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特開2023-112417細胞凍結保存剤および細胞の凍結方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023112417
(43)【公開日】2023-08-14
(54)【発明の名称】細胞凍結保存剤および細胞の凍結方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/04 20060101AFI20230804BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20230804BHJP
【FI】
C12N1/04
C12N5/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022014201
(22)【出願日】2022-02-01
(71)【出願人】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】東洋インキSCホールディングス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】金井 勇樹
(72)【発明者】
【氏名】田尾 文哉
(72)【発明者】
【氏名】荻原 直人
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA93
4B065BD09
4B065BD12
4B065BD27
4B065BD33
4B065CA44
4B065CA46
(57)【要約】
【課題】
本発明の課題は、血清を使用することなく、細胞毒性が低く、細胞凝集物の凍結にも利用可能な凍結保存液、および簡易で効率の高い細胞の凍結保存方法を提供することである。
【解決手段】
上記課題は、アミノ酸系界面活性剤を含む細胞凍結保存剤であって、アミノ酸系界面活性剤は、前記重合体の濃度が20.0w/v%以下の水溶液において測定した不凍水の量が、前記アミノ酸系界面活性剤1gあたり200mg以上であることを特徴とする細胞凍結保存剤によって解決することができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミノ酸系界面活性剤を含む細胞凍結保存剤であって、
アミノ酸系界面活性剤は、アミノ酸系界面活性剤の濃度が30.0w/v%以下の水溶液において測定した不凍水の量が、前記重合体1gあたり200mg以上であることを特徴とする細胞凍結保存剤。
【請求項2】
アミノ酸系界面活性剤は、下記一般式(1)または(2)で示されることを特徴とする、請求項1に記載の細胞凍結保存剤。
一般式
【化1】

(式(1)および(2)中の、Aはアミノ酸残基、R1は炭素数4~18個のアルキル基、Xは、OまたはNH、R2は1~4個の酸素原子を含んでもよい炭素数4~18個のアルキル基を示す。)
【請求項3】
請求項1または2に記載の細胞凍結保存剤を含む、細胞凍結保存液。
【請求項4】
アミノ酸系界面活性剤の濃度は、0.01~20.0w/v%である、請求項3に記載の細胞凍結保存液。
【請求項5】
さらに低分子溶剤を含み、浸透圧は500~2500mOsm/Kgであることを特徴とする、請求項3または4に記載の細胞凍結保存液。
【請求項6】
低分子溶剤がジメチルスルホキシド、プロピレングリコール、エチレングリコールおよびグリセリンからなる群より選択された少なくとも一種であり、低分子溶剤の含有量が5.0w/v%以下である請求項5に記載の細胞凍結保存液。
【請求項7】
細胞培養用培地を含む、請求項3~6いずれかに記載の細胞凍結保存液。
【請求項8】
請求項3~7のいずれかに記載の細胞凍結保存液と細胞とを混合する工程、および細胞凍結保存液と細胞との混合物を凍結する工程、を含む細胞の凍結方法。
【請求項9】
請求項3~7いずれかに記載の細胞凍結保存液を用いて凍結されたスフェロイドまたはオルガノイド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞凍結保存剤および細胞の凍結方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年バイオテクノロジーの発達とともに、生物の遺伝子資源の確保が重要にとなり、動物、植物、微生物等の細胞や組織を永久的に保存することが必要とされるようになった。従来、動物細胞を凍結保存する場合、下記の課題が挙げられる。
多くの動物細胞を長期間良好な状態で保存するには、―130℃以下で(水のガラス化温度以下)の凍結保存が必要とされており、温度上昇した場合は細胞の機能低下を招く。そのため、凍結細胞を輸送する際は冷却手段として液体窒素を利用した極低温輸送の形態が採用されているがコストが高い問題がある。そこで、細胞を機能低下せずに低コストで長時間輸送が可能な細胞保存液の開発が望まれている。
【0003】
細胞の凍結保存メカニズムにおいて、凍結および/または解凍時に細胞内外で氷の結晶(氷晶)が成長することにより、細胞への物理的なダメージを与えることが知られている。そのため、細胞内外での氷晶の形成を小さくする、または少なくすることが重要である。一般的に、細胞の凍結保存では、ジメチルスルホキシド(DMSO)やグリセリン、エチレングリコール(EG)、プロピレングルコール(PG)などの低分子溶剤が用いられている。(特許文献5)これらの低分子溶剤は細胞の脱水を促進させることによって、氷の結晶速度を遅らせ、氷晶形成を阻害するとされている。しかし、これらの低分子溶剤は常温において細胞毒性を示し、細胞内へ透過するため細胞への影響も懸念されている。特に、DMSOを使用することで、多能性幹細胞であるOct-4の遺伝子発現量が低下したことが報告されている。(非特許文献1)
【0004】
そこで、上記の物質に代わる様々な凍結保存剤の検討がなされている。
例えば、酵母や微生物によって作られるバイオサーファクタント(天然の界面活性剤)が検討され、凍結保存剤として添加することにより、DMSOの量を軽減することができると記載されている。(特許文献1)また、糖の構造を有する界面活性剤も検討され、細胞膜に挿入されることにより細胞膜を安定化し、DMSO等の細胞毒性を軽減できると記載されている。(特許文献2)また、分子内に正電荷と負電荷の両方を有する非プロトン性双性イオンも検討され、用いることでDMSOの問題である分化促進のなく、細胞の未分化性を維持すると記載されている。(特許文献3)また、脂肪酸エステルであるリン脂質も検討されている。(特許文献4)上記の凍結保存剤は低分子化合物であり、低分子溶剤同様に細胞内に透過し、細胞内の氷晶形成を軽減するものが多い。
それ以外にも、高分子化合物を用いたものも存在する。例えば、ヒドロキシエチルデンプン(HES)を含む凍結保存液を用いて凍結し、この凍結細胞を―80℃で保存しても、解凍後の生存及び増殖能が維持できることが記載されている。(特許文献5)また、ポリアミノ酸であるポリリジンのアミン基を無水コハク酸で変性したポリマーを細胞凍結保存剤として用いることにより、解凍後の生存率向上や未分化性維持を示したと記載されている。高分子単独で用いるだけでなく、低分子化合物と併用することでより高い機能を示すことが知られている。
