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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023011226
(43)【公開日】2023-01-24
(54)【発明の名称】繊維
(51)【国際特許分類】
   D01F 6/92 20060101AFI20230117BHJP
   D01F 1/10 20060101ALI20230117BHJP
【FI】
D01F6/92 308E
D01F1/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021114959
(22)【出願日】2021-07-12
(71)【出願人】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金野 泰弘
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 豊明
【テーマコード(参考)】
4L035
【Fターム(参考)】
4L035AA05
4L035BB31
4L035BB89
4L035BB91
4L035EE07
4L035EE20
4L035JJ05
4L035KK05
(57)【要約】
【課題】防透け性に優れた繊維を提供すること。
【解決手段】第1ポリマーを含む連続相と、前記連続相中に分散した第2ポリマーおよび空孔を含む分散相とからなる繊維。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1ポリマーを含む連続相と、前記連続相中に分散した第2ポリマーおよび空孔を含む分散相とからなる繊維。
【請求項2】
下記の方法で測定される前記繊維の横断面における前記分散相数が0.3~10個/μm2である請求項1に記載の繊維。
分散相数の測定方法:透過型電子顕微鏡(TEM)を用い、加速電圧を100kV、倍率を6000倍として、無作為に選んだ、前記繊維の繊維軸に対して垂直な横断面の写真を撮影する。前記写真から、前記横断面に存在する分散相の数を目視にて計測し、前記横断面の面積求め、これらに基づいて単位面積当たりの分散相数を算出する。
【請求項3】
前記連続相の質量/前記分散相の質量が80/20~99.9/0.1である請求項1または2に記載の繊維。
【請求項4】
下記の方法で測定される前記繊維の横断面における前記第2ポリマーからなる相の平均径が0.001~2μmである請求項1~3のいずれか一項に記載の繊維。
第2ポリマーからなる相の平均径の測定方法:透過型電子顕微鏡(TEM)を用い、加速電圧を100kV、倍率を20000倍として、無作為に選んだ横断面の写真を撮影する。前記写真から、前記横断面に存在する第2ポリマーからなる相のうち直径の大きい10個の相の直径の平均値を、第2ポリマーからなる相の平均径とする。
【請求項5】
前記第1ポリマーがポリエステル、ポリアミド、熱可塑性ポリアクリロニトリル、熱可塑性ポリウレタン、ポリプロピレン、ポリエチレンおよびセルロース誘導体からなる群から選ばれる1種以上の樹脂である請求項1~4のいずれか一項に記載の繊維。
【請求項6】
前記第2ポリマーがポリメチルペンテン、環状ポリオレフィンからなる群から選ばれる1種以上の樹脂である請求項1~5のいずれか一項に記載の繊維。
【請求項7】
前記第2ポリマーのメルトフローレート(260℃、5kg荷重)が30~300g/分である請求項1~6のいずれか一項に記載の繊維。
【請求項8】
前記空孔が前記連続相と接している請求項1~7のいずれか一項に記載の繊維。
【請求項9】
1.1~5.0倍の延伸倍率で延伸されている請求項1~8のいずれか一項に記載の繊維。
【請求項10】
引張強さが1.0cN/dtex以上である請求項1~9のいずれか一項に記載の繊維。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、化学繊維には、種々の機能を付与すべく、様々な改良が施されている。
たとえば特許文献1には、高反射かつ低光沢のナノボイドポリエステル繊維の提供を目的とした、空孔の形状等が制御されたナノボイドポリエステル繊維が開示され、さらに、繊維横断面の空孔数が15個/μm2以上であると、乱反射が強くなることにより透過する光の量が少なくなり、防透け性が向上することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2018/79567号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の繊維には、防透け性の観点から、さらなる向上の余地があった。このような従来技術に鑑み、本発明は、防透け性に優れた繊維を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、たとえば以下の[1]~[10]に関する。
