(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023112449
(43)【公開日】2023-08-14
(54)【発明の名称】計測装置及び歯車故障判断装置
(51)【国際特許分類】
G01H 17/00 20060101AFI20230804BHJP
G01M 13/021 20190101ALI20230804BHJP
【FI】
G01H17/00 A
G01M13/021
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022014245
(22)【出願日】2022-02-01
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109380
【弁理士】
【氏名又は名称】小西 恵
(74)【代理人】
【識別番号】100109036
【弁理士】
【氏名又は名称】永岡 重幸
(72)【発明者】
【氏名】岡村 俊彦
(72)【発明者】
【氏名】杉田 澄雄
(72)【発明者】
【氏名】マイケル オット
【テーマコード(参考)】
2G024
2G064
【Fターム(参考)】
2G024AD01
2G024BA22
2G024CA13
2G024FA01
2G024FA06
2G024FA11
2G064AB02
2G064AB22
2G064BA02
2G064BD02
2G064CC02
2G064CC43
2G064DD02
(57)【要約】
【課題】歯車の異常を正確に検出できる測定装置を提供すること。
【解決手段】測定装置は、歯車が設けられた軸を回転可能に支持する軸受部の1つの側面に設けられる。前記計測装置は、前記軸受部の外輪に取り付けられ、前記軸受部の前記1つの側面を覆うカバーと、前記カバーの内面に設けられて、前記軸受部の振動を3軸(X軸、Y軸、Z軸)のそれぞれについて計測する加速度センサと、前記カバーの内面に設けられて、前記軸受部の前記外輪と内輪と間の角度を計測する角度センサと、前記カバーの内面に設けられて、前記加速度センサにより得られた前記3軸のそれぞれについての加速度計測値と、前記角度センサにより得られた角度計測値とを、1つの共通の時間基準を共有して紐づけて取得する取得部と、を備える。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯車が設けられた軸を回転可能に支持する軸受部の1つの側面に設けられた計測装置であって、
前記軸受部の外輪に取り付けられ、前記軸受部の前記1つの側面を覆うカバーと、
前記カバーの内面に設けられて、前記軸受部の振動を3軸(X軸、Y軸、Z軸)のそれぞれについて計測する加速度センサと、
前記カバーの内面に設けられて、前記軸受部の前記外輪と内輪と間の角度を計測する角度センサと、
前記カバーの内面に設けられて、前記加速度センサにより得られた前記3軸のそれぞれについての加速度計測値と、前記角度センサにより得られた角度計測値とを、1つの共通の時間基準を共有して紐づけて取得する取得部と、
を備えることを特徴とする計測装置。
【請求項2】
前記加速度センサは、3軸のそれぞれについて、前記歯車の歯から前記軸受部に伝達された振動を計測し、前記角度センサは、前記軸受の外輪に対する内輪の相対的な回転角度を計測することを特徴とする請求項1に記載の計測装置。
【請求項3】
前記取得部は、
前記加速度センサにより得られた前記加速度計測値と前記角度センサにより得られた前記角度計測値とを、DMA(Direct Memory Access)転送する制御部と、
前記制御部によりDMA転送された前記加速度計測値と前記角度計測値とを対応付けて記憶する記憶部と、を備えることを特徴とする請求項1または2に記載の計測装置。
【請求項4】
前記計測装置は、前記軸受部の内輪が1回転する毎に1つのパルスを生成するパルス生成部をさらに備え、
前記取得部は、前記パルス生成部により生成されたパルスに基づいて、前記加速度センサにより得られた前記加速度計測値と前記角度センサにより得られた前記角度計測値とを、紐づけして取得することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の計測装置。
【請求項5】
前記軸受の外輪と内輪との相対的な回転に基づいて発電し、前記加速度センサ、前記角度センサ及び前記取得部に電力を供給する発電部をさらに備えることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の計測装置。
【請求項6】
前記取得部により取得された前記加速度計測値及び前記角度計測値を、故障判断装置に送信する送信部をさらに備えることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の計測装置。
【請求項7】
前記送信部は、Bluetooth(登録商標) Low Energy、ZigBee(登録商標)またはThreadに準拠する通信により、前記加速度計測値及び前記角度計測値を前記故障判断装置に送信することを特徴とする請求項6に記載の計測装置。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項に記載の計測装置から受信した加速度計測値及び角度計測値に基づいて、歯車の故障を判断する故障判断装置であって、
前記歯車の歯の数を入力する入力手段と、
前記歯と軸受部の回転角度との関係を規定するマップを生成するマップ生成部と、
式(1)を用いて、加速度信号強度を算出する第1算出部と、
式(2)を用いて、前記加速度信号強度の平均値を算出する第2算出部と、
式(3)を用いて、前記歯の損傷指標値を算出する第3算出部と、
を備え、
前記式(1)は、
であり、ここで、P(tooth=k)はk番目の歯の加速度信号強度であり、x(φ(i))、y(φ(i))、z(φ(i))はあるサンプルiの角度位置がk番目の歯に対応する場合に値をもつ、X軸、Y軸、Z軸それぞれの加速度計測値であり、n
samples,kはk番目の歯の加速度計測値の取得数であり、
前記式(2)は、
であり、ここで、P ̄は前記歯車の全ての歯の加速度信号強度の平均値であり、P(k)はk番目の歯の加速度信号強度であり、Zは加速度信号強度の取得数、つまり前記歯車の歯の数であり、
前記式(3)は、
であり、ここで、P
rel(k)はk番目の歯の損傷指標値である、
ことを特徴とする歯車故障判断装置。
【請求項9】
前記損傷指標値に基づいて、k番目の歯の損傷を判定する判定部をさらに備えることを特徴とする請求項8に記載の歯車故障判断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、計測装置及び歯車故障判断装置に関し、特に、歯車変速機構に設けられた軸受の振動と角度位置を計測する計測装置及び歯車変速機構に設けられた歯車の故障を判断する歯車故障判断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
歯車には色々な疲労が生じ得るし、使用時間等に応じた自然発生的な損傷も生じ得る。一般的に、歯車は、損傷が無くても、時間経過に伴い変化する噛み合い剛性その他の理由により振動を発生する。振動の発生は、損傷の存在によって変わる。
歯車変速機構の場合、上記した振動は、歯車本体(歯以外の部分)、軸及び軸受を通って歯車変速機構のケースに伝達される。歯車変速機構の歯車の異常を検出する装置として、特許文献1の装置がある。
【0003】
特許文献1の装置は、2つの歯車がかみ合う際に発生する振動を検出する加速度センサを有する。加速度センサは、トランスミッションのケーシングに固定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
歯車がかみ合う際に発生する振動エネルギの一部は、歯車を収容するケースから可聴ノイズとして外部に放出される。この可聴ノイズの伝達経路に亘って、元々のかみ合いにより励起された振動は、振動励起点からピックアップ点(加速度センサの設置位置)に到達する過程で、ケース固有の振動伝達経路の影響を受ける。従って、ピックアップ点で計測される振動特性は、励起点の振動と比べて振動特性が変化している。これは、伝達経路に存在する物体の剛性及び質量特性や、減衰に依るものであり、周波数帯域全体に亘って、変更された振幅及び位相に関して、振動時系列を変化させる。
【0006】
特許文献1に開示されている構成では、加速度センサが増速機のケーシングに取り付けられているので、2つの歯車(歯車対)がかみ合う際に発生する振動が、増速機のケーシングを介して加速度センサに伝達される。加速度センサに到達する振動は、ケーシング固有の振動伝達経路の影響を受けるので、加速度センサで計測される振動は、振動発生箇所(かみ合う歯車対)の振動と比べて振動特性が変化している可能性がある。また、特許文献1の構成では、歯車の個々の歯の異常を検出することはできない。
