(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023112288
(43)【公開日】2023-08-14
(54)【発明の名称】芋焼き器
(51)【国際特許分類】
F24C 7/06 20060101AFI20230804BHJP
【FI】
F24C7/06 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022013968
(22)【出願日】2022-02-01
(71)【出願人】
【識別番号】592181440
【氏名又は名称】株式会社マルゼン
(74)【代理人】
【識別番号】100100413
【弁理士】
【氏名又は名称】渡部 温
(74)【代理人】
【識別番号】100123696
【弁理士】
【氏名又は名称】稲田 弘明
(72)【発明者】
【氏名】石川 智行
(72)【発明者】
【氏名】菅沼 伸浩
【テーマコード(参考)】
3L087
【Fターム(参考)】
3L087AA01
3L087AB11
3L087AC02
3L087CA03
3L087CC01
3L087CC20
3L087DA24
(57)【要約】
【課題】美味しい焼き芋の焼ける、取扱い安い芋焼き器を提供する。
【解決手段】芋焼き器1は、焼き芋を焼く焼成庫7と、庫内に配置された芋を載せるトレイ80と、庫内を昇温する電気式の加熱手段71・81を備える。また、焼成庫内72の下部に配設されたシーズヒーター81、分散した多数の熱気上昇孔79kが形成されている遠赤外線放射性材料からなるヒートプレート79、及び、同プレート上に敷かれた小玉石77、を具備する。さらに、庫内72の上部に配設された遠赤外線ヒーター71を具備する
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼き芋を焼く焼成庫(7)と、
該焼成庫内に配置された、焼かれる芋を載せるトレイ(80)と、
前記焼成庫内を昇温する電気式の加熱手段(71・81)と、
を備える芋焼き器(1)であって、
前記焼成庫(7)の庫内空間の下部に配設された下部加熱手段としての、 シーズヒーター(81)、 該シーズヒーター上に広がる、分散した多数の熱気上昇孔(79k)が形成されている遠赤外線放射性材料からなるヒートプレート(79)、及び、 該ヒートプレート上に敷くように置かれた多数の小玉石(77)、を具備するとともに、
前記焼成庫(7)の庫内空間の上部に配設された上部加熱手段としての、遠赤外線ヒーター(71)、を具備することを特徴とする芋焼き器(1)。
【請求項2】
前記シーズヒーター(81)が、平面視で庫内中心部の周りを囲む線に沿って配置されており、
前記ヒートプレート(79)の熱気上昇孔(79k)が、平面視で庫内中心部には形成されていないことを特徴とする請求項1記載の芋焼き器。
【請求項3】
焼き芋を焼く焼成庫(7)と、
該焼成庫の庫内に配置された、焼かれる芋を載せるトレイ(80)と、
前記庫内を昇温する加熱手段(71・81)と、
前記焼成庫(7)を収容するケーシング(5)と、
焼けた芋Pを保温する、前記焼成庫の上方に配置された保温部(3)と、
を備える芋焼き器(1)であって、
前記焼成庫(7)の外側壁(7j)と、前記ケーシング(5)の外側壁(5b)との間に、空気流路(5f)が形成されており、
前記焼成庫の外側壁(7j)から発する輻射熱により前記空気流路(5f)の空気が加熱されて、前記保温部(3)に導かれることを特徴とする芋焼き器。
【請求項4】
焼き芋を焼く焼成庫(7)と、
該焼成庫内に配置された、焼かれる芋を載せるトレイ(80)と、
該トレイ(80)の下方に配置された、前記焼成庫内を昇温する加熱手段(81)と、
を備える芋焼き器(1)であって、
前記トレイ(80)及び前記加熱手段(81)の下方に広がるように配設された、前記焼成庫の底部において奥手前方向にスライド可能、かつ取り外し可能なゴミ受け(83)をさらに具備することを特徴とする芋焼き器。
【請求項5】
焼き芋を焼く焼成庫(7)と、
該焼成庫を開閉する扉(6)と、
該焼成庫内に配置された、焼かれる芋を載せるトレイ(80)と、
前記焼成庫内を昇温する加熱手段(81)と、
を備える芋焼き器(1)であって、
前記扉(6)の下方に配設された、該扉に付着して落下する露Dを受ける、取り外し可能なシル受け(85)をさらに具備することを特徴とする芋焼き器。
【請求項6】
焼き芋を焼く焼成庫(7)と、
該焼成庫を開閉する扉(6)と、
前記焼成庫内を昇温する加熱手段(71・81)と、
を備える芋焼き器(1)であって、
前記扉(6)は、その下端部が、トルクヒンジ(67)で、閉~半開の範囲で強制回動自在かつ自重回動不能、半開~全開範囲で自重回動可能に軸支されていることを特徴とする芋焼き器。
【請求項7】
さらに、前記扉(6)の閉姿勢において、該扉を前記焼成庫(7)の方向(奥方向)に吸着付勢する磁石(69)が設けられていることを特徴とする請求項6記載の芋焼き器(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、甘くて美味しい焼き芋を焼くことのできる芋焼き器に関する。特には、安全な電気加熱式で、コンビニエンスストアやスーパーマーケットなどに設置されるのに適した芋焼き器に関する。また、清掃容易で扱いやすい、あるいは、均一な焼成が可能、省エネルギー性や保温性に優れる、などの特性を有する芋焼き器に関する。
【背景技術】
【0002】
焼き芋は、古くから、日本の寒い時期において、好んで食べられてきた。高齢の人の中には、落ち葉焚きの際にサツマイモを焼いて食べた経験を持っている人も多いであろう。古くはリアカーに、現代では軽自動車に、石焼き釜を積んで売り歩く焼き芋の移動販売は、そのスピーカーからの「やーきいもー、いーしやーきいもー」という声とともに、冬の風物詩である。
【0003】
移動販売車の石焼き窯の燃料は、昔は薪、近年はガスである。業務用の芋焼き器も、以前はガス燃料のものが多かった。しかし、スーパーマーケットや小型の店舗では、防災上・設備工事上の制約の少ない電気加熱の芋焼き器が、近年、主に用いられている。
