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  • 特開-血液浄化材料 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023112280
(43)【公開日】2023-08-14
(54)【発明の名称】血液浄化材料
(51)【国際特許分類】
   A61M 1/36 20060101AFI20230804BHJP
【FI】
A61M1/36 165
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022013956
(22)【出願日】2022-02-01
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小町 駿介
(72)【発明者】
【氏名】高橋 博
(72)【発明者】
【氏名】神田 峻吾
(72)【発明者】
【氏名】山下 恭平
【テーマコード(参考)】
4C077
【Fターム(参考)】
4C077AA09
4C077BB03
4C077CC06
4C077EE01
4C077KK11
4C077MM04
4C077MM06
4C077NN04
4C077NN15
4C077PP02
4C077PP05
4C077PP08
4C077PP12
4C077PP15
(57)【要約】
【課題】血液中の細菌・ウイルス、白血球及びサイトカイン等の炎症性物質を高効率に一括除去できる材料を提供すること。
【解決手段】本発明の血液浄化材料は、水不溶性担体及び該水不溶性担体の表面に結合されたヘパリンを有し、表面における湿潤状態の算術平均粗さ(Ra)が0.60~3.00μmであり、かつ、表面におけるヘパリン密度が5~30μg/cmである。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水不溶性担体及び該水不溶性担体の表面に結合されたヘパリンを有し、
表面における湿潤状態の算術平均粗さ(Ra)が0.60~3.00μmであり、かつ、表面におけるヘパリン密度が5~30μg/cmである、血液浄化材料。
【請求項2】
前記表面における湿潤状態の算術平均粗さ(Ra)が1.31~2.24μmである、請求項1記載の血液浄化材料。
【請求項3】
前記水不溶性担体は、ポリオレフィンを含む、請求項1又は2記載の血液浄化材料。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項記載の血液浄化材料を用いた、炎症性物質除去カラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は血液浄化材料に関する。
【背景技術】
【0002】
これまで、敗血症、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、急性肺傷害(ALI)、全身性エリテマトーデス、関節リウマチ、多発性硬化症、潰瘍性大腸炎、クローン病等の炎症性疾患の治療方法として、体外循環治療が用いられている。
【0003】
炎症性疾患では、体内に侵入した細菌・ウイルスに白血球が応答し、サイトカインを放出、サイトカインが別の白血球を活性化することにより炎症を惹起する。そのため、炎症性疾患を体外循環治療する場合、血液から細菌・ウイルス、白血球及びサイトカインを一括除去することが求められる。
【0004】
体外循環治療に用いることのできる材料としては、例えば、特許文献1には、展開長さ比を制御した、表面に荷電を有する活性化白血球-活性化血小板複合体の除去材料が開示されている。
【0005】
特許文献2には、有害物質を体外除去する装置として、固体基材に固定化された全長ヘパリンを含む装置が開示されている。
【0006】
特許文献3には、中心線平均粗さを制御することで、顆粒球を選択的かつ効率的に吸着可能な除去材料が開示されている。
【0007】
特許文献4には、湿潤状態の算術平均粗さを制御することで、免疫抑制性白血球を選択的に吸着可能な吸着材料が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】WO2018-225764号
【特許文献2】特開2016-198551号
【特許文献3】特開平5-168706号
【特許文献4】WO2019-049962号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
