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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023112404
(43)【公開日】2023-08-14
(54)【発明の名称】農作業車両の安全装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 61/36 20060101AFI20230804BHJP
   F16H 61/4043 20100101ALI20230804BHJP
【FI】
F16H61/36
F16H61/4043
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022014173
(22)【出願日】2022-02-01
(71)【出願人】
【識別番号】000186784
【氏名又は名称】株式会社ショーシン
(74)【代理人】
【識別番号】100088579
【弁理士】
【氏名又は名称】下田 茂
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山口 弘樹
【テーマコード(参考)】
3J053
3J067
【Fターム(参考)】
3J053AA01
3J053AB04
3J053AB14
3J053AB44
3J053DA21
3J067AA11
3J067AA21
3J067AB06
3J067AB21
3J067AC42
3J067BA02
3J067BA56
3J067DA12
3J067DA72
3J067DB34
3J067FA03
3J067FA06
3J067FA64
3J067FA84
3J067FB73
3J067FB78
3J067GA14
(57)【要約】
【課題】 補助ペダルの踏み込みにより、農作業車両Mを直ちに緊急停止させ、安全性をより高めるとともに、既存の農作業車両に対して追加部品の組付け(後付け)により実施可能にして、汎用性、更には実施の容易性を高める。
【解決手段】 片ブレーキ機構3のブレーキペダルPp,Pqを配設するブレーキ配設エリアAの空き領域Asに配設した補助ペダルPsと、HST機構2における油圧配管に接続し、かつ開閉バルブ4v及びバイパス管4pを直列接続したバイパス回路部4と、補助ペダルPsの踏み込みにより、HST機構2におけるHSTレバー5を中立位置Xmへ変位させる第一機能部F1,及び開閉バルブ4vを開側へ切換えることによりHST機構2の作動オイルを非駆動側へバイパスさせる第二機能部F2を有するペダル変位伝達機構部6とを備える。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行系に、少なくともHST機構及び片ブレーキ機構を備える農作業車両の安全装置であって、前記片ブレーキ機構のブレーキペダルを配設するブレーキ配設エリアの空き領域に配設した補助ペダルと、前記HST機構における油圧配管に接続し、かつ開閉バルブ及びバイパス管を直列接続したバイパス回路部と、前記補助ペダルの踏み込みにより、前記HST機構におけるHSTレバーを中立位置へ変位させる第一機能部,及び前記開閉バルブを開側へ切換えることにより前記HST機構の作動オイルを非駆動側へバイパスさせる第二機能部を有してなるペダル変位伝達機構部とを備えることを特徴とする農作業車両の安全装置。
【請求項2】
前記バイパス回路部は、前記HST機構における油圧モータに対して並列接続することを特徴とする請求項1記載の農作業車両の安全装置。
【請求項3】
前記ペダル変位伝達機構部は、ワイヤ伝達部を備えることを特徴とする請求項1記載の農作業車両の安全装置。
【請求項4】
前記ペダル変位伝達機構部は、前記HSTレバーに連動するHSTアームに当接する中立アームを備え、前記中立アームにより前記HSTアームを押操作して前記HSTレバーを前記中立位置へ変位させることを特徴とする請求項1又は3記載の農作業車両の安全装置。
【請求項5】
