手段は、前記予測手段により予測された作物の収量から不作であると判断した場合、前記記憶手段により記憶される相関データに基づいて、前記ハウス内の栽培作物の収量を最大化させる収量温度を前記設定温度として算出する
ことを特徴とする請求項1又は請求項2のいずれかに記載のハウス栽培システム。
【請求項4】
前記制御手段は、前記算出手段により算出された設定温度に基づいて前記ハウス内の温度を制御する処理よりも優先して、前記ハウス内の二酸化炭素濃度が所定濃度以上を維持する制御を実行する
ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のハウス栽培システム。
【請求項5】
前記ハウス内の湿度を検出する湿度センサをさらに備え、
前記空調機器は、除湿運転可能であり、
前記制御手段は、前記湿度センサにより検出される湿度が所定湿度以上となる場合、前記空調機器を除湿運転させる
ことを特徴とする請求項4に記載のハウス栽培システム。
【請求項6】
前記制御手段は、前記湿度センサにより検出される湿度が所定湿度以上となる場合、前記空調機器を除湿運転させる制御よりも優先して、前記算出手段により算出された設定温度に基づいて前記ハウス内の温度を制御する処理を実行する
ことを特徴とする請求項5に記載のハウス栽培システム。
【請求項7】
前記ハウスが設置される環境での日射量を検出する日射量センサをさらに備え、
前記制御手段は、前記日射量センサにより検出される日射量が、所定値以上の範囲内において低くなるほど、前記ハウス内の二酸化炭素濃度を高める制御を実行する
ことを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載のハウス栽培システム。
【請求項8】
前記制御手段は、前記日射量センサにより検出される日射量が所定値未満となると、前記ハウス内の二酸化炭素濃度を所定濃度以上に維持する制御を中止する
ことを特徴とする請求項7に記載のハウス栽培システム。
【請求項9】
前記ハウスが設置される環境での気圧を検出する気圧センサをさらに備え、
前記空調機器は、冷房運転及び暖房運転可能であり、
前記制御手段は、前記空調機器が暖房運転を行う設定とされ、且つ、前記気圧センサにより検出される気圧が所定気圧以上である場合、日の出に先立って、前記ハウス内の二酸化炭素濃度を高める制御を実行する
ことを特徴とする請求項1から請求項8のいずれか1項に記載のハウス栽培システム。
【請求項10】
前記空調機器にて発生する熱を蓄える蓄熱タンクをさらに備え、
前記空調機器は、冷却塔と、生成された冷液又は加熱液を送風機に送るための配管と、を有する吸収式冷温水器を含み、
前記制御手段は、前記ハウス内の二酸化炭素濃度を所定濃度以上に維持する制御を行うにあたり、前記吸収式冷温水器にて燃料を燃焼させて二酸化炭素を得ると共に、前記蓄熱タンクの蓄熱量が所定未満である場合に生成した冷液又は加熱液の熱を前記蓄熱タンクに蓄え、且つ、前記蓄熱タンクの蓄熱量が所定以上である場合に熱交換器を通じて冷液又は加熱液の熱を前記冷却塔側に熱移送して破棄させる
ことを特徴とする請求項1から請求項9のいずれか1項に記載のハウス栽培システム。
【請求項11】
作物を栽培するためのハウス内に、燃料の燃焼を利用して空調効果をもたらすと共に、燃料の燃焼によって発生した二酸化炭素を供給可能な空調機器と、
前記ハウス内の温度を検出するための温度センサと、
前記ハウス内の二酸化炭素濃度を検出するための二酸化炭素センサと、
前記温度センサ及び前記二酸化炭素センサからの情報に基づいて前記空調機器を制御する制御手段と、
作物の品質及び収量と温度との相関を示す相関データを記憶する記憶手段と、を備えるハウス栽培システムの制御方法であって、
前記ハウス内の栽培作物の育成予定期間について、将来の気象条件を設定する設定工程と、
前記設定工程において設定された気象条件に基づいて、前記栽培作物の収量を予測する予測工程と、
前記予測工程において予測された収量に基づいて、収益の最大化のための前記ハウス内の設定温度を算出する算出工程と、
前記算出工程において算出された設定温度に基づいて前記ハウス内の温度を制御すると共に、前記ハウス内の二酸化炭素濃度が所定濃度以上を維持する制御工程と、
を備えることを特徴とするハウス栽培システムの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハウス栽培システム及びその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、植物栽培等に用いられるハウス内の温度を適切化すべく、ヒートポンプ等の装置を適切に制御する温度管理システムが提案されている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016-195555号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、特許文献1に記載のような温度管理システムについては、作物の収量を最大化させたり品質を最大化させたりするために温度管理を行っているに留まっており、例えば収益の最適化という観点での制御を行っているものではない。このため、折角収量を最大化したとしてもその作物が全国的に豊作であり作物の破棄を余儀なくされたり、品質を最大化させたにもかかわらず、その作物が全国的に不作であり収量を最大化させるべきであったり等、収益が最大化されるものではなかった。
【0005】
加えて、作物の成長に光合成が必須であることから、作物に対して二酸化炭素を供給する必要があるものの、特許文献1に記載のような温度管理システムについては、温度管理を追求する反面、二酸化炭素の供給については考慮されておらず、この点からも収益の最大化について向上の余地がある。
【0006】
本発明は、このような問題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、収益の最大化を図ることができるハウス栽培システム及びその制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るハウス栽培システムは、作物を栽培するためのハウス内に、燃料の燃焼を利用して空調効果をもたらすと共に、燃料の燃焼によって発生した二酸化炭素を供給可能な空調機器と、前記ハウス内の温度を検出するための温度センサと、前記ハウス内の二酸化炭素濃度を検出するための二酸化炭素センサと、前記温度センサ及び前記二酸化炭素センサからの情報に基づいて前記空調機器を制御する制御手段と、を備えるハウス栽培システムであって、作物の品質及び収量と温度との相関を示す相関データを記憶する記憶手段と、前記ハウス内の栽培作物の育成予定期間について、将来の気象条件を設定する設定手段と、前記設定手段により設定された気象条件に基づいて、前記栽培作物の収量を予測する予測手段と、前記予測手段により予測された収量に基づいて、収益の最大化のための前記ハウス内の設定温度を算出する算出手段と、を備え、前記制御手段は、前記算出手段により算出された設定温度に基づいて前記ハウス内の温度を制御すると共に、前記ハウス内の二酸化炭素濃度が所定濃度以上を維持する制御を実行する。
