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特開2023-112342樹脂組成物、成形体および樹脂組成物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023112342
(43)【公開日】2023-08-14
(54)【発明の名称】樹脂組成物、成形体および樹脂組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 69/00 20060101AFI20230804BHJP
   C08L 67/00 20060101ALI20230804BHJP
   C08K 5/521 20060101ALI20230804BHJP
   C08K 3/08 20060101ALI20230804BHJP
【FI】
C08L69/00
C08L67/00
C08K5/521
C08K3/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022014076
(22)【出願日】2022-02-01
(71)【出願人】
【識別番号】594137579
【氏名又は名称】三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】大桃 佑介
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002CF00X
4J002CF06X
4J002CF07X
4J002CF08X
4J002CG01W
4J002CG02W
4J002DA018
4J002DA117
4J002DJ038
4J002DJ048
4J002DJ058
4J002DL008
4J002EW046
4J002FA048
4J002FD018
4J002FD206
(57)【要約】
【課題】 ポリカーボネート樹脂およびポリエステル樹脂からなる樹脂組成物であって、滞留時のシルバーの発生が抑制され、かつ、引張破壊呼びひずみが向上された樹脂組成物、成形体および樹脂組成物の製造方法を提供すること。
【解決手段】 ポリカーボネート樹脂(A)40~95質量部とポリエステル樹脂(B)5~60質量部とを含む樹脂(C)100質量部に対し、リン系エステル交換抑制剤(D)を0.001~4質量部含み、さらに、ポリエステル樹脂(B)がCa元素を0.80~8.00質量ppm含む、樹脂組成物。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカーボネート樹脂(A)40~95質量部とポリエステル樹脂(B)5~60質量部とを含む樹脂(C)100質量部に対し、
リン系エステル交換抑制剤(D)を0.001~4質量部含み、
さらに、ポリエステル樹脂(B)がCa元素を0.80~8.00質量ppm含む、
樹脂組成物。
【請求項2】
前記ポリエステル樹脂(B)が、Mg元素を0.10~8.00質量ppm含む、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記ポリエステル樹脂(B)が、Sb元素を200質量ppm以上含む、請求項1または請求項2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記ポリエステル樹脂(B)が、ポリエチレンテレフタレート樹脂を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記ポリエチレンテレフタレート樹脂が、リサイクル品を含む、請求項4に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記樹脂(C)100質量部に対し、無機充填材(E)を1~100質量部含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
前記無機充填材(E)100質量部に対し、前記リン系エステル交換抑制剤(D)を0.10質量部以上含む、請求項6に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
前記無機充填材(E)が、ガラス繊維、ガラスフレーク、炭素繊維、タルク、マイカ、ワラストナイト、および、カオリンからなる群から選ばれる1種以上を含む、請求項6または7に記載の樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の樹脂組成物から形成された成形体。
【請求項10】
ポリカーボネート樹脂(A)40~95質量部とポリエステル樹脂(B)5~60質量部とを含む樹脂(C)100質量部と、
リン系エステル交換抑制剤(D)0.001~4質量部とを、溶融混練することを含み、
前記ポリエステル樹脂(B)がCa元素を0.80~8.00質量ppmの割合で含む、
樹脂組成物の製造方法。
【請求項11】
前記樹脂組成物が、請求項1~8のいずれか1項に記載の樹脂組成物である、請求項10に記載の樹脂組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物、成形体および樹脂組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂は、汎用エンジニアリングプラスチックとして、透明性、機械的強度、電気的性質、耐熱性、寸法安定性などに優れているので、電気・電子機器部品、OA機器、機械部品、車輌部品、建築部材、各種容器、レジャー用品・雑貨類などの幅広い分野で使用されている。
また、ポリカーボネート樹脂の耐薬品、耐溶剤性、流動性を改良するために、ポリエチレンテレフタレート(PET)などのポリエステル樹脂を配合した樹脂組成物も広く用いられている。さらに、剛性や耐熱性、寸法安定性(低収縮、低線膨張化)の改善のためにタルク、マイカ等の無機充填材を配合することも行われている。
上記のような樹脂組成物は、通常のポリカーボネート樹脂に比べて流動性や耐薬品性に優れる一方、滞留熱安定性に劣り、自動車外装部材等の大型成形体を射出成形によって製造する際に、樹脂の滞留によってシルバーストリーク(シルバー)等の外観不良が発生することがある(特許文献1~4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013-018864号公報
【特許文献2】特開2012-077238号公報
【特許文献3】特開2015-048465号公報
【特許文献4】特開2018-119082号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の通り、ポリカーボネート樹脂およびポリエステル樹脂からなる樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂の優れた特性に加え、流動性や耐薬品性も優れている。しかしながら、滞留時のシルバーの発生の抑制が問題となる。また、自動車外装部材としての靭性を担保するため、引張破壊呼びひずみの向上が求められている。
本発明はかかる課題を解決することを目的とするものであって、ポリカーボネート樹脂およびポリエステル樹脂からなる樹脂組成物であって、滞留時のシルバーの発生が抑制され、かつ、引張破壊呼びひずみが向上された樹脂組成物、ならびに、成形体および樹脂組成物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題のもと、本発明者が検討を行った結果、ポリカーボネート樹脂と、特定のCa濃度のポリエステル樹脂と、リン系エステル交換抑制剤を配合することにより、上記課題を解決しうることを見出した。
具体的には、下記手段により、上記課題は解決された。
<1>ポリカーボネート樹脂(A)40~95質量部とポリエステル樹脂(B)5~60質量部とを含む樹脂(C)100質量部に対し、
リン系エステル交換抑制剤(D)を0.001~4質量部含み、
さらに、ポリエステル樹脂(B)がCa元素を0.80~8.00質量ppm含む、
樹脂組成物。
<2>前記ポリエステル樹脂(B)が、Mg元素を0.10~8.00質量ppm含む、<1>に記載の樹脂組成物。
<3>前記ポリエステル樹脂(B)が、Sb元素を200質量ppm以上含む、<1>または<2>に記載の樹脂組成物。
<4>前記ポリエステル樹脂(B)が、ポリエチレンテレフタレート樹脂を含む、<1>~<3>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<5>前記ポリエチレンテレフタレート樹脂が、リサイクル品を含む、<4>に記載の樹脂組成物。
<6>前記樹脂(C)100質量部に対し、無機充填材(E)を1~100質量部含む、<1>~<5>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<7>前記無機充填材(E)100質量部に対し、前記リン系エステル交換抑制剤(D)を0.10質量部以上含む、<6>に記載の樹脂組成物。
<8>前記無機充填材(E)が、ガラス繊維、ガラスフレーク、炭素繊維、タルク、マイカ、ワラストナイト、および、カオリンからなる群から選ばれる1種以上を含む、<6>~<7>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<9><1>~<8>のいずれか1つに記載の樹脂組成物から形成された成形体。
<10>ポリカーボネート樹脂(A)40~95質量部とポリエステル樹脂(B)5~60質量部とを含む樹脂(C)100質量部と、
リン系エステル交換抑制剤(D)0.001~4質量部とを、溶融混練することを含み、
前記ポリエステル樹脂(B)がCa元素を0.80~8.00質量ppmの割合で含む、
樹脂組成物の製造方法。
<11>前記樹脂組成物が、<1>~<8>のいずれか1つに記載の樹脂組成物である、<10>に記載の樹脂組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、滞留時のシルバーの発生が抑制され、かつ、引張破壊呼びひずみが向上された樹脂組成物、ならびに、成形体および樹脂組成物の製造方法を提供可能になった。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という)について詳細に説明する。なお、以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明は本実施形態のみに限定されない。
なお、本明細書において「~」とはその前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。
本明細書において、各種物性値および特性値は、特に述べない限り、23℃におけるものとする。
本明細書において、重量平均分子量および数平均分子量は、特に述べない限り、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィ)法により測定したポリスチレン換算値である。
本明細書において、ppmは質量ppmを意味する。
本明細書で示す規格で説明される測定方法等が年度によって異なる場合、特に述べない限り、2022年1月1日時点における規格に基づくものとする。
【0008】