そこで、本発明は、歯車の異常をより正確に検出できる技術(装置)を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の一つの態様による計測装置は、歯車が設けられた軸を回転可能に支持する軸受部の1つの側面に設けられた計測装置であって、前記軸受部の外輪に取り付けられ、前記軸受部の前記1つの側面を覆うカバーと、前記カバーの内面に設けられて、前記軸受部の振動を3軸(X軸、Y軸、Z軸)のそれぞれについて計測する加速度センサと、前記カバーの内面に設けられて、前記軸受部の前記外輪と内輪と間の角度を計測する角度センサと、前記カバーの内面に設けられて、前記加速度センサにより得られた前記3軸のそれぞれについての加速度計測値と、前記角度センサにより得られた角度計測値とを、1つの共通の時間基準を共有して紐づけて取得する取得部と、を備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一つの態様によれば、加速度センサを軸受部に取り付けているので、歯車の振動が加速度センサに伝達される経路は極めて短くなる。また、3軸(3方向)のそれぞれで得られた加速度値から歯車の異常を診断することにより、診断感度が高くなる。よって、歯車の異常をより早期に、かつ、より正確に検出することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は本発明の実施形態の歯車故障判断装置と歯車変速機構を示す図である。
【
図2】
図2は
図1の歯車故障判断装置の構成を示すブロック図である。
【
図4】
図4は
図1の第1軸受を別の方向から見た分解斜視図である。
【
図5A】
図5Aはカバー、コイル基板、回路基板群及び蓄電池を示す平面図である。
【
図6】
図6は自己発電のメカニズムを説明するためのブロック図である。
【
図7】
図7は電源管理ICの動作を説明するためのグラフである。
【
図8】
図8は計測装置の構成を示すブロック図である。
【
図9】
図9は計測装置の処理を説明するためのタイミングチャートである。
【
図10】
図10は加速度計測値と角度計測値の対を説明する図である。
【
図11】
図11は計測装置の処理を説明するためのフローチャートである。
【
図12】
図12は歯毎の加速度曲線を取得する方法を説明する図である。
【
図13】
図13は歯車故障判断装置が実行する故障検出処理を説明する図である。
【
図14】
図14は角度オフセット値を用いない場合の角度と歯のマップである。
【
図15】
図15は角度オフセット値を用いた場合の角度と歯のマップである。
【
図16】
図16は3軸についての加速度データの一例を示す図である。
【
図17】
図17は実施形態の効果を確認するための実験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本実施形態の歯車故障検出システムは、歯車変速機構に設けられた歯車の状態をモニタリングし、歯車の故障を検出する。本実施形態の歯車故障検出システムは、自己発電型のセンサ付き軸受(軸受装置)を使用して、歯車変速機構のモニタリングを行い、歯車の歯ごとの振動信号を評価できるように構成されている。本実施形態で使用する軸受装置は、軸を回転自在に支持するという軸受本来の機能に加え、自己発電とセンシングと無線送信の機能を有する。つまり、軸受装置は、軸を支持するデバイスであると共に、センサデバイス(計測装置)としての機能も有する。尚、センサデバイスは計測装置と称することもできるので、センサ付き転がり軸受は、計測装置付き軸受と称してもよい。
【0011】
なお、以下の記載において、歯車変速機構はギアボックスと称されることがある。また、歯車はギアと称されることがある。また、本実施形態の歯車変速機構は、説明を簡単にするために、単純な1段ギアの歯車変速機構であるとする。
本発明の範囲は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で変更及び修正等をすることが可能である。
【0012】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
図1は、本発明の実施形態の歯車故障判断装置10と歯車変速機構20を示している。歯車変速機構20は、ハウジング21と、ハウジング21内に設けられた第1歯車22及び第2歯車23を有する。ハウジング21は、所定間隔で対向する第1壁21aと第2壁21bを有する。第1歯車22と第2歯車23は互いかみ合う。また、歯車変速機構20は、第1歯車22が取り付けられた第1軸24aと、第1軸24aの両端を支持する第1軸受25及び第2軸受26を有する。第1軸受25は、ハウジング21の第1壁21aに設けられている。第2軸受26は、ハウジング21の第2壁21bに設けられている。
【0013】
さらに、歯車変速機構20は、第2歯車23が取り付けられた第2軸24bと、第2軸24bの両端を支持する第3軸受27及び第4軸受28を有する。第3軸受27は、第1軸受25の下方において、ハウジング21の第1壁21aに設けられている。第4軸受28は、第2軸受26の下方において、ハウジング21の第2壁21bに設けられている。本実施形態では、第1軸受25~第4軸受28は、転がり軸受であるとする。各軸受25、26、27、28は、例えば、円すいころ軸受または深溝玉軸受である。
【0014】
本実施形態では、4つの軸受25~28のうち、第1軸受25だけが、計測装置100(
図3)を内蔵する計測装置付き軸受装置であるとする。計測装置100は、第1歯車22と第2歯車23がかみ合うことにより発生する振動を検出・計測する。また、計測装置100は、第1軸受25の回転角度位置(第1軸24aの回転角度位置)も検出する。計測装置100は通信機能を備え、歯車故障判断装置10と無線通信できる。さらに、計測装置100は、発電部149(
図8)も備える。歯車故障判断装置10は、第1軸受25の計測装置100から受信した信号に基づいて、第1歯車22の故障を検出する。本実施形態では、歯車故障判断装置10と計測装置100とにより、歯車故障検出システム30が構成される。第1軸受25は、計測装置100を備えるので、軸受装置と称してもよい。
【0015】
図2は歯車故障判断装置10の構成を示すブロック図である。
図2に示すように、歯車故障判断装置10は、入力部11、制御部12、記憶部13、表示部14及び通信部15を有する。歯車故障判断装置10は、例えば、パーソナルコンピュータである。
入力部11は、ボタン、スイッチ、マウス、タッチパネル等からなり、ユーザは入力部11を介して各種入力等を行う(例えば、第1歯車22の歯の数を入力する)。ユーザは、歯車故障判断装置10を操作する際に、入力部11を使用する。入力部11は、操作部と称することもできる。
【0016】
制御部12は、1つまたは複数のCPUやMPUにより構成され、歯車故障判断装置10の各部11及び13~15の動作を制御する。制御部12は、計測装置10から受信した信号を処理して、歯車の故障判断を行う(故障判断処理を実行する)。制御部12は、記憶部13に記憶される制御プログラムを実行することにより歯車故障判断装置10を制御したり、歯車の故障判断処理を実行する。CPUはCentral Processing Unitの略である。MPUはMircoprosessor Unitの略である。
【0017】
記憶部13は、HDD、ROM、RAM、ICメモリカード等により構成され、制御部12が実行する制御プログラムや第1歯車22の角度と歯の関係を表すマップ(後述)を生成するためのアルゴリズム等の各種情報を記憶する。マップの生成は、記憶部13に記憶された制御プログラムを制御部12が実行することにより行われる。記憶部13は計測装置100から受信したデータを記憶することができる。HDDはHard Disk Driveの略である。ROMはRead Only Memoryの略である。RAMはRandom Access Memoryの略である。ICはIntegrated
Circuitの略である。
表示部14は、液晶ディスプレイなどからなり、各種データ、数値、文字および画像等の表示を行う。表示部14は、計測装置100から受信したデータを表示部に表示することができる。
通信部15は、計測装置100との無線通信を行う。
【0018】
図3及び
図4は、第1軸受25の構成を示す分解斜視図である。
図3は、第1軸受25を左側面からみた分解斜視図である。
図4は、第1軸受25を右側面から見た分解斜視図である。
図3に示すように、第1軸受25は、計測装置100と、軸受部250とを有する。計測装置100は、軸受部250の左側面に取り付けられる。計測装置100は、カバー110と、コイル基板120(
図4)と、回転部130と、回路基板群140(
図4)と、蓄電池(キャパシタ)150と、リテーナ(図示せず)と、Z相用磁石ユニット160とを備える。リテーナは、薄い環状の部材であり、カバー110とZ相用磁石ユニット160の間に位置する。回路基板群140は、後述するように、複数の基板により構成されている。
【0019】
回転部130は、第1軸24aに取り付けられ、第1軸24aと共に回転する。カバー110が軸受部250に取り付けられると、カバー110は軸受部250の外輪112に取り付けられる。よって、カバー110は回転しない。リテーナは軸受部250の内輪113に取り付けられる。リテーナにより、Z相用磁石ユニット160は軸受部250の内輪113に固定される。よって、Z相用磁石ユニット160は、軸受部250の内輪113(つまり第1軸24a)と共に回転する。
【0020】