【0005】
近年は細胞を3次元培養し、様々な形態の細胞スフェロイド(3次元培養した細胞凝集物)を形成することに注目が集まっている。3次元培養したスフェロイドでは、平面培養した細胞とは異なる機能を発揮することが知られている。細胞スフェロイドは、生体により近い細胞環境にあり、生体内の細胞機能を発揮できると考えられていることから、細胞スフェロイドを用いた解析や、スフェロイドの応用技術について活発に研究が行われている。スフェロイドでは細胞―細胞がギャップジャンクションにより連結されており、内部の細胞まで凍結保護物質が均一に拡散しにくく、スフェロイド内部と周辺部で凍結に時間差が起きてしまう。これにより、単一細胞を凍結するときに比べ、スフェロイドの凍結効率の低下が懸念されている。
【0006】
上記のとおり、様々な凍結保存剤が検討されているが、そのほとんどが細胞懸濁液での検討であり、3次元培養したスフェロイドを凍結保存することができるものが望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2018/143166号
【特許文献2】国際公開第2021/095741号
【特許文献3】国際公開第2020/230721号
【特許文献4】国際公開第2019/026910号
【特許文献5】特開2020-39326号公報
【0008】
【非特許文献1】Cryobiology 53(2006)194-205
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、血清を使用することなく、細胞毒性が低く、細胞凝集物の凍結にも利用可能な凍結保存液、および簡易で効率の高い細胞の凍結保存方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意検討した結果、アミノ酸系界面活性剤及び低分子溶剤を含み、細胞凍結保存剤であって、浸透圧は500~2500 mOsm/Kgであること特徴とする、細胞凍結保存剤を見出した。即ち、本発明〔1〕~〔11〕は以下の通りである。
【0011】
[1]アミノ酸系界面活性剤を含む細胞凍結保存剤であって、アミノ酸系界面活性剤は、アミノ酸系界面活性剤の濃度が30.0w/v%以下の水溶液において測定した不凍水の量が、前記重合体1gあたり200mg以上であることを特徴とする細胞凍結保存剤。
[2]アミノ酸系界面活性剤は、下記一般式(1)または(2)で示されることを特徴とする、[1]に記載の細胞凍結保存剤。
一般式
【化1】

(式(1)および(2)中の、Aはアミノ酸残基、R1は炭素数4~18個のアルキル基、Xは、OまたはNH、R2は1~4個の酸素原子を含んでもよい炭素数4~18個のアルキル基を示す。)
[3][1]または[2]に記載の細胞凍結保存剤を含む、細胞凍結保存液。
[4]アミノ酸系界面活性剤の濃度は、0.01~20.0w/v%である、[3]に記載の細胞凍結保存液。
[5]さらに低分子溶剤を含み、浸透圧は500~2500mOsm/Kgであることを特徴とする、[3]または[4]に記載の細胞凍結保存液。
[6]低分子溶剤がジメチルスルホキシド、プロピレングリコール、エチレングリコールおよびグリセリンからなる群より選択された少なくとも一種であり、低分子溶剤の含有量が5.0w/v%以下である[5]に記載の細胞凍結保存液。
[7]細胞培養用培地を含む、[3]~[6]いずれかに記載の細胞凍結保存液。
[8][3]~[7]のいずれかに記載の細胞凍結保存液と細胞とを混合する工程、および細胞凍結保存液と細胞との混合物を凍結する工程、を含む細胞の凍結方法。
[9][3]~[7]いずれかに記載の細胞凍結保存液を用いて凍結されたスフェロイドまたはオルガノイド。
【発明の効果】
【0012】
本発明の細胞凍結保存剤は、血清などの動物由来成分を使用することなく、細胞毒性が低く、細胞凝集物の凍結にも利用可能な凍結保存液、および簡易で効率の高い細胞の凍結保存方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<アミノ酸系界面活性剤>
本発明のアミノ酸系界面活性剤は、アミノ酸系界面活性剤の濃度が0.1~30%の水溶液において測定した不凍水量が、アミノ酸系界面活性剤1gあたり200mg以上であり、250mg以上が好ましい。不凍水とは―100℃以下でも凍結しない水のことであり、この量が多いほど、凍結の際の氷の結晶成長による物理的なダメージを回避できる。不凍水を多く含有することで、細胞膜外での安定な水和状態を維持し、低分子溶剤による高い浸透速度を制御し、凍結保存性を向上することができる。
【0014】
本発明のアミノ酸系界面活性剤は、アミノ酸構造を有する界面活性剤であり、親水的部分と疎水的部分を持つ両親媒性分子で構成された界面活性剤のうち、その親水性を担う部分にアミノ酸構造を持つ化合物を指す。
アミノ酸のアミノ基とカルボキシル基は、それぞれが反応性に富む官能基であることから多様な構造の界面活性剤に誘導することができる。従って、これらのアミン、カルボン酸の持つ反応性を利用して、疎水性基である脂肪酸などを導入して、アミノ酸系界面活性剤を合成することができる。この際にアミンまたはカルボン酸またはその他の官能基のどれか1つの水素原子が別の官能基に置換されたアミノ酸誘導体を用いることもできる。アミノ酸誘導体を用いた場合は、最終的に脱保護されていることが好ましい。
アミノ酸は、D体またはL体、またはその混合物であるDL体やラセミ体のいずれであってもよく、特に生体を構成するアミノ酸であることから、L-アミノ酸が好ましい。その中でも、生体を構成するアミノ酸であるバリン、ロイシン、イソロイシン、アラニン、アルギニン、グルタミン、リシン、アスパラギン酸、グルタミン酸、プロリン、システイン、トレオニン、メチオニン、ヒスチジン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、アスパラギン、グリシン、セリンがより好ましい。アミノ酸誘導体としては、アミノ酸のアミノ基、カルボシキル基、またはその他の官能基のどれか1つの水素原子が別の官能基に置換されたものであり、これらの置換基を介して疎水性基を導入することもできる。
アミノ酸系界面活性剤は、動植物から抽出、精製した天然物であっても、化学合成したものでもよく、水素添加、水酸化処理など加工されたものであってもよい。
【0015】
アミノ酸系界面活性剤は、一般的(1)または(2)で示される構造であることが好ましい。
【化1】

(式(1)および(2)中の、Aはアミノ酸残基、R1は炭素数4~18個のアルキル基、Xは、それぞれ独立してOまたはNH、R2は1~4個の酸素原子を含んでもよい炭素数4~18個のアルキル基を示す。)
【0016】
分子鎖中に1~4個の酸素原子を含んでもよい炭素数4~18個のアルキル基としては、無置換のアルキル基、水酸基またはアルコキシ基等の置換基を有するアルキル基、ポリオキシアルキレン構造等が挙げられる。