[1]
第1ポリマーを含む連続相と、前記連続相中に分散した第2ポリマーおよび空孔を含む分散相とからなる繊維。
[2]
下記の方法で測定される前記繊維の横断面における前記分散相数が0.3~10個/μm2である前記[1]の繊維。
分散相数の測定方法:透過型電子顕微鏡(TEM)を用い、加速電圧を100kV、倍率を6000倍として、無作為に選んだ、前記繊維の繊維軸に対して垂直な横断面の写真を撮影する。前記写真から、前記横断面に存在する分散相の数を目視にて計測し、前記横断面の面積求め、これらに基づいて単位面積当たりの分散相数を算出する。
[3]
前記連続相の質量/前記分散相の質量が80/20~99.9/0.1である前記[1]または[2]の繊維。
[4]
下記の方法で測定される前記繊維の横断面における前記第2ポリマーからなる相の平均径が0.001~2μmである前記[1]~[3]のいずれかの繊維。
第2ポリマーからなる相の平均径の測定方法:透過型電子顕微鏡(TEM)を用い、加速電圧を100kV、倍率を20000倍として、無作為に選んだ横断面の写真を撮影する。前記写真から、前記横断面に存在する第2ポリマーからなる相のうち直径の大きい10個の相の直径の平均値を、第2ポリマーからなる相の平均径とする。
[5]
前記第1ポリマーがポリエステル、ポリアミド、熱可塑性ポリアクリロニトリル、熱可塑性ポリウレタン、ポリプロピレン、ポリエチレンおよびセルロース誘導体からなる群から選ばれる1種以上の樹脂である前記[1]~[4]のいずれかの繊維。
[6]
前記第2ポリマーがポリメチルペンテン、環状ポリオレフィンからなる群から選ばれる1種以上の樹脂である前記[1]~[5]のいずれかの繊維。
[7]
前記第2ポリマーのメルトフローレート(260℃、5kg荷重)が30~300g/分である前記[1]~[6]のいずれかの繊維。
[8]
前記空孔が前記連続相と接している前記[1]~[7]のいずれかの繊維。
[9]
1.1~5.0倍の延伸倍率で延伸されている前記[1]~[8]のいずれかの繊維。
[10]
引張強さが1.0cN/dtex以上である前記[1]~[9]のいずれかの繊維。
【発明の効果】
【0006】
本発明に係る繊維は、防透け性に優れている。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
[繊維]
本発明の繊維は、第1ポリマーを含む連続相と、前記連続相中に分散した第2ポリマーおよび空孔を含む分散相とからなることを特徴としている。
【0008】
<連続相>
前記連続相は、第1ポリマーを含んでいる。
【0009】
《第1ポリマー》
前記第1ポリマーの例としては、ポリエステル、ポリアミド、熱可塑性ポリアクリロニトリル、熱可塑性ポリウレタン、ポリプロピレン、ポリエチレンおよびセルロース誘導体が挙げられ、これらの中でもポリエステル、ポリアミド、熱可塑性ポリアクリロニトリルが好ましく、汎用性の観点からポリエステルがより好ましい。これらは、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0010】
ポリエステルの例としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリヘキサメチレンテレフタレートなどの芳香族ポリエステル、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリエチレンアジペート、ポリプロピレンアジペート、ポリブチレンアジペート、ポリエチレンサクシネート、ポリプロピレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンセバケート、ポリプロピレンセバケート、ポリブチレンセバケート、ポリカプロラクトンなどの脂肪族ポリエステル、これらのポリエステルへ共重合成分を共重合させた共重合ポリエステルが挙げられ、これらの中でも汎用性の観点からポリエチレンテレフタレートが好ましい。
【0011】
ポリアミドの例としては、ナイロン6T、ナイロン9T、ナイロン10Tなどの芳香族ポリアミド、ナイロン4、ナイロン6、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン46、ナイロン410、ナイロン66、ナイロン610などの脂肪族ポリアミド、これらのポリアミドへ共重合成分を共重合させた共重合ポリアミドが挙げられる。
