(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023112328
(43)【公開日】2023-08-14
(54)【発明の名称】ダンパ装置及びその組立方法
(51)【国際特許分類】
F16F 15/134 20060101AFI20230804BHJP
F16D 7/02 20060101ALI20230804BHJP
【FI】
F16F15/134 A
F16F15/134 C
F16F15/134 D
F16D7/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022014055
(22)【出願日】2022-02-01
(71)【出願人】
【識別番号】000149033
【氏名又は名称】株式会社エクセディ
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】弁理士法人新樹グローバル・アイピー
(72)【発明者】
【氏名】上原 宏
(57)【要約】
【課題】予め圧縮された複数の弾性部材を有するダンパ装置において、弾性部材を容易に組み付けできるようにする。
【解決手段】この組立方法は、第1回転体の第1支持部と第2回転体の第1収容部とをオフセットがなくなるように軸方向視で重ね合わせ、互いに重ね合わされた第1支持部及び第1収容部に第1弾性部材を配置し、第1弾性部材を圧縮しつつ第1回転体に対して第2回転体を第1回転方向側に回転させて第2支持部と第2収容部とをオフセットがなくなるように軸方向視で重ね合わせ、互いに重ね合わされた第2支持部及び第2収容部に第2弾性部材を配置し、第2弾性部材を圧縮しつつ第1回転体に対して第2回転体を第2回転方向側にオフセット角度だけ回転させる。
【選択図】
図5B
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1支持部及び第2支持部を有する第1回転体と、
前記第1回転体に対して相対回転可能であり、前記第1支持部に対して第1回転方向側にオフセットして設けられた第1収容部と、前記第2支持部に対して第2回転方向側にオフセットして設けられた第2収容部と、を有する第2回転体と、
前記第1支持部及び前記第1収容部に予圧縮して配置された第1弾性部材と、
前記第2支持部及び前記第2収容部に予圧縮して配置された第2弾性部材と、
を備えたダンパ装置の組立方法であって、
前記第1回転体の第1支持部と前記第2回転体の第1収容部とを前記オフセットがなくなるように軸方向視で重ね合わせる第1工程と、
互いに重ね合わされた前記第1支持部及び前記第1収容部に前記第1弾性部材を配置する第2工程と、
前記第1弾性部材を圧縮しつつ前記第1回転体に対して前記第2回転体を第1回転方向側に回転させて前記第2支持部と前記第2収容部とを前記オフセットがなくなるように軸方向視で重ね合わせる第3工程と、
互いに重ね合わされた前記第2支持部及び前記第2収容部に前記第2弾性部材を配置する第4工程と、
前記第2弾性部材を圧縮しつつ前記第1回転体に対して前記第2回転体を第2回転方向側に前記オフセット角度だけ回転させる第5工程と、
を含むダンパ装置の組立方法。
【請求項2】
前記各工程において、前記第1回転体は第1治具に回転不能に固定されている、請求項1に記載のダンパ装置の組立方法。
【請求項3】
前記第2回転部材の回転中心の回りに回転可能で、前記第2回転部材を、前記第3工程において第1回転方向側に回転させるとともに、前記第5工程において第2回転方向側に回転させるための第2治具を準備する工程をさらに含む、請求項2に記載のダンパ装置の組立方法。
【請求項4】
前記第1治具は、前記第1弾性部材の第1回転方向側の端面を回転不能にするための固定部を有し、
前記第2治具は、前記第1弾性部材の第2回転方向側の端面に当接して、前記第1弾性部材を圧縮可能な押圧部を有する、
請求項3に記載のダンパ装置の組立方法。
【請求項5】
前記ダンパ装置は、前記第1弾性部材の第1回転方向側の端面を支持する第1シート部材と、前記第1弾性部材の第2回転方向側の端面を支持する第2シート部材と、をさらに備え、
前記第1治具の固定部及び前記第2治具の押圧部は、前記第1シート部材及び前記第2シート部材に取り外し自在に装着可能であり、
前記第3工程及び前記第5工程では、
前記第1シート部材に装着された前記固定部を前記第1弾性部材の端面に当接させて、前記第1弾性部材の第1回転方向側の端面の移動を規制し、
