(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023112275
(43)【公開日】2023-08-14
(54)【発明の名称】マッド材
(51)【国際特許分類】
C04B 35/66 20060101AFI20230804BHJP
F27D 3/14 20060101ALI20230804BHJP
【FI】
C04B35/66
F27D3/14 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022013948
(22)【出願日】2022-02-01
(71)【出願人】
【識別番号】000001971
【氏名又は名称】品川リフラクトリーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083172
【弁理士】
【氏名又は名称】福井 豊明
(72)【発明者】
【氏名】後藤 裕樹
【テーマコード(参考)】
4K055
【Fターム(参考)】
4K055AA01
4K055JA15
(57)【要約】
【課題】粘土成分を低減しても良好な滑り性や保形性を示し、耐食性にも優れるマッド材を提供する。
【解決手段】耐火原料と、有機結合剤を配合してなるマッド材において、有機変性粘土鉱物を含有せしめる。前記有機変性粘土鉱物は有機ベントナイトを用いるのが好ましい。また、有機変性粘土鉱物は、前記耐火原料100質量%中に、8質量%以下(ゼロを除く)含む組成とする。これにより、従来の一般的な粘土成分を低減しても良好な滑り性や保形性を示し、耐食性にも優れるマッド材が得られる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐火原料と、タール又はフェノールレジンを配合してなるマッド材において、
有機変性粘土鉱物を含有することを特徴とするマッド材。
【請求項2】
前記有機変性粘土鉱物は有機ベントナイトである請求項1のマッド材。
【請求項3】
前記耐火原料100質量%中に、前記有機変性粘土鉱物を3質量%以下(ゼロを除く)含む請求項1または2のマッド材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高炉出銑孔等の閉塞に用いられるマッド材に関する。
【背景技術】
【0002】
高炉出銑孔等を閉塞するためのマッド材として、例えば、ろう石、シャモット、アルミナ、炭化けい素、カーボンなどの耐火骨材と、粘土成分(耐火粘土)、金属けい素、窒化けい素などの焼結材と、タール、フェノールレジンなどの有機バインダーを配合してなる組成物などが使用されている。
【0003】
ここで粘土成分は、マッド材充填時の滑り性や保形性などに寄与している。しかしながら粘土成分は高炉スラグと反応し、低融点化合物を生成する。従って、粘土成分を多量に使用すると出銑中に出銑孔径が急速に拡大しやすくなる。一方で、粘土成分の配合割合を減少させると、充填機から材料を押し出して出銑孔に充填する際に、押し出すことが困難になったり、押し出すことができなくなったりする。
【0004】
特許文献1は、耐食性に優れ、かつ、充填性、開孔性の良好なマッド材を提供することを目的に、3重量%以下の粘土成分と、2~20重量%のカーボンブラックを含有させたマッド材を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】皆瀬 慎:オレオサイエンス 第14巻第5号(2014)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1は、カーボンブラックを添加することにより、粘土成分の含有量を減らしても、滑り性や保形性などに優れたマッド材が得られるとしている。しかしながら、カーボンブラックは溶銑に溶解しやすいため耐食性が低下する。またカーボンブラックを添加しても、粘土成分を3質量%以下に減らすと依然として滑り性や保形性が劣る問題があった。
【0008】
本発明は上記従来の事情に鑑みて提案されたものであって、粘土成分を低減しても良好な滑り性や保形性を示し、耐食性にも優れるマッド材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、耐火原料と、有機結合剤を配合してなるマッド材に対し、有機変性粘土鉱物を含有せしめたものである。
【0010】
前記有機変性粘土鉱物は有機ベントナイトを用いるのが好ましい。
【0011】
前記有機変性粘土鉱物は、前記耐火原料100質量%中に、8質量%以下(ゼロを除く)含む組成とする。
【発明の効果】
【0012】
上記組成により、従来の一般的な粘土成分を低減しても良好な滑り性や保形性を示し、耐食性にも優れるマッド材が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】押出抵抗力を測定するための試料ホルダーを示す図である。
【
図2】押出抵抗力を測定するための装置の概略図である。
【