【0004】
焼き芋にするサツマイモの品種としては、従来より、「紅あずま」や「鳴門金時」、「安納芋」が多く食されていた。近年では、「シルクスイーツ」や「紅はるか」が人気となっている。特に、「紅はるか」は、ねっとりとした肉質とその甘さが幅広い需要層に受けて、近年のやきいもブームを引き起こした火付け役と呼ばれる品種である。
【0005】
焼き芋の甘さは、次の二つの要因によるといわれている。その第一は、収穫後の貯蔵熟成中に、サツマイモのデンプンが糖化してスクロースなどの遊離糖に変化することである。その第二は、サツマイモの加熱調理中に65~75℃間の温度域で、糖化酵素であるβ-アミラーゼが糊化したデンプンを糖化してマルトースを生成することである。特許文献1には、上記温度帯にラップする「65℃~70℃にて所定時間加熱処理する第1加熱工程と、この第1加熱工程後に調理庫12内を135℃~140℃の過熱水蒸気を用いて所定時間加熱処理する第2加熱工程とを実行する」ことが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
現状の芋焼き器における要改良点として、以下を挙げることができる。
(1)焼成庫内に置いた複数(例えば5、6本)のサツマイモを、均一な条件(温度・時間・遠赤外線を受ける程度など)で、良好で均一な状態(甘さ・香り・ねっとり感・歯ごたえなど)に焼き上げる。
(2)焼き上がり芋の保温における、焼成庫の余熱利用・省エネルギー性・適温保温性の向上。
【0008】
(3)焼成庫と保温部における、断熱性や蓄熱性の向上による、温度の場所的及び時間的な均一性の向上。
(4)清掃容易;芋から滴る蜜やイモの皮のカスが焼成庫の底に溜まるのを、容易かつ少ない手間で清掃できる。
(5)特にコンビニエンスストアの多数の店舗においてアルバイトさんが芋焼き器を取り扱う場合を想定し、取扱いしやすくするとともに、安全への配慮を行き届かせる。
【0009】
本発明は、上記の要改良点に対応した、美味しい焼き芋の焼ける、取扱い安い芋焼き器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この「課題を解決するための手段」、及び、「特許請求の範囲」においては、添付図各部の参照符号を括弧書きして示すが、これは単に参考のためであって、権利範囲を添付図のものに限定する意図はない。
【0011】
本発明の第一の芋焼き器(1)は、 焼き芋を焼く焼成庫(7)と、 該焼成庫内に配置された、焼かれる芋を載せるトレイ(80)と、 前記焼成庫内を昇温する電気式の加熱手段(71・81)と、 を備え、 前記焼成庫(7)の庫内空間の下部に配設された下部加熱手段としての、 シーズヒーター(81)、 該シーズヒーター上に広がる、分散した多数の熱気上昇孔(79k)が形成されている遠赤外線放射性材料からなるヒートプレート(79)、及び、 該ヒートプレート上に敷くように置かれた多数の小玉石(77)、を具備するとともに、 前記焼成庫(7)の庫内空間の上部に配設された上部加熱手段としての、遠赤外線ヒーター(71)、を具備することを特徴とする。
【0012】
本芋焼き器(1)で焼く物は、サツマイモが代表的であるが、それに限定されない。トウモロコシ、ジャガイモなども焼ける。以下の説明では、サツマイモ(芋)を、焼く物の代表例として説明する。
【0013】
芋Pは、小玉石(77)上に並べて置かれる。そして、芋は、上からは遠赤外線ヒーター(71)からの遠赤外線を受け、下からは小玉石及びヒートプレート(79)からの遠赤外線を受ける。これにより、芋の水分を保ちながら、芋をしっとり美味しく焼き上げることができる。すなわち、遠赤外線は、食材に対する熱の浸透性が高いため、表面近くの局所的な集中加熱が起きにくく、集中加熱に起因する水分の蒸発を抑えられる特性がある。よって、いわゆる「じっくり焼成」、「中はジューシーで、外はこんがり」した良好な焼成状態が実現できる。
【0014】
シーズヒーター(81)は比較的安価で、様々な仕様(材質・温度条件)の市販品を入手できる。一般的な焼き調理に用いるものの場合、表面温度を500~600℃程度に昇温可能な、シースがステンレス鋼製で(芋から垂れる蜜に対して耐食性がある)、発熱体がニクロム線の一般的なシーズヒーターを使用できる。
【0015】
ヒートプレート(79)は、熱放射性の高い耐食性のある材質のものが好ましい。例えば、酸化アルミニウムの表面層を有する溶融アルミニウムメッキ鋼板が、経済性の観点も含めて好ましい。熱気上昇孔(79k)の寸法や配置の例については、発明の実施の形態で説明する。ヒートプレート(79)は、「素早い熱伝導」と、熱気上昇孔(79k)の「熱の抜け穴効果」で、同プレート上の小玉石(77)を効率良く均一に加熱する。
【0016】
焼成庫(7)内の芋Pを置く空間の均熱性を向上させる観点からは、 上記芋焼き器(1)においては、前記シーズヒーター(81)が、平面視で庫内中心部の周りを囲む線に沿って配置されており、 前記ヒートプレート(79)の熱気上昇孔(79k)が、平面視で庫内中心部には形成されていないことが好ましい。均熱性のデータについては、
図10を参照しつつ後述する。これにより、焼成庫庫内の周辺部を十分に昇温するとともに、中心部の過昇温を防止して、庫内温度の均一化を図ることができる。
【0017】
小玉石(77)は、角の取れた石で、その上に置いた芋Pを傷付けない。寸法は、10mm~30mmで、種類は遠赤外線放射性が高く、割れて飛び散りにくい那智黒石が好ましい。小玉石は、加熱されて遠赤外線を放射するとともに、蓄熱効果により、冷めにくく安定した加熱状態を維持することができる。また、小玉石から発する「均一な遠赤外線」で、焼きムラなく芋をじっくり焼き上げることができる。
【0018】
遠赤外線ヒーター(71)は、上から、芋に直接遠赤外線を照射する。熾火(おきび)のような柔らかい遠赤外線で、芋を美味しく焼き上げることができる。遠赤外線ヒーター(71)の上方には、反射板(72)を設けて、遠赤外線を乱反射させ庫内全体を照射することが好ましい。また、遠赤外線ヒーター(71)の下方には、保護金網(73)を設置することが好ましい。これにより、芋を挟んで取り扱うトング(