【0008】
また、本発明に係るハウス栽培システムの制御方法は、作物を栽培するためのハウス内に、燃料の燃焼を利用して空調効果をもたらすと共に、燃料の燃焼によって発生した二酸化炭素を供給可能な空調機器と、前記ハウス内の温度を検出するための温度センサと、前記ハウス内の二酸化炭素濃度を検出するための二酸化炭素センサと、前記温度センサ及び前記二酸化炭素センサからの情報に基づいて前記空調機器を制御する制御手段と、作物の品質及び収量と温度との相関を示す相関データを記憶する記憶手段と、を備えるハウス栽培システムの制御方法であって、前記ハウス内の栽培作物の育成予定期間について、将来の気象条件を設定する設定工程と、前記設定工程において設定された気象条件に基づいて、前記栽培作物の収量を予測する予測工程と、前記予測工程において予測された収量に基づいて、収益の最大化のための前記ハウス内の設定温度を算出する算出工程と、前記算出工程において算出された設定温度に基づいて前記ハウス内の温度を制御すると共に、前記ハウス内の二酸化炭素濃度が所定濃度以上を維持する制御工程とを備える。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ハウス内で栽培予定の栽培作物の育成予定期間について将来の気象条件を設定し、設定した気象条件に基づいて栽培予定の作物の収量を予測し、予測した収量に基づいて設定温度を算出するため、例えば今期が豊作であるか不作であるか等を判断することができ、今期が豊作であるときに品質を高める等、収益を最大化するように栽培作物を育成することができる。さらに、ハウス内の二酸化炭素濃度が所定濃度以上を維持する制御を実行することから光合成を阻害しないようにでき、収量及び品質の双方を高めることができる。従って、収益の最大化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施形態に係るハウス栽培システムを示す構成図である。
図2図1に示した制御装置の詳細を示すブロック図である
図3】本実施形態に係るハウス栽培システムの制御方法を示す第1のフローチャートである。
図4】本実施形態に係るハウス栽培システムの制御方法を示す第2のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を好適な実施形態に沿って説明する。なお、本発明は以下に示す実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。また、以下に示す実施形態においては、一部構成の図示や説明を省略している箇所があるが、省略された技術の詳細については、以下に説明する内容と矛盾点が発生しない範囲内において、適宜公知又は周知の技術が適用されていることはいうまでもない。
【0012】
図1は、本発明の実施形態に係るハウス栽培システムを示す構成図である。図1に示すように、ハウス栽培システム1は、作物を栽培するためのハウスH内の温度、二酸化炭素の濃度、及び湿度を制御するものである。このハウス栽培システム1は、ハウスHと、吸収式冷温水器(空調機器)10と、送風機(空調機器)20と、蓄熱タンク30と、ダンパ40と、排煙処理装置50と、換気扇60と、熱交換器70と、制御装置80と、排煙ルートRと、複数のセンサT1~T5,TH,C1,C2,B,Sと、三方弁Vとを備えている。
【0013】
吸収式冷温水器10及び送風機20は、ハウスH内に、燃料の燃焼を利用して空調効果をもたらすと共に、燃料の燃焼によって発生した二酸化炭素を供給可能なものである。なお、本実施形態においては吸収式冷温水器10を例に説明するが、特にこれに限らず、ハウスH内に空調効果をもたらし且つ二酸化炭素を供給可能であればガスヒートポンプ等であってもよい。
【0014】
吸収式冷温水器10は、再生器、凝縮器、蒸発器、及び吸収器による冷凍サイクルを利用して冷液を得るものである。また、吸収式冷温水器10は、不図示の切替弁を切り替えることで、再生器、蒸発器、及び吸収器による暖房サイクル(すなわち凝縮器を用いないサイクル)により加熱液を得るものである。
【0015】
この吸収式冷温水器10は、第1配管(配管)L1と、第1ポンプP1とを備えている。第1配管L1は、吸収式冷温水器10とハウスH内に設けられた送風機20との間で冷液や加熱液を循環させるための流路である。第1ポンプP1は、第1配管L1において冷液や加熱液を循環させるための動力となるものである。これらの構成により、冷液や加熱液は、吸収式冷温水器10から送風機20まで移送され、送風機20において冷房や暖房に利用等されてから、吸収式冷温水器10に戻ってくることとなる。
【0016】
さらに、吸収式冷温水器10は、冷却塔CTと、第2配管L2と、第2ポンプP2とを備えている。第2配管L2は、吸収式冷温水器10の吸収器及び凝縮器を経由して冷却塔CTまで循環可能に接続された流路である。第2ポンプP2は、第2配管L2において冷却水を循環させるための動力となるものである。これらの構成により、冷却水は、吸収式冷温水器10の吸収器及び凝縮器内で吸収熱や凝縮熱を取り込んだ後に冷却塔CTまで移送され冷却塔CTにて放熱し、放熱後に再度吸収式冷温水器10に戻ってくることとなる。
【0017】
送風機20は、吸収式冷温水器10からの冷液や加熱液を利用してハウスH内に冷房効果や暖房効果をもたらすものである。送風機20は、ファン(不図示)を有し、例えば第1配管L1に冷液が流れている場合にファンをオンすることでハウスH内に冷房効果をもたらし、加熱液が流れている場合にファンをオンすることでハウスH内に暖房効果をもたらす。
【0018】
蓄熱タンク30は、第1配管L1に接続されており、冷液による冷熱や加熱液による温熱を蓄えるものである。この蓄熱タンク30内には、例えば水酸化マグネシウム等の蓄熱材が収納されて冷熱や温熱を蓄熱可能とされている。なお、蓄熱タンク30は、この構成に限られるものではなく、単に冷液や加熱液を貯留するもの等、他の構成のものが採用されていてもよい。このような蓄熱タンク30は三方弁Vを介して第1配管L1に接続されている。このため、吸収式冷温水器10の冷液や加熱液は、蓄熱タンク30を経由して送風機20まで届けられたり、蓄熱タンク30を経由することなく送風機20まで届けられたりするようになっている。