前記第2シート部材に装着された前記押圧部を前記第1弾性部材の端面に当接させて、前記第1弾性部材を作動させる、
請求項4に記載のダンパ装置の組立方法。
【請求項6】
前記第1シート部材と前記第2シート部材との間の距離と、前記第1弾性部材の自由長と、は同じである、
請求項5に記載のダンパ装置の組立方法。
【請求項7】
前記第1支持部と前記第1収容部とのオフセット角度と、前記第2支持部と前記第2収容部とのオフセット角度と、は同じである、請求項1から6のいずれかに記載のダンパ装置の組立方法。
【請求項8】
第1支持部及び第2支持部を有する第1回転体と、
前記第1回転体に対して相対回転可能であり、前記第1支持部に対して第1回転方向側にオフセットして設けられた第1収容部と、前記第2支持部に対して第2回転方向側にオフセットして設けられた第2収容部と、を有する第2回転体と、
前記第1支持部及び前記第1収容部に予圧縮して配置され、前記第1回転体と前記第2回転体とを回転方向に弾性的に連結する第1弾性部材と、
前記第2支持部及び前記第2収容部に予圧縮して配置され、前記第1回転体と前記第2回転体とを回転方向に弾性的に連結する第2弾性部材と、
前記第1弾性部材の両端面を支持するとともに組付用孔を有し、前記組付用孔は、前記第1弾性部材及び前記第2弾性部材の組み付け時に前記第1弾性部材の作動を制御するための治具が取り外し自在に装着可能である、1対のシート部材と、
を備えたダンパ装置。
【請求項9】
前記シート部材の組付用孔は、装着された治具が、前記第1弾性部材の端面に当接し、前記第1弾性部材を押圧可能なように形成されている、請求項8に記載のダンパ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダンパ装置及びその組立方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばエンジン及び電動機を備えたハイブリッド車両では、エンジン始動時等において出力側から過大なトルクがエンジン側に伝達するのを防止するために、特許文献1に示されるようなトルクリミッタ機能を有するダンパ装置が用いられている。
【0003】
特許文献1のダンパ装置は、1対のプレート及び複数のトーションスプリングを有するダンパ部を有しており、このダンパ部の外周側にトルクリミッタが設けられている。トルクリミッタとダンパ部とは、リベットによって連結されている。そして、トルクリミッタのプレートが、ボルトによってフライホイールに固定されている。
【0004】
ここでは、ダンパ部とフライホイールとの間で伝達されるトルクがトルクリミッタによって制限され、両者の間で過大なトルクが伝達されるのが防止される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ハイブリッド車両においては、モータを駆動してエンジンを暖気する場合がある。このとき、モータとエンジンとの間に設けられたダンパ装置は、エンジンの回転変動によって正側及び負側の両捩り作動領域にわたって作動する。すると、ダンパ装置においては、入力側の回転体と出力側の回転体との相対回転方向が交互に変動するので、これらの回転体を構成する部材間で動力の受け渡しが行われ、その際に衝突音が発生することになる。また、モータの回転を変速するために歯車列が設けられている場合は、同様の理由により、歯車列を構成する歯車対で音が発生する。
【0007】
そこで、本件発明者らは、正負の両捩り領域にわたって作動する際に発生する音を抑制できるダンパ装置を提案し、すでに出願している(特願2020-134863)。
【0008】
このダンパ装置は、第1回転体と第2回転体とを回転方向に弾性的に連結する弾性連結部を有している。弾性連結部は、第1回転体と第2回転体との間の相対回転による捩れがない中立状態において予め圧縮されて配置された第1弾性部材及び第2弾性部材を有している。ここでは、中立状態において、第1及び第2弾性部材による逆方向のトルクが各部材に作用するため、中立時を含む所定の捩り領域における異音の発生を抑制できる。
【0009】
このようなダンパ装置では、第1及び第2弾性部材を予め圧縮して第1及び第2回転体に組み付ける必要があり、組付け作業に工夫が必要になる。
【0010】