前記ペダル変位伝達機構部は、前記補助ペダルの踏み込みにより切換操作され、前記開閉バルブを開側へ切換える電気的スイッチを用いたバイパス開閉スイッチを備えることを特徴とする請求項1-4のいずれかに記載の農作業車両の安全装置。
【請求項6】
前記ペダル変位伝達機構部は、前記補助ペダルの踏み込みによりエンジン始動時のイグニッションキーを有効化させるロック解除スイッチを備えることを特徴とする請求項1記載の農作業車両の安全装置。
【請求項7】
前記農作業車両は、スピードスプレーヤであることを特徴とする請求項1記載の農作業車両の安全装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行系に、HST機構及び片ブレーキ機構を備える農作業車両の安全装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、各種作業に利用する自走式の作業車両には、走行用のエンジンを搭載するとともに、変速機としてHST(油圧式無段変速機)機構を搭載する車両も少なくない。HST機構は、変速用のHSTレバーを備え、このHSTレバーを操作することにより、前進走行,停止位置(中立位置),後退走行を行うことができるとともに、走行時の速度を変更することができ、この種の作業車両としては、特許文献1に記載される作業車両及び特許文献2に記載される作業車両が知られている。特許文献1の作業車両は、HSTペダル軸として既存のブレーキペダル軸を利用することによって構成を簡単にし、安価に実施できるようにしたものであり、特許文献2の作業車両は、エンジン回転数が制限された状態でもHST車両を移動できるように構成したものである。
【0003】
また、作業車両、特に、圃場で使用するスピードスプレーヤ等の農作業車両は、広い圃場や様々な区画の圃場等で反対方向を含む方向転換が必要になるため、より小回りができるようにした4WS(四輪操舵機構)や片ブレーキ機構等の操舵機構、或いは操舵補助機構を搭載している車両も少なくない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014-8836号公報
【特許文献2】特開2017-165276号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上述した従来の作業車両、特に、走行系にHST機構及び片ブレーキ機構を備える農作業車両は、次のような問題点があった。
【0006】
即ち、作業中に、農作業車両を方向変換、例えば、右回りで方向変換する場合、運転者は、通常、片ブレーキ機構における右ブレーキペダルを踏んで右側後輪を停止させるとともに、HST機構に備えるHSTレバーを低速側に操作する。
【0007】
一方、方向変換中、例えば、旋回方向に障害物を発見し、緊急停止したい場合も発生する。この場合、運転者は、HSTレバーを中立位置へ変位させて走行を停止させる必要があるが、手操作による操作のため、操作に遅れを生じたり、農作業車両における他の作業操作を行っていたような場合には、農作業車両を迅速に停止させることが容易でなく、より高い安全性を確保する観点からは必ずしも十分とは言えない。このため、HST機構及び片ブレーキ機構を備える農作業車両であって、走行中における旋回時に何らかのアクシデントが発生した際に、農作業車両を直ちに緊急停止させる要請に応える観点からは更なる改善の余地があった。
【0008】
本発明は、このような背景技術に存在する課題を解決した農作業車両の安全装置の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る農作業車両の安全装置1は、上述した課題を解決するため、走行系に、少なくともHST機構2及び片ブレーキ機構3を備える農作業車両Mの安全装置を構成するに際して、片ブレーキ機構3のブレーキペダルPp,Pqを配設するブレーキ配設エリアAの空き領域Asに配設した補助ペダルPsと、HST機構2における油圧配管に接続し、かつ開閉バルブ4v及びバイパス管4pを直列接続したバイパス回路部4と、補助ペダルPsの踏み込みにより、HST機構2におけるHSTレバー5を中立位置Xmへ変位させる第一機能部F1,及び開閉バルブ4vを開側へ切換えることによりHST機構2の作動オイルを非駆動側へバイパスさせる第二機能部F2を有してなるペダル変位伝達機構部6とを備えることを特徴とする。