【0012】
熱可塑性ポリアクリロニトリルの例としては、アクリロニトリル-アクリル酸メチル共重合体、アクリロニトリル-メタクリル酸エチル共重合体、アクリロニトリル-塩化ビニル共重合体、アクリロニトリル-アクリルアミド共重合体、アクリロニトリル-酢酸ビニル共重合体、アクリロニトリル-スチレン共重合体、アクリロニトリル-アクリル酸共重合体、アクリロニトリル-メタクリル酸ナトリウム共重合体が挙げられる。
【0013】
熱可塑性ポリウレタンの例としては、ジイソシアネート、ポリオール、鎖伸長剤の3成分の反応によって得られる高分子化合物が挙げられる。ジイソシアネートの例としては、トリメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、1,3-ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、1,3-シクロヘキサンジイソシアネート、1,4-シクロヘキサンジイソシアネート、2,2'-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4'-ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4'-ジフェニルメタンジイソシアネート、1,5-ナフタレンジイソシアネート、2,4-トルエンジイソシアネート、2,6-トルエンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネートが挙げられる。ポリオールの例としては、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカプロラクトンポリオール、ポリカーボネートポリオールが挙げられる。鎖伸長剤の例としては、エタンジオール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコールが挙げられる。
【0014】
ポリプロピレンとしては、プロピレンの単独重合体、およびプロピレンとプロピレン以外のα-オレフィン(たとえばエチレン、1-ブテン、1-ヘキセン、1-オクテン)との共重合体が挙げられる。
【0015】
ポリエチレンとしては、エチレンの単独重合体、およびエチレンとエチレン以外のα-オレフィン(たとえばプロピレン、1-ブテン、1-ヘキセン、1-オクテン、4-メチル-1-ペンテン)との共重合体が挙げられる。
【0016】
セルロース誘導体は、セルロースの構成単位であるグルコースに存在する3つの水酸基の少なくとも一部が他の官能基へ誘導体化された化合物であり、その例としては、セルロースへ1種のエステル基が結合したセルロース単独エステル、2種以上のエステル基が結合したセルロース混合エステル、1種のエーテル基が結合したセルロース単独エーテル、2種以上のエーテル基が結合したセルロース混合エーテル、エーテル基およびエステル基がそれぞれ1種または2種以上結合したセルロースエーテルエステルが挙げられる。
【0017】
また、これらの第1ポリマーまたはその原料のより具体的な例として、国際公開第2013/141033号の[0037]-[0056]に記載された化合物を挙げることができる。
【0018】
前記第1ポリマーの固有粘度(Iv値)は、好ましくは0.40~1.2、より好ましくは0.45~1.0、さらに好ましくは0.50~0.80である。前記固有粘度(Iv値)がこの範囲にあると、溶融時の流動性が良く、繊維の成形性に優れる。
【0019】
<分散相>
前記分散相は、第2ポリマーおよび空孔を含んでいる。
2つの相の質量比(前記連続相の質量/前記分散相の質量)は、防透け性および成形性の観点から、好ましくは80/20~99.9/0.1であり、より好ましくは85/15~99/1であり、さらに好ましくは90/10~98/2である。
【0020】
《第2ポリマー》
前記第2ポリマーの例としては、ポリメチルペンテンおよび環状ポリオレフィンが挙げられ、これらの中でもポリメチルペンテンがより好ましい。これらは、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0021】
前記ポリメチルペンテンの例としては、4-メチル-1-ペンテン系重合体が挙げられる。
4-メチル-1-ペンテン系重合体の例としては、4-メチル-1-ペンテンの単独重合体、および4-メチル-1-ペンテンと4-メチル-1-ペンテン以外のα-オレフィン(以下「他のα-オレフィン」とも記載する。)との共重合体が挙げられる。他のα-オレフィンは、1種のみであっても2種以上であってもよい。