本発明の課題は、予め圧縮された複数の弾性部材を有するダンパ装置において、弾性部材を容易に組み付けできるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(1)本発明に係るダンパ装置の組立方法は、第1回転体と、第2回転体と、第1弾性部材と、第2弾性部材と、を備えたダンパ装置の組立方法である。第1回転体は、第1支持部及び第2支持部を有する。第2回転体は、第1回転体に対して相対回転可能であり、第1収容部と第2収容部とを有している。第1収容部は、第1支持部に対して第1回転方向側にオフセットして設けられている。第2収容部は、第2支持部に対して第2回転方向側にオフセットして設けられている。第1弾性部材は、第1支持部及び第1収容部に予圧縮して配置されている。第2弾性部材は、第2支持部及び第2収容部に予圧縮して配置されている。
【0012】
そして、このダンパ装置の組立方法は、以下の工程を含むものでいる。
【0013】
第1工程:第1回転体の第1支持部と第2回転体の第1収容部とをオフセットがなくなるように軸方向視で重ね合わせる。
【0014】
第2工程:互いに重ね合わされた第1支持部及び第1収容部に第1弾性部材を配置する。
【0015】
第3工程:第1弾性部材を圧縮しつつ第1回転体に対して第2回転体を第1回転方向側に回転させて第2支持部と第2収容部とをオフセットがなくなるように軸方向視で重ね合わせる。
【0016】
第4工程:互いに重ね合わされた第2支持部及び第2収容部に第2弾性部材を配置する。
【0017】
第5工程:第2弾性部材を圧縮しつつ第1回転体に対して第2回転体を第2回転方向側にオフセット角度だけ回転させる。
【0018】
(2)好ましくは、各工程において、第1回転体は第1治具に回転不能に固定されている。
【0019】
(3)好ましくは、この組立方法は、第2治具を準備する工程をさらに含む。第2治具は、第2回転部材の回転中心の回りに回転可能で、第2回転部材を、第3工程において第1回転方向側に回転させるとともに、第5工程において第2回転方向側に回転させる。
【0020】
(4)好ましくは、第1治具は固定部を有し、第2治具は押圧部を有する。固定部は、第1弾性部材の第1回転方向側の端面を回転不能にする。押圧部は、第1弾性部材の第2回転方向側の端面に当接して、第1弾性部材を圧縮可能である。
【0021】
(5)好ましくは、ダンパ装置は、第1シート部材と第2シート部材とをさらに備えている。第1シート部材は、第1弾性部材の第1回転方向側の端面を支持する。第2シート部材は、第1弾性部材の第2回転方向側の端面を支持する。この場合、第1治具の固定部及び第2治具の押圧部は、第1シート部材及び第2シート部材に取り外し自在に装着可能である。そして、第3工程及び第5工程では、第1シート部材に装着された固定部を第1弾性部材の端面に当接させて、第1弾性部材の第1回転方向側の端面の移動を規制し、第2シート部材に装着された押圧部を第1弾性部材の端面に当接させて、第1弾性部材を作動させる。
【0022】
(6)好ましくは、第1シート部材と第2シート部材との間の距離と、第1弾性部材の自由長と、は同じである。
【0023】
(7)好ましくは、第1支持部と第1収容部とのオフセット角度と、第2支持部と第2収容部とのオフセット角度と、は同じである。
【0024】
(8)本発明に係るダンパ装置は、第1回転体と、第2回転体と、第1弾性部材と、第2弾性部材と、1対のシート部材と、を備えている。第1回転体は、第1支持部及び第2支持部を有する。第2回転体は、第1回転体に対して相対回転可能であり、第1収容部と第2収容部とを有している。第1収容部は、第1支持部に対して第1回転方向側にオフセットして設けられている。第2収容部は、第2支持部に対して第2回転方向側にオフセットして設けられている。第1弾性部材は、第1支持部及び第1収容部に予圧縮して配置され、第1回転体と第2回転体とを回転方向に弾性的に連結する。第2弾性部材は、第2支持部及び第2収容部に予圧縮して配置され、第1回転体と第2回転体とを回転方向に弾性的に連結する。1対のシート部材は、第1弾性部材の両端面を支持するとともに組付用孔を有している。組付用孔は、第1弾性部材及び第2弾性部材の組み付け時に第1弾性部材の作動を制御するための治具が取り外し自在に装着可能である。
【0025】
ここでは、シート部材に設けられた組付用孔に治具を装着することができる。そして、弾性部材の組み付け時に、この治具を利用して各支持部と各収容部とのオフセットがなくなるように第1回転体と第2回転体とを相対回転させることができる。したがって、支持部と収容部とがオフセットされた装置において、この部分に予め圧縮された弾性部材を組み付ける場合に、弾性部材を容易に組み付けることができる。
【0026】
(9)好ましくは、シート部材の組付用孔は、装着された治具が、第1弾性部材の端面に当接し、第1弾性部材を押圧可能なように形成されている。
