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特開2023-112433ドウ組成物およびベーカリー食品組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023112433
(43)【公開日】2023-08-14
(54)【発明の名称】ドウ組成物およびベーカリー食品組成物
(51)【国際特許分類】
   A21D 2/18 20060101AFI20230804BHJP
   A21D 13/00 20170101ALI20230804BHJP
【FI】
A21D2/18
A21D13/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022014227
(22)【出願日】2022-02-01
(71)【出願人】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112427
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 芳洋
(72)【発明者】
【氏名】八木 智弘
(72)【発明者】
【氏名】多田 裕亮
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 伸治
【テーマコード(参考)】
4B032
【Fターム(参考)】
4B032DB02
4B032DG02
4B032DG08
4B032DG20
4B032DK03
4B032DK12
4B032DK16
4B032DK18
4B032DK43
4B032DK45
4B032DK54
4B032DP08
4B032DP33
4B032DP40
(57)【要約】
【課題】 膨らみが向上した、柔らかな製品を得ることができるドウ組成物を提供する。
【解決手段】 澱粉含有穀物粉末100重量%に対し、カルボキシメチル化セルロースナノファイバーを0.05~5重量%、且つトレハロースを1~10重量%含む。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
澱粉含有穀物粉末100重量%に対し、カルボキシメチル化セルロースナノファイバーを0.05~5重量%、且つトレハロースを1~10重量%含むドウ組成物。
【請求項2】
前記カルボキシメチル化セルロースナノファイバーは、セルロースナノファイバーの無水グルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度が0.01~0.50であり、セルロースI型の結晶化度が40%以上であることを特徴とする、請求項1に記載のドウ組成物。
【請求項3】
さらにカルボキシメチルセルロースを含有する、請求項1または2に記載のドウ組成物。
【請求項4】
前記澱粉含有穀物粉末100重量%に対し、水成分を80~150重量%含む請求項1~3の何れか一項に記載のドウ組成物。
【請求項5】
前記澱粉含有穀物粉末として、小麦粉、スターチ類、米粉、そば粉のうちの一種又は数種を混合して使用することを特徴とする請求項1~4の何れか一項に記載のドウ組成物。
【請求項6】
請求項1~5の何れか一項に記載のドウ組成物からなるベーカリー食品組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルボキシメチル化セルロースナノファイバーを含有するドウ組成物およびベーカリー食品組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
パン、スポンジケーキ、クッキー、ドーナッツ、おかき、そば、うどんなどの製造工程においては、まずドウ組成物を製造し、これを一定の重量、形状に成型し、その後焙焼、油揚、茹で上げなどの加熱工程により製品を得る、という手順で進められる。
【0003】
この様なドウ組成物は、グリアジンやグルテニンを含む小麦粉などの澱粉含有穀物粉を加水した後、捏ねることにより、グルテンが生成し、ドウ組成物に特有の弾性や伸展性が得られることが知られている。
【0004】
特にパン等のイーストを添加して発酵工程を行うものについては、発酵による炭酸ガスによりドウ組成物が膨張する。その後、熱を加えることでドウ組成物がさらに膨張し、焼き上げたのちもグルテンの網目状組織が熱変性で硬化する。その為、焼き上げ後の成型を維持できることが知られている。
【0005】
ドウ組成物については、パン等の最終製品に対して、柔らかさやしっとり感を与えるため、加水量を増やす(以下、「多加水」ともいう)試みが行われてきた。
【0006】
しかし、小麦粉等の澱粉含有穀物粉が持つ吸水限界を超える水分を単に添加した場合は、澱粉が水和できずに離水して、ドウ組成物の混捏が困難となる場合があった。そのため、ドウ組成物を多加水とする際に、保水性の高い原料などを配合することにより、生地の水分量を増加させる方法が知られている。
【0007】
例えばこんにゃく粉と澱粉と水とを、アルカリ性凝固剤とこんにゃく粉のグルコマンナンによる水和ゲル反応によってゼリー状固体に形成し、かつ酸溶液に浸漬してpHを中性から酸性の範囲に調整した多加水パン用有形水を製パン配合水の一部として用いる多加水パンの製造方法(特許文献1)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006-320207号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、特許文献1の方法は、こんにゃく粉の保水力が十分でないため、多加水にするほど、生地(ドウ組成物)にべたつきが生じ、作業性に劣るものであった。また、生地がべたつく結果、生地のまとまりが悪かった。さらに、そのような生地を焼成して得られるパンは、膨らみが十分でなく、柔らかさについても満足できるものではなかった。
【0010】
そこで本発明は、膨らみが向上した、柔らかな製品を得ることができるドウ組成物およびこのドウ組成物からなるベーカリー食品組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、以下を提供する。
(1) 澱粉含有穀物粉末100重量%に対し、カルボキシメチル化セルロースナノファイバーを0.05~5重量%、且つトレハロースを1~10重量%含むドウ組成物。
