IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社アドマテックスの特許一覧

特開2023-112353複合酸化物粒子材料及びその製造方法、フィラー、フィラー含有スラリー組成物、並びにフィラー含有樹脂組成物
<>
  • 特開-複合酸化物粒子材料及びその製造方法、フィラー、フィラー含有スラリー組成物、並びにフィラー含有樹脂組成物 図1
  • 特開-複合酸化物粒子材料及びその製造方法、フィラー、フィラー含有スラリー組成物、並びにフィラー含有樹脂組成物 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023112353
(43)【公開日】2023-08-14
(54)【発明の名称】複合酸化物粒子材料及びその製造方法、フィラー、フィラー含有スラリー組成物、並びにフィラー含有樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C01G 39/00 20060101AFI20230804BHJP
【FI】
C01G39/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022014092
(22)【出願日】2022-02-01
(71)【出願人】
【識別番号】501402730
【氏名又は名称】株式会社アドマテックス
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】弁理士法人 共立特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】栗田 桂輔
(72)【発明者】
【氏名】冨田 亘孝
(72)【発明者】
【氏名】新井 雄己
【テーマコード(参考)】
4G048
【Fターム(参考)】
4G048AA03
4G048AB01
4G048AB04
4G048AC02
4G048AC08
4G048AD04
(57)【要約】
【課題】純度が高く且つ円形度が高いモリブデン酸亜鉛からなる複合酸化物粒子材料を提供することを解決すべき課題とする。
【解決手段】平均粒径が0.1μm以上、5.0μm以下で、BET比表面積が1m/g以上、20m/g以下であり、(XRDの26.6°のピーク強度)/(24.2°のピーク強度)が1.20以上、不純物濃度が1質量%以下、円形度が0.90以上であるモリブデンと亜鉛の複合酸化物からなる。XRDは、CuKα線により測定する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒径が0.1μm以上、5.0μm以下、
BET比表面積が1m/g以上、20m/g以下、
不純物濃度が1質量%以下、円形度が0.90以上であるモリブデンと亜鉛の複合酸化物からなる複合酸化物粒子材料。
【請求項2】
比誘電率が16以下である請求項1に記載の複合酸化物粒子材料。
【請求項3】
(誘電正接)/(BET比表面積(m))が0.0030以下である請求項1又は2に記載の複合酸化物粒子材料。
【請求項4】
(XRDの26.6°のピーク強度)/(24.2°のピーク強度)が1.20以上である請求項1~3のうちの何れか1項に記載の複合酸化物粒子材料。
【請求項5】
有機ケイ素化合物にて表面処理されている請求項1~4のうちの何れか1項に記載の複合酸化物粒子材料。
【請求項6】
請求項1~5のうちの何れか1項に記載の複合酸化物粒子材料を製造する製造方法であって、
金属モリブデン及び金属亜鉛を全体として含む1種以上の原料粒子材料を調製する原料粒子材料調製工程と、
前記原料粒子材料をキャリア中に分散させた状態で酸化雰囲気の火炎中に連続的に投入して燃焼させて複合酸化物粒子材料を製造する複合酸化物粒子材料製造工程と、
を有する複合酸化物粒子材料の製造方法。
【請求項7】
前記原料粒子材料、可燃性ガスを完全に酸化するのに必要な単位時間当たりの酸素量Tと、前記酸化雰囲気に導入される単位時間当たりの酸素量Rとの比(R/T)が1.2以上である請求項6に記載の複合酸化物粒子材料の製造方法。
【請求項8】
請求項1~5のうちの何れか1項に記載の複合酸化物粒子材料を有する電子材料用樹脂組成物に用いるフィラー。
【請求項9】
他の無機物粒子材料を含有する請求項8に記載のフィラー。
【請求項10】
請求項8又は9に記載のフィラーと、
前記フィラーを分散する分散媒と、
