(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023112243
(43)【公開日】2023-08-14
(54)【発明の名称】ポリカーボネート樹脂およびそれからなる成形品
(51)【国際特許分類】
C08G 64/04 20060101AFI20230804BHJP
【FI】
C08G64/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022013887
(22)【出願日】2022-02-01
(71)【出願人】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169085
【弁理士】
【氏名又は名称】為山 太郎
(72)【発明者】
【氏名】大山 達也
(72)【発明者】
【氏名】中▲崎▼ 智大
(72)【発明者】
【氏名】布目 和徳
【テーマコード(参考)】
4J029
【Fターム(参考)】
4J029AA09
4J029AB01
4J029AC02
4J029AD07
4J029AD10
4J029AE01
4J029AE03
4J029BB10A
4J029BB12A
4J029BB12B
4J029BB13A
4J029BB13B
4J029BD01
4J029BD09A
4J029BF03
4J029HA01
4J029HC01
4J029HC05A
4J029JA091
4J029JF031
4J029KE11
(57)【要約】 (修正有)
【課題】耐傷付き性を有し、かつ、耐熱性と成形性に優れたポリカーボネート樹脂およびそれからなる成形品を提供する。
【解決手段】主たる繰り返し単位が9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-シクロヘキシルフェニル)フルオレン由来の繰り返し単位(A)と、下記式(B)で表される繰り返し単位(B)を含み、繰り返し単位(A)と繰り返し単位(B)とのモル比(A:B)が5以上40未満:95以下60超の範囲であるポリカーボネート樹脂。
(式中、R
1およびR
2はそれぞれ独立して水素原子、芳香族基を含んでいてもよい炭素原子数1~20の置換基またはハロゲン原子であり、Uは単結合または2価の連結基であり、L
1およびL
2はそれぞれ独立に2価の連結基を示し、jおよびkはそれぞれ独立に1~4の整数を示し、mおよびnはそれぞれ独立に0または1を示す。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
主たる繰り返し単位が下記式(A)で表される繰り返し単位(A)と、下記式(B)で表される繰り返し単位(B)を含み、繰り返し単位(A)と繰り返し単位(B)とのモル比(A:B)が5以上40未満:95以下60超の範囲であるポリカーボネート樹脂。
【化1】
【化2】
(式中、R
1およびR
2はそれぞれ独立して水素原子、芳香族基を含んでいてもよい炭素原子数1~20の置換基またはハロゲン原子であり、Uは単結合または2価の連結基であり、L
1およびL
2はそれぞれ独立に2価の連結基を示し、jおよびkはそれぞれ独立に1~4の整数を示し、mおよびnはそれぞれ独立に0または1を示す。)
【請求項2】
前記式(B)において、mおよびnが0である請求項1に記載のポリカーボネート樹脂。
【請求項3】
前記式(B)において、mおよびnが1である請求項1に記載のポリカーボネート樹脂。
【請求項4】
ISO/TS 19278に準拠して測定された押し込み硬さが200~450(N/mm2)である請求項1~3のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂。
【請求項5】
JIS K5600に準拠して、測定された鉛筆硬度がF以上である請求項1~4のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂。
【請求項6】
ガラス転移温度が120~180℃である請求項1~5のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂。
【請求項7】
比粘度が0.12~0.45である請求項1~6のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂。
【請求項8】
請求項1~7のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂を射出成形してなる成形品。
【請求項9】
請求項1~7のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂を押出成形してなるシートまたはフィルム。
【請求項10】
