(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023112324
(43)【公開日】2023-08-14
(54)【発明の名称】覚醒度判定装置、覚醒度判定システム、覚醒度判定方法、プログラム
(51)【国際特許分類】
A61B 5/16 20060101AFI20230804BHJP
【FI】
A61B5/16 130
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022014047
(22)【出願日】2022-02-01
(71)【出願人】
【識別番号】302069930
【氏名又は名称】メイコーエンベデッドプロダクツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100180415
【弁理士】
【氏名又は名称】荒井 滋人
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100134544
【弁理士】
【氏名又は名称】森 隆一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(72)【発明者】
【氏名】松田 智美
(72)【発明者】
【氏名】深見 忠典
(72)【発明者】
【氏名】青木 友作
【テーマコード(参考)】
4C038
【Fターム(参考)】
4C038PP01
4C038PP05
4C038PQ03
4C038PQ06
4C038PS03
(57)【要約】
【課題】被検対象に応じたより精度の高い覚醒度の判定技術を提供する技術を提供する。
【解決手段】キャリブレーション期間における脳波信号の計測結果を脳運動成分と瞼運動成分とに分離して所定の間隔毎の脳運動成分が示す脳運動強度と瞼運動成分が示す瞼運動強度との関係を示す状態値を算出する。所定の間隔毎の複数の状態値を主成分分析し、主成分方向のばらつきの固有値λを用いて閾値を算出する。キャリブレーション期間の後の計測期間における脳波信号の計測結果に基づいて算出した状態値と、閾値とに基づいて覚醒度の判定を行う。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャリブレーション期間における脳波信号の計測結果を脳運動成分と瞼運動成分とに分離して所定の間隔毎の脳運動成分が示す脳運動強度と瞼運動成分が示す瞼運動強度との関係を示す状態値を算出する状態値算出手段と、
前記所定の間隔毎の複数の前記状態値を主成分分析し、主成分方向のばらつきの固有値λを用いて閾値を算出する閾値算出手段と、
前記キャリブレーション期間の後の計測期間における前記脳波信号の計測結果に基づいて算出した前記状態値と、前記閾値とに基づいて覚醒度の判定を行う判定手段と、
を備える覚醒度判定装置。
【請求項2】
前記判定手段は、前記キャリブレーション期間の後の計測期間における前記脳波信号の計測結果に基づいて算出した前記状態値と、前記閾値とに基づいて覚醒の促進を行うか否かを判定する
請求項1に記載の覚醒度判定装置。
【請求項3】
前記閾値算出手段は、前記主成分方向のばらつきの固有値λに基づいて特定した標準偏差√λと、係数とに基づいて前記閾値を算出する
請求項1または請求項2に記載の覚醒度判定装置。
【請求項4】
前記閾値算出手段は、異なる前記係数を用いて複数の前記閾値を算出し、
前記判定手段は、当該複数の閾値と前記状態値との関係に基づいて覚醒の促進を行うか否かを判定する
請求項3に記載の覚醒度判定装置。
【請求項5】
前記覚醒の促進を行うと判定された場合に、前記閾値と前記状態値との関係に基づいた態様で覚醒の促進を行う覚醒促進手段、
を備える請求項2に記載の覚醒度判定装置。
【請求項6】
前記状態値算出手段は、前記脳波信号の計測結果を高速フーリエ変換して脳運動成分を示す周波数帯域における信号強度の平均値と、前記脳波信号の計測結果を高速フーリエ変換して瞼運動成分を示す周波数帯域における信号強度の平均値と、を示す前記状態値を、前記所定の間隔において算出する