を有するフィラー含有スラリー組成物。
【請求項11】
請求項8又は9に記載のフィラーと、
前記フィラーを分散する樹脂材料と、
を有するフィラー含有樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モリブデンと亜鉛とを含有する複合酸化物粒子材料及びその製造方法、フィラー、フィラー含有スラリー組成物、並びにフィラー含有樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの高周波化、高速化が進むにつれ、半導体デバイスを構成する材料の誘電率・誘電正接を低減することが必要とされる。
【0003】
例えば、半導体デバイスを構成するフィラーとして主にシリカやアルミナが使用されるが、モリブデン酸亜鉛は難燃助剤や加工性改善目的で併用することができる。しかし、モリブデン酸亜鉛は、誘電率・誘電正接が高いため、より低く抑えることが必要とされる。
【0004】
モリブデン酸亜鉛を製造する方法としては、モリブデン酸ナトリウム水溶液と塩化亜鉛を混合、反応させることで合成する方法や、酸化モリブデンと酸化亜鉛を水中で加熱して反応させることで合成する方法が知られている。
【0005】
ここで、フィラーとしての充填性を考慮すると球状であることが好適であるが、湿式合成法で製造されたモリブデン酸亜鉛は円形度が低い。金属粒子を高温酸化雰囲気下に投入して酸化させる方法(VMC法)は球状の粒子材料を製造することに適した製造方法であり、モリブデン酸亜鉛の製造方法についても開示されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005-082668号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の方法では、未反応原料や副生成物(酸化モリブデン、酸化亜鉛)の含有量が多く、実際の使用には適さなかった。
【0008】
本発明は上記実情に鑑み完成したものであり、純度が高く且つ円形度が高いモリブデン酸亜鉛からなる複合酸化物粒子材料及びその製造方法を提供することを解決すべき課題とする。更にそのような複合酸化物粒子材料を含有する、フィラー、フィラー含有スラリー組成物及びフィラー含有樹脂組成物を提供することを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する目的で本発明者らは鋭意検討を行った結果、モリブデン酸亜鉛についてXRDの26.6°のピーク強度/24.2°のピーク強度が1.20以上となるような結晶構造を持つことで誘電率や誘電正接を低くすることが可能になることを発見し、その結晶構造を持つためにはVMC法を採用し、その反応に供する酸素の量を増加させることが有効であるとの知見を得た。VMC法を改良することでXRDの26.6°のピーク強度/24.2のピーク強度を1.20以上にすることができたばかりか、未反応物や副反応物の量も減少させることができることを発見し本発明を完成した。
【0010】
すなわち上記課題を解決する本発明の複合酸化物粒子材料は、平均粒径が0.1μm以上、5.0μm以下で、BET比表面積が1m/g以上、20m/g以下であり、(XRDの26.6°のピーク強度)/(24.2°のピーク強度)が1.20以上、不純物濃度が1質量%以下、円形度が0.90以上であるモリブデンと亜鉛の複合酸化物からなる。XRDは、CuKα線により測定する。
【0011】
そして比誘電率が16以下であることが好ましい。また、(誘電正接)/(BET比表面積(m))が0.0030以下であることが好ましい。更に有機ケイ素化合物にて表面処理されていることが好ましい。
【0012】
上記課題を解決する本発明の複合酸化物粒子材料の製造方法は、本発明の複合酸化物粒子材料を製造する方法であって、金属モリブデン及び金属亜鉛を全体として含む1種以上の原料粒子材料を調製する原料粒子材料調製工程と、前記原料粒子材料をキャリア中に分散させた状態で酸化雰囲気の火炎中に連続的に投入して燃焼させて複合酸化物粒子材料を製造する複合酸化物粒子材料製造工程とを有する。
【0013】
特に前記原料粒子材料、可燃性ガスを完全に酸化するのに必要な単位時間当たりの酸素量Tと、前記酸化雰囲気に導入される単位時間当たりの酸素量Rとの比(R/T)が1.2以上であることが好ましい。
【0014】