【0022】
他のα-オレフィンの炭素数は、好ましくは2~20であり、より好ましくは3~18である。
他のα-オレフィンの例としては、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセン、1-エイコセン、3-メチル-1-ブテン、3-メチル-1-ペンテン、3-エチル-1-ペンテン、3-エチル-1-ヘキセンが挙げられる。
【0023】
前記共重合体における他のα-オレフィン由来の構成単位の割合は、得られる繊維の機械的特性、耐熱性等の観点から、全構成単位100モル%に対して、好ましくは20モル%以下、より好ましくは10モル%以下である。
【0024】
前記環状ポリオレフィンの例としては、三井化学(株)製アペル(登録商標)、日本ゼオン(株)製TOPAS(登録商標)が挙げられる。
前記第2ポリマーのメルトフローレート(ASTM D1238に準拠、260℃、5kg荷重)は、好ましくは30~300g/分、より好ましくは50~280g/分である。メルトフローレートがこの範囲にあると、第1ポリマー中に第2ポリマーが微分散しやすく、高い防透け性と強度を維持することができる。
【0025】
前記第1ポリマーの屈折率(n1)と前記第2ポリマーの屈折率(n2)との差の絶対値(|n1-n2|)は、好ましくは0.05以上、より好ましくは0.20以上である。
【0026】
《空孔》
本発明の繊維は、前記分散相の中に空孔を有している。前記空孔は、たとえば後述する延伸工程を実施することにより、前記連続相と接するように形成される。
【0027】
本発明の繊維を構成するとポリマーの屈折率と空孔の屈折率との差があることにより、好ましくは、さらに前記第1ポリマーの屈折率(n1)と前記第2ポリマーの屈折率(n2)にも差があることにより、本発明の繊維には光が透過し難い。このため本発明の繊維は防透け性に優れている。
【0028】
(任意成分)
本発明の繊維は、前記第1ポリマーおよび前記第2ポリマーの他に、本発明の効果を損なわない範囲で相溶化剤を含んでいてもよい。
【0029】
前記相溶化剤は、前記第1ポリマーおよび前記第2ポリマーの相溶性を高めるために配合される成分であり、その例としてはポリエステルエラストマー、ポリスチレン、マレイン酸等で変性された変性ポリメチルペンテンが挙げられ、市販品の例としては、東レ・デュポン(株)製のハイトレル7247(登録商標)ハイトレル7201が挙げられる。
【0030】
前記相溶化剤は、前記第1ポリマーおよび前記第2ポリマーの種類に応じて適宜選択される。たとえば前記第1ポリマーおよび前記第2ポリマーがそれぞれ、ポリエステルおよびポリメチルペンテンの場合には、相溶化剤として、東レ・デュポン(株)製のハイトレル7247などを好ましく用いることができる。
前記相溶化剤は、本発明の繊維において連続相の中に存在する場合と分散相の中に存在する場合がある。
【0031】
本発明の繊維は、本発明の効果を損なわない範囲で相溶化剤以外の任意成分を含んでいてもよい。任意成分の例としては、可塑剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、蛍光増白剤、離型剤、抗菌剤、核形成剤、熱安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、着色防止剤、調整剤、艶消し剤、消泡剤、防腐剤、フィラー、インク、着色料、染料、顔料、香料などが挙げられる。
その一方で、素材のモノマテリアル化の観点からは、これらの任意成分を含まないことが好ましい。
【0032】
(分散相数)
下記の方法で測定される、本発明の繊維の横断面における単位面積当たりの前記分散相の数(以下、単に「分散相数」とも記載する。)は、好ましくは0.3~10個/μm2であり、より好ましくは1.0~9個/μm2である。前記分散相数が前記下限値以上であると、本発明の繊維は防透け性に優れ、前記上限値以下であると繊維強度を維持することが可能である。
前記分散相数は、たとえば前記第2ポリマーの割合の増減、または前記第2ポリマーのMFRの調整をすることにより、増減させることができる。
【0033】
分散相数の測定方法:
透過型電子顕微鏡(TEM)(たとえば、(株)日立製作所製透過型電子顕微鏡H7650)を用い、加速電圧を100kV、倍率を6000倍として、無作為に選んだ横断面、すなわち前記繊維の繊維軸に対して垂直な面の写真を撮影する。前記写真から、前記横断面に存在する分散相の数を目視にて計測し、前記横断面の面積求め、これらに基づいて単位面積当たりの分散相数を算出する。