【0017】
一般式(1)で示されるアミノ酸系界面活性剤としては、例えば、脂肪酸にアミノ酸を反応させて得られるN-脂肪酸アシルアミノ酸、またはそのアルカリ金属塩、アミン塩、アンモニウム塩が挙げられる。また、アミノ酸系界面活性剤は、1種で用いることも2種以上併用することもできる。
【0018】
N-脂肪酸アシルアミノ酸を合成する方法は制限されないが、例えば、脂肪酸を三塩化リンなどでアシルクロライドにした後、アルカリ存在下にて反応させる方法が挙げられる。アミノ酸の種類により反応性が異なるが、中性アミノ酸は操作が簡単で収率も高い。
【0019】
前記N-脂肪酸アシルアミノ酸の原料となる脂肪酸としては、例えば、ヤシ油脂肪酸、牛脂脂肪酸、パーム油脂肪酸、パーム核油脂肪酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸等が挙げられる。
【0020】
N-脂肪酸アシルアミノ酸をアルカリ金属塩とする際に用いるアルカリ金属としては、例えば、ナトリウム、カリウム、リチウム等が挙げられる。また、N-脂肪酸アシルアミノ酸をアミン塩とする際に用いるアミン化合物としては、例えば、トリエタノールアミン、トリエチルアミン、ジエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、ジブチルアミン、モノエタノールアミン等が挙げられる。さらに、N-脂肪酸アシルアミノ酸をアンモニウム塩とする場合には、アンモニア水を用いる。
【0021】
N-脂肪酸アシルアミノ酸の具体例としては、
N-ヤシ油脂肪酸アシルグルタミン酸、N-ヤシ油脂肪酸アシルグルタミン酸トリエタノールアミン、N-ヤシ油脂肪酸アシルグリシン、N-ヤシ油脂肪酸アシルグリシントリエタノールアミン、N-ヤシ油脂肪酸アシルアラニン、N-ヤシ油脂肪酸アシルアラニントリエタノールアミン、N-ヤシ油脂肪酸アシルサルコシン、N-ヤシ油脂肪酸アシルサルコシントリエタノールアミン、N-ヤシ油脂肪酸アシルグルタミン酸ナトリウム、N-ヤシ油脂肪酸アシルグリシンナトリウム、N-ヤシ油脂肪酸アシルアラニンナトリウム、N-ヤシ油脂肪酸アシルサルコシンナトリウム、N-ヤシ油脂肪酸アシルグルタミン酸カリウム、N-ヤシ油脂肪酸アシルグリシンカリウム、N-ヤシ油脂肪酸アシルアラニンカリウム、N-ヤシ油脂肪酸アシルサルコシンカリウム等のヤシ油脂肪酸由来のアミノ酸系界面活性剤;
N-牛脂脂肪酸アシルグルタミン酸、N-牛脂脂肪酸アシルグルタミン酸トリエタノールアミン、N-牛脂脂肪酸アシルグリシン、N-牛脂脂肪酸アシルグリシントリエタノールアミン、N-牛脂脂肪酸アシルアラニン、N-牛脂脂肪酸アシルアラニントリエタノールアミン、N-牛脂脂肪酸アシルサルコシン、N-牛脂脂肪酸アシルサルコシントリエタノールアミン、N-牛脂脂肪酸アシルグルタミン酸ナトリウム、N-牛脂脂肪酸アシルグリシンナトリウム、N-牛脂脂肪酸アシルアラニンナトリウム、N-牛脂脂肪酸アシルサルコシンナトリウム、N-牛脂脂肪酸アシルグルタミン酸カリウム、N-牛脂脂肪酸アシルグリシンカリウム、N-牛脂脂肪酸アシルアラニンカリウム、N-牛脂脂肪酸アシルサルコシンカリウム等の牛脂脂肪酸由来のアミノ酸系界面活性剤;
N-パーム油脂肪酸アシルグルタミン酸、N-パーム油脂肪酸アシルグルタミン酸トリエタノールアミン、N-パーム油脂肪酸アシルグリシン、N-パーム油脂肪酸アシルグリシントリエタノールアミン、N-パーム油脂肪酸アシルアラニン、N-パーム油脂肪酸アシルアラニントリエタノールアミン、N-パーム油脂肪酸アシルサルコシン、N-パーム油脂肪酸アシルサルコシントリエタノールアミン、N-パーム油脂肪酸アシルグルタミン酸ナトリウム、N-パーム油脂肪酸アシルグリシンナトリウム、N-パーム油脂肪酸アシルアラニンナトリウム、N-パーム油脂肪酸アシルサルコシンナトリウム、N-パーム油脂肪酸アシルグルタミン酸カリウム、N-パーム油脂肪酸アシルグリシンカリウム、N-パーム油脂肪酸アシルアラニンカリウム、N-パーム油脂肪酸アシルサルコシンカリウム等のパーム油脂肪酸由来のアミノ酸系界面活性剤;
N-パーム核油脂肪酸アシルグルタミン酸、N-パーム核油脂肪酸アシルグルタミン酸トリエタノールアミン、N-パーム核油脂肪酸アシルグリシン、N-パーム核油脂肪酸アシルグリシントリエタノールアミン、N-パーム核油脂肪酸アシルアラニン、N-パーム核油脂肪酸アシルアラニントリエタノールアミン、N-パーム核油脂肪酸アシルサルコシン、N-パーム核油脂肪酸アシルサルコシントリエタノールアミン、N-パーム核油脂肪酸アシルグルタミン酸ナトリウム、N-パーム核油脂肪酸アシルグリシンナトリウム、N-パーム核油脂肪酸アシルアラニンナトリウム、N-パーム核油脂肪酸アシルサルコシンナトリウム、N-パーム核油脂肪酸アシルグルタミン酸カリウム、N-パーム核油脂肪酸アシルグリシンカリウム、N-パーム核油脂肪酸アシルアラニンカリウム、N-パーム核油脂肪酸アシルサルコシンカリウム等のパーム核油脂肪酸由来のアミノ酸系界面活性剤;
N-ラウロイルアシルグルタミン酸、N-ラウロイルアシルグルタミン酸トリエタノールアミン、N-ラウロイルアシルグリシン、N-ラウロイルアシルグリシングルトリエタノールアミン、N-ラウロイルアシルアラニン、N-ラウロイルアシルアラニントリエタノールアミン、N-ラウロイルアシルサルコシン、N-ラウロイルアシルサルコシントリエタノールアミン、N-ラウロイルアシルグルタミン酸ナトリウム、N-ラウロイルアシルグリシンナトリウム、N-ラウロイルアシルアラニンナトリウム、N-ラウロイルアシルサルコシンナトリウム、N-ラウロイルアシルグルタミン酸カリウム、N-ラウロイルアシルグリシングルカリウム、N-ラウロイルアシルアラニンカリウム、N-ラウロイルアシルサルコシンカリウム等のラウリン酸由来のアミノ酸系界面活性剤;
N-ミリストイルアシルグルタミン酸、N-ミリストイルアシルグルタミン酸トリエタノールアミン、N-ミリストイルアシルグリシン、N-ミリストイルアシルグリシントリエタノールアミン、N-ミリストイルアシルアラニン、N-ミリストイルアシルアラニントリエタノールアミン、N-ミリストイルアシルサルコシン、N-ミリストイルアシルサルコシントリエタノールアミン、N-ミリストイルアシルグルタミン酸ナトリウム、N-ミリストイルアシルグリシンナトリウム、N-ミリストイルアシルアラニンナトリウム、N-ミリストイルアシルサルコシンナトリウム、N-ミリストイルアシルグルタミン酸カリウム、N-ミリストイルアシルグリシンカリウム、N-ミリストイルアシルアラニンカリウム、N-ミリストイルアシルサルコシンカリウム等のミリスチン酸由来のアミノ酸系界面活性剤;