上記課題を解決する本発明のフィラーは、本発明の複合酸化物粒子材料を有する電子材料用樹脂組成物に用いるフィラーである。特に他の無機物粒子材料を含有することもできる。
【0015】
上記課題を解決する本発明のフィラー含有スラリー組成物は、本発明のフィラーと、前記フィラーを分散する分散媒とを有する。
【0016】
上記課題を解決する本発明のフィラー含有樹脂組成物は、本発明のフィラーと前記フィラーを分散する樹脂材料とを有する。
【発明の効果】
【0017】
本発明の複合酸化物粒子材料は、上記構成要素を有することにより、誘電率・誘電正接が低く電気的特性が良好で、不純物が少ないモリブデン酸亜鉛からなる複合酸化物粒子材料を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】各実施例及び比較例の試験試料のXRDチャートである。
図2】実施例8のIRスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の複合酸化物粒子材料及びその製造方法について以下実施形態に基づき詳細に説明を行う。本実施形態の複合酸化物粒子材料は、モリブデンと亜鉛の複合酸化物であるモリブデン酸亜鉛からなる粒子材料であり、半導体の封止材、アンダーフィル、基板材料などに用いる樹脂組成物中に含有させるフィラーの一部乃至は全部として利用することができる。他の材料と混合して用いる場合には、シリカ粒子材料、アルミナ粒子材料などと一緒に用いることができる。
【0020】
(複合酸化物粒子材料)
本実施形態の複合粒子材料はモリブデン酸亜鉛からなり不純物の含有量は1質量%以下である。不純物とは未反応の金属モリブデン、金属亜鉛、および、モリブデン、亜鉛が単独で酸化して生成する酸化モリブデン、酸化亜鉛を指しており、その量はモリブデン酸亜鉛、酸化モリブデン、酸化亜鉛、モリブデン、亜鉛の混合比を変えた粉のXRD測定により得られる検量線を基に算出する。
【0021】
本実施形態の複合酸化物粒子材料は、(XRDの26.6°のピーク強度)/(24.2°のピーク強度)が1.20以上となる結晶構造を有し、その下限値としては、1.22、1.24、1.26、1.28、1.30が挙げられる。
【0022】
XRDチャートからピーク強度を算出する方法としては、ベースラインを18°の回折角2θにおける強度と45°の回折角2θにおける強度とを結ぶ直線に設定して、26.6°の位置と24.2°の位置の高さをそれぞれのピーク強度とする。
【0023】
本実施形態の複合酸化物粒子材料は、平均粒径が0.1μm以上、5.0μm以下であり、その下限値としては0.15μm、0.20μm、0.25μm、0.30μmが例示でき、上限値としては4.5μm、4.0μm、3.5μm、3.0μmが例示できる、これらの下限値及び上限値は任意に組み合わせ可能である。本明細書中の平均粒径は円相当径である。具体的には画像処理ソフト(旭化成エンジニアリング株式会社:A像くん)を用いて100個以上の粒子について測定した平均値を採用する。
【0024】
本実施形態の複合酸化物粒子材料は、円形度が0.90以上であり、下限値としては0.95、0.98、0.99、1.00が例示できる。円形度はSEMで写真を撮り、その観察される粒子の面積と周囲長から、(円形度)={4π×(面積)÷(周囲長)}で算出される値として算出する。1に近づくほど真球に近い。具体的には画像処理ソフト(旭化成エンジニアリング株式会社:A像くん)を用いて100個以上の粒子について測定した平均値を採用する。
【0025】
本実施形態の複合酸化物粒子材料は、窒素で測定したBET比表面積が1m/g以上、20m/g以下であり、下限値としては1.5m/g、2.0m/g、2.5m/gが例示でき、上限としては18m/g、16m/g、14m/gが例示できる。これらの下限値及び上限値は任意に組み合わせ可能である。
【0026】
本実施形態の複合酸化物粒子材料は、比誘電率が16以下であることが好ましく、その上限値は15.8、15.5、15.3、15.0が例示できる。市販のモリブデン酸亜鉛や、湿式合成法により合成したモリブデン酸亜鉛の比誘電率は、16超、18以下程度の値を示す。
【0027】
誘電正接(Df)の値は低い方が好ましく、例えばDf/(BET比表面積)が0.0030以下であることが好ましく、その上限値は0.0028、0.026、0.0024、0.0022、0.0020が例示できる。
【0028】
