(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023112237
(43)【公開日】2023-08-14
(54)【発明の名称】難燃性メタ型全芳香族ポリアミド繊維およびそれからなる布帛
(51)【国際特許分類】
D01F 6/60 20060101AFI20230804BHJP
D01F 6/80 20060101ALI20230804BHJP
D01F 6/90 20060101ALI20230804BHJP
【FI】
D01F6/60 371Z
D01F6/80 331
D01F6/90 331
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022013875
(22)【出願日】2022-02-01
(71)【出願人】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169085
【弁理士】
【氏名又は名称】為山 太郎
(72)【発明者】
【氏名】小宮 直也
【テーマコード(参考)】
4L035
【Fターム(参考)】
4L035AA04
4L035BB03
4L035BB16
4L035BB72
4L035BB89
4L035BB91
4L035EE01
4L035EE09
4L035EE14
4L035EE20
4L035JJ05
4L035KK05
4L035MG04
(57)【要約】
【課題】安全の観点から優れた難燃性と繊維強度を示すと共に、安全な性能を長期にわたり提供するため、使用環境における熱曝露による強度劣化や着色性が改善された難燃性メタ型全芳香族ポリアミドおよびそれかなる布帛を提供すること。
【解決手段】繊維の燃焼時限界酸素指数LOIが30以上、引張強度が3.5cN/dtex以上、明度L値が90以上、かつISO 2469に準拠した黄変度L-b値が80以上である難燃性メタ型全芳香族ポリアミド繊維。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維の燃焼時限界酸素指数LOIが30以上、引張強度が3.5cN/dtex以上、明度L値が90以上、かつISO 2469に準拠した黄変度L-b値が80以上であることを特徴とする難燃性メタ型全芳香族ポリアミド繊維。
【請求項2】
200℃で2時間乾熱処理した後の強度保持率が85%以上である請求項1に記載の難燃性メタ型全芳香族ポリアミド繊維。
【請求項3】
200℃で2時間乾熱処理した後の黄変度L-b値が70以上である請求項1または2に記載の難燃性メタ型全芳香族ポリアミド繊維。
【請求項4】
メタ型全芳香族ポリアミド繊維を構成するメタ型全芳香族ポリアミドに対して、珪酸アルミニウムを1.0~10.0wt%含有する請求項1~3のいずれか1項に記載の難燃性メタ型全芳香族ポリアミド繊維。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の難燃性メタ型全芳香族ポリアミド繊維からなる布帛。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた難燃性と引張強度を有しつつ、黄変度が改善されたメタ型全芳香族ポリアミド繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、芳香族ジアミンと芳香族ジカルボン酸ジハライドとから製造される全芳香族ポリアミドが耐熱性及び難燃性に優れていることは周知であり、また、これらの全芳香族ポリアミドはアミド系極性溶媒に可溶であり、全芳香族ポリアミドを該溶媒に溶解した重合体溶液から乾式紡糸、湿式紡糸、半乾半湿式紡糸等の方法により繊維となし得ることもよく知られている。これら全芳香族ポリアミドのうち、ポリメタフェニレンイソフタルアミドで代表されるメタ型全芳香族ポリアミド(「メタアラミド」と称されることもある)の繊維は、耐熱・難燃性繊維として特に有用なものであり、これらの特性を発揮する分野、例えば、フィルター、電子部品等の産業用途や、耐熱性、防炎性、耐炎性が重視される防護衣等の防災安全衣料用途等に用いられている。最近では、産業用途のみならず、寝具、衣料、インテリア等の審美性や視覚性の求められる分野への用途が、急速に広がりつつある。