【0010】
この場合、発明の好適な態様により、バイパス回路部4は、HST機構2における油圧モータに対して並列接続することができる。一方、ペダル変位伝達機構部6には、ワイヤ伝達部11を設けることができる。また、ペダル変位伝達機構部6は、HSTレバー5に連動するHSTアーム12に当接する中立アーム13を備え、中立アーム13によりHSTアーム12を押操作してHSTレバー5を中立位置Xmへ変位させることができる。さらに、ペダル変位伝達機構部6は、補助ペダルPsの踏み込みにより切換操作され、開閉バルブ4vを開側へ切換える電気的スイッチを用いたバイパス開閉スイッチ14を設けることができる。他方、ペダル変位伝達機構部6には、補助ペダルPsの踏み込みによりエンジン始動時のイグニッションキーを有効化させるロック解除スイッチ15を設けることができる。なお、農作業車両Mは、スピードスプレーヤMsに適用して好適である。
【発明の効果】
【0011】
このような構成を有する本発明に係る農作業車両の安全装置1によれば、次のような顕著な効果を奏する。
【0012】
(1) 走行系に、HST機構2及び片ブレーキ機構3を備える農作業車両Mであって、走行中に、HST機構2及び片ブレーキ機構3の操作により旋回するとともに、旋回時に、何らかのアクシデントが発生して農作業車両Mを直ちに緊急停止させる場合であっても、補助ペダルPsの踏み込むことにより、農作業車両Mを直ちに緊急停止させることができ、安全性をより高めることができる。しかも、安全装置1は、既存の農作業車両Mに対して追加部品の組付け、即ち、後付けにより実施することができるため、汎用性、更には実施の容易性に優れる。
【0013】
(2) 好適な態様により、バイパス回路部4を構成するに際し、HST機構2における油圧モータに対して並列接続すれば、バイパス回路部4の追加接続のみでHST機構2の駆動力(駆動出力)を遮断する機能を実現できるため、容易かつ低コストに実施することができる。
【0014】
(3) 好適な態様により、ペダル変位伝達機構部6を構成するに際し、ワイヤ伝達部11を設けて構成すれば、フレキシブル性に優れたペダル変位伝達機構部6を構築できるため、補助ペダルPsの配設位置を自由に選定し、比較的狭い空間であっても容易に引き回しできるため、設計自由度を高めることができるとともに、実施の容易性及び低コスト性に寄与できる。
【0015】
(4) 好適な態様により、ペダル変位伝達機構部6を構成するに際し、HSTレバー5に連動するHSTアーム12に当接する中立アーム13を設け、この中立アーム13によりHSTアーム12を押操作してHSTレバー5を中立位置Xmへ変位させるようにすれば、押操作のみを有効化できるため、第一機能部F1を容易かつ確実に実施できるとともに、補助ペダルPsを戻した後は、HSTレバー5を通常と同様に手動で操作できるため、補助ペダルPsを戻した後、急発進するなどの不具合を回避することができる。
【0016】
(5) 好適な態様により、ペダル変位伝達機構部6を構成するに際し、補助ペダルPsの踏み込みにより切換操作され、開閉バルブ4vを開側へ切換える電気的スイッチを用いたバイパス開閉スイッチ14を設ければ、電気的スイッチによりバイパス回路部4の開閉を行うことができるため、第二機能部F2の実施の容易化,更には第二機能部F2の小型化及び軽量化に寄与できる。
【0017】
(6) 好適な態様により、ペダル変位伝達機構部6に、補助ペダルPsの踏み込みによりエンジン始動時のイグニッションキーを有効化させるロック解除スイッチ15を設ければ、多重の誤操作防止機能を確保できるため、エンジン始動時の安全性をより高めることができる。
【0018】