【0019】
また、吸収式冷温水器10は、燃料ガスや木質ペレット等の燃料によって再生器が加熱可能に構成されている。さらに、吸収式冷温水器10は、燃料の燃焼によって二酸化炭素を含む排煙を発生させる。
【0020】
排煙ルートRは、吸収式冷温水器10にて発生した排煙をハウスH内に供給したり上空に放出したりするための煙流路である。この排煙ルートRは、途中で第1ルートR1と第2ルートR2とに分岐している。第1ルートR1は、排煙を上空放出するためのルートであり、先端付近にダンパ40が設けられている。ダンパ40は、第1ルートR1を開閉可能なものであって排煙の放出を制御するものである。第2ルートR2は、ハウスH内に向かうルートであり、排煙をハウスH内に供給するためのルートである。ダンパ40が開けられた場合、排煙は上空放出され、ダンパ40が閉じられた場合、排煙はハウスH内に供給される。
【0021】
排煙処理装置50は、いわゆる脱硝・脱硫を行う装置である。排煙には有害となる硫黄成分や窒素酸化物が含まれることがある。排煙処理装置50は、硫黄成分や窒素酸化物を除去することで、放出する際の環境基準を満たすようにしたり、基準以上の有害物質を含む状態で排煙がハウスH内に供給されないようにしている。
【0022】
換気扇60は、ハウスH内の空気の入れ替えを行うためのものである。この換気扇60は、通常の換気運転を行うと共に、ハウスH内の二酸化炭素濃度が異常値まで達すると高換気運転を行うようになっている。
【0023】
熱交換器70は、高温熱交換器71と、低温熱交換器72と、第2の低温熱交換器(熱交換器)73とを備えている。高温熱交換器71及び低温熱交換器72は、排煙の熱を利用するものであって、排煙と熱交換して熱が必要となる他の機器に熱供給するものである。
【0024】
第2の低温熱交換器73は、第1配管L1を流れる流体と、第2配管L2を流れる流体との熱交換を行うものである。例えばハウスH内に二酸化炭素を供給したい場合には吸収式冷温水器10が運転される。この際、ハウスH内を冷房又は暖房する必要がないとすると、送風機20のファンがオンされることなく、吸収式冷温水器10で得られた冷液や加熱液は蓄熱タンク30における蓄熱に利用される。しかし、蓄熱タンク30での蓄熱容量を超えた場合には、冷熱や温熱を破棄する必要がある。このような場合、第2の低温熱交換器73を利用して熱交換を行うことで、第1配管L1側の熱を冷却塔CT側から破棄することができる。
【0025】
第1温度センサT1は、排煙ルートRの第2ルートR2を流れる排煙の温度を検出するためのものである。第2温度センサT2は、第1配管L1を流れる冷液又は加熱液の温度を検出するためのものである。第3温度センサT3は、蓄熱タンク30の上部の温度を検出するためのものである。第4温度センサT4は、蓄熱タンク30の下部の温度を検出するためのものである。第5温度センサT5は、ハウスHが設置される環境での外気温度を検出するためのものである。
【0026】
温湿度センサ(温度センサ、湿度センサ)THは、ハウスH内の温度及び湿度を検出するためのものである。第1二酸化炭素センサ(二酸化炭素センサ)C1は、ハウスH内の二酸化炭素濃度を検出するためのものである。第2二酸化炭素センサC2は、ハウスH外の外気を対象とする二酸化炭素濃度を検出するためのものである。日射量センサSは、ハウスHが設置される環境での日射量、すなわち栽培作物に照射される日射量を検出するためのものである。気圧センサBは、ハウスHが設置される環境での気圧を検出するためのものである。
【0027】
制御装置80は、ハウス栽培システム1の全体を制御するものであって、演算内容や各センサT1~T5,TH,C1,C2,B,Sからの情報に基づいて、吸収式冷温水器10の運転、送風機20の動作、三方弁V、及びダンパ40の動作等を制御するものである。
【0028】
図2は、図1に示した制御装置80の詳細を示すブロック図である。図2に示すように、制御装置80は、記憶部(記憶手段)81と、設定部(設定手段)82と、収量予測部(予測手段)83と、算出部(算出手段)84と、運転制御部(制御手段)85とを備えている。
【0029】
記憶部81は、ハウス栽培システム1を制御するための制御プログラムや各種データを記憶したものである。さらに、記憶部81は、少なくともハウスHで栽培予定の作物(栽培作物)について品質及び収量と温度との相関を示す相関データを記憶している。
【0030】
ここで、岡山大学の研究文献(文献名:YoshiMaxビギナーズマニュアル イチゴ栽培の基本と季節ごとの環境制御設定、以下参考文献という)によれば、第3頁において、作物には育成適温の範囲があることが説明されている。また、この範囲において高めの温度管理をすることで草勢(草の元気さ)の低下を避けることができ、収量性を向上できることが記載されている。一方、育成適温の範囲において低めの温度管理をすることで果実の成熟を遅らせることができ、糖の蓄積と酸の低下とを進行できることが記載されている。すなわち、品質を向上できることが記載されている。なお、育成適温の範囲を下回ったり上回ったりする温度管理では収量及び品質の双方が低くなる傾向があることが説明されている。記憶部81は、このような傾向を相関データとして記憶している。
【0031】
なお、作物によって参考文献第3頁に示す相関と異なる相関を示すこともある。例えば、女峰や紅ほっぺ(苺の品種)等の作物のように高めの温度管理で十分な二酸化炭素濃度を維持する方が高品質の果実を得ることができるものもある。このような作物については、参考文献第3頁に示す傾向と異なる傾向の相関データが記憶部81に記憶されていることとなる。
【0032】
設定部82は、ハウスH内の栽培作物の育成予定期間(すなわち将来的に作物を育てる予定の期間)について、将来の気象条件を設定するものである。このような設定部82は、入力部82aと、気象予測部82bとを備えている。
【0033】
入力部82aは、外部からのデータを入力するものであり、本実施形態においては作物の育成予定期間における予測温度や予測日射量を含む将来の気象データを入力したり、過去の気象データに応じた栽培作物の収量の情報を入力したりする。入力部82aに入力された情報は記憶部81に記憶される。
【0034】
設定部82は、入力部82aに入力された作物の育成予定期間における将来の気象データを、将来の気象条件として設定する。
【0035】