細菌・ウイルス、白血球及びサイトカイン等の炎症性物質が連動して炎症性疾患を引き起こすが、これらはカスケード反応であるため、効率的な炎症性疾患の治療には、これら炎症性物質を高効率に一括除去することが求められる。
【0010】
特許文献1には、白血球、サイトカインの除去に関する記載がある一方で、細菌・ウイルスの除去に関しては記載がない。また、表面に荷電を有する材料として、細菌・ウイルスと親和性の高い官能基(例えば、多糖類等)を導入する着想もない。白血球、サイトカイン、及び細菌・ウイルスは、それぞれ物理的性質や化学的性質が異なるため、除去のメカニズムは同一ではないことが一般的に知られている。
【0011】
特許文献2には、除去対象となる有害物質として、微生物、炎症誘発性細胞及び炎症性タンパク質が記載されている。しかしながら、白血球の除去メカニズムについての記載や白血球の除去性能に関する実施例についての記載はなく、細菌・ウイルス、白血球及びサイトカインの一括除去に関する記載はない。
【0012】
特許文献3には、顆粒球除去に関する記載がある一方で、細菌・ウイルス及びサイトカインの除去に関しては記載がない。
【0013】
特許文献4には、白血球除去に関する記載がある一方で、細菌・ウイルス及びサイトカインの除去に関しては記載がない。また、免疫抑制性白血球を選択的に吸着する材料であることから、炎症性物質である顆粒球や単球の吸着は抑制されていると考えられる。
【0014】
以上のような背景の下、炎症性疾患の患者等の血液中に含まれる細菌・ウイルス、白血球及びサイトカイン等の炎症性物質を高効率に一括除去可能な材料の開発が切望されている。
【0015】
そこで本発明は、細菌・ウイルス、白血球及びサイトカイン等の炎症性物質の全てを高効率で一括除去できる材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、以下の(1)~(4)の発明を見出した。
(1) 水不溶性担体及び該水不溶性担体の表面に結合されたヘパリンを有し、表面における湿潤状態の算術平均粗さ(Ra)が0.60~3.00μmであり、かつ、表面におけるヘパリン密度が5~30μg/cmである、血液浄化材料。
(2) 上記表面における湿潤状態の算術平均粗さ(Ra)が1.31~2.24μmである、(1)記載の血液浄化材料。
(3) 上記水不溶性担体は、ポリオレフィンを含む、(1)又は(2)記載の血液浄化材料。
(4) (1)~(3)のいずれか記載の血液浄化材料を用いた、炎症性物質除去カラム。
【発明の効果】
【0017】
本発明の血液浄化材料は、炎症性疾患の患者等の血液中に含まれる細菌・ウイルス、白血球及びサイトカイン等の炎症性物質を一括除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】抜き取った基準長l(エル(μm))と輪郭曲線、平均線を示す概要図
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の血液浄化材料は、水不溶性担体及び該水不溶性担体の表面に結合されたヘパリンを有し、表面における湿潤状態の算術平均粗さ(Ra)が0.60~3.00μmであり、かつ、表面におけるヘパリン密度が5~30μg/cmであることを特徴としている。
【0020】
「算術平均粗さ(Ra)」とは、JIS B 0601:2001に規格されている表面の平滑性を定量化する指標であり、本明細書においては、血液浄化材料が血液と接触する表面における凹凸状態のことを指す。具体的には、レーザー共焦点光学系であり、二次元走査が可能で、線粗さ解析機能(例:形状解析アプリケーションVK-H1A1/VK-H2A1、キーエンス社製)を備えたレーザー顕微鏡(例:超深度3D形状測定顕微鏡VK-9710、キーエンス社製)を用いて、表面の画像を取り込む。得られた当該画像から位置が異なる10箇所の線分を抜き取り、抜き取った基準長lから算術平均粗さを算出することができる。この操作を異なる3視野の画像でそれぞれ行い、それらの平均値を算術平均粗さ(Ra)とする。図1は、抜き取った基準長l(エル(μm))と輪郭曲線、平均線を示しており、この抜き取り部分の平均線から輪郭曲線までの偏差の絶対値(μm)を合計して平均した値が算術平均粗さであり、その算出方法は下記式1のとおりである。ここで、Raとは算術平均粗さのことであり、f(x)はレーザー顕微鏡画像における任意の位置xにおける表面凹凸形状を表す関数である。なお、本明細書においては、基準長lを20μmとして、算術平均粗さ(Ra)を算出する。