カバー110は、円環状の平板部材であり、例えば、ケイ素鋼板、炭素鋼(JIS規格 SS400またはS45C)、マルテンサイト系ステンレス(JIS規格 SUS420)またはフェライト系ステンレス(JIS規格 SUS430)などのような磁性を有する材料により形成される。カバー110にはセンサが取り付けられるので、カバー110をセンサケースと称してもよい。
【0021】
カバー110の軸受部250と対向する側の面には、
図4に示すように、コイル基板120、回路基板群140及び蓄電池150が取り付けられている。回路基板群140は、電源制御基板141と、角度センサ基板142と、制御基板143を含む。電源制御基板141、角度センサ基板142及び制御基板143は、例えばカバー110に開けられた雌ねじ穴に、黄銅など非磁性材料のボルトが締結することで、カバー110に固定される。この場合、ボルトは、カバー110に取り付けられた状態で、カバー110から突出しない長さを有する。
【0022】
電源制御基板141は、整流回路261(
図6)、平滑回路262(
図6)、電源管理IC263(
図6)及びFET264(
図6)を有する。電源制御基板141の回路261~263及びFET264については、
図6を用いて後述する。FETはField Effect Transistorの略である。
【0023】
また、カバー110には、貫通孔111が形成されており、貫通孔111は、樹脂などの非磁性材料で形成された蓋117で密閉されている。後述するように、制御基板143には、アンテナ147(
図5A)が実装される。カバー110は磁性を有するので、アンテナ147からの電磁波をシールドする作用を有する。しかしながら、アンテナ147は蓋117と対向する位置に配置され、これにより、アンテナ147の電磁波は、非磁性の蓋117を介して、外部の歯車故障判断装置10へ到達することができる。
コイル基板120は、例えば接着剤によりカバー110に固定されている。
【0024】
図5Aは、カバー110とコイル基板120と回路基板群140と蓄電池150の構成例を示す平面図である。
図5Bは、カバー110とコイル基板120だけを示した図である。
図5Bに示すように、コイル基板120は、フレキシブル基板121と、フレキシブル基板121に設けられたコイルパターン123と、フレキシブル基板121に設けられた複数のヨーク125と、を有する。なお、ヨーク125の設置は任意である。フレキシブル基板121の平面視による形状は、回転中心軸Axを中心とする正円のリング状である。コイルパターン123は、フレキシブル基板121の厚さ方向に積層された複数の平面コイルを有する。平面コイルとは、絶縁体の所定の面上にパターニングされて設けられた導電体のパターンである。本実施形態においては、導電体のパターンが絶縁体の複数の面上に形成されている。尚、これに限られず、導電体のパターンが絶縁体の1つの面上に形成されていてもよい。コイルパターン123のターン数は平面コイルの積層数に比例する。平面コイルの積層数を変化させることにより、発電量を調整することができる。
【0025】
また、コイルパターン123は、平面視で、回転中心軸Axを中心とする円の円周方向に沿って凹凸が交互に並ぶように設けられている。この凹凸の凹部にヨーク125が1つずつ配置されている。コイルパターン123は、後述するエンコーダマグネットの磁気変化を検出できる位置に角度センサを配置するため、一部円形を欠けさせる形状としてもよい。
【0026】
図5Aに示すように、電源制御基板141、角度センサ基板142、制御基板143及び蓄電池150は、平面視で、コイル基板120よりも径方向外側に取り付けられている。電源制御基板141(より詳しくは、後述する電源管理IC263)は、2つのDC-DCコンバータ(降圧用と昇圧用)を備えており、蓄電池(キャパシタ)150から供給された直流電圧を降圧して、当該直流電圧を角度センサ基板142及び制御基板143へ供給する。
【0027】
角度センサ基板142には、角度センサ443とZ相検出器444が実装されている。Z相検出器444は、例えば、ホールICである。Z相検出器444は、後述するZ相用磁石162がZ相検出器444の近傍を通過する毎に、1つのパルスを生成する。つまり、Z相検出器444は、第1軸受25が1回転する毎に、1つのパルスを生成する。
制御基板143には、制御回路145、アンテナ147、加速度センサ441及び温度センサ442が実装されている。なお、加速度センサ441、温度センサ442、角度センサ443、制御回路145及びアンテナ147は、別々のICチップで構成されていてもよいし、それらの一部または全部が1つのICチップで構成されていてもよい。温度センサ442は、加速度及び角度を検出した時(あるいは、検出前)の温度を検出するために設けられている。本実施形態で用いる加速度センサ441は、例えば、MEMS加速度センサである。また、本実施形態で用いる加速度センサ441は、
図5Aに示すように、3軸(X/Y/Z軸)のそれぞれで加速度値を測定する(加速度計測値を取得)ように構成されている(すなわち、3軸加速度センサである)。
【0028】
コイルパターン123の両端は、コイル基板120の外周の所定位置に設けられた延出部116を介して、電源制御基板141に接続される。なお、延出部116の代わりに、リード線によりコイル基板120と電源制御基板141と接続してもよい。あるいは、延出部116の代わりに、FPC(Flexible Printed Circuit)コネクタによりコイル基板120と電源制御基板141と接続してもよい。FPCコネクタを使用した接続では、半田が不要となるので、計測装置100の生産性を高めることができる。
【0029】
図3及び
図4に戻って、回転部130は、環状の磁気トラック131と、環状の基材133と、環状の取付け治具135とを有する。基材133及び取付け治具135は、磁性を持つ金属材料であることが望ましい。磁気トラック131は、基材133の左面に設けられている。基材133は開口部を有する。取付け治具135は、基材133の右面に固定されている。取付け治具135は、基材133の右面から、基材133の開口部を通って、基材133の左面側に突き出ている。基材133の左面はカバー110と対向する面である。なお、磁気トラック131は、基材133に対して着脱可能な構成であってもよい。
【0030】
本実施形態では、磁気トラック131と基材133とを合わせて、エンコーダマグネットと称する。例えば、エンコーダマグネットは、金属製の基材133の一方の面にプラスチックマグネットが形成され、形成されたプラスチックマグネットの表面にN極とS極とが交互に着磁されることにより形成される。取付け治具135は、エンコーダマグネット(回転部130)を第1軸部24aに取り付けるための治具である。
【0031】
磁気トラック131は、N極131NとS極131Sとからなる磁極対311を複数有する。複数の磁極対311は、磁気トラック131の円周方向に並んでいる。N極131N及びS極131Sは、交互に配置されている。
磁気トラック131における隣り合うN極131NとS極131Sとの中心間の距離は、コイル基板120における隣り合うヨーク125の中心間の距離と同じである。
【0032】
本実施形態では、回転中心軸Ax(
図5B)を中心に、コイル基板120に対して磁気トラック131が相対的に回転すると、隣り合うヨーク125のうち一方のヨーク125がN極と対向するときは、他方のヨーク125はS極と対向する。また、一方のヨーク125がS極と対向するときは、他方のヨーク125はN極と対向する。つまり、コイル基板120の隣り合うヨーク125は、磁気トラック131の同一磁極と対向することはない。これにより、一方のヨーク125を通る磁束密度の変化の位相と、他方のヨーク125を通る磁束密度の変化の位相は、180°ずれた状態となる。
【0033】
このように、コイル基板120に対して磁気トラック131が相対的に回転すると、ヨーク125と対向する磁極が交互に替わる。これにより、ヨーク125を通る磁束密度が周期的に変化する。この磁束密度の周期的な変化に応じて、ヨーク125の周りに位置するコイルパターン123に電圧変化(例えば、正弦波の交流電圧)が生成される。つまり、本実施形態では、第1軸受25の内輪113が第1軸24aと共に回転すると、第1軸受25の中で電磁誘導による発電が行われる。この発電は自己発電である。エンコーダマグネット(磁気トラック131)とコイル基板120の組み合わせは、発電部149と称されることがある。発電部149は、第1軸受25の外輪112と内輪113との相対的な回転に基づいて発電することになる。第1軸受25で生成された直流電圧は、蓄電池150に蓄えられる。
【0034】
Z相用磁石ユニット160は、Z相用磁石ホルダ161とZ相用磁石(図示せず)を有する。Z相用磁石ホルダ161は環状の部材であり、Z相用磁石はZ相用磁石ホルダ161に形成された孔に埋設されている。Z相用磁石ホルダ161は金属製(例えば、アルミ製)である。Z相用磁石ユニット160が第1軸24aと共に1回転すると、Z相用磁石がZ相検出器444を1回横切る。この時、Z相検出器444は、1つのパルスを生成する。
【0035】
図6は、上記した自己発電のメカニズムを概略的に示した図である。