請求項1から請求項5の何れか一項に記載の覚醒度判定装置。
【請求項7】
キャリブレーション期間における脳波信号の計測結果を脳運動成分と瞼運動成分とに分離して所定の間隔毎の脳運動成分が示す脳運動強度と瞼運動成分が示す瞼運動強度との関係を示す状態値を算出する状態値算出手段と、
前記所定の間隔毎の複数の前記状態値を主成分分析し、主成分方向のばらつきの固有値λを用いて閾値を算出する閾値算出手段と、
前記キャリブレーション期間の後の計測期間における前記脳波信号の計測結果に基づいて算出した前記状態値と、前記閾値とに基づいて覚醒度の判定を行う判定手段と、
を備える覚醒度判定システム。
【請求項8】
キャリブレーション期間における脳波信号の計測結果を脳運動成分と瞼運動成分とに分離して所定の間隔毎の脳運動成分が示す脳運動強度と瞼運動成分が示す瞼運動強度との関係を示す状態値を算出し、
前記所定の間隔毎の複数の前記状態値を主成分分析し、主成分方向のばらつきの固有値λを用いて閾値を算出し、
前記キャリブレーション期間の後の計測期間における前記脳波信号の計測結果に基づいて算出した前記状態値と、前記閾値とに基づいて覚醒度の判定を行う
覚醒度判定方法。
【請求項9】
覚醒度判定装置のコンピュータを、
キャリブレーション期間における脳波信号の計測結果を脳運動成分と瞼運動成分とに分離して所定の間隔毎の脳運動成分が示す脳運動強度と瞼運動成分が示す瞼運動強度との関係を示す状態値を算出する状態値算出手段、
前記所定の間隔毎の複数の前記状態値を主成分分析し、主成分方向のばらつきの固有値λを用いて閾値を算出する閾値算出手段、
前記キャリブレーション期間の後の計測期間における前記脳波信号の計測結果に基づいて算出した前記状態値と、前記閾値とに基づいて覚醒度の判定を行う判定手段、
として機能させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、覚醒度判定装置、覚醒度判定システム、覚醒度判定方法、プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
居眠りや眠気を検出する技術が開発されている。関連する技術が特許文献1~特許文献3に開示されている。例えば特許文献1には脳波解析では,ガンマ波およびシータ波の周波数帯域成分を使用することが開示されている。また特許文献2、特許文献3には、脳波を用いて眠気を検出する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第6132327号公報
【特許文献2】特開平7-108848号公報
【特許文献3】特開2013-000283号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のような技術において、被検対象に応じたより精度の高い覚醒度の判定技術を提供することが求められている。
【0005】
そこでこの発明は、上述の課題を解決する覚醒度判定装置、覚醒度判定システム、覚醒度判定方法、プログラムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様によれば、覚醒度判定装置は、キャリブレーション期間における脳波信号の計測結果を脳運動成分と瞼運動成分とに分離して所定の間隔毎の脳運動成分が示す脳運動強度と瞼運動成分が示す瞼運動強度との関係を示す状態値を算出する状態値算出手段と、前記所定の間隔毎の複数の前記状態値を主成分分析し、主成分方向のばらつきの固有値λを用いて閾値を算出する閾値算出手段と、前記キャリブレーション期間の後の計測期間における前記脳波信号の計測結果に基づいて算出した前記状態値と、前記閾値とに基づいて覚醒度の判定を行う判定手段と、を備える。
【0007】