【0021】
【数1】
【0022】
「湿潤状態の算術平均表面粗さ(Ra)」とは、血液浄化材料が水に浸漬した状態で測定した算術平均表面粗さ(Ra)を表す。水に浸漬した状態とは、血液浄化材料の測定部位が水中に存在する状態を指す。
【0023】
「乾燥状態の算術平均表面粗さ(Ra)」とは、血液浄化材料が乾燥した状態で測定した算術平均表面粗さ(Ra)を表す。乾燥した状態とは、血液浄化材料を16時間25℃で乾燥した際に、重量減少率が1%以下である状態を指す。
【0024】
「平均線」とは、JIS B 0601:2001で規定されている通り、輪郭曲線を最小二乗法により直線におきかえた線を指す。
【0025】
「輪郭曲線」とは、図1に示すように、レーザー顕微鏡を用いて測定対象となる材料表面の画像を取り込んだ際の、材料表面の輪郭をなぞった曲線のことであり、測定断面曲線とも言う。
【0026】
血液浄化材料における血液と接触する表面の湿潤状態の算術平均粗さ(Ra)は、凹凸を形成することで血液中の白血球が材料を認識しやすくなることから、0.60μm~.3.00μmである必要があり、0.91μm~2.70μmであることが好ましく、1.31μm~2.24μmがより好ましい。いずれの好ましい下限値もいずれの好ましい上限値と任意に組み合わせることができる。
【0027】
血液浄化材料における血液と接触する表面の乾燥状態の算術平均粗さ(Ra)は、凹凸を形成することで血液中の白血球が材料を認識しやすくなることから、0.30μm~1.30μmである必要があり、0.40μm~1.20μmであることが好ましく、0.60μm~1.00μmがより好ましい。いずれの好ましい下限値もいずれの好ましい上限値と任意に組み合わせることができる。
【0028】
「血液浄化」とは、少なくとも1つの血液中の成分が血液浄化用の材料を用いて吸着、透析又は不活化の少なくとも1つの操作により血液から分離除去された状態を意味する。
【0029】
「水不溶性担体」とは、25℃の水に浸漬した際に、重量変化を起こさない担体を指し、具体的には25℃の水に1時間浸漬させた際の重量変化が5%以下である担体が好ましい。水不溶性担体としては、生体適合性高分子材料であれば特に制限はない。例えば、ポリオレフィン(例えば、ポリエチレン、ポリスチレン及びポリプロピレン)、ポリ(芳香族ビニル化合物)、ポリエステル(例えば、ポリエチレンテレフタレート及びポリブチレンテレフタレート)、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン並びにポリビニルアルコール等の合成高分子材料、及び、セルロース、コラーゲン、キチン、キトサン及びデキストラン等の天然高分子材料、さらに、上記合成高分子材料や上記天然高分子材料にアルキル基、ハロゲン原子、ハロゲン化アルキル基、アセタール基、エーテル基、アミド基又はアミノ基等が付与された誘導体が挙げられ、この中でもポリオレフィンが好ましい。これらの高分子材料の組成は、特に制限はなく、単独重合体、上記高分子材料のモノマーを複数種類用いた共重合体又は複数の上記高分子材料を物理的にブレンドして用いてもよい。
【0030】
上記水不溶性担体の形状に特に限定はないが、フィルム形状、ビーズ形状又は繊維形状が好ましく、体外循環の治療で使用する観点から、比表面積が大きいビーズ形状又は繊維形状がより好ましい。
【0031】
「炎症性物質除去カラム」とは、少なくとも液体入口部、ケース部、液体出口部を有しており、ケース部には炎症性物質を除去可能な血液浄化材料が充填されているものを意味する。
【0032】
「表面に結合されたヘパリン」とは、水不溶性担体の表面にヘパリンが、共有結合、イオン結合、水素結合、ファンデルワールス結合又は疎水性相互作用等で相互作用している状態を表す。血液浄化材料の安定性の観点から、水不溶性担体の表面にヘパリンが、共有結合、イオン結合、水素結合又はファンデルワールス結合により結合していることが好ましく、共有結合又はイオン結合により結合していることがより好ましい。
【0033】
「ヘパリン」とは、ウロン酸とグルコサミンの反復単位を基本とする多糖類である。ヘパリンの分子量に特に制限はなく、未分画ヘパリン、低分子量ヘパリンのいずれも使用することができるが、血液循環においては、未分画ヘパリンは出血の副作用が懸念されるため、低分子ヘパリンを用いることが好ましい。