図9(A)参照)で遠赤外線ヒーターに傷付けるのを防止できる。
【0019】
本発明の第二の芋焼き器は、 焼き芋を焼く焼成庫(7)と、 該焼成庫の庫内に配置された、焼かれる芋を載せるトレイ(80)と、 前記庫内を昇温する加熱手段(71・81)と、 前記焼成庫(7)を収容するケーシング(5)と、 焼けた芋Pを保温する、前記焼成庫の上方に配置された保温部(3)と、を備え、 前記焼成庫(7)の外側壁(7j)と、前記ケーシング(5)の外側壁(5b)との間に、空気流路(5f)が形成されており、 前記焼成庫の外側壁(7j)から発する輻射熱により前記空気流路(5f)の空気が加熱されて、前記保温部(3)に導かれることを特徴とする。
【0020】
焼成庫(7)の庫内からの輻射熱(余熱)を利用し、効率良く保温部に熱を流用する。このため、保温部(3)独自のヒーターは不要であり、省エネとなり、ランニングコストを削減できる。保温部(3)及びその加熱構造の具体例については、
図4を参照しつつ後述する。
【0021】
本発明の第三の芋焼き器は、 焼き芋を焼く焼成庫(7)と、 該焼成庫内に配置された、焼かれる芋を載せるトレイ(80)と、 該トレイ(80)の下方に配置された、前記焼成庫内を昇温する加熱手段(81)と、を備え、 前記トレイ(80)及び前記加熱手段(81)の下方に広がるように配設された、前記焼成庫の底部において奥手前方向にスライド可能、かつ取り外し可能なゴミ受け(83)をさらに具備することを特徴とする。
【0022】
本発明の第四の芋焼き器は、 焼き芋を焼く焼成庫(7)と、 該焼成庫を開閉する扉(6)と、 該焼成庫内に配置された、焼かれる芋を載せるトレイ(80)と、 前記焼成庫内を昇温する加熱手段(81)と、を備え、 前記扉(6)の下方に配設された、該扉に付着して落下する露Dを受ける、取り外し可能なシル受け(85)をさらに具備することを特徴とする。
【0023】
芋Pの焼成時に垂れる蜜や焼き焦げカスは、焼成庫の底のゴミ受け(83)で一括回収する。ゴミ受けは、奥手前方向にスライド可能かつ取り外し可能なので、取り外して水洗いなどできる。ゴミ受け(83)及びシル受け(85)の具体的構造については、
図5・6を参照しつつ説明する。
【0024】
扉(6)から垂れた結露水は、シル(露)受け(85)でキャッチする。扉(6)は、開いたときに室内雰囲気で冷却されるので、温度が低下しやすい。そして、扉を閉めたときに、芋の水分蒸発で高湿となっている庫内空気中の水分が、扉表面に結露しやすい。この結露が扉から下に垂れると、芋焼き器が設置されているお店のカウンター周りを汚してしまう。シル受け(85)を有する芋焼き器では、そのような汚れは生じず、お店を清潔に保てる。溜まったシルは、シル受けを芋焼き器から外して、流しなどに捨てることができる。
【0025】
本発明の第五の芋焼き器は、 焼き芋を焼く焼成庫(7)と、 該焼成庫を開閉する扉(6)と、 前記焼成庫内を昇温する加熱手段(71・81)と、を備え、 前記扉(6)は、その下端部が、トルクヒンジ(67)で、閉~半開の範囲で強制回動自在かつ自重回動不能、半開~全開範囲で自重回動可能に軸支されていることを特徴とする。
【0026】
上記芋焼き器(1)においては、 さらに、前記扉(6)の閉姿勢において、該扉を前記焼成庫(7)の方向(奥方向)に吸着付勢する磁石(69)が設けられていることが好ましい。
【0027】
この態様の芋焼き器においては、扉(6)が緩やかに開く安全機構としての、トルクヒンジ(67)が設けられている。トルクヒンジがないと、扉のハンドルを手で引いたときに、扉が勢いよく全開となると、操作者に熱気・蒸気がどっと当たる。また、勢いよく扉(6)がドンと下に落ちるように扉が開かれると、人の体に扉が衝突し、打撃を与えるおそれがある。トルクヒンジ(67)は、このような好ましくない事態を防止する。
【0028】
扉(6)を焼成庫(7)の方向(奥方向)に吸着付勢する磁石(69)(「マグネットキャッチ」)は、扉を閉状態でしっかり固定する。稀なことではあるが、芋が、焼いている間に破裂することがある。そのとき、扉が勢いよく開くと、人(店員さん)の体に当たって、ケガをしたり、持っているものを落としたりするおそれある。マグネットキャッチ及び/又はトルクヒンジで、扉(6)の、意図しない急開きを防止している。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、美味しい焼き芋の焼ける芋焼き器、あるいは、取扱いやすく安全な芋焼き器、さらにその他の特長を有する芋焼き器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】本発明の実施の形態に係る電気芋焼き器1の全体構成を示す側面図である。
【
図3】
図1の芋焼き器1のヒートプレート79の平面図である。
【
図4】
図1の芋焼き器1の保温部3及びその加温構造(焼成庫余熱の利用機構)の詳細を説明するための図である。
図4(A)は、保温部3全体の側面図である。
図4(B)は、余熱の利用機構の作用を説明するための、模式的な拡大断面図である。
【
図5】
図1の芋焼き器1におけるゴミ受け83及びシル受け85の構造を示す側面断面図である。
【
図6】
図6(A)は、
図5の芋焼き器のゴミ受け83を取り外した状態の斜視図である。
図6(B)は、
図5の芋焼き器のシル受け85を取り外した状態の斜視図である。
【
図7】
図1の芋焼き器1の焼成庫7の扉6の詳細を説明するための図であって、(A)は側面断面図、(B)は開状態の斜視図である。
【
図8】
図1の芋焼き器1の芋載せトレイ80の引出し構造を説明するための側面図である。
【
図9】
図8の芋載せトレイ80の引出し構造を説明するための斜視図である。
図8(A)は、トレイ80をトング171で引き出そうとしている状態であり(芋は載っておらず)、
図8(B)は芋Pが載っている状態である。
【
図10】ヒートプレート79における熱気上昇孔79kの分布が異なる場合における、ヒートプレート・小玉石上の温度分布の比較データである。