N-パルミトイルアシルグルタミン酸、N-パルミトイルアシルグルタミン酸トリエタノールアミン、N-パルミトイルアシルグリシン、N-パルミトイルアシルグリシントリエタノールアミン、N-パルミトイルアシルアラニン、N-パルミトイルアシルアラニントリエタノールアミン、N-パルミトイルアシルサルコシン、N-パルミトイルアシルサルコシントリエタノールアミン、N-パルミトイルアシルグルタミン酸ナトリウム、N-パルミトイルアシルグリシンナトリウム、N-パルミトイルアシルアラニンナトリウム、N-パルミトイルアシルサルコシンナトリウム、N-パルミトイルアシルグルタミン酸カリウム、N-パルミトイルアシルグリシンカリウム、N-パルミトイルアシルアラニンカリウム、N-パルミトイルアシルサルコシンカリウム等のパルミチン酸由来のアミノ酸系界面活性剤;
N-ステアロイルアシルグルタミン酸、N-ステアロイルアシルグルタミン酸トリエタノールアミン、N-ステアロイルアシルグリシン、N-ステアロイルアシルグリシントリエタノールアミン、N-ステアロイルアシルアラニン、N-ステアロイルアシルアラニントリエタノールアミン、N-ステアロイルアシルサルコシン、N-ステアロイルアシルサルコシントリエタノールアミン、N-ステアロイルアシルグルタミン酸ナトリウム、N-ステアロイルアシルグリシンナトリウム、N-ステアロイルアシルアラニンナトリウム、N-ステアロイルアシルサルコシンナトリウム、N-ステアロイルアシルグルタミン酸カリウム、N-ステアロイルアシルグリシンカリウム、N-ステアロイルアシルアラニンカリウム、N-ステアロイルアシルサルコシンカリウム等のステアリン酸由来のアミノ酸系界面活性剤などが挙げられる。
【0022】
一般式(2)のアミノ酸系界面活性剤を合成する方法は制限されないが、1~4個の酸素原子を含んでもよい炭素数4~18個のアルキル基を有する単量体のエチレン性不飽和基に、アミノ酸のアミノ基をマイケル付加させて合成することができる。
【0023】
エチレン性不飽和基を有する単量体として、例えば、
ブチルアクリレート、ペンチルアクリレート、ヘプチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、オクチルアクリレート、ノニルアクリレート、デシルアクリレート、ウンデシルアクリレート、ラウリルアクリレート、トリデシルアクリレート、テトラデシルアクリレート、ペンタデシルアクリレート、ヘキサデシルアクリレート、ヘプタデシルアクリレート、ステアリルアクリレート、イソステアリルアクリレート、イソボルニルアクリレート等の直鎖または分岐、脂環式アルキル基含有エチレン性不飽和モノマー、
N-ブチルアクリルアミド、N-プロポキシメチル-アクリルアミド、N-ブトキシメチル-アクリルアミド、N-ペントキシメチル-アクリルアミド、N-イソブトキシメチル-アクリルアミド、N-ドデシルアクリルアミド、N-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)アクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド等のアミド基含有エチレン性不飽和単量体;
2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレート、4-ヒドロキシブチルアクリレート、グリセロールモノアクリレート、4-ヒドロキシビニルベンゼン、1-エチニル-1-シクロヘキサノール、アリルアルコール等のヒドロキシル基含有エチレン性不飽和単量体;
ポリエチレングリコールアクリレート、ポリプロピレンレングリコールアクリレート、ポリエチレングリコールポリプロピレングリコールアクリレート、ポリエチレングリコールポリテトラメチレングリコールアクリレート、ポリプロピレングリコールポリテトラメチレングリコールアクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシポリエチレングリコールアクリレート等のポリオキシアルキレン骨格含有の不飽和単量体などが挙げられる。
【0024】
<細胞凍結保存液>
本発明の細胞凍結保存液は、アミノ酸系界面活性剤を含むものであり、低分子溶剤を含み、天然の動物由来成分を含まないことが好ましい。
また、本細胞凍結保存液では、凍結過程において、細胞が細胞膜内に脱水するのを促進させること等によって、氷晶形成を防ぐことで、細胞の生存率を向上させることができるものと考えられる好ましい。このため、該細胞保存液の浸透圧は500~2500mOsm/Kgが好ましく、より好ましくは1000~2500mOsm/Kg、さらに好ましくは1500~2300mOsm/Kgである。細胞凍結保存液の浸透圧は、該細胞凍結保存液に含有されるイオンを含む全物質の濃度により定まる。細胞培養用培地の浸透圧は含まれるアミノ酸系界面活性剤で調整することができるが、本細胞凍結保存液の浸透圧は、それ以外に糖類、アミノ酸、ビタミンなどの細胞培養用培地に含有する低分子化合物や低分子溶剤を後から添加することで適宜調整することができる。
本発明の細胞凍結保存液を用いることで、ES細胞やiPS細胞等のコロニーや3次元培養した(幹)細胞スフェロイド等の細胞凝集物をより簡易で効率よく凍結、輸送できる。
【0025】
<細胞>
本明細書で用いる細胞は、凍結保存に付されることがある細胞であれば特に限定されず、微生物、細菌、動物細胞、植物細胞のいずれであってもよい。ここでいう動物には、ヒトを含む哺乳類、魚類、鳥類、昆虫類等が包含される。
本発明における「動物細胞」としては、培養細胞として株化された細胞、生物組織から得られる株化されていない正常細胞、遺伝子工学的手法により得られた形質転換細胞など、いずれの形式のものであってもよい。細胞は、組織または臓器中のすべての種類の細胞などの体細胞;全能性幹細胞、多能性幹細胞(例えば、iPS細胞、ES細胞)、及び前駆細胞などのすべての型の幹細胞;卵母細胞;精子;および生殖細胞などの任意の型の細胞を含む。
細胞は、単離された形態または細胞含有体液、細胞コロニーや3次元培養した(幹)細胞スフェロイド、組織、臓器の形態などの単離されない細胞凝集体であってもよい。
【0026】
本発明の細胞凍結保存液に、0.01~20.0w/v%のアミノ酸系界面活性剤を含むことが好ましく、0.1~10.0w/v%含むことがより好ましい。アミノ酸系重合体の含有量を0.1w/v%以上とすることで、不凍水による、充分な凍結保護効果を発揮する上で有利である。化合物の含有量を10.0w/v%以下とすることで、過剰なアミノ酸系界面活性剤による細胞毒性をより軽減することができる。
【0027】
<低分子溶剤>
本発明による細胞凍結保存液は、低分子溶剤を含むことが好ましい。低分子溶剤とは、例えば、ジメチルスルホキシド(DMSO)、エチレングリコール(EG)、プロピレングリコール(PG)、グリセリン等が挙げられる。これらは2種類以上を組み合わせて使用してもよい。低分子溶剤を有することは、充分な凍結保護効果を得る上で有利である。
本発明による細胞凍結保存液中における低分子溶剤の含有量は、使用する成分の種類により適宜変更することが可能であるが、好ましくは、最終濃度が10w/v%以下となるような量であり、より好ましくは5w/v%以下となるような量である。10%以下であると、細胞に対する毒性が低くなり好ましい。また、DMSOは分化に影響を与える可能性があるため、含まないことが好ましい。
【0028】
<天然の動物由来成分>