【0034】
血液浄化材料における表面のヘパリン固定化量は、3-メチル-2-ベンゾチアゾリノンヒドラゾン法(MBTH法)により測定することができる(Risenfeld J, Roden L. Anal Biochem 1990;188:383-389)。
【0035】
血液浄化材料の表面積の測定方法に特に制限はないが、例えば、血液浄化材料が粒子形状や繊維形状の場合は、直径を測定し、表面積を導出することができる。
【0036】
「ヘパリン密度」とは、血液浄化材料における表面のヘパリン固定化量を、血液浄化材料の表面積で除した値である。血液浄化材料における表面のヘパリン密度は、細菌・ウイルス及びサイトカインと相互作用しやすさの観点から、5μg/cm~30μg/cmであることが好ましい。
【0037】
「炎症性物質」とは、炎症を惹起する物質であれば特に制限はないが、血中に含まれる炎症を惹起する物質であることが好ましく、具体的には、細菌・ウイルス、白血球及びサイトカイン等が挙げられる。
【0038】
「細菌・ウイルス」とは、生物学的に細菌及びウイルスとして分類される生物群のことを表す。炎症性疾患の治療を目的とする場合は、炎症性疾患の病因となる細菌・ウイルスが血液中から除去されることが好ましい。
【0039】
「白血球」とは、顆粒球、単球又はリンパ球のことを表す。炎症性疾患の治療を目的とする場合は顆粒球及び/又は単球が血液中から除去されることが好ましい。
【0040】
「サイトカイン」とは、感染や外傷等の刺激により、白血球を始めとする各種の細胞から産生され細胞外に放出されて作用する一群のタンパク質を意味し、インターフェロンα、インターフェロンβ、インターフェロンγ、インターロイキン1~インターロイキン15、腫瘍壊死因子-α、腫瘍壊死因子-β、ハイモビリティーグループボックス-1、エリスロポエチン及び単球走化因子等が挙げられ、特に、インターロイキン6(以下、IL-6)、インターロイキン8(以下、IL-8)、ハイモビリティーグループボックス-1が炎症性疾患の原因物質とされている。
【0041】
本実施形態に係る血液浄化材料は、炎症性疾患を治療する観点から、細菌・ウイルス、白血球及びサイトカイン等の炎症性物質を一括除去することが求められる。そして、炎症性疾患をより効率的に治療する観点から、炎症性疾患の主要原因物質を除去できることが好ましい。すなわち、細菌・ウイルスの中では、黄色ブドウ球菌、大腸菌、レンサ球菌、肺炎球菌、緑膿菌、インフルエンザウイルス又はコロナウイルスを除去できることが好ましく、白血球の中では、顆粒球又は単球を除去できることが好ましく、サイトカインの中では、IL-6又はIL-8を除去できることが好ましい。
【0042】
血液浄化材料の細菌除去性能の評価方法としては、例えば、細菌を含む液体に上記血液浄化材料を含浸し、含浸後に液体中の細菌の減少量を評価し、除去率を算出する方法が挙げられる。また、入口及び出口を有する容器に上記血液浄化材料を充填し、細菌を含む液体を通液させて、入口及び出口でのそれらの濃度の変化から除去率を算出する方法を用いることもできる。含浸及び通液時の温度は、細菌が活動可能な範囲であれば特に制限はないが、血液浄化に使用する観点から、34℃~44℃であることが好ましい。
【0043】
細菌の濃度の測定は、例えば、細菌を含む液体を、細菌の生育に適した培地に入れて培養し、一定時間経過後に、培地内に形成したコロニー数を測定することにより行うことができるため、血液浄化材料に含浸する前の細菌を含む液体と、血液浄化材料に含浸した後の細菌を含む液体を同一条件で培養した培地の培地内に形成したコロニー数を測定することで、細菌除去性能を判断することができる。
【0044】
血液浄化材料の白血球除去性能の評価方法としては、例えば、白血球を含む液体に血液浄化材料を含浸し、含浸後に液体中の白血球の減少量を評価し、除去率を算出する方法が挙げられる。また、入口及び出口を有する容器に上記血液浄化材料を充填し、白血球を含む液体を通液させて、入口及び出口での濃度の変化から除去率を算出する方法を用いることもできる。含浸及び通液時の温度は、白血球が活動可能な範囲であれば特に制限はないが、血液浄化に使用する観点から、34~44℃であることが好ましい。
【0045】