本実施形態の樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂(A)40~95質量部とポリエステル樹脂(B)5~60質量部とを含む樹脂(C)100質量部に対し、リン系エステル交換抑制剤(D)を0.001~4質量部含み、さらに、ポリエステル樹脂(B)がCa元素を0.80~8.00質量ppm含むことを特徴とする。このような構成とすることにより、滞留時のシルバーの発生が抑制され、かつ、引張破壊呼びひずみが向上された樹脂組成物とすることができる。
ポリエステル樹脂が、Ca元素を下限値以上含むことにより、ポリカーボネート樹脂とポリエステル樹脂のエステル交換が程よく進むことによって、ポリエステル樹脂とポリカーボネート樹脂の相溶性が向上し、引張破壊呼びひずみが向上すると推定された。また、Ca元素を上限値以下とすることにより、過剰なエステル交換が抑制され、滞留時のシルバーの発生が抑制されたと推定された。さらに、リン系エステル交換抑制剤(D)(好ましくは有機ホスフェート化合物)を含むことにより、過剰なエステル交換が抑制されて、滞留時のシルバーの発生が抑制されたと考えられる。
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0009】
<ポリカーボネート樹脂(A)>
本実施形態の樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂を含む。本実施形態で用いられるポリカーボネート樹脂は、その種類に制限は無く、また、1種のみを用いてもよく、2種以上を、任意の組み合わせおよび任意の比率で併用してもよい。
前記ポリカーボネート樹脂は、一般式:-[-O-X-O-C(=O)-]-で表わされる、炭酸結合を有する基本構造の重合体である。なお、式中、Xは、一般には炭化水素基であるが、種々の特性付与のためヘテロ原子、ヘテロ結合の導入されたXを用いてもよい。
【0010】
また、前記ポリカーボネート樹脂は、炭酸結合に直接結合する炭素がそれぞれ芳香族炭素である芳香族ポリカーボネート樹脂、および脂肪族炭素である脂肪族ポリカーボネート樹脂に分類できるが、いずれも用いることもできる。なかでも、耐熱性、機械物性、電気特性等の観点から、芳香族ポリカーボネート樹脂が好ましい。
【0011】
前記ポリカーボネート樹脂の具体的な種類に制限はないが、例えば、ジヒドロキシ化合物とカーボネート前駆体とを反応させてなるポリカーボネート重合体が挙げられる。この際、ジヒドロキシ化合物およびカーボネート前駆体に加えて、ポリヒドロキシ化合物等を反応させるようにしてもよい。また、二酸化炭素をカーボネート前駆体として、環状エーテルと反応させる方法も用いてもよい。またポリカーボネート重合体は、直鎖状でもよく、分岐鎖状でもよい。さらに、ポリカーボネート重合体は1種の繰り返し単位からなる単重合体であってもよく、2種以上の繰り返し単位を有する共重合体であってもよい。このとき共重合体は、ランダム共重合体、ブロック共重合体等、種々の共重合形態を選択することができる。なお、通常、このようなポリカーボネート重合体は、熱可塑性の樹脂となる。
【0012】
芳香族ポリカーボネート樹脂の原料となるモノマーのうち、芳香族ジヒドロキシ化合物の例としては、
1,2-ジヒドロキシベンゼン、1,3-ジヒドロキシベンゼン(即ち、レゾルシノール)、1,4-ジヒドロキシベンゼン等のジヒドロキシベンゼン類;
【0013】
2,5-ジヒドロキシビフェニル、2,2'-ジヒドロキシビフェニル、4,4'-ジヒドロキシビフェニル等のジヒドロキシビフェニル類;
【0014】
2,2'-ジヒドロキシ-1,1'-ビナフチル、1,2-ジヒドロキシナフタレン、1,3-ジヒドロキシナフタレン、2,3-ジヒドロキシナフタレン、1,6-ジヒドロキシナフタレン、2,6-ジヒドロキシナフタレン、1,7-ジヒドロキシナフタレン、2,7-ジヒドロキシナフタレン等のジヒドロキシナフタレン類;
【0015】
2,2'-ジヒドロキシジフェニルエーテル、3,3'-ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4'-ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4'-ジヒドロキシ-3,3'-ジメチルジフェニルエーテル、1,4-ビス(3-ヒドロキシフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-ヒドロキシフェノキシ)ベンゼン等のジヒドロキシジアリールエーテル類;
【0016】
2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(即ち、ビスフェノールA)、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、
2,2-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン(即ち、ビスフェノールC)、
2,2-ビス(3-メトキシ-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、
2-(4-ヒドロキシフェニル)-2-(3-メトキシ-4-ヒドロキシフェニル)プロ
パン、
1,1-ビス(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、
2,2-ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、
2,2-ビス(3-シクロヘキシル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、
2-(4-ヒドロキシフェニル)-2-(3-シクロヘキシル-4-ヒドロキシフェニル
)プロパン、
α,α'-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1,4-ジイソプロピルベンゼン、
1,3-ビス[2-(4-ヒドロキシフェニル)-2-プロピル]ベンゼン、
ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、
ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキシルメタン、
ビス(4-ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、
ビス(4-ヒドロキシフェニル)(4-プロペニルフェニル)メタン、
ビス(4-ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、
ビス(4-ヒドロキシフェニル)ナフチルメタン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルエタン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-ナフチルエタン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、
2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、
2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ペンタン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヘキサン、
2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヘキサン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)オクタン、
2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)オクタン、
4,4-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヘプタン、
2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ノナン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)デカン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ドデカン、
等のビス(ヒドロキシアリール)アルカン類;
【0017】
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3-ジメチルシクロヘキサン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,4-ジメチルシクロヘキサン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,5-ジメチルシクロヘキサン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3-プロピル-5-メチルシクロヘキサン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3-tert-ブチル-シクロヘキサン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-4-tert-ブチル-シクロヘキサン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3-フェニルシクロヘキサン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-4-フェニルシクロヘキサン、
等のビス(ヒドロキシアリール)シクロアルカン類;
【0018】
9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレン、
9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレン等のカルド構造含有ビスフェノール類;
【0019】
4,4'-ジヒドロキシジフェニルスルフィド、
4,4'-ジヒドロキシ-3,3'-ジメチルジフェニルスルフィド等のジヒドロキシジアリールスルフィド類;
【0020】
4,4'-ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4'-ジヒドロキシ-3,3'-ジメチルジフェニルスルホキシド等のジヒドロキシジアリールスルホキシド類;
【0021】
4,4'-ジヒドロキシジフェニルスルホン、
4,4'-ジヒドロキシ-3,3'-ジメチルジフェニルスルホン等のジヒドロキシジアリールスルホン類;
等が挙げられる。
【0022】
これらの中でもビス(ヒドロキシアリール)アルカン類が好ましく、中でもビス(4-ヒドロキシフェニル)アルカン類が好ましく、特に耐熱性や機械特性、ポリエステル樹脂との相溶性の点から2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(即ち、ビスフェノールA)、または2,2-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン(即ち、ビスフェノールC)が好ましく、さらには、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(即ち、ビスフェノールA)がより好ましい。