【0034】
(第2ポリマーからなる相の平均径)
下記の方法で測定される、本発明の繊維の横断面における前記第2ポリマーからなる相の平均径は、好ましくは0.001~2μmであり、より好ましくは0.05~0.5μmであり、さらに好ましくは0.1~0.4μmである。前記平均径が前記下限値以上であると防透け性に優れ、前記上限値以下であると繊維強度を維持することが可能である。
【0035】
第2ポリマーからなる相の平均径の測定方法:
透過型電子顕微鏡(TEM)(たとえば、(株)日立製作所製透過型電子顕微鏡H7650)を用い、加速電圧を100kV、倍率を20000倍として、無作為に選んだ横断面、すなわち前記繊維の繊維軸に対して垂直な面の写真を撮影する。前記写真から、前記横断面に存在する第2ポリマーからなる相のうち直径の大きい10個の相の直径の平均値を、第2ポリマーからなる相の平均径とする。
【0036】
なお、横断面上の第2ポリマーからなる相の形状が円以外の場合には、前記形状の重心から前記形状における外周までの最長距離と最短距離とを足して得られる値を直径として採用する。
【0037】
本発明の繊維の、後述する実施例で採用された方法で測定される繊度(単糸繊度)は、好ましくは0.3~5.0dtexである。
本発明の繊維の、後述する実施例で採用された方法で測定される引張強さは、好ましくは1.0cN/dtex以上、より好ましくは2.0cN/dtex以上であり、その上限値は、たとえば3.0cN/dtexであってもよい。引張強さは、たとえば第2成分の添加量の調整や、繊維の延伸条件を変更することにより調整することができる。
【0038】
従来技術においては、繊維に、防透け性を付与するための添加剤(たとえば酸化チタン)を配合することもあったが、本発明は、防透け性の付与のためにこのような添加剤を配合する必要がない、あるいは配合するにしても少量(繊維中に、たとえば0.5質量%以下、好ましくは0.3質量%以下)でよい、という点で好ましい。
【0039】
本発明の繊維は、用途に特に制限はないが、防透け性に優れることから、水着、肌着、カーテン等の用途に好ましく適用することができる。
【0040】
[繊維の製造方法]
本発明の繊維の製造方法としては、特に限定されないが、たとえば、第1ポリマーと第2ポリマーと任意成分とを事前にコンパウンドして溶融紡糸する方法が挙げられる。
【0041】
以下、本発明の製造方法の一具体例について詳述する。
第1ポリマーと第2ポリマーと任意成分とをそれぞれ計量し、ブレンド(たとえば、タンブラーを使用して120rpmで15分間ブレンド)する。その後、押出機にて混錬し、ペレットにするためにペレタイズを行う。押出における造粒温度は、270~320℃であることが好ましい。造粒温度が270℃以上であれば、溶融粘度が十分に低下するため吐出が安定し、安定してペレタイズできるため好ましい。造粒温度は275℃以上であることがより好ましく、280℃以上であることが更に好ましい。一方、造粒温度が320℃以下であれば、第2ポリマーが4-メチル-1-ペンテン系重合体である場合にその熱分解を抑制することができ、得られる複合繊維の機械的特性不良や着色が生じないため好ましい。紡糸温度は310℃以下であることがより好ましく、300℃以下であることが更に好ましい。
【0042】
得られたペレットを溶融紡糸機にて溶融し、計量ポンプで計量した後、紡糸口金で吐出して紡出糸条を得る。紡出糸条は冷却装置によって冷却、固化された後、油剤を付与され、交絡付与装置で交絡を付与される。その後、紡出糸条はゴデットロールに引き取られ、巻取機で巻き取られて巻取糸となる。
【0043】
溶融紡糸機は、エクストルーダー型、プレッシャーメルター型のいずれを用いてもよく、製糸操業性、生産性、繊維の機械的特性を向上させるために、必要に応じて紡糸口金下部に2~20cm程度の長さの加熱筒、または保温筒を設置してもよい。
【0044】
溶融紡糸における紡糸温度は、270~320℃であることが好ましい。紡糸温度が270℃以上であれば、紡糸口金より吐出された紡出糸条の伸長粘度が十分に低下するため吐出が安定し、さらには、紡糸張力が過度に高くならず、糸切れを抑制することができるため好ましい。紡糸温度は275℃以上であることがより好ましく、280℃以上であることが更に好ましい。一方、紡糸温度が320℃以下であれば、紡糸時の熱分解を抑制することができ、得られる繊維の機械的特性不良や着色が生じないため好ましい。紡糸温度は310℃以下であることがより好ましく、300℃以下であることが更に好ましい。
【0045】