本発明の細胞凍結保存液は、天然の動物由来成分を含まないことが好ましい。天然の動物由来成分としては、例えば、アルブミン、血清、血漿及び基礎培地等が挙げられる。血清としては成牛血清、仔牛血清、新生仔牛血清、および牛胎児血清等が挙げられる。
本発明の細胞凍結保存用溶液は、天然の動物由来成分を含まないため、天然の動物由来成分のロット間での品質の違いといった問題を生じることがない上、血清に含まれる各種サイトカイン、増殖因子およびホルモン等の本来細胞保存に不必要な成分による細胞の性質の変化を回避でき、更に、由来不明な基礎培地中の成分による影響も回避できる。そのため、本発明の細胞凍結保存用溶液は、特に臨床使用において生体に安全に適用することができるという観点で、非常に有用である。しかも、後述の実施例で示されるとおり、天然の動物由来成分が含まれていなくとも細胞を良好な生存率で凍結保存することができる。
【0029】
<培地>
本発明による細胞凍結保存液は、細胞培養用培地を含むことが好ましい。細胞培養用培地の種類は特に限定はされず、本技術的分野における当業者によって、その細胞の培養が可能である培地を適宜選択することができるが、細胞培養用培地成分は、天然の動物由来成分を含有しない動物組織培養用の基本培地の成分を用いることが好ましい。培地としては、αMEM、MEM、DMEM、IMDEM、RPMI1640、DMEM/F12等が挙げられる。また、本発明による細胞凍結保存液は、培地の含有量が高い程、低い細胞毒性を示すため、低分子溶剤、化合物以外の成分が全て培地であってもかまわない。
【0030】
<その他>
本発明の細胞凍結保存液は、アミノ酸系重合体や低分子溶剤以外の成分を含んでもよく、その他の成分としては、細胞培養用培地等に含まれるものであれば好適に使用できる。例えば、糖類やアミノ酸、ビタミン類、抗酸化剤、微量元素等が挙げられる。
糖類としては、グルコース、スクロース等が好ましい。
ビタミン類としては、ビオチン、パントテン酸、コリン、ホラシン(葉酸)、myo-イノシトール、ナイアシン、ピリドキシン、リボフラビン、チアミン、コバラミンなどのビタミンB 群のビタミン類が挙げられる。
抗酸化剤としては、グルタチオン、アスコルビン酸等が挙げられる。
微量元素としては、Ag+、Al3+、Ba2+、Cd2+、Co2+、Cr3+、Ge+、Mn2+、Mo6+、NI2+、Rb+、Se4+、Si4+、Sn2+、V5+、Zr4+、Br-、F-、I-等が挙げられる。
上記アミノ酸、ビタミン類、抗酸化剤、微量元素などの成分は2種以上併用してもよく、また各成分はそれぞれ2種以上用いてもよい。
更に、pH調製剤等を含んでも良い。pH調整剤としては、例えば、リン酸緩衝液および炭酸緩衝液等が挙げられる。また、Basic Stock Solution (BSS)にリン酸緩衝液を添加しない場合には、生理食塩水を添加したものも用いることができる。このうちリン酸緩衝液を用いることが特に好ましい。pH調整剤は細胞凍結保存用溶液中のpHをおよそ6.5~9.0、好ましくは7.0~8.5に調整するために適宜用いることが好ましい。なお、本発明におけるリン酸緩衝液とは、塩化ナトリウム、リン酸一ナトリウム(無水)、リン酸一カリウム(無水)、リン酸二ナトリウム(無水)、リン酸三ナトリウム(無水)、塩化カリウム、及びリン酸二水素カリウム(無水)などのことをいい、特に塩化ナトリウム、リン酸一ナトリウム(無水)、塩化カリウム、またはリン酸二水素カリウム(無水)を用いることが好ましい。また、リン酸二水素カリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、およびリン酸水素二ナトリウムの組み合わせも好ましい。pH調整剤は細胞保存液中に0.01~1.0%含まれることが好ましく、0.05~0.5%含まれることがより好ましい。
【0031】
<滅菌>
本発明による細胞凍結保存液は、滅菌されていることが好ましい。細菌等の感染のリスクが低減されるため、より安全に生体へ適用することができる。滅菌の種類としては、細胞凍結保護液の成分が変性・分解等しない方法であればどれでもよく、その中でもフィルター滅菌が好ましい。
【0032】
<細胞の凍結方法>
本発明の細胞保存液を使用する細胞の凍結方法としては、特に限定されないが、細胞凍結保存液と細胞を混合する混合工程と、細胞凍結保存液と細胞の混合物を凍結する凍結工程とを含むことが好ましい。
混合工程の前に、細胞をPBS(リン酸緩衝生理食塩水)等の洗浄液を用いて洗浄してもよい。これによって、例えば、培養培地等の成分の混入をより低減することができる。
混合工程において、細胞凍結保存液1mLあたりの細胞数は、特に限定されないが、好ましくは10~10個/mL、より好ましくは10~10個/mLになるように調製することが好ましい。
また、細胞凝集体(コロニー、スフェロイド)の混合工程においては、細胞凍結保存剤1mLあたりの細胞凝集体の数は、特に限定されないが、好ましくは1~10個/mL、より好ましくは1~10個/mLになるように調製することが好ましい。
混合物は、例えば、アンプルまたはクライオチューブ等の耐寒性容器に移して、氷上でよくピペッティングする。耐寒性容器は、内部が滅菌されていることが好ましい。
凍結工程において、冷却速度は特に限定されないが、例えば、急激に冷却した場合には、細胞内と細胞外の水分の氷結に差が生じ、細胞の微細構造を破壊するおそれがあるため、耐寒性容器を温度制御可能なフリーザーもしくは緩慢凍結容器にセットし、1分間に0.5℃ から3℃ の速度で冷却を行われていることが好ましい。
温度制御可能なフリーザーもしくは緩慢凍結容器としては、ワケンビーテック社のCoolCell(登録商標)、Nalgene社のMr.Frosty、及び日本フリーザー株式会社のバイセル等が挙げられる。最終的な凍結温度は特に限定されないが、好ましくは-80℃以下、より好ましくは-150℃以下、さらに好ましくは-196.5℃以下である。また、-80℃付近で保存した後、-180℃~-200℃(例えば、液体窒素中)に移して保存してもよい。これにより、凍結細胞が得られる。
また、細胞のコロニー、スフェロイド等の細胞凝集体は、細胞の内部を脱水置換し、一気に液体窒素温度に低下することで細胞全体をガラス化させ固定させる方法が使用されてもよい。例えば、耐寒性容器を液体窒素に直接浸漬することにより、細胞凝集体の凍結物を得ることができる。
本発明における細胞凍結保存剤は、例えば、耐寒性容器、温度制御可能なフリーザーもしくは緩慢凍結容器、または使用説明書等と組み合わせて、キットとしてもよい。キットの使用説明書には、例えば、上記の凍結保存方法等が記載されている。
【0033】
<凍結細胞>
本発明の凍結細胞は、保存の対象となる細胞によって異なるが、例えば、保存1週間経過後またはそれ以上経過後(例えば、10日間以上、10年以上経過後)において、良好な生存率、増殖率を達成し得る。本発明の解凍後の生存率は、解凍直後において、細胞生存率=生細胞の数/(生細胞の数+死細胞の数)×100%と定義される。解凍後の生存率は、50%以上、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上、特に好ましくは90%以上である。解凍直後とは、解凍後12時間以内を意味する。