なお、芳香族ジヒドロキシ化合物は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で併用してもよい。また、シロキサン構造を有するポリマーまたはオリゴマーとの共重合体等の、ポリカーボネート樹脂を主体とする共重合体であってもよい。
【0023】
また、脂肪族ポリカーボネート樹脂の原料となるモノマーの例を挙げると、
エタン-1,2-ジオール、プロパン-1,2-ジオール、プロパン-1,3-ジオール、2,2-ジメチルプロパン-1,3-ジオール、2-メチル-2-プロピルプロパン-1,3-ジオール、ブタン-1,4-ジオール、ペンタン-1,5-ジオール、ヘキサン-1,6-ジオール、デカン-1,10-ジオール等のアルカンジオール類;
【0024】
シクロペンタン-1,2-ジオール、シクロヘキサン-1,2-ジオール、シクロヘキサン-1,4-ジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、4-(2-ヒドロキシエチル)シクロヘキサノール、2,2,4,4-テトラメチル-シクロブタン-1,3-ジオール等のシクロアルカンジオール類;
【0025】
エチレングリコール、2,2'-オキシジエタノール(即ち、ジエチレングリコール)、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、スピログリコール等のグリコール類;
【0026】
1,2-ベンゼンジメタノール、1,3-ベンゼンジメタノール、1,4-ベンゼンジメタノール、1,4-ベンゼンジエタノール、1,3-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、1,4-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、2,3-ビス(ヒドロキシメチル)ナフタレン、1,6-ビス(ヒドロキシエトキシ)ナフタレン、4,4'-ビフェニルジメタノール、4,4'-ビフェニルジエタノール、1,4-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)ビフェニル、ビスフェノールAビス(2-ヒドロキシエチル)エーテル、ビスフェノールSビス(2-ヒドロキシエチル)エーテル等のアラルキルジオール類;
【0027】
1,2-エポキシエタン(即ち、エチレンオキシド)、1,2-エポキシプロパン(即ち、プロピレンオキシド)、1,2-エポキシシクロペンタン、1,2-エポキシシクロヘキサン、1,4-エポキシシクロヘキサン、1-メチル-1,2-エポキシシクロヘキサン、2,3-エポキシノルボルナン、1,3-エポキシプロパン等の環状エーテル類;等が挙げられる。
【0028】
前記ポリカーボネート樹脂の原料となるモノマーのうち、カーボネート前駆体の例を挙げると、カルボニルハライド、カーボネートエステル等が使用される。なお、カーボネート前駆体は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で併用してもよい。
【0029】
カルボニルハライドとしては、具体的には例えば、ホスゲン;ジヒドロキシ化合物のビスクロロホルメート体、ジヒドロキシ化合物のモノクロロホルメート体等のハロホルメート等が挙げられる。
【0030】
カーボネートエステルとしては、具体的には例えば、ジフェニルカーボネート、ジトリルカーボネート等のジアリールカーボネート類;ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等のジアルキルカーボネート類;ジヒドロキシ化合物のビスカーボネート体、ジヒドロキシ化合物のモノカーボネート体、環状カーボネート等のジヒドロキシ化合物のカーボネート体等が挙げられる。
【0031】
<<ポリカーボネート樹脂の製造方法>>
本実施形態の樹脂組成物に用いられるポリカーボネート樹脂の製造方法は、特に限定されるものではなく、任意の方法を採用できる。その例を挙げると、界面重合法、溶融エステル交換法、ピリジン法、環状カーボネート化合物の開環重合法、プレポリマーの固相エステル交換法などを挙げることができる。界面重合法の詳細は、国際公開第2020/013127号の段落0031~0038の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。溶融エステル交換法の詳細は、国際公開第2020/013127号の段落0039~0044の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0032】
<<ポリカーボネート樹脂の物性>>
本実施形態の樹脂組成物に用いられるポリカーボネート樹脂の分子量は任意であり、適宜選択して決定すればよいが、溶液粘度から換算した粘度平均分子量[Mv]は、通常10000以上、好ましくは12000以上、より好ましくは14000以上であり、また、通常40000以下、好ましくは35000以下、より好ましくは30000以下であり、25000以下であってもよい。粘度平均分子量を前記範囲の下限値以上とすることにより本実施形態の樹脂組成物の機械的強度をより向上させることができ、機械的強度の要求の高い用途に用いる場合により好ましいものとなる。一方、粘度平均分子量を前記範囲の上限値以下とすることにより本実施形態の樹脂組成物の流動性低下を抑制して改善でき、成形加工性を高めて成形加工を容易に行えるようになる。なお、本実施形態の樹脂組成物においては、粘度平均分子量の異なる2種以上のポリカーボネート樹脂を混合して用いてもよい。粘度平均分子量の異なる2種以上のポリカーボネート樹脂を混合して用いた場合の粘度平均分子量は、混合したポリカーボネート樹脂を用いて下記式(1)より算出した値である。
【0033】
前記ポリカーボネート樹脂は、高分子量のポリカーボネート樹脂、例えば、好ましくは粘度平均分子量[Mv]が、40000超のポリカーボネート樹脂を含有していてもよい。このような高分子量のポリカーボネート樹脂を含むことにより、本実施形態の樹脂組成物の機械強度をより向上させることが容易になる。前記高分子量のポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量は、50000以上であることが好ましく、55000以上であることが好ましく、60000以上であることがより好ましく、61000以上であることがさらに好ましく、62000以上であることが一層好ましい。前記高分子量のポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量は、また、90000以下であることが好ましく、85000以下であることがより好ましく、80000以下であることがさらに好ましく、75000以下であることが一層好ましく、70000以下であることがより一層好ましい。
【0034】
前記高分子量ポリカーボネート樹脂を含む場合、その含有量は、ポリカーボネート樹脂中、5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、15質量%以上であることがさらに好ましく、20質量%以上であることが一層好ましい。 また、上限は、好ましくは40質量%以下であり、より好ましくは30質量%以下である。
【0035】
ここで、粘度平均分子量[Mv]とは、溶媒としてメチレンクロライドを使用し、ウベローデ粘度計を用いて温度25℃での極限粘度[η](単位dL/g)を求め、Schnellの粘度式、すなわち、η=1.23×10-4Mv0.83 から算出される値を意味する。また極限粘度[η]とは、各溶液濃度[C](g/dL)での比粘度[ηsp]を測定し、下記式(1)により算出した値である。
【0036】
【数1】
【0037】
前記ポリカーボネート樹脂の末端水酸基濃度は任意であり、適宜選択して決定すればよいが、通常1,000質量ppm以下、好ましくは800質量ppm以下、より好ましくは600質量ppm以下である。このようにすることで、樹脂組成物の滞留熱安定性および色調をより向上させることができる。また、その下限は、特に溶融エステル交換法で製造されたポリカーボネート樹脂では、通常10質量ppm以上、好ましくは30質量ppm以上、より好ましくは40質量ppm以上である。これにより、分子量の低下を抑制し、脂組成物の機械的特性をより向上させることができる。末端水素基濃度が異なる2種以上のポリカーボネート樹脂を混合して用いた場合には、混合したポリカーボネート樹脂を用いて、下記に記載の方法で測定した実測値を末端水酸基濃度とする。
なお、末端水酸基濃度の単位は、ポリカーボネート樹脂の質量に対する、末端水酸基の質量を質量ppmで表示したものである。その測定方法は、四塩化チタン/酢酸法による比色定量(Macromol.Chem.88 215(1965)に記載の方法)にて行われる。
【0038】
なお、ポリカーボネート樹脂は、ポリカーボネート樹脂の1種のみを含む態様に限定されず、モノマー組成、分子量、末端水酸基濃度等が異なるポリカーボネート樹脂の2種以上を混合して使用してもよい。
【0039】
さらに、例えば、耐衝撃性をさらに高める目的で、ポリカーボネート樹脂を、シロキサン構造を有するオリゴマーまたはポリマーとの共重合体;熱酸化安定性をさらに向上させる目的でリン原子を有するモノマー、オリゴマーまたはポリマーとの共重合体;熱酸化安定性を向上させる目的で、ジヒドロキシアントラキノン構造を有するモノマー、オリゴマーまたはポリマーとの共重合体;光学的性質を改良するためにポリスチレン等のオレフィン系構造を有するオリゴマーまたはポリマーとの共重合体;耐薬品性を向上させる目的でポリエステル樹脂オリゴマーまたはポリマーとの共重合体;等の、ポリカーボネート樹脂を主体とする共重合体として構成してもよい。
上記共重合体を含むポリカーボネート樹脂を含む場合、ポリカーボネート樹脂中の共重合体成分は10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましく、3質量%以下がさらに好ましい。下限値は特に定められるものではないが、0.5質量%以上が好ましい。
【0040】
また、成形体の外観の向上や流動性の向上を図るため、ポリカーボネート樹脂は、ポリカーボネートオリゴマーを含有していてもよい。このポリカーボネートオリゴマーの粘度平均分子量[Mv]は、通常1,500以上、好ましくは2,000以上であり、また、通常9,500以下、好ましくは9,000以下である。上記ポリカーボネートオリゴマーを含有する場合、含有されるポリカーボネートオリゴマーは、ポリカーボネート樹脂(ポリカーボネートオリゴマーを含む)の30質量%以下とすることが好ましく、15質量%以下がより好ましく、5質量%以下がさらに好ましく、1質量%以下が一層好ましい。下限値は特に定められるものではないが、0.1質量%以上が好ましい。
【0041】
さらにポリカーボネート樹脂は、バージン原料だけでなく、使用済みの製品から再生されたポリカーボネート樹脂(いわゆるマテリアルリサイクルされたポリカーボネート樹脂)であってもよい。前記の使用済みの製品としては、例えば、光学ディスク等の光記録媒体;導光板;自動車窓ガラス、自動車ヘッドランプレンズ、風防等の車両透明部材;水ボトル等の容器;メガネレンズ;防音壁、ガラス窓、波板等の建築部材などが挙げられる。また、製品の不適合品、スプルー、ランナー等から得られた粉砕品またはそれらを溶融して得たペレット等も使用可能である。