図6において、コイルCは、カバー(金属ケース)110に取り付けられたコイルパターン123に対応し、磁石Mは、第1軸受25の内輪113に設けられたエンコーダマグネットに対応する。
図6に示すように、コイルCと磁石Mが相対回転することで電磁誘導が生じて発電が行われる。発電された電流は交流であるため、整流回路261を通して直流に変換する。整流回路261は、例えば、ダイオードブリッジである。整流回路261で変換された電流には脈流が含まれる可能性があるので、本実施形態では、より直流に近い状態するために、整流回路261の出力を平滑回路262に接続している。
【0036】
平滑回路262を通った直流は電源管理IC263に入力され、蓄電池(キャパシタ)150に蓄えられる。電源管理IC263は2つのDC-DCコンバータ(降圧用と昇圧用)を備えており、発電機(
図6のCとM)で発電される微小な電力が電源管理IC263の昇圧DC-DCコンバータにより昇圧されて、蓄電池150に蓄電される。蓄電池150への充電、過充電時の放電、及び、負荷L(センサ、回路基板)への出力Vccは、電源管理IC263により管理される。
不定電圧の流入による制御基板143の暴走を阻止するために、電源管理IC263と負荷Lの間には、FET264を設けている。FET264により、負荷Lへの電力供給を完全に遮断することができる。
【0037】
第1軸24aの回転(コイル基板120と磁気トラック131との相対回転)によって得られる電力は極めて小さいため、電源管理IC263として、例えば、微小電力でも蓄電可能であるエナジーハーベスト向けの電源管理ICを採用する(例えば、Texas Instruments社製超低消費電力ハーベスタ・パワー・マネージメントIC-BQ25570)。
【0038】
蓄電池150は、少なくとも、計測装置100の1回分の動作が行える蓄電容量を有する。計測装置100の1回分の動作とは、歯車の歯の角度位置及び加速度を所定時間(例えば、1秒)計測して、計測結果を歯車故障判断装置10に送信するまでの動作のことである。
蓄電池150の充電が完了すると、電源管理IC263はFET264に充電完了を知らせる充電完了信号を送る。
蓄電池150のESR(Equivalent Series Resistance)が低いほど瞬間的に取り出せる電流が増加するため、低ESRの蓄電池を採用することが好ましい。低ESRの蓄電池を採用しない場合、蓄電池150を並列に接続できるコンデンサや全固体電池を設けてもよい。この場合は、並列接続をするとよい。
なお、整流回路261、平滑回路262、電源管理IC263及びFET264をまとめて回路群431(
図8)と称する場合がある。
【0039】
図7は、電源管理IC263の動作を説明する2つのグラフを示している。
図7の上のグラフの縦軸は、蓄電池150の電圧を示しており、横軸は時間を示している。下のグラフの縦軸は、充電完了信号を示している。このグラフの縦軸は信号の強度(HighまたはLow)を示し、横軸は時間を示している。充電完了信号がLow(低)の場合は、蓄電池150の充電が完了していない(充電中)状態を表している。充電完了信号がHigh(高)の場合は、蓄電池150が電力供給している状態を表している。充電完了信号がHighからLowに移行した場合、蓄電池150が電力供給を停止(終了)し、充電状態になったことを表している。充電完了信号は電源管理IC263が生成する信号であり、
図7の2つのグラフを組み合わせて見ると、電源管理IC263が蓄電池150の電圧に対してどのような管理(制御)を行うかが分かる。
【0040】
図7に示すように、充電完了信号がLowの場合、時間の経過に伴い、蓄電池150の充電量が増加し、時間t1で充電完了信号がHighになる。時間t1における蓄電池150の電圧はV2である。電圧V2は、負荷Lに給電を開始する電圧である。
時間t1の後(負荷Lへの給電を開始した後)、負荷Lの電力消費が発電量より大きい場合には、電圧はV2から低下していく(実線J1)。電圧が低下してV1に到達すると、電源管理IC263は、負荷Lへの給電を停止する。V1は、Vccと等しいか、Vccより僅かに大きい値を有する。V1がVccより小さいと、コンバータとして機能しなくなるからである。
【0041】
時間t1の後、負荷Lの電力消費が発電量に等しい場合、電圧はV2を維持する(二点鎖線J2)。
時間t1の後、負荷Lの電力消費が発電量より小さい場合、電圧はV2から上昇していく(一点鎖線J3)。電力が上昇してV3に到達すると、電源管理IC263は、蓄電池150への充電を停止する。これは、過充電を防ぐためである。
【0042】
本実施形態では、蓄電池150は、計測装置100の1回分の動作に必要な電力を蓄電できる容量を有する。つまり、
図7の時間t1から時間t2において電圧がV2からV1に低下しても、時間t1から時間t2の間で、計測装置100が1回分の動作を行うことができるようになっている。時間t1から時間t2の間は、電源供給できる時間であり、加速度及び角度の計測と、計測したデータの転送とが時間t1から時間t2の間に行われる。
【0043】
図8は、計測装置100の構成を示すブロック図である。計測装置100は、上述したように、電源制御基板141と、角度センサ基板142と、制御基板143を備える。角度センサ基板142は、センサ基板170とZ相検出器基板171を備える。
電源制御基板141は、回路群431を備える。回路群431は、
図6に示した整流回路261、平滑回路262、電源管理IC263及びFET264を含む。回路群431は蓄電池150と発電部149に接続されている。
【0044】
発電部149は、磁気トラック131(
図4)とコイル基板120(
図5B)を備える。発電部149は、軸受部250の外輪112と内輪113との相対的な回転に基づいて発電し、角度センサ基板142等に電力を供給する。
発電部149は、単相交流電力を発電して回路群431に出力する。回路群431の整流回路261は、発電部149で発電された単相交流電力を全波整流して直流電力へと変換する。整流回路261から出力された直流電力は、平滑回路262により平滑化され安定した電力にされる。当該電力は、その後、電源管理IC263を介して(電源管理IC263の昇圧DC-DCコンバータにより昇圧されて)蓄電池150に蓄電される。蓄電池150に蓄電された直流電力は、計測を行うタイミングで電源管理IC263を介して(電源管理IC263の降圧DC-DCコンバータにより降圧されて)、角度センサ基板142及び制御基板143に出力される。
【0045】
センサ基板170には、角度センサ443が実装されている。Z相検出器基板171には、Z相検出器444が実装されている。制御基板143には、加速度センサ441と、温度センサ442と、マイクロコンピュータ(以下、「マイコン」と称する)451と、外部メモリ452と、無線モジュール(送信部)453が実装されている。マイコン451、外部メモリ452及び無線モジュール453は、制御回路145(
図5)に含まれる。
【0046】
加速度センサ441、温度センサ442及び角度センサ443は、電源制御基板141から供給される直流電力を使用して、それぞれ、加速度、温度及び回転角度(位置)を検出する。
例えば、角度センサ443は、磁気トラック131の側方に位置するようにセンサ基板170に実装されている。磁気トラック131を有する回転部130は軸受部250の内輪113に固定されており、角度センサ443は、軸受部250の内輪113と共に磁気トラック131が回転することによって変化する磁束密度を検出することによって、軸受部250の外輪112に対する内輪113の回転角度(軸受部250の外輪112と内輪113と間の角度)を検出する。角度センサ443は磁気式のセンサである。
なお、角度センサ443は、インクリメンタル型でもよいし、アブソリュート型でもよい。
【0047】
マイコン451は、CPU455と、DMAコントローラ456と、内部メモリ457と、を備える。マイコン451は、加速度センサ441及び角度センサ443から取得した計測値を外部メモリ452に書き込む。DMAはDirect Memory Accessの略である。DMAコントローラは、以下の記載においてDMACと称されることがある。また、内部メモリ457と外部メモリ452をまとめて記憶部230と称することがある。
【0048】
CPU455は、記憶部230、加速度センサ441、温度センサ442及び角度センサ443の初期化や、DMAコントローラ456の初期設定を行う。DMAコントローラ456は、DMAトリガ(加速度センサ441からのINT信号)を入力すると、DMA転送を開始する。具体的には、DMAコントローラC456は、DMAトリガを入力すると、CPU455を介さずに、加速度センサ441及び角度センサ443がそれぞれ保持する最新の計測値(計測データ)を、無変換データ(生データ)のまま記憶部230(内部メモリ457または外部メモリ452)に転送する。
加速度センサ441及び角度センサ443は、それぞれ定められた更新周期で計測値(計測により取得する計測値)を更新し、保持する。加速度センサ441がMEMS加速度センサである場合、更新周期はMEMS加速度センサのODR(Output Data Rate)となる。加速度センサ441はデータ出力可能になる度にINT信号(割り込み信号)を生成し、当該INT信号がDMAコントローラ456にトリガとして入力される。更新周期(サンプリング周期)については、