(2) 前記カルボキシメチル化セルロースナノファイバーは、セルロースナノファイバーの無水グルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度が0.01~0.50であり、セルロースI型の結晶化度が40%以上であることを特徴とする、(1)に記載のドウ組成物。
(3) さらにカルボキシメチルセルロースを含有する、(1)または(2)に記載のドウ組成物。
(4) 前記澱粉含有穀物粉末100重量%に対し、水成分を80~150重量%含む(1)~(3)の何れかに記載のドウ組成物。
(5) 前記澱粉含有穀物粉末として、小麦粉、スターチ類、米粉、そば粉のうちの一種又は数種を混合して使用することを特徴とする(1)~(4)の何れかに記載のドウ組成物。
(6) (1)~(5)の何れかに記載のドウ組成物からなるベーカリー食品組成物。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、膨らみが向上した、柔らかな製品を得ることができるドウ組成物およびこのドウ組成物からなるベーカリー食品組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明のドウ組成物について説明する。本発明において「~」は端値を含む。すなわち「X~Y」はその両端の値X及びYを含む。
【0014】
本発明のドウ組成物は、澱粉含有穀物粉末100重量%に対し、カルボキシメチル化セルロースナノファイバーを0.05~5重量%、且つトレハロースを1~10重量%含む。
【0015】
(澱粉含有穀物粉末)
本発明では、澱粉含有穀物粉末(主原料)として、通常、製パン等に用いる小麦粉のいずれもが使用できる。このような小麦粉として、例えば、強力粉、準強力粉、中力粉、薄力粉、デュラム小麦粉を挙げることができる。中でも、強力粉、準強力粉、デュラム小麦粉が好ましい。さらに小麦粉以外の穀粉として、ライ麦粉、ライ小麦粉、コーンフラワー、スターチ類、米粉、そば粉、各種澱粉類、それらの混合粉など目的とするパン等のドウ組成物の種類などに応じて適宜選択して使用することができる。
【0016】
これらは、一種または数種を混合して使用することができる。
【0017】
(発酵成分)
発酵成分は、通常ドウ組成物に用いられるものであれば特に制限されない。発酵成分としては、例えば、サワー種、ルバン種等の各種発酵種やイースト(生イースト、ドライイースト等)などを挙げることができる。
【0018】
発酵成分は、澱粉含有穀物粉末100重量%に対し、0.1~10重量%含むことが好ましく、0.5~5重量%含むことがより好ましく、1~5重量%含むことがさらに好ましい。
【0019】
(水成分)
水成分とは、水及び卵などに含まれる水成分の総量をいう。その様な水成分は、澱粉含有穀物粉末100重量%に対し、80~150重量%の範囲で含むことが好ましく、より好ましくは80~120重量%、さらに好ましくは80~100重量%である。水成分が上記下限値以上であると、このようなドウ組成物を加熱して得られる製品は、柔らかで老化が抑制されたものとなる。また、水成分が上記上限値以下であると、過度のベタツキを抑制し、作業性を確保し得る。
【0020】
(カルボキシメチル化セルロースナノファイバー)
カルボキシメチル化セルロースナノファイバーは、カルボキシメチル化セルロースを、ナノスケールの繊維径を有するナノファイバーへと変換したものをいう。カルボキシメチル化セルロースは、セルロースを構成するグルコース残基中の水酸基の一部がカルボキシメチル基とエーテル結合した構造を有するものである。カルボキシメチル化セルロースは、例えばカルボキシメチル化セルロースのナトリウム塩などの金属塩といった塩の形態をとる場合もあり、カルボキシメチル化セルロースナノファイバーも塩の形態をとっていてもよい。
【0021】
(カルボキシメチル置換度)
本発明に用いられるカルボキシメチル化セルロースナノファイバーは、セルロースの無水グルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度が、0.50以下であることが好ましい。カルボキシメチル置換度が0.50を超えると水へ溶解し、繊維形状を維持できなくなると考えられる。また、セルロースの無水グルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度が、0.01以上であることが好ましい。カルボキシメチル置換度が0.01未満であるとカルボキシメチル化セルロースナノファイバーへと解繊するためには多大なエネルギーが必要になると考えられる。操業性の観点から、当該置換度は0.02~0.50であることがより好ましく、0.05~0.50であることがさらに好ましく、0.10~0.40であることがさらに好ましい。セルロースにカルボキシメチル基を導入することで、セルロース同士が電気的に反発するため、ナノファイバーへと解繊することができるようになる。カルボキシメチル置換度は、反応させるカルボキシメチル化剤の添加量、マーセル化剤の量、水と有機溶媒の組成比率をコントロールすること等によって調整することができる。
【0022】
本発明において無水グルコース単位とは、セルロースを構成する個々の無水グルコース(グルコース残基)を意味する。また、カルボキシメチル置換度(エーテル化度ともいう。)とは、セルロースを構成するグルコース残基中の水酸基のうちカルボキシメチルエーテル基に置換されているものの割合(1つのグルコース残基当たりのカルボキシメチルエーテル基の数)を示す。なお、カルボキシメチル置換度はDSと略すことがある。
【0023】
本発明に用いられるカルボキシメチル化セルロースナノファイバーは、水に分散した際にも繊維状の形状の少なくとも一部が維持されるものである。すなわち、カルボキシメチル化セルロースナノファイバーの水分散体を電子顕微鏡で観察すると、繊維状の物質を観察することができるものである。また、カルボキシメチル化セルロースナノファイバーをX線回折で測定した際にセルロースI型結晶のピークを観測することができるものである。
【0024】
(セルロースI型の結晶化度)