(7) 好適な態様により、農作業車両MにスピードスプレーヤMsに適用すれば、特に、スピードスプレーヤMsの走行時における緊急停止機能を有効に実現できるため、スピードスプレーヤMsの安全性をより高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の好適実施形態に係る安全装置を備えるスピードスプレーヤの概要を示すブロック構成図、
図2】同安全装置に備える補助ペダル及び片ブレーキ機構を示す斜視図、
図3】同安全装置に備える補助ペダルの斜視図、
図4】同安全装置の全体を示す系統構成図、
図5】同安全装置に備える補助ペダル側の作用説明図、
図6】同安全装置に備えるHST機構側の作用説明図、
図7】同安全装置の動作を説明するためのフローチャート、
図8】同安全装置における変更例に係る補助ペダル側の構成図、
図9】同安全装置における変更例に係るHST機構側の構成図、
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、本発明に係る好適実施形態を挙げ、図面に基づき詳細に説明する。
【0021】
最初に、本発明の理解を容易にするため、本発明の対象となるスピードスプレーヤMs(農作業車両M)の概略構成について、図1及び図2を参照して説明する。
【0022】
図1に示すように、スピードスプレーヤMsは、自走する四輪駆動タイプであり、左右の前輪31p,31qと左右の後輪32p,32qを備える。前輪31p,31qはフロントアクスル33により支持されるとともに、後輪32p,32qはリアアクスル34により支持される。そして、後輪32p,32qには、片ブレーキ機構3が付設される。片ブレーキ機構3において、35pは、右側の後輪32pに付設された右ブレーキであり、この右ブレーキ35pは、右側のブレーキペダルPpの踏み込みによりブレーキングされ、右側の後輪32pを停止させることができるとともに、35qは、左側の後輪32qに付設された左ブレーキであり、この左ブレーキ35qは、左側のブレーキペダルPqの踏み込みによりブレーキングされ、左側の後輪32qを停止させることができる。なお、仮想線で示すPaは、アクセルペダルを示す。
【0023】
一方、37はエンジンを示し、このエンジンの回転出力は、分配器(ミッション)38を介してHST(油圧式無段変速機)機構2に伝達される。そして、HST機構2の回転出力は、サブミッションを39を介してフロントアクスル33及びリアアクスル34に伝達される。また、HST機構2には、HSTレバー5が接続される。これにより、HSTレバー5を中央の中立位置Xmから前方へ倒せば、スピードスプレーヤMsを前進させることができるとともに、倒し量を変えることにより走行速度を調整できる。一方、HSTレバー5を中立位置Xmに戻せば、スピードスプレーヤMsを停止させることができる。さらに、HSTレバー5を中立位置Xmから後方へ倒せば、スピードスプレーヤMsを後退させることができるとともに、倒し量を変えることにより走行速度を調整できる。
【0024】
図2は、スピードスプレーヤMsの運転席回りの構成を示す。41はスピードスプレーヤMsのボディであり、このボディ41の前部に、上方に開放された運転席42を備える。運転席42には、運転者が着座する運転シート43を備えるとともに、この運転シート43の前方には、ステアリング44及び計器パネル45を備える。また、計器パネル45の下方は、ブレーキ配設エリアAの空間となり、このブレーキ配設エリアAには、上述した右側のブレーキペダルPpと左側のブレーキペダルPqを配設するとともに、運転シート43の左側には、上述したHSTレバー5が配設される。
【0025】
他方、図示を省略したが、ボディ41の後部には薬液を収容した薬液タンクを搭載し、この薬液タンクに収容された薬液は、噴霧ノズルから噴霧されるとともに、後端に配設された送風機による送風により薬液散布が行われる
【0026】
次に、本発明の要部を構成する本実施形態に係る安全装置1の構成について、図1図4を参照して具体的に説明する。
【0027】
安全装置1は、基本的な構成として、補助ペダルPs,バイパス回路部4及びペダル変位伝達機構部6を備える。