請求項8の成形品もしくは請求項9のシートまたはフィルムを用いた自動車内装部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐傷付き性、耐熱性および成形性に優れたポリカーボネート樹脂およびそれからなる成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂は、透明性、耐衝撃性、耐熱性、寸法安定性に優れていることから、エンジニアリングプラスチックとして、電気・電子機器の筐体、自動車内装・外装部品、建材、家具、楽器、雑貨類などの幅広い分野で使用されている。さらに、無機ガラスと比較し、比重が低く軽量化が可能であり、生産性に優れているため、自動車等の窓用途に使用されている。
【0003】
さらに、ポリカーボネート樹脂を用いたシートやフィルムは、コーティング処理、積層体、表面修飾等の付加的な二次加工を施すことにより、自動車内装の各種表示装置、保護用部品として広く使用されている。
【0004】
しかしながら、コーティング処理を施していないポリカーボネート樹脂は、JIS K5600-5-4に記載の塗料一般試験方法-第5部:塗膜の機械的性質-第4節:引っかき硬度(鉛筆法)に準拠して測定したポリカーボネート樹脂の鉛筆硬度は2B程度に過ぎず、塗装レス材料として、表面に傷が付きやすいことが課題といえる。
【0005】
そこで、表面硬度の高い共重合ポリカーボネート樹脂(例えば、特許文献1)を用いることが知られている。また、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパンを構成単位とするポリカーボネートやコポリカーボネートとする方法が記載されている。(例えば、特許文献2~6)該ポリカーボネート樹脂は、表面硬度は向上するが、ポリカーボネート樹脂と比べて耐熱性が劣ることが課題である。
【0006】
さらに、特許文献7には2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレンを構成単位とするポリカーボネートやコポリカーボネートとする方法が記載されており、高い鉛筆硬度、高耐熱化に効果的であることが提案されている。しかしながら、耐傷付き性を上昇させるために剛直な構造を持つ構成単位を導入するとガラス転移温度が高くなり成型性が低下することから、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレンでは構成単位として高い比率で導入できないという問題がある。
【0007】
そこで、本発明はかかる課題を解決することを目的とするものであって、耐傷付き性、耐熱性および成形性に優れたポリカーボネート樹脂及びそれからなる成形品を提供することを目的とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第5173803号公報
【特許文献2】特開昭64-069625号公報
【特許文献3】特開平08-183852号公報
【特許文献4】特開平08-034846号公報
【特許文献5】特開2002-117580号公報
【特許文献6】特許第3768903号公報
【特許文献7】国際公開第2017/073508号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、耐傷付き性を有し、かつ、耐熱性と成形性に優れたポリカーボネート樹脂およびそれからなる成形品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らはこの目的を達成せんとして鋭意研究を重ねた結果、特定の構造を有するポリカ―ボネート樹脂が前記課題を解決できることを見出し、本発明に到達した。すなわち、本発明は、以下の通りである。
【0011】
≪態様1≫
主たる繰り返し単位が下記式(A)で表される繰り返し単位(A)と、下記式(B)で表される繰り返し単位(B)を含み、繰り返し単位(A)と繰り返し単位(B)とのモル比(A:B)が5以上40未満:95以下60超の範囲であるポリカーボネート樹脂。
【0012】
【0013】
【0014】
(式中、R1およびR2はそれぞれ独立して水素原子、芳香族基を含んでいてもよい炭素原子数1~20の置換基またはハロゲン原子であり、Uは単結合または2価の連結基であり、L1およびL2はそれぞれ独立に2価の連結基を示し、jおよびkはそれぞれ独立に1~4の整数を示し、mおよびnはそれぞれ独立に0または1を示す。)
【0015】
≪態様2≫
前記式(B)において、mおよびnが0である態様1に記載のポリカーボネート樹脂。
≪態様3≫
前記式(B)において、mおよびnが1である態様1に記載のポリカーボネート樹脂。
≪態様4≫
ISO/TS 19278に準拠して測定された押し込み硬さが200~450(N/mm2)である態様1~3のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂。
≪態様5≫
JIS K5600に準拠して、測定された鉛筆硬度がF以上である態様1~4のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂。