本発明に用いられるカルボキシメチル化セルロースナノファイバーにおけるセルロースI型の結晶化度は、40%以上であることが好ましく、50%以上であることがより好ましい。セルロースI型の結晶化度が40%以上と高いと、水等の溶媒中で溶解せずに結晶構造を維持するセルロースの割合が高いため、チキソ性が高くなり(チキソトロピー)、増粘剤等の粘度調整用途に適するようになる。また、ドウ組成物に添加した際に、ドウ生地がまとまり易くなり多加水でも作業性が良好であるという利点が得られる。セルロースの結晶性は、マーセル化剤の濃度と処理時の温度、並びにカルボキシメチル化の度合によって制御できる。マーセル化及びカルボキシメチル化においては高濃度のアルカリが使用されるために、セルロースのI型結晶がII型に変換されやすいが、アルカリ(マーセル化剤)の使用量を調整するなどして変性の度合いを調整することによって、所望の結晶性を維持させることができる。セルロースI型の結晶化度の上限は特に限定されない。現実的には90%程度が上限となると考えられる。
【0025】
カルボキシメチル化セルロースナノファイバーのセルロースI型の結晶化度の測定方法は、以下の通りである:
試料をガラスセルに乗せ、X線回折測定装置(LabX XRD-6000、島津製作所製)を用いて測定する。結晶化度の算出はSegal等の手法を用いて行い、X線回折図の2θ=10°~30°の回折強度をベースラインとして、2θ=22.6°の002面の回折強度と2θ=18.5°のアモルファス部分の回折強度から次式により算出する。
【0026】
Xc=(I002c―Ia)/I002c×100
Xc=セルロースI型の結晶化度(%)
I002c:2θ=22.6°、002面の回折強度
Ia:2θ=18.5°、アモルファス部分の回折強度。
【0027】
カルボキシメチル化セルロースナノファイバーにおけるI型結晶の割合は、ナノファイバーとする前のカルボキシメチル化セルロースにおけるものと、通常、同じである。
【0028】
(繊維径、アスペクト比)
本発明に用いられるカルボキシメチル化セルロースナノファイバーは、ナノスケールの繊維径を有するものである。平均繊維径は、3nm~500nm、好ましくは3nm~150nm、より好ましくは3nm~20nm、さらに好ましくは5nm~19nm、さらに好ましくは5nm~15nmである。
【0029】
カルボキシメチル化セルロースナノファイバーのアスペクト比は、特に限定されないが、350以下であることが好ましく、300以下であることがさらに好ましく、200以下であることがさらに好ましく、120以下であることがさらに好ましく、100以下であることがさらに好ましく、80以下であることがさらに好ましい。アスペクト比の下限は、特に限定されないが、好ましくは25以上であり、さらに好ましくは30以上である。アスペクト比が25以上であると、その繊維状の形状から、チキソ性の向上といった効果が得られる。カルボキシメチル化セルロースナノファイバーのアスペクト比は、カルボキシメチル化時の溶媒と水の混合比、薬品添加量、及びカルボキシメチル化の度合によって制御できる。また、上記範囲のアスペクト比を有するカルボキシメチル化セルロースナノファイバーは、例えば、後述する製法により製造することができる。
【0030】
カルボキシメチル化セルロースナノファイバーの平均繊維径及び平均繊維長は、径が20nm以下の場合は原子間力顕微鏡(AFM)、20nm超の場合は電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM)を用いて、ランダムに選んだ200本の繊維について解析し、平均を算出することにより、測定することができる。また、アスペクト比は下記の式により算出することができる:
アスペクト比=平均繊維長/平均繊維径。
【0031】
(カルボキシメチル化セルロースナノファイバーの製造方法)
本発明で用いるカルボキシメチル化セルロースナノファイバーは、特に限定されないが、以下の方法により製造したカルボキシメチル化セルロースを解繊することにより、製造することができる。
【0032】
カルボキシメチル化セルロースは、一般に、セルロースをアルカリで処理(マーセル化)した後、得られたマーセル化セルロース(アルカリセルロースともいう。)を、カルボキシメチル化剤(エーテル化剤ともいう。)と反応させることにより製造することができる。本発明の上記特徴を有するナノファイバーを形成することができるカルボキシメチル化セルロースは、マーセル化(セルロースのアルカリ処理)を水を主とする溶媒下で行い、その後、カルボキシメチル化(エーテル化ともいう。)を水と有機溶媒との混合溶媒下で行うことにより、製造することができる。
【0033】
(セルロース)
本発明においてセルロースとは、D-グルコピラノース(単に「グルコース残基」、「無水グルコース」ともいう。)がβ-1,4結合で連なった構造の多糖を意味する。セルロースは、一般に起源、製法等から、天然セルロース、再生セルロース、微細セルロース、非結晶領域を除いた微結晶セルロース等に分類される。本発明では、これらのセルロースのいずれも、マーセル化セルロースの原料として用いることができるが、カルボキシメチル化セルロースナノファイバーにおいて好ましくは40%以上のセルロースI型の結晶化度を維持するためには、セルロースI型の結晶化度が高いセルロースを原料として用いることが好ましい。原料となるセルロースのセルロースI型の結晶化度は、好ましくは、70%以上であり、さらに好ましくは80%以上である。セルロースI型の結晶化度の測定方法は、上述した通りである。
【0034】
天然セルロースとしては、晒パルプまたは未晒パルプ(晒木材パルプまたは未晒木材パルプ);リンター、精製リンター;酢酸菌等の微生物によって生産されるセルロース等が例示される。晒パルプ又は未晒パルプの原料は特に限定されず、例えば、木材、木綿、わら、竹、麻、ジュート、ケナフ等が挙げられる。また、晒パルプ又は未晒パルプの製造方法も特に限定されず、機械的方法、化学的方法、あるいはその中間で二つを組み合せた方法でもよい。製造方法により分類される晒パルプ又は未晒パルプとしては例えば、メカニカルパルプ(サーモメカニカルパルプ(TMP)、砕木パルプ)、ケミカルパルプ(針葉樹未漂白サルファイトパルプ(NUSP)、針葉樹漂白サルファイトパルプ(NBSP)等の亜硫酸パルプ、針葉樹未漂白クラフトパルプ(NUKP)、針葉樹漂白クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹未漂白クラフトパルプ(LUKP)、広葉樹漂白クラフトパルプ(LBKP)等のクラフトパルプ)等が挙げられる。さらに、製紙用パルプの他に溶解パルプを用いてもよい。溶解パルプとは、化学的に精製されたパルプであり、主として薬品に溶解して使用され、人造繊維、セロハンなどの主原料となる。