気象予測部82bは、過去の気象データに基づいて、作物の育成予定期間の気象条件を予測するものである。気象予測部82bは、例えば育成予定期間よりも数か月前の温度推移から育成予定期間における気象条件をAI(Artificial Intelligence)等によって予測したり、昨年の気象データに対して過去数年分の平均気温の変化傾向(上昇傾向や下降傾向)を加算して育成予定期間における気象条件を予測したりする。なお、気象条件の予測方法は上記に限られない。
【0036】
設定部82は、気象予測部82bに予測された予測結果を、作物の育成予定期間における将来の気象条件として設定する。
【0037】
なお、設定部82は、入力部82aと気象予測部82bとのいずれか一方を用いて気象条件を設定すればよいことから、いずれか他方の構成を備えていなくともよい。また、設定部82は、双方を備え、双方の結果の平均等を将来の気象条件として設定するようにしてもよい。
【0038】
加えて、気象予測部82bは、設定済みの気象条件と、実際の気象データとが一致しているか(差分が所定値以内で収まっているか)を判断し、一致していない場合には、その傾向に基づいて、現在から育成予定期間終了までの気象条件を変更するようになっていてもよい。一例を挙げると、育成予定期間が開始して10日間経過した段階で、10日分の気象条件と実際の気象データとが大きく異なる場合には、その後の気象条件が修正されることが好ましい。
【0039】
例えば設定された気象条件の気温よりも実際の気温が低い場合、気象予測部82bは、その後の気象条件の気温を全体的に低下させる旨の予測を行い、設定部82は新たに予測された気象条件で設定を行う。同様に、例えば設定された気象条件の日射量よりも実際の日射量が少ない場合、気象予測部82bは設定された気象条件の日射量を全体的に低下させる旨の予測を行い、設定部82は新たに予測された気象条件で設定を行う。このように、設定部82は所定期間(例えば10日)毎に設定されている将来の気象条件についてフィードバック調整を行っていく。
【0040】
収量予測部83は、設定部82により設定された気象条件に基づいて、栽培作物の収量を予測するものである。ここで予測される収量は、例えば全国的な収量の予測である。この収量予測部83による予測によって、豊作年であるのか、不作年であるのかを判断することができる。
【0041】
このような収量予測部83は、例えば設定された気象条件と、過去の気象データに応じた栽培作物の収量の情報とに基づいて、栽培作物の収量(例えば豊作度合いや不作度合い)を予測する。一例を挙げると、収量予測部83は、過去の豊作年の気象データと過去の不作年の気象データのうち、設定部82により設定された気象条件がどちら側に寄っているか等に基づいて豊作度合いや不作度合いを予測する。すなわち、収量予測部83は、設定部82により設定された気象条件の日射量が過去の不作年の日射量データと近しく、気温が過去の豊作年の気温データと近しい場合には、例えば豊作でも不作でもない中間と予測する。同様にして、収量予測部83は、設定部82により設定された気象条件の日射量が過去の豊作年の日射量データと近しく、気温が過去の豊作年と不昨年との気温データの中間である場合には、例えばやや豊作であると予測する。なお、この予測についてもAIにて行うようにしてもよいし、近しいと判断する場合や中間と判断する場合の演算式等によって行うようにしてもよい。
【0042】
さらに、収量予測部83は、例えば設定された気象条件のうち温度と記憶部81により記憶される相関データとに基づいて、豊作度合いや不作度合いを予測してもよい。なお、上記において収量予測部83は、豊作度合いや不作度合い(栽培作物の収量の一例)を予測しているが、これに限らず、収量を数値で予測してもよい。
【0043】
算出部84は、収量予測部83によって予測された収量に基づいて、収益の最大化のためのハウスH内の設定温度を算出するものである。例えば算出部84は、収量予測部83によって予測された収量から豊作であると判断した場合、記憶部81により記憶される相関データに基づいて、品質を最大化させるための品質温度を設定温度として算出する。同様に、算出部84は、収量予測部83によって予測された収量から不作であると判断した場合、相関データに基づいて、収量を最大化させるための収量温度を設定温度として算出する。なお、算出部84は、豊作でも不作でもない中間の場合には、両者を両立させるための中間温度を設定温度として算出してもよいし、やや豊作の場合には中間温度よりもやや品質温度寄りの温度を設定温度としてもよい。
【0044】
運転制御部85は、算出部84により算出された設定温度に基づいてハウスH内の温度を制御すると共に、ハウスH内の二酸化炭素濃度が所定濃度以上を維持する制御を行うものである。なお、二酸化炭素濃度については常時所定濃度以上を維持するように制御されてもよいが、日光が出ている時間帯のみで所定濃度以上を維持するように制御されてもよい。
【0045】
ここで、二酸化炭素濃度の維持制御について詳細説明する。参考文献第3頁には、二酸化炭素を供給(施用)した場合とそうでない場合との収量・品質の相関が説明されている。この説明によれば、例えば特定の作物についてバッグ当たりの株数を8株、10株、及び12株とし、それぞれについて二酸化炭素を供給した場合と供給していない場合とで比較をしたところ、いずれの株数においても二酸化炭素を供給した方が収量が多くなった。
【0046】
また、可溶性固形物濃度(すなわち糖度に相当)について比較した結果、特定の作物についてバッグ当たりの株数を8株、10株、及び12株とし、それぞれについて、二酸化炭素を供給した方が二酸化炭素を供給しない方よりも糖度(品質)が高い結果となった。
【0047】
また、参考文献第5頁には、特定の作物の光合成速度と日射量及び二酸化炭素濃度との相関が説明されており、光合成速度は日射量が多くなるほど高くなることが説明されている。さらに光合成速度は、二酸化炭素濃度が高くなるほど速くなる傾向にあることも説明されている。このため、二酸化炭素濃度が所定濃度以上を維持することにより安定した速度で光合成を行わせることができる。
【0048】
以上から、二酸化炭素濃度については光合成を阻害することなく促進させるよう供給することが収量及び品質の双方について望ましいといえる。よって、本実施形態に係る運転制御部85は、少なくとも日光が出ている時間帯について二酸化炭素濃度が所定濃度以上を維持するように制御することとなる。
【0049】
さらに、本実施形態において吸収式冷温水器10は冷液を生成して送風機20に送り、送風機20のファンを運転させることで、送風機20内で結露を発生することができ、除湿運転可能となっている。このため、運転制御部85は、温湿度センサTHにより検出される湿度が所定湿度以上となる場合に、吸収式冷温水器10から冷液を発生させ送風機20のファンを運転して除湿運転させることとなる。これにより、栽培作物の蒸散が阻害されるような高湿度状態を解消することができる。