≪態様6≫
ガラス転移温度が120~180℃である態様1~5のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂。
≪態様7≫
比粘度が0.12~0.45である態様1~6のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂。
≪態様8≫
態様1~7のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂を射出成形してなる成形品。
≪態様9≫
態様1~7のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂を押出成形してなるシートまたはフィルム。
≪態様10≫
態様8の成形品もしくは態様9のシートまたはフィルムを用いた自動車内装部品。
【発明の効果】
【0016】
本発明のポリカーボネート樹脂およびそれからなる成形品は、耐傷付き性、耐熱性、成形性に優れているため、自動車内装部品に好適に用いられる。したがって、その奏する産業上の効果は格別である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】実施例1で得られたポリカーボネート樹脂の
1H NMRである。
【
図2】実施例2で得られたポリカーボネート樹脂の
1H NMRである。
【
図3】実施例3で得られたポリカーボネート樹脂の
1H NMRである。
【
図4】実施例3及び比較例2~3のポリカーボネート樹脂の試験力―深さグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明をさらに詳しく説明する。
【0019】
<ポリカーボネート樹脂>
本発明のポリカーボネート樹脂は、主たる繰り返し単位が下記式(A)で表される繰り返し単位(A)と、下記式(B)で表される繰り返し単位(B)を含み、繰り返し単位(A)と繰り返し単位(B)とのモル比(A:B)が5以上40未満:95以下60超の範囲であるポリカーボネート樹脂である。
【0020】
【0021】
【0022】
(式中、R1およびR2はそれぞれ独立して水素原子、芳香族基を含んでいてもよい炭素原子数1~20の置換基またはハロゲン原子であり、Uは単結合または2価の連結基であり、L1およびL2はそれぞれ独立に2価の連結基を示し、jおよびkはそれぞれ独立に1以上の整数を示し、mおよびnはそれぞれ独立に0または1を示す。)
【0023】
前記式(B)においてR1およびR2はそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、芳香族基を含んでいてもよい炭素原子数1~20の置換基を示し、水素原子、メチル基、イソプロピル基、tert-ブチル基、シクロヘキシル基、フェニル基が好ましく、水素原子、メチル基、tert-ブチル基、シクロヘキシル基がより好ましく、水素原子、メチル基がさらに好ましい。
【0024】
前記式(B)において、jおよびkはそれぞれ独立に1~4の整数であり、1~2の整数であることが好ましく、1であることがより好ましい。
【0025】
前記式(B)において、L1、L2はそれぞれ独立に2価の連結基を示し、炭素数1~12のアルキレン基であると好ましく、炭素数1~4のアルキレン基であるとより好ましく、エチレン基であるとさらに好ましい。L1、L2の連結基の長さを調整することによって、樹脂のガラス転移温度(Tg)を調整することができる。
【0026】
前記式(B)において、mおよびnはそれぞれ独立に0または1である。
前記式(B)において、Uは単結合または2価の連結基を示す。
Uとしては、下記式(1)のものが好ましい。
【0027】
【0028】
(式(1)においてR11,R12,R13,R14,R15,R16,R17及びR18は夫々独立して水素原子、炭素原子数1~18のアルキル基、炭素原子数6~14のアリール基及び炭素原子数7~20のアラルキル基からなる群から選ばれる基を表し、R19及びR20は夫々独立して水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1~18のアルキル基、炭素原子数1~10のアルコキシ基、炭素原子数6~20のシクロアルキル基、炭素原子数6~20のシクロアルコキシ基、炭素原子数2~10のアルケニル基、炭素原子数6~14のアリール基、炭素原子数6~10のアリールオキシ基、炭素原子数7~20のアラルキル基、炭素原子数7~20のアラルキルオキシ基、ニトロ基、アルデヒド基、シアノ基及びカルボキシ基からなる群から選ばれる基を表し、複数ある場合はそれらは同一でも異なっていても良く、cは1~10の整数、dは4~7の整数である。)
なお、前記式(B)において、前記式(A)は除くものとする。
【0029】