【符号の説明】
【0031】
1;芋焼き器、3;保温部、34;内部、37;小玉石
38;保温板、38d;通気孔、38f;空気通路、38h;下向きリブ、381;壁板
39;扉、39b;ヒンジ、39z;開閉ツマミ、41;ヒートプロテクタ
5;ケーシング、5b;外側壁(奥側板、化粧側板)、5f;空気流路(側面空気流路)
5g;ルーバー、5j;上面空気流路、5s;前端面、 5t;手前側部、5x;手前側下部
5z;扉開口上部
51;集熱プレート、51b;バーリング孔、51j;奥側部分、51m;垂下部
6;扉、61;ハンドル、62;断熱層、63;断熱ブロック、
65;扉フレーム、65b;前プレート、65d;ブラケット、65g;側板、
67;トルクヒンジ、69;磁石(マグネットキャッチ)
7;焼成庫、7b;庫内天井、7b´;側板、7c;ブラケット、7d;上板、7g;断熱層、
7j;外側壁(奥側板)、7v;スロープ庇、7x;中空箱梁、7z;底板
71;遠赤外線ヒーター(加熱手段)、72;庫内、73;保護金網、74;反射板、
75;スライダ、75g;スライダ下面、75k;移動ローラ、751;前縁部材
76;固定レール、76b・76f;案内レール面、76j;固定ローラ
77;小玉石、79;ヒートプレート、79k;熱気上昇孔、
80;トレイ、81;シーズヒーター(加熱手段)、81b;端部
83;ゴミ受け、83b;ツマミ、83c;上手前平帯部、83f;ゴミ受けパン、83h;堤壁
85;シル受け、85b;壁辺、85f;底面、85j;壁辺、85p;端片、85q;孔、85s;壁辺、
91;操作パネル、93;電装部、171;トング
【発明の実施の形態】
【0032】
以下、添付図を参照しつつ、本発明の実施形態を説明する。各図において矢印で示す各方向の「上」・「下」は地球重力に沿う方向である。「手前」は、焼成庫扉6や操作パネル91の正面の、操作者(コンビニやスーパーの店員さんなど)が立つ側である。「奥」は、操作者から見て遠い方向(焼成庫1の奥の方)である。「左」・「右」は、操作者が芋焼き器1に向かって見た左右の方向である。
【0033】
まず、本発明の実施の形態に係る芋焼き器1の全体構成を、その側面図である
図1、及び、正面図である
図2を参照しつつ説明する。この実施例の芋焼き器1は、焼成庫7内にいて、Lサイズのサツマイモを5,6本焼ける、主にコンビニエンスストア向けの、比較的小型のものである。
この芋焼き器1は、大きく分けて、以下に述べる、本体ケーシング5、焼成庫7、保温部3、操作パネル91・電装部93から構成されている。
【0034】
本体ケーシング5は、ステンレス鋼板製(一例)の、全体として四角い箱であって、その内部には焼成庫7が配置されている。焼成庫7の奥面・上面・下面・左右側面には、断熱層7g(セラミックウール・ボード製)が貼られている。焼成庫7の内部には、その上部に遠赤外線ヒーター71が、その下部にシーズヒーター81が設けられていて、庫内72は、200~300℃程度まで昇温可能な空間となっている。これら焼成庫7の加熱機構の詳細は後述する。
【0035】
焼成庫7の手前側には、開閉可能な扉6が設けられている。焼成庫7内の下部(シーズヒーター81の上)には、焼いて調理する芋Pを載せるトレイ80が、手前奥方向にスライド可能に設けられている。扉6の詳細については
図7を参照しつつ後述する。トレイ80の引き出し機構の詳細については、
図8を参照しつつ後述する。
【0036】
保温部3は、焼成庫7の上方の本体ケーシング5の上に搭載されている。保温部3は、焼成庫7で焼きあがった芋Pを、保温しつつ置いておく場所である。この保温部3に焼きあがった芋を貯めておくことにより、焼き芋の販売のピーク対応能力を高めている。保温部3の側壁(四面)及び上面は、透明なケース34からなっており、中の焼き芋がよく見えて、お客さんの購買を促す。また、保温部3は、内部の焼き芋を70℃前後のβ―アミラーゼ活性域の温度に保ち、焼き芋の糖度を増す作用もある。保温部3の詳細及びその加温機構(焼成庫余熱利用機構)については、
図4を参照しつつ後述する。
【0037】
操作パネル91は、焼成庫扉6の下方の手前面に配置されている。この操作盤パネル91を操作者が操作して、焼成庫7の温度などを調整する。操作パネル91の奥、焼成庫7の下方は、電装部93となっており、同部にはヒーター電源や制御基板などの電装品が収容されている。
【0038】
次に、焼成庫7の加熱手段の詳細について説明する。焼成庫7の庫内72の上部には、棒状の遠赤外線ヒーター71が、左右方向に延びるように、奥手前方向に二本、平行に並べられている。同ヒーター71の左右端部は、庫内天井7b(ステンレス鋼薄板)の左右端部から釣り下がるブラケット7cに保持されている。この例の芋焼き器1に装備する遠赤外線ヒーター71の出力は300W、二本合計で600Wである。
【0039】
遠赤外線ヒーター71は、石英管内にカーボンフィラメントを封入したものである。同ヒーター71の上の庫内天井には、反射板74(一例でステンレス鋼の鏡面加工板)が貼られている。同反射板74は、ヒーター71から上や斜め上に放射される遠赤外線を下方に(芋Pに向けて)反射している。また、同ヒーターを、庫内72において芋を挟んで取り扱うトング(
図9の符号171参照)が当たらないよう保護するため、ヒーター71の下面は保護金網73がカバーしている。保護金網73は、一例で、ステンレス鋼線のメッシュである。
【0040】
遠赤外線ヒーター71は、芋Pに、上から直接、遠赤外線を照射する。同ヒーターから発する熾火(おきび)のような柔らかい遠赤外線、及び、小玉石77の発する遠赤外線(詳細は次述)により、芋を美味しく焼き上げることができる。
【0041】
次に、焼成庫7の下部の加熱構造について説明する。この実施形態の芋焼き器1においては、芋Pを焼く庫内空間の下方に配設された下部加熱手段としての、シーズヒーター81と、該シーズヒーター上に広がる、多数の熱気上昇孔79kが分散形成されたヒートプレート79と、該ヒートプレート上に敷くように置かれた多数の小玉石77と、を具備する。
【0042】