図10を用いて後述する。
【0049】
無線モジュール453は、CPU455の制御下で、内部メモリ457や外部メモリ452に記憶されたデータを歯車故障判断装置10に送信する。無線モジュール453は、アンテナ147を備える。例えば、無線モジュール453は、BLEなどの無線通信によりデータを歯車故障判断装置10に送信する。BLEはBluetooth(登録商標) Low Energyの略である。送信されたデータは、歯車故障判断装置10の通信部15で受信され、歯車故障判断装置10の制御部12により処理される。
BLEを用いる場合、データは、例えば、1パケットずつ送信する。なお、スループットを大きくしたい場合には、More dataやData Length Extensionを利用してもよい。あるいは、BLE5.xで規定されているPHY 2Mbpsを採用することにより、スループットを大きくすることもできる。
【0050】
第1軸受25と歯車故障判断装置10が無線通信を行う場合、BLE以外の通信規格に準拠した無線通信を行ってもよい。例えば、Zigbee(登録商標)やThreadを採用してもよい。あるいは、BLEとは異なる周波数帯域(例えば、920MHz帯特定小電力無線)を利用してもよい。
【0051】
なお、加速度センサ441及び角度センサ443から取得した計測値を外部メモリ452に書き込む場合について説明したが、加速度センサ441及び角度センサ443から取得した計測値を内部メモリ457に書き込むようにしてもよいし、内部メモリ457と外部メモリ452とを併用してもよい。また、内部メモリ457と外部メモリ452とは1つのメモリであってもよい。
【0052】
図9は計測装置100の動作及び処理を説明するためのタイミングチャートである。
図9(A)は負荷L(加速度センサ441、角度センサ443、回路基板群140)への給電(電源ON)のタイミングを示す。電源ONのタイミングは、電源管理IC263が負荷Lに給電を開始した時点を示しており、
図7の時間t1の時点(電力供給開始)に相当する。
図9(B)は、計測装置100が歯車故障判断装置10に無線ネットワーク(BLE)で接続するタイミングを示している。「ペアリング時間」とは、計測装置100が歯車故障判断装置10との通信(接続)を確立するのに要する時間である。ペアリング時間は、例えば、3.5~5秒である。「ペアリング完了」はBLE接続が確立された時点を示している。
【0053】
図9(C)は、Z相検出器444が出力するパルスを示している。本実施形態では、Z相検出器444の出力はアクティブロー(Low)であり、Z相検出器444は、Z相用磁石を検出すると、Low信号を出力する。「処理待ち時間」は、CPU455が所定のモニタリング処理を終了するのに必要な時間以上の時間に設定されている。処理待ち時間は、例えば、30秒である。処理待ち時間が終了すると、角度センサ443が起動される。角度センサ443の起動後、角度センサ443が初期化される(角度センサ初期化時間)。角度センサ443の初期化とは、角度センサ443に給電がなされて角度センサ443が正しく動作できるようになることを意味する。角度センサ443の初期化が終了すると、CPU443は計測準備を開始する。角度センサ初期化時間は、例えば、100msである。
【0054】
図9(D)は、加速度センサ441が出力したパルス(加速度計測値)であって、加速度センサ441から外部メモリ452に記憶されるパルスを示している。加速度センサ441の出力パルスは、第1歯車22と第2歯車23のかみ合いにより、第1歯車22で生じた振動を表している。なお、ここでは3軸(X/Y/Z軸)のうちのいずれかの軸についての、加速度センサ441による出力パルス(加速度計測値)を示している。加速度センサ441は、所定の計測時間、3軸それぞれについての加速度を検出し、当該加速度を保持している。所定の計測時間は、第1軸24aが1回転するのに必要な時間以上である。
図9(D)に示す「計測開始遅れ」の間に、CPU455は3つの処理(1)~(3)を行う。
処理(1)で、CPU455は、温度センサ442から測定開始前の温度データを取得する。CPU455は、温度センサ442が計測した温度に基づいて、第1軸受25内部で異常な発熱が生じていないかを判定することができる。CPU455は、温度センサ442が計測した温度が所定値以上である場合、異常発熱を示す信号を歯車故障判断装置10に送信する。当該信号を受信した歯車故障判断装置10は、異常発熱を示すメッセージを表示部14に表示する。また、CPU455は、温度センサ442が計測した温度に基づいて、角度センサ443が計測した角度を補正することができる。角度センサ443は磁気式センサであるので、温度変化による磁気への影響が角度センサ443の検出誤差(測定誤差)として現れる場合がある。この角度誤差については、事前に温度毎にどのような影響・誤差が角度センサ443の検出値(測定値)に現れるかを確認しておき、当該影響・誤差を打ち消す補正を行うための補正テーブルを作成する。そして、CPU455は、補正テーブルに基づいて、角度データの補正を行う。
処理(2)で、CPU455は、DMAコントローラ456のプログラミングを行う。DMAコントローラ456のプログラミングとは、加速度センサ441からのINT信号をトリガにして加速度センサ441及び角度センサ443の計測データを取得し、外部メモリ452に当該計測データを格納することである。
処理(3)は、CPU455は、計測終了(タイマアウト)を判定するためのWake-upタイマを設定する。
【0055】
処理開始遅れは、例えば、約480msである。上記3つの処理の実施後、CPU455はスリープ(Sleep)状態になる。加速度及び角度の計測は、CPU455がスリープ状態にある間に、DMAコントローラ456、加速度センサ441、加速度センサ443などの必要最小限の機能ブロックのみを起動して行う。加速度及び角度の計測は、計測データ数が指定されたデータ数に到達するか、タイムアウト時間に到達するかで終了する。加速度及び角度の計測が終了すると、CPU455のスリープは解除される。タイムアウト時間に到達したかどうかは、Wake-upタイマの計時により判定する。このようにすることで、最低限の機能ブロックだけが動作し、低消費電力による計測システムが実現できる。
【0056】
図9(D)に示す「データ転送時間」は、計測装置100から歯車故障判断装置10へデータ(加速度センサの計測値と角度センサの計測値の対)を転送するために必要な時間である。データ転送時間は、例えば、2~3秒である。
図9(A)の電源ONからデータ転送時間の終わりまでが、計測装置100の1回の動作である。
【0057】
図9(E)は、角度センサ443が出力したパルス(角度計測値)であって、角度センサ443から外部メモリ452に記憶されるパルスを示している。角度センサ443は、所定の計測時間、角度位置を検出(計測)する。角度センサ443の波形は加速度センサ441の波形に比べて、
図9(E)に示す「DMA遅れ」の分だけ、遅れて外部メモリ452に記憶される。
理論的には、加速度センサ441の計測値と角度センサ443の計測値は、加速度センサ441からのINT信号を共通のタイミングソース(トリガ)としてDMA転送される(サンプリングされる)。しかし、実際には、加速度センサ441の計測値と角度センサ443の計測値の転送にはナノ秒レベルのずれがあり、当該ずれを
図9(E)において「DMA遅れ」と記載している。
【0058】
図10は、加速度センサ441の計測値と角度センサ443の計測値の更新周期を示している。本実施形態では、
図10に示すように、加速度センサ441の計測値の更新完了タイミングと角度センサ443の計測値の更新完了タイミング(サンプリングタイミング)が同期するように設定されている。つまり、加速度センサ441の更新周期(サンプリング周期)と角度センサ443の更新周期(サンプリング周期)とは、等しい。そして、加速度センサ441の計測値と角度センサ443の計測値が、同期した形で(同じ時間基準を共有するか、少なくとも1つの時間基準を共有して)、外部メモリ452に記憶される。こうすると、加速度データと角度データとが一対一で対応した(同じ時間基準を共有したペアの形で)計測データを取得することができる。このように、本実施形態では、時間に同期した角度・加速度計測が行われる。尚、加速度センサ441のサンプリング周波数(ODR)は、例えば、1~5376Hzの範囲内から予め選択(設定)されている。
【0059】
計測装置100の1回の動作が終了すると、次の回の動作(2回目の動作)が始まる。つまり、
図9(C)に示す「処理待ち時間」が経過するまで待って(この間に、電源管理IC263から各センサ等に給電がなされる)、角度センサ443の初期化を行い、計測が開始される。計測値を判断装置10へ転送すると、計測装置100の2回目の動作が終了することになる。
【0060】
図11は、計測装置100の動作及び処理を説明するためのフローチャートである。SはStep(ステップ)の略である。計測装置100には電力が供給されており(