本発明のポリカーボネート樹脂は、ジヒドロキシ化合物と、カーボネート前駆体とを反応させて得られるものである。反応の方法としては界面重縮合法、溶融エステル交換法、カーボネートプレポリマーの固相エステル交換法、および環状カーボネート化合物の開環重合法などを挙げることができる。界面重縮合の場合は通常一価フェノール類の末端停止剤が使用される。また、3官能成分を重合させた分岐ポリカーボネートであってもよく、更に脂肪族ジカルボン酸や芳香族ジカルボン酸、並びにビニル系単量体を共重合させた共重合ポリカーボネートであってもよい。
【0030】
カーボネート前駆物質として例えばホスゲンを使用する反応では、通常酸結合剤および溶媒の存在下に反応を行う。酸結合剤としては例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物またはピリジン等のアミン化合物が用いられる。溶媒としては例えば塩化メチレン、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素が用いられる。また反応促進のために例えば第三級アミンまたは第四級アンモニウム塩等の触媒を用いることもできる。その際、反応温度は通常0~40℃であり、反応時間は数分~5時間である。
【0031】
末端停止剤として通常使用される単官能フェノール類を使用することができる。殊にカーボネート前駆物質としてホスゲンを使用する反応の場合、単官能フェノール類は末端停止剤として分子量調節のために一般的に使用され、また得られたポリカーボネート樹脂は、末端が単官能フェノール類に基づく基によって封鎖されているので、そうでないものと比べて熱安定性に優れている。前記単官能フェノール類の具体例としては、例えばフェノール、m-メチルフェノール、p-メチルフェノール、m-プロピルフェノール、p-プロピルフェノール、1-フェニルフェノール、2-フェニルフェノール、p-tert-ブチルフェノール、p-クミルフェノール、イソオクチルフェノール、p-長鎖アルキルフェノール等が挙げられる。
【0032】
カーボネート前駆物質として例えば炭酸ジエステルを用いるエステル交換反応は、不活性ガス雰囲気下所定割合の芳香族ジヒドロキシ成分を炭酸ジエステルと加熱しながら撹拌して、生成するアルコールまたはフェノール類を留出させる方法により行われる。反応温度は生成するアルコールまたはフェノール類の沸点等により異なるが、通常120~300℃の範囲である。反応はその初期から減圧にして生成するアルコールまたはフェノール類を留出させながら反応を完結させる。また反応を促進するために通常エステル交換反応に使用される触媒を使用することもできる。前記エステル交換反応に使用される炭酸ジエステルとしては、例えばジフェニルカーボネート、ジナフチルカーボネート、ビス(ジフェニル)カーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジブチルカーボネート等が挙げられる。これらのうち特にジフェニルカーボネートが好ましい。
【0033】
本発明のポリカーボネート樹脂は、芳香族または脂肪族(脂環式を含む)の二官能性カルボン酸を共重合したポリエステルカーボネートを含む。脂肪族の二官能性のカルボン酸は、α,ω-ジカルボン酸が好ましい。脂肪族の二官能性のカルボン酸としては例えば、セバシン酸(デカン二酸)、ドデカン二酸、テトラデカン二酸、オクタデカン二酸、およびイコサン二酸などの直鎖飽和脂肪族ジカルボン酸、並びにシクロヘキサンジカルボン酸などの脂環式ジカルボン酸が好ましく挙げられる。これらのカルボン酸は、目的を阻害しない範囲で共重合してもよい。
【0034】
本発明のポリカーボネート樹脂の組成比は、主たる繰り返し単位(A)と繰り返し単位(B)のモル比(A:B)が、5以上40未満:95以下60超の範囲である。モル比(A:B)が上記範囲である本発明のポリカーボネート樹脂は、耐傷付き性、耐熱性、成形性のバランスが優れるため好ましい。また、繰り返し単位(A)はヒドロキシ基周辺が嵩高いため、反応性の観点からも上記範囲であると好ましい。モル比(A:B)が8以上38以下:92以下62以上の範囲が好ましく、10以上36以下:90以下64以上の範囲であるとより好ましい。主たる繰り返し単位とは、繰り返し単位(A)及び(B)の合計が全繰り返し単位を基準として90モル%以上であり、95モル%以上であると好ましく、100モル%であるとより好ましい。
【0035】
また、本発明のポリカーボネート樹脂には、必要に応じて熱安定剤、可塑剤、光安定剤、重合金属不活性化剤、難燃剤、滑剤、帯電防止剤、界面活性剤、抗菌剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、離型剤等の添加剤を配合することができる。
【0036】
<ポリカーボネート樹脂の物性>