本発明の第2の態様によれば、覚醒度判定システムは、キャリブレーション期間における脳波信号の計測結果を脳運動成分と瞼運動成分とに分離して所定の間隔毎の脳運動成分が示す脳運動強度と瞼運動成分が示す瞼運動強度との関係を示す状態値を算出する状態値算出手段と、前記所定の間隔毎の複数の前記状態値を主成分分析し、主成分方向のばらつきの固有値λを用いて閾値を算出する閾値算出手段と、前記キャリブレーション期間の後の計測期間における前記脳波信号の計測結果に基づいて算出した前記状態値と、前記閾値とに基づいて覚醒度の判定を行う判定手段と、を備える。
【0008】
本発明の第3の態様によれば、覚醒度判定方法は、キャリブレーション期間における脳波信号の計測結果を脳運動成分と瞼運動成分とに分離して所定の間隔毎の脳運動成分が示す脳運動強度と瞼運動成分が示す瞼運動強度との関係を示す状態値を算出し、前記所定の間隔毎の複数の前記状態値を主成分分析し、主成分方向のばらつきの固有値λを用いて閾値を算出し、前記キャリブレーション期間の後の計測期間における前記脳波信号の計測結果に基づいて算出した前記状態値と、前記閾値とに基づいて覚醒度の判定を行う。
【0009】
本発明の第4の態様によれば、プログラムは、覚醒度判定装置のコンピュータを、キャリブレーション期間における脳波信号の計測結果を脳運動成分と瞼運動成分とに分離して所定の間隔毎の脳運動成分が示す脳運動強度と瞼運動成分が示す瞼運動強度との関係を示す状態値を算出する状態値算出手段、前記所定の間隔毎の複数の前記状態値を主成分分析し、主成分方向のばらつきの固有値λを用いて閾値を算出する閾値算出手段、前記キャリブレーション期間の後の計測期間における前記脳波信号の計測結果に基づいて算出した前記状態値と、前記閾値とに基づいて覚醒度の判定を行う判定手段、として機能させる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、被検対象に応じたより精度の高い覚醒度や覚醒の促進の必要性の有無の判定技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】第一の実施形態による覚醒促進システムの概略構成を示す図である。
【
図2】第一の実施形態による覚醒促進装置の機能ブロック図である。
【
図3】第一の実施形態による覚醒度判定装置の機能ブロック図である。
【
図4】第一の実施形態による覚醒度判定装置のハードウェア構成図である。
【
図5】第一の実施形態による覚醒度判定装置の処理フローを示す第一の図である。
【
図6】第一の実施形態による覚醒度判定装置の処理概要を示す第一の図である。
【
図7】第一の実施形態による覚醒度判定装置の処理概要を示す第二の図である。
【
図8】第一の実施形態による覚醒度判定装置の処理フローを示す第二の図である。
【
図9】第一の実施形態による判定結果の遷移を示す図である。
【
図10】第二の実施形態による覚醒促進システムの概略構成図である。
【
図11】第三の実施形態による覚醒促進システムの概略構成図である。
【
図12】第四の実施形態による覚醒促進システムの概略構成図である。
【
図13】第五の実施形態による覚醒促進システムの概略構成図である。
【
図14】覚醒度判定装置の最小構成を示す図である。
【
図15】最小構成の覚醒度判定装置における処理フローを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、第一の実施形態による覚醒度判定装置を、図面を参照して説明する。
図1は、本実施形態における覚醒度判定装置を備えた覚醒促進システムの概略構成を示す図である。
図1で示すように、一例として覚醒促進システム100は、覚醒度判定装置1と、覚醒促進装置2とが無線通信などにより通信接続して構成される。また覚醒促進システム100において、覚醒度判定装置1は、サーバ装置などの外部装置と通信接続してよい。覚醒度判定装置1は、例えば覚醒促進装置2と通信接続できるスマートフォンなどの携帯端末であってもよいし、専用の携帯型の装置であってもよい。または覚醒度判定装置1は、車両などの移動体に設けられた装置(車載装置)などに含まれるものであってよい。覚醒度判定装置1は覚醒促進装置の内部に設けられていてもよく、これらの