図9(A)の電源ONになっており)、BLE通信接続も確立されているとする(
図9(B))。
S1において、処理待ち時間(例えば、30秒)が経過したかを判定する(
図9(C))。判定結果がYesの場合、S2に進む。判定結果がNoの場合、S1を繰り返す。
【0061】
S2において、Z相検出器444がZ相用磁石162を検知したかを判定する(
図9(C))。判定結果がYesの場合、S3に進む。判定結果がNoの場合、S2を繰り返す。
S3において、角度センサ443を起動する(初期化を行う)。これは
図9(C)の角度センサ初期化時間(100ms)に行われる。角度センサ初期化時間が経過したならば、S4に進む。
【0062】
S4において、Z相検出器444がZ相用磁石162を検出したかを判定する。判定結果がYesの場合、S5に進む。つまり、角度センサ443の初期化(角度センサ初期化時間)が終了した後にZ相用磁石を検出したらならば、S5に進む。判定結果がNoの場合、S4を繰り返す。
S5において、DMAにより、加速度センサ441の計測値(
図9(D))と、角度センサ443の計測値(
図9(E))が、同期した形で、外部メモリ452に記憶される。
S6において、加速度センサ441の計測値と角度センサ443の計測値は、計測装置100から歯車故障判断装置10にBLE無線通信で送信(転送)される。データ送信後、S1に戻る。
このように、S1~S6によって、計測装置100の1回分の動作が行われる。
【0063】
次に、本実施形態における歯車故障検出の原理について説明する。つまり、計測装置100から加速度センサ441及び角度センサ443の計測値を受信した歯車故障判断装置10が行う処理について説明する。まず、
図12を用いて、歯毎の加速度曲線を取得する手法について説明する。説明を簡単にするために、第1歯車22は、
図12(A)に示すように、3つの歯(歯1、2、3)を有しているとする。第1歯車22とかみ合う第2歯車23は、4つ以上の歯を有するとする。
図12(B)は、第1歯車22が3つの歯(歯1、2、3)を有している場合の加速度センサ441による加速度計測値(
図9(D))を縦軸に示し、角度センサ443の計測値(
図9(E))を横軸に示したグラフである。ここでは、3軸(X/Y/Z軸)のうちのいずれかの軸について計測された加速度計測値を示す。第1歯車22と第2歯車23がかみ合って、第1歯車22が1回転すると、歯1→歯2→歯3の順に、第2歯車23の歯(図示せず)と接触し、
図12(B)に示すように、歯1の振動→歯2の振動→歯3の振動の順に、加速度センサ441の計測値が得られる。
【0064】
図12(B)の加速度センサ441の波形が得られたならば、歯1の線分だけを集めて、
図12(C)のように、歯1の曲線R1を生成する。つまり、
図12(B)の区間P1とP4とP7(図示せず)とP10(図示せず)の線分をつなげることにより、
図12(C)の、非コヒーレントな曲線R1が取得できる。尚、曲線R1を生成する際に使用する歯1の線分の数は、計測装置100から歯車故障判断装置10に送信された計測値のボリュームに依る。
同様に、歯2の線分だけを集めて、
図12(C)のように、歯2の曲線R2を生成する。つまり、
図12(B)の区間P2とP5(図示せず)とP8(図示せず)とP11(図示せず)の線分をつなげることにより、
図12(C)の曲線R2が取得できる。
同様に、歯3の線分だけを集めて、
図12(C)のように、歯3の曲線R3を生成する。つまり、
図12(B)の区間P3とP6(図示せず)とP9(図示せず)とP12(図示せず)の線分をつなげることにより、
図12(C)の曲線R3が取得できる。
また、本実施形態では、加速度センサ441は、3軸(X/Y/Z軸)のそれぞれについての加速度計測値を取得するように構成されている。
図12(C)に示す歯毎の加速度曲線R1、R2及びR3のような曲線を、3軸それぞれについて取得する。
このようにして、本実施形態では、歯毎に、3軸それぞれについての加速度曲線を取得する。
【0065】
次に、歯車故障判断装置10が実行する故障検出処理について、
図13を用いて説明する。
図13では、歯車はより実際の歯車に近いものを用いる。具体的には、第1歯車22が22個の歯を有する場合を考える。本実施形態では、歯車の歯毎に故障を検出するために、Per-tooth法(Per-tooth評価法)と称される手法を用いる。
計測装置100からは、加速度センサ441の計測値a(t)と角度センサ443の計測値φ(t)が1組になったデータが歯車故障判断装置10に送信され、歯車故障判断装置10の記憶部13には当該データが時間tと共に記憶される(符号500)。
歯車故障判断装置10のユーザは、歯車の歯の数を入力部11から入力する(符号510)。尚、必須ではないが、歯の角度オフセット値を入力する場合もある。歯の角度オフセット値とは、特定の既知の歯がどの絶対角度位置に位置しているかを示す(把握する)ための校正値(キャリブレーション値)である。角度オフセット値については、
図14と
図15を用いて後述する。
【0066】
歯車故障判断装置10は、角度と歯のマップ(角度と歯のマッピング関数)を作成する(符号520)。
図14及び
図15は角度と歯のマップである。
図14のマップの縦軸は22個の歯を示し、横軸は軸角度位置(相対値)を示す。
図14は角度オフセット値を用いずに作成したマップである。角度オフセット値を用いないと、マップ作成時に軸角度=0度の位置にある歯を1番の歯とする。
図15のマップの縦軸は22個の歯を示し、横軸は軸角度位置(絶対値)を示す。つまり、
図15は角度オフセット値を用いて作成したマップである。
図15のマップを作成する場合、歯車の歯には予め番号(または印)を付けておく(
図15の例では歯番号:1番~22番)。マップ作成時に軸角度=0度の位置にある歯は、
図15の例では、20番の歯である。つまり1番の歯は44.6度(絶対角度)で噛み合いを開始するので、
図15では、角度オフセット値として44.6度を歯車故障判断装置10に入力することになる(符号510)。
【0067】
図14及び
図15に示すように、歯車は1周で360度なので、360度を22で割った線分Sが22個できる。
図14及び
図15は、軸角度位置が決まると、22個の歯のうちの1つの歯が決まるので、マッピング関数を表していると言える。つまり、符号520の処理によりマッピング関数が生成される。歯車故障判断装置10は、
図14のマップまたは
図15のマップを使用する。
図14のマップを使用した場合、歯車のどの歯が
図14の縦軸の1番の歯なのかが分からないが、歯車に破損した歯が含まれていることは分かる。
図15のマップを使用した場合、歯車のどの歯が
図15の1番の歯なのかが分かる。以下の記載においては、
図15のマップを使用するとする。
【0068】
角度と歯のマップ(マッピング関数)を生成した後、歯車故障判断装置10は、歯毎の平均加速度信号強度を算出する(符号530)。平均加速度信号強度は、以下、加速度信号強度と称する。加速度信号強度の算出において入力として用いる数値及び情報は、計測装置100から受信する計測データと、
図15のマップである。計測データは、符号500で示すように、角度位置情報(φ(t))と加速度計測値(a(t))である。k番目の歯の加速度信号強度の算出は、Per-tooth法に従い、式(1)を用いて行う。
【数1】
【0069】
ここで、P(tooth=k)はk番目の歯の加速度信号強度(acceleration signal power)であり、s(φ(i))はあるサンプルiの角度位置における加速度計測値である。tooth(φ(i))は、あるサンプルiの角度位置におけるマッピング関数の値である。k番目の歯でない場合は、tooth(φ(i))はkに等しくないので、s(φ(i))は0になる。k番目の歯であれば、tooth(φ(i))はkに等しいので、s(φ(i))は加速度値計測値(a(i))になる。nsamples,kは、条件(*)に合致する歯のサンプル数(k番目の歯の加速度計測値の取得数)を示している。
【0070】
式(1)により、全ての加速度計測値(サンプル値)が平方されて合計され、1つの歯当たりのサンプル数で除算されて、1つの歯当たりの加速度信号強度値を得ることができる。つまり、k番目の歯の加速度信号強度を得ることができる。この計算を歯車の各歯について行うので、22個の歯の加速度信号強度値Pのリストを作成することができる。つまり、符号530の処理により、22個の歯の加速度信号強度値を得ることができる。
図13の符号540は、式(1)で使用する値を、歯毎に示している。
【0071】
本実施形態では、上記のように、加速度センサ441は、3軸(X/Y/Z軸)のそれぞれで加速度計測値を取得するように構成されている。X軸、Y軸、Z軸に対して取得される加速度計測値をそれぞれ、x(φ(i))、y(φ(i))、z(φ(i))とする。k番目の歯(tooth(φ(i))=k)の場合に、式(1)におけるs(φ(i))を、これらの加速度計測値の合成(ベクトル合成)として定義する。このとき、s(φ(i))は以下の式(2)のように表される。
【数2】
なお、x(φ(i))、y(φ(i))、z(φ(i))はそれぞれ、フィルタ処理を施した後の各軸についての加速度計測値であってもよい。
【0072】