また、本発明の解凍後の増殖率は、細胞増殖率=解凍3日後細胞の数/解凍初期に播種した細胞の数×100%と定義される。増殖率は、105%以上、好ましくは150%以上、より好ましくは200%以上である。
【0034】
<細胞の解凍>
本発明に係る凍結方法または保存方法を用いて凍結保存された細胞は、上述のとおり、解凍後に良好な生存率、増殖率を示し得る(後述の実施例も参照)。解凍は、素早く行うことが好ましく、例えば、37℃±1℃のウォーターバスに浸漬して行うことが好ましい。解凍後の細胞の使用において、細胞凍結保存剤は除去されてもよいし、除去されなくてもよい。
【実施例0035】
以下に、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、以下の実施例は本発明の権利範囲を何ら制限するものではない。尚、実施例及び比較例における「部」及び「%」は「質量部」及び「質量%」を表し、molとは物質量を表し、mol%は全単量体中の物質量の割合を表す。
【0036】
[製造例1]
・アミノ酸系界面活性剤1
攪拌器、還流器を備えた反応容器に、共栄社化学社製ライトアクリレートL-A(ラウリルアクリレート、50.0 g,0.208 mol)、プロリン(24.0 g,0.208 mol)、エタノール140 mLを入れ、溶解させた。次いで、窒素を導入し、撹拌しながら昇温した後、約75℃で8時間反応させた。反応後、減圧乾燥により溶媒を除去し、アセトンで再結晶をさせ、下記構造のアミノ酸系界面活性剤1(64.9 g、88.0%)を得た。
【化3】

【0037】
[製造例2~5]
・アミノ酸系界面活性剤2~5
表1に示す材料に変更した以外は、製造例1と同様な方法で下記構造のアミノ酸系界面活性剤をそれぞれ得た。また、アミノ酸と単量体は製造例1と同モル量を使用した。
【化4】

【0038】
【表1】
【0039】
[製造例6]
・アミノ酸系界面活性剤6
攪拌器、還流器を備えた反応容器に、共栄社化学社製ライトアクリレートL-A(ラウリルアクリレート、35.0 g,0.146 mol)、L-グリシン tert-ブチル塩酸塩(24.0 g,0.146 mol)、エタノール80 mLを入れ、溶解させた。次いで、窒素を導入し、撹拌しながら昇温した後、約75℃で8時間反応させた。反応後、減圧乾燥により溶媒を除去し、アセトンで再結晶をさせ、下記構造のアミノ酸系界面活性剤前駆体1(72.0 g、85.0%)を得た。
【化5】
【0040】
撹拌機および温度計、還流器、滴下ロートを備えた反応容器に、アミノ酸系界面活性剤前駆体1(70.0 g,0.172 mol)、ジクロロメタン100 mLを入れ、溶解させた。反応溶液を氷浴中で冷却し、トリフルオロ酢酸(39.2 g,0.344 mol)を30分間かけて滴下した。滴下後、室温でさらに2 時間攪拌した。反応後、ジクロロメタンを減圧濃縮で除去した後、アセトンで再結晶させ、下記構造のアミノ酸系界面活性剤6(52.2 g,86.4%)を得た。
【化6】

【0041】
[製造例7]
・アミノ酸系界面活性剤7
表1に示す材料に変更した以外は、製造例6と同様な方法で下記構造のアミノ酸系界面活性剤を得た。また、アミノ酸と単量体は製造例6と同モル量を使用した。
【0042】
表に記載した単量体を下記に示す。
・BA:ブチルアクリレート(三菱化学製)
・LA:ラウリルアクリレート(共栄社化学製、ライトアクリレートL-A)
・SA:ステアリルアクリレート(共栄社化学製、ライトアクリレートS-A)
・EGA:ジエチレングリコールモノアクリレート(日油製、ブレンマーAE-90U)
・PGA:トリプロピレングリコールモノアクリレート(日油製、ブレンマーAP-200)
【0043】
[実施例1~10]
表2に記載のアミノ酸界面活性剤を細胞凍結保存剤として評価した。
【0044】
<不凍水の測定>
・アミノ酸系界面活性剤の不凍水の測定
アミノ酸系界面活性剤1~10に対して、アミノ酸系界面活性剤の濃度が20.0w/v%である水溶液を調整した。この水溶液を不凍水の測定用サンプルとした。アミノ酸系界面活性剤に含有される不凍水量の測定方法は、特開2016-063801号公報に詳しく説明される方法を用いて測定した。本願明細書に記載の発明においては、示差走査熱量計(DSC装置;株式会社日立ハイテクサイエンスDSC6200)を用い、窒素流量50mL/分、5℃/分間の条件で各種の割合で含水させたアミノ酸系界面活性剤における潜熱の移動について測定をした。
温度プログラムは、(i)室温から-100 ℃ まで冷却、(ii)-100 ℃で5分間保持、(iii)-100℃ から30 ℃ まで加熱を行った。上記(iii)において、水の低温結晶化に起因する発熱ピーク及び水の低温融解に起因する吸熱ピークの有無によって自由水、中間水の有無が確認される。つまり、DSCチャートにおいて、-40℃付近における潜熱の放出や、-20℃以上の氷点下における潜熱の吸収は、アミノ酸系界面活性剤に含有される中間水の規則化と再不規則化に起因するものと考えられている。
DSC装置を用いて、酸化アルミパンを室温から-100℃まで冷却し、ついで5分間ホールドした後、昇温速度5℃/分で-100℃から30℃ まで加熱を行う過程での吸発熱量の測定を行った。
各試料について、DSC測定後にアルミパンにピンホールをあけて真空乾燥後、その重量を測定し、重量減少分を含水量とした。
含水率(WC)は、アルミパンの質量を除外した上で、以下の式(I)で求める。
含水率(WC)=(W1- W0)/W0 (I)
(W0:試料の乾燥重量(g) 、W1:試料の含水重量(g))
また、サンプル毎に、0℃付近の吸熱量から、自由水の量を求め、-40℃付近における発熱量と-20℃ 以上の氷点下における吸熱量から中間水の量を求め、上記で求めた各サンプルの含水量(W1-W0)から自由水と中間水の量を差し引いた量を不凍水量として求めた。アミノ酸系界面活性剤1gあたりの不凍水量は、求められた不凍水量を試料の乾燥重量(W0)で除することにより求めた。実験の結果を表に示す。
【0045】
表2に示すように、実施例の細胞凍結保存剤は、1g当たり200mg以上の不凍水を含有することが分かった。
【0046】
【表2】

【0047】
表に記載した市販のアミノ酸系界面活性剤を下記に示す。
・エヌジェボン ASP-12H:N-ラウロイルアシルグルタミン酸(新日本理化製)
・アミライト GCS-11:N-ヤシ油脂肪酸アシルグリシンナトリウム(味の素ヘルシーサプライ製)
・アラノン ALA:N-ラウロイルアシルアラニン(川研ファインケミカル製)
【0048】
[実施例11]
・細胞凍結保存液1
実施例1の細胞凍結保存剤1を20%とDMSOを5%、富士フィルム和光純薬製のD―MEM(製品コード:042-32255)75%を配合し、十分均一になるまでピペッティングし、溶解させた後、これをフィルターで濾過して無菌的な細胞凍結保存液1を得た。
[実施例12~22、比較例1~5]