【0035】
再生セルロースとしては、セルロースを銅アンモニア溶液、セルロースザンテート溶液、モルフォリン誘導体など何らかの溶媒に溶解し、改めて紡糸されたものが例示される。
微細セルロースとしては、上記天然セルロースや再生セルロースをはじめとする、セルロース系素材を、解重合処理(例えば、酸加水分解、アルカリ加水分解、酵素分解、爆砕処理、振動ボールミル処理等)して得られるものや、前記セルロース系素材を、機械的に処理して得られるものが例示される。
【0036】
(マーセル化)
原料として前述のセルロースを用い、マーセル化剤(アルカリ)を添加することによりマーセル化セルロース(アルカリセルロースともいう。)を得る。
【0037】
溶媒に水を主として用いる(水を主とする溶媒)とは、水を50重量%より高い割合で含む溶媒をいう。水を主とする溶媒中の水は、好ましくは55重量%以上であり、より好ましくは60重量%以上であり、より好ましくは70重量%以上であり、より好ましくは80重量%以上であり、さらに好ましくは90重量%以上であり、さらに好ましくは95重量%以上である。特に好ましくは水を主とする溶媒は、水が100重量%(すなわち、水)である。
【0038】
水を主とする溶媒中の水以外の(水と混合して用いられる)溶媒としては、後段のカルボキシメチル化の際の溶媒として用いられる有機溶媒が挙げられる。例えば、メタノール、エタノール、N-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、N-ブタノール、イソブタノール、第3級ブタノール等のアルコールや、アセトン、ジエチルケトン、メチルエチルケトンなどのケトン、ならびに、ジオキサン、ジエチルエーテル、ベンゼン、ジクロロメタンなどを挙げることができ、これらの単独または2種以上の混合物を水に50重量%未満の量で添加してマーセル化の際の溶媒として用いることができる。水を主とする溶媒中の有機溶媒は、好ましくは45重量%以下であり、さらに好ましくは40重量%以下であり、さらに好ましくは30重量%以下であり、さらに好ましくは20重量%以下であり、さらに好ましくは10重量%以下であり、さらに好ましくは5重量%以下であり、より好ましくは0重量%である。
【0039】
マーセル化剤としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物が挙げられ、これらのうちいずれか1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。マーセル化剤は、これに限定されないが、これらのアルカリ金属水酸化物を、例えば、1~60重量%、好ましくは2~45重量%、より好ましくは3~25重量%の水溶液として反応器に添加することができる。
【0040】
マーセル化剤の使用量は特に限定されないが、一実施形態において、セルロース100g(絶乾)に対して0.1モル以上2.5モル以下であることが好ましく、0.3モル以上2.0モル以下であることがより好ましく、0.4モル以上1.5モル以下であることがさらに好ましい。
【0041】
マーセル化の際の水を主とする溶媒の量は、セルロース原料に対し、1.5~20重量倍が好ましく、2~10重量倍であることがより好ましい。このような量とすることにより、原料の撹拌混合が容易になり、原料に均一に反応を生じさせることができるようになる。
【0042】
マーセル化処理は、発底原料(セルロース)と水を主とする溶媒とを混合し、反応器の温度を0~70℃、好ましくは10~60℃、より好ましくは10~40℃に調整して、マーセル化剤の水溶液を添加し、15分~8時間、好ましくは30分~7時間、より好ましくは30分~3時間撹拌することにより行う。これによりマーセル化セルロース(アルカリセルロース)を得る。
【0043】
マーセル化の際のpHは、9以上が好ましく、これによりマーセル化反応を進めることができる。該pHは、より好ましくは11以上であり、更に好ましくは12以上であり、13以上でもよい。pHの上限は特に限定されない。
【0044】
マーセル化は、温度制御しつつ上記各成分を混合撹拌することができる反応機を用いて行うことができ、従来からマーセル化反応に用いられている各種の反応機を用いることができる。例えば、2本の軸が撹拌し、上記各成分を混合するようなバッチ型撹拌装置は、均一混合性と生産性の両観点から好ましい。
【0045】
(カルボキシメチル化)
マーセル化セルロースに対し、カルボキシメチル化剤(エーテル化剤ともいう。)を添加することにより、カルボキシメチル化セルロースを得る。
【0046】
カルボキシメチル化剤としては、モノクロロ酢酸、モノクロロ酢酸ナトリウム、モノクロロ酢酸メチル、モノクロロ酢酸エチル、モノクロロ酢酸イソプロピルなどが挙げられる。これらのうち、原料の入手しやすさという点でモノクロロ酢酸、またはモノクロロ酢酸ナトリウムが好ましい。
【0047】
カルボキシメチル化剤の使用量は特に限定されないが、一実施形態において、セルロースの無水グルコース単位当たり、0.5~1.5モルの範囲で添加することが好ましい。上記範囲の下限はより好ましくは0.6モル以上、さらに好ましくは0.7モル以上であり、上限はより好ましくは1.3モル以下、さらに好ましくは1.1モル以下である。カルボキシメチル化剤は、これに限定されないが、例えば、5~80重量%、より好ましくは30~60重量%の水溶液として反応器に添加することができるし、溶解せず、粉末状態で添加することもできる。
【0048】
マーセル化剤とカルボキシメチル化剤のモル比(マーセル化剤/カルボキシメチル化剤)は、カルボキシメチル化剤としてモノクロロ酢酸又はモノクロロ酢酸ナトリウムを使用する場合では、0.9~2.45が一般的に採用される。その理由は、0.9未満であるとカルボキシメチル化反応が不十分となる可能性があり、未反応のモノクロロ酢酸又はモノクロロ酢酸ナトリウムが残って無駄が生じる可能性があること、及び2.45を超えると過剰のマーセル化剤とモノクロロ酢酸又はモノクロロ酢酸ナトリウムによる副反応が進行してグリコール酸アルカリ金属塩が生成する恐れがあるため、不経済となる可能性があることにある。