【0050】
なお、吸収式冷温水器10から冷液を発生させ送風機20を運転した場合には、冷房効果も発揮されるため、高温熱交換器71及び低温熱交換器72での熱交換を一部停止する等して高温の排煙をハウスH内に供給することで調整を行うようにしてもよい。
【0051】
また、運転制御部85は、日射量センサSにより検出される日射量が所定値(例えば100W/m)以上の範囲内において低くなるほど、ハウスH内の二酸化炭素濃度を高める制御を実行することが好ましい。参考文献第5頁にて説明されるように、日射量が低くなると光合成速度が低下する傾向にある。このため、光合成速度の低下を抑制するために、二酸化炭素濃度を高めることが好ましい。これにより、収量及び品質の低下を抑制できるからである。
【0052】
なお、日射量が所定値を下回って低くなり過ぎると(特に30W/m以下)、二酸化炭素濃度を高めても光合成速度の向上が見込めない。よって、運転制御部85は、日射量が所定値未満である場合には二酸化炭素濃度を所定濃度以上に維持する制御自体を中止することとなる。
【0053】
また、本実施形態において吸収式冷温水器10は冷液又は加熱液を得ることができるため、冷房運転と暖房運転とが可能である。このうち、暖房運転が行われる期間は冬場等の1日を通じた全体の日射量が少なくなる期間であるといえる。運転制御部85は、このような期間において気圧センサBにより検出される気圧が所定気圧以上である場合(すなわち雨天でないと判断できる場合)、日の出に先立ってハウスH内の二酸化炭素濃度を高める制御を実行する。これにより、冬場等の光合成の促進が制限される場合において、効率良く光合成を行わせることができる。
【0054】
加えて、二酸化炭素濃度を所定濃度以上に維持する制御を行う場合には、ハウスH内を冷房したり暖房しなくともよい。このため、このような場合には蓄熱タンク30に蓄熱させることが好ましい。しかし、蓄熱タンク30の蓄熱最大容量との関係から、熱を破棄する必要も生じる。そこで、運転制御部85は、蓄熱タンク30の蓄熱量が所定以上(満熱状態に近い状態であって例えば蓄熱最大容量の90%以上)である場合に、第2の低温熱交換器73を介して冷却塔CTから熱を破棄する機能も備えている。この機能において、運転制御部85は、まず第3及び第4温度センサT3,T4からの情報に基づいて蓄熱タンク30の蓄熱量が所定以上であるか判断する。そして、運転制御部85は、蓄熱量が所定未満であるときに蓄熱タンク30に蓄熱させ、蓄熱量が所定以上である場合に第2の低温熱交換器73を介して第1配管L1の冷液又は加熱液の熱を冷却塔CT側に熱移送して破棄させる。
【0055】
さらに、制御装置80は、ハウスH内の土壌に水を供給する水供給装置についても制御する構成となっている。すなわち、制御装置80は、ハウスH内の土壌が栽培作物の育成に好適となる湿潤状態を維持するように制御することとなる。
【0056】
次に、本実施形態に係るハウス栽培システム1の制御方法を説明する。図3及び図4は、本実施形態に係るハウス栽培システム1の制御方法を示すフローチャートである。なお、図3及び図4に示す処理は、制御装置80の電源がオフされるまで繰り返し実行される。
【0057】
まず、制御装置80は冷房運転すべきか否かを判断する(S1)。例えば冷房すべきか暖房すべきかが予め月毎に定められている場合、制御装置80は、現在が何月かを判断することで、冷房運転すべきか否かを判断する。また、制御装置80は、温湿度センサTHにより検出されるハウスH内の温度と、算出部84において算出された設定温度との関係から、冷房運転すべきか否かを判断してもよい。
【0058】
冷房運転すべきと判断した場合(S1:YES)、運転制御部85は、日射量センサSからの信号に基づいて、日射量が300W/m(第1日射量)以上であるかを判断する(S2)。
【0059】
日射量が300W/m以上である場合(S2:YES)、運転制御部85は、第1二酸化炭素センサC1からの信号に基づいて、二酸化炭素濃度が700ppm以上であるかを判断する(S3)。
【0060】
二酸化炭素濃度が700ppm以上でないと判断した場合(S3:NO)、運転制御部85は、二酸化炭素の不足を補うべく、CO維持制御を実行する(S4)。CO維持制御において運転制御部85は、吸収式冷温水器10から冷液を発生させると共に三方弁Vを制御して蓄熱タンク30での蓄熱を行わせる。さらに、運転制御部85は、ダンパ40を閉じて排煙をハウスH内に供給させる。なお、CO維持制御においては送風機20のファンを停止させておき、且つ、換気扇60の高換気運転を行わないこととなる。また、CO維持制御においては、蓄熱タンク30に蓄熱が行われるが、蓄熱タンク30の蓄熱量が所定以上となると、第2の低温熱交換器73を通じて冷熱が冷却塔CTから破棄される。CO維持制御の実行後(例えばステップS3で「YES」と判断されるまで二酸化炭素濃度を高めた後)、図3に示す処理は終了する。
【0061】
二酸化炭素濃度が700ppm以上であると判断した場合(S3:YES)、運転制御部85は、温湿度センサTHからの信号に基づいてハウス内温度OFFであるかを判断する(S5)。この処理において、ハウス内温度はヒステリシスを有した温度判断がされている。ON/OFF状態は、ハウス内温度OFFの状態においてハウス内温度が35℃以上となった場合に、ハウス内温度ONとされ、ハウス内温度ONの状態においてハウス内温度が25℃以下となった場合に、ハウス内温度OFFとされる。なお、この場合において設定温度は例えば25℃と35℃との間となる30℃以上、且つ、ハウス内温度ONに切り替わる35℃未満である。
【0062】
ハウス内温度OFFでない場合(S5:NO)、すなわちハウス内温度が高い場合、運転制御部85は、ハウス内温度を下げるべく冷房制御を実行する(S6)。冷房制御において運転制御部85は、吸収式冷温水器10から冷液を発生させ、送風機20のファンを運転させる。これにより、冷熱をハウスH内に行き渡らせる。なお、冷房制御において運転制御部85は、ダンパ40を閉じて排煙をハウスH内に供給するようにしているが、二酸化炭素濃度を高める目的の制御でないことから、二酸化炭素濃度が異常値(例えば2000ppm)まで達すると高換気運転を行うこととなる。また、蓄熱タンク30に冷熱が蓄えられている場合には、三方弁Vを制御して蓄熱タンク30の冷熱を利用するようにしてもよい。加えて、可能な場合には、吸収式冷温水器10の運転を停止して蓄熱タンク30の冷熱だけで冷房制御を行うようにしてもよい。冷房制御の実行後(例えばステップS5で「YES」と判断されるまでハウス内温度を低めた後)、図3に示す処理は終了する。