本実施形態の複合酸化物粒子材料は、有機ケイ素化合物により表面処理されていることが好ましい。有機ケイ素化合物としてはシラン化合物やシラザン類を採用することが好ましく、シラン化合物としてはフェニル基、アルキル基、ビニル基、メタクリル基、エポキシ基、フェニルアミノ基、アミノ基、スチリル基などを有するものが挙げられる。表面に存在するOH基が反応することが多いため、OH基の残存量としては、2個/nm以下になっていることが好ましく、1個/nm以下になっていることがより好ましい。
【0029】
(複合酸化物粒子材料の製造方法)
本実施形態の複合酸化物粒子材料の製造方法は、本実施形態の複合酸化物粒子材料を好適に製造できる方法である。具体的には、原料粒子材料調製工程と複合酸化物粒子材料製造工程と必要に応じて選択されるその他の工程とを有する。
【0030】
原料粒子材料調製工程は、金属モリブデン及び金属亜鉛を全体として含む1種以上の原料粒子材料を調製する工程である。
【0031】
調製される原料粒子材料は、1種類の材料から構成されても良いし、組成が異なる2種以上の粒子材料から構成されても良い。原料粒子材料が金属モリブデン及び金属亜鉛を全体として含むとは、1又は2種以上の粒子材料からなる原料粒子材料を全体として分析すると、金属モリブデン及び金属亜鉛を含んでいることを意味する。例えば、金属モリブデンからなる粒子材料と金属亜鉛からなる粒子材料との混合物であったり、モリブデンと亜鉛の合金からなる粒子材料であったりすることができる。特に原料粒子材料は、金属モリブデン及び金属亜鉛を高純度で含むものが望ましい。原料粒子材料は先述した有機ケイ素化合物により表面処理を行うことも可能である。表面処理により後述するキャリア中での分散状態を向上したり、凝集を防止できたりすることができる。
【0032】
原料粒子材料の粒径は、製造する複合酸化物粒子材料の粒径により変化するが、1μm~30μm程度にすることができる。原料粒子材料の粒径を小さくすることで酸化反応しやすくなる傾向があり好ましいが、粒径が小さすぎると、供給性が悪化する傾向にある。
【0033】
原料粒子材料の調製方法は特に限定しない。例えば、アトマイズ法、粉砕などにより金属モリブデンや金属亜鉛を粒子化することができる。特にディスクアトマイザーによる方法が好ましい。
【0034】
複合酸化物粒子材料調製工程は、原料粒子材料を酸化雰囲気で火炎中に投入することで複合酸化物粒子材料を製造する工程である。先述の本実施形態の複合酸化物粒子材料のような、平均粒径やBET比表面積やXRDチャートをもつように原料粒子材料の投入条件や火炎の生成条件が設定されることで、未反応物が残存することを抑制できるばかりか、副反応物の量も低減でき、得られる複合酸化物粒子材料の比誘電率・誘電正接を低減することができる。
【0035】
得られる複合酸化物粒子材料について、平均粒径を大きくしようとする場合には酸化雰囲気中の原料濃度を増加することで達成できる。反対に平均粒径を小さくしようとする場合には酸化雰囲気中の原料濃度を低減することで達成できる。特に後述する酸化雰囲気中に導入する酸素の量を理論的に必要な量よりも増やすことで優れた複合酸化物粒子材料を製造することができる。
【0036】
原料粒子材料はキャリア中に分散させた状態で火炎中に投入する。キャリアとしては気体、液体が挙げられ、気体としては、空気、窒素、酸素、アルゴンが例示でき、液体としては、水、イソプロパノールなどのアルコールが例示できる。
【0037】
原料粒子材料を火炎中に投入するときには、同時に酸化雰囲気中に酸素を投入する。酸化雰囲気への酸素の投入は、キャリアの一部乃至全部を酸素としたり、キャリアとは独立した流れで酸素を導入したりできる。酸素の導入は酸素単独で行うほか、窒素(空気を導入する場合を含む)や他の不活性ガスと共に導入したりできる。酸化雰囲気は、ある程度密閉された炉内などに形成することが、導入する酸素量や火炎の温度などを精密に制御できるため好ましい。
【0038】
単位時間当たりに火炎中に導入する原料粒子材料、可燃性ガスを完全に酸化するのに理論上で必要な酸素量Tと、酸化雰囲気中への酸素の単位時間当たりの実際の導入量Rとの比(R/T)は1.2以上にすることが好ましい。理論的に必要な酸素量よりも十分に過剰な量とすることで、(XRDの26.6°のピーク強度)/(24.2°のピーク強度)が1.20以上である結晶構造を形成することができる上に、未反応物が残存することを更に抑制でき、更には副反応物の量も低減できる。