【0049】
カルボキシメチル化反応におけるセルロース原料の濃度は、特に限定されないが、1~40%(w/v)であることが好ましい。
【0050】
カルボキシメチル化剤を添加するのと同時に、あるいはカルボキシメチル化剤の添加の前または直後に、反応器に有機溶媒または有機溶媒の水溶液を適宜添加し、又は減圧などによりマーセル化処理時の水以外の有機溶媒等を適宜削減して、水と有機溶媒との混合溶媒を形成し、この水と有機溶媒との混合溶媒下で、カルボキシメチル化反応を進行させる。有機溶媒の添加または削減のタイミングは、マーセル化反応の終了後からカルボキシメチル化剤を添加した直後までの間であればよく、特に限定されないが、例えば、カルボキシメチル化剤を添加する前後30分以内が好ましい。
【0051】
有機溶媒としては、メタノール、エタノール、N-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、N-ブタノール、イソブタノール、第3級ブタノール等のアルコールや、アセトン、ジエチルケトン、メチルエチルケトンなどのケトン、ならびに、ジオキサン、ジエチルエーテル、ベンゼン、ジクロロメタンなどを挙げることができ、これらの単独または2種以上の混合物を水に添加してカルボキシメチル化の際の溶媒として用いることができる。これらのうち、水との相溶性が優れることから、炭素数1~4の一価アルコールが好ましく、炭素数1~3の一価アルコールがさらに好ましい。
【0052】
カルボキシメチル化の際の混合溶媒中の有機溶媒の割合は、水と有機溶媒との総和に対して有機溶媒が20重量%以上であることが好ましく、30重量%以上であることがより好ましく、40重量%以上であることがさらに好ましく、45重量%以上であることがさらに好ましく、50重量%以上であることが特に好ましい。有機溶媒の割合の上限は限定されず、例えば、99重量%以下であってよい。添加する有機溶媒のコストを考慮すると、好ましくは90重量%以下であり、更に好ましくは85重量%以下であり、更に好ましくは80重量%以下であり、更に好ましくは70重量%以下である。
【0053】
カルボキシメチル化の際の反応媒(セルロースを含まない、水と有機溶媒等との混合溶媒)は、マーセル化の際の反応媒よりも、水の割合が少ない(言い換えれば、有機溶媒の割合が多い)ことが好ましい。本範囲を満たすことで、得られるカルボキシメチル化セルロースの結晶化度を維持しながらカルボキシメチル置換度を高くしやすくなる。また、カルボキシメチル化の際の反応媒が、マーセル化の際の反応媒よりも水の割合が少ない(有機溶媒の割合が多い)場合、マーセル化反応からカルボキシメチル化反応に移行する際に、マーセル化反応終了後の反応系に所望の量の有機溶媒を添加するという簡便な手段でカルボキシメチル化反応用の混合溶媒を形成させることができるという利点も得られる。
【0054】
水と有機溶媒との混合溶媒を形成し、マーセル化セルロースにカルボキシメチル化剤を投入した後、温度を好ましくは10~40℃の範囲で一定に保ったまま15分~4時間、好ましくは15分~1時間程度撹拌する。マーセル化セルロースを含む液とカルボキシメチル化剤との混合は、反応混合物が高温になることを防止するために、複数回に分けて、または、滴下により行うことが好ましい。カルボキシメチル化剤を投入して一定時間撹拌した後、必要であれば昇温して、反応温度を30~90℃、好ましくは40~90℃、さらに好ましくは60~80℃として、30分~10時間、好ましくは1時間~4時間、エーテル化(カルボキシメチル化)反応を行い、カルボキシメチル化セルロースを得る。
【0055】
カルボキシメチル化の際には、マーセル化の際に用いた反応器をそのまま用いてもよく、あるいは、温度制御しつつ上記各成分を混合撹拌することが可能な別の反応器を用いてもよい。
【0056】
反応終了後、残存するアルカリ金属塩を鉱酸または有機酸で中和してもよい。また、必要に応じて、副生する無機塩、有機酸塩等を含水メタノールで洗浄して除去し、乾燥、粉砕、分級してカルボキシメチル化セルロース又はその塩としてもよい。副生物除去のために洗浄する際は、予め酸型にして洗浄し、洗浄後に塩型に戻しても良い。乾式粉砕で用いる装置としてはハンマーミル、ピンミル等の衝撃式ミル、ボールミル、タワーミル等の媒体ミル、ジェットミル等が例示される。湿式粉砕で用いる装置としてはホモジナイザー、マスコロイダー、パールミル等の装置が例示される。
【0057】
(ナノファイバーへの解繊)
上記の方法により得たカルボキシメチル化セルロースを解繊することにより、ナノスケールの繊維径を有するセルロースナノファイバーへと変換することができる。
【0058】
解繊の際には、上記の方法で得られたカルボキシメチル化セルロースの分散体を準備する。分散媒は、取扱いの容易性から、水が好ましい。解繊時の分散体におけるカルボキシメチル化セルロースの濃度は、解繊、分散の効率を考慮すると、0.01~10%(w/v)であることが好ましい。
【0059】
カルボキシメチル化セルロースを解繊する際に用いる装置は特に限定されないが、高速回転式、コロイドミル式、高圧式、ロールミル式、超音波式などの装置を用いることができる。解繊の際にはカルボキシメチル化セルロースの分散体に強力な剪断力を印加することが好ましい。特に、効率よく解繊するには、前記分散体に50MPa以上の圧力を印加し、かつ強力な剪断力を印加できる湿式の高圧または超高圧ホモジナイザーを用いることが好ましい。前記圧力は、より好ましくは100MPa以上であり、さらに好ましくは140MPa以上である。また、高圧ホモジナイザーでの解繊及び分散処理に先立って、必要に応じて、高速せん断ミキサーなどの公知の混合、撹拌、乳化、分散装置を用いて、前記分散体に予備処理をほどこしてもよい。
【0060】
高圧ホモジナイザーとは、ポンプにより流体に加圧(高圧)し、流路に設けた非常に繊細な間隙より噴出させることにより、粒子間の衝突、圧力差による剪断力等の総合エネルギーによって乳化、分散、解細、粉砕、及び超微細化を行う装置である。
【0061】
本発明においては、カルボキシメチル化セルロースナノファイバーを分散体の状態で用いても良いし、乾燥(分散媒の除去)、粉砕、分級を行い、粉末として用いても良い。
【0062】