本発明のポリカーボネート樹脂は、ISO/TS 19278に準拠して測定された押し込み硬さが200~450(N/mm2)であることが好ましく、210~440(N/mm2)であるとより好ましく、220~430(N/mm2)であるとさらに好ましく、225~420(N/mm2)であると特に好ましい。押し込み硬さが上記範囲であると成形体の耐傷付き性に優れる。
【0037】
本発明のポリカーボネート樹脂は、JIS K5600-5-4に記載の塗料一般試験方法-第5部:塗膜の機械的性質-第4節:引っかき硬度(鉛筆法)に則して測定した鉛筆硬度がF以上であると好ましく、H以上であるとより好ましく、2H以上であるとさらに好ましい。鉛筆硬度が前記範囲であると成形体表面に引っかき傷が生じ難くなり好ましい。
【0038】
材料の耐傷付き性に対してよく用いられる指標である鉛筆硬度は、幅をもった離散的な指標であるため、例えば同じ『2H』の鉛筆硬度を持つ材料間の硬さの比較はできない。そこで定量的な評価が行うことができる押し込み硬さを指標として用いることで、同じ鉛筆硬度を持つ材料であっても硬さの程度を評価することができる。
【0039】
本発明のポリカーボネート樹脂は、ガラス転移温度(Tg)は120℃以上、125℃以上、130℃以上、135℃以上、または140℃以上であってもよく、180℃以下、175℃以下、170℃以下、165℃以下、160℃以下であってもよい。120~180℃であることが好ましく、125~170℃であることがより好ましく、130~165℃であるとさらに好ましく、130~160℃であると特に好ましい。ガラス転移温度が上記範囲内であると、耐熱性と成形性のバランスに優れるため好ましい。
【0040】
本発明のポリカーボネート樹脂の比粘度は、0.12~0.45であることが好ましく、0.14~0.42であるとより好ましく、0.16~0.40であるとさらに好ましい。比粘度が上記範囲内であると成形性と機械強度のバランスに優れるため好ましい。
【0041】
比粘度の測定方法は、ポリカーボネート樹脂0.7gを塩化メチレン100mlに溶解した溶液の20℃における比粘度(ηSP)を、オストワルド粘度計にて測定し、以下の式から算出する。
比粘度(ηSP)=(t-t0)/t0
[t0は、塩化メチレンの落下秒数、tは、試料溶液の落下秒数]
【0042】
<ポリカーボネート樹脂の原料>
(式(A)のジオール成分)
式(A)の原料となるジオール成分は、下記式(a)で表されるジオール成分である。
【0043】
【0044】
本発明の前記式(B)の原料となるジヒドロキシ化合物成分を以下に示す。
前記式(B)において、mおよびnが0であるとき、本発明の前記式(B)の原料となるジヒドロキシ化合物成分は、4,4′-ビフェノール、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3-tert-ブチルー4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルエタン、1,3-ビス(2-(4-ヒドロキシフェニル)-2-プロピル)ベンゼン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)デカン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)スルフィド等が例示され、2,2-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサンが特に好ましい。これらは単独で使用してもよく、または二種以上組み合わせて用いてもよい。
【0045】
前記式(B)において、mおよびnが1であるとき、本発明の前記式(B)の原料となるジヒドロキシ化合物成分は、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-メチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-シクロヘキシルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル)フルオレン等が例示され、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル)フルオレンが特に好ましい。これらは単独で使用してもよく、または二種以上組み合わせて用いてもよい。
【0046】
<ポリカーボネート樹脂成形品、自動車内装部品>
本発明のポリカーボネート樹脂は、射出成形、射出圧縮成形、インジェクションブロー成形、二色成形、押出成形またはブロー成形などの方法により目的の成形品を得ることができる。
【0047】