【0003】
これらの分野においてメタ型全芳香族ポリアミド繊維の難燃性は、火災防止、人命保護の観点からもより高く安定したものが求められている。
そこで、メタ型全芳香族ポリアミド繊維の難燃性を改善するため、ポリマーに有機リン化合物、含リンフェノール樹脂、ハロゲン化合物等を添加する方法が提案されている(下記特許文献1、2参照)。しかし、ここで使用される化合物は酸を発生させるため、繊維の製造段階や使用環境下の熱曝露によりポリマーの分解を引き起こし、繊維が黄変し審美性や視覚性を著しく欠く問題があり、その改善が期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭53-122817号公報
【特許文献2】特開2020-45590号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記の背景技術に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、優れた難燃性と引張強度を示すとともに、黄変度が改善されたメタ型全芳香族ポリアミド繊維を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を行い、優れた難燃性と引張強度を有しつつ熱着色性が改善されたメタ型全芳香族ポリアミド繊維が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明によれば、
1.繊維の燃焼時限界酸素指数LOIが30以上、引張強度が3.5cN/dtex以上、明度L値が90以上、かつISO 2469に準拠した黄変度L-b値が80以上であることを特徴とする難燃性メタ型全芳香族ポリアミド繊維、
2.200℃で2時間乾熱処理した後の強度保持率が85%以上である前記1に記載の難燃性メタ型全芳香族ポリアミド繊維、
3.200℃で2時間乾熱処理した後の黄変度L-b値が70以上である前記1または2に記載の難燃性メタ型全芳香族ポリアミド繊維、
4.メタ型全芳香族ポリアミド繊維を構成するメタ型全芳香族ポリアミドに対して、珪酸アルミニウムを1.0~10.0wt%含有する前記1~3のいずれか1つに記載の難燃性メタ型全芳香族ポリアミド繊維、そして、
5.前記1~4のいずれか1つに記載の難燃性メタ型全芳香族ポリアミド繊維からなる布帛、
に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明のメタ型全芳香族ポリアミド繊維は、難燃性および引張強度に優れているのはもちろんのこと、熱着色性が改善された繊維である。そのため、該繊維をその構成成分とする布帛を製造すれば、熱着色による黄変が発生しにくい難燃性布帛を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<メタ型全芳香族ポリアミド>
[メタ型全芳香族ポリアミドの構成]
本発明のメタ型全芳香族ポリアミドは、メタ型芳香族ジアミン成分とメタ型芳香族ジカルボン酸成分とから構成されるものであり、本発明の目的を損なわない範囲内で、パラ型等の他の共重合成分が共重合されていてもよい。
【0010】
本発明において特に好ましく使用されるのは、力学特性、耐熱性の観点から、メタフェニレンイソフタルアミド単位を主成分とするメタ型全芳香族ポリアミドである。メタフェニレンイソフタルアミド単位から構成されるメタ型全芳香族ポリアミドとしては、メタフェニレンイソフタルアミド単位が、全繰り返し単位の90モル%以上であることが好ましく、さらに好ましくは95モル%以上、特に好ましくは100モル%である。
【0011】
〔メタ型全芳香族ポリアミドの原料〕
(メタ型芳香族ジアミン成分)