シーズヒーター81は、この例では、シーズ(保護管)材質SUS304、ヒーター線ニクロム線の、一般的な経済的を有するものである。最高仕様温度は800℃以上のものも存在するが、サツマイモを焼く用途のものは550℃程度に昇温される。なお、シーズ材質の化学的特性としては、焼かれる芋から垂れる蜜に対する、前記温度における耐腐食性は良好である。
【0043】
シーズヒーター81の平面形状は、
図3に示すように、略キノコ型(上下反転)である。ヒーター81の端部81bは、
図2に示すように、焼成庫7の下部の右側壁及び右側断熱層7gRを貫通して焼成庫7内に挿入されている。そして、焼成庫7内において、
図3に示すように、奥手前方向に湾曲して張り出し、ヒートプレート79の奥手前部を左方向(
図2の下方向)に延び、ヒートプレート79の左辺の手前部を奥手前方向に延びている。
【0044】
このようなシーズヒーター81の定量的・具体的な平面形状、並びに、ヒートプレート79の熱気上昇孔79kの配置(次述)は、焼成庫7内温度をできるだけ均一にするために、テストを行って決定する。温度データの例については、
図10のグラフを参照しつつ後述する。
【0045】
ヒートプレート79は、
図1・2に示すように、シーズヒーター81の上部において、焼成庫7の下部のほぼ全面に広がるように配置されている。ヒートプレート79は、
図3に見られるように、長方形の平たい部材である。同プレート79は、この例では、酸化アルミニウムの表面層を有する鋼板、例えば溶融アルミニウムメッキ鋼板の日本製鉄製「アルシート」である。同「アルシート」は、表面が酸化アルミニウム層となっており、耐食性・耐汚れ性が高い。また、表面は、約450℃以下でほぼ80%の反射率である。
【0046】
同プレート79の四辺は折り返しとなっており、曲げ強度を高めている。同プレート79の左右・手前奥の四辺は、
図2に示すように、引出トレイ80のスライダ75の上に載っている。同プレート79は、スライダ75とともに引出し可能である(
図8・
図9を参照しつつ後述)。結局のところ、ヒートプレート79は、熱特性・遠赤外線放射特性を発揮する部材であると同時に、小玉石77や、焼かれる芋Pを支える構造部材である。
【0047】
ヒートプレート79には、平面視で丸い孔(熱気上昇孔)79kが多数開けられている。孔79kは、孔径3~10mm、例えば5mmである。孔79kの分布は、一例で、孔ピッチ7mm、千鳥模様(中心ズレ)である。同プレート79の孔79kは、
図3に示すように、庫内中心(央)部には開けられていない。孔79kのない中心部分は、例えば、中央の幅×長さが1/3~1/5程度である。同プレート79の孔79kのない範囲は、4辺の直近の部分、及び、上記中心部分である。
【0048】
ヒートプレート79の熱気上昇孔79kのある領域のほぼ真ん中に沿って、上記のシーズヒーター81が、庫内中心の周りを囲むように配置されている。このように構成することにより、焼成庫7の中央部の過昇温を防止するとともに、焼成庫の周辺部を十分に昇温し、焼成庫の均一加熱を図っている(データ例は
図10を参照しつつ後述)。
【0049】
ヒートプレート79の上には、小玉石77や、その上の芋Pが載る。ヒートプレート79の上記の多数の熱気上昇孔79kを通って、下のシーズヒーター81からの熱気を上昇させ、焼成庫7内を昇温する。さらに、ヒートプレート79自体が熱線の放射性に優れるものとなっており、小玉石77を介して、あるいは直接に、遠赤外線を多く含む熱線で、芋Pを加熱する。すなわち、ヒートプレート79は、「素早い熱伝導」と「熱の抜け穴効果」で、小玉石を効率良く均一に加熱する。
【0050】
小玉石77は、角の取れた丸い(表面が局面の)石である。角がないので、上に置くイモが傷付かない。寸法は、10mm~30mm程度が、異形のサツマイモの各部を傷付けずに保持しやすいので使いやすい。小玉石の種類は、那智黒石や、黒玉で滑らかな表面形状のものが好ましい。また、加熱されたときに遠赤外線を多く放射し、高温でも割れて飛び散らないものが好ましい。小玉石は、蓄熱作用もあり温度降下が少ないため、庫内温度の変動を少なくし、安定した加熱効果を発揮する。
【0051】
本実施形態の芋焼き器1は、サツマイモPを、下からは小玉石77及びヒートプレート79から発する「均一な放射熱と遠赤外線効果」により、上からは遠赤外線ヒーターで、焼きムラなく、イモの水分を保ちながら、しっとり美味しく焼き上げることができる。
【0052】
次に、
図4を参照しつつ、
図1の芋焼き器1の保温部3、及び、その加熱構造(焼成庫7余熱の利用機構)の詳細を説明する。
図4(A)は全体側面図であり、
図4(B)は焼成庫7の余熱の利用機構の模式的な拡大断面図である。
【0053】
この芋焼き器1においては、焼き芋を焼く焼成庫7の上方に、保温部3が設置されている。焼成庫7は、ケーシング5内に配置されている。焼成庫7の内部には、庫内を昇温する加熱手段71を備える。そして、特徴的な構成として、焼成庫7の外側壁7jと、ケーシング5の外側壁5bとの間に、空気流路5fが形成されており、焼成庫の外側壁7j(断熱層7gの外側)から発する輻射熱により空気流路5fの空気が加熱されて、保温部3に導かれるようになっている。すなわち、焼成庫7の余熱で保温部3を加温するようになっている。
【0054】
保温部3は、透明樹脂からなるケース32を有する。ケース32は、全体として四角い箱状であり、ケーシング5の上に載っている。保温部ケース32の上部には、保温部3内を明るくするLED照明31が取り付けられている。保温部ケース32は、後述する保温板38の上方空間を覆い、焼けた芋Pを保温・展示する空間を形成している。
【0055】
この実施形態の芋焼き器1においては、保温部3の保温スペースの平面面積は、焼成庫7(トレイ80)の平面面積の約1.8倍と、広くなっている。そして、Lサイズのサツマイモ8~10本を保温部3に収容可能である(焼成庫7に収容可能なのは5,6本)。焼成庫7で芋を焼き上げるには約1時間かかるので、保温部3の保温芋数を多くして、需要のピークタイム(昼食時、夕食前)における販売可能数量を多くすることを意図している。