【0063】
ハウス内温度OFFである場合(S5:YES)、運転制御部85は、温湿度センサTHからの信号に基づいてハウス内湿度OFFであるかを判断する(S7)。この処理において、ハウス内湿度もヒステリシスを有した湿度判断がされている。ON/OFF状態は、ハウス内湿度OFFの状態においてハウス内湿度が0.023kg/kg以上となった場合に、ハウス内湿度ONとされ、ハウス内湿度ONの状態においてハウス内湿度が0.011kg/kg以下となった場合に、ハウス内湿度OFFとされる。
【0064】
ハウス内湿度OFFでない場合(S7:NO)、すなわちハウス内湿度が高い場合、運転制御部85は、蒸散が阻害されることを防止すべく除湿制御を実行する(S8)。除湿制御において運転制御部85は、吸収式冷温水器10から冷液を発生させ、送風機20のファンを運転させる。これにより、ハウスH内の空気を送風機20の第1配管L1で結露させて、ハウスH内の空気の除湿を行うこととなる。なお、除湿制御においてはダンパ40が開けられて排煙が上空放出されるが、除湿制御に伴って送風機20からの冷熱がハウスH内に行き渡ってしまうことから、排煙を一部取り込んでハウス内温度が低下し過ぎないようにしてもよい。また、除湿制御において運転制御部85は、三方弁Vを制御して蓄熱タンク30の冷熱を利用してもよいし、ハウス内温度が低下し過ぎることを防止すべく蓄熱タンク30に蓄熱するようにしてもよい。さらに、除湿制御において運転制御部85は、換気扇60の高換気運転を行わないことを想定しているが、行うようにしてもよい。除湿制御の実行後(例えばステップS7で「YES」と判断されるまでハウス内湿度を低めた後)、図3に示す処理は終了する。
【0065】
ハウス内湿度OFFである場合(S7:YES)、運転制御部85は、停止制御を実行する(S9)。停止制御において運転制御部85は、吸収式冷温水器10を運転させず送風機20のファンも停止させる。さらに、運転制御部85は、換気扇60の高換気運転を行わず、三方弁Vも蓄熱タンク30を利用しない方向に向けておく。なお、ダンパ40については開状態であっても閉状態であってもよい。その後、図3に示す処理は終了する。
【0066】
ところで、日射量が300W/m以上でない場合(S2:NO)、運転制御部85は、日射量センサSからの信号に基づいて、日射量が100W/m(第2日射量であって、上記所定値)以上であるかを判断する(S10)。日射量が100W/m以上である場合(S10:YES)、運転制御部85は、第1二酸化炭素センサC1からの信号に基づいて、二酸化炭素濃度が900ppm以上であるかを判断する(S11)。
【0067】
二酸化炭素濃度が900ppm以上でないと判断した場合(S11:NO)、運転制御部85は、二酸化炭素の不足を補うべく、CO維持制御を実行する(S12)。CO維持制御の詳細はステップS4において説明したものと同じである。ここで、ステップS11の処理ではステップS3の処理よりも高い二酸化炭素濃度である900ppm以上か否かを判断している。すなわち、ステップS11の処理では日射量がステップS3の処理よりも低いことから、光合成速度の低下を抑えるべく、より高い二酸化炭素濃度を要求するようにしている。この処理により、日射量が所定値以上の範囲内において、日射量が低くなるほど、二酸化炭素濃度が高くなるように制御することとなる。CO維持制御の実行後(例えばステップS11で「YES」と判断されるまで二酸化炭素濃度を高めた後)、図3に示す処理は終了する。
【0068】
二酸化炭素濃度が900ppm以上であると判断した場合(S11:YES)、運転制御部85は、温湿度センサTHからの信号に基づいてハウス内温度OFFであるかを判断する(S13)。この処理はステップS5の処理と同じである。
【0069】
ハウス内温度OFFでない場合(S13:NO)、すなわちハウス内温度が高い場合、運転制御部85は、ハウス内温度を下げるべく冷房制御を実行する(S14)。この処理はステップS6の処理と同じである。冷房制御の実行後(例えばステップS13で「YES」と判断されるまでハウス内温度を低めた後)、図3に示す処理は終了する。
【0070】
ハウス内温度OFFである場合(S13:YES)、運転制御部85は、温湿度センサTHからの信号に基づいてハウス内湿度OFFであるかを判断する(S15)。この処理はステップS7の処理と同じである。
【0071】
ハウス内湿度OFFでない場合(S15:NO)、すなわちハウス内湿度が高い場合、運転制御部85は、蒸散が阻害されることを防止すべく除湿制御を実行する(S16)。この処理はステップS8の処理と同じである。除湿制御の実行後(例えばステップS15で「YES」と判断されるまでハウス内湿度を低めた後)、図3に示す処理は終了する。
【0072】
ハウス内湿度OFFである場合(S15:YES)、運転制御部85は、停止制御を実行する(S17)。この処理はステップS9の処理と同じである。その後、図3に示す処理は終了する。
【0073】
ここで、ステップS3以降の処理からも明らかなように、運転制御部85は、算出部84により算出された設定温度に基づいてハウス内温度を制御する処理よりも優先して、ハウスH内の二酸化炭素濃度について所定濃度以上を維持する制御を実行している。すなわち、運転制御部85は、冷房制御(S6,S14)よりも優先してCO維持制御(S4,S12)を実行している。これにより、CO維持制御のように品質と収量との双方を高めることができる制御を優先的に実行して、より収益の最大化を図るようにしている。
【0074】
加えて、運転制御部85は、温湿度センサTHにより検出される湿度が所定湿度(0.011kg/kg)以上となるときに除湿運転させる制御よりも優先して、設定温度に基づいてハウス内温度を制御する処理を実行している。すなわち、運転制御部85は、除湿制御(S8,S16)よりも優先して冷房制御(S6,S14)を実行している。これにより、蒸散よりも栽培作物への影響度が高い温度管理を優先して行うことで、より収益の最大化を図るようにしている。
【0075】
ところで、日射量が100W/m以上でない場合(S10:NO)、運転制御部85は、温湿度センサTHからの信号に基づいてハウス内温度OFFであるかを判断する(S18)。この処理においても、ハウス内温度はヒステリシスを有した温度判断がされているが温度条件がステップS5,S13の処理と異なっている。すなわち、ON/OFF状態は、ハウス内温度OFFの状態においてハウス内温度が35℃以上となった場合に、ハウス内温度ONとされ、ハウス内温度ONの状態においてハウス内温度が33℃以下となった場合に、ハウス内温度OFFとされる。