図1で示すシステム構成以外の態様は、第二の実施形態以降において説明する。
【0013】
覚醒促進装置2は、
図1に示すように、耳掛けフレーム(装着手段)の内側に半円状のフレキシブル樹脂により構成された皮膚への接触機構を設ける。当該接触機構のフレキシブル樹脂の表面にはCNT(carbon nanotube)等のフレキシブル電極を設置する。頭部形状の個人差に依存せず、眉上の部分に電極を安定して接触させることができる。
【0014】
図2は覚醒促進装置の機能ブロック図である。
覚醒促進装置2は、一例として被検対象である人の頭部に装着して脳波を計測する装置である。具体的には、覚醒促進装置2は、額の眉毛上部近傍の皮膚に接する上記フレキシブル電極などの第一電極21と、耳たぶに接触する第二電極22(基準電極)とを備え、第一電極21と第二電極22の間の脳波の電気信号を計測する。制御部23は脳波の電気信号を計測して、その電気信号を、通信部24を介して覚醒度判定装置1へ送信する。覚醒促進装置2は、出力部25を備える。当該出力部25は、覚醒度判定装置1から出力された刺激促進信号に基づいて、ユーザが覚醒するための出力を行う。出力部25の出力は電気的な刺激を被検対象の皮膚に与えるための信号であってもよいし、音や振動を出力する出力装置26を動作させる信号であってもよい。
【0015】
図3は覚醒度判定装置の機能ブロック図である。
覚醒度判定装置1は、予め記憶するプログラムを実行することにより、通信部11、制御部12、状態値算出部13、閾値算出部14、判定部15、覚醒促進部16の各機能を発揮する。これらの機能のうちの何れか一つまたは複数は、回路により構成されていてもよい。
通信部11は、覚醒促進装置2と通信する。
制御部12は、覚醒度判定装置1の各機能を制御する。
状態値算出部13は、脳波信号の計測結果を脳運動成分と瞼運動成分とに分離して所定の間隔毎の脳運動成分が示す脳運動強度と瞼運動成分が示す瞼運動強度との関係を示す状態値を算出する。
閾値算出部14は、所定の間隔毎の複数の状態値を主成分分析し、主成分方向のばらつきの固有値λを用いて閾値を算出する。
判定部15は、キャリブレーション期間の後の計測期間における前記脳波信号の計測結果に基づいて算出した状態値と、閾値とに基づいて覚醒度の判定を行う。
覚醒促進部16は、覚醒の促進を行うと判定された場合に、閾値と状態値との関係に基づいた態様で覚醒の促進を行う。
【0016】
図4は本実施形態による覚醒度判定装置のハードウェア構成図である。
この図が示すように覚醒度判定装置1は、CPU(Central Processing Unit)101、ROM(Read Only Memory)102、RAM(Random Access Memory)103、HDD(Hard Disk Drive)104、通信モジュール105、データベース106等の各ハードウェアを備えたコンピュータである。なお覚醒促進装置2も同様のハードウェア構成を備えてよい。
【0017】
本実施形態において覚醒度判定装置1は、被検対象の脳波に基づいて、キャリブレーション期間の後の計測期間における脳波信号の計測結果に基づいて算出した状態値と、キャリブレーション期間の脳波信号に基づいて算出した閾値とに基づいて、覚醒度の判定や、覚醒の促進を行うか否かを判定する。以下、覚醒促進システムに含まれる装置の各処理を、順を追って説明する。
【0018】
図5は覚醒度判定装置の処理フローを示す第一の図である。