【0056】
保温部ケース32の手前側には、扉39が、開閉可能に設けられている。扉39も透明樹脂製である。扉39の手前側面の下部には、開閉ツマミ39zが設けられている。扉39の上端部には、摩擦係止域を有するヒンジ39bが設けられている。このヒンジ39bにより、扉39は、その上端部を中心にして、上下回動可能である。
【0057】
ヒンジ39bの摩擦係止特性について説明する。扉39の上開き限から、上限から下方に角度50°の間の領域は、開閉ツマミ39zから手を離すと、扉39は、現在位置で摩擦係止される。その下の、角度120°の回動域は、扉39は、自重回動可能であり、手を離すと自然に閉じる。このような摩擦係止特性を有する(言わば「任意ストッパー」付きの)保温扉39を採用することで、保温庫内からの焼き芋の取り出しが、安全に、容易に行うことができる。また、保温庫に扉を採用したことで、保温部3内の保温性の向上と、保温中の芋の乾燥の低減を図れる。
【0058】
保温部3のケース32内の底部(焼成庫7の上方)には、保温板38(保温トレイ)が底のほぼ全面に広がるように設けられている。保温板38の上には、小玉石37が敷かれている。保温板38は、一例でSUS304の板である。保温板38には、全面に分散した通気孔38dが開けられている。通気孔38dの寸法例は、巾6mm×長さ50mmの長孔である。長孔となっているのは、上に載る小玉石で塞がれないためである。小玉石37は、焼成庫7の小玉石77と同様のものである。小玉石37は、蓄熱性があり、保温部3の扉39を開閉したときにも、保温部3内の温度低下を抑制する作用・効果もある。
【0059】
焼成庫7は、
図4(B)に示すように、庫内72の周り(上・奥・左右)の天井板7bや側板7b´、及び、その外側の断熱層7gを有する。断熱層7gの外側には、奥側板7jや上板7dが貼られている。奥側板7jの外側(奥側)は、空気流路5fを隔ててケーシング5の奥側板(化粧側板)5bが対向している。
【0060】
ケーシング奥側板(化粧側板)5bには、多数のルーバー5gが開けられている。ルーバー5gは、上細・上開きの略楕円形であり、ケーシング5内外の空気は連通している。
【0061】
空気流路5fには庫内72から輻射(放射)熱が伝わり、同空気流路5fは負圧気味となる。この負圧気味になった空気流路5fに、ルーバー5gから、ケーシング5外の空気(店内大気)が流れ込み、上昇気流が生じる(煙突効果)。この加温された空気流路5f内の気流は、ケーシング側板(化粧板)の内側=焼成庫の外側を回って上昇し、下述する構造の通路を通って保温部3に入る。これにより、焼成庫7の余熱を保温部3の加温に利用し、省エネ・省電気を実現している。
【0062】
また、空気流路5fは、ケーシング5の側板を冷却する(空気断熱の)作用・効果も果たす。すなわち、焼成庫7の奥側板7jは約100℃であるが、空気流路5fにはルーバー5g から入って流れる気流が存在するため、外側壁(化粧側板)5bは冷却されて40℃以下となる。これにより、芋焼き器の化粧側板に人が触れても、火傷しないようになっている。
【0063】
ここで述べた空気流路5fの構造と作用(加温空気の上昇⇒保温部3の加温・化粧側板の冷却)は、説明した焼成庫7・ケーシング5の奥側の側壁以外の、左右側壁においても同様である(
図2参照)。
【0064】
次に、焼成庫7の外側の側面空気流路5fから、保温部3内に加温空気が導かれる構成について説明する。その加温空気導入の経路は、側面空気流路5f⇒上面空気流路5j⇒集熱プレート51のバーリング孔51d⇒保温板38の通気孔38d⇒小玉石37⇒保温部3の内部34、である。
【0065】
集熱プレート51は、焼成庫7の上板7dの上方に、ある間隔(上面空気流路5j)をおいて広がっている。集熱プレート51の奥側部分51jは、側面(背面)空気流路5fの上部に張り出している。同奥側部分51jの端部は、側面空気流路5fに垂下する垂下部51mとなっている。この集熱プレート51の奥側部分51j・垂下部51mと、焼成庫7の側壁7j・上板7dとの間の上面空気流路5jに、側面空気流路5fから加温空気(熱気)が導入される。
【0066】
集熱プレート51の焼成庫7上の部分(下面の大半)には、多数のバーリング孔51dが開けられている。同バーリング孔51dは、断面が上細の円錐台状である。この集熱プレート51のバーリング孔51dを、保温部3に向かう上昇気流が通り(吹き上がり)、熱気を集中的に保温部へ送り込む。バーリング孔51dの寸法例は、径9mm、ピッチ50mm、バーリングの盛り上がり高さ3mmである。
【0067】
集熱プレート51の上方には、保温板38が、ある間隔(空気通路38f)を隔てて、対向して配置されている。保温板38の上には、小玉石37や芋Pが載る。保温板38の四辺は、下向きリブ38hが形成されており、保温板38の強度・剛性を高めている。保温板38の外側には、壁板381が立設されており、保温板38の四周を囲んでいる。
【0068】
保温板38には多数の通気孔38dが分散して開けられている。この通気孔38dを通って熱気が上昇する。保温板38の通気孔38dの平面視の位置は、集熱プレート51のバーリング孔5gの平面視の位置と食い違っている。そして、バーリング孔5gから吹き上がった熱気は、空気通路38fを横に流れて、保温板38の通気孔38dから上がる(保温部内34に入る)。上記のように保温板38の通気孔38dと集熱プレート51のバーリング孔51dの平面視位置が食い違っているのは、空気通路38f内において空気の混流を生じさせ、保温部3に入る熱気の場所的温度分布を均一化するためである。
【0069】
以上説明した構成により、焼成庫7からの輻射熱を利用し、効率良く保温部3に流用することを実現できた。具体的な各部温度の一例は、焼成庫内温度200℃、保温部内温度65℃である。すなわち、保温部3(陳列スペース)は、焼成庫7の余熱を利用した省エネ構造となっており、保温部3用の保温ヒーターは不要であり、ランニングコストを削減できる。なお、65℃の温度帯は、焼き芋の酵素β-アミラーゼが活性化しやすい温度でもあり、保温時の甘み成分向上の一助にもなる。