前記メタ型芳香族ジアミン成分としては、メタフェニレンジアミン、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフエニルスルホンなど、および、これらの芳香環にハロゲン、炭素数1~3のアルキル基などの置換基を有する誘導体、例えば2,4-トルイレンジアミン、2,6-トルイレンジアミン、2,4-ジアミノクロルベンゼン、2,6-ジアミノクロルベンゼンなどを例示することができる。なかでも、メタフェニレンジアミンのみ、または、メタフェニレンジアミンを70モル%以上含有する混合ジアミンであることが好ましい。
【0012】
(メタ型芳香族ジカルボン酸成分)
メタ型全芳香族ジカルボン酸成分としては、例えば、メタ型芳香族ジカルボン酸ハライドを挙げることができる。メタ型芳香族ジカルボン酸ハライドとしては、イソフタル酸クロライド、イソフタル酸ブロマイドなどのイソフタル酸ハライド、および、これらの芳香環にハロゲン、炭素数1~3のアルコキシ基などの置換基を有する誘導体、例えば、3-クロルイソフタル酸クロライド、3-メトキシイソフタル酸クロライドなどを例示することができる。なかでも、イソフタル酸クロライドのみ、または、イソフタル酸クロライドを70モル%以上含有する前記の混合カルボン酸ハライドであることが好ましい。
【0013】
(共重合成分)
前記のメタ型芳香族ジアミン成分とメタ型芳香族ジカルボン酸成分以外で使用しうる共重合成分としては、例えば、芳香族ジアミンとして、パラフェニレンジアミン、2,5-ジアミノクロルベンゼン、2,5-ジアミノブロムベンゼン、アミノアニシジンなどのベンゼン誘導体、1,5-ナフチレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルケトン、4,4’-ジアミノジフェニルアミン、4,4’-ジアミノジフェニルメタンなどが挙げられる。一方、芳香族ジカルボン酸成分としては、テレフタル酸クロライド、1,4-ナフタレンジカルボン酸クロライド、2,6-ナフタレンジカルボン酸クロライド、4,4’-ビフェニルジカルボン酸クロライド、4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸クロライドなどが挙げられる。
【0014】
これらの共重合成分の共重合比は、あまりに多くなりすぎるとメタ型全芳香族ポリアミドの特性が低下しやすいため、ポリアミドの全酸成分を基準として20モル%以下とすることが好ましい。特に、好適なメタ型全芳香族ポリアミドは、前記した通り、全繰返し単位の90モル%以上がメタフェニレンイソフタルアミド単位であるポリアミドであり、なかでもポリメタフェニレンイソフタルアミドが特に好ましい。
かかるメタ型全芳香族ポリアミドの重合度としては、30℃の98%濃硫酸を溶媒とし
て測定した固有粘度(IV)として、1.3~3.0の範囲が適当である。
【0015】
〔メタ型全芳香族ポリアミドの製造方法〕
メタ型全芳香族ポリアミドの製造方法は、特に限定されるものではなく、例えば、メタ型芳香族ジアミン成分とメタ型芳香族ジカルボン酸クロライド成分とを原料とした溶液重合や界面重合等により製造することができる。
【0016】
本発明のメタ型全芳香族ポリアミド繊維は、引張強度や熱着色性を低下させずに難燃性を高めるために、珪酸アルミニウムを含有することが好ましい。珪酸アルミニウムの全芳香族ポリアミドへの添加方法は、特に限定されるものではないが、繊維を形成するための紡糸液(メタ型全芳香族ポリアミド重合体溶液)に添加することが、メタ型全芳香族ポリアミドと珪酸アルミニウムを含む均一な紡糸液を作製できるため好ましい。
【0017】
〔珪酸アルミニウム〕
本発明に用いられる珪酸アルミニウムは、種々のものが市販されており、本発明においては、それらの市販品を好ましく用いることができる。
【0018】
(珪酸アルミニウムの配合量)