白血球の濃度の測定は、例えば、白血球を含む液体に白血球検出試薬を反応させ、試薬と結合した血球分画を測定することにより行われる。当該測定には、フローサイトメーターや血球計算機を用いることができる。また、白血球の検出には抗CD45抗体を用いることができる。顆粒球の検出には、前方散乱光と側方散乱光を組み合わせてもよいが、抗CD45抗体と側方散乱光を組み合わせてもよく、抗CD45抗体と抗CD66b抗体を組み合わせてもよい。
【0046】
血液浄化材料のサイトカイン除去性能の評価方法としては、例えば、サイトカインを溶解したウシ胎児血清(Fetal Bovine Serum;以下、FBS)に血液浄化材料を含浸し、含浸前後のFBS中のサイトカイン濃度を測定し、含浸前後のサイトカイン濃度からサイトカインの除去率を算出する方法が挙げられる。含浸時の温度は、サイトカインが生理活性をもつ範囲であれば特に制限はないが、血液浄化に使用する観点から、34℃~44℃であることが好ましい。
【0047】
サイトカインの濃度の測定は、例えば、サイトカインを含む液体にサイトカイン検出試薬を反応させ、試薬と結合したサイトカインを測定することにより行われる。当該測定には、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA法)を用いることができる。
【0048】
本実施形態に係る血液浄化材料は、炎症性疾患を治療する観点から、血中の炎症性物質として細菌・ウイルス、白血球及びサイトカインを一括除去することにより、炎症を抑制することが望ましい。
【0049】
血液浄化材料の炎症抑制効果の評価方法としては、例えば、入口及び出口を有する容器に上記血液浄化材料を充填し、細菌・ウイルス、白血球及びサイトカインを含む液体を通液させて、通液後の白血球の活性化度を指標とする方法を用いることができる。
【0050】
白血球の活性化度の測定は、例えば、白血球を含む液体に活性化白血球と特異的に結合する活性化検出試薬(活性化白血球検出試薬/活性化顆粒球検出試薬/活性化単球検出試薬)を反応させ、検出試薬の結合量を測定することにより行われる。結合量の測定には、例えば、フローサイトメーターを用いることができる。
【0051】
活性化検出試薬は、非活性化型の白血球/顆粒球/単球と結合せず、活性化型の白血球/顆粒球/単球と結合性を有するものであり、所望の血球成分に特異的な又は共通の細胞表面マーカーの抗体が挙げられる。活性化検出薬には、例えば、抗CD11b抗体を用いることができ、なかでも、活性化したコンフォメーションを特異的に検出することができる抗CD11b(activated)抗体を用いることで活性化型の白血球/顆粒球/単球を特異的に検出することが可能となる。
【0052】
活性化検出試薬には、結合の確認のための指標が付されているのが好ましい。当該指標は、採用する検出方法に従い、任意に選択される。操作の簡便さや定量性からフローサイトメーターによる測定を用いる。標識された活性化検出試薬は、常法に従い製造できるが、市販品としても入手できる。結合の確認のための指標として蛍光物質を使用する場合、活性化度の指標として、平均蛍光強度を用いることができる。
【0053】
白血球と活性化検出試薬との反応は、採用する活性化検出試薬に応じて適宜設定される。活性化検出試薬が抗体である場合は、通常の免疫反応に従えばよい。活性化検出試薬の反応液は特に限定されないが、所望により、検出反応中の細胞成分の活性化を抑制するのに有効量のアジ化ナトリウムやホルムアルデヒドを含ませてもよい。また、反応温度は、特に限定されないが、細胞成分の活性化を抑制する上で、4℃程度にて行うのが好ましい。
【実施例0054】
以下、本発明の血液浄化材料について、実施例及び比較例により具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
【0055】
(実施例1)
ポリエチレンビーズを75℃のクロム酸混液に4時間浸漬した後、蒸留水で洗浄した。クロム酸混液浸漬後のビーズを過マンガン酸カリウム2g/Lを含む濃硫酸に2分間浸漬し、蒸留水で洗浄した。次に、濃硫酸浸漬後のビーズを、0.005%ポリエチレンイミン水溶液に浸漬し、蒸留水で洗浄した。次に、ポリエチレンイミン浸漬後のポリエチレンビーズを、100mLの酢酸緩衝液に懸濁し、亜硝酸分解ヘパリンを1.7g添加し、15分間反応させた。その後、0.1M酢酸緩衝液に10mg/mLとなるようにシアノ水素化ホウ素ナトリウムを溶解させ、シアノ水素化ホウ素ナトリウム溶液を10mL添加し、24時間反応させた。反応後に蒸留水で洗浄し、風乾させることで、血液浄化材料Aを得た。