図3】マッド材のちょう度と押出抵抗値の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態は、特許請求の範囲に記載された本開示の内容を不当に限定するものではなく、本実施形態で説明される構成のすべてが本開示の解決手段として必須であるとは限らない。
【0015】
本発明は、耐火原料と、有機結合剤を配合してなるマッド材に対し、有機変性粘土鉱物を含有せしめたものである。有機結合剤としてはタールもしくはフェノールレジンが使用される。
【0016】
<有機変性粘土鉱物>
前記有機変性粘土鉱物として、有機ベントナイトが例示される。有機ベントナイトとしては、モンモリロナイトの層表面を4級アンモニウムイオンと反応させた有機変性粘土鉱物が例示できる(非特許文献1参照)。
【0017】
前記有機ベントナイトは未変性ベントナイトと異なり、有機溶媒中で膨潤する特徴を有する。マッド材に有機ベントナイトを添加すると従来の未変性ベントナイトや一般的な粘土成分より少ない量で保形性、滑り性を向上させることができる。その結果、マッド材の耐食性が向上する。
【0018】
有機ベントナイトの添加量は8質量%以下が好ましく、3質量%以下がより好ましい。下限は定めないが、0.1質量%以上が好ましく、0.3質量%以上がより好ましい。有機ベントナイトの添加量をこの範囲にすることによって、従来の一般的な粘土成分を添加せずとも保形性および滑り性が向上し耐食性も向上する。ここで従来の一般的な粘土成分とは、木節(きぶし)粘土、蛙目(がいろめ)粘土、ボールクレー、未変性ベントナイト等をいう。
【0019】
<粘土質原料(有機変性粘土鉱物以外)>
本発明の有機変性粘土鉱物以外の粘土質原料は、耐火原料中10質量%以下とするのが好ましく、3質量%以下がより好ましく、無添加とするのがさらに好ましい。当該粘土質原料を低減することによって、マッド材の耐食性が向上する。
【0020】
<耐火原料>
本発明に係るマッド材に使用される耐火原料の種類は、従来のマッド材に使用される耐火原料と同様である。主材として、例えば、アルミナ質原料、粘土質原料、炭化けい素質原料、窒化けい素質原料、炭素質原料等を用いることができる。
【0021】
また、所望の特性が得られる範囲であれば、閉塞充填時の可塑性をさらに付与するために、カーボンブラック、シリカフューム、粘土質原料等を添加することも可能である。なお、本発明では、後述のように、バインダーの添加量を、バインダーを除く他の原料に対して外掛けで規定するため、便宜上、耐火原料にバインダーは含まないものとする。
【0022】
<アルミナ質原料>
アルミナ質原料としては、Al2O3含有量が80質量%以上のボーキサイト、ばん土頁岩、あるいはAl2O3含有量が95質量%以上の電融アルミナ、焼結アルミナ、仮焼アルミナ等を使用することができる。アルミナ質原料は耐火原料中35質量%以下とすればスラグに対する耐食性が向上する。特に、好ましい範囲は、20~30質量%である。
【0023】
なお、耐食性を確保するために耐火原料としてアルミナ質原料を使用することが好ましいが、耐火原料の配合としてアルミナ質原料無添加を採用することもできる。この場合、アルミナ質原料に代えてシリカ質原料であるろう石、けい石等を使用することができる。また、シリカ質原料は、上述の範囲のアルミナ質原料に加えて、耐火原料に添加してもよい。
【0024】
<炭化けい素質原料>
炭化けい素質原料は必要に応じて使用することができる。炭化けい素質原料の使用は、特に、スラグへの耐食性に有効である。炭化けい素質原料は耐火原料中30質量%以下添加するのが好ましい。30質量%以下とすれば溶銑に対する耐食性が向上する。
【0025】
<窒化けい素質原料>
窒化けい素質原料には、窒化けい素、窒化けい素鉄が挙げられ、どちらか単品、または両方を混合したものを使用することができる。窒化けい素質原料は耐火原料中10質量%以上添加するのが好ましい。窒化けい素質原料を10質量%以上にすると使用時にSiCボンドを形成し強度が向上する。
【0026】
<炭素質原料>
炭素質原料としては、炭素含有量が80質量%以上の石油コークス、石炭コークス、無煙炭、天然黒鉛、人造黒鉛、カーボンブラック等の1種または2種以上を必要に応じて使用することが可能である。
【0027】
<金属粉末>
さらに、強度発現効果を図るため必要に応じて各種金属粉末を添加してもよい。金属源としては、アルミニウム、シリコン、フェロシリコン、チタン、Al-Si合金、二硼化マグネシウム(MgB2)等が適用可能である。尚、後述する表1の実施例では、金属粉末を使用しない例を示した。
【0028】
<バインダー>
バインダー(有機結合剤)はタール類、ピッチ類、フェノール樹脂類などを用いることができる。その添加量は耐火原料に対し外掛けで5~30質量%の範囲が好ましい。また、必要によってはこれらのバインダーに対し、クレオソート等の溶剤を添加することも可能である。
【実施例0029】
以下に実施例及び比較例を示し本発明のマッド材を詳細に説明する。
【0030】
<試験試料>