【0076】
ハウス内温度OFFである場合(S18:YES)、処理はステップS9に移行する。一方、ハウス内温度OFFでない場合(S18:NO)、運転制御部85は、換気制御を実行する(S19)。ここで、ステップS10において「NO」と判断されるということは、雨天又は夜間であるといえる。このような場合、光合成が期待できないことから、二酸化炭素濃度を所定濃度以上に維持する制御が行われないこととなる。また、夜間や雨天が想定されることから、換気を行うことでハウス内温度の低下が期待できる。よって、運転制御部85は、ステップS19において換気制御を実行する。この処理において運転制御部85は、換気扇60の高換気運転を可能とし、他を停止制御と同じとする。換気制御の実行後(例えばステップS18で「YES」と判断されるまでハウス内温度を低めた後)、図3に示す処理は終了する。
【0077】
また、ステップS1において冷房運転すべきでないと判断した場合(S1:NO)、運転制御部85は、気圧センサBからの信号に基づいて(所定気圧以下であるか否かに基づいて)、雨天であるかを判断する(S20)。雨天であると判断した場合(S20:YES)、処理はステップS22に移行する。
【0078】
雨天でないと判断した場合(S20:NO)、運転制御部85は、日の出前にCO発生制御を実行する(S21)。この処理において運転制御部85は、吸収式冷温水器10から加熱液を発生させると共に三方弁Vを制御して蓄熱タンク30での蓄熱を行わせる。さらに、運転制御部85は、ダンパ40を閉じて排煙をハウスH内に供給させる。なお、CO発生制御においては送風機20のファンを停止させておき、且つ、換気扇60の高換気運転を行わないこととなる。また、CO発生制御においては、蓄熱タンク30に蓄熱が行われるが、蓄熱タンク30の蓄熱量が所定以上となると、第2の低温熱交換器73を通じて冷熱が冷却塔CTから破棄される。CO発生制御の実行後(例えば700ppm又は900ppmまで二酸化炭素濃度を高めた後)、処理はステップS22に移行する。
【0079】
ステップS22において運転制御部85は、日射量センサSからの信号に基づいて、日射量が300W/m以上であるかを判断する(S22)。日射量が300W/m以上である場合(S22:YES)、運転制御部85は、第1二酸化炭素センサC1からの信号に基づいて、二酸化炭素濃度が700ppm以上であるかを判断する(S23)。
【0080】
二酸化炭素濃度が700ppm以上でないと判断した場合(S23:NO)、運転制御部85は、二酸化炭素の不足を補うべく、CO維持制御を実行する(S24)。CO維持制御において運転制御部85は、吸収式冷温水器10から加熱液を発生させると共に三方弁Vを制御して蓄熱タンク30での蓄熱を行わせる。他は図3のステップS4におけるCO維持制御と同じである。CO維持制御の実行後(例えばステップS23で「YES」と判断されるまで二酸化炭素濃度を高めた後)、図3及び図4に示す処理は終了する。
【0081】
二酸化炭素濃度が700ppm以上であると判断した場合(S23:YES)、運転制御部85は、温湿度センサTHからの信号に基づいてハウス内温度ONであるかを判断する(S25)。この処理において、ハウス内温度は前述と同様にヒステリシスを有した温度判断がされている。ON/OFF状態は、ハウス内温度OFFの状態においてハウス内温度が20℃以上となった場合に、ハウス内温度ONとされ、ハウス内温度ONの状態においてハウス内温度が15℃以下となった場合に、ハウス内温度OFFとされる。なお、この場合において設定温度は例えば15℃と20℃との間となる17.5℃以上、且つ、ハウス内温度ONに切り替わる20℃未満である。
【0082】
ハウス内温度ONでない場合(S25:NO)、すなわちハウス内温度が低い場合、運転制御部85は、ハウス内温度を高めるべく暖房制御を実行する(S26)。暖房制御において運転制御部85は、吸収式冷温水器10から加熱液を発生させ、送風機20のファンを運転させる。これにより、温熱をハウスH内に行き渡らせる。なお、暖房制御において運転制御部85は、ダンパ40を閉じて排煙をハウスH内に供給するようにしているが、二酸化炭素濃度を高める目的の制御でないことから、二酸化炭素濃度が異常値(例えば2000ppm)まで達すると高換気運転を行うこととなる。また、蓄熱タンク30に温熱が蓄えられている場合には、三方弁Vを制御して蓄熱タンク30の温熱を利用するようにしてもよい。加えて、可能な場合には、吸収式冷温水器10の運転を停止して蓄熱タンク30の温熱だけで暖房制御を行うようにしてもよい。暖房制御の実行後(例えばステップS25で「YES」と判断されるまでハウス内温度を高めた後)、図3及び図4に示す処理は終了する。
【0083】
ハウス内温度ONである場合(S25:YES)、運転制御部85は、停止制御を実行する(S27)。停止制御において運転制御部85は、吸収式冷温水器10を運転させず送風機20のファンも停止させる。さらに、運転制御部85は、換気扇60の高換気運転を行わず、三方弁Vも蓄熱タンク30を利用しない方向に向けておく。なお、ダンパ40については開状態であっても閉状態であってもよい。その後、図3及び図4に示す処理は終了する。
【0084】
ところで、日射量が300W/m以上でない場合(S22:NO)、運転制御部85は、日射量センサSからの信号に基づいて、日射量が100W/m以上であるかを判断する(S28)。日射量が100W/m以上である場合(S28:YES)、運転制御部85は、第1二酸化炭素センサC1からの信号に基づいて、二酸化炭素濃度が900ppm以上であるかを判断する(S29)。
【0085】
二酸化炭素濃度が900ppm以上でないと判断した場合(S29:NO)、運転制御部85は、二酸化炭素の不足を補うべく、CO維持制御を実行する(S30)。CO維持制御の詳細はステップS24において説明したものと同じである。また、冷房時と同様に、ステップS29の処理においてはステップS24の処理よりも高い二酸化炭素濃度である900ppm以上か否かを判断して、より高い二酸化炭素濃度を要求するようにしている。CO維持制御の実行後(例えばステップS29で「YES」と判断されるまで二酸化炭素濃度を高めた後)、図3及び図4に示す処理は終了する。
【0086】
二酸化炭素濃度が900ppm以上であると判断した場合(S29:YES)、運転制御部85は、温湿度センサTHからの信号に基づいてハウス内温度ONであるかを判断する(S31)。この処理はステップS25の処理と同じである。
【0087】