【0056】
(実施例2)
クロム酸混液に浸漬する時間を2時間とする以外は、血液浄化材料Aの製法と同操作を行うことで、血液浄化材料Bを得た。
【0057】
(実施例3)
クロム酸混液に浸漬する時間を1時間とする以外は、血液浄化材料Aの製法と同操作を行うことで、血液浄化材料Cを得た。
【0058】
(比較例1)
クロム酸混液に浸漬しない以外は、血液浄化材料Aの製法と同操作を行うことで、血液浄化材料Dを得た。
【0059】
(実施例4)
亜硝酸分解ヘパリンの添加量を5.1gとする以外は、血液浄化材料Aの製法と同操作を行うことで、血液浄化材料Eを得た。
【0060】
(実施例5)
亜硝酸分解ヘパリンの添加量を3.4gとする以外は、血液浄化材料Aの製法と同操作を行うことで、血液浄化材料Fを得た。
【0061】
(実施例6)
亜硝酸分解ヘパリンの添加量を0.8gとする以外は、血液浄化材料Aの製法と同操作を行うことで、血液浄化材料Gを得た。
【0062】
(比較例2)
ポリエチレンビーズを75℃のクロム酸混液に4時間浸漬した後、蒸留水で洗浄した。クロム酸混液浸漬後のビーズを過マンガン酸カリウム2g/Lを含む濃硫酸に2分間浸漬し、蒸留水で洗浄し、風乾することで、血液浄化材料Hを得た。
【0063】
(実施例7)
ニトロベンゼン46g、硫酸46g、パラホルムアルデヒド0.7g及びN-メチロール-α-クロルアセトアミド(以下、NMCA)7.7gを10℃以下で1時間攪拌しNMCA化反応液を調製した。5℃に冷却した40mLのNMCA化反応液に対し、ポリスチレンビーズ1.0gを加え、反応液を5℃に保ったまま2時間攪拌した。その後、反応液からポリスチレンビーズを取り出し、40mLのニトロベンゼンに浸漬し洗浄した。続いてポリスチレンビーズを取り出し、メタノールに浸漬し洗浄を行い、さらに、蒸留水に浸漬し洗浄した。次に、0.005%ポリエチレンイミン水溶液に浸漬し、蒸留水で洗浄した。ポリエチレンイミン浸漬後のポリスチレンビーズを、100mLの酢酸緩衝液に懸濁し、亜硝酸分解ヘパリンを1.7g添加し、15分間反応させた。その後、0.1M酢酸緩衝液に10mg/mLとなるようにシアノ水素化ホウ素ナトリウムを溶解させ、シアノ水素化ホウ素ナトリウム溶液を10mL添加し、24時間反応させた。反応後に蒸留水で洗浄し、風乾させることで、血液浄化材料Iを得た。
【0064】
(実施例8)
パラホルムアルデヒド添加量を0.8gとする以外は、血液浄化材料Iの製法と同操作を行うことで、血液浄化材料Jを得た。
【0065】
(実施例9)
パラホルムアルデヒド添加量を0.9gとする以外は、血液浄化材料Iの製法と同操作を行うことで、血液浄化材料Kを得た。
【0066】
(実施例10)
パラホルムアルデヒド添加量を1.0gとする以外は、血液浄化材料Iの製法と同操作を行うことで、血液浄化材料Lを得た。
【0067】
(実施例11)
パラホルムアルデヒド添加量を1.2gとする以外は、血液浄化材料Iの製法と同操作を行うことで、血液浄化材料Mを得た。
【0068】
(比較例3)
パラホルムアルデヒド添加量を2.0gとする以外は、血液浄化材料Iの製法と同操作を行うことで、血液浄化材料Nを得た。
【0069】
(実施例1の測定)
[血液浄化材料における湿潤状態の算術平均粗さ(Ra)の測定]
血液浄化材料Aを所定時間、水に浸漬し、該血液処浄化材料Aの表面を、レーザー顕微鏡(キーエンス社製;超深度3D形状測定顕微鏡VK-9710)を用いて、対物レンズ100倍の倍率で画像を撮影し、得られた画像の輪郭曲線から基準長lを20μmとして、位置が異なる10箇所で線分を抜き取り、VK-9710搭載の解析ソフトを用いて、線粗さモードにより解析することで、表面における湿潤状態の算術平均粗さ(Ra)を測定した(JIS B 0601:2001準拠)。上記の操作を3視野それぞれで実施して得られた値の平均値から、血液浄化材料Aの表面における湿潤状態の算術平均粗さ(Ra)を得た。結果を表1及び表2に示す。
【0070】
[血液浄化材料における乾燥状態の算術平均粗さ(Ra)の測定]