【0039】
得られた複合酸化物粒子材料について、上述した本実施形態の複合酸化物粒子材料にて説明した表面処理を行うことができる。表面処理は、表面処理剤をそのまま複合酸化物粒子材料の表面に接触させたり、適正な溶媒(イソプロパノール、メチルエチルケトン(MEK)など複合酸化物粒子材料を分散可能な溶媒)に表面処理剤を溶解乃至分散させた状態で複合酸化物粒子材料の表面に接触させたり、表面処理剤を気化した状態で複合酸化物粒子材料の表面に接触させたりすることで行うことができる。接触させた後に加熱を行ったりして表面処理剤の反応を促進することもできる。
【0040】
表面処理剤量は特に限定しないが、複合酸化物粒子材料調製工程にて調製された直後の複合酸化物粒子材料の表面に存在するOH基に対応する量よりも少ない量から過剰な量まで任意な量を選択できる。
【0041】
表面処理剤の量としては、表面処理後のBET比表面積を用いて算出された単位表面積(m)当たりの有機ケイ素化合物量の下限値が0.2μmol/m、0.3μmol/m、0.4μmol/mが例示でき、上限値としては20μmol/m、18μmol/m、16μmol/mが例示できる。これらの下限値及び上限値は任意に組み合わせ可能である。
【0042】
(フィラー、フィラー含有スラリー、フィラー含有樹脂組成物)
本実施形態のフィラーは、電子材料用樹脂組成物に用いるフィラーであり、前述の本実施形態の複合酸化物粒子材料を有する。更に必要に応じて無機物粒子材料を含有することもできる。無機物粒子材料としては、シリカ粒子材料、アルミナ粒子材料などが挙げられる。電子材料用樹脂組成物は、半導体デバイスの封止材、アンダーフィル、基板材料などに用いることができる。
【0043】
本実施形態のフィラー含有スラリーは、このフィラーを分散媒中に分散させたスラリーである。分散媒は液体であること以外特に限定されず、MEKなどの有機溶媒、樹脂材料の前駆体(モノマー、プレポリマーなど:樹脂前駆体)などが例示できる。フィラーの含有割合としては特に限定しないが、スラリーの流動性が保たれる範囲内で多くすることが好ましい。
【0044】
本実施形態のフィラー含有樹脂組成物は、このフィラーを樹脂材料中に分散させた組成物である。樹脂材料は特に限定されず液状であっても固体状であっても構わない。
【0045】
採用できる樹脂材料としては特に限定されず、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂などの通常の樹脂材料が選択できる。例えば、エポキシ樹脂,ポリイミド、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリメタクリル酸メチル、塩化ビニル、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリフェニレンエーテルが挙げられる。
【0046】
樹脂材料中に粒子材料を分散させる方法としては特に限定しない。例えば、樹脂材料として熱可塑性樹脂を採用する場合には加熱溶融した樹脂材料と粒子材料とを混合して混練したり、樹脂前駆体と粒子材料とを混合した後に重合反応を行ったりすることで樹脂組成物を得ることができる。樹脂材料が熱硬化性樹脂である場合には、樹脂前駆体と粒子材料とを混合した後に硬化させることができる。なお、樹脂材料として液体状の樹脂前駆体を採用した組成物も本実施形態のフィラー含有樹脂組成物である。
【実施例0047】
本発明の複合酸化物粒子材料について以下実施例に基づき詳細に説明を行う。
<試験試料の調製>
・実施例1~7及び比較例1(VMC法により製造)
平均粒径が3μmで純度が99.9%以上の金属モリブデン粉末と、平均粒径が30μmで純度が99%で以上の金属亜鉛粉末をモル比でモリブデン:亜鉛=1:1として混合し、原料粒子材料を調製した(原料粒子材料調製工程)。
【0048】
この原料粒子材料を反応炉内に形成された酸化雰囲気中の酸化炎中に投入した。原料粒子材料は、キャリアとしての空気中に4kg/mの濃度となるように分散させて投入し燃焼させて、モリブデンと亜鉛の複合酸化物(モリブデン酸亜鉛)からなる本実施例の試験試料である複合酸化物粒子材料を得た(複合酸化物粒子材料調製工程)。
【0049】
この際、反応炉内には投入する原料粒子材料、可燃性ガスを完全に酸化するのに必要な酸素量(理論O量T)と実際に投入した酸素量(投入O量R)との比(R/T)は、表1に示す値になるように空気を投入した。