本発明に用いるカルボキシメチル化セルロースナノファイバーを粉末として用いる場合は、必要に応じて、他の成分を含んでいても良い。例えば、粉末を製造する際、乾燥前に、カルボキシメチル化セルロースナノファイバーの分散体に水溶性高分子を共存させると、再分散性が向上するので、好ましい。水溶性高分子により再分散性が向上する理由は、明らかではないが、水溶性高分子がカルボキシメチル化セルロースナノファイバー表面の電荷密度の低い部分をカバーし、水素結合の形成を抑制して乾燥時のナノファイバー同士の凝集を防止するためであると推測される。
【0063】
(水溶性高分子)
カルボキシメチル化セルロースナノファイバーを粉末として用いる場合に、粉末の製造時に共存させることができる水溶性高分子としては、例えば、セルロース誘導体(カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、エチルセルロース)、キサンタンガム、キシログルカン、デキストリン、デキストラン、カラギーナン、ローカストビーンガム、アルギン酸、アルギン酸塩、プルラン、澱粉、かたくり粉、クズ粉、加工澱粉(カチオン化澱粉、燐酸化澱粉、燐酸架橋澱粉、燐酸モノエステル化燐酸架橋澱粉、ヒドロキシプロピル澱粉、ヒドロキシプロピル化燐酸架橋澱粉、アセチル化アジピン酸架橋澱粉、アセチル化燐酸架橋澱粉、アセチル化酸化澱粉、オクテニルコハク酸澱粉ナトリウム、酢酸澱粉、酸化澱粉)、コーンスターチ、アラビアガム、ローカストビーンガム、ジェランガム、ポリデキストロース、ペクチン、キチン、水溶性キチン、キトサン、カゼイン、アルブミン、大豆蛋白溶解物、ペプトン、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸ソーダ、ポリビニルピロリドン、ポリ酢酸ビニル、ポリアミノ酸、ポリ乳酸、ポリリンゴ酸、ポリグリセリン、ラテックス、ロジン系サイズ剤、石油樹脂系サイズ剤、尿素樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミド・ポリアミン樹脂、ポリエチレンイミン、ポリアミン、植物ガム、ポリエチレンオキサイド、親水性架橋ポリマー、ポリアクリル酸塩、でんぷんポリアクリル酸共重合体、タマリンドガム、グァーガム及びコロイダルシリカ並びにそれら1つ以上の混合物が挙げられる。この中でも、セルロース誘導体は、カルボキシメチル化セルロースナノファイバーとの親和性の点から好ましく、カルボキシメチルセルロース及びその塩は特に好ましい。カルボキシメチルセルロース及びその塩のような水溶性高分子は、カルボキシメチル化セルロースナノファイバー同士の間に入りこみ、ナノファイバー間の距離を広げることで、再分散性を向上させると考えられる。
【0064】
水溶性高分子として、カルボキシメチルセルロース又はその塩を用いる場合には、無水グルコース単位当たりのカルボキシメチル基置換度が0.55~1.6のカルボキシメチルセルロースを用いることが好ましく、0.55~1.1のものがより好ましく、0.65~1.1のものがさらに好ましい。また、分子が長い(粘度が高い)ものの方が、ナノファイバー間の距離を広げる効果が高いので好ましい。また、カルボキシメチルセルロースの1重量%水溶液における25℃、60rpmでのB型粘度は、3mPa・s~14000mPa・sが好ましく、7mPa・s~14000mPa・sがより好ましく、1000mPa・s~8000mPa・sがさらに好ましい。なお、ここでいう水溶性高分子としての「カルボキシメチルセルロース又はその塩」とは、水に完全に溶解するものであることから、上述の水中で繊維形状を確認することができるカルボキシメチル化セルロースナノファイバーとは区別される。
【0065】
水溶性高分子の配合量は、カルボキシメチル化セルロースナノファイバー(絶乾固形分)に対して、5重量%~300重量%であることが好ましく、20重量%~300%重量がさらに好ましく、25重量%~200重量%がさらに好ましく、25重量%~60重量%がさらに好ましい。水溶性高分子を5重量%以上配合すると再分散性の向上効果が得られるようになる。一方、水溶性高分子の配合量が300重量%を超えるとカルボキシメチル化セルロースナノファイバーの特徴であるチキソトロピー性などの粘度特性や、分散安定性の低下などの問題が生じることがある。水溶性高分子の配合量が、25重量%以上であると、特に優れた再分散性を得ることができるので好ましい。また、チキソトロピー性を考慮すると200重量%以下であることが好ましく、60重量%以下が特に好ましい。
【0066】
(乾燥)
カルボキシメチル化セルロースナノファイバーの分散体、または、場合により水溶性高分子を混合したカルボキシメチル化セルロースナノファイバーの分散体を乾燥(分散媒の除去)させることで、カルボキシメチル化セルロースナノファイバーを含む乾燥固形物を得る。この際、分散体のpHを9~11に調整した後に、乾燥させると、再分散性がさらに良好となるので好ましい。
【0067】
乾燥方法としては、公知のものを用いることができ、特に限定されない。例えば、スプレイドライ、圧搾、風乾、熱風乾燥、及び真空乾燥を挙げることができる。乾燥装置は、特に限定されないが、連続式のトンネル乾燥装置、バンド乾燥装置、縦型乾燥装置、垂直ターボ乾燥装置、多重段円板乾燥装置、通気乾燥装置、回転乾燥装置、気流乾燥装置、スプレードライヤ乾燥装置、噴霧乾燥装置、円筒乾燥装置、ドラム乾燥装置、ベルト乾燥装置、スクリューコンベア乾燥装置、加熱管付回転乾燥装置、振動輸送乾燥装置、回分式の箱型乾燥装置、通気乾燥装置、真空箱型乾燥装置、及び撹拌乾燥装置等を単独で又は2つ以上組み合わせて用いることができる。
【0068】
これらの中でも、薄膜を形成させて乾燥を行う装置を用いることが、均一に被乾燥物に熱エネルギーを直接供給でき、乾燥処理をより効率的に、短時間で行うことができるためエネルギー効率の点から好ましい。また、薄膜を形成させて乾燥を行う装置は、薄膜を掻き取る等の簡便な手段で直ちに乾燥物を回収できる点からも好ましい。さらに、薄膜を形成させてから乾燥させた場合には、再分散性がさらに向上することも見出された。薄膜を形成させて乾燥を行う装置としては、例えば、ドラムやベルトにブレードやダイ等により薄膜を形成させて乾燥させるドラム乾燥装置やベルト乾燥装置が挙げられる。薄膜を形成させて乾燥させる際の薄膜の膜厚としては、50μm~1000μmが好ましく、100μm~300μmがさらに好ましい。50μm以上であると、乾燥後の掻き取りが容易であり、また、1000μm以下であると再分散性のさらなる向上効果がみられる。