【0042】
<ポリエステル樹脂(B)>
本実施形態の樹脂組成物は、Ca元素を0.80~8.00質量ppm含むポリエステル樹脂を含む。前記ポリエステル樹脂がCa元素を下限値以上含むことにより、ポリカーボネート樹脂とポリエステル樹脂のエステル交換が程よく進むことによって相溶性が向上し、引張破壊呼びひずみが向上されると推定される。また、Ca元素を下限値以下含むことにより、過剰なエステル交換が抑制され、滞留時のシルバーの発生が抑制されると推定される。
【0043】
前記ポリエステル樹脂は、Ca元素を0.80~8.00質量ppm含む。前記ポリエステル樹脂は、Ca元素含有量を1.10質量ppm以上含むことが好ましく、1.50質量ppm以上含むことがより好ましく、2.50質量ppm以上含むことがさらに好ましく、4.00質量ppm以上含んでいてもよい。前記ポリエステル樹脂はCa元素含有量を7.00質量ppm以下含むことが好ましく、6.50質量ppm以下含むことがより好ましく、6.00質量ppm以下含むことがさらに好ましく、5.40質量ppm以下含んでいてもよく、5.00質量ppm以下含んでいてもよい。
【0044】
前記ポリエステル樹脂は、Mg元素を0.10~8.00質量ppm含むことが好ましい。前記ポリエステル樹脂がMg元素を、0.30質量ppm以上含むことが好ましく、0.60質量ppm以上含むことがより好ましく、0.90質量ppm以上含むことがさらに好ましく、1.60質量ppm以上含んでいてもよい。前記下限値以上含むことにより、引張破壊呼びひずみがより向上する傾向にある。この理由は、ポリカーボネート樹脂とポリエステル樹脂のエステル交換が程よく進むことによって、相溶性が向上するためであると推定される。前記ポリエステル樹脂はMg元素含有量を7.00質量ppm以下含むことが好ましく、5.50質量ppm以下含むことがより好ましく、4.00質量ppm以下含むことがさらに好ましく、3.00質量ppm以下含むことが一層好ましく、2.50質量ppm以下含むことが一層好ましい。前記下限値以下含むことにより、滞留時のシルバーの発生がより抑制される傾向にある。この理由は、エステル交換が抑制されたためと推定される。
【0045】
前記ポリエステル樹脂中のCa元素およびMg元素の合計が、0.90質量ppm以上含むことが好ましく、1.50質量ppm以上含むことがより好ましく、1.80質量ppm以上含むことがさらに好ましく、3.00質量ppm以上含むことが一層好ましく、5.00質量ppm以上含むことがより一層好ましい。前記下限値以上含むことにより、引張破壊呼びひずみがより向上する傾向にある。この理由は、ポリカーボネート樹脂とポリエステル樹脂のエステル交換が程よく進むことによって相溶性が向上したからであると推定された。前記ポリエステル樹脂中のCa元素およびMg元素の合計が、16.00質量ppm以下含むことが好ましく、13.00質量ppm以下含むことがより好ましく、10.00質量ppm以下含むことがさらに好ましく、8.0質量ppm以下含んでいることが一層好ましく、5.0質量ppm以下含んでいてもよい。前記下限値以下含むことにより、滞留時のシルバーの発生がより抑制される傾向にある。この理由は、エステル交換が抑制されたためと推定された。
【0046】
前記ポリエステルは、Sb元素を100質量ppm以上含むことが好ましく、200質量ppm以上含むことがより好ましく、210質量ppm以上含むことがより好ましい。前記下限値以上とすることにより、滞留時のシルバーの発生がより抑制される傾向にある。前記ポリエステル樹脂はSb元素を500質量ppm以下含むことが好ましい。
【0047】
前記ポリエステル中のCa元素、Mg元素およびSb元素含有量(質量ppm)の分析は、ICP発光分析法によって行った。この場合、前処理として試料200mgを秤量し、ケルダール湿式分解(硫酸/硝酸、硫酸/過酸化水素)を行い、50mLに定容し、続いて、ICP発光分析を酸濃度マッチング一点検量法にて行う。ICP発光分析は、Thrmo Fisher Scientific社製「iCAP76000uo」を用い、axial/radial測光にて行うことができる。
なお、前記Ca元素、Mg元素、Sb元素は、ポリエステル樹脂の中で必ずしも元素単体として存在している必要はなく、化合物の一部として含まれていてもよい。本実施形態においては、後述する実施例で述べる<金属元素の量の測定>の測定値を前記金属元素の量とする。
【0048】
本実施形態におけるポリエステル樹脂とは、ジカルボン酸類またはその反応性誘導体からなるジカルボン酸成分と、ジオール類またはそのエステル誘導体からなるジオール成分とを主成分とする縮合反応により得られる重合体または共重合体であるが、好ましくは、芳香族ジカルボン酸を主たる酸成分とし、これを、脂肪族ジオールを主とするアルコールと重縮合反応させて得られるポリエステル樹脂を用いる。前記ポリエステル樹脂は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせおよび任意の比率で併用してもよい。
【0049】
芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ビフェニルジカルボン酸、4,4’-ビフェニルエーテルジカルボン酸、4,4’-ビフェニルメタンジカルボン酸、4,4’-ビフェニルスルホンジカルボン酸、4,4’-ビフェニルイソプロピリデンジカルボン酸、1,2-ビス(フェノキシ)エタン-4,4’-ジカルボン酸、2,5-アントラセンジカルボン酸、2,6-アントラセンジカルボン酸、4,4’-p-タ-フェニレンジカルボン酸、2,5-ピリジンジカルボン酸等が挙げられ、これらの置換体(例えば、5-メチルイソフタル酸などのアルキル基置換体など)や反応性誘導体(例えばテレフタル酸ジメチル、テレフタル酸ジエチルなどのアルキルエステル誘導体など)等を用いることもできる。
【0050】
これらのうち、テレフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸およびそれらのアルキルエステル誘導体がより好ましく、テレフタル酸およびそのアルキルエステル誘導体が特に好ましい。これら芳香族ジカルボン酸は、1種を単独で用いても2種以上を併用してもよく、芳香族ジカルボン酸と共にアジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸等の脂肪族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環族ジカルボン酸等の1種以上併用することも可能である。
【0051】
ジオール類としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、トリエチレングリコール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、デカメチレングリコール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール等の脂肪族ジオール類;1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、シクロヘキサンジオール、トランス-またはシス-2,2,4,4-テトラメチル-1,3-シクロブタンジオール等の脂環族ジオール類;p-キシレンジオール、ビスフェノールA、テトラブロモビスフェノールA、テトラブロモビスフェノールA-ビス(2-ヒドロキシエチルエーテル)等の芳香族ジオール類等を挙げることができ、これらの置換体も使用することができる。
【0052】
これらのうち、耐熱性、寸法安定性等の点から、脂肪族ジオールが好ましく、エチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノールがより好ましく、エチレングリコールが特に好ましい。
【0053】
ジオールは、単独で用いても2種以上を併用してもよい。また、ジオール成分として、分子量400~6,000の長鎖ジオール類、すなわちポリエチレングリコール、ポリ-1,3-プロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等の1種以上を上記ジオ-ル類と併用して共重合させてもよい。
【0054】
また、本実施形態の樹脂組成物に用いられるポリエステル樹脂は、パラヒドロキシ安息香酸などのヒドロキシカルボン酸や、その他のカルボン酸、上記ジオール以外のアルコールを共重合させることができ、本発明ではこのような共重合樹脂を用いることもできる。しかしながら、このような共重合成分は少量であるのが好ましく、ポリエステル樹脂(B)の80質量%以上、さらには90質量%以上が、芳香族ジカルボン酸および脂肪族ジオールからの成分であるのが好ましい。また芳香族ジカルボン酸および脂肪族ジオールは、それぞれその80モル%以上、さらには90モル%以上を1種の化合物が占めるのが好ましい。
【0055】
本実施形態の樹脂組成物に用いられるポリエステル樹脂は、ポリアルキレンテレフタレートが好ましい。ここで、ポリアルキレンテレフタレートとは、アルキレンテレフタレート構成単位を含む樹脂をいい、アルキレンテレフタレート構成単位と他の構成単位との共重合体であってもよい。
【0056】
ポリアルキレンテレフタレートとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンナフタレート(PBN)、ポリ(シクロヘキサン-1,4-ジメチレン-テレフタレート)、ポリトリメチレンテレフタレート等が挙げられる。中でも、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)が好ましく、ポリエチレンテレフタレート(PET)がより好ましい。
【0057】
また、ポリアルキレンテレフタレートとして、上記の他、アルキレンテレフタレート構成単位を主構成単位とするアルキレンテレフタレート共重合体や、ポリアルキレンテレフタレートを主成分とするポリアルキレンテレフタレート混合物が挙げられる。さらに、ポリオキシテトラメチレングリコール(PTMG)等のエラストマー成分を含有または共重合したものも用いることができる。
【0058】
アルキレンテレフタレートコポリエステルとしては、2種以上のジオール成分とテレフタル酸からなるコポリエステルや、ジオール成分とテレフタル酸、およびテレフタル酸以外のジカルボン酸からなるコポリエステルが挙げられる。ジオール成分を2種以上用いる場合には、上述したジオール成分から適宜選択して決定すればよいが、主構成単位であるアルキレンテレフタレートに共重合されるモノマー単位を、25質量%以内とすることで、耐熱性が良好となるので好ましい。
【0059】
例えば、エチレングリコール/イソフタル酸/テレフタル酸共重合体(イソフタル酸共重合ポリエチレンテレフタレート)や、1,4-ブタンジオール/イソフタル酸/テレフタル酸共重合体(イソフタル酸共重合ポリブチレンテレフタレート)等の、アルキレンテレフタレート構成単位を主構成単位とする、アルキレンテレフタレートコポリエステルの他に、1,4-ブタンジオール/イソフタル酸/デカンジカルボン酸共重合体等が挙げられ、中でもアルキレンテレフタレートコポリエステルが好ましい。