まず前提として覚醒度判定装置1は覚醒促進装置2と通信接続する。覚醒度判定装置1は処理の開始の指示の情報を受け付ける(ステップS101)。例えば、覚醒度判定装置1はユーザが外部から情報を入力する入力手段を備えている。当該入力手段は、スイッチなどであってもよい。また覚醒度判定装置1は動作モードの指定を受け付ける(ステップS102)。当該動作モードの指定も、所定のスイッチなどを用いた指定であって良い。本実施形態において動作モードは、動作モードA、動作モードB、動作モードCの3つの動作モードがある。動作モードは覚醒度の判定の厳しさを示し、動作モードAが最も厳しく覚醒度の判定を行って覚醒の促進を行うモードであり、動作モードA、B、Cの順に、覚醒度の判定を緩くする。覚醒度判定装置1は、動作モードA、B、Cは、覚醒度の閾値を算出するための情報としても用いる。覚醒度判定装置1の制御部12は指定された動作モードの識別子を記憶部に記憶する。制御部12は、処理の開始の指示の入力を検出すると、5分などの所定の時間のキャリブレーション動作を開始する(ステップS103)。
【0019】
キャリブレーション動作において制御部12は、覚醒促進装置2へ脳波信号の計測開始を指示する(ステップS104)。覚醒促進装置2の制御部23は、第一電極21と第二電極22の間の微弱な脳波信号(電圧)を計測する。制御部23は、5分ほどのキャリブレーション期間の脳波信号のデータを、通信部24を介して覚醒度判定装置1へ送信する。
【0020】
覚醒度判定装置1の制御部12は通信部11を介して脳波信号のデータを取得する(ステップS105)。制御部12は、取得した脳波信号のデータを状態値算出部13へ出力する。状態値算出部13は、5分間計測される脳波信号のデータを、10秒程度の間隔などの変換処理間隔ごとに切り取って高速フーリエ変換する(ステップS106)。状態値算出部13は、高速フーリエ変換後の変換処理間隔における周波数成分のうち、5Hz~20Hzの周波数成分のデータを脳運動成分のデータとして取得する(ステップS107)。また状態値算出部13は、高速フーリエ変換後の変換処理間隔における周波数成分のうち、1Hz~3hzの周波数成分のデータを瞼運動成分のデータとして取得する(ステップS108)。なお上述の脳波信号における脳運動成分を示す周波数5Hz~20Hzは一例であって、これより狭い範囲の周波数帯域またはこれより広い範囲の周波数帯域であってもよい。また脳波信号における瞼運動成分を示す周波数5Hz~20Hzは一例であって、これより狭い範囲の周波数帯域またはこれより広い範囲の周波数帯域であってもよい。
【0021】
図6は覚醒度判定装置の処理概要を示す第一の図である。
図6で示すように、状態値算出部13は、脳波信号のデータ(6A)から、5Hz~20Hzの周波数成分の脳運動成分のデータ(6B)と、1Hz~3Hzの周波数成分の瞼運動成分のデータ(6C)と、を取得する。脳波信号のデータ(6A)は、10秒程度の変換処理間隔における脳波信号の信号強度の変化を示す。脳運動成分のデータ(6B)は、10秒程度の変換処理間隔における脳運動成分のデータが示す信号強度(脳運動強度)の変化を示す。このデータにおいては、脳運動が活発なほど信号強度が強く表れ、覚醒度が高いことを示す。瞼運動成分のデータ(6C)は、10秒程度の変換処理間隔における瞼運動成分のデータが示す信号強度(瞼運動強度)の変化を示す。このデータにおいては瞼の開閉等の動きが活発なほど信号強度が強く表れ、覚醒度が高いことを示す。
【0022】
状態値算出部13は、10秒程度の変換処理間隔における脳運動成分のデータの強度(電圧)の平均を算出する。状態値算出部13は、10秒程度の変換処理間隔における瞼運動成分のデータの強度(電圧)の平均を算出する。状態値算出部13は、それら変換処理間隔における脳運動成分のデータの強度の平均値と瞼運動成分のデータの強度の平均値とを示す状態値を、変換処理間隔ごとに算出する(ステップS109)。これにより状態値算出部13は、5分間のキャリブレーション期間における複数の状態値を算出する。状態値算出部13は、算出した複数の状態値を閾値算出部14に出力する。上述の状態値算出部13の処理は、脳波信号の計測結果を高速フーリエ変換して脳運動成分を示す周波数帯域における信号強度の平均値と、脳波信号の計測結果を高速フーリエ変換して瞼運動成分を示す周波数帯域における信号強度の平均値と、を示す状態値を、所定の間隔において算出する処理の一態様である。