本発明の繊維における珪酸アルミニウムの含有量は、メタ型全芳香族ポリアミド繊維を構成するメタ型全芳香族ポリアミドに対して、1.0~10.0wt%であり、好ましくは2.0~8.0wt%の範囲である。1.0wt%未満では、本発明のLOI値が得られず、得られる繊維の難燃性が十分ではない。一方、10.0wt%を超えると、マトリックスとしてのポリマー量が少なすぎて、物性の低下や製造工程の不安定化が生じることとなる。
【0019】
<メタ型全芳香族ポリアミド繊維の製造方法>
本発明の難燃性メタ型全芳香族ポリアミド繊維は、前記の製造方法によって得られたメタ型全芳香族ポリアミドを用いて、当該メタ型全芳香族ポリアミドと珪酸アルミニウムとを含む紡糸液(ポリマードープ)を作成し、紡糸・凝固工程、湿熱延伸工程、弛緩熱処理工程を経て製造される。
【0020】
[紡糸液調製工程]
紡糸液調製工程においては、メタ型全芳香族ポリアミドをアミド系溶媒に溶解し、さらに、珪酸アルミニウムを添加して、紡糸液(メタ型全芳香族ポリアミド重合体溶液)を調製する。紡糸液の調製にあたっては、通常、アミド系溶媒を用い、使用されるアミド系溶媒としては、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)等を例示することができる。これらのなかでは溶解性と取扱い安全性の観点から、NMPまたはDMAcを用いることが好ましい。
【0021】
溶液濃度としては、次工程である紡糸・凝固工程での凝固速度および重合体の溶解性の観点から、適当な濃度を適宜選択すればよく、例えば、ポリマーがポリメタフェニレンイソフタルアミドで溶媒がNMPの場合には、通常は10~30質量%の範囲とすることが好ましい。
【0022】
[紡糸・凝固工程]
紡糸・凝固工程においては、前記で得られた紡糸液(メタ型全芳香族ポリアミド重合体溶液)を凝固液中に紡出して凝固させ、繊維状物を得る。
紡糸装置としては特に限定されるものではなく、従来公知の湿式紡糸装置を使用することができる。また、安定して湿式紡糸できるものであれば、紡糸口金の紡糸孔数、配列状態、孔形状等は特に制限する必要はなく、例えば、孔数が100~30,000個、紡糸孔径が0.05~0.2mmのスフ用の多ホール紡糸口金等を用いてもよい。
また、紡糸口金から紡出する際の紡糸液(メタ型全芳香族ポリアミド重合体溶液)の温度は、10~90℃の範囲が適当である。
【0023】
本発明で使用する繊維を得るための凝固浴は、実質的にアミド系溶媒と水との2成分からなる水溶液で構成される。しかしながら、塩化カルシウム、水酸化カルシウム等の無機塩類がポリマー溶液中から抽出されてくるため、実際には、凝固液にはこれらの塩類が少量含まれる。この凝固浴組成におけるアミド系溶媒としては、メタ型全芳香族ポリアミドを溶解し、水と良好に混和するものであれば特に限定されるものではないが、特に、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルイミダゾリジノン等を好適に用いることができる。
【0024】
アミド系溶媒と水との最適な混合比は、重合体溶液の条件によっても若干変化するが、一般的に、アミド系溶媒の割合が水溶液全体に対して40質量%~60質量%の範囲であることが好ましい。この範囲を下回る条件では、凝固繊維中に非常に大きなボイドが生じやすくなり、その後の糸切れの原因となりやすくなる。一方で、この範囲を上回る条件では、凝固が進まず、繊維の融着が起こりやすくなる。
【0025】
凝固浴の温度は、凝固液組成と密接な関係があるが、一般的には、生成繊維中にフィンガーとよばれる粗大な気泡上の空孔をできにくくする目的で、高温にする方が好ましい。しかしながら、凝固液濃度が比較的高い場合には、あまり高温にすると繊維の融着が激しくなる。このため、凝固浴の好適な温度範囲は20~70℃であり、より好ましくは25~60℃である。
【0026】
なお、凝固浴中での繊維状物(糸条体)の浸漬時間は、1.5~30秒の範囲とすることが好ましい。浸漬時間が1.5秒未満の場合には、繊維状物の形成が不十分となり断糸が発生する。一方で、浸漬時間が30秒を超える場合には、生産性が低くなるため好ましくない。
【0027】
[湿熱延伸工程]