【0069】
乾燥後の残留水分量は、乾燥物全体に対して2重量%~15重量%が好ましい。
【0070】
(粉砕)
粉砕方法は特に限定されず、公知の方法を用いることができ、粉体の状態で処理する乾式粉砕法と、液体に分散あるいは溶解させた状態で処理する湿式粉砕法を例示することができる。湿式粉砕を行う場合には、上記の乾燥の前に行ってもよい。
【0071】
乾式粉砕法で用いる装置としては、これらに限定されないが、カッティング式ミル、衝撃式ミル、気流式ミル、媒体ミルを例示することができる。これらは単独あるいは併用して、さらには同機種で数段処理することができる。これらの中で、気流式ミルは好ましい。カッティング式ミルとしては、メッシュミル((株)ホーライ製)、アトムズ((株)山本百馬製作所製)、ナイフミル(パルマン社製)、グラニュレータ(ヘルボルト製)、ロータリーカッターミル((株)奈良機械製作所製)、等が例示される。衝撃式ミルとしては、パルペライザ(ホソカワミクロン(株)製)、ファインイパクトミル(ホソカワミクロン(株)製)、スーパーミクロンミル(ホソカワミクロン(株)製)、サンプルミル((株)セイシン製)、バンタムミル((株)セイシン製)、アトマイザー((株)セイシン製)、トルネードミル(日機装(株))、ターボミル(ターボ工業(株))、ベベルインパクター(相川鉄工(株))等が例示される。気流式ミルとしては、CGS型ジェットミル(三井鉱山(株)製)、ジェットミル(三庄インダストリー(株)製)、エバラジェットマイクロナイザ((株)荏原製作所製)、セレンミラー(増幸産業(株)製)、超音速ジェットミル(日本ニューマチック工業(株)製)等が例示される。媒体ミルとしては、振動ボールミル等が例示される。湿式粉砕法で用いる装置としては、マスコロイダー(増幸産業(株)製)、高圧ホモジナイザー(三丸機械工業(株)製)、媒体ミルが例示される。媒体ミルとしては、ビーズミル(アイメックス(株)製)等を例示することができる。
【0072】
(分級)
カルボキシメチル化セルロースナノファイバーの粉砕後に、分級を行い、特定の粒度となるように調整する。分級の方法は特に限定されないが、例えば、所定の目開きを有するメッシュ(篩)を通過させることにより行うことができる。メッシュとしては、好ましくは20~400メッシュ、さらに好ましくは40~300メッシュ、さらに好ましくは60~200メッシュを用いることができ、これらを多段式で使用してもよい。最終的に得られる粉末のメディアン径を、10.0μm~150.0μm、好ましくは、30.0μm~130.0μm、さらに好ましくは50.0μm~120.0μmとする。
【0073】
本発明において、カルボキシメチル化セルロースナノファイバーの含有量は、加熱して得られる製品に対して十分な膨らみ向上効果を得る観点から、澱粉含有穀物粉末の絶乾重量に対して、0.05重量%以上であり、ドウ組成物の作業性や成形性、硬さの観点から5重量%以下であり、0.1~3重量%が好ましく、0.2~2重量%がより好ましい。
【0074】
(トレハロース)
本発明のドウ組成物は、セルロースナノファイバーとともに使用することで、加熱して得られる製品に対して、より高い膨らみ向上効果および柔らかさが得られる観点から、トレハロースを澱粉含有穀物粉末の絶乾重量に対して、1~10重量%、好ましくは3~8重量%、さらに好ましくは5~8重量%含む。トレハロースの含有量が多すぎると、パンの膨張を阻害する虞があり、少なすぎると、効果が発揮されない虞がある。
【0075】
(副原料)
本発明のドウ組成物は、上記原料成分以外の副原料を必要に応じて含有してもよい。その様な副原料としては、例えばイーストフード;砂糖、ブドウ糖、果糖、転化糖、水あめ、麦芽糖、乳糖、オリゴ糖等の糖類;卵または卵粉;脱脂粉乳、全脂粉乳、チーズ粉末、ヨーグルト粉末、ホエー粉末などの乳製品;ショートニングやバター、マーガリンやその他の動植物油等の油脂類;乳化剤;膨張剤;増粘剤;甘味料;香料;着色料;アスコルビン酸;食塩等の無機塩類;グルコシダーゼ、グルコースオキシダーゼ、アミラーゼ、リパーゼ、ヘミセルラーゼ等の酵素類;食物繊維などを挙げることができる。
【0076】
(実施形態)
本発明のドウ組成物は、パン、スポンジケーキ、クッキー、ドーナッツ等のベーカリー食品組成物;そば、うどん、パスタ、素麺、ラーメン等の麺類;春巻きの皮、餃子の皮、小龍包の皮等の中華料理の材料;おかき等に利用し得る。これらの中でも、焼成後によく膨らみ、柔らかな製品を得ることができるという効果に鑑み、ベーカリー食品組成物として利用することが好ましい。
【0077】
本発明のベーカリー食品組成物は、本発明のドウ組成物からなるものである。より詳細には、ベーカリー食品組成物は、例えば、澱粉含有穀物粉末、トレハロース、及び砂糖や発酵成分、油脂、脱脂粉乳、食塩、必要に応じて添加される副原料を含む混合物に対し、水成分及びカルボキシメチル化セルロースナノファイバーを含む分散液を加え、均一になるようかき混ぜた生地(ドウ組成物)を、発酵させた後、焼成して得られる。なお、ベーカリー食品組成物の製造方法は、これに限定されるものではなく、適宣、変更してもよい。
【0078】
本発明のドウ組成物は、澱粉含有穀物粉末100重量%に対し、カルボキシメチル化セルロースナノファイバーを0.05~5重量%、且つトレハロースを1~10重量%含むため、このドウ組成物を用いて得られる製品は、膨らみに優れ、さらに柔らかである。
【実施例0079】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0080】
(カルボキシメチル置換度の測定方法)
1)カルボキシメチル化セルロース繊維(絶乾)約2.0gを精秤して、300mL容共栓付き三角フラスコに入れた。
2)硝酸メタノール1000mLに特級濃硝酸100mLを加えた液100mLを加え、3時間振とうして、カルボキシメチルセルロース塩(CM化セルロース)を水素型CM化セルロースにした。
3)水素型CM化セルロース(絶乾)を1.5~2.0g精秤し、300mL容共栓付き三角フラスコに入れた。
4)80%メタノール15mLで水素型CM化セルロースを湿潤し、0.1NのNaOHを100mL加え、室温で3時間振とうした。