ハウス内温度ONでない場合(S31:NO)、すなわちハウス内温度が低い場合、運転制御部85は、ハウス内温度を高めるべく暖房制御を実行する(S32)。この処理はステップS26の処理と同じである。暖房制御の実行後(例えばステップS31で「YES」と判断されるまでハウス内温度を高めた後)、図3及び図4に示す処理は終了する。
【0088】
ハウス内温度ONである場合(S31:YES)、運転制御部85は、停止制御を実行する(S33)。この処理はステップS27の処理と同じである。その後、図3及び図4に示す処理は終了する。
【0089】
ここで、ステップS22以降の処理からも明らかなように、運転制御部85は、ステップS1において「NO」、すなわち暖房運転を行うべきと判断される場合において除湿制御を行わないようにしている。暖房を必要とするときは冬場であることが多く、除湿の必要がないためである。
【0090】
ところで、日射量が100W/m以上でない場合(S28:NO)、運転制御部85は、温湿度センサTHからの信号に基づいてハウス内温度ONであるかを判断する(S34)。この処理においても、ハウス内温度はヒステリシスを有した温度判断がされているが温度条件がステップS25,S31の処理と異なっている。すなわち、ON/OFF状態は、ハウス内温度OFFの状態においてハウス内温度が15℃以上となった場合に、ハウス内温度ONとされ、ハウス内温度ONの状態においてハウス内温度が10℃以下となった場合に、ハウス内温度OFFとされる。
【0091】
ハウス内温度ONである場合(S34:YES)、処理はステップS27に移行する。一方、ハウス内温度ONでない場合(S34:NO)、処理はステップS26に移行する。その後、図3及び図4に示す処理は終了する。
【0092】
このようにして、本実施形態に係るハウス栽培システム1及びその制御方法によれば、ハウスH内で栽培予定の栽培作物の育成予定期間について将来の気象条件を設定し、設定した気象条件に基づいて栽培予定の作物の収量を予測し、予測した収量に基づいて設定温度を算出するため、例えば今期が豊作であるか不作であるか等を判断することができ、今期が豊作であるときに品質を高める等、収益を最大化するように栽培作物を育成することができる。さらに、ハウスH内の二酸化炭素濃度が所定濃度以上を維持する制御を実行することから光合成を阻害しないようにでき、収量及び品質の双方を高めることができる。従って、収益の最大化を図ることができる。
【0093】
また、予測された作物の収量から豊作であると判断した場合、ハウスH内の栽培作物について品質を最大化させる品質温度を設定温度として算出する。このため、豊作であるときには、品質を最大化させて収益の最大化を図ることができる。
【0094】
また、予測された作物の収量から不作であると判断した場合、ハウス内の栽培作物について収量を最大化させる収量温度を設定温度として算出する。このため、不作であるときには、収量を最大化させて収益の最大化を図ることができる。
【0095】
また、ハウスH内の温度を制御する処理よりも優先してハウスH内の二酸化炭素濃度が所定濃度以上を維持する制御を実行する。このため、温度制御のように品質と収量との両立が難しい制御よりも、CO維持制御のように光合成によって収量及び品質の双方を高めることができる制御を実行することとなり、より収益の最大化を図ることができる。
【0096】
また、ハウスH内の湿度が所定湿度以上となる場合に除湿運転を行うため、ハウスH内の湿度が高くなり過ぎて栽培作物の蒸散が阻害されて育成に支障をきたす可能性を低減させることができる。
【0097】
また、除湿運転させる制御よりも優先して設定温度に基づいてハウスH内の温度を制御する処理を実行するため、蒸散よりも栽培作物への影響度が高い温度管理を優先して行うことで、より収益の最大化を図ることができる。
【0098】
また、日射量が所定値(100W/m)以上の範囲内において低くなるほど、ハウスH内の二酸化炭素濃度を高める制御を実行するため、日射量が低くなって光合成速度が低下する環境下にいて二酸化炭素濃度を高めて光合成速度の上昇を図ることができる。従って、より収益の最大化を図ることができる。
【0099】
また、日射量が所定値未満となるとハウスH内の二酸化炭素濃度を所定濃度以上に維持する制御を中止するため、例えば夜間や雨天のように光合成が期待できないときにはCO維持濃度の制御を中止する。従って、不要な制御を中止して処理の簡素化を図ることができる。
【0100】
また、暖房運転を行う設定とされ、且つ、気圧が所定気圧以上である場合、日の出に先立って、ハウスH内の二酸化炭素濃度を高める制御を実行する。このため、暖房運転という冬場の日照時間が短くなる環境において、日の出前に二酸化炭素濃度を高めておくことで、効率良く光合成を行うことができ、より収益の最大化を図ることができる。
【0101】
また、二酸化炭素濃度を維持する制御を行う場合、蓄熱タンク30に熱を蓄えていき、蓄熱タンク30でも蓄えることができなくなると、冷却塔CTを利用して破棄するため、不要な熱によりハウスH内の温度環境に影響を与えてしまう可能性を低減することができる。
【0102】
以上、実施形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、変更を加えてもよいし、可能な範囲で適宜他の技術を組み合わせてもよい。さらに、可能な範囲で公知又は周知の技術を組み合わせてもよい。
【0103】
例えば、上記実施形態に係るCO維持制御においてハウスH内の現在の二酸化炭素濃度が400ppmを下回る場合(すなわち外気の二酸化炭素濃度を下回る場合)には、まず換気制御を行うようにしてもよい。この場合、冷房時において、第5温度センサT5により検出される温度の方が、温湿度センサTHにより検出されるハウスH内の温度よりも低い場合に換気制御することが好ましい。暖房時においても同様である。
【符号の説明】
【0104】
1 :ハウス栽培システム
10 :吸収式冷温水器(空調機器)
20 :送風機(空調機器)
30 :蓄熱タンク
70 :熱交換器
71 :高温熱交換器
72 :低温熱交換器
73 :第2の低温熱交換器(熱交換器)
81 :記憶部(記憶手段)
82 :設定部(設定手段)
82a :入力部
82b :気象予測部
83 :収量予測部(予測手段)
84 :算出部(算出手段)
85 :運転制御部(制御手段)
B :気圧センサ
C1 :第1二酸化炭素センサ(二酸化炭素センサ)
C2 :第2二酸化炭素センサ
CT :冷却塔
H :ハウス
L1 :第1配管(配管)
L2 :第2配管
S :日射量センサ
TH :温湿度センサ(温度センサ、湿度センサ)
図1
図2
図3
図4