表3に示す配合組成で、実施例11と同様の方法で細胞凍結保存液2~17を得た。
【0049】
<浸透圧の測定>
薬局方に準拠する「氷点降下法」により、GONOTEC社製浸透圧測定装置(オズ゛モメータ)を用いて、細胞凍結保護液の浸透圧を測定した。実験の結果を表3に示す。
【0050】
【表3】

【0051】
表3に示すように、実施例11~22の細胞凍結保存液1~12の浸透圧は500~2500mOsm/Kgであった。
【0052】
<細胞(シングルセル)の凍結保存>
15mL遠心管に9mLのαMEM培地を分注し、洗浄用培地とした。ヒト脂肪組織由来間葉系幹細胞(タカラバイオ社製、C-12977)(パッセージ数:2)が凍結保存され、入っているクライオチューブを37℃ 温水浴にて振盪し、細胞を解凍した。解凍した細胞を洗浄用αMEM培地が入った15mL遠沈管に加え、遠心(500×g3分、室温)を行った。上清をアスピレートし、ペレットをタッピングし、αMEM培地を2mL添加し、細胞培養用φ100mmディッシュ(AGCテクノグラス製、3020-100)に、細胞を播種した。
37℃、5%CO2インキュベーターにて3日培養した。培養3日後、1mLのトリプシンEDTA溶液を加え、37℃、5%CO2インキュベーターで3分間静置し、細胞を細胞培養用ディッシュから剥離させ、細胞を回収した。2継代目の細胞(パッセージ数:4)をヒト脂肪組織由来間葉系幹細胞(以下、P-hATMSC細胞と呼ぶ)として以下の実験で使用した。
細胞凍結保存液1~17 1mLを、上記で得られたP-hATMSC細胞の総数が1×10の細胞に添加し、数回ピペッティングした後に、クライオチューブに移した。そして、適量の2-プロパノールを入れたMr.Frostyに、クライオチューブを入れ、蓋を閉め、―80℃に設定した冷凍庫で水平に12時間保管した後に、―152℃に設定した冷蔵庫で水平に3日保管した。
【0053】
<スフェロイド(細胞凝集体)の凍結保存>
上記で得られたP-hATMSC細胞を培養シャーレ上で培養後、トリプシン処理により剥離、回収した。その後、96wellU底プレート(住友ベークライト(株)製、PrimeSurface(登録商標)、MS-9096U)に1000個細胞/ウェルの細胞数で播種し、浮遊培養することでスフェロイド形成を誘導した。培養3日後に直径約200μmのスフェロイドを得た。
上記のように作成したスフェロイド50個をマイクロピペッターにて培養液中から回収し、遠心分離(500×g、3分、室温)をかけた後、上清をアスピレートし、ペレットをタッピングした。ペレットに細胞凍結保存液1~17を添加し、スフェロイドを細胞凍結保存液中で数回ピペッティングした後に、クライオチューブに移し、蓋を閉め、―80℃に設定した冷凍庫で水平に12時間保管した。12時間後、―152℃に設定した冷蔵庫で水平に3日保管した。
【0054】
<細胞の解凍>
クライオチューブを37℃ 温水浴にて振盪し、細胞を解凍した。
【0055】
<細胞の生存率評価>
解凍した細胞懸濁液を100μL分注し、100μLの0.5%のトリパンブルー染色液をピペットで注いた。数回のピペット操作により混合した後、トリパンブルー染色細胞懸濁液を血球計算盤に乗せ、16の小さな四角を含む各1mm×1mmの4つの大きな四角内で、青色に染色された死細胞と、染色されない生細胞の数を計数した。
【0056】
<評価基準>
細胞の生存率%を下記の式にて求めた。
(生存率%)=(非染色細胞の数)/(非染色細胞と青色に染色された細胞との総数)
◎:生存率%≧90%(特に良好)
〇:90%>生存率%≧75%(良好)
△:75%>生存率%≧60%(可)
×:60%>生存率%(不良)
実験の結果を表3に示す。
【0057】
<シングルセルの増殖性評価>
10%のウシ胎児血清と、1%のペニシリンーストレプトマイシンーアンホテリシンB(共にBiological Industries社製)とを添加したD―MEM(以下:(DMEM+10%FBS+1%PS)培地)を15mL遠心管に9mL分注し、洗浄用培地とした。解凍した細胞を洗浄用培地へ加え、遠心分離(500×g3分、室温)を行った。上清をアスピレートし、ペレットをタッピングし、(DMEM+10%FBS+1%PS)培地を2mL添加し、AGCテクノグラス製のφ35mmIWAKI接着処理ディッシュに細胞を播種した。播種する前に100μL分注し、細胞数を血球計算盤で計測した。37℃ 、5%CO2にて、インキュベーターで3日培養した。培養3日後、0.5mLのトリプシンEDTA溶液を加え、37℃、5%CO2インキュベーターで3分間静置し、残りの細胞を接着処理から剥離した。剥離した細胞の数は血球計算盤で計測した。細胞増殖率を、(培養3日後細胞の数)/(播種した細胞の数)×100%によって計算した。実験の結果を表に示す。
<評価基準>
◎:増殖率%≧200%(特に良好)
〇:200%>増殖率%≧150%(良好)
△:150%>増殖率%≧105%(可)
×:105%>増殖率%(不良)
【0058】
<シングルセルの未分化評価―定量的リアルタイムPCR(qRT-PCR)>
増殖性評価で使用した培養の3日後の細胞に、TRIzol試薬(Invitrogen Corporation,Carlsbad,CA.USA)で培養物から全RNAを抽出し、製造業者のプロトコルに従ってPrimeScriptTM RT Master Mix(Perfect Real Time)(Takara、Cat#RR036A)でcDNAを合成した。qRT-PCRは、Thermal Cycler Dice Real Time System(Takara TP900)を用いて、TB Green Premix Ex TaqII(Takara、RR820A)を用いて3回行った。
qRT-PCRの容量は25μLであり、1μL(μg)cDNA、12.5μL TB Green Premix Ex Taq II(Takara、RR820A)、それぞれ1μLの特異的フォワード及びリバースプライマー、並びに9.5μL滅菌水を含有する。
【0059】
qRT-PCRは、95℃で30秒間、続いて、95℃で5秒間、60℃で30秒間の40サイクル、次いで、95℃で15秒間、60℃で30秒間、95℃で15秒間の反応を行った。
データは、ΔΔCt比定量により解析した。データをGAPDHレベルに対して標準化し、対象値と比較した。
【0060】
使用したプライマーの配列は以下の通りである:
SSEA1(Fut4としても知られる)
フォワードプライマー:GCAGGGCCCAAGATTAACTGAC(配列番号1)
リバースプライマー:AAGCGCCTGGGCCTAAGAA(配列番号2)
Sox2
フォワードプライマー:GTTCTAGTGGTACGTTAGGCGCTTC(配列番号3)
リバースプライマー:TCGCCCGGAGTCTAGCTCTAAATA(配列番号4)
Nanog
フォワードプライマー:TGCCTCACACGGAGACTGTC(配列番号5)
リバースプライマー:AGTGGGTTGTTTGCCTTTGG(配列番号6)