5)指示薬として、フェノールフタレインを用いて、0.1NのH2SO4で過剰のNaOHを逆滴定した。
6)カルボキシメチル置換度(DS)を、次式によって算出した:
A=[(100×F’-(0.1NのH2SO4)(mL)×F)×0.1]/(水素型CM化セルロースの絶乾重量(g))
DS=0.162×A/(1-0.058×A)
A:水素型CM化セルロースの1gの中和に要する1NのNaOH量(mL)
F’:0.1NのH2SO4のファクター
F:0.1NのNaOHのファクター
【0081】
(平均繊維径、アスペクト比の測定方法)
セルロースナノファイバーの平均繊維径および平均繊維長は、原子間力顕微鏡(AFM)を用いてランダムに選んだ200本の繊維について解析した。アスペクト比は下記の式により算出した。
アスペクト比=平均繊維長/平均繊維径
【0082】
(製造例1)
(カルボキシメチル化セルロースナノファイバーの製造)
回転数を100rpmに調節した5L容の二軸ニーダーに、イソプロパノール(IPA)1089部と、水酸化ナトリウム31部を水121部に溶解したものとを加え、広葉樹パルプ(日本製紙(株)製、LBKP)を100℃で60分間乾燥した際の乾燥重量で200部仕込んだ。30℃で60分間撹拌、混合しマーセル化セルロースを調製した。更に撹拌しつつモノクロロ酢酸ナトリウム117部を添加し、30℃で30分間撹拌した後、30分かけて70℃に昇温し、70℃で60分間カルボキシメチル化反応をさせた。マーセル化反応時及びカルボキシメチル化反応時の反応媒中の水の割合は、10重量%である。反応終了後、中和し、65%含水メタノールで洗浄し、脱液、乾燥、粉砕して、カルボキシメチル置換度0.27、セルロースI型の結晶化度64%のカルボキシメチル化セルロースのナトリウム塩を得た。なお、カルボキシメチル置換度及びセルロースI型の結晶化度の測定方法は、先述の通りである。
【0083】
得られたカルボキシメチル化セルロースのナトリウム塩を水に分散し、1%(w/v)水分散体とした。これを、150MPaの高圧ホモジナイザーで3回処理し、カルボキシメチル化セルロースナノファイバーの分散体を得た。得られたカルボキシメチル化セルロースナノファイバーは、平均繊維径が3.2nm、アスペクト比が40であった。
【0084】
(CNF粉体1の製造)
得られたカルボキシメチル化セルロースナノファイバーを水で固形分0.7重量%の分散体とし、カルボキシメチルセルロース(日本製紙(株)製、商品名:F350HC-4、粘度(1重量%、25℃、60rpm)約3000mPa・s、カルボキシメチル置換度約0.90)を、カルボキシメチル化セルロースナノファイバーに対して40重量%(すなわち、カルボキシメチル化セルロースナノファイバーの固形分を100重量部としたときにカルボキシメチルセルロースの固形分が40重量部となるように)添加し、TKホモミキサー(12,000rpm)で60分間撹拌した。
【0085】
この分散体に、水酸化ナトリウム水溶液0.5重量%を加え、pHを9に調整した後、ドラム乾燥機D0405(カツラギ工業社製)のドラム表面に塗布し、140℃で1分間乾燥した。得られた乾燥物を掻き取り、次いで、衝撃式ミルを用いて1時間あたり10kgの速さで乾燥物を粉砕し、水分量5重量%の乾燥粉砕物を得た。得られた粉砕物を、30メッシュを用いて分級し、カルボキシメチル化セルロースナノファイバー及びカルボキシメチルセルロースを含む粉体(CNF粉体1)を得た。
【0086】
(実施例1、比較例1、及び比較例2)
(食パンの製造)
表1の原料の内、CNF粉体1を含む場合は、CNF粉体1と水とを、ホモディスパーを使用して回転数3000rpmで30分間撹拌することにより、CNF分散液を調製した。次に、表1の原料の内、CNF粉体1と水以外の原料を、調製したCNF分散液(もしくは水)とともに製パン機に投入した。次に、製パン機を食パンコース(ねり、ねかし、発酵、焼きの合計4時間)に設定し、食パンを製造した。
なお、表1の原料の数値は、重量部を表す。
【0087】
(食パンの評価)
実施例および比較例で得られた食パンは、製造後2時間室温で放冷した後、パン用ナイフで中央部を厚さ20mmに切り出し、試験片とし、下記の測定を行った。
【0088】
(高さ)
試験片について、パンの底部から頂点までを定規を用いて測定した。結果を表1に示した。高さが高いほど、膨らみが向上していることを示す。
【0089】
(水分率)
室温下(25℃/50%)に静置した試験片の内相部を1cm角に切り出し、その重量WAを測定した。その後、1cm角試験片を105℃の乾燥機にて3時間乾燥し、乾燥後重量WBを測定した。(WA-WB)/WA×100から水分率を得た。結果を表1に示す。なお、焼成当日の試験片の水分率を「水分率(0日)」の欄に、製造後にジッパー付きビニールバッグに入れて25℃の恒温室で3日間保存した試験片の水分率を「水分率(3日)」の欄に示し、3日後の水分率と、焼成当日の水分率の変化を求め、「Δ水分率」の欄に示した。本発明においてはΔ水分率が0に近いほど、乾燥が抑制されていると言える。
【0090】
(硬さ)
試験片について、レオメータ(イマダ製、フードレオロジーテスターFRTS-50N)を用いて硬さを測定した。具体的には、プランジャーとしてφ2.0cmのものを使用し、突入速度1mm/秒で1cm押し込んだ際の数値を記録した。5点以上を測定し、平均値を求め、結果を表1に示した。なお、焼成当日の試験片の硬さを「硬さ(0日)」の欄に、製造後にジッパー付きビニールバッグに入れて25℃の恒温室で3日間保存した試験片の硬さを「硬さ(3日)」の欄に、それぞれ示した。数値が小さいほど、試験片のパンが柔らかいことを示す。さらに、3日後の硬さと、焼成当日の硬さの変化を求め、「Δ硬さ」の欄に示した。数値が小さいほど、老化が抑制されていることを示す。本発明においては、Δ硬さが5未満であると、老化が抑制されているといえる。
【0091】
【表1】
【0092】
表1の結果から明らかなように、澱粉含有穀物粉末100重量%に対し、カルボキシメチル化セルロースナノファイバーを0.05~5重量%、且つトレハロースを1~10重量%含む実施例1のドウ組成物を用いて得られた食パンは、ドウ組成物中にセルロースナノファイバーが存在することでトレハロースが均一に存在でき、これらが相乗的な効果を発揮するため、成形性を維持しつつ膨らみが向上し、柔らかなことがわかる。