【0060】
本実施形態に用いられるポリエステル樹脂としては、アルキレンテレフタレートのコポリエステルを用いる場合には、上述のイソフタル酸共重合ポリエチレンテレフタレートや、イソフタル酸共重合ポリブチレンテレフタレートなどが好ましく、特にこれらの内、耐熱性の観点から、イソフタル酸成分が25質量%以内のものが好ましい。
【0061】
<<ポリエチレンテレフタレート樹脂>>
本実施形態に用いられるポリエステル樹脂としては、特にポリエチレンテレフタレートがポリカーボネート樹脂との相溶性や機械特性の点で好ましい。ここで、ポリエチレンテレフタレートとは、テレフタル酸単位およびエチレングリコール単位がエステル結合した構造を有するポリエステル樹脂であって、ポリエチレンテレフタレート樹脂(ホモポリマー)の他に、テレフタル酸単位およびエチレングリコール単位以外の、他の共重合成分を含むポリエチレンテレフタレート共重合体や、ホモポリマーとポリエチレンテレフタレート共重合体との混合物を含む。
【0062】
前記ポリエチレンテレフタレート樹脂は、テレフタル酸以外のジカルボン酸単位を1種または2種以上含んでいてもよい。
他のジカルボン酸の具体例としては、イソフタル酸、オルトフタル酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、2,5-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、ビフェニル-2,2’-ジカルボン酸、ビフェニル-3,3’-ジカルボン酸、ビフェニル-4,4’-ジカルボン酸、ビス(4,4’-カルボキシフェニル)メタン、アントラセンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸類、1,4-シクロへキサンジカルボン酸、4,4’-ジシクロヘキシルジカルボン酸等の脂環族ジカルボン酸類、および、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ダイマー酸等の脂肪族ジカルボン酸類等が挙げられる。
本実施形態で用いられるポリエチレンテレフタレート樹脂は、テレフタル酸単位が全ジカルボン酸単位の80モル%以上を占めることが好ましく、90モル%以上を占めることがより好ましく、95モル%以上を占めることがさらに一層好ましく、99モル%以上であってもよい。
【0063】
ジオール単位としては、エチレングリコールの外に1種または2種以上の他のジオール単位を含んでいてもよい。
他のジオール単位の具体例としては、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、ペンタメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール等の脂肪族グリコール、シクロヘキサンジメタノール等の脂環式グリコール、ビスフェノールA、ビスフェノールS等の芳香族ジヒドロキシ化合物誘導体等が挙げられる。
本実施形態で用いるポリエチレンテレフタレート樹脂は、エチレングルコール単位が全ジオール単位の80モル%以上を占めることが好ましく、90モル%以上を占めることがより好ましく、95モル%以上を占めることがさらに一層好ましく、99モル%以上であってもよい。
【0064】
さらに、前記ポリエチレンテレフタレート樹脂は、分岐成分、例えばトリカルバリル酸、トリメリシン酸、トリメリット酸等の如き三官能、もしくはピロメリット酸の如き四官能のエステル形成能を有する酸、またはグリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリトリット等の如き三官能もしくは四官能のエステル形成能を有するアルコールを、例えば1.0モル%以下、好ましくは0.5モル%以下、さらに好ましくは0.3モル%以下を共重合したものであってもよい。
【0065】
本実施形態の樹脂組成物で用いられるポリエチレンテレフタレート樹脂は、テレフタル酸単位およびエチレングリコール単位がエステル結合したポリエチレンテレフタレート単独重合体が好ましい。また、カルボン酸単位として、前記のテレフタル酸以外のジカルボン酸1種以上および/またはジオール単位として、前記エチレングリコール以外のジオール1種以上を含むポリエチレンテレフタレート共重合体であってもよい。前記ポリエチレンテレフタレート樹脂は、テレフタル酸単位、および、エチレングリコール単位が末端基を除く全単位の85モル%以上を占めることが好ましく、90モル%以上を占めることがより好ましく、95モル%以上を占めることがさらに好ましく、98モル%以上を占めることが一層好ましく、99モル%以上を占めることがより一層好ましい。
【0066】
前記ポリエチレンテレフタレート樹脂が、共重合により変性したポリエチレンテレフタレート樹脂である場合、イソフタル酸共重合ポリエチレンテレフタレート樹脂が好ましい。
中でも、ジカルボン酸成分に由来する全単位中、イソフタル酸に由来する単位(以下、「イソフタル酸単位」と記すことがある。)が0.5モル%以上15モル%以下であるイソフタル酸共重合ポリエチレンテレフタレート樹脂が好ましい。このような特定のポリエチレンテレフタレート樹脂を用いることにより、成形体の引張破壊呼びひずみがより向上する傾向にある。
【0067】
前記イソフタル酸単位の割合は、ジカルボン酸成分に由来する全単位中、0.7モル%以上であることが好ましく、0.9モル%以上であることがより好ましく、1.1モル%以上であることがさらに好ましく、1.3モル%以上であることが一層好ましく、1.5モル%以上であることがより一層好ましい。また、前記イソフタル酸単位の割合は、ジカルボン酸成分に由来する全単位中、順に、10.0モル%以下、8.0モル%以下、5.0モル%以下、4.0モル%以下、3.5モル%以下であることが好ましく、3.0モル%以下であることがより好ましく、2.5モル%以下であることがさらに好ましく、2.3モル%以下であることが一層好ましく、2.0モル%以下であることがより一層好ましい。
【0068】
本実施形態の樹脂組成物で用いられるポリエチレンテレフタレート樹脂の固有粘度は、0.50dL/g以上が好ましく、0.60dL/g以上であることがより好ましく、0.65dL/g以上であることがさらに好ましく、0.70dL/g以上であることが一層好ましく、0.73dL/g以上であることがより好ましく、0.76dL/g超であることがさらに好ましく、0.78dL/g以上であることが一層好ましく、0.80dL/g以上であってもよい。前記下限値以上とすることにより、成形体の引張破壊呼びひずみがより向上する傾向にある。また、前記ポリエチレンテレフタレート樹脂の固有粘度は、2.0dL/g以下であることが好ましく、1.5dL/g以下であることがより好ましく、1.2dL/g以下であることがさらに好ましく、0.95dL/g以下であることが一層好ましく、0.85dL/g以下であることがより一層好ましい。前記上限値以下とすることにより、溶融混練時や成形時での溶融粘度が高すぎることなく、押出し機や成形機への負荷が低減される傾向にある。
本実施形態の樹脂組成物がポリエチレンテレフタレート樹脂を2種以上含む場合、固有粘度は、混合物の固有粘度とする。
【0069】
本発明において、ポリエチレンテレフタレートの固有粘度は、フェノール/テトラクロロエタン(重量比1/1)の混合溶媒を使用し、30℃で測定した値である。
【0070】
また、本実施形態の樹脂組成物で用いられるポリエチレンテレフタレート樹脂の末端カルボキシル基量は適宜選択して決定すればよいが、通常、60eq/ton以下であり、50eq/ton以下であることが好ましく、30eq/ton以下であることがさらに好ましい。なお、ポリエチレンテレフタレート樹脂の末端カルボキシル基濃度は、ベンジルアルコール25mLにポリエチレンテレフタレート樹脂0.5gを溶解し、水酸化ナトリウムの0.01モル/Lベンジルアルコール溶液を使用して滴定することにより求める値である。
末端カルボキシル基量を調整する方法としては、重合時の原料仕込み比、重合温度、減圧方法などの重合条件を調整する方法や、末端封鎖剤を反応させる方法等、従来公知の任意の方法により行えばよい。
【0071】
なお、ポリエチレンテレフタレートの末端カルボキシル基濃度は、ベンジルアルコール25mLにポリエチレンテレフタレート0.5gを溶解し、水酸化ナトリウムの0.01モル/Lベンジルアルコール溶液を使用して滴定することにより求めることができる。
【0072】
本実施形態で用いられるポリエチレンテレフタレート樹脂は、環状三量体量を0.50質量%以下含むことが好ましく、0.40質量%以下含むことがより好ましく、0.30質量%以下であるものがさらに好ましい。前記上限値以下とすることにより、滞留時のシルバーの発生がより低減される傾向にある。下限値は特に定められるものではないが、0.1質量%以上が現実的である。
なお、環状三量体量は、ポリエチレンテレフタレート樹脂0.1gを溶解可能なクロロホルム等の溶媒に溶かし、溶解・再沈を行い、上澄み液を濾過後、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によって測定した。また定量は、1点による絶対検量線法により実施し、DMT(テレフタル酸ジメチル)換算での値とした。
【0073】
このようなポリエチレンテレフタレート樹脂(以下、「PET」と記すことがある。)としては、バージン品(以下、「バージンPET」と記すことがある。)、リサイクル品(以下、「リサイクルPET」と記すことがある。)、バイオ由来品(以下、「バイオPET」と記すことがある。)およびこれらの混合物を用いることが出来る。なお、バイオPETとは、原料の少なくとも一部が生物資源(バイオマス)由来であるポリエチレンテレフタレート樹脂を言う。本実施形態で用いるポリエステル樹脂は、バージン品、リサイクル品、バイオ由来品のいずれか、または併用であってもよいが、環境負荷低減の点でリサイクル品であることが好ましい。
リサイクルPETとしては、回収された使用済PETボトルやフィルム等を粉砕、アルカリ洗浄して繊維等に再利用するマテリアルリサイクルにより得られたもの、ケミカルリサイクル(化学分解法)より得られたものおよびメカニカルリサイクルにより得られたもの等が挙げられる。
ケミカルリサイクルは、回収された使用済PETボトルやフィルム等を化学分解して、原料レベルに戻してポリエチレンテレフタレート樹脂を再合成するものである。一方、メカニカルリサイクルは、上述したマテリアルリサイクルにおけるアルカリ洗浄をより厳密に行うこと、あるいは高温で真空乾燥すること等によって、マテリアルリサイクルよりもポリエチレンテレフタレート樹脂の汚れを確実に取り除くことを可能にした手法である。
例えば、使用済PETボトルからは、異物が取り除かれた後に、粉砕・洗浄され、次に押出機によりペレット化された後に、約120~150℃環境下で結晶化され、さらにその後、窒素気流下または高減圧下において約210℃環境下で固相重合されて、リサイクルPETが得られる。
バイオPETとしてはPETの原料であるモノエチレングリコールをさとうきび由来のバイオ原料に替えて製造されたPETが挙げられる。