溶融紡糸における紡糸速度は、紡糸温度や、第1ポリマーと第2ポリマーと任意成分との複合比率などに応じて適宜選択することができるが、300~3000m/分であることが好ましい。紡糸速度が500m/分以上であれば、走行糸条が安定し、糸切れを抑制することができるため好ましい。紡糸速度は750m/分以上であることがより好ましく、1000m/分以上であることが更に好ましい。一方、紡糸速度が3000m/分以下であれば、紡出糸条を十分に冷却することができ、安定した紡糸を行うことができるため好ましい。紡糸速度は2750m/分以下であることがより好ましく、2500m/分以下であることが更に好ましい。
【0046】
溶融紡糸によって引き取られた未延伸糸は、所望の特性を有する繊維を得るために延伸を行う。延伸により、前記分散相の中に前記連続相と接する空孔が形成される。延伸の方法は、特に制限がなく、公知の方法に従い、ドラムに一旦巻き取った未延伸糸を延伸する2工程法、ドラムへ巻き取らずに連続して延伸する直接紡糸延伸法などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0047】
延伸における加熱方法としては、走行糸条を直接的あるいは間接的に加熱できる装置であれば、特に限定されない。加熱方法の具体例として、加熱ローラー、熱ピン、熱板、レーザーなどの装置、温水、熱水などの液体浴、熱空、スチームなどの気体浴などが挙げられるがこれらに限定されない。これらの加熱方法は単独で使用してもよく、複数を併用してもよい。加熱方法としては、加熱温度の制御、走行糸条への均一な加熱、装置が複雑にならない観点から、加熱ローラーとの接触、熱ピンとの接触、熱板との接触、温水や熱水などの液体浴への浸漬を好適に採用できる。
【0048】
延伸を行う場合の延伸倍率は、第1ポリマーと第2ポリマーと任意成分との複合比率、延伸後の繊維の強度や伸度などに応じて適宜選択することができるが、1.1~5.0倍であることが好ましい。延伸倍率が1.1倍以上であれば、空孔を発現させ、かつ繊維の強度や伸度などの機械的特性を向上させることができるため好ましい。延伸倍率は1.2倍以上であることがより好ましく、1.3倍以上であることが更に好ましい。一方、延伸倍率が4.9倍以下であれば、延伸時の糸切れが抑制され、安定した延伸を行うことができるため好ましい。延伸倍率は4.8倍以下であることがより好ましく、4.7倍以下であることが更に好ましい。また、1段延伸法または2段以上の多段延伸法のいずれの方法によってもよい。
【0049】
延伸を行う場合の延伸温度は、延伸後の繊維の強度や伸度などに応じて適宜選択することができるが、50~180℃であることが好ましい。延伸温度が70℃以上であれば、延伸に供給される糸条の予熱が充分に行われ、延伸時の熱変形が均一となり、繊度斑の発生を抑制できるため好ましい。延伸温度は75℃以上であることがより好ましく、80℃以上であることが更に好ましい。一方、延伸温度が180℃以下であれば、延伸時の糸切れが抑制され、安定した延伸を行うことができるため好ましい。延伸温度は170℃以下であることがより好ましく、160℃以下であることが更に好ましい。
【0050】
また、必要に応じて、延伸後に80~180℃程度の熱セットを行ってもよい。
本発明の繊維の製造方法では、空孔を得るための溶出処理を行わないことが好ましい。本発明の製造方法では、空孔を得るための溶出処理は不要であるため、溶出処理にかかる費用を抑えたり時間を短縮したりすることができ、低コストで繊維を製造することが可能である。
【実施例0051】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
【0052】
[測定方法]
〔分散相数、第2ポリマーからなる相の平均径〕
上述した発明を実施するための形態に記載の方法で、繊維横断面における分散相数(個/μm2)および第2ポリマーからなる相の平均径を測定した。透過型電子顕微鏡として、日立製作所製透過型電子顕微鏡H7650を使用した。
【0053】
〔空孔の有無〕
繊維中の空孔の有無は、透過型電子顕微鏡像により確認した。透過型電子顕微鏡として、日立製作所製透過型電子顕微鏡H7650を使用した。
【0054】
〔繊度〕
温度20℃、湿度65%RHの環境下において、INTEC製電動検尺機を用いて実施例等で得られた繊維100mをかせ取りした。得られたかせの質量を測定し、下記式を用いて総繊度(dtex)を算出した。なお、測定は1試料につき5回行い、その平均値を総繊度とした。
総繊度(dtex)=繊維100mの質量(g)×100