表1に従い耐火原料配合物を作成した。表1中、配合物AおよびB(比較品)は本発明範囲外であり、従来の粘土成分を含み、有機ベントナイトを含まないものである。配合物C~H(本発明品)は本発明範囲内であり、有機ベントナイトを含むものである。配合物I(比較品)は本発明範囲外であり、従来の粘土成分も有機ベントナイトも含まないものである。配合物J~L(本発明品)は配合物Eをベースに耐火原料の量を変えたもので、いずれも本発明範囲内である。
【0031】
以上の耐火原料配合物を万能ミキサーで3分混練した後、60℃に保温したバインダーを添加して20分混練し、試験試料を得た。試験試料は60℃に保持し、配合物A~Iについては次に示す保形性および滑り性を調査した。また、配合物A、E、J、K、Lについては、表1中、溶損指数で表される耐食性試験を行った。
【0032】
<保形性>
保形性は、JIS R2506「耐火モルタルのちょう度試験方法」に規定されている針入度試験機を使用して評価した。なお、ちょう度値は針が5秒間に侵入する長さを0.1mm単位で測定した数値を10倍した値(無名数)である。ちょう度値が小さいほど保形性に優れると判定した。
【0033】
<滑り性>
滑り性は、当業者が「マーシャル試験」と通称する試験法による押出荷重値で評価した。試験装置と試験方法は次のとおりである。
【0034】
図1は、
図2に示す押出荷重測定装置に使用するステンレス製試料ホルダー1を示ものである。空洞の先端がノズル状になっており、ここで使用した製試料ホルダー1の各部の大きさは(L1=9cm、L2=6cm、L3=26cm、L4=12cm、L5=2cm)である。
【0035】
図2は、前記テンレス製試料ホルダーを使用した押出荷重測定装置を示ものであり、試料押出用面板4に、台座3上に載置された試料を充填した試料ホルダー1をセットする。試料ホルダー1の後端にはシリンダーヘッド2が挿入され、当該シリンダーヘッド2を所定速度で移動させて、試料ホルダー1の先端からの試料の押出荷重値を評価する構成になっている。
【0036】
まず、試料ホルダー1には、60℃で保温した試験試料が充填され、前記シリンダーヘッド2の押出速度を10mm/秒とする。このとき、下部からマッド材を流出させる間に試料押出用面板4に掛かる荷重を連続的に測定し、最大荷重を押出荷重値とする。押出荷重値が小さいほど滑り性に優れると判定する。
【0037】
次に、バインダー添加量の増加に伴う保形性、滑り性の変化を調査した。試験試料混練後さらにバインダーを少量添加し、5分混練後のちょう度値および押出荷重値を測定した。押出荷重値が2kN程度に低下するまで上記操作を繰り返し、ちょう度値および押出荷重値の関係を測定した。その結果を
図3に示す。
【0038】
図3中、比較品である配合物Aは従来の粘土成分を10質量%含むものであり、ちょう度および押出荷重値は小さいが、後述するように耐食性に劣る。同じく比較品である配合物Bは従来の粘土成分を1質量%まで減量したものであるが、ちょう度の変化に対する押出荷重値の変化が大きく、バインダー量調整によるちょう度と押出荷重値の適正化が困難である。
【0039】
本発明品である配合物C~Gはちょう度の変化に対する押出荷重値の変化が小さく、バインダー量調整によるちょう度と押出荷重値の適正化が容易である。本発明品の配合物Hはややちょう度の変化に対する押出荷重値の変化が大きくなっているが、ちょう度と押出荷重値の適正化は可能な範囲である。
【0040】
比較品である配合物Iは押出荷重値を小さくしようとして有機変性粘土鉱物あるいは従来の粘度成分を添加しないようにすると、ちょう度値が大きくなりすぎ、保形性が失われる。
【0041】
以上のことから、本発明品はちょう度の変化に対する押出荷重値の変化が小さい。また、押出荷重値が小さく、ちょう度も小さいので、滑り性、保形性に優れていると評価できる。
【0042】
<耐食性>
試験試料をアムスラー試験機で加圧して所定の形状に成形し、回転ドラム法による耐食性試験を行った。侵食剤には高炉スラグを使用した。試験温度、時間は1550℃×2hとした。試験後試料を切断し、侵食深さを測定した。比較品の試料Aの浸食深さを100とし、溶損指数を求めた。
【0043】
表1からも分るように、保形性と押出荷重値をそろえるため、比較品である試料Aのボールクレー添加量10%に対して、有機ベントナイトの添加量は1%とし、差分はろう石、ばん土頁岩、アルミナ微粉、コークス粉に置き換えた。本発明品はいずれも保形性、滑り性に優れ、耐食性にも優れる結果が得られた。
【0044】
なお、上記のように本実施形態について詳細に説明したが、本開示の新規事項及び効果から実体的に逸脱しない多くの変形が可能であることは当業者には容易に理解できる。したがって、このような変形例はすべて本開示の範囲に含まれる。例えば、明細書において、少なくとも一度、より広義又は同義な異なる用語とともに記載された用語は、明細書のいかなる箇所においても、その異なる用語に置き換えることができる。また、本実施形態の構成も本実施形態で説明したものに限定されず、種々の変形が可能である。
【0045】