【0023】
図7は覚醒度判定装置の処理概要を示す第二の図である。
図7のグラフは状態値が示す脳運動成分の強度と、瞼運動成分の強度とに基づいて、複数の状態値を、脳運動成分の強度を横軸、瞼運動成分の強度を縦軸で表すグラフにプロットしたものである。
【0024】
閾値算出部14は、状態値算出部13の算出した複数の状態値を取得すると、それら状態値の示す脳運動成分の強度と、瞼運動成分の強度とを用いて、主成分分析する(ステップS110)。閾値算出部14は、
図7のグラフにおける第一主成分の固有ベクトルX、固有値(ばらつき)λ、状態値の標準偏差√λを算出する(ステップS111)。閾値算出部14は、設定された動作モードの識別子を記憶部から読み取る。閾値算出部14は、動作モードの識別子に対応して予め記憶する係数を読み取る。本実施形態においては動作モードAの係数kが1、動作モードBの係数k=k1、動作モードCの係数k=k2であるとする。そして、閾値算出部14は、状態値の標準偏差√λに係数kを乗じて(k√λ)、第一主成分のベクトルXに直交する閾値のベクトルを算出する(ステップS112)。閾値算出部14は、閾値を算出すると閾値の算出完了を制御部12に出力する。上述の閾値算出部14の処理は、状態値の主成分方向のばらつきの固有値λに基づいて特定した標準偏差√λと、係数とに基づいて閾値を算出する態様の一例である。
【0025】
図7のグラフで示すように、閾値よりも脳運動成分の強度と、瞼運動成分の強度が小さい領域は、覚醒を促進すると判定する領域である。また
図7のグラフに示すように、動作モードA、動作モードB、動作モードCごとの異なる係数kに基づいて、異なる閾値を算出することができる。
【0026】
図8は覚醒度判定装置の処理フローを示す第二の図である。
制御部12は、閾値の算出完了を検知すると、キャリブレーション期間を終了し、計測期間の開始を判定部15に指示する(ステップS201)。判定部15は、計測開始の指示を覚醒促進装置2へ出力する。覚醒促進装置2の制御部23は、キャリブレーション期間における計測と同様に、脳波信号のデータを取得して、通信部24を介して覚醒度判定装置1へ送信する。なお計測期間においては期間に時間的制限はなく、覚醒促進装置2は、覚醒度判定装置1からの計測終了の指示があるまで脳波信号のデータの計測を続ける。
【0027】
覚醒度判定装置1の制御部12は、計測期間においても状態値算出部13に脳波信号のデータを用いた状態値の算出を指示する。状態値算出部13は、10秒程度の変換処理間隔毎の状態値を同様に算出する(ステップS202)。なおキャリブレーション期間における変換処理間隔と、計測期間における変換処理間隔の長さは10秒に限らない。状態値算出部13は算出した変換処理間隔毎の状態値を順に判定部15へ出力する。
【0028】
判定部15は、状態値と閾値とを比較して覚醒を促進するかを判定する(ステップS203)。判定部15は、状態値が閾値よりも小さい場合、つまり
図7において、閾値のベクトルよりも脳運動成分の強度と瞼運動成分の強度とが小さい領域に状態値がある場合には、覚醒を促進すると判定する。判定部15は、状態値と閾値とを比較して、状態値の各成分の強度が閾値よりも低い場合に覚醒度が低いと判定してもよい。判定部15は、覚醒度が低いと判定した単位時間当たりの回数が、予め設定されている回数閾値よりも多い場合に、覚醒を促進すると判定してもよい。または判定部15は、覚醒度が低いと判定した複数回の継続時間が所定の時間閾値よりも長い場合に、覚醒を促進すると判定してもよい。判定部15は、覚醒を促進すると判定した場合、覚醒促進部16に覚醒の促進を指示する。また上述の閾値算出部14の処理は、異なる係数を用いて複数の閾値を算出し、判定部15が、複数の閾値と状態値との関係に基づいて覚醒の促進を行うか否かを判定する処理の一態様である。
【0029】