本発明のポリカーボネート樹脂は、その製法には特に限定はなく、例えば、射出成形により各種形状の成形品を得ることができ、また溶融押出法、溶液キャスティング法(流延法)等などの方法によりシート状、フィルム状の成形品を得ることもできる。溶融押出法の具体的な方法は、例えば、ポリカーボネート樹脂を押出機に定量供給して、加熱溶融し、Tダイの先端部から溶融樹脂をシート状に鏡面ロール上に押出し、複数のロールにて冷却しながら引き取り、固化した時点で適当な大きさにカットするか巻き取る方式が用いられる。溶液キャスティング法の具体的な方法は、例えば、ポリカーボネート樹脂を塩化メチレンに溶解した溶液(濃度5%~40%)を鏡面研磨されたステンレス板上にTダイから流延し、段階的に温度制御されたオーブンを通過させながらシートを剥離し、溶媒を除去した後、冷却して巻き取る方式が用いられる。
【0048】
ポリカーボネート樹脂は、積層体とすることもできる。積層体の製法としては、任意の方法を用いればよく、特に熱圧着法または共押出法で行うことが好ましい。熱圧着法としては任意の方法が採用されるが、例えばポリカーボネート樹脂シートをラミネート機やプレス機で熱圧着する方法、押出し直後に熱圧着する方法が好ましく、特に押出し直後のポリカーボネート樹脂シートに連続して熱圧着する方法が工業的に有利である。
【0049】
また、本発明のポリカーボネート樹脂は、耐傷付き性に優れるため自動車内装部品として使用される。自動車内装部品としては、室内照明用ランプレンズ、表示用メーターカバー、メーター文字板、各種スイッチカバー、ディスプレイカバー、ヒートコントロールパネル、インストルメントパネル、センタークラスター、センターパネル、ルームランプレンズ、ヘッドアップディスプレイ等の各種表示装置、保護部品、透光部品などが挙げられる。また、本発明の自動車内装部品は上記特性を有するためコーティング処理を必要とせずポリカーボネート樹脂成形品をそのまま使用できる利点がある。
【実施例0050】
本発明を以下の実施例でさらに具体的に説明をするが、本発明はこれによって限定されるものではない。なお、評価は下記の方法に従った。
(1)ポリマー組成比
得られた樹脂を日本電子(株)製JNM-ECZ400Sを用いて1 H NMR測定することによって、各のポリマー組成比を算出した。溶媒はCDCl3 を用いた。
(2)比粘度(ηSP)
次式にて算出される比粘度(ηSP)を20℃で塩化メチレン100mlに試料0.7gを溶解した溶液からオストワルド粘度計を用いて求めた。
比粘度(ηSP)=(t-t0)/t0
[t0は塩化メチレンの落下秒数、tは試料溶液の落下秒数]
(3)ガラス転移温度(Tg)
得られた樹脂をTAインスツルメント製の示差熱・熱重量同時測定装置Discovery SDT650により、昇温速度20℃/minで測定した。試料は5mg程度で測定した。
(4)押込み硬さ(Hit)
ISO/TS 19278に基づき、ダイナミック超微小硬度計(島津製作所、型式DUH-210S)を使用して、樹脂プレートの表面に対して、負荷と押しこみ深さの関係をリアルタイムに計測し、押し込み硬さ(N/mm2)を測定した。
【0051】
(測定条件)
測定圧子:バーコビッチ圧子(ダイヤモンド製)
試験力:500mN
最小試験力:4.9mN
負荷/除荷時間:30sec
負荷保持時間:40sec
除荷保持時間:0sec
試験回数:5
(押し込み硬さ算出方法)
押し込み硬さ(Hit)は、半永久的な変形あるいは損傷に関する抵抗を測定したものである。押し込み硬さは以下の式で算出される。
Hit = Fmax/Ap
Fmax:最大試験力
Ap:圧子と試験片が接している投影面積
Ap=23.96×hc2(三角錐圧子(115°)の場合)
hc=hmax-ε(hmax-hr)
ε=3/4(三角錐の場合)
hr:試験力―深さ曲線のFmaxにおける除荷曲線の接線が深さ軸と交わる切片
【0052】
(5)鉛筆硬度
JIS K5600に基づき、雰囲気温度23℃の恒温室内で樹脂プレートの表面に対して、鉛筆を45度の角度を保ちつつ750gの荷重をかけた状態で線を引き、表面状態を目視にて評価した。
荷重:750g
測定速度:50mm/min
測定距離:7mm
鉛筆:三菱鉛筆製Hi―uni
【0053】
[参考例1]BCHP-FLの合成
撹拌機、冷却器、ディーンスターク管、温度計を備え付けたフラスコにフルオレノン15.00g、2-シクロヘキシルフェノール30.81g、リンタングステン酸1.42g、オクタンチオール0.49g、トルエン100mlを仕込み、100℃、50kPaで11時間反応した。反応後、トルエン300mlを加え希釈した後、蒸留水で5回分液水洗した。水洗後の有機層を濃縮し、濃縮残にアセトン400mlを加えると9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-シクロヘキシルフェニル)フルオレン(以下、BCHP-FLと省略することがある)の白色結晶が析出した。結晶をろ過回収し、70℃で4時間減圧乾燥し、BCHP-FLを29.9g得た(収率70%)。
【0054】
[実施例1]