【0070】
次に、
図5・
図6を参照しつつ、本実施形態の芋焼き器1におけるゴミ受け83及びシル受け85の構造を説明する。
図5は、同構造の側面断面図である。
図6(A)は、ゴミ受け83を取り出した状態の斜視図であり、
図6(B)は、シル受け85を取り外した状態の斜視図である。
【0071】
ゴミ受け83は、焼く芋Pを載せるトレイ80や、加熱手段(シーズヒーター)81の下方(焼成庫7の底部)に広がるように配設されている。ゴミ受け83は、奥手前方向にスライド可能である。また、ゴミ受け83は、引き出した状態で、芋焼き器1から取り外し可能である。
【0072】
ゴミ受け83は、焼成庫7の底部のほぼ全体に広がる、浅い箱状のゴミ受けパン83fを有する。同パン83fは平たいステンレス鋼板の奥・左右の端辺に、低い堤壁83hを立ち上げたものである。ゴミ受けパン83fの手前側は、左右方向に延びる帯状の上手前平帯部83cとなっている。同平帯部83cの手前側端には、垂下し下端が手前斜めに出るツマミ83bが形成されている。
【0073】
ゴミ受けパン83fには、焼成時に芋Pから垂れる芋の蜜や、芋の皮の焼き焦げカスなどが落ちて溜まる。なお、焼成庫7の底部の壁の奥・手前には、スロープ庇7vが、焼成庫底の中央部に向けて下がるように、突出している。このスロープ庇7vは、芋の蜜をパン83f内に導くものである。ゴミ受け83の上手前平帯部83cの上には、中空箱梁7xが、焼成庫扉6の底手前側において、左右方向に延びるように配置されている。この中空箱梁7xは、扉6の開閉軸機構(ヒンジ67)を支える板金構造体である。
【0074】
ゴミ受け83は、焼成庫7の底板7zの上に載っており、ツマミ83bを手で押し引きすることにより、奥手前方向にスライド可能である。なお、同ツマミ83bの上面は、手前下に傾斜しており、扉6の内面から垂れるシルをシル受け85に落とす作用もある。引き出したゴミ受け83は、上に持ち上げて、芋焼き器1から取り外すことができる。
【0075】
外したゴミ受け83は、流しや食器洗浄機などで、洗浄する。洗浄は、一日一回程度が妥当である。これにより、ゴミが一括回収され、庫内清掃もアルバイト店員が容易に行える。なお、芋Pから垂れて、小玉石やヒートプレート79に付いて蜜やごみは、トレイ80を外して清掃できる。高温のシーズヒーターに当たった蜜は、はじかれて下のゴミ受け83に落ちる。
【0076】
シル受け85は、焼成庫扉6の下方に配設されており、該扉に付着して落下する露Dを受ける。シル受け85は、取り外し・取り付け自在である。扉6は、その内部に断熱層62を有するが、扉の開閉操作を行う構造であるため、気密性,密閉性の特性からも、焼成庫7の他の壁と比べて断熱性が劣る。また、扉6を開いている間は、扉6の内面も、店内の空気に触れて、温度が低下する。そのため、庫内72の雰囲気中の水分(芋から出る多量の水蒸気)が、扉6の表面に結露しやすい(
図5において露Dとし模式的に図示)。
【0077】
また、扉6を開けるときに、扉6の上端部から、庫内72の雰囲気が噴き出る。その雰囲気は、ケーシング5の扉開口上部5zや、同部外上のヒートプロテクタ41に当たって冷やされ、それらの部位にも結露が生じやすい。この露が、下に垂れて、扉6の外表面を伝って下に落ちる。
【0078】
シル受け85は、
図5で見る側面断面が、上開きの浅いチャンネル状である。このシル受け85は、ケーシング5の手前側下部5xの上に載っている。シル受け85の底面85fの四辺には、
図6(B)に見られるように、奥側の壁辺85j、手前側の壁辺85b、左右の壁辺85sが立設されている。奥側の壁辺85jの左右端部には、より高い端片85pが立設されている。端片85pには、孔85qが開けられており、同孔85qにフックを引っ掛けて、シル受け85を芋焼き器から取り外すことができる。
【0079】
取り出したシル受け85から、溜まったシルを流しに捨てて、水洗いできる。これにより、お店(コンビニなど)のカウンター周りを汚さず、清潔に保てる。
【0080】
次に、
図7を参照しつつ、本実施形態の芋焼き器1の焼成庫7の扉6の詳細を説明する。
図7(A)は側面断面図、(B)は全開状態の斜視図である。この扉6は、その下端部がトルクヒンジ67で、閉~半開の範囲で強制回動自在かつ自重回動不能、かつ、半開~全開範囲で自重回動可能に軸支されている。さらに、扉6が起立した閉姿勢において、該扉を前記焼成庫7の方向(奥方向)に吸着付勢する磁石69が設けられている。
【0081】
扉6は、
図7(B)に見られるように、主に、扉フレーム65と断熱ブロック63とからなる。断熱ブロック63は、断熱材62(仮想的な破断図で示す)と、それを囲むステンレス鋼板の箱からなる。断熱ブロック63は、扉閉時に、焼成庫7の庫内の前面をふさぐ。
【0082】
扉フレーム65は、扉の手前面に広がる前プレート65bと、同プレートの左右端部の辺から奥側に張り出す側板65gからなる。前プレート65bの手前側上部には、扉の開閉ハンドル61が、手前側に突出するように形成されている。扉フレーム65の側板65gは、扉閉時に、芋焼き器ケーシング5の左右側面の手前側部5tの外側に、オーバーラップする。
【0083】
扉6は、その最下部において、トルクヒンジ67によって、ケーシング5の左右側部の前端面5sに、奥手前方向に回動自在に接続されている。同ヒンジ67の付勢トルク特性により、扉が閉~半開(具体的に閉直立0°~半開45°)の範囲で、扉6は強制回動自在かつ自重回動不能となっている。また、半開~全開(具体的には半開45°~全開90°(扉6が手前側に倒れた姿勢))の範囲で、ゆるやかに自重回動可能である。つまり、このトルクヒンジ67は、扉が緩やかに開く安全機構を実現している。
【0084】
ケーシング5の左右側部の前端面5sにおける、トルクヒンジ67の上方の部分には、マグネット69が取り付けられている。同マグネット69は、扉全閉時において、扉フレーム65の右端部に付設されたブラケット65dの奥面(裏面)に当たって吸着する。このマグネット吸着力により、扉6の全閉姿勢維持(開き動作の初期力UP)を図っている。すなわち、扉を閉状態でしっかり固定している。なお、磁石吸着部分(ブラケット65d)の材質は、磁性のあるSUS430である。