【0074】
<樹脂(C)のブレンド比率>
本実施形態の樹脂組成物においては、樹脂(C)100質量部中にポリカーボネート樹脂(A)40~95質量部とポリエステル樹脂(B)5~60質量部を含む。
本実施形態の樹脂組成物においては、樹脂(C)100質量部中のポリカーボネート樹脂(A)の割合が、50質量部以上が好ましく、55質量部以上がより好ましく、60質量部以上がさらに好ましく、65質量部以上が一層好ましく、70質量部以上、80質量部以上、85質量部以上であってもよい。また、本実施形態の樹脂組成物においては、樹脂(C)100質量部中に、ポリカーボネート樹脂(A)の割合が、90質量部以下が好ましく、85質量部以下がより好ましく、80質量部以下であってもよい。
本実施形態の樹脂組成物においては、樹脂(C)100質量部中のポリエステル樹脂(B)の割合が、10質量部以上が好ましく、15質量部以上がより好ましく、20質量部以上であってもよい。また、本実施形態の樹脂組成物においては、樹脂(C)100質量部中に、ポリエステル樹脂(B)の割合が、50質量部以下が好ましく、45質量部以下がより好ましく、40質量部以下がさらに好ましく、35質量部以下が一層好ましく、30質量部以下、20質量部以下、15質量部以下であってもよい。
本実施形態の樹脂組成物においては、樹脂(C)100質量部中のポリカーボネート樹脂(A)とポリエステル樹脂(B)の質量比(A)/(B)が、95/5~40/60が好ましい。前記質量比(A)/(B)が、90/10~45/55であることがより好ましく、85/5~50/50であることがさらに好ましく、80/20~60/40が一層好ましい。
【0075】
本実施形態の樹脂組成物において、樹脂(C)中のポリカーボネート樹脂(A)とポリエステル樹脂(B)の合計量は、樹脂(C)の50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることがさらに好ましく、90質量%以上であることが一層好ましく、95質量%以上であることがより一層好ましく、99質量%以上であってもよい。前記下限値以上とすることにより、引張破壊呼びひずみがより向上する傾向にある。また、上限値は、樹脂(C)の全量がポリカーボネート樹脂(A)とポリエステル樹脂(B)となる量であり、100質量%である。前記上限値以下とすることにより、滞留時のシルバーの発生がより抑制される傾向にある。
上記樹脂(C)は、ポリカーボネート樹脂およびポリエステル樹脂を、それぞれ、1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0076】
本実施形態の樹脂組成物における樹脂(C)の含有量は、樹脂組成物の50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましく、70質量%以上であることがさらに好ましく、75質量%以上であることが一層好ましく、80質量%以上であってもよい。前記下限値以上とすることにより、引張破壊呼びひずみがより向上する傾向にある。また、樹脂(C)の上限値は、樹脂組成物中のリン系エステル交換抑制剤(D)以外の成分が樹脂(C)となる量であり、例えば、99.9質量%以下である。前記上限値以下とすることにより、滞留時のシルバーの発生がより抑制される傾向にある。
【0077】
<リン系エステル交換抑制剤(D)>
本実施形態の樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂(A)40~95質量部とポリエステル樹脂(B)5~60質量部とを含む樹脂(C)100質量部に対し、リン系エステル交換抑制剤(D)を0.001~4質量部含む。リン系エステル交換抑制剤は、ポリエステル樹脂とポリカーボネート樹脂のエステル交換を抑制する役割を果たす化合物である。
【0078】
リン系エステル交換抑制剤(D)としては、有機ホフスェート化合物が例示される。
有機ホスフェート化合物としては、アルキルアシッドホスフェート、アルケニルアシッドホスフェートおよびこれらの金属塩が挙げられる。
前記ホスフェート化合物のアルキルアシッドホスフェートまたはアルケニルアシッドホスフェートは、下記式(I)で表されるものであることが好ましい。即ち、アルキルアシッドホスフェートまたはアルケニルアシッドホスフェートは、下記式(I)で表され、アルキルアシッドホスフェート金属塩またはアルケニルアシッドホスフェート金属塩は下記式(I)で表されるアルキルアシッドホスフェートまたはアルケニルアシッドホスフェートの亜鉛塩、アルミニウム塩等の金属塩であることが好ましい。
O=P(OH)n(OR)3-n…(I)
(式(I)中、Rは炭素数8~30のアルキル基または炭素数8~30のアルケニル基であり、nは1または2の整数を表す。nが1の場合、2つのRは同一であってもよく異なるものであってもよい。)
上記式(I)中のRで示されるアルキル基は直鎖アルキル基であってもよく、分岐アルキル基であってもよい。Rのアルキル基としては、具体的には、オクチル基、ノニル基、イソノニル基、デシル基、イソデシル基、ドデシル基、トリデシル基、イソトリデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル(ステアリル)基、エイコシル基、テトラコシル基等が挙げられる。また、Rで示されるアルケニル基についても直鎖アルケニル基であってもよく、分岐アルケニル基であってもよい。Rのアルケニル基としては、具体的には、オレイル基等が挙げられる。nは、1または2であり、その混合物であっても良い。
上記式(I)中のRで示されるアルキル基またはアルケニル基の炭素数は、12~24であることがより好ましく、18であることがさらに好ましく、アルキルアシッドホスフェートとしては、特に、下記式(II)で表され、式(II)におけるn=1のジステアリルアシッドホスフェートとn=2のモノステアリルアシッドホスフェートとの混合物であるものが好ましい。
O=P(OH)n(OC18373-n…(II)
また、アルキルアシッドホスフェートの金属塩としては、下記式(IIIa)で表されるジステアリルアシッドホスフェート亜鉛塩と、下記式(IIIb)で表されるモノステアリルアシッドホスフェート亜鉛塩との混合物が好ましい。
【0079】
【化1】
これらのホスフェート化合物は、1種のみを用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。このようなホスフェート化合物としては、具体的には、例えば、城北化学工業社製「JP-518Zn」、ADEKA社製「AX-71」等が挙げられる。
【0080】
本実施形態の樹脂組成物におけるリン系エステル交換抑制剤(D)の含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)40~95質量部とポリエステル樹脂(B)5~60質量部とを含む樹脂(C)100質量部に対し、0.001~4質量部である。前記下限値以上にすることにより、滞留時のシルバーの発生がより抑制される傾向にある。前記上限値以下にすることにより、引張破壊呼びひずみがより向上し、熱安定性もより向上する傾向にある。
前記リン系エステル交換抑制剤(D)の含有量は、前記樹脂100質量部に対し、0.005質量部以上であることが好ましく、0.01質量部以上であることがより好ましく、0.05質量部以上であることがさらに好ましく、0.075質量部以上が一層好ましく、0.1質量部以上がより一層好ましい。
また、前記リン系エステル交換抑制剤(D)の含有量は、前記樹脂100質量部に対し、3質量部以下であることが好ましく、2質量部以下がより好ましく、1質量部以下がさらに好ましく、0.5質量部以下が一層好ましい。
本実施形態の樹脂組成物は、リン系エステル交換抑制剤(D)を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0081】
<無機充填材(E)>
本実施形態の樹脂組成物は、無機充填材を含んでいてもよいし、含んでいなくてもよい。無機充填材を含むことにより、本実施形態の樹脂組成物による成形体の機械強度が向上する傾向にある。
前記無機充填材としては、公知の任意のものを使用できる。具体的には、ワラストナイト、ゾノトライト、タルク、マイカ、クレー、モンモンリロナイト、スメクタイト、カオリン、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、シリカ、セラミック粒子、セラミック繊維、セラミックバルーン、チタン酸カリウム、窒化ホウ素、ホウ酸アルミニウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化チタン、酸化亜鉛、ガラス繊維(チョップドストランド)、ガラス繊維、ガラスフレーク、ガラスビーズ、炭素繊維、炭素短繊維、カーボンナノチューブなどが挙げられる。これらの無機充填材は、1種もしくは2種以上を併用して含むものであってもよい。中でも、ガラス繊維、ガラスフレーク、炭素繊維、タルク、マイカ、ワラストナイト、および、カオリンからなる群から選ばれる1種以上を含むことが好ましく、特に剛性や寸法安定性の観点からタルクが好ましい。
【0082】
前記無機充填材の形状としては、繊維状、または、非繊維状(針状、板状、球状など)が挙げられる。中でも、無機充填材は、非繊維状無機充填材が好ましい。
【0083】
前記無機充填材は、樹脂との接着性を向上させる目的で公知の表面処理剤を用いて処理してもよい。表面処理剤の種類としてはアミノ基やエポキシ基を含有するシラン系カップリング剤やチタネート系カップリング剤等を例示できる。このような表面処理剤は、予め無機充填材の表面に処理してもよいし、樹脂と無機充填材を混合する際に添加して処理してもよい。
カップリング剤としては、シラン系、クロム系、チタン系等のカップリング剤等が挙げられ、中でもγ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン等のエポキシシラン;ビニルトリクロロシラン;γ-アミノプロピルトリエトキシシラン等のアミノシラン等のシラン系カップリング剤を含むものが好ましい。
【0084】
<<タルク>>
本実施形態に用いられる無機充填材としては、特にタルクが外観と機械強度のバランスが良好という理由で好ましい。タルクとしては、特開2020-45419号公報の段落0021~0039の記載が例示され、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0085】
本実施形態の樹脂組成物における無機充填材(E)の含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)40~95質量部とポリエステル樹脂(B)5~60質量部とを含む樹脂(C)100質量部に対し、1~100質量部含むことが好ましい。
前記下限値以上にすることにより、機械強度がより向上する傾向にある。前記上限値以下にすることにより、滞留時のシルバーの発生がより抑制される傾向にある。
前記無機充填材の含有量は、前記樹脂(C)100質量部に対し、2.5質量部以上であることが好ましく、5質量部以上であることがより好ましく、10質量部以上であることがさらに好ましく、15質量部以上であることがより一層好ましい。