【0027】
ここでは、治具を第1弾性部材の端面に直接当て、第1弾性部材を介して第1回転体と第2回転体とを相対的に回転させることができる。すなわち、治具による押圧力はシート部材に作用しない。このため、シート部材の強度を高める必要がない。
【発明の効果】
【0028】
以上のような本発明では、予め圧縮された複数の弾性部材を有するダンパ装置において、弾性部材を容易に組み付けすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】本発明の一実施形態によるダンパ装置の断面図。
【
図3】入力側プレートとハブフランジとの位置関係を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0030】
[全体構成]
図1は、本発明の一実施形態によるトルクリミッタ付きダンパ装置1(以下、単に「ダンパ装置」と記載する)の断面図である。また、
図2はダンパ装置1の正面図であり、その一部は構成する部材を取り外して示している。
図1においては、ダンパ装置1の左側にエンジン(図示せず)が配置され、右側に電動機や変速装置等を含む駆動ユニット(図示せず)が配置されている。
【0031】
なお、以下の説明において、軸方向とは、ダンパ装置1の回転軸Oが延びる方向である。また、円周方向とは、回転軸Oを中心とした円の円周方向であり、径方向とは、回転軸Oを中心とした円の径方向である。なお、円周方向とは、回転軸Oを中心とした円の円周方向に完全に一致している必要はない。また、径方向とは、回転軸Oを中心とした円の直径方向に完全に一致している必要はない。
【0032】
このダンパ装置1は、フライホイール(図示せず)と駆動ユニットの入力軸との間に設けられ、エンジンと駆動ユニットとの間で伝達されるトルクを制限するとともに、回転変動を減衰するための装置である。ダンパ装置1は、トルクリミッタユニット10と、ダンパユニット20と、を有している。
【0033】
[トルクリミッタユニット10]
トルクリミッタユニット10は、ダンパユニット20の外周側に配置されている。トルクリミッタユニット10は、フライホイールとダンパユニット20との間で伝達されるトルクを制限する。トルクリミッタユニット10は、カバープレート11と、支持プレート12と、摩擦ディスク13と、プレッシャプレート14と、コーンスプリング15と、を有している。
【0034】
[ダンパユニット20]
ダンパユニット20は、入力側プレート30(第1回転体の一例)と、ハブフランジ40(第2回転体の一例)と、弾性連結部50と、ヒス発生機構60と、を有している。
【0035】
<入力側プレート30>
入力側プレート30は、第1プレート31及び第2プレート32を有している。第1プレート31及び第2プレート32は、中心部に孔を有する円板状に形成され、互いに軸方向に間隔をあけて配置されている。第1プレート31は、外周部にそれぞれ4個のストッパ部31a及び固定部31bを有している。また、第1プレート31及び第2プレート32は、それぞれ1対の第1支持部301及び1対の第2支持部302を有している。第1プレート31及び第2プレート32において、第1支持部301及び第2支持部302は同じ位置に形成されている。また、第1プレート31には、リベット17用の孔31cが形成され、第2プレート32には、この孔31cに対応する位置に組付用の孔32aが形成されている。この組付用の孔32aを通過するリベット17によって、トルクリミッタユニット10の摩擦ディスク13の内周部が第1プレート31に固定されている。
【0036】
ストッパ部31aは、第1プレート31の外周部を第2プレート32側に折り曲げて形成され、軸方向に延びている。固定部31bは、ストッパ部31aの先端を径方向外方に折り曲げて形成されている。この固定部31bが、第2プレート32の外周端部に複数のリベット33によって固定されている。このため、第1プレート31と第2プレート32とは、互いに相対回転不能であり、互いに軸方向に移動不能である。
【0037】
図2及び第1プレート31を抽出した
図3に示すように、1対の第1支持部301は回転軸Oを挟んで対向して配置されている。また、1対の第2支持部302は、第1支持部と90°の間隔をあけて、回転軸Oを挟んで対向して配置されている。各支持部301,302は、同形状であり、軸方向に貫通する孔と、この孔の内周縁及び外周縁に切り起こされた縁部と、を有している。また、各支持部301,302の円周方向の両端面には、円周方向の外側に膨らむ凹部301a,302aが形成されている。