【0028】
補助ペダルPsは、図2に示すように、前述したブレーキペダルPp,Pqを配設するブレーキ配設エリアAの空き領域Asに配設する。例示の場合、左側のブレーキペダルPqの左方に配設した。この空き領域Asは、マニュアル(MT)式のスピードスプレーヤの場合、クラッチペダルを配設する位置となるが、本実施形態に係るスピードスプレーヤMsは、HST機構2を搭載し、クラッチペダルが不要になるため、この空間は、空き領域Asとなる。
【0029】
図3は、補助ペダルPsの外観図を示し、上端に、軸部51(図4)により回動自在に支持される支持孔52h,52hを有する被支持部52を備えるとともに、この被支持部52から下方へ延設したレバー部52r,及びこのレバー部52rの下端に設けたペダル部52pを備える。
【0030】
バイパス回路部4は、図1に示すように、開閉バルブ(電磁バルブ)4v及びバイパス管4pを直列接続し、HST機構2における油圧配管、具体的には、HST機構2における油圧モータに対して並列接続する。これにより、開閉バルブ4vを閉側へ切換えれば、バイパス回路部4はOFFになり、バイパス機能を停止するとともに、開閉バルブ4vを開側へ切換えれば、HST機構2の作動オイルを非駆動側へバイパスさせ、HST機構2の駆動力(駆動出力)を遮断することができる。
【0031】
図1中、14は、電気的スイッチを用いたバイパス開閉スイッチであり、このバイパス開閉スイッチ14をON/OFF切換することにより、開閉バルブ4vを開閉切換することができる。このように、バイパス回路部4を構成するに際し、HST機構2における油圧モータに対して並列接続すれば、バイパス回路部4の追加接続のみでHST機構2の駆動力(駆動出力)を遮断する機能を実現できるため、容易かつ低コストに実施することができる。このバイパス開閉スイッチ14は、エンジン始動時のイグニッションキーを有効化させるロック解除スイッチ15を兼ねている。これにより、多重の誤操作防止機能を確保できるため、エンジン始動時の安全性をより高めることができる。
【0032】
ペダル変位伝達機構部6は、補助ペダルPsの踏み込みにより、HST機構2におけるHSTレバー5を中立位置Xmへ変位させる第一機能部F1を備えるとともに、開閉バルブ4vを開側へ切換えることによりHST機構2の作動オイルを非駆動側へバイパスさせる第二機能部F2を備える。
【0033】
図4に示すように、前述した補助ペダルPsは、位置が固定された第一支持部材53により回動支持される。即ち、補助ペダルPsの上端に設けた被支持部52の支持孔52h,52hが、第一支持部材53に設けた軸部51により回動自在に支持される。また、補助ペダルPsは、被支持部52の上端片部52uに掛止した戻しスプリング54により、反踏み込み方向に付勢されるとともに、第一支持部材53に設けたストッパ55により反踏み込み方向の位置が規制される。
【0034】
一方、HST機構2は、油圧ポンプと油圧モータにより構成された図4に示すHSTユニット61を備え、このHSTユニット61から突出したシャフト62に、HSTアーム12の上端部を固定するとともに、このHSTアーム12の前方の所定位置に第二支持部材63を固定する。そして、この第二支持部材63には支軸64を設け、この支軸64により、中立アーム13の中間部を回動自在に支持する。この場合、HSTアーム12は、前述したHSTレバー5に連動して回動変位する。HSTアーム12は、中間位置から突出した従動レバー部12mを備え、この従動レバー部12mに、中立アーム13に設けた出力レバー部13eの先端部が当接する。これにより、出力レバー部13eは、従動レバー部12mを押操作することにより、HSTレバー5を中立位置Xmへ変位させることができる。なお、図4及び図6における12jは、HSTアーム12の下端部に形成した、HSTレバー5へのレバー接続部であり、このレバー接続部12jとHSTレバー5は、
ワイヤ伝達部(図9符号66参照)により接続される。
【0035】