また、前記無機充填材の含有量は、前記樹脂(C)100質量部に対し、80質量部以下であることが好ましく、65質量部以下であることがより好ましく、50質量部以下であることがさらに好ましく、30質量部以下であることがより一層好ましく、25質量部以下であってもよい。
本実施形態の樹脂組成物において、無機充填剤(E)の含有量は、樹脂組成物中、5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、また、45質量%以下であることが好ましく、35質量%以下であることがより好ましく、25質量%以下であることが一層好ましい。
本実施形態の樹脂組成物は、無機充填材(E)を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0086】
<リン系エステル交換抑制剤(D)と無機充填材(E)の配合比>
本実施形態の樹脂組成物は、無機充填材(E)100質量部に対し、リン系エステル交換抑制剤(D)を0.1質量部以上含むことが好ましい。一般的に、樹脂組成物に無機充填材を配合することによって熱安定性が低下し、滞留時のシルバーが発生しやすくなる場合がある。特に、タルクはアルカリ性の性質を持つため、ポリカーボネート樹脂とポリエステル樹脂を含む樹脂に配合した場合に、樹脂の分解を促進し、滞留時のシルバーを発生させる原因となると推定される。しかし、このような無機充填材(E)とリン系エステル交換抑制剤(D)の配合比率にすることによって、無機充填材による樹脂の分解を抑制し、滞留時のシルバーの発生がより抑制される傾向にあると推定される。
前記無機充填材(E)100質量部に対し、前記リン系エステル交換抑制剤(D)を0.20質量部以上含むことが好ましく、0.40質量部以上含むことがより好ましく、0.60質量部以上含むことがさらに好ましく、1.00質量部以上、2.00質量部以上、4.00質量部以上含んでいてもよい。前記下限値以上とすることで、滞留時のシルバーの発生がより抑制される傾向にある。
前記無機充填材(E)100質量部に対し、前記リン系エステル交換抑制剤(D)が30.00質量部以下含むことが好ましく、20.00質量部以下含むことがより好ましく、10.00質量部以下含むことがさらに好ましく、5.00質量部以下含むことが一層好ましく、2.00質量部以下含むことがより一層好ましく、1.50質量部以下、1.00質量部以下、0.90質量部以下であってもよい。前記上限値以下とすることで、引張破壊呼びひずみが向上する傾向にあり、熱安定性も向上する傾向にある。
【0087】
<他の成分>
本実施形態の樹脂組成物は、所望の諸物性を著しく損なわない限り、必要に応じて、上記したもの以外に他の成分を含有していてもよい。他成分の例を挙げると、各種樹脂や樹脂添加剤などが挙げられる。なお、その他の成分は、1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせおよび比率で含有されていてもよい。
具体的には、ポリカーボネート樹脂およびポリエステル樹脂以外の他の熱可塑性樹脂、エラストマー、離型剤、リン系エステル交換抑制剤以外の安定剤(熱安定剤、光安定剤)、着色剤(顔料、染料)、反応性化合物、核剤、難燃剤、難燃助剤、無機充填材以外の充填材、帯電防止剤、防曇剤、アンチブロッキング剤、流動性改良剤、可塑剤、分散剤、抗菌剤などが挙げられる。
本実施形態の樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂(A)、ポリエステル樹脂(B)、リン系エステル交換抑制剤(D)と、必要に応じ配合されるその他成分の合計が100質量%になるように配合される。本実施形態の樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂(A)、ポリエステル樹脂(B)、リン系エステル交換抑制剤(D)、必要に応じて配合される無機充填材(E)との合計量が樹脂組成物の80質量%以上占めることが好ましく、90質量%以上占めることがより好ましく、95質量%以上占めることがさらに好ましく、98質量%以上、99質量%以上であっても良い。上限は、100質量%である。
【0088】
<<エラストマー>>
本実施形態の樹脂組成物は、エラストマーを含んでいてもよい。
エラストマーとしては、ゴム成分にこれと共重合可能な単量体成分をグラフト共重合した共重合体が好ましい。このようなグラフト共重合体の製造方法としては、塊状重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合などのいずれの製造方法であってもよく、共重合の方式は一段グラフトでも多段グラフトであってもよい。
エラストマーとして具体的には、特開2020-164869号公報の段落0129~0133号の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0089】
本実施形態の樹脂組成物がエラストマーを含む場合、ポリカーボネート樹脂(A)40~95質量部とポリエステル樹脂(B)5~60質量部とを含む樹脂(C)100質量部に対し、0.5質量部以上含むことが好ましく、1.0質量部以上含むことがより好ましく、2.0質量部以上含むことがさらに好ましい。前記上限値以上にすることによって、引張破壊呼びひずみがより向上する傾向にある。また、前記エラストマーは、前記樹脂100質量部に対し、15質量部以下含むことが好ましく、10質量部以下含むことがより好ましく、7.5質量部以下含むことがさらに好ましい。前記下限値以下含むことによって、滞留時のシルバーの発生がより抑制される傾向にある。
本実施形態の樹脂組成物は、エラストマーを1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0090】
<<リン系エステル交換抑制剤(D)以外の安定剤>>
本実施形態の樹脂組成物は、リン系エステル交換抑制剤(D)以外の安定剤(光安定剤および/または熱安定剤)を含んでいてもよい。
安定剤としては、リン系エステル交換抑制剤(D)以外のリン系化合物、フェノール系化合物、ヒンダードアミン系化合物、硫黄系安定剤等が例示される。これらの中でも、リン系エステル交換抑制剤(D)以外のリン系化合物、フェノール系化合物が好ましい。
【0091】
前記リン系エステル交換抑制剤(D)以外のリン系化合物としては、リン酸、ホスホン酸、亜燐酸、ホスフィン酸、ポリリン酸などのリンのオキソ酸;酸性ピロリン酸ナトリウム、酸性ピロリン酸カリウム、酸性ピロリン酸カルシウムなどの酸性ピロリン酸金属塩;リン酸カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸セシウム、リン酸亜鉛などのリン酸塩;、有機ホスファイト化合物、有機ホスホナイト化合物などが挙げられる。中でも、有機ホスファイト化合物が好ましい。
前記リン系エステル交換抑制剤(D)以外のリン系化合物は、1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。
【0092】
前記フェノール系化合物としては、ヒンダードフェノール系安定剤が好ましく、例えば、ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、チオジエチレンビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、N,N’-ヘキサン-1,6-ジイルビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニルプロピオナミド)、2,4-ジメチル-6-(1-メチルペンタデシル)フェノール、ジエチル[[3,5-ビス(1,1-ジメチルエチル)-4-ヒドロキシフェニル]メチル]ホスフォエート、3,3’,3”,5,5’,5”-ヘキサ-tert-ブチル-a,a’,a”-(メシチレン-2,4,6-トリイル)トリ-p-クレゾール、4,6-ビス(オクチルチオメチル)-o-クレゾール、エチレンビス(オキシエチレン)ビス[3-(5-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-m-トリル)プロピオネート]、ヘキサメチレンビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,3,5-トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオン、2,6-ジ-tert-ブチル-4-(4,6-ビス(オクチルチオ)-1,3,5-トリアジン-2-イルアミノ)フェノール、2-[1-(2-ヒドロキシ-3,5-ジ-tert-ペンチルフェニル)エチル]-4,6-ジ-tert-ペンチルフェニルアクリレート等が挙げられる。
前記フェノール系安定剤は、1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。
【0093】
安定剤としては、具体的には、特開2021-063196号公報の段落0066~0075の記載、特開2018-070722号公報の段落0047~0057の記載、特開2019-056035号公報の段落0030~0036の記載、特開2020-045419号公報の段落0053~59の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0094】
本実施形態の樹脂組成物が安定剤を含む場合、その含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)40~95質量部とポリエステル樹脂(B)5~60質量部とを含む樹脂(C)100質量部に対し、0.001質量部以上が好ましく、0.005質量部以上がより好ましく、0.01質量部以上であることがさらに好ましく、0.05質量部以上であることが一層好ましい。前記下限値以上とすることにより、溶融混練時や成形時、さらに成形体としての使用中での、樹脂の熱劣化や酸化劣化の抑制効果がより向上する傾向にある。また、前記安定剤の含有量の上限値は、前記樹脂100質量部に対し、2.0質量部以下であることが好ましく、1.5質量部以下であることがより好ましい。前記上限値以下とすることにより、安定剤などの添加剤の凝集などによる外観や物性へ悪影響を効果的に抑制できる。
本実施形態の樹脂組成物は、安定剤を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0095】
<<離型剤>>
本実施形態の樹脂組成物は、離型剤を含んでいても良い。離型剤としては、例えば、脂肪族カルボン酸、脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステル、数平均分子量200~15,000の脂肪族炭化水素化合物、ポリシロキサン系シリコーンオイルなどが挙げられる。
前記離型剤としては、具体的には、特開2015-199852号公報の段落0083~92の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0096】