【0038】
<ハブフランジ40>
図1及び
図2に示すように、ハブフランジ40は、ハブ41と、フランジ42と、を有している。ハブフランジ40は、入力側プレート30に対して所定の角度範囲で相対回転可能である。ハブ41は、筒状に形成され、中心部にはスプライン孔41aが形成されている。また、ハブ41は第1プレート31及び第2プレート32の中心部の孔を貫通している。フランジ42は、円板状に形成され、ハブ41の外周面から径方向外方に延びて形成されている。フランジ42は、第1プレート31と第2プレート32との軸方向間に配置されている。
【0039】
フランジ42は、4つのストッパ用突起42bと、それぞれ1対の第1収容部401及び第2収容部402と、4つの切欠403と、を有している。
【0040】
4つのストッパ用突起42bは、フランジ42の外周面から径方向外方に突出して形成されている。各ストッパ用突起42bが形成された位置は、各収容部401,402の円周方向の中央部の径方向外方である。そして、入力側プレート30とハブフランジ40とが互いに相対回転した際に、ストッパ用突起42bが第1プレート31のストッパ部31aに当接することにより、入力側プレート30とハブフランジ40との相対回転が禁止される。
【0041】
図2及びハブフランジ40を抽出して示す
図3に示すように、1対の第1収容部401は回転軸Oを挟んで対向して配置されている。また、1対の第2収容部402は、2つの第1収容部401の円周方向間に、回転軸Oを挟んで対向して配置されている。各収容部401,402は、同形状であり、外周部が円弧状のほぼ矩形の孔である。また、各収容部401,402の円周方向の両端面には、円周方向の外側に膨らむ凹部401a,402aが形成されている。
【0042】
4つの切欠403は、隣接する収容部401,402の円周方向間において、フランジ42の外周面から径方向内方に所定の深さで形成されている。各切欠403が形成された位置は、トルクリミッタユニット10の摩擦ディスク13と第1プレート31とを連結するリベット17の位置に対応している。したがって、それぞれ別工程で組み立てられたトルクリミッタユニット10及びダンパユニット20を、第2プレート32の組付用孔32a及びフランジ42の切欠403を利用して、リベット17により固定することが可能である。
【0043】
<支持部と収容部の配置>
図3に、中立状態における入力側プレート30(ここでは第1プレート31)に対するハブフランジ40の位置関係を示している。
図3において、直線C1は、1対の第1支持部301の中心及び回転軸Oを通過する線である。また、直線C2は、1対の第2支持部302の中心及び回転軸Oを通過する線である。組立状態では、この
図3に示した位置関係のまま、入力側プレート30及びハブフランジ40が互いに重なり合うように組み付けられている。ここで、「中立状態」とは、入力側プレート30とハブフランジ40との間の相対回転角度が0°(両者が捩じれていない捩り角度0°)の状態である。
【0044】
1対の第1収容部401は、1対の第1支持部301に対応する位置に配置されている。また、1対の第2収容部402は、1対の第2支持部302に対応する位置に配置されている。より詳細には、1対の第1収容部401は、第1支持部301に対して軸方向視で一部が重なるようにかつ第1回転方向側(以下、単に「R1側」と記載する)に角度θ1だけオフセットして配置されている。すなわち、第1収容部401は、直線C1に対してR1側に角度θ1だけオフセットして配置されている。また、第2収容部402は、第2支持部302に対して軸方向視で一部が重なるようにかつ第2回転方向側(以下、単に「R2側」と記載する)に角度θ1だけオフセットして配置されている。すなわち、第2収容部402は、直線C2に対してR2側に角度θ1だけオフセットして配置されている。
【0045】
<スプリングシート34>
第1支持部301及び第1収容部401(以下、これらを合わせて「第1窓部w1」と記載する場合がある)と、第2支持部302及び第2収容部402(以下、これらを合わせて「第2窓部w2」と記載する場合がある)には、それぞれ対向するように1対のスプリングシート34が装着されている。
【0046】
スプリングシート34は、