血液浄化材料Aを25℃、16時間真空乾燥した。乾燥させた該血液処浄化材料Aの表面を、レーザー顕微鏡(キーエンス社製;超深度3D形状測定顕微鏡VK-9710)を用いて、対物レンズ100倍の倍率で画像を撮影し、得られた画像の輪郭曲線から基準長lを20μmとして、位置が異なる10箇所で線分を抜き取り、VK-9710搭載の解析ソフトを用いて、線粗さモードにより解析することで、表面における乾燥状態の算術平均粗さ(Ra)を測定した(JIS B 0601:2001準拠)。上記の操作を3視野それぞれで実施して得られた値の平均値から、血液浄化材料Aの表面における乾燥状態の算術平均粗さ(Ra)を得た。結果を表1及び表2に示す。
【0071】
[血液浄化材料における表面のヘパリン固定化量の測定]
0.5M塩酸0.5mLに血液浄化材料Aを添加し、100℃で4時間反応した。次に、50%亜硝酸ナトリウム水溶液50μLを添加し、10分間反応させた後、12.5%のスルファミン酸アンモニウムを0.5mL添加した。次に、0.95mLの蒸留水を添加した後、0.25%3-メチル―2-ベンゾチアゾリノンヒドラゾン塩酸塩水溶液0.5mLを添加し、37℃で30分間反応させた。次に、0.5%塩化鉄(III)水溶液0.5mLを添加し、37℃で5分間反応させた後に、650nmの吸光度を測定した。別途調製した検量線用のサンプルを用いて、血液浄化材料における表面のヘパリン固定化量を測定した。
【0072】
[血液浄化材料における表面のヘパリン密度算出]
血液浄化材料Aのビーズ100個の直径を走査型電子顕微鏡で測定し、表面積を算出、ビーズ100個の表面積を平均することで、血液浄化材料Aの表面積を得た。次に、血液浄化材料における表面のヘパリン密度を、以下の式2を用いて算出した。結果を表1および表2に示す。

血液浄化材料における表面のヘパリン密度(μg/cm)=血液浄化材料表面のヘパリン固定化量(μg)÷血液浄化材料Aの表面積(cm) ・・・式2
【0073】
[血液浄化材料の細菌除去性能の測定]
血液浄化材料Aの細菌除去性能を測定するため、血液浄化材料Aを充填したカラムに血液に所定時間通液し、通液前後の溶液中の細菌濃度を測定し、細菌除去率を算出した。以下に細菌除去率の測定方法及び算出方法を示す。
【0074】
上下に液体の出入り口のある円筒状カラム(内径1cm×高さ1.2cm、内容積0.94cm、外径2cm、ポリカーボネート製)に、0.5gの血液浄化材料Aを充填した。10mLのリン酸緩衝生理食塩水中に1.0×10CFU/mLとなるように黄色ブドウ球菌を添加し懸濁液を調製した。次に、カラムに37℃に加温した懸濁液を流量1.3mL/minで30分間通液し、カラムの入口側及び出口側での懸濁液を採取した。次に、採取した懸濁液をマンニット食塩寒天培地で37℃、48時間培養することで細菌数を測定し、以下の式3を用いて、細菌除去率を算出した。結果を表1及び表2に示す。

細菌除去率(%)={(カラム入口側の細菌数)-(カラム出口側の細菌数)}/(カラム入口側の細菌数)×100 ・・・式3
【0075】
[血液浄化材料の白血球除去性能の測定]
血液浄化材料Aの白血球除去性能を測定するため、血液浄化材料Aを充填したカラムに血液を所定時間通液し、通液前後の溶液中の顆粒球濃度を測定し、顆粒球除去率を算出した。以下に顆粒球除去率の測定方法及び算出方法を示す。
【0076】
上下に液体の出入り口のある円筒状カラム(内径1cm×高さ1.2cm、内容積0.94cm、外径2cm、ポリカーボネート製)に、0.5gの血液浄化材料Aを充填した。リポポリサッカライドを70EU/mLとなるように添加した健常ヒト血液を37℃、30分間、65rpmで振盪することで血球を活性化させた後、上記カラムに流量1.3mL/minで上記血液を通液し、カラムの入口側及び出口側で血液の採取を行った。カラムの出口側の血液は、カラム内に血液が流入した時点を0分とし、そこから3.5分~6.5分後の間に通液したものを採取した。通液終了後に得られた血液を、血球計算機(シスメックス株式会社;多項目自動血球分析装置 XT-1800i)で測定し、顆粒球の濃度を算出した。血液浄化材料Aの顆粒球除去率を、次に示す式4により算出した。結果を表1及び表2に示す。

顆粒球除去率(%)={(カラム入口側の顆粒球の濃度)-(カラム出口側の顆粒球の濃度)}/(カラム入口側の顆粒球の濃度)×100 ・・・式4
【0077】
[血液浄化材料のサイトカイン除去性能の測定]
血液浄化材料Aのサイトカイン除去性能を確認するため、サイトカインを含む液体に血液浄化材料Aを所定時間含浸して取り出し、含浸前後の溶液中のサイトカイン減少量を測定した。以下に測定方法を示す。