よって、3軸のそれぞれで取得された加速度計測値を用いると、式(2)を用いて、式(1)の加速度信号強度は以下の式(3)のように表される。
【数3】
【0073】
式(3)の計算が終了すると、
図13の符号550の処理が行われる。この処理により、相対的な信号強度係数(relative signal power values)を計算する。この信号強度係数は、歯の損傷を表す指標となる。歯と歯がかみ合うと、歯に損傷が無くても振動が発生する。正常な歯から発生する振動と、異常な歯から発生する振動を容易に区別できるように、本実施形態では、符号550の処理を行う。具体的には、符号550の処理では、まず、式(4)の計算を行う。すなわち、歯車の全ての歯の加速度信号強度の平均値P ̄を計算する。
【数4】
Zは加速度信号強度の取得数、つまり歯車の歯の数を表す。
【0074】
次に、式(5)を用いて、各歯について相対信号強度係数を計算する。
【数5】
【0075】
相対信号強度係数Prel(k)は次のような特性を表す係数である。
歯kの信号強度が平均加速度信号強度に一致するなら、Prel(k)= 0となる。
歯kの信号強度が平均加速度信号強度の2倍である場合、Prel(k)=1となる。
歯kの信号強度が平均加速度信号強度の3倍である場合、Prel(k)=2となる。
以下、同様にPrel(k)が3、4、・・・となる。
尚、歯kの信号強度が平均加速度信号強度より低い場合、Prel(k)の値は0より小さい値を取り得る(つまり、Prel(k)=0ではなくPrel(k)<0となり得る)。
従って、平均振動基準がゼロになるように正規化すれば、Prel(k)の値は、各歯の正常・異常の評価を簡単に行うための数値となる。当該評価は、作業者の判断に基づく評価でもよいし、自動評価でもよい(例えば、閾値を設定し、Prel(k)の値が閾値以上なら異常という評価をする)。
このように、本実施形態によれば、個々の歯の状態を示すインジケータとして、加速度信号強度の歯毎の評価(Per-tooth評価)が可能になる。この評価は、加速度データと角度データを周期的に同期サンプリングすることにより行うことができる。
【0076】
次に、上記した実施形態の効果について説明する。
図16は、加速度センサ441により取得された3軸(X軸、Y軸、Z軸)についての加速度計測値の一例を示す図である。なお、当該加速度計測値を取得する際に使用した加速度センサ441はサンプリング周波数が5kHz、情報ビット数が8ビットである。X軸、Y軸、Z軸の各データ(加速度は計測結果に対して5点移動平均処理を行っている)を示すグラフにおいて、縦軸は加速度計測値を示し、横軸は機械角を示す。
図16からわかるように、Z軸について加速度計測値は、全歯にわたってPeak-Peak値(最大-最小のピーク値)が同様であるが、X軸とY軸についての加速度計測値は、Peak-Peak値が歯によって異なることがわかる。
例えば、
図16の点線で囲まれる歯番号(歯番号:22、1、2,3、4)の加速度計測値のPeak-Peak値は、Z軸では他の歯番号(歯番号5~21)と同様な値であるが、X軸とY軸では当該他の歯番号よりも大きい値となっている。上記式(1)~(5)を参照して説明したように、X軸、Y軸、Z軸それぞれについての加速度計測値を用いて相対信号強度係数P
rel(k)を算出すると、3軸の少なくともいずれかについての加速度計測値が大きいほど、当該係数は大きい値となる。すなわち、歯の損傷の度合いが数値として表れる。
このように、3軸のうちのある1軸でのみ加速度計測値を計測した場合には埋没し得る歯の損傷が、他の2軸についても加速度計測値を計測して3軸についての加速度計測値を合成して損傷の有無を判断することにより、感度良く発見することが可能となる。すなわち、単軸のデータがPeak-Peak値の異常を捉えることができない場合であっても、他の軸のデータが、それを補うことで高い診断感度を実現することが可能となる。このように、3軸それぞれについての加速度計測値を合成して歯の損傷の有無を判断することにより、損傷に対する診断感度が高くなる。
【0077】
図17は、上記した実施形態の効果を確認するために発明者が行った実証実験の結果である相対信号強度係数P
rel(k)を示す(kは歯番号)。第1歯車22として、はすば歯車を使用した。歯の数は22個である。実証実験の前に、第1ギアと噛み合う第2ギア23に異常な歯が無いことを確認した。
図17のグラフの縦軸は相対信号強度係数P
rel(k)を示し、横軸は歯車の番号を示す。
本実証実験において、加速度データ及び角度データのサンプリング周波数(周期)は、それぞれ、5376Hzである。また、本実証実験中のシャフトの速度は約500/minであり、公称ピニオントルクは500Nmである。
図17において、例えば、閾値173をP
rel(k)=2に設定すると、2番の歯(k=2)におけるP
rel(2)が約5.5であり(P
rel(2)171)、当該歯が異常であるという評価をすることができる。
なお、
図17では、比較のために、2番目の歯について、他の手法によって得られた加速度計測値を用いて算出したP
rel(2)の値も示す。P
rel(2)172は、歯車変速機構20のハウジング21の外表面に設置された、歯車同士が噛合う作用線方向でのセンシングを行う高性能センサ(いわゆる、高級な高性能センサ)で計測された加速度計測値を用いて算出した相対信号強度係数を示す。当該高性能センサは、サンプリング周波数が51kHz、情報ビット数が24ビットであり、シャフトの速度は約500/minであり、公称ピニオントルクは500Nmである。
図17からわかるように、P
rel(2)171は、閾値173である2よりはるかに高い値を示し、異常が容易に検知される一方、P
rel(2)172は、閾値173である2より小さく、異常が検知されない。このように、
図17から、本実施形態による手法がより感度が高いことがわかる。すなわち、加速度センサ441として安価なMEMSセンサを用いた場合であっても、高級な高性能センサを用いるよりも4倍程度感度良く、歯の損傷を検知することが可能となる。
【0078】
以下に、本実施形態の計測装置100と歯車故障判断装置10の特徴や変形例について述べる。
本実施形態の計測装置100(加速度センサ441、角度センサ443、回路基板群140等)は第1軸受25に内蔵されている。また、計測装置100が使用する電力は、第1軸受25の回転により生成される(計測装置100は自己発電型の装置である)。よって、歯車故障検出システム30の小型化と省電力化を実現することができる。
このように、自己発電機能を有するデータ無線送信型の計測装置100を備える歯車故障検出システム30は、自己発電機能により生成された微小な電力を用いて、第1ギア22の回転位置(角度)と対応付けた加速度データを、故障判断装置10へ無線送信することができる。
【0079】
また、計測装置100は、第1ギア22の加速度を第1ギア22の回転角度と対応付けた計測データを取得する。そして、外部メモリ452は、角度データと加速度データとを一対一で対応付け、計測データとして記憶する。加速度データと角度データとが一対一で対応した計測データを取得できるので、回転中どの角度でどのような振動が起きているのかを適切に把握することができ、異常発生箇所(角度)を適切に特定することができる。
本実施形態では、加速度データと角度データとが一対一で対応した計測データを取得することができるので、回転数のばらつきを気にする必要がない。
【0080】
また、計測装置100は、マイコン451に加速度センサ441、温度センサ442、角度センサ443をつなぐことで構成全体の小型化に貢献している。そのため、カバー(デバイス筐体)110が小型であっても同一筐体内に計測装置100を格納することが可能である。
さらに、各センサから取得した計測値は、無変換データのまま外部メモリ452に記憶している。そのため、データ記憶時に、例えば16進数表記から10進数表記への変換などのデータ処理が不要であり、高速なデータ格納が可能である。また、データ処理による負荷を軽減させることができるとともに、消費電力を低減させることができる。
【0081】
また、計測装置100は、DMA転送によりデータ取得及びデータ格納を行うことできるため、CPU455の負荷を軽減することができる。
つまり、本実施形態における計測装置100は、安価なMEMSセンサや低消費電力のマイコンにより構成することが可能である。
本実施形態では、自己発電のセンサ付き転がり軸受を使用して歯車変速機構20のモニタリングと歯ごとの信号評価をすることができる。
計測装置100は、加速度センサ441を振動源の間近に設置できる(振動励起点に物理的に近い位置に設置できる)ので、歯車変速機構20のハウジング21の外表面に振動センサ(例えば、歯車同士が噛合う作用線方向でのセンシングを行う高性能センサ)を設置する場合と比較して、S/N比が高い信号を取得できる。従って、安価なMEMS加速度センサを用いても、信頼できる歯車診断ができる。
【0082】
本実施形態で採用している歯車診断アルゴリズムはPer-tooth法であり、以下のような利点を有する。
異常な歯の特定ができる。低い計算コストで診断できる。歯車診断において定説とされる正常時の振動データと比較せずに、単独の評価結果から異常判定ができる.