本実施形態の樹脂組成物が離型剤を含む場合、ポリカーボネート樹脂(A)40~95質量部とポリエステル樹脂(B)5~60質量部とを含む樹脂(C)100質量部に対し、0.01質量部以上であることが好ましく、0.05質量部以上であることがより好ましく、0.1質量部以上がさらに好ましい。前記下限値以上含むことにより、成形性がより向上する傾向にある。また、前記離型剤の含有量の上限値は、前記樹脂100質量部に対し、5.0質量部以下であることが好ましく、1.0質量部以下であることがより好ましい。前記上限値以下含むことにより、シルバーの発生がより抑制される傾向にある。
本実施形態の樹脂組成物は、離型剤を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0097】
<樹脂組成物の製造方法>
本発明では、また、樹脂組成物の製造方法を開示する。
本実施形態の樹脂組成物の製造方法は、ポリカーボネート樹脂(A)40~95質量部とポリエステル樹脂(B)5~60質量部とを含む樹脂(C)100質量部と、リン系エステル交換抑制剤(D)0.001~4質量部とを、溶融混練することを含み、前記ポリエステル樹脂(B)がCa元素を0.80~8.00質量ppmの割合で含む、樹脂組成物の製造方法を含む。
本実施形態の樹脂組成物の製造方法は、具体的には、ポリカーボネート樹脂(A)、ポリエステル樹脂(B)およびリン系エステル交換抑制剤(D)、さらに必要に応じて配合される無機充填材(E)やその他添加剤を、タンブラーやヘンシェルミキサーなどの各種混合機を用い予め混合した後、バンバリーミキサー、ロール、ブラベンダー、単軸混練押出機、二軸混練押出機、ニーダーなどで溶融混練して樹脂組成物を製造することができる。
また、各成分を予め混合せずに、または、一部の成分のみ予め混合してフィーダーを用いて押出機に供給して溶融混練して樹脂組成物を製造することもできる。着色剤等の一部の成分を熱可塑性樹脂と溶融混練してマスターバッチを調製し、次いでこれに残りの成分を配合して溶融混練し製造してもよい。なお、無機充填材を用いる場合には、押出機のシリンダー途中のサイドフィーダーから供給することも好ましい。溶融混練に際しての加熱温度は、通常240~330℃の範囲から適宜選ぶことができる。温度が高すぎると分解ガスや、分子量低下による強度低下の原因になる場合がある。それ故、剪断発熱等に考慮したスクリュー構成の選定が望ましい。混練時や、後行程の成形時の分解を抑制する為、酸化防止剤や熱安定剤の使用が望ましい。
【0098】
<樹脂組成物の特性>
<<滞留時のシルバー>>
本実施形態の樹脂組成物は、滞留時のシルバーの発生が抑制される。具体的には、以下の通りである。本実施形態の樹脂組成物を用いて、射出成形機(シリンダー温度290℃ 金型温度80℃)で50mm×90mm×3mmt、2mmt、1mmtの3段プレートをサイクル45秒の通常条件で連続10ショット成形した後、冷却時間を延長してサイクル180秒の滞留条件に変更し、連続5ショット目のプレートで滞留時のシルバーを確認する。滞留時のシルバーの程度に応じて、目視で0~9段階の点数を付けた。数字が大きいほど、滞留時のシルバーストリークの面積が広いことを示す。前記点数は7以下が好ましく、6以下がより好ましく、5以下がさらに好ましい。前記点数は0が最も好ましく、目視で滞留時のシルバーが確認されない場合である。
滞留時のシルバー発生量の評価は、後述する実施例の記載に従って測定される。
【0099】
<<引張破壊呼びひずみ>>
本実施形態の樹脂組成物は、引張破壊呼びひずみが向上される。具体的には、樹脂組成物を用いてJIS K 7139に準拠したダンベル試験片(A1)を成形し、JIS K 7161の方法で測定した引張破壊呼びひずみが、10.0%以上が好ましく、10.5%以上がより好ましい。前記引張破壊呼びひずみの上限値は特に定められるものではないが、100.0%以下が現実的である。
【0100】
<樹脂組成物の成形体>
本実施形態には、本実施形態の樹脂組成物から形成された成形体も含まれる。
本実施形態の樹脂組成物をペレタイズして得られたペレットは、各種の成形法で成形して成形体とされる。またペレットを経由せずに、押出機で溶融混練された樹脂組成物を直接、成形して成形体にすることもできる。
成形体の形状としては、特に制限はなく、成形体の用途、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、板状、プレート状、ロッド状、シート状、フィルム状、円筒状、環状、円形状、楕円形状、歯車状、多角形形状、異形品、中空品、枠状、箱状、パネル状、キャップ状のもの等が挙げられる。本実施形態の成形体は、完成品であってもよいし、部品であってもよく、それぞれの溶着品でもよい。
【0101】
成形体を成形する方法としては、特に制限されず、従来公知の成形法を採用でき、例えば、射出成形法、超高速射出成形法、射出圧縮成形法、多色射出成形法、ガスアシスト射出成形法、断熱金型を用いた成形法、急速加熱冷却金型を用いた成形法、発泡成形(超臨界流体も含む)、インサート成形、IMC(インモールドコーティング成形)成形法、押出成形法、シート成形法、熱成形法、回転成形法、積層成形法、プレス成形法などを採用することができる。また、各種射出成形法においてはホットランナー方式を用いた成形法を選択することもできる。
また、射出成形等、金型成形する際の金型温度は、40~100℃であることが好ましい。
【0102】
<用途>
本実施形態の樹脂組成物は、樹脂組成物から形成された成形体として用いられる。樹脂組成物ないし成形体の用途としては、特に定めるものでは無く、電気電子機器/部品、OA機器/部品、情報端末機器/部品、機械部品、家電製品、車輌部品(自動車内外装)、建築部材、各種容器、レジャー用品・雑貨類、照明機器などに好ましく用いられる。
【実施例0103】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
実施例で用いた測定機器等が廃番等により入手困難な場合、他の同等の性能を有する機器を用いて測定することができる。
【0104】
1.原料
下記表1~3に示す原料を用いた。
【表1】
【表2】
【表3】
【0105】
2.実施例1~9、比較例1~6
<金属元素の量の測定>
ポリエステル樹脂中のCa元素、Mg元素およびSb元素含有量(質量ppm)の分析は、ICP発光分析法によって行った。前処理として試料200mgを秤量し、ケルダール湿式分解(硫酸/硝酸、硫酸/過酸化水素)を行い、50mLに定容し、続いて、ICP発光分析を酸濃度マッチング一点検量法にて行った。ICP発光分析は、Thrmo Fisher Scientific社製「iCAP76000uo」を用い、axial/radial測光にて行った。
【0106】
<環状三量体の量の測定>
ポリエステル樹脂中の環状三量体量は、ポリエチレンテレフタレート樹脂0.1gを溶解可能なクロロホルム等の溶媒に溶かし、溶解・再沈を行い、上澄み液を濾過後、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によって測定した。また定量は、1点による絶対検量線法により実施し、DMT(テレフタル酸ジメチル)換算での値とした。
【0107】
<樹脂組成物の製造>
(実施例1~7、比較例1~6)
上記表1~3に示した各成分を、後記表4または5に記した割合(全て質量部)で配合し、タンブラーにて20分混合した後、芝浦機械社製二軸押出機(TEM26SS)に供給し、スクリュー回転数250rpm、吐出量30kg/時間、バレル温度260℃の条件で混練し、ストランド状に押出された溶融樹脂組成物を水槽にて急冷し、ペレタイザーを用いてペレット化して、樹脂組成物のペレットを得た。
(実施例8、9)
上記表1~3に示した各成分の内、ポリカーボネート樹脂とポリエステル樹脂と、その他の原料とを、それぞれ、表6に示した割合で秤量し、別々にタンブラーにて、20分混合した。ポリカーボネート樹脂とポリエステル樹脂は押出機の根本から、その他の原料は別フィードしたことを除いては、上記(実施例1~7、比較例1~6)と同様の方法で樹脂組成物のペレットを製造した。
【0108】
<滞留時のシルバーの評価>
上記で得たペレットを、120℃、5時間熱風乾燥機で乾燥した後、日本製鋼製の射出成形機(J-55ADS)を用いて、シリンダー温度290℃、金型温度80℃、射出速度10mm/s、保圧80MPaの条件、50mm×90mm、厚みが3mm、2mm、1mmの3段プレートを成形した。サイクル45秒の通常条件で連続10ショット成形した後、冷却時間を延長してサイクル180秒の滞留条件に変更し、連続5ショット目のプレートで、滞留時のシルバーを確認した。得られた成形体を目視で確認し、滞留時のシルバーの程度に応じて0~9の9段階で点数を付けた。数字が大きいほど、滞留時のシルバーストリークの面積が広いことを示す。5人の専門家が評価し、多数決とした。また、実施例1が「5」となるように基準を定めた。
【0109】
<引張破壊呼びひずみの測定>
上記で得たペレットを、120℃、5時間熱風乾燥機で乾燥した後、日精樹脂工業製の射出成形機(NEX80III)を、用いてシリンダー温度280℃、金型温度80℃、射出速度33mm/s、保圧80MPaの条件で厚さ4mmのJIS K7139多目的試験片(A1)を成形した。
上記で得た試験片を用いて、JIS K 7161に記載の方法で、引張破壊呼び歪(単位:%)を測定した。
【0110】
<湿熱後のシャルピー強さ保持率の測定>
上記で得た厚さ4mmのJIS K7139多目的試験片(A1)を、東洋精機社製のノッチングツールを用いて長さ80mm×幅10mm×厚さ4mmの試験片を切り出し、先端半径r=0.25mmのノッチ加工をした。その後、85℃、85%の湿熱環境下で500時間湿熱処理を行った。上記で得た湿熱未処理と湿熱処理後の試験片を用いて、JIS K 7111-1の方法に従い、シャルピー衝撃強さを測定した。
湿熱後のシャルピー衝撃強さ保持率は、下記式(2)に従って計算した。
式(2)
湿熱後のシャルピー衝撃強さ保持率(%)=[(湿熱処理後のシャルピー衝撃強さ)/(湿熱未処理のシャルピー衝撃強さ)]×100
【0111】
<ΔDTULの測定>
上記で得たペレットを、120℃、5時間熱風乾燥機で乾燥した後、日精樹脂工業製の射出成形機(NEX80III)を用いて、シリンダー温度280℃、金型温度80℃、射出速度33mm/s、保圧80MPaの条件でサイクル45秒の通常条件で連続20ショット成形し、厚さ4mmのJIS K7139多目的試験片(A1)を成形した。その後、冷却時間を延長してサイクル600秒の滞留条件に変更し、連続3ショット成形を行い、滞留条件での多目的試験片(A2)を成形した。
上記で得た厚さ4mmのJIS K7139多目的試験片(A1、A2)から、80mm×10mm×4mmの試験片を切り出した。その後、通常条件の試験片(A1)と滞留条件の試験片(A2)を用いて、東洋精機製 Auto HDT TESTER 6A-2で、JIS K 7191の方法に従い、荷重1.8MPaの条件で荷重たわみ温度(DTUL、単位:℃)をそれぞれ測定した。
ΔDTULは、下記式(3)に従って計算した。
式(3)
ΔDTUL=(滞留条件で連続3ショット目(A2)のDTUL)-(通常条件(A1)でのDTUL)
【0112】
結果を下記表4~6に示した。
【表4】
【0113】
【表5】
【0114】
【表6】
【0115】
上記結果からも明らかな通り、本実施形態の樹脂組成物は、滞留時のシルバーの発生が抑制され、かつ、引張破壊呼びひずみが向上された。