Glyceraldehyde-3-phosphate dehydrogenase (Gapdh)(内部陽性対照として)
【0061】
[統計解析]
データは、一元配置分散分析(One-way analysis of variance)(ANOVA)により分析した。有意なF比の場合、Tukeyの事後試験を行った.有意水準P<0.05とし、他に示さない限り平均±標準偏差として示した。すべてのデータは、特に示さない限り少なくとも3回独立した実験から得た。
【0062】
・遺伝子発現量の評価基準
[SSEA1、Sox2、Nanog]
◎:2≦遺伝子発現量;遺伝子発現量がかなり高い。
〇:1.5≦遺伝子発現量<2;遺伝子発現量が高い。
△:1≦遺伝子発現量<1.5;遺伝子発現量がやや高い。
×:遺伝子発現量<1;遺伝子発現量が低い。
【0063】
<スフェロイド(細胞凝集体)の生存率評価>
解凍したスフェロイドを洗浄用培地へ加え、遠心分離(500×g3分、室温)を行った。上清をアスピレートし、PBSを2ml添加し、培地洗浄した後、上清を更にアスピレートし、Accumax(イノベーティブ セルテクノロジーズ製)を2mL添加し、ペレットをタッピングした後に、20分間静置し、単一浮遊細胞を得た。洗浄用培地へ加え、遠心分離(500xg3分、室温)を行い、上清をアスピレートで除去した。PBSを2mL添加した後、100μL分注し、100μLの0.5%のトリパンブルー染色液にピペットで注いた。数回のピペット操作により混合した後、トリパンブルー染色細胞懸濁液を血球計算盤に乗せ、青色に染色された死細胞と、染色されない生細胞の数を計数した。
【0064】
<評価基準>
細胞の生存率%を下記の式にて求めた。
(生存率%)=(非染色細胞の数)/(非染色細胞と青色に染色された細胞との総数)
◎:生存率%≧50%(特に良好)
○:50%>生存率%≧40%(良好)
△:40%>生存率%≧20%(可)
×:20%>生存率%(不良)
実験の結果を表に示す。
【0065】
<再播種におけるスフェロイドの増殖性評価>
細胞凍結保存液1~17を使用し、スフェロイド(細胞凝集体)の凍結実験の保存全ての培養物を0.25%Trysin-EDTAで37℃3分間解離させた後に、αMEM培地で2回洗浄し、300gで5分間4℃遠心分離した後、スフェロイド及び単細胞を回収した。
αMEM中に、播種初期の細胞数を、5×104細胞/ウェルになるように調整し、TPP社製培養用平底24平面ウェル(ポリスチレン製、培養表面は接着処理有)に播種した。培養後6日目にスフェロイド縁部の接着、伸展状態を観察し、細胞のコンフルエント状態を評価した。
・再播種におけるスフェロイドの細胞増殖性の評価基準
◎:視野にスフェロイドが観察されず、細胞の接着、伸展が観察され、細胞がコンフルエントとなっている。細胞の増殖性が優れている。
〇:視野にスフェロイドが観察されず、細胞の接着、伸展が観察されるが、細胞がコンフルエントとなっていない。細胞の増殖性が良好である。
△:視野に直径が200μm以下(200μmを含む)のスフェロイドが1つ以上、培養面に残留していることが観察される。細胞の増殖性がやや良好となっている。
×:視野に直径が200μm以上のスフェロイドが1つ以上、培養面に残留していることが観察される。細胞の増殖性が不良となる。
【0066】
<スフェロイドの未分化評価―定量的リアルタイムPCR(qRT-PCR)>
増殖性評価で使用した培養の3日後の細胞に、TRIzol試薬(Invitrogen Corporation,Carlsbad,CA.USA)で培養物から全RNAを抽出し、製造業者のプロトコルに従ってPrimeScriptTM RT Master Mix(Perfect Real Time)(Takara、Cat#RR036A)でcDNAを合成した。qRT-PCRは、Thermal Cycler Dice Real Time System(Takara TP900)を用いて、TB Green Premix Ex TaqII(Takara、RR820A)を用いて3回行った。
qRT-PCRの容量は25μLであり、1μL(μg)cDNA、12.5μL TB Green Premix Ex Taq II(Takara、RR820A)、それぞれ1μLの特異的フォワード及びリバースプライマー、並びに9.5μL滅菌水を含有する。
【0067】
qRT-PCRは、95℃で30秒間、続いて、95℃で5秒間、60℃で30秒間の40サイクル、次いで、95℃で15秒間、60℃で30秒間、95℃で15秒間の反応を行った。
データは、ΔΔCt比定量により解析した。データをGAPDHレベルに対して標準化し、対象値と比較した。
【0068】
使用したプライマーの配列は以下の通りである:
SSEA1(Fut4としても知られる)
フォワードプライマー:GCAGGGCCCAAGATTAACTGAC(配列番号1)
リバースプライマー:AAGCGCCTGGGCCTAAGAA(配列番号2)
Sox2
フォワードプライマー:GTTCTAGTGGTACGTTAGGCGCTTC(配列番号3)
リバースプライマー:TCGCCCGGAGTCTAGCTCTAAATA(配列番号4)
Nanog
フォワードプライマー:TGCCTCACACGGAGACTGTC(配列番号5)
リバースプライマー:AGTGGGTTGTTTGCCTTTGG(配列番号6)
Glyceraldehyde-3-phosphate dehydrogenase (Gapdh)(内部陽性対照として)
【0069】
[統計解析]
データは、一元配置分散分析(One-way analysis of variance)(ANOVA)により分析した。有意なF比の場合、Tukeyの事後試験を行った.有意水準P<0.05とし、他に示さない限り平均±標準偏差として示した。すべてのデータは、特に示さない限り少なくとも3回独立した実験から得た。
【0070】
・遺伝子発現量の評価基準
[SSEA1、Sox2、Nanog]
◎:2≦遺伝子発現量;遺伝子発現量がかなり高い。
〇:1.5≦遺伝子発現量<2;遺伝子発現量が高い。
△:1≦遺伝子発現量<1.5;遺伝子発現量がやや高い。
×:遺伝子発現量<1;遺伝子発現量が低い。
【0071】
本発明の細胞凍結保存液を用いることで、解凍後の細胞の生存率、増殖率、未分化性が良好であることが示された。
【0072】
これは本発明の細胞凍結保存液に含まれるアミノ酸系界面活性剤が、近傍の水と強く相互作用している大量の不凍水を含有し、凍結工程において通常の水のような水素結合を形成せず、凍結の際の氷の結晶成長による物理的なダメージを回避し、解凍後の細胞生存率、増殖率を確保したためであると考えられる。
また、細胞凍結保存剤中の不凍水の存在により、細胞膜外での安定な水和状態を維持し、低分子溶剤による膜内へ浸透速度の制御は可能となり、スフェロイドの凍結の過程において、スフェロイド内部と周辺部で凍結に時間差を緩和することで、解凍後のスフェロイドの生存率を確保したためであると考えられる。
それに対して、アミノ酸系界面活性剤を含まない細胞凍結保存液13~17は、凍結の際の氷の結晶成長による物理的なダメージを受けてしまったと考える。