湿熱延伸工程においては、凝固浴にて凝固して得られた繊維状物(糸条体)からなる繊維束を、沸水中や高温水蒸気中などの湿熱下で、一段延伸する。
湿熱延伸工程における延伸倍率は、好ましくは2.0~4.5倍であり、より好ましくは2.2~4.0倍の範囲である。湿熱一段延伸を実施することで、得られる繊維を高強度とすることができる。湿熱延伸工程における湿熱一段延伸の倍率が2.0倍未満の場合には、延伸が不十分となることから、高強度を発揮することができない。一方で、湿熱一段延伸の倍率が4.5倍を超える場合には、延伸が過剰であるため、均一な性能を発揮することができなくなる。
湿熱延伸時の温度は、通常、好ましくは50~100℃、より好ましくは80~100℃である。
【0028】
[熱延伸工程]
熱延伸工程においては、湿熱延伸工程により一段延伸がなされた繊維に対して、熱延伸処理を実施する。
熱処理の際の延伸倍率は、好ましくは1.2~2.0倍の範囲であり、1.5~1.8倍の範囲とすることがより好ましい。1.2倍未満で熱延伸処理を行った場合には、優れた強度を発現することができない。一方で、2.0倍を超える熱延伸処理を実施した場合には、単糸切れが発生し、物性や品質の低下を招く。
熱延伸時の温度は、通常、好ましくは280~350℃、より好ましくは300~340℃である。
【0029】
[メタ型全芳香族ポリアミド繊維の物性]
〔限界酸素指数(LOI)〕
本発明の難燃性メタ型全芳香族ポリアミド繊維の限界酸素指数(LOI)は、30以上であり、好ましくは33以上である。LOI値が30未満では、消防衣料、溶接防護衣、難燃作業服等とした際の耐炎性が不十分となり好ましくない。
【0030】
〔引張強度〕
本発明の難燃性メタ型全芳香族ポリアミド繊維の引張強度は、3.5cN/dtex以上、好ましくは3.7cN/dtex以上、さらに好ましくは4.0cN/dtexである。3.5cN/dtex未満では、消防衣料、難燃作業服等とした際の引張強度が不十分となるため好ましくない。
【0031】
〔明度L値〕
本発明の難燃性メタ型全芳香族ポリアミド繊維の明度L値は、90以上であり、好ましくは91以上である。90未満では、白色性に乏しく消防衣料、難燃作業服等とした際の審美性、視覚性の観点で好ましくない。
【0032】
〔黄変度L-b値〕
本発明の難燃性メタ型全芳香族ポリアミド繊維は、ISO 2469に準拠した黄変度L-b値が、80以上であり、好ましくは85以上である。80未満では、消防衣料、難燃作業服等とした際に黄ばみとして知覚されるため審美性、視覚性の観点で好ましくない。
【0033】
〔乾熱処理後の強度保持率〕
本発明の難燃性メタ型全芳香族ポリアミド繊維の200℃で2時間乾熱処理後の強度保持率は、85%以上であり、好ましくは90%以上である。85%未満では、消防衣料、難燃作業服等とした際の使用環境の熱曝露によって、強度が著しく低下するため好ましくない。
【0034】
本発明における強度保持率は、以下の式により算出される。
200℃で2時間乾熱処理した後の強度保持率(%)=(200℃で2時間乾熱処理後の引張強度)/乾熱処理前の引張強度)×100
【0035】
〔乾熱処理後の黄変度L-b値〕
本発明のメタ型全芳香族ポリアミド繊維の200℃で2時間乾熱処理後の黄変度L-b値は、70以上であり、好ましくは75以上である。70未満では、消防衣料、難燃作業服等とした際の使用環境の熱曝露によって、黄ばみ易いため審美性、視覚性の観点で好ましくない。
【0036】
〔布帛〕
本発明の難燃性メタ型全芳香族ポリアミド繊維からなる布帛は、難燃性および引張強度に優れ、さらには熱着色による黄変が発生しにくい布帛であり、前記布帛は、織物であることが好ましい。そして、前記布帛は、目付などの織物構成は特に限定されるものではない。
【実施例0037】
以下、実施例および比較例により、本発明をさらに詳しく具体的に説明する。ただし、これらの実施例および比較例は本発明の理解を助けるためのものであって、これらの記載によって本発明の範囲が限定されるものではない。
【0038】
<測定・評価方法>