【0050】
・実施例8
実施例3で得られた試験試料に表面処理剤としてのフェニルアミノシラン(KBM-573)で表面処理を行い本実施例の試験試料を得た。表面処理量は、BET比表面積で測定した単位表面積(m)当たり、10μmolとなるようにした。表面処理の確認はIRスペクトルにて実施した。具体的には2940cm-1付近のフェニルアミノシラン由来のC-H伸縮振動のピークが存在することを確認することでフェニルアミノシランが表面に結合していることを確認した。IRスペクトル例を図2に示す。
【0051】
・実施例9
実施例3の試験試料に代えて、実施例4の試験試料を用いた以外は、実施例8と同様の操作を行い本実施例の試験試料を得た。
【0052】
・実施例10
表面処理剤としてフェニルアミノシランに代えて、ビニルシラン(KBM-1003)を用いた以外は、実施例8と同様の操作を行い本実施例の試験試料を得た。
【0053】
・実施例11
表面処理剤としてフェニルアミノシランに代えて、メタクリルシラン(KBM-503)を用いた以外は、実施例8と同様の操作を行い本実施例の試験試料を得た。
【0054】
・比較例2
市販品試薬(三津和化学薬品株式会社製)を本比較例の試験試料とした。
【0055】
・比較例3
湿式合成法により複合酸化物粒子材料を製造し本比較例の試験試料とした。具体的には以下のように合成操作を行った。まず、イオン交換水500gに酸化モリブデン(キシダ化学株式会社製)を10.3g加え、80℃で加熱・攪拌した。ここに酸化亜鉛(キシダ化学株式会社)5.8gを加え4時間攪拌した。その後、固液分離し固形分を乾燥し、550℃で8時間焼成してモリブデン酸亜鉛からなる複合酸化物粒子材料を得た。
【0056】
<評価>
円相当径、比表面積、円形度、未反応物量及び副生成物量、比誘電率、誘電正接、誘電正接/比表面積、(XRDの26.6°のピーク強度)/(24.2°のピーク強度)、投入O量/理論O量についてそれぞれ測定乃至算出した。結果を表1に示す。参考として各実施例及び比較例の試験試料のXRDチャートを図1に示す。
【0057】
・比誘電率、誘電正接
ネットワークアナライザー(キーサイト社製、E5071C)と空洞共振器摂動法を用いて、1GHzにおける比誘電率を測定した。この測定はASTMD2520(JIS C2565)に準拠して行った。
【0058】
・未反応物量及び副生成物量
モリブデン酸亜鉛、酸化モリブデン、酸化亜鉛、金属モリブデン、金属亜鉛の配合比を変えた混合粉末粉を調整しXRDを測定し、得られたチャートからそれぞれの物質由来の回折角(2θ)における回折強度を読み取り検量線を作成した。作成した検量線を用いて、各実施例及び比較例の試験試料に含まれる未反応物及び副生成物の含有量を計算した。
【0059】
モリブデン酸亜鉛は27°付近のピーク、酸化モリブデンは23°付近のピーク、酸化亜鉛は32°付近のピーク、金属モリブデンは40°付近のピーク、金属亜鉛は43°付近のピークの値を使用した。
【0060】
【表1】
【0061】
表より明らかなように、VMC法により製造した実施例1~11及び比較例1の試験試料は高い円形度をもつことが分かった。また、実施例1~11は純度が高い(未反応物及び副反応物の量が少ない)ことが分かった。
【0062】
更に (XRDの26.6°のピーク強度)/(24.2°のピーク強度)が1.20以上である実施例1~11及び比較例1の試験試料は、比誘電率が16以下で誘電正接/比表面積が0.0030以下と也、電気的特性に優れていることが分かった。
【0063】
投入O量/理論O量を1.2以上にした実施例1~11が1.1と低い比較例1よりも未反応物及び副反応物の量が明らかに少なく、誘電正接/比表面積も小さいことが分かった。ここで、未反応物及び副反応物の量は0.1~0.2%程度は誤差を含む可能性があるが、比較例1の5.6%との値は明らかに実施例1~11の値よりも大きい。比較例2及び3の試験試料は、円形度が低く、誘電正接/比表面積も大きかった。
【0064】
従って、(XRDの26.6°のピーク強度)/(24.2°のピーク強度)が1.20以上であると、電気的特性に優れ未反応物及び副反応物の量も少ないことが分かった。このような複合酸化物粒子材料を調製する場合には投入O量/理論O量を1.2以上にすることが効果的であると分かった。
図1
図2