低い計算コストで診断できるとは、四則演算で診断ができるということを意味している。つまり、FFT(高速フーリエ変換)のような高い計算コストを必要としない。また、
図13の処理は、僅かな数学的計算しか必要としないので、低電力での計算を可能にする。
また、本実施形態によれば、3軸それぞれについて計測された加速度計測値を用いて、Per-tooth法により、歯車判断を行う。3軸のデータを用いことにより、単軸のデータがPeak-Peak値の異常を捉えることができない場合であっても、他の軸のデータが、それを補うことで高い診断感度を実現することが可能となる。
【0083】
また、加速度センサ441をハウジング21の表面に取り付けないので、ハウジング21がどのような形状であっても、システム30を採用することができ、ハウジング21の形状は故障診断の精度に無関係である。
正常状態が分からなくても、故障(歯車の異常)を診断することができる。
歯車変速機構20のハウジング21に加速度センサを設置すると、歯車の噛合い点から加速度センサまでの間にハウジング21が存在するため、振動経路の影響を受けるため、高級な高性能センサが必要となる。本実施形態では加速度センサ441が第1軸受25に内蔵されているので、加速度センサ441は第1歯車22の間近で振動を計測することができる。加速度センサ441は、振動経路の影響を受けないので、高級な高性能センサである必要がない。つまり、安価な加速度センサでよい。安価な加速度センサでも、正確に振動を検出できるので、故障判断も正確に行うことができる。
本実施形態では、安価な加速度センサとして、MEMS加速度センサを採用しているので、センサ位置だけでなくコスト面でも、優れている。
【0084】
また、加速度センサ441は第1軸受25の外輪112に設置している。この場所は、通常、歯車の噛み合い部に最も近い非回転機械要素の1つであり、取得できる振動は歯車の噛合い振動と言ってもよい。振動源の近くで加速度を計測することで,ハウジングなどの振動伝達経路の影響を受けない。
本実施形態では、
図15に示したように、角度オフセット値を用いた角度と歯のマップを採用したので、
図12(B)のような曲線から
図12(C)のような歯毎の加速度曲線を生成する際に、区間P1、P2、P3、P4、・・・の区切りが正確にできる。
【0085】
尚、歯車故障判断装置10はパーソナルコンピュータであるとしたが、タブレット端末、スマートフォン、ウエラブルウォッチなどでもよい。
上記した実施形態では、計測装置100は計測値を処理せずに歯車故障判断装置10に送信したが、歯車故障判断装置10が行う処理の一部を計測装置100内で実行してもよい。つまり、計測装置100は、歯車故障判断装置10の機能の一部を備えていてもよい。例えば、
図13で示した処理をマイコン451で行ってもよい。
図13の処理は、計算処理が少ないので、消費電力は小さい。従って、第1軸受25が自己発電する電力でも、マイコン451が処理を行うには十分である。このような構成は、オンベアリングデータ処理(on-bearing data processing)と称することができる。このような構成を採用すると、計測装置100から歯車故障判断装置10へ送信されるデータの量が、かなり少なくなる。なぜなら、1回の計測毎に何千もの角度データ及び加速度データが、(各軸について)歯毎に1つのスカラー値に凝縮されるからである。
計測時間は、記憶部230の容量や消費電力に応じて適宜設定することができる。温度センサ442は設けなくてもよい。
図6において、平滑回路262と電源管理IC263の間に保護回路を設けてもよい。
図6では、磁石MとコイルCの相対回転により電磁誘導発電を行っている。このため、コイルCの回転数の上昇に伴い、起電力も比例増加する。第1軸24aに繋がっている機器が何らかの理由により故障し、第1軸24aが想定を超える回転数で回転し、当該回転に比例して磁石MとコイルCの起電力が増加すると、電源管理IC263の入力限界を超える起電力が電源管理IC263に入力され、測定装置100が破損する可能性がある。当該破損を回避するために、つまり、想定を超える起電力が発生しても、測定装置100が破損しないようにするために、平滑回路262と電源管理IC263の間に保護回路を設けてもよい。この保護回路は入力保護回路であり、種々の方式の保護回路を採用することができる。例えば、保護回路としてツェナーダイオードを平滑回路262と電源管理IC263の間に設ける。ツェナーダイオードは、所定の値を超える入力電圧を熱に変換して消費することで、測定装置100を保護する保護回路として機能する。
【0086】
また、上記した実施形態では、
図10に示すように、加速度センサ441と角度センサ443のサンプリングタイミングは一致しているとした。つまり、加速度センサ441が10回の計測を行うと、角度センサ443も10回の計測を行う。そして、加速度センサ441の10個の計測値と、角度センサ443の10個の計測値とにより、10個の計測値ペアを取得することができる。しかし、本実施形態はこのような計測値ペアの取得に限定されない。つまり、加速度センサ441と角度センサ443のサンプリングタイミングは一致しなくてもよい。例えば、加速度センサ441のサンプリングタイミングが角度センサ443のサンプリングタイミングの2倍であってもよい。この場合、加速度センサ441が10回の計測を行うと、角度センサ443は5回の計測を行う。そして、加速度センサ441の計測値と角度センサ443の計測値のペアを取得する際(外部メモリ452にDMA転送する際)には、DMAコントローラは、加速度センサ441が計測を行った時刻と、角度センサ443が計測を行った時刻とが同一になるように、加速度センサ441の計測値と角度センサ443の計測値を外部メモリ452に転送する。このような計測値ペアの取得は、サンプリング周期に同期した取得ではなく、加速度センサ441の計測値の時刻情報と、角度センサ443の計測値の時刻情報とにより、2つの計測値をつなげて(紐づけして)計測値ペアを取得したものである。より詳しくは、これは、1つもしくは特定の共通の時間基準(共通の時間情報)を共有するように2つの計測値を紐づけしたものである。本発明では、加速度センサ441の計測値と角度センサ443の計測値とを、何らかの形で紐づけて取得すればよい。
【符号の説明】
【0087】
10:歯車故障判断装置
20:歯車変速機構
21:ハウジング
22:第1歯車
25:第1軸受
30:歯車故障検出システム
100:計測装置
110:カバー
120:コイル基板
123:コイルパターン
141:電源制御基板
142:角度センサ基板
143:制御基板
149:発電部
160:Z相用磁石ユニット
230:記憶部
250:軸受部
261:整流回路
262:平滑回路
263:電源管理IC
441:加速度センサ
442:温度センサ
443:角度センサ
444:Z相検出器
452:外部メモリ
455:CPU
456:DMAコントローラ