温度計、撹拌機、還流冷却器付き反応器にイオン交換水80.81質量部、25%水酸化ナトリウム水溶液35.91質量部を入れ、ジオールとして2,2-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン(以下、BPCと省略することがある)12.95質量部およびBCHP-FL2.91質量部、およびハイドロサルファイト0.032質量部を溶解した後、塩化メチレン71.55質量部を加え、撹拌下16~24℃でホスゲン7.50質量部を70分かけて吹き込んだ。その後、25%水酸化ナトリウム水溶液4.49質量部、p-tert-ブチルフェノール0.253質量部を塩化メチレン2.53質量部に溶解した溶液、トリエチルアミン0.003質量部を加え、攪拌して乳化状態とした。かかる攪拌下、反応液が28℃の状態で0.014質量部のトリエチルアミンを加えて温度26~31℃において1時間撹拌を続けて反応を終了した。反応終了後有機相を分離し、塩化メチレンで希釈し、イオン交換水で水洗を繰り返し、洗浄液が中性になったところで塩酸を加えた。その後、イオン交換水で繰り返し洗浄し水相の導電率がイオン交換水とほぼ同じになるまで水洗を繰り返し、ポリカーボネートの塩化メチレン溶液を得た。次いで、得られた塩化メチレン溶液を50~80℃に保った温水中に滴下し、溶媒を蒸発除去し、フレーク状の固形物を得た。得られた固形物をろ過し、120℃で24時間乾燥し、白色フレーク状の実施例1のポリカーボネートを得た。得られた樹脂の特性は表1に示した。
【0055】
【0056】
[実施例2]
温度計、撹拌機および還流冷却器の付いた反応容器に、それぞれ酸結合剤及び溶媒として、ピリジン26.60質量部及び塩化メチレン143.10質量部を入れた。これに、ジオールとしてBCHP-FL5.82質量部、BPC11.51質量部並びに末端停止剤としてのp-tert-ブチルフェノール0.253質量部を溶解した後、撹拌しながら15~26℃で、ホスゲン7.50質量部を約70分かけて吹き込んだ。ホスゲン吹き込み終了後、26~35℃で60分撹拌して反応を終了した。
【0057】
反応終了後生成物を塩化メチレンで希釈し、イオン交換水で水洗した後、塩酸を加え、酸性にして水洗し、さらに水相の導電率がイオン交換水とほぼ同じになるまで水洗を繰り返し、ポリカーボネートの塩化メチレン溶液を得た。次いで、得られた塩化メチレン溶液を50~80℃に保った温水中に滴下し、溶媒を蒸発除去し、フレーク状の固形物を得た。得られた固形物をろ過し、120℃で24時間乾燥し、白色フレーク状の実施例2のポリカーボネートを得た。得られた樹脂の特性は表1に示した。
【0058】
[比較例1]
BCHP-FLを9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレン(以下、「BCF」と省略することがある)に変更したこと以外は実施例1と同様にして、ポリカーボネート樹脂を製造した。得られたポリカーボネート樹脂の特性は表1に示した。
【0059】
【0060】
【0061】
実施例1~2で得られたポリカーボネート樹脂は、比較例1と比較して押し込み硬さの増大に対するガラス転移温度の増大が小さく、耐傷付き性に優れ、耐熱性と成形性を高度にバランスさせることができていることが分かる。
【0062】
[実施例3]
BCHP-FLを15.40質量部、9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン(以下、BPEFと省略することがある)19.73質量部、ジフェニルカーボネート(以下、DPCと省略することがある)16.23質量部、及び触媒として濃度60mmol/Lの濃度で炭酸水素ナトリウムを3.15×10-4質量部を加え、窒素雰囲気下180℃に加熱し溶融させた。その後、5分間かけて減圧度を20kPaに調整した。60℃/hrの昇温速度で240℃まで昇温を行い、フェノールの流出量が70%になった後で40kPa/hrで減圧し、所定の電力に到達するまで重合反応を行い、反応終了後フラスコから樹脂を取り出した。得られたポリカーボネート樹脂の特性は表2に示した。
【0063】
【0064】
[比較例2~3]
BCHP-FLをBCFに変更したことと、BCF、BPEFの比率を変更したこと以外は実施例3と同様にして、ポリカーボネート樹脂を製造した。得られたポリカーボネート樹脂の特性は表2に示した。
【0065】
【0066】
【0067】
実施例3で得られたポリカーボネート樹脂は、比較例2~3と比較して押し込み硬さの増大に対するガラス転移温度の増大が小さく、耐傷付き性に優れ、耐熱性と成形性を高度にバランスさせることができていることが分かる。
本発明のポリカーボネート樹脂は、耐傷付き性、耐熱性および成形性に優れるため、コーティング処理を必要とせず、室内照明用ランプレンズ、表示用メーターカバー、メーター文字板、各種スイッチカバー、ディスプレイカバー、ヒートコントロールパネル、インストルメントパネル、センタークラスター、センターパネル、ルームランプレンズ、ヘッドアップディスプレイ等の各種表示装置、保護部品、透光部品などの自動車内装部品に利用できる。