そして、第一支持部材53と第二支持部材63間には、ワイヤ伝達部11を架設する。このワイヤ伝達部11は、踏み込み方向Fpに変位した補助ペダルPsの回動変位量を、中立アーム13に伝達し、中立アーム13を、当該回動変位量に対応して変位させる機能を備える。このため、ワイヤ伝達部11の中心に位置する伝達ワイヤ11wの前端部は、補助ペダルPsの被支持部52に設けた後端片部52rに連結するとともに、伝達ワイヤ11wの後端部は、中立アーム13に設けた入力レバー部13iの先端部に連結する。なお、図4中、65は、中立アーム13の上端片部13uに掛止させた戻しスプリング、14は、従動レバー部12mの先端位置に対応してON/OFF操作される前述したバイパス開閉スイッチを示す。なお、例示の開閉スイッチ14は、ノーマルOFFスイッチである。
【0036】
このように、ペダル変位伝達機構部6を構成するに際し、ワイヤ伝達部11を設けて構成すれば、フレキシブル性に優れたペダル変位伝達機構部6を構築できるため、補助ペダルPsの配設位置を自由に選定し、比較的狭い空間であっても容易に引き回しできるため、設計自由度を高めることができるとともに、実施の容易性及び低コスト性に寄与することができる。また、HSTレバー5に連動するHSTアーム12に当接する中立アーム13を設け、この中立アーム13によりHSTアーム12を押操作して中立位置Xmへ変位させるように構成すれば、押操作のみを有効化できるため、第一機能部F1を容易かつ確実に実施できるとともに、補助ペダルPsを戻した後は、HSTレバー5を通常と同様に手動で操作できるため、補助ペダルPsを戻した後、急発進するなどの不具合を回避することができる。
【0037】
次に、本実施形態に係る安全装置1の動作(機能)について、図1図6を参照しつつ図7に示すフローチャートに従って説明する。
【0038】
今、運転者(ユーザ)は、スピードスプレーヤMsを運転し、圃場において薬液散布作業を行っている状態にあるものとする(ステップS1)。そして、作業中に、スピードスプレーヤMsを、例えば、右回転により方向変換する場合を想定する。
【0039】
この際、運転者は、HSTレバー5を操作して走行速度を必要な低速まで低下させるとともに、ステアリング44を右回転操作する。また、これらの操作と同時に、右側のブレーキペダルPpを踏んで右側の後輪32pを停止させる(ステップS2,S3)。これにより、スピードスプレーヤMsは、小回りによる右回転により方向変換を行うことができる。
【0040】
一方、方向変換中に、何らかのアクシデントにより緊急停止する必要がある緊急状況が発生した場合を想定する(ステップS4)。この場合、運転者は、直ちに、補助ペダルPsの踏み込みを行う(ステップS5)。これにより、補助ペダルPsは、踏み込み方向Fpに回動変位、即ち、図5中、仮想線で示す補助ペダルPssの位置から実線で示す補助ペダルPsの位置へ回動変位する。この結果、補助ペダルPsの回動変位量は、伝達ワイヤ11wを介して中立アーム13(入力レバー部13i)に伝達される。そして、中立アーム13の出力レバー部13eは、図6中、仮想線で示す出力レバー部13esの位置から実線で示す出力レバー部13eの位置に変位する(ステップS6)。また、出力レバー部13eの回動変位により、HSTアーム12の従動レバー部12mが押操作され、HSTアーム12は、図6中、仮想線で示すHSTアーム12sの位置から実線で示すHSTアーム12の位置へ回動変位、即ち、レバー接続部12jは、仮想線で示すレバー接続部12jsの位置から実線で示すレバー接続部12jの位置へ旋回変位し、連動するHSTレバー5は、中立位置Xmに強制的に移動させられる(ステップS7)。走行中におけるスピードスプレーヤMsのHSTレバー5が中立位置Xmに強制的に戻され、ダイナミックブレーキによるブレーキングが行われる(ステップS8)。以上の動作が、補助ペダルPsの踏み込みにより、HST機構2におけるHSTレバー5を中立位置Xmへ変位させる第一機能部F1の動作となる。
【0041】