覚醒促進部16は覚醒の促進の指示を取得すると、覚醒促進装置2へ覚醒の促進開始を通知する。覚醒促進装置2の通信部24は、覚醒の促進開始の通知を出力部25へ出力する(ステップS204)。出力部25は、出力装置26を動作させて被検対象へ電気的な刺激を与える。または出力部25は、出力装置26の音の出力や、振動の出力を制御するようにしてもよい。出力装置26は、出力部25からの覚醒の促進開始の通知に基づいて、被検対象に休憩を促す情報を出力する、被検対象に疲労が蓄積していることを通知する情報を文字や音声などで出力するなどしてもよい。
【0030】
ここで覚醒促進部16は、判定部15の判定結果に基づいて、覚醒の促進の強度を算出するようにしてもよい。例えば、判定部15において覚醒度が低いと判定した単位時間当たりの回数に基づいて、覚醒の促進強度X、Y、Zなどの異なる強度(X>Y>Z)を算出する。または判定部15において覚醒度が低いと判定した継続時間の長さに基づいて、覚醒の促進強度X、Y、Z(X>Y>Z)などの異なる強度を算出する。そして覚醒促進部16はこの覚醒の促進強度を覚醒促進装置2へ出力する。覚醒促進装置2の出力部25は、覚醒の促進強度に基づいて、出力装置26を制御する。例えば出力部25は、覚醒の促進強度X、Y、Zに基づいて、出力装置26の出力する刺激の強弱、音の強弱、振動の強弱を制御する。上述の覚醒促進部16の処理は、覚醒の促進を行うと判定された場合に、閾値と状態値との関係に基づいた態様で覚醒の促進を行う処理の一態様である。
【0031】
図9は判定結果の遷移を示す図である。
覚醒度判定装置1が判定期間における時間の経過に従って算出した状態値は、
図8のように変動する。そして覚醒度判定装置1は、状態値の各成分が閾値よりも低くなった場合に、覚醒の促進を行うと判定する。
【0032】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、上述の被検対象は人であることを想定している。しかしながら、被検対象は人以外の動物であってよい。
【0033】
上述の覚醒度判定装置1の処理によれば、カメラによって撮影した被検対象の顔の画像を用いずに、被検対象の覚醒度や、覚醒の促進の有無を判定することが可能となる。また また上述の覚醒度判定装置1の処理によれば、被検対象の覚醒度や、覚醒の促進の有無を判定することのために、逐一インターネット等の通信を利用して外部装置との間の通信を必要としない。
また上述の覚醒度判定装置1の処理によれば、被検対象の脳波信号から特定した脳運動成分の強度と瞼運動成分の強度と、当該脳波信号から特定した閾値とに基づいて、被検対象の覚醒度や覚醒の促進の有無を判定する。従って、被検対象の状態に最適な閾値を用いて、精度よく被検対象の覚醒度や覚醒の促進の有無を判定することができる。
また上述の覚醒度判定装置1の処理によれば、脳波信号の機械学習などの処理の必要なく、短時間で被検対象の覚醒度や覚醒の促進の有無を判定することができる。
また上述の覚醒度判定装置1は、脳運動成分の強度と瞼運動成分の強度とを示す状態値とその閾値に基づいて被検対象の覚醒度だけでなく、疲労度として検出することもできる。
【0034】
<第二の実施形態>
上述の第一の実施形態では、覚醒度判定装置1と覚醒促進装置2とが別のハードウェアである場合の例を示した。しかしながら、覚醒度判定装置1と覚醒促進装置2とは、一つのハードウェアに備わっていてもよい。例えば、覚醒度判定装置1は、覚醒促進装置2に組み込まれている。
【0035】
図10は第二の実施形態による覚醒促進システムの概略構成図である。
この図が示すように、覚醒促進装置2は、覚醒度判定装置1の機能を備えていてよい。この場合、覚醒促進装置2と覚醒度判定装置1とは無線通信などによって通信接続する必用が無い。覚醒度判定装置1の内部の機能は、第一の実施形態と同様であって良い。また、第二の実施形態による処理は第一の実施形態と同様である。
【0036】
<第三の実施形態>
図11は第三の実施形態による覚醒促進システムの概略構成図である。