実施例および比較例においては、下記の項目について、下記の方法によって測定・評価を行った。
【0039】
(1)限界酸素指数(LOI)
JIS K7201のLOI測定法に準拠して、ポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維からなるフェルト(目付:100g/m2)のLOI値を求めた。
(測定条件)
試験片の形 :V
寸法 :140mm×52mm
点火手順 :B(伝ぱ点火)
酸素濃度間隔:0.2%
【0040】
(2)引張強度
JIS-L-1015に基づき、インストロン社製 型番5565を用いて、以下の条件で測定した。
(測定条件)
つかみ間隔 :20mm
初荷重 :0.044cN(1/20g)/dtex
引張速度 :20mm/分
【0041】
(3)明度L値・黄変度L-b値
ISO 2469に準拠して、分光色彩計SD7000(日本電色工業製)を用いて測定した。
(測定条件)
表色系 :ハンター
正反射光方式:SCI
光源 :D65
【0042】
(4)乾熱試験
高温乾燥器 DR200(ヤマト科学製)を用いて、200℃で2時間の乾熱曝露を実施した。その後、(2)引張強度と(3)明度L値・黄変度L-b値を同様の方法で測定した。
【0043】
<実施例1>
メタフェニレンジアミンとイソフタル酸クロライドより重合したメタ型全芳香族ポリアミド(以降ポリマーとも称す)を21質量%含むN-メチル-2-ピロリドン溶液に、珪酸アルミニウムをポリマーに対して1.0wt%となるように添加して、紡糸液を調製した。
【0044】
続いて、この紡糸液を、孔径0.07mm、孔数100のノズルより押し出し、速度5.0m/分で塩化カルシウムを主体とする無機塩浴中に押し出し、凝固を行い、水洗後、沸水中で2.4倍の湿熱一段延伸した後、330℃の熱板上で1.8倍の熱延伸処理を実施した。得られた繊維につき、各種の物性を測定した。結果を表1に示す。
【0045】
<実施例2>
珪酸アルミニウムをポリマーに対して5.0wt%となるように添加した以外は、実施例1と同様の方法を行った。得られた結果を表1に示す。
【0046】
<実施例3>
珪酸アルミニウムをポリマーに対して8.0wt%となるように添加した以外は、実施例1と同様の方法を行った。得られた結果を表1に示す。
【0047】
【0048】
<比較例1>
珪酸アルミニウムをポリマーに対して添加しなかった。それ以外は、実施例1と同様の方法を行った。得られた結果を表2に示す。
珪酸アルミニウムを添加しない場合には、目的のLOI値が得られなかった。
【0049】
<比較例2>
珪酸アルミニウムの代わりにリン酸エステル(トリス(クロロプロピル)ホスフェートをポリマーに対して1.0wt%となるように添加した以外は、実施例1と同様の方法を行った。得られた結果を表2に示す。
リン酸エステルを添加した場合には、熱着色性が悪化し、目的の明度L値および黄変度L-b値が得られなかった。
【0050】
<比較例3>
珪酸アルミニウムの代わりにリン酸エステル(トリス(クロロプロピル)ホスフェート)をポリマーに対して5.0wt%となるように添加した以外は、実施例1と同様の方法を行った。得られた結果を表2に示す。
リン酸エステルを添加した場合には、熱着色性が悪化し、目的の明度L値および黄変度L-b値が得られなかった。
【0051】
<比較例4>
珪酸アルミニウムをポリマーに対して0.5wt%となるように添加した以外は、実施例1と同様の方法を行った。得られた結果を表2に示す。
珪酸アルミニウムをポリマーに対して0.5wt%となるように添加した場合には、目的のLOI値が得られなかった。
【0052】
<比較例5>
珪酸アルミニウムをポリマーに対して12.0wt%となるように添加した以外は、実施例1と同様の方法を行った。得られた結果を表2に示す。
珪酸アルミニウムをポリマーに対して12.0wt%となるように添加した場合には、湿熱延伸工程および熱延伸工程で繊維の断糸が増加し、目的の引張強度が得られなかった。
【0053】