図4に示すように、円板状の支持面34aと、外周側支持部34bと、内周側支持部34cと、突起部34dと、ピン挿入部34eと、を有している。外周側支持部34bは、支持面34aの径方向外側の端部から円周方向に延びて形成されており、径方向外側に膨らむ円弧形状である。内周側支持部34cは、支持面34aの径方向内側の端部から円周方向に延びて形成されており、径方向内側に膨らむ円弧形状である。突起部34dは、円筒形であり、支持面34aの中央部から円周方向に突出して形成されている。ピン挿入部34eは、支持面34aから突起部34dとは逆側に膨らんで、軸方向に延びて形成されている。このピン挿入部34eには、軸方向に延びる貫通溝34fが形成されている。貫通溝34fは、断面がほぼ半円形であり、突起部34dが突出する方向に開いている。
【0047】
スプリングシート34の支持面34aには、後述するコイルスプリング51の端面が当接する。また、外周側支持部34b及び内周側支持部34cによってコイルスプリング51の外周部及び内周部が支持されている。突起部34dはコイルスプリング51の内部に進入している。ピン挿入部34eの貫通溝34fは、コイルスプリング51の組み付け時に、後述する治具のピンが挿入される。そして、貫通溝34fに挿入されたピンは、コイルスプリング51の端面を直接押圧することが可能である。
【0048】
ここで、各窓部w1,w2にスプリングシート34が配置され、かつ入力側プレート30の第1支持部301の全部と、ハブフランジ40の第1収容部401の全部と、が軸方向視で重なり合った状態(すなわちオフセット角度が「0」)において、対向するスプリングシート34の支持面34aの間の距離はLに設定されている。また、同様に、第2支持部302の全部と、第2収容部402の全部と、が軸方向視で重なり合った状態において、対向するスプリングシート34の支持面34aの間の距離はLに設定されている。
【0049】
<弾性連結部50>
弾性連結部50は、4個のコイルスプリング51(第1弾性部材及び第2弾性部材の一例)と、4個の樹脂部材52と、を有している。各コイルスプリング51は、外スプリング及び内スプリングを有している。4個のコイルスプリング51は、フランジ42の各収容部401,402に収容され、入力側プレート30の各支持部301,302によって径方向及び軸方向に支持されている。これらのコイルスプリング51は並列で作動する。
【0050】
また、4個のコイルスプリング51の自由長Sfはすべて同じである。このコイルスプリング51の自由長Sfは、オフセット角度「0」の場合の、各窓部w1,w2に装着された対向するスプリングシート34の支持面34aの間の距離Lと同じである。
【0051】
<コイルスプリング51の収容状態>
ここで、中立状態での、各窓部w1,w2のコイルスプリング51の収容状態について、以下に詳細に説明する。
【0052】
前述のように、中立状態では、1対の第1収容部401は、対応する第1支持部301に対してR1側に角度θ1だけオフセットされている。一方、1対の第2収容部402は第2支持部302に対してR2側に角度θ1だけオフセットされている。そして、各支持部301,302と対応する各収容部401,402の軸方向において重なった部分の開口(軸方向に貫通する孔)に、コイルスプリング51が圧縮された状態で装着されている。
【0053】
[組立方法]
以上のダンパ装置1のダンパユニット20の組立方法について、
図5以降の図面を用いて説明する。
図5A~
図5Dは、ハブフランジ40と、スプリングシート34と、コイルスプリング51とを模式的に示したものである。なお、以下の説明では、ヒス発生機構60を構成する各部材の組付については、省略している。
【0054】
<治具の準備>
まず、
図6に示すような第1治具71及び第2治具72を準備する。第1治具71は、円板状であり、中央部に開口71aを有している。開口71aは、中心部に形成された円形の孔と、孔から径方向外方にそれぞれ逆方向に延びる1対の長孔と、を有している。1対の長孔は、円周方向にオフセットして配置されている。
【0055】
また、第1治具71には、4つの固定ピン71bと、2つの移動規制ピン71cと、を有している。固定ピン71b及び移動規制ピン71cは、第1治具71の表面から上方に突出して形成されている。固定ピン71bは、第1プレート31のリベット用孔31cに挿入可能である。また、移動規制ピン71cは、スプリングシート34の貫通溝34fに挿入可能である。
【0056】