また、HSTアーム12の回動変位が設定された位置まで回動変位すれば、従動レバー部12mがバイパス開閉スイッチ14(ロック解除スイッチ15)から離間、即ち、図6中、仮想線で示す従動レバー部12msの位置から下方へ離間し、バイパス開閉スイッチ14がONする(ステップS9,S10)。これにより、開閉バルブ4vが開側へ切換えられ、バイパス回路4がバイパスON状態となる(ステップS11)。この結果、HST機構2の作動オイルは非駆動側へバイパスされ、HST機構2による動力の出力が解除され、上述したダイナミックブレーキの作用と併せて、スピードスプレーヤMsは速やか(迅速)に停止する(ステップS12)。このように、開閉バルブ4vを開側へ切換えることによりHST機構2の作動オイルを非駆動側へバイパスさせる動作は、第二機能部F2による動作となる。
【0042】
他方、運転者は、所定の対応により緊急状況が終了すれば、補助ペダルPsの踏み込みを解除する(ステップS13,S14)。これにより、戻しスプリング54,65により、補助ペダルPs及び中立アーム13は踏み込み前の位置(ホームポジション)に復帰する(ステップS15)。この場合、HSTアーム12は、中立位置Xmに維持されるため、急発進などの不具合は生じない。そして、運転者は、HSTレバー5を再操作し、走行を開始することができるとともに、噴霧散布作業を継続することができる(ステップS16,S1…)。
【0043】
次に、本実施形態に係る安全装置1の補助ペダルPs側及びHST機構2側の変更例について、図8及び図9を参照して説明する。
【0044】
図8は、補助ペダルPs側の変更例を示す。変更例に係る補助ペダルPsは、図3及び図4に示した実施例に対して、ペダル部52pの形状(形態)及び大きさを変更した点が異なる。即ち、変更例のペダル部52pは、図8に示すように、大きさをサイズアップするとともに、ペダル部52pの運転シート43側における所定範囲を所定角度で下方へ折曲して傾斜面部52prを形成するとともに、反対側の部位に、上端辺に凹凸形状の滑止めを形成した起立面部52pvを設けた。また、補助ペダルPsの被支持部52を支持するに際し、図3及び図4で示した実施例は、左右一対の支持孔52h,52hを軸部51により支持する構成を示したが、図8に示す変更例は、一枚のプレート体により形成した被支持部52の一面側にパイプ軸受52cの一端を固定し、このパイプ軸受52cを軸部51により支持するようにした。
【0045】
さらに、図4に示した実施例では、ロック解除スイッチ15を兼ねるバイパス開閉スイッチ14をHST機構2側に配設することにより、HSTアーム12(従動レバー部12m)により操作される例を示したが、図8に示す変更例は、補助ペダルPsを支持する第一支持部材53上に配設した。これにより、運転者が補助ペダルPsを踏み込むことにより、補助ペダルPsのレバー部52rがバイパス開閉スイッチ14のスイッチノブ14nを押し込み、バイパス開閉スイッチ14(ロック解除スイッチ15)をON(有効)にすることができる。
【0046】
一方、図9は、HST機構2側の変更例、特に、HSTアーム12及び中立アーム13の変更例を示す。図4に示した実施例は、HSTアーム12を横T形状に形成し、横方向に突出した従動レバー部12mを設けた例を示したが、図9に示す変更例のHSTアーム12は、Y形状に形成した。また、図4に示した実施例は、中立アーム13に、従動レバー部12mに当接する出力レバー部13eを設けたが、図9に示す変更例の中立アーム13は、出力レバー部13eの先端部に、回転自在の係合ベアリング13rを設けるとともに、この係合ベアリング13rをHSTアーム12の上端に当接するように構成した。これにより、HSTアーム12が、前進走行側又は後退走行側のいずれの位置に変位した状態にあっても、補助ペダルPsを踏み込むことにより、中立位置Xmへ戻すことができる。なお、図9中、66はHSTレバー5へ接続するワイヤ伝達部を示すとともに、仮想線で示す12sb,12sa及び実線で示す12sは、前進走行側,中立位置Xm,後退走行側へ変位した状態のHSTアームを示す。
【0047】