【0085】
扉6を開く際は、扉全閉状態から、ハンドル61を手で引いて、扉6を少し開く。これにより、焼成庫7内の熱気・蒸気を、庫内の上隅から外に放出する。このとき、操作者は顔を扉6から離しておく。熱気・蒸気の流出が治まったら、扉全開する。このとき、扉は自重回動可で、力が要らない。なお、トルクヒンジがない場合は、ハンドルを手で引いたときに、扉6が勢いよく全開となると、操作者に熱気・蒸気がどっと当たりよくない。また、ドンと勢いよく扉6が下に落ちるように開くと、人の体に衝突・打撃のおそれがあって不都合である。
【0086】
芋は、焼いている間に、まれに破裂することがある。そのとき、扉6が勢いよく開くと、人(店員さん)の体に当たってケガをしたり、人が持っているものを落とすなどのおそれがある。本実施形態の芋焼き器1においては、トルクヒンジ、マグネットキャッチで扉6の急な開きを防止して、不測の事態を予防している。
【0087】
次に、
図8・
図9及び
図2を参照しつつ、芋載せトレイ80の引出し構造を説明する。
図8は、側面図である。
図9は、芋載せトレイ80の引出し構造の作用を説明するための斜視図である。(A)は、トレイ80をトング171で引き出そうとしている状態であり(芋は載っておらず)、(B)は芋Pが載っている状態である。
図2は、本実施形態の芋焼き器1の全体の正面図である。
【0088】
芋載せトレイ80は、ヒートプレート79とその左右両側のスライダ75を構造材料としている。この芋載せトレイ80は、焼成庫7の左右壁に固定された固定レール76に対して、奥手前方向にスライドする。固定レール76は、焼成庫7の左右壁に固定された奥手前方向に延びる部材である。固定レール76は、
図8に想像線で示す、奥手前方向に延びる、上下の案内レール面76b・76fを有する。固定レール76の手前側端部には、固定ローラ76jが固定されている。
【0089】
スライダ75は、横長の手前奥方向に延びる構造体であって、その下面75gは、固定ローラ76j上に載っている。そして、スライダ下面75gは、回転する固定ローラ76jの上で、奥手前方向に直動する。スライダ75の奥側端部には、回転自在な移動ローラ75k(
図8)が固定されている。同ローラ75kは、固定レール76の案内レール面76b・76fに案内され、奥手前方向に転動可能である。
【0090】
スライダ75は、
図9(A)に示すように、トレイ80の左右の辺に沿う一対の部材である。この左右一対のスライダ75の手前端部は、前縁部材751によってつながれている。前縁部材751は、手前側が下折れした略L字状である。この下折れ部分をトング171の先でつかんで引き出すことにより、トレイ80を手前方向、全開の扉6の上に引き出し可能である。
【0091】
上述のトレイ80の引き出しの転動構造により、トレイ80を楽に引き出し・押し込みできる。つまり、芋の焼成庫内72への投入・取り出しを、作業性良く・安全に行うことができる。さらに、熱いトレイ80のスライドには、芋掴み用のトング171を流用できるので、専用の引き出し治具のようなものは不要である。
【0092】
次に、
図10を参照しつつ、ヒートプレート79の熱気上昇孔79k(
図3参照)の分布と庫内の均熱性との関係(一例)について説明する。
図10の上段の表は、庫内72の小玉石77(
図1・2・9参照)の上面における温度分布を示す表である。左欄(巾の狭い欄)のA~Eは、温度測定点の位置を示す符号であり、その意味は次述する。左から二番目の幅の広い欄は、「未孔領域なし」(次述)の場合の各点の計測温度である。一番右の幅の広い欄は、「未孔領域あり」(次述)の場合の各点の計測温度である。
【0093】
図10の上から二段目の図は、ヒートプレート79の平面図(
図3と同等)である。左側の図は、熱気上昇孔79kがヒートプレート79の全部の面(周の縁の部分を除く)に開けられている「未孔領域なし」の図である。右側の図は、熱気上昇孔79kがヒートプレート79の中心部には開けられていない「未孔領域あり」の図である。各図における符号Aはヒートプレートの中心部であり、B~Eはヒートプレートの四隅近くの場所である。
【0094】
図10の下の写真は、ヒートプレート79上に小玉石77を敷いた状態の斜視である。図中に、温度計測点の符号A~Eが示してある。
【0095】
計測温度のデータを見ると、表の左の「未孔領域なし」では、ヒートプレートの中心部Aの温度が236℃と、他の部分B~Eの温度213℃~217℃よりも、顕著に高い。一方、表の右の「未孔領域あり」では、ヒートプレートの中心部Aの温度217℃は、他の部分B~Eの温度211℃~218℃と大差ない。この表を見ると、ヒートプレート(庫内)の中心(央)部に熱気上昇孔79kを設けないことにより、同部に吹き上がる熱気の集中を避けて、庫内温度分布を平準化(均一化)する効果があることがわかる。なお、温度計測時における庫内の設定温度は、200℃である。
【0096】
以上説明してきた本発明あるいは本実施形態の芋焼き器を購入するユーザーは、使用方法に習熟し、さらに調整・工夫(創作)を加えることにより、最適な条件で様々な種類・条件の焼き芋を焼成することができる。
◎焼き芋の最適条件の創作の例;
・遠赤外線焼成の環境(遠赤外線の乱反射焼成)の調整
・断熱環境や保温環境(ヒーターレスで均一に65℃環境の保持)の調整
・メーカー独自設計の基板採用に基づく機器制御の活用により、繊細・正確な温度管理(比例制御/現状の市販芋焼き器はON-OFF制御)
【0097】
◎使いやすさの創作・運用向上の例
・ゴミ受け・シル受けの実際の運用
・スライド式トレイの活用
・独自制御基板採用による操作パネルの運用、なお、独自制御基板は芋焼き器としては業界初である。焼き芋の本数やサイズに応じたメニュー(温度制御条件)登録や、通電予約・エコモード等の活用により、店舗の営業条件に応じた芋焼き器のカスタマイズ化が可能である。
【0098】
◎安全性の創作
・本体ケーシングの低輻射化・扉トルクヒンジ・扉マグネットなどの活用