第2治具72は、第1治具71の開口71a内に配置されており、円板部72aと、1対の腕部72bと、を有している。円板部72aは、円形状であり、中心部に第2治具72を回転させるためのスプライン孔72cが形成されている。1対の腕部72bは、円板部72aの外周部から径方向外方にそれぞれ逆方向に延びている。そして、1対の腕部72bの径方向外側の端部には、押圧ピン72dが上方に突出して設けられている。
【0057】
以上のような第1治具71を図示しないテーブル上に固定する。また、テーブルには、回転可能なスプライン軸(図示せず)が設けられている。そして、第2治具72を第1治具71の開口71aに挿入し、スプライン孔72cにスプライン軸を挿入する。これにより、スプライン軸を回転させて、第2治具72を、第1治具71の開口71a内で、所定角度だけ回転させることが可能になる。
【0058】
<第1プレート31のセット>
図7に示すように、第1プレート31を第1治具71にセットする。具体的には、第1プレート31のリベット用孔31cに第1治具71の固定ピン71bを挿入し、第1治具71に第1プレート31を回転不能に固定する。なお、この状態では、第1治具71の移動規制ピン71c及び第2治具72の押圧ピン72dは、ともに第1支持部301の内部に位置している。その後、第1ブッシュ(
図7では省略している)を組み付ける。
【0059】
<ハブフランジ40のセット>
図5A及び
図8に示すように、ハブフランジ40をセットする。具体的には、第1プレート31の第1支持部301の全部と、ハブフランジ40の第1収容部401の全部と、が軸方向視で重なるようにハブフランジ40をセットする。すなわち、ハブフランジ40を、中立状態の位置からR2側に角度θ1だけ回転させ、オフセット角度が「0」になるようにセットする。
【0060】
<スプリングシート34及び第1窓部w1のコイルスプリング51のセット>
図5A及び
図9及びに示すように、第1窓部w1及び第2窓部w2にスプリングシート34をセットする。このとき、第1窓部w1において、R1側のスプリングシート34(第1シート部材の一例)の貫通溝34fには移動規制ピン71cが貫通し、R2側のスプリングシート34(第2シート部材の一例)の貫通溝34fには押圧ピン72dが貫通するようにセットする。したがって、第1窓部w1のR1側のスプリングシート34は回転が規制されるが、R2側のスプリングシート34は、第2治具72とともに回転可能である。
【0061】
この状態で、コイルスプリング51及び樹脂部材52を第1窓部w1にセットする。ここで、
図5Aに示すように、第1窓部w1の第1支持部301の全部と第1収容部401の全部とは軸方向視で重ね合わされており、しかも対向するスプリングシート34の支持面34aの間の距離Lは、コイルスプリング51の自由長Sfと同じである。したがって、コイルスプリング51を圧縮することなく容易に第1窓部w1に組み付けることが可能となる。
【0062】
<第2窓部w2へのコイルスプリング51のセット>
次に、
図5Bに示すように、第2治具72をR1側に角度2・θ1だけ回転させる。すなわち、第2治具72の押圧ピン72dによって第1窓部w1のコイルスプリング51の端面を直接押圧し、コイルスプリング51を圧縮しつつハブフランジ40をR1側に回転させる。これにより、第2窓部w2の第2支持部302の全部と第2収容部402の全部とが軸方向視で重ね合わされる。
【0063】
この状態で、
図5Cに示すように、第2窓部w2にスプリングシート34、コイルスプリング51、及び樹脂部材52をセットする。ここで、前述のとおり、対向するスプリングシート34の支持面34aの間の距離Lは、コイルスプリング51の自由長Sfと同じであるので、前記同様に、コイルスプリング51を圧縮することなく容易に第2窓部w2に組み付けることが可能となる。
【0064】
<中立状態へのセット>
次に、
図5Dに示すように、第2治具72をR2側に角度θ1だけ回転させる。これにより、第1プレート31とハブフランジ40とは、
図2に示すような中立状態の姿勢になる。
【0065】
[動作]
なお、以下の動作説明及び
図10の捩り特性では、ヒステリシストルクについては省略している。
【0066】
<第1窓部w1>
入力側プレート30とハブフランジ40とが相対回転していない中立状態では、第1窓部w1では、第1支持部301と第1収容部401とはオフセットして配置されているので、各窓部w1,w2において対向するスプリングシート34間の距離はコイルスプリング51の自由長Sfよりも短い。したがって、この中立状態では、
図10Bに示すように、圧縮されたコイルスプリング51による捩りトルク-tが発生している。
【0067】