図8及び図9の変更例は、いずれも形状的な変更例であり、基本的な構成及び機能は、図1図7の実施例と同じである。このため、図8及び図9において、図1図7と同一の構成部分及び同一の機能部分は、同一の符号を付してその構成を明確にするとともに、その詳細な説明は省略する。
【0048】
よって、このような本実施形態に係るスピードスプレーヤMsによれば、片ブレーキ機構3のブレーキペダルPp,Pqを配設するブレーキ配設エリアAの空き領域Asに配設した補助ペダルPsと、HST機構2における油圧配管に接続し、かつ開閉バルブ4v及びバイパス管4pを直列接続したバイパス回路部4と、補助ペダルPsの踏み込みにより、HST機構2におけるHSTレバー5を中立位置Xmへ変位させる第一機能部F1,及び開閉バルブ4vを開側へ切換えることによりHST機構2の作動オイルを非駆動側へバイパスさせる第二機能部F2を有してなるペダル変位伝達機構部6とを備えるため、旋回時に、何らかのアクシデントが発生して農作業車両Mを直ちに緊急停止させる場合であっても、補助ペダルPsの踏み込むことにより、農作業車両Mを直ちに緊急停止させることができ、安全性をより高めることができる。しかも、安全装置1は、既存の農作業車両Mに対して追加部品の組付け、即ち、後付けにより実施できるため、汎用性、更には実施の容易性に優れる。
【0049】
以上、変更例を含む好適実施形態について詳細に説明したが、本発明は、このような実施形態に限定されるものではなく、細部の構成,形状,素材,数量,数値等において、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、任意に変更,追加,削除することができる。
【0050】
例えば、バイパス回路部4は、HST機構2における油圧モータに対して並列接続する場合を例示したが、HST機構2の作動オイルを非駆動側へバイパスさせて第二機能部F2としての機能を生じる回路であれば、他の回路構成を排除するものではない。また、ペダル変位伝達機構部6には、ワイヤ伝達部11を設けて構成した場合を例示したが、剛性のリンク部材を組合わせた構成或いは剛性のリンク部材とワイヤ伝達部を組合わせた構成など、補助ペダルの変位量を伝達できる機構であれば、他の構成により置換可能である。さらに、ペダル変位伝達機構部6は、HSTレバー5に連動するHSTアーム12に当接する中立アーム13を備え、中立アーム13によりHSTアーム12を押操作してHSTレバー5を中立位置Xmへ変位させる構成が望ましいが、補助ペダルPsの変位を直接的にHSTレバー5に作用させる構成であってもよい。同様に、補助ペダルPsの踏み込みにより切換操作され、開閉バルブ4vを開側へ切換える電気的スイッチを用いたバイパス開閉スイッチ14を設けた例を示したが、補助ペダルPsの変位を直接的に開閉バルブ(非電磁バルブ)4vに作用させる構成であってもよい。一方、ペダル変位伝達機構部6に、補助ペダルPsの踏み込みによりエンジン始動時のイグニッションキーを有効化させるロック解除スイッチ15を設けることが望ましいが、本発明の必須の構成要素となるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明に係る農作業車両の安全装置は、走行系にHST機構及び片ブレーキ機構を備えるスピードスプレーヤ等の各種農作業車両に利用することができる。
【符号の説明】
【0052】
1:安全装置,2:HST機構,3:片ブレーキ機構,4:バイパス回路部,4v:開閉バルブ,4p:バイパス管,5:HSTレバー,6:ペダル変位伝達機構部,11:ワイヤ伝達部,12:HSTアーム,13:中立アーム,14:バイパス開閉スイッチ,15:ロック解除スイッチ,M:農作業車両,Ms:スピードスプレーヤ,Pp:右側のブレーキペダル,Pq:左側のブレーキペダル,Ps:補助ペダル,A:ブレーキ配設エリア,As:空き領域,Xm:中立位置,F1:第一機能部,F2:第二機能部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9