【0078】
血液浄化材料Aをポリプロピレン製の容器に入れた。この容器に、IL-8の濃度が2000pg/mLとなるように調製したFBSを0.5gの血液浄化材料Aに対して30mLとなるように添加し、37℃のインキュベータ内で2時間転倒混和した後、ELISA法にてFBS中のIL-8濃度を測定した。転倒混和前のIL-8濃度から以下の式5によりIL-8除去率を算出した。結果を表1及び表2に示す。

IL-8除去率(%)={転倒混和前のIL-8濃度(pg/mL)-転倒混和後のIL-8濃度(pg/mL)}/転倒混和前のIL-8濃度(pg/mL)×100 ・・・式5
【0079】
[血液浄化材料の細菌、白血球及びサイトカインの一括除去の効果検証]
血液浄化材料Aが細菌、白血球及びサイトカインの一括除去による生じる効果を検証するため、細菌、サイトカインを添加した血液を、血液浄化材料Aを充填したカラムに所定時間循環させ、通液前後の白血球の活性化度を測定した。以下に白血球の活性化度の測定方法及び算出方法を示す。
【0080】
上下に液体の出入り口のある円筒状カラム(内径1cm×高さ1.2cm、内容積0.94cm、外径2cm、ポリカーボネート製)に、血液浄化材料A0.5gを充填した。健常ヒト血液にIL-8(終濃度:2000pg/mL)と黄色ブドウ球菌を添加し、37℃、30分間、65rpmで振盪することで血球を活性化させた後、上記カラムに流量1.3mL/minで上記血液を循環し、循環前と循環後の血液を採取した。採取した血液に蛍光標識抗CD11b(activated)抗体を添加し染色した後、VersaLyseを用いて溶血処理することで、血液サンプルを調製した。調製した血液サンプルは、フローサイトメーターを用いた測定まで、氷冷、暗所にて保管した。その後、フローサイトメーター(BD Cytometer Setup and Tracking Beads(Becton, Dickinson and Company))を用いた測定により顆粒球に結合した蛍光標識抗CD11b(activated)抗体の平均蛍光強度を測定した。顆粒球は、前方散乱光と側方散乱光を組み合わせ分画することで、検出した。結果を表1及び表2に示す。
【0081】
(実施例2及び3、比較例1の測定)
血液浄化材料B~Dについて、実施例1と同様の操作を行い、湿潤状態の算術平均粗さ(Ra)、乾燥状態の算術平均粗さ(Ra)、ヘパリン密度、細菌除去率、顆粒球除去率、IL-8除去率、平均蛍光強度を測定した。結果を表1に示す。
【0082】
【表1】
【0083】
(実施例4~6、比較例2の測定)
血液浄化材料E~Hについて、実施例1と同様の操作を行い、湿潤状態の算術平均粗さ(Ra)、乾燥状態の算術平均粗さ(Ra)、ヘパリン密度、細菌除去率、顆粒球除去率、IL-8除去率及び平均蛍光強度を測定した。結果を表2に示す。
【0084】
【表2】
【0085】
(実施例7~11、比較例3の測定)
血液浄化材料I~Nについて、カラム内の容積を同一にするため、カラムに充填するビーズ量を0.6gに変更した以外は、実施例1と同様の操作を行い、湿潤状態の算術平均粗さ(Ra)、乾燥状態の算術平均粗さ(Ra)、ヘパリン密度、細菌除去率、顆粒球除去率、IL-8除去率及び平均蛍光強度を測定した。結果を表3に示す。
【0086】
【表3】
【0087】
表1~3の結果から、ヘパリン密度が5~30μg/cmであり、湿潤状態の算術平均粗さ(Ra)が0.68μm~2.70μm、又は、乾燥状態の算術平均粗さ(Ra)が0.30μm~1.20μmである実施例1~11は、細菌除去性能、白血球除去性能及びサイトカイン除去性能に優れ、一括除去により比較例1~3に対して白血球の活性化を8分の1以下に抑えることができることが明らかとなった。さらに、湿潤状態の算術平均粗さ(Ra)が1.31μm~2.24μm、又は、乾燥状態の算術平均粗さ(Ra)が0.60μm~1.00μmの材料である実施例1、実施例4~6及び実施例8~10は、比較例1~3に対して白血球の活性化を114分の1以下に抑えることができ、特に顕著な効果があることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明の血液浄化材料は、体外循環において、血中から細菌・ウイルス、白血球、サイトカイン等の炎症性物質を一括除去することができるため、炎症性疾患、特に敗血症やARDSの治療用の体外循環カラムとして利用できる。
図1