ダンパユニット20にトルク変動が入力され、入力側プレート30がハブフランジ40に対して中立状態からR1側に(すなわちハブフランジ40がR2側に)オフセットの角度θ1だけ捩れると、第1支持部301の全部と第1収容部401の全部とが軸方向視で重なり合い、対向するスプリングシート34の間の距離はLとなり、コイルスプリング51の自由長Sfと同じになる。したがって、この状態では、
図10Bに示すように、捩りトルクは「0」となる。
【0068】
また、入力側プレート30がハブフランジ40に対してオフセットの角度θ1を超えてR1側に捩れると、対向するスプリングシート34の間の距離は、再びコイルスプリング51の自由長Sfよりも小さくなる。したがって、入力側プレート30のハブフランジ40に対する捩り角度がオフセット角度θ1を超えると、コイルスプリング51は自由長Sfから圧縮され、捩りトルクは次第に大きくなる。
【0069】
一方、入力側プレート30がハブフランジ40に対して中立状態からR2側に捩れる場合は、コイルスプリング51は、常に対向するスプリングシート34の間で圧縮される。すなわち、
図10Bに示すように、負側の捩り領域においては、捩り角度が大きくなるにしたがって捩りトルクも負側に大きくなる。
【0070】
<第2窓部w2>
第1窓部w1と同様に、中立状態では、第2窓部w2では、第2支持部302と第2収容部402とはオフセットして配置されているので、各窓部w1,w2において対向するスプリングシート34の間の距離はコイルスプリングの自由長Sfよりも短い。したがって、この中立状態では、
図10Cに示すように、圧縮されたコイルスプリング51による捩りトルク+tが発生している。
【0071】
入力側プレート30がハブフランジ40に対して中立状態からR1側に捩れる場合は、コイルスプリング51は、常に対向するスプリングシート34の間で圧縮される。すなわち、
図10Cに示すように、正側の捩り領域においては、捩り角度が大きくなるにしたがって捩りトルクも大きくなる。
【0072】
一方、入力側プレート30がハブフランジ40に対して中立状態からR2側にオフセットの角度θ1だけ捩れた場合は、対向するスプリングシート34の間の距離はLとなり、コイルスプリング51の自由長Sfと同じになる。したがって、入力側プレート30とハブフランジ40の捩り角度が-θ1の場合、
図10Cに示すように、捩りトルクは「0」となる。
【0073】
また、入力側プレート30がハブフランジ40に対してオフセット角度θ1を超えてR2側に捩れると、対向するスプリングシート34の間の距離は、再びコイルスプリング51の自由長Sfより狭くなる。したがって、捩り角度が-θ1を超えると、コイルスプリング51は自由長Sfから圧縮され、
図10Cに示すように、捩りトルクは負側に次第に大きくなる。
【0074】
<合成された捩り特性>
ダンパユニット全体としては、
図10Bに示す特性と
図10Cに示す特性とが合成され、
図10Aに示す捩り特性となる。すなわち、中立状態では捩りトルクは「0」であり、捩り角度が正側及び負側に大きくなるにしたがって、捩りトルクも正側及び負側に大きくなる。
【0075】
また、
図10Aに示すように、捩り角度が±θ2になると、各窓部w1,w2における樹脂部材52が圧縮される。したがって、全体としての捩り特性は2段特性になる。そしてさらに捩り角度が±θ3になると、フランジ42のストッパ用突起42bが第1プレート31のストッパ部31aに当接し、入力側プレート30とハブフランジ40との相対回転が禁止される。
【0076】
[他の実施形態]
本発明は以上のような実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱することなく種々の変形又は修正が可能である。
【0077】
(a)コイルスプリングの組み付け時に使用する各治具の形状等は前記実施形態に限定されない。例えば、ハブフランジの外周部に突起を設け、その突起を治具によって押圧し、ハブフランジ及びコイルスプリングを圧縮するようにしてもよい。
【0078】
(b)収容部、支持部、及びコイルスプリングの個数は一例であって、前記実施形態に限定されない。
【符号の説明】
【0079】
1 ダンパ装置
30 入力側プレート(第1回転体)
301 第1支持部
302 第2支持部
40 ハブフランジ(第2回転体)
401 第1収容部
402 第2収容部
51 コイルスプリング(第1弾性部材、第2弾性部材)
71 第1治具
71b 固定ピン(固定部)
71c 移動規制ピン
72 第2治具
72d 押圧ピン(当接部)