得られた総繊度の値を繊維のフィラメント数で除算し、その値を単糸繊度とした。
【0055】
〔引張強さ、伸び率〕
実施例等で得られた繊維を試料とし、JIS L1013:1999(化学繊維フィラメント糸試験方法)8.5に準じて、温度20℃、湿度65%RHの環境下において、(株)島津製作所製オートグラフAG-50NISMS型を用いて、初期試料長20cm、引張速度20cm/分の条件で引張試験を行った。切断時の強さ(cN)を総繊度(dtex)で除して引張強さ(cN/dtex)を算出し、最大荷重を示す点の伸び(L1)と初期試料長(L0)を用いて下記式によって伸び率(%)を算出した。測定は1試料につき10回行い、その平均値を、それぞれ引張強さおよび伸び率として採用した。
伸び率(%)={(L1-L0)/L0}×100
【0056】
〔防透け指数〕
実施例等で得られた繊維から、目付60~75g/m2となるように平編みで編み物を
作製した。得られた編み物を8枚重ねて試料とし、JIS L1923(繊維製品の防透け性の評価)B法に準じて、評価を行った。
【0057】
作製された編み物を、ミノルタ製分光測色計CM-3700d型にて白色校正板をバックにサンプルなしのL*値(Lw0)および試料のL*値(Lw)を測定した。続いて黒色校正板をバックにサンプルなしのL*値(Lb0)および試料のL*値(Lb)を測定した。下記式により防透け指数を算出した。
防透け指数=100-[(Lw-Lb)/(Lw0-Lb0)]×100
【0058】
〔透過率〕
実施例等で得られた繊維から、目付60~75g/m2となるように平編みで編み物を
作製した。得られた編み物を8枚重ねて試料とし、分光光度計(日本分光(株)製 V-770型分光光度計 ISN-923型積分球、バンド幅5nm)を用いて測定した。各波長による透過率を平均化した数値を透過率として算出した。また、測定範囲が290~400nmを紫外線、400~800nmを可視光線と定義した。
【0059】
〔反射率〕
実施例等で得られた繊維から、目付60~75g/m2となるように平編みで編み物を
作製した。得られた編み物を2枚重ねて試料とし、分光光度計(日本分光(株)製 V-770型分光光度計 ISN-923型積分球、バンド幅5nm)を用いて測定した。各波長による反射率を平均化した数値を反射率として算出した。また、測定範囲が290~400nmを紫外線、400~800nmを可視光線と定義した。
【0060】
[原料]
実施例等で使用された原料は表1に示す。
表1中の略称の意味は以下のとおりである。
・PET:三井PET J005(商品名、ポリエチレンテレフタレート、三井化学(株)製)
・DX820:TPX DX820(商品名、ポリメチルペンテン樹脂、三井化学(株)製、MFR(260℃、5kg荷重):180g/10分)
・DX310:TPX DX310(商品名、ポリメチルペンテン樹脂、三井化学(株)製、MFR(260℃、5kg荷重):100g/10分)
・ハイトレル:ハイトレル 7247(ポリエチレンテレフタレートエラストマー、東レ・デュポン(株)製)
・酸化チタンマスターバッチ:EX-2504-60K(日本ピグメント(株)製、酸化チタンを60質量%、樹脂(ポリエチレンテレフタレート)を40質量%含むマスターバッチ)
【0061】
[実施例1]
96.9質量部のPET、2.5質量部のDX820、および0.6質量部のハイトレルを、タンブラーを用いて混合し、得られた混合物を二軸押出機(PCM43、(株)池貝製、スクリュー径:43mm、温度:280℃、回転数:200rpm)を用いて溶融混練することで、混合物を得た。混合物をエクストルーダーにて280℃で溶融し、計量ポンプで計量した後、紡糸ブロックに内蔵された紡糸パックに送った。紡糸パック内で濾過した後、紡糸温度290℃にて、吐出して未延伸繊維を製造した。得られた未延伸繊維を、冷却装置によって冷却、固化して、給油装置で油剤を付与した後、第1ゴデットロールを介して1000m/分の紡糸速度で引き取り、第2ゴデットロールを介して95~100℃の条件のもと、3.0倍に延伸した後に、ライン速度3000m/分で巻取機により巻き取って、繊維を得た。
得られた繊維の伸度、破断強度および単糸繊度を上記測定方法により測定した。測定結果を表1に示す。
【0062】
[実施例2~5、比較例1、2]
各成分の種類または配合量を表1に記載されたように変更したこと以外は実施例1と同様にして、繊維を得た。各繊維の測定結果を表1に示す。
【0063】
【表1】
【0064】
実施例1~5で確認された空孔は、連続相と分散相との界面に存在した(すなわち、分散相の中に存在し、連続相と接していた)。