覚醒度判定装置1は、車両などの移動体に設けられた車載装置4に組み込まれた装置であってよい。この場合、覚醒度判定装置1は、被検対象である運転者が車両を運転中の覚醒度の判定や、覚醒の促進の有無を判定することができる。第三の実施形態においても覚醒度判定装置1の内部の機能は、第一の実施形態と同様である。また、第三の実施形態による処理は第一の実施形態と同様である。
【0037】
<第四の実施形態>
図12は第四の実施形態による覚醒促進システムの概略構成図である。
覚醒度判定装置1は、パーソナルコンピュータ5に組み込まれた装置であってよい。この場合、覚醒度判定装置1は、被検対象であるユーザがパーソナルコンピュータ5を用いて仕事中の場合の、覚醒度の判定や、覚醒の促進の有無を判定することができる。第四の実施形態においても覚醒度判定装置1の内部の機能は、第一の実施形態と同様である。また、第四の実施形態による処理は第一の実施形態と同様である。
【0038】
<第五の実施形態>
図13は第五の実施形態による覚醒促進システムの概略構成図である。
覚醒度判定装置1は、覚醒促進装置2を装着した被検対象と離れたサーバ装置の内部に組み込まれた装置であってよい。この場合、例えば被検対象のユーザが携帯するスマートフォン等の中継装置7を介して、サーバ装置6の内部の覚醒度判定装置1と覚醒促進装置2とが通信接続する。この場合、覚醒度判定装置1は、中継装置7を介して覚醒促進装置2の計測した脳波信号のデータを取得して、第一の実施形態と同様の処理を行う。つまり、第五の実施形態においても覚醒度判定装置1の内部の機能は、第一の実施形態と同様である。また、第五の実施形態による処理は第一の実施形態と同様である。
【0039】
<第六の実施形態>
図14は覚醒度判定装置の最小構成を示す図である。
図15は最小構成の覚醒度判定装置における処理フローを示す図である。
覚醒度判定装置1は、少なくとも状態値算出部13、閾値算出部14、判定部15の機能を備えればよい。
状態値算出部13は、キャリブレーション期間における脳波信号の計測結果を脳運動成分と瞼運動成分とに分離して所定の間隔毎の脳運動成分が示す脳運動強度と瞼運動成分が示す瞼運動強度との関係を示す状態値を算出する(ステップS301)。
閾値算出部14は、所定の間隔毎の複数の状態値を主成分分析し、主成分方向のばらつきの固有値λを用いて閾値を算出する(ステップS302)。
判定部15は、キャリブレーション期間の後の計測期間における脳波信号の計測結果に基づいて算出した状態値と、閾値とに基づいて覚醒度の判定を行う(ステップS303)。
【0040】
上述の覚醒度判定装置1や覚醒促進装置2は内部に、コンピュータシステムを有している。そして、上述した各処理の過程は、プログラムの形式でコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記憶されており、このプログラムをコンピュータが読み出して実行することによって、上記処理が行われる。ここでコンピュータ読み取り可能な記録媒体とは、磁気ディスク、光磁気ディスク、CD-ROM、DVD-ROM、半導体メモリ等をいう。また、このコンピュータプログラムを通信回線によってコンピュータに配信し、この配信を受けたコンピュータが当該プログラムを実行するようにしても良い。
【0041】
また、上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであっても良い。さらに、前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるもの、いわゆる差分ファイル(差分プログラム)であっても良い。
【符号の説明】
【0042】
1・・・覚醒度判定装置
2・・・覚醒促進装置
11・・・通信部
12・・・制御部
13・・・状態値算出部
14・・・閾値算出部
15・・・判定部
16・・・覚醒促進部
21・・・第一電極
22・・・第二電極
23・・・制御部
24・・・通信部
25・・・出力部
26・・・出力装置